説明

分光ユニット及び走査型顕微鏡

【課題】コンパクトで波長分解能の高い分光ユニット、及び、この分光ユニットを有する走査型顕微鏡を提供する。
【解決手段】走査型顕微鏡に用いられる分光ユニット140は、光を略平行光束にするコリメータ光学系141と、この略平行光束を複数の光束に分割する光路分割部148と、光路分割部148により分割された複数の光束を分光する分光素子である回折格子143(1431〜1433)と、この分光素子で分光された分光光を受光する受光器であって、分光光の波長分散方向と該波長分散方向に直交する方向に複数の受光素子が2次元状に配置された受光器145と、分光素子からの分光光を受光器145の受光素子面に結像させる集光光学系144と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光ユニット及び走査型顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型顕微鏡で検出された信号光を分光して検出する分光ユニットは、一般的に光を回折格子などの分光素子で分光し、この分光光をラインディテクタなどの受光器で検出するように構成されている(例えば、特許文献1参照)。このような分光ユニットは、信号光を分光させてしまうために検出時の光量が非常に弱くなってしまう。また、波長分解能を向上させるために、一般的に入射光源からの光をスリットやピンホールなどで絞る構成を有しているので、検出される光の光量はさらに暗くなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−153763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような分光ユニットにおいてラインディテクタとしてライン状に並んだPMT(光電子増倍管)を用いた場合、波長分解能を向上させるためにはこのラインディテクタの長さを長くする必要があり、分光ユニットが大型化してしまうという課題があった。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、コンパクトで波長分解能の高い分光ユニット、及び、この分光ユニットを有する走査型顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明に係る分光ユニットは、光を略平行光束にするコリメータ光学系と、この略平行光束を複数の光束に分割する光路分割部と、光路分割部により分割された複数の光束を分光する分光素子と、この分光素子で分光された分光光を受光する受光器であって、分光光の波長分散方向とこの波長分散方向に直交する方向に複数の受光素子が2次元状に配置された受光器と、分光素子からの分光光を受光器の受光素子面に結像させる集光光学系と、を有することを特徴とする。
【0007】
このような分光ユニットにおいて、光路分割部は、ダイクロイックミラーを含み、このダイクロイックミラーは、少なくとも2つの異なる波長帯域の光束に分割することが好ましい。
【0008】
また、このような分光ユニットにおいて、光路分割部は、ハーフミラーを含み、このハーフミラーは、少なくとも2つの同一の波長帯域の光束に分割することが好ましい。
【0009】
また、このような分光ユニットにおいて、光路分割部により分割された複数の光束は、1つの同じ分光素子に入射することが好ましい。
【0010】
また、このような分光ユニットにおいて、分光素子は、入射する光束の入射角度を変化可能に構成されてなることが好ましい。
【0011】
また、このような分光ユニットにおいて、分光素子は、少なくとも2枚以上で構成され、光路分割部により分割された複数の光束のうち少なくとも2つは、異なる分光素子に入射することが好ましい。
【0012】
また、このような分光ユニットにおいて、2枚以上で構成された分光素子のうち少なくとも2枚は、異なる波長分解能を有することが好ましい。
【0013】
また、このような分光ユニットにおいて、2枚以上で構成された分光素子の各々は、入射する光束の入射角度をそれぞれ変化可能に構成されてなることが好ましい。
【0014】
また、このような分光ユニットにおいて、受光器の受光素子はPMTであることが好ましい。
【0015】
また、このような分光ユニットにおいて、受光器の受光素子はCCDであることが好ましい。
【0016】
また、このような分光ユニットにおいて、分光素子は回折格子であることが好ましい。
【0017】
また、このような分光ユニットにおいて、分光素子はプリズムであることが好ましい。
【0018】
また、本発明に係る走査型顕微鏡は、光源からの光を走査して対物レンズにより標本上に集光し、この標本から出射した光を対物レンズで集光する顕微鏡と、顕微鏡からの光を分光して検出する上述の分光ユニットのいずれかと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明を以上のように構成すると、コンパクトで波長分解能の高い分光ユニット、及び、この分光ユニットを有する走査型顕微鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】分光システムの構成の一例を示すブロック図である。
【図2】第1の実施形態に係る分光ユニットを説明するための説明図であって、(a)はこの分光ユニットの平面図を示し、(b)は受光器の斜視図を示す。
【図3】第1の実施形態において回折格子に入射する信号光束の状態を説明するための説明図であって、(a)は平面図を示し、(b)は側面図を示す。
【図4】第1の実施形態の変形例において回折格子に入射する信号光束の状態を説明するための説明図であって、(a)は平面図を示し、(b)は側面図を示す。
【図5】第2の実施形態において回折格子に入射する信号光束の状態を説明するための説明図であって、(a)は平面図を示し、(b)は側面図を示す。
【図6】GFP(緑色蛍光タンパク質)の発光スペクトルを示すグラフであって、(a)は400〜700nmの波長帯域を10nmピッチで取得した場合を示し、(b)は490〜550nmの波長帯域を2nmピッチで取得した場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。まず、図1を用いて分光機能付き走査型顕微鏡の一例である分光システムの構成を説明する。この分光システム1は、光源系10、共焦点ユニット20及び顕微鏡30を有する共焦点顕微鏡と、分光ユニット40と、情報処理装置50と、を有する。この分光システム1において、共焦点ユニット20と分光ユニット40とは、ファイバカプラ29a,29bを介して光ファイバ28により光学的に接続される。
【0022】
光源系10は、レーザ装置11と、光ファイバ13と、ファイバカプラ12,14と、を有する。レーザ装置11は、例えば、レーザーダイオードを備え、目的の波長特性を有する照明光を射出する。この照明光は、光ファイバ13を介して共焦点ユニット20に導かれる。なお、図1の例では、照明光として、標本33を励起して蛍光を発光させるための励起光を射出する。
【0023】
共焦点ユニット20は、光源系10からの照明光を略平行光束とするコリメートレンズ21と、ダイクロイックミラー22と、走査ユニット23と、スキャナレンズ24と、集光レンズ25と、ピンホール26aを有するピンホール板26と、リレーレンズ27と、を有する。また、顕微鏡30は、対物レンズ32及び第2対物レンズ31と、標本33が載置されるステージ34と、を有する。これらの共焦点ユニット20と顕微鏡30とを組み合わせて走査型共焦点顕微鏡が構成される。なお、ダイクロイックミラー22は、光源系10から射出されたレーザ光を顕微鏡30側に反射し、このレーザ光により励起した標本33から放射される蛍光を透過するように構成されている。また、集光レンズ25の像側焦点は、ピンホール板26のピンホール26aと略一致するように配置されている。
【0024】
分光ユニット40は、光ファイバ28から入射する信号光(図1の例では蛍光)を略平行光束とするコリメート光学系41と、異なる分光特性を有する3種の分光素子である回折格子431,432,433(まとめて回折格子43とする)と、それらを保持して回転する回転テーブル42と、複数の受光素子45aがアレー状に並べられてラインディテクタを構成する受光器45と、回折格子43(回折格子431〜433のいずれか)から射出された回折光(分光光)を受光器45の受光面に結像させる集光光学系44と、受光器45を駆動するための電源を供給する高圧電源46と、受光器45の各受光素子45aの出力を増幅するとともにディジタル化して検出データとして出力する検出回路47と、を有する。なお、受光素子45aに入射する信号光(分光光)のNAが、この受光素子45aの有効NA又は最適NAの範囲内になるように、前段の光学系(コリメート光学系41や集光光学系44)が形成されている。
【0025】
情報処理装置50は、検出回路47から出力される検出データを記憶するフレームメモリ51と、記憶されている検出データに基づいて目的の分光特性を演算する中央処理ユニット(CPU)52と、表示装置53と、外部記憶装置54と、入力装置55と、スキャナ駆動装置56と、を有する。ここで、CPU52は、図示していないが演算部と主記憶部とを有する。また、表示装置53には、例えば、液晶表示装置が用いられる。また、外部記憶装置54には、例えば、ハードディスク装置、光記録媒体記憶装置、半導体記憶装置等が用いられる。また、入力装置55には、例えば、キーボード、マウス等の機器を含む。
【0026】
外部記憶装置54には、CPU52の動作プログラム及び各種データが記憶される。具体的には、複数個の光学要素のそれぞれについての分光特性(分光データ)を、それぞれの光学要素対応に記憶する記憶手段としての機能を有する。このようなプログラム及び予め与えられたデータは、例えば、図示しない読み取り装置を用いてCD−ROM等の記憶媒体から読み出してインストールすることにより、外部記憶装置54に記憶される。
【0027】
CPU52は、外部記憶装置54に記憶されるプログラムをロードして、各種制御、演算処理等を行う。この外部記憶装置54に記憶されるプログラムには、スキャナ駆動装置56を介して走査ユニット23の作動を制御する手段と、測定対象から得られたデータに基づいて分光特性を求める演算を行う手段と、受け付けた光学要素を特定する情報に基づいて記憶手段により記憶される、使用する光学要素についての分光特性情報を読み出して、当該使用する光学系が有する分光特性情報を求め、この分光特性情報と、上述の分光ユニット40から出力される分光データとを用いて対象の分光特性を求める手段と、によりCPU52を動作させるプログラムが含まれる。また、記憶装置と共に、複数個の光学要素のそれぞれについての分光特性を、それぞれの要素対応に記憶する記憶手段として、CPU52を動作させるプログラムも含まれる。
【0028】
分光ユニット40について、さらに詳細に説明する。この分光ユニット40は、光ファイバ28を介して信号光を取り込み、回折格子431〜433のいずれかにより分光させて、受光器45の各受光素子45aにおいて分光光の受光を行う。
【0029】
図1に示すように、光ファイバ28は、ファイバカプラ29bで分光ユニット40に取り付けられている。光ファイバ28からの信号光は、全ての光束が、コリメート光学系41により略平行光にされ、回折格子431〜433のうち選択された回折格子43に入射される。この回折格子43に入射した信号光は、その波長によって決まる回折角方向に回折されて分光される。そして、分光された信号光は、集光光学系44で集光されて、受光器45の受光面に結像されてこの受光器45に入射される。受光器45からは、各受光素子45aに入射した信号光の光量に対応した電気信号が出力され、情報処理装置50により処理することにより、波長対強度の分光信号を得ることができる。
【0030】
なお、回折格子431〜433は、刻線本数(1mm当たりの回折格子溝の本数)が異なる。また、これらの回折格子431〜433は、回転テーブル42上に角度位置を変えて設置されている。そのため、回転テーブル42を回して回折格子431〜433に入射する角度を変えることで、受光器45で検出される波長帯域を変更することができる。また、回折格子431〜433のうち、ある回折格子から他の回折格子に切替えることで、波長分解能を変えることもできる。
【0031】
光ファイバ28は、石英のコアからなるステップインデックス型であり、コア径は50μm、NAは0.22である。この光ファイバ28からファイバカプラ29bを介して射出された光は、分光ユニット40内に導かれる。本実施形態では、コリメート光学系41を介して分散光学系に導かれる。このとき、本実施形態に係る分光システム1では、微弱な光信号(蛍光)を扱う。このため、高いSN比を得るには、光ファイバ28により導入された信号光束を高い効率で利用する必要がある。そこで、コリメート光学系41の役割は、光ファイバ28により導入された信号光束(発散光)をロスすることなく取り込んで、後ろに続く分光素子である回折格子43に導くことである。
【0032】
受光器45は、例えば、32チャンネルのマルチアノード型のラインPMT(光電子増倍管)で構成される。このPMTは、1チャンネルの素子の大きさが約0.8mm×7mmで、波長分散方向(信号光が分光される方向)に32チャンネル分がピッチP(=1mm)で並んだ構造を有している。
【0033】
集光光学系44としては、集光レンズを用いることもできるし、集光ミラーを用いることもできる。図1では集光光学系44として、集光レンズを用いた場合を示している。受光器45の受光面での光ファイバ28からの信号光の像(光ファイバのコアの像)の大きさは、受光器45の受光素子45aの波長分散方向の大きさやピッチPよりも小さければ、受光器45の素子数に対応する高い波長分解能を得ることができる。さらに、光学系の収差を考慮すると、信号光の像の大きさはこれよりも小さい方が望ましい。この集光光学系44は、回折格子からの出射光の、その受光器45上における像が、前述したピッチPより小さい径で結像されるように構成されている。
【0034】
次に、分光システム1の動作について説明する。この例では、レーザ光を観察対象の標本33に照射して、この標本33において励起された蛍光を顕微鏡30において取り込んで分光ユニット40に導き、分光データを取得する。測定ないし観察の手順はおおよそ次の通りである。
【0035】
光源である光源系10のレーザ装置11から射出されたレーザ光(励起光)はファイバカプラ12を介して光ファイバ13に導入される。さらにこの光ファイバ13を通ったレーザ光はファイバカプラ14から共焦点ユニット20のコリメートレンズ21に入射する。そして、このレーザ光はコリメートレンズ21で略平行光に変換された後、ダイクロイックミラー22で顕微鏡30側の光路に反射され、直交配置された2つのガルバノメータからなる走査ユニット23及びスキャナレンズ24に導入されて、二次元的に走査される。走査されたレーザ光は、第2対物レンズ31を通り、対物レンズ32で集光され、標本33上の1点に集光される。なお、走査ユニット23により二次元的に走査される標本33上の位置は、情報処理装置50のスキャナ駆動装置56を介して中央処理ユニット52により走査ユニット23におけるガルバノメータの動作を制御することにより制御される。そして、このレーザ光により励起された標本33から放射された蛍光(信号光)は、対物レンズ32で略平行光に変換され、レーザ光(励起光)と逆の経路を辿ってダイクロイックミラー22に入射する。ダイクロイックミラー22に入射した蛍光はこのダイクロイックミラー22を透過し、集光レンズ25によりピンホール板26のピンホール26a上に集光される。
【0036】
ピンホール26aを通過した光は、リレーレンズ27を経て、ファイバカプラ29aから光ファイバ28に導かれる。リレーレンズ27を介すると、図1に示すように、ピンホール26aを通過した光が、そのままであると発散光束となるところを、再び、集光され、光ファイバ28の開口端において、見かけ上、小さな開口径でも、有効に(ロスが少なく)入射できるようになる。
【0037】
ここで、ピンホール26aに形成される集光点は標本33上での光スポットの像となっているため、標本33上の他の点から発した光がたとえあったとしても、ピンホール26aでは像を結ばずピンホール板26により遮られ、ファイバカプラ29aにほとんど到達できない。そのため、このピンホール26aを通過できた光のみが、リレーレンズ27を介してファイバカプラ29aに到達できる。この結果、走査型共焦点顕微鏡では高い横分解能だけでなく、高い縦分解能を持って標本を観察できる顕微鏡となっている。
【0038】
ファイバカプラ29aに入射した蛍光は、光ファイバ28を通り、ファイバカプラ29bを介して分光ユニット40に導入される。分光ユニット40に導入された蛍光は、コリメート光学系41で略平行光束となり回折格子431〜433のいずれかに導入される。本実施形態に係る分光システム1において、これらの回折格子431〜433は、上述したように、波長分解能を可変とするために3種類用意され、回転テーブル42を図示しないパルスモータで制御して回転させることにより、いずれかの回折格子43が選択されて使用される。
【0039】
回折格子43で回折した蛍光は、集光光学系44で集光され、回折格子43の波長分解能に応じた拡がり角で受光器45に入射する。入射した蛍光は、受光素子45aの光電効果により電気信号に変換される。変換された電気信号は、増幅器47aにより増幅され、A/D変換器47bでディジタル信号に変換されてフレームメモリ51に送られ、CPU52で演算、処理されて画像として表示装置53に表示される。
【0040】
それでは、このような構成の分光システム1における波長分解能について説明する。なお、ここでは、光ファイバ28はコア径φが0.05mm、NAが0.2であり、コリメート光学系41は焦点距離が30mmであり、また、集光光学系44は焦点距離が300mmであり、受光器45は1mmピッチで並んだ32チャンネルのマルチアノード型のラインPMTであるとする。すなわち、分光ユニット40における倍率はコリメート光学系41及び集光光学系44の焦点距離の比から10倍となり、受光器45の集光位置には直径が0.5mmのファイバ像が形成されることになる。
【0041】
ここで、回折格子43による分光は、次の条件式(1)の関係を有する。
【0042】
sinα + sinβ =Nmλ (1)
但し、α:回折格子への入射角[°](回折格子の法線と蛍光とのなす角度)
β:回折格子からの射出角[°](回折格子の法線とm次回折光とのなす角度)
m:回折次数
N:1mm当たりの刻線本数(回折格子溝の本数)
λ:入射光の波長[nm]
【0043】
この条件式(1)より、例えば、回折格子43への蛍光の入射角が0°で、回折格子43の1mm当たりの刻線本数Nが700本であり、この回折格子43の1次光(m=1)を受光器45で受光する場合、分光したい波長の下限であるλ=400nmの光は16.2°で回折され、上限であるλ=750nmの光は31.7°で回折される。上述の条件の光学系において、400nmの光が回折された角度を光軸と考えると、750nmの光は45mmずれた位置に結像することになる(300mm×tan15.5=45mm)。PMTは1mmピッチで32個(チャンネル)の受光素子しかないので、400nmから750nmの全ての波長の光を受光することはできない。全ての波長の光を受光しようとすると、45mmの全長を有する受光器45が必要となり、分光システム1(分光ユニット40)が大型化してしまう。上述の回転テーブル42を回転させることで回折格子43の角度を変化させ、受光器45に入射する回折光の位置を変化させて400nmから750nmの光をいくつかの部分に分割することにより、分光データを取得する方法も可能であるが、時間的にずれた画像しか取得することができず、標本33における蛍光の状態が短時間で変化する場合には正確なデータを得ることができないことがある。
【0044】
また、分光システム1(分光ユニット40)の大型化を避けるために、回折格子の1mm当たりの刻線本数Nを少なくすると、受光器45の各受光素子45aに入射する波長が増えてしまうため、細かい波長の凹凸が検出できなくなり波長分解能が悪くなる。具体的には上述の光学系において、1mm当たりの刻線本数Nが700本のときの波長分解能は1チャンネル当たり4.3nmであり、受光器45の全長に全ての波長の光を入射させることはできないが、この本数Nを300本にすると、受光器45の全長に収めることができる。しかし、この場合には1チャンネル当たりの波長分解能は10nm程度になってしまう。また、光ファイバー28のファイバ像の受光器45に対する投影倍率を低くしても分光システム1(分光ユニット40)をコンパクトに構成することができるが、やはり波長分解能が悪化してしまう。なお、投影倍率を高くするとファイバ像が受光器45の1チャンネル当たりの受光素子45aの幅を超えるために、ファイバ像の大きさが波長分解能を悪化させることになる。
【0045】
そこで、分光システム1(分光ユニット40)の大型化を避けつつ波長分解能を高くするために、受光器45の受光素子45aを2次元状に配置して分光された光を受光する構成について説明する。
【0046】
[第1の実施形態]
まず、図2及び図3を用いて第1の実施形態に係る分光ユニット140の構成について説明する。なお、この第1の実施形態に係る分光ユニット140は、図1に示す分光システム1において、分光ユニット40をこの分光ユニット140に置き換えた構成で使用される。そのため、光源系10、共焦点ユニット20及び顕微鏡30を有する共焦点顕微鏡、並びに情報処理装置50の構成は、同一の符合を用いることにより詳細な説明は省略する。
【0047】
第1の実施形態に係る分光ユニット140は、光ファイバ28を通りファイバカプラ29bから射出される蛍光(信号光)を略平行光束に変換するコリメート光学系141と、この略平行光束を3つの光路に分割する光路分割部148と、回転テーブル142に取り付けられ、それぞれが異なる分光特性を有する3つの分光素子である回折格子1431,1432,1433(まとめて、回折格子143と呼ぶ)と、回折格子1431〜1433のいずれかで回折された光を集光する反射凹面ミラーからなる集光光学系144と、この集光光学系144で集光された回折光を検出する受光器145と、から構成される。
【0048】
この第1の実施形態に係る分光ユニット140において、受光器145は、図2(a)の紙面の左右方向(水平方向(波長分散方向))に並ぶ複数の受光素子からなる受光領域を、図2(a)の紙面に直交する方向、図2(b)の紙面の上下方向に3段重ねることにより、これらの受光素子を2次元状に配置している。なお、以降の説明において、上段の受光領域を第1の受光部145a、中段の受光領域を第2の受光部145b、及び、下段の受光領域を第3の受光部145cと呼ぶ。これらの第1〜第3の受光部145a〜145cの各々は、例えば、上述の32チャンネルのマルチアノード型のラインPMTで構成されている。
【0049】
また、第1の受光部145a、第2の受光部145b、第3の受光部145cは、図2(b)の紙面の上下方向に3段重ねる例に限られず、図2(b)の紙面の上下方向に、所定の間隔を設けて配置してもよい。
【0050】
また、受光器145は、図2(a)の紙面の左右方向(水平方向(波長分散方向))に並ぶ複数の受光素子からなる受光領域を、図2(a)の紙面に直交する方向、図2(b)の紙面の上下方向に3段重ねる例に限られず、単に図2(a)の紙面の左右方向と図2(a)の紙面に直交する方向に複数の受光素子をそれぞれは配置することにより、受光素子を2次元状に配置してもよい。
【0051】
また、光路分割部148は、コリメート光学系141から出射した略平行光束に含まれる光(波長400〜750nmの光とする)のうち、所定の波長帯域(例えば、640〜750nm)の光を反射し、その他の波長の光を透過する第1のダイクロイックミラー148aと、この第1のダイクロイックミラー148aを透過した略平行光束に含まれる光のうち、所定の波長帯域(例えば、400〜520nm)の光を反射し、その他の波長の光を透過する第2のダイクロイックミラー148bと、第1のダイクロイックミラー148aで反射された光の略平行光束を反射して回折格子1431〜1433のいずれか(回折格子143)に照射させる第1のミラー148cと、第2のダイクロイックミラー148bで反射された光の略平行光束を反射して回折格子143に照射させる第2のミラー148dと、を有して構成されている。
【0052】
なお、コリメート光学系141を出射し、第1及び第2のダイクロイックミラー148a,148bを透過した光が、回折格子143に垂直に(0°の角度で)入射するときに、第1のダイクロイックミラー148aは上述の波長帯域の光をコリメート光学系141側の下方に反射するように配置され、第1のミラー148cはこの光を第1のダイクロイックミラー148aを透過した光と略平行になるように反射し(図3(b))、かつ、この光が回折格子143に対して、回折格子の溝の方向(図3(a)の紙面に直交する方向)と直交する方向(溝のピッチ方向)の面内(図3(a)の紙面内)において+5°の角度で入射するように配置されている(図3(a))。また、第2のダイクロイックミラー148bは上述の波長帯域の光をコリメート光学系141側の上方に反射するように配置され、第2のミラー148dはこの光を第1及び第2のダイクロイックミラー148a,148bを透過した光と略平行になるように反射し(図3(b))、且つ、この光が回折格子143に対して、回折格子の溝の方向(図3(a)の紙面に直交する方向)と直交する方向(溝のピッチ方向)の面内(図3(a)の紙面内)において−5°の角度で入射するように配置されている(図3(a))。このとき、3つの光路は、図3(a)に示すように、回折格子143の回折格子の溝の方向(図3(a)の紙面に直交する方向)から見たときに、それぞれの光路の中心が回折面で略一致するように構成されている。そして、上述の条件式(1)により、回折格子143で回折された光(分光光)の中心が、この回折格子143の法線に対して、回折格子の溝の方向(図3(a)の紙面に直交する方向)と直交する方向(溝のピッチ方向)の面内(図3(a)の紙面内)において24°の方向となるようにすると、3つの光路に分割されたそれぞれの波長帯域の光が、図2(a)の紙面に直交する方向、図2(b)の紙面の上下方向に並んだ第1〜第3の受光部145a〜145cのそれぞれの受光領域内に収まり、並べられた3つのラインPMTで無駄なく受光することができる。
【0053】
なお、この第1の実施形態に係る分光ユニット140の構成では、図3(b)に示すように、光路分割部148で分割された3つの光路が、回折格子143の回折格子の溝の方向(図3(b)の紙面の上下方向)と直交する方向(図3(b)の紙面の左右方向)に略平行な光路となって回折格子143に入射するため、集光光学系144は、上記3つの光路のそれぞれに対応して上下方向に並んだ3つの反射凹面ミラーが必要である。しかし、図4(b)に示すように、光路分割部148で光束を分岐した際に、回折格子143に対してスリット方向角度を持たせて入射させる、すなわち、回折格子143の回折格子の溝の方向に沿って、法線に対して所定の角度を持たせ(図4(b)に示す角度γ)、回折格子の溝の方向(図4(a)の紙面に直交する方向)と回折格子の溝の方向に直交する方向(図4(b)の紙面に直交する方向)からそれぞれ見たときに、いずれも3つの光路の中心が回折面で略一致するように入射させると、集光光学系144を1枚の反射凹面ミラーで実現可能である。この場合、スリット方向角度をγ[°]とすると、回折格子143による分光は次の条件式(2)の関係になることに注意が必要である。
【0054】
(sinα+sinβ)sinγ=Nmλ (2)
【0055】
以上のように、この第1の実施形態に係る分光ユニット140は、受光器145の受光領域を2次元状に配置し、回折格子143に入射する前に光路分割部148で波長帯域の異なる3つの光路に分割し、それぞれの波長帯域毎に高さ方向の位置と平面方向の角度を変えて1枚の回折格子143に入射させ、それぞれの波長帯域の光を2次元状に配置された受光器145の受光領域で検出するように構成されているため、コンパクトで波長分解能の高い分光データを同時に取得することができる分光システム1を構成することができる。すなわち、この第1の実施形態に係る分光ユニット140を用いることにより、受光器145の波長分散方向の幅(受光素子がライン状に並ぶ方向の幅)は従来の分光ユニットと略同一でありながら、3倍の波長領域の分光データを従来と同じ波長分解能で同時に取得することができる。あるいは、従来と同じ波長領域でありながら、3倍の波長分解能の分光データを同時に取得することができる。
【0056】
[第2の実施形態]
次に、図5を用いて第2の実施形態に係る分光ユニット240の構成について説明する。この第2の実施形態に係る分光ユニット240は、図2及び図3に示した第1の実施形態に係る分光ユニット140の回転テーブル142及び回折格子143を、この第2の実施形態に係る分光ユニット240の回転テーブル242及び回折格子243に置き換えた構成で使用される。なお、図5は、第2の実施形態に係る分光ユニット240のうち、回転テーブル242及び回折格子243の部分だけを示している。具体的には、光路分割部148により分割された3つに光路のそれぞれに対して、図5(a)の紙面に直交する方向、図5(b)の紙面の上下方向に3段に並ぶ3枚の回折格子(図5(b)に示す回折格子243a,243b,243c)で構成している。すなわち、上段の第1の回折格子243aには、第2のダイクロイックミラー148bで反射された波長400〜520nmの光が入射し、中段の第2の回折格子243bには、第1及び第2のダイクロイックミラー148a,148bを透過した波長520〜640nmの光が入射し、下段の第3の回折格子243cには、第1のダイクロイックミラー148aで反射された波長640〜750nmの光が入射する。
【0057】
この第2の実施形態に係る分光ユニット240においては、図5(b)に示すように、3段で構成されている回折格子243a〜243cのそれぞれは、同軸上で回転可能な3枚の回転テーブル242a、242b、242cに対して独立に取り付けられている。また、回転テーブル242a〜242cのそれぞれを回転させることにより、複数用意した回折格子243の組(3段の回折格子243a〜243cから構成される組であって、それぞれの回転テーブル242a〜242cに対して角度を変えて3組取り付けられている(図5(a)に示す2431a,2432a,2433a))を任意に選択することができる。そのため、上述の第1の実施形態に係る分光ユニット140では、光路分割部148で分割された3つの光路のそれぞれの回折格子143に入射する角度は、光路分割部148の第1及び第2のダイクロイックミラー148a,148b並びに第1及び第2のミラー148c,148dの角度により、それぞれの光路の光の波長帯域に応じて設定していたが、この第2の実施形態に係る分光ユニット240では、3段の回折格子243a〜243cのそれぞれの角度を回転テーブル242a〜242cを回転させて波長帯域に応じて設定すれば良いため、図3(a)等に示すような、3つの光路のそれぞれの回折格子に対する入射角度を変える必要はない。すなわち、図5(a)に示すように、回折格子243(回折格子2431〜2433のいずれか)の回折格子の溝の方向(図5(a)の紙面に直交する方向)から見たときに、3つの光路は同一直線上に重なっていても良い。この場合も、上述の条件式(1)により、回折格子243a〜243cのそれぞれで回折された光の中心が、例えば、第2の回折格子243bの法線に対して、回折格子の溝の方向(図5(a)の紙面に直交する方向)と直交する方向(溝のピッチ方向)の面内(図5(a)の紙面内)において24°の方向となるようにすると、3つの光路に分割されたそれぞれの波長帯域の光が、上下方向に並んだ第1〜第3の受光部145a〜145cのそれぞれの受光領域内に収まり、並べられた3つのラインPMTで無駄なく受光することができる。
【0058】
以上のように、このような構成の第2の実施形態に係る分光ユニット240によっても、コンパクトで波長分解能の高い分光データを同時に取得することができる分光システム1を構成することができる。
【0059】
[第3の実施形態]
第2の実施形態に係る分光システム230においては、光路分割部148を構成する第1及び第2のダイクロイックミラー148a,148bにより、3つの光路のそれぞれを通る光の波長帯域が異なるように分割した場合について説明したが、この第1及び第2のダイクロイックミラー148a,148bをハーフミラーで構成することも可能である。この場合、光ファイバ28を介して導入された信号光に含まれる波長帯域の光が同じ波長帯域のまま3つの光路に分割される。そのため、図5(b)の回転テーブル242a〜242cを回転させて、上段、中段及び下段の回折格子243a〜243cの刻線本数を異なるものとすることにより、同一の信号光の分光データを異なる波長分解能で(異なる波長レンジで)同時に取得することができる。例えば、図6(a)に示すように、粗い回折格子で400〜700nmまでの幅広いレンジを粗い波長分解能(例えば10nmピッチ)で観察しながら、図6(b)に示すように、この波長帯域の一部(490〜550nm)を、細かい回折格子で細かい波長分解能(例えば2nmピッチ)で観察することが可能である。
【0060】
なお、以上の第1〜第3の実施形態においては、分光ユニット140,240に導入される信号光を3つの光路に分割した場合について説明したが、光路の分割数はこれらの実施形態に限定されることはなく、2つの光路に分割するように構成しても良いし、4つ以上の光路に分割するようにしても良い。また、受光器145の受光素子としてPMTを用いた場合について説明したがCCDで構成することも可能である。また、分光素子として回折格子143,243を用いる場合について説明したが、プリズムを用いることも可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 分光システム(分光機能付き走査型顕微鏡)
40,140,240 分光システム 41,141 コリメータ光学系
43,143,243 回折格子(分光素子)
243a 第1の回折格子 243b 第2の回折格子
243c 第3の回折格子 44,144 集光光学系
45,145 受光器 145a 第1の受光領域
145b 第2の受光領域 145c 第3の受光領域
148 光路分割部 148a 第1のダイクロイックミラー
148b 第2のダイクロイックミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を略平行光束にするコリメータ光学系と、
前記略平行光束を複数の光束に分割する光路分割部と、
前記光路分割部により分割された複数の前記光束を分光する分光素子と、
前記分光素子で分光された分光光を受光する受光器であって、前記分光光の波長分散方向と該波長分散方向に直交する方向に複数の受光素子が2次元状に配置された受光器と、
前記分光素子からの前記分光光を前記受光器の前記受光素子面に結像させる集光光学系と、を有することを特徴とする分光ユニット。
【請求項2】
前記光路分割部は、ダイクロイックミラーを含み、該ダイクロイックミラーは、少なくとも2つの異なる波長帯域の前記光束に分割することを特徴とする請求項1に記載の分光ユニット。
【請求項3】
前記光路分割部は、ハーフミラーを含み、該ハーフミラーは、少なくとも2つの同一の波長帯域の前記光束に分割することを特徴とする請求項1または2に記載の分光ユニット。
【請求項4】
前記光路分割部により分割された複数の前記光束は、1つの同じ前記分光素子に入射することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の分光ユニット。
【請求項5】
前記分光素子は、入射する前記光束の入射角度を変化可能に構成されてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の分光ユニット。
【請求項6】
前記分光素子は、少なくとも2枚以上で構成され、
前記光路分割部により分割された複数の前記光束のうち少なくとも2つは、異なる前記分光素子に入射することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の分光ユニット。
【請求項7】
2枚以上で構成された前記分光素子のうち少なくとも2枚は、異なる波長分解能を有することを特徴とする請求項6に記載の分光ユニット。
【請求項8】
2枚以上で構成された前記分光素子の各々は、入射する前記光束の入射角度をそれぞれ変化可能に構成されてなることを特徴とする請求項6または7に記載の分光ユニット。
【請求項9】
前記受光器の前記受光素子はPMTであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の分光ユニット。
【請求項10】
前記受光器の前記受光素子はCCDであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の分光ユニット。
【請求項11】
前記分光素子は回折格子であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の分光ユニット。
【請求項12】
前記分光素子はプリズムであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の分光ユニット。
【請求項13】
光源からの光を走査して対物レンズにより標本上に集光し、前記標本から出射した光を前記対物レンズで集光する顕微鏡と、
前記顕微鏡からの前記光を分光して検出する請求項1〜12のいずれか一項に記載の分光ユニットと、を有することを特徴とする走査型顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−44702(P2013−44702A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184600(P2011−184600)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】