説明

出産後の乳頭障害の発生予防及び改善治療剤

【課題】出産後の妊婦の乳頭障害の発生予防及び改善を計ることである。
【解決手段】妊婦の産褥期において出産後第1日目から第5日目まで、1回/日乳頭及び乳輪に99%以上の高純度のスクワランオイルを塗布して15分間程度マッサージすることにより、乳頭硬直、浮腫、発赤・水胞、亀裂などの乳頭異常を防ぐ、出産後の乳頭硬直、浮腫、発赤・水胞、亀裂などの乳頭障害の発生予防及び改善治療剤であり、この予防及び治療剤により、授乳時の苦痛及び心理的負担が軽減し、かつ母乳の出が改善され安心した授乳が可能となり、産後の直接母乳授乳率を向上させ、乳児の栄養状態及びそれに伴なう免疫性が改善されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出産直後の産褥期妊婦における乳房、主として乳頭、乳輪の障害を防ぎ、母体の苦痛や心理的負担の解消、ひいては産後の直接母乳授乳率を向上させる方法及び乳頭障害の発生予防及び改善治療剤の提供を目的とする。
【背景技術】
【0002】
従来、産婦の出産直後からの乳房に対するケアが充分でないため、産褥期において乳頭硬直、浮腫、発赤・水胞、亀裂などの乳頭異常を来たすことが多かった。これに対しては軟膏の塗布などの対症療法による治療などが行われてきているが、乳児に毎日高頻度で吸啜される乳頭の治療には限界があり、乳頭異常の改善が困難であったため、母体の苦痛や心理的負担の解消には至っていない。その結果、乳児に対して栄養価、栄養バンランス及び免疫性の付与の点において優れている母乳を与えることができず、人口乳へと移行せざるを得ず、母児の関係において重要な肌の触れ合いが乏しい人口乳へと移行せざるを得ない状況にあった。
【0003】
一方、母乳の出を良くするために従来、乳房をマッサージすることも行われているが、この従来から行なわれてきた単に乳房をマッサージする方法では、若干、母乳の出が良くなるものの、前記した産褥期における乳頭硬直、浮腫、発赤・水胞、亀裂などの乳頭異常については改善が困難であった。つまり、乳頭硬直は、乳首が大きいお母さんに多い症状であって、乳頭が硬くゴム状になり乳児に授乳しても母乳が充分出ないことが多く、これをマッサージするでだけでは乳栓などによる閉塞障害が改善できず、乳腺炎に進展するなどの問題もあった。また、亀裂の場合にも乳頭部が開裂し、授乳の都度激しい痛みを伴うためマッサージ或いは治療薬のケアでは完治しない問題があった。
加えて、発赤、水泡などの症状においても同様の問題があった。
その結果、乳児にとって不可欠な母乳の授乳ができないばかりか、頻繁な授乳によって一層症状が悪化するという悪循環に陥り、親子の触れ合いが伴わない無機的な人口乳へ移行せざるを得ない状況にあった。
【0004】
これらを改善する方法として、乳頭、乳輪部に、オリーブ油を浸した脱脂綿を当て、10分〜15分程度放置することによって乳頭異常の改善を図ろうとする試み(例えば非特許文献1参照)も行なわれてはいるが、安全性の点において懸念されるため、その後入浴などして石鹸で洗い流す必要があり、手順としては煩雑であるうえ、乳頭異常の改善としては不充分である。
【0005】
【非特許文献1】産婦人科治療:vol.85,no.4,p382-386(2002/10))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上、上記したように、授乳率向上にとって今なお優れた方法が確立していないのが実情であり、出産直後の産褥期妊婦における乳頭硬直、浮腫、発赤・水胞、亀裂などの乳頭異常の改善を計り、母体の苦痛や心理的負担の解消、ひいては産後の直接母乳授乳率を向上させる方法及び剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み、本発明者らは、妊婦の産褥期において乳頭異常を防ぎ、かつ、母乳の直接授乳率を向上させる方法に関して鋭意研究を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、妊婦の産褥期において産後第1日目から第5日目まで、1回/日乳頭及び乳輪にスクワランオイルを塗布してマッサージすることによって乳頭障害を防ぎ、産後の直接母乳授乳率を向上させる方法であり、及び出産後の乳頭硬直、浮腫、発赤・水胞、亀裂を含む乳頭障害の発生予防及び改善治療剤である。
【0009】
産褥期の乳頭障害については、乳頭硬直、浮腫、発赤・水胞、亀裂などが授乳を阻害する乳頭の諸症状として問題視されている。
乳頭硬直は、乳首が大きいお母さんに多く、乳頭が硬くゴム状になり乳児に授乳しても充分母乳が出ず、乳栓が原因する閉塞障害では切開が必要となるうえ、より一層症状が悪化した場合には乳腺炎に発展し重篤な障害へ繋がる恐れのある症状である。
【0010】
また、浮腫は、産褥期2〜3日目の早期に発生する乳房の緊満状態であって、出産後乳房への動脈血の流入増加の一方、静脈血の流出が停滞することによる血液循環のアンバランスによって、うっ血、浮腫が生じる状態の症状である。
【0011】
発赤は、乳栓のつまりなどにより乳房の表皮が赤らみズキズキする鈍痛或いは痛がゆい状態の症状である。
また、水胞は、始めての授乳のお母さんに多く、赤ちゃんに頻回授乳している間に乳首に水胞ができる症状で亀裂を伴うこともあり、非常にお母さんには苦痛を伴う。該水胞は乳カスと同様に乳口が塞がって母乳が出なくなる乳栓うつ乳となり、硬くしこりを感ずる症状を示す。この症状が悪化すると乳腺炎を併発し痛みを伴って発熱することもある。抗生物質の治療方法もあるが溜まった膿を取り出すため切開による手術を行なうこともある。
【0012】
また、亀裂は、乳口などに乳栓が詰ったりすることによって、また乳頭部皮膚の弱いお母さんなどが授乳時に赤ちゃんの吸啜によって皮膚に亀裂が生じ、疼痛を伴うため時には授乳を中止せざるを得なくなる極めて重大な症状である。
【0013】
本発明は上記に列挙した乳頭障害を改善する方法であり、これまで母親に苦痛を伴なっていた障害を除くための安心できる有効な治療方法であり、その解決方法であり、そのための乳頭障害の発生予防及び改善治療剤である。
【発明の効果】
【0014】
即ち、本発明は、出産後の産褥期に、乳頭、乳輪に1回/日スクワランオイルからなる乳頭障害の発生予防及び改善治療剤を塗布後マッサージすることによって乳頭硬直、浮腫、発赤・水胞、亀裂などの乳頭異常を防ぐことができるため、授乳時の苦痛及び心理的負担が軽減し、かつ母乳の出が改善され安心した授乳が可能となる。その結果、近年低下傾向にあった直接母乳授乳率が産後の特定期間、大幅に向上向上するため、乳児の栄養状態及びそれに伴なう免疫性が改善されるとともに、従来ややもすると無機的であった母児の肌の触れ合いが多くなり、心身とも健全な赤ちゃんを育成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明で用いるスクワランオイルはスクワレンを還元処理することによって得られるものである。即ち、スクワレンは深海ザメ類の肝油中、あるいはオリーブ油,綿実油などの植物中に存在し、また、人の皮膚成分としても存在するが、これを水素により還元処理することによってスクワランが得られる。通常、自然界に存在する動植物中のスクワレンは不純分を多く含有するためこれを抽出或いは蒸留等によって、予めスクワレン含有量を99%以上の高純度に精製し、これを還元処理することによってスクワランが得られる。スクワランは飽和脂肪であって、酸化や変質が極めて少なく、安定性に優れた液状油である。
【0016】
本発明に用いるスクワランオイルは、塗布後乳児が授乳の際に乳頭から口に入ることも想定されるが、その場合であっても安全性が確保されていなければならず、従って、可及的高純度品が望ましい。即ち、90%以上、好ましくは99%以上、更に好ましくは99.9%以上の純度のスクワランオイルが用いられる。
【0017】
上記のようにして得られるスクワランオイルは無味、無臭、無色の液状油であり、未確認物質は含まず、ベタつき感がなく、滑り性があって感触にも優れているため乳房に対する塗布性油分として理想的であり、他に類を見ない。また、スクワレンオイルおよびスクワランオイルは人の生体内でも少量生成され、皮脂成分でもあるため安全性に優れている。このため、われわれの肌にとっても馴染みが良く、皮膚に柔軟性を付与する性質から化粧用油剤としても広く用いられている。
以上の特性を有するスクワランオイルは、本発明の母乳授乳率向上にとって重要な乳輪、乳頭のマッサージ用油であり、マッサージ用乳頭異常防止、母乳授乳率向上剤であり、また乳頭障害の発生予防及び改善治療剤である。
【実施例1】
【0018】
因みに、褥婦(初産婦8人、経産婦5人、計13人)を被験者として、乳頭、乳輪に出産第1日目から1回/日、スクワランオイルと産院などで従来使用されているオリーブオイルを交互に塗布後マッサージを行って、それぞれの使用感を調べた。その結果、オリーブオイルを塗布した時の使用感については下記の評価を得た。
ぬるぬる、ベタつく………………………7人
キズなどには効果がない…………………3人
スクワランオイルとほぼ同様またはそれ以上……2人
わからない…………………………………1人
上記のようにオリーブオイルはベタつきなどの不快感を伴うため、塗布をいやがる被験者が多く、乳頭障害の改善にも有効でないとの評価であった。一方、スクワランオイルはベタつきがなく、さらっとした感触をしており、以下に示す乳頭障害に対する効果が実感できるため被験者から連用を望む評価であった。
この評価に用いたオリーブオイルは約70%のスクワレンを含有するものであったが、使用感及び乳頭障害改善の点から満足できるものではなかった。
【実施例2】
【0019】
本発明のスクワランオイルを用いて改善効果が認められる乳頭障害は、乳頭硬直、浮腫、発赤・水胞、亀裂などの授乳を阻害する乳頭で発症する諸症状であるが、前記した高純度スクワランオイルを乳頭及び乳輪に塗布しマッサージする方法を用いることによって乳頭異常が抑制され、直接の母乳授乳率が著しく向上する。
【0020】
こうした本発明の方法によって母乳の出が正常となり、近年低下傾向にあった母乳の授乳率が向上するため、健全な赤ちゃんを育成することができる。
以下、同一の産院での本発明の優れた効果を具体的に詳述する。
【0021】
産院で出産する妊婦に対して、産後第1日目から第5日目までスクワランオイル(ハーバー研究所が販売する99.95%の高純度スクワランオイルを使用)を1回/日乳頭及び乳輪に塗布して15分程度マッサージを行った群をS群(411例)とし、産後6日目及び1ヶ月後の授乳数から授乳率を求め、スクワランオイルによるマッサージによる授乳率の改善効果を観察した。対象としてスクワランオイルを塗布せずにマッサージを行った群をC群(414例)として、産後6日後及び1ヶ月後の授乳率と対比した。
【0022】
また、S群及びC群について産後6日後及び1ヶ月後の直接母乳を与えた直母乳率についても観察し、スクワランオイルの効果を調べた結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1に示したように、1回/日乳頭・乳輪にスクワランオイルを塗布しマッサージを行なって6日後の母乳授乳率(S群)は88.6%と、スクワランオイルを塗布しないマッサージ群(C群)の母乳授乳率49.8%に比し約2倍と有意に高い授乳率を示した(p<0.05)。また、この授乳率は1ヵ月後においても高率を示し、C群の24.4%に比較しS群は45.7%と有意に高い値を示し(p<0.05)、スクワランオイルの塗布による乳頭・乳輪マッサージは母乳授乳率において明らかに有効であった。
【0025】
同様に、直母乳授乳率においても良好な結果を示し、6日後ではC群はわずかに34.3%であったのに比べ、S群は71.5%と約2倍の有意に高授乳率を示した(p<0.05)。また、1ヵ月後においてもC群が22.2%と低率であったのに対し、S群は42.6%と2倍近い直母乳授乳率の向上を示した(p<0.05)。
【0026】
以上、直母乳授乳においてもスクワランオイルの効果が顕著であり本発明の方法が優れていることが明らかである。
なお、スクワランオイル塗布による母乳マッサージの副作用は全く認められず、母児共影響はまったくなかった。
【実施例3】
【0027】
さらに、本発明のスクワランオイルの塗布効果を乳頭異常の改善効果について以下に明らかにする。つまり、乳頭異常は、乳頭硬直、浮腫、発赤・水胞、亀裂などの授乳を阻害する乳頭で発症する症状であるが、本発明の方法によってこれらの諸症状が改善または予防可能であることを明らかにする。
【0028】
即ち、スクワランオイルを乳輪・乳頭に塗布後マッサージ(1回/日)を1週間行なった群をS群とし、スクワランオイルを塗布せずにマッサージした群をC群として、乳頭硬直・浮腫、発赤・水胞及び亀裂について改善効果を観察し、それぞれを対比した。
表2はその改善効果のデータを示す。
【0029】
【表2】

【0030】
この結果、表2に示したように、乳頭硬直・浮腫、発赤・水胞及び亀裂のいずれにおいてもスクワランオイルを塗布せずにマッサージのみのC群に比し、塗布後マッサージ(1回/日)を1週間行なったS群は有意に母乳授乳率が向上した(p<0.05)。特に、発赤・水胞については、C群では15.2%であったのがS群では76.2%と乳頭障害の改善効果が著しく(p<0.05)、硬直・浮腫及び亀裂についても有意に改善効果が認められ(p<0.05)、スクワランオイル塗布による乳頭、乳輪の1回/日マッサージ効果が有効であることが明らかであった。
【実施例4】
【0031】
次に、本発明の方法による褥婦の乳頭異常発症の予防効果を表3に示す。表3においても前記したように、スクワランオイルを塗布せずにマッサージ(1回/日)のみを6日間行なった群をC群とし、同期間スクワランオイルを塗布してマッサージを行なったS群と対比した。
【0032】
【表3】

【0033】
この結果、初日において異常所見が認められなかった褥婦はC群286例に対しS群は294例と高かった。この値は産褥後の日数経過ととも減少傾向にあのが一般的であり、事実、6日後の乳頭異常発症しない症例はC群36例となった。しかし、これに対しスクワランオイルを塗布してマッサージを行なったS群は54例と乳頭異常発症しない症例に有意な改善効果が認められ、乳頭異常の発症率も12.6%から18.4%と有意に増加し(p<0.05)、明らかに授乳率におけるスクワランオイルの塗布効果を裏付けた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は出産後の乳頭硬直、浮腫、発赤・水胞、亀裂などの乳頭障害の発生予防及び改善治療剤として有効であり、医薬として利用性が大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
90%以上の高純度に精製したスクワランオイルからなる、出産後の乳頭硬直、浮腫、発赤、水疱、亀裂を含む乳頭障害の発生予防及び改善治療剤。
【請求項2】
スクワランオイルが99%以上の純度のものである請求項1記載の剤。
【請求項3】
スクワランオイルが99.9%以上の純度のものである請求項1または2記載の剤。

【公開番号】特開2007−112814(P2007−112814A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−11122(P2007−11122)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【分割の表示】特願2003−73085(P2003−73085)の分割
【原出願日】平成15年3月18日(2003.3.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(397031599)株式会社ハーバー研究所 (4)
【出願人】(599142615)
【Fターム(参考)】