分光法を使用した微生物の分離、キャラクタリゼーションおよび/または同定方法
本発明は、試験試料中の微生物の分離、キャラクタリゼーションおよび/または同定方法に関するものである。本発明の方法は、試験試料中に存在する可能性がある非微生物細胞を溶解させる任意選択の溶解ステップと、後続の分離ステップとを含む。本方法は、血液含有培養基のような複雑な試料に由来する微生物の分離、キャラクタリゼーションおよび/または同定に役立つ可能性がある。本発明は更に、分離した微生物試料を分光解析して微生物の測定値を生成し、前記分光測定値を使用して試料中の微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2008年10月31日に出願した米国仮特許出願第61/110,187号「Method and System for Detection and/or Characterization of a Biological Particle in a Sample」の恩典を主張する。この米国仮特許出願の開示内容を本明細書に援用する。
【0002】
本発明は試料中の微生物を検出、単離および/または同定する方法およびシステムに関するものである。特に、本発明は分光技術を使用した微生物の迅速なキャラクタリゼーションおよび/または同定方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
生物学的流体中の病原微生物の検出は可能な限り短い時間で行う必要があり、医師が利用できる広範な抗生物質が存在するにも関わらず依然として死亡率が高い敗血症の場合は特にそうである。患者の体液、特に血液中の微生物のような生物学的活性剤の存在は通常血液培養瓶を使用して判定される。血流感染症は高い罹患率および死亡率と関連付けられるが、培養後に生化学的同定および抗生物質感受性試験を行う現行の診断法は実施期間が数日に及ぶこともある。典型的には、臨床症状に基づく経験的治療が開始されるが、試験結果が臨床決定に影響を及ぼすのは初期治療が失敗したときだけである。陽性の血液培養結果が出てから最初の数時間以内、好ましくは1時間以内に血流感染をキャラクタリゼーションることができれば診断情報の臨床的意義が大きく高まるはずである。この必要性を満足するために分子増幅法が提案されているが、この手法にも大きな難題が残っている。陽性の血液培養ブロス自体は種々の同定(ID)試験で使用され得る微生物の自然増殖個体群である。
【0004】
Vitek(登録商標)、Phoenix(商標)、Microscan(登録商標)システムのような従来の自動化表現型ID試験、またはAPIのような手動表現型試験では、強固な結果を得るために、微生物が適切な発育相にあり且つ干渉する培地および血液製剤が存在しないことが必要である。これらのシステムでは陽性ブロスから18〜24時間かけて平板培養培地上で培養したコロニーが使用される。しかしながら、より迅速な結果を得るための試みとして微生物を陽性血液培養瓶から隔離したシステムの使用が一部の研究室から報告されている。このようなダイレクトフロムボトル試験(direct-from-the-bottle test)は必ずしもすべての微生物(例えばグラム陽性球菌)に適しているわけではなく、試験製造業者によって検証されておらず、通常は結果が得られるまで3〜8時間かかる。陽性の培養結果が出てから最初の数時間以内、好ましくは1時間以内に臨床的に意義のある結果を医師に提供するために、より迅速かつより広範な特異的試験の提供が急務である。
【0005】
固有蛍光(IF)、赤外分光法(FTIR)、ラマン分光法のような光学分光法およびMALDI‐TOFのような質量分析法は非常に迅速な微生物の同定を可能にする可能性があるが、液体微生物学的培養基中および血液のような臨床試料中またはそれらの組合せに存在する蛍光性および吸光性の高い多くの化合物から干渉を受ける恐れがある。陽性血液培養ブロスから微生物を直接回収するために最も一般的に利用されている方法は、2ステップの分画遠心分離および血清分離チューブ内の遠心分離である。
【0006】
他の微生物分離、キャラクタリゼーションおよび/または同定方法が下記の文献に記載されている。
【0007】
米国特許第4,847,198号には、UV励起ラマン分光法を使用した微生物の同定方法が開示されている。4,847,198号特許によれば、細菌懸濁液に紫外領域の単一波長が接触する。使用する光エネルギーの一部は吸収され一部は放出される。放出された光エネルギー、すなわち共鳴増強ラマン散乱が後方散乱エネルギーとして測定される。このエネルギーを処理にかけることによってバクテリアに特徴的なスペクトルが生成される。
【0008】
ボー・ディン(Vo‐Dinh)の米国特許第5,938,617号は、試料をいくつかの波長の光で刺激し、発光強度を同期的にサンプリングすることにより試料の生物学的病原体を同定するシステムに関するものである。このシステムは試料を励起放射に曝すことにより発光放射を発生させる機構を含む。生物学的病原体はウイルスおよびバクテリアである可能性がある。
【0009】
米国特許第6,177,266号には、細胞タンパク質抽出物または全細胞のマトリクス支援レーザー脱離イオン化/飛行時間型質量分析法(MALDI‐TOF‐MS)分析によって生成される属、種および株固有のバイオマーカーによるバクテリアの化学分類方法が開示されている。
【0010】
米国特許第7,070,739号には、2次元超遠心分離によりウイルスを含む微生物を体液または均質化組織から直接抽出、分離および浄化する方法が開示されている。第1の遠心分離ステップで、同定すべき微生物よりも沈殿速度が速い粒子がすべて除去される。第2の超遠心分離ステップで、特殊な鋸歯状の遠心チューブを使用して充填液体中で等密度バンディングを使用して広範な密度勾配を形成する。この特許によれば、核酸固有の色素を使用してバンディング粒子を光散乱または蛍光によって検出し、ウイルスタンパク質サブユニットおよび完全なウイルス粒子の質量分析、および核酸質量と制限酵素によって生産される断片の質量の両方に関する蛍光フロー血球計算測定により、非常に小さい体積のバンディング粒子を回収しキャラクタリゼーションするための分離技法を使用することができる。
【0011】
米国特許出願第2007/0037135号には、液体中に懸濁した生物学的試料を同定および定量化するためのシステムが開示されている。このシステムは、少なくとも1つの励起光源を有する蛍光刺激モジュールと、少なくとも1つの励起光源から励起光を受け取るように生物学的試料を配置する蛍光刺激モジュールと光学的に結合した試料インターフェースモジュールと、試料インターフェースモジュールと光学的に結合した蛍光放出モジュールであって、生物学的試料の蛍光励起‐発光マトリクスを検出する少なくとも1つの検出装置を備える蛍光放出モジュールと、蛍光放出モジュールと動作可能に結合されたコンピュータモジュールとを含む。コンピュータモジュールは生物学的試料の蛍光励起‐発光マトリクスに関する多変量解析を実行して生物学的試料の同定および定量化を行う。しかしながら、米国特許出願第2007/0037135号では血液のような複雑な生物学的試料に由来する微生物の同定および定量化については論じられていない。
【0012】
米国特許出願第2007/0175278号には、対象試料を培養するための液体培養基の使用が記載されている。試料としては、例えば血液、尿、糞便、静脈内カテーテル等、工業生産ライン、水道システム、食品、化粧品、医薬品および法医学的試料が挙げられる。続いて、当業界で既知の方法、例えば遠心分離により液体培地から微生物を回収することができる。その後、これらの濃縮微生物を任意選択で乾燥後に担持材に移して振動スペクトルを得ることができる。この特許出願では微生物を同定および分類するためのラマン分光法のような振動分光法を含めた様々な方法が論じられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第4,847,198号明細書
【特許文献2】米国特許第6,177,266号明細書
【特許文献3】米国特許第7,070,739号明細書
【特許文献4】米国特許出願第2007/0037135号明細書
【特許文献5】米国特許出願第2007/0175278号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、これらの方法は血液含有培養基のような複雑な試料から微生物を分離しキャラクタリゼーションを行おうとするときにいくつかの欠点を有する。結果として得られる微生物製剤がしばしば赤血球、血小板、脂質粒子、血漿酵素および細胞残屑の汚染を伴い、それによって思わしくない結果を招く恐れがある。また、これらの方法は、使用者が潜在的に危険な病原体のエアロゾルに曝される恐れがあるステップが存在する故に非常に労働集約的であり安全性も欠く。臨床試料(例えば血液培養ブロス)および他の複雑な試料から微生物を単離するために、上記のような干渉材料が存在せず且つ迅速同定技術に適合した単純で安全な信頼性のある方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、試料中の微生物の単離、キャラクタリゼーションおよび/または同定方法を提供する。これらの方法を用いると、微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を従来技術よりも迅速に行うことができ、それにより(例えば敗血症を患うまたはその疑いがある被験者の)より迅速な診断が可能となり、また(例えば食品および医薬品の)汚染材料の特定も可能となる。試料の採取から微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定に至る本発明の方法に含まれる各ステップを非常に短い時間枠、例えば約120分未満で実行して臨床的に意義のある実用的な情報を生成することができる。また、本発明の方法は完全に自動化することもでき、それにより感染性材料および/または汚染試料を取り扱うリスクを低減することができる。
【0016】
一態様において、本発明は試験試料に由来する微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定方法であって、
(a)微生物を含むことが既知であるまたは微生物を含む可能性がある試験試料を採取するステップと、
(b)前記試験試料中に非微生物細胞を選択的に溶解(lysing)させて溶解試料を生産するステップと、
(c)前記溶解試料の他の構成成分から微生物を分離して単離微生物試料を形成するステップと、
(d)単離した前記微生物を分光解析(spectroscopically interrogating)して前記微生物の分光測定値を生成するステップと、
(e)前記分光測定値と既知の微生物に関して得られる分光測定値もしくは予測分光特性とを比較することにより前記単離試料中の前記微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うステップとを含む方法に関するものである。
【0017】
一態様において、本発明は血液培養物に由来する微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定方法であって、
(a)微生物を含むことが既知であるまたは微生物を含む可能性がある血液培養物から試料を採取するステップと、
(b)前記試料中に非微生物細胞を選択的に溶解させて溶解試料を生産するステップと、
(c)前記溶解試料を封止容器内の密度クッション上に積層するステップと、
(d)前記容器を遠心分離にかけて前記試料の他の構成成分から微生物を分離し微生物ペレットを形成するステップと、
(e)単離した前記微生物を分光解析して前記微生物の分光測定値を生成するステップと、
(f)前記分光測定値と既知の微生物に関して得られる分光測定値もしくは予測分光特性とを比較することにより前記単離試料中の前記微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うステップとを含む方法に関するものである。
【0018】
別の態様において、本発明は微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定方法であって、
(a)微生物を含むことが既知であるまたは微生物を含む可能性がある試験試料を採取するステップと、
(b)前記試験試料を封止容器内に配置するステップと、
(c)前記試験試料の他の構成成分から微生物をインサイチュで分離して前記封止容器内の微生物の単離微生物試料を形成するステップと、
(d)単離した前記微生物をインサイチュで分光解析して前記微生物の分光測定値を生成するステップと、
(e)前記分光測定値と既知の微生物に関して得られる分光測定値もしくは予測分光特性とを比較することにより前記単離試料中の前記微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うステップとを含む方法に関するものである。
【0019】
一実施形態において、前記分離は前記試験試料を封止容器(例えば密封容器)内の密度クッション上に積層し、前記試験試料の培地が前記密度クッションの頂部に残っている間に容器を遠心分離にかけて微生物をペレット化することによって実行される。他の実施形態において、前記容器は微生物ペレットの分光解析を行うことができるように底部および/または側面に光学窓を有する。前記微生物は、前記ペレットのスペクトルと既知の微生物の1つまたは複数のスペクトルもしくは予測分光特性とを比較することにより同定することができる。更なる操作なしに微生物を前記ペレット中で直接同定することができれば、この微生物同定方法の安全性の価値が大幅に高まる。
【0020】
一実施形態において、前記分光解析は前記微生物の固有の特徴(例えば固有蛍光)に基づく。他の実施形態において、前記分光解析は、本発明の方法の間に加えられ且つ特定の微生物または微生物群と相互作用する付加的な作用物質から得られる信号に部分的に基づく。
【0021】
他の実施形態では、前記方法は更に、前記微生物ペレットを回収し、前記微生物を再懸濁し、更なる同定またはキャラクタリゼーション試験(例えば薬剤耐性、毒性因子(virulence factor)、耐性記録)を実行するステップを含む。
【0022】
以下、添付図面を参照しながら本発明の詳細な説明を行う。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の溶解分離ステップをS.pneumoniae(ストレプトコッカスニューモニエ)培養物および陰性培養ブロスに対して実行した後の分離容器の写真である。
【図2A】解析前の溶解ステップで溶解緩衝液Aを使用した場合の単離微生物の例示的な励起/発光スペクトルを示す図である。
【図2B】解析前の溶解ステップで溶解緩衝液Bを使用した場合の単離微生物の例示的な励起/発光スペクトルを示す図である。
【図2C】解析前の溶解ステップで溶解緩衝液Cを使用した場合の単離微生物の例示的な励起/発光スペクトルを示す図である。
【図3】5つの異なる溶解緩衝液および2つの密度クッションを使用して本発明の溶解および分離ステップを実行した後の分離容器の写真である。
【図4】溶解した微生物を含む血液培養ブロスの遠心分離後の状態を示し、溶解血液培養物、密度クッションおよび微生物ペレットを明示する分離装置の写真である。
【図5】封止分離容器において読み取った微生物の励起/発光スペクトルの一例を示す図である。
【図6】封止分離容器において読み取った微生物の励起/発光スペクトルの一例を示す図である。
【図7】封止分離容器において読み取った微生物の励起/発光スペクトルの一例を示す図である。
【図8】封止分離容器において読み取った微生物の励起/発光スペクトルの一例を示す図である。
【図9】10種類のS.mitis(ストレプトコッカスミティス)(円)および10種類のS.pneumoniae(三角)培養物から採取したペレットの平均固有蛍光シグナルを示すグラフである。
【図10】10種類のS.mitis(円)および10種類のS.pneumoniae(三角)培養物から採取したペレットの平均ペレットサイズを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は様々な形態で実施することができる。本発明は本明細書に記載した実施形態に限定されるものと解釈すべきではない。そうではなく、これらの実施形態は本開示が詳細で完全なものとなり、本発明の範囲が当業者に十分伝わるようにするために提示するものである。例えば、一実施形態に関して例示した特徴を他の実施形態に組み込むことができ、特定の一実施形態に関して例示した特徴をその実施形態から削除することもできる。また、本開示に照らせば、本明細書に示した実施形態に対する本発明から逸脱しない様々な変更および追加が当業者には理解されるであろう。
【0025】
別段の定めがない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語はすべて本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書では、発明の説明で使用する用語は特定の実施形態を説明するためのものであって本発明を限定するものではない。
【0026】
[定義]
本明細書で使用する「a」、「an」または「the」は1つまたは2つ以上のものを意味する可能性がある。例えば「細胞(a cell)」という場合は単一の細胞を意味することも複数の細胞を意味することもある。
【0027】
また、本明細書で使用する「および/または(and/or)」という表現は、列挙した関連アイテムの1つまたは複数を対象とする任意の可能な組合せに加えて選択肢(「または(or)」)として解釈した場合の組合せの欠如も指し、それらをすべて包含するものである。
【0028】
更に、本明細書で使用する「約(about)」という用語は、本発明の化合物または作用物質の量、投与量、時間、温度といった測定可能な値を指すときは、指定された量の±20%、±10%、±5%、±1%、±0.5%または±0.1%のばらつきを含むものとする。
【0029】
本明細書で使用する「微生物」という用語は、一般に単細胞であり、研究室で繁殖および取扱い可能な有機体を包含する。このような有機体としてはグラム陽性またはグラム陰性バクテリア、イースト、カビ、寄生虫およびモリキューテスが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明のグラム陰性バクテリアの非限定的な例としては下記の属のバクテリアが挙げられるが、これらに限定されるものではない:シュードモナス属、エシェリキア属、サルモネラ属、赤痢菌属、エンテロバクター属、クレブシエラ属、セラチア属、プロテウス属、カンピロバクター属、ヘモフィルス属、モルガネラ属、ビブリオ属、エルシニア属、アシネトバクター属、ステノトロフォモナス属、ブレブンディモナス属、ラルストニア属、アクロモバクター属、フゾバクテリウム属、プレボテラ属、ブランハメラ亜属、ナイセリア属、バークホルデリア属、シトロバクター属、ハフニア属、エドワードシエラ属、アエロモナス属、モラクセラ属、ブルセラ属、パスツレラ属、プロビデンシア属およびレジオネラ属。本発明のグラム陽性バクテリアの非限定的な例は、以下の属のバクテリアを含む:腸球菌、連鎖球菌、ブドウ球菌、バチルス属、パエニバチルス属、乳酸桿菌属、リステリア属、ペプトストレプトコッカス属、プロピオン酸菌属、クロストリジウム属、バクテロイデス属、ガードネレラ属、コクリア属、ラクトコッカス属、ロイコノストック属、ミクロコッカス、マイコバクテリウム属およびコリネバクテリウム属。本発明のイーストおよびカビの非限定的な例としては下記の属のイーストおよびカビが挙げられるが、これらに限定されるものではない:カンジダ属、クリプトコックス属、ノカルジア属、アオカビ属、アルタナリア属、ロドトルラ属、アスペルギルス属、フザリウム属、サッカロミセス属およびトリコスポロン属。本発明の寄生虫の非限定的な例としては下記の属の寄生虫が挙げられるが、これらに限定されるものではない:トリパノソーマ属、バベシア属、リーシュマニア属、マラリア原虫属、ブケリア属(Wucheria)、ブルギア属、オンコセルカ属およびネグレリア属。本発明のモリキューテスの非限定的な例としてはマイコプラズマ属およびウレアプラズマ属のモリキューテスが挙げられる。
【0030】
一実施形態では、以下で詳細するように、試料または培養培地に由来する微生物を分離および解析して該試料中に存在する微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うことができる。本明細書で使用する「分離(separate)」という用語は、それ自体の初期状態すなわち培養培地または培養基から除去、濃縮または他の方法で切り離された微生物の任意の試料を包含するものとする。例えば、本発明によれば、通常ならキャラクタリゼーションおよび/または同定に干渉する恐れがある非微生物または非微生物構成成分から微生物を(例えば分離試料として)分離することができる。この用語は、他の2層に挟まれた微生物、例えば遠心分離後に高密度クッションの頂部に集められた微生物の層、または固体表面(例えばフィルター膜)上に集められた微生物の層を含む。この用語は、ある層(例えば密度クッション)を部分的に通過した一群の微生物も含む可能性がある。したがって、分離する微生物試料は、当初の試料よりも濃縮されたまたは当初の試料から切り離された一群または一層の微生物および/または微生物の構成成分を含む可能性があり、微生物が密集した高密度凝集塊から微生物の拡散層に及ぶ様々なものが存在する可能性がある。分離フォームまたは分離試料に含まれ得る微生物構成成分としては線毛、鞭毛、フィムブリエおよびカプセルの任意の組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。微生物から分離する非微生物構成成分は非微生物細胞(例えば血球および/または他の組織細胞)および/またはそれらの任意の構成成分を含む可能性がある。
【0031】
また別の実施形態では、以下で詳述するように、試料または培養培地に由来する微生物を単離および解析して該試料中に存在する微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うことができる。本明細書で使用する「単離(isolated)」という用語は、それ自体の初期状態すなわち培養培地もしくは培養基から少なくとも部分的に浄化された微生物の任意の試料、および任意の非微生物もしくはそれらに含まれる非微生物構成成分を包含するものとする。例えば、本発明によれば、分離しない場合はキャラクタリゼーションおよび/または同定に干渉する恐れがある非微生物または非微生物構成成分から微生物を(例えば分離試料として)分離することができる。微生物から分離する非微生物構成成分は非微生物細胞(例えば血球および/または他の組織細胞)および/またはそれらの任意の構成成分を含む可能性がある。
【0032】
また別の実施形態では、以下で詳述するように、試料または培養培地に由来する微生物をペレット化し解析して試料中に存在する微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うことができる。本明細書で使用する「ペレット(pellet)」という用語は、一塊の微生物として圧縮または堆積した微生物の任意の試料を包含するものとする。例えば、ある試料に由来する微生物を遠心分離または当業界で知られる他の方法によりチューブの底部に一塊に圧縮または堆積させることができる。この用語は、遠心分離後の容器の底部および/または側面上に存在する一群の微生物(および/またはその構成成分)を含む。ペレットに含まれ得る微生物構成成分としては線毛、鞭毛、フィムブリエおよびカプセルの任意の組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明によれば、通常ならキャラクタリゼーションおよび/または同定に干渉する恐れがある非微生物または非微生物構成成分から微生物を(例えばほぼ浄化された微生物ペレットとして)切り離してペレット化することができる。微生物から分離する非微生物構成成分は非微生物細胞(例えば血球および/または他の組織細胞)および/またはそれらの任意の構成成分を含む可能性がある。
【0033】
本明細書で使用する「密度クッション(density cushion)」という用語は、全体的に均質な密度を有する溶液を指す。
【0034】
本発明は、試料中の微生物の単離、キャラクタリゼーションおよび/または同定方法を提供する。更に、本方法は、特に血液含有培養基のような複雑な試料に由来する微生物の分離、キャラクタリゼーションおよび/または同定に有用である可能性がある。これらの迅速な方法を用いると、微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を従来技術よりも迅速に行うことができ、それにより(例えば敗血症を患っているまたはその疑いがある被験者の)より迅速な診断が可能となり、また(例えば食品および医薬品の)汚染材料の特定も可能となる。試料の採取から微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定に至る本発明の方法に含まれる各ステップを非常に短い時間枠で実行して臨床的に意義のある実用的な情報を生成することができる。いくつかの実施形態では、本発明の方法を約120分未満、例えば約110、100、90、80、70、60、50、40、30、20、15、10、5、4、3、2または1分未満で実行することができる。従来方法よりも優れた本発明の方法の改良点はこの迅速さにある。これらの方法を使用して本明細書に記載した任意の微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うことができる。一実施形態おいて、微生物はバクテリアである。別の実施形態において、微生物はイーストである。別の実施形態では、微生物はカビである。他の一実施形態において、微生物は寄生虫である。別の実施形態において、微生物はモリキューテスである。また、本発明の方法は完全に自動化することもでき、それにより感染性材料を取り扱うリスクおよび/または試料を汚染するリスクを低減することができる。
【0035】
一態様において、本発明は試験試料に由来する微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定方法であって、
(a)微生物を含むことが既知であるまたは微生物を含む可能性がある試験試料を採取するステップと、
(b)前記試験試料中に非微生物細胞を選択的に溶解させて溶解試料を生産するステップと、
(c)前記試験試料の他の構成成分から微生物を分離して単離微生物試料を形成するステップと、
(d)単離した前記微生物を分光解析して前記微生物の分光測定値を生成するステップと、
(e)前記分光測定値と既知の微生物に関して得られる分光測定値もしくは予測分光特性とを比較することにより前記単離試料中の前記微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うステップとを含む方法に関するものである。
【0036】
一態様において、本発明は血液培養物に由来する微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定方法であって、
(a)微生物を含むことが既知であるまたは微生物を含む可能性がある血液培養から試料を採取するステップと、
(b)前記試料中に非微生物細胞を選択的に溶解させて溶解試料を生産するステップと、
(c)前記溶解試料を封止容器内の密度クッション上に積層するステップと、
(d)前記容器を遠心分離にかけて前記試料の他の構成成分から微生物を分離し微生物ペレットを形成するステップと、
(e)単離した前記微生物を分光測定して前記微生物の分光測定値を生成するステップと、
(f)前記分光測定値と既知の微生物に関して得られる分光測定値もしくは予測分光特性とを比較することにより前記単離試料中の前記微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うステップとを含む方法に関するものである。
【0037】
また別の態様において、本発明は微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定方法であって、
(a)微生物を含むことが既知であるまたは微生物を含む可能性がある試験試料を採取するステップと、
(b)前記試験試料を封止容器(例えば密封容器)内に配置するステップと、
(c)前記試験試料の他の構成成分から微生物をインサイチュで分離して前記封止容器内の微生物の単離微生物試料を形成するステップと、
(d)単離した前記微生物をインサイチュで分光測定して前記微生物の分光測定値を生成するステップと、
(e)前記分光測定値と既知の微生物に関して得られる分光測定値もしくは予測分光特性とを比較することにより前記単離試料中の前記微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うステップとを含む方法に関するものである。
【0038】
本発明の別の実施形態において、上記の方法は、微生物の解析に先立って分離ステップの間に形成された微生物のペレットまたはその一部分を分離容器から回収するステップを含む。例えば、ペレット形成後にペレットから流体を吸い出し、ペレットを適切な培地(例えば微生物が生存可能な媒体)に再懸濁することができる。再懸濁した微生物を分離容器から取り出すことができる。次いで、これらの微生物をキャラクタリゼーションおよび/または同定のために例えば懸濁液中でまたは再ペレット化後に解析することができる。他の実施形態では、再懸濁した微生物を例えば懸濁液中でまたは再ペレット化後に分離容器内で解析することができる。別の実施形態では、ペレットから回収した微生物を再懸濁することなく更なる解析に直接使用することができる(例えばラマン分光法、質量分析)。
【0039】
[試料]
本発明の方法によって試験可能な試料(すなわち試験試料)は、微生物の存在および/または増殖が疑われるまたは疑われる可能性がある臨床試料と非臨床試料の両方を含み、また微生物の有無を定期的にまたは臨時に検査する材料の試料も含む。利用する試料の量は方法の汎用性および/または感度に応じて大きく変化する可能性がある。試料調製は当業者に既知の任意の数の技法を利用して実行することができるが、本発明の1つの効果は、複雑な試料タイプ、例えば血液、体液および/または他の不透明物質等を、多くの前処理を殆どまたはまったく伴わないシステムを利用して直接試験することができる点にある。一実施形態では、培養物から試料を採取する。別の実施形態では、微生物学的培養物(例えば血液培養物)から試料を採取する。別の実施形態では、試料が微生物を含むことが疑われるまたは微生物を含むことが既知である。
【0040】
試験可能な臨床試料としては、典型的には臨床検査室または研究所で試験される任意のタイプの試料が含まれ、例えば血液、血清、血漿、血液分画、関節液、尿、精液、唾液、糞便、脳脊髄液、胃内容物、膣分泌物、組織ホモジェネート、骨髄穿刺液、骨ホモジェネート、痰、吸引液、ぬぐい液(swab)およびぬぐい液残滓(swab rinsate)、他の体液等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。別の実施形態では、臨床試料を培養し、培養試料を使用することができる。
【0041】
本発明は研究用途ならびに獣医学および医学用途に適用される。臨床試料が採取可能な適切な被検者は一般には哺乳類の被験者であるが、どのような動物であってもよい。本明細書で使用する「哺乳類」という用語には、それらに限らないが、人間、人間以外の霊長類、牛、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギ、齧歯動物(例えばラットまたはマウス)等が含まれる。人間の被験者には新生児、乳児、幼児、成人および老人の被験者を含む。試料が採取可能な被験者としては哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類および魚類が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
また、試験可能な非臨床試料としては、食品、飲料、医薬品、化粧品、水(例えば飲料水、非飲料水および廃水)、海水バラスト、空気、土壌、汚水、植物材料(例えば種、葉、茎、根、花、果実)、血液製剤(例えば血小板、血清、血漿、白血球分画等)、ドナー臓器または組織試料、生物戦試料(biowarfare sample)等を含めた物質が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本方法は工業環境の汚染レベル、工程管理、品質管理等をモニタリングするための実時間試験にも特に適している。別の実施形態では、非臨床試料を培養し、培養試料を使用することができる。
【0043】
本発明の一実施形態では、微生物感染症を患うまたはその疑いがある被験者(例えば患者)から試料を採取する。一実施形態において、被験者は敗血症、例えば菌血症または真菌血症を患っているまたはその疑いがある。試料は、被験者に直接由来する血液試料であってよい。試料は、患者の血液の試料から培養した血液培養物、例えばBacT/ALERT(登録商標)血液培養物に由来するものであってもよい。血液培養試料は陽性血液培養物、例えば微生物の存在を示す血液培養物に由来するものであってよい。いくつかの実施形態では、陽性血液培養物が陽性になった時点から短い時間のうちに、例えば約6時間以内、例えば約5、4、3もしくは2時間以内、または約60分以内、例えば約55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、4、3、2もしくは1分以内に、該陽性血液培養物から試料を採取する。一実施形態では、微生物が対数増殖期にある培養物から試料を採取する。別の実施形態では、微生物が定常期にある培養物から試料を採取する。
【0044】
本発明は、微生物の検出、キャラクタリゼーションおよび/または同定の高い感度をもたらす。これにより、最初に微生物を単離するステップを経る必要のない検出、キャラクタリゼーションおよび/または同定が可能となる。このような検出、キャラクタリゼーションおよび/または同定は、固体または半固体培地上で微生物を培養し、培養したコロニーをサンプリングすることにより実現される。したがって、本発明の一実施形態において、試料は固体または半固体表面上で培養した微生物(例えばバクテリア、イーストまたはカビ)のコロニーに由来するものではない。したがって、本発明の一実施形態において、試料は固体または半固体表面上で培養した微生物(例えばバクテリア、イーストまたはカビ)のコロニーに由来するものではない。
【0045】
試料の体積は、本発明の方法における分離/単離ステップを実行した後に解析され得る単離微生物試料または微生物ペレットを生産するのに十分大きいものとする必要がある。適切な体積は試料のソースおよび試料中の予想微生物レベルに依存する。例えば、陽性血液培養物の体積当たりの微生物レベルが汚染の有無を検査すべき飲料水試料よりも高く、したがって飲料水試料に比べて小さい体積の血液培養基が必要となる可能性もある。一般に、試料サイズは約50ml未満とすることができ、例えば約40、30、20、15、10、5、4、3または2ml未満とすることができる。いくつかの実施形態では、試料サイズを約1mlとすることができ、例えば約0.75、0.5または0.25mlとすることができる。分離をマイクロスケールで実行するいくつかの実施形態では、試料サイズを約200μl未満とすることができ、例えば約150、100、50、25、20、15、10または5μl未満とすることができる。いくつかの実施形態(例えば試料が少数の微生物を含むことが予想される場合)では、試料サイズを約100ml以上とすることができ、例えば約250、500、750または1000ml以上とすることができる。
【0046】
[任意選択の溶解ステップ]
いくつかの実施形態では、試料を採取した後に実行する本発明の方法の次のステップは、試料、例えば血球および/または組織細胞中に存在し得る望ましくない細胞を選択的に溶解させるステップである。細胞を溶解させることにより試料の他の構成成分からの微生物の分離を可能にすることができる。他の構成成分からの微生物の分離により解析ステップ中の干渉を防止する。非微生物細胞が試料中に存在することが予想されない場合、または非微生物細胞が解析ステップに干渉することが予想されない場合は、溶解ステップの実行が必要なくなる可能性がある。一実施形態において、溶解すべき細胞は試料中に存在する非微生物細胞であり、試料中に存在し得る微生物細胞は溶解させない。しかしながら、実施形態によっては特定のクラスの微生物を選択的に溶解させることが望ましい可能性がある。それ故、このような選択的な溶解を本明細書に記載する方法および当業界で周知の方法に従って実行することができる。例えば、あるクラスの望ましくない微生物を選択的に溶解させることができ、例えばイーストは溶解させるがバクテリアは溶解させないこと、またはその逆が可能である。他の実施形態では、微生物の特定の細胞下構成成分、例えば細胞膜または細胞小器官を分離するために所望の微生物を溶解させる。一実施形態では、非微生物細胞をすべて溶解させる。他の実施形態では、非微生物細胞の一部分、例えば解析ステップに対する干渉を防止するのに十分な細胞を溶解させる。細胞の溶解は、微生物を溶解させるか否かに関わらず、当業界で細胞を選択的に溶解させるのに効果的であることが知られる任意の方法によって実行することができる。このような方法としては溶解溶液の添加、超音波処理、浸透圧衝撃処理、化学処理および/またはそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
溶解溶液は、細胞、例えば非微生物細胞を(例えば真核細胞膜の可溶化により)溶解させること、および/または微生物細胞を溶解させることができる溶液である。一実施形態において、溶解溶液は1つ以上の洗浄剤、1つ以上の酵素または1つ以上の洗浄剤と1つ以上の酵素の組合せを含むことができ、更に付加的な作用物質も含むことができる。一実施形態において、洗浄剤は非変性溶解洗浄剤、例えばTriton(登録商標)X‐100、Triton(登録商標)X‐100‐R、Triton(登録商標)X‐114、NP‐40、Genapol(登録商標)C‐100、Genapol(登録商標)X‐100、Igepal(登録商標)CA 630、Arlasolve(商標)200、Brij(登録商標)96/97、CHAPS、オクチルβ‐D‐グルコピラノシド、サポニン、ノナエチレングリコールモノドデシルエーテル(C12E9、ポリドカノール)等とすることができる。任意選択で下記のような変性溶解洗浄剤を含めることもできる:ナトリウムドデシルサルフェート、N‐ラウロイルサルコシン、ナトリウムデオキシコレート、胆汁酸塩、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、SB3‐10、SB3‐12、アミドスルホベタイン‐14およびC7BzO。任意選択で下記のような可溶化剤を含めることもできる:Brij(登録商標)98、Brij(登録商標)58、Brij(登録商標)35、Tween(登録商標)80、Tween(登録商標)20、Pluronic(登録商標)L64、Pluronic(登録商標)P84、非洗浄剤スルホベタイン(NDSB 201)、アンフィポル(amphipol)(PMAL‐C8)およびメチル‐β‐シクロデキストリン。典型的には、非変性洗浄剤および可溶化剤をそれぞれの臨界ミセル濃度(CMC)を上回る濃度で使用しながら、変性洗浄剤をそれぞれのCMCを下回る濃度で添加することができる。例えば、非変性溶解洗浄剤は約0.010%〜約10%の濃度、例えば約0.015%〜約1.0%、例えば約0.05%〜約0.5%、例えば約0.10%〜約0.30%の濃度(試料で希釈した後の最終濃度)で使用することができる。別の実施形態では、ポリオキシエチレン洗浄剤洗浄剤が好ましい可能性もある。ポリオキシエチレン洗浄剤は構造C12‐18/E9‐10を有することができる[ただし、C12‐18は炭素原子数12〜18の炭素鎖長を示し、E9‐10は9〜10のオキシエチレン親水性頭部基を示す]。例えば、ポリオキシエチレン洗浄剤は、Brij(登録商標)97、Brij(登録商標)96V、Genapol(登録商標)C‐100、Genapol(登録商標)X‐100、ノナエチレングリコールモノドデシルエーテル(ポリドカノール)またはそれらの組合せから成る群から選択することができる。
【0048】
溶解溶液中で使用可能な酵素としては、それらに限らないが、核酸および他の膜汚染材料を消化する酵素(例えばプロテイナーゼXXIII、デオキシリボヌクレアーゼ(DNase)、ノイラミニダーゼ、ポリサッカリダーゼ、Glucanex(登録商標)およびPectinex(登録商標))が挙げられる。使用可能な他の添加剤としては、それらに限らないが、2‐メルカプトエタノール(2‐Me)やジチオスレイトール(DTT)のような還元剤、およびマグネシウム、ピルビン酸塩、湿潤剤のような安定化剤が挙げられる。溶解溶液は、所望の細胞を溶解させるのに適した任意のpHで緩衝することができ、複数の因子に依存する。これらの因子としては、それらに限らないが、試料のタイプ、溶解すべき細胞および使用する洗浄剤が挙げられる。いくつかの実施形態では、pH範囲を約2〜約13とすることができ、例えば約6〜約13、例えば約8〜約13、例えば約10〜約13とすることができる。適切なpH緩衝液には所望の範囲、例えば約0.05M〜約1.0M CAPSのpHを維持することができる任意の緩衝液が含まれる。
【0049】
一実施形態では、試料および溶解溶液を混合し、次いで細胞膜の溶解および可溶化が生起するのに十分な時間、例えば約1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、40、50もしくは60秒間、または約2、3、4、5、6、7、8、9、10、15もしくは20分間またはそれ以上の時間、例えば約1秒〜約20分間、約1秒〜約5分間または約1秒〜約2分間温置(incubate)する。温置時間は溶解溶液の強度、例えば洗浄剤および/または酵素の濃度に依存する。一般に、弱い溶解緩衝液ほど非微生物細胞を完全に可溶化するのに多くの時間を要し、試料のより高い希釈が必要となる。溶解溶液の強度は、試料中に存在することが既知であるまたは試料中に存在することが疑われる微生物に基づいて選択することができる。溶解の影響を受けやすい微生物ほど弱い溶解溶液を使用することができる。溶解は約2℃〜約45℃の温度、例えば約15℃〜約40℃、例えば約30℃〜約40℃の温度で生起させることができる。一実施形態では、溶解溶液を注射器に充填し、その後注射器に試料を吸引することができる。これにより混合および温置を注射器内で生起させる。一実施形態では、溶解溶液を注射器に充填し、その後注射器に試料を吸引することができる。これにより混合および温置を注射器内で生起させる。
【0050】
いくつかの実施形態では、試料中の微生物の一部または全部を殺すのに十分な溶解条件(例えば溶液または温置時間)ならびに分離および/または解析ステップとすることができる。本発明の方法は汎用性が高く、また単離および同定を行う上で必ずしもすべての微生物が生存している必要はない。いくつかの実施形態では、本方法の各ステップの実行前、実行中および/または実行後に微生物の一部または全部が死んでいてもよい。
【0051】
[分離ステップ]
本発明の方法の次のステップ(例えば溶解ステップを実行する場合は試料を溶解させた後のステップ)は分離ステップである。分離ステップを実行することにより、試料の他の構成成分(例えば非微生物またはそれらの構成成分)から微生物を分離し、同定およびキャラクタリゼーションのために解析可能なペレットに微生物を濃縮することができる。分離は必ずしも完全なものである必要はない。すなわち、必ずしも100%の分離を行う必要はない。ここで必要なことは、他の構成成分による実質的な干渉がない微生物の解析が可能となる程度まで、試料の他の構成成分から微生物を分離することである。例えば、分離によって少なくとも約10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、96、97、98もしくは99%またはそれ以上の純度の微生物ペレットを得ることができる。
【0052】
一実施形態では、この分離を遠心分離ステップによって実行する。遠心分離ステップでは、試料(例えば溶解試料)を分離容器内の密度クッションの頂部に配置し、この容器を微生物の単離が可能となる条件下で遠心分離にかける(例えば微生物は容器の底部および/または側面にペレットを形成する可能性がある)。本実施形態によれば、試料の他の構成成分(例えば試料培地中に存在し得る非微生物またはそれらの構成成分)は密度クッションの頂部上または密度クッションの頂部内に留まる。一般には、任意の既知の容器を分離ステップに使用することができる。一実施形態では、分離容器を2009年10月30日に出願した関連米国特許出願第xxxxx号「Separation Device for Use in the Separation, Characterization and/or Identification of Microorganisms」に開示されている分離装置とする。この分離ステップは試料中の材料、例えば培地、細胞残屑および/または微生物の解析に(例えば固有蛍光によって)干渉する可能性がある他の構成成分から微生物を単離する。一実施形態では、密度クッションは生きている微生物を死んだ微生物(密度クッションを通過しない微生物)から分離する働きもする。別の実施形態では、密度クッションは遠心分離前または遠心分離後に密度勾配を有さない。換言すれば、密度クッションを構成する材料が密度勾配を形成するに足る量の時間および/または加速度に至るまで分離容器を遠心分離にかけることはしない。
【0053】
クッションの密度は、試料中の微生物はクッションを通過するが、試料の他の構成成分(例えば血液培養ブロス、細胞残屑)はクッションの頂部に残るまたは密度クッションを完全には通過しないような密度を選択する。密度クッションは、生きている微生物(クッションを通過する微生物)を死んだ微生物(クッションを通過しない微生物)から分離するように選択することもできる。適切な密度は密度クッションで使用する材料および分離すべき試料に依存する。一実施形態では、クッションの密度を約1.025〜約1.120g/mlの範囲とし、例えば約1.030〜約1.070g/ml、約1.040〜約1.060g/mlまたは約1.025〜約1.120g/mlの任意の範囲とする。他の実施形態では、クッションの密度を約1.025、1.030、1.035、1.040、1.045、1.050、1.055、1.060、1.065、1.070、1.075、1.080、1.085、1.090、1.095、1.100、1.105、1.110、1.115または1.120g/mlとする。
【0054】
密度クッション用の材料は、本発明の方法に適した密度範囲を有する任意の材料とすることができる。一実施形態において、材料はコロイドシリカである。コロイドシリカは非被覆とすることも(例えばLudox(登録商標)(W.R.Grace社(コネティカット州))、例えばシランで被覆することも(例えばPureSperm(登録商標)(Nidacon Int’l社(スウェーデン))またはIsolate(登録商標)(Irvine Scientific社(カリフォルニア州サンタアナ)等)、ポリビニルピロリドンで被覆することもできる(例えばPercoll(商標)またはPercoll(商標)Plus(Sigma‐Aldrich社(ミズーリ州セントルイス))。一実施形態では、分光解析で最小干渉を示したコロイドシリカ、例えば最も低い固有蛍光を有する材料を選択する。このコロイドシリカを適切な密度を形成するのに適した任意の培地、例えば平衡塩類溶液、生理的食塩水および/または0.25Mスクロースで希釈することができる。適切な密度は約15〜約80v/v%の濃度、例えば約20〜約65v/v%の濃度のコロイドシリカで得ることができる。密度クッションに適した別の材料はヨウ化造影剤、例えばイオヘキソール(Omnipaque(商標)NycoPrep(商標)またはNycodenz(登録商標))およびイオジキサノール(Visipaque(商標)またはOptiPrep(商標))である。適切な密度は、血液培養試料の場合は約10〜約25w/v%の濃度、例えば約14〜約18w/v%の濃度のイオヘキソールまたはイオジキサノールで得ることができる。スクロースは、血液培養物試料の場合は約10〜約30w/v%の濃度、例えば約15〜約20w/v%の密度クッションとして使用することができる。密度クッションの調製に使用可能な他の適切な密度クッションとしては低粘度且つ高密度の油、例えば当業界で周知のとおり、顕微鏡用液浸油(例えばCargille Labs社(ニューヨーク州)のType DF)、鉱油(例えばPenreco社(ペンシルバニア州)のDrakeol(登録商標)5、Draketex 50、Peneteck(登録商標))、シリコーン油(ポリジメチルシロキサン)、フルオロシリコーン油、シリコーンゲル、例えば血液培養試料の場合は約75〜約100%の濃度のメトリゾエート‐Ficoll(登録商標)(LymphoPrep(商標))、例えば血液培養試料の場合は約25〜約50%の濃度のジアトリゾエート‐デキストラン(PolymorphoPrep(商標))、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレンオキシド(高分子量)、Pluronic(登録商標)F127、Pluronic(登録商標)F68、Pluronic(登録商標)化合物の混合物、ポリアクリル酸、架橋したポリビニルアルコール、架橋したポリビニルピロリジン、PEGメチルエーテルメタクリレート、ペクチン、アガロース、キサンタン、ジェラン、Phytagel(登録商標)、ソルビトール、Ficoll(登録商標)(例えば血液培養試料の場合は約10〜約15%の濃度のFicoll(登録商標)400)、グリセロール、デキストラン(例えば血液培養試料の場合は約10〜約15%の濃度)、グリコーゲン、塩化セシウム(例えば血液培養試料の場合は約15〜約25%の濃度)、パーフルオロカーボン液(例えばパーフルオロ‐n‐オクタン)、ハイドロフルオロカーボン液(例えばVertrel XF)等が挙げられる。一実施形態において、密度クッションはコロイドシリカ、イオジキサノール、イオヘキソール、塩化セシウム、メトリゾエート‐Ficoll(登録商標)、ジアトリゾエート‐デキストラン、スクロース、Ficoll(登録商標)400および/またはデキストランの任意の組合せのうちの1つまたは複数から選択される。密度クッションは材料の組合せ、例えばコロイドシリカと油の組合せで構成することもできる。上記の化合物のいくつかの組合せ、例えば塩化セシウムやイオヘキソールのようなUV消光特性が異なる化合物の組合せは、本発明の分離および読み取りステップに有用である可能性がある。
【0055】
密度クッションの体積/高さは、他の試料構成成分からの微生物の分離を実現するのに十分なものとする必要がある。体積は分離容器のサイズおよび形状に依存する。一般には約0.1〜約5mlの体積を使用することができ、例えば約0.2〜約1ml、例えば約0.2ml〜約0.5mlの体積を使用することができる。分離をマイクロスケールで実行する場合は、密度クッションの体積を約1μl〜約100μl、例えば約5μl〜約50μlとすることができる。密度クッションの頂部に積み上がるまたは積層する試料の体積は、解析に適したペレットを生産するのに十分な微生物を得るに足る大きさにする必要がある。一般には容器に収まる任意の体積を使用することができる。例えば、約0.1ml〜約5mlの体積を使用することができ、例えば約0.2ml〜約1ml、例えば約0.2ml〜約0.5mlの体積を使用することができる。分離をマイクロスケールで実行する場合は、試料の体積を約1μl〜約100μl、例えば約5μl〜約50μlとすることができる。容器内の試料の利用可能なスペースは容器のサイズおよび形状に依存する。いくつかの実施形態では、密度クッションと試料の混合を防止するために、試料が積み上がる前または積層する前に密度クッションの頂部に中間層(液体または固体)を配置することができる。一実施形態では、中間層をポリエチレンビーズとすることができる。他の実施形態では、密度クッションと試料の間に小気泡を配置して混合を防止することができる。別の実施形態では、微生物が分離中に密度クッションを通過し、密度クッションと高密度材料の間の界面に集まるように高密度材料(例えばペルフルオロカーボン液)の頂部に密度クッションを積層することができる。
【0056】
本発明の一実施形態では、分離容器をスウィングアウトローターの遠心分離にかけ、微生物が容器の底部直上にペレットを形成するようにする。この容器を、試料の他の構成成分から微生物を分離するに足る(例えばペレットを形成するのに十分な)加速度および時間にわたって遠心分離にかける。遠心加速度は約1,000×g〜約20,000×gとすることができ、例えば約2,500×g〜約15,000×g、例えば約7,500×g〜約12,500×g等とすることができる。遠心時間は約30秒〜約30分とすることができ、例えば約1分〜約15分、例えば約1分〜約5分とすることができる。遠心分離は約2℃〜約45℃の温度で実行することができ、例えば約15℃〜約40℃、例えば約20℃〜約30℃の温度で実行することができる。一実施形態において、分離容器は閉鎖部を備え、この閉鎖部を遠心分離に先立って容器に取り付けることで気密シールを形成する。閉鎖部の存在により、感染性および/または有害性を有する恐れがある微生物を取り扱うリスクと共に試料の汚染リスクも低減する。本発明の方法の1つの利点は、微生物を封止容器(例えば密封容器)内に入れた状態で本方法の1つまたは複数の任意のステップ(例えば溶解、分離、解析および/または同定)を実行することができる点である。本方法は、直接試験で実施される試料からの微生物の回収のような毒性の高い微生物の取扱いに関連する健康および安全上のリスクを、自動化システムを利用して回避するものである。一実施形態では、密度クッションに密度勾配が生じるのに十分な時間にわたって且つ/またはそのような力をもって容器を遠心分離にかけることはしない。本発明は試料の超遠心分離、例えば約100,000×gを超える力の遠心分離を必要としない。更に、本発明は等密度(平衡)沈殿またはバンディングも必要としない。
【0057】
分離容器は密度クッションおよび試料を保持するのに十分な容積を有する任意の容器であってよい。なお、本発明を実施する際は、2009年10月30日に出願した関連米国特許出願第xxxxx号「Separation Device for Use in the Separation, Characterization and/or Identification of Microorganisms」に開示されている分離装置を使用することができる。一実施形態では、容器が遠心ローターに嵌合する、または容器をそのように嵌合させることができる。容器の容積は約0.1ml〜約25mlとすることができ、例えば約1ml〜約10ml、例えば約2ml〜約8mlとすることができる。分離をマイクロスケールで実行する場合は、容器の容積を約2μl〜約100μl、例えば約5μl〜約50μlとすることができる。一実施形態において、容器は試料および密度クッションの大部分を保持するために上部の内径が広くなっており、微生物のペレットを集める下部の内径は狭くなっている。狭い部分の内径は約0.04〜約0.12インチ(約0.1016〜0.3048cm)とすることができ、例えば約0.06〜約0.10インチ(約0.1524〜約0.2540cm)、例えば約0.08インチ(約0.2032cm)とすることができる。広い部分の内径は約0.32〜約0.40インチ(約0.8128〜約1.0160cm)とすることができ、例えば約0.34〜約0.38インチ(約0.8636〜約0.9652cm)、例えば約0.36インチ(約0.9144cm)とすることができる。マイクロスケール分離の場合は内径を更に小さくすることができる。例えば、狭い部分の内径を約0.001〜約0.04インチ(約0.00254〜約0.10160cm)とすることができ、例えば約0.002〜約0.01インチ(約0.00508〜約0.02540cm)とすることができる。テーパ内径部を上側および下側の各部分に接続することができる。テーパ部分の角度は約20〜約70度、例えば約30〜約60度とすることができる。一実施形態において、下側の狭い部分は容器の全高の半分未満、例えば容器の全高の約40%、30%、20%または10%未満とする。容器には閉鎖具を取り付けることができ、または閉鎖具(例えば蓋)を受け入れるように容器をねじ切りすることができ、それにより遠心分離中の容器の密封が可能となる。いくつかの実施形態では、微生物試料またはペレットを分離直後に手動でまたは自動的に(技術者が容器の内容物に曝されないような形で)容器から回収することまたは採取すなわち取り出すことができるように容器を設計する。例えば、容器はペレットを収容し容器の残部から分離できる取り外し可能部分または離脱部分を備えることができる。別の実施形態では、容器は分離後にペレットにアクセスするための手段、例えば注射器または他のサンプリング装置を挿入するための、またはペレットを取り出すための1つまたは複数のポートまたは浸透性表面を備える。一実施形態では、容器をチューブ、例えば遠心チューブとすることができる。別の実施形態では、容器をチップまたはカードとすることができる。一実施形態では、容器を独立容器、すなわち単一の試料を分離する装置とする。他の実施形態では、容器を2つ以上の分離容器を備え複数の試料を同時に分離することができる装置の一部とする。一実施形態において、この装置は2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、15、20、25、30、36、42、48、60、72、84、96またはそれ以上の分離容器を備える。
【0058】
容器は光学窓を備えることができ、この光学窓を通じて解析を行うことができる。光学窓は容器の底部、頂部および/または側面に配置することができる。この窓は光(例えば近赤外(NIR;700nm〜1400nm)、紫外(UV;190nm〜400nm)および/または可視(VIS;400nm〜700nm)光スペクトルの少なくとも一部分)を透過する任意の材料で構成することができる。適切な材料の例としては、それらに限らないが、アクリル、メタクリレート、石英、溶融シリカ、サファイヤおよび/または環状オレフィンコポリマー(COC)が挙げられる。一実施形態では、容器全体を光学窓材料で構成する。別の実施形態では、容器を2つ以上の別々の部分から作製(例えば成形)することができ、例えば、光学窓を光学UV‐VIS‐NIR透過構成要素で構成し、容器の残部を別の材料(例えばより低コストの標準的な成形プラスチック)で構成することができる。一実施形態において、光学窓は分光解析が可能となる十分な薄さとする。この薄さは窓材料に依存する。別の実施形態では、分光解析に対する干渉を低減するために光学窓を可能な限り薄くする。例えば、窓の厚さを約0.20インチ(約0.508cm)未満とすることができ、例えば約0.15インチ(約0.381cm)未満、約0.10インチ(約0.254cm)未満または0.05インチ(約0.127cm)未満とすることができる。
【0059】
他の実施形態では、分離を濾過ステップによって実行する。この場合は、微生物を保持する細孔径を有する選択性フィルタまたはフィルタセットを装着した装置内に試料(例えば溶解試料)を配置する。保持された微生物は、フィルタに適切な緩衝液をゆっくりと通すことにより洗浄することができる。その後、フィルタの表面を直接サンプリングすることにより、またはフィルタを適切な水性緩衝液で逆洗することにより、洗浄した微生物をフィルタ上で直接解析することおよび/または解析のために回収することができる。
【0060】
[解析ステップ]
微生物を分離、単離および/またはペレット化した後は、分離試料、単離試料またはペレットを解析して試料またはペレット中の微生物の同定および/またはキャラクタリゼーションを行うことができる。一実施形態では、解析を非侵襲的に実行する。すなわち、ペレットを分離容器に入れたまま解析を行う。別の実施形態において、解析中は分離容器を終始封止した状態に保つ。微生物を非侵襲的に同定する能力は、任意選択で、分離および同定/キャラクタリゼーションプロセスの全体にわたって容器の封止状態を保ち、手順の一部または全部を自動化する能力と相まって、汚染された且つ/または感染性の試料を絶えず取り扱う状況を回避し、プロセス全体の安全性を高めることになる。更に、試料またはペレットの更なる処理(例えば再懸濁、平板培養およびコロニーの培養)を伴わない直接解析による微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定能力は、同定/キャラクタリゼーションの可能な実行速度を大幅に向上させる。一実施形態では、試料またはペレットを解析に先立って回収および/または再懸濁し、任意選択で分離容器から取り出す。別の実施形態では、試料またはペレットをインサイチュ解析後に回収および/または再懸濁し、その後更なる解析を実行する。例えば、微生物ペレット以外の単離微生物に適用可能なラテックス凝集試験または自動化した表現型同定試験のような技法を回収および/または再懸濁した微生物に対して実行することができる。
【0061】
いくつかの実施形態では、単離試料またはペレットを分光解析することができる。一実施形態では、光学分光法を使用して微生物の1つまたは複数の内因的特性、例えば染色剤、色素、結合剤のような付加的な作用物質の不存在下で微生物内に存在する特性を分析することができる。他の実施形態では、光学分光法を使用して微生物の1つまたは複数の外因的特性、例えば付加的な作用物質を利用して検出可能な特性を分析することができる。解析は、例えば蛍光分光法、拡散反射分光法、赤外分光法、テラヘルツ分光法、透過吸収分光法、ラマン分光法を使用して実行することができる。ラマン分光法には表面増強ラマン分光法(SERS)、空間オフセットラマン分光法(SORS)、透過ラマン分光法および/または共鳴ラマン分光法が含まれる。ラマン(SERS)および蛍光シグナルを増強するために、微生物を遠心分離に先立って金および/または銀ナノ粒子で被覆することができ、且つ/または内部光学面を特定のサイズおよび形状の金属コロイドでプレコーティングすることができる(Lakowicz, Anal. Biochem. 337:171 (2005) for fluorescence; Efrima et al., J. Phys. Chem. B. (Letter) 102:5947 (1998) for SERS参照)。他の実施形態では、遠心分離に先立ってナノ粒子を密度クッション中に存在させ、微生物が密度クッションを通過するときに微生物と関連付けられるようにする。他の実施形態では、MALDI‐TOF質量分析、脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI)質量分析、GC質量分析、LC質量分析、エレクトロスプレーイオン化(ESI)質量分析、選択イオンフローチューブ(SIFT)分析等の質量分析技法を使用してペレット中の微生物を解析することができる。一実施形態では、単離試料またはペレットを分離容器に入れたまま解析する。容器は容器の光学窓を介して解析することができる。光学窓は容器の底部および/または任意の1つまたは複数の側面および/または頂部に配置することができる。一実施形態では、分離容器が分光計内の解析に適した位置にあるホルダーに嵌合する、または分離容器をそのように嵌合させることができる。分光解析は、微生物の1つまたは複数の内因的または外因的特性を検出および/または同定するのに効果的であることが当業者に知られる任意の技法によって実行することができる。例えば、ペレット中の微生物の同定に前面蛍光を使用することができる(励起発光が同じ光学面に出入りする場合、且つ試料が一般に光学的に厚い場合、励起光は非常に短い距離だけ試料に浸透する(例えば、Eisinger, J., and J. Flores, "Front-face fluorometry of liquid samples," Anal. Biochem. 94:15 (1983)参照。))。落射蛍光、反射率、吸光度および/または散乱測定のような他の形態の測定を本発明で使用することもできる。別の実施形態では、本明細書で説明するように単離試料またはペレットを解析のために取り出すことができる(例えば当業界で周知のとおり、単離試料またはペレットを取り出し、質量分析による解析準備を整えることができる)。また他の実施形態では、2つ以上の手段を使用して単離試料またはペレットの解析を行うことができる。例えば、蛍光分光法およびラマン分光法を使用して単離試料またはペレットの解析を行うことができる。本実施形態によれば、これらの解析ステップは順次実行しても同時に実行してもよい。
【0062】
試料照明源すなわち励起源は、当業者に知られる任意の数の適切な光源から選択することができる。電磁スペクトルのうち有用なデータをもたらす任意の部分を使用することができる。紫外、可視および/または近赤外スペクトルならびに電磁スペクトルの他の部分で発光可能な光源であって、当業者に既知の光源を利用することができる。例えば、光源は、紫外光を生成するための重水素もしくはキセノンアークランプおよび/または可視/近赤外励起を生成するためのタングステンハロゲンランプのような連続ランプであってよい。これらの光源は広範な発光範囲を提供し、また当業界で周知の光学干渉フィルタ、プリズムおよび/または光回折格子を使用して特定の励起波長のスペクトル帯域幅を減少させることができる。
【0063】
別法として、発光ダイオードおよび/またはレーザーのような複数の狭帯域光源を空間多重化および/または時間多重化して多波長励起源を提供することもできる。例えば、240nm〜900nm超の発光ダイオードが利用可能であり、ソースのスペクトル帯域幅は20〜40nm(半値全幅)である。紫外ないし近赤外の離散波長におけるレーザーが利用可能である。レーザーは当業者に周知の多重化方法を使用して利用することができる。
【0064】
任意の光源のスペクトル選択性を、走査モノクロメータのようなスペクトル弁別手段を使用することにより改善することができる。当業者に既知の他の弁別方法を利用することもでき、音響光学チューナブルフィルタ、液晶チューナブルフィルタ、光学干渉フィルタアレイ、プリズム分光器等、およびそれらの任意の組合せを利用することができる。スペクトル弁別器を選択する際は同調性範囲および選択性レベルを考慮に入れる。例示として、例えば弁別器は10nmの選択性を有する300〜800nmの波長範囲を利用することができる。これらのパラメータは一般に同調性範囲および選択性を達成するのに必要な最適技術を決定する。
【0065】
典型的には、光源によって試料を励起した後、試料の蛍光の放出を所定の時点でまたは連続的に測定する。同様に、励起源と試料の相互作用に由来する反射光を測定して検出および/またはキャラクタリゼーションに関連するデータを提供することができる。
【0066】
試料からの放出は任意の適切なスペクトル弁別手段により、最も好ましくは分光計を利用して測定することができる。分光計は、特定の発光波長を検出することによりモノクロメータからの出力を光電子増倍管によって検出する走査モノクロメータとすることができ、且つ/または分光計を撮像分光器として構成することにより、その出力を電荷結合素子(CCD)検出器アレイのような撮像検出器アレイによって検出することができる。一実施形態では、弁別器を用いることにより光検出手段(例えば光電子増倍管、アバランシェフォトダイオード、CCD検出器アレイおよび/または電子増倍電荷結合素子(EMCCD)検出器アレイ)による蛍光および/または散乱シグナルの観察が可能となる。
【0067】
分光技法を使用して、好ましくは励起発光マトリクス(EEM)測定値として提供される測定値を取得する。本明細書で使用するEEMは、励起と発光波長の両方の関数として蛍光物質の発光スペクトル発光強度と定義し、フルスペクトルまたはそのサブセットを含む。この場合のサブセットは単一または複数の励起/発光対を含む可能性がある。また、固定の励起波長を有するEEMの断面を使用して特定の励起波長の発光スペクトルを示し、固定の発光波長を有するEEMの断面を使用して試料の励起スペクトルを示すこともできる。一実施形態では、複数のEEMを2つ以上の特定の励起‐発光波長対、例えば少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上の特定の励起‐発光波長対で測定する。
【0068】
本発明の一実施形態によれば、前面蛍光分光法は散乱性および消光性が高い試料の蛍光および/または反射特性を測定する際に利点をもたらすことが分かった。一実施形態では、前面法が特に役立つ可能性がある。例えば、前面蛍光は特に吸光性の高い試料で役立つ可能性がある。というのも、励起および発光ビームは必ずしも試料の大部分を通過するわけではなく、したがって試料の内部に含まれる可能性がある干渉性の構成成分(例えば血球および微生物学的培養基)から受ける影響が小さい可能性がある。当業者に知られるように、容器の光学面は許容可能な結果がもたらされるような角度で照明することができる(例えば、Eisinger, J., and J. Flores, "Front-face fluorometry of liquid samples," Anal. Biochem. 94:15-21 (1983)参照)。一実施形態では、分光システムが拡散反射光を少なくとも1つの固定角度で測定するとともに、放出された蛍光を少なくとも1つの固定角度で測定するようにシステムを設計する。
【0069】
本発明によれば、対照測定値(control measurement)を既知の微生物と見なし、したがって測定したテストデータと該当する微生物のキャラクタリゼーションとの相関付けを当業者に既知の様々な数学的方法を使用して行うことが可能となる。例えば、当業者に既知のソフトウェアシステムを利用して試料からのデータとベースラインすなわち対照測定値とを比較することができる。より詳細には、データの分析をいくつかの多変量分析法、例えば一般判別分析(GDA)、部分最小二乗法判別分析(PLSDA)、部分最小二乗回帰、主成分分析(PCA)、平行因子分析(PARAFAC)、ニューラルネットワーク分析(NNA)および/またはサポートベクターマシン(SVM)によって行うことができる。これらの方法を使用することにより、先述したような有機体のモニタリング、検出および/またはキャラクタリゼーションを行うシステムを設計する際に、該当する未知の微生物を有機体の代謝、病原性および/または毒性に基づいて既存の命名法に基づく関連群および/または天然群に分類することができる。
【0070】
また別の実施形態では、検出システムからの検出時間や培養率のような非分光測定値を、単離試料またはペレットに由来する微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定に役立てることができる。更に、分離装置の下部領域の写真像から得られる測定値は、ペレットサイズ、形状、色、密度といった分離株(isolate)の同一性に関する有益な情報をもたらすことができる。
【0071】
本発明のいくつかの実施形態では、単離試料またはペレット中の微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定において必ずしも正確な種の同定を行う必要はない。キャラクタリゼーションは、生物学的粒子の広範なカテゴリ分けまたは分類だけでなく単一の種の実際の同定も包含する。単離試料またはペレットに由来する微生物の分類は、微生物の表現型および/または形態学的特徴の決定を含む可能性がある。例えば、生物学的粒子のキャラクタリゼーションは組成、形状、サイズ、クラスタリングおよび/または代謝のような観察可能な差異に基づいて達成することができる。いくつかの実施形態では、該当する生物学的粒子の分類を行うにあたって所与の生物学的粒子の特徴に関する予備知識の必要をなくすことができるが、経験的測定値との一貫性のある相関付けが必要となる。このため、本方法は特定の結合事象または代謝反応に基づく方法よりも汎用性が高くなり、容易に適合可能となる。本明細書で使用する「同定」とは、未知の微生物がどの科、属、種および/または株に属するのか判定すること、例えば未知の微生物を科、属、種および/または株レベルで同定することを意味する。
【0072】
いくつかの例において、キャラクタリゼーションはアクションを起こすのに十分有用な情報をもたらす分類モデルを包含する。本明細書で使用する好ましい分類モデルは、(1)グラム群、(2)臨床グラム群、(3)治療群、(4)機能群、および(5)天然固有蛍光群のうちの1つまたは複数の群への分類を含む。
【0073】
(1)グラム群:このグラム群分類では、各微生物をそれぞれのグラム染色反応および全体のサイズに基づいて3種類の広範な分類カテゴリのうちの1つに含めることができる。前記群は下記のうちの1つまたは複数から選択される。(a)グラム染色で紺青色に染色するグラム陽性微生物、(b)グラム染色で赤に染色するグラム陰性微生物および(c)グラム染色で紺青色に染色するイースト細胞(ただし、形態学的特徴およびサイズによってバクテリアと区別される非常に大きい円形の細胞)。
【0074】
(2)臨床グラム群:このグラム群は形態学的特徴によって区別されるいくつかのサブカテゴリに更に分割することができる。これらのサブカテゴリは熟練した研究室技術者から報告された臨床的に意義のある情報をすべて含むため、陽性または陰性グラム反応よりも高いレベルの同定を実現する。この特定の分類は下記の理由で非常に有用である。すなわち、グラム染色の品質および/またはスミアを読み取る技術者の技術レベルに左右される懸念が、臨床的に意義のある等価な情報に自動化システムを導入することによって解消されるからである。より詳細には、この分類モデルに基づく微生物のサブカテゴリは下記のうちの1つまたは複数から選択することができる:(a)球菌(小さい円形細胞)、(b)双球菌(互いに結合した2つの小さい円形細胞)、(c)矩形の桿菌(rods)および(d)桿状の桿状菌(bacilli)。付加的な形態学的情報によって確認可能なサブカテゴリの例としては下記が挙げられる:(i)グラム陽性球菌、(ii)鎖状のグラム陽性球菌、(iii)房状(すなわち「ブドウのような」房状)のグラム陽性球菌、(iv)グラム陽性双球菌、(v)グラム陽性桿菌、(vi)内生胞子を含むグラム陽性桿菌、(vii)グラム陰性桿菌、(viii)グラム陰性球桿菌、(ix)グラム陰性双球菌、(x)イーストおよび(xi)糸状の菌類。
【0075】
(3)治療群:治療群は、特定の標本タイプから単離したときに同じクラスの抗生物質または抗生物質の混合物(例えば「Sanford Guide to Antimicrobial Therapy 2008」参照)で処置される複数の微生物種を含む。多くの場合、臨床医が初期の経験的治療を標的療法に近付ける上で種レベルまでの同定は必要ない。というのも、2つ以上の種を1つ(または複数)の同じ抗生物質で処置することができるからである。この分類レベルはこれらの「同じ処置の」微生物を単一の治療カテゴリに適宜含める。このキャラクタリゼーションレベルの例としては、高度耐性腸内細菌(EB)種と感受性EB種(Enterobacter spp.(エンテロバクター種)とE.coli(エシェリキアコリ))を区別する能力や、フルコナゾール耐性カンジダ種(C.glabrata(カンジダグラブラータ)およびC.kruzei(カンジダクルセイ))と感受性カンジダ種(C.albicans(カンジダアルビカンス)およびC.parapsilosis(カンジダパラプシロシス))を区別する能力等が挙げられる。
【0076】
(4)機能群:本発明によれば、代謝、毒性および/または表現型特徴の組合せに基づくいくつかの群に微生物を含めることもできる。非発酵性の有機体を発酵性の有機体と明確に区別することができる。更に、溶血素を生産する微生物種を非溶血性種と別々に分類することができる。場合によっては、これらの群は属レベル(例えば腸球菌属、カンジダ属)と、より種に近いレベル(例えばコアグラーゼ陰性ブドウ球菌、α溶連菌、β溶連菌、コアグラーゼ陽性ブドウ球菌すなわちS.aureus(スタフィロコッカスアウレウス))とを区別して属レベル(例えば大腸菌、グラム陰性の非発酵性桿菌)よりも広範なカテゴリとなる。
【0077】
(5)天然固有蛍光(Intrinsic Fluorescence(「IF」))群:微生物の群れを成す自然な傾向に基づき、微生物を生得的特徴および/または固有蛍光特徴によりカテゴリ分けすることもできる。これらの群のいくつかは治療群および機能群のカテゴリに共通とすることができる。これらの分類は、特徴的なIFシグネチャ(IF signature)を有するE.faecalis(エンテロコッカスフェカリス)、S.pyogenes(ストレプトコッカスピオゲネス)、P.aeruginosa(シュードモナスエルジノーサ)のような個々の種を含むことができ、且つ/またはK.pneumoniae‐K.oxytoca(クレブシエラニューモニエ‐クレブシエラオキシトカ)やE.aerogenes‐E.cloacae(エンテロバクターエロゲネス‐エンテロバクタークロアカ)群のような比較的保存されたIFシグネチャを有する有機体の小群を含むことができる。
【0078】
同定を目的とする微生物の固有特性(固有蛍光等)の測定に加えて、本発明の方法は更に、分離および/または同定プロセスに役立つ付加的な同定作用物質(identifier agent)の使用を含むことができる。親和性配位子のような特定の微生物と結合する作用物質を使用することにより、微生物の分離、微生物のクラスまたは種の同定(例えばユニークな表面タンパク質または受容体との結合を利用)、および/または微生物の特徴(例えば抗生抵抗)の同定を行うことができる。有用な同定作用物質としては、それらに限らないが、単クローンおよび多クローン抗体ならびにそれらの断片(例えばS.aureus同定のためのanti‐Eap)、核酸プローブ、抗生物質(例えばペニシリン、バンコマイシン、ポリミキシンB)、アプタマー、ペプチド模倣体、ファージ由来の結合タンパク質、レクチン、宿主先天性免疫バイオマーカー(急性期タンパク質、LPS結合タンパク質、CD 14、マンノース結合レクチン、トール様受容体)、宿主防御ペプチド(例えばデフェンシン、カテリシジン、プロテオグリン(proteogrin)、マガイニン)、バクテロシン(bacterocin)(例えばランチビオティクス(例えばナイシン、メルサシジン、エピデルミン、ガリデルミンおよびプランタリシンCおよびクラスIIペプチド)、バクテリオファージおよび核酸、脂質、炭水化物、多糖類、カプセル/粘液(slime)もしくはタンパク質またはそれらの任意の組合せに対して選択的な色素が挙げられる。作用物質自体が検出可能なシグナルを示さない場合は、作用物質をマーカーと共役させる(例えば可視状態にするまたは蛍光性をもたせる)こと等により、作用物質を標識して検出可能なシグナルが提供されるようにすることができる。マーカーとしては、それらに限らないが、蛍光性化合物、発光性化合物、燐光性化合物、放射性化合物および/または比色化合物が挙げられる。作用物質は、本発明の方法の任意のステップ、例えば試料を溶解中および/または分離中に採取するときに微生物に添加することができる。いくつかの実施形態では、ペレット中の作用物質の存在をペレットの解析中に判定することができる。他の有用な同定作用物質としては、微生物酵素の基質、キレート剤、感光剤、消光剤、還元剤、酸化剤、緩衝液、酸、基剤、溶媒、固定剤、洗浄剤、界面活性剤、消毒薬(例えばアルコール、漂白剤、過酸化水素)、毒性化合物(例えばアジ化ナトリウム、シアン化カリウム)、シクロヘキサミドのような代謝阻害剤等が挙げられる。同様に、微生物細胞生存度、代謝および/または膜電位の測定のための多くの蛍光性化合物を本発明の同定作用物質として使用することができる。当業者には容易に理解されるように、それ自体の物理的状態または代謝に影響を及ぼす抗生物質のような任意の化合物に対する特定の微生物の感受性は、その化合物を試料、溶解緩衝液、密度クッションまたはそれらの任意の混合物に加えることにより迅速に確認することができる。
【0079】
本発明の一態様において、本方法は更に微生物ペレットを回収し付加的な試験を実行するステップを含むことができる。一実施形態では、ペレットを試料培地および密度クッションから吸い出すことによって回収することができる。別の実施形態では、注射器を容器に挿入し、試料培地および密度クッションをそのままの状態に保持したままペレットを吸い出すことにより、ペレットを回収することができる。その後、回収したペレットを適切な培地、例えば食塩水中に再懸濁させることができる。再懸濁の際は、微生物を更に当業者に知られる上述の所望の試験にかけることができる。特に、清浄な微生物試料を必要とする任意の試験を再懸濁させた微生物に対して実行することができる。いくつかの実施形態では、付加的な同定試験を実行することができる。同定試験の例としては、Vitek(登録商標)2、増殖および非増殖核酸試験(nucleic acid test:NAT)、色素産生およびラテックス接着アッセイ、イムノアッセイ(例えば標識した抗体および/または他のリガンドを利用)、質量分析(例えばMALDI‐TOF質量分析)および/または赤外分光法(FTIR)やラマン分光法のような他の光学的技法が挙げられる。抗生物質および/または他の薬剤に対する耐性のような付加的なキャラクタリゼーション試験も実行することができる。付加的なキャラクタリゼーションは、本方法の最初の分離および同定ステップ中に開始した試験の一部とすることもできる。例えばメチシリン耐性S.aureusの検出では、まず、微生物の分離に先立って蛍光標識したペニシリンを試料に加えることができる。ペレットを回収し再懸濁させると、結合したペニシリンのレベルを判定することができる。
【0080】
本発明の一態様では、方法ステップの一部または全部を自動化することができる。方法ステップを自動化することによってより多くの試料をより能率的に試験することが可能となり、有害性および/または感染性のある微生物を含む恐れがある試料を取り扱う際の人為的ミスのリスクを低減することができる。しかしながら、自動化のより重要な点は、昼夜を問わず任意の時間に遅滞なく重要な結果を示すことができることである。いくつかの研究結果から、敗血症の原因となる有機体の同定を迅速化することが患者ケアの改善、病院滞在期間の短縮および全体的なコストの削減につながることが証明されている。
【0081】
本発明の特定の実施形態では、本方法を使用して試料中の微生物の存在を検出することもできる。これらの実施形態において、本方法は
(a)試料を採取するステップと、
(b)任意選択で前記試料中に細胞を溶解させて溶解試料を生産するステップと、
(c)前記試料の他の構成成分から微生物を分離して微生物ペレットを形成するステップとを含む。
ペレットの存在は微生物が前記試料中に存在することを示す。一実施形態では、ペレットを肉眼で検出する。他の実施態様では、ペレットを解析により、例えば分光器を利用して検出する。
【0082】
いくつかの実施形態では、これらの検出方法を使用して試料、例えば食品、医薬品、飲料水等の微生物による汚染の有無をモニタリングすることができる。一実施形態において、本方法は汚染の有無を絶えずモニタリングするために反復的に実行することができ、例えば1か月に一度、1週間に一度、1日に一度、1時間に一度または他の任意の時間パターンで実行することができる。別の実施形態では、試料を必要に応じて、例えば汚染が疑われるときに試験することができる。更なる実施形態では、これらの検出方法を使用して臨床試料、例えば血液培養物中の微生物の有無を調べることができる。例えば、特定の時点で血液培養物から試料を取り出し、その試料に対して検出方法を実行することにより血液培養物が陽性であるかどうかを判定することができる。一実施形態では、培養物の接種後のある設定時点、例えば接種の24時間後に試料を採取して血液培養物が陽性であるかどうかを判定することができる。他の実施形態では、血液培養物から試料を定期的に、例えば12、6、4もしくは2時間毎、または60、50、40、30、20、15、10もしくは5分毎に採取して陽性検出可能な陽性血液培養物を短い時間で同定することができる。検出方法のいくつかの実施形態では、本明細書に記載するように、任意選択で検出ステップ後に同定方法を実行することができる。他の実施形態、特に試料の反復的なモニタリングを含む実施形態では、検出方法を部分的にまたは完全に自動化する。
【0083】
下記の実施例では本発明について更に詳細に説明するが、下記の実施例は例示的なものであり本発明を決して限定するものではない。利用した技法は当業者に周知の標準的な技法または後で具体的に説明する技法である。
【実施例】
【0084】
[実施例1]
迅速な微生物分離および同定方法
A.溶解‐遠心分離手順
【0085】
複数の円錐状のマイクロ遠心チューブにコロイドシリカの懸濁液(0.2〜0.5mL;密度1.040〜1.050gm/mL)を加えた。溶解させた陽性BacT/ALERT(登録商標)血液培養ブロス試料(0.5〜1.0mL)をコロイドシリカ懸濁液上にオーバーレイした。別法として、針またはカニューレを使用して、溶解させた血液培養ブロスの下方にコロイドシリカ溶液を加えることもできる。
【0086】
下記の微生物を含む培養物に由来する陽性ブロスを試験した:
・E.coli(ATCC 25922)
・E.faecalis(ATCC 29212)
・S.aureus(ATCC 12600)
・P.aeruginosa(ATCC 10145)
【0087】
チューブを閉蓋した後、それらのチューブをマイクロ遠心分離機に入れて室温(20〜25℃)で2分間、約10,000gで回転させた。上澄みを吸引した後、浄化微生物ペレットを0.45w/v%のNaCl中に入れ、660nmの光学的密度が0.40になるまで再懸濁させた。
【0088】
各懸濁液の一部分をアクリルキュベットに移し、分光蛍光計(Fluorolog(登録商標)3(HORIBA Jobin Yvon社(ニュージャージー州))で走査して微生物固有蛍光(microbial intrinsic fluorescence:MIF)を測定した。
【0089】
第2の部分をVitek(登録商標)2 ID/ASTカード(バイオメリュー社(ミズーリ州))に充填した。Vitek(登録商標)2の「直接的な」結果を、陽性ブロスから継代培養し一晩培養したコロニーの懸濁液から得られた結果(従来の方法)と比較した。血液からの直接培養(direct-from-blood culture)および標準的なVitek(登録商標)方法の両方において、4つのすべての種から優れた同定信頼レベルが得られた。このことから、密度ベースの分離方法により血液および/またはブロス由来の粒子およびタンパク質を実質的に含まない微生物が得られることが実証された。
【0090】
B.固有蛍光によるインサイチュ同定のための迅速な手順
陽性血液培養瓶を陽性反応が出てから1時間以内、好ましくは陽性反応が出てから10分以内にBacT/ALERT(登録商標)Microbial Detection System(バイオメリュー社(ミズーリ州))から取り出した。陽性血液培養ブロスの2.0mLの試料を無菌のねじ蓋付きチューブ内で0.5mLの溶解溶液(0.75%のTriton(登録商標)X‐100(還元型)(Rohm and Haas社(ペンシルバニア州))+0.375%のプロテアーゼXXIII)に加えた。このチューブを短い時間渦動させ、室温で5分間温置した。溶解させたブロス試料(0.5mL)を1.045mg/mlの密度の分離溶液(0.15MのNaCl中30v/v%のIsolate(登録商標)コロイドシリカ)を含む特注のマイクロ遠心チューブ(厚さ0.5mmの石英光学窓を基部に有する)に加えた。このチューブをA‐8‐11スウィングアウトローター(Eppendorf社(ニューヨーク州))を装着したEppendorf(登録商標)5417Rマイクロ遠心分離機に入れて室温(20〜25℃)で2分間、約10,000rpmで回転させた。このチューブを遠心分離機から取り出し、Fluorolog(登録商標)3(HORIBA Jobin Yvon社(ニュージャージー州))分光蛍光計用の特注の前面アダプタに移した。その直後に、チューブ底部のペレット化微生物の蛍光を下から読み取った。データを多変量解析のためにExcel(登録商標)およびStatistica(登録商標)ソフトウェアにエクスポートした。
【0091】
[実施例2]
迅速な微生物浄化および同定方法の評価
【0092】
実施例1に記載した迅速同定概念の可能性を評価するために、本方法では陽性血液培養物から回収した24種類の分離株(C.albicans、E.coli、S.aureusおよびS.epidermidis(スタフィロコッカスエピデルミディス)を含む4種の6株)を試験した。
【0093】
SPS抗凝固処理血液を3つのドナーから収集しプールした。10mLの新鮮なヒト血液をBacT/ALERT(登録商標)(BTA)SA血液培養瓶(バイオメリュー社(ミズーリ州))に加えた。各分離株の懸濁液をトリプティックソイブロス(TSB)中で調製した。各瓶に0.4mlの103/mL懸濁液を接種し、それらの瓶をBTAキャビネットに入れて36℃で温置した。10mlの血液を含むが有機体を含まない4つのBacT/ALERT(登録商標)SA瓶を陰性対照として含めた。
【0094】
陽性瓶は陽性反応が出てから3時間以内にBTAキャビネットから取り出した。陰性対照瓶は各組の陽性瓶と共に(種単位で)取り出した。瓶は陽性になった順に1つずつBTAキャビネットから取り出した。陽性血液培養ブロスの2.0mL分の試料を3mL注射器および18G針を使用して取り出した直後に、無菌のねじ蓋付きガラスチューブ内で0.5mLの溶解緩衝液に加えた(0.75w/v%のTriton(登録商標)X‐100(還元型)(Fluka社))。このチューブを短い時間渦動させ、室温で5分間温置した。0.5mL部の溶解させたブロス試料を、55μlの分離溶液(0.15MのNaCl中30v/v%のIsolate(登録商標))を事前に充填した特注の毛管状マイクロ遠心チューブ(毛管断面の基部に0.5mmの石英光学窓を含む)に追加した。このマイクロ遠心チューブをA‐8‐11スウィングアウトローター(Eppendorf社(ニューヨーク州))を装着したEppendorf(登録商標)5417Rマイクロ遠心分離機に入れ、22℃で2分間、10,000rpmの遠心分離にかけた。このチューブを遠心分離機から取り出し、Fluorolog(登録商標)3(HORIBA Jobin Yvon社(ニュージャージー州))分光光度計用の特注の30度前面アダプタに移した。その直後に、5分間の特注プログラムを使用してチューブ底部のペレット化した浄化微生物の蛍光を読み取った。データを分離株の計量化学分析および分類のためにExcelおよびStatisticaにエクスポートした。
【0095】
正規化を用いたデータおよび正規化を用いないデータに対し、分類モデルの最適化をLeave‐one‐out交差検定法によって実行した。結果を表1に示す。表中、「ステップ数」は「Leave‐one‐out」交差検定法を使用して感受性が最も高くなった判別分析ステップの数を指す。データの正規化を行わない場合は、正しく同定された株の割合は82.6%であった。データをレイリー散乱点、コラーゲン領域またはピリドキサミンピークに正規化したときに最良の結果(約96%の正しい同定)が得られたが、NADH、トリプトファンおよびフラビンピークに正規化することによっても改善した結果が得られた。
【0096】
【表1】
【0097】
[実施例3]
溶解緩衝液の評価
【0098】
実験により、強溶解緩衝液および弱溶解緩衝液で処理した新鮮な陽性S.pneumoniae WM‐43血液培養ブロスの分離効率および微生物固有蛍光(MIF)プロファイルを評価した。下記の溶解緩衝液製剤を試験した:(A)0.5M CAPS中2.0%のTX100‐R、pH 11.7(強=LB‐A)、(B)0.5M CAPS中0.75%のTX100‐R、pH 11.7(弱=LB‐B)および(C)0.3M CAPS中0.45%のTX100‐R(pH 11.7(弱=LB‐C)。1.0mLの溶解緩衝液AおよびBおよび2.0mlの溶解緩衝液Cをそれぞれねじ蓋付きチューブ内に入れ、各チューブをラック内の37℃の水浴に入れた。ブロスの試料(4.0mL)は、BTAシステム内で陽性反応が出てから5分以内に、5mL注射器および18G針を使用してS.pneumoniae WM43陽性BacT/ALERT(登録商標)SA培養瓶から取り出した。ブロスを溶解緩衝液を含む各チューブに素早く分注し、各チューブを閉蓋し、約5秒間渦動させた。溶解および分離ステップの有効性を判定するために、過充填した(15mL血液)陰性対照BacT/ALERT(登録商標)SA瓶の試験ブロスもサンプリングした。各チューブを37℃の水浴に1分間戻した。各チューブを水浴から取り出し、200μlの14w/v%イオヘキソール密度クッションを含む事前充填した分離チューブ内に0.5mLの溶解物をオーバーレイした。各チューブをA‐8‐11スウィングアウトローター(Eppendorf社(ニューヨーク州))を装着したEppendorf(登録商標)5417Rマイクロ遠心分離機に入れて25℃で2分間、10,000rpm(約10,000×g)の遠心分離にかけた。LB‐Bを使用した分離チューブの下部領域の写真を図1に示す。なお、過充填した(15mL血液)陰性対照ブロスを処理する時点でペレットは存在しなかった。遠心分離の完了直後に、Fluorolog(登録商標)3(HORIBA Jobin Yvon社(ニュージャージー州))分光蛍光計においてデュアル30度チューブアダプタ、PMT検出器および「フルEEM」走査ファイル(20.8分走査)を使用して各チューブの読み取りを行った。個々の試料に由来するEEMスペクトルの例を図2A〜図2Cに示す。
【0099】
図2A〜図2Cに示したS.pneumoniaeペレットの固有蛍光EEMプロファイルは細胞生存度結果との相関が高くなっている。陽性ブロスを0.40%のTX100(最終濃度)を含む溶解緩衝液(LB‐A;強緩衝液)で処理した結果、3つのすべてのペレットのトリプトファンシグナルが類似するにも関わらず、いずれも0.15%のTX100(最終濃度)を含むより弱い緩衝液で処理した場合と比較して、肺炎球菌生存度が1/30に低下し、ピークNADH蛍光が1/5に低下した。微生物生存度の低下に関連する別の変化はピークフラビン蛍光(表2)の増加であった。NADHの低下およびフラビン蛍光の上昇は図2Aを見れば明らかである。
【0100】
【表2】
【0101】
[実施例4]
浄化微生物ペレットのインサイチュ同定を行う改良型装置および方法
【0102】
実施例2に記載した迅速インサイチュ分離および同定方法の可能性を更に模索するために、いくつかの専用装置を設計しUV透過プラスチックから成形した。これらの装置は、2009年10月30日に出願した関連米国特許出願第xxxxx号「Separation Device for Use in the Separation, Characterization and/or Identification of Microorganisms」に開示されている。この米国特許出願の開示内容を本明細書に援用する。これらの装置は一般的な特徴、すなわち閉鎖部と、試料リザーバと、沈殿微生物ペレットの下方および/または側面からの分光解析を可能にするテーパ光学品質下部領域とを含み、また装置と分光蛍光計との結合を容易にする特徴も含む。また、これらの装置は分離ステップ中の比較的高い重力に耐えることができなければならない。このチューブをいくつか反復配置し、微生物回収率および蛍光再現性が改善され且つ迷散乱光による汚染が低減されるように設計した。また、このチューブは密封されるように設計した。
【0103】
沈殿微生物ペレットの光学解析は、分離装置を分光蛍光計の試料隔室内に配置した特注のアダプタに挿入することにより、または分光蛍光計(Fluorolog(登録商標)3(HORIBA Jobin Yvon社(ニュージャージー州))に取り付けた二股の6アラウンド1型300〜400ミクロン光ファイバーケーブル(Ocean Optics社(フロリダ州))に分離装置を直接連結することにより実行した。両方のシステム検出器(PMTおよびCCD)を使用することができるように3ミラー光ファイバアダプタを作製した。フル励起発光マトリクス(EEM)スペクトルを各微生物ペレット上に集めた(走査範囲:励起260〜800nm;発光260〜1100nm;5nm増分)。
【0104】
浄化したトリプトファンおよびリボフラビン溶液を使用して、ディスポーザブル装置‐光ファイバーケーブル構成に関するゲージ再現性および信頼性評価を実施した。両方のフルオロフォアで目標CVの2.5%超が得られた。これによりディスポーザブルおよび研究プラットフォームの品質が確認された。
【0105】
[実施例5]
微生物ペレットの測定値および微生物懸濁液との比較を使用した微生物の同定
【0106】
これまでに複数の研究者が微生物の希釈懸濁液の直角蛍光測定を使用した微生物の同定について説明している。本発明者らは、この従来の方法の効果と、本発明者らの専用のUV透過分離装置または光学チューブの基部内の沈殿微生物ペレットの前面測定による新規な手法の効果とを比較した。更に、本発明者らは前面測定用の2つの検出器、すなわちダブルグレーティング分光計に連結した光電子増倍管(PMT)検出器およびシングルグレーティング分光計に連結した電荷結合素子(CCD)検出器の効果も比較した。これらの実験はツーピース分離装置設計および寒天プレート上で培養した微生物コロニーを使用して実施した。7種(S.aureus、S.epidermidis、E.coli、K.oxytoca、C.albicans、C.tropicalis(カンジダトロピカリス)およびE.faecalis)に相当する42株のパネルを下記の3つの各光学構成で試験した。
1. 660nmで0.40ODである各微生物の懸濁液を0.45%のNaCl中で調製し、UV透過キュベットに加え、PMT検出器(従来の方法)を使用して直角のフルEEMを収集した。
2. 特注の分離装置において懸濁液を遠心分離することにより2〜3mm厚の微生物ペレットを調製した。結果として得られたペレットのフルEEMを前面モードにおいてPMT検出器を使用して収集した。
3. 特注の分離装置において懸濁液を遠心分離することにより2〜3mm厚の微生物ペレットを調製した。結果として得られたペレットのフルEEMを前面モードにおいてCCD検出器を使用して収集した。
【0107】
EEMの固有蛍光データは市販の多変量解析ソフトウェア(一般判別分析;Statistica)を使用して分析した。分析結果を表3に示す。
【0108】
【表3】
【0109】
驚くべきことに、微生物ペレットの前面モードの走査は既知の多変量分析法を使用して微生物の同定能力を大幅に改善するものであった。蛍光EEMデータの更なる分析により、従来のキュベット内懸濁構成における主な判別領域がスペクトルのトリプトファン領域に含まれることが判明した。対照的に、微生物ペレットの前面測定により、EEMスペクトルのいくつかの付加的な領域が特に360〜440nmの励起波長範囲で強力な判別力を提示した。この実験はPMTおよびCCD検出器の機能的透過性も実証した。
【0110】
微生物ペレットの前面解析によって提供された付加的な固有蛍光スペクトル情報は想定外の有利な結果である。
【0111】
[実施例6]
選択性溶解緩衝液の開発
【0112】
本発明者らは、ヒト血液構成成分を数秒以内に溶かすが、大部分の敗血症原因微生物をそのままの状態に保ち代謝的に活発な状態にしておく選択性溶解緩衝液の設計に着手した。これらの研究で使用した最も一般的な試料はヒト血液を含むBacT/ALERT(登録商標)SA培養基である。10〜15mLのヒト血液を試験微生物の小さい接種材料と共に播種した瓶および該小接種原なしに播種した瓶をBacT/ALERT(登録商標)Microbial Detection Systemに装填した。陽性または陰性のままの瓶を取り出し、ブロスの試料を下記のように処理した。
【0113】
本発明で使用した最も初期の溶解溶液は緩衝せず(実施例1および2)、コロイドシリカ密度クッションと組み合わせて使用した。コロイドシリカの興味深い特性の1つは、この密度クッションの頂部に集まる不完全に可溶化した血球構成成分、およびクッションを通過しペレットを形成する完全な状態微生物を分離する能力を備えることである。より広範に適用できる密度クッションを探したが(実施例7参照)、その多くは上記の非微生物残屑の沈殿を防止することができず、したがって改良型の溶解緩衝液製剤が必要となった。本発明者らは非微生物残屑が酸ではなく水酸化カリウムによって急速に溶けると判断したため、いくつかのアルカリ性pH緩衝液を種々の洗浄剤の存在下で試験した。これらの研究中に、本発明者らはTriton X100‐R洗浄剤とpH 11.7のCAPS緩衝液との混合物により、無菌の血液培養ブロス試料に由来する血球構成成分の完全な可溶化が得られることを発見した。
【0114】
Triton X100‐R洗浄剤の濃縮効果の予備評価およびS.pneumoniae株WM‐43の生存度に関する高pH溶解条件を実施例3に記載した。微生物生存度を低下させる条件がNADH蛍光を大幅に低下させ、それに付随してフラビン蛍光を上昇させた(表2のLB‐A参照)。
【0115】
一連のアニオン性洗浄剤、中性洗浄剤および両性イオン洗浄剤を選択性溶解緩衝液に配合するためにスクリーニングした。アニオン性洗浄剤および両性イオン洗浄剤は血液タンパク質にとって変性作用が強すぎることが分かったため、本発明者らは表4に示したような非変性中性洗剤候補に焦点を絞った。試験時のアルカリ性pHで最も強力な血球溶解活性を有する洗浄剤は表中の1〜6番である。これらの洗浄剤は、660nmにおけるパーセント透過率の上昇で評価したところ陰性対照血液培養ブロス中の血球を20秒以内に完全に可溶化した。第2グループの洗浄剤(7〜10番)は血球のより緩慢且つ制御性の高い溶解を示し、30〜40秒で最大の可溶化を示した。第3グループ(11〜12番)は同等の洗浄剤濃度で完全な溶解を得るまでに8〜10分かかった。
【0116】
0.3M CAPS、pH11.7の基質緩衝液製剤中の異なる構造および溶解活性を有する洗浄剤を含む溶解緩衝液を調製した。洗浄剤濃度は表4に示したとおりである。洗浄剤およびアルカリ性pH条件に対して感受性があることが知られる臨床微生物株のストレプトコッカスニューモニエ株WM‐43を含む陽性血液培養ブロスを使用して、これらの溶解緩衝液を機能的に評価した。評価したパラメータは、微生物固有蛍光レベル(励起発光マトリクススペクトル)、分離効率、単離微生物ペレットの外観および密度クッション下方のペレットから回収した微生物のグラム染色特徴および生存度である。
【0117】
実施した手順は下記のとおりである。
【0118】
陽性ブロス2部と試験溶解緩衝液1部を混合し、これを37℃の水浴に1分間温置して血球を溶解させ、その後ツーピース光学分離チューブに分注した0.2mLの密度クッション(14w/v%のIohexol+1.93w/v%のNaCl+10mMのHEPES;pH7.4)上に0.5mLの溶解物を積層し、その後チューブをねじ蓋で密封した。チューブをA‐8‐11スウィングアウトローター(Eppendorf社(ニューヨーク州))を装着したEppendorf(登録商標)5417Rマイクロ遠心分離機に入れて2分間10,000rpmの遠心分離にかけた後、特注のアダプタ内に配置し、分光蛍光計(Fluorolog(登録商標)3(HORIBA Jobin Yvon社(ニュージャージー州))に連結された400ミクロン光ファイバプローブにチューブの基部を直接連結し、フルEEM走査(励起260〜850nm;発光260〜1100nm;5nm間隔)を実施した。走査後、上澄みを除去し、微生物ペレットを0.5mLのトリプティックソイブロス(TSB)中に再懸濁させた。懸濁液のスミアのグラム染色準備を整え、20マイクロリットルの1:100希釈液をヒツジ血液寒天プレート上で平板培養し、NG(成長無し)〜4+(最大成長)のスケールの生存度推定を行った。
【0119】
この実験結果から、上述の所望の溶解状況下では試験洗浄剤がそれぞれの溶解特性に対応する下記の3つのカテゴリに大きく分けられることが判明した。
1. 上記のS.pneumoniae分離株のグラム反応に幾分影響を与えた迅速溶解洗浄剤グループ(1〜6番)。このグループの最後の2つの洗浄剤(Genapol(登録商標)X‐080(Hoechst社(ドイツ、フランクフルト)およびポリドカノール)の影響は相対的に軽微であったが、最初の3つはグラム反応を完全に変化させ、生存度を低下させた。
2. 60秒の溶解時間内に血球を効果的に可溶化させたより弱い溶解洗浄剤グループ(7〜10番)。このグループはS.pneumoniae分離株のグラム反応または生存度を変化させなかった。
3. 同様にS.pneumoniae分離株のグラム反応または生存度を変化させなかったが、溶解活性がより緩慢な洗浄剤グループ(11〜12番)。
【0120】
【表4】
【0121】
S.pneumoniae細胞ペレット内に存在する固有フルオロフォアのレベルに対する試験洗浄剤の効果を表5に示す。実施例3に示した結果が教示するように、NADH蛍光に対するフラビンの比率はこの感受性微生物の健康の優れた指標となる。n‐オクチルグルコシドやCHAPS洗浄剤等で観察されるように、低い比率は微生物生存度の低下と関連付けられる。表5に示した4つのグループは、それぞれペレットから回収したS.pneumoniae細胞について観察されたグラム反応の変化と相関するカテゴリに分けられる(表4)。このデータは、洗浄剤7、8、9、10および12番がフラビン/NADH代用マーカーの生存度の大幅な改善を示すことを証明している。
【0122】
興味深いことに、これらの5つの洗浄剤はすべてポリオキシエチレンクラスである。驚くべきことに、血球を直ちに可溶化するより弱い4つの洗浄剤(7〜10番)は、生存度が変化しないことを示唆する最適な固有フルオロフォア濃度を有し、予想どおりのグラム反応を示し、これらの洗浄剤はすべて共通の化学的性質を共有する。各洗浄剤は、平均鎖長10(E)および平均炭化水素鎖長12〜18(C)のポリオキシエチレン親水性頭部基を有する。
【0123】
本発明者らは、この特定の洗浄剤グループを、近隣の微生物の生存度を維持しながら哺乳類血球を選択的に可溶化するように設計した溶解緩衝液に配合するための優れた候補として提案する。
【0124】
【表5】
【0125】
スクリーニングモデルを開発し、いくつかの洗浄剤に対するより多くの微生物分離株の感受性を試験することができるようにした。簡潔に言うと、試験用に選別した微生物の懸濁液を103〜105CFU/mLのヒト血液を含むBacT/ALERT(登録商標)SA培養基中に添加した。試料を37℃で1〜5分間、試験溶解緩衝液で処理し、その後必要に応じてTSBに1:100希釈し、平板培養して生存数測定を行った。
【0126】
表6に示したコロニー数の概要は、Brij(登録商標)97が最小の毒性を示し、アルカリ状態のCAPS緩衝液のみがN.meningitidis(ナイセリアメニンギティディス)、H.influenzae(ヘモフィルスインフルエンザ)およびA.actinomycetemcomitans(アクチノバシラスアクチノミセテムコミタンス)を迅速に殺したことを示している。Genapol(登録商標)C‐100はBrij(登録商標)97と同様の活性を示したが、このモデルではH.parainfluenzae(ヘモフィルスパラインフルエンザ)およびC.hominisに対する毒性がやや高かった。その後の実験で、S.pneumoniae、S.pyogenes、S.agalactiae(ストレプトコッカスアガラクチア)、S.mitis、P.mirabilis(プロテウスミラビリス)、K.pneumoniaeおよびE.coliの生存度は、Brij(登録商標)97とGenapol(登録商標)C‐100の両方に5分間接触させた後も影響を受けないままだった(データは示さず)。
【0127】
【表6】
【0128】
多くの溶解緩衝液、特に分子法に使用される溶解緩衝液は、可溶化ステップを促進するエチレンジアミン四酢酸(EDTA)のようなキレート剤を含む。本発明者らは、グラム陰性およびグラム陽性微生物のパネルを使用してTX100‐CAPS溶解緩衝液基質にEDTAを加えた影響を評価した。表7は、P.aeruginosaおよびA.baumanii(アシネトバクターバウマニー)に対するEDTAの急性毒性影響を示すが、他の2つのグラム陰性桿菌、すなわちB.cepacia(バークホルデリアセパシア)およびK.pneumoniae、またはグラム陽性S.aureusについては急性毒性影響を示さない。なお、EDTAがP.aeruginosaとA.baumaniiの両方に対して抑制的である一方、主な固有フルオロフォアの変化はこれら2つの種間で大きく異なるものであった。P.aeruginosaは、EDTA処理後にNADHとトリプトファン蛍光の両方が大幅に低下した唯一の試験有機体であった。
【0129】
これらの実験は、特定の化合物または識別子を溶解緩衝液にどのように加えれば特定の微生物の基本的な微生物固有蛍光プロファイルを変化させることができ、分離株の同定および更なるキャラクタリゼーションを改善する機会が与えられるかを示す良好な例である。当業者には容易に理解されるように、それ自体の物理的状態または代謝に影響を及ぼす任意の化合物に対する特定の微生物の感受性は、当該化合物を試料、溶解緩衝液、密度クッションまたはそれらの任意の混合物に加えることにより迅速に確認することができた。同様に、選択性溶解緩衝液の溶解条件または製剤(例えば緩衝液pH、洗浄剤タイプおよびその濃度)を変更することにより、図2Aおよび図2Bに例示したように微生物固有蛍光の特徴的変化をもたらすことができる(例えば、2009年10月30日に出願し、本願と同じ譲受人に譲渡した米国特許出願第xxxxx号「Method for the Separation and Characterization of Microorganisms Using Identifier Agents」参照。この米国特許出願の開示内容を本明細書に援用する)。
【0130】
【表7】
【0131】
[実施例7]
密度ベース分離緩衝液の開発
【0132】
密度クッションとも呼ぶ分離緩衝液の目的は、溶解した血液成分および培養基に由来する代謝的に活発な微生物を数分以内に直ちに分離および分割することとした。クッション材料は、完全な状態の微生物の密度と溶解した陽性血液培養ブロス試料の密度の間の密度を有するものを選択した。分離は遠心力によって実現した。
【0133】
本発明者らは、最初に(実施例1〜2)コロイドシリカが陽性血液培養ブロス中で発見した蛍光性の高い血液および培地構成成分から微生物を迅速に単離する上で満足のいく特性を有することを判定した。しかしながら、S.pneumoniaeのようないくつかの微生物種は、沈殿した微生物と汚染された血液と培地構成成分との間の有効な相障壁(phase barrier)を形成するのに必要な密度でコロイドシリカ内に満足のいく形で沈殿することはなかった。したがって、より広範且つ効果的な密度クッションを更に模索した。
【0134】
一連の化合物を分離緩衝液に配合するためにスクリーニングした。密度クッション向けの好ましい化合物は下記の特徴を有するものである。
1. 粘性が低く、クッション内の微生物の迅速な沈殿を可能にする。
2. 蛍光性が低く、微生物由来の固有蛍光に対する干渉を最小限に抑える。
3. 好ましくは解析対象となる光の波長全域で光学的に透明である。
4. 微生物に対して非毒性である。
5. 安価且つ容易に入手できる。
6. 広範なバクテリアおよび試料に広く利用可能である。
【0135】
【表8】
【0136】
S.pneumoniae(カプセルに入れた低密度微生物)を含む陽性血液培養ブロス、E.coli(中密度微生物)およびS.aureus(高密度微生物)を使用して潜在的な密度化合物をスクリーニングした。ブロス試料は、実施例6で説明した条件下で、溶解緩衝液1部(0.45%のTriton X100‐R+0.3M CAPS、pH11.7)と試料2部を混合し、37℃の水浴に1分間温置することにより溶解させた。次いで、0.7mLの溶解物を、標準的な1.5mLマイクロ遠心チューブに入れた0.5mLの試験密度クッション上に注意深くオーバーレイした。各チューブを約10,000gで2分間回転させ、分離結果を記録した。2層の異なる液状層の基部に固体微生物ペレットが沈殿し、ヘモグロビン汚染が下層に現れないときに優れた分離が確認された。
【0137】
優れた分離結果は、コロイドシリカ、Iohexol、塩化セシウム、LymphoPrep(登録商標)およびPolymorphoPrep(登録商標)を密度クッションとして使用したときに得られた。満足のいく結果は、デキストロースT70、Ficoll 400、スクロースおよびポリビニルアルコールを用いたときに得られた。IodixanolはIohexolと同様の特性を有することが予想される。本発明者らは、例えば塩化ナトリウムを追加することにより密度クッションを高浸透圧性にすることでS.pneumoniaeやK.pneumoniaeのような低密度微生物の沈殿が改善されることも発見した。
【0138】
14w/v%のIohexol、18w/v%の塩化セシウムおよび30%のPolymorphoPrep(登録商標)ストックと、感受性のS.pneumoniae株WM43を含む陽性ブロスを使用してTriton X100‐R、ポリドカノール、Brij(登録商標)97、Genapol(登録商標)C‐100およびGenapol(登録商標)X‐100で調製した溶解緩衝液とを組み合わせて、更なる試験を実施した。5種類の溶解緩衝液と4種類の密度クッションの組合せは予想どおりの優れた分離を示した。Iohexolと塩化セシウムの密度クッションの結果を図3に示す。実施例6でより詳細に論じたように、回収したS.pneumoniae細胞の生存度は、密度クッションの構成に関わらずTriton X100‐Rおよびポリドカノールを含む緩衝液ほど高くはなかった。
【0139】
[実施例8]
いくつかの溶解緩衝液および密度クッションの評価
【0140】
本発明の概念の広範な利用可能性を判定するために、本発明者らは播種血液培養研究を使用してミニ分類モデルを作製し、2種類の選択性溶解緩衝液および2種類の密度クッション製剤の効果を比較した。このモデルで使用した微生物は、K.pneumoniae、K.oxytoca、S.aureus、S.epidermidis、C.tropicalisおよびS.pneumoniae(それぞれ6株)である。溶解緩衝液および密度クッションの下記の組合せを試験した。
セットA=Brij(登録商標)‐97溶解緩衝液+Pluronic F‐108を含む24%の塩化セシウムクッション
セットB=Genapol(登録商標)C‐100溶解緩衝液+Pluronic F‐108を含む24%の塩化セシウムクッション
セットC=Brij(登録商標)‐97溶解緩衝液+Pluronic F‐108を含む14%のIohexolクッション
セットD=Brij(登録商標)‐97溶解緩衝液+24%のCsClクッション(Pluronic F‐108を含まない)
【0141】
上記の4つの各条件下で陽性ブロスの試料を下記のように処理した。
1. 陽性ブロスの2.0mLの試料を1.0mLの選択性溶解緩衝液と混合した後、37℃の水浴に1分間入れた。
2. 溶解物の1.0mLの試料を特注の光学分離チューブに収容した0.5mLの密度クッション上にオーバーレイした。密度クッションの表面上にポリプロピレンボールを配置することにより、これら2つの水相に外乱をもたらすことなく容易な充填を可能にした。
3. 光学分離チューブをねじ蓋で封止し、10,000rpmで2分間遠心分離にかけた(A‐8‐11スウィングアウトローター(Eppendorf社(ニューヨーク州))を装着したEppendorf(登録商標)5417Rマイクロ遠心分離機;図4参照)。
4. 次いで、封止したチューブを特注のアダプタに移し、分光蛍光計に連結された300ミクロン光ファイバプローブにチューブの基部を直接連結した(HORIBA Jobin Yvon社のFluorolog(登録商標)3(ニュージャージー州))。
5. CCD検出器構成を使用してフルEEM走査を行った(励起260〜850nm;5nm間隔;発光260〜1100nm)。
6. EEMデータをExcelにエクスポートし、一般判別分析(Statistica)を使用して試薬セット毎にミニ分類モデルを作製した。
【0142】
分離結果は1つの例外を除いて4つのすべての試薬セットで等価であった。密度クッション中に弱い界面活性剤Pluronic F‐108を含まないセットDは、いくつかのC.tropicalis株のバイオマスを大幅に減少させた。理由は、それらの有機体が分離チューブの側壁に強力に付着したためである。この現象はIohexolクッションを使用したときも発生した(データは示さず)。後続のデータ分析により密度クッション中の弱い界面活性剤の存在が好ましいことが示されたが、不可欠というわけではなかった。実際、4つのすべての試薬の組合せのGDA結果から満足のいく分類性能が示されている(表9)。4つの試薬セット間の差異はいずれも比較的軽微なものであった。最も一般的な誤分類は、パネル上の密接に関係する2つの種、すなわちK.pneumoniaeとK.oxytocaの間で起きた。
【0143】
【表9】
【0144】
塩化セシウムを含むクッション上のIohexolを含む密度クッションの潜在的な欠点の1つは、医学的に使用される造影剤であるIohexolの強力な吸着性により約380nm未満の励起波長では大きな蛍光消光が生じることである。しかしながら、驚くべき発見として、Iohexolクッションを使用したときにK.pneumoniaeおよびK.oxytocaの分析上の判別性(analytical differentiation)が改善された。このことは、NADHやトリプトファンのようなより顕著なフルオロフォアの部分的消光により、異なる消光特性を有するより下位の細胞フルオロフォアの差異が明らかになる可能性があることを示唆する。
【0145】
Brij(登録商標)97およびGenapol(登録商標)C‐100を含む溶解緩衝液は、このような限られた微生物パネルで同様の分類結果を示した。塩化セシウムおよびIohexol密度クッションも同様の結果を示した。興味深い発見として、Iohexolはいくつかの微生物種の判別を選択的に促進するのに使用することが可能である。
【0146】
[実施例9]
固有蛍光による血液培養分離株の改良型迅速同定方法
【0147】
光学分離チューブおよび関連する光学プラットフォームの設計検証の進化、微生物ペレットの前面解析における分類能力の改善ならびに迅速選択性溶解緩衝液および密度ベースの分離ステップの最適化の集大成として、血液培養ブロスのような複雑な試料から微生物を数分以内に同定する可能性を有する新規な方法が得られた。
【0148】
本方法は分離および読み取りステップを封止装置内で行うので、簡便性および安全性の利点がある。本方法の有用性を更に確実なものにするために、本発明者らは敗血症の原因として知られる最も一般的な29の種に相当する微生物の373株についてデータベースを構築した。これらの有機体は10mLのヒト血液を収容したBacT/ALERT(登録商標)SA瓶に低接種原で「播種(seeded)」した。血液培養ブロス試料は、BacT/ALERT(登録商標)3D Microbial Detection Systemにより陽性反応が出てから数分以内に瓶から取り出した。これらの試料を下記のように処理した。
1. 陽性ブロスの2.0mLの試料を1.0mLの選択性溶解緩衝液と混合し(0.45w/v%のBrij(登録商標)97+0.3M CAPS、pH11.7)、次いで37℃の水浴に1分間入れた。
2. 溶解物の1.0mLの試料を、特注の光学分離チューブに収容した0.5mLの密度クッション上にオーバーレイした(10mMのHEPES(pH7.4)中24w/v%の塩化セシウム+0.005%のPluronic F‐108)。密度クッションの表面上にポリプロピレンボールを配置することにより、これら2つの水相に外乱をもたらすことなく容易な充填を可能にした。
3. 光学分離チューブをねじ蓋で封止し、10,000rpmで2分間遠心分離にかけた(A‐8‐11スウィングアウトローター(Eppendorf社(ニューヨーク州))を装着したEppendorf(登録商標)5417Rマイクロ遠心分離機;図4参照)。
4. 次いで、封止したチューブを特注のアダプタに移し、分光蛍光計に連結された300ミクロン光ファイバプローブにチューブの基部を直接連結した(HORIBA Jobin Yvon社のFluorolog(登録商標)3(ニュージャージー州))。
5. CCD検出器構成を使用して浄化した微生物ペレットのフルEEM走査を行った(励起260〜850nm;5nm間隔;発光260〜1100nm)。
6. EEMデータをExcelにエクスポートした。
7. プロセス全体の所要時間は瓶のフラグイベントから20分未満であり、このプロセスを2〜8℃で4〜5時間保管した陽性ブロスを使用して繰り返した。保管ブロスは処理前に5分間暖めた。
【0149】
陽性血液培養ブロスから単離した微生物ペレットのEEMスペクトルのいくつかの代表例を図5〜図8に示す。図示の種間の差異は、存在する様々な細胞フルオロフォアの大きさと形状の両面で視覚的に確認することができる。
【0150】
微生物分類データベースを構築する目的で種々の多変量分析法によりデータ分析を行った。各走査ファイルが9,000を超える個々の蛍光読み取り値を含んでいたため、分析に先立ってデータの最小化および正規化を種々の手法を使用して実施した。一例として、表10に一般判別分析ツール(Statistica)を使用したいくつかの予備結果を示す。BacT/ALERT(登録商標)Microbial Detection Systemから得られた検出時間や培養率のような付加的な入力変数および細胞ペレット中に存在するバイオマスの量を使用して敗血症原因分離株(実施例10参照)の同定および/またはキャラクタリゼーションに役立てることができる。
【0151】
表10のデータは種レベルの同定結果を示すが、臨床的に意義のある実用的な情報を主治医に提供する任意の分類レベルを提示することができる。かかる分類レベルの一例は「治療」群であり、治療群では微生物種をそれらの処理に使用する抗生物質に従って分類する。
【0152】
本明細書に記載する方法は、安全且つ信頼性のある手法で陽性血液培養瓶から微生物を迅速に同定する切迫した必要を満足するものである。表10に例示した結果は微生物の培養または分子特性を利用した他の同定方法に匹敵するものであるが、時間的遅延またはコストは生じない。更に、本方法は完全に自動化することができ、したがって昼夜を問わずいつでも電子装置を利用することでID結果を医師に直接送り届けることができる。
【0153】
また、本発明の方法は特注のディスポーザブル装置に分離および読み取りセクションを内蔵し、完全な状態の微生物を「固相」として扱うので(図4参照)複数の診断技法と互換性がある。本発明の概念を使用して展開される補足的試験の例としては、微生物酵素、細胞表面マーカー、核酸プローブおよび微生物代謝阻害の測定が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本方法は自動化および小型化が容易である。この可能性の詳しい説明は、2009年10月30日に出願し、本願と同じ譲受人に譲渡した米国特許出願第xxxxx号「Method for the Separation and Characterization of Microorganisms Using Identifier Agents」に記載されている。この米国特許出願の開示内容を本明細書に援用する。
【0154】
【表10】
【0155】
[実施例10]
微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定に役立つ非分光測定値
【0156】
検出システムアルゴリズムから得られる検出時間や微生物培養率、単離した微生物ペレットのサイズ、形状、色、密度といった非分光測定値を微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定のための付加的な変数として使用することができる。
【0157】
図9および図10に示した例は、ペレットサイズ、検出時間および平均固有蛍光の測定値を使用することにより、密接に関係する2つの種、すなわちS.pneumoniaeおよびS.mitisの判別を容易にすること、すなわち同定を確実に行うことができることを証明する。各記号は本発明の方法によって陽性血液培養ブロスから回収した別々の臨床分離株を表す。図9および図10中の円で囲んだS.pneumoniae分離株は、表10(実施例9)に示した予備結果でS.mitisとして誤って同定されたものである。
【0158】
上記の説明は本発明を例示するものであり、本発明を限定するものと解釈すべきではない。本発明は添付の特許請求の範囲で定義されるものであり、各請求項には均等物も含まれる。本明細書に列挙した刊行物、特許出願、特許、特許文献および他の参考文献はすべて、参照する文および/または段落の教示内容全体が本明細書に援用されるものとする。
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2008年10月31日に出願した米国仮特許出願第61/110,187号「Method and System for Detection and/or Characterization of a Biological Particle in a Sample」の恩典を主張する。この米国仮特許出願の開示内容を本明細書に援用する。
【0002】
本発明は試料中の微生物を検出、単離および/または同定する方法およびシステムに関するものである。特に、本発明は分光技術を使用した微生物の迅速なキャラクタリゼーションおよび/または同定方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
生物学的流体中の病原微生物の検出は可能な限り短い時間で行う必要があり、医師が利用できる広範な抗生物質が存在するにも関わらず依然として死亡率が高い敗血症の場合は特にそうである。患者の体液、特に血液中の微生物のような生物学的活性剤の存在は通常血液培養瓶を使用して判定される。血流感染症は高い罹患率および死亡率と関連付けられるが、培養後に生化学的同定および抗生物質感受性試験を行う現行の診断法は実施期間が数日に及ぶこともある。典型的には、臨床症状に基づく経験的治療が開始されるが、試験結果が臨床決定に影響を及ぼすのは初期治療が失敗したときだけである。陽性の血液培養結果が出てから最初の数時間以内、好ましくは1時間以内に血流感染をキャラクタリゼーションることができれば診断情報の臨床的意義が大きく高まるはずである。この必要性を満足するために分子増幅法が提案されているが、この手法にも大きな難題が残っている。陽性の血液培養ブロス自体は種々の同定(ID)試験で使用され得る微生物の自然増殖個体群である。
【0004】
Vitek(登録商標)、Phoenix(商標)、Microscan(登録商標)システムのような従来の自動化表現型ID試験、またはAPIのような手動表現型試験では、強固な結果を得るために、微生物が適切な発育相にあり且つ干渉する培地および血液製剤が存在しないことが必要である。これらのシステムでは陽性ブロスから18〜24時間かけて平板培養培地上で培養したコロニーが使用される。しかしながら、より迅速な結果を得るための試みとして微生物を陽性血液培養瓶から隔離したシステムの使用が一部の研究室から報告されている。このようなダイレクトフロムボトル試験(direct-from-the-bottle test)は必ずしもすべての微生物(例えばグラム陽性球菌)に適しているわけではなく、試験製造業者によって検証されておらず、通常は結果が得られるまで3〜8時間かかる。陽性の培養結果が出てから最初の数時間以内、好ましくは1時間以内に臨床的に意義のある結果を医師に提供するために、より迅速かつより広範な特異的試験の提供が急務である。
【0005】
固有蛍光(IF)、赤外分光法(FTIR)、ラマン分光法のような光学分光法およびMALDI‐TOFのような質量分析法は非常に迅速な微生物の同定を可能にする可能性があるが、液体微生物学的培養基中および血液のような臨床試料中またはそれらの組合せに存在する蛍光性および吸光性の高い多くの化合物から干渉を受ける恐れがある。陽性血液培養ブロスから微生物を直接回収するために最も一般的に利用されている方法は、2ステップの分画遠心分離および血清分離チューブ内の遠心分離である。
【0006】
他の微生物分離、キャラクタリゼーションおよび/または同定方法が下記の文献に記載されている。
【0007】
米国特許第4,847,198号には、UV励起ラマン分光法を使用した微生物の同定方法が開示されている。4,847,198号特許によれば、細菌懸濁液に紫外領域の単一波長が接触する。使用する光エネルギーの一部は吸収され一部は放出される。放出された光エネルギー、すなわち共鳴増強ラマン散乱が後方散乱エネルギーとして測定される。このエネルギーを処理にかけることによってバクテリアに特徴的なスペクトルが生成される。
【0008】
ボー・ディン(Vo‐Dinh)の米国特許第5,938,617号は、試料をいくつかの波長の光で刺激し、発光強度を同期的にサンプリングすることにより試料の生物学的病原体を同定するシステムに関するものである。このシステムは試料を励起放射に曝すことにより発光放射を発生させる機構を含む。生物学的病原体はウイルスおよびバクテリアである可能性がある。
【0009】
米国特許第6,177,266号には、細胞タンパク質抽出物または全細胞のマトリクス支援レーザー脱離イオン化/飛行時間型質量分析法(MALDI‐TOF‐MS)分析によって生成される属、種および株固有のバイオマーカーによるバクテリアの化学分類方法が開示されている。
【0010】
米国特許第7,070,739号には、2次元超遠心分離によりウイルスを含む微生物を体液または均質化組織から直接抽出、分離および浄化する方法が開示されている。第1の遠心分離ステップで、同定すべき微生物よりも沈殿速度が速い粒子がすべて除去される。第2の超遠心分離ステップで、特殊な鋸歯状の遠心チューブを使用して充填液体中で等密度バンディングを使用して広範な密度勾配を形成する。この特許によれば、核酸固有の色素を使用してバンディング粒子を光散乱または蛍光によって検出し、ウイルスタンパク質サブユニットおよび完全なウイルス粒子の質量分析、および核酸質量と制限酵素によって生産される断片の質量の両方に関する蛍光フロー血球計算測定により、非常に小さい体積のバンディング粒子を回収しキャラクタリゼーションするための分離技法を使用することができる。
【0011】
米国特許出願第2007/0037135号には、液体中に懸濁した生物学的試料を同定および定量化するためのシステムが開示されている。このシステムは、少なくとも1つの励起光源を有する蛍光刺激モジュールと、少なくとも1つの励起光源から励起光を受け取るように生物学的試料を配置する蛍光刺激モジュールと光学的に結合した試料インターフェースモジュールと、試料インターフェースモジュールと光学的に結合した蛍光放出モジュールであって、生物学的試料の蛍光励起‐発光マトリクスを検出する少なくとも1つの検出装置を備える蛍光放出モジュールと、蛍光放出モジュールと動作可能に結合されたコンピュータモジュールとを含む。コンピュータモジュールは生物学的試料の蛍光励起‐発光マトリクスに関する多変量解析を実行して生物学的試料の同定および定量化を行う。しかしながら、米国特許出願第2007/0037135号では血液のような複雑な生物学的試料に由来する微生物の同定および定量化については論じられていない。
【0012】
米国特許出願第2007/0175278号には、対象試料を培養するための液体培養基の使用が記載されている。試料としては、例えば血液、尿、糞便、静脈内カテーテル等、工業生産ライン、水道システム、食品、化粧品、医薬品および法医学的試料が挙げられる。続いて、当業界で既知の方法、例えば遠心分離により液体培地から微生物を回収することができる。その後、これらの濃縮微生物を任意選択で乾燥後に担持材に移して振動スペクトルを得ることができる。この特許出願では微生物を同定および分類するためのラマン分光法のような振動分光法を含めた様々な方法が論じられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第4,847,198号明細書
【特許文献2】米国特許第6,177,266号明細書
【特許文献3】米国特許第7,070,739号明細書
【特許文献4】米国特許出願第2007/0037135号明細書
【特許文献5】米国特許出願第2007/0175278号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、これらの方法は血液含有培養基のような複雑な試料から微生物を分離しキャラクタリゼーションを行おうとするときにいくつかの欠点を有する。結果として得られる微生物製剤がしばしば赤血球、血小板、脂質粒子、血漿酵素および細胞残屑の汚染を伴い、それによって思わしくない結果を招く恐れがある。また、これらの方法は、使用者が潜在的に危険な病原体のエアロゾルに曝される恐れがあるステップが存在する故に非常に労働集約的であり安全性も欠く。臨床試料(例えば血液培養ブロス)および他の複雑な試料から微生物を単離するために、上記のような干渉材料が存在せず且つ迅速同定技術に適合した単純で安全な信頼性のある方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、試料中の微生物の単離、キャラクタリゼーションおよび/または同定方法を提供する。これらの方法を用いると、微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を従来技術よりも迅速に行うことができ、それにより(例えば敗血症を患うまたはその疑いがある被験者の)より迅速な診断が可能となり、また(例えば食品および医薬品の)汚染材料の特定も可能となる。試料の採取から微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定に至る本発明の方法に含まれる各ステップを非常に短い時間枠、例えば約120分未満で実行して臨床的に意義のある実用的な情報を生成することができる。また、本発明の方法は完全に自動化することもでき、それにより感染性材料および/または汚染試料を取り扱うリスクを低減することができる。
【0016】
一態様において、本発明は試験試料に由来する微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定方法であって、
(a)微生物を含むことが既知であるまたは微生物を含む可能性がある試験試料を採取するステップと、
(b)前記試験試料中に非微生物細胞を選択的に溶解(lysing)させて溶解試料を生産するステップと、
(c)前記溶解試料の他の構成成分から微生物を分離して単離微生物試料を形成するステップと、
(d)単離した前記微生物を分光解析(spectroscopically interrogating)して前記微生物の分光測定値を生成するステップと、
(e)前記分光測定値と既知の微生物に関して得られる分光測定値もしくは予測分光特性とを比較することにより前記単離試料中の前記微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うステップとを含む方法に関するものである。
【0017】
一態様において、本発明は血液培養物に由来する微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定方法であって、
(a)微生物を含むことが既知であるまたは微生物を含む可能性がある血液培養物から試料を採取するステップと、
(b)前記試料中に非微生物細胞を選択的に溶解させて溶解試料を生産するステップと、
(c)前記溶解試料を封止容器内の密度クッション上に積層するステップと、
(d)前記容器を遠心分離にかけて前記試料の他の構成成分から微生物を分離し微生物ペレットを形成するステップと、
(e)単離した前記微生物を分光解析して前記微生物の分光測定値を生成するステップと、
(f)前記分光測定値と既知の微生物に関して得られる分光測定値もしくは予測分光特性とを比較することにより前記単離試料中の前記微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うステップとを含む方法に関するものである。
【0018】
別の態様において、本発明は微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定方法であって、
(a)微生物を含むことが既知であるまたは微生物を含む可能性がある試験試料を採取するステップと、
(b)前記試験試料を封止容器内に配置するステップと、
(c)前記試験試料の他の構成成分から微生物をインサイチュで分離して前記封止容器内の微生物の単離微生物試料を形成するステップと、
(d)単離した前記微生物をインサイチュで分光解析して前記微生物の分光測定値を生成するステップと、
(e)前記分光測定値と既知の微生物に関して得られる分光測定値もしくは予測分光特性とを比較することにより前記単離試料中の前記微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うステップとを含む方法に関するものである。
【0019】
一実施形態において、前記分離は前記試験試料を封止容器(例えば密封容器)内の密度クッション上に積層し、前記試験試料の培地が前記密度クッションの頂部に残っている間に容器を遠心分離にかけて微生物をペレット化することによって実行される。他の実施形態において、前記容器は微生物ペレットの分光解析を行うことができるように底部および/または側面に光学窓を有する。前記微生物は、前記ペレットのスペクトルと既知の微生物の1つまたは複数のスペクトルもしくは予測分光特性とを比較することにより同定することができる。更なる操作なしに微生物を前記ペレット中で直接同定することができれば、この微生物同定方法の安全性の価値が大幅に高まる。
【0020】
一実施形態において、前記分光解析は前記微生物の固有の特徴(例えば固有蛍光)に基づく。他の実施形態において、前記分光解析は、本発明の方法の間に加えられ且つ特定の微生物または微生物群と相互作用する付加的な作用物質から得られる信号に部分的に基づく。
【0021】
他の実施形態では、前記方法は更に、前記微生物ペレットを回収し、前記微生物を再懸濁し、更なる同定またはキャラクタリゼーション試験(例えば薬剤耐性、毒性因子(virulence factor)、耐性記録)を実行するステップを含む。
【0022】
以下、添付図面を参照しながら本発明の詳細な説明を行う。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の溶解分離ステップをS.pneumoniae(ストレプトコッカスニューモニエ)培養物および陰性培養ブロスに対して実行した後の分離容器の写真である。
【図2A】解析前の溶解ステップで溶解緩衝液Aを使用した場合の単離微生物の例示的な励起/発光スペクトルを示す図である。
【図2B】解析前の溶解ステップで溶解緩衝液Bを使用した場合の単離微生物の例示的な励起/発光スペクトルを示す図である。
【図2C】解析前の溶解ステップで溶解緩衝液Cを使用した場合の単離微生物の例示的な励起/発光スペクトルを示す図である。
【図3】5つの異なる溶解緩衝液および2つの密度クッションを使用して本発明の溶解および分離ステップを実行した後の分離容器の写真である。
【図4】溶解した微生物を含む血液培養ブロスの遠心分離後の状態を示し、溶解血液培養物、密度クッションおよび微生物ペレットを明示する分離装置の写真である。
【図5】封止分離容器において読み取った微生物の励起/発光スペクトルの一例を示す図である。
【図6】封止分離容器において読み取った微生物の励起/発光スペクトルの一例を示す図である。
【図7】封止分離容器において読み取った微生物の励起/発光スペクトルの一例を示す図である。
【図8】封止分離容器において読み取った微生物の励起/発光スペクトルの一例を示す図である。
【図9】10種類のS.mitis(ストレプトコッカスミティス)(円)および10種類のS.pneumoniae(三角)培養物から採取したペレットの平均固有蛍光シグナルを示すグラフである。
【図10】10種類のS.mitis(円)および10種類のS.pneumoniae(三角)培養物から採取したペレットの平均ペレットサイズを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は様々な形態で実施することができる。本発明は本明細書に記載した実施形態に限定されるものと解釈すべきではない。そうではなく、これらの実施形態は本開示が詳細で完全なものとなり、本発明の範囲が当業者に十分伝わるようにするために提示するものである。例えば、一実施形態に関して例示した特徴を他の実施形態に組み込むことができ、特定の一実施形態に関して例示した特徴をその実施形態から削除することもできる。また、本開示に照らせば、本明細書に示した実施形態に対する本発明から逸脱しない様々な変更および追加が当業者には理解されるであろう。
【0025】
別段の定めがない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語はすべて本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書では、発明の説明で使用する用語は特定の実施形態を説明するためのものであって本発明を限定するものではない。
【0026】
[定義]
本明細書で使用する「a」、「an」または「the」は1つまたは2つ以上のものを意味する可能性がある。例えば「細胞(a cell)」という場合は単一の細胞を意味することも複数の細胞を意味することもある。
【0027】
また、本明細書で使用する「および/または(and/or)」という表現は、列挙した関連アイテムの1つまたは複数を対象とする任意の可能な組合せに加えて選択肢(「または(or)」)として解釈した場合の組合せの欠如も指し、それらをすべて包含するものである。
【0028】
更に、本明細書で使用する「約(about)」という用語は、本発明の化合物または作用物質の量、投与量、時間、温度といった測定可能な値を指すときは、指定された量の±20%、±10%、±5%、±1%、±0.5%または±0.1%のばらつきを含むものとする。
【0029】
本明細書で使用する「微生物」という用語は、一般に単細胞であり、研究室で繁殖および取扱い可能な有機体を包含する。このような有機体としてはグラム陽性またはグラム陰性バクテリア、イースト、カビ、寄生虫およびモリキューテスが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明のグラム陰性バクテリアの非限定的な例としては下記の属のバクテリアが挙げられるが、これらに限定されるものではない:シュードモナス属、エシェリキア属、サルモネラ属、赤痢菌属、エンテロバクター属、クレブシエラ属、セラチア属、プロテウス属、カンピロバクター属、ヘモフィルス属、モルガネラ属、ビブリオ属、エルシニア属、アシネトバクター属、ステノトロフォモナス属、ブレブンディモナス属、ラルストニア属、アクロモバクター属、フゾバクテリウム属、プレボテラ属、ブランハメラ亜属、ナイセリア属、バークホルデリア属、シトロバクター属、ハフニア属、エドワードシエラ属、アエロモナス属、モラクセラ属、ブルセラ属、パスツレラ属、プロビデンシア属およびレジオネラ属。本発明のグラム陽性バクテリアの非限定的な例は、以下の属のバクテリアを含む:腸球菌、連鎖球菌、ブドウ球菌、バチルス属、パエニバチルス属、乳酸桿菌属、リステリア属、ペプトストレプトコッカス属、プロピオン酸菌属、クロストリジウム属、バクテロイデス属、ガードネレラ属、コクリア属、ラクトコッカス属、ロイコノストック属、ミクロコッカス、マイコバクテリウム属およびコリネバクテリウム属。本発明のイーストおよびカビの非限定的な例としては下記の属のイーストおよびカビが挙げられるが、これらに限定されるものではない:カンジダ属、クリプトコックス属、ノカルジア属、アオカビ属、アルタナリア属、ロドトルラ属、アスペルギルス属、フザリウム属、サッカロミセス属およびトリコスポロン属。本発明の寄生虫の非限定的な例としては下記の属の寄生虫が挙げられるが、これらに限定されるものではない:トリパノソーマ属、バベシア属、リーシュマニア属、マラリア原虫属、ブケリア属(Wucheria)、ブルギア属、オンコセルカ属およびネグレリア属。本発明のモリキューテスの非限定的な例としてはマイコプラズマ属およびウレアプラズマ属のモリキューテスが挙げられる。
【0030】
一実施形態では、以下で詳細するように、試料または培養培地に由来する微生物を分離および解析して該試料中に存在する微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うことができる。本明細書で使用する「分離(separate)」という用語は、それ自体の初期状態すなわち培養培地または培養基から除去、濃縮または他の方法で切り離された微生物の任意の試料を包含するものとする。例えば、本発明によれば、通常ならキャラクタリゼーションおよび/または同定に干渉する恐れがある非微生物または非微生物構成成分から微生物を(例えば分離試料として)分離することができる。この用語は、他の2層に挟まれた微生物、例えば遠心分離後に高密度クッションの頂部に集められた微生物の層、または固体表面(例えばフィルター膜)上に集められた微生物の層を含む。この用語は、ある層(例えば密度クッション)を部分的に通過した一群の微生物も含む可能性がある。したがって、分離する微生物試料は、当初の試料よりも濃縮されたまたは当初の試料から切り離された一群または一層の微生物および/または微生物の構成成分を含む可能性があり、微生物が密集した高密度凝集塊から微生物の拡散層に及ぶ様々なものが存在する可能性がある。分離フォームまたは分離試料に含まれ得る微生物構成成分としては線毛、鞭毛、フィムブリエおよびカプセルの任意の組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。微生物から分離する非微生物構成成分は非微生物細胞(例えば血球および/または他の組織細胞)および/またはそれらの任意の構成成分を含む可能性がある。
【0031】
また別の実施形態では、以下で詳述するように、試料または培養培地に由来する微生物を単離および解析して該試料中に存在する微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うことができる。本明細書で使用する「単離(isolated)」という用語は、それ自体の初期状態すなわち培養培地もしくは培養基から少なくとも部分的に浄化された微生物の任意の試料、および任意の非微生物もしくはそれらに含まれる非微生物構成成分を包含するものとする。例えば、本発明によれば、分離しない場合はキャラクタリゼーションおよび/または同定に干渉する恐れがある非微生物または非微生物構成成分から微生物を(例えば分離試料として)分離することができる。微生物から分離する非微生物構成成分は非微生物細胞(例えば血球および/または他の組織細胞)および/またはそれらの任意の構成成分を含む可能性がある。
【0032】
また別の実施形態では、以下で詳述するように、試料または培養培地に由来する微生物をペレット化し解析して試料中に存在する微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うことができる。本明細書で使用する「ペレット(pellet)」という用語は、一塊の微生物として圧縮または堆積した微生物の任意の試料を包含するものとする。例えば、ある試料に由来する微生物を遠心分離または当業界で知られる他の方法によりチューブの底部に一塊に圧縮または堆積させることができる。この用語は、遠心分離後の容器の底部および/または側面上に存在する一群の微生物(および/またはその構成成分)を含む。ペレットに含まれ得る微生物構成成分としては線毛、鞭毛、フィムブリエおよびカプセルの任意の組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明によれば、通常ならキャラクタリゼーションおよび/または同定に干渉する恐れがある非微生物または非微生物構成成分から微生物を(例えばほぼ浄化された微生物ペレットとして)切り離してペレット化することができる。微生物から分離する非微生物構成成分は非微生物細胞(例えば血球および/または他の組織細胞)および/またはそれらの任意の構成成分を含む可能性がある。
【0033】
本明細書で使用する「密度クッション(density cushion)」という用語は、全体的に均質な密度を有する溶液を指す。
【0034】
本発明は、試料中の微生物の単離、キャラクタリゼーションおよび/または同定方法を提供する。更に、本方法は、特に血液含有培養基のような複雑な試料に由来する微生物の分離、キャラクタリゼーションおよび/または同定に有用である可能性がある。これらの迅速な方法を用いると、微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を従来技術よりも迅速に行うことができ、それにより(例えば敗血症を患っているまたはその疑いがある被験者の)より迅速な診断が可能となり、また(例えば食品および医薬品の)汚染材料の特定も可能となる。試料の採取から微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定に至る本発明の方法に含まれる各ステップを非常に短い時間枠で実行して臨床的に意義のある実用的な情報を生成することができる。いくつかの実施形態では、本発明の方法を約120分未満、例えば約110、100、90、80、70、60、50、40、30、20、15、10、5、4、3、2または1分未満で実行することができる。従来方法よりも優れた本発明の方法の改良点はこの迅速さにある。これらの方法を使用して本明細書に記載した任意の微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うことができる。一実施形態おいて、微生物はバクテリアである。別の実施形態において、微生物はイーストである。別の実施形態では、微生物はカビである。他の一実施形態において、微生物は寄生虫である。別の実施形態において、微生物はモリキューテスである。また、本発明の方法は完全に自動化することもでき、それにより感染性材料を取り扱うリスクおよび/または試料を汚染するリスクを低減することができる。
【0035】
一態様において、本発明は試験試料に由来する微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定方法であって、
(a)微生物を含むことが既知であるまたは微生物を含む可能性がある試験試料を採取するステップと、
(b)前記試験試料中に非微生物細胞を選択的に溶解させて溶解試料を生産するステップと、
(c)前記試験試料の他の構成成分から微生物を分離して単離微生物試料を形成するステップと、
(d)単離した前記微生物を分光解析して前記微生物の分光測定値を生成するステップと、
(e)前記分光測定値と既知の微生物に関して得られる分光測定値もしくは予測分光特性とを比較することにより前記単離試料中の前記微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うステップとを含む方法に関するものである。
【0036】
一態様において、本発明は血液培養物に由来する微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定方法であって、
(a)微生物を含むことが既知であるまたは微生物を含む可能性がある血液培養から試料を採取するステップと、
(b)前記試料中に非微生物細胞を選択的に溶解させて溶解試料を生産するステップと、
(c)前記溶解試料を封止容器内の密度クッション上に積層するステップと、
(d)前記容器を遠心分離にかけて前記試料の他の構成成分から微生物を分離し微生物ペレットを形成するステップと、
(e)単離した前記微生物を分光測定して前記微生物の分光測定値を生成するステップと、
(f)前記分光測定値と既知の微生物に関して得られる分光測定値もしくは予測分光特性とを比較することにより前記単離試料中の前記微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うステップとを含む方法に関するものである。
【0037】
また別の態様において、本発明は微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定方法であって、
(a)微生物を含むことが既知であるまたは微生物を含む可能性がある試験試料を採取するステップと、
(b)前記試験試料を封止容器(例えば密封容器)内に配置するステップと、
(c)前記試験試料の他の構成成分から微生物をインサイチュで分離して前記封止容器内の微生物の単離微生物試料を形成するステップと、
(d)単離した前記微生物をインサイチュで分光測定して前記微生物の分光測定値を生成するステップと、
(e)前記分光測定値と既知の微生物に関して得られる分光測定値もしくは予測分光特性とを比較することにより前記単離試料中の前記微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うステップとを含む方法に関するものである。
【0038】
本発明の別の実施形態において、上記の方法は、微生物の解析に先立って分離ステップの間に形成された微生物のペレットまたはその一部分を分離容器から回収するステップを含む。例えば、ペレット形成後にペレットから流体を吸い出し、ペレットを適切な培地(例えば微生物が生存可能な媒体)に再懸濁することができる。再懸濁した微生物を分離容器から取り出すことができる。次いで、これらの微生物をキャラクタリゼーションおよび/または同定のために例えば懸濁液中でまたは再ペレット化後に解析することができる。他の実施形態では、再懸濁した微生物を例えば懸濁液中でまたは再ペレット化後に分離容器内で解析することができる。別の実施形態では、ペレットから回収した微生物を再懸濁することなく更なる解析に直接使用することができる(例えばラマン分光法、質量分析)。
【0039】
[試料]
本発明の方法によって試験可能な試料(すなわち試験試料)は、微生物の存在および/または増殖が疑われるまたは疑われる可能性がある臨床試料と非臨床試料の両方を含み、また微生物の有無を定期的にまたは臨時に検査する材料の試料も含む。利用する試料の量は方法の汎用性および/または感度に応じて大きく変化する可能性がある。試料調製は当業者に既知の任意の数の技法を利用して実行することができるが、本発明の1つの効果は、複雑な試料タイプ、例えば血液、体液および/または他の不透明物質等を、多くの前処理を殆どまたはまったく伴わないシステムを利用して直接試験することができる点にある。一実施形態では、培養物から試料を採取する。別の実施形態では、微生物学的培養物(例えば血液培養物)から試料を採取する。別の実施形態では、試料が微生物を含むことが疑われるまたは微生物を含むことが既知である。
【0040】
試験可能な臨床試料としては、典型的には臨床検査室または研究所で試験される任意のタイプの試料が含まれ、例えば血液、血清、血漿、血液分画、関節液、尿、精液、唾液、糞便、脳脊髄液、胃内容物、膣分泌物、組織ホモジェネート、骨髄穿刺液、骨ホモジェネート、痰、吸引液、ぬぐい液(swab)およびぬぐい液残滓(swab rinsate)、他の体液等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。別の実施形態では、臨床試料を培養し、培養試料を使用することができる。
【0041】
本発明は研究用途ならびに獣医学および医学用途に適用される。臨床試料が採取可能な適切な被検者は一般には哺乳類の被験者であるが、どのような動物であってもよい。本明細書で使用する「哺乳類」という用語には、それらに限らないが、人間、人間以外の霊長類、牛、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギ、齧歯動物(例えばラットまたはマウス)等が含まれる。人間の被験者には新生児、乳児、幼児、成人および老人の被験者を含む。試料が採取可能な被験者としては哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類および魚類が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
また、試験可能な非臨床試料としては、食品、飲料、医薬品、化粧品、水(例えば飲料水、非飲料水および廃水)、海水バラスト、空気、土壌、汚水、植物材料(例えば種、葉、茎、根、花、果実)、血液製剤(例えば血小板、血清、血漿、白血球分画等)、ドナー臓器または組織試料、生物戦試料(biowarfare sample)等を含めた物質が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本方法は工業環境の汚染レベル、工程管理、品質管理等をモニタリングするための実時間試験にも特に適している。別の実施形態では、非臨床試料を培養し、培養試料を使用することができる。
【0043】
本発明の一実施形態では、微生物感染症を患うまたはその疑いがある被験者(例えば患者)から試料を採取する。一実施形態において、被験者は敗血症、例えば菌血症または真菌血症を患っているまたはその疑いがある。試料は、被験者に直接由来する血液試料であってよい。試料は、患者の血液の試料から培養した血液培養物、例えばBacT/ALERT(登録商標)血液培養物に由来するものであってもよい。血液培養試料は陽性血液培養物、例えば微生物の存在を示す血液培養物に由来するものであってよい。いくつかの実施形態では、陽性血液培養物が陽性になった時点から短い時間のうちに、例えば約6時間以内、例えば約5、4、3もしくは2時間以内、または約60分以内、例えば約55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、4、3、2もしくは1分以内に、該陽性血液培養物から試料を採取する。一実施形態では、微生物が対数増殖期にある培養物から試料を採取する。別の実施形態では、微生物が定常期にある培養物から試料を採取する。
【0044】
本発明は、微生物の検出、キャラクタリゼーションおよび/または同定の高い感度をもたらす。これにより、最初に微生物を単離するステップを経る必要のない検出、キャラクタリゼーションおよび/または同定が可能となる。このような検出、キャラクタリゼーションおよび/または同定は、固体または半固体培地上で微生物を培養し、培養したコロニーをサンプリングすることにより実現される。したがって、本発明の一実施形態において、試料は固体または半固体表面上で培養した微生物(例えばバクテリア、イーストまたはカビ)のコロニーに由来するものではない。したがって、本発明の一実施形態において、試料は固体または半固体表面上で培養した微生物(例えばバクテリア、イーストまたはカビ)のコロニーに由来するものではない。
【0045】
試料の体積は、本発明の方法における分離/単離ステップを実行した後に解析され得る単離微生物試料または微生物ペレットを生産するのに十分大きいものとする必要がある。適切な体積は試料のソースおよび試料中の予想微生物レベルに依存する。例えば、陽性血液培養物の体積当たりの微生物レベルが汚染の有無を検査すべき飲料水試料よりも高く、したがって飲料水試料に比べて小さい体積の血液培養基が必要となる可能性もある。一般に、試料サイズは約50ml未満とすることができ、例えば約40、30、20、15、10、5、4、3または2ml未満とすることができる。いくつかの実施形態では、試料サイズを約1mlとすることができ、例えば約0.75、0.5または0.25mlとすることができる。分離をマイクロスケールで実行するいくつかの実施形態では、試料サイズを約200μl未満とすることができ、例えば約150、100、50、25、20、15、10または5μl未満とすることができる。いくつかの実施形態(例えば試料が少数の微生物を含むことが予想される場合)では、試料サイズを約100ml以上とすることができ、例えば約250、500、750または1000ml以上とすることができる。
【0046】
[任意選択の溶解ステップ]
いくつかの実施形態では、試料を採取した後に実行する本発明の方法の次のステップは、試料、例えば血球および/または組織細胞中に存在し得る望ましくない細胞を選択的に溶解させるステップである。細胞を溶解させることにより試料の他の構成成分からの微生物の分離を可能にすることができる。他の構成成分からの微生物の分離により解析ステップ中の干渉を防止する。非微生物細胞が試料中に存在することが予想されない場合、または非微生物細胞が解析ステップに干渉することが予想されない場合は、溶解ステップの実行が必要なくなる可能性がある。一実施形態において、溶解すべき細胞は試料中に存在する非微生物細胞であり、試料中に存在し得る微生物細胞は溶解させない。しかしながら、実施形態によっては特定のクラスの微生物を選択的に溶解させることが望ましい可能性がある。それ故、このような選択的な溶解を本明細書に記載する方法および当業界で周知の方法に従って実行することができる。例えば、あるクラスの望ましくない微生物を選択的に溶解させることができ、例えばイーストは溶解させるがバクテリアは溶解させないこと、またはその逆が可能である。他の実施形態では、微生物の特定の細胞下構成成分、例えば細胞膜または細胞小器官を分離するために所望の微生物を溶解させる。一実施形態では、非微生物細胞をすべて溶解させる。他の実施形態では、非微生物細胞の一部分、例えば解析ステップに対する干渉を防止するのに十分な細胞を溶解させる。細胞の溶解は、微生物を溶解させるか否かに関わらず、当業界で細胞を選択的に溶解させるのに効果的であることが知られる任意の方法によって実行することができる。このような方法としては溶解溶液の添加、超音波処理、浸透圧衝撃処理、化学処理および/またはそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
溶解溶液は、細胞、例えば非微生物細胞を(例えば真核細胞膜の可溶化により)溶解させること、および/または微生物細胞を溶解させることができる溶液である。一実施形態において、溶解溶液は1つ以上の洗浄剤、1つ以上の酵素または1つ以上の洗浄剤と1つ以上の酵素の組合せを含むことができ、更に付加的な作用物質も含むことができる。一実施形態において、洗浄剤は非変性溶解洗浄剤、例えばTriton(登録商標)X‐100、Triton(登録商標)X‐100‐R、Triton(登録商標)X‐114、NP‐40、Genapol(登録商標)C‐100、Genapol(登録商標)X‐100、Igepal(登録商標)CA 630、Arlasolve(商標)200、Brij(登録商標)96/97、CHAPS、オクチルβ‐D‐グルコピラノシド、サポニン、ノナエチレングリコールモノドデシルエーテル(C12E9、ポリドカノール)等とすることができる。任意選択で下記のような変性溶解洗浄剤を含めることもできる:ナトリウムドデシルサルフェート、N‐ラウロイルサルコシン、ナトリウムデオキシコレート、胆汁酸塩、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、SB3‐10、SB3‐12、アミドスルホベタイン‐14およびC7BzO。任意選択で下記のような可溶化剤を含めることもできる:Brij(登録商標)98、Brij(登録商標)58、Brij(登録商標)35、Tween(登録商標)80、Tween(登録商標)20、Pluronic(登録商標)L64、Pluronic(登録商標)P84、非洗浄剤スルホベタイン(NDSB 201)、アンフィポル(amphipol)(PMAL‐C8)およびメチル‐β‐シクロデキストリン。典型的には、非変性洗浄剤および可溶化剤をそれぞれの臨界ミセル濃度(CMC)を上回る濃度で使用しながら、変性洗浄剤をそれぞれのCMCを下回る濃度で添加することができる。例えば、非変性溶解洗浄剤は約0.010%〜約10%の濃度、例えば約0.015%〜約1.0%、例えば約0.05%〜約0.5%、例えば約0.10%〜約0.30%の濃度(試料で希釈した後の最終濃度)で使用することができる。別の実施形態では、ポリオキシエチレン洗浄剤洗浄剤が好ましい可能性もある。ポリオキシエチレン洗浄剤は構造C12‐18/E9‐10を有することができる[ただし、C12‐18は炭素原子数12〜18の炭素鎖長を示し、E9‐10は9〜10のオキシエチレン親水性頭部基を示す]。例えば、ポリオキシエチレン洗浄剤は、Brij(登録商標)97、Brij(登録商標)96V、Genapol(登録商標)C‐100、Genapol(登録商標)X‐100、ノナエチレングリコールモノドデシルエーテル(ポリドカノール)またはそれらの組合せから成る群から選択することができる。
【0048】
溶解溶液中で使用可能な酵素としては、それらに限らないが、核酸および他の膜汚染材料を消化する酵素(例えばプロテイナーゼXXIII、デオキシリボヌクレアーゼ(DNase)、ノイラミニダーゼ、ポリサッカリダーゼ、Glucanex(登録商標)およびPectinex(登録商標))が挙げられる。使用可能な他の添加剤としては、それらに限らないが、2‐メルカプトエタノール(2‐Me)やジチオスレイトール(DTT)のような還元剤、およびマグネシウム、ピルビン酸塩、湿潤剤のような安定化剤が挙げられる。溶解溶液は、所望の細胞を溶解させるのに適した任意のpHで緩衝することができ、複数の因子に依存する。これらの因子としては、それらに限らないが、試料のタイプ、溶解すべき細胞および使用する洗浄剤が挙げられる。いくつかの実施形態では、pH範囲を約2〜約13とすることができ、例えば約6〜約13、例えば約8〜約13、例えば約10〜約13とすることができる。適切なpH緩衝液には所望の範囲、例えば約0.05M〜約1.0M CAPSのpHを維持することができる任意の緩衝液が含まれる。
【0049】
一実施形態では、試料および溶解溶液を混合し、次いで細胞膜の溶解および可溶化が生起するのに十分な時間、例えば約1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、40、50もしくは60秒間、または約2、3、4、5、6、7、8、9、10、15もしくは20分間またはそれ以上の時間、例えば約1秒〜約20分間、約1秒〜約5分間または約1秒〜約2分間温置(incubate)する。温置時間は溶解溶液の強度、例えば洗浄剤および/または酵素の濃度に依存する。一般に、弱い溶解緩衝液ほど非微生物細胞を完全に可溶化するのに多くの時間を要し、試料のより高い希釈が必要となる。溶解溶液の強度は、試料中に存在することが既知であるまたは試料中に存在することが疑われる微生物に基づいて選択することができる。溶解の影響を受けやすい微生物ほど弱い溶解溶液を使用することができる。溶解は約2℃〜約45℃の温度、例えば約15℃〜約40℃、例えば約30℃〜約40℃の温度で生起させることができる。一実施形態では、溶解溶液を注射器に充填し、その後注射器に試料を吸引することができる。これにより混合および温置を注射器内で生起させる。一実施形態では、溶解溶液を注射器に充填し、その後注射器に試料を吸引することができる。これにより混合および温置を注射器内で生起させる。
【0050】
いくつかの実施形態では、試料中の微生物の一部または全部を殺すのに十分な溶解条件(例えば溶液または温置時間)ならびに分離および/または解析ステップとすることができる。本発明の方法は汎用性が高く、また単離および同定を行う上で必ずしもすべての微生物が生存している必要はない。いくつかの実施形態では、本方法の各ステップの実行前、実行中および/または実行後に微生物の一部または全部が死んでいてもよい。
【0051】
[分離ステップ]
本発明の方法の次のステップ(例えば溶解ステップを実行する場合は試料を溶解させた後のステップ)は分離ステップである。分離ステップを実行することにより、試料の他の構成成分(例えば非微生物またはそれらの構成成分)から微生物を分離し、同定およびキャラクタリゼーションのために解析可能なペレットに微生物を濃縮することができる。分離は必ずしも完全なものである必要はない。すなわち、必ずしも100%の分離を行う必要はない。ここで必要なことは、他の構成成分による実質的な干渉がない微生物の解析が可能となる程度まで、試料の他の構成成分から微生物を分離することである。例えば、分離によって少なくとも約10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、96、97、98もしくは99%またはそれ以上の純度の微生物ペレットを得ることができる。
【0052】
一実施形態では、この分離を遠心分離ステップによって実行する。遠心分離ステップでは、試料(例えば溶解試料)を分離容器内の密度クッションの頂部に配置し、この容器を微生物の単離が可能となる条件下で遠心分離にかける(例えば微生物は容器の底部および/または側面にペレットを形成する可能性がある)。本実施形態によれば、試料の他の構成成分(例えば試料培地中に存在し得る非微生物またはそれらの構成成分)は密度クッションの頂部上または密度クッションの頂部内に留まる。一般には、任意の既知の容器を分離ステップに使用することができる。一実施形態では、分離容器を2009年10月30日に出願した関連米国特許出願第xxxxx号「Separation Device for Use in the Separation, Characterization and/or Identification of Microorganisms」に開示されている分離装置とする。この分離ステップは試料中の材料、例えば培地、細胞残屑および/または微生物の解析に(例えば固有蛍光によって)干渉する可能性がある他の構成成分から微生物を単離する。一実施形態では、密度クッションは生きている微生物を死んだ微生物(密度クッションを通過しない微生物)から分離する働きもする。別の実施形態では、密度クッションは遠心分離前または遠心分離後に密度勾配を有さない。換言すれば、密度クッションを構成する材料が密度勾配を形成するに足る量の時間および/または加速度に至るまで分離容器を遠心分離にかけることはしない。
【0053】
クッションの密度は、試料中の微生物はクッションを通過するが、試料の他の構成成分(例えば血液培養ブロス、細胞残屑)はクッションの頂部に残るまたは密度クッションを完全には通過しないような密度を選択する。密度クッションは、生きている微生物(クッションを通過する微生物)を死んだ微生物(クッションを通過しない微生物)から分離するように選択することもできる。適切な密度は密度クッションで使用する材料および分離すべき試料に依存する。一実施形態では、クッションの密度を約1.025〜約1.120g/mlの範囲とし、例えば約1.030〜約1.070g/ml、約1.040〜約1.060g/mlまたは約1.025〜約1.120g/mlの任意の範囲とする。他の実施形態では、クッションの密度を約1.025、1.030、1.035、1.040、1.045、1.050、1.055、1.060、1.065、1.070、1.075、1.080、1.085、1.090、1.095、1.100、1.105、1.110、1.115または1.120g/mlとする。
【0054】
密度クッション用の材料は、本発明の方法に適した密度範囲を有する任意の材料とすることができる。一実施形態において、材料はコロイドシリカである。コロイドシリカは非被覆とすることも(例えばLudox(登録商標)(W.R.Grace社(コネティカット州))、例えばシランで被覆することも(例えばPureSperm(登録商標)(Nidacon Int’l社(スウェーデン))またはIsolate(登録商標)(Irvine Scientific社(カリフォルニア州サンタアナ)等)、ポリビニルピロリドンで被覆することもできる(例えばPercoll(商標)またはPercoll(商標)Plus(Sigma‐Aldrich社(ミズーリ州セントルイス))。一実施形態では、分光解析で最小干渉を示したコロイドシリカ、例えば最も低い固有蛍光を有する材料を選択する。このコロイドシリカを適切な密度を形成するのに適した任意の培地、例えば平衡塩類溶液、生理的食塩水および/または0.25Mスクロースで希釈することができる。適切な密度は約15〜約80v/v%の濃度、例えば約20〜約65v/v%の濃度のコロイドシリカで得ることができる。密度クッションに適した別の材料はヨウ化造影剤、例えばイオヘキソール(Omnipaque(商標)NycoPrep(商標)またはNycodenz(登録商標))およびイオジキサノール(Visipaque(商標)またはOptiPrep(商標))である。適切な密度は、血液培養試料の場合は約10〜約25w/v%の濃度、例えば約14〜約18w/v%の濃度のイオヘキソールまたはイオジキサノールで得ることができる。スクロースは、血液培養物試料の場合は約10〜約30w/v%の濃度、例えば約15〜約20w/v%の密度クッションとして使用することができる。密度クッションの調製に使用可能な他の適切な密度クッションとしては低粘度且つ高密度の油、例えば当業界で周知のとおり、顕微鏡用液浸油(例えばCargille Labs社(ニューヨーク州)のType DF)、鉱油(例えばPenreco社(ペンシルバニア州)のDrakeol(登録商標)5、Draketex 50、Peneteck(登録商標))、シリコーン油(ポリジメチルシロキサン)、フルオロシリコーン油、シリコーンゲル、例えば血液培養試料の場合は約75〜約100%の濃度のメトリゾエート‐Ficoll(登録商標)(LymphoPrep(商標))、例えば血液培養試料の場合は約25〜約50%の濃度のジアトリゾエート‐デキストラン(PolymorphoPrep(商標))、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレンオキシド(高分子量)、Pluronic(登録商標)F127、Pluronic(登録商標)F68、Pluronic(登録商標)化合物の混合物、ポリアクリル酸、架橋したポリビニルアルコール、架橋したポリビニルピロリジン、PEGメチルエーテルメタクリレート、ペクチン、アガロース、キサンタン、ジェラン、Phytagel(登録商標)、ソルビトール、Ficoll(登録商標)(例えば血液培養試料の場合は約10〜約15%の濃度のFicoll(登録商標)400)、グリセロール、デキストラン(例えば血液培養試料の場合は約10〜約15%の濃度)、グリコーゲン、塩化セシウム(例えば血液培養試料の場合は約15〜約25%の濃度)、パーフルオロカーボン液(例えばパーフルオロ‐n‐オクタン)、ハイドロフルオロカーボン液(例えばVertrel XF)等が挙げられる。一実施形態において、密度クッションはコロイドシリカ、イオジキサノール、イオヘキソール、塩化セシウム、メトリゾエート‐Ficoll(登録商標)、ジアトリゾエート‐デキストラン、スクロース、Ficoll(登録商標)400および/またはデキストランの任意の組合せのうちの1つまたは複数から選択される。密度クッションは材料の組合せ、例えばコロイドシリカと油の組合せで構成することもできる。上記の化合物のいくつかの組合せ、例えば塩化セシウムやイオヘキソールのようなUV消光特性が異なる化合物の組合せは、本発明の分離および読み取りステップに有用である可能性がある。
【0055】
密度クッションの体積/高さは、他の試料構成成分からの微生物の分離を実現するのに十分なものとする必要がある。体積は分離容器のサイズおよび形状に依存する。一般には約0.1〜約5mlの体積を使用することができ、例えば約0.2〜約1ml、例えば約0.2ml〜約0.5mlの体積を使用することができる。分離をマイクロスケールで実行する場合は、密度クッションの体積を約1μl〜約100μl、例えば約5μl〜約50μlとすることができる。密度クッションの頂部に積み上がるまたは積層する試料の体積は、解析に適したペレットを生産するのに十分な微生物を得るに足る大きさにする必要がある。一般には容器に収まる任意の体積を使用することができる。例えば、約0.1ml〜約5mlの体積を使用することができ、例えば約0.2ml〜約1ml、例えば約0.2ml〜約0.5mlの体積を使用することができる。分離をマイクロスケールで実行する場合は、試料の体積を約1μl〜約100μl、例えば約5μl〜約50μlとすることができる。容器内の試料の利用可能なスペースは容器のサイズおよび形状に依存する。いくつかの実施形態では、密度クッションと試料の混合を防止するために、試料が積み上がる前または積層する前に密度クッションの頂部に中間層(液体または固体)を配置することができる。一実施形態では、中間層をポリエチレンビーズとすることができる。他の実施形態では、密度クッションと試料の間に小気泡を配置して混合を防止することができる。別の実施形態では、微生物が分離中に密度クッションを通過し、密度クッションと高密度材料の間の界面に集まるように高密度材料(例えばペルフルオロカーボン液)の頂部に密度クッションを積層することができる。
【0056】
本発明の一実施形態では、分離容器をスウィングアウトローターの遠心分離にかけ、微生物が容器の底部直上にペレットを形成するようにする。この容器を、試料の他の構成成分から微生物を分離するに足る(例えばペレットを形成するのに十分な)加速度および時間にわたって遠心分離にかける。遠心加速度は約1,000×g〜約20,000×gとすることができ、例えば約2,500×g〜約15,000×g、例えば約7,500×g〜約12,500×g等とすることができる。遠心時間は約30秒〜約30分とすることができ、例えば約1分〜約15分、例えば約1分〜約5分とすることができる。遠心分離は約2℃〜約45℃の温度で実行することができ、例えば約15℃〜約40℃、例えば約20℃〜約30℃の温度で実行することができる。一実施形態において、分離容器は閉鎖部を備え、この閉鎖部を遠心分離に先立って容器に取り付けることで気密シールを形成する。閉鎖部の存在により、感染性および/または有害性を有する恐れがある微生物を取り扱うリスクと共に試料の汚染リスクも低減する。本発明の方法の1つの利点は、微生物を封止容器(例えば密封容器)内に入れた状態で本方法の1つまたは複数の任意のステップ(例えば溶解、分離、解析および/または同定)を実行することができる点である。本方法は、直接試験で実施される試料からの微生物の回収のような毒性の高い微生物の取扱いに関連する健康および安全上のリスクを、自動化システムを利用して回避するものである。一実施形態では、密度クッションに密度勾配が生じるのに十分な時間にわたって且つ/またはそのような力をもって容器を遠心分離にかけることはしない。本発明は試料の超遠心分離、例えば約100,000×gを超える力の遠心分離を必要としない。更に、本発明は等密度(平衡)沈殿またはバンディングも必要としない。
【0057】
分離容器は密度クッションおよび試料を保持するのに十分な容積を有する任意の容器であってよい。なお、本発明を実施する際は、2009年10月30日に出願した関連米国特許出願第xxxxx号「Separation Device for Use in the Separation, Characterization and/or Identification of Microorganisms」に開示されている分離装置を使用することができる。一実施形態では、容器が遠心ローターに嵌合する、または容器をそのように嵌合させることができる。容器の容積は約0.1ml〜約25mlとすることができ、例えば約1ml〜約10ml、例えば約2ml〜約8mlとすることができる。分離をマイクロスケールで実行する場合は、容器の容積を約2μl〜約100μl、例えば約5μl〜約50μlとすることができる。一実施形態において、容器は試料および密度クッションの大部分を保持するために上部の内径が広くなっており、微生物のペレットを集める下部の内径は狭くなっている。狭い部分の内径は約0.04〜約0.12インチ(約0.1016〜0.3048cm)とすることができ、例えば約0.06〜約0.10インチ(約0.1524〜約0.2540cm)、例えば約0.08インチ(約0.2032cm)とすることができる。広い部分の内径は約0.32〜約0.40インチ(約0.8128〜約1.0160cm)とすることができ、例えば約0.34〜約0.38インチ(約0.8636〜約0.9652cm)、例えば約0.36インチ(約0.9144cm)とすることができる。マイクロスケール分離の場合は内径を更に小さくすることができる。例えば、狭い部分の内径を約0.001〜約0.04インチ(約0.00254〜約0.10160cm)とすることができ、例えば約0.002〜約0.01インチ(約0.00508〜約0.02540cm)とすることができる。テーパ内径部を上側および下側の各部分に接続することができる。テーパ部分の角度は約20〜約70度、例えば約30〜約60度とすることができる。一実施形態において、下側の狭い部分は容器の全高の半分未満、例えば容器の全高の約40%、30%、20%または10%未満とする。容器には閉鎖具を取り付けることができ、または閉鎖具(例えば蓋)を受け入れるように容器をねじ切りすることができ、それにより遠心分離中の容器の密封が可能となる。いくつかの実施形態では、微生物試料またはペレットを分離直後に手動でまたは自動的に(技術者が容器の内容物に曝されないような形で)容器から回収することまたは採取すなわち取り出すことができるように容器を設計する。例えば、容器はペレットを収容し容器の残部から分離できる取り外し可能部分または離脱部分を備えることができる。別の実施形態では、容器は分離後にペレットにアクセスするための手段、例えば注射器または他のサンプリング装置を挿入するための、またはペレットを取り出すための1つまたは複数のポートまたは浸透性表面を備える。一実施形態では、容器をチューブ、例えば遠心チューブとすることができる。別の実施形態では、容器をチップまたはカードとすることができる。一実施形態では、容器を独立容器、すなわち単一の試料を分離する装置とする。他の実施形態では、容器を2つ以上の分離容器を備え複数の試料を同時に分離することができる装置の一部とする。一実施形態において、この装置は2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、15、20、25、30、36、42、48、60、72、84、96またはそれ以上の分離容器を備える。
【0058】
容器は光学窓を備えることができ、この光学窓を通じて解析を行うことができる。光学窓は容器の底部、頂部および/または側面に配置することができる。この窓は光(例えば近赤外(NIR;700nm〜1400nm)、紫外(UV;190nm〜400nm)および/または可視(VIS;400nm〜700nm)光スペクトルの少なくとも一部分)を透過する任意の材料で構成することができる。適切な材料の例としては、それらに限らないが、アクリル、メタクリレート、石英、溶融シリカ、サファイヤおよび/または環状オレフィンコポリマー(COC)が挙げられる。一実施形態では、容器全体を光学窓材料で構成する。別の実施形態では、容器を2つ以上の別々の部分から作製(例えば成形)することができ、例えば、光学窓を光学UV‐VIS‐NIR透過構成要素で構成し、容器の残部を別の材料(例えばより低コストの標準的な成形プラスチック)で構成することができる。一実施形態において、光学窓は分光解析が可能となる十分な薄さとする。この薄さは窓材料に依存する。別の実施形態では、分光解析に対する干渉を低減するために光学窓を可能な限り薄くする。例えば、窓の厚さを約0.20インチ(約0.508cm)未満とすることができ、例えば約0.15インチ(約0.381cm)未満、約0.10インチ(約0.254cm)未満または0.05インチ(約0.127cm)未満とすることができる。
【0059】
他の実施形態では、分離を濾過ステップによって実行する。この場合は、微生物を保持する細孔径を有する選択性フィルタまたはフィルタセットを装着した装置内に試料(例えば溶解試料)を配置する。保持された微生物は、フィルタに適切な緩衝液をゆっくりと通すことにより洗浄することができる。その後、フィルタの表面を直接サンプリングすることにより、またはフィルタを適切な水性緩衝液で逆洗することにより、洗浄した微生物をフィルタ上で直接解析することおよび/または解析のために回収することができる。
【0060】
[解析ステップ]
微生物を分離、単離および/またはペレット化した後は、分離試料、単離試料またはペレットを解析して試料またはペレット中の微生物の同定および/またはキャラクタリゼーションを行うことができる。一実施形態では、解析を非侵襲的に実行する。すなわち、ペレットを分離容器に入れたまま解析を行う。別の実施形態において、解析中は分離容器を終始封止した状態に保つ。微生物を非侵襲的に同定する能力は、任意選択で、分離および同定/キャラクタリゼーションプロセスの全体にわたって容器の封止状態を保ち、手順の一部または全部を自動化する能力と相まって、汚染された且つ/または感染性の試料を絶えず取り扱う状況を回避し、プロセス全体の安全性を高めることになる。更に、試料またはペレットの更なる処理(例えば再懸濁、平板培養およびコロニーの培養)を伴わない直接解析による微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定能力は、同定/キャラクタリゼーションの可能な実行速度を大幅に向上させる。一実施形態では、試料またはペレットを解析に先立って回収および/または再懸濁し、任意選択で分離容器から取り出す。別の実施形態では、試料またはペレットをインサイチュ解析後に回収および/または再懸濁し、その後更なる解析を実行する。例えば、微生物ペレット以外の単離微生物に適用可能なラテックス凝集試験または自動化した表現型同定試験のような技法を回収および/または再懸濁した微生物に対して実行することができる。
【0061】
いくつかの実施形態では、単離試料またはペレットを分光解析することができる。一実施形態では、光学分光法を使用して微生物の1つまたは複数の内因的特性、例えば染色剤、色素、結合剤のような付加的な作用物質の不存在下で微生物内に存在する特性を分析することができる。他の実施形態では、光学分光法を使用して微生物の1つまたは複数の外因的特性、例えば付加的な作用物質を利用して検出可能な特性を分析することができる。解析は、例えば蛍光分光法、拡散反射分光法、赤外分光法、テラヘルツ分光法、透過吸収分光法、ラマン分光法を使用して実行することができる。ラマン分光法には表面増強ラマン分光法(SERS)、空間オフセットラマン分光法(SORS)、透過ラマン分光法および/または共鳴ラマン分光法が含まれる。ラマン(SERS)および蛍光シグナルを増強するために、微生物を遠心分離に先立って金および/または銀ナノ粒子で被覆することができ、且つ/または内部光学面を特定のサイズおよび形状の金属コロイドでプレコーティングすることができる(Lakowicz, Anal. Biochem. 337:171 (2005) for fluorescence; Efrima et al., J. Phys. Chem. B. (Letter) 102:5947 (1998) for SERS参照)。他の実施形態では、遠心分離に先立ってナノ粒子を密度クッション中に存在させ、微生物が密度クッションを通過するときに微生物と関連付けられるようにする。他の実施形態では、MALDI‐TOF質量分析、脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI)質量分析、GC質量分析、LC質量分析、エレクトロスプレーイオン化(ESI)質量分析、選択イオンフローチューブ(SIFT)分析等の質量分析技法を使用してペレット中の微生物を解析することができる。一実施形態では、単離試料またはペレットを分離容器に入れたまま解析する。容器は容器の光学窓を介して解析することができる。光学窓は容器の底部および/または任意の1つまたは複数の側面および/または頂部に配置することができる。一実施形態では、分離容器が分光計内の解析に適した位置にあるホルダーに嵌合する、または分離容器をそのように嵌合させることができる。分光解析は、微生物の1つまたは複数の内因的または外因的特性を検出および/または同定するのに効果的であることが当業者に知られる任意の技法によって実行することができる。例えば、ペレット中の微生物の同定に前面蛍光を使用することができる(励起発光が同じ光学面に出入りする場合、且つ試料が一般に光学的に厚い場合、励起光は非常に短い距離だけ試料に浸透する(例えば、Eisinger, J., and J. Flores, "Front-face fluorometry of liquid samples," Anal. Biochem. 94:15 (1983)参照。))。落射蛍光、反射率、吸光度および/または散乱測定のような他の形態の測定を本発明で使用することもできる。別の実施形態では、本明細書で説明するように単離試料またはペレットを解析のために取り出すことができる(例えば当業界で周知のとおり、単離試料またはペレットを取り出し、質量分析による解析準備を整えることができる)。また他の実施形態では、2つ以上の手段を使用して単離試料またはペレットの解析を行うことができる。例えば、蛍光分光法およびラマン分光法を使用して単離試料またはペレットの解析を行うことができる。本実施形態によれば、これらの解析ステップは順次実行しても同時に実行してもよい。
【0062】
試料照明源すなわち励起源は、当業者に知られる任意の数の適切な光源から選択することができる。電磁スペクトルのうち有用なデータをもたらす任意の部分を使用することができる。紫外、可視および/または近赤外スペクトルならびに電磁スペクトルの他の部分で発光可能な光源であって、当業者に既知の光源を利用することができる。例えば、光源は、紫外光を生成するための重水素もしくはキセノンアークランプおよび/または可視/近赤外励起を生成するためのタングステンハロゲンランプのような連続ランプであってよい。これらの光源は広範な発光範囲を提供し、また当業界で周知の光学干渉フィルタ、プリズムおよび/または光回折格子を使用して特定の励起波長のスペクトル帯域幅を減少させることができる。
【0063】
別法として、発光ダイオードおよび/またはレーザーのような複数の狭帯域光源を空間多重化および/または時間多重化して多波長励起源を提供することもできる。例えば、240nm〜900nm超の発光ダイオードが利用可能であり、ソースのスペクトル帯域幅は20〜40nm(半値全幅)である。紫外ないし近赤外の離散波長におけるレーザーが利用可能である。レーザーは当業者に周知の多重化方法を使用して利用することができる。
【0064】
任意の光源のスペクトル選択性を、走査モノクロメータのようなスペクトル弁別手段を使用することにより改善することができる。当業者に既知の他の弁別方法を利用することもでき、音響光学チューナブルフィルタ、液晶チューナブルフィルタ、光学干渉フィルタアレイ、プリズム分光器等、およびそれらの任意の組合せを利用することができる。スペクトル弁別器を選択する際は同調性範囲および選択性レベルを考慮に入れる。例示として、例えば弁別器は10nmの選択性を有する300〜800nmの波長範囲を利用することができる。これらのパラメータは一般に同調性範囲および選択性を達成するのに必要な最適技術を決定する。
【0065】
典型的には、光源によって試料を励起した後、試料の蛍光の放出を所定の時点でまたは連続的に測定する。同様に、励起源と試料の相互作用に由来する反射光を測定して検出および/またはキャラクタリゼーションに関連するデータを提供することができる。
【0066】
試料からの放出は任意の適切なスペクトル弁別手段により、最も好ましくは分光計を利用して測定することができる。分光計は、特定の発光波長を検出することによりモノクロメータからの出力を光電子増倍管によって検出する走査モノクロメータとすることができ、且つ/または分光計を撮像分光器として構成することにより、その出力を電荷結合素子(CCD)検出器アレイのような撮像検出器アレイによって検出することができる。一実施形態では、弁別器を用いることにより光検出手段(例えば光電子増倍管、アバランシェフォトダイオード、CCD検出器アレイおよび/または電子増倍電荷結合素子(EMCCD)検出器アレイ)による蛍光および/または散乱シグナルの観察が可能となる。
【0067】
分光技法を使用して、好ましくは励起発光マトリクス(EEM)測定値として提供される測定値を取得する。本明細書で使用するEEMは、励起と発光波長の両方の関数として蛍光物質の発光スペクトル発光強度と定義し、フルスペクトルまたはそのサブセットを含む。この場合のサブセットは単一または複数の励起/発光対を含む可能性がある。また、固定の励起波長を有するEEMの断面を使用して特定の励起波長の発光スペクトルを示し、固定の発光波長を有するEEMの断面を使用して試料の励起スペクトルを示すこともできる。一実施形態では、複数のEEMを2つ以上の特定の励起‐発光波長対、例えば少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上の特定の励起‐発光波長対で測定する。
【0068】
本発明の一実施形態によれば、前面蛍光分光法は散乱性および消光性が高い試料の蛍光および/または反射特性を測定する際に利点をもたらすことが分かった。一実施形態では、前面法が特に役立つ可能性がある。例えば、前面蛍光は特に吸光性の高い試料で役立つ可能性がある。というのも、励起および発光ビームは必ずしも試料の大部分を通過するわけではなく、したがって試料の内部に含まれる可能性がある干渉性の構成成分(例えば血球および微生物学的培養基)から受ける影響が小さい可能性がある。当業者に知られるように、容器の光学面は許容可能な結果がもたらされるような角度で照明することができる(例えば、Eisinger, J., and J. Flores, "Front-face fluorometry of liquid samples," Anal. Biochem. 94:15-21 (1983)参照)。一実施形態では、分光システムが拡散反射光を少なくとも1つの固定角度で測定するとともに、放出された蛍光を少なくとも1つの固定角度で測定するようにシステムを設計する。
【0069】
本発明によれば、対照測定値(control measurement)を既知の微生物と見なし、したがって測定したテストデータと該当する微生物のキャラクタリゼーションとの相関付けを当業者に既知の様々な数学的方法を使用して行うことが可能となる。例えば、当業者に既知のソフトウェアシステムを利用して試料からのデータとベースラインすなわち対照測定値とを比較することができる。より詳細には、データの分析をいくつかの多変量分析法、例えば一般判別分析(GDA)、部分最小二乗法判別分析(PLSDA)、部分最小二乗回帰、主成分分析(PCA)、平行因子分析(PARAFAC)、ニューラルネットワーク分析(NNA)および/またはサポートベクターマシン(SVM)によって行うことができる。これらの方法を使用することにより、先述したような有機体のモニタリング、検出および/またはキャラクタリゼーションを行うシステムを設計する際に、該当する未知の微生物を有機体の代謝、病原性および/または毒性に基づいて既存の命名法に基づく関連群および/または天然群に分類することができる。
【0070】
また別の実施形態では、検出システムからの検出時間や培養率のような非分光測定値を、単離試料またはペレットに由来する微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定に役立てることができる。更に、分離装置の下部領域の写真像から得られる測定値は、ペレットサイズ、形状、色、密度といった分離株(isolate)の同一性に関する有益な情報をもたらすことができる。
【0071】
本発明のいくつかの実施形態では、単離試料またはペレット中の微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定において必ずしも正確な種の同定を行う必要はない。キャラクタリゼーションは、生物学的粒子の広範なカテゴリ分けまたは分類だけでなく単一の種の実際の同定も包含する。単離試料またはペレットに由来する微生物の分類は、微生物の表現型および/または形態学的特徴の決定を含む可能性がある。例えば、生物学的粒子のキャラクタリゼーションは組成、形状、サイズ、クラスタリングおよび/または代謝のような観察可能な差異に基づいて達成することができる。いくつかの実施形態では、該当する生物学的粒子の分類を行うにあたって所与の生物学的粒子の特徴に関する予備知識の必要をなくすことができるが、経験的測定値との一貫性のある相関付けが必要となる。このため、本方法は特定の結合事象または代謝反応に基づく方法よりも汎用性が高くなり、容易に適合可能となる。本明細書で使用する「同定」とは、未知の微生物がどの科、属、種および/または株に属するのか判定すること、例えば未知の微生物を科、属、種および/または株レベルで同定することを意味する。
【0072】
いくつかの例において、キャラクタリゼーションはアクションを起こすのに十分有用な情報をもたらす分類モデルを包含する。本明細書で使用する好ましい分類モデルは、(1)グラム群、(2)臨床グラム群、(3)治療群、(4)機能群、および(5)天然固有蛍光群のうちの1つまたは複数の群への分類を含む。
【0073】
(1)グラム群:このグラム群分類では、各微生物をそれぞれのグラム染色反応および全体のサイズに基づいて3種類の広範な分類カテゴリのうちの1つに含めることができる。前記群は下記のうちの1つまたは複数から選択される。(a)グラム染色で紺青色に染色するグラム陽性微生物、(b)グラム染色で赤に染色するグラム陰性微生物および(c)グラム染色で紺青色に染色するイースト細胞(ただし、形態学的特徴およびサイズによってバクテリアと区別される非常に大きい円形の細胞)。
【0074】
(2)臨床グラム群:このグラム群は形態学的特徴によって区別されるいくつかのサブカテゴリに更に分割することができる。これらのサブカテゴリは熟練した研究室技術者から報告された臨床的に意義のある情報をすべて含むため、陽性または陰性グラム反応よりも高いレベルの同定を実現する。この特定の分類は下記の理由で非常に有用である。すなわち、グラム染色の品質および/またはスミアを読み取る技術者の技術レベルに左右される懸念が、臨床的に意義のある等価な情報に自動化システムを導入することによって解消されるからである。より詳細には、この分類モデルに基づく微生物のサブカテゴリは下記のうちの1つまたは複数から選択することができる:(a)球菌(小さい円形細胞)、(b)双球菌(互いに結合した2つの小さい円形細胞)、(c)矩形の桿菌(rods)および(d)桿状の桿状菌(bacilli)。付加的な形態学的情報によって確認可能なサブカテゴリの例としては下記が挙げられる:(i)グラム陽性球菌、(ii)鎖状のグラム陽性球菌、(iii)房状(すなわち「ブドウのような」房状)のグラム陽性球菌、(iv)グラム陽性双球菌、(v)グラム陽性桿菌、(vi)内生胞子を含むグラム陽性桿菌、(vii)グラム陰性桿菌、(viii)グラム陰性球桿菌、(ix)グラム陰性双球菌、(x)イーストおよび(xi)糸状の菌類。
【0075】
(3)治療群:治療群は、特定の標本タイプから単離したときに同じクラスの抗生物質または抗生物質の混合物(例えば「Sanford Guide to Antimicrobial Therapy 2008」参照)で処置される複数の微生物種を含む。多くの場合、臨床医が初期の経験的治療を標的療法に近付ける上で種レベルまでの同定は必要ない。というのも、2つ以上の種を1つ(または複数)の同じ抗生物質で処置することができるからである。この分類レベルはこれらの「同じ処置の」微生物を単一の治療カテゴリに適宜含める。このキャラクタリゼーションレベルの例としては、高度耐性腸内細菌(EB)種と感受性EB種(Enterobacter spp.(エンテロバクター種)とE.coli(エシェリキアコリ))を区別する能力や、フルコナゾール耐性カンジダ種(C.glabrata(カンジダグラブラータ)およびC.kruzei(カンジダクルセイ))と感受性カンジダ種(C.albicans(カンジダアルビカンス)およびC.parapsilosis(カンジダパラプシロシス))を区別する能力等が挙げられる。
【0076】
(4)機能群:本発明によれば、代謝、毒性および/または表現型特徴の組合せに基づくいくつかの群に微生物を含めることもできる。非発酵性の有機体を発酵性の有機体と明確に区別することができる。更に、溶血素を生産する微生物種を非溶血性種と別々に分類することができる。場合によっては、これらの群は属レベル(例えば腸球菌属、カンジダ属)と、より種に近いレベル(例えばコアグラーゼ陰性ブドウ球菌、α溶連菌、β溶連菌、コアグラーゼ陽性ブドウ球菌すなわちS.aureus(スタフィロコッカスアウレウス))とを区別して属レベル(例えば大腸菌、グラム陰性の非発酵性桿菌)よりも広範なカテゴリとなる。
【0077】
(5)天然固有蛍光(Intrinsic Fluorescence(「IF」))群:微生物の群れを成す自然な傾向に基づき、微生物を生得的特徴および/または固有蛍光特徴によりカテゴリ分けすることもできる。これらの群のいくつかは治療群および機能群のカテゴリに共通とすることができる。これらの分類は、特徴的なIFシグネチャ(IF signature)を有するE.faecalis(エンテロコッカスフェカリス)、S.pyogenes(ストレプトコッカスピオゲネス)、P.aeruginosa(シュードモナスエルジノーサ)のような個々の種を含むことができ、且つ/またはK.pneumoniae‐K.oxytoca(クレブシエラニューモニエ‐クレブシエラオキシトカ)やE.aerogenes‐E.cloacae(エンテロバクターエロゲネス‐エンテロバクタークロアカ)群のような比較的保存されたIFシグネチャを有する有機体の小群を含むことができる。
【0078】
同定を目的とする微生物の固有特性(固有蛍光等)の測定に加えて、本発明の方法は更に、分離および/または同定プロセスに役立つ付加的な同定作用物質(identifier agent)の使用を含むことができる。親和性配位子のような特定の微生物と結合する作用物質を使用することにより、微生物の分離、微生物のクラスまたは種の同定(例えばユニークな表面タンパク質または受容体との結合を利用)、および/または微生物の特徴(例えば抗生抵抗)の同定を行うことができる。有用な同定作用物質としては、それらに限らないが、単クローンおよび多クローン抗体ならびにそれらの断片(例えばS.aureus同定のためのanti‐Eap)、核酸プローブ、抗生物質(例えばペニシリン、バンコマイシン、ポリミキシンB)、アプタマー、ペプチド模倣体、ファージ由来の結合タンパク質、レクチン、宿主先天性免疫バイオマーカー(急性期タンパク質、LPS結合タンパク質、CD 14、マンノース結合レクチン、トール様受容体)、宿主防御ペプチド(例えばデフェンシン、カテリシジン、プロテオグリン(proteogrin)、マガイニン)、バクテロシン(bacterocin)(例えばランチビオティクス(例えばナイシン、メルサシジン、エピデルミン、ガリデルミンおよびプランタリシンCおよびクラスIIペプチド)、バクテリオファージおよび核酸、脂質、炭水化物、多糖類、カプセル/粘液(slime)もしくはタンパク質またはそれらの任意の組合せに対して選択的な色素が挙げられる。作用物質自体が検出可能なシグナルを示さない場合は、作用物質をマーカーと共役させる(例えば可視状態にするまたは蛍光性をもたせる)こと等により、作用物質を標識して検出可能なシグナルが提供されるようにすることができる。マーカーとしては、それらに限らないが、蛍光性化合物、発光性化合物、燐光性化合物、放射性化合物および/または比色化合物が挙げられる。作用物質は、本発明の方法の任意のステップ、例えば試料を溶解中および/または分離中に採取するときに微生物に添加することができる。いくつかの実施形態では、ペレット中の作用物質の存在をペレットの解析中に判定することができる。他の有用な同定作用物質としては、微生物酵素の基質、キレート剤、感光剤、消光剤、還元剤、酸化剤、緩衝液、酸、基剤、溶媒、固定剤、洗浄剤、界面活性剤、消毒薬(例えばアルコール、漂白剤、過酸化水素)、毒性化合物(例えばアジ化ナトリウム、シアン化カリウム)、シクロヘキサミドのような代謝阻害剤等が挙げられる。同様に、微生物細胞生存度、代謝および/または膜電位の測定のための多くの蛍光性化合物を本発明の同定作用物質として使用することができる。当業者には容易に理解されるように、それ自体の物理的状態または代謝に影響を及ぼす抗生物質のような任意の化合物に対する特定の微生物の感受性は、その化合物を試料、溶解緩衝液、密度クッションまたはそれらの任意の混合物に加えることにより迅速に確認することができる。
【0079】
本発明の一態様において、本方法は更に微生物ペレットを回収し付加的な試験を実行するステップを含むことができる。一実施形態では、ペレットを試料培地および密度クッションから吸い出すことによって回収することができる。別の実施形態では、注射器を容器に挿入し、試料培地および密度クッションをそのままの状態に保持したままペレットを吸い出すことにより、ペレットを回収することができる。その後、回収したペレットを適切な培地、例えば食塩水中に再懸濁させることができる。再懸濁の際は、微生物を更に当業者に知られる上述の所望の試験にかけることができる。特に、清浄な微生物試料を必要とする任意の試験を再懸濁させた微生物に対して実行することができる。いくつかの実施形態では、付加的な同定試験を実行することができる。同定試験の例としては、Vitek(登録商標)2、増殖および非増殖核酸試験(nucleic acid test:NAT)、色素産生およびラテックス接着アッセイ、イムノアッセイ(例えば標識した抗体および/または他のリガンドを利用)、質量分析(例えばMALDI‐TOF質量分析)および/または赤外分光法(FTIR)やラマン分光法のような他の光学的技法が挙げられる。抗生物質および/または他の薬剤に対する耐性のような付加的なキャラクタリゼーション試験も実行することができる。付加的なキャラクタリゼーションは、本方法の最初の分離および同定ステップ中に開始した試験の一部とすることもできる。例えばメチシリン耐性S.aureusの検出では、まず、微生物の分離に先立って蛍光標識したペニシリンを試料に加えることができる。ペレットを回収し再懸濁させると、結合したペニシリンのレベルを判定することができる。
【0080】
本発明の一態様では、方法ステップの一部または全部を自動化することができる。方法ステップを自動化することによってより多くの試料をより能率的に試験することが可能となり、有害性および/または感染性のある微生物を含む恐れがある試料を取り扱う際の人為的ミスのリスクを低減することができる。しかしながら、自動化のより重要な点は、昼夜を問わず任意の時間に遅滞なく重要な結果を示すことができることである。いくつかの研究結果から、敗血症の原因となる有機体の同定を迅速化することが患者ケアの改善、病院滞在期間の短縮および全体的なコストの削減につながることが証明されている。
【0081】
本発明の特定の実施形態では、本方法を使用して試料中の微生物の存在を検出することもできる。これらの実施形態において、本方法は
(a)試料を採取するステップと、
(b)任意選択で前記試料中に細胞を溶解させて溶解試料を生産するステップと、
(c)前記試料の他の構成成分から微生物を分離して微生物ペレットを形成するステップとを含む。
ペレットの存在は微生物が前記試料中に存在することを示す。一実施形態では、ペレットを肉眼で検出する。他の実施態様では、ペレットを解析により、例えば分光器を利用して検出する。
【0082】
いくつかの実施形態では、これらの検出方法を使用して試料、例えば食品、医薬品、飲料水等の微生物による汚染の有無をモニタリングすることができる。一実施形態において、本方法は汚染の有無を絶えずモニタリングするために反復的に実行することができ、例えば1か月に一度、1週間に一度、1日に一度、1時間に一度または他の任意の時間パターンで実行することができる。別の実施形態では、試料を必要に応じて、例えば汚染が疑われるときに試験することができる。更なる実施形態では、これらの検出方法を使用して臨床試料、例えば血液培養物中の微生物の有無を調べることができる。例えば、特定の時点で血液培養物から試料を取り出し、その試料に対して検出方法を実行することにより血液培養物が陽性であるかどうかを判定することができる。一実施形態では、培養物の接種後のある設定時点、例えば接種の24時間後に試料を採取して血液培養物が陽性であるかどうかを判定することができる。他の実施形態では、血液培養物から試料を定期的に、例えば12、6、4もしくは2時間毎、または60、50、40、30、20、15、10もしくは5分毎に採取して陽性検出可能な陽性血液培養物を短い時間で同定することができる。検出方法のいくつかの実施形態では、本明細書に記載するように、任意選択で検出ステップ後に同定方法を実行することができる。他の実施形態、特に試料の反復的なモニタリングを含む実施形態では、検出方法を部分的にまたは完全に自動化する。
【0083】
下記の実施例では本発明について更に詳細に説明するが、下記の実施例は例示的なものであり本発明を決して限定するものではない。利用した技法は当業者に周知の標準的な技法または後で具体的に説明する技法である。
【実施例】
【0084】
[実施例1]
迅速な微生物分離および同定方法
A.溶解‐遠心分離手順
【0085】
複数の円錐状のマイクロ遠心チューブにコロイドシリカの懸濁液(0.2〜0.5mL;密度1.040〜1.050gm/mL)を加えた。溶解させた陽性BacT/ALERT(登録商標)血液培養ブロス試料(0.5〜1.0mL)をコロイドシリカ懸濁液上にオーバーレイした。別法として、針またはカニューレを使用して、溶解させた血液培養ブロスの下方にコロイドシリカ溶液を加えることもできる。
【0086】
下記の微生物を含む培養物に由来する陽性ブロスを試験した:
・E.coli(ATCC 25922)
・E.faecalis(ATCC 29212)
・S.aureus(ATCC 12600)
・P.aeruginosa(ATCC 10145)
【0087】
チューブを閉蓋した後、それらのチューブをマイクロ遠心分離機に入れて室温(20〜25℃)で2分間、約10,000gで回転させた。上澄みを吸引した後、浄化微生物ペレットを0.45w/v%のNaCl中に入れ、660nmの光学的密度が0.40になるまで再懸濁させた。
【0088】
各懸濁液の一部分をアクリルキュベットに移し、分光蛍光計(Fluorolog(登録商標)3(HORIBA Jobin Yvon社(ニュージャージー州))で走査して微生物固有蛍光(microbial intrinsic fluorescence:MIF)を測定した。
【0089】
第2の部分をVitek(登録商標)2 ID/ASTカード(バイオメリュー社(ミズーリ州))に充填した。Vitek(登録商標)2の「直接的な」結果を、陽性ブロスから継代培養し一晩培養したコロニーの懸濁液から得られた結果(従来の方法)と比較した。血液からの直接培養(direct-from-blood culture)および標準的なVitek(登録商標)方法の両方において、4つのすべての種から優れた同定信頼レベルが得られた。このことから、密度ベースの分離方法により血液および/またはブロス由来の粒子およびタンパク質を実質的に含まない微生物が得られることが実証された。
【0090】
B.固有蛍光によるインサイチュ同定のための迅速な手順
陽性血液培養瓶を陽性反応が出てから1時間以内、好ましくは陽性反応が出てから10分以内にBacT/ALERT(登録商標)Microbial Detection System(バイオメリュー社(ミズーリ州))から取り出した。陽性血液培養ブロスの2.0mLの試料を無菌のねじ蓋付きチューブ内で0.5mLの溶解溶液(0.75%のTriton(登録商標)X‐100(還元型)(Rohm and Haas社(ペンシルバニア州))+0.375%のプロテアーゼXXIII)に加えた。このチューブを短い時間渦動させ、室温で5分間温置した。溶解させたブロス試料(0.5mL)を1.045mg/mlの密度の分離溶液(0.15MのNaCl中30v/v%のIsolate(登録商標)コロイドシリカ)を含む特注のマイクロ遠心チューブ(厚さ0.5mmの石英光学窓を基部に有する)に加えた。このチューブをA‐8‐11スウィングアウトローター(Eppendorf社(ニューヨーク州))を装着したEppendorf(登録商標)5417Rマイクロ遠心分離機に入れて室温(20〜25℃)で2分間、約10,000rpmで回転させた。このチューブを遠心分離機から取り出し、Fluorolog(登録商標)3(HORIBA Jobin Yvon社(ニュージャージー州))分光蛍光計用の特注の前面アダプタに移した。その直後に、チューブ底部のペレット化微生物の蛍光を下から読み取った。データを多変量解析のためにExcel(登録商標)およびStatistica(登録商標)ソフトウェアにエクスポートした。
【0091】
[実施例2]
迅速な微生物浄化および同定方法の評価
【0092】
実施例1に記載した迅速同定概念の可能性を評価するために、本方法では陽性血液培養物から回収した24種類の分離株(C.albicans、E.coli、S.aureusおよびS.epidermidis(スタフィロコッカスエピデルミディス)を含む4種の6株)を試験した。
【0093】
SPS抗凝固処理血液を3つのドナーから収集しプールした。10mLの新鮮なヒト血液をBacT/ALERT(登録商標)(BTA)SA血液培養瓶(バイオメリュー社(ミズーリ州))に加えた。各分離株の懸濁液をトリプティックソイブロス(TSB)中で調製した。各瓶に0.4mlの103/mL懸濁液を接種し、それらの瓶をBTAキャビネットに入れて36℃で温置した。10mlの血液を含むが有機体を含まない4つのBacT/ALERT(登録商標)SA瓶を陰性対照として含めた。
【0094】
陽性瓶は陽性反応が出てから3時間以内にBTAキャビネットから取り出した。陰性対照瓶は各組の陽性瓶と共に(種単位で)取り出した。瓶は陽性になった順に1つずつBTAキャビネットから取り出した。陽性血液培養ブロスの2.0mL分の試料を3mL注射器および18G針を使用して取り出した直後に、無菌のねじ蓋付きガラスチューブ内で0.5mLの溶解緩衝液に加えた(0.75w/v%のTriton(登録商標)X‐100(還元型)(Fluka社))。このチューブを短い時間渦動させ、室温で5分間温置した。0.5mL部の溶解させたブロス試料を、55μlの分離溶液(0.15MのNaCl中30v/v%のIsolate(登録商標))を事前に充填した特注の毛管状マイクロ遠心チューブ(毛管断面の基部に0.5mmの石英光学窓を含む)に追加した。このマイクロ遠心チューブをA‐8‐11スウィングアウトローター(Eppendorf社(ニューヨーク州))を装着したEppendorf(登録商標)5417Rマイクロ遠心分離機に入れ、22℃で2分間、10,000rpmの遠心分離にかけた。このチューブを遠心分離機から取り出し、Fluorolog(登録商標)3(HORIBA Jobin Yvon社(ニュージャージー州))分光光度計用の特注の30度前面アダプタに移した。その直後に、5分間の特注プログラムを使用してチューブ底部のペレット化した浄化微生物の蛍光を読み取った。データを分離株の計量化学分析および分類のためにExcelおよびStatisticaにエクスポートした。
【0095】
正規化を用いたデータおよび正規化を用いないデータに対し、分類モデルの最適化をLeave‐one‐out交差検定法によって実行した。結果を表1に示す。表中、「ステップ数」は「Leave‐one‐out」交差検定法を使用して感受性が最も高くなった判別分析ステップの数を指す。データの正規化を行わない場合は、正しく同定された株の割合は82.6%であった。データをレイリー散乱点、コラーゲン領域またはピリドキサミンピークに正規化したときに最良の結果(約96%の正しい同定)が得られたが、NADH、トリプトファンおよびフラビンピークに正規化することによっても改善した結果が得られた。
【0096】
【表1】
【0097】
[実施例3]
溶解緩衝液の評価
【0098】
実験により、強溶解緩衝液および弱溶解緩衝液で処理した新鮮な陽性S.pneumoniae WM‐43血液培養ブロスの分離効率および微生物固有蛍光(MIF)プロファイルを評価した。下記の溶解緩衝液製剤を試験した:(A)0.5M CAPS中2.0%のTX100‐R、pH 11.7(強=LB‐A)、(B)0.5M CAPS中0.75%のTX100‐R、pH 11.7(弱=LB‐B)および(C)0.3M CAPS中0.45%のTX100‐R(pH 11.7(弱=LB‐C)。1.0mLの溶解緩衝液AおよびBおよび2.0mlの溶解緩衝液Cをそれぞれねじ蓋付きチューブ内に入れ、各チューブをラック内の37℃の水浴に入れた。ブロスの試料(4.0mL)は、BTAシステム内で陽性反応が出てから5分以内に、5mL注射器および18G針を使用してS.pneumoniae WM43陽性BacT/ALERT(登録商標)SA培養瓶から取り出した。ブロスを溶解緩衝液を含む各チューブに素早く分注し、各チューブを閉蓋し、約5秒間渦動させた。溶解および分離ステップの有効性を判定するために、過充填した(15mL血液)陰性対照BacT/ALERT(登録商標)SA瓶の試験ブロスもサンプリングした。各チューブを37℃の水浴に1分間戻した。各チューブを水浴から取り出し、200μlの14w/v%イオヘキソール密度クッションを含む事前充填した分離チューブ内に0.5mLの溶解物をオーバーレイした。各チューブをA‐8‐11スウィングアウトローター(Eppendorf社(ニューヨーク州))を装着したEppendorf(登録商標)5417Rマイクロ遠心分離機に入れて25℃で2分間、10,000rpm(約10,000×g)の遠心分離にかけた。LB‐Bを使用した分離チューブの下部領域の写真を図1に示す。なお、過充填した(15mL血液)陰性対照ブロスを処理する時点でペレットは存在しなかった。遠心分離の完了直後に、Fluorolog(登録商標)3(HORIBA Jobin Yvon社(ニュージャージー州))分光蛍光計においてデュアル30度チューブアダプタ、PMT検出器および「フルEEM」走査ファイル(20.8分走査)を使用して各チューブの読み取りを行った。個々の試料に由来するEEMスペクトルの例を図2A〜図2Cに示す。
【0099】
図2A〜図2Cに示したS.pneumoniaeペレットの固有蛍光EEMプロファイルは細胞生存度結果との相関が高くなっている。陽性ブロスを0.40%のTX100(最終濃度)を含む溶解緩衝液(LB‐A;強緩衝液)で処理した結果、3つのすべてのペレットのトリプトファンシグナルが類似するにも関わらず、いずれも0.15%のTX100(最終濃度)を含むより弱い緩衝液で処理した場合と比較して、肺炎球菌生存度が1/30に低下し、ピークNADH蛍光が1/5に低下した。微生物生存度の低下に関連する別の変化はピークフラビン蛍光(表2)の増加であった。NADHの低下およびフラビン蛍光の上昇は図2Aを見れば明らかである。
【0100】
【表2】
【0101】
[実施例4]
浄化微生物ペレットのインサイチュ同定を行う改良型装置および方法
【0102】
実施例2に記載した迅速インサイチュ分離および同定方法の可能性を更に模索するために、いくつかの専用装置を設計しUV透過プラスチックから成形した。これらの装置は、2009年10月30日に出願した関連米国特許出願第xxxxx号「Separation Device for Use in the Separation, Characterization and/or Identification of Microorganisms」に開示されている。この米国特許出願の開示内容を本明細書に援用する。これらの装置は一般的な特徴、すなわち閉鎖部と、試料リザーバと、沈殿微生物ペレットの下方および/または側面からの分光解析を可能にするテーパ光学品質下部領域とを含み、また装置と分光蛍光計との結合を容易にする特徴も含む。また、これらの装置は分離ステップ中の比較的高い重力に耐えることができなければならない。このチューブをいくつか反復配置し、微生物回収率および蛍光再現性が改善され且つ迷散乱光による汚染が低減されるように設計した。また、このチューブは密封されるように設計した。
【0103】
沈殿微生物ペレットの光学解析は、分離装置を分光蛍光計の試料隔室内に配置した特注のアダプタに挿入することにより、または分光蛍光計(Fluorolog(登録商標)3(HORIBA Jobin Yvon社(ニュージャージー州))に取り付けた二股の6アラウンド1型300〜400ミクロン光ファイバーケーブル(Ocean Optics社(フロリダ州))に分離装置を直接連結することにより実行した。両方のシステム検出器(PMTおよびCCD)を使用することができるように3ミラー光ファイバアダプタを作製した。フル励起発光マトリクス(EEM)スペクトルを各微生物ペレット上に集めた(走査範囲:励起260〜800nm;発光260〜1100nm;5nm増分)。
【0104】
浄化したトリプトファンおよびリボフラビン溶液を使用して、ディスポーザブル装置‐光ファイバーケーブル構成に関するゲージ再現性および信頼性評価を実施した。両方のフルオロフォアで目標CVの2.5%超が得られた。これによりディスポーザブルおよび研究プラットフォームの品質が確認された。
【0105】
[実施例5]
微生物ペレットの測定値および微生物懸濁液との比較を使用した微生物の同定
【0106】
これまでに複数の研究者が微生物の希釈懸濁液の直角蛍光測定を使用した微生物の同定について説明している。本発明者らは、この従来の方法の効果と、本発明者らの専用のUV透過分離装置または光学チューブの基部内の沈殿微生物ペレットの前面測定による新規な手法の効果とを比較した。更に、本発明者らは前面測定用の2つの検出器、すなわちダブルグレーティング分光計に連結した光電子増倍管(PMT)検出器およびシングルグレーティング分光計に連結した電荷結合素子(CCD)検出器の効果も比較した。これらの実験はツーピース分離装置設計および寒天プレート上で培養した微生物コロニーを使用して実施した。7種(S.aureus、S.epidermidis、E.coli、K.oxytoca、C.albicans、C.tropicalis(カンジダトロピカリス)およびE.faecalis)に相当する42株のパネルを下記の3つの各光学構成で試験した。
1. 660nmで0.40ODである各微生物の懸濁液を0.45%のNaCl中で調製し、UV透過キュベットに加え、PMT検出器(従来の方法)を使用して直角のフルEEMを収集した。
2. 特注の分離装置において懸濁液を遠心分離することにより2〜3mm厚の微生物ペレットを調製した。結果として得られたペレットのフルEEMを前面モードにおいてPMT検出器を使用して収集した。
3. 特注の分離装置において懸濁液を遠心分離することにより2〜3mm厚の微生物ペレットを調製した。結果として得られたペレットのフルEEMを前面モードにおいてCCD検出器を使用して収集した。
【0107】
EEMの固有蛍光データは市販の多変量解析ソフトウェア(一般判別分析;Statistica)を使用して分析した。分析結果を表3に示す。
【0108】
【表3】
【0109】
驚くべきことに、微生物ペレットの前面モードの走査は既知の多変量分析法を使用して微生物の同定能力を大幅に改善するものであった。蛍光EEMデータの更なる分析により、従来のキュベット内懸濁構成における主な判別領域がスペクトルのトリプトファン領域に含まれることが判明した。対照的に、微生物ペレットの前面測定により、EEMスペクトルのいくつかの付加的な領域が特に360〜440nmの励起波長範囲で強力な判別力を提示した。この実験はPMTおよびCCD検出器の機能的透過性も実証した。
【0110】
微生物ペレットの前面解析によって提供された付加的な固有蛍光スペクトル情報は想定外の有利な結果である。
【0111】
[実施例6]
選択性溶解緩衝液の開発
【0112】
本発明者らは、ヒト血液構成成分を数秒以内に溶かすが、大部分の敗血症原因微生物をそのままの状態に保ち代謝的に活発な状態にしておく選択性溶解緩衝液の設計に着手した。これらの研究で使用した最も一般的な試料はヒト血液を含むBacT/ALERT(登録商標)SA培養基である。10〜15mLのヒト血液を試験微生物の小さい接種材料と共に播種した瓶および該小接種原なしに播種した瓶をBacT/ALERT(登録商標)Microbial Detection Systemに装填した。陽性または陰性のままの瓶を取り出し、ブロスの試料を下記のように処理した。
【0113】
本発明で使用した最も初期の溶解溶液は緩衝せず(実施例1および2)、コロイドシリカ密度クッションと組み合わせて使用した。コロイドシリカの興味深い特性の1つは、この密度クッションの頂部に集まる不完全に可溶化した血球構成成分、およびクッションを通過しペレットを形成する完全な状態微生物を分離する能力を備えることである。より広範に適用できる密度クッションを探したが(実施例7参照)、その多くは上記の非微生物残屑の沈殿を防止することができず、したがって改良型の溶解緩衝液製剤が必要となった。本発明者らは非微生物残屑が酸ではなく水酸化カリウムによって急速に溶けると判断したため、いくつかのアルカリ性pH緩衝液を種々の洗浄剤の存在下で試験した。これらの研究中に、本発明者らはTriton X100‐R洗浄剤とpH 11.7のCAPS緩衝液との混合物により、無菌の血液培養ブロス試料に由来する血球構成成分の完全な可溶化が得られることを発見した。
【0114】
Triton X100‐R洗浄剤の濃縮効果の予備評価およびS.pneumoniae株WM‐43の生存度に関する高pH溶解条件を実施例3に記載した。微生物生存度を低下させる条件がNADH蛍光を大幅に低下させ、それに付随してフラビン蛍光を上昇させた(表2のLB‐A参照)。
【0115】
一連のアニオン性洗浄剤、中性洗浄剤および両性イオン洗浄剤を選択性溶解緩衝液に配合するためにスクリーニングした。アニオン性洗浄剤および両性イオン洗浄剤は血液タンパク質にとって変性作用が強すぎることが分かったため、本発明者らは表4に示したような非変性中性洗剤候補に焦点を絞った。試験時のアルカリ性pHで最も強力な血球溶解活性を有する洗浄剤は表中の1〜6番である。これらの洗浄剤は、660nmにおけるパーセント透過率の上昇で評価したところ陰性対照血液培養ブロス中の血球を20秒以内に完全に可溶化した。第2グループの洗浄剤(7〜10番)は血球のより緩慢且つ制御性の高い溶解を示し、30〜40秒で最大の可溶化を示した。第3グループ(11〜12番)は同等の洗浄剤濃度で完全な溶解を得るまでに8〜10分かかった。
【0116】
0.3M CAPS、pH11.7の基質緩衝液製剤中の異なる構造および溶解活性を有する洗浄剤を含む溶解緩衝液を調製した。洗浄剤濃度は表4に示したとおりである。洗浄剤およびアルカリ性pH条件に対して感受性があることが知られる臨床微生物株のストレプトコッカスニューモニエ株WM‐43を含む陽性血液培養ブロスを使用して、これらの溶解緩衝液を機能的に評価した。評価したパラメータは、微生物固有蛍光レベル(励起発光マトリクススペクトル)、分離効率、単離微生物ペレットの外観および密度クッション下方のペレットから回収した微生物のグラム染色特徴および生存度である。
【0117】
実施した手順は下記のとおりである。
【0118】
陽性ブロス2部と試験溶解緩衝液1部を混合し、これを37℃の水浴に1分間温置して血球を溶解させ、その後ツーピース光学分離チューブに分注した0.2mLの密度クッション(14w/v%のIohexol+1.93w/v%のNaCl+10mMのHEPES;pH7.4)上に0.5mLの溶解物を積層し、その後チューブをねじ蓋で密封した。チューブをA‐8‐11スウィングアウトローター(Eppendorf社(ニューヨーク州))を装着したEppendorf(登録商標)5417Rマイクロ遠心分離機に入れて2分間10,000rpmの遠心分離にかけた後、特注のアダプタ内に配置し、分光蛍光計(Fluorolog(登録商標)3(HORIBA Jobin Yvon社(ニュージャージー州))に連結された400ミクロン光ファイバプローブにチューブの基部を直接連結し、フルEEM走査(励起260〜850nm;発光260〜1100nm;5nm間隔)を実施した。走査後、上澄みを除去し、微生物ペレットを0.5mLのトリプティックソイブロス(TSB)中に再懸濁させた。懸濁液のスミアのグラム染色準備を整え、20マイクロリットルの1:100希釈液をヒツジ血液寒天プレート上で平板培養し、NG(成長無し)〜4+(最大成長)のスケールの生存度推定を行った。
【0119】
この実験結果から、上述の所望の溶解状況下では試験洗浄剤がそれぞれの溶解特性に対応する下記の3つのカテゴリに大きく分けられることが判明した。
1. 上記のS.pneumoniae分離株のグラム反応に幾分影響を与えた迅速溶解洗浄剤グループ(1〜6番)。このグループの最後の2つの洗浄剤(Genapol(登録商標)X‐080(Hoechst社(ドイツ、フランクフルト)およびポリドカノール)の影響は相対的に軽微であったが、最初の3つはグラム反応を完全に変化させ、生存度を低下させた。
2. 60秒の溶解時間内に血球を効果的に可溶化させたより弱い溶解洗浄剤グループ(7〜10番)。このグループはS.pneumoniae分離株のグラム反応または生存度を変化させなかった。
3. 同様にS.pneumoniae分離株のグラム反応または生存度を変化させなかったが、溶解活性がより緩慢な洗浄剤グループ(11〜12番)。
【0120】
【表4】
【0121】
S.pneumoniae細胞ペレット内に存在する固有フルオロフォアのレベルに対する試験洗浄剤の効果を表5に示す。実施例3に示した結果が教示するように、NADH蛍光に対するフラビンの比率はこの感受性微生物の健康の優れた指標となる。n‐オクチルグルコシドやCHAPS洗浄剤等で観察されるように、低い比率は微生物生存度の低下と関連付けられる。表5に示した4つのグループは、それぞれペレットから回収したS.pneumoniae細胞について観察されたグラム反応の変化と相関するカテゴリに分けられる(表4)。このデータは、洗浄剤7、8、9、10および12番がフラビン/NADH代用マーカーの生存度の大幅な改善を示すことを証明している。
【0122】
興味深いことに、これらの5つの洗浄剤はすべてポリオキシエチレンクラスである。驚くべきことに、血球を直ちに可溶化するより弱い4つの洗浄剤(7〜10番)は、生存度が変化しないことを示唆する最適な固有フルオロフォア濃度を有し、予想どおりのグラム反応を示し、これらの洗浄剤はすべて共通の化学的性質を共有する。各洗浄剤は、平均鎖長10(E)および平均炭化水素鎖長12〜18(C)のポリオキシエチレン親水性頭部基を有する。
【0123】
本発明者らは、この特定の洗浄剤グループを、近隣の微生物の生存度を維持しながら哺乳類血球を選択的に可溶化するように設計した溶解緩衝液に配合するための優れた候補として提案する。
【0124】
【表5】
【0125】
スクリーニングモデルを開発し、いくつかの洗浄剤に対するより多くの微生物分離株の感受性を試験することができるようにした。簡潔に言うと、試験用に選別した微生物の懸濁液を103〜105CFU/mLのヒト血液を含むBacT/ALERT(登録商標)SA培養基中に添加した。試料を37℃で1〜5分間、試験溶解緩衝液で処理し、その後必要に応じてTSBに1:100希釈し、平板培養して生存数測定を行った。
【0126】
表6に示したコロニー数の概要は、Brij(登録商標)97が最小の毒性を示し、アルカリ状態のCAPS緩衝液のみがN.meningitidis(ナイセリアメニンギティディス)、H.influenzae(ヘモフィルスインフルエンザ)およびA.actinomycetemcomitans(アクチノバシラスアクチノミセテムコミタンス)を迅速に殺したことを示している。Genapol(登録商標)C‐100はBrij(登録商標)97と同様の活性を示したが、このモデルではH.parainfluenzae(ヘモフィルスパラインフルエンザ)およびC.hominisに対する毒性がやや高かった。その後の実験で、S.pneumoniae、S.pyogenes、S.agalactiae(ストレプトコッカスアガラクチア)、S.mitis、P.mirabilis(プロテウスミラビリス)、K.pneumoniaeおよびE.coliの生存度は、Brij(登録商標)97とGenapol(登録商標)C‐100の両方に5分間接触させた後も影響を受けないままだった(データは示さず)。
【0127】
【表6】
【0128】
多くの溶解緩衝液、特に分子法に使用される溶解緩衝液は、可溶化ステップを促進するエチレンジアミン四酢酸(EDTA)のようなキレート剤を含む。本発明者らは、グラム陰性およびグラム陽性微生物のパネルを使用してTX100‐CAPS溶解緩衝液基質にEDTAを加えた影響を評価した。表7は、P.aeruginosaおよびA.baumanii(アシネトバクターバウマニー)に対するEDTAの急性毒性影響を示すが、他の2つのグラム陰性桿菌、すなわちB.cepacia(バークホルデリアセパシア)およびK.pneumoniae、またはグラム陽性S.aureusについては急性毒性影響を示さない。なお、EDTAがP.aeruginosaとA.baumaniiの両方に対して抑制的である一方、主な固有フルオロフォアの変化はこれら2つの種間で大きく異なるものであった。P.aeruginosaは、EDTA処理後にNADHとトリプトファン蛍光の両方が大幅に低下した唯一の試験有機体であった。
【0129】
これらの実験は、特定の化合物または識別子を溶解緩衝液にどのように加えれば特定の微生物の基本的な微生物固有蛍光プロファイルを変化させることができ、分離株の同定および更なるキャラクタリゼーションを改善する機会が与えられるかを示す良好な例である。当業者には容易に理解されるように、それ自体の物理的状態または代謝に影響を及ぼす任意の化合物に対する特定の微生物の感受性は、当該化合物を試料、溶解緩衝液、密度クッションまたはそれらの任意の混合物に加えることにより迅速に確認することができた。同様に、選択性溶解緩衝液の溶解条件または製剤(例えば緩衝液pH、洗浄剤タイプおよびその濃度)を変更することにより、図2Aおよび図2Bに例示したように微生物固有蛍光の特徴的変化をもたらすことができる(例えば、2009年10月30日に出願し、本願と同じ譲受人に譲渡した米国特許出願第xxxxx号「Method for the Separation and Characterization of Microorganisms Using Identifier Agents」参照。この米国特許出願の開示内容を本明細書に援用する)。
【0130】
【表7】
【0131】
[実施例7]
密度ベース分離緩衝液の開発
【0132】
密度クッションとも呼ぶ分離緩衝液の目的は、溶解した血液成分および培養基に由来する代謝的に活発な微生物を数分以内に直ちに分離および分割することとした。クッション材料は、完全な状態の微生物の密度と溶解した陽性血液培養ブロス試料の密度の間の密度を有するものを選択した。分離は遠心力によって実現した。
【0133】
本発明者らは、最初に(実施例1〜2)コロイドシリカが陽性血液培養ブロス中で発見した蛍光性の高い血液および培地構成成分から微生物を迅速に単離する上で満足のいく特性を有することを判定した。しかしながら、S.pneumoniaeのようないくつかの微生物種は、沈殿した微生物と汚染された血液と培地構成成分との間の有効な相障壁(phase barrier)を形成するのに必要な密度でコロイドシリカ内に満足のいく形で沈殿することはなかった。したがって、より広範且つ効果的な密度クッションを更に模索した。
【0134】
一連の化合物を分離緩衝液に配合するためにスクリーニングした。密度クッション向けの好ましい化合物は下記の特徴を有するものである。
1. 粘性が低く、クッション内の微生物の迅速な沈殿を可能にする。
2. 蛍光性が低く、微生物由来の固有蛍光に対する干渉を最小限に抑える。
3. 好ましくは解析対象となる光の波長全域で光学的に透明である。
4. 微生物に対して非毒性である。
5. 安価且つ容易に入手できる。
6. 広範なバクテリアおよび試料に広く利用可能である。
【0135】
【表8】
【0136】
S.pneumoniae(カプセルに入れた低密度微生物)を含む陽性血液培養ブロス、E.coli(中密度微生物)およびS.aureus(高密度微生物)を使用して潜在的な密度化合物をスクリーニングした。ブロス試料は、実施例6で説明した条件下で、溶解緩衝液1部(0.45%のTriton X100‐R+0.3M CAPS、pH11.7)と試料2部を混合し、37℃の水浴に1分間温置することにより溶解させた。次いで、0.7mLの溶解物を、標準的な1.5mLマイクロ遠心チューブに入れた0.5mLの試験密度クッション上に注意深くオーバーレイした。各チューブを約10,000gで2分間回転させ、分離結果を記録した。2層の異なる液状層の基部に固体微生物ペレットが沈殿し、ヘモグロビン汚染が下層に現れないときに優れた分離が確認された。
【0137】
優れた分離結果は、コロイドシリカ、Iohexol、塩化セシウム、LymphoPrep(登録商標)およびPolymorphoPrep(登録商標)を密度クッションとして使用したときに得られた。満足のいく結果は、デキストロースT70、Ficoll 400、スクロースおよびポリビニルアルコールを用いたときに得られた。IodixanolはIohexolと同様の特性を有することが予想される。本発明者らは、例えば塩化ナトリウムを追加することにより密度クッションを高浸透圧性にすることでS.pneumoniaeやK.pneumoniaeのような低密度微生物の沈殿が改善されることも発見した。
【0138】
14w/v%のIohexol、18w/v%の塩化セシウムおよび30%のPolymorphoPrep(登録商標)ストックと、感受性のS.pneumoniae株WM43を含む陽性ブロスを使用してTriton X100‐R、ポリドカノール、Brij(登録商標)97、Genapol(登録商標)C‐100およびGenapol(登録商標)X‐100で調製した溶解緩衝液とを組み合わせて、更なる試験を実施した。5種類の溶解緩衝液と4種類の密度クッションの組合せは予想どおりの優れた分離を示した。Iohexolと塩化セシウムの密度クッションの結果を図3に示す。実施例6でより詳細に論じたように、回収したS.pneumoniae細胞の生存度は、密度クッションの構成に関わらずTriton X100‐Rおよびポリドカノールを含む緩衝液ほど高くはなかった。
【0139】
[実施例8]
いくつかの溶解緩衝液および密度クッションの評価
【0140】
本発明の概念の広範な利用可能性を判定するために、本発明者らは播種血液培養研究を使用してミニ分類モデルを作製し、2種類の選択性溶解緩衝液および2種類の密度クッション製剤の効果を比較した。このモデルで使用した微生物は、K.pneumoniae、K.oxytoca、S.aureus、S.epidermidis、C.tropicalisおよびS.pneumoniae(それぞれ6株)である。溶解緩衝液および密度クッションの下記の組合せを試験した。
セットA=Brij(登録商標)‐97溶解緩衝液+Pluronic F‐108を含む24%の塩化セシウムクッション
セットB=Genapol(登録商標)C‐100溶解緩衝液+Pluronic F‐108を含む24%の塩化セシウムクッション
セットC=Brij(登録商標)‐97溶解緩衝液+Pluronic F‐108を含む14%のIohexolクッション
セットD=Brij(登録商標)‐97溶解緩衝液+24%のCsClクッション(Pluronic F‐108を含まない)
【0141】
上記の4つの各条件下で陽性ブロスの試料を下記のように処理した。
1. 陽性ブロスの2.0mLの試料を1.0mLの選択性溶解緩衝液と混合した後、37℃の水浴に1分間入れた。
2. 溶解物の1.0mLの試料を特注の光学分離チューブに収容した0.5mLの密度クッション上にオーバーレイした。密度クッションの表面上にポリプロピレンボールを配置することにより、これら2つの水相に外乱をもたらすことなく容易な充填を可能にした。
3. 光学分離チューブをねじ蓋で封止し、10,000rpmで2分間遠心分離にかけた(A‐8‐11スウィングアウトローター(Eppendorf社(ニューヨーク州))を装着したEppendorf(登録商標)5417Rマイクロ遠心分離機;図4参照)。
4. 次いで、封止したチューブを特注のアダプタに移し、分光蛍光計に連結された300ミクロン光ファイバプローブにチューブの基部を直接連結した(HORIBA Jobin Yvon社のFluorolog(登録商標)3(ニュージャージー州))。
5. CCD検出器構成を使用してフルEEM走査を行った(励起260〜850nm;5nm間隔;発光260〜1100nm)。
6. EEMデータをExcelにエクスポートし、一般判別分析(Statistica)を使用して試薬セット毎にミニ分類モデルを作製した。
【0142】
分離結果は1つの例外を除いて4つのすべての試薬セットで等価であった。密度クッション中に弱い界面活性剤Pluronic F‐108を含まないセットDは、いくつかのC.tropicalis株のバイオマスを大幅に減少させた。理由は、それらの有機体が分離チューブの側壁に強力に付着したためである。この現象はIohexolクッションを使用したときも発生した(データは示さず)。後続のデータ分析により密度クッション中の弱い界面活性剤の存在が好ましいことが示されたが、不可欠というわけではなかった。実際、4つのすべての試薬の組合せのGDA結果から満足のいく分類性能が示されている(表9)。4つの試薬セット間の差異はいずれも比較的軽微なものであった。最も一般的な誤分類は、パネル上の密接に関係する2つの種、すなわちK.pneumoniaeとK.oxytocaの間で起きた。
【0143】
【表9】
【0144】
塩化セシウムを含むクッション上のIohexolを含む密度クッションの潜在的な欠点の1つは、医学的に使用される造影剤であるIohexolの強力な吸着性により約380nm未満の励起波長では大きな蛍光消光が生じることである。しかしながら、驚くべき発見として、Iohexolクッションを使用したときにK.pneumoniaeおよびK.oxytocaの分析上の判別性(analytical differentiation)が改善された。このことは、NADHやトリプトファンのようなより顕著なフルオロフォアの部分的消光により、異なる消光特性を有するより下位の細胞フルオロフォアの差異が明らかになる可能性があることを示唆する。
【0145】
Brij(登録商標)97およびGenapol(登録商標)C‐100を含む溶解緩衝液は、このような限られた微生物パネルで同様の分類結果を示した。塩化セシウムおよびIohexol密度クッションも同様の結果を示した。興味深い発見として、Iohexolはいくつかの微生物種の判別を選択的に促進するのに使用することが可能である。
【0146】
[実施例9]
固有蛍光による血液培養分離株の改良型迅速同定方法
【0147】
光学分離チューブおよび関連する光学プラットフォームの設計検証の進化、微生物ペレットの前面解析における分類能力の改善ならびに迅速選択性溶解緩衝液および密度ベースの分離ステップの最適化の集大成として、血液培養ブロスのような複雑な試料から微生物を数分以内に同定する可能性を有する新規な方法が得られた。
【0148】
本方法は分離および読み取りステップを封止装置内で行うので、簡便性および安全性の利点がある。本方法の有用性を更に確実なものにするために、本発明者らは敗血症の原因として知られる最も一般的な29の種に相当する微生物の373株についてデータベースを構築した。これらの有機体は10mLのヒト血液を収容したBacT/ALERT(登録商標)SA瓶に低接種原で「播種(seeded)」した。血液培養ブロス試料は、BacT/ALERT(登録商標)3D Microbial Detection Systemにより陽性反応が出てから数分以内に瓶から取り出した。これらの試料を下記のように処理した。
1. 陽性ブロスの2.0mLの試料を1.0mLの選択性溶解緩衝液と混合し(0.45w/v%のBrij(登録商標)97+0.3M CAPS、pH11.7)、次いで37℃の水浴に1分間入れた。
2. 溶解物の1.0mLの試料を、特注の光学分離チューブに収容した0.5mLの密度クッション上にオーバーレイした(10mMのHEPES(pH7.4)中24w/v%の塩化セシウム+0.005%のPluronic F‐108)。密度クッションの表面上にポリプロピレンボールを配置することにより、これら2つの水相に外乱をもたらすことなく容易な充填を可能にした。
3. 光学分離チューブをねじ蓋で封止し、10,000rpmで2分間遠心分離にかけた(A‐8‐11スウィングアウトローター(Eppendorf社(ニューヨーク州))を装着したEppendorf(登録商標)5417Rマイクロ遠心分離機;図4参照)。
4. 次いで、封止したチューブを特注のアダプタに移し、分光蛍光計に連結された300ミクロン光ファイバプローブにチューブの基部を直接連結した(HORIBA Jobin Yvon社のFluorolog(登録商標)3(ニュージャージー州))。
5. CCD検出器構成を使用して浄化した微生物ペレットのフルEEM走査を行った(励起260〜850nm;5nm間隔;発光260〜1100nm)。
6. EEMデータをExcelにエクスポートした。
7. プロセス全体の所要時間は瓶のフラグイベントから20分未満であり、このプロセスを2〜8℃で4〜5時間保管した陽性ブロスを使用して繰り返した。保管ブロスは処理前に5分間暖めた。
【0149】
陽性血液培養ブロスから単離した微生物ペレットのEEMスペクトルのいくつかの代表例を図5〜図8に示す。図示の種間の差異は、存在する様々な細胞フルオロフォアの大きさと形状の両面で視覚的に確認することができる。
【0150】
微生物分類データベースを構築する目的で種々の多変量分析法によりデータ分析を行った。各走査ファイルが9,000を超える個々の蛍光読み取り値を含んでいたため、分析に先立ってデータの最小化および正規化を種々の手法を使用して実施した。一例として、表10に一般判別分析ツール(Statistica)を使用したいくつかの予備結果を示す。BacT/ALERT(登録商標)Microbial Detection Systemから得られた検出時間や培養率のような付加的な入力変数および細胞ペレット中に存在するバイオマスの量を使用して敗血症原因分離株(実施例10参照)の同定および/またはキャラクタリゼーションに役立てることができる。
【0151】
表10のデータは種レベルの同定結果を示すが、臨床的に意義のある実用的な情報を主治医に提供する任意の分類レベルを提示することができる。かかる分類レベルの一例は「治療」群であり、治療群では微生物種をそれらの処理に使用する抗生物質に従って分類する。
【0152】
本明細書に記載する方法は、安全且つ信頼性のある手法で陽性血液培養瓶から微生物を迅速に同定する切迫した必要を満足するものである。表10に例示した結果は微生物の培養または分子特性を利用した他の同定方法に匹敵するものであるが、時間的遅延またはコストは生じない。更に、本方法は完全に自動化することができ、したがって昼夜を問わずいつでも電子装置を利用することでID結果を医師に直接送り届けることができる。
【0153】
また、本発明の方法は特注のディスポーザブル装置に分離および読み取りセクションを内蔵し、完全な状態の微生物を「固相」として扱うので(図4参照)複数の診断技法と互換性がある。本発明の概念を使用して展開される補足的試験の例としては、微生物酵素、細胞表面マーカー、核酸プローブおよび微生物代謝阻害の測定が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本方法は自動化および小型化が容易である。この可能性の詳しい説明は、2009年10月30日に出願し、本願と同じ譲受人に譲渡した米国特許出願第xxxxx号「Method for the Separation and Characterization of Microorganisms Using Identifier Agents」に記載されている。この米国特許出願の開示内容を本明細書に援用する。
【0154】
【表10】
【0155】
[実施例10]
微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定に役立つ非分光測定値
【0156】
検出システムアルゴリズムから得られる検出時間や微生物培養率、単離した微生物ペレットのサイズ、形状、色、密度といった非分光測定値を微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定のための付加的な変数として使用することができる。
【0157】
図9および図10に示した例は、ペレットサイズ、検出時間および平均固有蛍光の測定値を使用することにより、密接に関係する2つの種、すなわちS.pneumoniaeおよびS.mitisの判別を容易にすること、すなわち同定を確実に行うことができることを証明する。各記号は本発明の方法によって陽性血液培養ブロスから回収した別々の臨床分離株を表す。図9および図10中の円で囲んだS.pneumoniae分離株は、表10(実施例9)に示した予備結果でS.mitisとして誤って同定されたものである。
【0158】
上記の説明は本発明を例示するものであり、本発明を限定するものと解釈すべきではない。本発明は添付の特許請求の範囲で定義されるものであり、各請求項には均等物も含まれる。本明細書に列挙した刊行物、特許出願、特許、特許文献および他の参考文献はすべて、参照する文および/または段落の教示内容全体が本明細書に援用されるものとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験試料に由来する微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定方法であり、
(a)微生物を含むことが既知であるまたは微生物を含む可能性がある試験試料を採取するステップと、
(b)前記試験試料中に非微生物細胞を選択的に溶解させて溶解試料を生産するステップと、
(c)前記溶解試料の他の構成成分から微生物を分離して単離微生物試料を形成するステップと、
(d)単離した前記微生物を分光解析して前記微生物の分光測定値を生成するステップと、
(e)前記分光測定値と既知の微生物に関して得られる分光測定値もしくは予測分光特性とを比較することにより前記単離試料中の前記微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であり、前記ステップ(c)および(d)は封止容器内で実行され、解析する前記ステップ(d)は非侵襲的であることを特徴とする、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であり、前記分光測定値は蛍光分光法およびラマン分光法に由来することを特徴とする、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であり、前記分光法は、蛍光分光学、拡散反射分光法、透過吸収分光法、赤外分光法、テラヘルツ分光法およびそれらの任意の組合せを含む群から選択されることを特徴とする、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であり、蛍光分光を前面モードで測定することを特徴とする、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であり、同定は前記微生物の固有蛍光に基づくことを特徴とする、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であり、前記分光法は励起発光マトリクス(EEM)を決定するステップを含むことを特徴とする、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であり、前記EEMは既知の微生物のEEMのデータベースと比較されることを特徴とする、方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であり、前記微生物のキャラクタリゼーションは1つまたは複数の表現型特徴および/または形態学的特徴に基づいて行われることを特徴とする、方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であり、前記微生物のキャラクタリゼーションは、検出時間、培養率ならびに微生物ペレットサイズ、形状、色および/または密度のうちの1つまたは複数の測定値に基づいて行われることを特徴とする、方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法であり、前記微生物は1つまたは複数の分類モデルにキャラクタリゼーションされ、前記分類モデルは、グラム群、臨床グラム群、治療群、機能群および天然固有蛍光群を含む群から選択されることを特徴とする、方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法であり、前記微生物を、属レベル、種レベルまたは株レベルまで同定することを特徴とする、方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法であり、選択的に溶解させる前記ステップ(b)は、超音波処理、浸透圧衝撃処理、化学処理またはそれらの組合せによって実行されることを特徴とする、方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法であり、選択的に溶解させる前記ステップ(b)は、1つまたは複数の洗浄剤を含む溶解溶液を使用して実行されることを特徴とする、方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であり、前記1つまたは複数の洗浄剤は、Triton(登録商標)X‐100、Triton(登録商標)X‐100‐R、Triton(登録商標)X‐114、NP‐40、Genapol(登録商標)C‐100、Genapol(登録商標)X‐100、Igepal(登録商標)CA630、Arlasolve(商標)200、Brij(登録商標)96/97、CHAPS、オクチルβ‐D‐グルコピラノシド、サポニン、ノナエチレングリコールモノドデシルエーテル(C12E9、ポリドカノール)、ナトリウムドデシルサルフェート、N‐ラウロイルサルコシン、ナトリウムデオキシコレート、胆汁酸塩、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、SB3‐10、SB3‐12、アミドスルホベタイン‐14、C7BzO、Brij(登録商標)98、Brij(登録商標)58、Brij(登録商標)35、Tween(登録商標)80、Tween(登録商標)20、Pluronic(登録商標)L64、Pluronic(登録商標)P84、非洗浄剤スルホベタイン(NDSB201)、アンフィポル(PMAL‐C8)およびメチル‐β‐シクロデキストリンからなる群から選択されることを特徴とする、方法。
【請求項16】
請求項14に記載の方法であり、前記洗浄剤は構造C12‐18/E9‐10を有するポリオキシエチレン洗浄剤であることを特徴とする、方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であり、前記ポリオキシエチレン洗浄剤は、Brij(登録商標)97、Brij(登録商標)96V、Genapol(登録商標)C‐100、Genapol(登録商標)X‐100およびポリドカノールからなる群から選択されることを特徴とする、方法。
【請求項18】
請求項14に記載の方法であり、前記溶解溶液は1つまたは複数の酵素を更に含み、前記1つまたは複数の酵素は1つまたは複数のプロテイナーゼと1つまたは複数のヌクレアーゼの混合物を含むことを特徴とする、方法。
【請求項19】
請求項14に記載の方法であり、前記溶解溶液は1つまたは複数の緩衝剤を含むことを特徴とする、方法。
【請求項20】
請求項1に記載の方法であり、分離する前記ステップ(c)は濾過によるものであり、前記濾過によって単離微生物試料が得られることを特徴とする、方法。
【請求項21】
請求項1に記載の方法であり、前記溶解試料を前記容器内の密度クッション上に積層し、前記容器を遠心分離にかけて微生物ペレットを形成することを特徴とする、方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法であり、前記密度クッションは、コロイドシリカ、ヨウ化造影剤、スクロース、顕微鏡用液浸油、鉱油、シリコーン油、フルオロシリコーン油、シリコーンゲル、メトリゾエート‐Ficoll(登録商標)、ジアトリゾエート‐デキストラン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレンオキシド(高分子量)、Pluronic(登録商標)F127、Pluronic(登録商標)F68、ポリアクリル酸、架橋したポリビニルアルコール、架橋したポリビニルピロリジン、PEGメチルエーテルメタクリレート、ペクチン、アガロース、キサンタン、ジェラン、Phytagel(登録商標)、ソルビトール、Ficoll(登録商標)、グリセロール、デキストラン、グリコーゲン、塩化セシウム、パーフルオロカーボン液および/またはハイドロフルオロカーボン液のうちの1つまたは複数を含むことを特徴とする、方法。
【請求項23】
請求項1に記載の方法であり、前記試験試料は微生物を含むことが既知である培養試料であることを特徴とする、方法。
【請求項24】
血液培養物に由来する微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定方法であり、
(a)微生物を含むことが既知であるまたは微生物を含む可能性がある血液培養物から試料を採取するステップと、
(b)前記試料中に非微生物細胞を選択的に溶解させて溶解試料を生産するステップと、
(c)前記溶解試料を封止容器内の密度クッション上に積層するステップと、
(d)前記容器を遠心分離にかけて前記試料の他の構成成分から微生物を分離し微生物ペレットを形成するステップと、
(e)単離した前記微生物を分光解析して前記微生物の分光測定値を生成するステップと、
(f)前記分光測定値と既知の微生物に関して得られる分光測定値もしくは予測分光特性とを比較することにより前記単離試料中の前記微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項25】
微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定方法であり、
(a)微生物を含むことが既知であるまたは微生物を含む可能性がある試験試料を採取するステップと、
(b)前記試験試料を封止容器内に配置するステップと、
(c)前記試験試料の他の構成成分から微生物をインサイチュで分離して前記封止容器内の微生物の単離微生物試料を形成するステップと、
(d)単離した前記微生物をインサイチュで分光解析して前記微生物の分光測定値を生成するステップと、
(e)前記分光測定値と既知の微生物に関して得られる分光測定値もしくは予測分光特性とを比較することにより前記単離試料中の前記微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項1に記載の方法であり、前記分光測定値は蛍光分光法およびラマン分光法に由来することを特徴とする、方法。
【請求項27】
請求項25に記載の方法であり、前記分光法は、蛍光分光法、拡散反射分光法、透過吸収分光法、赤外分光法、テラヘルツ分光法およびそれらの任意の組合せからなる群から選択されることを特徴とする、方法。
【請求項28】
請求項27に記載の方法であり、同定は前記微生物の固有蛍光に基づくことを特徴とする、方法。
【請求項29】
請求項28に記載の方法であり、前記分光法は励起発光マトリクス(EEM)を決定するステップを含み、前記EEMは既知の微生物のEEMのデータベースと比較されることを特徴とする、方法。
【請求項30】
請求項25に記載の方法であり、分離する前記ステップ(c)は遠心分離または濾過によることを特徴とする、方法。
【請求項31】
請求項25に記載の方法であり、前記試料を前記容器内の密度クッション上に積層し、前記容器を遠心分離にかけて微生物ペレットを形成することを特徴とする、方法。
【請求項32】
請求項25に記載の方法であり、前記密度クッションは、コロイドシリカ、ヨウ化造影剤、スクロース、顕微鏡用液浸油、鉱油、シリコーン油、フルオロシリコーン油、シリコーンゲル、メトリゾエート‐Ficoll(登録商標)、ジアトリゾエート‐デキストラン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレンオキシド(高分子量)、Pluronic(登録商標)F127、Pluronic(登録商標)F68、ポリアクリル酸、架橋したポリビニルアルコール、架橋したポリビニルピロリジン、PEGメチルエーテルメタクリレート、ペクチン、アガロース、キサンタン、ジェラン、Phytagel(登録商標)、ソルビトール、Ficoll(登録商標)、グリセロール、デキストラン、グリコーゲン、塩化セシウム、パーフルオロカーボン液および/またはハイドロフルオロカーボン液のうちの1つまたは複数を含むことを特徴とする、方法。
【請求項33】
請求項25に記載の方法であり、前記微生物のキャラクタリゼーションは1つまたは複数の表現型特徴および/または形態学的特徴に基づいて行われることを特徴とする、方法。
【請求項34】
請求項25に記載の方法であり、前記微生物のキャラクタリゼーションは、検出時間、培養率ならびに微生物ペレットサイズ、形状、色および/または密度のうちの1つまたは複数の測定値に基づいて行われることを特徴とする、方法。
【請求項35】
請求項25に記載の方法であり、前記微生物のキャラクタリゼーションは1つまたは複数の分類モデルに分類され、前記分類モデルは、グラム群、臨床グラム群、治療群、機能群および天然固有蛍光群からなる群から選択されることを特徴とする、方法。
【請求項36】
請求項25に記載の方法であり、前記微生物を属レベル、種レベルまたは株レベルまで同定することを特徴とする、方法。
【請求項37】
請求項25に記載の方法であり、前記試験試料は微生物を含むことが既知である培養試料であることを特徴とする、方法。
【請求項1】
試験試料に由来する微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定方法であり、
(a)微生物を含むことが既知であるまたは微生物を含む可能性がある試験試料を採取するステップと、
(b)前記試験試料中に非微生物細胞を選択的に溶解させて溶解試料を生産するステップと、
(c)前記溶解試料の他の構成成分から微生物を分離して単離微生物試料を形成するステップと、
(d)単離した前記微生物を分光解析して前記微生物の分光測定値を生成するステップと、
(e)前記分光測定値と既知の微生物に関して得られる分光測定値もしくは予測分光特性とを比較することにより前記単離試料中の前記微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であり、前記ステップ(c)および(d)は封止容器内で実行され、解析する前記ステップ(d)は非侵襲的であることを特徴とする、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であり、前記分光測定値は蛍光分光法およびラマン分光法に由来することを特徴とする、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であり、前記分光法は、蛍光分光学、拡散反射分光法、透過吸収分光法、赤外分光法、テラヘルツ分光法およびそれらの任意の組合せを含む群から選択されることを特徴とする、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であり、蛍光分光を前面モードで測定することを特徴とする、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であり、同定は前記微生物の固有蛍光に基づくことを特徴とする、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であり、前記分光法は励起発光マトリクス(EEM)を決定するステップを含むことを特徴とする、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であり、前記EEMは既知の微生物のEEMのデータベースと比較されることを特徴とする、方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であり、前記微生物のキャラクタリゼーションは1つまたは複数の表現型特徴および/または形態学的特徴に基づいて行われることを特徴とする、方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であり、前記微生物のキャラクタリゼーションは、検出時間、培養率ならびに微生物ペレットサイズ、形状、色および/または密度のうちの1つまたは複数の測定値に基づいて行われることを特徴とする、方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法であり、前記微生物は1つまたは複数の分類モデルにキャラクタリゼーションされ、前記分類モデルは、グラム群、臨床グラム群、治療群、機能群および天然固有蛍光群を含む群から選択されることを特徴とする、方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法であり、前記微生物を、属レベル、種レベルまたは株レベルまで同定することを特徴とする、方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法であり、選択的に溶解させる前記ステップ(b)は、超音波処理、浸透圧衝撃処理、化学処理またはそれらの組合せによって実行されることを特徴とする、方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法であり、選択的に溶解させる前記ステップ(b)は、1つまたは複数の洗浄剤を含む溶解溶液を使用して実行されることを特徴とする、方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であり、前記1つまたは複数の洗浄剤は、Triton(登録商標)X‐100、Triton(登録商標)X‐100‐R、Triton(登録商標)X‐114、NP‐40、Genapol(登録商標)C‐100、Genapol(登録商標)X‐100、Igepal(登録商標)CA630、Arlasolve(商標)200、Brij(登録商標)96/97、CHAPS、オクチルβ‐D‐グルコピラノシド、サポニン、ノナエチレングリコールモノドデシルエーテル(C12E9、ポリドカノール)、ナトリウムドデシルサルフェート、N‐ラウロイルサルコシン、ナトリウムデオキシコレート、胆汁酸塩、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、SB3‐10、SB3‐12、アミドスルホベタイン‐14、C7BzO、Brij(登録商標)98、Brij(登録商標)58、Brij(登録商標)35、Tween(登録商標)80、Tween(登録商標)20、Pluronic(登録商標)L64、Pluronic(登録商標)P84、非洗浄剤スルホベタイン(NDSB201)、アンフィポル(PMAL‐C8)およびメチル‐β‐シクロデキストリンからなる群から選択されることを特徴とする、方法。
【請求項16】
請求項14に記載の方法であり、前記洗浄剤は構造C12‐18/E9‐10を有するポリオキシエチレン洗浄剤であることを特徴とする、方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であり、前記ポリオキシエチレン洗浄剤は、Brij(登録商標)97、Brij(登録商標)96V、Genapol(登録商標)C‐100、Genapol(登録商標)X‐100およびポリドカノールからなる群から選択されることを特徴とする、方法。
【請求項18】
請求項14に記載の方法であり、前記溶解溶液は1つまたは複数の酵素を更に含み、前記1つまたは複数の酵素は1つまたは複数のプロテイナーゼと1つまたは複数のヌクレアーゼの混合物を含むことを特徴とする、方法。
【請求項19】
請求項14に記載の方法であり、前記溶解溶液は1つまたは複数の緩衝剤を含むことを特徴とする、方法。
【請求項20】
請求項1に記載の方法であり、分離する前記ステップ(c)は濾過によるものであり、前記濾過によって単離微生物試料が得られることを特徴とする、方法。
【請求項21】
請求項1に記載の方法であり、前記溶解試料を前記容器内の密度クッション上に積層し、前記容器を遠心分離にかけて微生物ペレットを形成することを特徴とする、方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法であり、前記密度クッションは、コロイドシリカ、ヨウ化造影剤、スクロース、顕微鏡用液浸油、鉱油、シリコーン油、フルオロシリコーン油、シリコーンゲル、メトリゾエート‐Ficoll(登録商標)、ジアトリゾエート‐デキストラン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレンオキシド(高分子量)、Pluronic(登録商標)F127、Pluronic(登録商標)F68、ポリアクリル酸、架橋したポリビニルアルコール、架橋したポリビニルピロリジン、PEGメチルエーテルメタクリレート、ペクチン、アガロース、キサンタン、ジェラン、Phytagel(登録商標)、ソルビトール、Ficoll(登録商標)、グリセロール、デキストラン、グリコーゲン、塩化セシウム、パーフルオロカーボン液および/またはハイドロフルオロカーボン液のうちの1つまたは複数を含むことを特徴とする、方法。
【請求項23】
請求項1に記載の方法であり、前記試験試料は微生物を含むことが既知である培養試料であることを特徴とする、方法。
【請求項24】
血液培養物に由来する微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定方法であり、
(a)微生物を含むことが既知であるまたは微生物を含む可能性がある血液培養物から試料を採取するステップと、
(b)前記試料中に非微生物細胞を選択的に溶解させて溶解試料を生産するステップと、
(c)前記溶解試料を封止容器内の密度クッション上に積層するステップと、
(d)前記容器を遠心分離にかけて前記試料の他の構成成分から微生物を分離し微生物ペレットを形成するステップと、
(e)単離した前記微生物を分光解析して前記微生物の分光測定値を生成するステップと、
(f)前記分光測定値と既知の微生物に関して得られる分光測定値もしくは予測分光特性とを比較することにより前記単離試料中の前記微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項25】
微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定方法であり、
(a)微生物を含むことが既知であるまたは微生物を含む可能性がある試験試料を採取するステップと、
(b)前記試験試料を封止容器内に配置するステップと、
(c)前記試験試料の他の構成成分から微生物をインサイチュで分離して前記封止容器内の微生物の単離微生物試料を形成するステップと、
(d)単離した前記微生物をインサイチュで分光解析して前記微生物の分光測定値を生成するステップと、
(e)前記分光測定値と既知の微生物に関して得られる分光測定値もしくは予測分光特性とを比較することにより前記単離試料中の前記微生物のキャラクタリゼーションおよび/または同定を行うステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項1に記載の方法であり、前記分光測定値は蛍光分光法およびラマン分光法に由来することを特徴とする、方法。
【請求項27】
請求項25に記載の方法であり、前記分光法は、蛍光分光法、拡散反射分光法、透過吸収分光法、赤外分光法、テラヘルツ分光法およびそれらの任意の組合せからなる群から選択されることを特徴とする、方法。
【請求項28】
請求項27に記載の方法であり、同定は前記微生物の固有蛍光に基づくことを特徴とする、方法。
【請求項29】
請求項28に記載の方法であり、前記分光法は励起発光マトリクス(EEM)を決定するステップを含み、前記EEMは既知の微生物のEEMのデータベースと比較されることを特徴とする、方法。
【請求項30】
請求項25に記載の方法であり、分離する前記ステップ(c)は遠心分離または濾過によることを特徴とする、方法。
【請求項31】
請求項25に記載の方法であり、前記試料を前記容器内の密度クッション上に積層し、前記容器を遠心分離にかけて微生物ペレットを形成することを特徴とする、方法。
【請求項32】
請求項25に記載の方法であり、前記密度クッションは、コロイドシリカ、ヨウ化造影剤、スクロース、顕微鏡用液浸油、鉱油、シリコーン油、フルオロシリコーン油、シリコーンゲル、メトリゾエート‐Ficoll(登録商標)、ジアトリゾエート‐デキストラン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレンオキシド(高分子量)、Pluronic(登録商標)F127、Pluronic(登録商標)F68、ポリアクリル酸、架橋したポリビニルアルコール、架橋したポリビニルピロリジン、PEGメチルエーテルメタクリレート、ペクチン、アガロース、キサンタン、ジェラン、Phytagel(登録商標)、ソルビトール、Ficoll(登録商標)、グリセロール、デキストラン、グリコーゲン、塩化セシウム、パーフルオロカーボン液および/またはハイドロフルオロカーボン液のうちの1つまたは複数を含むことを特徴とする、方法。
【請求項33】
請求項25に記載の方法であり、前記微生物のキャラクタリゼーションは1つまたは複数の表現型特徴および/または形態学的特徴に基づいて行われることを特徴とする、方法。
【請求項34】
請求項25に記載の方法であり、前記微生物のキャラクタリゼーションは、検出時間、培養率ならびに微生物ペレットサイズ、形状、色および/または密度のうちの1つまたは複数の測定値に基づいて行われることを特徴とする、方法。
【請求項35】
請求項25に記載の方法であり、前記微生物のキャラクタリゼーションは1つまたは複数の分類モデルに分類され、前記分類モデルは、グラム群、臨床グラム群、治療群、機能群および天然固有蛍光群からなる群から選択されることを特徴とする、方法。
【請求項36】
請求項25に記載の方法であり、前記微生物を属レベル、種レベルまたは株レベルまで同定することを特徴とする、方法。
【請求項37】
請求項25に記載の方法であり、前記試験試料は微生物を含むことが既知である培養試料であることを特徴とする、方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公表番号】特表2012−507712(P2012−507712A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534518(P2011−534518)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【国際出願番号】PCT/US2009/005893
【国際公開番号】WO2010/062356
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(502073946)バイオメリュー・インコーポレイテッド (28)
【氏名又は名称原語表記】bioMerieux, Inc.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【国際出願番号】PCT/US2009/005893
【国際公開番号】WO2010/062356
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(502073946)バイオメリュー・インコーポレイテッド (28)
【氏名又は名称原語表記】bioMerieux, Inc.
【Fターム(参考)】
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