説明

凹凸歯車の加工方法

【課題】種々の凹凸歯車の凹歯を加工することができる加工方法を提供する。
【解決手段】相手歯車(固定軸)12と凹凸歯車(揺動歯車)15との間で動力を伝達する際における凹凸歯車15に対する相手歯車12の凸歯ピン12bの相対動作軌跡は、第一直動軸、第二直動軸、第三直動軸、第四回転軸、第五回転軸および第六割出軸により表すことができる(S2)。そして、第四回転軸を第六割出軸に一致させた場合における第一直動軸、第二直動軸、第三直動軸、第五回転軸および第六割出軸による相手歯車12の凸歯ピン12bの相対動作軌跡を算出し(S3)、算出された相対動作軌跡に基づいて、円盤状ワークおよび加工工具の少なくとも一方を移動させる(S4)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹凸歯車の加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
減速機の一つとして、揺動型歯車装置がある。この揺動型歯車装置は、例えば、特許文献1の図3などに記載されている。すなわち、揺動型歯車装置は、同一の回転中心軸を有する第一歯車、第二歯車および入力軸と、第一歯車と第二歯車との間にて揺動しながら差動回転する揺動歯車とから構成される。揺動歯車は、入力軸によって傾斜した回転中心軸の回りに回転可能に支持されている。さらに、揺動歯車は、入力軸が回転することに伴って傾斜した回転中心軸が第一歯車の回転中心軸の回りに相対回転することで、第一歯車および第二歯車に対して揺動する。そして、揺動歯車のうち第一歯車側の面には、第一歯車に噛合する第一揺動歯が形成され、揺動歯車のうち第二歯車側の面には、第二歯車に噛合する第二揺動歯が形成されている。そして、揺動歯車が揺動することで、第一歯車と揺動歯車との間、もしくは、第二歯車と揺動歯車との間で、差動回転が行われる。つまり、入力軸に対して、第二歯車を出力軸とした場合に、大きな減速比によって減速することができる。
【0003】
この揺動歯車は、第一歯車または第二歯車との噛み合い面が非常に複雑であるため、加工が容易ではない。この揺動歯車の加工装置として、例えば、特許文献1〜4に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−272497号公報
【特許文献2】特開2006−315111号公報
【特許文献3】特開平10−235519号公報
【特許文献4】特公平7−56324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、平歯車やかさ歯車などの歯車の加工は、種々の加工方法が提案され、実現されている。揺動歯車の加工についても、特許文献1〜4に記載されているように専用機を用いて実現されている。しかし、平歯車、かさ歯車および揺動歯車などの凹凸歯車の加工は、特殊な加工装置を用いたり特殊な技能を要したり、容易とは言えない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、凹凸歯車の加工方法として新しい加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は、動力伝達する際における相手歯車の凸歯と凹凸歯車の凹歯との相対動作軌跡において、平行な2つの回転軸を共通化させることにより、回転軸を1軸削除することとした。
【0008】
請求項1に係る発明の特徴は、
凹歯と凸歯が周方向に連続して形成され、当該凹歯が相手歯車の凸歯に噛合することにより前記相手歯車との間で動力伝達可能な凹凸歯車の加工方法であって、
前記凹凸歯車は、前記相手歯車の回転中心軸に対して交差する交差軸を中心として回転する歯車であり、
前記相手歯車の凸歯の外周面における当該凸歯の基準軸直交方向の断面形状は、円弧状に形成され、
前記相手歯車と前記凹凸歯車との間で動力を伝達する際における前記凹凸歯車に対する前記相手歯車の凸歯の相対動作軌跡は、
前記相手歯車の凸歯の基準位置を、前記円盤状ワークの凹歯形成面に接する面に直交する方向に移動させる第一直動軸と、
前記相手歯車の凸歯の基準位置を、前記円盤状ワークの凹歯形成面に接する面上であって、前記凹凸歯車の凹歯の歯溝方向に移動させる第二直動軸と、
前記相手歯車の凸歯の基準位置を、前記円盤状ワークの凹歯形成面に接する面上であって、前記第二直動軸に直交する方向に移動させる第三直動軸と、
前記相手歯車の凸歯の基準位置を前記第一直動軸の回りに回転させる第四回転軸と、
前記相手歯車の凸歯の基準位置を前記第三直動軸の回りに回転させる第五回転軸と、
前記凹凸歯車の回転中心軸に一致し前記凹凸歯車の回転位相を割り出す第六割出軸と、
により表わされ、
前記加工方法は、
前記第四回転軸を前記第六割出軸に一致させた場合における前記第一直動軸、前記第二直動軸、前記第三直動軸、前記第五回転軸および前記第六割出軸による前記相手歯車の凸歯の前記相対動作軌跡を算出し、
算出された前記相対動作軌跡に基づいて、前記円盤状ワークおよび前記加工工具の少なくとも一方を移動させることである。
【0009】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、前記相手歯車の凸歯の数と前記凹凸歯車の凹歯の数が異なることである。
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1または2において、さらに、前記凸歯の歯長さが無限長と考えた場合に、前記第二直動軸における前記相手歯車の凸歯の基準位置の動作を前記第三直動軸の上にて行うとした場合における前記第一直動軸、前記第三直動軸、前記第五回転軸および前記第六割出軸による前記相手歯車の凸歯の前記相対動作軌跡を算出し、算出された前記相対動作軌跡に基づいて、前記円盤状ワークおよび前記加工工具の少なくとも一方を移動させることである。
【0010】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項1または2において、さらに、前記相手歯車の凸歯の歯長さが無限長と考えた場合に、前記第三直動軸における前記相手歯車の凸歯の基準位置の動作を前記第二直動軸の上にて行うとした場合における前記第一直動軸、前記第二直動軸、前記第五回転軸および前記第六割出軸による前記相手歯車の凸歯の前記相対動作軌跡を算出し、算出された前記相対動作軌跡に基づいて、前記円盤状ワークおよび前記加工工具の少なくとも一方を移動させることである。
【0011】
請求項5に係る発明の特徴は、請求項1または2において、さらに、前記第五回転軸における前記相手歯車の凸歯の基準位置の動作を、前記第一直動軸と前記第二直動軸の動作に分解して、前記第一直動軸、前記第二直動軸、前記第三直動軸および前記第六割出軸による前記相手歯車の凸歯の前記相対動作軌跡を算出し、算出された前記相対動作軌跡に基づいて、前記円盤状ワークおよび前記加工工具の少なくとも一方を移動させることである。
【発明の効果】
【0012】
上記のように構成した請求項1に係る発明によれば、NC工作機械を用いて、凹凸歯車の凹歯を加工することが可能となる。つまり、種々の形状の凹凸歯車に対して、同一のNC工作機械で加工することができる。そして、第四回転軸の動作を省略して、5つの軸によって加工ができる。つまり、加工装置の軸構成を最大で5つある構成のものを適用できる。具体的には、3つの直動軸と2つの回転軸を有する加工装置により、凹凸歯車の凹歯を加工することができる。
【0013】
ここで、相手歯車に対して交差軸を中心として回転する凹凸歯車(以下、「交差軸を有する凹凸歯車」とも称する)において、相手歯車と凹凸歯車との噛み合い率は高くなる。そのため、小型化、高強度化および静粛性を図ることが可能となる。一方で、良好な歯当たりを実現するためには、非常に高い精度の歯面形状を形成する必要があり、歯面形状の加工が容易ではないという問題がある。これに対して、本発明によれば、交差軸を有する凹凸歯車の凹歯を、容易にかつ高精度に形成することができる。その結果、本発明によれば、従来と同程度の精度にする場合には加工コストを低減することができる。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、相手歯車の歯数と凹凸歯車の歯数が異なるため、相手歯車と凹凸歯車とが差動回転しながら動力伝達可能な構成となる。そして、両者の歯数が異なるため、凹凸歯車の凹歯の形状が非常に複雑な形状となる。このような場合であっても、本発明を適用することで、確実に凹凸歯車の凹歯を加工することができる。なお、相手歯車の歯数と凹凸歯車の歯数が同一である場合、すなわち同じ回転数で回転しながら動力伝達する場合にも、本発明の加工方法を適用できることは言うまでもない。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、第四回転軸に加えて第二直動軸の動作を省略して、4つの軸によって加工ができる。つまり、加工装置の軸構成を最大で4つある構成のものを適用できる。具体的には、2つの直動軸と2つの回転軸を有する加工装置により、凹凸歯車の凹歯を加工することができる。
【0016】
請求項4に係る発明によれば、第四回転軸に加えて第三直動軸の動作を省略して、4つの軸によって加工ができる。つまり、加工装置の軸構成を最大で4つある構成のものを適用できる。具体的には、2つの直動軸と2つの回転軸を有する加工装置により、凹凸歯車の凹歯を加工することができる。
【0017】
請求項5に係る発明によれば、第四回転軸に加えて第五回転軸を省略して、4つの軸によって加工ができる。つまり、加工装置の軸構成を最大で4つある構成のものを適用できる。具体的には、3つの直動軸と1つの回転軸を有する加工装置により、凹凸歯車の凹歯を加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】揺動型歯車装置の軸方向断面図である。(a)は凸歯ピンが固定軸本体および出力軸本体に対して別体に形成されている場合を示し、(b)は凸歯ピンが固定軸本体および出力軸本体に対して一体に形成されている場合を示す。
【図2】凸歯ピン(凸歯)と揺動歯車の噛み合い部の拡大図であって、凸歯ピンの軸方向から見た図である。(a)は凸歯ピンが固定軸に対して別体形成されている場合を示し、(b)は凸歯ピンが固定軸に対して一体形成されている場合を示す。
【図3】揺動凹歯の斜視図である。
【図4】(a)は、揺動凹歯を揺動歯車の径方向外方から見た図である。(b)は、揺動凹歯を揺動歯車の回転中心軸方向から見た図である。
【図5】第一実施形態における処理を示すフローチャートである。
【図6】揺動歯車の揺動凹歯と凸歯ピン(凸歯)との相対的な動作を示す図である。(a1)は、凸歯ピンが揺動凹歯に噛み合う前の状態の両者の相対位置における揺動歯車の回転中心軸方向から見た図である。(a2)は、(a1)の右側から見た図である。(b1)は、凸歯ピンが揺動凹歯に噛み合っている状態の両者の相対位置における揺動歯車の回転中心軸方向から見た図である。(b2)は、(b1)の右側から見た図である。(c1)は、凸歯ピンが揺動凹歯に対して噛み合い状態から離れた時の状態の両者の相対位置における揺動歯車の回転中心軸方向から見た図である。(c2)は、(c1)の右側から見た図である。図5において、凸歯ピンの基準軸(凸歯ピンの長手方向の一点鎖線)および凸歯ピンの中心位置(黒丸)を示す。
【図7】(a)は、揺動歯車の回転中心軸方向から見た場合における、揺動歯車に対する凸歯ピンの基準軸および凸歯ピンの中心位置の動作軌跡を示す図である。(b)揺動歯車の径方向から見た場合における、揺動歯車に対する凸歯ピンの基準軸および凸歯ピンの中心位置の動作軌跡を示す図である。丸の中の数字は、軸番号に一致する。
【図8】第一実施形態において、第四回転軸の動作を第六割出軸と第三直動軸に分解する場合の説明図である。つまり、凸歯ピンの中心位置を第三直動軸の上に移動させる場合の図である。
【図9】トロイダル砥石(円盤状工具)を示す図である。(a)は、トロイダル砥石を当該回転軸方向から見た図であり、(b)は、径方向から見た図である。
【図10】加工工具としての回転ベルト砥石を示し、(a)は、回転ベルト砥石の回転軸方向から見た図であり、(b)は、(a)のA−A断面図である。
【図11】第一実施形態において、必要とする工作機械の軸構成を説明する図である。(a)は第二直動軸および第三直動軸に平行な平面における工作機械の軸構成を示し、(b)は、第一直動軸および第二直動軸に平行な平面における工作機械の軸構成を示す。丸の中の数字は、軸番号に一致する。
【図12】第二実施形態において、第四回転軸の動作を第六割出軸と第二直動軸に分解する場合の説明図である。つまり、凸歯ピンの中心位置を第二直動軸の上に移動させる場合の図である。
【図13】第三実施形態において、第二直動軸の動作を第一直動軸と第三直動軸に分解する場合の概念説明図である。(a)は、第二直動軸と第三直動軸を通る平面における図である。(b)は、第一直動軸と第二直動軸を通る平面における図である。
【図14】第三実施形態において、(a)は、第二直動軸と第三直動軸を通る平面における凸歯ピンの中心位置を成分分解する場合の図であり、(b)は、第一直動軸と第二直動軸を通る平面における凸歯ピンの中心位置を成分分解する場合の図である。
【図15】第三実施形態において、必要とする工作機械の軸構成を説明する図である。(a)は第二直動軸および第三直動軸に平行な平面における工作機械の軸構成を示し、(b)は、第一直動軸および第二直動軸に平行な平面における工作機械の軸構成を示す。丸の中の数字は、軸番号に一致する。
【図16】第四実施形態において、第三直動軸の動作を第一直動軸と第二直動軸に分解する場合の概念説明図である。(a)は、第二直動軸と第三直動軸を通る平面における図である。(b)は、第一直動軸と第二直動軸を通る平面における図である。
【図17】第四実施形態において、(a)は、第二直動軸と第三直動軸を通る平面における凸歯ピンの中心位置を成分分解する場合の図であり、(b)は、第一直動軸と第二直動軸を通る平面における凸歯ピンの中心位置を成分分解する場合の図である。
【図18】第四実施形態において、必要とする工作機械の軸構成を説明する図である。(a)は第二直動軸および第三直動軸に平行な平面における工作機械の軸構成を示し、(b)は、第一直動軸および第二直動軸に平行な平面における工作機械の軸構成を示す。丸の中の数字は、軸番号に一致する。
【図19】第五実施形態において、第一直動軸と第二直動軸に平行な平面において、トロイダル砥石の回転軸の移動を示す図である。
【図20】第五実施形態において、トロイダル砥石を揺動凹歯の歯溝方向に対して1箇所の切り込み位置にて切り込み動作を行った場合における揺動凹歯の加工形状を示す図である。(a)は、揺動歯車の回転中心軸方向から見た図であり、(b)は、(a)の右側から見た図である。
【図21】第五実施形態において、トロイダル砥石を揺動凹歯の歯溝方向に対して3箇所の切り込み位置にて切り込み動作を行う場合の説明図である。
【図22】第五実施形態における処理を示すフローチャートである。
【図23】第六実施形態において、交差軸を有する凹凸歯車により構成される動力伝達装置の断面図である。(a)は凸歯ピンが入力軸本体に対して別体に形成されている場合を示し、(b)は凸歯ピンが入力軸本体に対して一体に形成されている場合を示す。
【図24】その他の変形態様における凸歯を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の凹凸歯車の加工方法を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。ここで、凹凸歯車の回転中心軸と相手歯車の回転中心軸とが交差する場合における凹凸歯車と相手歯車との関係を2組有するものが、揺動歯車装置となる。本実施形態においては、揺動型歯車装置の揺動歯車の加工方法および加工装置を例に挙げて説明する。なお、以下の説明において、揺動歯車が本発明の「凹凸歯車」に相当し、固定軸12および出力軸13が本発明の「相手歯車」に相当する。
【0020】
<第一実施形態:5軸構成(3直動軸、2回転軸)(第四回転軸削除の第1例)>
第一実施形態の揺動型歯車装置の揺動歯車の加工方法および加工装置について、図1〜図9を参照して説明する。本実施形態における加工装置は、3つの直交する直動軸と、2つの回転軸を有する5軸構成の場合を示している。第一実施形態においては、第四回転軸の動作を第六割出軸と第三直動軸に分解している。
【0021】
(1)揺動型歯車装置の構成
本発明の加工対象である揺動歯車が用いられる揺動型歯車装置の構成について、図1〜図4を参照して説明する。ここで、図1(a)は、凸歯ピン12b,13bが、固定軸本体12aおよび出力軸本体13aに対して別体形成されている場合を示し、図1(b)は、凸歯ピン12b,13bが、固定軸本体12aおよび出力軸本体13aに対して一体形成されている場合を示す。なお、以下において、主として図1(a)を参照して説明し、図1(b)については、図1(a)と相違する点のみについて説明する。
【0022】
揺動型歯車装置は、減速機として用いられ、非常に大きな減速比を得ることができる減速機として注目されている。この揺動型歯車装置は、図1(a)に示すように、主として、入力軸11と、固定軸12(本発明の「相手歯車」に相当)と、出力軸13(本発明の「相手歯車」に相当)と、外輪14と、内輪15(本発明の「凹凸歯車」に相当)と、転動体16とを備えている。
【0023】
入力軸11は、モータ(図示せず)のロータを構成し、モータが駆動することで回転する軸である。この入力軸は、円筒状をなしており、回転中心軸A(図1(a)に示す)の回りに回転する。入力軸11の内周面には、傾斜面11aが形成されている。この傾斜面11aは、回転中心軸Aに対して僅かな角度だけ傾斜した軸線Bを中心軸とする円筒内周面である。
【0024】
固定軸12(本発明の「相手歯車」に相当する)は、図示しないハウジングに固定されている。固定軸12は、固定軸本体12aと、複数の凸歯ピン12bとから構成される。固定軸本体12a(本発明の「相手歯車本体」に相当する)は、軸線Aを回転中心軸とする円筒状の部材である。凸歯ピン12b(本発明の「相手歯車の凸歯」に相当する)は、固定軸本体12aの軸方向端面に、回転中心軸Aの周方向に等間隔に複数(G1)個支持されている。そして、それぞれの凸歯ピン12bは、円柱状または円筒状に形成されており、当該凸歯ピン12bが放射状に配置されるようにその両端を固定軸本体12aに支持されている。さらに、それぞれの凸歯ピン12bは、凸歯ピン12bの軸方向(基準軸方向)で、かつ、固定軸本体12aの径方向の軸を中心として回転可能となるように、固定軸本体12aに支持されている。さらに、凸歯ピン12bの一部は、固定軸本体12aの軸方向端面から突出している。つまり、固定軸12は、歯数Z1の凸歯を有する歯車として機能する。
【0025】
また、上記説明においては、図1(a)および図2(a)に示すように、固定軸12の凸歯ピン12bは、固定軸本体12aに対して別体形成し、固定軸本体12aに支持されるようにした。この他に、図1(b)および図2(b)に示すように、凸歯ピン12bを、固定軸本体12aに一体形成することもできる。この場合、一体形成した凸歯ピン12bは、別体形成された場合における凸歯ピン12bの固定軸本体12aの軸方向端面から突出している部分と同様に、固定軸本体12aに相当する部分の軸方向端面から突出している。
【0026】
出力軸13(本発明の「相手歯車」に相当する)は、図示しないハウジングに対して回転中心軸Aの回りに回転可能に支持され、図示しない出力部材に連結されている。出力軸13は、出力軸本体13aと、複数の凸歯ピン13bとから構成される。出力軸本体13a(本発明の「相手歯車本体」に相当する)は、軸線Aを回転中心軸とする円筒状の部材である。つまり、出力軸本体13aは、入力軸11および固定軸本体12aと同軸状に設けられている。
【0027】
凸歯ピン13b(本発明の「相手歯車の凸歯」に相当する)は、出力軸本体13aの軸方向端面に、回転中心軸Aの周方向に等間隔に複数(G4)個支持されている。そして、それぞれの凸歯ピン13bは、円柱状または円筒状に形成されており、当該凸歯ピン13bが放射状に配置されるようにその両端を出力軸本体13aに支持されている。さらに、それぞれの凸歯ピン13bは、凸歯ピン13bの軸方向(基準軸方向)で、かつ、出力軸本体13aの径方向の軸を中心として回転可能となるように、出力軸本体13aに支持されている。さらに、出力軸本体13aのうち凸歯ピン13bを支持する軸方向端面は、固定軸本体12aのうち凸歯ピン12bを支持する軸方向端面に対して、軸方向所定距離だけ離隔して対向するように設けられている。さらに、凸歯ピン13bの一部は、出力軸本体13aの軸方向端面から突出している。つまり、出力軸13は、歯数Z4の凸歯を有する歯車として機能する。
【0028】
また、上記説明においては、出力軸13の凸歯ピン13bは、出力軸本体13aに対して別体形成し、出力軸本体13aに支持されるようにした。この他に、図1(b)および図2(b)に相当するように、凸歯ピン13bを、出力軸本体13aに一体形成することもできる。この場合、一体形成した凸歯ピン13bは、別体形成された場合における凸歯ピン13bの出力軸本体13aの軸方向端面から突出している部分と同様に、出力軸本体13aに相当する部分の軸方向端面から突出している。
【0029】
外輪14は、内周面に軌道面を有する円筒状に形成されている。この外輪14は、入力軸11の傾斜面11aに圧入嵌合されている。つまり、外輪14は、入力軸11と一体的となり、回転中心軸Bの回りに回転可能となる。
【0030】
内輪15(本発明の「凹凸歯車」に相当する)は、ほぼ円筒状に形成されている。この内輪15の外周面には、転動面15aが形成されている。さらに、内輪15の軸方向一方(図1(a)の右側)の端面には、周方向に等間隔に複数(G2)個の揺動凹歯15bが形成されている。また、内輪15の軸方向他方(図1(a)の左側)の端面には、周方向に等間隔に複数(G3)個の揺動凹歯15cが形成されている。
【0031】
この内輪15は、外輪14の径方向内方に離隔して配置され、複数の転動体(球体)16を挟んでいる。つまり、内輪15は、回転中心軸Aに対して傾斜した回転中心軸Bを有する。従って、内輪15は、入力軸11に対して、回転中心軸Bの回りに回転可能となる。さらに、内輪15は、モータ駆動により入力軸11が回転中心軸Aの回りに回転することに伴って、回転中心軸Aの回りに回転可能となる。
【0032】
さらに、内輪15は、固定軸12と出力軸13との軸方向の間に配置されている。具体的には、内輪15は、固定軸本体12aのうち凸歯ピン12bを支持する軸方向端面と、出力軸本体13aのうち凸歯ピン13bを支持する軸方向端面との間に配置されている。そして、内輪15の一方の揺動凹歯15bは、固定軸12の凸歯ピン12bに噛合する。また、内輪15の他方の揺動凹歯15cは、出力軸13の凸歯ピン13bに噛合する。
【0033】
そして、内輪15は、固定軸12に対して回転中心軸Aの回りに揺動するため、内輪15の一方の揺動凹歯15bの一部(図1(a)の上側の部分)は、固定軸12の凸歯ピン12bに噛合しているが、当該一方の揺動凹歯15bの他の一部(図1(a)の下側の部分)は、固定軸12の凸歯ピン12bから離間している。また、内輪15は、出力軸13に対して回転中心軸Aの回りに揺動するため、内輪15の他方の揺動凹歯15cの一部(図1(a)の下側の部分)は、出力軸13の凸歯ピン13bに噛合しているが、当該他方の揺動凹歯15cの他の一部(図1(a)の上側の部分)は、出力軸13の凸歯ピン13bから離間している。
【0034】
そして、例えば、固定軸12の凸歯ピン12bの歯数Z1が、内輪15の一方の揺動凹歯15bの歯数Z2より少なく設定されており、出力軸13の凸歯ピン13bの歯数Z4と内輪15の他方の揺動凹歯15cの歯数Z3とが同一に設定されている。これにより、入力軸11の回転に対して、出力軸13は減速(差動回転)することになる。つまり、この例では、内輪15と固定軸12との間で差動回転がされるのに対して、内輪15と出力軸13との間では差動回転がされない。ただし、出力軸13の凸歯ピン13bの歯数Z4と内輪15の他方の揺動凹歯15cの歯数Z3とを異なるように設定することで、両者の間に差動回転が生じるようにすることもできる。これらは適宜、減速比に応じて設定可能である。
【0035】
図1(a)に示す揺動型歯車装置において、差動回転を生じる固定軸12の凸歯ピン12bと内輪15の一方の揺動凹歯15bとの噛合部分は、図2(a)に示すようになる。また、図1(b)に示す揺動型歯車装置において、差動回転を生じる固定軸12の凸歯ピン12bと内輪15の一方の揺動凹歯15bとの噛合部分は、図2(b)に示すようになる。ここで、図2(a)は、固定軸12における凸歯ピン12bが、固定軸本体12aに対して別体形成されている場合を示す。図2(b)は、固定軸12における凸歯ピン12bが、固定軸本体12aに一体形成されている場合を示す。図2(a)(b)のどちらの場合も、本実施形態を適用できる。なお、出力軸13と内輪15との間で差動回転を生じる場合には、出力軸13の凸歯ピン13bと内輪15の他方の揺動凹歯15cとの噛合部分についても、図2(a)(b)と同様となる。そして、以下の説明においては、固定軸12と揺動歯車15との噛合部分のみについて説明する。
【0036】
ここで、揺動凹歯15bは、図3および図4に示すような形状となる。つまり、揺動凹歯15bの歯溝方向に直交する方向の断面形状は、全体的には、図2および図4(a)に示すように、ほぼ半円弧凹状をなしている。詳細には、当該断面形状は、円弧凹状の開口縁部分が垂れた形状をなしている。さらに、揺動凹歯15bは、図3および図4(b)に示すように、歯溝方向の両端側に向かって溝幅が広がるような形状をなしている。これは、凸歯ピン12bの歯数Z1と揺動凹歯15bの歯数Z2とが相違するためである。
【0037】
(2)揺動歯車の加工方法および加工装置
(2.1)揺動歯車の加工方法の基本概念
次に、上述した揺動型歯車装置における内輪15(以下、「揺動歯車」と称する)の揺動凹歯15bの加工方法について説明する。なお、揺動歯車15の揺動凹歯15cの加工方法についても同様である。まず、加工方法の処理手順について、図5を参照して説明する。図5に示すように、揺動歯車15および凸歯ピン12bの三次元CADのモデルまたは数式モデルを生成する(S1)。このモデルは、揺動歯車15と固定軸12とが差動回転する動作モデルである。
【0038】
続いて、両者が差動回転する際における、揺動凹歯15bに対する凸歯ピン12bの相対動作軌跡を抽出する(S2)(「軌跡抽出工程」、「軌跡抽出手段」)。この相対動作軌跡の抽出に際しては、揺動凹歯15bを固定したと考えて、凸歯ピン12bが揺動凹歯15bに対して移動するとして、凸歯ピン12bの動作軌跡を抽出する。そして、この凸歯ピン12bの動作軌跡には、凸歯ピン12bの中心軸12X(以下、「基準軸」と称する)、および、凸歯ピン12bの中心軸方向の中心の点12C(以下、「ピン中心点」と称する)の動作軌跡が含まれる。なお、凸歯ピン12bの基準軸12Xとは、凸歯ピン12bの歯厚中心面と基準円錐面との交線に平行な軸に相当する。
【0039】
続いて、抽出された揺動歯車15に対する凸歯ピン12bの相対動作軌跡を座標変換することにより、加工工具の動作軌跡であるNCプログラムを生成する(S3)(「座標変換工程」、「座標変換手段」)。このNCプログラムは、ワーク座標系における揺動凹歯15bを加工するための加工工具の動作軌跡に相当する。この工程において、第四回転軸の動作を削除する処理を行う。この詳細は、後述する。
【0040】
続いて、生成されたNCプログラムに基づいて、円盤状ワークおよび加工工具の少なくとも一方を移動させる(S4)(「加工工程」、「加工手段」)。つまり、円盤状ワークに対する加工工具の相対動作軌跡がステップS2において抽出された凸歯ピン12bの動作軌跡に一致するように、円盤状ワークおよび加工工具の少なくとも一方を移動させる。ここで、円盤状ワークとは、揺動凹歯15bの加工前における揺動歯車15の形状をなす材料である。
【0041】
以下、軌跡抽出工程と、座標変換工程および加工工程について詳細に説明する。
(2.2)軌跡抽出工程(軌跡抽出手段)
軌跡抽出工程について、図6(a1)(a2)(b1)(b2)(c1)(c2)を参照して説明する。図6の各図において、凸歯ピン12bの形状は、図2(a)(b)にて示す固定軸12の固定軸本体12aに対して突出している凸歯ピン12bの部分のみについて示す。つまり、図6の各図においては、凸歯ピン12bは、図2(a)(b)に示す凸歯ピン12bの共通する部分を示している。
【0042】
凸歯ピン12bが揺動凹歯15bに噛み合う前の状態では、図6(a1)に示すように、揺動歯車15の回転中心軸方向(図1(a)(b)の「B」)から見た場合には、凸歯ピン12bの基準軸12Xは、揺動凹歯15bの歯溝方向15Xに対して図6(a1)の右側に傾斜している。さらに、図6(a2)に示すように、揺動凹歯15bの基準円錐面の接面のうち歯溝方向15Xに直交する方向から見た場合には、凸歯ピン12bの基準軸12Xは、揺動凹歯15bの歯溝方向15Xに対して図6(a2)の左側に傾斜している。そして、両図において、凸歯ピン12bのピン中心点12Cは、揺動凹歯15bの歯溝方向15Xからずれた位置に位置している。
【0043】
次に、凸歯ピン12bが揺動凹歯15bに噛み合っている状態では、図6(b1)(b2)に示すように、揺動凹歯15bの歯溝方向15Xと凸歯ピン12bの基準軸12Xとが一致している。当然に、凸歯ピン12bのピン中心点12Cも、揺動凹歯15bの歯溝方向15Xに一致している。
【0044】
次に、凸歯ピン12bが揺動凹歯15bに対して噛み合い状態から離れた時の状態では、図6(c1)に示すように、揺動歯車15の回転中心軸方向(図1(a)(b)の「B」)から見た場合には、凸歯ピン12bの基準軸12Xは、揺動凹歯15bの歯溝方向15Xに対して図6(c1)の左側に傾斜している。さらに、図6(c2)に示すように、揺動凹歯15bの基準円錐面の接面のうち歯溝方向15Xに直交する方向から見た場合には、凸歯ピン12bの基準軸12Xは、揺動凹歯15bの歯溝方向15Xに対して図6(c2)の左側に傾斜している。そして、両図において、凸歯ピン12bのピン中心点12Cは、揺動凹歯15bの歯溝方向15Xからずれた位置に位置している。
【0045】
つまり、凸歯ピン12bの基準軸12Xの動作軌跡およびピン中心点12Cの動作軌跡は、図7に示すようなものになる。この基準軸12Xの動作軌跡は、第一直動軸、第二直動軸、第三直動軸、第四回転軸、第五回転軸および第六割出軸に分解して表すことができる。ここで、図7および以下の図において、○の中の数字が、当該各軸の番号に一致する。例えば、○の中の数字が「1」で示される軸は、第一直動軸となる。
【0046】
つまり、第一直動軸とは、凸歯ピン12bの基準位置(所定位置)を、円盤状ワーク(揺動歯車15)の凹歯形成面(本実施形態においては「軸方向端面」である)に接する面に直交する方向に移動させる軸である。第二直動軸とは、凸歯ピン12bの基準位置を、円盤状ワーク(揺動歯車15)の凹歯形成面に接する面上であって、揺動凹歯15bの歯溝方向に移動させる軸である。第三直動軸とは、凸歯ピン12bの基準位置を、円盤状ワーク(揺動歯車15)の凹歯形成面に接する面上であって、第二直動軸に直交する方向に移動させる軸である。
【0047】
第四回転軸とは、凸歯ピン12bの基準位置を第一直動軸の回りに回転させる軸である。第五回転軸とは、凸歯ピン12bの基準位置を第三直動軸の回りに回転させる軸である。ここで示す第四回転軸および第五回転軸は、凸歯ピン12bのピン中心点12Cを中心に回転する軸である。第六割出軸とは、揺動歯車15の回転中心軸B(図1(a)(b)に示す)に一致し揺動歯車15の回転位相を割り出す軸である。
【0048】
(2.3)座標変換工程(座標変換手段)
ここで、本実施形態における工作機械は、第一〜第三,第五,第六の軸を有する機械構成を対象としている。当該工程においては、まず、第四回転軸の動作を第六割出軸と第三直動軸に分解して、第四回転軸の動作を削除する処理を行っている。ここで、第四回転軸は、第六割出軸に平行な軸の回りに回転する軸である。そこで、図8に示すように、第四回転軸の中心、すなわち凸歯ピン12bのピン中心点12Cを、第六割出軸の回転中心(揺動歯車15の回転中心軸B)に一致させるようにする。このとき、凸歯ピン12bのピン中心点12Cを移動させる際に、凸歯ピン12bの基準軸12X上としている。つまり、凸歯ピン12bの歯長さを無限長と考えて、移動させた第四回転軸の回転中心は、第三直動軸上を移動するようにしている。このように第四回転軸を、第六割出軸と第三直動軸とに分解することで、第四回転軸の動作を削除することができる。結果として、図9に示すように、凸歯ピン12bの相対動作軌跡は、3つの直動軸と2つの回転軸とにより表されることになる。
【0049】
さらに続けて、座標変換工程にて、算出された第一直動軸、第二直動軸および第三直動軸の3つの直動軸と、第五回転軸および第六割出軸の2つの回転軸の動作軌跡に基づいて、3つの直動軸と2つの回転軸とにより表されるNCプログラムを生成する。
【0050】
(2.4)加工工程(加工手段)
本実施形態における、加工工具としては、凸歯ピン12bの外周形状を表現することができる工具であれば何でもよい。第一の加工工具としては、凸歯ピン12bの外周形状に一致または小さく相似する円柱状のピン形状の工具であって、ピン中心軸回りに回転する工具である。また、第二の加工工具としては、図9(a)(b)に示すようなトロイダル砥石30である。トロイダル砥石30は、図9(a)に示すような円盤状工具であって、その外周縁形状が例えば図9(b)に示すような円弧凸状をなしている。このトロイダル砥石30の図9(b)に示す幅は、凸歯ピン12bの直径以下とする。このトロイダル砥石30の中心軸を凹歯15bの歯溝方向にずらした複数箇所にて切り込む動作により、トロイダル砥石30により凸歯ピン12bを擬似的に表現する。また、図10に示すような回転するベルト状の工具を用いることもできる。このベルト状の工具とは、図10に示すように、回転方向に直線部を有する。そして、この直線部の外周側の形状が、凸歯ピン12bの外周形状の一部に一致または相似する。
【0051】
そして、当該加工工程では、座標変換工程にて座標変換されたNCプログラムに基づいて加工が行われる。つまり、図11に示すように、第一直動軸、第二直動軸、第三直動軸、第五回転軸(ピン中心点12C回り)および第六割出軸(揺動歯車15の回転中心軸Bの回り)からなる5つの軸により、円盤状ワークと加工工具とを相対的に移動させることにより揺動凹歯15bが加工される。つまり、加工工具がピン形状の加工工具の場合には、当該ピン形状の加工工具を、当該ピン形状の加工工具を、凸歯ピン12bと同様の動作を行うように移動させている。また、回転ベルト状の工具の場合には、当該工具の直線部をピン形状の加工工具と同様の動作をさせることになる。なお、トロイダル砥石30の場合についての動作は、後述する他の実施形態において詳細に説明する。
【0052】
(3)第一実施形態の効果
本実施形態によれば、5軸構成のNC工作機械を用いて、揺動歯車15の揺動凹歯15bを加工することが可能となる。つまり、揺動歯車15の外径が異なる場合や、揺動凹歯15bの形状が異なる場合にも、同一のNC工作機械で揺動凹歯15bを加工することができる。
【0053】
また、揺動歯車15は、相手歯車(固定軸12または出力軸13)に対して交差軸を中心として回転する凹凸歯車である。このような構成であるため、両者の歯車の噛み合い率は高くなる。そのため、小型化、高強度化および静粛性を図ることが可能となる。一方で、良好な歯当たりを実現するためには、非常に高い精度の歯面形状を形成する必要があり、歯面形状の加工が容易ではないという問題がある。これに対して、本実施形態の加工方法を適用することにより、交差軸を有する揺動歯車15の揺動凹歯15b、15cを、容易にかつ高精度に形成することができる。その結果、従来と同程度の精度にする場合には加工コストを低減することができる。
【0054】
ここで、凸歯ピン12bの歯数Z1と揺動凹歯15bとの歯数Z2が異なるため、固定軸12と揺動歯車15とが確実に差動回転可能な構成となる。そして、両者の歯数が異なるため、図2〜図4に示すように、揺動凹歯15bの形状が非常に複雑な形状となる。
【0055】
さらに、第四回転軸の動作を省略して、5つの軸によって加工ができる。従って、揺動凹歯15bを加工できる工作機械の構成軸数を削減できるため、工作機械の低コスト化を図ることができる。
【0056】
さらに、凸歯ピン12bの基準軸直交方向の断面形状を円弧状にしている。このようにすることで、固定軸12と揺動歯車15とは非常に滑らかに差動回転することが可能となる。その一方で、揺動歯車15の揺動凹歯15bの加工が複雑となる。凸歯ピン12bの基準軸直交方向の断面形状を円弧状であるため、揺動凹歯15bは、全体的には円弧凹状に近似した断面形状からなり、詳細には円弧凹状の開口縁部分が垂れた断面形状を有する。このように、揺動凹歯15bが複雑な形状であっても、本実施形態によれば、確実に高精度に加工することができる。その結果、低コストで高性能な揺動歯車15を形成することができる。
【0057】
また、揺動歯車15と固定軸12との相対的な動きは、三次元的な複雑な動きであるが、凸歯ピン12bの基準軸12Xを用いることで、確実に凸歯ピン12bの相対動作軌跡を把握することができる。
【0058】
また、加工工具を凸歯ピン12bに一致または相似する形状とした場合には、加工工具の動作を凸歯ピン12bと実質的に同様の動作とすることで、最適な揺動凹歯15bを形成することができる。加工工具として、回転ベルト状の工具を用いた場合にも同様である。
【0059】
また、凸歯ピン12bの相対動作軌跡をワーク座標系における加工工具の動作に変換している。本実施形態においては、凸歯ピン12bの動作とピン形状からなる加工工具の動作とが実質的に一致するようにしている。従って、軌跡抽出工程にて抽出された凸歯ピン12bの動作軌跡とNCプログラムとは、実質的に大きく異なるものではない。ただし、加工工具の種類に応じて、軌跡抽出工程において抽出される相対動作軌跡とワーク座標系からなる加工工具の動作軌跡とは相違することがある。つまり、座標変換工程を設けることにより、加工工具の種類に応じたNCプログラムの生成が可能となる。この点は、特に他の実施形態に有効である。
【0060】
<第二実施形態:5軸構成(3直動軸、2回転軸)(第四回転軸削除の第2例)>
第二実施形態の揺動型歯車装置の揺動歯車の加工方法および加工装置について、図12を参照して説明する。本実施形態における加工装置は、3つの直交する直動軸と、2つの回転軸を有する5軸構成の場合を示している。第一実施形態と同様に第四回転軸を削除している。ただし本実施形態においては、第一実施形態にて説明した第四回転軸の動作を第六割出軸と第三直動軸ではなく、第六割出軸と第二直動軸に分解している。
【0061】
ここで、本実施形態において、第一実施形態における「モデルの生成」(S1)および「軌跡抽出工程」(S2)は同一である。つまり、軌跡抽出工程において抽出された凸歯ピン12bの動作軌跡は、3つの直動軸と3つの回転軸とにより表されている。
【0062】
続いて、座標変換工程において、本実施形態においては、まず、第四回転軸の動作を第六割出軸と第二直動軸に分解して、第四回転軸の動作を削除する処理を行っている。ここで、第四回転軸は、第一実施形態においても説明したように、第六割出軸に平行な軸の回りに回転する軸である。そこで、図12に示すように、第四回転軸の中心、すなわち凸歯ピン12bのピン中心点12Cを、第六割出軸の回転中心(揺動歯車15の回転中心軸B)に一致させるようにする。このとき、凸歯ピン12bのピン中心点12Cを移動させる際に、凸歯ピン12bの基準軸12X上としている。つまり、移動させた第四回転軸の回転中心は、第二直動軸上を移動するようにしている。このように第四回転軸を、第六割出軸と第二直動軸とに分解することで、第四回転軸の動作を削除することができる。結果として、凸歯ピン12bの相対動作軌跡は、3つの直動軸と2つの回転軸とにより表されることになる。
【0063】
さらに続けて、座標変換工程にて、算出された第一直動軸、第二直動軸および第三直動軸の3つの直動軸と、第五回転軸および第六割出軸の2つの回転軸の動作軌跡に基づいて、3つの直動軸と2つの回転軸とにより表されるNCプログラムを生成する。なお、本実施形態における工作機械は、第一〜第三,第五,第六の軸を有する機械構成を対象としている。
【0064】
続いて、加工工程において、加工工具としては、第一実施形態と同様に、凸歯ピン12bの外周形状に一致するピン形状の工具を対象として考える。そして、当該加工工程では、座標変換工程にて座標変換された5軸構成のNCプログラムに基づいて加工が行われる。つまり、図12に示すように、第一直動軸、第二直動軸、第三直動軸、第五回転軸(ピン中心点12C回り)および第六割出軸(揺動歯車15の回転中心軸Bの回り)からなる5つの軸により、円盤状ワークと加工工具とを相対的に移動させることにより揺動凹歯15bが加工される。
【0065】
このように、本実施形態によれば、第四回転軸の動作を省略して、5つの軸によって加工ができる。従って、揺動凹歯15bを加工できる工作機械の構成軸数を削減できるため、工作機械の低コスト化を図ることができる。
【0066】
<第三実施形態:4軸構成(2直動軸、2回転軸)(第二直動軸、第四回転軸削除)>
第三実施形態の揺動型歯車装置の揺動歯車の加工方法および加工装置について、図7〜図8、図13〜図15を参照して説明する。本実施形態における加工装置は、2つの直交する直動軸と、2つの回転軸を有する4軸構成の場合を示している。第一実施形態の図7にて説明した第四回転軸と第二直動軸を削除している。具体的には、第一実施形態と同様に第四回転軸の動作を第六割出軸と第三直動軸に分解し、さらに加えて、第二直動軸を第一直動軸と第三直動軸に分解している。
【0067】
ここで、本実施形態において、第一実施形態における「モデルの生成」(S1)および「軌跡抽出工程」(S2)は同一である。つまり、軌跡抽出工程において抽出された凸歯ピン12bの動作軌跡は、3つの直動軸と3つの回転軸とにより表されている。
【0068】
続いて、座標変換工程において、まず、第一実施形態にて説明したように、図8に示すように、軌跡抽出工程において、第四回転軸の動作を第六割出軸と第三直動軸に分解して、第四回転軸の動作を削除する処理を行っている。つまり、この時点において、凸歯ピン12bの相対動作軌跡は、3つの直動軸と2つの回転軸とにより表されることになる。
【0069】
さらに、本実施形態では、座標変換工程において、第二直動軸の動作を削除する処理を行っている。この処理の概要について図13(a)(b)を参照して説明する。図13(a)(b)に示すように、凸歯ピン12bの歯長さを無限長と考えて、凸歯ピン12bのピン中心点12Cを、凸歯ピン12bの基準軸12X上で移動させる。さらに、凸歯ピン12bのピン中心点12Cを、第一直動軸と第三直動軸とを通る平面上に移動させる。この点についての詳細は、図14(a)(b)に示すようになる。それぞれのピン中心点12Cは、それぞれ第一直動軸と第三直動軸とを通る平面上に移動させる。このように、第二直動軸の動作を第一直動軸と第三直動軸とに分解することで、第二直動軸の動作を削除することができる。
【0070】
なお、上記においては、説明の容易化のために、まず第四回転軸を削除して、その後に第二直動軸を削除する処理方法について説明したが、両者の削除処理を逆に行うこともでき、同一の結果を得ることができる。また、処理としては、第四回転軸の削除処理と、第二直動軸の削除処理とを同時に行うこともできる。
【0071】
従って、本実施形態においては、凸歯ピン12bの相対動作軌跡は、第一実施形態に対して第四回転軸に加えてさらに第二直動軸が削除されている。つまり、最終的に得られる凸歯ピン12bの相対動作軌跡は、図15(a)(b)に示すように、第一直動軸および第三直動軸の2つの直動軸と、第五回転軸および第六割出軸の2つの回転軸とにより表されることになる。
【0072】
さらに続けて、座標変換工程にて、算出された第一直動軸および第三直動軸の2つの直動軸と、第五回転軸および第六割出軸の2つの回転軸の動作軌跡に基づいて、2つの直動軸と2つの回転軸とにより表されるNCプログラムを生成する。なお、本実施形態における工作機械は、第一,第三,第五,第六の軸を有する機械構成を対象としている。
【0073】
続いて、加工工程において、加工工具としては、第一実施形態と同様に、凸歯ピン12bの外周形状に一致するピン形状の工具を対象として考える。そして、当該加工工程では、座標変換工程にて座標変換された4軸構成のNCプログラムに基づいて加工が行われる。つまり、図15に示すように、第一直動軸、第三直動軸、第五回転軸(ピン中心点12C回り)および第六割出軸(揺動歯車15の回転中心軸Bの回り)からなる4つの軸により、円盤状ワークと加工工具とを相対的に移動させることにより揺動凹歯15bが加工される。
【0074】
このように、本実施形態によれば、第四回転軸の動作および第二直動軸の動作を省略して、4つの軸によって加工ができる。従って、揺動凹歯15bを加工できる工作機械の構成軸数を削減できるため、工作機械の低コスト化を図ることができる。
【0075】
<第四実施形態:4軸構成(2直動軸、2回転軸)(第三直動軸、第四回転軸削除)>
第四実施形態の揺動型歯車装置の揺動歯車の加工方法および加工装置について、図12、図16〜図18を参照して説明する。本実施形態における加工装置は、2つの直交する直動軸と、2つの回転軸を有する4軸構成の場合を示している。第一実施形態の図7にて説明した第四回転軸と第三直動軸を削除している。具体的には、第二実施形態と同様に第四回転軸の動作を第六割出軸と第二直動軸に分解し、さらに加えて、第三直動軸を第一直動軸と第二直動軸に分解している。
【0076】
ここで、本実施形態において、第一実施形態における「モデルの生成」(S1)および「軌跡抽出工程」(S2)は同一である。つまり、軌跡抽出工程において抽出された凸歯ピン12bの動作軌跡は、3つの直動軸と3つの回転軸とにより表されている。
【0077】
続いて、座標変換工程において、まず、第二実施形態にて説明したように、図12に示すように、軌跡抽出工程において、第四回転軸の動作を第六割出軸と第二直動軸に分解して、第四回転軸の動作を削除する処理を行っている。つまり、この時点において、凸歯ピン12bの相対動作軌跡は、3つの直動軸と2つの回転軸とにより表されることになる。
【0078】
さらに、本実施形態では、座標変換工程において、第三直動軸の動作を削除する処理を行っている。この処理の概要について図16(a)(b)を参照して説明する。図16(a)(b)に示すように、凸歯ピン12bの歯長さを無限長と考えて、凸歯ピン12bのピン中心点12Cを、凸歯ピン12bの基準軸12X上で移動させる。さらに、凸歯ピン12bのピン中心点12Cを、第一直動軸と第二直動軸とを通る平面上に移動させる。この点についての詳細は、図17(a)(b)に示すようになる。それぞれのピン中心点12Cは、それぞれ第一直動軸と第二直動軸とを通る平面上に移動させる。このように、第三直動軸の動作を第一直動軸と第二直動軸とに分解することで、第三直動軸の動作を削除することができる。
【0079】
なお、上記においては、説明の容易化のために、まず第四回転軸を削除して、その後に第三直動軸を削除する処理方法について説明したが、両者の削除処理を逆に行うこともでき、同一の結果を得ることができる。また、処理としては、第四回転軸の削除処理と、第三直動軸の削除処理とを同時に行うこともできる。
【0080】
従って、本実施形態においては、凸歯ピン12bの相対動作軌跡は、第一実施形態に対して第四回転軸に加えてさらに第三直動軸が削除されている。つまり、最終的に得られる凸歯ピン12bの相対動作軌跡は、図18(a)(b)に示すように、第一直動軸および第二直動軸の2つの直動軸と、第五回転軸および第六割出軸の2つの回転軸とにより表されることになる。
【0081】
さらに続けて、座標変換工程にて、算出された第一直動軸および第二直動軸の2つの直動軸と、第五回転軸および第六割出軸の2つの回転軸の動作軌跡に基づいて、2つの直動軸と2つの回転軸とにより表されるNCプログラムを生成する。なお、本実施形態における工作機械は、第一,第二,第五,第六の軸を有する機械構成を対象としている。
【0082】
続いて、加工工程において、加工工具としては、第二実施形態と同様に、凸歯ピン12bの外周形状に一致するピン形状の工具を対象として考える。そして、当該加工工程では、座標変換工程にて座標変換された4軸構成のNCプログラムに基づいて加工が行われる。つまり、図18に示すように、第一直動軸、第二直動軸、第五回転軸(ピン中心点12C回り)および第六割出軸(揺動歯車15の回転中心軸Bの回り)からなる4つの軸により、円盤状ワークと加工工具とを相対的に移動させることにより揺動凹歯15bが加工される。
【0083】
このように、本実施形態によれば、第四回転軸の動作および第二直動軸の動作を省略して、4つの軸によって加工ができる。従って、揺動凹歯15bを加工できる工作機械の構成軸数を削減できるため、工作機械の低コスト化を図ることができる。
【0084】
<第五実施形態:4軸構成(3直動軸、1回転軸)+トロイダル砥石>
第五実施形態の揺動型歯車装置の揺動歯車の加工方法および加工装置について、図7〜図9,図12,図19〜図22を参照して説明する。本実施形態における加工装置は、3つの直交する直動軸と、1つの回転軸を有する4軸構成の場合を示している。第一実施形態の図7にて説明した第四回転軸と第五回転軸を削除している。具体的には、第一実施形態と同様に第四回転軸の動作を第六割出軸と第二直動軸に分解し、さらに加えて、第五回転軸を第一直動軸と第二直動軸に分解している。これに加えて、加工工具として、トロイダル砥石(円盤状工具)を用いることとしている。
【0085】
(4)揺動歯車の加工方法および加工装置
(4.1)揺動歯車の加工方法の基本概念
揺動型歯車装置における揺動歯車15の揺動凹歯15bの加工方法の基本概念について説明する。本実施形態における加工方法においては、図9に示すようなトロイダル砥石30を用いる。トロイダル砥石30は、図9(a)に示すような円盤状工具であって、その外周縁形状が図9(b)に示すような円弧凸状をなしている。
【0086】
このトロイダル砥石30を用いて揺動凹歯15bを加工する場合には、図19に示すような動作が可能となる。つまり、第一実施形態の図7にて示す第五回転軸を、トロイダル砥石30によって第一直動軸と第二直動軸とにより表すことができる。しかし、揺動凹歯15bに対してトロイダル砥石30の連続した動作(凸歯ピン12bの動作軌跡に相当する動作)を1回行った場合には、図20(a)(b)に示すように、揺動凹歯15bに削り残しが生じてしまう。
【0087】
そこで、図21に示すように、トロイダル砥石30の中心軸を揺動凹歯15bの歯溝方向にずらした複数箇所にて切り込む動作により、トロイダル砥石30により凸歯ピン12bを擬似的に表現している。その結果、揺動凹歯15bの削り残しを低減することができる。図21においては、切り込み動作は、3箇所の位置にて行っている例を示している。このように、複数の切り込み動作の位置にて、トロイダル砥石30の連続動作を行わせることで、より高精度な揺動凹歯15bの加工が可能となる。
【0088】
この基本概念を踏まえて、本実施形態の加工方法の処理手順について、図22を参照して説明する。図22に示すように、揺動歯車15および凸歯ピン12bの三次元CADのモデルを生成する(S11)。このモデルは、揺動歯車15と固定軸12とが差動回転する動作モデルである。
【0089】
続いて、両者が差動回転する際における、揺動凹歯15bに対する凸歯ピン12bの相対動作軌跡を抽出する(S12)(「軌跡抽出工程」、「軌跡抽出手段」)。この相対動作軌跡の抽出に際しては、まずは、第一実施形態の軌跡抽出工程における処理と同一の処理を行う。つまり、軌跡抽出工程にて、揺動歯車15に対する凸歯ピン12bの基準軸12Xおよびピン中心点12Cの相対動作軌跡を抽出する。すなわち、この時点においては、軌跡抽出工程において抽出された凸歯ピン12bの動作軌跡は、3つの直動軸と3つの回転軸とにより表されている。
【0090】
続いて、抽出された揺動歯車15に対する凸歯ピン12bの相対動作軌跡を座標変換することにより、トロイダル砥石30の動作軌跡であるNCプログラムを生成する(S13)(「座標変換工程」、「座標変換手段」)。
【0091】
まず、座標変換工程においては、第一実施形態または第二実施形態にて説明したように、図8または図12に示すように、第四回転軸の動作を第六割出軸と第三直動軸(または第二直動軸)に分解して、第四回転軸の動作を削除する処理を行っている。つまり、この時点において、凸歯ピン12bの相対動作軌跡は、3つの直動軸と2つの回転軸とにより表されることになる。
【0092】
さらに、本実施形態では、座標変換工程において、第五回転軸の動作を削除する処理を行っている。この処理については上述したように、トロイダル砥石30を用いることで達成している。つまり、この時点において、凸歯ピン12bの相対動作軌跡は、3つの直動軸と1つの回転軸とにより表されることになる。ここで、この時点においては、トロイダル砥石30の歯溝方向の切り込み動作の位置を1箇所としている。さらに続けて、算出された揺動歯車15に対する凸歯ピン12bの相対動作軌跡を座標変換することにより、加工工具の動作軌跡であるNCプログラムを生成する。
【0093】
続いて、トロイダル砥石30と円盤状ワーク(揺動歯車15)を相対移動させて加工シミュレーションを行う(S14)(「シミュレーション工程」、「シミュレーション手段」)。つまり、揺動凹歯15bが加工される前の円盤状ワークに対して、トロイダル砥石30を生成されたNCプログラムに従って移動させることで、加工後の円盤状ワークの形状を加工シミュレーションにて生成する。
【0094】
続いて、予め設定された理想形状モデルと、加工シミュレーションの結果の形状とを比較し、誤差を算出する(S15)。続いて、算出された誤差が予め設定された許容値以内であるか否かを判定する(S16)。
【0095】
そして、算出された誤差が許容値を超えている場合には(S16:N)、トロイダル砥石30の中心軸を揺動凹歯15bの歯溝方向にずらして切り込み動作の位置を算出する(S17)(「切り込み位置算出工程」)。ここでは、例えば、トロイダル砥石30の中心軸を揺動凹歯15bの歯溝方向に2箇所にずらして切り込む動作を行うようにする。ここで、この切り込み位置算出工程においては、加工シミュレーションの結果の形状と理想形状モデルとの誤差が小さくなるように、且つ、加工時間が短くなるような切り込み動作の位置を算出する。
【0096】
切り込み動作の位置の算出が終わると、ステップS13に戻り、算出された切り込み動作の位置に基づいて再び座標変換処理が行われる。つまり、ステップS13〜S17を繰り返すことにより、切り込み位置算出工程においては、加工シミュレーションの結果の形状と理想形状モデルとの誤差が設定された許容値以内にしつつ、加工時間が最も短くなるような切り込み動作の位置を算出することになる。
【0097】
そして、算出された誤差が許容値以内となると(S16:Y)、生成されたNCプログラムに基づいて、円盤状ワークおよびトロイダル砥石30の少なくとも一方を移動させる(S18)(「加工工程」、「加工手段」)。
【0098】
このように、本実施形態によれば、トロイダル砥石30を用いることにより、第四回転軸の動作および第五回転軸の動作を省略して、4つの軸によって加工ができる。従って、揺動凹歯15bを加工できる工作機械の構成軸数を削減できるため、工作機械の低コスト化を図ることができる。ただし、トロイダル砥石30を用いることにより却って、幾何学的な誤差、すなわち削り残しが発生してしまう。そこで、加工シミュレーションを行い、理想形状モデルと比較することによって、確実に高精度な揺動凹歯15bを形成することができる。さらに、最短時間の加工条件を算出することもできる。
【0099】
なお、本実施形態にて説明した3つの直動軸と1つの回転軸とからなる4軸構成を少なくとも有するのであれば、トロイダル砥石30を用いて揺動歯車15の揺動凹歯15bを加工することができる。すなわち、第一実施形態(3つの直動軸と2つの回転軸とからなる5軸構成)においても、トロイダル砥石30を用いた加工ができる。
【0100】
<第六実施形態>
上記第一〜第五実施形態においては、揺動型歯車装置の揺動歯車を加工対象としての加工方法について説明した。揺動型歯車装置は、それぞれの回転中心軸が交差する凹凸歯車と相手歯車との関係を2組有する構成である。このような凹凸歯車と相手歯車との関係を1組有する構成からなる動力伝達装置について図23(a)(b)を参照して説明する。
【0101】
ここで、図23(a)は、凸歯ピン112bが、入力軸本体112aに対して別体形成されている場合を示し、図23(b)は、凸歯ピン112bが、入力軸本体112aに対して一体形成されている場合を示す。
【0102】
図23(a)(b)に示すように、動力伝達装置は、入力軸112と出力軸115とから構成される。入力軸112(本発明の「相手歯車」に相当する)は、第一実施形態における出力軸13とほぼ同様の構成からなる。入力軸112は、入力軸本体112aと、複数の凸歯ピン112bとから構成される。入力軸本体112a(本発明の「相手歯車本体」に相当する)は、軸線Aを回転中心軸とする円筒状の部材である。そして、入力軸本体112aは、軸受を介して、図示しないハウジングに対して回転中心軸Aの回りに回転可能に支持されている。
【0103】
出力軸115(本発明の「凹凸歯車」に相当する)は、第一実施形態における内輪(揺動歯車)15のうち一方の端面形状がほぼ共通する。つまり、出力軸115の軸方向一方(図23(a)(b)の左側)の端面には、周方向に等間隔に複数(G2)個の凹歯115bが形成されている。この出力軸115は、回転中心軸Aに対して傾斜した回転中心軸Bを中心に回転可能となるように、軸受を介して図示しないハウジングに支持されている。そして、出力軸115の軸方向他方(図23(a)(b)の右側)は、他の動力伝達部材に連結される。
【0104】
このように、入力軸112の回転中心軸Aに対して交差する回転中心軸Bを中心に回転する出力軸115の凹歯を加工対象とした場合に、上述した実施形態における加工方法を同様に適用できる。そして、同様の効果を奏する。
【0105】
<その他>
また、上記実施形態においては、凸歯ピン12bの基準軸直交方向の断面形状が円弧状であるとして説明したが、この他に、図24に示すように、凸歯ピン12bが、台形形状、インボリュート形状などの場合にも適用できる。
【0106】
また、上記実施形態においては、固定軸12の凸歯ピン12bと揺動凹歯15bとの関係について説明したが、出力軸13の凸歯ピン13bと揺動凹歯15cとの関係についても同様に適用できる。
【符号の説明】
【0107】
11:入力軸、 11a:傾斜面
12:固定軸、 12a:固定軸本体、 12b:凸歯ピン
12C:ピン中心点、 12X:基準軸
13:出力軸、 13a:出力軸本体、 13b:凸歯ピン
14:外輪
15:内輪(揺動歯車、凹凸歯車)、 15a:転動面、 15b,15c:揺動凹歯
15X:歯溝方向
16:転動体
30:トロイダル砥石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹歯と凸歯が周方向に連続して形成され、当該凹歯が相手歯車の凸歯に噛合することにより前記相手歯車との間で動力伝達可能な凹凸歯車の加工方法であって、
前記凹凸歯車は、前記相手歯車の回転中心軸に対して交差する交差軸を中心として回転する歯車であり、
前記相手歯車の凸歯の外周面における当該凸歯の基準軸直交方向の断面形状は、円弧状に形成され、
前記相手歯車と前記凹凸歯車との間で動力を伝達する際における前記凹凸歯車に対する前記相手歯車の凸歯の相対動作軌跡は、
前記相手歯車の凸歯の基準位置を、前記円盤状ワークの凹歯形成面に接する面に直交する方向に移動させる第一直動軸と、
前記相手歯車の凸歯の基準位置を、前記円盤状ワークの凹歯形成面に接する面上であって、前記凹凸歯車の凹歯の歯溝方向に移動させる第二直動軸と、
前記相手歯車の凸歯の基準位置を、前記円盤状ワークの凹歯形成面に接する面上であって、前記第二直動軸に直交する方向に移動させる第三直動軸と、
前記相手歯車の凸歯の基準位置を前記第一直動軸の回りに回転させる第四回転軸と、
前記相手歯車の凸歯の基準位置を前記第三直動軸の回りに回転させる第五回転軸と、
前記凹凸歯車の回転中心軸に一致し前記凹凸歯車の回転位相を割り出す第六割出軸と、
により表わされ、
前記加工方法は、
前記第四回転軸を前記第六割出軸に一致させた場合における前記第一直動軸、前記第二直動軸、前記第三直動軸、前記第五回転軸および前記第六割出軸による前記相手歯車の凸歯の前記相対動作軌跡を算出し、
算出された前記相対動作軌跡に基づいて、前記円盤状ワークおよび前記加工工具の少なくとも一方を移動させることを特徴とする凹凸歯車の加工方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記相手歯車の凸歯の数と前記凹凸歯車の凹歯の数が異なることを特徴とする凹凸歯車の加工方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
さらに、前記凸歯の歯長さが無限長と考えた場合に、前記第二直動軸における前記相手歯車の凸歯の基準位置の動作を前記第三直動軸の上にて行うとした場合における前記第一直動軸、前記第三直動軸、前記第五回転軸および前記第六割出軸による前記相手歯車の凸歯の前記相対動作軌跡を算出し、
算出された前記相対動作軌跡に基づいて、前記円盤状ワークおよび前記加工工具の少なくとも一方を移動させることを特徴とする凹凸歯車の加工方法。
【請求項4】
請求項1または2において、
さらに、前記相手歯車の凸歯の歯長さが無限長と考えた場合に、前記第三直動軸における前記相手歯車の凸歯の基準位置の動作を前記第二直動軸の上にて行うとした場合における前記第一直動軸、前記第二直動軸、前記第五回転軸および前記第六割出軸による前記相手歯車の凸歯の前記相対動作軌跡を算出し、
算出された前記相対動作軌跡に基づいて、前記円盤状ワークおよび前記加工工具の少なくとも一方を移動させることを特徴とする凹凸歯車の加工方法。
【請求項5】
請求項1または2において、
さらに、前記第五回転軸における前記相手歯車の凸歯の基準位置の動作を、前記第一直動軸と前記第二直動軸の動作に分解して、前記第一直動軸、前記第二直動軸、前記第三直動軸および前記第六割出軸による前記相手歯車の凸歯の前記相対動作軌跡を算出し、
算出された前記相対動作軌跡に基づいて、前記円盤状ワークおよび前記加工工具の少なくとも一方を移動させることを特徴とする凹凸歯車の加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2011−161597(P2011−161597A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29177(P2010−29177)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】