説明

分割型複合繊維及びその製造方法

【課題】高品質の高密度織編物に適した均一な割繊性をもった分割型複合繊維を得ること。
【解決手段】ポリエステル成分とポリアミド成分からなり、ポリエステル成分の極限粘度が0.500以上0.600未満であることを特徴とする分割型複合繊維。ポリエステル成分は、ポリエチレンテレフタレートであることが好ましく、繊維横断面形状は、ポリエステル成分とポリアミド成分交互に配列したものがより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル成分とポリアミド成分からなり、製織製編後、膨潤剤にて化学的に割繊処理する高密度織編物に適した分割型複合繊維とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリエステル/ポリアミドを成分とする複合繊維及び該複合繊維からなる高密度織編物に関しては数多くの提案がある。例えば、特許文献1や特許文献2では、製織した後にベンジルアルコール乳化水溶液で処理し、ポリアミド成分を膨潤収縮させてポリエステル成分とポリアミド成分を割繊処理する方法が提案されている。また、高密度平織物に関しては、特許文献3に同様の方法が提案されている。
【特許文献1】特公昭53−35633号公報
【特許文献2】特開昭60−215869号公報
【特許文献3】特公昭62−8535号公報
【0003】
いずれの場合も該分割型複合繊維は、一般的な極限粘度0.61〜0.63のポリエチレンテレフタレートを1成分として用い、紡糸工程にて一旦未延伸糸を巻き取り、延伸工程で延伸する所謂コンベショナル法(以後、コンベ法と称する)で製造されている。
【0004】
該方法で製造する場合、膨潤剤での化学的割繊性が織編物全体に渉って均一化する為に、未延伸糸状態で一定の温湿度下一定期間エージング処理を施す必要があった。該方法では、未延伸糸の放置期間により膨潤割繊性が変化するという点で問題があり、また生産効率も悪かった。
【0005】
一方、生産効率を上げる方法として、例えば紡糸後一旦巻取ることなく延伸する直接紡糸延伸法(以後、SPD法と称する)や、高速紡糸法が公知技術として知られている。
【0006】
しかしながら、該複合繊維の如く、ポリエステル/ポリアミドの互いに性質の異なる成分同士の場合、膨潤剤にて化学的割繊処理を行うと割繊性能が極めて悪く均一に割繊しない、或いは全く割繊しないので、高品質の高密度織編物を得るのは困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、かかる従来技術の欠点を解消し、高品質の高密度織編物に適した均一な割繊性をもった分割型複合繊維を得ることであり、さらには、製織或いは製編後に膨潤剤で化学的割繊処理を施すと、ポリエステル成分とポリアミド成分が均一に分割され、且つ安価に、効率良く生産される分割型複合繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果本発明に到達したものである。即ち、ポリエステル成分とポリアミド成分からなり、ポリエステル成分の繊維中における極限粘度が0.500以上0.600未満である分割型複合繊維であれば、製織製編後に膨潤剤で化学的処理を施すとポリエステル成分とポリアミド成分が均一に割繊分割されるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、直接紡糸延伸法(SPD法)で製造された物もコンベ法で製造された物も、膨潤剤で化学割繊処理を施すとポリエステル成分とポリアミド成分が均一に分割された分割型複合繊維を得ることができる。
このように均一に分割できる分割型複合繊維は、スェード調織編などの織編物にした際に、均一な割繊によって経筋や緯段などがなくなるため、高品質の織編物に好適なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明のポリエステル成分としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンオキシベンゾエート、ポリブチレンテレフタレート及びこれらを成分とする共重合ポリエステル等が知られているが、ポリエチレンテレフタレートが汎用的で好ましい。
【0011】
一方、ポリアミド成分としては、例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン4、ナイロン7、ナイロン11、ナイロン12、ポリメタキシレンアジパミド等が知られているが、汎用性からナイロン6であることが好ましい。
【0012】
本発明の最も重要な点であるポリエステル成分の繊維中における極限粘度は、0.500以上0.600未満であることが必要である。この範囲であれば、コンベ法では未延伸糸のエージング処理を施さなくても膨潤剤にて均一に割繊し、また割繊し難いSPD法で製造された場合も均一に割繊する。また、紡糸操業性も良好である。
【0013】
0.500未満であれば、紡糸段階での糸切れが多くなり、また繊維の物性が低下して製織製編時の糸切れが発生しやすく、製品自体の膨らみ感に欠ける。0.600以上では、コンベ法の場合は紡糸後未延伸糸を一定期間エージング処理施さないと膨潤剤での化学割繊処理にて割繊性が不均一になる。また、SPD法の場合は全く割繊しない。
【0014】
ポリエステル成分の繊維中の極限粘度を制御する方法は、たとえば、以下の3つの方法がある。即ち、(1)極限粘度が0.500〜0.600のポリエチレンテレフタレートチップを製造し、乾燥後水分を通常の15〜30ppmとする(2)極限粘度が0.600以上0.700以下の衣料用途に適した汎用ポリエチレンテレフタレートチップの乾燥後の水分を50〜100ppmとし、紡糸時の溶融押出しにて粘度低下させる(3)(2)と同様の極限粘度が0.600以上0.700以下の衣料用途に適した汎用ポリエチレンテレフタレートチップの乾燥後水分を15〜30ppm程度とし、溶融押出し時の温度を高くして粘度低下させる。例えば、通常290〜295℃にて溶融押出しするところを、300〜320℃まで温度を高くすることである。
いずれの場合も、複合繊維中のポリエステル成分極限粘度が本発明の範囲であれば良い。
【0015】
ポリアミド成分の繊維中の相対粘度は特に限定するものではないが、2.0から3.5の範囲であることが紡糸操業性、糸物性の面から好ましい。
【0016】
ポリエステル成分とポリアミド成分の比率は通常5/1〜1/5(体積比)であり、好ましくは3/1〜1/3(体積比)である。この範囲であれば、膨潤剤で割繊処理を施すとポリアミド成分が十分に膨潤し、その後の水洗処理にて収縮しポリエステル成分とポリアミド成分が均一に分割されやすくなる。
【0017】
複合繊維の断面形状は、特公昭62−8535号公報、特開昭52−27822号公報、特開昭61−282445号公報、特開平7−97742号公報に提案されている様な互いに親和性の乏しいポリマーの組み合わせからなる物が利用可能であるが、その一例を図1に示す。中でもポリエステル成分とポリアミド成分が交互に配列した放射状の物は、ポリアミド成分が極端に膨潤収縮して割繊しやすい点で好ましい。
【0018】
本発明の分割型複合繊維の製造方法は通常の溶融紡糸であれば、特に限定するものではなく、紡糸後一旦未延伸糸を巻き取り、延伸工程で延伸するコンベ法や、一旦未延伸糸を巻き取ることなく延伸後に巻き取るSPD法が一般的であるが、生産効率や、コスト効率を考慮すればSPD法で製造する事が最も好ましい。
【0019】
該複合繊維の単糸繊度としては、0.5〜10dtex程度が好ましく、更に1〜5dtexが好ましい。この範囲であれば、紡糸操業性が良好であり、マイクロファイバーの持つ膨らみ感、起毛感などの風合いが良好である。また、複合繊維を構成する各成分の割繊・フィブリル化後の各フィブリルの繊度は0.02〜0.5dtexが好ましい。割繊・フィブリル化後の各成分の繊度は同じ大きさでも良いし、又異なっていても良い。
【0020】
該分割型複合繊維を製織製編した後は、膨潤剤にて化学割繊処理を施し、ポリアミド成分を膨潤剤にて膨潤させてポリエステル成分とポリアミド成分を割繊する。その後、水洗することにより膨潤剤がポリアミド成分から抜け出して収縮することによって、マイクロファイバー独特の膨らみ感と高密度性能が付与される。膨潤剤は、例えば特公昭62−8535号公報に記載される様に、ベンジルアルコール、β―フェニルエチルアルコール、フェノール、m−クレゾール、蟻酸、酢酸等が挙げられる。又、その水溶液又は水性エマルジョンを用いるのが適している。中でも、ベンジルアルコールの水性エマルジョンを用いる方法が織編物の収縮性やフィブリル化効果の点と、取り扱い性が容易な点で優れている。
【実施例】
【0021】
以下、実施例によって本発明を更に詳しく説明する。尚、以下の実施例における特性値は、次に示す方法によって測定したものである。
【0022】
(1)ポリエステル成分の極限粘度[η]
分割型複合繊維を紡出する際、ポリアミド成分の吐出を一旦停止し、紡糸口金から押出されたポリエステル成分の放流糸を採取し試料とした。或いは、採取複合繊維を下記の溶媒で溶解処理後、未溶解のポリアミド成分をろ過除去することによっても測定可能である。測定に於いては、フェノール/テトラクロロエタン=6/4(重量比)の混合溶剤中20℃でウベローデ法により実施した。
【0023】
(2)ポリアミド成分の相対粘度 ηrel
分割型複合繊維を紡出する際、ポリエステル成分の吐出を一旦停止し、紡糸口金から押出されたポリアミド成分の放流糸を採取し試料とした。測定は、濃硫酸溶剤を用いてポリマー濃度1g/dlに溶解後、25℃で常法にて実施した。
【0024】
(3)紡糸操業性
分割型複合繊維を、コンベ法或いはSPD法にて紡糸し、1週間の紡糸にて糸切れ回数が少なく完全ボビン率が85%以上で操業性良好なものを○、糸切れが多く完全ボビン率が85%未満であり操業性不良なものを×とした。
【0025】
(4)割繊性
針数が280本である小池機械製作所製一口筒編機(CR−B)を用いて、分割型複合繊維の筒編試料を作成し、ベンジルアルコール6%の水性エマルジョン(乳化剤:日華化学サンモールBK20 濃度0.6%)に浸漬して割繊処理を施した。風乾後の筒編み地の観察により、割繊性が良好な物を○、一部割繊しているが不良な物を△、全く割繊していない物を×として評価した。なお、該手法で割繊性が良好であれば、高密度織編物においても割繊性が均一であり高品位のスウェード調織編物が得られる。一方、該手法の評価で不良或いは割繊しない場合、高密度織編物に経筋や緯段が発生し、品位の劣悪な製品となる。
【0026】
実施例1
ポリエステル成分として極限粘度が0.629乾燥後水分50ppmのポリエチレンテレフタレート(PET)チップを320℃で溶融し、ポリアミド成分として相対粘度が2.65乾燥後水分50ppmのナイロン6チップを290℃で溶融し、PET/ナイロン6の体積比=2/1で複合紡糸口金より押し出し冷却後油剤を付与し、第1ゴデッドローラー(GR1)の周速800m/分(84℃)で引取り、次いで第2ゴデッドローラー(GR2)の周速度3200m/分(120℃)に導きGR1とGR2の間で延伸する通常のSPD法にて56dtex/25フィラメントの図1c記載の放射状分割型複合繊維(PET/ナイロン6の体積比=2/1)を得た。該繊維中のPET極限粘度は、紡糸口金より押出し時に採取した放流糸より測定すると表1記載の結果が得られた。また、ナイロン6相対粘度は同様の方法で採取した試料より表1記載の結果が得られた。該分割型複合繊維を用い、筒編み試料を作成後、ベンジルアルコール6%水性エマルジョンにて膨潤割繊処理したところ、割繊性は表1記載の様に良好であった。
【0027】
実施例2
ポリエステル成分として極限粘度が0.578の乾燥後水分20ppmのポリエチレンテレフタレート(PET)チップを290℃で溶融し、ポリアミド成分として相対粘度が2.65乾燥後水分50ppmのナイロン6チップを280℃で溶融する以外は、実施例1と同様にSPD法にて分割型複合繊維を得た。繊維中の各成分の粘度は実施例1と同様に測定し、表1記載の結果が得られた。PETの極限粘度が本発明範囲内であり、紡糸操業性及び割繊性は表1記載の様に良好であった。
【0028】
実施例3
ポリエステル成分として極限粘度が0.629乾燥後水分20ppmのポリエチレンテレフタレート(PET)チップを320℃で溶融し、ポリアミド成分として相対粘度が2.95乾燥後水分50ppmのナイロン6チップを280℃で溶融する以外は、実施例1と同様にSPD法にて分割型複合繊維を得た。繊維中の各成分の粘度は実施例1と同様に測定し、表1記載の結果が得られた。PETの極限粘度が本発明範囲内であり、紡糸操業性及び割繊性は表1記載の様に良好であった。
【0029】
実施例4
ポリエステル成分として極限粘度が0.530乾燥後水分20ppmのポリエチレンテレフタレート(PET)チップを290℃で溶融し、ポリアミド成分として相対粘度が2.60乾燥後水分50ppmのナイロン6チップを280℃で溶融する以外は、実施例1と同様にSPD法にて分割型複合繊維を得た。繊維中の各成分の粘度は実施例1と同様に測定し、表1記載の結果が得られた。PETの極限粘度が本発明範囲内であり、紡糸操業性及び割繊性は表1記載の様に良好であった。
【0030】
実施例5
ポリエステル成分として極限粘度が0.629乾燥後水分20ppmのポリエチレンテレフタレート(PET)チップを310℃で溶融し、ポリアミド成分として相対粘度が2.95乾燥後水分50ppmのナイロン6チップを280℃で溶融する以外は、実施例1と同様にSPD法にて分割型複合繊維を得た。繊維中の各成分の粘度は実施例1と同様に測定し、表1記載の結果が得られた。PETの極限粘度が本発明範囲内であり、紡糸操業性及び割繊性は表1記載の様に良好であった。
【0031】
実施例6
実施例2と同様のチップを用い、コンベ法にて未延伸糸を紡糸速度1000m/分で巻き取った。繊維中の各成分の粘度は表1記載の通りである。その後、エージング処理することなく延伸工程で延伸したところ、割繊性は良好であった。
【0032】
比較例1
ポリエステル成分として極限粘度が0.629乾燥後水分20ppmのポリエチレンテレフタレート(PET)チップを290℃で溶融し、ポリアミド成分として相対粘度が2.95乾燥後水分50ppmのナイロン6チップを280℃で溶融する以外は、実施例1と同様にSPD法にて分割型複合繊維を得た。繊維中のPET極限粘度は0.610であり、本発明範囲を外れる物であった。紡糸操業性は表1記載の様に良好であったが、ベンジルアルコール水性エマルジョンで割繊処理したところ、全く割繊しなかった。
【0033】
比較例2
ポリエステル成分として極限粘度が0.530乾燥後水分20ppmのポリエチレンテレフタレート(PET)チップを310℃で溶融し、ポリアミド成分として相対粘度が2.95乾燥後水分50ppmのナイロン6チップを280℃で溶融する以外は、実施例1と同様にSPD法にて分割型複合繊維を得た。繊維中のPET極限粘度は0.491であり本発明の範囲外であった。該複合繊維のベンジルアルコール割繊性は良好であったが、紡糸工程での糸切れが多く操業性は不良であった。
【0034】
比較例3
比較例1と同様のチップを用い、同条件で溶融押出した後、コンベ法にて紡糸速度1000m/分にて未延伸糸を一旦巻取り、エージング処理することなく延伸工程にて延伸した。筒編み試料を割繊処理したところ、割繊する部分と割繊しない部分が混在し、割繊性は不良であった。
【0035】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に使用できる複合繊維の断面形状の例を示す。
【符号の説明】
【0037】
A ポリエステル成分
B ポリアミド成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル成分とポリアミド成分からなり、ポリエステル成分の極限粘度が0.500以上0.600未満であることを特徴とする分割型複合繊維。
【請求項2】
ポリエステル成分がポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1記載の分割型複合繊維。
【請求項3】
ポリエステル成分とポリアミド成分が繊維横断面に交互に配列した請求項1記載の分割型複合繊維。
【請求項4】
ポリエステル成分とポリアミド成分からなる分割型複合繊維の製造方法であって、極限粘度が0.500以上0.600未満であるポリエステルペレットを用いて溶融紡糸することを特徴とする分割型複合繊維の製造方法。
【請求項5】
ポリエステル成分とポリアミド成分からなる分割型複合繊維の製造方法であって、極限粘度が0.600以上0.700以下のポリエステルペレットを用い、溶融紡糸工程で粘度低下を行うことを特徴とする分割型複合繊維の製造方法。
【請求項6】
紡糸工程で未延伸糸を巻き取り、その後延伸することを特徴とする請求項4又は請求項5記載の分割型複合繊維の製造方法。
【請求項7】
直接紡糸延伸法にて製造することを特徴とする請求項4又は請求項5記載の分割型複合繊維の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−322131(P2006−322131A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−196287(P2006−196287)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【分割の表示】特願2002−143028(P2002−143028)の分割
【原出願日】平成14年5月17日(2002.5.17)
【出願人】(305037123)KBセーレン株式会社 (97)
【Fターム(参考)】