説明

分光エリプソメータおよび偏光解析方法

【課題】分光エリプソメータにおいて対象物に対する偏光解析を高精度に行う。
【解決手段】分光エリプソメータ1は、光源31からの白色光から所定の測定波長帯に含まれる複数の波長の楕円偏光光を生成して基板9の測定面91へと導く偏光光生成部32、測定面91からの反射光が入射する回転検光子41、および、回転検光子41からの光の分光強度を取得する分光器42を備える。分光エリプソメータ1では、制御部6の偏光状態取得部により、反射光の測定波長帯の各波長における偏光状態が高精度に取得され、光学条件演算部により、基板9における反射によるp偏光成分とs偏光成分との反射振幅比角の変化、および、偏光状態取得部にて取得されたp偏光成分とs偏光成分との位相差を示す測定値と、当該測定値に対応して求められた理論値との差に基づいて基板9の測定面91上の膜厚が高精度に求められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光エリプソメータおよび対象物に対して偏光解析を行う偏光解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体基板(以下、単に「基板」という。)上に存在する膜の厚さや光学定数等を測定する光学式の測定装置としてエリプソメータが利用されている。エリプソメータでは、偏光した光(以下、「偏光光」という。)を基板の測定面上に斜めから照射し、その反射光の偏光状態を取得して偏光解析することにより基板上の膜厚等が測定される。例えば、特許文献1では、反射光の波長毎の光の偏光状態に基づいて基板上の薄膜に対する膜厚測定等を行う分光エリプソメータが開示されている。
【特許文献1】特開2005−3666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年、基板上に形成されるパターンの高精細化に伴って基板上の膜の更なる薄型化が進んでおり、エリプソメータにおいて、非常に薄い膜に対する偏光解析の高精度化が求められている。
【0004】
特許文献1のような分光エリプソメータでは、複数の波長の光を含む可視光を直線偏光状態として基板へと照射し、その反射光を受光して偏光解析が行われるが、非常に薄い膜に対する偏光解析では、基板に直線偏光した光を入射させて行う測定に比べて、円偏光した光を入射させて行う測定の方が、膜厚の変化による出力信号の変化を大きくすることができる。したがって、直線偏光した光を用いる分光エリプソメータにより偏光解析を行うと、円偏光したレーザ光(すなわち、1つの波長の光)を基板に照射するレーザ式のエリプソメータに比べて測定精度が低くなる。なお、分光エリプソメータにおいて基板に入射する複数の波長の光を全て円偏光とすることが可能な偏光素子は現在のところ存在しない。
【0005】
また、分光エリプソメータでは、基板に照射する光を紫外光とすることにより、非常に薄い膜に対する測定精度を向上することができるが、この場合、分光エリプソメータの光学系に利用される光学素子が高価かつ特殊なものとなるため、分光エリプソメータの製造コストが増大するとともに分光エリプソメータの使用環境が制限されてしまう。また、利用する紫外光の波長を200nm以下とする場合、分光エリプソメータを真空雰囲気中にて使用する必要がある。さらには、紫外光の照射により基板に対して影響が生じる恐れもある。
【0006】
一方、レーザ式のエリプソメータでは、偏光解析に利用される光の波長が1つのみであるため、多層膜に対する測定には不向きであり、また、特定の厚さの膜に対する測定において測定精度が低くなってしまう。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、分光エリプソメータにおいて対象物に対する偏光解析を高精度に行うことを主な目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、分光エリプソメータであって、光源と、前記光源からの複数の波長の光のそれぞれから楕円偏光した光を得ることにより、または、前記複数の波長に含まれる特定の波長の光から円偏光した光を得て他の波長の光から楕円偏光した光を得ることにより、対象物へと導かれる多波長偏光光を生成する偏光光生成部と、前記対象物にて反射された前記多波長偏光光の反射光が入射するとともに光軸に平行な中心軸を中心として回転する回転検光子と、前記回転検光子からの光を受光して分光強度を取得する分光器と、前記分光器からの出力に基づいて前記反射光の前記複数の波長のそれぞれにおける偏光状態を取得する偏光状態取得部とを備える。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の分光エリプソメータであって、前記偏光光生成部が、前記光源からの前記複数の波長の光のそれぞれから直線偏光した光を得る偏光子と、前記直線偏光した光から楕円偏光した光または円偏光した光を得る波長板とを備える。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の分光エリプソメータであって、前記偏光状態取得部にて取得されたp偏光成分とs偏光成分との反射振幅比角または前記対象物における反射によるp偏光成分とs偏光成分との反射振幅比角の変化、および、前記偏光状態取得部にて取得されたp偏光成分とs偏光成分との位相差を示す測定値と、前記対象物の光学条件を変数として前記複数の波長における前記測定値に対応して求められた理論値との差に基づいて前記光学条件の値を求める演算部をさらに備える。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の分光エリプソメータであって、前記光学条件が、前記対象物上の膜の厚さおよび/または前記膜の屈折率である。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の分光エリプソメータであって、前記偏光光生成部により、前記複数の波長に含まれる特定の波長の光から円偏光した光が得られる。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の分光エリプソメータであって、前記光源が白色光源であり、前記複数の波長の光が、前記光源からの白色光のうち所定の波長帯の光である。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の分光エリプソメータであって、前記所定の波長帯が、300nm以上である。
【0015】
請求項8に記載の発明は、対象物の偏光解析方法であって、a)光源からの複数の波長の光のそれぞれから楕円偏光した光を得ることにより、または、前記複数の波長に含まれる特定の波長の光から円偏光した光を得て他の波長の光から楕円偏光した光を得ることにより、対象物へと導かれる多波長偏光光を生成する工程と、b)前記対象物にて反射された前記多波長偏光光の反射光を、光軸に平行な中心軸を中心として回転する回転検光子へと導く工程と、c)前記回転検光子からの光を受光して分光強度を取得する工程と、d)前記分光強度に基づいて前記反射光の前記複数の波長のそれぞれにおける偏光状態を取得する工程とを備える。
【0016】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の偏光解析方法であって、e)前記d)工程よりも後に、前記d)工程にて取得されたp偏光成分とs偏光成分との反射振幅比角または前記対象物における反射によるp偏光成分とs偏光成分との反射振幅比角の変化、および、前記d)工程にて取得されたp偏光成分とs偏光成分との位相差を示す測定値と、前記対象物の光学条件を変数として前記複数の波長における前記測定値に対応して求められた理論値との差に基づいて前記光学条件の値を求める工程をさらに備える。
【0017】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の偏光解析方法であって、前記光学条件が、前記対象物上の膜の厚さおよび/または前記膜の屈折率である。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、対象物に対する偏光解析を高精度に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る分光エリプソメータ1の構成を示す図である。分光エリプソメータ1は、測定対象物である半導体基板9(以下、単に「基板9」という。)上に形成された薄膜の膜厚を測定する装置である。分光エリプソメータ1では、基板9上の薄膜が存在する主面91(すなわち、測定対象となる図1中の(+Z)側の主面であり、以下、「測定面91」という。)に偏光した光を照射し、測定面91からの反射光に基づいて偏光解析が行われて膜厚が求められる。本実施の形態では、分光エリプソメータ1により、基板9の測定面91上に形成された酸化シリコン(SiO)膜の厚さが基板9の光学条件として求められる。なお、図1では、分光エリプソメータ1の構成の一部を断面にて示している。
【0020】
分光エリプソメータ1は、基板9を保持する保持部であるステージ2、ステージ2を基板9の測定面91に平行に移動するステージ移動機構21、ステージ2を基板9の測定面91に垂直な上下方向(すなわち、図1中のZ方向)に移動するステージ昇降機構24、偏光した光(以下、「偏光光」という。)を基板9の測定面91へと傾斜しつつ(すなわち、斜めに)導く照明部3、基板9の測定面91において反射された照明部3からの偏光光の反射光を受光する受光部4、測定面91に沿う方向(すなわち、図1中におけるX方向およびY方向)における基板9の位置調整に利用される基板観察部5、並びに、各種演算処理を行うCPUや各種情報を記憶するメモリ等により構成されるとともに分光エリプソメータ1の他の構成を制御する制御部6を備える。
【0021】
図2は、制御部6の構成を示す図である。図2に示すように、制御部6は、通常のコンピュータと同様に、各種演算処理を行うCPU61、実行されるプログラムを記憶したり演算処理の作業領域となるRAM62、基本プログラムを記憶するROM63、各種情報を記憶する固定ディスク64、作業者に各種情報を表示するディスプレイ65、および、キーボードやマウス等の入力部66等を接続した構成となっている。
【0022】
図3は、制御部6のCPU61(図2参照)等がプログラムに従って演算処理を行うことにより実現される機能を示すブロック図であり、図3中の偏光状態取得部611、光学条件演算部612および記憶部613が、CPU61等により実現される機能に相当する。なお、これらの機能は複数台のコンピュータにより実現されてもよい。
【0023】
図1に示すステージ移動機構21は、ステージ2を図1中のY方向に移動するY方向移動機構22、および、ステージ2をX方向に移動するX方向移動機構23を有する。Y方向移動機構22はモータ221にボールねじ(図示省略)が接続され、モータ221が回転することにより、X方向移動機構23がガイドレール222に沿って図1中のY方向に移動する。X方向移動機構23もY方向移動機構22と同様の構成となっており、モータ231が回転するとボールねじ(図示省略)によりステージ2がガイドレール232に沿ってX方向に移動する。
【0024】
照明部3は、紫外光を含まない白色光を出射する白色光源31(すなわち、複数の波長の光を含む多波長光を出射する光源であり、以下、単に「光源31」という。)を備え、光源31からの白色光のうち、所定の波長帯の光(本実施の形態では、400nm以上800nm以下の波長帯の可視光)が、後述する基板9の測定面91上の膜厚測定に利用される。以下の説明では、膜厚測定に利用される光の波長帯を「測定波長帯」という。
【0025】
照明部3は、また、光源31からの光を案内する各種光学素子(すなわち、楕円ミラー351、熱線カットフィルタ352、楕円ミラー353、スリット板354、平面ミラー355および楕円ミラー356)、並びに、偏光光を生成する偏光光生成部32を備える。偏光光生成部32により生成された偏光光は、基板9へと導かれて基板9の測定面91に傾斜しつつ(本実施の形態では、入射角70°にて斜めに)入射する。なお、ここでいう楕円ミラーとは、反射面が回転楕円体面の一部である非球面ミラーを意味する。
【0026】
偏光光生成部32は、光源31からの白色光に含まれる各波長の光から直線偏光した光(以下、「直線偏光光」という。)を得る偏光子321、および、偏光子321と基板9との間において照明部3の光軸J1上に配置される波長板322を備える。波長板322では、偏光子321を経由した特定の波長の光から円偏光した光(以下、「円偏光光」という。)が得られ、その他の波長の光から楕円偏光した光(以下、「楕円偏光光」という。)得られる。換言すれば、偏光光生成部32では、測定波長帯における複数の波長に含まれる特定の波長の光から円偏光光を得るとともに当該複数の波長に含まれる特定の波長以外の波長の光から楕円偏光光を得ることにより、多波長偏光光が生成される。波長板322は、位相差の波長依存性を抑えた広帯域波長板であり、可視光に対応する波長帯(すなわち、およそ360nm以上830nm以下の波長帯)におけるp偏光成分とs偏光成分との位相差が、80°以上100°以下とされる。
【0027】
受光部4は、基板9にて反射された多波長偏光光の反射光が入射するとともに受光部4の光軸J2に平行な中心軸を中心として回転する回転検光子41、回転検光子41からの光を受光して分光強度(すなわち、波長毎の光強度)を取得する分光器42、並びに、基板9からの反射光を分光器42へと導く各種光学素子(すなわち、スリット板451、楕円ミラー452、平面ミラー453およびアパーチャ板454)を備える。
【0028】
分光エリプソメータ1では、回転検光子41の回転位置、および、分光器42により取得された反射光の分光強度が、制御部6の偏光状態取得部611(図3参照)へと出力される。そして、偏光状態取得部611において、回転検光子41の回転位置および分光器42からの出力に基づいて、照明部3からの白色光のうち測定波長帯における複数の波長の光のそれぞれにおける偏光状態を示すp偏光成分とs偏光成分との位相差および反射振幅比角が取得される。
【0029】
基板観察部5は、白色光を出射する観察用光源51および基板9の位置調整用のカメラ52を備える。観察用光源51からの光は、ハーフミラー53および対物レンズ54を介して基板9の測定面91に垂直に入射し、基板9からの反射光は、対物レンズ54、ハーフミラー53およびレンズ55を介してカメラ52にて受光される。分光エリプソメータ1では、基板9の測定面91上に設けられた位置調整用の目印(いわゆる、アライメントマーク)がカメラ52により撮像される。そして、制御部6により、当該目印の画像に基づいてステージ移動機構21のX方向移動機構23およびY方向移動機構22が制御され、基板9のX方向およびY方向における位置調整が行われる。
【0030】
次に、照明部3および受光部4の詳細、および、分光エリプソメータ1において行われる膜厚算出の流れについて説明する。図4は、膜厚算出の流れを示す図である。図1に示す照明部3では、光源31からの白色光が、楕円ミラー351、熱線カットフィルタ352および楕円ミラー353により、スリット板354の開口に導かれる。スリット板354では、光源31からの光の光軸J1に垂直な方向における開口の形状が、X軸に平行な辺の長さが他の辺の長さよりも長い長方形とされ、当該開口を通過した光は、所定の角度にて漸次広がりつつ平面ミラー355へと導かれる。
【0031】
スリット板354からの光は、平面ミラー355にて反射されて楕円ミラー356へとさらに導かれ、楕円ミラー356にて反射された光は集光されつつ偏光光生成部32の偏光子321へと導かれる。そして、偏光子321により導き出された多波長の直線偏光光が波長板322を透過することにより、楕円偏光または円偏光された多波長偏光光が生成され、70°の入射角にて基板9の測定面91上の照射領域に照射される(ステップS11)。本実施の形態では、基板9上における多波長偏光光の照射領域は略正方形の領域となる。
【0032】
基板9の測定面91にて反射された多波長偏光光の反射光は、受光部4のスリット板451により取り込まれて回転検光子41へと導かれる(ステップS12)。スリット板451の開口は、X軸に平行な辺の長さが他の辺の長さよりも十分に長い長方形とされる。これにより、スリット板451により取り込まれる反射光の基板9上の反射角の範囲が制限されてほぼ平行光とされる。一方、X方向に関しては反射光はほとんど制限されないため、測定に必要な十分な量の光が回転検光子41へと導かれる。
【0033】
回転検光子41では、回転検光子41の回転位置に応じて直線偏光光が導き出され、楕円ミラー452にて反射されて平面ミラー453へと導かれ、平面ミラー453にて反射されて分光器42に固定されたアパーチャ板454の開口を介して分光器42へと入射する。アパーチャ板454の開口は、基板9の測定面91上の照射領域と光学的に共役な位置に配置される。分光器42では、回転検光子41からの光が受光されて高い波長分解能にて分光され、測定面91からの反射光に含まれる測定波長帯における複数の波長の光のそれぞれの光強度(すなわち、測定波長帯における分光強度)が取得される(ステップS13)。
【0034】
分光器42により取得された反射光の分光強度は、制御部6の偏光状態取得部611(図3参照)へと出力され、偏光状態取得部611において、回転検光子41から出力された回転検光子41の回転位置と分光器42からの出力(すなわち、分光強度)とに基づいて、測定波長帯の複数の波長のそれぞれにおける偏光状態を示すp偏光成分とs偏光成分との位相差および反射振幅比角が取得される(ステップS14)。そして、反射光の波長毎の偏光状態が偏光状態取得部611から光学条件演算部612(図3参照)へと出力される。光学条件演算部612では、反射光の波長毎の偏光状態に基づいて偏光解析が行われ、基板9に係る光学条件の1つである測定面91に存在する膜の厚さが求められる(ステップS15)。
【0035】
次に、光学条件演算部612による膜厚算出の詳細について説明する。分光エリプソメータ1の偏光状態取得部611では、分光器42にて受光された測定波長帯の各波長の光について、反射振幅比角ψout_measの正接であるtan(ψout_meas)、および、位相差Δout_measの余弦であるcos(Δout_meas)が、反射振幅比角および位相差を示す測定値として取得されて光学条件演算部612へと送られる。
【0036】
一方、制御部6の記憶部613(図3参照)には、測定波長帯の複数の波長のそれぞれにおける入射光(すなわち、偏光光生成部32から基板9へと入射する楕円偏光光または円偏光光)の反射振幅比角ψin、および、位相差Δinが予め記憶されている。分光エリプソメータ1では、基板9における反射による偏光状態の変化(すなわち、p偏光成分とs偏光成分との反射振幅比角および位相差の変化ψwa_meas,Δwa_meas)と、上記ψout_meas,Δout_meas,ψin,Δinとの関係が、数1および数2のように表される。
【0037】
(数1)
tan(ψout_meas)=tan(ψin)×tan(ψwa_meas
【0038】
(数2)
cos(Δout_meas)=cos(Δin+Δwa_meas
【0039】
ところで、入射光が直線偏光光である通常の回転検光子法の分光エリプソメータでは、入射光の全波長において、ψinおよびΔinの値がそれぞれ45°および0°となるため、tan(ψwa_meas)およびcos(Δwa_meas)はそれぞれ、tan(ψout_meas)およびcos(Δout_meas)と等しい値として求められる。通常の分光エリプソメータでは、基板上の膜厚を仮定して、基板における反射による偏光状態の変化(すなわち、p偏光成分とs偏光成分との反射振幅比角および位相差の変化)の理論値ψwa_calc,Δwa_calcが演算により求められ、各波長λにおける測定値(に基づいて求められた値)ψwa_meas(λ)、および、Δwa_meas(λ)の余弦であるcos(Δwa_meas(λ))と、測定値に対応する理論値ψwa_calc(λ),cos(Δwa_calc(λ))との残差の平方和(すなわち、測定値と理論値との差分に基づく値であり、以下、単に「差分値」という。)が、例えば、数3のE1のように求められる。
【0040】
【数3】

【0041】
そして、膜厚を変数として、基板における反射による偏光状態の変化の理論値ψwa_calc(λ),Δwa_calc(λ)を変更しつつ差分値E1を求め、線型回帰解析法により、差分値E1が最小となる膜厚が基板上の膜の厚さとして取得される。
【0042】
一方、本実施の形態に係る分光エリプソメータ1では、基板9に入射する測定波長帯の複数の波長の光が楕円偏光光(ただし、特定の波長の光のみは円偏光光)であるため、入射光の複数の波長のそれぞれにおける反射振幅比角ψin、および、位相差Δinは様々な値をとる。分光エリプソメータ1の光学条件演算部612(図3参照)では、上述のように、各波長におけるψin,Δinが予め求められて記憶部613に記憶されており、各波長におけるψinと、偏光状態取得部611により取得された各波長におけるtan(ψout_meas)とに基づいて、上述の数1から、基板における反射によるp偏光成分とs偏光成分との反射振幅比角の変化ψwa_measが求められる。しかしながら、偏光状態取得部611により取得された各波長におけるcos(Δout_meas)の値からはΔout_measの正負が確定できないため、上述の数2を用いても、基板における反射によるp偏光成分とs偏光成分との位相差Δwa_meas、および、その余弦であるcos(Δwa_meas)を求めることはできない。
【0043】
そこで、光学条件演算部612では、基板9の測定面91上の膜厚を仮定し、測定波長帯の複数の波長において、基板9における反射による偏光状態の変化(すなわち、p偏光成分とs偏光成分との反射振幅比角および位相差の変化)の理論値ψwa_calc,Δwa_calcを演算により求め、Δwa_calcと記憶部613に予め記憶されているΔinとを用いて、数4により、測定波長帯の各波長におけるcos(Δout_calc)(すなわち、偏光状態取得部611にて取得された反射振幅比角を示す測定値cos(Δout_meas)に対応して求められた理論値)が求められる。
【0044】
(数4)
cos(Δout_calc)=cos(Δin+Δwa_calc
【0045】
そして、偏光状態取得部611にて取得された測定波長帯の各波長λにおける測定値(または、測定値に基づいて求められた値)であるψwa_meas(λ),cos(Δout_meas(λ))と、測定値に対応する理論値であるψwa_calc(λ),cos(Δout_calc(λ))との差分に基づく差分値が、例えば、数5のE2のように求められる。
【0046】
【数5】

【0047】
光学条件演算部612では、基板9の光学条件の1つである膜厚を変数として、膜厚が変更されることにより、基板における反射による反射振幅比角の変化の理論値ψwa_calc(λ)が変更され、また、位相差の変化の理論値Δwa_calc(λ)が変更されてcos(Δout_calc(λ))が変更される(数4参照)。そして、膜厚を変更しつつ差分値E2が求められ、線型回帰解析法により、差分値E2が最小となる膜厚が基板9の測定面91上の膜の厚さ(すなわち、光学条件の値)として取得される。
【0048】
次に、入射光が直線偏光光である通常の回転検光子法の分光エリプソメータを比較例として、本実施の形態に係る分光エリプソメータ1と比較例の分光エリプソメータとの測定精度の比較について説明する。
【0049】
図5.Aないし図5.Eはそれぞれ、測定面に3nm,5nm,10nm,15nm,20nmの酸化シリコンの膜が形成された基板において、膜厚が0.1nm変化した場合の位相差Δの変化を示す信号の変化量(具体的には、位相差Δの変化量の二乗であり、以下、「位相差変化量」という。)と入射光の波長との関係を示す図であり、各図中の位相差変化量は演算により求められたものである。
【0050】
図5.Aないし図5.E中の実線81は、各波長において円偏光光(すなわち、位相差90°の偏光光)を入射光とした場合の位相差変化量を示し、細実線82は、各波長において直線偏光光(すなわち、位相差0°の偏光光)を入射光とした場合の位相差変化量(すなわち、比較例の分光エリプソメータにおける位相差変化量)を示す。本実施の形態に係る分光エリプソメータ1では、入射光が位相差80°以上100°以下の楕円偏光光とされるため、分光エリプソメータ1における位相差変化量は、図5.Aないし図5.E中の実線81と細実線82との間であって細実線82よりも実線81に近い値をとる。また、測定波長帯のうち入射光が円偏光光となる特定の波長においては、分光エリプソメータ1における位相差変化量は、実線81上の値をとる。
【0051】
図5.Aないし図5.Cに示すように、基板上の膜厚が10nm以下と非常に薄い場合、分光エリプソメータ1の測定波長帯(すなわち、400nm以上800nm以下の波長帯)における位相差変化量は、実線81(円偏光光)の方が細実線82(直線偏光光)よりも大きく、したがって、本実施の形態に係る分光エリプソメータ1(楕円偏光光)の位相差変化量は、比較例の分光エリプソメータ(直線偏光光)よりも大きくなる。このため、分光エリプソメータ1では、比較例の分光エリプソメータに比べて、基板9に対する偏光解析を高精度に行うことができ、基板9の測定面91上の膜厚測定を高精度に実現することができる。
【0052】
なお、図5.Dに示すように、基板上の膜厚が15nmの場合、測定波長帯における位相差変化量は、実線81(円偏光光)と細実線82(直線偏光光)とで大きな差はなく、波長450nm以上の波長帯において、実線81が細実線82よりも多少大きい。また、図5.Eに示すように、基板上の膜厚が20nmの場合、測定波長帯における位相差変化量は、細実線82(直線偏光光)の方が実線81(円偏光光)よりも大きい。
【0053】
ただし、膜厚が大きくなると、膜厚が0.1nm変化した場合の反射振幅比角ψの変化を示す信号の変化量が大きくなるため、膜厚が15nm以上の場合、入射光が直線偏光光、楕円偏光光および円偏光光のいずれの場合であっても、精度良い膜厚測定が可能となる。したがって、本実施の形態に係る分光エリプソメータ1は、比較例の分光エリプソメータでは高精度な偏光解析が比較的困難な膜厚が10nm以下の非常に薄い膜が形成された基板の膜厚測定に特に適しているといえる。
【0054】
本実施の形態に係る分光エリプソメータ1では、上述のように、偏光光生成部32において生成される多波長偏光光において、測定波長帯の複数の波長のそれぞれにおけるp偏光成分とs偏光成分との位相差が80°以上100°以下とされることにより、多波長偏光光に含まれる楕円偏光光の偏光特性を円偏光光に近づけることができる。これにより、基板9上の薄膜(特に、厚さが10nm以下の膜)に対する偏光解析において、測定波長帯における位相差変化量がより大きくなり、基板9に対する偏光解析の精度、および、測定面91上の膜厚測定の精度が向上される。
【0055】
また、分光エリプソメータ1では、偏光光生成部32により、測定波長帯の複数の波長に含まれる特定の波長の光から円偏光光(すなわち、p偏光成分とs偏光成分との位相差が90°の偏光光)が得られ、基板9に入射する多波長偏光光に円偏光光が含まれる。これにより、基板9上の薄膜(特に、厚さが10nm以下の膜)に対する偏光解析において、測定波長帯の上記特定の波長における位相差変化量がさらに大きくなり、基板9に対する偏光解析の精度、および、測定面91上の膜厚測定の精度がより向上される。
【0056】
分光エリプソメータ1の照明部3では、光源31として白色光源が利用され、光源31からの白色光のうち所定の波長帯(すなわち、測定波長帯)の光を利用して基板9の偏光解析が行われる。このように白色光を利用することにより、基板9に向けて照射される多波長の光を容易に得ることができ、また、特殊な波長帯の光を利用して偏光解析を行う分光エリプソメータに比べて、光源31および照明部3の構造を簡素化することができる。さらに、偏光解析に利用される測定波長帯が400nm以上800nm以下とされることにより、当該波長帯に対応する広帯域波長板である波長板322を容易に入手することができる。
【0057】
分光エリプソメータ1では、測定波長帯が400nm以上とされることにより、紫外光を利用することなく基板9上の薄膜の偏光解析を高精度に行うことができる。これにより、基板9に照射された紫外光の反射光を利用して偏光解析を行う分光エリプソメータに比べて、光学系に利用される光学素子を簡素なものとすることができ、装置の製造コストが低減される。
【0058】
また、短波長(例えば、200nm以下)の紫外光を利用する分光エリプソメータでは、使用環境が真空雰囲気中に制限される場合があるが、本実施の形態に係る分光エリプソメータ1は、通常の大気中における使用が可能であるため、短波長の紫外光を利用する分光エリプソメータに比べて装置構造を簡素化することができ、装置の製造コストがより低減される。さらに、基板9に対する紫外光の照射が行われないため、基板9上の膜の損傷や劣化等の基板9に対する紫外光の影響を防止することができる。なお、照明部3に紫外光を含む光を出射する光源が設けられる場合には、光源と基板9との間の光軸J1上に紫外光をカットするフィルタが設けられることが好ましい。
【0059】
一方、図5.Aに示すように、300nm以上の波長帯において実線81にて示す円偏光光の位相差変化量が、細実線82にて示す直線偏光光の位相差変化量よりも大きいことを考慮すると、測定波長帯は300nm以上とされてもよい。この場合、紫外光をほぼ利用することなく基板9に対する偏光解析を高精度に行うことができ、その結果、装置構造の簡素化が実現され、また、基板9に対する紫外光の影響を抑制することができる。
【0060】
分光エリプソメータ1の照明部3では、偏光光生成部32が、測定波長帯における複数の波長の光のそれぞれから直線偏光光を得る偏光子321、および、偏光子321からの直線偏光光から楕円偏光光または円偏光光を得る波長板322を備えることにより、多波長偏光光を生成する構造を容易に構成することができる。
【0061】
また、制御部6では、光学条件演算部612により、基板9における反射によるp偏光成分とs偏光成分との反射振幅比角の変化、および、偏光状態取得部611により取得されたp偏光成分とs偏光成分との位相差を用い、測定波長帯の複数の波長λにおける測定値ψwa_meas(λ),cos(Δout_meas(λ))と理論値ψwa_calc(λ),cos(Δout_calc(λ))との差に基づいて膜厚を求めることにより、楕円偏光光を利用した回転検光子法による偏光解析を容易に実現することができる。
【0062】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0063】
例えば、分光エリプソメータ1では、照明部3の偏光光生成部32にて生成される多波長偏光光のうち、測定波長帯の複数の波長の光に必ずしも円偏光光は含まれる必要はなく、偏光光生成部32により、光源31からの測定波長帯の複数の波長の光から楕円偏光光のみが得られてもよい。この場合も、上記実施の形態と同様に、基板9に対する偏光解析を高精度に行うことができる。
【0064】
光学条件演算部612では、演算により測定波長帯の各波長について求められたψwa_calc(λ)(数5参照)に基づいて、偏光状態取得部611にて取得されたp偏光成分とs偏光成分との反射振幅比角の測定値ψout_meas(λ)に対応する理論値ψout_calc(λ)が各波長λについて求められ、膜厚算出の際の差分値E3が、数6に示すように、上記測定値ψout_meas(λ)と理論値ψout_calc(λ)との差に基づいて求められてもよい。
【0065】
【数6】

【0066】
この場合も、上記実施の形態と同様に、光学条件演算部612において基板9上の膜厚を変数として、膜厚を変更しつつ差分値E3が求められ、線型回帰解析法により、差分値E3が最小となる膜厚が基板9の測定面91上の膜の厚さとして取得される。これにより、楕円偏光光を利用した回転検光子法による偏光解析を容易に実現することができ、基板9の測定面91上の膜厚測定を高精度に実現することができる。
【0067】
なお、光学条件演算部612における膜厚の算出は、線形回帰解析法以外の解析法により行われてもよい。また、膜厚の算出は、必ずしも数5や数6に基づいて行われる必要はなく、偏光状態取得部611にて取得されたp偏光成分とs偏光成分との反射振幅比角または基板9における反射によるp偏光成分とs偏光成分との反射振幅比角の変化、および、偏光状態取得部611にて取得されたp偏光成分とs偏光成分との位相差を示す測定値(すなわち、ψout_measまたはψwa_meas、および、Δout_meas)と、基板9の膜厚を変数として測定波長帯の複数の波長における上記測定値に対応して求められた理論値(すなわち、ψout_calcまたはψwa_calc、および、Δout_calc)との差に基づく他の手法により基板9の膜厚が求められてよい。
【0068】
分光エリプソメータ1では、分光器にて取得された分光強度に基づいて、基板9の膜厚に代えて、基板9上の膜の屈折率が基板9の光学条件として求められてもよく、また、基板9上の膜の厚さおよび屈折率の双方が求められてもよい。さらには、分光エリプソメータ1により、膜厚および屈折率以外の様々な光学条件(例えば、基板9の表面状態や光学定数)が求められてもよく、また、半導体基板以外の対象物の測定面の偏光解析が行われてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】分光エリプソメータの構成を示す図である。
【図2】制御部の構成を示す図である。
【図3】制御部の機能を示すブロック図である。
【図4】膜厚算出の流れを示す図である。
【図5.A】位相差変化量と入射光の波長との関係を示す図である。
【図5.B】位相差変化量と入射光の波長との関係を示す図である。
【図5.C】位相差変化量と入射光の波長との関係を示す図である。
【図5.D】位相差変化量と入射光の波長との関係を示す図である。
【図5.E】位相差変化量と入射光の波長との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1 分光エリプソメータ
9 基板
31 光源
32 偏光光生成部
41 回転検光子
42 分光器
91 測定面
321 偏光子
322 波長板
611 偏光状態取得部
612 光学条件演算部
J1,J2 光軸
S11〜S15 ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分光エリプソメータであって、
光源と、
前記光源からの複数の波長の光のそれぞれから楕円偏光した光を得ることにより、または、前記複数の波長に含まれる特定の波長の光から円偏光した光を得て他の波長の光から楕円偏光した光を得ることにより、対象物へと導かれる多波長偏光光を生成する偏光光生成部と、
前記対象物にて反射された前記多波長偏光光の反射光が入射するとともに光軸に平行な中心軸を中心として回転する回転検光子と、
前記回転検光子からの光を受光して分光強度を取得する分光器と、
前記分光器からの出力に基づいて前記反射光の前記複数の波長のそれぞれにおける偏光状態を取得する偏光状態取得部と、
を備えることを特徴とする分光エリプソメータ。
【請求項2】
請求項1に記載の分光エリプソメータであって、
前記偏光光生成部が、
前記光源からの前記複数の波長の光のそれぞれから直線偏光した光を得る偏光子と、
前記直線偏光した光から楕円偏光した光または円偏光した光を得る波長板と、
を備えることを特徴とする分光エリプソメータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の分光エリプソメータであって、
前記偏光状態取得部にて取得されたp偏光成分とs偏光成分との反射振幅比角または前記対象物における反射によるp偏光成分とs偏光成分との反射振幅比角の変化、および、前記偏光状態取得部にて取得されたp偏光成分とs偏光成分との位相差を示す測定値と、前記対象物の光学条件を変数として前記複数の波長における前記測定値に対応して求められた理論値との差に基づいて前記光学条件の値を求める演算部をさらに備えることを特徴とする分光エリプソメータ。
【請求項4】
請求項3に記載の分光エリプソメータであって、
前記光学条件が、前記対象物上の膜の厚さおよび/または前記膜の屈折率であることを特徴とする分光エリプソメータ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の分光エリプソメータであって、
前記偏光光生成部により、前記複数の波長に含まれる特定の波長の光から円偏光した光が得られることを特徴とする分光エリプソメータ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の分光エリプソメータであって、
前記光源が白色光源であり、前記複数の波長の光が、前記光源からの白色光のうち所定の波長帯の光であることを特徴とする分光エリプソメータ。
【請求項7】
請求項6に記載の分光エリプソメータであって、
前記所定の波長帯が、300nm以上であることを特徴とする分光エリプソメータ。
【請求項8】
対象物の偏光解析方法であって、
a)光源からの複数の波長の光のそれぞれから楕円偏光した光を得ることにより、または、前記複数の波長に含まれる特定の波長の光から円偏光した光を得て他の波長の光から楕円偏光した光を得ることにより、対象物へと導かれる多波長偏光光を生成する工程と、
b)前記対象物にて反射された前記多波長偏光光の反射光を、光軸に平行な中心軸を中心として回転する回転検光子へと導く工程と、
c)前記回転検光子からの光を受光して分光強度を取得する工程と、
d)前記分光強度に基づいて前記反射光の前記複数の波長のそれぞれにおける偏光状態を取得する工程と、
を備えることを特徴とする偏光解析方法。
【請求項9】
請求項8に記載の偏光解析方法であって、
e)前記d)工程よりも後に、前記d)工程にて取得されたp偏光成分とs偏光成分との反射振幅比角または前記対象物における反射によるp偏光成分とs偏光成分との反射振幅比角の変化、および、前記d)工程にて取得されたp偏光成分とs偏光成分との位相差を示す測定値と、前記対象物の光学条件を変数として前記複数の波長における前記測定値に対応して求められた理論値との差に基づいて前記光学条件の値を求める工程をさらに備えることを特徴とする偏光解析方法。
【請求項10】
請求項9に記載の偏光解析方法であって、
前記光学条件が、前記対象物上の膜の厚さおよび/または前記膜の屈折率であることを特徴とする偏光解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5.A】
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【図5.B】
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【図5.C】
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【図5.D】
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【図5.E】
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【公開番号】特開2009−103598(P2009−103598A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276106(P2007−276106)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】