説明

分光分析装置及び方法

【課題】近赤外光及び赤外光のスペクトルについての知識が十分でなくとも、サンプルの特性を容易且つ短時間で分析することができる分光分析装置及び方法を提供する。
【解決手段】分光分析装置1は、近赤外光スペクトル測定部40で測定された近赤外光のスペクトルと赤外光スペクトル測定部30で測定された赤外光のスペクトルとを合成して合成スペクトルを得た後に、予め測定された基準スペクトルと合成スペクトルとの差スペクトルを求め、この差スペクトルを用いて二次元相関演算を行って近赤外光のスペクトルと赤外光のスペクトルとの相関を求めるPC70を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外光及び赤外光の分光分析装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分光分析装置は、近赤外光(波長0.7〜2.5[μm])や赤外光(波長2.5〜25[μm])をサンプルに照射して得られるスペクトルからサンプルの特性(含有成分等)を分析する装置である。赤外光の分光分析装置は、サンプル成分に依存した分離の良い鋭いスペクトルが得られるため高精度の分析を行うことができるものの、赤外光が透過できる程度の薄いサンプルしか分析できないという特性がある。これに対し、近赤外光の分光分析装置は、赤外光に比べて近赤外光の透過率が高いため厚いサンプルの分析が可能であるものの、得られるスペクトルの幅が広く重なり合っているために、サンプル成分に依存したスペクトルピークを帰属するのは容易ではないという特性がある。
【0003】
以上の特性によって、分光分析装置は、必要となる精度や用途に応じた使い分けが行われている。例えば、赤外光の分光分析装置は、微量なサンプルに含まれる成分を高精度に測定する必要がある研究所等で多く用いられている。これに対し、近赤外光の分光分析装置は、果物の糖度を測定する糖度計等の機器としてサンプルをそのまま非破壊で測定分析する場合に多く用いられている。
【0004】
従来、近赤外光から赤外光に亘る波長領域でサンプルの特性を分析する必要がある場合には、以上の赤外光の分光分析装置と近赤外光の分光分析装置との2台の分光分析装置を用いてスペクトルの測定が個別に行われていた。そして、各々の分光分析装置で得られたスペクトルのデータがコンピュータに取り込まれ、以下の非特許文献1,2に示す二次元分光法を用いて各々のスペクトルの相関が求められることによりサンプルの特性が分析されていた。以下の特許文献1には、近赤外光から赤外光に亘る波長領域におけるサンプルの特性の分析を1台でまとめて行うことができる分光分析装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−168711号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Toru Amari et al.,“Generalized Two-Dimensional Attenuated Total Reflection/Infrared and Near-Infrared Correlation Spectroscopy Studies of Real-Time Monitoring of the Initial Oligomerization of Bis(hydroxyethyl terephthalate)”,Macromolecules,2002,35,p.8020-8028
【非特許文献2】I. Noda et al.,“Generalized Two-Dimensional Correlation Spectroscopy”,Applied Spectroscopy,Vol. 54,Issue 7,p.236A-248A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した特許文献1に開示された分光分析装置は、近赤外光のスペクトルと赤外光のスペクトルとを1つのスペクトルとして取り扱うことが可能であるため、2台の分光分析装置を用いて解析する場合に比べて取り扱いが容易になるという利点を有する。しかしながら、近赤外光のスペクトルの特性と赤外光のスペクトルの特性との双方について十分な知識がなければ、上記の特許文献1に開示された分光分析装置の近赤外光から赤外光に亘る波長領域における分析結果を有効活用することができないという問題がある。
【0008】
また、研究所等で用いられる分光分析装置の分析結果は、基本的にはサンプルの特性を示すデータとして収集されるだけである。このため、上述した通り、赤外光の分光分析装置と近赤外光の分光分析装置とを用いて個別にスペクトルの測定を行い、測定終了後にコンピュータによりサンプルの特性を分析しても特に問題は生じない。しかしながら、工場等の生産現場に設けられる分光分析装置の分析結果は、製品の品質を維持するとともに生産効率を向上させるためにフィードバックして用いられるため、生産現場に設けられる分光分析装置では、製品の特性の解析がほぼリアルタイムで行われる必要がある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、近赤外光及び赤外光のスペクトルについての知識が十分でなくとも、サンプルの特性を容易且つ短時間で分析することができる分光分析装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の分光分析装置は、近赤外光をサンプルに照射して近赤外光のスペクトルを測定する第1測定部(40)と、赤外光をサンプルに照射して赤外光のスペクトルを測定する第2測定部(30)と、前記第1,第2測定部で測定されたスペクトルを用いてサンプルの特性を分析する分析部(70)とを備える分光分析装置(1)において、前記分析部は、前記第1測定部で測定された近赤外光のスペクトルと前記第2測定部で測定された赤外光のスペクトルとを合成して合成スペクトルを得る第1演算手段(S22)と、予め測定された基準スペクトルと前記合成スペクトルとの差スペクトルを求める第2演算手段(S25)と、前記第2演算手段で求められた前記差スペクトルを用いて二次元相関演算を行い、近赤外光のスペクトルと赤外光のスペクトルとの相関を求める第3演算手段(S27)とを備えることを特徴としている。
この発明によると、第1測定部で測定された赤外光のスペクトルと第2測定部で測定された近赤外光のスペクトルとが合成されて合成スペクトルデータが得られた後に、予め測定された基準スペクトルデータと合成スペクトルデータとの差スペクトルデータが求められ、この差スペクトルデータを用いた二次元相関演算が行われて近赤外光のスペクトルと赤外光のスペクトルとの相関(二次元相関)が求められる。
また、本発明の分光分析装置は、前記第2演算手段が、前記第1,第2測定部でスペクトルの測定が行われる毎に、新たに求めた前記差スペクトルを先に求めている前記差スペクトルに追加する追加処理を行うことを特徴としている。
また、本発明の分光分析装置は、予め求められているサンプルの吸光度と濃度との関係を示す検量線を用いて、前記第1演算手段で得られた合成スペクトルからサンプルの濃度の予測値を求める予測手段(S23)を備えており、前記第2演算手段が、前記予測手段で先に求められた予測値と新たに求められた予測値との差が予め設定された所定の閾値以上である場合に、前記追加処理を行うことを特徴している。
また、本発明の分光分析装置は、前記第2演算手段が、計量化学的な手法を用いて、スペクトルが異常であるか否かを判定するアウトライヤー検知を行い、異常と判定されたスペクトルに前記追加処理を行うことを特徴としている。
また、本発明の分光分析装置は、前記基準スペクトルが、サンプルの分析を開始する前に、予め近赤外光及び赤外光をサンプルに照射して前記第1,第2測定部で複数回に亘りスペクトルを測定したときに前記第1演算手段で得られる前記合成スペクトルの各々を平均化して得られるスペクトルであることを特徴としている。
本発明の分光分析方法は、近赤外光をサンプルに照射して近赤外光のスペクトルを測定する第1測定部(40)と、赤外光をサンプルに照射して赤外光のスペクトルを測定する第2測定部(30)とを備える分光分析装置(1)で用いられる分光分析方法であって、前記第1測定部で測定された近赤外光のスペクトルと前記第2測定部で測定された赤外光のスペクトルとを合成して合成スペクトルを得る第1ステップ(S22)と、予め測定された基準スペクトルと前記合成スペクトルとの差スペクトルを求める第2ステップ(S25)と、前記第2ステップで求められた前記差スペクトルを用いて2次元相関演算を行い、近赤外光のスペクトルと赤外光のスペクトルとの相関を求める第3ステップ(S27)とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第1測定部で測定された赤外光のスペクトルと第2測定部で測定された近赤外光のスペクトルとを合成して合成スペクトルデータを得た後に、予め測定された基準スペクトルデータと合成スペクトルデータとの差スペクトルデータを求め、この差スペクトルデータを用いた二次元相関演算を行って近赤外光のスペクトルと赤外光のスペクトルとの相関(二次元相関)を求めている。このため、近赤外光及び赤外光のスペクトルについての知識が十分でないユーザであっても、近赤外光のスペクトルと赤外光のスペクトルとの二次元相関を示すグラフを参照するだけで近赤外光のスペクトルと赤外光のスペクトルとの関係を容易に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態による分光分析装置が備えるスペクトル測定部の構成を示す図である。
【図2】同分光分析装置の全体構成を示すブロック図である。
【図3】同分光分析装置が備えるPC70の要部構成を示すブロック図である。
【図4】同分光分析装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】同分光分析装置における合成スペクトルデータの求め方を説明するための図である。
【図6】同分光分析装置の分析結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態による分光分析装置及び方法について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態による分光分析装置が備えるスペクトル測定部の構成を示す図である。尚、本実施形態の分光分析装置は、図1に示すスペクトル測定部と、スペクトル測定部の測定結果を用いて分析を行う分析部とに大別されるが、図1では分析部の図示は省略している。
【0014】
図1に示す通り、本実施形態の分光分析装置1が備えるスペクトル測定部は、FTIR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy:フーリエ変換赤外分光光度計)10、光スイッチ20、赤外光スペクトル測定部30(第2測定部)、及び近赤外光スペクトル測定部40(第1測定部)を備えている。そして、分析対象であるサンプル(図1では図示省略)に対し近赤外光及び赤外光を照射して、近赤外光のスペクトル及び赤外光のスペクトルを測定する。
【0015】
FTIR10は、例えば波数が12000〜1200[cm−1]の広帯域のFTIRであって、光スイッチ20に接続されており、光スイッチ20に向けて近赤外光成分及び赤外光成分を含む光を射出する。光スイッチ20は、赤外光スペクトル測定部30及び近赤外光スペクトル測定部40に接続されており、FTIR10からの光の射出先を赤外光スペクトル測定部30又は近赤外光スペクトル測定部40に切り替える。
【0016】
赤外光スペクトル測定部30は、ライトパイプ31,32、ATR(Attenuated Total Reflection:全反射測定)プローブ33、ライトパイプ34、及び赤外光検出器35を備えており、FTIR10からの光をサンプルに照射して赤外光のスペクトルを測定する。ライトパイプ31,32,34は、光スイッチ20とATRプローブ33との間を接続するとともに、ATRプローブ33と赤外光検出器35との間を接続する。
【0017】
ATRプローブ33は、その先端部が分析対象である液体等のサンプルに浸され、FTIR10から射出されて光スイッチ20及びライトパイプ31,32を順に介した光をサンプルに導くとともに、サンプルで反射された光をライトパイプ32に導く。赤外光検出器35は、ATRプローブ33からライトパイプ32に導かれてライトパイプ34を介した光を光電変換し、その光に含まれる赤外光のスペクトルを示す信号(アナログ信号)を出力する。
【0018】
近赤外光スペクトル測定部40は、ライトパイプ41、光ファイバ42、近赤外光プローブ43、光ファイバ44、及び近赤外光検出器45を備えており、FTIR10からの光をサンプルに照射して近赤外光のスペクトルを測定する。ライトパイプ41は、光スイッチ20と光ファイバ42との間を接続する。光ファイバ42は、ライトパイプ41と近赤外光プローブ43との間を接続する。
【0019】
近赤外光プローブ43は、ATRプローブ33と同様に、その先端部がサンプルに浸され、FTIR10から射出されて光スイッチ20、ライトパイプ41、及び光ファイバ42を順に介した光をサンプルに導くとともに、サンプルの透過光を光をミラーで反射させてファイバ44に導く。尚、ATRプローブ33及び近赤外光プローブ43は、同じサンプルに浸される。光ファイバ44は、近赤外光プローブ43と近赤外光検出器45との間を接続する。近赤外光検出器45は、近赤外光プローブ43から光ファイバ44に導かれた光を光電変換し、その光に含まれる近赤外光のスペクトルを示す信号(アナログ信号)を出力する。
【0020】
上記構成において、近赤外光成分及び赤外光成分を含む光がFTIR10から射出されると、光スイッチ20によって、その射出先が赤外光スペクトル測定部30又は近赤外光スペクトル測定部40に切り替えられる。光スイッチ20による光の射出先が赤外光スペクトル測定部30側に切り替えられた場合には、FTIR10から射出された光は、ライトパイプ31,32を順に介してATRプローブ33に入射してサンプルで反射される。この反射光は、ライトパイプ32,34を順に介して赤外光検出器35に入射して光電変換され、その反射光に含まれる赤外光のスペクトルを示す信号が赤外光検出器35から出力される。
【0021】
これに対し、光スイッチ20による光の射出先が近赤外光スペクトル測定部40側に切り替えられた場合には、FTIR10から射出された光は、ライトパイプ41及び光ファイバ42を順に介して近赤外光プローブ43に入射してサンプルを透過する。このサンプルの透過光は、近赤外光プローブ43に設けられたミラーで反射される。この反射光は、光ファイバ44に導かれて近赤外光検出器45に入射して光電変換され、その反射光に含まれる近赤外光のスペクトルを示す信号が近赤外光検出器45から出力される。このようにして、近赤外光及び赤外光のスペクトルが測定される。
【0022】
次に、図2を参照して、以上説明したスペクトル測定部と図1で図示を省略した分析部とを含む分光分析装置1の全体構成について説明する。図2は、本発明の一実施形態による分光分析装置の全体構成を示すブロック図である。図2に示す通り、分光分析装置1は、FTIR10、光スイッチ20、赤外光スペクトル測定部30、近赤外光スペクトル測定部40、スイッチ50、AD(Analog to Digital)コンバータ60、及びPC(Personal Computer:分析部)70を備える。
【0023】
FTIR10は、コントローラ11及び干渉器12を備える。コントローラ11は、PC70から出力される制御信号に基づいて、FTIR10内の各部を制御するとともに、光スイッチ20及びスイッチ50を切り替え制御する。干渉器12は、光源及びハーフミラー等の光学系を備える干渉計(例えば、マイケルソン干渉計)であり、スペクトル測定のための光を射出する。干渉器12に設けられる光源は、例えば、タングステンランプや、セラミック棒、ハロゲンランプであり、近赤外光及び赤外光の両方を含む光を射出する。また、干渉器12に設けられるハーフミラーは、例えばCaF(フッ化カルシウム)で形成されている。干渉器12において、光源から射出されて光学系で干渉された光はフーリエ変換可能な純粋な光である。
【0024】
赤外光スペクトル測定部30は、前述したATRプローブ33及び赤外光検出器35等を備えており、FTIR10から射出されて光スイッチ20を介した光をサンプルに照射して赤外光のスペクトルを測定する。近赤外光スペクトル測定部40は、前述した近赤外光プローブ43及び近赤外光検出器45等を備えており、FTIR10から射出されて光スイッチ20を介した光をサンプルに照射して近赤外光のスペクトルを測定する。つまり、本実施形態の分光分析装置1は、干渉器12の光源を交換することなく、光スイッチ20の切り替えを行うだけで、赤外光スペクトル測定部30で赤外光のスペクトルを測定することができ、近赤外光スペクトル測定部40で近赤外光のスペクトルを測定することができる。
【0025】
スイッチ50は、赤外光検出器35に接続された入力端子50a、近赤外光検出器45に接続された入力端子50b、及びADコンバータ60に接続された出力端子50cを備えており、コントローラ11の制御の下で、出力端子50cに接続する入力端子50a,50bの切り替えを行う。出力端子50cに入力端子50aが接続された場合には、ADコンバータ60に赤外光検出器35が接続され、出力端子50cに入力端子50bが接続された場合には、ADコンバータ60に赤外光検出器45が接続される。ADコンバータ60は、スイッチ50を介して赤外光検出器35又は近赤外光検出器45から出力されたアナログ信号をディジタル信号に変換してPC70に出力する。PC70は、ADコンバータ60から出力されるディジタル信号に対して以下で説明する各種の演算を行ってサンプルの特性を分析する。
【0026】
図3は、本発明の一実施形態による分光分析装置が備えるPC70の要部構成を示すブロック図である。図3に示す通り、PC70は、入力部71、表示部72、メモリ73、通信部75、I/F(インターフェイス)76,77、及びCPU(Central Processing Unit)78を備えている。尚、PC70が備える以上のブロックは、バスBを介して互いに接続されている。
【0027】
入力部71は、キーボード、マウス等のポインティングデバイスを有しており、ユーザからのキー操作入力及び位置操作入力を受け付け、その操作入力信号をCPU78に出力する。表示部72は、CRT(Cathode Ray Tube)や液晶表示等の表示装置を備えており、CPU78から出力される画像信号に応じた画像(例えば、サンプルの分析結果を示す画像等)を表示する。
【0028】
メモリ73は、HDDに代表されるメモリであって、各種データ及び各種プログラムを格納する。具体的に、メモリ73には、OS(オペレーティングシステム)等のシステムプログラムや、後述するスペクトル測定プログラム、基準スペクトル演算プログラム、及び分析プログラム等のアプリケーションプログラムが格納されている。このメモリ73には、赤外光スペクトル格納領域73a、近赤外光スペクトル格納領域73b、合成スペクトル格納領域73c、基準スペクトル格納領域73d、及び差スペクトル格納領域73eが設けられる。
【0029】
赤外光スペクトル格納領域73aはADコンバータ60から出力される赤外光のスペクトルデータが格納される領域であり、近赤外光スペクトル格納領域73bはADコンバータ60から出力される近赤外光のスペクトルデータが格納される領域である。尚、赤外光及び近赤外光のスペクトルデータは、赤外光スペクトル測定部30又は近赤外光スペクトル測定部40のスペクトルデータ測定時刻に対応付けて赤外光スペクトル格納領域73a又は近赤外光スペクトル格納領域73bに格納される。
【0030】
合成スペクトル格納領域73cは、赤外光のスペクトルデータと近赤外光のスペクトルデータとを合成した合成スペクトルデータが格納される領域である。基準スペクトル格納領域73dは、基準スペクトルデータが格納される領域である。ここで、基準スペクトルデータとは、サンプルの分析を開始する前に、予め赤外光及び近赤外光をサンプルに照射してスペクトルの測定が複数回(例えば、5回程度)に亘って赤外光スペクトル測定部30及び近赤外光スペクトル測定部40で行われることによって得られる複数の合成スペクトルデータを平均化したデータである。
【0031】
差スペクトル格納領域73eは、サンプルの分析が開始された後に得られる合成スペクトルデータと、基準スペクトル格納領域73dに格納された基準スペクトルデータとの差分を示す差スペクトルデータが格納される領域である。尚、詳細は後述するが、上述した赤外光のスペクトルデータと近赤外光のスペクトルデータとの合成、上述した基準スペクトルデータの算出、及び差スペクトルデータの算出は、CPU78によって行われる。
【0032】
通信部75は、LAN(Local Area Network)等の通信ネットワークに接続され、その通信ネットワーク上の外部機器との間で各種情報を送受信する。I/F76は、ADコンバータ60と接続されるインタフェースである。ADコンバータ60から入力される赤外光又は近赤外光のスペクトルデータは、I/F76を介してCPU78に入力される。I/F77は、FTIR10と接続されるインタフェースである。CPU78から出力されるFTIR10等の制御のための制御信号は、I/F77を介してFTIR10のコントローラ11に出力される。
【0033】
CPU78は、以上説明したPC70の各部を統括して制御する。また、CPU78は、メモリ73に格納されたシステムプログラム及びアプリケーションプログラムのうち指定されたプログラムを読み出してメモリ73に展開して実行することにより、サンプルの特性を分析する処理等の各種処理を実行する。具体的に、CPU78は、上述した赤外光のスペクトルデータと近赤外光のスペクトルデータとを合成して合成スペクトルデータを得る処理、上述した差スペクトルデータを求める処理、及び差スペクトルデータを用いて二次元相関演算を行って赤外光のスペクトルと近赤外光のスペクトルとの相関を求める処理を行う。また、上述した基準スペクトルデータを求める処理も行う。
【0034】
以上の処理に加えて、CPU78は、合成スペクトルデータに基づいてスペクトル解析処理及び検量線作成処理を行う。ここで、スペクトル解析処理とは、例えば、統計的な解析手法を用いたケモメトリックスをさす。赤外光スペクトルデータ及び近赤外光スペクトルデータから合成された合成スペクトルデータを用いて、統計解析処理によりサンプルの濃度をスペクトルから予測する検量線を作成するための解析を行う。ここで、検量線とは、サンプルの濃度とサンプルの吸光度と濃度との関係を示す関係式をいう。この検量線を用いることにより、濃度が未知であるサンプルの濃度を予測することができる。更に、CPU78は、FTIR10、光スイッチ20、及びスイッチ50の制御も行う。
【0035】
次に、上記構成における分光分析装置1の動作について説明する。図4は、本発明の一実施形態による分光分析装置の動作を示すフローチャートである。図4に示す通り、分光分析装置1の動作は、基準スペクトルを求める初期測定ステップS1と、サンプルの特性を実際に分析する測定分析ステップS2とに大別される。以下、これらの各ステップで行われる処理の詳細について順に説明する。
【0036】
電源が投入されると、PC70に設けられたメモリ73に格納されたシステムプログラム及びアプリケーションプログラムがCPU78によって読み出されて適宜メモリ73に展開される。以上の準備が終了し、PC70の入力部71を介して、ユーザからの基準スペクトル算出指示が入力されると、メモリ73に展開された基準スペクトル測定プログラムが実行され、初期測定ステップS1が開始される。
【0037】
初期測定ステップS1が開始されると、まず赤外光及び近赤外光のスペクトル測定が行われる(ステップS11)。具体的には、PC70のCPU78において光スイッチ20及びスイッチ50の制御信号が生成されて、I/F77を介してFTIR10のコントローラ11に送信される。この制御信号がコントローラ11で受信されると、光スイッチ20の切り替えが行われ、赤外光スペクトル測定部30における赤外光のスペクトルの測定と、近赤外光スペクトル測定部40における近赤外光のスペクトルの測定とが順に行われる。ここで、光スイッチ20の切り替えに同期してスイッチ50の切り替えも行われるため、赤外光スペクトルを示すアナログ信号と近赤外光スペクトルを示すアナログ信号とがスイッチ50を介して順に出力される。
【0038】
スイッチ50から出力された赤外光スペクトルを示すアナログ信号及び近赤外光のスペクトルを示すアナログ信号は、ADコンバータ60によってディジタル信号に変換された後にPC70に入力され、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)でフーリエ変換されてスペクトルになる。そして、赤外光のスペクトルデータ及び近赤外光のスペクトルデータは、測定時刻とともに赤外光スペクトル格納領域73a及び近赤外光スペクトル格納領域73bにそれぞれ格納される。
【0039】
以上のスペクトル測定が終了すると、メモリ73の赤外光スペクトル格納領域73aに格納された赤外光スペクトルデータと近赤外光スペクトル格納領域73bに格納された近赤外光スペクトルデータとがCPU78によって読み出されて合成される(ステップS12)。この処理で得られた合成スペクトルデータは、メモリ73の合成スペクトル格納領域73cに格納される。
【0040】
ここで、図5を参照して、合成スペクトルデータを求める処理について具体的に説明する。合成スペクトルデータは、赤外光スペクトルデータと近赤外光スペクトルデータとを単に足し合わせることによって求めることも可能であるが、図5に示す方法を用いて求めるのが望ましい。図5は、本発明の一実施形態による分光分析装置における合成スペクトルデータの求め方を説明するための図である。
【0041】
図5中の文字「NIR」は近赤外光スペクトル測定部40の測定によって得られた近赤外光スペクトルデータを示しており、文字「IR」は赤外光スペクトル測定部30の測定によって得られた赤外光スペクトルデータを示している。また、ここでは、最初に近赤外光スペクトルデータが測定される例について説明する。尚、近赤外光スペクトルデータ及び赤外光スペクトルデータは、波数に対する吸光度のスペクトル分布データである。
【0042】
これら近赤外光スペクトルデータ及び赤外光スペクトルデータは、測定時刻に対応付けられて、メモリ73の近赤外光スペクトル格納領域73b及び赤外光スペクトル格納領域73aにそれぞれ格納されている。CPU78は、メモリ73に格納された近赤外光及び赤外光のスペクトルデータを補間しつつ合成する。尚、ここでは、連続する2組の近赤外光及び赤外光のスペクトルデータを用いて補間を行う例について説明するが、補間の方法はこの例に限られるものではない。
【0043】
いま、図5に示す通り、メモリ73には、測定時刻の古い方から、近赤外光スペクトルデータa1、赤外光スペクトルデータb1、近赤外光スペクトルデータa2、赤外光スペクトルデータb2…が順に格納されているものとする。まず、CPU78は、赤外光スペクトルデータb1の直前に得られた近赤外光スペクトルデータa1と直後に得られた近赤外光スペクトルデータa2とを読み出し、これらの平均値を示す平均近赤外光スペクトルデータc1を求める。尚、図5中における文字「平均NIR」は平均近赤外光スペクトルデータを示している。次に、CPU78は、赤外光スペクトルデータb1を読み出して平均近赤外光スペクトルデータc1を加算することにより合成スペクトルデータe1を生成する。この合成スペクトルデータe1は、赤外光スペクトルデータb1が測定された時刻における近赤外スペクトルデータを補間するデータである。
【0044】
次いで、CPU78は、近赤外光スペクトルデータa2の直前に得られた赤外光スペクトルデータb1と直後に得られた赤外光スペクトルデータb2とを読み出し、これらの平均値を示す平均赤外光スペクトルデータd1を求める。尚、図5中における文字「平均IR」は平均赤外光スペクトルデータを示している。次に、CPU78は、近赤外光スペクトルデータa2を読み出して平均赤外光スペクトルデータd1を加算することにより合成スペクトルデータe2を生成する。この合成スペクトルデータe2は、近赤外光スペクトルデータa2が測定された時刻における赤外スペクトルデータを補間するデータである。以下、同様の処理が繰り返されることにより赤外光のスペクトルデータと近赤外光のスペクトルデータとを合成した合成スペクトルデータが求められる。このようにして求められた合成スペクトルは、メモリ73の合成スペクトル格納領域73cに格納される。
【0045】
以上の処理が終了すると、赤外光及び近赤外光のスペクトル測定が予め設定された規定回数(例えば、5回)行われたか否かがCPU78によって判断される(ステップS13)。スペクトル測定が規定回数行われていないと判断された場合(判断結果が「NO」の場合)には、再び赤外光及び近赤外光のスペクトル測定が行われる(ステップS11)。これに対し、スペクトル測定が規定回数行われたと判断された場合(判断結果が「YES」の場合)には、CPU78によって基準スペクトルデータが求められる(ステップS14)。具体的には、メモリ73の合成スペクトル格納領域73cに格納された複数の合成スペクトルが読み出され、それらを平均化することにより基準スペクトルデータが求められる。求められた基準スペクトルデータは、メモリ73の基準スペクトル格納領域73dに格納される。以上により初期測定ステップS1が終了する。
【0046】
初期測定ステップS1が終了した後に、PC70の入力部71を介して、ユーザからの測定分析指示が入力されると、メモリ73に展開されたスペクトル測定プログラム及び分析プログラムが実行され、これにより測定分析ステップS2が開始される。測定分析ステップS2が開始されると、まず赤外光及び近赤外光のスペクトル測定が行われる(ステップS21)。具体的には、初期測定ステップS1のステップS11と同様に、PC70のCPU78において生成された制御信号がコントローラ11に送信され、光スイッチ20及びスイッチ50が同期して切り替えられる。これにより、赤外光スペクトル測定部30における赤外光のスペクトルの測定と、近赤外光スペクトル測定部40における近赤外光のスペクトルの測定とが順に行われ、赤外光スペクトルを示すアナログ信号と近赤外光スペクトルを示すアナログ信号とがスイッチ50を介して順に出力される。
【0047】
スイッチ50から出力された赤外光スペクトルを示すアナログ信号及び近赤外光のスペクトルを示すアナログ信号は、ADコンバータ60によってディジタル信号に変換された後にPC70でフーリエ変換される。そして、赤外光のスペクトルデータ及び近赤外光のスペクトルデータは、測定時刻とともにメモリ73の赤外光スペクトル格納領域73a及び近赤外光スペクトル格納領域73bにそれぞれ格納される。
【0048】
以上のスペクトル測定が終了すると、メモリ73の赤外光スペクトル格納領域73aに格納された赤外光スペクトルデータと、近赤外光スペクトル格納領域73bに格納された近赤外光スペクトルデータとがCPU78によって読み出され、図5を用いて説明した方法と同様の方法によって合成されて合成スペクトルが得られる(ステップS22:第1演算手段、第1ステップ)。この処理で得られた合成スペクトルデータは、メモリ73の合成スペクトル格納領域73cに格納される。
【0049】
次に、合成スペクトル格納領域73cに格納された合成スペクトルデータがCPU78によって読み出され、予め計量化学的な手法(ケモメトリックス)を用いて作成された検量線を用いてサンプルの濃度の予測値が求められる(ステップS23:予測手段)。尚、検量線を用いた濃度の予測値を算出する方法は既存の方法を用いることができるため、ここでの詳細な説明は省略する。CPU78によって求められた濃度の予測値はメモリ73に格納される。尚、この予測値及び合成スペクトルデータは、通信部75を介して外部機器に出力しても良い。
【0050】
次いで、前回の測定で求められた予測値と今回の測定で求められた予測値とがメモリ73からCPU78に読み出され、これら予測値の差が予め設定された閾値以上であるか否かが判断される(ステップS24)。ここでは、ステップS21のスペクトル測定が1回しか行われておらず、前回の測定で求められた予測値が存在しないため、ステップS24の処理は省略され、差スペクトルデータを演算してメモリ73の差スペクトル格納領域73dに追加する処理(追加処理)がCPU78により行われる(ステップS25:第2演算手段、第2ステップ)。
【0051】
具体的には、メモリ73の合成スペクトル格納領域73cに格納された合成スペクトルデータ及び基準スペクトル格納領域73dに格納された基準スペクトルデータがCPU78によって読み出され、それら差が演算されることによって差スペクトルデータが求められる。CPU78によって求められた差スペクトルデータは、メモリ73の差スペクトル格納領域73eに格納される。
【0052】
差スペクトルデータが求められると、スペクトルのデータ数(赤外光及び近赤外光のスペクトル測定回数)が予め設定された設定値(例えば「3」)以上であるか否かがCPU78によて判断される(ステップS26)。ここでは、ステップS21のスペクトル測定が1回しか行われていないため、ステップS26の判断結果は「NO」になり、再びスペクトル測定が行われ(ステップS21)、合成スペクトルデータが求められ(ステップS22)、検量線を用いてサンプルの濃度の予測値が求められる(ステップS23)。尚、これらの処理で得られたスペクトルデータ、合成スペクトルデータ、及び濃度の予測値は、メモリ73に格納される。
【0053】
以上の処理が終了すると、前回の測定で求められた予測値と今回の測定で求められた予測値とがメモリ73からCPU78に読み出され、これら予測値の差が予め設定された閾値以上であるか否かが判断される(ステップS24)。予測値の差が閾値よりも小さい場合(判断結果が「NO」である場合)にはステップS21に戻ってスペクトル測定が行われる。これに対し、予測値の差が閾値以上である場合(判断結果が「YES」である場合)には、差スペクトルデータを演算してメモリ73の差スペクトル格納領域73dに追加する処理がCPU78により行われる(ステップS25)。
【0054】
このように、本実施形態では、濃度の予測値の差が閾値以上である場合(ステップS24の判断結果が「YES」の場合)にのみ、差スペクトルデータを演算してメモリ73の差スペクトル格納領域73dに追加するようにしている。これは、差スペクトルデータのデータ数を抑制して演算に要する時間を極力短縮しつつ、後述するステップS27で行われる二次元相関演算で求められる相関(赤外光のスペクトルと近赤外光のスペクトルとの相関)の精度を高めるためである。つまり、予測される濃度の変化が大きな場合には差スペクトルデータのデータ数を増やすことによって二次元相関演算で求められる相関の精度を高め、予測される濃度の変化が小さな場合には差スペクトルデータのデータ数を増やさないことによって二次元相関演算に要する時間を極力短縮している。尚、ここでは、測定スペクトルからの予測値の閾値を判定基準として用いたが、ケモメトリックスには、いくつかの判別手法がある。例えば、スペクトルの形状予測値等から測定スペクトルが異常であるか否かを判定するアウトライヤー検知を用いても良い。
【0055】
いま、スペクトルのデータ数(赤外光及び近赤外光のスペクトル測定回数)が予め設定された設定値以上になったとする。すると、ステップS26の判断結果が「YES」になり、メモリ73の差スペクトル格納領域73eに格納された差スペクトルデータがCPU78によって読み出され、前述した非特許文献1,2等に示された二次元相関演算が行われ、近赤外光のスペクトルと赤外光のスペクトルとの相関が求められる(ステップS27:第3演算手段、第3ステップ)。
【0056】
ここで、近赤外光のスペクトルと赤外光のスペクトルとの相関は、ステップS22で求められる合成スペクトルデータを用いても求めることができる。本実施形態において、合成スペクトルデータと基準スペクトルデータとの差を示す差スペクトルデータを用いて近赤外光のスペクトルと赤外光のスペクトルとの相関を求めるのは、サンプルの特性(例えば、濃度)の微妙な変化を感度良く捉えるためである。
【0057】
二次元相関演算が終了すると、CPU78はその演算結果である近赤外光のスペクトルと赤外光のスペクトルとの相関を示すグラフを作成して表示部72に表示させる(ステップS28)。以上の処理が終了すると、PC70の入力部71を介してユーザからの分析終了指示入力されたか否かがCPU78によって判断される(ステップS29)。分析終了指示が入力されていない場合(ステップS29の判断結果が「NO」である場合)には、ステップS21に戻って再びスペクトル測定が行われる。これに対し、分析終了指示が入力された場合(ステップS29の判断結果が「YES」である場合)には、図4に示す一連の処理が終了する。
【0058】
図6は、本発明の一実施形態による分光分析装置の分析結果の一例を示す図である。図6は、濃度が変化するホウ酸水溶液をサンプルとして用いた場合に得られた二次元相関を示すグラフであって、(a)はホウ酸の濃度が2重量パーセント濃度である場合のグラフであり、(b)はホウ酸の濃度が2重量パーセント濃度である場合のグラフであり、(c)はホウ酸の濃度が4重量パーセント濃度である場合のグラフであり、(d)はホウ酸の濃度が5重量パーセント濃度である場合のグラフである。
【0059】
図6(a)〜(d)を参照すると、赤外域の波数が1400[cm−1]付近であって、近赤外域の波数が4500[cm−1]付近である部分とに相関があり、ホウ酸の濃度が高くなるにつれて、徐々に相関が強くなるのが分かる。ここで、ホウ酸の化学式は、HBOで表され、ホウ素原子と酸素原子との単結合(B−O)による吸収のピークは、赤外域の波数が1400[cm−1]付近に現れる。図6を参照すると、近赤外域の波数が4500[cm−1]付近である部分は、赤外域の波数が1400[cm−1]付近である部分と相関があることから、近赤外域の波数が4500[cm−1]付近に現れる吸収のピークは、ホウ素原子と水酸基との結合(B−OH)によるものであると推測することができる。
【0060】
以上の通り、本実施形態では、赤外光スペクトル測定部30で測定された赤外光のスペクトルと、近赤外光スペクトル測定部40で測定された近赤外光のスペクトルとを合成して合成スペクトルデータを得た後に、予め測定された基準スペクトルデータと合成スペクトルデータとの差スペクトルデータを求め、この差スペクトルデータを用いて二次元相関演算を行って近赤外光のスペクトルと赤外光のスペクトルとの相関(二次元相関)を求めている。このため、近赤外光及び赤外光のスペクトルについての知識が十分でないユーザであっても、近赤外光のスペクトルと赤外光のスペクトルとの二次元相関を示すグラフを参照するだけでサンプルの近赤外/赤外スペクトルを容易に分析することができる。
【0061】
また、本実施形態の分光分析装置1において、二次元相関演算はスペクトル測定が行われている間に実行されるため、サンプルの特性を短時間で分析することができる。これにより、工場等の生産現場に分光分析装置1を設けた場合であっても、分析結果を迅速且つ的確にフィードバックすることができ、製品の品質を維持するとともに生産効率を向上させることができる。
【0062】
以上、本発明の実施形態による分光分析装置及び方法について説明したが、本発明は上記実施形態に制限される訳ではなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上記実施形態では、同時に求められたスペクトルデータの二次元相関(二次元同時相関)を求める例について説明したが、異なる時刻で求められたスペクトルの二次元相関(二次元異時相関)を求める場合にも本発明を適用可能である。また、二次元相関法としては、摂動相関二次元相関分光法等を用いることも可能である。
【0063】
また、上記実施形態では、ATRプローブ33及び近赤外光プローブ43を同じサンプルに浸して赤外光及び近赤外光のスペクトルを測定する例について説明した。しかしながら、赤外光のスペクトルを測定する工程と近赤外光のスペクトルを測定する工程とを異ならせても良い。例えば、製品を乾燥させる乾燥工程の前工程で赤外光のスペクトルを測定し、その乾燥工程の後工程で近赤外光のスペクトルを測定するといった具合である。
【0064】
また、上記実施形態では、合成スペクトルデータと基準スペクトルデータとの差を演算して差スペクトルデータを求める例について説明した。しかしながら、差スペクトルデータを用いる代わりに、合成データを微分した微分スペクトルデータを用いても似たような効果が期待できる。尚、微分スペクトルデータを用いる場合であっても、微分スペクトルの差を使用すると効果が大きいと考えられる。
【符号の説明】
【0065】
1 分光分析装置
30 赤外光スペクトル測定部
40 近赤外光スペクトル測定部
70 PC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外光をサンプルに照射して近赤外光のスペクトルを測定する第1測定部と、赤外光をサンプルに照射して赤外光のスペクトルを測定する第2測定部と、前記第1,第2測定部で測定されたスペクトルを用いてサンプルの特性を分析する分析部とを備える分光分析装置において、
前記分析部は、前記第1測定部で測定された近赤外光のスペクトルと前記第2測定部で測定された赤外光のスペクトルとを合成して合成スペクトルを得る第1演算手段と、
予め測定された基準スペクトルと前記合成スペクトルとの差スペクトルを求める第2演算手段と、
前記第2演算手段で求められた前記差スペクトルを用いて二次元相関演算を行い、近赤外光のスペクトルと赤外光のスペクトルとの相関を求める第3演算手段と
を備えることを特徴とする分光分析装置。
【請求項2】
前記第2演算手段は、前記第1,第2測定部でスペクトルの測定が行われる毎に、新たに求めた前記差スペクトルを先に求めている前記差スペクトルに追加する追加処理を行うことを特徴とする請求項1記載の分光分析装置。
【請求項3】
予め求められているサンプルの吸光度と濃度との関係を示す検量線を用いて、前記第1演算手段で得られた合成スペクトルからサンプルの濃度の予測値を求める予測手段を備えており、
前記第2演算手段は、前記予測手段で先に求められた予測値と新たに求められた予測値との差が予め設定された所定の閾値以上である場合に、前記追加処理を行うことを特徴とする請求項2記載の分光分析装置。
【請求項4】
前記第2演算手段は、計量化学的な手法を用いて、スペクトルが異常であるか否かを判定するアウトライヤー検知を行い、異常と判定されたスペクトルに前記追加処理を行うことを特徴とする請求項2記載の分光分析装置。
【請求項5】
前記基準スペクトルは、サンプルの分析を開始する前に、予め近赤外光及び赤外光をサンプルに照射して前記第1,第2測定部で複数回に亘りスペクトルを測定したときに前記第1演算手段で得られる前記合成スペクトルの各々を平均化して得られるスペクトルであることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の分光分析装置。
【請求項6】
近赤外光をサンプルに照射して近赤外光のスペクトルを測定する第1測定部と、赤外光をサンプルに照射して赤外光のスペクトルを測定する第2測定部とを備える分光分析装置で用いられる分光分析方法であって、
前記第1測定部で測定された近赤外光のスペクトルと前記第2測定部で測定された赤外光のスペクトルとを合成して合成スペクトルを得る第1ステップと、
予め測定された基準スペクトルと前記合成スペクトルとの差スペクトルを求める第2ステップと、
前記第2ステップで求められた前記差スペクトルを用いて二次元相関演算を行い、近赤外光のスペクトルと赤外光のスペクトルとの相関を求める第3ステップと
を有することを特徴とする分光分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−257306(P2011−257306A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133211(P2010−133211)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【出願人】(503092180)学校法人関西学院 (71)
【Fターム(参考)】