説明

分光分析装置

【課題】測定時に人による誤差が発生しにくく、測定作業を効率的に行うことが可能な分光分析装置を提供する。
【解決手段】測定対象面Sに光を照射する光源2と、測定対象面Sからの反射光を受光する受光部3と、受光部3で受光した反射光のスペクトルを測定する分光器4と、分光器4で測定した反射光のスペクトルを基に、測定対象面Sにおける劣化因子の濃度を演算する演算手段5とを備えた分光分析装置において、光源2と受光部3とを収容するプローブヘッド11を備え、プローブヘッド11は、測定対象面Sに対する光源2と受光部3の位置関係を一定に保ちつつ、光源2と受光部3を測定対象面Sに沿って移動させる移動機構12と、光源2と受光部3の測定対象面Sに沿った移動距離を検出する移動距離検出手段13と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートなどの劣化因子の濃度を測定する分光分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートや塗装などにおいて、塩化物イオン濃度などの劣化因子の濃度を測定する際には、図11(a)に示すような分光分析装置111が用いられている。
【0003】
図11(a)に示すように、従来の分光分析装置111は、光源112と、コンクリートなどの測定対象面に配置され、光源112から出射用光ファイバ113を介して入射された光を測定対象面に照射し、その反射光を入射用光ファイバ114に入射させるプローブヘッド115と、入射用光ファイバ114に入射された反射光のスペクトルを測定する分光器116と、分光器116で測定した反射光のスペクトルを基に劣化因子の濃度を演算する演算手段(図示せず)とを備えている。
【0004】
プローブヘッド115は、図11(b),(c)に示すように、出射用光ファイバ113と入射用光ファイバ114を束ねた先端部に設けられる円柱状の本体部115aと、該本体部115aの先端部から突出するように設けられた中空円筒状のカバー部115bとからなる。本体部115aの出口においては、その略中央部に入射用光ファイバ114の入射端が配置され、入射用光ファイバ114の入射端を囲むように出射用光ファイバ113の出射端が配置されている。カバー部115bは、本体部115aの出口の周囲を囲むように設けられ、本体部115aの出口と測定対象面との距離を一定に保つと共に、太陽光などの外乱因子を除去するようになっている。プローブヘッド115の外径は20mm程度である。
【0005】
この分光分析装置111を用いて劣化因子の濃度を測定する際には、作業者がプローブヘッド115を測定対象面の任意の測定位置に配置し、光源112から出射された近赤外線を出射用光ファイバ113の出射端から測定対象面に出射すると共に、入射用光ファイバ114の入射端より入射された測定対象面からの反射光を、入射用光ファイバ114を介して分光器116に入射し、分光器116にて反射光のスペクトルを測定する。
【0006】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、特許文献1〜3、非特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3776794号公報
【特許文献2】特開2005−291881号公報
【特許文献3】特開2009−139098号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】戸田勝哉、倉田孝男、喜多達夫、魚本健人、「ケモメトリックス手法を用いた近赤外領域でのコンクリート診断技術開発」、コンクリート工学、社団法人日本コンクリート工学協会、平成19年11月、Vol.45、No.11、pp.20−26
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の分光分析装置111では、作業者が測定位置ごとにプローブヘッド115を配置して測定を行う必要があるため、人による誤差(ヒューマンエラー)が発生し易く、測定位置ごとに測定条件が変化してしまい、劣化因子の濃度を正確に測定できないおそれがあった。
【0010】
また、従来の分光分析装置111では、測定位置を走査することができず点のみの計測であるため、特に多くの測定位置で測定を行う必要がある場合には、測定作業に非常に手間がかかってしまい、効率的に測定作業を行うことができないという問題もあった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、測定時に人による誤差が発生しにくく、測定作業を効率的に行うことが可能な分光分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、測定対象面に光を照射する光源と、前記測定対象面からの反射光を受光する受光部と、該受光部で受光した反射光のスペクトルを測定する分光器と、該分光器で測定した反射光のスペクトルを基に、前記測定対象面における劣化因子の濃度を演算する演算手段とを備えた分光分析装置において、前記光源と前記受光部とを収容するプローブヘッドを備え、前記プローブヘッドは、前記測定対象面に対する前記光源と前記受光部の位置関係を一定に保ちつつ、前記光源と前記受光部を前記測定対象面に沿って移動させる移動機構と、前記光源と前記受光部の前記測定対象面に沿った移動距離を検出する移動距離検出手段と、を有する分光分析装置である。
【0013】
前記移動機構は、前記光源と前記受光部を固定する本体フレームに回転自在に設けられると共に、前記本体フレームの下方に突出して設けられ、当該突出部を前記測定対象面に当接させて、前記本体フレームと前記測定対象面との距離を一定に保つ複数のタイヤを有し、前記移動距離検出手段は、前記タイヤの回転角度を検出して出力するエンコーダと、該エンコーダからの出力に基づき、前記タイヤの回転による移動距離を演算する移動距離演算部と、を有してもよい。
【0014】
前記本体フレームの上部を覆うように本体ケースを設けると共に、該本体ケース内に前記光源と前記受光部を収容するようにし、かつ、前記本体フレームの下部に、前記本体フレームと前記測定対象面との隙間に外部からの光が侵入するのを防ぐためのスカートを設けてもよい。
【0015】
前記プローブヘッドは、前記光源と前記受光部の前記測定対象面に対する角度をそれぞれ調節して固定するための角度調節機構をさらに有してもよい。
【0016】
前記測定対象面がコンクリートであり、前記光源として近赤外線を含む光を出射するものを用いてもよい。
【0017】
前記演算手段は、前記反射光のスペクトルを基に、ケモメトリックス手法を用いて、前記測定対象面における劣化因子の濃度を演算するようにされてもよい。
【0018】
前記プローブヘッドを複数並列に配置したプローブヘッドスタックを備え、該プローブヘッドスタックの各プローブヘッドを用いて、複数の測定位置での劣化因子の濃度を一括して測定するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、測定時に人による誤差が発生しにくく、測定作業を効率的に行うことが可能な分光分析装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施の形態に係る分光分析装置の概略構成図である。
【図2】(a)は、図1の分光分析装置のプローブヘッドの断面図であり、(b)は、その2B−2B線断面図である。
【図3】図2のプローブヘッドの本体フレームの上面図である。
【図4】図3の本体フレームにタイヤとエンコーダを設けたときの下面図である。
【図5】図2のプローブヘッドのガイドプレートを示す図であり、(a)は正面図、(b)はアングルを取り付けたときの正面図、(c)はアングルを取り付けたときの側面図である。
【図6】図2のプローブヘッドの角度目盛りプレートを示す図であり、(a)はアングルを取り付けたときの正面図、(b)はアングルを取り付けたときの側面図である。
【図7】図2のプローブヘッドの受光部を示す図であり、(a)はホルダーに取り付けたときの正面図、(b)はホルダーに取り付けたときの側面図である。
【図8】図2のプローブヘッドの光源を示す図であり、(a)はホルダーに取り付けたときの正面図、(b)はホルダーに取り付けたときの側面図である。
【図9】図2のプローブヘッドのガイドスライダを示す図であり、(a)は上面図、(b)は正面図、(c)は(b)における9C−9C線断面図、(d)は受光部を取り付けたホルダにガイドスライダを取り付けたときの側面図である。
【図10】本発明において、プローブヘッドスタックを説明する図である。
【図11】(a)は従来の分光分析装置の概略構成図であり、(b)はそのプローブヘッドの下面図、(c)はプローブヘッドの側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0022】
図1は、本実施の形態に係る分光分析装置の概略構成図である。
【0023】
図1に示すように、分光分析装置1は、測定対象面Sに光を照射する光源2と、測定対象面Sからの反射光を受光する受光部3と、受光部3で受光した反射光のスペクトルを測定する分光器4と、分光器4で測定した反射光のスペクトルを基に、測定対象面Sにおける劣化因子の濃度を演算する演算手段5と、光源2と受光部3とを収容するプローブヘッド11と、を主に備えている。
【0024】
ここでは、測定対象面Sがコンクリート製の床面である場合を説明する。コンクリートの劣化要因としては、例えば、塩害、中性化、アルカリ骨材反応、化学的劣化などが挙げられる。分光分析装置1で測定する劣化因子の濃度は、塩害を診断する場合は塩化物イオン濃度、中性化を診断する場合は炭酸カルシウム濃度(中性化度)となる。また、アルカリ骨材反応を診断する場合は、例えばアルカリ度やシリカ成分などの濃度、化学的劣化を診断する場合は、例えば酸性成分の濃度や硫酸成分の濃度を、劣化因子の濃度として測定する。
【0025】
光源2としては、劣化因子が吸収ピークを有する波長を含む光を出射するものを用いる。本実施の形態では、測定対象面Sがコンクリートであるため、光源2としては、上述の劣化因子が吸収ピークを有する近赤外線を含む光を出射するもの、例えばハロゲンランプを用いる。
【0026】
受光部3は、光ファイバ6の一端部を光ファイバ固定部材3aに固定し、光ファイバ6の一端部を測定対象面Sに臨ませてなる。光ファイバ6の他端部は、近赤外分光ユニット7内の分光器4に接続される。
【0027】
分光器4は、測定対象面Sからの反射光を分光分析することにより、反射光のスペクトル(劣化因子による吸収スペクトル)を得るものである。分光器4の詳細な構造については、従来技術に属するためここでは説明を省略する。
【0028】
近赤外分光ユニット7は、上述の分光器4と、光源2に電源を供給する光源電源8とを備えている。光源電源8と光源2とは、光源用ケーブル9を介して電気的に接続される。近赤外分光ユニット7にはポータブル電源10が接続されており、ポータブル電源10から分光器4や光源電源8に電源供給するように構成されている。
【0029】
近赤外分光ユニット7と演算手段5とは、例えばUSBケーブルにより接続される。演算手段5は、例えばパソコン(パーソナルコンピュータ)からなり、CPU、メモリ、ソフトウェア、I/Oインターフェイスなどを適宜組み合わせて実現される。演算手段5は、ディスプレイなどの表示器24を備えている。
【0030】
演算手段5は、分光器4が測定した反射光のスペクトルを基に、測定対象面Sにおける劣化因子の濃度を演算する劣化因子濃度演算部25と、後述する移動距離検出手段13を構成する移動距離演算部26と、劣化因子濃度演算部25で得た劣化因子の濃度と、移動距離演算部26で得た移動距離とを関連づけて表示器24に表示させる表示処理部27とを有している。
【0031】
劣化因子濃度演算部25は、分光器4が測定した反射光のスペクトルを基に、ケモメトリックス手法を用いて、測定対象面Sにおける劣化因子の濃度を演算するようにされる。ケモメトリックス手法については従来技術に属するため説明を省略するが、測定対象面Sがコンクリートである場合、例えば、塩化物イオンによる吸収ピークは中性化により消滅することが知られており、このような影響を除いて正確に劣化因子の濃度を測定するためには、ケモメトリックス手法は必須である。
【0032】
また、本実施の形態では、劣化因子濃度演算部25は、移動距離演算部26が求めた移動距離(プローブヘッド11の移動距離)を監視し、予め設定された測定間隔ごとに、劣化因子の濃度の演算を行うようにされる。測定間隔については、要求される精度に応じて適宜設定すればよい。
【0033】
さて、本実施の形態に係る分光分析装置1では、プローブヘッド11は、測定対象面Sに対する光源2と受光部3の位置関係を一定に保ちつつ、光源2と受光部3を測定対象面Sに沿って移動させる移動機構12と、光源2と受光部3の測定対象面Sに沿った移動距離を検出する移動距離検出手段13と、を有している。
【0034】
移動機構12は、光源2と受光部3を固定する本体フレーム14に回転自在に設けられると共に、本体フレーム14の下方に突出して設けられ、当該突出部を測定対象面Sに当接させて、本体フレーム14と測定対象面Sとの距離を一定に保つ複数(ここでは4つ)のタイヤ15を有している。なお、タイヤ15の数については特に限定するものではないが、測定対象面Sに対する本体フレーム14の位置関係を一定に保つためには、タイヤ15の数は3つ以上であることが望ましい。
【0035】
移動距離検出手段13は、タイヤ15の回転角度を検出して出力するエンコーダ16と、エンコーダ16からの出力に基づき、タイヤ15の回転による移動距離を演算する移動距離演算部26と、を有している。エンコーダ16としては、例えばロータリエンコーダを用いることができる。移動距離演算部26は、演算手段5に搭載される。エンコーダ16は、エンコーダ用ケーブル17により近赤外分光ユニット7に電気的に接続され、エンコーダ用ケーブル17、近赤外分光ユニット7を介して演算手段5に電気的に接続される。
【0036】
本体フレーム14の上部には、本体フレーム14の上部を覆うように本体ケース18が設けられ、その本体ケース18内に光源2と受光部3が収容される。また、本体フレーム14の下部には、本体フレーム14と測定対象面Sとの隙間に外部からの光が侵入するのを防ぐためのスカート19が設けられる。これら本体ケース18、スカート19を設けることにより、本体ケース18とスカート19により区画された空間に、ノイズの要因となる外部からの光(太陽光など)が侵入してしまうことを防止できる。スカート19は、例えば、黒色のゴムからなる。
【0037】
本体ケース18の上部には、棒状の操作ポール20が設けられる。操作ポール20の上部には、グリップ21が設けられており、作業者はこの操作ポール20を用いてプローブヘッド11を測定対象面Sに沿って移動させつつ、測定作業を行うことになる。
【0038】
操作ポール20には、押しボタンスイッチ22が設けられており、押しボタンスイッチ22は、スイッチ用ケーブル23により近赤外分光ユニット7に電気的に接続され、スイッチ用ケーブル23、近赤外分光ユニット7を介して演算手段5に電気的に接続される。本実施の形態では、演算手段5の劣化因子濃度演算部25、移動距離演算部26、および表示処理部27を、押しボタンスイッチ22が押されている間だけ動作するように構成した。つまり、本実施の形態では、押しボタンスイッチ22が押されている間だけ測定が行われることとした。
【0039】
操作ポール20は中空筒状に形成されており、光ファイバ6、光源用ケーブル9、エンコーダ用ケーブル17、スイッチ用ケーブル23は、操作ポール20の中空部を通して操作ポール20の上方に引き出されるようにされる。操作ポール20の上方に引き出された光ファイバ6、光源用ケーブル9、エンコーダ用ケーブル17、スイッチ用ケーブル23は、測定作業の邪魔にならないよう束ねられ、近赤外分光ユニット7にそれぞれ接続される。
【0040】
次に、プローブヘッド11の各部の構造について図2〜9を用いてより詳細に説明する。なお、図2(a),(b)では、図の簡略化のため、光ファイバ6、光源用ケーブル9、エンコーダ用ケーブル17、スイッチ用ケーブル23を省略している。
【0041】
図2および図3に示すように、本体フレーム14は、並列に配置した2本の横枠31間に、2本のリブ32を架け渡してなる。2本のリブ32は、横枠31の両端部にそれぞれボルト33により固定される。リブ32には、複数の取り付け穴34が形成されており、この取り付け穴34に、後述するガイドプレート52や角度目盛りプレート53を固定するようにされる。両横枠31の内側の面(対向面)、および両リブ32の内側の面(対向面)には、ネジ止めによりスカート19が固定される。
【0042】
図2および図4に示すように、本体フレーム14の両横枠31の両端部には、それぞれタイヤ15が回転自在に設けられる。本実施の形態では、図4における左側に設けられる2つのタイヤ15の車軸を共通とし、その共通の車軸41に平歯車42を設けると共に、その平歯車42と噛合するように、エンコーダ16の検出軸43と一体に設けられた歯車44を配置することで、車軸41の回転をエンコーダ16で検出できるように構成した。タイヤ15としては、プローブヘッド11を移動させた際にスリップしないよう、ゴム製のものを用いることが望ましい。なお、図4における右側のタイヤ15については、スリップしてもエンコーダ16の検出値に大きな影響を及ぼさないので、安価なアクリルタイヤなどを用いても問題ない。
【0043】
図2に示すように、本体フレーム14の上部には、下方が開放した箱状の本体ケース18が固定される。本体ケース18の上部(上面の略中央部)には、貫通孔18aが設けられている。
【0044】
本体ケース18の上部には、ネジ止めにより操作ポール20が固定される。操作ポール20は、中空筒状に形成されており、その中空部20aが本体ケース18の貫通孔18aと連通するように、本体ケース18に固定される。操作ポール20の中空部20aの他端は、キャップ20bにより塞がれる。キャップ20bには、ケーブル類(光ファイバ6、光源用ケーブル9、エンコーダ用ケーブル17、スイッチ用ケーブル23)を通すための孔20cが形成される。なお、本実施の形態では、操作ポール20を固定の長さとしているが、操作ポール20を伸縮自在に構成し、長さを調節できるようにしてもよい。
【0045】
また、図2に示すように、プローブヘッド11は、光源2と受光部3の測定対象面Sに対する角度をそれぞれ調節して固定するための角度調節機構51を有している。角度調節機構51は、ガイドプレート52と、角度目盛りプレート53と、光源用ホルダ54と、受光部用ホルダ55と、ガイドスライダ56と、調整ハンドル57と、を有している。
【0046】
図2および図5に示すように、ガイドプレート52は、円弧状に形成された板状の部材からなり、その両端部に側面視でL字状のアングル60をネジ止めにより固定し、そのアングル60をリブ32の取り付け穴34にネジ止めすることにより、本体フレーム14に固定される。ガイドプレート52は、その円弧状の形状における径方向の中央部に、円弧状の形状における周方向に沿って凹状のガイド溝58が形成されており、さらに、そのガイド溝58には、円弧状の形状における周方向に沿って所定長さに形成された2つの貫通孔59が左右対称(図2(a)、あるいは図5(a),(b)における左右方向に対して左右対称)に形成される。
【0047】
図2および図6に示すように、角度目盛りプレート53は、円弧状に形成された板状の部材からなり、その表面に角度目盛りが設けられたものである。角度目盛りプレート53は、その両端部に側面視でL字状のアングル61をネジ止めにより固定し、そのアングル61をリブ32の取り付け穴34にネジ止めすることにより、本体フレーム14に固定される。角度目盛りプレート53は、ガイドプレート52のガイド溝58を形成した側に、所定の間隔をもって配置される。
【0048】
図2および図7に示すように、光源用ホルダ54は、光源2を保持する光源保持部54aと、光源保持部54aの端部から垂直に上方に延び、ガイドプレート52に当接して固定される固定部54bとからなり、側面視でL字状に形成される。固定部54bには、その略中央部に貫通孔54cが形成されている。
【0049】
図2および図8に示すように、受光部用ホルダ55は、受光部3(光ファイバ固定部材3a)を保持する受光部保持部55aと、受光部保持部55aの端部から垂直に上方に延び、ガイドプレート52に当接して固定される固定部55bとからなり、側面視でL字状に形成される。固定部55bには、その略中央部に貫通孔55cが形成されている。
【0050】
図2および図9に示すように、ガイドスライダ56は、板状の部材の一方の面に、ガイドプレート52のガイド溝58に係合する突起56aが形成され、他方の面に、光源用ホルダ54の固定部54bまたは受光部用ホルダ55の固定部55bを係合するホルダ用溝56bを形成したものである。突起56aは、ガイドプレート52のガイド溝58の形状にあわせて円弧状に形成されており、その略中央部には、突起56aを貫通するように貫通孔56cが形成されている。光源用ホルダ54の固定部54bを、ガイドスライダ56のホルダ用溝56bに係合して、ガイドスライダ56を光源用ホルダ54に取りつけると、図9(d)のようになる。この状態で、ガイドスライダ56の突起56aをガイドプレート52のガイド溝58に係合すると、光源2が、光源用ホルダ54、ガイドスライダ56、ガイドプレート52を介して本体フレーム14に取りつけられることになる。受光部3についても同様である。
【0051】
図2(b)に示すように、調整ハンドル57は、その先端部がボルト状に形成されており、ガイドプレート52に光源2を取り付けた後、調整ハンドル57のボルト状の先端部を、ガイドプレート52の貫通孔59、ガイドスライダ56の貫通孔56c、光源用ホルダ54の貫通孔54cを順次通し、光源用ホルダ54側からメネジ62を螺合して締結すると、光源用ホルダ54がガイドプレート52に固定される。調整ハンドル57とメネジ62の締結を緩めると、光源用ホルダ54がガイドプレート52のガイド溝58に沿って移動可能となり、光源2の測定対象面Sに対する角度を調整することができる。受光部3についても同様である。
【0052】
光源2と受光部3の測定対象面Sに対する角度は、受光部3における受光感度を考慮して適宜設定すればよく、例えば、45度程度とすればよい。この場合、光源2と受光部3がなす角度は90度程度になる。
【0053】
次に、分光分析装置1の動作を説明する。
【0054】
分光分析装置1を用いて測定対象面Sの劣化因子の濃度を測定する際は、まず、光源電源8から光源2に電源供給して光源2を点灯させ、プローブヘッド11を測定対象面Sに配置した後、押しボタンスイッチ22を押しながら、測定対象面Sに沿ってプローブヘッド11を移動させる。プローブヘッド11を移動させる速度は特に規定するものではないが、例えば、1mを10〜20秒程度かけて移動させるようにすればよい。
【0055】
押しボタンスイッチ22を押しながらプローブヘッド11を移動させると、エンコーダ16からのタイヤ15の回転角度の信号に基づき、演算手段5の移動距離演算部26がプローブヘッド11の移動距離を求める。
【0056】
演算手段5の劣化因子濃度演算部25は、移動距離演算部26が求めたプローブヘッド11の移動距離を監視し、予め設定された測定間隔ごとに、劣化因子の濃度の演算を行う。具体的には、予め設定された測定間隔ごとに、分光器4にて、受光部3で受光した測定対象面Sからの反射光のスペクトルを測定し、得られた反射光のスペクトルを基に、ケモメトリックス手法を用いて劣化因子の濃度を求める。劣化因子濃度演算部25は、劣化因子濃度演算部25で得た劣化因子の濃度と、移動距離演算部26で得た移動距離とを関連づけてメモリに記憶させる。
【0057】
表示処理部27は、メモリに記憶されたデータを基に、劣化因子の濃度と移動距離とを関連づけて表示器24に表示させる。表示形式は特に限定するものではないが、例えば、横軸を移動距離、縦軸を劣化因子の濃度としたグラフ表示としてもよいし、また、色によって劣化因子の濃度の大小を表示したカラーコンター図として表示するようにしてもよい。
【0058】
所望の移動距離プローブヘッド11を移動させた後、押しボタンスイッチ22を離せば、測定が終了する。
【0059】
以上説明したように、本実施の形態に係る分光分析装置1では、測定対象面Sに対する光源2と受光部3の位置関係を一定に保ちつつ、光源2と受光部3を測定対象面Sに沿って移動させる移動機構12と、光源2と受光部3の測定対象面Sに沿った移動距離を検出する移動距離検出手段13と、を有するプローブヘッド11を備えている。
【0060】
移動機構12を備えることにより、プローブヘッド11を移動させて測定位置を走査させ、連続的に劣化因子の濃度を測定することが可能になる。つまり、従来の分光分析装置では、測定位置ごとに点での測定しかできなかったが、本発明によれば、連続的に線で測定することができ、効率的な測定作業を行うことが可能となる。また、移動機構12により測定対象面Sに対する光源2と受光部3の位置関係を一定に保つことで、測定位置ごとに測定条件が変わってしまうことがなくなり、人による誤差を発生しにくくし、均一な環境下で測定を行うことが可能になる。
【0061】
さらに、移動距離検出手段13を備えることにより、測定位置の情報(プローブヘッド11の移動距離)を得ることが可能となり、測定した劣化因子の濃度と測定位置(移動距離)とを関連づけた2次元的な測定が可能となる。
【0062】
また、分光分析装置1では、本体フレーム14の上部を覆うように本体ケース18を設けると共に、本体ケース18内に光源2と受光部3を収容するようにし、かつ、本体フレーム14の下部に、本体フレーム14と測定対象面Sとの隙間に外部からの光が侵入するのを防ぐためのスカート19を設けている。
【0063】
これにより、本体ケース18とスカート19により区画された空間に、ノイズの要因となる外部からの光(太陽光など)が侵入してしまうことを防止でき、高い精度で劣化因子の濃度を測定することが可能になる。特に、測定対象面Sが屋外にある場合には有効である。また、ノイズの要因を抑制できるため、光源2としてコンパクトな光源(例えば4.5W程度)を用いることが可能になる。なお、本体ケース18やスカート19を設けず、開放状態で測定を行う場合は、光源として1500W程度の大きな光源が必要となる。
【0064】
さらに、分光分析装置1では、プローブヘッド11を簡易な構造で実現でき、また光源2としてもコンパクトなものを用いることができるため、プローブヘッド11を小型化し、軽量化することができる。具体的には、本体ケース18のサイズを、幅150mm、奥行き65mm、高さ81mm程度とすることができる(なお、操作ポール20長さは任意に設定できるが、例えば、操作ポール20を含めたプローブヘッド11全体の高さは50cm程度である)。よって、プローブヘッド11の持ち運びが容易となり、利便性が向上する。
【0065】
さらにまた、分光分析装置1では、操作ポール20を中空筒状に形成し、その中空部20aにケーブル類(光ファイバ6、光源用ケーブル9、エンコーダ用ケーブル17、スイッチ用ケーブル23)を通して、操作ポール20の上方にケーブル類を引き出すようにしている。これにより、例えば、近赤外分光ユニット7やポータブル電源10、演算手段5をバックパック等に収容して、そのバックパックを背負って作業者が測定作業を行うような場合、ケーブル類が測定作業の邪魔になることがなく、作業性を向上できる。
【0066】
上記実施の形態では、プローブヘッド11を1つのみ用いる場合を説明したが、図10に示すように、プローブヘッド11を複数並列に配置してプローブヘッドスタック100を形成し、プローブヘッドスタック100の各プローブヘッド11を用いて、複数の測定位置での劣化因子の濃度を一括して測定するようにしてもよい。
【0067】
この場合、プローブヘッド11ごとに分光器4を設けるようにしてもよいし、あるいは、共通の1つの分光器4を用い、時分割でスイッチングして各プローブヘッド11に対応した測定位置での劣化因子の濃度を順次求めるようにしてもよい。プローブヘッドスタック100を形成することにより、短時間で広い面積を一気に測定することが可能となり、作業効率を格段に向上させることが可能になる。なお、プローブヘッドスタック100を用いる場合、表示器24での表示形式としては、視覚的に認識しやすくするため、色によって劣化因子の濃度の大小を表示するカラーコンター図を用いることが望ましい。
【0068】
また、図10では、各プローブヘッド11ごとに本体フレーム14や本体ケース18、タイヤ15等を備える場合を示しているが、これらは共通とすることも可能である。具体的には、例えば、1つの大きな本体フレームを形成し、各プローブヘッド11ごとに仕切られた大きな本体ケースを設ける、といった構成としてもよい。
【0069】
さらに、上記実施の形態では、演算手段5の劣化因子濃度演算部25にて、ケモメトリックス手法により劣化因子の濃度を求める場合を説明したが、測定対象面Sがコンクリートではなく、例えば塗装(塗膜)や鉄である場合、ケモメトリックス手法を用いずに、差スペクトル法などを用いることも可能である。
【0070】
また、上記実施の形態では、押しボタンスイッチ22を押している間に測定を行い、押しボタンスイッチ22を離すと測定を終了することとしたが、これに限らず、例えば、押しボタンスイッチ22を一度押せば測定開始、もう一度押せば測定終了としてもよい。また、測定開始のスイッチと測定終了のスイッチを別に設けるようにしてもよい。
【0071】
さらに、上記実施の形態では、速度を規制する手段について言及しなかったが、所定の速度以上でプローブヘッド11を動かすことができないように、速度規制手段をプローブヘッド11に備えてもよい。これは、プローブヘッド11を速く動かしすぎると、精度よく劣化因子の濃度を測定できないおそれがあるためである。速度規制手段としては、例えば、タイヤ15にブレーキなどの制動手段を設けると共に、演算手段5に、エンコーダ16の出力からプローブヘッド11の移動速度を演算し、得られたプローブヘッド11の移動速度が所定のしきい値以上であれば、制動手段を作動させる制動制御部を搭載することが考えられる。
【0072】
また、上記実施の形態では、プローブヘッド11を手動で動かす場合を説明したが、プローブヘッド11にモータなどを搭載し、プローブヘッド11を自動で移動可能に構成してもよい。ただし、この場合、プローブヘッド11の重量が重くなり、大型化にもつながるので、小型化や軽量化の観点からは、手動とすることが望ましい。
【0073】
さらに、上記実施の形態では、分光器4を近赤外分光ユニット7内に設けているが、分光器4をプローブヘッド11に搭載することも可能である。ただし、この場合も、プローブヘッド11の重量が重くなり、大型化にもつながるので、小型化や軽量化の観点からは、分光器4をプローブヘッド11に搭載せず、別体とすることが望ましい。
【0074】
なお、上記実施の形態では、測定対象面Sが床面である場合を説明したが、当然ながら、本発明は、床面に限らず、壁面や天井面についても適用可能である。
【0075】
このように、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0076】
1 分光分析装置
2 光源
3 受光部
4 分光器
5 演算手段
6 光ファイバ
7 近赤外分光ユニット
8 光源電源
9 光源用ケーブル
10 ポータブル電源
11 プローブヘッド
12 移動機構
13 移動距離検出手段
14 本体フレーム
15 タイヤ
16 エンコーダ
17 エンコーダ用ケーブル
18 本体ケース
19 スカート
20 操作ポール
21 グリップ
22 押しボタンスイッチ
23 スイッチ用ケーブル
24 表示器
25 劣化因子濃度演算部
26 移動距離演算部
27 表示処理部
S 測定対象面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象面に光を照射する光源と、前記測定対象面からの反射光を受光する受光部と、該受光部で受光した反射光のスペクトルを測定する分光器と、該分光器で測定した反射光のスペクトルを基に、前記測定対象面における劣化因子の濃度を演算する演算手段とを備えた分光分析装置において、
前記光源と前記受光部とを収容するプローブヘッドを備え、
前記プローブヘッドは、
前記測定対象面に対する前記光源と前記受光部の位置関係を一定に保ちつつ、前記光源と前記受光部を前記測定対象面に沿って移動させる移動機構と、
前記光源と前記受光部の前記測定対象面に沿った移動距離を検出する移動距離検出手段と、を有することを特徴とする分光分析装置。
【請求項2】
前記移動機構は、前記光源と前記受光部を固定する本体フレームに回転自在に設けられると共に、前記本体フレームの下方に突出して設けられ、当該突出部を前記測定対象面に当接させて、前記本体フレームと前記測定対象面との距離を一定に保つ複数のタイヤを有し、
前記移動距離検出手段は、前記タイヤの回転角度を検出して出力するエンコーダと、該エンコーダからの出力に基づき、前記タイヤの回転による移動距離を演算する移動距離演算部と、を有する請求項1記載の分光分析装置。
【請求項3】
前記本体フレームの上部を覆うように本体ケースを設けると共に、該本体ケース内に前記光源と前記受光部を収容するようにし、
かつ、前記本体フレームの下部に、前記本体フレームと前記測定対象面との隙間に外部からの光が侵入するのを防ぐためのスカートを設けた請求項2記載の分光分析装置。
【請求項4】
前記プローブヘッドは、前記光源と前記受光部の前記測定対象面に対する角度をそれぞれ調節して固定するための角度調節機構をさらに有する請求項1〜3いずれかに記載の分光分析装置。
【請求項5】
前記測定対象面がコンクリートであり、前記光源として近赤外線を含む光を出射するものを用いる請求項1〜4いずれかに記載の分光分析装置。
【請求項6】
前記演算手段は、前記反射光のスペクトルを基に、ケモメトリックス手法を用いて、前記測定対象面における劣化因子の濃度を演算するようにされる請求項1〜5いずれかに記載の分光分析装置。
【請求項7】
前記プローブヘッドを複数並列に配置したプローブヘッドスタックを備え、該プローブヘッドスタックの各プローブヘッドを用いて、複数の測定位置での劣化因子の濃度を一括して測定するようにした請求項1〜6いずれかに記載の分光分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−242376(P2011−242376A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117474(P2010−117474)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(509338994)株式会社IHIインフラシステム (104)
【出願人】(000198318)株式会社IHI検査計測 (132)
【Fターム(参考)】