説明

分割型複合繊維

【課題】ポリ乳酸とエチレン−ビニルアルコール共重合体からなる分割型複合繊維を提供する。
【解決手段】本発明の分割型複合繊維は、ポリ乳酸を50質量%以上含む第1成分(1)と、エチレン−ビニルアルコール共重合体を50質量%以上含む第2成分(2)とからなる複合繊維であって、繊維断面から見て前記第1成分(1)又は前記第2成分(2)が2以上のセグメントに区分され、前記第1成分(1)および第2成分(2)の少なくとも一部が前記複合繊維の表面に露出しており、前記繊維断面から見て、第1成分又は第2成分が1つの連続したセグメントである。これにより、優れた分割性を有しており、この繊維及びこの繊維を含む繊維構造物および不織布は、極細繊維に起因する柔軟な風合いを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分割性に優れた組合せの分割型複合繊維に関し、さらに詳細には、ポリ乳酸を含む成分とエチレン−ビニルアルコール共重合体を含む成分とからなる分割型複合繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から分割型複合繊維は、分割性の優れた組合せが検討されている。中でもポリ乳酸を一成分とする分割型複合繊維が検討されている。ポリ乳酸は脂肪族ポリエステルの1種であり、生分解性を有していることが知られている。また、ポリ乳酸繊維を用いた繊維製品の1つとして、ポリ乳酸からなる不織布が知られており、衛生材料、フィルター、芯地、肩パッド、ベッド、ふとん、座布団、自動車・車両用クッション材等に利用されている。
【0003】
特許文献1及び特許文献2は、ポリオレフィン系重合体とポリ乳酸からなる複合繊維を開示している。しかし、これら文献に記載された組合せでは優れた分割性は得られないという問題があった。
【0004】
特許文献3は、ポリ乳酸と高分子重合体とからなり、繊維の外周全体がポリ乳酸によって被覆されている接合型複合ステープル繊維を開示している。しかし、特許文献3のように繊維の外周をポリ乳酸成分で被覆すると、熱水処理により繊維表面のポリ乳酸を劣化させてから、剥離或いは割繊させる工程を行う必要があり、熱水に弱い成分を用いることが難しく、余分な工程が追加されるという問題があった。
【0005】
特許文献4は、単繊維繊度が0.5デシテックス以下のポリ乳酸繊維を開示しており、また、ポリ乳酸成分を島成分、エチレン10モル%変性ポリビニルアルコールを海成分とした海島型複合繊維を開示している。しかし、この繊維は、海成分を熱水中で溶出し、ポリ乳酸からなる極細繊維を得るものであり、ポリ乳酸成分とエチレン−ビニルアルコール共重合体成分との両方の極細繊維を得ることができないという問題があった。
【特許文献1】特開2000−054227号公報
【特許文献2】特開2007−197857号公報
【特許文献3】特開2000−282333号公報
【特許文献4】特開2001−192932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の文献はいずれも、ポリ乳酸とエチレン−ビニルアルコール共重合体からなる分割性の良好な分割型複合繊維を示していない。そこで、本発明はポリ乳酸とエチレン−ビニルアルコール共重合体からなる分割型複合繊維を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の分割型複合繊維は、ポリ乳酸を50質量%以上含む第1成分と、エチレン−ビニルアルコール共重合体を50質量%以上含む第2成分とからなる複合繊維であって、繊維断面から見て前記第1成分又は前記第2成分が2以上のセグメントに区分され、前記第1成分および前記第2成分の少なくとも一部が前記複合繊維の表面に露出しており、前記繊維断面から見て、第1成分又は第2成分が1つの連続したセグメントであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の分割型複合繊維は、優れた分割性を有しており、この繊維及びこの繊維を含む繊維構造物および不織布は、極細繊維に起因する柔軟な風合いを有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者は、生体適合性を有する成分同士の分割型複合繊維について検討し、ポリ乳酸とエチレン−ビニルアルコール共重合体とを組み合わせた分割型複合繊維は、優れた分割性を有することを見出した。
【0010】
即ち、本発明の分割型複合繊維は、ポリ乳酸を50質量%以上含む第1成分と、エチレン−ビニルアルコール共重合体を50質量%以上含む第2成分とからなる複合繊維であって、第1成分又は第2成分が他の成分により2以上のセグメントに区分され、第1成分および第2成分の少なくとも一部が繊維の表面に露出している。
【0011】
本発明の分割型複合繊維は、ポリ乳酸を50質量%以上含む第1成分と、エチレン−ビニルアルコール共重合体を50質量%以上含む第2成分とからなる。このような構成であると、優れた分割性を有する繊維を得ることができる。また、分割型複合繊維を構成する成分を生体適合性を有する成分で構成すれば、生体適合性を有する分割型複合繊維を得ることができる。
【0012】
生体適合性とは、本発明と生体とが接触する時、生体側が炎症、毒性、免疫反応、損傷などを生じることがなく生体組織と適合する性質をいい、本発明と生体とが親和して又は本発明が分解されて生体組織と適合することがより好ましい。また、生体適合性を有する成分は、天然由来の原料を主成分とするものであることがさらに好ましい。
【0013】
本発明の分割型複合繊維は第1成分として、ポリ乳酸を50質量%以上含む。第1成分は好ましくはポリ乳酸を70質量%以上含み、より好ましくは、ポリ乳酸を80質量%以上含み、最も好ましくは、ポリ乳酸のみからなる。なお、第1成分に含まれるポリ乳酸の好ましい上限は100質量%である。第1成分がポリ乳酸を50質量%以上含む成分であると、ポリ乳酸に起因する特性に優れる。例えば、生分解性や、分解されて生体組織と適合する生体適合性である。
【0014】
第一成分に含まれるポリ乳酸は、L型ポリ乳酸及びD型ポリ乳酸のうち、少なくとも1種を含む。なかでも、ポリ乳酸は、L型ポリ乳酸を90〜100mol%含むことが好ましく、さらに好ましくは95〜100mol%のL型ポリ乳酸を含むポリ乳酸である。ポリ乳酸がL型ポリ乳酸を90mol%以上含むと、樹脂の光学純度が高く、高融点、高結晶性となり、繊維製造工程および不織布製造工程性に優れ、さらに製品も耐熱性、強力等の物性に優れる。
【0015】
本発明の分割型複合繊維は第2成分として、エチレン−ビニルアルコール共重合体を50質量%以上含む。第2成分は好ましくはエチレン−ビニルアルコール共重合体を70質量%以上含み、より好ましくは、エチレン−ビニルアルコール共重合体を80質量%以上含み、最も好ましくは、エチレン−ビニルアルコール共重合体のみからなる。なお、第2成分に含まれるエチレン−ビニルアルコール共重合体の好ましい上限は100質量%である。第2成分がエチレン−ビニルアルコール共重合体を50質量%以上含む成分であると、エチレン−ビニルアルコール共重合体に起因する特性に優れる。例えば、親水性や、生体と親和して生体組織と適合する生体適合性である。
【0016】
第2成分に用いられるエチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン含有量が20mol%〜50mol%であることが好ましく、エチレン含有量が25mol%〜45mol%であることがより好ましい。エチレン含有量がこの範囲であると、紡糸安定性、分割性、親水性に優れる。エチレン含有量が20mol%以上であると、紡糸工程が安定するとともに延伸工程で高度に延伸することができ、分割性の良好な繊維となる。さらに、例えばカード機を通過させる場合はウェブのたるみが生じ難くなる。そして、エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン含有量が少ないと、ビニルアルコール単位が繊維製造工程中に水分を吸収し膨張し、分割型複合繊維の各成分同士が割繊されやすくなり、カード通過時にたるみが生じやすい傾向にある。また、エチレン含有量が50mol%以下であると、ビニルアルコール単位に起因して親水性に優れる。
【0017】
本発明の分割型複合繊維の第1成分及び第2成分は、他の成分を50質量%未満で含んでよく、他の成分は30質量%未満であることが好ましい。他の成分は、特に限定されないが、例えば、ポリヒドロキシブチレート(P−3HB)、ポリ3−ヒドロキシバリエート(P−3HV)、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリアミノ酢酸(PMLG)、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル等のうち1又は2以上を選択して用いてよい。なかでも、他の成分は、生体適合性を有する成分であることが好ましい。
【0018】
本発明の分割型複合繊維は、第1成分と第2成分との複合比(体積比)が1:9〜7:3であることが好ましく、第1成分と第2成分との複合比(体積比)が2:8〜6:4であることがより好ましい。複合比が1:9〜7:3であると、十分な分割性を得ることができる。第2成分の割合が9を超えるとカード通過性が悪くなる場合がある。
【0019】
本発明の分割型複合繊維は、繊維断面から見て前記第1成分又は第2成分が他の成分により2以上のセグメントに区分されてなることが好ましい。より好ましくは、繊維断面において第1成分又は第2成分が他の成分により3以上のセグメントに区分されてなり、さらに好ましくは、繊維断面において第1成分又は第2成分が他の成分により6以上のセグメントに区分されてなる。繊維断面において、第1成分又は第2成分が他の成分により2以上のセグメントに区分されてなると、分割型複合繊維が割繊し易く、割繊により第1成分又は第2成分の極細繊維を得ることができる。
【0020】
また、本発明の分割型複合繊維は、繊維断面から見て第2成分が第1成分により2以上のセグメントに区分されてなることが好ましい。第2成分が第1成分により2以上のセグメントに区分されてなると、第2成分の極細繊維を発現しやすくなる。また、第2成分の極細繊維を含む繊維構造物は、優れた吸水性を有する。
【0021】
本発明の分割型複合繊維は、第1成分及び第2成分の少なくとも一部が繊維表面に露出している。第1成分及び第2成分の少なくとも一部が繊維表面に露出していると、第1成分及び第2成分からなる極細繊維を得やすい。また、繊維表面に露出している第1成分と第2成分の面積比は、1:9〜7:3であることが好ましい。露出比がこの範囲であると、紡糸工程の安定性と分割性を両立することができる。第1成分及び第2成分の少なくとも一部が繊維表面に露出している形態は、例えば図1(a)〜(i)に示す断面構造である。また、第2成分の少なくとも一部が繊維表面露出していると、エチレン−ビニルアルコール共重合体の親水性に起因して、割繊前の分割型複合繊維の形態で親水性を有する繊維を得ることができる。さらに、第2成分の親水性に起因して吸水性を有する繊維構造物を得ることができる。
【0022】
また、本発明の分割型複合繊維は、繊維断面から見て第1成分または第2成分が1つの連続したセグメントからなることが好ましく、カード機を用いて不織布を得る場合は、繊維断面から見て第1成分が1つの連続したセグメントからなることがより好ましい。第1成分または第2成分が1つの連続したセグメントであると、カードの通過性に優れる。一般に易分割性を有する繊維はカードを通過させたときに繊維が割繊し、細繊度の繊維となり、ウェブ強力が弱くなり、たるみが生じる。しかし、第1成分または第2成分が1つの連続したセグメントであると1つの連続したセグメントに起因して、ウェブ全体の強力が維持され、たるみが生じ難いか又は生じない。この効果は、第1成分が1つの連続したセグメントである場合の方が、第2成分が1つの連続したセグメントである場合に比べて、顕著である。なお、第1成分が1つの連続したセグメントであると、カート通過時のたるみがなく、後の割繊工程では、容易に割繊する分割型複合繊維を得ることができる。また、第2成分が1つの連続したセグメントであると、エチレン−ビニルアルコールの親水性に起因して、第2成分が水分を吸収し膨張し易く、弱い外力で割繊する繊維が得られる。このような弱い外力で割繊する分割型複合繊維は、湿式抄紙不織布等のカード機を用いない不織布を得る場合に好適である。
【0023】
また、繊維断面から見て1つの連続したセグメントを割繊させる場合は、後述の放射型の形態とするとよい。例えば、第1成分が1つの連続したセグメントとは、例えば図1(a)〜(e)に示す断面構造である。
【0024】
本発明の分割型複合繊維は、各成分が放射型に配されてなることが好ましく、各成分が放射型に配され、かつ第1成分が1つのセグメントからなることがより好ましい。各成分が放射型に配されてなると、分割しやすい複合繊維となる。また、各成分が放射型に配され、かつ第1成分が1つのセグメントからなると、第2成分からなる極細繊維が得やすく、かつカードの通過性に優れる。さらに、外力を加えることで、第1成分からなる極細繊維を得やすくなる。
【0025】
次に、本発明の分割型複合繊維の製造方法を説明する。ここでは、第一成分と第二成分とからなる2成分系の分割型複合繊維の製造方法を例に挙げて説明する。まず、第一成分と第二成分を準備する。次いで、第一成分と第二成分が所望の繊維断面構造が得られるように適切な複合紡糸ノズルを用いて、常套の溶融紡糸機を用いて、複合紡糸し、紡糸フィラメントを得る。なお、ノズル温度は、220℃以上320℃以下とすることが好ましい。
【0026】
次いで、紡糸フィラメントを公知の延伸処理機を用いて延伸処理して、延伸フィラメントを得る。延伸処理は、延伸温度を40℃以上110℃以下の範囲内にある温度に設定して実施することが好ましい。延伸倍率は、2倍以上とすることが好ましい。延伸方法は、温水または熱水中で実施する湿式延伸法であることが好ましい。あるいは、延伸は、乾式延伸法で実施してもよい。
【0027】
本発明の分割型複合繊維は、短繊維の形態又は長繊維の形態で使用してよい。短繊維の形態で用いる場合には、得られた延伸フィラメントに、所定量の繊維処理剤が付着させ、クリンパー(捲縮付与装置)で機械捲縮を与えてよい。捲縮付与後のフィラメントは80℃以上110℃以下の範囲内にある温度で、数秒〜約30分間、乾燥処理を施し、繊維処理剤を乾燥させる。その後、フィラメントは用途等に応じて、繊維長が3mm〜100mmとなるように切断される。
【0028】
本発明の分割型複合繊維の単繊維繊度は、0.56〜22.2デシテックス(0.5〜20デニール)であることが好ましく、単繊維繊度は、1.11〜13.3デシテックス(1〜12デニール)であることがより好ましい。単繊維繊度が0.56デシテックス(0.5デニール)未満であると、紡糸中に糸切れが発生しやすい傾向となる。また、単繊維繊度が22.2デシテックス(20デニール)を超えると、カード通過性が悪くなる傾向となる。
【0029】
本発明の分割型複合繊維は、外力を加えることにより、第1成分及び第2成分のうち少なくとも1成分からなる繊維を分割できる。例えば、ニードルパンチ及び/又は、高圧水流を噴射する水流交絡処理により、分割型複合繊維の一部又は全部が割繊し、極細繊維を形成する。割繊とは、繊維の長手方向に各成分が分離又は剥離して、繊維の一部又は全部が細化することをいう。
【0030】
本発明の繊維構造物は、分割型複合繊維が割繊され、繊度0.033〜1.22デシテックス(0.03〜1.1デニール)の第1成分および第2成分のうち少なくとも1成分からなる繊維を含む。好ましくは、繊維構造物は、分割型複合繊維が割繊され、繊度0.056〜0.89デシテックス(0.05〜0.8デニール)の第1成分および第2成分のうち少なくとも1成分からなる繊維を含み、好ましくは、繊維構造物は、分割型複合繊維が割繊され、繊度0.067〜0.78デシテックス(0.06〜0.7デニール)の第1成分および第2成分のうち少なくとも1成分からなる繊維を含む。第1成分及び第2成分のうち少なくとも1成分からなる極細繊維を含む繊維構造物は、柔軟な風合いかつ緻密な構成を有するものとなる。また、繊維構造物が第2成分からなる極細繊維を含む繊維構造物は、特に吸水性に優れる。繊維構造物は、例えば、織物、編物、および不織布等である。中でも、繊維構造物は不織布であることが好ましい。ここで、割繊されるとは、繊維断面から見て、少なくとも一つの成分の一部又は全部が分離することをいう。
【0031】
本発明の繊維集合物が不織布である場合、不織布は、ニードルパンチ不織布、水流交絡不織布、サーマルボンド不織布、またはケミカルボンド不織布等に形成することができる。不織布は、第1成分及び第2成分のうち少なくとも1成分からなる極細繊維を含み、かつ繊維同士が水流交絡処理により交絡されて成る水流交絡不織布であることが好ましい。不織布が水流交絡不織布の形態であれば、分割型複合繊維の割繊と同時に繊維処理剤を脱落させることができる。このような不織布は、生体適合性を有さない繊維処理剤を用いる場合には特に好適である。また、本発明の分割型複合繊維の分割性が良好であることに起因して、極細繊維が多く含まれ、かつ繊維同士が良好に交絡している。極細繊維が多く含まれる不織布は、エチレン−ビニルアルコール共重合体成分の親水性に起因して、吸水性に優れた不織布となり、例えば、止血材や血液中の1以上の成分又は不純物を選択的に除去するためのフィルターとして使用するのに適している。
【0032】
本発明の不織布は、分割型複合繊維が割繊された第1成分及び第2成分のうち少なくとも一成分からなる繊維を含む。割繊された繊維の形状は、特に限定されないが、分割型複合繊維の繊維断面に一つの成分の一部が分離した楔形状、1又は2以上の楔形が分離した形状、及び一つの成分の全部が分離した花弁形状のうち1又は2以上が混在していることが好ましい。また、本発明の不織布は、未割繊(未分割)の繊維を含んでよい。上記形状の繊維が混在した不織布は、未割繊の繊維、或いは、一つの成分の一部が分離した形状の繊維に起因して不織布強力に優れ、かつ割繊された細繊度の繊維に起因して肌触りの柔軟な不織布となる。
【0033】
本発明の不織布は、本発明の分割型複合繊維を用いて繊維ウェブを作製し、これに水流交絡処理を施して製造することが好ましい。繊維ウェブの形態は、パラレルウェブ、クロスウェブ、クリスクロスウェブ、セミランダムウェブおよびランダムウェブ等のカードウェブ、エアレイウェブ、湿式抄紙ウェブ、ならびにスパンボンドウェブ等から選択されるいずれの形態であってもよい。繊維ウェブは、水流交絡処理による交絡性を考慮すると、カードウェブであることが好ましい。
【0034】
水流交絡処理は、繊維ウェブを、搬送支持体の上に載置し、ウェブの片面または両面に水流を噴射して実施する。このとき、分割型複合繊維が割繊して極細繊維が形成されるとともに、繊維同士が交絡して、ウェブが一体化され、不織布が得られる。水流交絡処理条件は、繊維ウェブの目付および分割型複合繊維の所望の割繊度合、ならびに搬送支持体の速度等に応じて適宜設定することができる。例えば、孔径0.05mm以上0.5mm以下のオリフィスが、0.5mm以上1.5mm以下の間隔で設けられたノズルから、水圧0.1MPa以上20MPa以下の水流を、繊維ウェブの表裏面側からそれぞれ1〜4回ずつ噴射するとよい。水圧が0.1MPa以下であると、繊維同士の交絡が不十分となり、得られた不織布において毛羽抜けが生じやすくなる場合がある。水圧が20MPaを越えると、繊維同士の交絡が強固になりすぎて、繊維の自由度が低下し、風合いが硬くなること場合がある。
【0035】
本発明の不織布は、本発明の分割型複合繊維を30質量%以上含むことが好ましく、分割型複合繊維を70質量%以上含むことがより好ましく、分割型複合繊維を100質量%含むことが最も好ましい。本発明の分割型複合繊維の含有量が30質量%未満であると、不織布において本発明の分割型複合繊維に由来する効果が得られない場合がある。
【0036】
本発明の不織布は、本発明の分割型複合繊維以外の他の繊維を70質量%未満混合して不織布としてよい。本発明の分割型複合繊維以外に混合して用いる他の繊維としては、コットン、パルプおよび麻などの天然繊維、ビスコースレーヨン、溶剤紡糸セルロースおよびキュプラなどの再生繊維、ならびに合成樹脂から成る単一繊維および複合繊維が挙げられる。合成樹脂から成る単一または複合繊維は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートおよびポリブチレンサクシネートなどのポリエステル、ナイロン6およびナイロン66などのポリアミド、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリオレフィン、ならびにアクリル系樹脂から選択される、1又は2以上の樹脂で構成されてよい。中でも、生体適合性を必要とする場合は、他の繊維は生体適合性を有する繊維が好ましい。生体適合性を有する繊維としては、ポリヒドロキシブチレート(P−3HB)、ポリ3−ヒドロキシバリエート(P−3HV)、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリアミノ酢酸(PMLG)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル等がある。また、他の繊維は、本発明の分割型複合繊維から成る層に積層されていてもよい。
【実施例】
【0037】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0038】
[分割率]
カード通過後のウェブ及び水流交絡処理後の不織布について、観察部分を電子顕微鏡にて300倍に拡大して任意に3箇所撮影し、撮影写真において、繊維断面において少なくとも一つの成分の一部又は全部が分離した部分の面積比率にて分割率を算出した。
【0039】
[吸い上げ性]
JIS L 1096 6.26.1 B法(バイレック法)に準じて、不織布の機械方向(MD方向)を長手方向とした20×2cmの試験片を用いて、所定間隔ごとに5分後までの水の上昇した高さ(mm)を測定した。
【0040】
[風合い]
水流交絡処理を施した後の不織布について、下記のとおり4段階で評価した。
A:緻密で柔らかく、非常に柔軟な風合いを有していた。
B:柔らかく柔軟な風合いを有していた。
C:やや風合いが硬かった。
D:毛羽立ちが多く、風合いも硬かった。
【0041】
(実施例1)
第1成分として、ポリ乳酸(商品名“U’z”、トヨタ自動車(株)製)と、第2成分として、エチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン含有量38mol%、ビニルアルコール含有量62mol%)とを、複合比が5:5となるように複合紡糸ノズルを用いて複合紡糸した。次いで、未延伸糸を延伸して単繊維繊度4.44デシテックス(4デニール)の延伸フィラメントを得た。その後、延伸フィラメントを繊維長が51mmとなるように切断し、図1(a)の繊維断面を有する17分割型複合繊維を得た。
【0042】
次にこの分割型複合繊維のみからなるカードウェブを作製し、これに水流交絡処理を施した。水流交絡処理は、孔径0.1mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いて、ウェブの一方の表面に向けて、3MPaの柱状水流を1回噴射し、他の表面に向けて水圧5MPaの柱状水流を2回噴射して実施した。次いで、水流交絡処理を施した積層不織布を、エアスルー熱処理機を用いて、110℃で約30秒間乾燥させ、目付40g/m2の不織布を得た。この不織布は分割型複合繊維を分割させた第2成分からなる0.28デシテックス(0.25デニール)の極細繊維を含んでいた。
【0043】
(実施例2)
単繊維繊度を7.8デシテックス(7デニール)としたこと以外は、実施例1を製造するときに採用した手順と同様の手順に従って不織布を得た。この不織布は分割型複合繊維を分割させた第2成分からなる0.49デシテックス(0.44デニール)の極細繊維を含んでいた。得られた繊維の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)300倍で観察した写真を図2に示す。
【0044】
(実施例3)
単繊維繊度を11.11デシテックス(10デニール)としたこと以外は、実施例1を製造するときに採用した手順と同様の手順に従って不織布を得た。この不織布は分割型複合繊維を分割させた第2成分からなる0.7デシテックス(0.63デニール)の極細繊維を含んでいた。
【0045】
(実施例4)
第1成分と第2成分の複合比を4:6としたこと以外は、実施例1を製造するときに採用した手順と同様の手順に従って不織布を得た。この不織布は分割型複合繊維を分割させた第2成分からなる0.33デシテックス(0.3デニール)の極細繊維を含んでいた。
【0046】
(実施例5、参考例)
図1(g)の繊維断面を有する16分割型複合繊維としたこと以外は、実施例1を製造するときに採用した手順と同様の手順に従って不織布を得た。この不織布は分割型複合繊維を分割させた第1成分からなる0.28デシテックス(0.25デニール)の極細繊維と第2成分からなる0.28デシテックス(0.25デニール)の極細繊維を含んでいた。
【0047】
(実施例6)
図1(f)の繊維断面を有する17分割型複合繊維としたこと以外は、実施例2を製造するときに採用した手順と同様の手順に従って不織布を得た。この不織布は分割型複合繊維が発現した第1成分からなる0.49デシテックス(0.44デニール)の極細繊維を含んでいた。
【0048】
(実施例7)
図1(f)の繊維断面を有する17分割型複合繊維としたこと以外は、実施例3を製造するときに採用した手順と同様の手順に従って不織布を得た。この不織布は分割型複合繊維が発現した第1成分からなる0.7デシテックス(0.63デニール)の極細繊維を含んでいた。
【0049】
(比較例1)
第1成分としてポリエチレンテレフタレート(商品名T200E、東レ(株)製)を用い、第2成分としてポリプロピレン(商品名 SA03、日本ポリプロ(株)製)を用い、図1(g)の繊維断面を有する16分割型複合繊維としたこと以外は、実施例5を製造するときに採用した手順と同様の手順に従って不織布を得た。この不織布は分割型複合繊維を分割させた第1成分からなる0.28デシテックス(0.25デニール)の極細繊維と第2成分からなる0.28デシテックス(0.25デニール)の極細繊維を含んでいた。
【0050】
(比較例2)
第1成分としてポリプロピレン(商品名 SA03、日本ポリプロ(株)製)を用いたこと以外は実施例5を製造するときに採用した手順と同様の手順に従って不織布を得た。この不織布は分割型複合繊維を分割させた第1成分からなる0.28デシテックス(0.25デニール)の極細繊維と第2成分からなる0.28デシテックス(0.25デニール)の極細繊維を含んでいた。
【0051】
(比較例3)
第1成分としてポリエチレンテレフタレート(商品名T200E、東レ(株)製)を用い、第2成分としてナイロン6(商品名1015B、宇部興産(株)製)を用い、図1(g)の繊維断面を有する16分割型複合繊維としたこと以外は、実施例5を製造するときに採用した手順と同様の手順に従って不織布を得た。この不織布は分割型複合繊維を分割させた第1成分からなる0.28デシテックス(0.25デニール)の極細繊維と第2成分からなる0.28デシテックス(0.25デニール)の極細繊維を含んでいた。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
実施例1〜7は、水流交絡処理後において優れた分割性を有していた。また、実施例1〜4は、カード通過性も優れていた。さらに、実施例1〜7は、生体適合性を有する成分のみからなり、生体適合性を有する不織布であった。また、比較例1は、ポリエステル系成分とポリオレフィン系成分からなる分割型複合繊維であるが、十分な分割性が得られなかった。さらに、比較例2及び3は、十分な分割性が得られたが、実施例1〜7に比べ、風合いが硬く、生体適合性を有さない成分を含んでおり、生体適合性を必要とする分野に適していないものであった。
【0055】
実施例1〜5は、第2成分からなる極細繊維に起因して、優れた吸水性を有していた。また、実施例6、実施例7、及び比較例1〜3は、十分な吸水性が得られず、吸水性を必要とする分野には適していないものであった。
【0056】
実施例1〜5の繊維及び不織布は、生体適合性を有しており、さらに、優れた吸水性を有するので、生体適合性を必要とする分野に利用する場合に適している。生体適合性を必要とする分野としては、例えば、止血材、血液中の1以上の成分又は不純物を選択的に除去するためのフィルター、細胞培養用基材、衛生材料、対人用ワイパー、及びドライ又はウェット状態の化粧用品等に利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の分割型複合繊維、繊維構造物、及び不織布は、止血材、血液中の1以上の成分又は不純物を選択的に除去するためのフィルター、ガーゼ、包帯、三角巾、マスク、細胞培養用基材、衛生材料、体液吸収パッド、おむつ、フェイスマスク、対人用ワイパー、及びドライ又はウェット状態の化粧用品等の分野に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施例における分割型複合繊維の模式的断面図である。
【図2】本発明の実施例2で得られた水流交絡処理後の不織布の繊維の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)300倍で観察した写真である。
【符号の説明】
【0059】
1 第1成分
2 第2成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸を50質量%以上含む第1成分と、エチレン−ビニルアルコール共重合体を50質量%以上含む第2成分とからなる複合繊維であって、
繊維断面から見て前記第1成分又は前記第2成分が2以上のセグメントに区分され、
前記第1成分および前記第2成分の少なくとも一部が前記複合繊維の表面に露出しており、
前記繊維断面から見て、第1成分又は第2成分が1つの連続したセグメントであることを特徴とする分割型複合繊維。
【請求項2】
前記繊維断面から見て前記第2成分が前記第1成分により2以上のセグメントに区分されている請求項1に記載の分割型複合繊維。
【請求項3】
前記分割型複合繊維が放射型複合繊維である請求項1又は2に記載の分割型複合繊維。
【請求項4】
前記第2成分のエチレン含有量が20mol%〜50mol%である請求項1〜3のいずれかに記載の分割型複合繊維。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−180631(P2012−180631A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−118836(P2012−118836)
【出願日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【分割の表示】特願2008−159465(P2008−159465)の分割
【原出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000002923)ダイワボウホールディングス株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】