説明

分光エリプソメータおよび膜厚測定装置

【課題】分光エリプソメータにおいて対象物上の照射領域の大きさおよび形状を高精度に検出する。
【解決手段】膜厚測定装置10の分光エリプソメータ1では、基板9の測定面91にて反射された反射光が、受光部4の検光子42により、所定の偏光方向の直線偏光成分である第1偏光光と、第1偏光光に垂直な偏光方向の直線偏光成分である第2偏光光とに分割される。そして、第1偏光光を利用して反射光の波長毎の偏光状態が測定され、第2偏光光を利用して基板9の測定面91上の照射領域の大きさおよび形状が検出される。分光エリプソメータ1では、照射領域の大きさおよび形状の検出が、測定面91からの反射光のうち、偏光状態の測定に利用されない偏光成分である第2偏光光を利用して行われることにより、反射光の偏光状態の測定精度を高く維持しつつ基板9の測定面91上の照射領域の大きさおよび形状を高精度に検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光エリプソメータおよび分光エリプソメータを備える膜厚測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、対象物上に存在する膜の厚さ等を測定する光学式の測定装置としてエリプソメータが利用されている。エリプソメータでは、偏光した光(以下、「偏光光」という。)を対象物の測定面上に斜めから照射し、その反射光の偏光状態を取得して偏光解析することにより基板上の膜厚等が測定される。例えば、特許文献1および特許文献2では、反射光の波長毎の偏光状態に基づいて対象物上の薄膜に対する膜厚測定等を行う分光エリプソメータが開示されている。
【特許文献1】米国特許第5608526号明細書
【特許文献2】特開2005−3666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、このような分光エリプソメータでは、高精度な測定を実現するために、対象物の測定面上における偏光光の照射領域を所望の大きさおよび形状とする必要がある。特に、高精細なパターンが形成された半導体基板等の偏光解析を行う場合には、微小な照射領域の大きさおよび形状が高精度に調整される必要がある。
【0004】
しかしながら、対象物の測定面が、対象物に照射される偏光光が最も収束する収束位置から上下方向にずれている(すなわち、測定面がデフォーカス状態となっている)場合には、照射領域が所望の大きさよりも大きくなってしまう。また、測定面上に透明膜等が形成されている基板の計測では、偏光光が膜表面、および、膜と基板本体との境界の双方にて反射(いわゆる、多重反射)して照射領域が広がってしまう場合がある。
【0005】
一方、対象物の測定面が平滑ではなく粗い場合には、偏光光が測定面上にて不均一に照射されて照射領域が不鮮明となって広がってしまう。また、測定面上にパターン等の凹凸が形成されている対象物の測定では、対象物の位置調整時の誤差等により、パターンのエッジが照射領域に含まれてしまう可能性があり、照射領域の幅がパターンのエッジを挟んで異なってしまうこととなる。このように、照射領域が所望のものと異なる大きさや形状となっている場合、照射領域の大きさまたは形状の異常を知らずに測定を行うと、誤った測定結果を得ることになってしまう。
【0006】
そこで、対象物の測定面上の照射領域の大きさおよび形状を検出する対策が考えられるが、特許文献1のような落射式の観察光学系にて照射領域を観察するためには、対象物上の偏光光が照射される位置に散乱板等を設置して散乱光を観察する必要があり、測定面上における実際の照射領域の大きさおよび形状を正確に検出することは困難である。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、分光エリプソメータにおいて、対象物上の照射領域の大きさおよび形状を高精度に検出することを主な目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、分光エリプソメータであって、偏光した光を対象物へと傾斜しつつ導く光照射部と、前記対象物において反射された前記光照射部からの光の反射光を所定の偏光方向の直線偏光成分である第1偏光光と、前記第1偏光光に垂直な偏光方向の直線偏光成分である第2偏光光とに分割する検光子と、前記光照射部と前記対象物との間、または、前記対象物と前記検光子との間に配置され、光軸に平行な中心軸を中心として回転する回転位相子と、前記第1偏光光を受光する分光器と、前記第2偏光光を受光して前記対象物上における前記光照射部からの前記光の照射領域を撮像する撮像部とを備える。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の分光エリプソメータであって、前記検光子と前記分光器との間の光軸上に配置され、前記対象物上の測定面に対して実質的に平行かつ前記光軸に垂直な方向に伸びるスリット状の開口を有するアパーチャ板をさらに備え、前記測定面と前記光軸との交差位置から前記開口の幅を見込む角度を2θとして、sinθが0.05以下である。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の分光エリプソメータであって、前記光照射部から紫外光を含む光が出射され、前記検光子と前記撮像部との間の光軸上に可視光を遮り、紫外光を透過する紫外光透過フィルタが設けられる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の分光エリプソメータであって、前記照射領域が略矩形状である。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の分光エリプソメータであって、対象物を保持する保持部と、前記対象物を前記対象物の測定面に垂直な上下方向に前記保持部と共に移動する昇降機構と、前記昇降機構および前記撮像部を制御して前記対象物の前記上下方向への移動と前記照射領域の撮像とを繰り返すことにより、前記照射領域の面積を最小とするフォーカス調整部とをさらに備える。
【0013】
請求項6に記載の発明は、対象物上に形成された膜の厚さを測定する膜厚測定装置であって、請求項1ないし5のいずれかに記載の分光エリプソメータと、前記分光エリプソメータの前記回転位相子の回転位置に関連づけられた前記分光器からの出力に基づいて前記対象物上の膜の厚さを求める膜厚演算部とを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、対象物上の照射領域の大きさおよび形状を高精度に検出することができる。また、請求項2の発明では、偏光状態の測定精度を向上することができ、請求項3の発明では、照射領域の大きさおよび形状の検出精度を向上することができる。さらに、請求項5の発明では、フォーカス調整を自動的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る膜厚測定装置10の構成を示す図である。膜厚測定装置10は、測定対象物である半導体基板9上に形成された薄膜の厚さを測定する装置であり、以下の説明では、半導体基板9を、単に「基板9」という。図1では、膜厚測定装置10の構成の一部を断面にて示している。
【0016】
図1に示すように、膜厚測定装置10は、基板9上の薄膜が存在する主面91(すなわち、測定対象となる図1中の(+Z)側の主面であり、以下、「測定面91」という。)に偏光した光を照射して測定面91の偏光解析に用いられる情報を取得する分光エリプソメータ1、および、分光エリプソメータ1により取得された情報に基づいて偏光解析を行って測定面91に存在する膜の厚さを求める膜厚演算部7を備える。
【0017】
分光エリプソメータ1は、測定面91を有する基板9を保持する保持部であるステージ2、ステージ2を基板9の測定面91に平行に移動するステージ移動機構21、ステージ2を基板9の測定面91に垂直な上下方向(すなわち、図1中のZ方向)に移動するステージ昇降機構24、偏光した光(以下、「偏光光」という。)を基板9の測定面91へと傾斜しつつ(すなわち、斜めに)導く光照射部である照明部3、基板9の測定面91において反射された照明部3からの偏光光の反射光を受光する受光部4、測定面91に沿う方向(すなわち、図1中におけるX方向およびY方向)における基板9の位置調整に利用される基板観察部5、並びに、各種演算処理を行うCPUや各種情報を記憶するメモリ等により構成されるとともに分光エリプソメータ1の他の構成を制御する制御部6を備える。
【0018】
ステージ移動機構21は、ステージ2を図1中のY方向に移動するY方向移動機構22、および、ステージ2をX方向に移動するX方向移動機構23を有する。Y方向移動機構22はモータ221にボールねじ(図示省略)が接続され、モータ221が回転することにより、X方向移動機構23がガイドレール222に沿って図1中のY方向に移動する。X方向移動機構23もY方向移動機構22と同様の構成となっており、モータ231が回転するとボールねじ(図示省略)によりステージ2がガイドレール232に沿ってX方向に移動する。
【0019】
照明部3は、紫外光を含む白色光を出射する高輝度キセノン(Xe)ランプである光源31、光源31からの光を案内する各種光学素子(すなわち、楕円ミラー351、熱線カットフィルタ352、楕円ミラー353、照明部アパーチャ板354、平面ミラー355および楕円ミラー356)、並びに、シート状(または、薄板状)の偏光素子32を備え、偏光素子32により光源31からの光から得られた偏光光が、照明部3から基板9の測定面91に傾斜しつつ(本実施の形態では、入射角70°にて斜めに)入射する。なお、ここでいう楕円ミラーとは、反射面が回転楕円体面の一部である非球面ミラーを意味する。
【0020】
受光部4は、基板9の測定面91において反射された照明部3からの偏光光の反射光が第1アパーチャ板451を介して入射する回転位相子41、回転位相子41を透過した光を受光して2つの光に分割する検光子42、検光子42からの一方の光を受光して分光強度(すなわち、波長毎の光強度)を取得する分光器43、分光器43に接続される偏光状態取得部44、検光子42からの他方の光を受光して基板9上における照明部3からの光の照射領域を撮像する撮像部46、並びに、基板9からの反射光を分光器43および撮像部46へと導く各種光学素子を備える。
【0021】
基板9と検光子42との間に配置された回転位相子41は、フッ化マグネシウム(MgF)により形成された波長板411(λ/4板)を備え、当該波長板411は、制御部6により制御されるステッピングモータ412により、基板9と検光子42とを結ぶ受光部4の光軸J2に平行な軸を中心として回転する。これにより、ステッピングモータ412の回転角に応じた偏光光が波長板411から導き出されて検光子42へと入射する。
【0022】
本実施の形態では、検光子42としてグラントムソンプリズムが利用され、検光子42に入射した光は、所定の偏光方向の直線偏光成分である第1偏光光と、第1偏光光に垂直な偏光方向の直線偏光成分である第2偏光光とに分割されて互いに略垂直な方向へと出射される。第1偏光光は、第2アパーチャ板452、楕円ミラー453、平面ミラー454および第3アパーチャ板455を介して分光器43に入射し、第2偏光光は、可視光を遮るとともに紫外光を透過する紫外光透過フィルタ456およびレンズ457を介して撮像部46に入射する。本実施の形態では、撮像部46は、CCD(charge coupled device)型の複数の受光素子を備える。
【0023】
基板観察部5は、白色光を出射する観察用光源51および基板9の位置調整用のカメラ52を備える。観察用光源51からの光は、ハーフミラー53および対物レンズ54を介して基板9の測定面91に垂直に入射し、基板9からの反射光は、対物レンズ54、ハーフミラー53およびレンズ55を介してカメラ52にて受光される。分光エリプソメータ1では、基板9の測定面91上に設けられた位置調整用の目印(いわゆる、アライメントマーク)がカメラ52により撮像される。そして、制御部6により、当該目印の画像に基づいてステージ移動機構21のX方向移動機構23およびY方向移動機構22が制御され、基板9のX方向およびY方向における位置調整が行われる。
【0024】
次に、照明部3および受光部4の詳細について説明する。照明部3では、光源31からの光が、楕円ミラー351、熱線カットフィルタ352および楕円ミラー353により、照明部アパーチャ板354の開口に導かれる。照明部アパーチャ板354では、照明部3の光軸J1に垂直な方向における開口の形状が、X軸に平行な辺の長さが他の辺の長さよりも長い150μm×50μmの長方形とされ、当該開口を通過した光は、光軸J1と為す角度θ(すなわち、広がり角の半角)がsinθ=0.02となるように漸次広がりつつ平面ミラー355へと導かれる。
【0025】
照明部アパーチャ板354からの光は、平面ミラー355にて反射されて楕円ミラー356へとさらに導かれ、楕円ミラー356にて反射された光は開口数(NA)0.1にて集光されつつ偏光素子32へと導かれる。そして、偏光素子32により導き出された偏光光が70°の入射角にて基板9の測定面91上の照射領域に照射される。膜厚測定装置10では、照明部3から基板9に照射される偏光光が最も収束する収束位置に測定面91が位置しており、照明部アパーチャ板354から基板9に至る光学系は、5対1の縮小光学系となっている。このため、基板9の測定面91近傍における光軸J1に垂直な偏光光の光束断面の形状は、X軸に平行な辺の長さが30μmであり、他の辺の長さが10μmである長方形となり、基板9上における偏光光の照射領域は、各辺がおよそ30μmの略矩形状の領域(すなわち、略正方形の領域)となる。
【0026】
基板9からの反射光は、基板9と検光子42との間に配置された第1アパーチャ板451により取り込まれ、回転位相子41へと導かれる。第1アパーチャ板451の開口は、X軸に平行に伸びるスリット状(すなわち、基板9の測定面91に対して実質的に平行、かつ、基板9と検光子42とを結ぶ受光部4の光軸J2に垂直な方向に伸びるスリット状)とされ、X軸に垂直な方向(ほぼ高さに相当する方向)に関して、基板9の測定面91と光軸J2との交差位置から第1アパーチャ板451の開口を見込む角を2θとしてsinθが0.1とされる。
【0027】
回転位相子41では、波長板411がステッピングモータ412により光軸J2に平行な軸を中心として回転し、これにより、ステッピングモータ412の回転角に応じた(すなわち、波長板411の回転位置に応じた)偏光光が波長板411から導き出されて検光子42へと導かれる。
【0028】
検光子42に入射した偏光光は第1偏光光と第2偏光光とに分割され、第1偏光光は、基板9から検光子42へと向かう光の進路の延長上を直進して、検光子42と分光器43との間の光軸J2上に配置された第2アパーチャ板452により取り込まれる。第2アパーチャ板452の開口は、X軸に平行に伸びるスリット状(すなわち、基板9の測定面91に対して実質的に平行、かつ、基板9と検光子42とを結ぶ受光部4の光軸J2に垂直な方向に伸びるスリット状)とされ、X軸に垂直な方向(ほぼ高さに相当する方向)に関して、基板9の測定面91と光軸J2との交差位置から第2アパーチャ板452の開口を見込む角を2θとしてsinθが0.05以下(本実施の形態では、0.05)とされる。これにより、第2アパーチャ板452により取り込まれる反射光の基板9上における反射角の範囲が制限されてほぼ平行光とされる。
【0029】
第2アパーチャ板452の開口を通過した第1偏光光は、楕円ミラー453にて反射されて平面ミラー454へと導かれ、平面ミラー454にて反射されて分光器43に固定された第3アパーチャ板455の開口を介して分光器43へと入射する。第3アパーチャ板455の開口は、各辺が100μmの正方形であり、基板9の測定面91上の照射領域と光学的に共役な位置に配置される。分光器43では、第1偏光光が高い波長分解能にて分光され、波長毎(例えば、紫外線から近赤外線までの波長毎)の光の強度が高感度に測定される。
【0030】
分光器43により取得された反射光の分光強度は偏光状態取得部44へと出力され、偏光状態取得部44において、回転位相子41から出力された波長板411の回転位置と分光器43からの出力(すなわち、分光強度)とが関連づけられて反射光の波長毎の偏光状態を示すp偏光成分とs偏光成分との位相差Δおよび反射振幅比角Ψが取得される。そして、反射光の波長毎の偏光状態が偏光状態取得部44から膜厚演算部7へと出力される。膜厚演算部7では、分光エリプソメータ1の受光部4により取得された反射光の波長毎の偏光状態に基づいて(すなわち、回転位相子41の波長板411の回転位置に関連づけられた分光器43からの出力に基づいて)偏光解析が行われ、基板9の測定面91に存在する膜の厚さが求められる。
【0031】
一方、検光子42から光軸J2に略垂直な方向に導き出された第2偏光光は、検光子42と撮像部46との間の光軸J3上に設けられた紫外光透過フィルタ456に入射し、紫外光透過フィルタ456を透過することにより可視光成分が遮られて紫外光成分のみが導き出される。第2偏光光の紫外光成分は、レンズ457を透過して撮像部46により受光され、これにより、基板9の測定面91上の照射領域が撮像されて照射領域の大きさおよび形状が検出される。そして、取得された照射領域の画像が制御部6へと出力され、ディスプレイ等に表示される。
【0032】
図2は、撮像部46により撮像された基板9の測定面91(図1参照)上の照射領域92を示す平面図であり、照射領域92は所望の大きさおよび形状(上述のように、1辺が30μmの略正方形であり、以下、単に「所望形状」という。)となっている。また、図3.Aないし図3.Dは、所望形状とは異なる大きさまたは形状となっている照射領域の例を示す平面図であり、各図中に所望形状の照射領域92を二点鎖線にて併せて示す。図2、並びに、図3.Aないし図3.Dでは、照射領域に平行斜線を付している。
【0033】
図3.Aでは、基板9の測定面91が、照明部3から基板9に照射される偏光光が最も収束する収束位置から上下方向にずれている(すなわち、測定面91がデフォーカス状態となっている)場合の照射領域92aを示しており、この場合、照射領域92aは、所望形状が拡大された形状(すなわち、所望形状よりも大きくかつ相似である形状)となる。
【0034】
また、図3.Bでは、測定面上に透明膜が形成されている基板において、照明部3からの偏光光が、膜表面、および、膜と基板本体との境界の双方にて反射(いわゆる、多重反射)された場合の照射領域92bを示しており、この場合、照射領域92bは、図3.B中の左右方向(すなわち、図1中のY方向であり、照明部3の基板上における光軸J1を含んで測定面に垂直な仮想的な面に沿う方向)に広がる。
【0035】
図3.Cでは、基板の測定面が平滑ではなく粗い場合(いわゆる、表面荒れが生じている場合)の照射領域92cを示しており、この場合、偏光光は測定面上にて不均一に照射されるため、照射領域92cは不鮮明となって広がってしまう。図3.Cでは、照射領域92cの不鮮明な輪郭を破線にて描いている。なお、図3.Cでは、照射領域92cの形状の一例を示すものであり、測定面上における凹凸の状態によりにより、照射領域92cは様々な形状となる。
【0036】
また、図3.Dでは、測定面上にパターン等の凹凸が形成されている基板において、照明部3からの偏光光が、パターンのエッジ93を含む領域に照射された場合の照射領域92dを示している。図3.D中における照射領域92dのエッジ93よりも左側の領域921は、測定面上の凸部における照射領域であり、エッジ93よりも右側の領域922は、測定面上の凹部における照射領域である。領域9221が位置する測定面上の凸部は、照明部3から測定面に照射される偏光光が最も収束する収束位置に位置しており、領域922が位置する測定面上の凹部は、当該収束位置から下方向にずれているため、領域922の図3.D中における上下方向の幅が領域921の幅よりも大きくなってしまう。
【0037】
このように、照射領域が所望形状と異なる大きさまたは形状となっている(すなわち、照射領域の大きさまたは形状に異常が生じている)場合、このままの状態で膜厚測定を行うと測定精度が低下してしまう。このため、図1に示す膜厚測定装置10では、ディスプレイ等に表示された照射領域の画像を作業者が目視にて確認し、照射領域の大きさまたは形状の異常が生じている場合には、必要に応じて、照射領域が所望形状となるように調整が行われる。例えば、図3.Aに示すように、基板9の測定面91のデフォーカスによる照射領域の大きさ異常が生じている場合には、図1に示すステージ昇降機構24が駆動されて基板9がステージ2と共に上下方向に移動され、基板9の測定面91が、照明部3から基板9に照射される偏光光の収束位置へと移動される。また、図3.Bないし図3.Dに示すような照射領域の形状異常が生じている場合には、基板9が図1中のX方向および/またはY方向に移動される。
【0038】
以上に説明したように、膜厚測定装置10の分光エリプソメータ1では、基板9の測定面91にて反射された反射光の所定の偏光方向の直線偏光成分である第1偏光光を利用して反射光の波長毎の偏光状態が測定され、第1偏光光に垂直な偏光方向の直線偏光成分である第2偏光光(すなわち、反射光から第1偏光光を抽出した残りの偏光光)を利用して基板9の測定面91上の照射領域の大きさおよび形状が検出される。
【0039】
このように、分光エリプソメータ1では、測定面91からの反射光の偏光状態の測定が行われる受光部4に撮像部46が設けられ、当該撮像部46により測定面91から受光部4へと入射する光を受光して測定面91上の照射領域の大きさおよび形状が検出されることにより、照射領域の大きさおよび形状を高精度に検出することができる。また、照射領域の大きさおよび形状の検出が、測定面91からの反射光のうち、偏光状態の測定に利用されない偏光成分である第2偏光光を利用して行われることにより、偏光状態の測定に利用される第1偏光光の光強度の低下が防止され、偏光状態の測定精度の低下が防止される。
【0040】
すなわち、分光エリプソメータ1では、反射光の偏光状態の測定精度を高く維持しつつ基板9の測定面91上の照射領域の大きさおよび形状を高精度に検出することができる。その結果、膜厚測定装置10において、照射領域の大きさまたは形状の異常が生じた状態での膜厚測定が防止され、所望形状の照射領域からの反射光に基づいて高精度な膜厚測定を実現することができる。
【0041】
分光エリプソメータ1の受光部4では、開口の見込み角を2θとした場合のsinθが0.05以下である第2アパーチャ板452の開口を通過して略平行光とされた光が分光器43に入射し、当該略平行光(すなわち、およそ所望の入射角にて測定面91に入射した光)のみを利用して偏光状態の測定が行われるため、反射光の偏光状態の測定精度を向上することができる。また、基板9から分光器43へと至る受光部4の光学系が等倍光学系であり、第3アパーチャ板455の開口(すなわち、各辺が100μmの正方形)が測定面91上の照射領域(すなわち、各辺が30μmの正方形)よりも大きくされることにより、基板9の測定面91上における照射領域の位置が設計位置から多少ずれた場合であっても、測定面91からの反射光を分光器43により確実に受光して偏光状態を取得することができる。
【0042】
受光部4では、開口の見込み角を2θとした場合のsinθが0.1である第1アパーチャ板451の開口を通過した反射光が、検光子42にて第1偏光光および第2偏光光に分割され、第2偏光光が第2アパーチャ板452を介することなく撮像部46に入射する。これにより、撮像部46において高い解像度にて照射領域が撮像されるため、照射領域の大きさおよび形状を高精度に検出することができる。また、大きさまたは形状の異常が生じていない状態の照射領域の形状(すなわち、照射領域の所望形状)が略矩形状とされることにより、図3.Aないし図3.Dに例示する照射領域の大きさおよび形状の異常が容易に検出される。
【0043】
さらに、検光子42と撮像部46との間に設けられた紫外光透過フィルタ456により、第2偏光光の紫外光成分のみが撮像部46による照射領域の撮像に利用されることにより、照明部3以外からの光(いわゆる外乱となる光であり、通常、紫外光はほとんど含まれていない。)による照射領域の撮像に対する影響を防止(あるいは、抑制)して照射領域の大きさおよび形状の検出精度を向上することができる。なお、外乱の影響を抑制するという観点からは、撮像部46にて撮像に利用される光には可視光成分が僅かに含まれていてもよく、この場合、紫外光透過フィルタ456として、可視光のほとんどを遮り、ほぼ紫外光のみを透過するフィルタが利用される。
【0044】
上述の膜厚測定装置10の分光エリプソメータ1では、作業者の目視による照射領域の大きさまたは形状の異常検出に代えて、制御部6により照射領域の大きさまたは形状の異常検出が行われてもよい。以下では、制御部6により、図3.Aに示す基板9の測定面91のデフォーカスによる照射領域の大きさ異常が検出され、照射領域を所望の大きさとする調整(以下、「フォーカス調整」という。)が行われる場合の分光エリプソメータ1の動作について説明する。図4は、分光エリプソメータ1におけるフォーカス調整の流れを示す図である。
【0045】
図1に示す分光エリプソメータ1では、まず、照明部3からの偏光光が基板9の測定面91上へと傾斜しつつ導かれ(ステップS11)、測定面91において反射された反射光が、回転位相子41を介して検光子42に入射し、第1偏光光と第2偏光光とに分割される(ステップS12)。続いて、分光器43および撮像部46により第1偏光光および第2偏光光がそれぞれ受光され、撮像部46により基板9の測定面91上における照射領域が撮像される(ステップS13)。
【0046】
次に、制御部6により、撮像部46からの出力に基づいて測定面91上の照射領域の大きさおよび形状(以下、「測定形状」という。)が検出され、予め制御部6に記憶されている照射領域の所望形状と比較される(ステップS14)。そして、照射領域の測定形状が所望形状よりも大きい場合、制御部6のフォーカス調整部61により、ステージ昇降機構24が制御されて基板9がステージ2と共に上下方向に移動された後、撮像部46が制御されて照射領域の撮像が行われる(ステップS15,16)。
【0047】
分光エリプソメータ1では、フォーカス調整部61によりステージ昇降機構24および撮像部46が制御されることにより、照射領域の測定形状と所望形状との比較、基板9の上下方向への移動、および、照射領域の撮像が繰り返されて照射領域が小さくなる方向へと基板9が移動され(ステップS14〜16)、照射領域の面積が最小となる位置(すなわち、照射領域の測定形状が所望形状と等しくなる位置)にて基板9の移動が停止されてフォーカス調整が終了する(ステップS14)。このように、分光エリプソメータ1では、フォーカス調整部61による制御により、基板9のフォーカス調整が自動的に行われる。
【0048】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0049】
受光部4では、検光子42としてグラントムソンプリズム以外の偏光プリズム(例えば、グランテーラープリズムやローションプリズム)が利用されてもよく、第1偏光光と第2偏光光とを所定の距離を隔てて平行に出射する偏光分離板等が利用されてもよい。また、受光部4の光軸J2に対して傾斜して配置されたシート状の偏光子が検光子42として利用されることにより、反射光が第1偏光光と第2偏光光とに分割されてもよい。
【0050】
照明部3では、紫外光を含む白色光を出射する光源31として重水素ランプが利用されてもよい。また、紫外光の照射による影響が懸念される基板に対しては、照明部3により紫外光を含まない光(例えば、可視光)が照射される。この場合、検光子42と撮像部46との間の光軸J3上に紫外光透過フィルタは設けられず、代わりに特定の波長帯の可視光透過フィルタが設けられてもよい。
【0051】
分光エリプソメータ1では、回転位相子41が照明部3と基板9との間(すなわち、照明部3の偏光素子32と基板9とを結ぶ光軸J1上)に設けられてもよい。この場合も、上記実施の形態と同様に、反射光の偏光状態の測定精度を高く維持しつつ基板9の測定面91上の照射領域の大きさおよび形状を高精度に検出することができる。また、分光エリプソメータ1では、例えば、図3.Bに示す多重反射による照射領域の形状異常や、図3.Cに示す表面荒れによる照射領域の形状異常が、制御部6により自動的に検出されて作業者に警告が通知されてもよい。
【0052】
分光エリプソメータは、膜厚測定装置以外の他の装置に利用されてもよく、分光器にて取得された分光強度に基づいて基板9の測定面91の膜厚以外の表面状態や光学定数が求められてもよい。さらには、分光エリプソメータにより、半導体基板以外の対象物の測定面の偏光解析が行われてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】膜厚測定装置の構成を示す図である。
【図2】基板の測定面上の照射領域を示す平面図である。
【図3.A】所望形状とは異なる照射領域の例を示す平面図である。
【図3.B】所望形状とは異なる照射領域の例を示す平面図である。
【図3.C】所望形状とは異なる照射領域の例を示す平面図である。
【図3.D】所望形状とは異なる照射領域の例を示す平面図である。
【図4】フォーカス調整の流れを示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 分光エリプソメータ
2 ステージ
3 照明部
7 膜厚演算部
9 基板
10 膜厚測定装置
41 回転位相子
42 検光子
43 分光器
46 撮像部
61 フォーカス調整部
91 測定面
92 照射領域
452 第2アパーチャ板
456 紫外光透過フィルタ
J1,J2,J3 光軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分光エリプソメータであって、
偏光した光を対象物へと傾斜しつつ導く光照射部と、
前記対象物において反射された前記光照射部からの光の反射光を所定の偏光方向の直線偏光成分である第1偏光光と、前記第1偏光光に垂直な偏光方向の直線偏光成分である第2偏光光とに分割する検光子と、
前記光照射部と前記対象物との間、または、前記対象物と前記検光子との間に配置され、光軸に平行な中心軸を中心として回転する回転位相子と、
前記第1偏光光を受光する分光器と、
前記第2偏光光を受光して前記対象物上における前記光照射部からの前記光の照射領域を撮像する撮像部と、
を備えることを特徴とする分光エリプソメータ。
【請求項2】
請求項1に記載の分光エリプソメータであって、
前記検光子と前記分光器との間の光軸上に配置され、前記対象物上の測定面に対して実質的に平行かつ前記光軸に垂直な方向に伸びるスリット状の開口を有するアパーチャ板をさらに備え、
前記測定面と前記光軸との交差位置から前記開口の幅を見込む角度を2θとして、sinθが0.05以下であることを特徴とする分光エリプソメータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の分光エリプソメータであって、
前記光照射部から紫外光を含む光が出射され、前記検光子と前記撮像部との間の光軸上に可視光を遮り、紫外光を透過する紫外光透過フィルタが設けられることを特徴とする分光エリプソメータ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の分光エリプソメータであって、
前記照射領域が略矩形状であることを特徴とする分光エリプソメータ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の分光エリプソメータであって、
対象物を保持する保持部と、
前記対象物を前記対象物の測定面に垂直な上下方向に前記保持部と共に移動する昇降機構と、
前記昇降機構および前記撮像部を制御して前記対象物の前記上下方向への移動と前記照射領域の撮像とを繰り返すことにより、前記照射領域の面積を最小とするフォーカス調整部と、
をさらに備えることを特徴とする分光エリプソメータ。
【請求項6】
対象物上に形成された膜の厚さを測定する膜厚測定装置であって、
請求項1ないし5のいずれかに記載の分光エリプソメータと、
前記分光エリプソメータの前記回転位相子の回転位置に関連づけられた前記分光器からの出力に基づいて前記対象物上の膜の厚さを求める膜厚演算部と、
を備えることを特徴とする膜厚測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3.A】
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【図3.B】
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【図3.C】
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【図3.D】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−68937(P2009−68937A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−236277(P2007−236277)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】