分光方法及び分光装置
【課題】試料の光吸収係数を高感度で測定する装置を実現する。
【解決手段】リングダウン分光装置は、波長可変フェムト秒ソリトンパルス光源1を用いる。パルス光は、第1光伝送路4、光切換スイッチ5を介して、ループ状の光ファイバー6に入力する。リングダウンパルス光は、光切換スイッチ5を介して、ホモダイン検波器40に入力する。一方、第1光伝送路4を伝搬するパルス光は、光方向性結合器8、第1光スイッチ素子12を介して、第2光伝送路20を構成する各光伝送路に分岐入力される。この第2光伝送路20を伝搬するパルス光が参照光として、ホモダイン検波器40に入力して、同期検波される。第2光伝送路20を構成する複数の光伝送路の光路長は、光ファイバー6の長さだけ、順次、異なると共に、それぞれの光伝送路は、光路長を微小変動させることができる。
【解決手段】リングダウン分光装置は、波長可変フェムト秒ソリトンパルス光源1を用いる。パルス光は、第1光伝送路4、光切換スイッチ5を介して、ループ状の光ファイバー6に入力する。リングダウンパルス光は、光切換スイッチ5を介して、ホモダイン検波器40に入力する。一方、第1光伝送路4を伝搬するパルス光は、光方向性結合器8、第1光スイッチ素子12を介して、第2光伝送路20を構成する各光伝送路に分岐入力される。この第2光伝送路20を伝搬するパルス光が参照光として、ホモダイン検波器40に入力して、同期検波される。第2光伝送路20を構成する複数の光伝送路の光路長は、光ファイバー6の長さだけ、順次、異なると共に、それぞれの光伝送路は、光路長を微小変動させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の表面に形成された薄膜又は基板等の表面に吸着された化学種を高感度で分析したり、試料の光吸収特性を測定する分光方法及び分光装置に関する。また、光ファイバーを用いた分光方法及び分光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基板等の表面に形成された薄膜或いは基板等の表面吸着された化学種を分析する方法としては、赤外分光分析が幅広く用いられている。これは、各原子間結合等が赤外領域に特定の吸収波長(波数)を有していることに基づくものである。試料をそのまま、或いは溶液等にしてセルへの充填や岩塩板への挟み込みが可能な場合には、フーリエ変換型赤外分光(FTIR)が常用されている。また、近年、透明基板の表面に形成した薄膜等を、透明基板側から赤外光を全反射させることにより、界面付近の当該薄膜におけるエバネッセント波の吸収を測定する全反射減衰法(ATR)が用いられるようになった。ATRによれば、FTIR等の透過型分析に比較し、30倍程度、感度が向上する。
【0003】
一方、キャビティリングダウン分光(CRD)が近年盛んに開発されている。キャビティリングダウン分光においては、少なくとも2個のミラーによりキャビティを形成し、そのキャビティ内に検査対象物質(試料)を導入し、キャビティ内の試料の光吸収により減衰するリングダウンパルス光を用いて試料を分光分析するものである。キャビティリングダウン分光においては、主として光吸収による光強度の減衰における減衰定数を測定することで、試料の各波長における吸収係数を求め、試料の同定及び定量が行われる。また、下記特許文献3、4に示すように、キャビティに代えてループファイバーにパルス光を循環させ、又は、端面で反射する直線ファイバーにパルス光を往復進行させて、パルス光のリングダウン特性を測定することで物質の吸収特性を得る方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−338037号公報
【特許文献2】特開2001−194299号公報
【特許文献3】特開2004−333337号公報
【特許文献4】USP6,842,548B2
【特許文献5】USP7,012,696B2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、連続して出力されるレーザ光を用いてCRD分析を行う際は、キャビティ内でレーザを共振状態としたのちレーザ入力を遮断して、キャビティからの出力(リングダウン光)を分析する方法が取られていた。
一方、近年、極めてパルス幅の狭い、波長可変のソリトンパルス光源が開発されている。そこで本願発明者らは、この波長可変のソリトンパルス光源等を用いて、新たなCRD分光装置を完成するに至った。
【0006】
また、従来のキャビティリングダウン分光法で用いられているパルス光源は波長が1 μm から2 μm の生体分光を行う上で重要となる近赤外域で連続的に変化する光源及び光学系に対応していなかった。従来の光源はnsオーダのパルス幅があり、パルスが重ならないためにも1cm 以下のキャビティ長にして小型化することができないという問題があった。例えば、5ns の場合キャビティ長は最短でも15cmとなるが、500fs にすると150 μm となる。このようにパルス幅は微小キャビティ化、それによる高速応答現象の観測などに非常に有効となるが、このような広帯域な波長幅、キャビティの微小化に対応していなかった。
【0007】
また、CRDSの高S/N 化のため特許文献1、特許文献5に記載の光ヘテロダイン検出法を用いる方法が発明されているが、超音波変調器や偏光ビームスプリッタ、波長板など波長依存性が大きく、1 μm から2 μm のような広帯域の波長幅に対応する素子はなく、広い波長範囲で、高いS/N での測定が不可能であった。
【0008】
また、上記のいずれのリングダウン分光法においても、リングダウンパルスの減衰特性から試料の吸収特性を求めるものである。したがって、試料の吸収特性に非線形性があると、測定値に誤差が含まれることになり、吸収率の精度が向上しないという問題がある。また、測定精度を向上させるには、リングダウンパルスの測定系において、直線性の良い広いダイナミックレンジを必要とした。
また、測定系での光減衰が存在すると、試料の吸収率は、その測定系の減衰率よりも大きな吸収率でないと測定できないという問題がある。
そこで、本発明者らは、試料と相互作用をする光の振幅を一定値にした状態で、試料の吸収特性を測定することで測定精度を向上させたリングダウン分光ができないかを検討し、本発明を完成させた。
【0009】
また、上記のいずれのリングダウン分光法においても、用いられる光はパルスレーザ光であり、試料の波長吸収特性を求めるには、レーザの波長を変化させて、リングダウン分光する必要があった。
このため、光源には、波長可変パルスレーザを用いる必要があった。
本発明者らは、波長可変パルスレーザを用いることなく、リングダウン分光ができないかを検討し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明の目的は、上記の課題を解決するために成されたものであり、第1の目的は、新たな構成のキャビティリングダウン分光方法及び分光装置を実現することである。
また、第2の目的は、試料と相互作用をする光のリングダウン光の減衰がない状態に光増幅素子の増幅率を設定して、この増幅率や減衰光量から試料の吸収特性を測定できるようにすることである。
また、第3の目的は、波長可変パルスレーザを用いることなくリングダウを実現することである。
また、第4の目的は、測定精度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、光吸収特性を測定すべき試料に光を導く光ファイバーに光を伝搬させて、試料の吸収特性を測定する分光方法において、光ファイバーに光を増幅する増幅素子を設け、光は、ステップ的に減少する光、又は、パルス光であり、増幅素子の増幅率を、試料を設置しない時の光のリングダウン光が減衰しない増幅率に設定した後に、試料を設置してリングダウン光を測定し、そのリングダウン光の減衰特性から試料の吸収率を測定することを特徴とする分光方法である。
【0012】
また、請求項2に係る発明は、光吸収特性を測定すべき試料に光を導く光ファイバーに光を伝搬させて、試料の吸収特性を測定する分光方法において、光ファイバーに光を増幅する増幅素子を設け、光は、ステップ的に減少する光、又は、パルス光であり、試料を設置してリングダウン光を測定し、そのリングダウン光が減衰しないように増幅素子の増幅率を制御し、この増幅率から試料の吸収率を測定することを特徴とする分光方法である。
【0013】
上記の2つの方法において、上記の光ファイバーはループ状に形成して、そのループ状の光ファイバーに光を循環させるようにしても良いし、線状に形成して、その両端面を反射面にして光を往復移動させるようにしても良い。
【0014】
光には、レーザやLED光源を用いることができる。レーザには、通常の半導体レーザ、その他の固体レーザ、気体レーザなど任意のレーザを用いることができる。波長可変レーザを用いることで、試料の波長吸収特性を測定することができる。また、広帯域スーパーコンティニュアム光レーザを用いると、受光素子で受光したリングダウン光の波長解析により、波長吸収特性を求めることができる。
【0015】
光は連続光でも、ステップ的に減少する光、パルス光でも良い。ステップ的に減少する光は、光源自体から出力される光を遮断することで実現しても、パルス出力することで実現しても良い。また、光源から出力される光に対する光ファイバーの光結合をステップ的に減少させる方法、パルス的に結合を増加させる方法を用いることができる。光ファイバーの光結合をステップ的に減少させる場合には、光ファイバーに導入される光の振幅がステップ的に減少することを意味する。
【0016】
パルス的に光結合させる場合には、短いパルス期間の間だけ、光結合させることを意味する。よって、光ファイバーに入射する光の振幅は、ステップ減少関数、又はパルス関数となる。また、光源から出力される光の偏光方向を制御することで、光ファイバーを伝搬する光をステップ減少関数、パルス関数とすることができる。ステップ的に変化させる場合は、偏波方向を急峻にある方向から他の方向に変化させることであり、パルス的に変化させる場合は、偏波方向を急峻にある方向に変化させて、元の偏波方向や他の偏波方向に変化させることを意味する。
【0017】
また、請求項3に記載の発明は、試料の光吸収特性を測定する分光装置において、光吸収特性を測定すべき試料と光とを相互作用させるための光ファイバーと、光を増幅する増幅素子と、光ファイバーを伝搬する光の強度を検出する検出素子と、検出素子により検出された前記光の強度に応じて、増幅素子の増幅率を制御して試料の吸収特性を演算する処理装置とを有し、光は、ステップ的に減少する光、又は、パルス光であり、処理装置は、増幅素子の増幅率を、試料を設置しない時の光のリングダウン光が減衰しない増幅率に設定し、試料を設置してリングダウン光を測定し、そのリングダウン光の減衰特性から試料の吸収率を測定することを特徴とする分光装置である。請求項1の方法発明に対応する。 本発明は、試料と相互作用させる光ファイバーに光を増幅する増幅素子を設けて、その光ファイバーを伝搬する光の強度に応じて、増幅素子の増幅率を設定して試料の吸収特性を測定するようにしたことが特徴である。
【0018】
また、請求項4に記載の発明は、試料の光吸収特性を測定する分光装置において、光吸収特性を測定すべき試料と光とを相互作用させるための光ファイバーと、光を増幅する増幅素子と、光ファイバーを伝搬する光の強度を検出する検出素子と、検出素子により検出された前記光の強度に応じて、増幅素子の増幅率を制御して試料の吸収特性を演算する処理装置とを有し、光は、ステップ的に減少する光、又は、パルス光であり、処理装置は、試料を設置してリングダウン光を測定し、そのリングダウン光が減衰しないように増幅素子の増幅率を設定して、その増幅率から試料の吸収率を測定することを特徴とする分光装置である。請求項2の方法発明に対応する。
【0019】
また、請求項5に記載の発明は、試料の光吸収特性を測定する分光装置において、光吸収特性を測定すべき試料と光とを相互作用させるための光ファイバーと、光を増幅する増幅素子と、光ファイバーを伝搬する光の強度を検出する検出素子と、検出素子により検出された前記光の強度に応じて、増幅素子の増幅率を制御して試料の吸収特性を演算する処理装置とを有し、光は連続光であり、処理装置は、増幅素子の増幅率を光の振幅が所定値となるように制御し、この増幅率から試料の吸収特性を測定すること又はループ状の光ファイバキャビティ内の損失を0 にしてから、試料を設置し、その減衰光量から吸収特性を測定することを特徴とする分光装置である。
【0020】
光を連続光としても、試料の吸収特性を求めることができる。光ファイバーを循環又は往復移動する光の振幅は、光の光ファイバーへの入射量と、試料の吸収による損失量とその他の光ファイバー系の損失量とが、平衡状態になる値に収束する。試料が存在しなければその試料による吸収がないので、光ファイバーを伝搬する光の振幅は、試料が存在する場合に比べて増加する。したがって、この差を用いて、光ファイバーを伝搬する光の振幅が所定値となるように、増幅率を制御することで、この増幅率から試料の吸収特性を測定することができる。
同様に、試料が存在しないとき、光ファイバー系の損失量が0 となるよう光の増幅量を設定しておき、試料が存在する場合の減衰光量から吸収特性を測定することができる。
【0021】
特許請求の範囲の発明の他、本明細書には、下記の発明も記載されている。
第1は、試料の光吸収特性を測定する分光装置において、光吸収特性を測定すべき試料に光を導く光ファイバーと、光ファイバーと光結合しパルス光を伝搬させる第1光伝送路と、光ファイバーを循環又は往復移動するリングダウンパルス光を外部に出力してこのリングダウンパルス光を検出して処理する処理装置と、複数本の光路長の異なる光伝送路から成り、第1光伝送路に対して光分岐して、その分岐点から処理装置に入力するまでの光路長を、光ファイバーの光路長単位で、切り替え制御できる第2光伝送路とから成ることを特徴とする分光装置である。
すなわち、本発明は、各リングダウンパルスが処理装置に到達する時刻と同一時刻に、パルス光が第2伝送路を伝送して処理装置に到達するように、複数本の光伝送路を切り替えるようにしたことが特徴である。
【0022】
また、第2は、第2光伝送路は、1つのパルス光に対して測定すべきリングダウンパルスの数だけの光路長の異なる伝送路で構成されていることを特徴とする分光装置である。
測定対象とする全てのリングダウンパルスに同期させるために、その数の光路長の異なる伝送路が必要となる。
また、第3は、第2光伝送路を構成する複数の光伝送路は、それぞれ、ピエゾチューブスキャナに巻かれた光ファイバーから成ることを特徴とする分光装置である。
ピエゾチューブスキャナに光ファイバーを巻いて光伝送路を構成することにより、ピエゾチューブスキャナを振動させて、実効的な光路長を振動させることで、リングダウンパルスと第2光伝送路を伝搬したパルス光とを処理装置において同期検波させることができる。
【0023】
また、第4は、パルス光は、パルスの幅が1ps以下の短パルス光であることを特徴とする分光装置である。また、パルス幅が500fs以下の極短パルス光を用いることも有効である。
また、第5は、フェムト秒レーザによる近赤外波長可変ソリトンパルス光発生光源による極短パルス光を用いることを特徴とする分光装置である。
また、第6は、広帯域スーパーコンティニュアム光発生光源による極短パルス光を用いることを特徴とするキャビティリングダウン分光装置である。
【0024】
第7は、所定波長であって、各パルスの幅が1ps以下の極短光パルスのパルス列である信号光と、信号光から分岐された参照光とを用い、測定中に、当該参照光の光路長を順次長くして、信号光がキャビティを通過したリングダウン光と参照光との干渉をホモダイン検波することを特徴とするキャビティリングダウン分光分析方法である。各パルスの幅を500fs以下としても良い。
【0025】
また、第8は、フェムト秒レーザによる近赤外波長可変ソリトンパルス光発生光源による極短光パルスのパルス列を用いることを特徴とする。また、第9は、光源として、広帯域スーパーコンティニュアム光発生光源による極短光パルスのパルス列を用いることを特徴とする。
【0026】
第10は、所定波長であって、各パルスの幅が1ps以下の極短光パルス列を発生する光源と、前記光源の出力するパルス列を2つ経路に分岐する光分岐手段と、前記光分岐手段の第1の光出力に接続される2つの高反射ミラーを有し、当該2つの高反射ミラーにより形成される光路に試料を配置可能としたキャビティと、前記光分岐手段の第2の光出力に接続され、光路長を可変とする可変長光路部と、前記キャビティの光出力と前記可変長光路部の光出力の干渉を電気信号として出力するホモダイン検波手段とを有することを特徴とするキャビティリングダウン分光分析装置である。各パルスの幅は500fs以下であっても良い。
【0027】
また、第11は、前記可変長光路部には振動可能且つその位置を可変とする可動ミラーを有することを特徴とする。
【0028】
第12は、光吸収特性を測定すべき試料と相互作用する光ファイバーにパルスレーザ光を導き、試料の光吸収によるリングダウンパルス光を外部に出力してこのリングダウンパルス光の減衰特性から試料の吸収特性を測定することを特徴とする分光方法において、パルスレーザ光をスペクトルが広いレーザ光とし、光ファイバーを強分散光ファイバーとし、リングダウンパルス光のパルス幅を順次広くして、波長に対応した時刻列におけるパルス列のリングダウン減衰定数から波長吸収特性を測定することを特徴とする分光方法である。
上記の光ファイバーはループ状に形成して、そのループ状の光ファイバーに光を循環させるようにしても良いし、線状に形成して、その両端面を反射面にして光を往復移動させるようにしても良い。
【0029】
レーザ光には、例えば、広帯域スーパーコンティニュームレーザ光を用いるのが良い。励起光源には、通常の半導体レーザ、その他の固体レーザ、気体レーザなど任意のレーザを用いることができる。本発明は、スペクトルが広いレーザ光を用い、強分散の光ファイバーを用いて波長毎に位相速度が変化することを利用して、波長毎にリングダウンパルスの周期が異なることを利用したものである。広帯域スーパーコンティニュームレーザ光は、次のように得られる。長さ5m程度の分散シフト高非線形ファイバーに超短パルス幅(例えば、ソリトン波レーザ光)レーザ光を入射させると、1.25μm〜1.95μmの範囲で連続スペクトルを有した広帯域スーパーコンティニュームレーザ光が得られる。また、200mの分散シフト高非線形ファイバーを用いると、1.0μmから2.2μmの範囲で連続スペクトルを有した広帯域スーパーコンティニュームレーザ光が得られる(西澤典彦、後藤俊夫, 固体物理Vol.39 No.10,(2004),pp665-678 )。
【0030】
また、第13は、試料の光吸収特性を測定する分光装置において、光吸収特性を測定すべき試料にレーザパルス光を導く強分散の光ファイバーと、スペクトル幅の広いレーザパルス光を発生するレーザ装置と、光ファイバーを循環又は往復移動するリングダウンパルス光のパルス幅を順次広くして、外部に出力し、このリングダウンパルス光の減衰特性において、波長に対応した時刻列におけるパルス列のリングダウン減衰定数から波長吸収特性を得る処理装置とを有することを特徴とする分光装置である。
レーザ光には、上記と同様に、例えば、広帯域スーパーコンティニュームレーザ光を用いるのが良い。
【0031】
また、第14は、光ファイバーに光結合する第1光伝送路と、その第1光伝送路を光ファイバーに光結合させる方向性光結合素子とを有し、その第1光伝送路の一端にレーザ装置、他端にリングダウンパルス光を受光する処理装置の受光素子を設けたことを特徴とする分光装置である。
【0032】
また、第15は、光ファイバーにおいて方向性光結合素子と異なる位置に配設された他の光結合素子により、リングダウンパルス光を第1光伝送路と異なる第2光伝送路に出力させ、この第2光伝送路に処理装置の受光素子を接続したことを特徴とする分光装置である。
この発明は、レーザ光の導入系統と、リングダウンパルス光の導出系統を別の系統にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
請求項1の方法発明及び請求項3の装置発明では、試料に光を導く光ファイバーに光を増幅する増幅素子を設け、光は、ステップ的に減少する光、又は、パルス光としている。したがって、この光のリングダウン光の減衰特性を測定に用いることができる。増幅素子の増幅率を、試料を設置しない時の光のリングダウン光が減衰しない増幅率に設定することにより、測定系の損失を補償し、その補償状態で試料の吸収率を測定しているので、試料の吸収率の測定精度が向上する。すなわち、本発明では、まず、測定系の損失を補償した状態にして、試料のみの吸収から生じるリングダウン光の減衰特性を測定して、その減衰特性から試料の吸収特性を測定するものである。
【0034】
また、請求項2の方法発明及び請求項4の装置発明では、試料に光を導く光ファイバーに光を増幅する増幅素子を設け、試料を設置してリングダウン光を測定し、そのリングダウン光が減衰しないように増幅素子の増幅率を制御し、この増幅率から試料の吸収率を測定することを特徴とする。
すなわち、試料の光吸収により光はリングダウンするが、このリングダウンを生じないように増幅素子の増幅率をフィードバック制御し、この増幅率から試料の吸収係数を測定するものである。したがって、試料と相互作用する光は、常に、一定の振幅となるので、所定の光強度における吸収特性を求めることができる。すなわち、吸収特性の非線形特性を測定することができる。また、光の振幅を一定としていることから、測定値に誤差が少なく、測定精度が向上する。
【0035】
また、請求項5に記載の発明は、試料に光を導く光ファイバーに光を増幅する増幅素子を設け、光は連続光であり、処理装置は、増幅素子の増幅率を光の振幅が所定値となるように制御し、この増幅率又はリングダウン光の減衰光量から試料の吸収特性を測定している。この場合においても、測定系の損失を補償したり、試料の吸収率を光の強度を一定にして測定することが可能となり、測定精度が向上する。
【0036】
また、特許請求の範囲の上記の発明の他に、明細書に記載されている発明の効果として、以下の効果を有する。第1の発明では、第1光伝送路を伝搬するパルス光は一部分岐して、光ファイバーに入力する。この光ファイバーにおいて、試料による光吸収により、パルス光は順次減衰して、リングダウンパルス光が得られる。このリングダウンパルス光は、光ファイバーから順次、外部に出力されて、処理装置に入力する。一方、第1光伝送路を伝搬するパルス光は、分岐した後、第2光伝送路のうちの選択された一つの光伝送路を伝搬して処理装置に入力する。この時、処理装置においては、あるリングダウンパルス光と、元のパルス光とが同時に到達するようになる。これにより、リングダウンパルス光の同期検波が可能となる。第2光伝送路を構成する光伝送路を変更すれば、その光伝送路の光路長に対応した時間だけ周回したリングダウンパルス光と元のパルス光とは同時に処理装置に入力し、そのリングダウンパルス光の同期検波が可能となる。
【0037】
第2の発明では、第2光伝送路を構成する各伝送路を、パルス光に同期して、順次、選択することにより、所定数のリングダウンパルス光を同期検波することができる。
第3の発明では、第2光伝送路を構成する光伝送路をピエゾチューブスキャナに巻かれた光ファイバーで構成することで、ピエゾチューブスキャナを拡大縮小させて光ファイバーを伸縮させて、電気的に光路長を変化させることができる。ピエゾチューブスキャナを電気的に径の大きさを振動させることにより、光路長をある長さを中心として、ある幅で振動させることができる。そして、その光路長の振動幅の中に、処理装置に到達するリングダウンパルス光と、元のパルス光とを同時に到達させるための光路長を存在させることができる。
【0038】
第4の発明では、パルス光のパルス幅が1ps以下の短パルス光を用いると、光ファイバー長が短くても、同期検波による高感度のキャビティリングダウン分光が可能となる。500fs以下の極短パルス光を用いると更に望ましい。また、同期検波するパルスの幅が狭いことから、測定精度が向上し、装置の小型化も可能となる。このような系は、特に微量分析、例えば薄膜の定性及び定量分析、表面吸着の化学種の同定等に有効である。
第5の発明も、第4の発明と同様な効果を有する。
また、第6の発明では、処理装置において波長分析することにより、試料の波長吸収特性を測定することができる。
【0039】
パルス幅が1ps以下の極短光パルスを用いると、キャビティ長が極めて短いキャビティにおいても、ホモダイン検波による高感度のキャビティリングダウン分光分析が可能となる。このような系は、特に微量分析、例えば薄膜の定性及び定量分析、表面吸着の化学種の同定等に有効である(第7〜11の発明)。パルス幅が500fs以下であっても良い。
【0040】
光パルス列を2系統の光路に分岐し、一方をキャビティに導き、他方を光路長を可変とする可動ミラーを有する光路に導き、当該可変光路長の光路の光パルス列とキャビティによるリングダウン光のパルス列の干渉をホモダイン検波する。可変側の光路長を順次長くし、リングダウン光の光路長と一致するパルスが存在するようにすることで、複数のパルスから、リングダウン光の強度を順に検出することができる。可動ミラーを振動可能として、その上で可動ミラーを移動させれば、「リングダウン光の光路長と一致する」タイミングを多数設けることができ、初期調整が容易で、確実に各リングダウン光をホモダイン検波することが可能となる。
【0041】
第12の方法発明及び第13の装置発明では、スペクトル幅が広いレーザ光を用い、光ファイバーに強分散ファイバーを用いている。強分散光ファイバーは、波長毎に位相速度が変化するので、リングダウンパルス光の周期が波長毎に変化することになる。したがって、リングダウンパルス光は、リングダウン回数が多くなるほど、光ファイバーを伝搬する距離が長くなるので、パルスレーザ光の時間幅は広がる。このリングダウンパルス光列の減衰特性から、波長に対応した時刻列に対応するパルス列のリングダウン減衰係数を求め、各波長での減衰係数を求めることができる。これにより、一度に、波長吸収特性を得ることができ、試料の同定分析が可能となる。
【0042】
第14の装置発明では、一つの方向性光結合素子により、光ファイバーへのパルスレーザ光の入射と、リングダウンパルスの光ファイバーからの取り出しを実現したものである。よって、装置構成が簡単となる。
【0043】
第15の装置発明では、光ファイバーへのパルスレーザ光の入射と、リングダウンパルスの取り出しを、別々の方向性光結合素子で行うようにしているので、レーザ装置から出力されるパルスレーザ光が受光素子に入射することがないので、リングダウンパルスの精度の高い検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1.A】本発明の実施例における同期検波の内容を説明するための第1のグラフ図。
【図1.B】本発明の実施例における同期検波の内容を説明するための第2のグラフ図。
【図1.C】本発明の実施例における同期検波の内容を説明するための第3のグラフ図。
【図1.D】本発明の実施例における同期検波の内容を説明するための第4のグラフ図。
【図1.E】本発明の実施例における同期検波の内容を説明するための第5のグラフ図。
【図2】本発明の具体的な一実施例に係るリングダウン分光装置の構成を示すブロック図。
【図3】本発明の具体的な実施例2に係るリングダウン分光装置の構成を示すブロック図。
【図4】実施例2の分光装置を用いて、遅延路を3m、30mとして、空気とメタノールの吸収率を測定した時の干渉波形を示す測定図。
【図5】実施例2の分光装置によりメタノールの吸収率を、濃度変化させて測定した時の吸収率のメタノール濃度に対する特性を示した測定図。
【図6】本発明の具体的な実施例3に係るキャビティリングダウン分光分析装置300の構成を示すブロック図。
【図7】キャビティ領域に試料を表面に付着させた基板を配置する3つの方法を示す構成図。
【図8】図6に示す実施例3の装置によって得られたレーザの干渉波形を示す特性図。
【図9】実施例3の装置において用いられるスーパーコンティニューム光のスペクトルを示した特性図。
【図10】実施例3の装置において図9に示すスペクトルを有するスーパーコンティニューム光を用いた場合のレーザの干渉波形を示した特性図。
【図11】本発明の具体的な実施例4に係る装置を示した構成図。
【図12】本発明の具体的な実施例5に係る装置を示した構成図。
【図13】実施例5の装置において用いられた半導体光増幅器の電源への注入電流を変化させたときの半導体光増幅器の増幅率を計測した結果を示す特性図。
【図14.A】実施例5の装置において半導体光増幅器を用いない場合に、長い光遅延光路を用いることのできない理由を説明した特性図。
【図14.B】実施例5の装置において半導体光増幅器を挿入して光を増幅することで、光遅延光路長に対する干渉強度が改善されることを示した特性図。
【図14.C】実施例5の装置において半導体光増幅器を挿入して光を増幅することにより、吸収係数の測定精度を向上させるために使用可能な光遅延光路長が拡大できることを示した説明図。
【図15】本発明の具体的な実施例6に係る装置を示した構成図。
【図16】実施例6の装置によって得られたレーザの干渉波形を示す特性図。(a)は試料による吸収がない場合を示し、(b)は試料による吸収が存在する場合を示す。
【図17】本発明の具体的な実施例7に係る装置を示した構成図。
【図18】本発明の具体的な実施例8に係る装置を示した構成図。
【図19】本発明の具体的な実施例9に係る装置を示した構成図。
【図20】本発明の具体的な実施例12に係る装置を示した構成図。
【図21】実施例12の装置における動作を説明するためのリングダウンパルス波形を示した波形図。
【図22】強分散特性を有した光ファイバーにおける波長と伝搬遅延時間との関係を示した特性図。
【図23】本発明の具体的な実施例13に係る装置を示した構成図。
【図24】本発明の具体的な実施例14に係る装置を示した構成図。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の具体例を図面を参照しながら説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。まず、本願実施例における同期検波について説明する。
【0046】
実施の形態1
まず、ループ状の光ファイバーにパルス光が循環される。この光ファイバーと試料とが相互作用し、試料による光吸収によりパルス光が順次、減衰し、リングダウンパルス光(パルス列)が得られ、このリングダウンパルス光が外部の処理装置に入力される。ループ状の光ファイバーの光路長をLとおくと、各リングダウンパルス光の光路長の差は、Lとなり、光の速度をcとおけば隣り合うリングダウンパルス光との時間間隔はL/cとなる。即ち、図1.Aに示す通り、処理装置に入力するパルス光は、光ファイバーを循環せずに、直接、入射する透過光S1、S2、S3、S4、…がある。また、処理装置には、透過光S1の時間L/c後には、ループ状の光ファイバーを一巡して光出力される1回リングダウンパルス光L11が、更に、そのパルス光L11の時間L/c後には、光ファイバーを2巡して光出力される2回リングダウンパルス光L12が、順次、入力する。このように、時間L/c間隔でリングダウンパルス光が、光ファイバーから順次、出力されて、処理装置に、順次、入力される。これは透過光S2、S3、S4及びそれらのリングダウンパルス光についても同様であり、光ファイバーの光路長Lとパルス間隔Tpを調整することで、1つの透過光に続くリングダウンパルス光の組が、次の透過光とは重ならないようにすることは容易である。以下、透過光(試料による吸収がないパルス光)とリングダウンパルス光とを信号光と言う。
【0047】
一方、ループ状の光ファイバーとは別の経路である第2光伝送路を、パルス光は伝搬して処理装置に入力する。このパルス光を、以下、参照光(reference )と言う。この参照光を用いて透過光を含むリングダウンパルス光が同期検波される。具体例としては、ホモダイン検波、差動検波など、信号光と参照光との相関に基づく検波方式を用いることができる。今、参照光の伝搬経路の光路長を、透過光の伝搬経路の光路長と完全に一致させたとすると、参照光と透過光の同期検波は、透過光の振幅と参照光の振幅との積を振幅とするパルスとなる。この時の検波出力をAとおく。次に、参照光の伝搬経路の光路長を1回リングダウン光の伝搬経路の光路長と完全に一致させたとすると、参照光と信号光の同期検波は、参照光と信号光との積、すなわち、参照光の振幅が信号光の振幅で変調されたパルスとなる。この時の、検波出力はαA(0<α<1)となる。以下同様に、参照光の光路長をn回リングダウンパルス光の光路長と完全に一致させたとすると、検波出力はαnA(0<α<1)となる。
【0048】
しかし、参照光の伝搬経路の光路長を、透過光及び各回リングダウンパルス光の伝搬経路の光路長に完全に一致させることは必ずしも容易ではない。これはパルス幅の短い信号光を用いることから来る困難性ではある。そこで、参照光の伝搬経路に、その光路長を基準光路長に対して振動的に変化可能とするピエゾチューブスキャナに巻かれた光ファイバーなどのような光伝送路を設ける。すると、ピエゾチューブスキャナの振動により、参照光の隣り合うパルスは異なる光路長を経由することとなり、参照光のパルス間隔は、基準光路長でのパルス間隔に対して、光路長が長くなる方向に変動する過程では、パルス間隔は長くなり、逆に、光路長が短くなる方向に変動する過程では、パルス間隔は短くなる。この時、この光路長の振動振幅aを、光ファイバーの光路長Lよりも短くすると、隣り合うリングダウンパルス光との時間間隔L/cよりも、参照光のパルス間隔の変化によるパルス光の処理装置への入力時刻の変化a/cを小さくすることができる。このようにして、所望のパルス周波数(パルス間隔)を有する信号光を分岐した参照光の伝搬経路の光路長を、基準光路長に対して振動させることで、参照光の光路長を、透過光及び各回リングダウンパルス光の伝搬経路の光路長にほとんど完全に一致させることが容易に達成できる。
【0049】
図1.B以下において、具体的な数値を例示して、本願実施例における2つのパルス列の同期検波について説明する。信号光を、パルスが幅100fs(1×10-13秒)、パルス間隔が2×10-8秒(パルス周波数50MHz)のパルス光とし、参照光が伝搬する第2光伝送路のピエゾチューブスキャナーの振動周波数を80Hzとする。また、第2光伝送路の基準光路長において、参照光の光路長は信号光の光路長と一致するものとする。また、第2光伝送路の振動振幅は、光路長にして±2mm振動するものとする。
【0050】
光路長xの時間関数は、x=2sin160πt+x0 とおける。x0 は基準光路長である。光路長の変化速度v(mm/秒)は、v=320πcos160πtとなり、単振動の中心付近で考えると、t=0ではv=1000mm/秒である。すると参照光のパルス間隔2×10-8秒の間に、光路長は2×10-8mだけ変化する。これは第2光伝送路を伝搬する参照光のパルス間隔が、6.67×10-17秒長く又は短くなることを意味する。
【0051】
すると、例えば、処理装置において、信号光と第2光伝送路を通過した参照光とで、第0番目のパルスが図1.Bのように丁度パルス幅の1×10-13秒だけズレており、参照光のパルスの時刻の方が早く、参照光のパルス間隔が信号光のパルス間隔よりも6.67×10-17秒長いとすると、1×10-13秒÷6.67×10-17秒=1500であるので、1500パルス目で参照光のパルスと信号光のパルスが一致し、3000パルス目では信号光と参照光とで、丁度パルス幅の1×10-13秒だけズレ、参照光のパルスの時刻の方が遅くなる。信号光のパルス間隔は2×10-8秒であるので、第0パルスと第3000パルスの時間間隔は6×10-5秒である。なお、この間の光路長の長さの変化は60μmである。
【0052】
このような信号光と参照光とを干渉させて同期検波すると、図1.Cのような出力が得られる。図1.Bの状態の3000パルスの間は信号光と参照光とに干渉が生じ、第0パルスで丁度0、第1500パルスで最大、第3000パルスで丁度0となるので、この間は図1.Cの包絡線(点線で示した)の下側に2999本のピークが得られる。この包絡線とその下側の2999本のピークは、6×10-5秒の間存在し、第2光伝送路の光路長が元の長さに戻る0.025秒後までは存在しない。即ち、包絡線とその下側の3000本のピークは、0.025秒間隔で6×10-5秒の間存在し、それ以外の時刻では存在しない。
【0053】
これを「巨視的」に見ると、幅6×10-5秒の極めて鋭いピークが0.0125秒間隔で生じることになる(図1.D)。以上は、パルスの波形が図1.Bのような方形波状でなくても、また、単振動の中心から可なり広い範囲においても同様に言える。
また、図1.Bの第1500パルスと前後のパルスの干渉の差については、例えば1.63μmの波長では1パルスに18.4波存在し、2π/80の位相差と小さい。すると包絡線のピーク付近の複数組の信号光と参照光の干渉は、包絡線のピークの強度に略等しい強度を生じるので、信号光と参照光とで、パルスの位相が完全に一致するように調整する必要もない。また、第2光伝送路を構成する各光伝送路の基準光路長を各リングダウンパルス光の光路長に正確に一致させる必要はなく、両者には、およそ光路長の振動幅(上記例では、±2mm)以下の誤差があっても良い。すなわち、光路長が振動する範囲において、リングダウンパルス光の光路長と参照光の光路長とが一致すれば良い。
【0054】
したがって、第2光伝送路の第0番目の光伝送路の基準光路長は、図1.Aの透過光S1、S2、S3、S4、…の光路長に対して、光路長の振動振幅分の誤差をもって一致させれば良い。同様に、第2光伝送路の第1番目の光伝送路の基準光路長は、図1.Aの1回リングダウンパルス光L11、L21、L31、L41、…の光路長に対して、光路長の振動振幅分の誤差をもって一致させれば良い。同様に、第2光伝送路の第2番目の光伝送路の基準光路長は、図1.Aの2回リングダウンパルス光L12、L22、L32、L42、…の光路長に対して、光路長の振動振幅分の誤差をもって一致させれば良い。同様に、第2光伝送路の第n番目の光伝送路の基準光路長は、図1.Aのn回リングダウン光L1n、L2n、L3n、L4n、…の光路長に対して、光路長の振動振幅分の誤差をもって一致させれば良い。このように第2光伝送路を構成する各光伝送路の光路長を設計すると、図1.Eのように、透過光と第0番目の光伝送路を伝搬した参照光との同期検波、1回リングダウンパルス光と第1番目の光伝送路を伝搬した参照光との同期検波、2回リングダウンパルス光と第2番目の光伝送路を伝搬した参照光との同期検波、…、n回リングダウンパルス光との第n番目の光伝送路を伝搬した参照光との同期検波は、それぞれ、複数個の幅6×10-5秒の極めて鋭いパルス群となる。
【実施例1】
【0055】
図2は本発明の具体的な一実施例に係るループ状の長さ150m位の光ファイバーを用いたリングダウン分光装置100の構成を示すブロック図である。分光装置100は、波長可変フェムト秒ソリトンパルス光源1、1/2波長板2、球レンズ3a、光ファイバから成る第1光伝送路4を有している。この第1光伝送路4は、光切換スイッチ5を介して、ループ状の光ファイバー6と結合している。ループ状の光ファイバー6には、光ファイバー6を伝搬するパルス光と相互作用をする試料10が結合している。また、この光ファイバー6には、試料10の光吸収によるリングダウンパルス光の減衰定数を適性にするために、光増幅器7が設けられている。この光増幅器7は、なくとも良いが、これを用いて、リングダウンパルス光を適性に増幅することで、精度及び感度の高い試料の光吸収特性を測定することが可能となる。第1光伝送路4はファイバーカップラ30を介して、ホモダイン検波器40に接続されている。ホモダイン検波器40の出力する同期検波信号(図1.E)は、デジタル処理装置50によりA/D変換されて、リングダウンパルス光の減衰定数が演算されて、試料の吸収特性が測定される。
【0056】
一方、第1光伝送路4には、光方向性結合器8が設けられており、その分岐端子には、第1光スイッチ素子12が接続されている。第1光スイッチ素子12は、第1光伝送路4から分岐されるパルス光をn+1本の基準光路長が異なる光伝送路に選択的に分岐させる素子である。n+1本のピエゾチューブスキャナー15に巻かれた光ファイバーから成る光伝送路200,201,202,…,20nが設けられており、これらは電気信号によるピエゾ効果により実効的に光路長が変化する伝送路である。具体的には、振幅を2mmとした。これらのn+1本の光伝送路の集合が第2光伝送路20である。これらの第2光伝送路20のそれぞれは、第2光スイッチ素子13を介してファイバーカップラー30に入力している。
【0057】
波長可変フェムト秒ソリトンパルス光源1としては、Erドープファイバを用いたフェムト秒パルスレーザを使用する。パルス幅は10〜500fsが好ましい。本実施例ではパルス幅を100fs、パルス間隔を20ns(パルス周波数50MHz)とした。また、波長としては1630nmの光ソリトンを用いた。もちろん1ps程度のパルス光であっても良い。
【0058】
光伝送路200,201,…,20nの各基準光路長は、光方向性結合器8とファイバーカップラー30間の第1光伝送路4の実効的な光路長L1 +L2 とし、光ファイバー6の一周の長さをLすると、L1 +L2 +nL(n=0,1,2…)に設定されている。すなわち、隣接する伝送路の基準光路長は、光ファイバー6の一周の長さLだけ異なっている。
【0059】
以上説明した図2の構成で、透過光の検波する場合に、第1光スイッチ素子12と第2光スイッチ素子13と切換制御して、第0番目の光伝送路200を選択する。1回リングダウンパルス光を同期検波する場合には、第1番目の光伝送路201を選択する。同様に、n回リングダウンパルス光を同期検波する場合には、第n番目の光伝送路20nを選択する。このように各光伝送路を切換制御して、且つ、各光伝送路の光路長を実効的に振動させることで、図1.Eのような同期検波波形を得ることができる。そして、その同期検波波形から各組の強度比を算出する。そして、各リングダウン回数に対する振幅の減衰特性から減衰定数が測定される。本実施例はホモダイン検波と同様の原理により高感度検出することが可能である。実際、ATR法に比して500倍の感度(最低検出量が1/500)を得ることができた。
【0060】
〔変形例〕
上記実施例では、第1光伝送路4を光ファイバー6へのパルス光の入射用の伝送路と、光ファイバー6からリングダウンパルス光を取り出す出力用の伝送路と共用させている。しかし、出力用の光伝送路を別に設けて、光ファイバー6の光切換スイッチ5との位置とは別の位置で光方向性結合器を介して、この出力用の光伝送路に、リングダウンパルス光を出力させるようにしても良い。この出力用の光伝送路と、第2光伝送路20は、共に、ホモダイン検波器40に入力するが、このホモダイン検波器40までのリングダウンパルス光の光路長と、第2光伝送路20を伝搬する参照光の光路長とが上記した関係になるように設定すれば良い。
【0061】
上記実施例では、光ファイバー6をループ状に構成しているが、これを直線又は曲線にしても良い。すなわち、直線状の光ファイバーを光切換スイッチ5により第1光伝送路4と結合させる。そして、光ファイバーの両端を鏡面として、光を反射させるようにする。このようにしても、ループでない直線状や曲線状の光ファイバーを往復進行するリングダウンパルス光を外部に出力して、そのパルス光の光路長と、光路長が実効的に等しい第2光伝送路を伝搬する参照光との間で、同期検波するようにしても良い。
原理は、上記と同様である。
【0062】
また、本発明では、光ファイバー6の長さを長くすることで、パルス光のパルス幅をそれほど狭くすることはない。
本発明を適用する光源としては、スーパーコンティニュアム光源を用いても良い。スーパーコンティニューム光源から特定波長の情報を得るには、各干渉波形(パルス)を高速フーリエ変換し、各パルスの特定波長の強度を求め、それらの減衰時定数から求めればよい。
【実施例2】
【0063】
実施例2の装置を図3に示す。実施例1の装置を示す図2における素子と同一機能を有する素子には、同一符号を付した。波長1.55μm のfsレーザ光源1を用い、図2の光ファイバー6に相当するループ状の光ファイバ(キャビティに相当)の長さを3mとした。fsレーザ光源1からのレーザは、光方向性結合器8により第1光伝送路4と光ファイバ遅延線路210−213側へとに分岐される。光ファイバ遅延線路側に分岐されたレーザは光方向性結合器54を介して微小幅だけ変位する駆動ミラー53に入力し、そのミラー53で反射したレーザが光方向性結合器54を介して、光ファイバ遅延線路210−213に入射する。駆動ミラー53は、実施例1のピエゾチューブスキャナー15と同一機能を有しており、レーザの光路長を微小幅で振動させる。光ファイバ遅延線路210−213は、それぞれ、3、30,60、180mの光路長を持つファイバから構成されている。光スイッチ12、13で切り替えて、任意の一つの光ファイバ遅延線路が選択されるようになっている。光ファイバ遅延線路210〜213を伝搬したレーザと、光ファイバ6から出力されるリングダウン光との干渉波形は、バランス型ホモダイン検波器40で検出される。図2ではループ状の光ファイバ6への結合に光スイッチ5を用いていたが、本実施例では、可変レシオカプラ51を用いた。試料測定用のヘッド部52には光ファイバコア近くまで研磨して作製した物を用いた。このヘッド52は光ファイバ6内を伝搬する光のエバネッセント波又は近接場光と試料とが相互作用することで、試料の吸収測定を可能とする。
【0064】
図4に3m の光ファイバ遅延線路と30m の光ファイバ遅延線路における干渉波形を示す。試料には純水とメタノールを用いた。3m、30mでもメタノールの方が干渉強度が低くなり、純水より大きな吸収があることが分かる。光ファイバ遅延線路を30mとして、メタノール濃度を変化させて干渉強度をから導出された吸収率の変化を図5に示す。試料のメタノールはヘッド部52に10μL 滴下して測定した。ここで用いたヘッド部52の実効光路長は約1mm であったので計算からはメタノールのような吸収係数が2cm-1(波長1.55μmにおいて)と比較的大きい試料の場合、2fL の極微量の試料で十分な測定が可能であることが分かる。
【0065】
また、メタノールは吸収係数が比較的大きいため、キャビティに相当する光ファイバの10倍の光路長である30mの光ファイバ遅延線路でも大きな吸収係数が測定できた。メタノールの場合、計算からは約2kmの光ファイバ遅延線路で3ppm、2fL のエタノールの測定が可能となる。
【0066】
さらに吸収係数が小さな試料の場合も大きな吸光度が観測されないため、感度を上げるためにさらに長い光ファイバ遅延線路での測定が必要となる。
このような測定を光路長が異なる光ファイバ遅延線路を切り替えて測定することにより、濃度の高い試料から非常に濃度の小さい試料まで測定が可能となり、波長可変ソリトンパルス光源を用いれば吸収係数の測定が約1 μmから約2 μmの波長範囲にわたって測定が可能となる。
【0067】
実施の形態2
キャビティを形成する2つのミラー間の光路をLとおくと、パルス状の各リングダウン光は光路長の差が2Lとなり、光の速度をcとおけば隣り合うリングダウン光との時間間隔は2L/cである。即ち、図1.Aに示す通り、キャビティから出力される光パルスは、ミラー間で反射されない透過光S1、S2、S3、S4、…がある。また、透過光S1の時間2L/c後には、2つのミラーで1度ずつ反射されて光出力される1回リングダウン光L11が、更にその時間2L/c後には、2つのミラーで2度ずつ反射されて光出力される2回リングダウン光L12が、と順に、時間2L/c間隔でリングダウン光が出力される。これは透過光S2、S3、S4についても同様であり、2つのミラー間の光路Lとパルス間隔Tpを調整することで、1つの透過光に続くリングダウン光の組が、次の透過光とは重ならないようにすることは容易である。
【0068】
一方、別経路を経由して参照光(reference)が、信号光であるリングダウン光の組を従えた透過光のパルスとホモダイン検波される。今、参照光の光路長を透過光の光路長と完全に一致させたとすると、参照光と信号光のホモダイン検波は、参照光のパルスと同一となる。この時の検波出力をAとおく。次に、参照光の光路長を1回リングダウン光の光路長と完全に一致させたとすると、参照光と信号光のホモダイン検波は、また参照光のパルスと同一となる。この時の、検波出力はαA(0<α<1)となる。以下同様に、参照光の光路長をn回リングダウン光の光路長と完全に一致させたとすると、参照光と信号光のホモダイン検波は、また参照光のパルスと同一となって、検波出力はαnA(0<α<1)となる。
【0069】
しかし、参照光の光路長を、透過光、各回リングダウン光の光路長に完全に一致させることは必ずしも容易ではない。これはパルス幅の短い信号光を用いることから来る困難性ではある。そこで、参照光の光路に振動可能な可動ミラーを設ける。すると、可動ミラーの振動により、参照光の隣り合うパルスは異なる光路長を経由することとなり、ミラーにより反射された参照光のパルス間隔は、反射前よりも長く又は短くなる。この時、この可動ミラーの振幅aを、キャビティを形成する2つのミラー間の光路Lよりも短くすると、隣り合うリングダウン光との時間間隔2L/cよりも、参照光のパルス間隔の変化によるパルスの時刻の変化2a/cを小さくすることができる。こうして、所望のパルス周波数(パルス間隔)を有する信号光を分岐した参照光の光路長を、振動可能な可動ミラーにより振動させることで、参照光の光路長を、透過光、各回リングダウン光の光路長にほとんど完全に一致させることが容易に達成できる。
【0070】
本実施の形態においても、原理は実施の形態1で示したのと同様に、図1.B以下において、具体的な数値を例示して、本願実施例における2つのパルス列の干渉について説明する。信号光を、パルスが幅100fs(1×10-13秒)、パルス間隔が2×10-8秒(パルス周波数50MHz)とし、参照光の途中に置いた振動可能なミラーの振動周波数を20Hzとおく。また、当該ミラーの振動中心において、参照光の光路長は信号光の光路長と一致するものとする。またミラーはその位置から±4mm振動するものとする。
【0071】
ミラーの位置を振動中心を時刻t秒においてとしてx(mm)とし、t=0でx=0とすると、x=4sin40πtとおける。ミラーの速度v(mm/秒)は、v=160πcos40πtとなり、t=0でv=500mm/秒。するとパルス間隔が2×10-8秒の参照光の2つのパルスが到達する間にミラーは1×10-8m移動するので、光路差は2×10-8mとなる。これはミラーで反射された参照光のパルス間隔が、反射前に比べて6.67×10-17秒長く又は短くなることを意味する。
【0072】
すると、例えば、信号光と反射後の参照光とで、第0番目のパルスが図1.Bのように丁度パルス幅の1×10-13秒だけズレており、反射後の参照光側のパルスの時刻の方が早く、反射後の参照光側のパルス間隔が信号光のパルス間隔よりも6.67×10-17秒長いとすると、1×10-13秒÷6.67×10-17秒=1500であるので、1500パルス目で反射後の参照光側のパルスと信号光のパルスが一致し、3000パルス目では信号光と反射後の参照光とで、丁度パルス幅の1×10-13秒だけズレ、反射後の参照光側のパルスの時刻の方が遅くなる。信号光のパルス間隔は2×10-8秒であるので、第0パルスと第3000パルスの時間間隔は6×10-5秒である。
【0073】
このような信号光と反射後の参照光とを干渉させてホモダイン検波すると、図1.Cのような出力が得られる。図1.Bの状態の3000パルスの間は信号光と反射後の参照光とに干渉が生じ、第0パルスで丁度0、第1500パルスで最大、第3000パルスで丁度0なので、この間は図1.Cの包絡線(点線で示した)の下側に2999本のピークが得られる。この包絡線とその下側の2999本のピークは、6×10-5秒の間存在し、ミラーが元の位置に戻る0.05秒後までは存在しない。即ち、包絡線とその下側の3000本のピークは、0.05秒間隔で6×10-5秒の間存在し、それ以外の時刻では存在しない。
【0074】
これを「巨視的」に見ると、幅6×10-5秒の極めて鋭いピークが0.05秒間隔で生じることになる(図1.D)。以上は、パルスの波形が図1.Bのような方形波状でなくても当然に同様に生じる。また、図1.Bの第1500パルスと前後のパルスの干渉の差については、例えば1.63μmの波長では1パルスに18.4波存在し、2π/80の位相差と小さい。すると包絡線のピーク付近の複数組の信号光と反射後の参照光の干渉は、包絡線のピークの強度に略等しい強度を生じるので、信号光と参照光の反射光とで、パルスの位相が完全に一致するように調整する必要もない。また、ミラーの振動中心の位置についても、そこで反射される参照光の光路長が、信号光の光路長と完全に一致するよう調整する必要もない。即ち、ミラーの振動する範囲に、反射される参照光の光路長として、信号光の光路長と完全に一致する位置があれば良い。よって、ミラーの振動周波数及び振幅に対し、十分高いパルス周波数のパルス列を参照光の経路に導くことで、信号光とのホモダイン検波を容易に行うことができる。
【0075】
このように、光路長がほとんど一致していれば良いのであるから、振動するミラーを光路の方向に移動させても、「振動中に光路長が一致」する箇所が複数箇所存在しさえすればホモダイン検波が容易にできる。すると、振動するミラーの振動中心が、図1.Aの透過光S1、S2、S3、S4、…の光路長に参照光の光路長が一致する位置、図1.Aの1回リングダウン光L11、L21、L31、L41、…の光路長に参照光の光路長が一致する位置、図1.Aの2回リングダウン光L12、L22、L32、L42、…の光路長に参照光の光路長が一致する位置、…、図1.Aのn回リングダウン光L1n、L2n、L3n、L4n、…の光路長に参照光の光路長が一致する位置、と移動させるならば、図1.Eのように、透過光との干渉、1回リングダウン光との干渉、2回リングダウン光との干渉、…、n回リングダウン光との干渉を、各々複数個の幅6×10-5秒の極めて鋭いピークとして検出することができる。
【実施例3】
【0076】
図6は本発明の具体的な一実施例に係るキャビティリングダウン分光分析装置300の構成を示すブロック図である。キャビティリングダウン分光分析装置300は、波長可変フェムト秒ソリトンパルス光源301、1/2波長板302、球レンズ303a、偏波保持ファイバ304、球レンズ303b、ビームスプリッタ(光分岐手段)305、偏光ビームスプリッタ306、1/4波長板307、位置を可変とすると共に振動させるガルバノミラー308を有する。シグナル光(信号光)は、波長可変フェムト秒ソリトンパルス光源301、1/2波長板302、球レンズ303a、偏波保持ファイバ304及び球レンズ303bを経て、ビームスプリッタ305からキャビティを形成する高反射ミラー311及び312に導かれ、リングダウン光が両凸レンズ321に至る。同時に、リファレンス光(参照光)は、同様にビームスプリッタ305に達した後、偏光ビームスプリッタ306及び1/4波長板307を経て、位置を可変とすると共に振動可能なガルバノミラー308にて反射されて、1/4波長板を経て偏光ビームスプリッタ306から両凸レンズ322に至る。両凸レンズ321に至ったシグナル光は光ファイバ331を介し、両凸レンズ321に至ったレファレンス光は光ファイバ332を介し、いずれもファイバカプラ330に導かれ、光ファイバ331’及び332’を介してバランス型検出器340(ホモダイン検波手段)に導かれる。バランス型検出器340の出力する電気信号をA/D変換及びデジタル処理装置350にて解析する。
【0077】
キャビティリングダウン分光分析装置300の波長可変フェムト秒ソリトンパルス光源301としては、Erドープファイバを用いたフェムト秒パルスレーザを使用する。パルス幅は10〜500fsが好ましい。本実施例ではパルス幅を100fs、パルス間隔を20ns(パルス周波数50MHz)とした。また、波長としては1630nmの光ソリトンを用いた。
【0078】
ガルバノミラー308は、20Hzにて全幅8mm、紙面内上下方向に振動させる。その上で、ガルバノミラー308を紙面内下方向に300mm移動可能としている。
【0079】
高反射ミラー311及び312により形成されるキャビティ領域は、キャビティ長を35mm、46mmとなるようにした。高反射ミラー311及び312はいずれも反射率が99.8%以上のものを用いた。以上の図6の構成で図1.Eのような波形を検出し、各組の強度比を算出する。また、信号光の透過光の出力される時刻と、各n回リングダウン光の出力される時刻と時間差を別途計算しする。こうして、透過光と各n回リングダウン光の時間差に対して透過光に対する各n回リングダウン光の強度をプロットし、時定数からキャビティに配置されたサンプルの吸収係数を求めた。
【0080】
図6の構成で得られた実際の波形データを図8に示す。この波形は包落線を取る前の干渉波形であるが、光検出器の応答速度が1kHzと遅いため、図1.E で6 ×10-5秒のパルス幅で示したパルス列が一つの大きな干渉パルス波形として観測されている。さらに高速応答の光検出器を用いたバランス型ホモダイン検波器を用いれば図1.E のような波形で測定される。
【0081】
本実施例はホモダイン検波と同様の原理により高感度検出することが可能である。実際、ATR法に比して500倍の感度(最低検出量が1/500)を得ることができた。
【0082】
図7は、キャビティ領域に試料を表面に付着させた基板を配置する3つの方法を示す構成図である。
第1は、図7.Aのように、赤外光を、試料(Obj)を表面に付着させた基板(Sub)をも透過させるものである。この場合、基板は使用する赤外光に対して透明度の高いものを用いることが必要であり、且つ吸収係数及び基板厚さを容易に調整できる必要がある。
第2は、図7.Bのように、赤外光を、試料(Obj)を表面に付着させた基板(Sub)との界面で反射させるものである。この場合、基板は使用する赤外光に対して反射率の高いものを用いることが必要である。基板厚さについては調整する必要は無い。
第3は、図7.Cのように、底面が等脚台形状の角柱型プリズム(Priz)の、等脚台形状の底面の底辺に対応する側面Aに試料を付着させ、等脚台形状の底面の側辺に対応する側面Bから赤外光を導入して、角柱型プリズムの側面Aと、そこに付着させた試料との界面で反射させ、側面Bと対となる等脚台形状の底面の側辺に対応する側面Cから透過させるものである。これは反射点近傍の試料(Obj)によるエバネッセント波の吸収を利用するものである。尚、更には、図3.Cにおいて、高反射ミラー11を側面Bに、高反射ミラー312を側面Cに設けて、プリズム(Priz)内のみをキャビティとして用いても良い。
【0083】
本発明を適用する光源としては、図9に示すようなスペクトルを持つスーパーコンティニューム光を用いてもよい。この光源を用い図6と同様な構成で得られた干渉波形を図10に示す。このような干渉波形から特定波長の吸収係数を求めるには、各干渉波形(パルス)を高速フーリエ変換し、各パルスの特定波長の強度を求め、それらの減衰時定数から求めればよい。
【0084】
実施の形態3
本発明を具体的な実施例に基づいて説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例4】
【0085】
図11に示すように、ループ状の光ファイバー410に対して、光を導入する第1光伝送路412が、方向性光結合素子436により光結合している。また、このループ状の光ファイバー410の伝送路中に試料440が挿入されている。試料440は、光ファイバー410を切断して、端面を対向させ、端面間の空間に設けられている。試料440を光が通過するように構成されている。また、光ファイバー410には、光増幅素子415が設けられている。第1光伝送路412は、光ファイバーで構成されており、その光ファイバーの一端には連続レーザ光を出力できるレーザ装置430が接続されており、他端には検出素子432、検出素子432で受光されたリングダウンパルス光が減衰しないように、光増幅素子415の増幅率を制御し、その増幅率から試料の吸収特性を演算する処理装置434が設けられている。
【0086】
また、第1光伝送路412には、ループ状の光ファイバー410と第1光伝送路412とを光結合させる方向性光結合素子436が設けられている。また、方向性光結合素子436のレーザ光入射側前方には、第2偏光子421が設けられ、検出素子432のレーザ光入射側前方には、第1偏光子422が設けられている。偏光制御素子であるファラデー回転子423が、方向性光結合素子436のレーザ光入射側前方に設けられている。第2偏光子421は、例えば、S偏光成分のみを出力する素子である。ファラデー回転子423は、処理装置434からの制御信号により、伝送路方向に磁場を印加して、偏光を90度回転し、例えば、S偏光からP偏光に変化させる素子である。方向性光結合素子436は、P偏光のみをその進行方向にのみ光フイバー410に分岐する素子である。また、第1偏光子422は、所定方向に偏光した光、例えば、P偏光のみを通過させる素子である。
【0087】
レーザ装置430から出力された連続レーザ光は、第2偏光子421に入射し、S偏光成分のみが第1光伝送路412に出力される。このS偏光の連続レーザ光は、磁場が印加されていないファラデー回転子423を通過して、方向性光結合素子436に入射する。しかし、方向性光結合素子436はP偏光のみを光ファイバー410に分岐するので、この状態では、光ファイバー410にはレーザ光は出力されない。方向性光結合素子436を通過したS偏光の連続レーザ光は、第1偏光子422に入射するが、第1偏光子422はP偏光のみを通過させるので、このS偏光の連続レーザ光は、検出素子432には入射しない。よって、レーザ装置430から出力された連続レーザ光が検出素子432に入射することがなく、検出素子432でのリングダウンパルス光の受光を妨げることがない。
【0088】
処理装置434の出力するパルス制御信号により、ファラデー回転子423にパルス磁場が印加されると、この印加期間だけ、ファラデー回転子423を通過するレーザ光は、S偏光からP偏光に90度位相が回転する。すなわち、ファラデー回転子423の出力では、パルスP偏光が得られ、その期間外は連続したS偏光となる。このパルスP偏光レーザ光が方向性光結合素子436に入射して、光ファイバー410に分岐されて、光ファイバー410を図面上時計回りに循環する。循環する毎に、試料で光吸収が発生し、パルスP偏光レーザ光の振幅が順次減少する。すなわち、P偏光リングダウンパルス光が得られる。このリングダウンパルス光は、循環する毎に、方向性光結合素子436を介して一部の光が第1光伝送路412側に分岐される。P偏光であるので、方向性光結合素子436により第1光伝送路412側に一部分岐されて、第1偏光子422に入射する。第1偏光子422は、P偏光のみ通過させるので、このリングダウンパルス光は、検出素子432に入射する。
【0089】
処理装置434は、この検出素子432で検出されたリングダウンパルス光の振幅が減衰しないように、光増幅素子415の増幅率を制御する。したがって、試料の吸収率と増幅率とが等しくなると、試料440での減衰量だけ、増幅素子で予め増幅されるので、試料を通過するパルス光は、減衰しないようにすることができる。すなわち、パルス光列の振幅が変化しないようにすることができる。この時、光増幅素子415の増幅率は、試料の吸収率の時間変動に追随できれば十分である。この測定を連続レーザ光の波長を変化させて、実行することで、試料の波長吸収特性を得ることができ、試料の原子、分子構造を特定することが可能となる。この場合には、試料に入射する光の振幅を一定にした状態で吸収係数を測定することができるので、非線形効果を排除することができ、正確に、光強度に対する吸収係数を測定することができる。逆に言えば、レーザ光の強度を変化させながら、上記の測定をすれば、試料の吸収係数の非線形特性を求めることも可能となる。
【0090】
また、測定系自体の減衰があるので、現実には、試料が存在しない場合のパルスP偏光レーザ光のリングダウン光を測定して、そのリングダウン光が減衰しないように、上記と同様に、増幅素子の増幅率を制御して、その増幅率から測定系の減衰量を測定することができる。この測定系の減衰量で、上記のように測定した試料の吸収率を補正することで、試料の真正な吸収率を求めることが可能となる。したがって、極めて正確な吸収率の測定が実現される。
【0091】
パルスP偏光レーザ光のリングダウン特性は、横軸をリングダウン回数、縦軸をリングダウンパルス光の振幅として、測定する。この特性において、増幅素子の増幅率を微小量だけ制御して、リングダウンパルス光の振幅が減衰しないように、増幅率をフィードバック制御すれば良い。
【0092】
また、上記の実施例において、方向性光結合素子436は、一般に良く知られたものである。この方向性結合素子により、レーザ光のリングダウンパルス光を光ファイバー410から検出素子432へ取り出すことができる。また、結合率を変化させることで、光ファイバー410を循環する光の強度を調整することができる。これにより、検出素子432で受光される光の減衰幅を調整できるので、同一のダイナミックレンジにより減衰係数を測定することが可能となり、精度を向上させることができる。
【0093】
上記の実施例では、レーザ装置430を連続発振レーザとしているが、これをパルス発振レーザとし、第1偏光子422、第2偏光子421、ファラデー回転子423を無くしても良い。この場合には、パルスレーザ光を第1光伝送路412から方向性光結合素子436を介して、光ファイバー410に入射させることができる。
【実施例5】
【0094】
本実施例は、実施例2の図3に示す装置において光ファイバ6に半導体光増幅器を設けたものである。その装置の構成を図12に示す。図12において光伝送路412、ループ状の光ファイバー410、試料440の挿入位置、検出素子432、処理装置434の構成は実施例4と同じである。レーザ装置430にはパルスレーザを用い、第1偏光子422、第2偏光子421、ファラデー回転子423は用いない。
【0095】
この実施例では、パルスレーザとして波長1.55μmの半導体レーザ430を用い電流変調によりパルス発振させた。リングダウンパルス光を高S/N で取得するために、バランス型ホモダイン検波器440を用いた。そのため、実施例4とは異なり、図3に示す実施例2の装置のように、パルスレーザを1×2の光方向性結合器408でパルスレーザの光を2分岐し、一方は、実施例4と同様に第1光伝送路404を介してループ状の光ファイバー410に可変レシオカプラ450を介して導入されるが、他方はホモダイン検波用の参照信号として光ファイバ遅延線路460−463に導入される。
【0096】
試料440の挿入位置には、光ファイバの側面をコア近傍まで研磨し、ファイバ内の光のエバネッセント波又は近接場光が試料と相互作用するヘッド452が挿入されている。このヘッド452が設けられている光ファイバー410から周回して可変レシオカプラ450を介して、試料と相互作用(吸収を受けた)した信号光は2×1の光方向性結合器470に導入される。参照信号は1×4光スイッチ472を通して4種類の長さの異なる光ファイバ遅延線路のどれか一本を通って4×1光スイッチ473を介して、2×1の光方向性結合器470に入射する。光方向性結合器470に導入された信号光と参照光はちょうど参照光側の光路長がループ状の光路の整数倍近傍になったときに干渉する。そのため参照光側に微小変位用駆動ミラー453が挿入され、ミラー453を駆動することで、ホモダイン検波器には干渉波形が導入され、高いS/N で検波される。他の構成は図3と同様である。
【0097】
ループ状の光ファイバー410には増幅素子415が挿入されており、本実施例では半導体増幅器(SOA )415を用いた。この増幅素子415はSOA に限定されるものではなく、Erなど希土類を用いた光ファイバーアンプなどを用いても良い。fsレーザのような先頭出力の高いレーザを用いた場合は、SOA では増幅が困難なため、光ファイバーアンプが適している。
【0098】
SOA 電源への注入電流を変化させたときのSOA の増幅率を計測した結果を図13に示す。この図13からわかるようにSOA を用いることで、信号を16dB 程度増幅できる。このSOA の増幅率を0dB (増幅率1)として、光ファイバーの遅延光路長を30m、60m、180mと変化させたときの信号強度は図14.Aのようになる。図14.Aの黒丸はヘッドに試料がなにも無い場合の光路長に対する干渉強度である。光ファイバのヘッドやSOA や光コネクタなどの挿入損失により、大きく減衰している。この状態で20% のメタノールをヘッドに10μL 滴下して、光ファイバー内の光からもれ出るエバネッセント波がメタノールの吸収を受けた場合干渉強度は図14.Aの三角印のように吸収分だけ干渉強度が弱くなる。ホモダイン検波器のノイズレベルが点線のレベルとした場合、光遅延光路長60m以上では信号がノイズに埋もれ、高感度な計測が不可能となる。
【0099】
一方、SOA の増幅率を調整して、ループ状ファイバ内の損失を補正した場合、図14.Bのように、ヘッドに試料が無いときの干渉強度はSOA の増幅率を1としたときの三角印から黒丸となり、光遅延線路の光路長を長くしても干渉強度が変化しないように補正することができる。この状態で試料がヘッドに存在するときはその吸収を受けて、干渉強度は図14.Cの三角印のようになる。この場合図14.Bの三角印と異なり60m以上でも干渉強度がノイズレベル以下とならない。本実施例では最長の光遅延線路の光路長を180mとしているが、数km以上の光遅延線路でも測定が可能であり、非常に吸光度の小さな試料を測定できる。
【実施例6】
【0100】
次に図15にCWレーザを用いる実施例を示す。実施例5で示した図12と同様の装置構成で、レーザ装置のみCW発振の半導体レーザに変えることで、同様な測定が可能となる。光遅延光路長を変えた時の干渉強度はパルス発振と同様に適当に増幅率を調整することで、3mの光路長でも180mの光路長でも図16(a) のような干渉がミラーを駆動することでホモダイン検波器により観測される。この状態でヘッド部に吸収がある試料が存在すると、図16(b) のような干渉波形が得られ、これらの干渉の減衰率から吸収特性を高感度に測定できる。この場合図16(b) のような吸収を受けた干渉波形を適当に増幅率を上げて、図16(a) と同じ干渉強度とし、このときの増幅率から、吸収特性を求めても良い。
【実施例7】
【0101】
実施形態3
次に、本発明の具体的な実施例である実施例7について説明する。図17において、第1光伝送路412、ループ状の光ファイバー410、試料440の挿入位置、検出素子432、処理装置434の構成は、実施例4と同一である。レーザ装置430にはパルスレーザを用い、第1偏光子422、第2偏光子421、ファラデー回転子423は用いない。
【0102】
この実施例では、光ファイバー410に対するレーザ光の入力系統と、レーザ光の出力系統とを分離した例である。入力系統は、光を透過も反射もさせない終端子424が第1光伝送路の終端に接続されている。新たに設けられたレーザ光の出力系統として、光ファイバー410に光結合する第2の方向性光結合素子437、第2の方向性光結合素子437によって光ファイバー410と結合する第2光伝送路413、終端子425が設けられている。そして、第2光伝送路413の一端に検出素子432を接続している。
【0103】
本実施例では、レーザ装置430から出力されるパルスレーザ光が第1光伝送路を伝搬し、方向性光結合素子436を介して光ファイバー410に分岐し、光ファイバー410を循環する。光ファイバー410を循環するリングダウンパルス光は、第2の方向性光結合素子437、第2光伝送路413を介して、検出素子432に入射する。この検出素子432に入射したパルスレーザ光の振幅が減衰しないように、光増幅素子437の増幅率が、処理装置434によりフィードバック制御される。そして、その増幅素子の増幅率から試料の吸収係数が演算される。この場合には、入力系統と出力系統とが分離されているので、出力系統である第2光伝送路413には、偏光子や、偏光性の方向性結合素子を用いる必要がない。
【実施例8】
【0104】
上記実施例では、光ファイバー410をループ状に構成しているが、図18に示すように、これを直線又は曲線にしても良い。すなわち、直線状の光ファイバー490を方向性光結合素子436により第1光伝送路412と結合させる。そして、光ファイバー490の両端は鏡面442、443として、光を反射させるようにする。このようにしても、ループでない直線状や曲線状の光ファイバー490を往復進行するパルス光を検出素子432側に出力することができる。この時、方向性光結合素子436の機能により、光ファイバー490を試料440側に伝搬するリングダウンパルス光のみを第1光伝送路412に出力させて、検出素子432に入射させることができる。
【実施例9】
【0105】
本実施例は、図19に示すように、実施例7の構成において、第1偏光子422、第2偏光子421、偏光制御素子であるファラデー回転子423を排除し、方向性光結合素子436に代えて、光結合制御素子であるピエゾ駆動結合率可変カプラ436を設けたことが特徴である。他の構成は、実施例7と同一である。ピエゾ駆動結合率可変カプラ436は、電気光学効果を用いて結合率を制御する素子であり、電圧を印加することで、光結合率を制御できる素子である。ピエゾ駆動結合率可変カプラ436にパルス電圧を印加して、パルス的に結合率を高くすることで、光ファイバー410には、パルス光を入射させることができる。このパルス光のリングダウン特性が受光素子432により検出されることは、実施例7と同一である。
また、光結合制御素子としては、ピエゾ駆動結合率可変カプラに代えて、光スイッチとしても良い。すなわち、第1光伝送路412から光ファイバー410への接続と遮断とを高速で行える光スイッチ素子で構成しても、パルス光又はステップ減少光を光ファバー410に入射させることができる。
【実施例10】
【0106】
全実施例において、次のようにした実施例が考えられる。試料440を設置しない状態で、リングダウン光の減衰がないように光増幅素子の増幅率をフィードバック制御する。次に、試料440を設置して、リングダウン光の減衰特性を測定し、この特性から減衰定数を測定する。この場合には、リングダウン光の減衰特性には、測定系による減衰は排除されているので、試料だけの吸収係数を正確に求めることができる。
【実施例11】
【0107】
上記の実施例4−実施例10の実施例において、光ファイバー410,490を伝搬する光をパルス光に代えて、ステップ減少する光としても良い。この場合には、実施例4においては、処理装置434の出力する連続制御信号により、ファラデー回転子423に連続磁場が印加される。この結果、第2偏光子421から出力されるS偏光の連続レーザ光は、ファラデー回転子423により、P偏光に変換される。P偏光レーザ光が方向性光結合素子436を介して、光ファイバー410,490に入射する。次に、連続制御信号を遮断して、ファラデー回転子423への磁場の印加を停止する。すると、ファラデー回転子423の出力は、S偏光の連続レーザ光となり、この光は光ファイバー410、490には入射しない。したがって、光ファイバー410、490においては、P偏光レーザ光の振幅がステップ的に減少することになる。このステップ減少する光のリングダウン光を検出して、その光が減衰しないように、増幅素子415の増幅率をフィードバック制御する。この増幅率に基づいて試料の吸収率を測定することができる。
【0108】
また、実施例7、8においては、レーザ装置430を連続レーザとして、第1光伝送路412にシャッターを設けて、このシャッターにより急峻にレーザ光の伝搬を遮断するようにしても良い。また、レーザの発振自体を急峻に停止させるようにしても良い。このようにしてもステップ減少するレーザ光を光ファイバー10,100に伝搬させることができる。実施例9においては、初期状態において、ピエゾ駆動結合率可変カプラ436により、第1光伝送路412と光ファイバー410との結合率を大きくしておき、光ファイバー410,490に連続レーザ光を入射させる。次に、ピエゾ駆動結合率可変カプラ436を制御して、第1光伝送路412と光ファイバー410との結合率をステップ的に減少させる。すると、光ファイバー410,490への連続レーザ光の入射がステップ的に遮断されることになる。このステップ減少する光のリングダウン光を検出して、その光が減衰しないように増幅素子415の増幅率をフィードバック制御する。この増幅率に基づいて試料の吸収率を測定することができる。
【0109】
また、実施例4乃至10の全実施例において、方向性光結合素子436に代えて、光スイッチを用いても良い。すなわち、第1光伝送路412と、光ファイバー410,490とを、光の伝搬方向に結合させるモードと、光ファイバー410,490を閉じた状態にするモードと、光ファイバー410,490を伝搬した光を第1光伝送路412の下流側に伝搬させるモードとを切り替えることができる光スイッチを用いても良い。リングダウンパルス光の周期に同期して、スイッチ端子を切り替える光スイッチ素子としても良い。
【0110】
また、増幅率は試料440が存在しない場合の増幅素子415の増幅率に固定しておき、試料440が存在する場合の検出素子432で測定される減衰光量から試料440の吸収測定を測定することもできる。
【0111】
また、図17に示す実施例7において、連続レーザ光を光ファイバー410に導入しても良い。連続レーザ光を用いた場合には、試料440が存在しない場合の増幅素子415の増幅率は小さく、試料440が存在する場合にはそれによる光吸収のために増幅素子415の増幅率は大きくなる。この増幅率の差により試料40の吸収特性を測定することができる。
【0112】
上記したように、試料を通過するレーザ光の振幅が減衰しないようにフィードバック制御する場合には、レーザ光の強度が所定値の場合における試料の光吸収係数を測定することができ、測定精度を向上させることができる。また、レーザ光は光ファイバーや光学系での損失が無視できるレベルまで増幅されるので、S/N比を向上させて試料だけの損失を精度良く測定することができる。
【0113】
実施形態4
本発明を具体的な実施例に基づいて説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例12】
【0114】
図20に示すように、ループ状の光ファイバー510に対して、光を導入する第1光伝送路512が、方向性光結合素子536により光結合している。また、このループ状の光ファイバー510の伝送路中に試料540が挿入されている。試料540は、光ファイバー510を切断して、端面を対向させ、端面間の空間に設けられている。試料540を光が通過するように構成されている。第1光伝送路512は、光ファイバーで構成されており、その光ファイバーの一端には広帯域スーパーコンティニューム光レーザ装置530が接続されており、他端には受光素子532、受光素子532で受光されたリングダウンパルス光から減衰係数を演算する処理装置534が設けられている。発明の処理装置は、受光素子532と処理装置534とで構成されている。広帯域スーパーコンティニューム光レーザ装置530は、光ファイバーの非線形性やラマン増幅を用いて、広帯域スーパーコンティニュームレーザ光を出力する装置である。広帯域スーパーコンティニュームレーザ光については、例えば、西澤典彦、後藤俊夫, 固体物理Vol.39 No.10,(2004),pp665-678 により周知である。
【0115】
また、第1光伝送路512には、ループ状の光ファイバー510と第1光伝送路512とを光結合させる方向性光結合素子536が設けられている。方向性光結合素子536は、第1光伝送路512を伝搬した光を進行方向にのみ光フイバー510に分岐し、光ファイバー510を伝搬した光を進行方向にのみ第1光伝送路512に分岐する素子である。第1光伝送路512からパルスレーザ光が光ファイバー510に導入されると、パルスレーザ光は光ファイバー510を循環し、試料540を通過する毎に、その振幅が、順次、減少し、リングダウンパルス光が得られる。このリングダウンパルス光が、方向性光結合素子536を介して、光ファイバー510から第1光伝送路512へ出力される。
【0116】
このリングダウンパルス光のリングダウン減衰係数を、受光素子532、処理装置534で測定することで、試料の減衰係数を測定することが可能となる。この測定をレーザ光の各波長に対して実行することで、試料の波長吸収特性を得ることができ、試料の原子、分子構造を特定することが可能となる。
【0117】
光ファイバー510をシングルモード高分散ファイバーとした場合の波長と1m当たりの伝搬遅延時間との関係を図22のSMFで示す。波長が1.33μmから1.94μmに変化すると、伝搬遅延時間は13ps/mだけ変化する。したがって、光ファイバー510の長さを1kmとすると、波長が1.33μmから1.94μmに変化すると、遅延時間は13nsだけ変化することになる。すなわち、波長1.33μm〜1.94μmの広帯域スーパコンティニューム光を用いると、1回のリングダウンパルス毎に、パルス幅は、13nsだけ広くなる。例えば、パルスレーザ光に波長1.33μm〜1.94μmの広帯域スーパコンティニュームでフェムト秒レーザ光(100fs(1×10-13 sec))を用いると、1回目のリングダウンパルスの幅は13nsとなり、2回目のリングダウンパルスの幅は26nsとなり、3回目のリングダパルスの幅は39nsとなる。こられのリングダウンパルスを図示すると図21のようになる。
【0118】
このフェムト秒レーザ光のパルス周期を3kHzとすると、1周期の間に100回のリングダウンパルスを許容することができる。100回のリングダウンがあっても、パルス幅は1.3μsとなり、隣接するリングダンウパルスの間隔が3.3μsであるので、それらが重なることはない。受光素子32で受光した図21に示すようなリングダウンパルスを微小時間間隔でサンプリングして、その値を一端記憶する。なお、図21に示す1パルスレーザ光についてのリングダンウパルスを一度にサンプリングできないのであれば、3kHzでパルスレーザ光は繰り返されているので、同一波形のリングダウンパルスが3kHzで繰り返されるとして、この繰り返し波形をサンプリングして、1周期当たりのリングダウンパルス波形を得るようにしても良い。
【0119】
そして、図21に示す、1パルスレーザ光当たりのリングダウンパルスが得られれば、図21に示す時刻と、波長とは一定の関係にあるので、時刻から波長を決定することができる。例えば、図22に示す特性を直線、y=k(x−x0 )+y0 と仮定する。ただし、xは波長、x0 はこの特性の中心波長で1.64μm、yは遅延時間、y0 は波長x0 における遅延時間である。さらに、説明を簡単にするために、y0 =0とする。図21の波形は、y0 =0とし、x0 からの最大波長変位をΔx(0.3μm)とするとき、Δx当たり、6.5nsの遅延時間で表されている。したがって、1回のリングダウンに関して、k=6.5ns/Δx=21.67ns/μmであり、y1 =k(x−x0 )であ。2回目のリングダウンパルスに関しては、y2 =2k(x−x0 )、3回目のリングダウンパルスに関しては、y3 =3k(x−x0 )である。ただし、yは、各リングダウンパルスの中心、すなわち、中心波長x0 における各リングダウンパルスの時刻を基準とした遅延時間である。
【0120】
図21のリングダウンパルス波形が得られれば、上記の関係から時刻列y1 , y2 , …yn に対応した波長xを求めることができる。そして、この波長xに関して、時刻列y1 , y2 , …yn におけるパルスの値の減衰特性から、リングダウンパルスの減衰率αを演算する。これを各波長xに関して求めれば、波長に関する減衰率α(x)を求めることができる。実際には、図22の波長伝搬遅延時間特性が直線ではないので、この曲線を用いて図21の時刻と波長との関係を求めることになる。
【0121】
上記のように、光ファイバー10の長さを1kmとすれば、リングダウンパルスのパルス幅が最小でも13ns、10回目のリングダウンパルスで130nsとなる。したがって、パルス幅が十分に広くなるので、波形のサンプリングが容易となり、波長分解能も高くなる。また、光ファイバー10の長さを100mとしても、リングダウンパルスのパルス幅が最小で1.3ns、10回目のリングダウンパルスで13nsとなり、図21の波形をサンプリングすることは可能である。
【0122】
パルスレーザ光の繰り返し周期は、光ファイバー10の長さと関連する。全長1kmとすると、3.3μs毎に、リングダウンパルスが出力されるので、パルスレーザ光の繰り返し周波数1kHz(周期1×10-3sec )とすると、1パルス周期の間に300回のリングダウンパルスを許容することができる。また、光ファイバー10の全長を100mとすると、0.33μs毎にリングダウンパルスが出力されるので、1パルス周期の間に100回のリングダウンパルスを許容するのであれば、パルス周期を30kHzとする必要がある。
【0123】
また、測定系自体の減衰があるので、現実には、試料が存在しない場合のパルスレーザ光のリングダウン特性を基準特性として測定しておいて、試料を測定した場合のパルス光レーザのリングダウン特性の基準特性に対する偏差の減衰特性を用いて、試料の吸収係数を測定することになる。この吸収係数は、横軸をリングダウン回数、縦軸をリングダウンパルスの振幅としたときの指数関数の減衰係数から演算すれば良い。また、レーザ光の波長を変化させて、同様にリングダウン特性の減衰係数を測定することで、波長吸収特性が得られる。この特性は、吸収係数の絶対値が不明であっても、波長特性として相対的な吸収特性が得られれば、試料を同定することができる。
【0124】
また、上記の実施例12において、方向性光結合素子536は、一般に良く知られたものである。この方向性結合素子により、レーザ光のリングダウンパルスを受光素子532へ取り出すことができる。また、結合率を変化させることで、光ファイバー510を循環する光の強度を調整することができる。これにより、受光素子532で受光される光の減衰幅を調整できるので、同一のダイナミックレンジにより減衰係数を測定することが可能となり、精度を向上させることができる。
【実施例13】
【0125】
次に、本発明の具体的な実施例である実施例13について説明する。図23において、第1光伝送路512、ループ状の光ファイバー510、試料540の挿入位置、レーザ装置530、受光素子532、処理装置534の構成は、実施例12と同一である。
この実施例13では、光ファイバー510に対するレーザ光の入力系統と、レーザ光の出力系統とを分離した例である。入力系統は、実施例12と、ほぼ、同様であるが、第1光伝送路512の終端には、光を透過も反射もさせない終端子524が用いられている点が異なる。新たに設けられたレーザ光の出力系統として、光ファイバー510に光結合する第2の方向性光結合素子537、第2の方向性光結合素子537によって光ファイバー510と結合する第2光伝送路513、終端子525が設けられている。そして、第2光伝送路513の一端に受光素子532を接続している。
【0126】
本実施例では、パルスレーザ光を光ファイバー510に導く方法は、実施例12と同一である。光ファイバー510を循環するリングダウンパルス光は、第2の方向性光結合素子537、第2光伝送路513を介して、受光素子532に入射する。この場合には、入力系統と出力系統とが分離されているので、出力系統である第2光伝送路513には、偏光子や、偏光性の方向性結合素子を用いる必要がない。
【実施例14】
【0127】
上記実施例13では、光ファイバー510をループ状に構成しているが、図24に示すように、これを直線又は曲線にしても良い。すなわち、直線状の光ファイバー590を方向性光結合素子536により第1光伝送路512と結合させる。そして、光ファイバー590の両端は鏡面542、543として、光を反射させるようにする。このようにしても、ループでない直線状や曲線状の光ファイバー590を往復進行するパルスレーザ光を受光素子532側に出力することができる。この時、方向性光結合素子536の機能により、光ファイバー590を試料540側に伝搬するリングダウンパルス光のみを第1光伝送路512に出力させて、受光素子532に入射させることができる。その他の構成は、実施例12と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明は、極薄膜、極微量の試料の同定等の分析に適しており、プラズマ処理された微量の物質、或いは微量のDNA等の分析に適している。
また、本発明は、光吸収が小さな液体、気体、DNA、タンパクなどの生体物質、有機物質、無機物質、薄膜などの分光分析に有効である。また、ある発明は、レーザ光源の波長を可変することなく、リングダウンパルス波形から波長吸収特性を得ることができる。
【符号の説明】
【0129】
1:波長可変フェムト秒ソリトンパルス光源
2:1/2波長板
3a:球レンズ
4:第1光伝送路
5:光切換器
6:光ファイバー
7:光増幅器
8:光方向性結合器
12:第1光スイッチ素子
13:第2光スイッチ素子
15:ピエゾチューブスキャナー
20:第2光伝送路
200,201,…,20n…第2光伝送路の構成する光伝送路
30:ファイバカプラ
40:ホモダイン検波器
50:処理装置
301:波長可変フェムト秒ソリトンパルス光源
302:1/2波長板
303a、303b:球レンズ
304:偏波保持ファイバ
305:ビームスプリッタ
306:偏光ビームスプリッタ
307:1/4波長板
308:ガルバノミラー
311、312:高反射ミラー
321、322:両凸レンズ
330:ファイバカプラ
331、332、331’、332’:光ファイバ
340:バランス型検出器
350:A/D変換及びデジタル処理装置
410,490…光ファイバー
421…第2偏光子
422…第1偏光子
423…ファラデー回転子
412…第1光伝送路
413…第2光伝送路
415…光増幅素子
436,437…方向性光結合素子
510,590…光ファイバー
521…第2偏光子
522…第1偏光子
523…ファラデー回転子
512…第1光伝送路
513…第2光伝送路
536,537…方向性光結合素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の表面に形成された薄膜又は基板等の表面に吸着された化学種を高感度で分析したり、試料の光吸収特性を測定する分光方法及び分光装置に関する。また、光ファイバーを用いた分光方法及び分光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基板等の表面に形成された薄膜或いは基板等の表面吸着された化学種を分析する方法としては、赤外分光分析が幅広く用いられている。これは、各原子間結合等が赤外領域に特定の吸収波長(波数)を有していることに基づくものである。試料をそのまま、或いは溶液等にしてセルへの充填や岩塩板への挟み込みが可能な場合には、フーリエ変換型赤外分光(FTIR)が常用されている。また、近年、透明基板の表面に形成した薄膜等を、透明基板側から赤外光を全反射させることにより、界面付近の当該薄膜におけるエバネッセント波の吸収を測定する全反射減衰法(ATR)が用いられるようになった。ATRによれば、FTIR等の透過型分析に比較し、30倍程度、感度が向上する。
【0003】
一方、キャビティリングダウン分光(CRD)が近年盛んに開発されている。キャビティリングダウン分光においては、少なくとも2個のミラーによりキャビティを形成し、そのキャビティ内に検査対象物質(試料)を導入し、キャビティ内の試料の光吸収により減衰するリングダウンパルス光を用いて試料を分光分析するものである。キャビティリングダウン分光においては、主として光吸収による光強度の減衰における減衰定数を測定することで、試料の各波長における吸収係数を求め、試料の同定及び定量が行われる。また、下記特許文献3、4に示すように、キャビティに代えてループファイバーにパルス光を循環させ、又は、端面で反射する直線ファイバーにパルス光を往復進行させて、パルス光のリングダウン特性を測定することで物質の吸収特性を得る方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−338037号公報
【特許文献2】特開2001−194299号公報
【特許文献3】特開2004−333337号公報
【特許文献4】USP6,842,548B2
【特許文献5】USP7,012,696B2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、連続して出力されるレーザ光を用いてCRD分析を行う際は、キャビティ内でレーザを共振状態としたのちレーザ入力を遮断して、キャビティからの出力(リングダウン光)を分析する方法が取られていた。
一方、近年、極めてパルス幅の狭い、波長可変のソリトンパルス光源が開発されている。そこで本願発明者らは、この波長可変のソリトンパルス光源等を用いて、新たなCRD分光装置を完成するに至った。
【0006】
また、従来のキャビティリングダウン分光法で用いられているパルス光源は波長が1 μm から2 μm の生体分光を行う上で重要となる近赤外域で連続的に変化する光源及び光学系に対応していなかった。従来の光源はnsオーダのパルス幅があり、パルスが重ならないためにも1cm 以下のキャビティ長にして小型化することができないという問題があった。例えば、5ns の場合キャビティ長は最短でも15cmとなるが、500fs にすると150 μm となる。このようにパルス幅は微小キャビティ化、それによる高速応答現象の観測などに非常に有効となるが、このような広帯域な波長幅、キャビティの微小化に対応していなかった。
【0007】
また、CRDSの高S/N 化のため特許文献1、特許文献5に記載の光ヘテロダイン検出法を用いる方法が発明されているが、超音波変調器や偏光ビームスプリッタ、波長板など波長依存性が大きく、1 μm から2 μm のような広帯域の波長幅に対応する素子はなく、広い波長範囲で、高いS/N での測定が不可能であった。
【0008】
また、上記のいずれのリングダウン分光法においても、リングダウンパルスの減衰特性から試料の吸収特性を求めるものである。したがって、試料の吸収特性に非線形性があると、測定値に誤差が含まれることになり、吸収率の精度が向上しないという問題がある。また、測定精度を向上させるには、リングダウンパルスの測定系において、直線性の良い広いダイナミックレンジを必要とした。
また、測定系での光減衰が存在すると、試料の吸収率は、その測定系の減衰率よりも大きな吸収率でないと測定できないという問題がある。
そこで、本発明者らは、試料と相互作用をする光の振幅を一定値にした状態で、試料の吸収特性を測定することで測定精度を向上させたリングダウン分光ができないかを検討し、本発明を完成させた。
【0009】
また、上記のいずれのリングダウン分光法においても、用いられる光はパルスレーザ光であり、試料の波長吸収特性を求めるには、レーザの波長を変化させて、リングダウン分光する必要があった。
このため、光源には、波長可変パルスレーザを用いる必要があった。
本発明者らは、波長可変パルスレーザを用いることなく、リングダウン分光ができないかを検討し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明の目的は、上記の課題を解決するために成されたものであり、第1の目的は、新たな構成のキャビティリングダウン分光方法及び分光装置を実現することである。
また、第2の目的は、試料と相互作用をする光のリングダウン光の減衰がない状態に光増幅素子の増幅率を設定して、この増幅率や減衰光量から試料の吸収特性を測定できるようにすることである。
また、第3の目的は、波長可変パルスレーザを用いることなくリングダウを実現することである。
また、第4の目的は、測定精度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、光吸収特性を測定すべき試料に光を導く光ファイバーに光を伝搬させて、試料の吸収特性を測定する分光方法において、光ファイバーに光を増幅する増幅素子を設け、光は、ステップ的に減少する光、又は、パルス光であり、増幅素子の増幅率を、試料を設置しない時の光のリングダウン光が減衰しない増幅率に設定した後に、試料を設置してリングダウン光を測定し、そのリングダウン光の減衰特性から試料の吸収率を測定することを特徴とする分光方法である。
【0012】
また、請求項2に係る発明は、光吸収特性を測定すべき試料に光を導く光ファイバーに光を伝搬させて、試料の吸収特性を測定する分光方法において、光ファイバーに光を増幅する増幅素子を設け、光は、ステップ的に減少する光、又は、パルス光であり、試料を設置してリングダウン光を測定し、そのリングダウン光が減衰しないように増幅素子の増幅率を制御し、この増幅率から試料の吸収率を測定することを特徴とする分光方法である。
【0013】
上記の2つの方法において、上記の光ファイバーはループ状に形成して、そのループ状の光ファイバーに光を循環させるようにしても良いし、線状に形成して、その両端面を反射面にして光を往復移動させるようにしても良い。
【0014】
光には、レーザやLED光源を用いることができる。レーザには、通常の半導体レーザ、その他の固体レーザ、気体レーザなど任意のレーザを用いることができる。波長可変レーザを用いることで、試料の波長吸収特性を測定することができる。また、広帯域スーパーコンティニュアム光レーザを用いると、受光素子で受光したリングダウン光の波長解析により、波長吸収特性を求めることができる。
【0015】
光は連続光でも、ステップ的に減少する光、パルス光でも良い。ステップ的に減少する光は、光源自体から出力される光を遮断することで実現しても、パルス出力することで実現しても良い。また、光源から出力される光に対する光ファイバーの光結合をステップ的に減少させる方法、パルス的に結合を増加させる方法を用いることができる。光ファイバーの光結合をステップ的に減少させる場合には、光ファイバーに導入される光の振幅がステップ的に減少することを意味する。
【0016】
パルス的に光結合させる場合には、短いパルス期間の間だけ、光結合させることを意味する。よって、光ファイバーに入射する光の振幅は、ステップ減少関数、又はパルス関数となる。また、光源から出力される光の偏光方向を制御することで、光ファイバーを伝搬する光をステップ減少関数、パルス関数とすることができる。ステップ的に変化させる場合は、偏波方向を急峻にある方向から他の方向に変化させることであり、パルス的に変化させる場合は、偏波方向を急峻にある方向に変化させて、元の偏波方向や他の偏波方向に変化させることを意味する。
【0017】
また、請求項3に記載の発明は、試料の光吸収特性を測定する分光装置において、光吸収特性を測定すべき試料と光とを相互作用させるための光ファイバーと、光を増幅する増幅素子と、光ファイバーを伝搬する光の強度を検出する検出素子と、検出素子により検出された前記光の強度に応じて、増幅素子の増幅率を制御して試料の吸収特性を演算する処理装置とを有し、光は、ステップ的に減少する光、又は、パルス光であり、処理装置は、増幅素子の増幅率を、試料を設置しない時の光のリングダウン光が減衰しない増幅率に設定し、試料を設置してリングダウン光を測定し、そのリングダウン光の減衰特性から試料の吸収率を測定することを特徴とする分光装置である。請求項1の方法発明に対応する。 本発明は、試料と相互作用させる光ファイバーに光を増幅する増幅素子を設けて、その光ファイバーを伝搬する光の強度に応じて、増幅素子の増幅率を設定して試料の吸収特性を測定するようにしたことが特徴である。
【0018】
また、請求項4に記載の発明は、試料の光吸収特性を測定する分光装置において、光吸収特性を測定すべき試料と光とを相互作用させるための光ファイバーと、光を増幅する増幅素子と、光ファイバーを伝搬する光の強度を検出する検出素子と、検出素子により検出された前記光の強度に応じて、増幅素子の増幅率を制御して試料の吸収特性を演算する処理装置とを有し、光は、ステップ的に減少する光、又は、パルス光であり、処理装置は、試料を設置してリングダウン光を測定し、そのリングダウン光が減衰しないように増幅素子の増幅率を設定して、その増幅率から試料の吸収率を測定することを特徴とする分光装置である。請求項2の方法発明に対応する。
【0019】
また、請求項5に記載の発明は、試料の光吸収特性を測定する分光装置において、光吸収特性を測定すべき試料と光とを相互作用させるための光ファイバーと、光を増幅する増幅素子と、光ファイバーを伝搬する光の強度を検出する検出素子と、検出素子により検出された前記光の強度に応じて、増幅素子の増幅率を制御して試料の吸収特性を演算する処理装置とを有し、光は連続光であり、処理装置は、増幅素子の増幅率を光の振幅が所定値となるように制御し、この増幅率から試料の吸収特性を測定すること又はループ状の光ファイバキャビティ内の損失を0 にしてから、試料を設置し、その減衰光量から吸収特性を測定することを特徴とする分光装置である。
【0020】
光を連続光としても、試料の吸収特性を求めることができる。光ファイバーを循環又は往復移動する光の振幅は、光の光ファイバーへの入射量と、試料の吸収による損失量とその他の光ファイバー系の損失量とが、平衡状態になる値に収束する。試料が存在しなければその試料による吸収がないので、光ファイバーを伝搬する光の振幅は、試料が存在する場合に比べて増加する。したがって、この差を用いて、光ファイバーを伝搬する光の振幅が所定値となるように、増幅率を制御することで、この増幅率から試料の吸収特性を測定することができる。
同様に、試料が存在しないとき、光ファイバー系の損失量が0 となるよう光の増幅量を設定しておき、試料が存在する場合の減衰光量から吸収特性を測定することができる。
【0021】
特許請求の範囲の発明の他、本明細書には、下記の発明も記載されている。
第1は、試料の光吸収特性を測定する分光装置において、光吸収特性を測定すべき試料に光を導く光ファイバーと、光ファイバーと光結合しパルス光を伝搬させる第1光伝送路と、光ファイバーを循環又は往復移動するリングダウンパルス光を外部に出力してこのリングダウンパルス光を検出して処理する処理装置と、複数本の光路長の異なる光伝送路から成り、第1光伝送路に対して光分岐して、その分岐点から処理装置に入力するまでの光路長を、光ファイバーの光路長単位で、切り替え制御できる第2光伝送路とから成ることを特徴とする分光装置である。
すなわち、本発明は、各リングダウンパルスが処理装置に到達する時刻と同一時刻に、パルス光が第2伝送路を伝送して処理装置に到達するように、複数本の光伝送路を切り替えるようにしたことが特徴である。
【0022】
また、第2は、第2光伝送路は、1つのパルス光に対して測定すべきリングダウンパルスの数だけの光路長の異なる伝送路で構成されていることを特徴とする分光装置である。
測定対象とする全てのリングダウンパルスに同期させるために、その数の光路長の異なる伝送路が必要となる。
また、第3は、第2光伝送路を構成する複数の光伝送路は、それぞれ、ピエゾチューブスキャナに巻かれた光ファイバーから成ることを特徴とする分光装置である。
ピエゾチューブスキャナに光ファイバーを巻いて光伝送路を構成することにより、ピエゾチューブスキャナを振動させて、実効的な光路長を振動させることで、リングダウンパルスと第2光伝送路を伝搬したパルス光とを処理装置において同期検波させることができる。
【0023】
また、第4は、パルス光は、パルスの幅が1ps以下の短パルス光であることを特徴とする分光装置である。また、パルス幅が500fs以下の極短パルス光を用いることも有効である。
また、第5は、フェムト秒レーザによる近赤外波長可変ソリトンパルス光発生光源による極短パルス光を用いることを特徴とする分光装置である。
また、第6は、広帯域スーパーコンティニュアム光発生光源による極短パルス光を用いることを特徴とするキャビティリングダウン分光装置である。
【0024】
第7は、所定波長であって、各パルスの幅が1ps以下の極短光パルスのパルス列である信号光と、信号光から分岐された参照光とを用い、測定中に、当該参照光の光路長を順次長くして、信号光がキャビティを通過したリングダウン光と参照光との干渉をホモダイン検波することを特徴とするキャビティリングダウン分光分析方法である。各パルスの幅を500fs以下としても良い。
【0025】
また、第8は、フェムト秒レーザによる近赤外波長可変ソリトンパルス光発生光源による極短光パルスのパルス列を用いることを特徴とする。また、第9は、光源として、広帯域スーパーコンティニュアム光発生光源による極短光パルスのパルス列を用いることを特徴とする。
【0026】
第10は、所定波長であって、各パルスの幅が1ps以下の極短光パルス列を発生する光源と、前記光源の出力するパルス列を2つ経路に分岐する光分岐手段と、前記光分岐手段の第1の光出力に接続される2つの高反射ミラーを有し、当該2つの高反射ミラーにより形成される光路に試料を配置可能としたキャビティと、前記光分岐手段の第2の光出力に接続され、光路長を可変とする可変長光路部と、前記キャビティの光出力と前記可変長光路部の光出力の干渉を電気信号として出力するホモダイン検波手段とを有することを特徴とするキャビティリングダウン分光分析装置である。各パルスの幅は500fs以下であっても良い。
【0027】
また、第11は、前記可変長光路部には振動可能且つその位置を可変とする可動ミラーを有することを特徴とする。
【0028】
第12は、光吸収特性を測定すべき試料と相互作用する光ファイバーにパルスレーザ光を導き、試料の光吸収によるリングダウンパルス光を外部に出力してこのリングダウンパルス光の減衰特性から試料の吸収特性を測定することを特徴とする分光方法において、パルスレーザ光をスペクトルが広いレーザ光とし、光ファイバーを強分散光ファイバーとし、リングダウンパルス光のパルス幅を順次広くして、波長に対応した時刻列におけるパルス列のリングダウン減衰定数から波長吸収特性を測定することを特徴とする分光方法である。
上記の光ファイバーはループ状に形成して、そのループ状の光ファイバーに光を循環させるようにしても良いし、線状に形成して、その両端面を反射面にして光を往復移動させるようにしても良い。
【0029】
レーザ光には、例えば、広帯域スーパーコンティニュームレーザ光を用いるのが良い。励起光源には、通常の半導体レーザ、その他の固体レーザ、気体レーザなど任意のレーザを用いることができる。本発明は、スペクトルが広いレーザ光を用い、強分散の光ファイバーを用いて波長毎に位相速度が変化することを利用して、波長毎にリングダウンパルスの周期が異なることを利用したものである。広帯域スーパーコンティニュームレーザ光は、次のように得られる。長さ5m程度の分散シフト高非線形ファイバーに超短パルス幅(例えば、ソリトン波レーザ光)レーザ光を入射させると、1.25μm〜1.95μmの範囲で連続スペクトルを有した広帯域スーパーコンティニュームレーザ光が得られる。また、200mの分散シフト高非線形ファイバーを用いると、1.0μmから2.2μmの範囲で連続スペクトルを有した広帯域スーパーコンティニュームレーザ光が得られる(西澤典彦、後藤俊夫, 固体物理Vol.39 No.10,(2004),pp665-678 )。
【0030】
また、第13は、試料の光吸収特性を測定する分光装置において、光吸収特性を測定すべき試料にレーザパルス光を導く強分散の光ファイバーと、スペクトル幅の広いレーザパルス光を発生するレーザ装置と、光ファイバーを循環又は往復移動するリングダウンパルス光のパルス幅を順次広くして、外部に出力し、このリングダウンパルス光の減衰特性において、波長に対応した時刻列におけるパルス列のリングダウン減衰定数から波長吸収特性を得る処理装置とを有することを特徴とする分光装置である。
レーザ光には、上記と同様に、例えば、広帯域スーパーコンティニュームレーザ光を用いるのが良い。
【0031】
また、第14は、光ファイバーに光結合する第1光伝送路と、その第1光伝送路を光ファイバーに光結合させる方向性光結合素子とを有し、その第1光伝送路の一端にレーザ装置、他端にリングダウンパルス光を受光する処理装置の受光素子を設けたことを特徴とする分光装置である。
【0032】
また、第15は、光ファイバーにおいて方向性光結合素子と異なる位置に配設された他の光結合素子により、リングダウンパルス光を第1光伝送路と異なる第2光伝送路に出力させ、この第2光伝送路に処理装置の受光素子を接続したことを特徴とする分光装置である。
この発明は、レーザ光の導入系統と、リングダウンパルス光の導出系統を別の系統にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
請求項1の方法発明及び請求項3の装置発明では、試料に光を導く光ファイバーに光を増幅する増幅素子を設け、光は、ステップ的に減少する光、又は、パルス光としている。したがって、この光のリングダウン光の減衰特性を測定に用いることができる。増幅素子の増幅率を、試料を設置しない時の光のリングダウン光が減衰しない増幅率に設定することにより、測定系の損失を補償し、その補償状態で試料の吸収率を測定しているので、試料の吸収率の測定精度が向上する。すなわち、本発明では、まず、測定系の損失を補償した状態にして、試料のみの吸収から生じるリングダウン光の減衰特性を測定して、その減衰特性から試料の吸収特性を測定するものである。
【0034】
また、請求項2の方法発明及び請求項4の装置発明では、試料に光を導く光ファイバーに光を増幅する増幅素子を設け、試料を設置してリングダウン光を測定し、そのリングダウン光が減衰しないように増幅素子の増幅率を制御し、この増幅率から試料の吸収率を測定することを特徴とする。
すなわち、試料の光吸収により光はリングダウンするが、このリングダウンを生じないように増幅素子の増幅率をフィードバック制御し、この増幅率から試料の吸収係数を測定するものである。したがって、試料と相互作用する光は、常に、一定の振幅となるので、所定の光強度における吸収特性を求めることができる。すなわち、吸収特性の非線形特性を測定することができる。また、光の振幅を一定としていることから、測定値に誤差が少なく、測定精度が向上する。
【0035】
また、請求項5に記載の発明は、試料に光を導く光ファイバーに光を増幅する増幅素子を設け、光は連続光であり、処理装置は、増幅素子の増幅率を光の振幅が所定値となるように制御し、この増幅率又はリングダウン光の減衰光量から試料の吸収特性を測定している。この場合においても、測定系の損失を補償したり、試料の吸収率を光の強度を一定にして測定することが可能となり、測定精度が向上する。
【0036】
また、特許請求の範囲の上記の発明の他に、明細書に記載されている発明の効果として、以下の効果を有する。第1の発明では、第1光伝送路を伝搬するパルス光は一部分岐して、光ファイバーに入力する。この光ファイバーにおいて、試料による光吸収により、パルス光は順次減衰して、リングダウンパルス光が得られる。このリングダウンパルス光は、光ファイバーから順次、外部に出力されて、処理装置に入力する。一方、第1光伝送路を伝搬するパルス光は、分岐した後、第2光伝送路のうちの選択された一つの光伝送路を伝搬して処理装置に入力する。この時、処理装置においては、あるリングダウンパルス光と、元のパルス光とが同時に到達するようになる。これにより、リングダウンパルス光の同期検波が可能となる。第2光伝送路を構成する光伝送路を変更すれば、その光伝送路の光路長に対応した時間だけ周回したリングダウンパルス光と元のパルス光とは同時に処理装置に入力し、そのリングダウンパルス光の同期検波が可能となる。
【0037】
第2の発明では、第2光伝送路を構成する各伝送路を、パルス光に同期して、順次、選択することにより、所定数のリングダウンパルス光を同期検波することができる。
第3の発明では、第2光伝送路を構成する光伝送路をピエゾチューブスキャナに巻かれた光ファイバーで構成することで、ピエゾチューブスキャナを拡大縮小させて光ファイバーを伸縮させて、電気的に光路長を変化させることができる。ピエゾチューブスキャナを電気的に径の大きさを振動させることにより、光路長をある長さを中心として、ある幅で振動させることができる。そして、その光路長の振動幅の中に、処理装置に到達するリングダウンパルス光と、元のパルス光とを同時に到達させるための光路長を存在させることができる。
【0038】
第4の発明では、パルス光のパルス幅が1ps以下の短パルス光を用いると、光ファイバー長が短くても、同期検波による高感度のキャビティリングダウン分光が可能となる。500fs以下の極短パルス光を用いると更に望ましい。また、同期検波するパルスの幅が狭いことから、測定精度が向上し、装置の小型化も可能となる。このような系は、特に微量分析、例えば薄膜の定性及び定量分析、表面吸着の化学種の同定等に有効である。
第5の発明も、第4の発明と同様な効果を有する。
また、第6の発明では、処理装置において波長分析することにより、試料の波長吸収特性を測定することができる。
【0039】
パルス幅が1ps以下の極短光パルスを用いると、キャビティ長が極めて短いキャビティにおいても、ホモダイン検波による高感度のキャビティリングダウン分光分析が可能となる。このような系は、特に微量分析、例えば薄膜の定性及び定量分析、表面吸着の化学種の同定等に有効である(第7〜11の発明)。パルス幅が500fs以下であっても良い。
【0040】
光パルス列を2系統の光路に分岐し、一方をキャビティに導き、他方を光路長を可変とする可動ミラーを有する光路に導き、当該可変光路長の光路の光パルス列とキャビティによるリングダウン光のパルス列の干渉をホモダイン検波する。可変側の光路長を順次長くし、リングダウン光の光路長と一致するパルスが存在するようにすることで、複数のパルスから、リングダウン光の強度を順に検出することができる。可動ミラーを振動可能として、その上で可動ミラーを移動させれば、「リングダウン光の光路長と一致する」タイミングを多数設けることができ、初期調整が容易で、確実に各リングダウン光をホモダイン検波することが可能となる。
【0041】
第12の方法発明及び第13の装置発明では、スペクトル幅が広いレーザ光を用い、光ファイバーに強分散ファイバーを用いている。強分散光ファイバーは、波長毎に位相速度が変化するので、リングダウンパルス光の周期が波長毎に変化することになる。したがって、リングダウンパルス光は、リングダウン回数が多くなるほど、光ファイバーを伝搬する距離が長くなるので、パルスレーザ光の時間幅は広がる。このリングダウンパルス光列の減衰特性から、波長に対応した時刻列に対応するパルス列のリングダウン減衰係数を求め、各波長での減衰係数を求めることができる。これにより、一度に、波長吸収特性を得ることができ、試料の同定分析が可能となる。
【0042】
第14の装置発明では、一つの方向性光結合素子により、光ファイバーへのパルスレーザ光の入射と、リングダウンパルスの光ファイバーからの取り出しを実現したものである。よって、装置構成が簡単となる。
【0043】
第15の装置発明では、光ファイバーへのパルスレーザ光の入射と、リングダウンパルスの取り出しを、別々の方向性光結合素子で行うようにしているので、レーザ装置から出力されるパルスレーザ光が受光素子に入射することがないので、リングダウンパルスの精度の高い検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1.A】本発明の実施例における同期検波の内容を説明するための第1のグラフ図。
【図1.B】本発明の実施例における同期検波の内容を説明するための第2のグラフ図。
【図1.C】本発明の実施例における同期検波の内容を説明するための第3のグラフ図。
【図1.D】本発明の実施例における同期検波の内容を説明するための第4のグラフ図。
【図1.E】本発明の実施例における同期検波の内容を説明するための第5のグラフ図。
【図2】本発明の具体的な一実施例に係るリングダウン分光装置の構成を示すブロック図。
【図3】本発明の具体的な実施例2に係るリングダウン分光装置の構成を示すブロック図。
【図4】実施例2の分光装置を用いて、遅延路を3m、30mとして、空気とメタノールの吸収率を測定した時の干渉波形を示す測定図。
【図5】実施例2の分光装置によりメタノールの吸収率を、濃度変化させて測定した時の吸収率のメタノール濃度に対する特性を示した測定図。
【図6】本発明の具体的な実施例3に係るキャビティリングダウン分光分析装置300の構成を示すブロック図。
【図7】キャビティ領域に試料を表面に付着させた基板を配置する3つの方法を示す構成図。
【図8】図6に示す実施例3の装置によって得られたレーザの干渉波形を示す特性図。
【図9】実施例3の装置において用いられるスーパーコンティニューム光のスペクトルを示した特性図。
【図10】実施例3の装置において図9に示すスペクトルを有するスーパーコンティニューム光を用いた場合のレーザの干渉波形を示した特性図。
【図11】本発明の具体的な実施例4に係る装置を示した構成図。
【図12】本発明の具体的な実施例5に係る装置を示した構成図。
【図13】実施例5の装置において用いられた半導体光増幅器の電源への注入電流を変化させたときの半導体光増幅器の増幅率を計測した結果を示す特性図。
【図14.A】実施例5の装置において半導体光増幅器を用いない場合に、長い光遅延光路を用いることのできない理由を説明した特性図。
【図14.B】実施例5の装置において半導体光増幅器を挿入して光を増幅することで、光遅延光路長に対する干渉強度が改善されることを示した特性図。
【図14.C】実施例5の装置において半導体光増幅器を挿入して光を増幅することにより、吸収係数の測定精度を向上させるために使用可能な光遅延光路長が拡大できることを示した説明図。
【図15】本発明の具体的な実施例6に係る装置を示した構成図。
【図16】実施例6の装置によって得られたレーザの干渉波形を示す特性図。(a)は試料による吸収がない場合を示し、(b)は試料による吸収が存在する場合を示す。
【図17】本発明の具体的な実施例7に係る装置を示した構成図。
【図18】本発明の具体的な実施例8に係る装置を示した構成図。
【図19】本発明の具体的な実施例9に係る装置を示した構成図。
【図20】本発明の具体的な実施例12に係る装置を示した構成図。
【図21】実施例12の装置における動作を説明するためのリングダウンパルス波形を示した波形図。
【図22】強分散特性を有した光ファイバーにおける波長と伝搬遅延時間との関係を示した特性図。
【図23】本発明の具体的な実施例13に係る装置を示した構成図。
【図24】本発明の具体的な実施例14に係る装置を示した構成図。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の具体例を図面を参照しながら説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。まず、本願実施例における同期検波について説明する。
【0046】
実施の形態1
まず、ループ状の光ファイバーにパルス光が循環される。この光ファイバーと試料とが相互作用し、試料による光吸収によりパルス光が順次、減衰し、リングダウンパルス光(パルス列)が得られ、このリングダウンパルス光が外部の処理装置に入力される。ループ状の光ファイバーの光路長をLとおくと、各リングダウンパルス光の光路長の差は、Lとなり、光の速度をcとおけば隣り合うリングダウンパルス光との時間間隔はL/cとなる。即ち、図1.Aに示す通り、処理装置に入力するパルス光は、光ファイバーを循環せずに、直接、入射する透過光S1、S2、S3、S4、…がある。また、処理装置には、透過光S1の時間L/c後には、ループ状の光ファイバーを一巡して光出力される1回リングダウンパルス光L11が、更に、そのパルス光L11の時間L/c後には、光ファイバーを2巡して光出力される2回リングダウンパルス光L12が、順次、入力する。このように、時間L/c間隔でリングダウンパルス光が、光ファイバーから順次、出力されて、処理装置に、順次、入力される。これは透過光S2、S3、S4及びそれらのリングダウンパルス光についても同様であり、光ファイバーの光路長Lとパルス間隔Tpを調整することで、1つの透過光に続くリングダウンパルス光の組が、次の透過光とは重ならないようにすることは容易である。以下、透過光(試料による吸収がないパルス光)とリングダウンパルス光とを信号光と言う。
【0047】
一方、ループ状の光ファイバーとは別の経路である第2光伝送路を、パルス光は伝搬して処理装置に入力する。このパルス光を、以下、参照光(reference )と言う。この参照光を用いて透過光を含むリングダウンパルス光が同期検波される。具体例としては、ホモダイン検波、差動検波など、信号光と参照光との相関に基づく検波方式を用いることができる。今、参照光の伝搬経路の光路長を、透過光の伝搬経路の光路長と完全に一致させたとすると、参照光と透過光の同期検波は、透過光の振幅と参照光の振幅との積を振幅とするパルスとなる。この時の検波出力をAとおく。次に、参照光の伝搬経路の光路長を1回リングダウン光の伝搬経路の光路長と完全に一致させたとすると、参照光と信号光の同期検波は、参照光と信号光との積、すなわち、参照光の振幅が信号光の振幅で変調されたパルスとなる。この時の、検波出力はαA(0<α<1)となる。以下同様に、参照光の光路長をn回リングダウンパルス光の光路長と完全に一致させたとすると、検波出力はαnA(0<α<1)となる。
【0048】
しかし、参照光の伝搬経路の光路長を、透過光及び各回リングダウンパルス光の伝搬経路の光路長に完全に一致させることは必ずしも容易ではない。これはパルス幅の短い信号光を用いることから来る困難性ではある。そこで、参照光の伝搬経路に、その光路長を基準光路長に対して振動的に変化可能とするピエゾチューブスキャナに巻かれた光ファイバーなどのような光伝送路を設ける。すると、ピエゾチューブスキャナの振動により、参照光の隣り合うパルスは異なる光路長を経由することとなり、参照光のパルス間隔は、基準光路長でのパルス間隔に対して、光路長が長くなる方向に変動する過程では、パルス間隔は長くなり、逆に、光路長が短くなる方向に変動する過程では、パルス間隔は短くなる。この時、この光路長の振動振幅aを、光ファイバーの光路長Lよりも短くすると、隣り合うリングダウンパルス光との時間間隔L/cよりも、参照光のパルス間隔の変化によるパルス光の処理装置への入力時刻の変化a/cを小さくすることができる。このようにして、所望のパルス周波数(パルス間隔)を有する信号光を分岐した参照光の伝搬経路の光路長を、基準光路長に対して振動させることで、参照光の光路長を、透過光及び各回リングダウンパルス光の伝搬経路の光路長にほとんど完全に一致させることが容易に達成できる。
【0049】
図1.B以下において、具体的な数値を例示して、本願実施例における2つのパルス列の同期検波について説明する。信号光を、パルスが幅100fs(1×10-13秒)、パルス間隔が2×10-8秒(パルス周波数50MHz)のパルス光とし、参照光が伝搬する第2光伝送路のピエゾチューブスキャナーの振動周波数を80Hzとする。また、第2光伝送路の基準光路長において、参照光の光路長は信号光の光路長と一致するものとする。また、第2光伝送路の振動振幅は、光路長にして±2mm振動するものとする。
【0050】
光路長xの時間関数は、x=2sin160πt+x0 とおける。x0 は基準光路長である。光路長の変化速度v(mm/秒)は、v=320πcos160πtとなり、単振動の中心付近で考えると、t=0ではv=1000mm/秒である。すると参照光のパルス間隔2×10-8秒の間に、光路長は2×10-8mだけ変化する。これは第2光伝送路を伝搬する参照光のパルス間隔が、6.67×10-17秒長く又は短くなることを意味する。
【0051】
すると、例えば、処理装置において、信号光と第2光伝送路を通過した参照光とで、第0番目のパルスが図1.Bのように丁度パルス幅の1×10-13秒だけズレており、参照光のパルスの時刻の方が早く、参照光のパルス間隔が信号光のパルス間隔よりも6.67×10-17秒長いとすると、1×10-13秒÷6.67×10-17秒=1500であるので、1500パルス目で参照光のパルスと信号光のパルスが一致し、3000パルス目では信号光と参照光とで、丁度パルス幅の1×10-13秒だけズレ、参照光のパルスの時刻の方が遅くなる。信号光のパルス間隔は2×10-8秒であるので、第0パルスと第3000パルスの時間間隔は6×10-5秒である。なお、この間の光路長の長さの変化は60μmである。
【0052】
このような信号光と参照光とを干渉させて同期検波すると、図1.Cのような出力が得られる。図1.Bの状態の3000パルスの間は信号光と参照光とに干渉が生じ、第0パルスで丁度0、第1500パルスで最大、第3000パルスで丁度0となるので、この間は図1.Cの包絡線(点線で示した)の下側に2999本のピークが得られる。この包絡線とその下側の2999本のピークは、6×10-5秒の間存在し、第2光伝送路の光路長が元の長さに戻る0.025秒後までは存在しない。即ち、包絡線とその下側の3000本のピークは、0.025秒間隔で6×10-5秒の間存在し、それ以外の時刻では存在しない。
【0053】
これを「巨視的」に見ると、幅6×10-5秒の極めて鋭いピークが0.0125秒間隔で生じることになる(図1.D)。以上は、パルスの波形が図1.Bのような方形波状でなくても、また、単振動の中心から可なり広い範囲においても同様に言える。
また、図1.Bの第1500パルスと前後のパルスの干渉の差については、例えば1.63μmの波長では1パルスに18.4波存在し、2π/80の位相差と小さい。すると包絡線のピーク付近の複数組の信号光と参照光の干渉は、包絡線のピークの強度に略等しい強度を生じるので、信号光と参照光とで、パルスの位相が完全に一致するように調整する必要もない。また、第2光伝送路を構成する各光伝送路の基準光路長を各リングダウンパルス光の光路長に正確に一致させる必要はなく、両者には、およそ光路長の振動幅(上記例では、±2mm)以下の誤差があっても良い。すなわち、光路長が振動する範囲において、リングダウンパルス光の光路長と参照光の光路長とが一致すれば良い。
【0054】
したがって、第2光伝送路の第0番目の光伝送路の基準光路長は、図1.Aの透過光S1、S2、S3、S4、…の光路長に対して、光路長の振動振幅分の誤差をもって一致させれば良い。同様に、第2光伝送路の第1番目の光伝送路の基準光路長は、図1.Aの1回リングダウンパルス光L11、L21、L31、L41、…の光路長に対して、光路長の振動振幅分の誤差をもって一致させれば良い。同様に、第2光伝送路の第2番目の光伝送路の基準光路長は、図1.Aの2回リングダウンパルス光L12、L22、L32、L42、…の光路長に対して、光路長の振動振幅分の誤差をもって一致させれば良い。同様に、第2光伝送路の第n番目の光伝送路の基準光路長は、図1.Aのn回リングダウン光L1n、L2n、L3n、L4n、…の光路長に対して、光路長の振動振幅分の誤差をもって一致させれば良い。このように第2光伝送路を構成する各光伝送路の光路長を設計すると、図1.Eのように、透過光と第0番目の光伝送路を伝搬した参照光との同期検波、1回リングダウンパルス光と第1番目の光伝送路を伝搬した参照光との同期検波、2回リングダウンパルス光と第2番目の光伝送路を伝搬した参照光との同期検波、…、n回リングダウンパルス光との第n番目の光伝送路を伝搬した参照光との同期検波は、それぞれ、複数個の幅6×10-5秒の極めて鋭いパルス群となる。
【実施例1】
【0055】
図2は本発明の具体的な一実施例に係るループ状の長さ150m位の光ファイバーを用いたリングダウン分光装置100の構成を示すブロック図である。分光装置100は、波長可変フェムト秒ソリトンパルス光源1、1/2波長板2、球レンズ3a、光ファイバから成る第1光伝送路4を有している。この第1光伝送路4は、光切換スイッチ5を介して、ループ状の光ファイバー6と結合している。ループ状の光ファイバー6には、光ファイバー6を伝搬するパルス光と相互作用をする試料10が結合している。また、この光ファイバー6には、試料10の光吸収によるリングダウンパルス光の減衰定数を適性にするために、光増幅器7が設けられている。この光増幅器7は、なくとも良いが、これを用いて、リングダウンパルス光を適性に増幅することで、精度及び感度の高い試料の光吸収特性を測定することが可能となる。第1光伝送路4はファイバーカップラ30を介して、ホモダイン検波器40に接続されている。ホモダイン検波器40の出力する同期検波信号(図1.E)は、デジタル処理装置50によりA/D変換されて、リングダウンパルス光の減衰定数が演算されて、試料の吸収特性が測定される。
【0056】
一方、第1光伝送路4には、光方向性結合器8が設けられており、その分岐端子には、第1光スイッチ素子12が接続されている。第1光スイッチ素子12は、第1光伝送路4から分岐されるパルス光をn+1本の基準光路長が異なる光伝送路に選択的に分岐させる素子である。n+1本のピエゾチューブスキャナー15に巻かれた光ファイバーから成る光伝送路200,201,202,…,20nが設けられており、これらは電気信号によるピエゾ効果により実効的に光路長が変化する伝送路である。具体的には、振幅を2mmとした。これらのn+1本の光伝送路の集合が第2光伝送路20である。これらの第2光伝送路20のそれぞれは、第2光スイッチ素子13を介してファイバーカップラー30に入力している。
【0057】
波長可変フェムト秒ソリトンパルス光源1としては、Erドープファイバを用いたフェムト秒パルスレーザを使用する。パルス幅は10〜500fsが好ましい。本実施例ではパルス幅を100fs、パルス間隔を20ns(パルス周波数50MHz)とした。また、波長としては1630nmの光ソリトンを用いた。もちろん1ps程度のパルス光であっても良い。
【0058】
光伝送路200,201,…,20nの各基準光路長は、光方向性結合器8とファイバーカップラー30間の第1光伝送路4の実効的な光路長L1 +L2 とし、光ファイバー6の一周の長さをLすると、L1 +L2 +nL(n=0,1,2…)に設定されている。すなわち、隣接する伝送路の基準光路長は、光ファイバー6の一周の長さLだけ異なっている。
【0059】
以上説明した図2の構成で、透過光の検波する場合に、第1光スイッチ素子12と第2光スイッチ素子13と切換制御して、第0番目の光伝送路200を選択する。1回リングダウンパルス光を同期検波する場合には、第1番目の光伝送路201を選択する。同様に、n回リングダウンパルス光を同期検波する場合には、第n番目の光伝送路20nを選択する。このように各光伝送路を切換制御して、且つ、各光伝送路の光路長を実効的に振動させることで、図1.Eのような同期検波波形を得ることができる。そして、その同期検波波形から各組の強度比を算出する。そして、各リングダウン回数に対する振幅の減衰特性から減衰定数が測定される。本実施例はホモダイン検波と同様の原理により高感度検出することが可能である。実際、ATR法に比して500倍の感度(最低検出量が1/500)を得ることができた。
【0060】
〔変形例〕
上記実施例では、第1光伝送路4を光ファイバー6へのパルス光の入射用の伝送路と、光ファイバー6からリングダウンパルス光を取り出す出力用の伝送路と共用させている。しかし、出力用の光伝送路を別に設けて、光ファイバー6の光切換スイッチ5との位置とは別の位置で光方向性結合器を介して、この出力用の光伝送路に、リングダウンパルス光を出力させるようにしても良い。この出力用の光伝送路と、第2光伝送路20は、共に、ホモダイン検波器40に入力するが、このホモダイン検波器40までのリングダウンパルス光の光路長と、第2光伝送路20を伝搬する参照光の光路長とが上記した関係になるように設定すれば良い。
【0061】
上記実施例では、光ファイバー6をループ状に構成しているが、これを直線又は曲線にしても良い。すなわち、直線状の光ファイバーを光切換スイッチ5により第1光伝送路4と結合させる。そして、光ファイバーの両端を鏡面として、光を反射させるようにする。このようにしても、ループでない直線状や曲線状の光ファイバーを往復進行するリングダウンパルス光を外部に出力して、そのパルス光の光路長と、光路長が実効的に等しい第2光伝送路を伝搬する参照光との間で、同期検波するようにしても良い。
原理は、上記と同様である。
【0062】
また、本発明では、光ファイバー6の長さを長くすることで、パルス光のパルス幅をそれほど狭くすることはない。
本発明を適用する光源としては、スーパーコンティニュアム光源を用いても良い。スーパーコンティニューム光源から特定波長の情報を得るには、各干渉波形(パルス)を高速フーリエ変換し、各パルスの特定波長の強度を求め、それらの減衰時定数から求めればよい。
【実施例2】
【0063】
実施例2の装置を図3に示す。実施例1の装置を示す図2における素子と同一機能を有する素子には、同一符号を付した。波長1.55μm のfsレーザ光源1を用い、図2の光ファイバー6に相当するループ状の光ファイバ(キャビティに相当)の長さを3mとした。fsレーザ光源1からのレーザは、光方向性結合器8により第1光伝送路4と光ファイバ遅延線路210−213側へとに分岐される。光ファイバ遅延線路側に分岐されたレーザは光方向性結合器54を介して微小幅だけ変位する駆動ミラー53に入力し、そのミラー53で反射したレーザが光方向性結合器54を介して、光ファイバ遅延線路210−213に入射する。駆動ミラー53は、実施例1のピエゾチューブスキャナー15と同一機能を有しており、レーザの光路長を微小幅で振動させる。光ファイバ遅延線路210−213は、それぞれ、3、30,60、180mの光路長を持つファイバから構成されている。光スイッチ12、13で切り替えて、任意の一つの光ファイバ遅延線路が選択されるようになっている。光ファイバ遅延線路210〜213を伝搬したレーザと、光ファイバ6から出力されるリングダウン光との干渉波形は、バランス型ホモダイン検波器40で検出される。図2ではループ状の光ファイバ6への結合に光スイッチ5を用いていたが、本実施例では、可変レシオカプラ51を用いた。試料測定用のヘッド部52には光ファイバコア近くまで研磨して作製した物を用いた。このヘッド52は光ファイバ6内を伝搬する光のエバネッセント波又は近接場光と試料とが相互作用することで、試料の吸収測定を可能とする。
【0064】
図4に3m の光ファイバ遅延線路と30m の光ファイバ遅延線路における干渉波形を示す。試料には純水とメタノールを用いた。3m、30mでもメタノールの方が干渉強度が低くなり、純水より大きな吸収があることが分かる。光ファイバ遅延線路を30mとして、メタノール濃度を変化させて干渉強度をから導出された吸収率の変化を図5に示す。試料のメタノールはヘッド部52に10μL 滴下して測定した。ここで用いたヘッド部52の実効光路長は約1mm であったので計算からはメタノールのような吸収係数が2cm-1(波長1.55μmにおいて)と比較的大きい試料の場合、2fL の極微量の試料で十分な測定が可能であることが分かる。
【0065】
また、メタノールは吸収係数が比較的大きいため、キャビティに相当する光ファイバの10倍の光路長である30mの光ファイバ遅延線路でも大きな吸収係数が測定できた。メタノールの場合、計算からは約2kmの光ファイバ遅延線路で3ppm、2fL のエタノールの測定が可能となる。
【0066】
さらに吸収係数が小さな試料の場合も大きな吸光度が観測されないため、感度を上げるためにさらに長い光ファイバ遅延線路での測定が必要となる。
このような測定を光路長が異なる光ファイバ遅延線路を切り替えて測定することにより、濃度の高い試料から非常に濃度の小さい試料まで測定が可能となり、波長可変ソリトンパルス光源を用いれば吸収係数の測定が約1 μmから約2 μmの波長範囲にわたって測定が可能となる。
【0067】
実施の形態2
キャビティを形成する2つのミラー間の光路をLとおくと、パルス状の各リングダウン光は光路長の差が2Lとなり、光の速度をcとおけば隣り合うリングダウン光との時間間隔は2L/cである。即ち、図1.Aに示す通り、キャビティから出力される光パルスは、ミラー間で反射されない透過光S1、S2、S3、S4、…がある。また、透過光S1の時間2L/c後には、2つのミラーで1度ずつ反射されて光出力される1回リングダウン光L11が、更にその時間2L/c後には、2つのミラーで2度ずつ反射されて光出力される2回リングダウン光L12が、と順に、時間2L/c間隔でリングダウン光が出力される。これは透過光S2、S3、S4についても同様であり、2つのミラー間の光路Lとパルス間隔Tpを調整することで、1つの透過光に続くリングダウン光の組が、次の透過光とは重ならないようにすることは容易である。
【0068】
一方、別経路を経由して参照光(reference)が、信号光であるリングダウン光の組を従えた透過光のパルスとホモダイン検波される。今、参照光の光路長を透過光の光路長と完全に一致させたとすると、参照光と信号光のホモダイン検波は、参照光のパルスと同一となる。この時の検波出力をAとおく。次に、参照光の光路長を1回リングダウン光の光路長と完全に一致させたとすると、参照光と信号光のホモダイン検波は、また参照光のパルスと同一となる。この時の、検波出力はαA(0<α<1)となる。以下同様に、参照光の光路長をn回リングダウン光の光路長と完全に一致させたとすると、参照光と信号光のホモダイン検波は、また参照光のパルスと同一となって、検波出力はαnA(0<α<1)となる。
【0069】
しかし、参照光の光路長を、透過光、各回リングダウン光の光路長に完全に一致させることは必ずしも容易ではない。これはパルス幅の短い信号光を用いることから来る困難性ではある。そこで、参照光の光路に振動可能な可動ミラーを設ける。すると、可動ミラーの振動により、参照光の隣り合うパルスは異なる光路長を経由することとなり、ミラーにより反射された参照光のパルス間隔は、反射前よりも長く又は短くなる。この時、この可動ミラーの振幅aを、キャビティを形成する2つのミラー間の光路Lよりも短くすると、隣り合うリングダウン光との時間間隔2L/cよりも、参照光のパルス間隔の変化によるパルスの時刻の変化2a/cを小さくすることができる。こうして、所望のパルス周波数(パルス間隔)を有する信号光を分岐した参照光の光路長を、振動可能な可動ミラーにより振動させることで、参照光の光路長を、透過光、各回リングダウン光の光路長にほとんど完全に一致させることが容易に達成できる。
【0070】
本実施の形態においても、原理は実施の形態1で示したのと同様に、図1.B以下において、具体的な数値を例示して、本願実施例における2つのパルス列の干渉について説明する。信号光を、パルスが幅100fs(1×10-13秒)、パルス間隔が2×10-8秒(パルス周波数50MHz)とし、参照光の途中に置いた振動可能なミラーの振動周波数を20Hzとおく。また、当該ミラーの振動中心において、参照光の光路長は信号光の光路長と一致するものとする。またミラーはその位置から±4mm振動するものとする。
【0071】
ミラーの位置を振動中心を時刻t秒においてとしてx(mm)とし、t=0でx=0とすると、x=4sin40πtとおける。ミラーの速度v(mm/秒)は、v=160πcos40πtとなり、t=0でv=500mm/秒。するとパルス間隔が2×10-8秒の参照光の2つのパルスが到達する間にミラーは1×10-8m移動するので、光路差は2×10-8mとなる。これはミラーで反射された参照光のパルス間隔が、反射前に比べて6.67×10-17秒長く又は短くなることを意味する。
【0072】
すると、例えば、信号光と反射後の参照光とで、第0番目のパルスが図1.Bのように丁度パルス幅の1×10-13秒だけズレており、反射後の参照光側のパルスの時刻の方が早く、反射後の参照光側のパルス間隔が信号光のパルス間隔よりも6.67×10-17秒長いとすると、1×10-13秒÷6.67×10-17秒=1500であるので、1500パルス目で反射後の参照光側のパルスと信号光のパルスが一致し、3000パルス目では信号光と反射後の参照光とで、丁度パルス幅の1×10-13秒だけズレ、反射後の参照光側のパルスの時刻の方が遅くなる。信号光のパルス間隔は2×10-8秒であるので、第0パルスと第3000パルスの時間間隔は6×10-5秒である。
【0073】
このような信号光と反射後の参照光とを干渉させてホモダイン検波すると、図1.Cのような出力が得られる。図1.Bの状態の3000パルスの間は信号光と反射後の参照光とに干渉が生じ、第0パルスで丁度0、第1500パルスで最大、第3000パルスで丁度0なので、この間は図1.Cの包絡線(点線で示した)の下側に2999本のピークが得られる。この包絡線とその下側の2999本のピークは、6×10-5秒の間存在し、ミラーが元の位置に戻る0.05秒後までは存在しない。即ち、包絡線とその下側の3000本のピークは、0.05秒間隔で6×10-5秒の間存在し、それ以外の時刻では存在しない。
【0074】
これを「巨視的」に見ると、幅6×10-5秒の極めて鋭いピークが0.05秒間隔で生じることになる(図1.D)。以上は、パルスの波形が図1.Bのような方形波状でなくても当然に同様に生じる。また、図1.Bの第1500パルスと前後のパルスの干渉の差については、例えば1.63μmの波長では1パルスに18.4波存在し、2π/80の位相差と小さい。すると包絡線のピーク付近の複数組の信号光と反射後の参照光の干渉は、包絡線のピークの強度に略等しい強度を生じるので、信号光と参照光の反射光とで、パルスの位相が完全に一致するように調整する必要もない。また、ミラーの振動中心の位置についても、そこで反射される参照光の光路長が、信号光の光路長と完全に一致するよう調整する必要もない。即ち、ミラーの振動する範囲に、反射される参照光の光路長として、信号光の光路長と完全に一致する位置があれば良い。よって、ミラーの振動周波数及び振幅に対し、十分高いパルス周波数のパルス列を参照光の経路に導くことで、信号光とのホモダイン検波を容易に行うことができる。
【0075】
このように、光路長がほとんど一致していれば良いのであるから、振動するミラーを光路の方向に移動させても、「振動中に光路長が一致」する箇所が複数箇所存在しさえすればホモダイン検波が容易にできる。すると、振動するミラーの振動中心が、図1.Aの透過光S1、S2、S3、S4、…の光路長に参照光の光路長が一致する位置、図1.Aの1回リングダウン光L11、L21、L31、L41、…の光路長に参照光の光路長が一致する位置、図1.Aの2回リングダウン光L12、L22、L32、L42、…の光路長に参照光の光路長が一致する位置、…、図1.Aのn回リングダウン光L1n、L2n、L3n、L4n、…の光路長に参照光の光路長が一致する位置、と移動させるならば、図1.Eのように、透過光との干渉、1回リングダウン光との干渉、2回リングダウン光との干渉、…、n回リングダウン光との干渉を、各々複数個の幅6×10-5秒の極めて鋭いピークとして検出することができる。
【実施例3】
【0076】
図6は本発明の具体的な一実施例に係るキャビティリングダウン分光分析装置300の構成を示すブロック図である。キャビティリングダウン分光分析装置300は、波長可変フェムト秒ソリトンパルス光源301、1/2波長板302、球レンズ303a、偏波保持ファイバ304、球レンズ303b、ビームスプリッタ(光分岐手段)305、偏光ビームスプリッタ306、1/4波長板307、位置を可変とすると共に振動させるガルバノミラー308を有する。シグナル光(信号光)は、波長可変フェムト秒ソリトンパルス光源301、1/2波長板302、球レンズ303a、偏波保持ファイバ304及び球レンズ303bを経て、ビームスプリッタ305からキャビティを形成する高反射ミラー311及び312に導かれ、リングダウン光が両凸レンズ321に至る。同時に、リファレンス光(参照光)は、同様にビームスプリッタ305に達した後、偏光ビームスプリッタ306及び1/4波長板307を経て、位置を可変とすると共に振動可能なガルバノミラー308にて反射されて、1/4波長板を経て偏光ビームスプリッタ306から両凸レンズ322に至る。両凸レンズ321に至ったシグナル光は光ファイバ331を介し、両凸レンズ321に至ったレファレンス光は光ファイバ332を介し、いずれもファイバカプラ330に導かれ、光ファイバ331’及び332’を介してバランス型検出器340(ホモダイン検波手段)に導かれる。バランス型検出器340の出力する電気信号をA/D変換及びデジタル処理装置350にて解析する。
【0077】
キャビティリングダウン分光分析装置300の波長可変フェムト秒ソリトンパルス光源301としては、Erドープファイバを用いたフェムト秒パルスレーザを使用する。パルス幅は10〜500fsが好ましい。本実施例ではパルス幅を100fs、パルス間隔を20ns(パルス周波数50MHz)とした。また、波長としては1630nmの光ソリトンを用いた。
【0078】
ガルバノミラー308は、20Hzにて全幅8mm、紙面内上下方向に振動させる。その上で、ガルバノミラー308を紙面内下方向に300mm移動可能としている。
【0079】
高反射ミラー311及び312により形成されるキャビティ領域は、キャビティ長を35mm、46mmとなるようにした。高反射ミラー311及び312はいずれも反射率が99.8%以上のものを用いた。以上の図6の構成で図1.Eのような波形を検出し、各組の強度比を算出する。また、信号光の透過光の出力される時刻と、各n回リングダウン光の出力される時刻と時間差を別途計算しする。こうして、透過光と各n回リングダウン光の時間差に対して透過光に対する各n回リングダウン光の強度をプロットし、時定数からキャビティに配置されたサンプルの吸収係数を求めた。
【0080】
図6の構成で得られた実際の波形データを図8に示す。この波形は包落線を取る前の干渉波形であるが、光検出器の応答速度が1kHzと遅いため、図1.E で6 ×10-5秒のパルス幅で示したパルス列が一つの大きな干渉パルス波形として観測されている。さらに高速応答の光検出器を用いたバランス型ホモダイン検波器を用いれば図1.E のような波形で測定される。
【0081】
本実施例はホモダイン検波と同様の原理により高感度検出することが可能である。実際、ATR法に比して500倍の感度(最低検出量が1/500)を得ることができた。
【0082】
図7は、キャビティ領域に試料を表面に付着させた基板を配置する3つの方法を示す構成図である。
第1は、図7.Aのように、赤外光を、試料(Obj)を表面に付着させた基板(Sub)をも透過させるものである。この場合、基板は使用する赤外光に対して透明度の高いものを用いることが必要であり、且つ吸収係数及び基板厚さを容易に調整できる必要がある。
第2は、図7.Bのように、赤外光を、試料(Obj)を表面に付着させた基板(Sub)との界面で反射させるものである。この場合、基板は使用する赤外光に対して反射率の高いものを用いることが必要である。基板厚さについては調整する必要は無い。
第3は、図7.Cのように、底面が等脚台形状の角柱型プリズム(Priz)の、等脚台形状の底面の底辺に対応する側面Aに試料を付着させ、等脚台形状の底面の側辺に対応する側面Bから赤外光を導入して、角柱型プリズムの側面Aと、そこに付着させた試料との界面で反射させ、側面Bと対となる等脚台形状の底面の側辺に対応する側面Cから透過させるものである。これは反射点近傍の試料(Obj)によるエバネッセント波の吸収を利用するものである。尚、更には、図3.Cにおいて、高反射ミラー11を側面Bに、高反射ミラー312を側面Cに設けて、プリズム(Priz)内のみをキャビティとして用いても良い。
【0083】
本発明を適用する光源としては、図9に示すようなスペクトルを持つスーパーコンティニューム光を用いてもよい。この光源を用い図6と同様な構成で得られた干渉波形を図10に示す。このような干渉波形から特定波長の吸収係数を求めるには、各干渉波形(パルス)を高速フーリエ変換し、各パルスの特定波長の強度を求め、それらの減衰時定数から求めればよい。
【0084】
実施の形態3
本発明を具体的な実施例に基づいて説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例4】
【0085】
図11に示すように、ループ状の光ファイバー410に対して、光を導入する第1光伝送路412が、方向性光結合素子436により光結合している。また、このループ状の光ファイバー410の伝送路中に試料440が挿入されている。試料440は、光ファイバー410を切断して、端面を対向させ、端面間の空間に設けられている。試料440を光が通過するように構成されている。また、光ファイバー410には、光増幅素子415が設けられている。第1光伝送路412は、光ファイバーで構成されており、その光ファイバーの一端には連続レーザ光を出力できるレーザ装置430が接続されており、他端には検出素子432、検出素子432で受光されたリングダウンパルス光が減衰しないように、光増幅素子415の増幅率を制御し、その増幅率から試料の吸収特性を演算する処理装置434が設けられている。
【0086】
また、第1光伝送路412には、ループ状の光ファイバー410と第1光伝送路412とを光結合させる方向性光結合素子436が設けられている。また、方向性光結合素子436のレーザ光入射側前方には、第2偏光子421が設けられ、検出素子432のレーザ光入射側前方には、第1偏光子422が設けられている。偏光制御素子であるファラデー回転子423が、方向性光結合素子436のレーザ光入射側前方に設けられている。第2偏光子421は、例えば、S偏光成分のみを出力する素子である。ファラデー回転子423は、処理装置434からの制御信号により、伝送路方向に磁場を印加して、偏光を90度回転し、例えば、S偏光からP偏光に変化させる素子である。方向性光結合素子436は、P偏光のみをその進行方向にのみ光フイバー410に分岐する素子である。また、第1偏光子422は、所定方向に偏光した光、例えば、P偏光のみを通過させる素子である。
【0087】
レーザ装置430から出力された連続レーザ光は、第2偏光子421に入射し、S偏光成分のみが第1光伝送路412に出力される。このS偏光の連続レーザ光は、磁場が印加されていないファラデー回転子423を通過して、方向性光結合素子436に入射する。しかし、方向性光結合素子436はP偏光のみを光ファイバー410に分岐するので、この状態では、光ファイバー410にはレーザ光は出力されない。方向性光結合素子436を通過したS偏光の連続レーザ光は、第1偏光子422に入射するが、第1偏光子422はP偏光のみを通過させるので、このS偏光の連続レーザ光は、検出素子432には入射しない。よって、レーザ装置430から出力された連続レーザ光が検出素子432に入射することがなく、検出素子432でのリングダウンパルス光の受光を妨げることがない。
【0088】
処理装置434の出力するパルス制御信号により、ファラデー回転子423にパルス磁場が印加されると、この印加期間だけ、ファラデー回転子423を通過するレーザ光は、S偏光からP偏光に90度位相が回転する。すなわち、ファラデー回転子423の出力では、パルスP偏光が得られ、その期間外は連続したS偏光となる。このパルスP偏光レーザ光が方向性光結合素子436に入射して、光ファイバー410に分岐されて、光ファイバー410を図面上時計回りに循環する。循環する毎に、試料で光吸収が発生し、パルスP偏光レーザ光の振幅が順次減少する。すなわち、P偏光リングダウンパルス光が得られる。このリングダウンパルス光は、循環する毎に、方向性光結合素子436を介して一部の光が第1光伝送路412側に分岐される。P偏光であるので、方向性光結合素子436により第1光伝送路412側に一部分岐されて、第1偏光子422に入射する。第1偏光子422は、P偏光のみ通過させるので、このリングダウンパルス光は、検出素子432に入射する。
【0089】
処理装置434は、この検出素子432で検出されたリングダウンパルス光の振幅が減衰しないように、光増幅素子415の増幅率を制御する。したがって、試料の吸収率と増幅率とが等しくなると、試料440での減衰量だけ、増幅素子で予め増幅されるので、試料を通過するパルス光は、減衰しないようにすることができる。すなわち、パルス光列の振幅が変化しないようにすることができる。この時、光増幅素子415の増幅率は、試料の吸収率の時間変動に追随できれば十分である。この測定を連続レーザ光の波長を変化させて、実行することで、試料の波長吸収特性を得ることができ、試料の原子、分子構造を特定することが可能となる。この場合には、試料に入射する光の振幅を一定にした状態で吸収係数を測定することができるので、非線形効果を排除することができ、正確に、光強度に対する吸収係数を測定することができる。逆に言えば、レーザ光の強度を変化させながら、上記の測定をすれば、試料の吸収係数の非線形特性を求めることも可能となる。
【0090】
また、測定系自体の減衰があるので、現実には、試料が存在しない場合のパルスP偏光レーザ光のリングダウン光を測定して、そのリングダウン光が減衰しないように、上記と同様に、増幅素子の増幅率を制御して、その増幅率から測定系の減衰量を測定することができる。この測定系の減衰量で、上記のように測定した試料の吸収率を補正することで、試料の真正な吸収率を求めることが可能となる。したがって、極めて正確な吸収率の測定が実現される。
【0091】
パルスP偏光レーザ光のリングダウン特性は、横軸をリングダウン回数、縦軸をリングダウンパルス光の振幅として、測定する。この特性において、増幅素子の増幅率を微小量だけ制御して、リングダウンパルス光の振幅が減衰しないように、増幅率をフィードバック制御すれば良い。
【0092】
また、上記の実施例において、方向性光結合素子436は、一般に良く知られたものである。この方向性結合素子により、レーザ光のリングダウンパルス光を光ファイバー410から検出素子432へ取り出すことができる。また、結合率を変化させることで、光ファイバー410を循環する光の強度を調整することができる。これにより、検出素子432で受光される光の減衰幅を調整できるので、同一のダイナミックレンジにより減衰係数を測定することが可能となり、精度を向上させることができる。
【0093】
上記の実施例では、レーザ装置430を連続発振レーザとしているが、これをパルス発振レーザとし、第1偏光子422、第2偏光子421、ファラデー回転子423を無くしても良い。この場合には、パルスレーザ光を第1光伝送路412から方向性光結合素子436を介して、光ファイバー410に入射させることができる。
【実施例5】
【0094】
本実施例は、実施例2の図3に示す装置において光ファイバ6に半導体光増幅器を設けたものである。その装置の構成を図12に示す。図12において光伝送路412、ループ状の光ファイバー410、試料440の挿入位置、検出素子432、処理装置434の構成は実施例4と同じである。レーザ装置430にはパルスレーザを用い、第1偏光子422、第2偏光子421、ファラデー回転子423は用いない。
【0095】
この実施例では、パルスレーザとして波長1.55μmの半導体レーザ430を用い電流変調によりパルス発振させた。リングダウンパルス光を高S/N で取得するために、バランス型ホモダイン検波器440を用いた。そのため、実施例4とは異なり、図3に示す実施例2の装置のように、パルスレーザを1×2の光方向性結合器408でパルスレーザの光を2分岐し、一方は、実施例4と同様に第1光伝送路404を介してループ状の光ファイバー410に可変レシオカプラ450を介して導入されるが、他方はホモダイン検波用の参照信号として光ファイバ遅延線路460−463に導入される。
【0096】
試料440の挿入位置には、光ファイバの側面をコア近傍まで研磨し、ファイバ内の光のエバネッセント波又は近接場光が試料と相互作用するヘッド452が挿入されている。このヘッド452が設けられている光ファイバー410から周回して可変レシオカプラ450を介して、試料と相互作用(吸収を受けた)した信号光は2×1の光方向性結合器470に導入される。参照信号は1×4光スイッチ472を通して4種類の長さの異なる光ファイバ遅延線路のどれか一本を通って4×1光スイッチ473を介して、2×1の光方向性結合器470に入射する。光方向性結合器470に導入された信号光と参照光はちょうど参照光側の光路長がループ状の光路の整数倍近傍になったときに干渉する。そのため参照光側に微小変位用駆動ミラー453が挿入され、ミラー453を駆動することで、ホモダイン検波器には干渉波形が導入され、高いS/N で検波される。他の構成は図3と同様である。
【0097】
ループ状の光ファイバー410には増幅素子415が挿入されており、本実施例では半導体増幅器(SOA )415を用いた。この増幅素子415はSOA に限定されるものではなく、Erなど希土類を用いた光ファイバーアンプなどを用いても良い。fsレーザのような先頭出力の高いレーザを用いた場合は、SOA では増幅が困難なため、光ファイバーアンプが適している。
【0098】
SOA 電源への注入電流を変化させたときのSOA の増幅率を計測した結果を図13に示す。この図13からわかるようにSOA を用いることで、信号を16dB 程度増幅できる。このSOA の増幅率を0dB (増幅率1)として、光ファイバーの遅延光路長を30m、60m、180mと変化させたときの信号強度は図14.Aのようになる。図14.Aの黒丸はヘッドに試料がなにも無い場合の光路長に対する干渉強度である。光ファイバのヘッドやSOA や光コネクタなどの挿入損失により、大きく減衰している。この状態で20% のメタノールをヘッドに10μL 滴下して、光ファイバー内の光からもれ出るエバネッセント波がメタノールの吸収を受けた場合干渉強度は図14.Aの三角印のように吸収分だけ干渉強度が弱くなる。ホモダイン検波器のノイズレベルが点線のレベルとした場合、光遅延光路長60m以上では信号がノイズに埋もれ、高感度な計測が不可能となる。
【0099】
一方、SOA の増幅率を調整して、ループ状ファイバ内の損失を補正した場合、図14.Bのように、ヘッドに試料が無いときの干渉強度はSOA の増幅率を1としたときの三角印から黒丸となり、光遅延線路の光路長を長くしても干渉強度が変化しないように補正することができる。この状態で試料がヘッドに存在するときはその吸収を受けて、干渉強度は図14.Cの三角印のようになる。この場合図14.Bの三角印と異なり60m以上でも干渉強度がノイズレベル以下とならない。本実施例では最長の光遅延線路の光路長を180mとしているが、数km以上の光遅延線路でも測定が可能であり、非常に吸光度の小さな試料を測定できる。
【実施例6】
【0100】
次に図15にCWレーザを用いる実施例を示す。実施例5で示した図12と同様の装置構成で、レーザ装置のみCW発振の半導体レーザに変えることで、同様な測定が可能となる。光遅延光路長を変えた時の干渉強度はパルス発振と同様に適当に増幅率を調整することで、3mの光路長でも180mの光路長でも図16(a) のような干渉がミラーを駆動することでホモダイン検波器により観測される。この状態でヘッド部に吸収がある試料が存在すると、図16(b) のような干渉波形が得られ、これらの干渉の減衰率から吸収特性を高感度に測定できる。この場合図16(b) のような吸収を受けた干渉波形を適当に増幅率を上げて、図16(a) と同じ干渉強度とし、このときの増幅率から、吸収特性を求めても良い。
【実施例7】
【0101】
実施形態3
次に、本発明の具体的な実施例である実施例7について説明する。図17において、第1光伝送路412、ループ状の光ファイバー410、試料440の挿入位置、検出素子432、処理装置434の構成は、実施例4と同一である。レーザ装置430にはパルスレーザを用い、第1偏光子422、第2偏光子421、ファラデー回転子423は用いない。
【0102】
この実施例では、光ファイバー410に対するレーザ光の入力系統と、レーザ光の出力系統とを分離した例である。入力系統は、光を透過も反射もさせない終端子424が第1光伝送路の終端に接続されている。新たに設けられたレーザ光の出力系統として、光ファイバー410に光結合する第2の方向性光結合素子437、第2の方向性光結合素子437によって光ファイバー410と結合する第2光伝送路413、終端子425が設けられている。そして、第2光伝送路413の一端に検出素子432を接続している。
【0103】
本実施例では、レーザ装置430から出力されるパルスレーザ光が第1光伝送路を伝搬し、方向性光結合素子436を介して光ファイバー410に分岐し、光ファイバー410を循環する。光ファイバー410を循環するリングダウンパルス光は、第2の方向性光結合素子437、第2光伝送路413を介して、検出素子432に入射する。この検出素子432に入射したパルスレーザ光の振幅が減衰しないように、光増幅素子437の増幅率が、処理装置434によりフィードバック制御される。そして、その増幅素子の増幅率から試料の吸収係数が演算される。この場合には、入力系統と出力系統とが分離されているので、出力系統である第2光伝送路413には、偏光子や、偏光性の方向性結合素子を用いる必要がない。
【実施例8】
【0104】
上記実施例では、光ファイバー410をループ状に構成しているが、図18に示すように、これを直線又は曲線にしても良い。すなわち、直線状の光ファイバー490を方向性光結合素子436により第1光伝送路412と結合させる。そして、光ファイバー490の両端は鏡面442、443として、光を反射させるようにする。このようにしても、ループでない直線状や曲線状の光ファイバー490を往復進行するパルス光を検出素子432側に出力することができる。この時、方向性光結合素子436の機能により、光ファイバー490を試料440側に伝搬するリングダウンパルス光のみを第1光伝送路412に出力させて、検出素子432に入射させることができる。
【実施例9】
【0105】
本実施例は、図19に示すように、実施例7の構成において、第1偏光子422、第2偏光子421、偏光制御素子であるファラデー回転子423を排除し、方向性光結合素子436に代えて、光結合制御素子であるピエゾ駆動結合率可変カプラ436を設けたことが特徴である。他の構成は、実施例7と同一である。ピエゾ駆動結合率可変カプラ436は、電気光学効果を用いて結合率を制御する素子であり、電圧を印加することで、光結合率を制御できる素子である。ピエゾ駆動結合率可変カプラ436にパルス電圧を印加して、パルス的に結合率を高くすることで、光ファイバー410には、パルス光を入射させることができる。このパルス光のリングダウン特性が受光素子432により検出されることは、実施例7と同一である。
また、光結合制御素子としては、ピエゾ駆動結合率可変カプラに代えて、光スイッチとしても良い。すなわち、第1光伝送路412から光ファイバー410への接続と遮断とを高速で行える光スイッチ素子で構成しても、パルス光又はステップ減少光を光ファバー410に入射させることができる。
【実施例10】
【0106】
全実施例において、次のようにした実施例が考えられる。試料440を設置しない状態で、リングダウン光の減衰がないように光増幅素子の増幅率をフィードバック制御する。次に、試料440を設置して、リングダウン光の減衰特性を測定し、この特性から減衰定数を測定する。この場合には、リングダウン光の減衰特性には、測定系による減衰は排除されているので、試料だけの吸収係数を正確に求めることができる。
【実施例11】
【0107】
上記の実施例4−実施例10の実施例において、光ファイバー410,490を伝搬する光をパルス光に代えて、ステップ減少する光としても良い。この場合には、実施例4においては、処理装置434の出力する連続制御信号により、ファラデー回転子423に連続磁場が印加される。この結果、第2偏光子421から出力されるS偏光の連続レーザ光は、ファラデー回転子423により、P偏光に変換される。P偏光レーザ光が方向性光結合素子436を介して、光ファイバー410,490に入射する。次に、連続制御信号を遮断して、ファラデー回転子423への磁場の印加を停止する。すると、ファラデー回転子423の出力は、S偏光の連続レーザ光となり、この光は光ファイバー410、490には入射しない。したがって、光ファイバー410、490においては、P偏光レーザ光の振幅がステップ的に減少することになる。このステップ減少する光のリングダウン光を検出して、その光が減衰しないように、増幅素子415の増幅率をフィードバック制御する。この増幅率に基づいて試料の吸収率を測定することができる。
【0108】
また、実施例7、8においては、レーザ装置430を連続レーザとして、第1光伝送路412にシャッターを設けて、このシャッターにより急峻にレーザ光の伝搬を遮断するようにしても良い。また、レーザの発振自体を急峻に停止させるようにしても良い。このようにしてもステップ減少するレーザ光を光ファイバー10,100に伝搬させることができる。実施例9においては、初期状態において、ピエゾ駆動結合率可変カプラ436により、第1光伝送路412と光ファイバー410との結合率を大きくしておき、光ファイバー410,490に連続レーザ光を入射させる。次に、ピエゾ駆動結合率可変カプラ436を制御して、第1光伝送路412と光ファイバー410との結合率をステップ的に減少させる。すると、光ファイバー410,490への連続レーザ光の入射がステップ的に遮断されることになる。このステップ減少する光のリングダウン光を検出して、その光が減衰しないように増幅素子415の増幅率をフィードバック制御する。この増幅率に基づいて試料の吸収率を測定することができる。
【0109】
また、実施例4乃至10の全実施例において、方向性光結合素子436に代えて、光スイッチを用いても良い。すなわち、第1光伝送路412と、光ファイバー410,490とを、光の伝搬方向に結合させるモードと、光ファイバー410,490を閉じた状態にするモードと、光ファイバー410,490を伝搬した光を第1光伝送路412の下流側に伝搬させるモードとを切り替えることができる光スイッチを用いても良い。リングダウンパルス光の周期に同期して、スイッチ端子を切り替える光スイッチ素子としても良い。
【0110】
また、増幅率は試料440が存在しない場合の増幅素子415の増幅率に固定しておき、試料440が存在する場合の検出素子432で測定される減衰光量から試料440の吸収測定を測定することもできる。
【0111】
また、図17に示す実施例7において、連続レーザ光を光ファイバー410に導入しても良い。連続レーザ光を用いた場合には、試料440が存在しない場合の増幅素子415の増幅率は小さく、試料440が存在する場合にはそれによる光吸収のために増幅素子415の増幅率は大きくなる。この増幅率の差により試料40の吸収特性を測定することができる。
【0112】
上記したように、試料を通過するレーザ光の振幅が減衰しないようにフィードバック制御する場合には、レーザ光の強度が所定値の場合における試料の光吸収係数を測定することができ、測定精度を向上させることができる。また、レーザ光は光ファイバーや光学系での損失が無視できるレベルまで増幅されるので、S/N比を向上させて試料だけの損失を精度良く測定することができる。
【0113】
実施形態4
本発明を具体的な実施例に基づいて説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例12】
【0114】
図20に示すように、ループ状の光ファイバー510に対して、光を導入する第1光伝送路512が、方向性光結合素子536により光結合している。また、このループ状の光ファイバー510の伝送路中に試料540が挿入されている。試料540は、光ファイバー510を切断して、端面を対向させ、端面間の空間に設けられている。試料540を光が通過するように構成されている。第1光伝送路512は、光ファイバーで構成されており、その光ファイバーの一端には広帯域スーパーコンティニューム光レーザ装置530が接続されており、他端には受光素子532、受光素子532で受光されたリングダウンパルス光から減衰係数を演算する処理装置534が設けられている。発明の処理装置は、受光素子532と処理装置534とで構成されている。広帯域スーパーコンティニューム光レーザ装置530は、光ファイバーの非線形性やラマン増幅を用いて、広帯域スーパーコンティニュームレーザ光を出力する装置である。広帯域スーパーコンティニュームレーザ光については、例えば、西澤典彦、後藤俊夫, 固体物理Vol.39 No.10,(2004),pp665-678 により周知である。
【0115】
また、第1光伝送路512には、ループ状の光ファイバー510と第1光伝送路512とを光結合させる方向性光結合素子536が設けられている。方向性光結合素子536は、第1光伝送路512を伝搬した光を進行方向にのみ光フイバー510に分岐し、光ファイバー510を伝搬した光を進行方向にのみ第1光伝送路512に分岐する素子である。第1光伝送路512からパルスレーザ光が光ファイバー510に導入されると、パルスレーザ光は光ファイバー510を循環し、試料540を通過する毎に、その振幅が、順次、減少し、リングダウンパルス光が得られる。このリングダウンパルス光が、方向性光結合素子536を介して、光ファイバー510から第1光伝送路512へ出力される。
【0116】
このリングダウンパルス光のリングダウン減衰係数を、受光素子532、処理装置534で測定することで、試料の減衰係数を測定することが可能となる。この測定をレーザ光の各波長に対して実行することで、試料の波長吸収特性を得ることができ、試料の原子、分子構造を特定することが可能となる。
【0117】
光ファイバー510をシングルモード高分散ファイバーとした場合の波長と1m当たりの伝搬遅延時間との関係を図22のSMFで示す。波長が1.33μmから1.94μmに変化すると、伝搬遅延時間は13ps/mだけ変化する。したがって、光ファイバー510の長さを1kmとすると、波長が1.33μmから1.94μmに変化すると、遅延時間は13nsだけ変化することになる。すなわち、波長1.33μm〜1.94μmの広帯域スーパコンティニューム光を用いると、1回のリングダウンパルス毎に、パルス幅は、13nsだけ広くなる。例えば、パルスレーザ光に波長1.33μm〜1.94μmの広帯域スーパコンティニュームでフェムト秒レーザ光(100fs(1×10-13 sec))を用いると、1回目のリングダウンパルスの幅は13nsとなり、2回目のリングダウンパルスの幅は26nsとなり、3回目のリングダパルスの幅は39nsとなる。こられのリングダウンパルスを図示すると図21のようになる。
【0118】
このフェムト秒レーザ光のパルス周期を3kHzとすると、1周期の間に100回のリングダウンパルスを許容することができる。100回のリングダウンがあっても、パルス幅は1.3μsとなり、隣接するリングダンウパルスの間隔が3.3μsであるので、それらが重なることはない。受光素子32で受光した図21に示すようなリングダウンパルスを微小時間間隔でサンプリングして、その値を一端記憶する。なお、図21に示す1パルスレーザ光についてのリングダンウパルスを一度にサンプリングできないのであれば、3kHzでパルスレーザ光は繰り返されているので、同一波形のリングダウンパルスが3kHzで繰り返されるとして、この繰り返し波形をサンプリングして、1周期当たりのリングダウンパルス波形を得るようにしても良い。
【0119】
そして、図21に示す、1パルスレーザ光当たりのリングダウンパルスが得られれば、図21に示す時刻と、波長とは一定の関係にあるので、時刻から波長を決定することができる。例えば、図22に示す特性を直線、y=k(x−x0 )+y0 と仮定する。ただし、xは波長、x0 はこの特性の中心波長で1.64μm、yは遅延時間、y0 は波長x0 における遅延時間である。さらに、説明を簡単にするために、y0 =0とする。図21の波形は、y0 =0とし、x0 からの最大波長変位をΔx(0.3μm)とするとき、Δx当たり、6.5nsの遅延時間で表されている。したがって、1回のリングダウンに関して、k=6.5ns/Δx=21.67ns/μmであり、y1 =k(x−x0 )であ。2回目のリングダウンパルスに関しては、y2 =2k(x−x0 )、3回目のリングダウンパルスに関しては、y3 =3k(x−x0 )である。ただし、yは、各リングダウンパルスの中心、すなわち、中心波長x0 における各リングダウンパルスの時刻を基準とした遅延時間である。
【0120】
図21のリングダウンパルス波形が得られれば、上記の関係から時刻列y1 , y2 , …yn に対応した波長xを求めることができる。そして、この波長xに関して、時刻列y1 , y2 , …yn におけるパルスの値の減衰特性から、リングダウンパルスの減衰率αを演算する。これを各波長xに関して求めれば、波長に関する減衰率α(x)を求めることができる。実際には、図22の波長伝搬遅延時間特性が直線ではないので、この曲線を用いて図21の時刻と波長との関係を求めることになる。
【0121】
上記のように、光ファイバー10の長さを1kmとすれば、リングダウンパルスのパルス幅が最小でも13ns、10回目のリングダウンパルスで130nsとなる。したがって、パルス幅が十分に広くなるので、波形のサンプリングが容易となり、波長分解能も高くなる。また、光ファイバー10の長さを100mとしても、リングダウンパルスのパルス幅が最小で1.3ns、10回目のリングダウンパルスで13nsとなり、図21の波形をサンプリングすることは可能である。
【0122】
パルスレーザ光の繰り返し周期は、光ファイバー10の長さと関連する。全長1kmとすると、3.3μs毎に、リングダウンパルスが出力されるので、パルスレーザ光の繰り返し周波数1kHz(周期1×10-3sec )とすると、1パルス周期の間に300回のリングダウンパルスを許容することができる。また、光ファイバー10の全長を100mとすると、0.33μs毎にリングダウンパルスが出力されるので、1パルス周期の間に100回のリングダウンパルスを許容するのであれば、パルス周期を30kHzとする必要がある。
【0123】
また、測定系自体の減衰があるので、現実には、試料が存在しない場合のパルスレーザ光のリングダウン特性を基準特性として測定しておいて、試料を測定した場合のパルス光レーザのリングダウン特性の基準特性に対する偏差の減衰特性を用いて、試料の吸収係数を測定することになる。この吸収係数は、横軸をリングダウン回数、縦軸をリングダウンパルスの振幅としたときの指数関数の減衰係数から演算すれば良い。また、レーザ光の波長を変化させて、同様にリングダウン特性の減衰係数を測定することで、波長吸収特性が得られる。この特性は、吸収係数の絶対値が不明であっても、波長特性として相対的な吸収特性が得られれば、試料を同定することができる。
【0124】
また、上記の実施例12において、方向性光結合素子536は、一般に良く知られたものである。この方向性結合素子により、レーザ光のリングダウンパルスを受光素子532へ取り出すことができる。また、結合率を変化させることで、光ファイバー510を循環する光の強度を調整することができる。これにより、受光素子532で受光される光の減衰幅を調整できるので、同一のダイナミックレンジにより減衰係数を測定することが可能となり、精度を向上させることができる。
【実施例13】
【0125】
次に、本発明の具体的な実施例である実施例13について説明する。図23において、第1光伝送路512、ループ状の光ファイバー510、試料540の挿入位置、レーザ装置530、受光素子532、処理装置534の構成は、実施例12と同一である。
この実施例13では、光ファイバー510に対するレーザ光の入力系統と、レーザ光の出力系統とを分離した例である。入力系統は、実施例12と、ほぼ、同様であるが、第1光伝送路512の終端には、光を透過も反射もさせない終端子524が用いられている点が異なる。新たに設けられたレーザ光の出力系統として、光ファイバー510に光結合する第2の方向性光結合素子537、第2の方向性光結合素子537によって光ファイバー510と結合する第2光伝送路513、終端子525が設けられている。そして、第2光伝送路513の一端に受光素子532を接続している。
【0126】
本実施例では、パルスレーザ光を光ファイバー510に導く方法は、実施例12と同一である。光ファイバー510を循環するリングダウンパルス光は、第2の方向性光結合素子537、第2光伝送路513を介して、受光素子532に入射する。この場合には、入力系統と出力系統とが分離されているので、出力系統である第2光伝送路513には、偏光子や、偏光性の方向性結合素子を用いる必要がない。
【実施例14】
【0127】
上記実施例13では、光ファイバー510をループ状に構成しているが、図24に示すように、これを直線又は曲線にしても良い。すなわち、直線状の光ファイバー590を方向性光結合素子536により第1光伝送路512と結合させる。そして、光ファイバー590の両端は鏡面542、543として、光を反射させるようにする。このようにしても、ループでない直線状や曲線状の光ファイバー590を往復進行するパルスレーザ光を受光素子532側に出力することができる。この時、方向性光結合素子536の機能により、光ファイバー590を試料540側に伝搬するリングダウンパルス光のみを第1光伝送路512に出力させて、受光素子532に入射させることができる。その他の構成は、実施例12と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明は、極薄膜、極微量の試料の同定等の分析に適しており、プラズマ処理された微量の物質、或いは微量のDNA等の分析に適している。
また、本発明は、光吸収が小さな液体、気体、DNA、タンパクなどの生体物質、有機物質、無機物質、薄膜などの分光分析に有効である。また、ある発明は、レーザ光源の波長を可変することなく、リングダウンパルス波形から波長吸収特性を得ることができる。
【符号の説明】
【0129】
1:波長可変フェムト秒ソリトンパルス光源
2:1/2波長板
3a:球レンズ
4:第1光伝送路
5:光切換器
6:光ファイバー
7:光増幅器
8:光方向性結合器
12:第1光スイッチ素子
13:第2光スイッチ素子
15:ピエゾチューブスキャナー
20:第2光伝送路
200,201,…,20n…第2光伝送路の構成する光伝送路
30:ファイバカプラ
40:ホモダイン検波器
50:処理装置
301:波長可変フェムト秒ソリトンパルス光源
302:1/2波長板
303a、303b:球レンズ
304:偏波保持ファイバ
305:ビームスプリッタ
306:偏光ビームスプリッタ
307:1/4波長板
308:ガルバノミラー
311、312:高反射ミラー
321、322:両凸レンズ
330:ファイバカプラ
331、332、331’、332’:光ファイバ
340:バランス型検出器
350:A/D変換及びデジタル処理装置
410,490…光ファイバー
421…第2偏光子
422…第1偏光子
423…ファラデー回転子
412…第1光伝送路
413…第2光伝送路
415…光増幅素子
436,437…方向性光結合素子
510,590…光ファイバー
521…第2偏光子
522…第1偏光子
523…ファラデー回転子
512…第1光伝送路
513…第2光伝送路
536,537…方向性光結合素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光吸収特性を測定すべき試料に光を導く光ファイバーに光を伝搬させて、試料の吸収特性を測定する分光方法において、
前記光ファイバーに前記光を増幅する増幅素子を設け、
前記光は、ステップ的に減少する光、又は、パルス光であり、前記増幅素子の増幅率を、試料を設置しない時の前記光のリングダウン光が減衰しない増幅率に設定した後に、試料を設置してリングダウン光を測定し、そのリングダウン光の減衰特性から試料の吸収率を測定することを特徴とする分光方法。
【請求項2】
光吸収特性を測定すべき試料に光を導く光ファイバーに光を伝搬させて、試料の吸収特性を測定する分光方法において、
前記光ファイバーに前記光を増幅する増幅素子を設け、
前記光は、ステップ的に減少する光、又は、パルス光であり、試料を設置してリングダウン光を測定し、そのリングダウン光が減衰しないように前記増幅素子の増幅率を制御し、この増幅率から試料の吸収率を測定することを特徴とする分光方法。
【請求項3】
試料の光吸収特性を測定する分光装置において、
光吸収特性を測定すべき試料と光とを相互作用させるための光ファイバーと、
前記光を増幅する増幅素子と、
前記光ファイバーを伝搬する前記光の強度を検出する検出素子と、
前記検出素子により検出された前記光の強度に応じて、前記増幅素子の増幅率を制御して試料の吸収特性を演算する処理装置と、
を有し、
前記光は、ステップ的に減少する光、又は、パルス光であり、前記処理装置は、前記増幅素子の増幅率を、試料を設置しない時の前記光のリングダウン光が減衰しない増幅率に設定し、試料を設置してリングダウン光を測定し、そのリングダウン光の減衰特性から試料の吸収率を測定することを特徴とする分光装置。
【請求項4】
試料の光吸収特性を測定する分光装置において、
光吸収特性を測定すべき試料と光とを相互作用させるための光ファイバーと、
前記光を増幅する増幅素子と、
前記光ファイバーを伝搬する前記光の強度を検出する検出素子と、
前記検出素子により検出された前記光の強度に応じて、前記増幅素子の増幅率を制御して試料の吸収特性を演算する処理装置と、
を有し、
前記光は、ステップ的に減少する光、又は、パルス光であり、前記処理装置は、試料を設置してリングダウン光を測定し、そのリングダウン光が減衰しないように前記増幅素子の増幅率を制御し、この増幅率から試料の吸収率を測定することを特徴とする分光装置。
【請求項5】
試料の光吸収特性を測定する分光装置において、
光吸収特性を測定すべき試料と光とを相互作用させるための光ファイバーと、
前記光を増幅する増幅素子と、
前記光ファイバーを伝搬する前記光の強度を検出する検出素子と、
前記検出素子により検出された前記光の強度に応じて、前記増幅素子の増幅率を制御して試料の吸収特性を演算する処理装置と、
を有し、
前記光は連続光であり、前記処理装置は、前記増幅素子の増幅率を前記光の振幅が所定値となるように制御し、この増幅率又はその減衰光量から前記試料の吸収特性を測定することを特徴とする分光装置。
【請求項1】
光吸収特性を測定すべき試料に光を導く光ファイバーに光を伝搬させて、試料の吸収特性を測定する分光方法において、
前記光ファイバーに前記光を増幅する増幅素子を設け、
前記光は、ステップ的に減少する光、又は、パルス光であり、前記増幅素子の増幅率を、試料を設置しない時の前記光のリングダウン光が減衰しない増幅率に設定した後に、試料を設置してリングダウン光を測定し、そのリングダウン光の減衰特性から試料の吸収率を測定することを特徴とする分光方法。
【請求項2】
光吸収特性を測定すべき試料に光を導く光ファイバーに光を伝搬させて、試料の吸収特性を測定する分光方法において、
前記光ファイバーに前記光を増幅する増幅素子を設け、
前記光は、ステップ的に減少する光、又は、パルス光であり、試料を設置してリングダウン光を測定し、そのリングダウン光が減衰しないように前記増幅素子の増幅率を制御し、この増幅率から試料の吸収率を測定することを特徴とする分光方法。
【請求項3】
試料の光吸収特性を測定する分光装置において、
光吸収特性を測定すべき試料と光とを相互作用させるための光ファイバーと、
前記光を増幅する増幅素子と、
前記光ファイバーを伝搬する前記光の強度を検出する検出素子と、
前記検出素子により検出された前記光の強度に応じて、前記増幅素子の増幅率を制御して試料の吸収特性を演算する処理装置と、
を有し、
前記光は、ステップ的に減少する光、又は、パルス光であり、前記処理装置は、前記増幅素子の増幅率を、試料を設置しない時の前記光のリングダウン光が減衰しない増幅率に設定し、試料を設置してリングダウン光を測定し、そのリングダウン光の減衰特性から試料の吸収率を測定することを特徴とする分光装置。
【請求項4】
試料の光吸収特性を測定する分光装置において、
光吸収特性を測定すべき試料と光とを相互作用させるための光ファイバーと、
前記光を増幅する増幅素子と、
前記光ファイバーを伝搬する前記光の強度を検出する検出素子と、
前記検出素子により検出された前記光の強度に応じて、前記増幅素子の増幅率を制御して試料の吸収特性を演算する処理装置と、
を有し、
前記光は、ステップ的に減少する光、又は、パルス光であり、前記処理装置は、試料を設置してリングダウン光を測定し、そのリングダウン光が減衰しないように前記増幅素子の増幅率を制御し、この増幅率から試料の吸収率を測定することを特徴とする分光装置。
【請求項5】
試料の光吸収特性を測定する分光装置において、
光吸収特性を測定すべき試料と光とを相互作用させるための光ファイバーと、
前記光を増幅する増幅素子と、
前記光ファイバーを伝搬する前記光の強度を検出する検出素子と、
前記検出素子により検出された前記光の強度に応じて、前記増幅素子の増幅率を制御して試料の吸収特性を演算する処理装置と、
を有し、
前記光は連続光であり、前記処理装置は、前記増幅素子の増幅率を前記光の振幅が所定値となるように制御し、この増幅率又はその減衰光量から前記試料の吸収特性を測定することを特徴とする分光装置。
【図1.A】
【図1.B】
【図1.C】
【図1.D】
【図1.E】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14.A】
【図14.B】
【図14.C】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図3】
【図12】
【図15】
【図1.B】
【図1.C】
【図1.D】
【図1.E】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14.A】
【図14.B】
【図14.C】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図3】
【図12】
【図15】
【公開番号】特開2012−73262(P2012−73262A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244028(P2011−244028)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【分割の表示】特願2007−536445(P2007−536445)の分割
【原出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(304036008)NUエコ・エンジニアリング株式会社 (59)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【分割の表示】特願2007−536445(P2007−536445)の分割
【原出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(304036008)NUエコ・エンジニアリング株式会社 (59)
【Fターム(参考)】
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