説明

分娩期診断実習モデル

【課題】分娩期に重要な指針として用いられているビジョップスコアの採点を正確に行なうことができ、診断者の養成訓練の習熟化を促進する分娩期診断実習モデルを提供する。
【解決手段】産道を模した略筒状の産道模擬体10を設ける。該産道模擬体10の内部に挿入される児頭を模した略球体状の児頭模擬体20を設ける。該児頭模擬体20の表面に児頭を包む子宮を模した擬似膜30を装着する。前記産道模擬体10の内部に挿入された児頭模擬体20の位置と擬似膜30の感触とで、内診による子宮口開大度、展退度、児頭下降度、口唇の硬度、子宮口の位置について採点実習するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分娩第一期進行に伴う子宮口の状態を実習モデルで確認することが可能な分娩期診断実習モデルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、産婦人科診断実習モデルが記載されている。この実習モデルは、皮下組織、骨盤等、生体に近似した材料で形成した模型子宮が種々の形態をとることができるもので、模擬表皮、腹部触診、内診など、幅広い症例についての診断実習を可能にしている。
【特許文献1】実用新案登録第2541334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の産婦人科診断実習モデルでは、産婦人科に関係する幅広い症例についての診断実習を可能にしたことで、逆に、産科それも分娩時の子宮の特殊な状態を詳しく実習することは困難であった。すなわち、特許文献1では、軟質で弾性のある材質により、子宮、卵管および卵巣を模した生殖器模型を形成し、その子宮部、卵管部および卵巣部の少なくとも一つが正常又は異常を示す複数の形態をとるように設けると共に、これらの生殖器模型を生体に対応する所定位置に係止、離脱自在に構成している。そのため、分娩時期における子宮のように、正常と判断される状態でも、分娩時期によって状態が次々と変化する特殊な子宮の状態を、卵管および卵巣を模した生殖器模型で再現することは極めて困難であるといえる。分娩時期の子宮の位置や状態は、分娩の兆候から分娩に至るまで極めて変化が大きく、特許文献1のように、生体に対応する所定位置に生殖器模型を所定位置に係止したり、離脱したりするモデルでは、分娩に至るまでの子宮の特殊な状態や位置を細かく再現することができないのである。しかも、分娩時期の子宮の状態は、極めて個人差の多いものでもあり、この個人差によって異なる状態を、そのまま異常と判定することはできない。したがって、分娩時期を判定する実習モデルとして、特許文献1のように産婦人科全般の幅広い症例について診断実習する人体モデルのような実習モデルは不適当であり、このようなモデルを用いて分娩時期を判定することは不可能である。そこで、分娩時期により変化する子宮の状態を内診することができ、多くの個人差も含めた情報で判断し、正常な分娩に導くことができる訓練を実現する実習モデルが望まれている。
【0004】
特に、出産における妊娠後期から分娩期にかけての子宮の状態は、所謂、ビショップスコア(Bishopのpelvic score )を用いて子宮頸管の成熟度が判定され、分娩時の判断に用いられている(表1参照)。このビショップスコアの内容は、子宮口開大度、展退度、児頭下降度を夫々0〜3点で採点し、頸部硬度、子宮口の位置を夫々0〜2点で採点する。そして、採点の合計点数で熟化(分娩適時)の判定を行なう方法が採用されている(表2参照)。医師や助産師は、このビショップスコアの判定に加え、他の所見(たとえば陣痛の状態、産徴の性状、破水の有無など)を総合的に判断して分娩の状態を診断する。
【0005】
ビショップスコアで使用する採点方法は、内診による指の触感で判断するものである。そこで、この感覚に頼る判断ができるだけ客観的になるように工夫されている。たとえば、頸部硬度の採点は、小鼻くらいの硬さを0点、唇程度の柔らかさで1点、マシュマロの柔らかさになったときに2点を与えるという具合である。ところが、診断者の指の感覚に頼るものだけに、正確な採点には、十分な経験が必要とされている。しかしながら、少子化の趨勢に伴って分娩件数が減少したため、診断者の養成機関内等で十分な経験を得られず、技術を習得できないまま臨床に移行するケースが増えている。また、臨床でも十分な訓練を積むまでには、多くの時間がかかっているのが現状である。
【0006】
そこで、本発明は、分娩期に重要な指針として用いられているビジョップスコアの採点を正確に行なうことができ、分娩時に生じやすい様々なケースの内診を予め疑似体験することで、診断者の養成訓練の習熟化を促進する分娩期診断実習モデルの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成すべく本発明における第1の手段は、ビショップスコアを使用して子宮の熟化を判定する実習用モデルであって、産道を模した略筒状の産道模擬体10と、該産道模擬体10の内部に挿入される児頭を模した略球体状の児頭模擬体20とで構成され、該児頭模擬体20の表面に児頭を包む子宮を模した擬似膜30を装着し、前記産道模擬体10の内部に挿入された児頭模擬体20の位置と擬似膜30の触感とで、内診による判定をするように構成したことにある。
【0008】
第2の手段は、前記擬似膜30に、柔軟性を有する材質で子宮口を模した子宮口判定部31を設け、該子宮口判定部31の開大度、展退度、硬度により、内診の判定をするように構成している。
【0009】
第3の手段は、前記擬似膜30と前記児頭模擬体20との間に羊膜を模した擬似羊膜体40を装着している。
【0010】
第4の手段は、前記児頭模擬体20に、児頭の大泉門と矢状縫合とを模した基準溝21を形成したことを課題解消のための手段とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1によると、産道模擬体10内に挿入した児頭模擬体20の位置や擬似膜30の状態によって、分娩期に重要な指針として用いられているビジョップスコアの採点を正確に行なうことが可能になる。
【0012】
しかも、略筒状の産道模擬体10を使用して、略球体状の児頭模擬体20の位置を自由に調整できるので、児頭下降度等を確認することが可能である。
【0013】
また、請求項2により、柔軟性を有する材質で子宮口を模した子宮口判定部31を形成しているので、子宮口判定部31の形状、硬度により、子宮開大度の判定が可能になっている。この結果、分娩時期や個人差で大きく異なる子宮頸部や子宮口の状態も、子宮口判定部31の状態を変えることで容易に再現し、実習することができる。更に、子宮口判定部31で子宮口の全開大までを再現することで、分娩の進行を学習することも可能になっている。
【0014】
更に、請求項3に記載の擬似羊膜体40を、前記擬似膜30と前記児頭模擬体20との間に装着することで、破水前の羊膜を再現することができる。
【0015】
そして、前記児頭模擬体20に、児頭の大泉門と矢状縫合とを模した基準溝21を形成したことで、児頭の回旋を確認することもできる。
【0016】
このように、本発明によると、分娩期に重要な指針として用いられているビジョップスコアの採点を正確に行なうことができ、分娩時に生じやすい様々なケースの内診を予め疑似体験することが可能になり、診断者の養成訓練の習熟化を促進することができるといった種々の効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明モデルの最良の形態は、産道を模した略筒状の産道模擬体10を設け、該産道模擬体10の内部に挿入される児頭を模した略球体状の児頭模擬体20を設ける。児頭模擬体20の表面に大泉門を模した基準溝21を形成する。児頭模擬体20の表面に児頭を包む子宮を模した擬似膜30を装着する。前記産道模擬体10の内部に挿入された児頭模擬体20の位置で、内診による児頭下降度を判定するように構成する。擬似膜30に、子宮口を模した子宮口判定部31を設ける。該子宮口判定部31の形状と感触と向きにより、開大度と展退度と子宮口の位置と硬度を判定するように構成する。羊膜を模した擬似羊膜体40を形成し、前記擬似膜30と前記児頭模擬体20との間に擬似羊膜体40を装着することで当初の目的を達成する。
【実施例】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の一実施例を説明する。本発明は、特に、内診によって分娩期の診断をするために用いる実習モデルであり、研修生等が内診によって分娩第一期進行に伴う子宮口の状態を判断する経験を擬似体験できるように構成している。この分娩第一期とは、陣痛発来から子宮口全開大までの期間をいう。
【0019】
そのため、本発明は、分娩時期の子宮の熟化状態を判定するために使用するビショップスコアの採点実習を行なうもので、内診により、子宮口開大度、展退度、児頭下降度、口唇の硬度、子宮口の位置について採点できるようにしている。
【0020】
本発明の基本構成は、産道模擬体10、児頭模擬体20、擬似膜30、により構成される(図1参照)。産道模擬体10は、本発明モデルの容器部分となる筒体13を形成し、この筒体13の内部に、内診時の指の周りに感じる圧力や、指先が触れる起伏などを模した擬似産道11と、児頭模擬体20を収納する収納筒部12とを形成している(図2参照)。図示例では、シリコンゴム、クッション、スポンジなどの弾性材にて産道の圧力や起伏等を再現している。また、筒体13により、複数の実習者に産道模擬体10を次々と手渡しできるコンパクトな産道模擬体10を形成している。実習者は、産道模擬体10を抱え、あるいは机上等に置いて内診の練習を行う。そして、収納筒部12に挿入した児頭模擬体20の位置や、擬似膜30の状態を指先で触診するものである(図1参照)。また図示していないが、この産道模擬体10を、妊婦を模した人形の体内に装着することも可能である。
【0021】
児頭模擬体20は、児頭を模した略球体状のもので、産道模擬体10の内部に位置調整自在に挿入される(図2参照)。この児頭模擬体20は、発泡スチロールやゴム材、プラスチック材などで形成することができる。前記収納筒部12に挿入した児頭模擬体20の位置によって、児頭下降度を採点する。また、この児頭模擬体20の表面に、児頭の大泉門と矢状縫合とを模した基準溝21を形成している(図3(イ)、(ロ)参照)。実習者は、触診で基準溝21を確認することで、児頭模擬体20の向きや回旋状態等を判断することができる。
【0022】
擬似膜30は、児頭を包む子宮を模して設けられるもので、児頭模擬体20の表面を覆うように装着する(図3、4参照)。この擬似膜30には、更に、子宮口や子宮頸部を模した子宮口判定部31を設けている。この子宮口判定部31は、特に、この子宮口判定部31の開き具合、硬さ、厚みを触診し、子宮口開大度、口唇の硬度、展退度を採点するように設けられている。また、産道模擬体10の内部に挿入した児頭模擬体20の位置と子宮口判定部31の向きとによって、児頭下降度と子宮口の位置について学習する。
【0023】
子宮の口唇の硬度などは、個人差があるのは勿論のこと、分娩の進行によっても大きく異なるものである。そこで、児頭模擬体20に装着する擬似膜30や子宮口判定部31を伸縮自在な材質で形成し、子宮口判定部31が児頭模擬体20の伸縮に伴って口唇の硬度や展退度が変化するように設けることで、一つの擬似膜30で多くのタイプの実習を可能にすることができる。例えば、図3(イ)の如く、子宮口開大度が大きく開いている状態や、同図(ロ)の如く、あまり開いていない状態などを一つの擬似膜30で再現することができる。
【0024】
このとき、擬似膜30とは別に、口唇の硬度を再現する硬度スケール50を設けることで、この口唇の硬度についての判定をより正確に行なうことが可能になる(図5参照)。図示例の硬度スケール50は、硬度別に設けた模擬体51を連設したものである。実習者は、この模擬体51を触って子宮口の硬度を確かめることができる。
【0025】
また、擬似膜30や子宮口判定部31の伸縮等では再現できない子宮のために、予めタイプ別の擬似膜30や、特徴的な子宮口を模した子宮口判定部31を複数種類設けておき、実習のレベルに応じて擬似膜30を交換することも可能である。例えば、図4の(イ)の如く、子宮口開大度が閉鎖状態にあるにもかかわらず、展退度のみが進んだ状態や、同図(ロ)の如く、後述する破水前の擬似羊膜体40が残った状態なども再現することができる。
【0026】
図4(ロ)に示す符号40は擬似羊膜体を示す。この擬似羊膜体40は羊膜を模したもので、内部に液体やゼリー状の物質を配している。そして、この擬似羊膜体40を前記擬似膜30と前記児頭模擬体20との間に装着している。また、擬似羊膜体40内部の液体やゼリー状の物質の量を調整することで、破水前の分娩時に生じる様々なケースを再現することも可能になる。
【0027】
本発明モデルを使用してビショップスコアの熟化判定を行なう。この熟化判定は、表1に示す採点を行ない、その合計点で分娩の熟化度を判断するものである(表2参照)。
【表1】

【0028】
表1に示す如く、たとえば、子宮口開大度(子宮口の広がり)が閉鎖状態のときは0点、開大度が1〜2cmのときは1点、3〜4cmのときは2点、5〜6cmのときは3点、と採点する。同様に、展退度、児頭下降度、口唇の硬度、子宮口の位置について、夫々採点し、合計点を算出する。このとき、児頭下降度の数字は、指の挿入長さが5cmの位置を基準点の0とし、それより深い場合に-1cmごとの数字を表記している。したがって、スコア0点の-3は、-8cmを示している。そして、これら採点の合計点が0〜4点の場合は「高度頸管熟化不全」、5〜8点の場合は「軽度,頸管熟化不全」、9点〜の場合は「頸管熟化完了」と判定するものである(表2参照)。
【表2】

【0029】
本発明モデルを使用する場合、経験者が児頭模擬体20や擬似膜30をセットして実習生に触診させるのが最も確実な使用方法になる。また、図示していないが、産道模擬体10の収納筒部12内部に児頭下降度を示す印を設け、この印の位置に挿入した児頭模擬体20によって児頭下降度を判断することも可能である。また、子宮口開大度についても、児頭模擬体20の表面に基準溝21を中心として開大程度を示すいくつかの印を設け、この印まで開いた状態を数値で示すことも可能である(図示せず)。更に、展退度(子宮口の薄さ)については、各種のサンプルを用意することで客観的な実習が可能になるものである(図3、図4参照)。
【0030】
尚、本発明は、図示例に限定されるものではなく、各構成の寸法や形状等の設計変更、および材質の変更などは任意に行えるものである。たとえば、各部材の材質は、できるだけ実物に触感が似ている材質の使用が好ましく、また、何度も繰り返し使用できるように、耐久性に富む必要もある。そこで、現在知られている材質の範囲において自由に変更できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明実習モデルの一実施例を示す断面図である。
【図2】本発明実習モデルの産道模擬体を示す断面図である。
【図3】(イ)、(ロ)は、本発明実習モデルの児頭模擬体の一実施例を示す正面図である。
【図4】(イ)、(ロ)は、本発明実習モデルの児頭模擬体の他の実施例を示す正面図である。
【図5】本発明の硬度スケールを示す正面図である。
【符号の説明】
【0032】
10 産道模擬体
11 擬似産道
12 収納筒部
13 筒体
20 児頭模擬体
21 基準溝
30 擬似膜
31 子宮口判定部
40 擬似羊膜体
50 硬度スケール
51 模擬体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビショップスコアを使用して子宮の熟化を判定する実習用モデルであって、産道を模した略筒状の産道模擬体と、該産道模擬体の内部に挿入される児頭を模した略球体状の児頭模擬体とで構成され、該児頭模擬体の表面に児頭を包む子宮を模した擬似膜を装着し、前記産道模擬体の内部に挿入された児頭模擬体の位置と擬似膜の触感とで、内診による判定をするように構成したことを特徴とする分娩期診断実習モデル。
【請求項2】
前記擬似膜に、柔軟性を有する材質で子宮口を模した子宮口判定部を設け、該子宮口判定部の開大度、展退度、硬度により、内診の判定をするように構成した請求項1記載の分娩期診断実習モデル。
【請求項3】
前記擬似膜と前記児頭模擬体との間に羊膜を模した擬似羊膜体を装着した請求項1又は2記載の分娩期診断実習モデル。
【請求項4】
前記児頭模擬体に、児頭の大泉門と矢状縫合とを模した基準溝を形成した請求項1記載の分娩期診断実習モデル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−34162(P2007−34162A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−220700(P2005−220700)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(505289340)
【Fターム(参考)】