説明

出生児の出生体重の低下リスクを防ぐ妊婦用の乳由来組成物

【課題】本発明は、妊娠期の栄養を改善することにより、出生児の出生体重の低下を改善し、出生体重が平均体重より低下すること(出生時の体重低下)を防ぐ医薬組成物又は食品組成物を開発することを課題とする。
【解決手段】本願発明は、ミルクリン脂質を有効成分として含有する、出生児の出生体重の低下を防ぐことができる、出生体重低下防止剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保健健康食品の技術分野に関し、より具体的には、出生児の出生体重の低下リスクを防ぐための食品組成物の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
出生時における体重が2500g以下の低体重の出生児、いわゆる低出生体重児の問題は、1975年までは改善傾向にあったが、1980年以降には、低出生体重児の全出生児に占める割合が上昇に転じた。その背景には、それ以前には、妊娠中に栄養を充分に取ることを指導されたが、1975-1980年頃になり、一般でもエネルギーの過剰摂取が肥満や様々な代謝異常を引き起こすことが指摘され始め、妊婦でも妊娠中の栄養の取りすぎが出産の異常を招いたり、妊娠糖尿病を引き起こしたりと警告されたこと、更には、女性で美容の要望が絡まったことなどが挙げられる。また、産科医療の考え方の変化、早い妊娠週数で出生する新生児の増加、更には、20代以下の女性の喫煙率の増加、多胎の増加の影響なども指摘されている(非特許文献1)。
【0003】
そして、出生児の出生時における低体重は、糖尿病、高血圧、冠動脈患者などの疾患に関連しているといわれており(非特許文献2)、また、メタボリックシンドロームにも関係しているといわれている。また、低出生体重児には、呼吸機能が未熟な場合が多く、その約25%には、未熟児無呼吸発作が発症し、これによる脳やその他の臓器への障害発生の危険性が指摘されている。
【0004】
このように、出生時における低体重は、出生児に様々な負担、障害、リスクを与えることから、出生時における低体重を防ぐことは重要であると考えられ、以前から、その取り組みとして、朝食などの食生活を規則正しくすることが大切であるとされている(非特許文献3)。また、出生時における低体重児の予測診断方法は例えば、特許文献1に報告されている。
【0005】
なお、妊娠期のビタミンなどの栄養素の必要性のうち、特に妊娠期における葉酸の摂取の必要性は、既に40年以上前からいわれてきており、葉酸の欠乏と、中枢神経系の形成阻害との関係が指摘され、神経管閉鎖障害(NTD)の危険を低下できるとして、妊娠前からの葉酸の摂取が勧められている(非特許文献4)。更には、妊婦のビタミンB12や葉酸の欠乏と、出生児の出生時における低体重との関連性も指摘されてきている(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002−512047号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】http://www.aiiku.or.jp/aiiku/jigyo/contents/kaisetsu/ks0207/ks0207.htm
【非特許文献2】Lancet 1999, Vol.353, No.9166, p.1789-1792
【非特許文献3】http://www.asagumi.jp/asagohan/txt/1-6
【非特許文献4】神経管閉鎖障害の発症リスクの低減に関する報告書(平成12年12月)先天異常の発生リスクの低減に関する検討会
【非特許文献5】Asia Pac Journal of Clinical Nutrition2006, Vol.15, p.538-543
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、妊娠期の栄養を改善することにより、出生児の出生体重の低下を改善し、出生児の出生体重が平均体重より低下すること(以下、本願明細書中では、出生児の出生体重の低下とも呼ぶ。)を防ぐ医薬組成物又は食品組成物を開発することを第1の課題とする。
【0009】
また、本発明では、近年の低体重児の増加の背景にあると考えられている、スナック食などを中心とし、ビタミン類が欠乏するなどで、栄養バランスを欠き、これにより、出生児の出生体重の低下リスクが増大している妊婦向けの出生児の出生体重の低下を防ぐ医薬又は食品組成物の開発を第2の課題とする。
【0010】
なお、以前から妊娠期の栄養素として、妊婦に処方されている葉酸は水溶性ビタミンであり、光、酸やアルカリ、熱などに弱いことが知られており、葉酸などを含む飲料(例えば、牛乳など)では、長期保存中に葉酸の濃度低下が観測されるなどの問題が指摘されていた(日本畜産学会報 2009, Vol.80, p.41-45)。そこで、葉酸以外の妊娠期の栄養素であり、安全で確実で保存性のよい医薬品又は妊婦用の特別用途食品若しくは栄養補助食品の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ミルクリン脂質(乳リン脂質、乳由来のリン脂質)は安全な食品成分であり、熱安定性や保存性にも優れている。そこでミルクリン脂質の摂取により、出生児の出生体重の低下が防止できれば、妊婦及び出生児の健康に極めて大きく貢献できる。
【0012】
そこで、本願発明者等は、妊娠期においてビタミンB類の欠乏ラットに、ミルクリン脂質を投与することにより、妊娠ラットに及ぼすビタミンB類の影響を評価するとともに、胎児期のラットに及ぼすビタミンB類の影響を出生直後のラット(乳仔)の体重、体長、臓器重量で評価した。この結果、ビタミンB類の欠乏した妊娠ラット(妊婦)では、出生時のラットで体重が低下するが、ビタミンB類の欠乏した妊娠ラット(妊婦)に対して、ミルクリン脂質を投与することにより、出生時のラットで体重の低下を防止できることを見出し、本願発明を完成させた。
【0013】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2009-143615号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0014】
本願発明は、ミルクリン脂質という食品として摂取される安全な成分を用いて、出生児の出生体重の低下を防ぐことができるという極めて優れた効果を奏する。更には、一般的に脂溶性ビタミンが水溶性ビタミンよりも分解されにくいことから、脂溶性のミルクリン脂質では、長期保存性(分解しない)に優れていると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】妊娠20日目に開腹して、胎児を取り出し、胎児の数、胎児の体重を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本願発明は、ミルクリン脂質を有効成分として含有する、出生児の出生体重の低下を防ぐことができる、出生体重低下防止剤を包含する。更に、本願発明は、ミルクリン脂質を有効成分として含有する、出生児の出生体重の低下リスクを低下させることができる、出生体重低下リスク低下剤を包含する。そして、更に、本願発明は、ミルクリン脂質を有効成分として含有する、妊婦のビタミンB類の欠乏による出生児の出生体重の低下を防ぐことができる、出生体重低下防止剤を包含する。また、本願発明は、ミルクリン脂質を有効成分として含有する、妊婦のビタミンB類の欠乏による出生児の出生体重の低下リスクを低下させることができる、出生体重低下リスク低下剤包含する。
【0017】
また、本願発明には、出生児の母親である妊婦に投与することで、出生児の出生体重の低下に関連する糖尿病、高血圧又は冠動脈疾患に対して、当該出生児が成長した後に、罹患するリスクを低減する、妊婦用医薬を包含する。
【0018】
1.出生児の出生体重の低下の防止
ビタミンB類が欠乏するビタミンB欠乏食を妊娠期間中に摂取すると、当該妊婦から生まれた子は、出生児に出生体重が低下する可能性が高くなる。ところが、本願発明者等は、このようなビタミンB欠乏食を摂取している時に、ミルクリン脂質を投与すると、出生児の出生体重の低下を有意に抑制又は防止できることを見出した。
【0019】
本願発明の出生児の出生体重の低下の防止のための組成物は、ミルクリン脂質を有効成分として含有し、(1)出生児の出生体重の低下を防ぐことができる出生体重低下防止剤、(2)出生児の出生体重の低下リスクを低下させることができる出生体重低下リスク低下剤、(3)妊婦のビタミンB類の欠乏による出生児の出生体重の低下を防ぐことができる、出生体重低下防止剤、及び(4)妊婦のビタミンB類の欠乏による出生児の出生体重の低下リスクを低下させることができる、出生体重低下リスク低下剤を包含する。
【0020】
1−1.出生児の出生体重の低下の防止のための組成物
本願発明では、出生児の出生体重の低下の防止のための組成物の有効成分として、ミルクリン脂質を挙げることができる。ミルクリン脂質として、牛乳から脂質成分をエタノールなどで抽出し、更に、そこからアセトンで抽出して得るものを挙げることができる。
【0021】
例えば、牛乳由来のリン脂質は、特開2002-226394号にも示される周知の方法で調製できる。バター製造の際に副生するバターミルクや、チーズ製造の際に副生するホエー、あるいは脱脂乳から、公知の方法[“脂質の化学(生化学実験講座3)”,日本生化学会編,p23,東京化学同人,1974 ; “脂質IIリン脂質(新生化学実験講座4)”,日本生化学会編,p7,東京化学同人,1991]に準じて溶媒抽出するか、あるいは該抽出物を各種のクロマトで分画することで調製できる。例えば、クリーム又はバターから、あるいはバターオイルを製造する際の副産物であるバターゼラム(Butter Serum)から、アセトン(溶媒)の不溶画分として得ることもできる。バターゼラムは市乳分野でも利用されており、入手可能である(例えば、ニュージーランド、Tatua社製)。バターゼラムには、リン脂質が局在するMFGMが多く含まれており、リン脂質を抽出する原料として好適である。
【0022】
バターゼラムからリン脂質を分離するには、リン脂質がアセトンに不溶性であるという性質を利用する。複数回のアセトン抽出により、中性脂質を含むアセトン可溶性画分を除去し、リン脂質が濃縮されたアセトン不溶性画分を得る。このアセトン不溶性画分を減圧濃縮してアセトンを除去し、この濃縮物を殺菌後に凍結乾燥してから、この乾燥物を粉砕して、牛乳由来のリン脂質画分を得る。このようにして得られたリン脂質画分の組成の一例を示すと、リン脂質を85%(重量%)で含み、このリン脂質画分には、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリンなどのコリンを含む成分が存在する。
【0023】
更に、ミルクリン脂質として「ミルクリン脂質濃縮物」(コリンとして約5重量%を含む。脂質 85重量%、灰分 10重量%、糖質 4重量%、水分 1重量%)や、ミルクリン脂質を含有する乳製品の「ほほえみ」(明治乳業社製)などを用いることもできる。
【0024】
2.妊婦用の医薬
本願発明の医薬は、(1)出生児の出生体重の低下の防止する妊婦用の医薬(出生体重低下防止剤)、若しくは(2)出生児の出生体重の低下リスクを低下する妊婦用の医薬(出生体重低下リスク低下剤)、又は(3)出生児の母親である妊婦に投与することで、出生児の出生体重の低下に関連する疾患に対して、当該出生児が成長した後に、罹患するリスクを低減する、妊婦用の医薬である。
【0025】
本願発明の医薬は、ミルクリン脂質を有効成分とする、(1)出生児の出生体重の低下を防止する妊婦用の医薬(出生体重低下防止剤)、(2)出生児の出生体重の低下リスクを低下する妊婦用の医薬(出生体重低下リスク低下剤)、(3)出生児の母親である妊婦に投与することで、出生児の出生体重の低下に関連する疾患に対して、当該出生児が成長した後に、罹患するリスクを低減する、妊婦用の医薬を挙げることができる。
【0026】
本願発明の医薬は、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤など、適宜の剤形とすることがでる。製剤化には、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤など、製剤化のために常用される補助剤を添加することができる。賦形剤としては例えば、デンプン、乳糖、白糖、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、リン酸水素カルシウム、合成ケイ酸アルミニウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン(PVP)、ハイドロキシプロピルスターチ(HPS)などがある。 また、結合剤としては例えば、デンプン、微結晶セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン(PVP)、アラビアゴム末、ゼラチン、ブドウ糖、白糖などの水溶液、又はそれらの水・エタノール溶液などがある。そして、崩壊剤としては例えば、デンプン、カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、微結晶セルロース、ハイドロキシプロピルスターチ、リン酸カルシウムなどがある。更に、滑沢剤としては例えば、カルナバロウ、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、天然ケイ酸アルミニウム、合成ケイ酸マグネシウム、硬化油、硬化植物油誘導体(ステロテックスHM)、ゴマ油、サラシミツロウ、酸化チタン、乾燥水酸化アルミニウム・ゲルステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、リン酸水素カルシウム、及びラウリル硫酸ナトリウムなどがある。
【0027】
2−1.本願発明の医薬の投与形態
本願発明の医薬、具体的には、(1)出生児の出生体重の低下の防止する、妊婦用の医薬、(2)出生児の出生体重の低下リスクを低下する、妊婦用の医薬、又は(3)出生児の母親である妊婦に投与することで、出生児の出生体重の低下に関連する疾患に対して、当該出生児が成長した後に、罹患するリスクを低減する、妊婦用の医薬では、経口投与又は経腸投与することができるが、好適には、経口投与することができる。
【0028】
また、本発明の医薬は、例えば、経口投与量では、コリンとして60mg/day〜3.5g/day、好ましくは100mg/day〜3.5g/day、より好ましくは200mg/day〜3.5g/day、さらに好ましくは350mg/day〜3.5g/day、「ミルクリン脂質濃縮物」(コリンとして約5重量%を含む。脂質 85重量%、灰分 10重量%、糖質 4重量%、水分 1重量%)では、1.4g/day〜75g/day、好ましくは2.4g/day〜75g/day、より好ましくは4.8g/day〜75g/day、さらに好ましくは7.5g/day〜75g/dayとすることが望ましい(American Journal of Clinical Nutrition 2005, 82, p.111-117、American Journal of Clinical Nutrition 2006, Vol.83, p.905-911、European Journal of Nutrition, 2007, Vol.46, p.300-306、Dietary Reference Intakes, p411など)。
【0029】
本願発明では、妊娠前より出生児の出生体重の低下を防止する妊婦用の医薬を摂取することが望ましく、妊娠期間中に少なくとも1回、好適には、妊娠期間中に継続して、例えば毎日、摂取することが望ましい。
【0030】
2−2.本願発明の医薬の投与対象
本願発明の医薬、具体的には、(1)出生児の出生体重の低下を防止する、妊婦用の医薬(出生体重低下防止剤)、(2)出生児の出生体重の低下リスクを低下する、妊婦用の医薬(出生体重低下リスク低下剤)、又は(3)出生児の母親である妊婦に投与することで、出生児の出生体重低下に関連する疾患に対して、当該出生児が成長した後に、罹患するリスクを低減する、妊婦用の医薬では、全ての妊婦に投与することができるが、特に摂取する栄養に偏りのある妊婦、具体的には、ビタミン欠乏症の妊婦、更に具体的には、菜食主義者の妊婦、ビタミンB類不足の妊婦などに投与することができる。ここで、ビタミンB類不足(欠乏症)とは、葉酸、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12の不足をいう。
【0031】
3.妊婦用の特別用途食品又は栄養補助食品
本願発明の特別用途食品又は栄養補助食品は、(1)出生児の出生体重の低下を防止する、妊婦用の特別用途食品又は栄養補助食品、(2)出生児の出生体重の低下リスクを低下する、妊婦用の特別用途食品又は栄養補助食品、又は(3)出生児の母親である妊婦が摂取することで、出生児の出生体重の低下に関連する疾患に対して、当該出生児が成長した後に、罹患するリスクを低減する、妊婦用の特別用途食品又は栄養補助食品である。
【0032】
本願発明の特別用途食品又は栄養補助食品は、有効成分として、ミルクリン脂質を含有し、固体状(粉末、顆粒状など)、ペースト状、液状ないし懸濁状のいずれでもよく、例えば、ドリンク剤とする場合には、甘味料、酸味料、ビタミン剤、その他ドリンク剤の製造に常用される添加物を加えることもできる。
【0033】
本願発明の特別用途食品又は栄養補助食品は、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤など、適宜の剤形のサプリメントとすることもできる。
【0034】
更に、本願発明は、リン脂質を有効成分として含有する、妊婦用の特別用途食品又は栄養補助食品を調製するための食品添加剤とすることもできる。
【0035】
本願発明の特別用途食品又は栄養補助食品は、例えば、摂取量では、コリンとして60mg/day〜3.5g/day、好ましくは100mg/day〜3.5g/day、より好ましくは200mg/day〜3.5g/day、さらに好ましくは350mg/day〜3.5g/day、「ミルクリン脂質濃縮物」(コリンとして約5重量%を含む。脂質 85重量%、灰分 10重量%、糖質 4重量%、水分 1重量%)では、1.4g/day〜75g/day、好ましくは2.4g/day〜75g/day、より好ましくは4.8g/day〜75g/day、さらに好ましくは7.5g/day〜75g/dayとすることが望ましい(American Journal of Clinical Nutrition 2005, 82, p.111-117、American Journal of Clinical Nutrition 2006, Vol.83, p.905-911、European Journal of Nutrition, 2007, Vol.46, p.300-306、Dietary Reference Intakes, p411など)。
【実施例】
【0036】
[実施例1] 妊娠期におけるミルクリン脂質の摂取の影響
「実験方法」
本実験では、ラットを4群、8匹ずつを4回の飼育に分けて実施した。ラットの体重は、実験開始時に155〜165g、実験終了時(妊娠期)に240〜290gであった。このとき、各群の体重に有意差はなかった。
(1)9週齢の雌Wistarラットに、低ビタミン食(低ビタミン食:AIN93GのビタミンミックスからビタミンB2、葉酸、ビタミンB12および重酒石酸コリンを除いた餌)、又はコントロール食(対照群:AIN93G)を、1週間、自由摂取で与えた。(表1)
(2)10週齢の雌Wistarラットを交配させた。
(3)交配(プラグ)が確認された日を妊娠0日とし、各群に試験食(AIN93G、低ビタミン食、低ビタミン食+ミルクリン脂質(2.6重量%、コリン含量は約40mg/gである。)、低ビタミン食+重酒石酸コリン(0.25重量%))を自由摂取で与え、妊娠20日齢まで試験食を自由摂取で与えた。なお、低ビタミン食+ミルクリン脂質、低ビタミン食+重酒石酸コリン、AIN93Gのコリン濃度は0.1重量%とした。
(4)妊娠20日目に静脈から約0.3mlを採血した後に開腹し、胎児を取り出し、胎児の体重を測定した。なお、通常の同腹の胎児数を12±3匹と定め、それ以外は除外して、各群を比較した。統計解析には、Statview(SAS社)の一元配置分散分析を用い、多重比較(Post-hoc:Scheffe)の検定を行った。
【0037】
【表1】

【0038】
「実験結果」
低ビタミン食の摂取により、胎児の体重が低下した(図1)。ただし、ミルクリン脂質を加えた低ビタミン食の摂取により、胎児の体重は増加傾向に改善された(図1、表2)。
【0039】
【表2】

【0040】
本実験により、ビタミン類の摂取は、胎児の発育には必要であることが示された。更に、ミルクリン脂質の摂取は、ビタミン不足で起こる胎児の発育不全を改善できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本願発明の妊婦用の医薬品、特別用途食品又は栄養補助食品は、出生児の出生体重の低下を防止できるという優れた効果を奏することから、医薬品又は食品の製造産業で利用することができる。
【0042】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳由来のリン脂質を有効成分として含有する妊婦用の医薬であって、該妊婦から生まれる出生児の出生体重の低下を防ぐ前記医薬。
【請求項2】
乳由来のリン脂質を有効成分として含有する妊婦用の医薬であって、該妊婦から生まれる出生児の出生体重の低下リスクを防ぐ前記医薬。
【請求項3】
ビタミンB及び葉酸の摂取が不十分な妊婦用の医薬である、請求項1又は2記載の医薬。
【請求項4】
乳由来のリン脂質がスフィンゴミエリン及び/又はホスファチジルコリンを含有する請求項1から3のいずれか1項記載の医薬。
【請求項5】
コリン量として少なくとも60mg/dayを含有する請求項1から4のいずれか1項記載の医薬。
【請求項6】
乳由来のリン脂質を有効成分として含有する妊婦用の特別用途食品又は栄養補助食品であって、該妊婦から生まれる出生児の出生体重の低下リスクを防ぐ前記妊婦用の特別用途食品又は栄養補助食品。
【請求項7】
ビタミンB及び葉酸の摂取が不十分な妊婦用の特別用途食品又は栄養補助食品である、請求項6記載の妊婦用の特別用途食品又は栄養補助食品。
【請求項8】
乳由来のリン脂質がスフィンゴミエリン及び/又はホスファチジルコリンを含有する請求項6又は7記載の妊婦用の特別用途食品又は栄養補助食品。
【請求項9】
コリン量として少なくとも60mg/dayを含有する請求項6から8のいずれか1項記載の妊婦用の特別用途食品又は栄養補助食品。
【請求項10】
乳由来のリン脂質を有効成分として含有する、出生児の出生体重の低下リスクを防ぐ妊婦用の特別用途食品又は栄養補助食品を調製するための食品添加物。

【図1】
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【公表番号】特表2012−530046(P2012−530046A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548707(P2011−548707)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【国際出願番号】PCT/JP2010/003959
【国際公開番号】WO2010/146831
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(000006138)株式会社明治 (265)
【Fターム(参考)】