分割型ポリエステル複合繊維
【課題】紡糸口金を通して長時間連続的に紡糸しても口金異物の発生量が非常に少なく、成形性に優れているという優れた性能を有する分割型ポリエステル複合繊維を提供すること。
【解決手段】ポリエステル成分A及びポリエステル成分Bとからなり、該ポリエステル成分Bが該ポリエステル成分Aにより複数個に分割された横断面形状を有する複合繊維であって、
(1)該ポリエステル成分Aが、スルホイソフタル酸金属塩基を含む化合物をポリエステルを構成する全酸成分を基準として1〜8モル%共重合した共重合ポリエステルに、さらに該ポリエステル成分Aを基準として数平均分子量が400〜30000のポリオキシアルキレングリコールを1〜20重量%、ヒンダードフェノール型酸化防止剤を0.02〜3重量%含有する共重合ポリエステル組成物であり、
(2)該ポリエステル成分Bがエチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルであり、
且つ、該複合繊維中に含有されるアンチモン及びゲルマニウム金属元素量が20ppm以下である分割型ポリエステル複合繊維。
【解決手段】ポリエステル成分A及びポリエステル成分Bとからなり、該ポリエステル成分Bが該ポリエステル成分Aにより複数個に分割された横断面形状を有する複合繊維であって、
(1)該ポリエステル成分Aが、スルホイソフタル酸金属塩基を含む化合物をポリエステルを構成する全酸成分を基準として1〜8モル%共重合した共重合ポリエステルに、さらに該ポリエステル成分Aを基準として数平均分子量が400〜30000のポリオキシアルキレングリコールを1〜20重量%、ヒンダードフェノール型酸化防止剤を0.02〜3重量%含有する共重合ポリエステル組成物であり、
(2)該ポリエステル成分Bがエチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルであり、
且つ、該複合繊維中に含有されるアンチモン及びゲルマニウム金属元素量が20ppm以下である分割型ポリエステル複合繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方の成分が他方の成分により複数個に分割された繊維横断面形状を有する分割型ポリエステル複合繊維に関する。さらに詳しくは、紡糸口金を通して長時間連続的に紡糸しても口金付着物の発生量が非常に少なく、成形性に優れているという優れた性能を有する分割型ポリエステル複合繊維、及びその複合繊維をアルカリ水溶液または熱水で処理することによって容易、且つ効率的に提供できる極細繊度のポリエステル繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルカリ易溶解性成分が、アルカリ難溶解性成分(もしくはアルカリ非溶解性成分)を複数個に分割するように配置された分割型複合繊維は、アルカリ易溶解性成分を除去することによって、極細繊維糸条が得られること、及び該複合繊維を布帛となした後にアルカリ処理すると絹様風合を呈する布帛を得られること等が広く知られている(例えば、特許文献1、2、3、4参照。)。
【0003】
また、このような方法によって得られる極細ポリエステル繊維は、高融点、高強度、高ヤング率、良好な電気的特性、及び耐薬品性などの優れた特性を有していることから、絹様織編物、スポーツ衣料、若しくはその他の各種衣料用分野、又はフィルター、その他の工業用分野への展開が期待されている。
【0004】
一方、ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルは、その機械的、物理的、化学的性能が優れているため、繊維、フィルム、又はその他の成形物に広く利用されている。ここでポリエステルの重縮合反応段階で使用する触媒の種類によって、反応速度及び得られるポリエステルの品質が大きく左右されることはよく知られている。ポリエチレンテレフタレートの重縮合反応触媒としては、アンチモン化合物が優れた重縮合反応触媒性能を有し、かつ、色調の良好なポリエステルが得られるなどの理由から最も広く使用されている。
【0005】
しかしながらポリエステルを用いて、このような分割型複合繊維を製造する際、長時間にわたって連続的に溶融紡糸すると、口金孔周辺に異物(以下、単に口金異物と称することがある。)が付着堆積し、溶融ポリマー流れの曲がり現象(ベンディング)が発生し、これが原因となって紡糸、延伸工程において毛羽及び/又は断糸などを発生するという成形性の問題がある。
【0006】
該アンチモン化合物以外の重縮合反応触媒として、チタンテトラブトキシドのようなチタン化合物を用いることも提案されているが、このようなチタン化合物を使用した場合、上記のような、口金異物の堆積に起因する成形性の問題は解決できるが、得られたポリエステル自身が黄色く着色されており、また、溶融熱安定性も不良であるという新たな問題が発生する。
【0007】
上記着色問題を解決するために、コバルト化合物をポリエステルに添加して黄味を抑えることが一般的に行われている。確かにコバルト化合物を添加することによってポリエステルの色調(b値)は改善することができるが、コバルト化合物を添加することによってポリエステルの溶融熱安定性が低下し、ポリマーの分解も起こりやすくなるという問題がある。
【0008】
また、他のチタン化合物として、水酸化チタンをポリエステル製造用触媒として用いること(例えば特許文献5参照。)、またα−チタン酸をポリエステル製造用触媒として用いること(例えば特許文献6参照。)が開示されている。しかしながら、前者の方法では水酸化チタンの粉末化が容易でなく、一方、後者の方法ではα−チタン酸が変質し易いため、その保存、取り扱いが容易でなく、したがっていずれも工業的に採用するには適当ではなく、更に、良好な色調(b値)のポリマーを得ることも困難である。
【0009】
また、チタン化合物とトリメリット酸とを反応させて得られた生成物をポリエステルの製造用触媒として用いること(例えば特許文献7参照。)、またチタン化合物と亜リン酸エステルとを反応させて得られた生成物をポリエステル製造用触媒として使用すること(例えば特許文献8参照。)が開示されている。
【0010】
確かに、これらの方法によれば、ポリエステルの溶融熱安定性はある程度向上しているものの、得られるポリマーの色調が十分なものではなく、したがってポリマー色調のさらなる改善が望まれている。また、チタン化合物と特定のホスホン酸化合物を反応させた触媒の使用すること(例えば特許文献9参照。)が開示されている。この方法ではポリマー色調が大きく改良されているが、ポリエステルの耐熱性の改良はまだ十分なレベルに達していない。
【0011】
【特許文献1】特開昭54−138620号公報
【特許文献2】特開平1−162825号公報
【特許文献3】特開平5−9811号公報
【特許文献4】特開平8−109522公報
【特許文献5】特公昭48−2229号公報
【特許文献6】特公昭47−26597号公報
【特許文献7】特公昭59−46258号公報
【特許文献8】特開昭58−38722号公報
【特許文献9】国際公開第01/00706号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記従来技術が有していた問題点を解消し、紡糸口金を通して長時間連続的に紡糸しても口金異物の発生量が非常に少なく、成形性に優れているという優れた性能を有する分割型ポリエステル複合繊維を提供することにある。
【0013】
さらに、本発明の他の目的は、前記複合繊維をアルカリ水溶液または熱水で処理することによって容易、且つ効率的に極細繊度のポリエステル繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の目的は、ポリエステル成分A及びポリエステル成分Bとからなり、該ポリエステル成分Bが該ポリエステル成分Aにより複数個に分割された横断面形状を有する複合繊維であって、
(1)該ポリエステル成分Aが、スルホイソフタル酸金属塩基を含む化合物をポリエステルを構成する全酸成分を基準として1〜8モル%共重合した共重合ポリエステルに、さらに該ポリエステル成分Aを基準として数平均分子量が400〜30000のポリオキシアルキレングリコールを1〜20重量%、ヒンダードフェノール型酸化防止剤を0.02〜3重量%含有する共重合ポリエステル組成物であり、
(2)該ポリエステル成分Bがエチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルであり、
且つ、該複合繊維中に含有されるアンチモン及びゲルマニウム金属元素量が20ppm以下である分割型ポリエステル複合繊維によって達成される。
【0015】
さらに本発明の他の目的は、該複合繊維をアルカリ水溶液及び/又は熱水を用いて該複合繊維中のポリエステル成分Aを除去してなる極細ポリエステル繊維によって達成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、紡糸口金を通して長時間連続的に紡糸しても口金異物の発生量が非常に少なく、成形性に優れているという優れた性能を有する分割型ポリエステル複合繊維を提供することができる。また、複合繊維にアルカリ減量等を施すことにより、容易に極細繊維を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明の分割型複合繊維は、ポリエステル成分Aとポリエステル成分Bとからなり、該ポリエステル成分Bが該ポリエステル成分Aにより複数個に分割された横断面形状を有する複合繊維である。
【0018】
ここで該ポリエステル成分Aは、スルホイソフタル酸金属塩基を含む化合物をポリエステルを構成する全酸成分を基準として1〜8モル%共重合した共重合ポリエステルに、さらに該ポリエステル成分Aを基準として数平均分子量400〜30000のポリオキシアルキレングリコールを1〜20重量%、ヒンダードフェノール化合物を0.02〜3重量%含有する共重合ポリエステル組成物である。
【0019】
ここで、該ポリエステルはエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とすることが好ましく、すなわち共重合ポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。ここで「主たる」とは全繰り返し単位のうち80モル%以上であることを表す。更に該共重合ポリエステルはスルホイソフタル酸金属塩基を含む化合物、及びポリオキシアルキレングリコール以外の成分が少量、好ましくは10モル%以下共重合されていても良い。
【0020】
ここで、スルホイソフタル酸金属塩基とは、イソフタル酸基にスルホン酸リチウム基、スルホン酸ナトリウム基、又はスルホン酸カリウム基等が結合した基が挙げられる。さらにスルホイソフタル酸金属塩基を含む化合物としては、5−リチウムスルホイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸等を挙げることができ、これらのスルホイソフタル酸金属塩基を含む化合物は、共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準として1〜8モル%共重合されていることが必要である。該共重合量が1モル%未満の場合は、十分なアルカリ減量性が得られない。一方8モル%より多い場合は、溶融粘度が上昇して、高重合度のポリマーが得られず、複合繊維紡糸時の断糸が増加し、工程安定性が悪化する傾向があるので不適当である。スルホイソフタル酸金属塩基を含む化合物の共重合量は1〜5モル%の範囲が好ましく、2〜4モル%の範囲が更に好ましい。
【0021】
また、このポリエステル成分Aとして用いる共重合ポリエステル組成物は、数平均分子量が400〜30000のポリオキシアルキレングリコールを1〜20重量%含有していることが必要である。該ポリオキシアルキレングリコールの数平均分子量が400未満では、十分なアルカリ減量速度が得られず、30000を超える場合、コストが高くなる為好ましくない。
【0022】
また、該ポリオキシアルキレングリコールの含有量が1重量%未満の場合は、十分なアルカリ減量速度が得られず、該ポリオキシアルキレングリコールの含有量が20重量%より多い場合は、耐熱性が低下して複合繊維紡糸時の断糸が増加し、工程安定性が悪化する傾向があるので不適当である。該ポリオキシアルキレングリコールはポリエステル成分Aに共重合されていることが好ましい為、数平均分子量は600〜10000の範囲が好ましく、1000〜6000の範囲が更に好ましい。また該ポリオキシアルキレングリコールの含有量は3〜15重量%の範囲が好ましく、5〜12重量%の範囲が更に好ましい。
【0023】
ここでポリオキシアルキレングリコールとして、具体的にはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリテトラメチレングリコールが例示されるが、アルカリ減量速度等の観点からポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0024】
さらに加えて、ポリエステル成分Aとして用いる共重合ポリエステル組成物は、ヒンダードフェノール化合物を0.02〜3重量%、好ましくは0.1〜2重量%含有していることが必要である。該ヒンダードフェノール化合物の含有量が0.02重量%未満の場合は、熱安定性が悪く、複合繊維紡糸時の断糸が増加し、工程安定性が悪くなり、一方、3重量%を越えた場合も、紡糸時の断糸が増加し工程安定性が悪化する。該ヒンダードフェノール化合物としては、具体的には、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン{住友化学工業(株)製「スミライザー」GA−80と同じ。}、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンゼン)イソフタル酸、トリエチルグリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2−チオ−ジエチレン−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、又はオクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等が挙げられる。またこれらヒンダードフェノール化合物とチオエーテル系二次酸化防止剤を併用して用いることも好ましく実施される。
【0025】
該ヒンダードフェノール化合物のポリエステルへの添加方法は特に制限はないが、好ましくはエステル交換反応、又はエステル化反応終了後であって、重合反応が完了するまでの間の任意の段階で添加する方法が挙げられる。
【0026】
さらに本発明においてポリエステル成分Aを構成する共重合ポリエステルは、その共重合ポリエステルを基準として、ジエチレングリコール単位が0.5〜5.0重量%共重合されているポリエステルであることが好ましい。共重合ポリエステルのジエチレングリコール単位の共重合量をこの範囲とする為には、重縮合反応の温度や時間を制御する他に、共重合ポリエステルの重縮合反応を実施する際にカルボン酸アルカリ金属塩を、共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準として20〜500ミリモル%、好ましくは100〜400ミリモル%含有せしめることが好ましく実施される。該カルボン酸アルカリ金属塩の含有量が20ミリモル%未満の場合は、ジエチレングリコール(DEG)含有量が増加して、5.0重量%を超えることが予想され、複合繊維紡糸時の断糸が増加し、工程安定性が悪くなる。一方500ミリモル%を越えた場合も、熱安定性が悪化して、紡糸時の断糸が増加し、紡糸調子が悪くなる。同様にジエチレングリコール単位の共重合量が0.5重量%未満であると、熱安定性が悪化して、紡糸時の断糸が増加し、紡糸調子が悪くなる。5.0重量%を超えると、複合繊維紡糸時の断糸が増加し、工程安定性が悪くなる。該カルボン酸アルカリ金属塩としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどを挙げることができる。尚、該ジエチレングリコール単位の共重合量を0.5重量%未満とする為には、多大な設備投資費用、生産性低下が発生する為好ましくない。
【0027】
本発明において、ポリエステル成分Bは、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルである。ここで「主たる」とは全繰り返し単位のうち80モル%以上であることを表す。ここで該ポリエステル成分Bは、エチレンテレフタレート単位を構成する成分以外の第3成分を共重合した、共重合ポリエチレンテレフタレートであってもよい。上記第3成分(共重合成分)は、ジカルボン酸成分またはグリコール成分のいずれでもよい。第3成分として好ましく用いられる成分としては、ジカルボン酸成分として、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、若しくはフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、若しくはデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、又はシクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられる。グリコール成分としてはトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、又は2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン等が例示され、これらは単独又は二種以上を使用することができる。
【0028】
本発明におけるポリエステル成分A及びBの固有粘度については特に限定はないが、好ましくは、ポリエステル成分Aは0.3〜1.0の範囲に、ポリエステル成分Bは0.5〜0.8の範囲にあることが好ましい。特にポリエステル成分Bの固有粘度が0.5未満の場合、最終的に得られる極細繊維の強度が低下し好ましくない。
【0029】
本発明の分割型ポリエステル複合繊維中に含有されるアンチモン及びゲルマニウム金属元素量は20ppm以下である必要がある。また0ppmに極めて近い方がより好ましい。ここでいうアンチモン及びゲルマニウム金属元素とは、通常ポリエステル製造時の重合触媒として使用されている。このアンチモン金属元素量が多いと複合繊維成形時に紡糸口金周辺への付着物が増加し、安定した繊維の製造が困難となり、またゲルマニウム元素量が多いと繊維製造に必要なポリエステルのコストがアップする為好ましくない。アンチモン及びゲルマニウム金属元素量は15ppm以下にあることが好ましく、10ppm以下にあることが更に好ましい。
【0030】
また、本発明におけるポリエステル成分A及びポリエステル成分Bはチタン化合物を重合触媒として用いて重合されていることが好ましい。ここで言うチタン化合物とは酸化チタンのような無機粒子のものではなく、実質的にポリマーに可溶なチタン化合物のことである。
【0031】
本発明の分割型ポリエステル複合繊維中に含有されるポリエステルに可溶なチタン金属元素量は5〜120ppmの範囲にあることが好ましい。該チタン金属元素とは上述した重合触媒として用いられるチタン金属元素であり、酸化チタンのような無機粒子のものは含まれず、実質的にはポリエステル成分A及びポリエステル成分Bの重合触媒の総量である。これらの重合触媒は、例えばポリエステルをオルトクロロフェノールに溶解後塩酸抽出することにより、無機粒子のものと分離して分析ができる。該ポリエステル系複合繊維中のポリエステルに可溶なチタン金属元素量は7〜100ppmの範囲が好ましく、10〜70ppmの範囲が更に好ましい。
【0032】
本発明にポリエステル成分を重合するのに用いられる重合触媒としてのチタン化合物は、特に限定されず、ポリエステルの重合触媒として一般的なチタン化合物、例えば、酢酸チタンやテトラ−n−ブトキシチタンなどが挙げられる。更にポリエステル成分(B)を重合するにあたっては特に好ましいのは、下記一般式(I)で表されるチタン化合物、又は下記一般式(I)で表されるチタン化合物及び下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸若しくはその無水物とを反応させた生成物からなる群から選ばれた少なくとも一種を含むチタン化合物成分、並びにリン元素換算で5〜80ミリモル%の下記一般式(III)により表されるリン化合物との未反応混合物を重合触媒系として用いることが好ましい。
【0033】
【化1】
[上記式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ同一若しくは異なって、アルキル基又はフェニル基を示し、mは1〜4の整数を示し、かつmが2、3又は4の場合、2個、3個又は4個のR2及びR3は、それぞれ同一であっても異なっていてもどちらでもよい。]
【0034】
【化2】
[上記式中、nは2〜4の整数を表わす。]
【0035】
【化3】
[上記式中、R5、R6及びR7は、同一又は異なって炭素数原子数1〜4のアルキル基を示し、Xは、−CH2−又は―CH(Y)を示す(Yは、ベンゼン環を示す)。]
【0036】
ここで、一般式(I)で表されるチタン化合物としては、具体的にはテトライソプロポキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラフェノキシチタン、オクタアルキルトリチタネート、又はヘキサアルキルジチタネートなどが好ましく用いられる。
【0037】
また、該チタン化合物と反応させる一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物としては、フタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、若しくはピロメリット酸又はこれらの無水物が好ましく用いられる。
【0038】
上記チタン化合物と芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させる場合には、溶媒に芳香族多価カルボン酸又はその無水物の一部又は全部を溶解し、この混合液にチタン化合物を滴下し、0〜200℃の温度で少なくとも30分間、好ましくは30〜150℃の温度で40〜90分間加熱することによって行われる。この際の反応圧力については特に制限はなく、常圧で十分である。
【0039】
なお、芳香族多価カルボン酸又はその無水物を溶解させる溶媒としては、エタノール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ベンゼン又はキシレン等から所望に応じていずれを用いることもできる。
【0040】
ここで、チタン化合物と芳香族多価カルボン酸又はその無水物との反応モル比には特に限定はないが、チタン化合物の割合が高すぎると、得られるポリエステルの色調が悪化したり、軟化点が低下したりすることがあり、逆にチタン化合物の割合が低すぎると重合反応が進みにくくなることがある。このため、チタン化合物と芳香族多価カルボン酸又はその無水物との反応モル比は、2/1〜2/5の範囲内とすることが好ましい。またこれ以外の条件によっても上記チタン化合物と芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させることができる条件であれば特に限定はない。
【0041】
本発明において重合触媒として用いる重合触媒系は、上記のチタン化合物成分と、前記一般式(III)により表されるリン化合物との未反応混合物から実質的になるものであり、該リン化合物としては、カルボメトキシメタンホスホン酸、カルボエトキシメタンホスホン酸、カルボプロポキシメタンホスホン酸、カルボプトキシメタンホスホン酸、カルボメトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボエトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボプロトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸若しくはカルボブトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸のジメチルエステル類、ジエチルエステル類、ジプロピルエステル類又はジブチルエステル類から選ばれることが好ましい。
【0042】
上記のリン化合物は、通常安定剤として使用されるリン化合物に比較して、チタン化合物又はチタン化合物成分(以下「チタン化合物等」と略称する。)との反応が比較的緩やかに進行するので、反応中におけるチタン化合物等の触媒活性持続時間が長く、結果として該チタン化合物のポリエステルへの添加量を少なくすることができ、また、本発明のように触媒に対し多量に安定剤を添加する場合であっても、ポリエステルの熱安定性を損ない難い特性を有している。
【0043】
上述のリン化合物は、リン元素換算で5〜80ミリモル%の範囲にあることが好ましい。該リン化合物が5ミリモル%未満であるとポリエステルの色調が低下しやすくなり、また80ミリモル%を超えると重合反応が進行しにくくなる為好ましくない。該リン化合物の添加量は10〜60ミリモル%の範囲にあることが更に好ましい。
【0044】
また、前記の重合触媒系は、ポリエステル成分Bの重合触媒として用いるだけでなく、ポリエステル成分Aの重合触媒として用い、ポリエステル成分A及びポリエステル成分Bのそれぞれが前記重合触媒系を用いて重合されていることが好ましい。
【0045】
本発明に用いるポリエステル成分A及びポリエステル成分Bの製造方法については特に限定はなく、テレフタル酸をグリコール成分と直接エステル化反応させた後重合させる方法、又はテレフタル酸のエステル形成性誘導体をグリコール成分とエステル交換反応させた後重合させる方法のいずれを採用しても良い。ここでエステル形成性誘導体とは低級アルキルエステル、低級アリールエステル等を表わす。
【0046】
しかしながら、芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体を原料とし、エステル交換反応を経由する製造方法とすることが好ましい。該製造方法は、テレフタル酸を原料とする製造方法に比較し、重縮合反応中に安定剤として添加したリン化合物の飛散が少ないという利点がある。
【0047】
また、その中でもジメチルテレフタレートを原料物質とする製造方法では、チタン化合物等の添加量を低減できる。このときチタン化合物の一部又は全量をエステル交換反応開始前に添加し、エステル交換反応触媒と重縮合反応触媒の二つ触媒を兼用させる製造方法が好ましい。尚、該エステル交換反応は常圧反応で実施しても、0.05〜0.20MPaの加圧下にて実施してもよい。
【0048】
また本発明に用いられるポリエステル成分Bを、エステル交換反応を経由して得る場合にはエステル交換反応触媒として、カルシウム化合物及び/又はマグネシウム化合物を使用することが好ましい。ここで言うカルシウム化合物、マグネシウム化合物とは、エステル交換反応触媒として活性がある化合物のことである。具体的には、マグネシウム化合物としては酢酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、安息香酸カルシウム、蟻酸カルシウム、若しくはステアリン酸カルシウム酸又はこれらの水和物などを、マグネシウム化合物としては酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、安息香酸マグネシウム、蟻酸マグネシウム、若しくはステアリン酸マグネシウム又はこれらの水和物等がそれぞれ好ましく使用され、これらは単独で用いても2種以上を併用しても良い。
【0049】
本発明に用いられるポリエステル成分A及びポリエステル成分Bには、必要に応じて少量の添加剤、例えば滑剤、顔料、染料、酸化防止剤、固相重合促進剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤、又は艶消剤等を含んでいてもよく、特にポリエステル成分Bには、艶消剤として酸化チタンなどが好ましく添加される。
【0050】
以上に説明したポリエステル成分A及びポリエステル成分Bを用いて本発明の分割型ポリエステル複合繊維を製造するには、従来公知の複合紡糸口金及び複合紡糸装置を用い、任意の製糸条件を何らの支障なく採用することができる。例えば500〜2500m/分の速度で溶融紡糸し、延伸、熱処理する方法、1500〜5000m/分の速度で溶融紡糸し、延伸と仮撚加工とを同時に若しくは続いて行う方法、又は5000m/分以上の高速で溶融紡糸し、用途によっては延伸工程を省略する方法等において任意の製糸条件を採用することができる。また得られた繊維又はこの繊維から製造された織編物を、100℃以上の温度で熱処理して構造の安定性を向上させても良いし、さらに必要に応じて弛緩熱処理などを併用してもよい。
【0051】
具体的なポリエステル成分Aとポリエステル成分Bとの複合形状及び夫々の成分の横断面形状は、ポリエステル成分Aによりポリエステル成分Bが複数個に分割された形状を示すものであれば任意であり、そのいくつかの例を図1(a)〜(i)に示す。
【0052】
図1において、Aは共重合ポリエステル組成物(ポリエステル成分A)であり、Bはポリエステル(ポリエステル成分B)である。図中(a)〜(c)は、ポリエステル成分Bがポリエステル成分Aにより16に分割されている分割型複合繊維の横断面形状を示した模式図である。また、図中(d)は、ポリエステル成分Aを海、ポリエステル成分Bを島とした海島型の分割型複合繊維の横断面形状を示した模式図であり、ポリエステル成分Bがポリエステル成分Aにより26に分割されている。さらに、図中(e)、(f)は、偏平断面形状の分割型複合繊維の横断面形状を示した模式図であり、最後に図中(g)〜(i)は、それぞれ(a)〜(c)の繊維に対し、さらに外周部をポリエステル成分Aで被覆したものである。
【0053】
上記分割型複合繊維は、布帛になした後、アルカリ処理及び/又は熱水で処理することによってポリエステル成分Aを除去し極細繊維となすことができる。また同時に繊維間に空間を持たせることができるので、嵩高でソフトな風合を呈する布帛を得るのに適している。ここでアルカリ水溶液の処理を行うには特に限定はないが、例えば濃度10〜100g/Lの水酸化ナトリウム水溶液を60℃以上に保ち、この溶液中に布帛を浸す方法が通常行われる。処理時間は共重合ポリエステル成分Aを除去するのに適切な時間であり、通常0.5〜30時間である。この処理は連続式で行っても、バッチ式で行ってもなんら問題はない。この処理の終了後、洗浄・乾燥処理などを行い、上述のような極細繊維を得ることができる。この本発明の極細繊維は実質的にポリエステルB成分のみからなる一つの構成単位(単糸)を0.001〜0.3dtexとするのが好ましく、且つ該構成単位の数を16以上、特に24以上とする時、得られる効果(嵩高でソフトな風合を呈すること)が顕著となり好ましい。
【0054】
ポリエステル成分Aとポリエステル成分Bとの分割型ポリエステル複合繊維における複合比率は、アルカリ処理による分割の容易性と複合繊維の繊維物性とを両立させるという観点から、(成分A:成分B)は重量比で(80:20)〜(2:98)の範囲とすることが好ましく、(60:40)〜(5:95)の範囲とすることがさらに好ましい。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を下記実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何等限定を受けるものでは無い。尚、実施例中の各値は、以下の方法に従って求めた。
(1)固有粘度:
ポリエステルポリマーの固有粘度は、35℃オルトクロロフェノール溶液で、常法に従って35℃において測定した粘度の値から求めた。
(2)ジエチレングリコール量:
抱水ヒドラジン(ヒドラジンヒドラート)を用いてサンプルを分解し、分解物をガスクロマトグラフィー(HEWLETT PACKARD社製、HP6890 Series GC System)を用いてジエチレングリコール量を定量した。定量値から測定したポリマーの重量を基準とした時の共重合量の重量百分率を求めた。
(3)ポリマー色調(カラーL値及びカラーb値):
ポリマーチップを130℃、1時間乾燥結晶化処理後、日本電色工業株式会社製測色色差計Z−1001DPを用いて測定した。L値は明度を示し、その数値が大きいほど明度が高いことを示し、b値はその値が大きいほど黄色味の度合いが大きいことを示す。他の詳細な測定手法はJIS Z−8729に従って行った。
(4)布帛(平織物)色調(カラーL値及びカラーb値):
定法に従い平織物を作成しその布帛(平織物)を八つ折りにし、グレタグ・マクベス社(GretagMacbeth)製C3100測色色差計を用いて測定した。
(5)チタン、アンチモン、ゲルマニウム、カルシウム、及びナトリウム含有量:
複合繊維サンプルをオルトクロロフェノールに溶解した後、0.5規定塩酸で抽出操作を行った。この抽出液について株式会社日立製作所製Z−8100型原子吸光光度計を用いて定量を行った。
(6)共重合ポリエステル成分A中のスルホイソフタル酸金属塩化合物及びポリマー中のリン元素の含有量:
ポリマーサンプルをアルミ板上で加熱溶融した後、圧縮プレス機で平坦面を有する試験成形体を作成し、蛍光X線装置(理学電機工業株式会社製3270E型)を用いて硫黄元素の含有量を測定して、全酸成分に対する共重合モル%を求めた。更にリン元素の含有量を測定し、リン化合物の添加ミリモル%を求めた。
(7)共重合ポリエステル成分A中のポリエチレングリコール及びヒンダードフェノール型酸化防止剤の含有量:
ポリマーサンプルを重水素化トリフルオロ酢酸/重水素化クロロホルム=1/1混合溶媒に溶解後、日本電子(株)製JEOL A−600 超伝導FT−NMRを用いて核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)を測定した。そのスペクトルパターンから常法に従って、ポリエチレングリコール成分含有量及びヒンダードフェノール型酸化防止剤含有量を定量した。
(8)共重合ポリエステル成分A中のポリエチレングリコールの数平均分子量:
サンプルを過剰量のメタノールとともに封管し、オートクレーブ中260℃、4時間メタノール分解し、分解物をクロロホルムで10倍に希釈した。その後、昭和電工(株)製Shodex GPC−101を用いて、展開溶剤にクロロホルムを使用し、分子量測定を行って、得られた分子量分布曲線から数平均分子量を算出し、有効数字1桁で記した。
(9)紡糸口金に発生する付着物の層:
2日間紡糸し、口金の吐出口外縁に発生する付着物の層の高さを測定した。この付着物層の高さが大きいほど吐出されたポリエステルメルトのフィラメント状流にベンディングが発生しやすく、このポリエステルの成形性は低くなる。すなわち、紡糸口金に発生する付着物層の高さは、当該ポリエステルの成形性の指標である。
【0056】
[参考例1]
ポリエステル成分A用ポリマーの製造:
テレフタル酸ジメチル97.5部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル3.8部、エチレングリコール65部との混合物に、テトラ−n−ブトキシチタン0.017部、酢酸ナトリウム0.109部を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、140℃から徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを系外に留出させながら、240℃まで昇温してエステル交換反応を行った。
【0057】
次いで、得られた反応生成物に数平均分子量4000のポリエチレングリコール11部、ヒンダードフェノール化合物(住友化学工業株式会社製、「スミライザー」GA−80)0.30部を添加し、撹拌機及びグリコール留出コンデンサーを設けた別の反応器に移し、240℃から285℃に徐々に昇温すると共に、70Pa以下の高真空に圧力を下げながら重合反応を行った。反応系の溶融粘度をトレースしつつ、固有粘度が0.70となる時点で重合反応を打ち切った。
溶融ポリマーを反応器底部よりストランド状に冷却水中に押し出し、ストランドカッターを用いて切断してチップ化した。結果を表1に示す。
【0058】
[参考例2]
ポリエステル成分A用ポリマーの製造:
参考例1において、エステル交換反応終了時にトリエチルホスホノアセテート0.023部を添加し、エステル交換反応を終了させたこと以外は同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0059】
[比較参考例1]
ポリエステル成分A用ポリマーの製造:
テレフタル酸ジメチル97.5部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル3.8部、エチレングリコール65部との混合物に、酢酸マンガン四水和物0.03部、酢酸ナトリウム0.109部を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、140℃から徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを系外に留出させながら、240℃まで昇温してエステル交換反応を行った。その後、リン酸トリメチル0.02重量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
【0060】
次いで、得られた反応生成物に数平均分子量4000のポリエチレングリコール11部、ヒンダードフェノール化合物(住友化学工業株式会社製、「スミライザー」GA−80)0.30部、三酸化二アンチモン0.045部を添加し、撹拌機及びグリコール留出コンデンサーを設けた別の反応器に移し、240℃から285℃に徐々に昇温すると共に、70Pa以下の高真空に圧力を下げながら重合反応を行った。反応系の溶融粘度をトレースしつつ、固有粘度が0.70となる時点で重合反応を打ち切った。
溶融ポリマーを反応器底部よりストランド状に冷却水中に押し出し、ストランドカッターを用いて切断してチップ化した。結果を表1に示す。
【0061】
[参考例3]
ポリエステル成分B用ポリマーの製造:
テレフタル酸ジメチル100部とエチレングリコール70部との混合物に、テトラ−n−ブトキシチタン0.009部を加圧反応が可能なステンレス製容器に仕込み、0.07MPaの加圧を行い140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、トリエチルホスホノアセテート0.023部、テラゾールブルー0.00005部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
【0062】
次いで、得られた反応生成物に酸化チタン20重量%のエチレングリコールスラリーを1.5部添加後、撹拌機及びグリコール留出コンデンサーを設けた別の反応器に移し、240℃から285℃に徐々に昇温すると共に、70Pa以下の高真空に圧力を下げながら重合反応を行った。反応系の溶融粘度をトレースしつつ、固有粘度が0.63となる時点で重合反応を打ち切った。
溶融ポリマーを反応器底部よりストランド状に冷却水中に押し出し、ストランドカッターを用いて切断してチップ化した。結果を表1に示す。
【0063】
[参考例4]
トリメリット酸チタンの調整:
無水トリメリット酸のエチレングリコール溶液(0.2%)にテトラブトキシチタンを無水トリメリット酸に対して1/2モル添加し、空気中常圧下で80℃に保持して60分間反応させた。その後、常温に冷却し、10倍量のアセトンによって生成触媒を再結晶化させ、析出物を濾紙で濾過し、100℃で2時間乾燥させて目的の触媒を得た。
【0064】
[参考例5]
ポリエステル成分B用ポリマーの製造:
参考例3において、チタン化合物として、上記参考例の方法で調整したトリメリット酸チタン0.016部に変更したこと以外は同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0065】
[参考例6]
ポリエステル成分B用ポリマーの製造:
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール70重量部との混合物に、酢酸カルシウム一水和物0.064重量部を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを系外に留出させながら、エステル交換反応を行った。その後、56重量%濃度のリン酸水溶液0.044重量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
【0066】
次いで、得られた反応生成物に上記参考例の方法で合成したトリメリット酸チタン0.016部、トリエチルホスホノアセテート0.023部、テラゾールブルー0.00005部、及び酸化チタン20重量%のエチレングリコールスラリー1.5部を添加後、撹拌装置、窒素導入口、減圧口、及び蒸留装置を備えた反応容器に移し、240℃から285℃に徐々に昇温すると共に、70Pa以下の高真空に圧力を下げながら重合反応を行った。反応系の溶融粘度をトレースしつつ、固有粘度が0.63となる時点で重合反応を打ち切った。
溶融ポリマーを反応器底部よりストランド状に冷却水中に押し出し、ストランドカッターを用いて切断してチップ化した。結果を表1に示す。
【0067】
[参考例7]
ポリエステル成分B用ポリマーの製造:
参考例3において、チタン化合物として、上記参考例の方法で調整したトリメリット酸チタン0.016部に変更し、トリエチルホスホノアセテートを添加しなかったこと以外は同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0068】
[比較参考例2]
ポリエステル成分B用ポリマーの製造:
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール70重量部との混合物に、酢酸カルシウム一水和物0.064重量部を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを系外に留出させながら、エステル交換反応を行った。その後、56重量%濃度のリン酸水溶液0.072重量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
【0069】
次いで得られた反応生成物に、三酸化二アンチモン0.045部、酸化チタン20重量%のエチレングリコールスラリー1.5部を添加後、撹拌装置、窒素導入口、減圧口及び蒸留装置を備えた反応容器に移し、240℃から285℃に徐々に昇温すると共に、70Pa以下の高真空に圧力を下げながら重合反応を行った。反応系の溶融粘度をトレースしつつ、固有粘度が0.63となる時点で重合反応を打ち切った。
溶融ポリマーを反応器底部よりストランド状に冷却水中に押し出し、ストランドカッターを用いて切断してチップ化した。結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
[実施例1〜5、比較例1〜4]
ポリエステル成分A及びポリマー成分Bとして、表2に示すように、参考例1〜3、参考例5〜7及び比較参考例1〜2で得られたポリマーを用い、図1の(d)に示す型の口金を使用し、ポリエステル成分Aを海成分、ポリエステルB成分を島成分として複合紡糸口金から島及び海成分を同時紡糸し、海島型複合未延伸糸を得た。その際の紡糸温度は290℃、紡糸速度は3000m/分で、総繊度は83dtex、フィラメント数は20本、1フィラメント中の島数は26、島成分の重量割合は50%(島成分の単繊度は0.08dtex)、海成分50%の未延伸糸を得た。この複合未延伸糸を、加熱プレート温度は200℃、延伸倍率1.15倍で延伸糸を得た。次いで、得られた複合繊維を平織物とし、温度90℃の水酸化ナトリウム水溶液(濃度35g/リットル)中で、50重量%のアルカリ減量処理を行い、極細繊維の織物を得た。結果を表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
表2からも明らかなように、本発明の範囲にあるものは口金異物の発生量が少なく良好な成形性を示したが、本発明の範囲を外れる場合(比較例1〜4)は、口金異物量が非常に多く、成形性が劣るものであった。更に本発明の請求項1〜5までを満たす範囲にあるもの(実施例1〜3、5)は最終的に得られる極細繊維製品の色調も良好なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、紡糸口金を通して長時間連続的に紡糸しても口金異物の発生量が非常に少なく、成形性に優れているという性能を有する分割型ポリエステル複合繊維を提供することができる。また、複合繊維にアルカリ減量等を施すことにより、容易に極細繊維を提供することが出来る。その複合繊維を用いて織編物を作成し、その後にアルカリ減量等を行うと繊維間に空間を持たせることができる。その結果その織編物は嵩高でソフトな風合を呈する布帛を得るのに適している。
【0075】
また本発明においてはアルカリ減量等がおこりやすいポリエステル成分A中のアンチモン元素含有量が少ないので、アルカリ減量排水中に含まれるアンチモン金属元素を低減させることが可能であるので工業上の意義は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の分割型ポリエステル複合繊維の例を示す拡大横断面図である。
【符号の説明】
【0077】
A ポリエステル成分A
B ポリエステル成分B
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方の成分が他方の成分により複数個に分割された繊維横断面形状を有する分割型ポリエステル複合繊維に関する。さらに詳しくは、紡糸口金を通して長時間連続的に紡糸しても口金付着物の発生量が非常に少なく、成形性に優れているという優れた性能を有する分割型ポリエステル複合繊維、及びその複合繊維をアルカリ水溶液または熱水で処理することによって容易、且つ効率的に提供できる極細繊度のポリエステル繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルカリ易溶解性成分が、アルカリ難溶解性成分(もしくはアルカリ非溶解性成分)を複数個に分割するように配置された分割型複合繊維は、アルカリ易溶解性成分を除去することによって、極細繊維糸条が得られること、及び該複合繊維を布帛となした後にアルカリ処理すると絹様風合を呈する布帛を得られること等が広く知られている(例えば、特許文献1、2、3、4参照。)。
【0003】
また、このような方法によって得られる極細ポリエステル繊維は、高融点、高強度、高ヤング率、良好な電気的特性、及び耐薬品性などの優れた特性を有していることから、絹様織編物、スポーツ衣料、若しくはその他の各種衣料用分野、又はフィルター、その他の工業用分野への展開が期待されている。
【0004】
一方、ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルは、その機械的、物理的、化学的性能が優れているため、繊維、フィルム、又はその他の成形物に広く利用されている。ここでポリエステルの重縮合反応段階で使用する触媒の種類によって、反応速度及び得られるポリエステルの品質が大きく左右されることはよく知られている。ポリエチレンテレフタレートの重縮合反応触媒としては、アンチモン化合物が優れた重縮合反応触媒性能を有し、かつ、色調の良好なポリエステルが得られるなどの理由から最も広く使用されている。
【0005】
しかしながらポリエステルを用いて、このような分割型複合繊維を製造する際、長時間にわたって連続的に溶融紡糸すると、口金孔周辺に異物(以下、単に口金異物と称することがある。)が付着堆積し、溶融ポリマー流れの曲がり現象(ベンディング)が発生し、これが原因となって紡糸、延伸工程において毛羽及び/又は断糸などを発生するという成形性の問題がある。
【0006】
該アンチモン化合物以外の重縮合反応触媒として、チタンテトラブトキシドのようなチタン化合物を用いることも提案されているが、このようなチタン化合物を使用した場合、上記のような、口金異物の堆積に起因する成形性の問題は解決できるが、得られたポリエステル自身が黄色く着色されており、また、溶融熱安定性も不良であるという新たな問題が発生する。
【0007】
上記着色問題を解決するために、コバルト化合物をポリエステルに添加して黄味を抑えることが一般的に行われている。確かにコバルト化合物を添加することによってポリエステルの色調(b値)は改善することができるが、コバルト化合物を添加することによってポリエステルの溶融熱安定性が低下し、ポリマーの分解も起こりやすくなるという問題がある。
【0008】
また、他のチタン化合物として、水酸化チタンをポリエステル製造用触媒として用いること(例えば特許文献5参照。)、またα−チタン酸をポリエステル製造用触媒として用いること(例えば特許文献6参照。)が開示されている。しかしながら、前者の方法では水酸化チタンの粉末化が容易でなく、一方、後者の方法ではα−チタン酸が変質し易いため、その保存、取り扱いが容易でなく、したがっていずれも工業的に採用するには適当ではなく、更に、良好な色調(b値)のポリマーを得ることも困難である。
【0009】
また、チタン化合物とトリメリット酸とを反応させて得られた生成物をポリエステルの製造用触媒として用いること(例えば特許文献7参照。)、またチタン化合物と亜リン酸エステルとを反応させて得られた生成物をポリエステル製造用触媒として使用すること(例えば特許文献8参照。)が開示されている。
【0010】
確かに、これらの方法によれば、ポリエステルの溶融熱安定性はある程度向上しているものの、得られるポリマーの色調が十分なものではなく、したがってポリマー色調のさらなる改善が望まれている。また、チタン化合物と特定のホスホン酸化合物を反応させた触媒の使用すること(例えば特許文献9参照。)が開示されている。この方法ではポリマー色調が大きく改良されているが、ポリエステルの耐熱性の改良はまだ十分なレベルに達していない。
【0011】
【特許文献1】特開昭54−138620号公報
【特許文献2】特開平1−162825号公報
【特許文献3】特開平5−9811号公報
【特許文献4】特開平8−109522公報
【特許文献5】特公昭48−2229号公報
【特許文献6】特公昭47−26597号公報
【特許文献7】特公昭59−46258号公報
【特許文献8】特開昭58−38722号公報
【特許文献9】国際公開第01/00706号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記従来技術が有していた問題点を解消し、紡糸口金を通して長時間連続的に紡糸しても口金異物の発生量が非常に少なく、成形性に優れているという優れた性能を有する分割型ポリエステル複合繊維を提供することにある。
【0013】
さらに、本発明の他の目的は、前記複合繊維をアルカリ水溶液または熱水で処理することによって容易、且つ効率的に極細繊度のポリエステル繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の目的は、ポリエステル成分A及びポリエステル成分Bとからなり、該ポリエステル成分Bが該ポリエステル成分Aにより複数個に分割された横断面形状を有する複合繊維であって、
(1)該ポリエステル成分Aが、スルホイソフタル酸金属塩基を含む化合物をポリエステルを構成する全酸成分を基準として1〜8モル%共重合した共重合ポリエステルに、さらに該ポリエステル成分Aを基準として数平均分子量が400〜30000のポリオキシアルキレングリコールを1〜20重量%、ヒンダードフェノール型酸化防止剤を0.02〜3重量%含有する共重合ポリエステル組成物であり、
(2)該ポリエステル成分Bがエチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルであり、
且つ、該複合繊維中に含有されるアンチモン及びゲルマニウム金属元素量が20ppm以下である分割型ポリエステル複合繊維によって達成される。
【0015】
さらに本発明の他の目的は、該複合繊維をアルカリ水溶液及び/又は熱水を用いて該複合繊維中のポリエステル成分Aを除去してなる極細ポリエステル繊維によって達成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、紡糸口金を通して長時間連続的に紡糸しても口金異物の発生量が非常に少なく、成形性に優れているという優れた性能を有する分割型ポリエステル複合繊維を提供することができる。また、複合繊維にアルカリ減量等を施すことにより、容易に極細繊維を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明の分割型複合繊維は、ポリエステル成分Aとポリエステル成分Bとからなり、該ポリエステル成分Bが該ポリエステル成分Aにより複数個に分割された横断面形状を有する複合繊維である。
【0018】
ここで該ポリエステル成分Aは、スルホイソフタル酸金属塩基を含む化合物をポリエステルを構成する全酸成分を基準として1〜8モル%共重合した共重合ポリエステルに、さらに該ポリエステル成分Aを基準として数平均分子量400〜30000のポリオキシアルキレングリコールを1〜20重量%、ヒンダードフェノール化合物を0.02〜3重量%含有する共重合ポリエステル組成物である。
【0019】
ここで、該ポリエステルはエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とすることが好ましく、すなわち共重合ポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。ここで「主たる」とは全繰り返し単位のうち80モル%以上であることを表す。更に該共重合ポリエステルはスルホイソフタル酸金属塩基を含む化合物、及びポリオキシアルキレングリコール以外の成分が少量、好ましくは10モル%以下共重合されていても良い。
【0020】
ここで、スルホイソフタル酸金属塩基とは、イソフタル酸基にスルホン酸リチウム基、スルホン酸ナトリウム基、又はスルホン酸カリウム基等が結合した基が挙げられる。さらにスルホイソフタル酸金属塩基を含む化合物としては、5−リチウムスルホイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸等を挙げることができ、これらのスルホイソフタル酸金属塩基を含む化合物は、共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準として1〜8モル%共重合されていることが必要である。該共重合量が1モル%未満の場合は、十分なアルカリ減量性が得られない。一方8モル%より多い場合は、溶融粘度が上昇して、高重合度のポリマーが得られず、複合繊維紡糸時の断糸が増加し、工程安定性が悪化する傾向があるので不適当である。スルホイソフタル酸金属塩基を含む化合物の共重合量は1〜5モル%の範囲が好ましく、2〜4モル%の範囲が更に好ましい。
【0021】
また、このポリエステル成分Aとして用いる共重合ポリエステル組成物は、数平均分子量が400〜30000のポリオキシアルキレングリコールを1〜20重量%含有していることが必要である。該ポリオキシアルキレングリコールの数平均分子量が400未満では、十分なアルカリ減量速度が得られず、30000を超える場合、コストが高くなる為好ましくない。
【0022】
また、該ポリオキシアルキレングリコールの含有量が1重量%未満の場合は、十分なアルカリ減量速度が得られず、該ポリオキシアルキレングリコールの含有量が20重量%より多い場合は、耐熱性が低下して複合繊維紡糸時の断糸が増加し、工程安定性が悪化する傾向があるので不適当である。該ポリオキシアルキレングリコールはポリエステル成分Aに共重合されていることが好ましい為、数平均分子量は600〜10000の範囲が好ましく、1000〜6000の範囲が更に好ましい。また該ポリオキシアルキレングリコールの含有量は3〜15重量%の範囲が好ましく、5〜12重量%の範囲が更に好ましい。
【0023】
ここでポリオキシアルキレングリコールとして、具体的にはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリテトラメチレングリコールが例示されるが、アルカリ減量速度等の観点からポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0024】
さらに加えて、ポリエステル成分Aとして用いる共重合ポリエステル組成物は、ヒンダードフェノール化合物を0.02〜3重量%、好ましくは0.1〜2重量%含有していることが必要である。該ヒンダードフェノール化合物の含有量が0.02重量%未満の場合は、熱安定性が悪く、複合繊維紡糸時の断糸が増加し、工程安定性が悪くなり、一方、3重量%を越えた場合も、紡糸時の断糸が増加し工程安定性が悪化する。該ヒンダードフェノール化合物としては、具体的には、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン{住友化学工業(株)製「スミライザー」GA−80と同じ。}、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンゼン)イソフタル酸、トリエチルグリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2−チオ−ジエチレン−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、又はオクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等が挙げられる。またこれらヒンダードフェノール化合物とチオエーテル系二次酸化防止剤を併用して用いることも好ましく実施される。
【0025】
該ヒンダードフェノール化合物のポリエステルへの添加方法は特に制限はないが、好ましくはエステル交換反応、又はエステル化反応終了後であって、重合反応が完了するまでの間の任意の段階で添加する方法が挙げられる。
【0026】
さらに本発明においてポリエステル成分Aを構成する共重合ポリエステルは、その共重合ポリエステルを基準として、ジエチレングリコール単位が0.5〜5.0重量%共重合されているポリエステルであることが好ましい。共重合ポリエステルのジエチレングリコール単位の共重合量をこの範囲とする為には、重縮合反応の温度や時間を制御する他に、共重合ポリエステルの重縮合反応を実施する際にカルボン酸アルカリ金属塩を、共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準として20〜500ミリモル%、好ましくは100〜400ミリモル%含有せしめることが好ましく実施される。該カルボン酸アルカリ金属塩の含有量が20ミリモル%未満の場合は、ジエチレングリコール(DEG)含有量が増加して、5.0重量%を超えることが予想され、複合繊維紡糸時の断糸が増加し、工程安定性が悪くなる。一方500ミリモル%を越えた場合も、熱安定性が悪化して、紡糸時の断糸が増加し、紡糸調子が悪くなる。同様にジエチレングリコール単位の共重合量が0.5重量%未満であると、熱安定性が悪化して、紡糸時の断糸が増加し、紡糸調子が悪くなる。5.0重量%を超えると、複合繊維紡糸時の断糸が増加し、工程安定性が悪くなる。該カルボン酸アルカリ金属塩としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどを挙げることができる。尚、該ジエチレングリコール単位の共重合量を0.5重量%未満とする為には、多大な設備投資費用、生産性低下が発生する為好ましくない。
【0027】
本発明において、ポリエステル成分Bは、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルである。ここで「主たる」とは全繰り返し単位のうち80モル%以上であることを表す。ここで該ポリエステル成分Bは、エチレンテレフタレート単位を構成する成分以外の第3成分を共重合した、共重合ポリエチレンテレフタレートであってもよい。上記第3成分(共重合成分)は、ジカルボン酸成分またはグリコール成分のいずれでもよい。第3成分として好ましく用いられる成分としては、ジカルボン酸成分として、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、若しくはフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、若しくはデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、又はシクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられる。グリコール成分としてはトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、又は2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン等が例示され、これらは単独又は二種以上を使用することができる。
【0028】
本発明におけるポリエステル成分A及びBの固有粘度については特に限定はないが、好ましくは、ポリエステル成分Aは0.3〜1.0の範囲に、ポリエステル成分Bは0.5〜0.8の範囲にあることが好ましい。特にポリエステル成分Bの固有粘度が0.5未満の場合、最終的に得られる極細繊維の強度が低下し好ましくない。
【0029】
本発明の分割型ポリエステル複合繊維中に含有されるアンチモン及びゲルマニウム金属元素量は20ppm以下である必要がある。また0ppmに極めて近い方がより好ましい。ここでいうアンチモン及びゲルマニウム金属元素とは、通常ポリエステル製造時の重合触媒として使用されている。このアンチモン金属元素量が多いと複合繊維成形時に紡糸口金周辺への付着物が増加し、安定した繊維の製造が困難となり、またゲルマニウム元素量が多いと繊維製造に必要なポリエステルのコストがアップする為好ましくない。アンチモン及びゲルマニウム金属元素量は15ppm以下にあることが好ましく、10ppm以下にあることが更に好ましい。
【0030】
また、本発明におけるポリエステル成分A及びポリエステル成分Bはチタン化合物を重合触媒として用いて重合されていることが好ましい。ここで言うチタン化合物とは酸化チタンのような無機粒子のものではなく、実質的にポリマーに可溶なチタン化合物のことである。
【0031】
本発明の分割型ポリエステル複合繊維中に含有されるポリエステルに可溶なチタン金属元素量は5〜120ppmの範囲にあることが好ましい。該チタン金属元素とは上述した重合触媒として用いられるチタン金属元素であり、酸化チタンのような無機粒子のものは含まれず、実質的にはポリエステル成分A及びポリエステル成分Bの重合触媒の総量である。これらの重合触媒は、例えばポリエステルをオルトクロロフェノールに溶解後塩酸抽出することにより、無機粒子のものと分離して分析ができる。該ポリエステル系複合繊維中のポリエステルに可溶なチタン金属元素量は7〜100ppmの範囲が好ましく、10〜70ppmの範囲が更に好ましい。
【0032】
本発明にポリエステル成分を重合するのに用いられる重合触媒としてのチタン化合物は、特に限定されず、ポリエステルの重合触媒として一般的なチタン化合物、例えば、酢酸チタンやテトラ−n−ブトキシチタンなどが挙げられる。更にポリエステル成分(B)を重合するにあたっては特に好ましいのは、下記一般式(I)で表されるチタン化合物、又は下記一般式(I)で表されるチタン化合物及び下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸若しくはその無水物とを反応させた生成物からなる群から選ばれた少なくとも一種を含むチタン化合物成分、並びにリン元素換算で5〜80ミリモル%の下記一般式(III)により表されるリン化合物との未反応混合物を重合触媒系として用いることが好ましい。
【0033】
【化1】
[上記式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ同一若しくは異なって、アルキル基又はフェニル基を示し、mは1〜4の整数を示し、かつmが2、3又は4の場合、2個、3個又は4個のR2及びR3は、それぞれ同一であっても異なっていてもどちらでもよい。]
【0034】
【化2】
[上記式中、nは2〜4の整数を表わす。]
【0035】
【化3】
[上記式中、R5、R6及びR7は、同一又は異なって炭素数原子数1〜4のアルキル基を示し、Xは、−CH2−又は―CH(Y)を示す(Yは、ベンゼン環を示す)。]
【0036】
ここで、一般式(I)で表されるチタン化合物としては、具体的にはテトライソプロポキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラフェノキシチタン、オクタアルキルトリチタネート、又はヘキサアルキルジチタネートなどが好ましく用いられる。
【0037】
また、該チタン化合物と反応させる一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物としては、フタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、若しくはピロメリット酸又はこれらの無水物が好ましく用いられる。
【0038】
上記チタン化合物と芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させる場合には、溶媒に芳香族多価カルボン酸又はその無水物の一部又は全部を溶解し、この混合液にチタン化合物を滴下し、0〜200℃の温度で少なくとも30分間、好ましくは30〜150℃の温度で40〜90分間加熱することによって行われる。この際の反応圧力については特に制限はなく、常圧で十分である。
【0039】
なお、芳香族多価カルボン酸又はその無水物を溶解させる溶媒としては、エタノール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ベンゼン又はキシレン等から所望に応じていずれを用いることもできる。
【0040】
ここで、チタン化合物と芳香族多価カルボン酸又はその無水物との反応モル比には特に限定はないが、チタン化合物の割合が高すぎると、得られるポリエステルの色調が悪化したり、軟化点が低下したりすることがあり、逆にチタン化合物の割合が低すぎると重合反応が進みにくくなることがある。このため、チタン化合物と芳香族多価カルボン酸又はその無水物との反応モル比は、2/1〜2/5の範囲内とすることが好ましい。またこれ以外の条件によっても上記チタン化合物と芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させることができる条件であれば特に限定はない。
【0041】
本発明において重合触媒として用いる重合触媒系は、上記のチタン化合物成分と、前記一般式(III)により表されるリン化合物との未反応混合物から実質的になるものであり、該リン化合物としては、カルボメトキシメタンホスホン酸、カルボエトキシメタンホスホン酸、カルボプロポキシメタンホスホン酸、カルボプトキシメタンホスホン酸、カルボメトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボエトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボプロトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸若しくはカルボブトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸のジメチルエステル類、ジエチルエステル類、ジプロピルエステル類又はジブチルエステル類から選ばれることが好ましい。
【0042】
上記のリン化合物は、通常安定剤として使用されるリン化合物に比較して、チタン化合物又はチタン化合物成分(以下「チタン化合物等」と略称する。)との反応が比較的緩やかに進行するので、反応中におけるチタン化合物等の触媒活性持続時間が長く、結果として該チタン化合物のポリエステルへの添加量を少なくすることができ、また、本発明のように触媒に対し多量に安定剤を添加する場合であっても、ポリエステルの熱安定性を損ない難い特性を有している。
【0043】
上述のリン化合物は、リン元素換算で5〜80ミリモル%の範囲にあることが好ましい。該リン化合物が5ミリモル%未満であるとポリエステルの色調が低下しやすくなり、また80ミリモル%を超えると重合反応が進行しにくくなる為好ましくない。該リン化合物の添加量は10〜60ミリモル%の範囲にあることが更に好ましい。
【0044】
また、前記の重合触媒系は、ポリエステル成分Bの重合触媒として用いるだけでなく、ポリエステル成分Aの重合触媒として用い、ポリエステル成分A及びポリエステル成分Bのそれぞれが前記重合触媒系を用いて重合されていることが好ましい。
【0045】
本発明に用いるポリエステル成分A及びポリエステル成分Bの製造方法については特に限定はなく、テレフタル酸をグリコール成分と直接エステル化反応させた後重合させる方法、又はテレフタル酸のエステル形成性誘導体をグリコール成分とエステル交換反応させた後重合させる方法のいずれを採用しても良い。ここでエステル形成性誘導体とは低級アルキルエステル、低級アリールエステル等を表わす。
【0046】
しかしながら、芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体を原料とし、エステル交換反応を経由する製造方法とすることが好ましい。該製造方法は、テレフタル酸を原料とする製造方法に比較し、重縮合反応中に安定剤として添加したリン化合物の飛散が少ないという利点がある。
【0047】
また、その中でもジメチルテレフタレートを原料物質とする製造方法では、チタン化合物等の添加量を低減できる。このときチタン化合物の一部又は全量をエステル交換反応開始前に添加し、エステル交換反応触媒と重縮合反応触媒の二つ触媒を兼用させる製造方法が好ましい。尚、該エステル交換反応は常圧反応で実施しても、0.05〜0.20MPaの加圧下にて実施してもよい。
【0048】
また本発明に用いられるポリエステル成分Bを、エステル交換反応を経由して得る場合にはエステル交換反応触媒として、カルシウム化合物及び/又はマグネシウム化合物を使用することが好ましい。ここで言うカルシウム化合物、マグネシウム化合物とは、エステル交換反応触媒として活性がある化合物のことである。具体的には、マグネシウム化合物としては酢酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、安息香酸カルシウム、蟻酸カルシウム、若しくはステアリン酸カルシウム酸又はこれらの水和物などを、マグネシウム化合物としては酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、安息香酸マグネシウム、蟻酸マグネシウム、若しくはステアリン酸マグネシウム又はこれらの水和物等がそれぞれ好ましく使用され、これらは単独で用いても2種以上を併用しても良い。
【0049】
本発明に用いられるポリエステル成分A及びポリエステル成分Bには、必要に応じて少量の添加剤、例えば滑剤、顔料、染料、酸化防止剤、固相重合促進剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤、又は艶消剤等を含んでいてもよく、特にポリエステル成分Bには、艶消剤として酸化チタンなどが好ましく添加される。
【0050】
以上に説明したポリエステル成分A及びポリエステル成分Bを用いて本発明の分割型ポリエステル複合繊維を製造するには、従来公知の複合紡糸口金及び複合紡糸装置を用い、任意の製糸条件を何らの支障なく採用することができる。例えば500〜2500m/分の速度で溶融紡糸し、延伸、熱処理する方法、1500〜5000m/分の速度で溶融紡糸し、延伸と仮撚加工とを同時に若しくは続いて行う方法、又は5000m/分以上の高速で溶融紡糸し、用途によっては延伸工程を省略する方法等において任意の製糸条件を採用することができる。また得られた繊維又はこの繊維から製造された織編物を、100℃以上の温度で熱処理して構造の安定性を向上させても良いし、さらに必要に応じて弛緩熱処理などを併用してもよい。
【0051】
具体的なポリエステル成分Aとポリエステル成分Bとの複合形状及び夫々の成分の横断面形状は、ポリエステル成分Aによりポリエステル成分Bが複数個に分割された形状を示すものであれば任意であり、そのいくつかの例を図1(a)〜(i)に示す。
【0052】
図1において、Aは共重合ポリエステル組成物(ポリエステル成分A)であり、Bはポリエステル(ポリエステル成分B)である。図中(a)〜(c)は、ポリエステル成分Bがポリエステル成分Aにより16に分割されている分割型複合繊維の横断面形状を示した模式図である。また、図中(d)は、ポリエステル成分Aを海、ポリエステル成分Bを島とした海島型の分割型複合繊維の横断面形状を示した模式図であり、ポリエステル成分Bがポリエステル成分Aにより26に分割されている。さらに、図中(e)、(f)は、偏平断面形状の分割型複合繊維の横断面形状を示した模式図であり、最後に図中(g)〜(i)は、それぞれ(a)〜(c)の繊維に対し、さらに外周部をポリエステル成分Aで被覆したものである。
【0053】
上記分割型複合繊維は、布帛になした後、アルカリ処理及び/又は熱水で処理することによってポリエステル成分Aを除去し極細繊維となすことができる。また同時に繊維間に空間を持たせることができるので、嵩高でソフトな風合を呈する布帛を得るのに適している。ここでアルカリ水溶液の処理を行うには特に限定はないが、例えば濃度10〜100g/Lの水酸化ナトリウム水溶液を60℃以上に保ち、この溶液中に布帛を浸す方法が通常行われる。処理時間は共重合ポリエステル成分Aを除去するのに適切な時間であり、通常0.5〜30時間である。この処理は連続式で行っても、バッチ式で行ってもなんら問題はない。この処理の終了後、洗浄・乾燥処理などを行い、上述のような極細繊維を得ることができる。この本発明の極細繊維は実質的にポリエステルB成分のみからなる一つの構成単位(単糸)を0.001〜0.3dtexとするのが好ましく、且つ該構成単位の数を16以上、特に24以上とする時、得られる効果(嵩高でソフトな風合を呈すること)が顕著となり好ましい。
【0054】
ポリエステル成分Aとポリエステル成分Bとの分割型ポリエステル複合繊維における複合比率は、アルカリ処理による分割の容易性と複合繊維の繊維物性とを両立させるという観点から、(成分A:成分B)は重量比で(80:20)〜(2:98)の範囲とすることが好ましく、(60:40)〜(5:95)の範囲とすることがさらに好ましい。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を下記実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何等限定を受けるものでは無い。尚、実施例中の各値は、以下の方法に従って求めた。
(1)固有粘度:
ポリエステルポリマーの固有粘度は、35℃オルトクロロフェノール溶液で、常法に従って35℃において測定した粘度の値から求めた。
(2)ジエチレングリコール量:
抱水ヒドラジン(ヒドラジンヒドラート)を用いてサンプルを分解し、分解物をガスクロマトグラフィー(HEWLETT PACKARD社製、HP6890 Series GC System)を用いてジエチレングリコール量を定量した。定量値から測定したポリマーの重量を基準とした時の共重合量の重量百分率を求めた。
(3)ポリマー色調(カラーL値及びカラーb値):
ポリマーチップを130℃、1時間乾燥結晶化処理後、日本電色工業株式会社製測色色差計Z−1001DPを用いて測定した。L値は明度を示し、その数値が大きいほど明度が高いことを示し、b値はその値が大きいほど黄色味の度合いが大きいことを示す。他の詳細な測定手法はJIS Z−8729に従って行った。
(4)布帛(平織物)色調(カラーL値及びカラーb値):
定法に従い平織物を作成しその布帛(平織物)を八つ折りにし、グレタグ・マクベス社(GretagMacbeth)製C3100測色色差計を用いて測定した。
(5)チタン、アンチモン、ゲルマニウム、カルシウム、及びナトリウム含有量:
複合繊維サンプルをオルトクロロフェノールに溶解した後、0.5規定塩酸で抽出操作を行った。この抽出液について株式会社日立製作所製Z−8100型原子吸光光度計を用いて定量を行った。
(6)共重合ポリエステル成分A中のスルホイソフタル酸金属塩化合物及びポリマー中のリン元素の含有量:
ポリマーサンプルをアルミ板上で加熱溶融した後、圧縮プレス機で平坦面を有する試験成形体を作成し、蛍光X線装置(理学電機工業株式会社製3270E型)を用いて硫黄元素の含有量を測定して、全酸成分に対する共重合モル%を求めた。更にリン元素の含有量を測定し、リン化合物の添加ミリモル%を求めた。
(7)共重合ポリエステル成分A中のポリエチレングリコール及びヒンダードフェノール型酸化防止剤の含有量:
ポリマーサンプルを重水素化トリフルオロ酢酸/重水素化クロロホルム=1/1混合溶媒に溶解後、日本電子(株)製JEOL A−600 超伝導FT−NMRを用いて核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)を測定した。そのスペクトルパターンから常法に従って、ポリエチレングリコール成分含有量及びヒンダードフェノール型酸化防止剤含有量を定量した。
(8)共重合ポリエステル成分A中のポリエチレングリコールの数平均分子量:
サンプルを過剰量のメタノールとともに封管し、オートクレーブ中260℃、4時間メタノール分解し、分解物をクロロホルムで10倍に希釈した。その後、昭和電工(株)製Shodex GPC−101を用いて、展開溶剤にクロロホルムを使用し、分子量測定を行って、得られた分子量分布曲線から数平均分子量を算出し、有効数字1桁で記した。
(9)紡糸口金に発生する付着物の層:
2日間紡糸し、口金の吐出口外縁に発生する付着物の層の高さを測定した。この付着物層の高さが大きいほど吐出されたポリエステルメルトのフィラメント状流にベンディングが発生しやすく、このポリエステルの成形性は低くなる。すなわち、紡糸口金に発生する付着物層の高さは、当該ポリエステルの成形性の指標である。
【0056】
[参考例1]
ポリエステル成分A用ポリマーの製造:
テレフタル酸ジメチル97.5部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル3.8部、エチレングリコール65部との混合物に、テトラ−n−ブトキシチタン0.017部、酢酸ナトリウム0.109部を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、140℃から徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを系外に留出させながら、240℃まで昇温してエステル交換反応を行った。
【0057】
次いで、得られた反応生成物に数平均分子量4000のポリエチレングリコール11部、ヒンダードフェノール化合物(住友化学工業株式会社製、「スミライザー」GA−80)0.30部を添加し、撹拌機及びグリコール留出コンデンサーを設けた別の反応器に移し、240℃から285℃に徐々に昇温すると共に、70Pa以下の高真空に圧力を下げながら重合反応を行った。反応系の溶融粘度をトレースしつつ、固有粘度が0.70となる時点で重合反応を打ち切った。
溶融ポリマーを反応器底部よりストランド状に冷却水中に押し出し、ストランドカッターを用いて切断してチップ化した。結果を表1に示す。
【0058】
[参考例2]
ポリエステル成分A用ポリマーの製造:
参考例1において、エステル交換反応終了時にトリエチルホスホノアセテート0.023部を添加し、エステル交換反応を終了させたこと以外は同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0059】
[比較参考例1]
ポリエステル成分A用ポリマーの製造:
テレフタル酸ジメチル97.5部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル3.8部、エチレングリコール65部との混合物に、酢酸マンガン四水和物0.03部、酢酸ナトリウム0.109部を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、140℃から徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを系外に留出させながら、240℃まで昇温してエステル交換反応を行った。その後、リン酸トリメチル0.02重量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
【0060】
次いで、得られた反応生成物に数平均分子量4000のポリエチレングリコール11部、ヒンダードフェノール化合物(住友化学工業株式会社製、「スミライザー」GA−80)0.30部、三酸化二アンチモン0.045部を添加し、撹拌機及びグリコール留出コンデンサーを設けた別の反応器に移し、240℃から285℃に徐々に昇温すると共に、70Pa以下の高真空に圧力を下げながら重合反応を行った。反応系の溶融粘度をトレースしつつ、固有粘度が0.70となる時点で重合反応を打ち切った。
溶融ポリマーを反応器底部よりストランド状に冷却水中に押し出し、ストランドカッターを用いて切断してチップ化した。結果を表1に示す。
【0061】
[参考例3]
ポリエステル成分B用ポリマーの製造:
テレフタル酸ジメチル100部とエチレングリコール70部との混合物に、テトラ−n−ブトキシチタン0.009部を加圧反応が可能なステンレス製容器に仕込み、0.07MPaの加圧を行い140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、トリエチルホスホノアセテート0.023部、テラゾールブルー0.00005部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
【0062】
次いで、得られた反応生成物に酸化チタン20重量%のエチレングリコールスラリーを1.5部添加後、撹拌機及びグリコール留出コンデンサーを設けた別の反応器に移し、240℃から285℃に徐々に昇温すると共に、70Pa以下の高真空に圧力を下げながら重合反応を行った。反応系の溶融粘度をトレースしつつ、固有粘度が0.63となる時点で重合反応を打ち切った。
溶融ポリマーを反応器底部よりストランド状に冷却水中に押し出し、ストランドカッターを用いて切断してチップ化した。結果を表1に示す。
【0063】
[参考例4]
トリメリット酸チタンの調整:
無水トリメリット酸のエチレングリコール溶液(0.2%)にテトラブトキシチタンを無水トリメリット酸に対して1/2モル添加し、空気中常圧下で80℃に保持して60分間反応させた。その後、常温に冷却し、10倍量のアセトンによって生成触媒を再結晶化させ、析出物を濾紙で濾過し、100℃で2時間乾燥させて目的の触媒を得た。
【0064】
[参考例5]
ポリエステル成分B用ポリマーの製造:
参考例3において、チタン化合物として、上記参考例の方法で調整したトリメリット酸チタン0.016部に変更したこと以外は同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0065】
[参考例6]
ポリエステル成分B用ポリマーの製造:
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール70重量部との混合物に、酢酸カルシウム一水和物0.064重量部を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを系外に留出させながら、エステル交換反応を行った。その後、56重量%濃度のリン酸水溶液0.044重量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
【0066】
次いで、得られた反応生成物に上記参考例の方法で合成したトリメリット酸チタン0.016部、トリエチルホスホノアセテート0.023部、テラゾールブルー0.00005部、及び酸化チタン20重量%のエチレングリコールスラリー1.5部を添加後、撹拌装置、窒素導入口、減圧口、及び蒸留装置を備えた反応容器に移し、240℃から285℃に徐々に昇温すると共に、70Pa以下の高真空に圧力を下げながら重合反応を行った。反応系の溶融粘度をトレースしつつ、固有粘度が0.63となる時点で重合反応を打ち切った。
溶融ポリマーを反応器底部よりストランド状に冷却水中に押し出し、ストランドカッターを用いて切断してチップ化した。結果を表1に示す。
【0067】
[参考例7]
ポリエステル成分B用ポリマーの製造:
参考例3において、チタン化合物として、上記参考例の方法で調整したトリメリット酸チタン0.016部に変更し、トリエチルホスホノアセテートを添加しなかったこと以外は同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0068】
[比較参考例2]
ポリエステル成分B用ポリマーの製造:
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール70重量部との混合物に、酢酸カルシウム一水和物0.064重量部を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを系外に留出させながら、エステル交換反応を行った。その後、56重量%濃度のリン酸水溶液0.072重量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
【0069】
次いで得られた反応生成物に、三酸化二アンチモン0.045部、酸化チタン20重量%のエチレングリコールスラリー1.5部を添加後、撹拌装置、窒素導入口、減圧口及び蒸留装置を備えた反応容器に移し、240℃から285℃に徐々に昇温すると共に、70Pa以下の高真空に圧力を下げながら重合反応を行った。反応系の溶融粘度をトレースしつつ、固有粘度が0.63となる時点で重合反応を打ち切った。
溶融ポリマーを反応器底部よりストランド状に冷却水中に押し出し、ストランドカッターを用いて切断してチップ化した。結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
[実施例1〜5、比較例1〜4]
ポリエステル成分A及びポリマー成分Bとして、表2に示すように、参考例1〜3、参考例5〜7及び比較参考例1〜2で得られたポリマーを用い、図1の(d)に示す型の口金を使用し、ポリエステル成分Aを海成分、ポリエステルB成分を島成分として複合紡糸口金から島及び海成分を同時紡糸し、海島型複合未延伸糸を得た。その際の紡糸温度は290℃、紡糸速度は3000m/分で、総繊度は83dtex、フィラメント数は20本、1フィラメント中の島数は26、島成分の重量割合は50%(島成分の単繊度は0.08dtex)、海成分50%の未延伸糸を得た。この複合未延伸糸を、加熱プレート温度は200℃、延伸倍率1.15倍で延伸糸を得た。次いで、得られた複合繊維を平織物とし、温度90℃の水酸化ナトリウム水溶液(濃度35g/リットル)中で、50重量%のアルカリ減量処理を行い、極細繊維の織物を得た。結果を表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
表2からも明らかなように、本発明の範囲にあるものは口金異物の発生量が少なく良好な成形性を示したが、本発明の範囲を外れる場合(比較例1〜4)は、口金異物量が非常に多く、成形性が劣るものであった。更に本発明の請求項1〜5までを満たす範囲にあるもの(実施例1〜3、5)は最終的に得られる極細繊維製品の色調も良好なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、紡糸口金を通して長時間連続的に紡糸しても口金異物の発生量が非常に少なく、成形性に優れているという性能を有する分割型ポリエステル複合繊維を提供することができる。また、複合繊維にアルカリ減量等を施すことにより、容易に極細繊維を提供することが出来る。その複合繊維を用いて織編物を作成し、その後にアルカリ減量等を行うと繊維間に空間を持たせることができる。その結果その織編物は嵩高でソフトな風合を呈する布帛を得るのに適している。
【0075】
また本発明においてはアルカリ減量等がおこりやすいポリエステル成分A中のアンチモン元素含有量が少ないので、アルカリ減量排水中に含まれるアンチモン金属元素を低減させることが可能であるので工業上の意義は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の分割型ポリエステル複合繊維の例を示す拡大横断面図である。
【符号の説明】
【0077】
A ポリエステル成分A
B ポリエステル成分B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル成分A及びポリエステル成分Bとからなり、該ポリエステル成分Bが該ポリエステル成分Aにより複数個に分割された横断面形状を有する複合繊維であって、
(1)該ポリエステル成分Aが、スルホイソフタル酸金属塩基を含む化合物をポリエステルを構成する全酸成分を基準として1〜8モル%共重合した共重合ポリエステルに、さらに該ポリエステル成分Aを基準として数平均分子量が400〜30000のポリオキシアルキレングリコールを1〜20重量%、ヒンダードフェノール型酸化防止剤を0.02〜3重量%含有する共重合ポリエステル組成物であり、
(2)該ポリエステル成分Bがエチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルであり、
且つ、該複合繊維中に含有されるアンチモン及びゲルマニウム金属元素量が20ppm以下である分割型ポリエステル複合繊維。
【請求項2】
該共重合ポリエステルがジエチレングリコール単位を0.5〜5.0重量%共重合されているポリエステルである請求項1に記載の複合繊維。
【請求項3】
ポリエステル成分Aがカルボン酸アルカリ金属塩を、共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準として20〜500ミリモル%含有する共重合ポリエステル組成物である請求項1に記載の複合繊維。
【請求項4】
ポリエステル成分A及びポリエステル成分Bがチタン化合物を重合触媒として重合されたポリエステルである請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合繊維。
【請求項5】
複合繊維中に含有されるポリエステルに可溶なチタン金属元素量が5〜120ppmである請求項4に記載の複合繊維。
【請求項6】
ポリエステル成分Bが、下記一般式(I)で表されるチタン化合物、又は下記一般式(I)で表されるチタン化合物及び下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸若しくはその無水物とを反応させた生成物からなる群から選ばれた少なくとも一種を含むチタン化合物成分、並びにリン元素換算で5〜80ミリモル%の下記一般式(III)により表されるリン化合物との未反応混合物から実質的になる重合触媒系により重合されたものである請求項4または5に記載の複合繊維。
【化1】
[上記式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ同一若しくは異なって、アルキル基又はフェニル基を示し、mは1〜4の整数を示し、かつmが2、3又は4の場合、2個、3個又は4個のR2及びR3は、それぞれ同一であっても異なっていてもどちらでもよい。]
【化2】
[上記式中、nは2〜4の整数を表わす。]
【化3】
[上記式中、R5、R6及びR7は、同一又は異なって炭素数原子数1〜4のアルキル基を示し、Xは、−CH2−又は―CH(Y)を示す(Yは、ベンゼン環を示す)。]
【請求項7】
ポリエステル成分Aが該重合触媒系によって重合されたものである請求項4〜6のいずれか1項に記載の複合繊維。
【請求項8】
ポリエステル成分Bがエステル交換反応を経由して重縮合して得られるものであって、該エステル交換反応に用いる触媒がカルシウム化合物及び/又はマグネシウム化合物である請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合繊維。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合繊維を、アルカリ水溶液及び/又は熱水を用いて該複合繊維中のポリエステル成分Aを除去してなる極細ポリエステル繊維。
【請求項1】
ポリエステル成分A及びポリエステル成分Bとからなり、該ポリエステル成分Bが該ポリエステル成分Aにより複数個に分割された横断面形状を有する複合繊維であって、
(1)該ポリエステル成分Aが、スルホイソフタル酸金属塩基を含む化合物をポリエステルを構成する全酸成分を基準として1〜8モル%共重合した共重合ポリエステルに、さらに該ポリエステル成分Aを基準として数平均分子量が400〜30000のポリオキシアルキレングリコールを1〜20重量%、ヒンダードフェノール型酸化防止剤を0.02〜3重量%含有する共重合ポリエステル組成物であり、
(2)該ポリエステル成分Bがエチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルであり、
且つ、該複合繊維中に含有されるアンチモン及びゲルマニウム金属元素量が20ppm以下である分割型ポリエステル複合繊維。
【請求項2】
該共重合ポリエステルがジエチレングリコール単位を0.5〜5.0重量%共重合されているポリエステルである請求項1に記載の複合繊維。
【請求項3】
ポリエステル成分Aがカルボン酸アルカリ金属塩を、共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準として20〜500ミリモル%含有する共重合ポリエステル組成物である請求項1に記載の複合繊維。
【請求項4】
ポリエステル成分A及びポリエステル成分Bがチタン化合物を重合触媒として重合されたポリエステルである請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合繊維。
【請求項5】
複合繊維中に含有されるポリエステルに可溶なチタン金属元素量が5〜120ppmである請求項4に記載の複合繊維。
【請求項6】
ポリエステル成分Bが、下記一般式(I)で表されるチタン化合物、又は下記一般式(I)で表されるチタン化合物及び下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸若しくはその無水物とを反応させた生成物からなる群から選ばれた少なくとも一種を含むチタン化合物成分、並びにリン元素換算で5〜80ミリモル%の下記一般式(III)により表されるリン化合物との未反応混合物から実質的になる重合触媒系により重合されたものである請求項4または5に記載の複合繊維。
【化1】
[上記式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ同一若しくは異なって、アルキル基又はフェニル基を示し、mは1〜4の整数を示し、かつmが2、3又は4の場合、2個、3個又は4個のR2及びR3は、それぞれ同一であっても異なっていてもどちらでもよい。]
【化2】
[上記式中、nは2〜4の整数を表わす。]
【化3】
[上記式中、R5、R6及びR7は、同一又は異なって炭素数原子数1〜4のアルキル基を示し、Xは、−CH2−又は―CH(Y)を示す(Yは、ベンゼン環を示す)。]
【請求項7】
ポリエステル成分Aが該重合触媒系によって重合されたものである請求項4〜6のいずれか1項に記載の複合繊維。
【請求項8】
ポリエステル成分Bがエステル交換反応を経由して重縮合して得られるものであって、該エステル交換反応に用いる触媒がカルシウム化合物及び/又はマグネシウム化合物である請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合繊維。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合繊維を、アルカリ水溶液及び/又は熱水を用いて該複合繊維中のポリエステル成分Aを除去してなる極細ポリエステル繊維。
【図1】
【公開番号】特開2004−293024(P2004−293024A)
【公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−30366(P2004−30366)
【出願日】平成16年2月6日(2004.2.6)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年2月6日(2004.2.6)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】
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