分子の結晶化および結晶解析用のマイクロ流体デバイス
本発明は、1つ以上の化合物が濃度勾配に従って存在する溶液を含む1つ以上の結晶化チャンバを備えるマイクロ流体デバイスに関する。結晶化チャンバの形状によって、対流現象が制限される。また、本発明は、このデバイスの使用、詳細には液液拡散による結晶化における使用と、結晶化の方法とに関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は結晶化の分野に関する。より詳細には、本発明は分子、より詳細には生物分子の結晶化および結晶解析用のマイクロ流体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
高品質の結晶を得ることを可能とするデバイスの開発は、特に生物学の分野において、より詳細には構造的なゲノム学、化学、薬学および医学の分野において、より詳細には創薬領域における研究のために、重要な挑戦である。
【0003】
分子、より詳細には生物分子の結晶化は、多数の物理化学的な変数および生化学的な変数の伴う、多パラメータの複雑な過程である。したがって、高品質の結晶を得るのに適切な条件の最適化の研究には、相当な量の物質が結晶化される必要があるが、この物質は生体分子または合成化合物など、非常に高価な材料である。
【0004】
現在、結晶化される試料を少量しか用いずに高品質の結晶を得ることを目的とするデバイスの開発が、非常に盛んである。
すなわち、2003年には、カリフォルニア州のFluidigm社によって、少量の試料から高品質の結晶を調製することを可能とするマイクロ流体チップが提供されている。しかしながら、このデバイスでは充填が手動で行われる必要がある。また、このデバイスは圧力操作弁機構によって動作されるが、そうした機構はデバイスの使用を複雑にするとともに、故障の原因ともなり得る。加えて、このデバイスは高価であり、また、結晶のin situ解析はほとんど不可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
分子の結晶化において小型化されたデバイスが既に幾つか用いられているが、それらのデバイスは非常に高価で、信頼性が充分ではなく、使用し難く、結晶化条件のスクリーニングおよび最適化の両方に適合しておらず、さらには結晶のin situ解析(特にX線散乱による解析)も不可能なことがある。
【0006】
したがって、分子の結晶化のために改良された特性を有するデバイスの必要が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上述の問題を全体的にまたは部分的に解決することを可能とするデバイスをここに提供する。
第1の態様では、本発明は1つ以上の結晶化チャンバを備えるマイクロ流体デバイスを提供する。上記結晶化チャンバは、1つ以上の化合物が濃度勾配に従って存在する溶液を含むことができ、結晶化チャンバの形状によって対流現象が制限される。
【0008】
したがって、本発明は結晶化剤を含む溶液を受容するための結晶化チャンバにも関する。結果的に、本発明は、この溶液を含むまたは含まない結晶化チャンバや、上記溶液を含むまたは含まない1つ以上のチャンバを備えるマイクロ流体デバイスにも関する。
【0009】
「マイクロ流体デバイス」は、本発明においては、マイクロリットル程度、さらにはマイクロリットル未満の極少量の液体試料を用いる小型化されたデバイスを意味する。デバイスの内部では、上記結晶化チャンバの形状および減少した寸法によって溶液における対
流運動が最小化される(例えば、インターフェロメトリーなどによって観察される)。すなわち、このマイクロ流体環境は、対流現象の制限された、さらには対流現象の存在しない媒質中における、より均一質な結晶の成長に有利である。
【0010】
「結晶化チャンバ」は、本発明では、分子の結晶化に適合したチャンバ、より詳細には液密および気密領域、さらに詳細には水密、揮発性溶媒(アルコールなど)密、蒸気密、空気密領域のうちの1つ以上を意味する。
【0011】
より詳細には、結晶化チャンバは1つ以上のタンク(R1)に接続されている。
「タンク」は、本発明では、流体を収容するのに適切な気密筐体を意味し、その体積は結晶化チャンバより大きくてよい。
【0012】
結晶化チャンバは、本発明では、バッチ結晶化または液液拡散(contre−diffusion)による結晶化(好適には液液拡散による結晶化)を可能とするように構成されてよい。
【0013】
液液拡散による結晶化の技術はガルシア・ルイーズ(Garcia−Ruiz)によって1994年に開発されており、この技術は当業者にはよく知られている(ガルシア・ルイーズおよびモレノ(Moreno)、1994年、Acta. Cryst. D50,484〜490)。
【0014】
より詳細には、本発明では、結晶化チャンバは、直径が400μm以下、好適には300μm以下、より好適には200μm以下、さらには100μm以下の部分を有する。
本発明による結晶化チャンバは、10mm以上、より好適には30mm以上の長さを有してよい。
【0015】
本発明による結晶化チャンバは、10以上、より好適には100以上、最も好適には1,000以上の長さ/幅比を有してよい。
本発明による結晶化チャンバは、正方形、矩形、半円、三角形または管状の断面、より好適には正方形または矩形の断面を有してよい。
【0016】
より詳細には、本発明による結晶化チャンバの形状は、結晶化を改良するための手段、より詳細には、官能基のグラフト、電荷、酵素基質、配位子のうちの1つ以上やバッフル板、粗さすなわち表面の不規則性などの特定の形状構成から選択される、形成される結晶の数を増加させるための手段を含む。
【0017】
官能基のグラフト、電荷、酵素基質、配位子のうちの1つ以上に関連した技術は、当業者にはよく知られている(ウルマン(Ulman)、「有機薄膜入門:ラングミュア−ブロジェットから自己集合まで(Introduction to thin organic films: From Langmuir−Blodgett to self
Assembly)」、1991年、アカデミック・プレス(Academic Press)、ボストン)。
【0018】
したがって、本発明によるデバイスは、より詳細には、酵素、核酸または膜蛋白などの巨大分子の結晶化を可能とすることができる。
本発明による結晶化チャンバは、リソグラフィ、マイクロマシニング、射出成形、プレス成形、ホットまたはコールドプレスキャストおよび印刷のうちの1つ以上の方法によって得られる。
【0019】
「リソグラフィ法」は半導体産業における方法を意味し、その一般原理は、チャン(C
hang)およびスー(Sze)が記載しているように(1996年、ULSIテクロノジー(ULSI technology)、マグロウヒル・インターナショナル版(McGraw−Hill International Editions))、あるいはシャ(Xia)およびホワイトサイズ(Whitesides)が記載しているように(1998年、Annu. Rev. Mater. Sci.,28,153〜184)、感光材料の層によって覆われた基板に像を形成することである。
【0020】
リソグラフィ法の例としては、フォトリソグラフィ、X線リソグラフィ、EUVリソグラフィ、電子リソグラフィ、イオンリソグラフィおよびナノ印刷リソグラフィが挙げられる。当業者には、その一般知識によって、そのような技術が容易に識別される。
【0021】
材料の除去を含むマイクロマシニング法は、切削工具またはレーザーの利用に基づいてよい。
本発明による結晶化チャンバおよびその周囲を形成する材料は透明であってよく、より詳細には、可視光、入射X線、および結晶散乱された信号のうちの1つ以上を透過させてよい。上記材料は、より詳細には、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート、シクロオレフィンコポリマー(COC)およびSU8樹脂から選択されてよく、好適にはポリメタクリル酸メチルである。
【0022】
したがって、本発明によるデバイスによって、結晶成長運動の監視(例えば、ビデオ顕微鏡による)や、濃度勾配の形成の監視(特に、インターフェロメトリーによる)が可能となる。
【0023】
詳細には、本発明による結晶化チャンバによって形成される空間のうち1つ以上の部分はゲルを含む。
「ゲル」は、結晶化される分子の溶液などの液体に浸漬された架橋ポリマーの三次元網目構造からなる二相性の媒質を意味する。架橋は、物理的なもの(例えば、アガロース、セルロース、およびそれらの誘導体のうちの1つ以上のゲルの場合)であっても、化学的なゲル(例えば、シリカまたはアクリルアミド−ビスアクリルアミドのゲルなど)であってもよい。
【0024】
本発明によるゲルは、アガロース、セルロースおよびそれらの誘導体のうちの1つ以上、シリカ、ならびにアクリルアミド−ビスアクリルアミドのゲルから選択されてよい。
詳細には、本発明による結晶化チャンバの1つの端部によって形成される空間の少なくとも一部はゲルを含む。
【0025】
好適には、本発明による結晶化チャンバによって形成される全空間がゲルを含む。
本発明による結晶化チャンバは、その内面の少なくとも一部に、その濡れ性を増加させるための手段を有してよい。
【0026】
「濡れ性」は、本発明では、表面が水溶液によって濡らされる能力を意味し、90°未満の接触角が観察される。
すなわち、結晶化チャンバが疎水性の表面を有するとき(エラストマーまたはプラスチックの場合に当てはまる)、より詳細には、結晶化チャンバがチャネルの形態であるとき、界面活性剤などの湿潤剤の添加によって、水溶液(タンパク質を含有している水溶液を含む)を自然に結晶化チャンバへ入らせることが可能となるという点で、本発明は優れている。すなわち、それらの界面活性剤の添加によって、試料の湿潤力を増加させることが可能となり、試料は毛細管現象によって結晶化チャンバへ進入するので、バルブおよびポンプ系を除去することが可能となる。
【0027】
本発明による別の解決策は、チャンバの表面をより親水性とするように、チャンバの表面を化学的に修飾することである。
すなわち、濡れ性を増大させるための手段の例として、次を挙げることができる。
i)物理的、化学的または両者の組み合わせによる表面改質(例えば、プラズマ(より詳細には、酸素、オゾン)処理、紫外線処理、イオン処理、界面活性剤の吸着、親水基のグラフトなど)、
ii)水溶液に対する表面活性分子の添加。
【0028】
特定の実施形態では、結晶化チャンバは毛細管現象によって充填されてよい。
「毛細管現象」は、本発明では、直径の小さなチューブ中に流体が上昇することに見られる現象を意味する。
【0029】
「溶液」は、本発明では、1つ以上の溶媒と、その溶媒に溶解されている溶質とからなる均一な液体を意味する。
「化合物」は、本発明では、化学物質を意味する。
【0030】
より詳細には、上記化合物は結晶化剤である。
「結晶化剤」は、本発明では、分子の結晶化に有利な有機または無機化合物、天然化合物、および合成化合物を意味する。
【0031】
結晶化剤の例としては、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウムなどの塩類、メチル−2,4−ペンタンジオール、エタノールなどのアルコール、ポリエチレングリコールなどのポリマー、およびそれらの誘導体、ならびにポリアミンが挙げられる。
【0032】
「濃度勾配」は、本発明では、最も濃縮された媒質から最も濃縮されていない媒質への化合物の濃度の変化を意味する。
より詳細には、上記マイクロ流体デバイスでは、化合物の飽和濃度(より詳細には、結晶化剤の飽和濃度)の25%以下、好適には20%以下、さらには15%以下、好適には10%以下、さらに好適には5%以下または0%から、50%以上、さらには75%以上、好適には85%以上、より好適には95%以上、最も好適には100%までの範囲の化合物濃度(より詳細には、結晶化剤濃度)の勾配を得ることが可能である。
【0033】
より詳細には、上記濃度勾配は、結晶化チャンバの長さの20%以上、好適には40%以上、より好適には60%以上、最も好適には80%以上において、または結晶化チャンバの全長において確立される。
【0034】
したがって、本発明によるデバイスでは、極めて広範で連続的な結晶化条件を得ることが可能である。詳細には、上記デバイスでは、連続的またはほぼ連続的な勾配変化を得ることが可能である。
【0035】
より詳細には、本発明によるデバイスは幾つかの結晶化チャンバを備え、上記化合物、より詳細には結晶化剤は、各結晶化チャンバに異なる濃度で存在する。
したがって、結晶化条件を決定するとき、このデバイスを用いてその最適化を行うことができる。
【0036】
対流現象を制限することによって、本発明によるデバイスは、極少量の材料を結晶化させて高品質の結晶を得ることを可能とする。
「対流現象」は、本発明では、例えば、温度や密度の変動によって生じる流体内の運動を意味する。
【0037】
「形状」は、本発明では、部材の空間的な構成、より詳細には上記結晶化チャンバの構成を意味する。
より詳細には、本発明によるデバイスは、化合物、詳細には結晶化する分子の質の低下を生じる空気、気体またはその両方の存在しない媒質における分子の結晶化を可能とする。これによって、影響を受けやすい分子、より詳細には酸化の影響を受けやすい分子の結晶化を可能とする。
【0038】
本発明によるデバイスは、界面活性物質、より詳細には、結晶化する分子を溶解することを可能とする、より詳細には非イオン界面活性剤および両性イオン界面活性剤から選択される界面活性剤を含む、1つ以上の溶液を含む。
【0039】
「界面活性物質」は、本発明では、界面活性化能を有する化合物を意味する。
界面活性物質の例としては、オクチルグルコシド、オクチルチオグルコシド、ノニルグルコシド、LDAO(ラウリルジアミンオキシド)、Triton X−100(登録商標)(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)、CHAPS(3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパンスルホン酸)、およびそれらの誘導体が挙げられ、特にオクチルグルコシドが挙げられる。
【0040】
界面活性物質の濃度は選択される製品に応じて異なり、より詳細には、1〜100%または臨界ミセル濃度(CMC)より高い濃度であってよい。
例えば、水中でのCMCは、オクチルグルコシドでは20mM、オクチルチオグルコシドでは6.5mM、ノニルグルコシドでは9.5mM、LDAOでは2mM、Triton X−100(登録商標)では0.9mM、CHAPSでは8mMである。
【0041】
より詳細には、本発明によるデバイスは、次のうちの1つ以上、すなわち、
・結晶化チャンバを充填するための機械的手段(特にバルブおよび圧力手段など)、
・可動部品(特に、結晶化チャンバの充填中に上記デバイスの使用を可能とするための)を備えていない。
【0042】
したがって、本発明によるデバイスは容易に使用可能であり、優れた信頼性、低減された生産コストまたはその両方を有する。
有利には、本発明によるデバイスは、X線散乱によって結晶化チャンバ中に存在する結晶のin situ解析が可能である。
【0043】
本発明によるデバイスは、光に対し透明または半透明である、より詳細には肉眼または光学的な拡大による、好適には光学的な拡大による結晶の観察が可能である。
より詳細には、本発明による溶液は、化学的、生物学的、医学的または薬学的な対象となる1つ以上の分子、より詳細には、無機もしくは有機分子、天然巨大分子または合成巨大分子、より詳細には、核酸、タンパク質、超分子複合体およびウィルスから選択される分子をさらに含む。
【0044】
本発明によるマイクロ流体デバイスは、デバイス全体または1つ以上の結晶化チャンバにおいて所与の温度を得るための手段を含む。
本発明によるマイクロ流体デバイスは、1つ以上の結晶化チャンバの1つ以上の部分において、より好適には1つ以上の結晶化チャンバの全長において、最も好適にはマイクロ流体デバイス全体において温度勾配を得るための手段を含む。
【0045】
当業者には、その一般知識によって、そのような手段が容易に識別される。
デバイス全体または1つ以上の結晶化チャンバにおいて所与の温度を得るための手段の例としては、ペルティエ素子の利用が挙げられる。「ペルティエ」効果は、性質を異にす
る接合された複数の導体における電流に存在する熱移動効果を意味する。接続材料のうちの一方はわずかに冷却され、他方はわずかに加熱される。
【0046】
より詳細には、本発明によるマイクロ流体デバイスは、1つ以上の結晶化チャンバの1つ以上の部分において、さらには1つ以上の結晶化チャンバの全長において、温度勾配を得るための手段を含む。
【0047】
当業者には、その一般知識によって、そのような手段が容易に識別される。
1つ以上の結晶化チャンバの1つ以上の部分において、さらには1つ以上の結晶化チャンバの全長において、温度勾配を得るための手段の例としては、ペルティエ素子が挙げられる。
【0048】
別の態様では、本発明は、次の用途のうちの1つ(より詳細には、塩類、有機分子、無機分子、生体巨大分子、ウィルスまたは薬品有効成分などの分子を対象とする場合)における本発明によるデバイスの使用を提供する:
・液液拡散による結晶化、
・新たな有効成分と、有効成分の新たな形態、より詳細には新たな結晶形態とのうちの1つ以上の研究、
・結晶化条件のスクリーニングおよび最適化の研究。
【0049】
したがって、本発明によるデバイスは、分子の結晶化条件のスクリーニングおよび最適化のために用いることが可能である。
別の態様では、本発明のさらなる目的は、結晶化チャンバ中に存在する結晶のX線散乱解析を行うことを可能とするシステム内における本発明によるデバイスの使用である。
【0050】
したがって、本発明によるデバイスは、結晶の品質に影響を与える取扱なしで、結晶のin situ解析を行うために用いることが可能である。
別の態様では、本発明のさらなる目的は、少なくとも次の工程を含む、会合錯体を調製する方法である:
(i)1つ以上の対象の分子を、より詳細には巨大分子を含む溶液を、結晶化チャンバの1つの端部に配置する工程、
(ii)1つ以上の結晶化剤を含む溶液を結晶化チャンバの別の端部に配置する工程、および
(iii)結晶を形成させる工程。
【0051】
より詳細には、本発明によるこの方法では、上記結晶化チャンバは本発明によるデバイスに含まれる結晶化チャンバである。
より詳細には、本発明による結晶化方法は、次の工程をさらに含む:
(iv)結晶化チャンバの1つの端部に、酵素基質、配位子、凍結防止剤、および重原子など三次元構造の決定用の化合物から選択される化合物を含む溶液を配置する工程。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1A】PDMS製の本発明によるデバイスを示し、分離チャネル型、くし型およびツリー型の結晶化チャンバの3種類の形状のマスクを示す図。
【図1B】PDMS製の本発明によるデバイスを示し、ツリー形状の4つのキャスト成形されたデバイスを含むPDMS基板を示す図。
【図2A】PDMSの層(斜線により示す)を含む、全厚4〜5mmの本発明によるデバイスを示す図。結晶化チャンバはチャネル状に成形され、第2のPDMS層を接着することによって閉止されている。
【図2B】厚さ0.5〜1mmのPDMSの層によって形成された本発明によるデバイスを示す図。結晶化チャンバはチャネル状に成形され、透明なプラスチックフィルム(暗灰色により示す)によって閉止されている。PDMSの層は、PMMA製の支持層(明灰色により示す)によって剛性を付与される。
【図2C】厚さ0.25mmのPMMAの層によって形成された本発明によるデバイスを示す図。結晶化チャンバはチャネル状に成形され、透明なプラスチックフィルムによって閉止されている。
【図3】本発明によるデバイスのPDMSによる充填を示す図。
【図4A】本発明によるデバイスにおけるソーマチンの結晶の形成の写真。
【図4B】本発明によるデバイスにおけるカブ黄斑モザイクウイルス(TYMV)の結晶の形成の写真。
【図4C】本発明によるデバイスにおけるソーマチンの結晶の形成の写真。
【図4D】本発明によるデバイスにおける鶏リゾチームの結晶の形成の写真。
【図4E】本発明によるデバイスにおける七面鳥リゾチームの結晶の形成の写真。
【図5】X線解析用のシンクロトロン光線に対する本発明によるデバイスの配置を示す図。デバイスは標準的なマイクロプレート(除去可能な行に96のウェルを有するNUNCプレート)に固定され、組立品はX線光において、MAR CCD検出器から200mm離れて位置し、ロボット(ストーブリ(Staeubli)社、フランス)のハンドリングアームのクランプによって所定の位置に保持される。
【図6A】X線散乱による鶏リゾチーム結晶のin situ解析を示し、結晶化チャンバがツリー状に配置されたPMMA製の本発明によるデバイスを示す図。このデバイスはマイクロプレート上に固定され、クランプによって所定の場所に保持されている。
【図6B】X線散乱による鶏リゾチーム結晶のin situ解析を示し、前方視カメラを通じて観察された鶏リゾチーム結晶を示す図。
【図6C】X線散乱による鶏リゾチーム結晶のin situ解析の散乱像を示す図。その解像範囲は、0.21nm(2.1オングストローム)、0.28nm、0.43nmおよび0.85nmの円によって示されている。
【図6D】タンパク質の原子モデルによる電子密度マップ(解像度0.215nm)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0053】
[実施例]
I.実施例1:デバイスの作製
I.1 ポリジメチルシロキサン(PDMS)によるデバイスの作製
次の4つの連続的な工程により、ポリジメチルシロキサン(PDMS)によるマイクロ流体デバイスを作製した:
・レーザー印刷によって透明フィルム上にマスクを得た。
・次いで、上記マスクからフォトリソグラフによって厚い樹脂SU8による型を作製した(図1B)。
・次いで、型成形によってデバイスを得た。
・次いで、第2のPDMSの層またはViewseal(登録商標)、Clearseal(登録商標)、Mylar(登録商標)などの透明なプラスチックフィルムを接着させることによって、結晶化チャンバを封止した。
【0054】
図1Aに示すように、様々な形状の結晶化チャンバを備えるデバイスを作製した。結晶化チャンバはチャネルが分離した型か、またはくし型もしくはツリー型のチャネルである。
【0055】
図1Bには、PDMS製の4つのデバイスの型成形を示す。それらのデバイスの結晶化チャンバは、ツリー型の形状を有する。
I.2 ポリメタクリル酸メチル(PMMA)製のデバイスの作製
本発明によるデバイスを、レーザアブレーション(ポリメタクリル酸メチル(PMMA)の厚さ250μmの層に結晶化チャンバのエッチングを行う)によって作製した。次いで、結晶化チャンバを透明プラスチックフィルムによって閉止した(図2C)。
【0056】
PMMAから作製された本発明によるデバイスは、結晶解析、より詳細にはX線回析に特に好適であり、PDMS製のデバイスに対して多くの利点を有することが分かった。
II. デバイスの充填
II.1 デバイスを充填するための2つの主な技術
本発明によるデバイスの結晶化チャンバは、毛細管現象、より詳細には次の2つの技術によって充填された。
【0057】
1)結晶化させる分子、アガロースなどのゲル化剤(0.2%〜0.5% w/v)およびオクチルグルコシドなどの界面活性物質(0.5% w/v)を含む溶液の液滴を、結晶化チャンバの端部に配置し、これを毛細管現象によって充填した。
【0058】
次いで、結晶化剤を含む溶液を結晶化チャンバの別の端部に配置した。
2)結晶化させる分子およびオクチルグルコシドなどの界面活性物質(0.5% w/v)を含む溶液の液滴を、結晶化チャンバの端部に配置し、これを毛細管現象によって充填した。
【0059】
次いで、アガロースなどのゲル化剤(2% w/v)を含む溶液を結晶化チャンバの別の端部に配置した。
次いで最後に、結晶化剤を含む溶液を結晶化チャンバの同じ端部のゲル上に配置した。
【0060】
界面活性物質によって、分子、より詳細には巨大分子を安定化することが可能となった。
ゲル化剤によって、結晶化チャンバにおいて溶液および結晶の運動を妨げることが可能となった。また、これによって、対流現象を減少させ、したがって高品質の結晶の成長に寄与することが可能となった。
【0061】
II.2 PDMS製のデバイスの充填
PDMS製のデバイスの充填について図3に示す。
チャネル型の結晶化チャンバを含むPDMSの層を、チャネルの反対側に配置されたPMMA(C)製の薄いプレート上に配置した。PMMAは、ViewSeal(登録商標)、ClearSeal(登録商標)およびMylar(登録商標)などの透明なプラスティックフィルム(D)によって閉止される。次いで、この組立品をPMMA製の厚さ5mmの支持部(B2)上に螺設した。結晶化させる分子、アガロースなどのゲル化剤(0.2%〜0.5% w/v)およびオクチルグルコシドなどの洗剤(0.5% w/v)を含む溶液の液滴を、ツリー型のチャネルの端部に配置し、これを毛細管(F)によって充填した。
【0062】
次いで、組立品(A)を、PMMA製の螺合可能な2枚のプレート(BおよびB2)の間に挟み、結晶化剤を含む溶液を結晶化チャンバに接続されたタンクに配置した。
次いで、密閉封止を保証するために、組立品を透明なフィルムによって閉止した。
【0063】
III.本発明によるデバイスにおけるYTMVウィルス、ソーマチン、鶏および七面鳥リゾチームの結晶化
上述の手順を用いて、3つの異なるタンパク質および1つのウィルスから液液拡散によって結晶を得た。
【0064】
ソーマチンの結晶(22kDa)を図4Aおよび4Cに示す。結晶化剤の濃度勾配は、右から左へ拡散するように確立させた。チャネル型の結晶化チャンバに沿って結晶化剤の濃度が減少するにつれて、結晶の寸法は増大し、その数は減少している。図4Cは、100μmのチャネル部分を有する本発明によるチャネル型結晶化チャンバに3日間の条件で得られた両錐体形のソーマチン結晶をより近くで見たものである。
【0065】
TYMVウイルス(カブ黄斑モザイクウイルス)の結晶(5×106kDa)を図4Bに示す。
分離チャネル型の結晶化チャンバを備えるPDMS製のデバイスにおいて得られた鶏リゾチームの立方晶を、図4Dに示す。結晶は、偏光により容易に視認可能である。
【0066】
ツリー型のチャネルの結晶化チャンバを備えるPDMS製のデバイスにおいて得られた七面鳥リゾチームの六方晶を、図4Eに示す。偏光器と解析器とが互いに交差しているとき、結晶は容易に視認可能である(挿入写真を参照)。
【0067】
これらの結果は、本発明によるデバイスによって液液拡散によるタンパク質の結晶化が可能となることを示している。
加えて、PDMSおよびPMMAから作製された本発明によるデバイスは、結晶の肉眼による観察、または偏光下での観察を含む顕微鏡を用いた観察を可能とするのに充分に透明である。
【0068】
加えて、本発明によるデバイスにより得られる結晶は50μmより大きい寸法を有し、これはX線散乱による直接解析と矛盾しない。
IV.X線回析による結晶の直接解析
鶏リゾチームの結晶について、X線散乱によるin situ解析を行った(図6)。この解析は、グルノーブル(Grenoble)のESRFにて、シンクロトロンX線放射下で行った。
【0069】
寸法250μm、PMMA製でプラスチックフィルムによって閉止された本発明によるデバイスにおいて、バッチ技術を用いて、そのような結晶を得た(図2C)。
すなわち、次の組成を有する3μlの結晶化混合物で、デバイスを充填した:
・100mM酢酸ナトリウムによる80mg/mlリゾチーム溶液5μl(pH 4.6)、
・試薬X(100mM酢酸ナトリウム、pH 4.6、1M NaCl、30%のPEG
3350)3μl、
・10%(w/v)または0.3%(w/v)のオクチルグルコシド0.3μl、
・100mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH 4.6)1.7μl。
【0070】
デバイスを標準的なマイクロプレート(除去可能な行に96のウェルを有するNUNCプレート)に固定し、得られた組立品をX線光において、MAR CCD検出器から200mm離して配置し、ロボット(ストーブリ社、フランス)のハンドリングアームによって保持した(図5)。
【0071】
1つの結晶に対して撮影した30枚の連続した写真の組によって(露出:20秒、距離200mm、波長0.0800nm)、解像度0.215nmで電子密度マップを計算することと、タンパク質の三次元構造を決定すること(図6D)とが可能であった。
【0072】
結晶データについて以下にまとめる。
波長 0.0799nm(0.799オングストローム)
距離 200mm
露出 15秒
振幅 1°
写真数 30
空間群 P43212
結晶格子パラメータ a=7.91nm、c=3.88nm
解像度 0.215〜2.0nm
反射数(一意) 12115(5040)
完全性 72.4%(72.7%)*
Rsym 7.4%(20.1%)*
* 高解像度データ:0.215〜0.221nm。
【0073】
これらの実験はすべて、本発明によるデバイスが極少量の材料を結晶化させて高品質の結晶を得ることを可能とすることを示している。加えて、本発明によるデバイスは、結晶化条件のスクリーニングおよび最適化、ならびに結晶のビデオ顕微鏡による監視およびin situでのX線散乱解析を可能とする。本発明のデバイスの容易な操作およびデバイスの形状により、より詳細には構造的なゲノム学における高出力用途における、全工程の自動化が可能となる。
【技術分野】
【0001】
本発明は結晶化の分野に関する。より詳細には、本発明は分子、より詳細には生物分子の結晶化および結晶解析用のマイクロ流体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
高品質の結晶を得ることを可能とするデバイスの開発は、特に生物学の分野において、より詳細には構造的なゲノム学、化学、薬学および医学の分野において、より詳細には創薬領域における研究のために、重要な挑戦である。
【0003】
分子、より詳細には生物分子の結晶化は、多数の物理化学的な変数および生化学的な変数の伴う、多パラメータの複雑な過程である。したがって、高品質の結晶を得るのに適切な条件の最適化の研究には、相当な量の物質が結晶化される必要があるが、この物質は生体分子または合成化合物など、非常に高価な材料である。
【0004】
現在、結晶化される試料を少量しか用いずに高品質の結晶を得ることを目的とするデバイスの開発が、非常に盛んである。
すなわち、2003年には、カリフォルニア州のFluidigm社によって、少量の試料から高品質の結晶を調製することを可能とするマイクロ流体チップが提供されている。しかしながら、このデバイスでは充填が手動で行われる必要がある。また、このデバイスは圧力操作弁機構によって動作されるが、そうした機構はデバイスの使用を複雑にするとともに、故障の原因ともなり得る。加えて、このデバイスは高価であり、また、結晶のin situ解析はほとんど不可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
分子の結晶化において小型化されたデバイスが既に幾つか用いられているが、それらのデバイスは非常に高価で、信頼性が充分ではなく、使用し難く、結晶化条件のスクリーニングおよび最適化の両方に適合しておらず、さらには結晶のin situ解析(特にX線散乱による解析)も不可能なことがある。
【0006】
したがって、分子の結晶化のために改良された特性を有するデバイスの必要が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上述の問題を全体的にまたは部分的に解決することを可能とするデバイスをここに提供する。
第1の態様では、本発明は1つ以上の結晶化チャンバを備えるマイクロ流体デバイスを提供する。上記結晶化チャンバは、1つ以上の化合物が濃度勾配に従って存在する溶液を含むことができ、結晶化チャンバの形状によって対流現象が制限される。
【0008】
したがって、本発明は結晶化剤を含む溶液を受容するための結晶化チャンバにも関する。結果的に、本発明は、この溶液を含むまたは含まない結晶化チャンバや、上記溶液を含むまたは含まない1つ以上のチャンバを備えるマイクロ流体デバイスにも関する。
【0009】
「マイクロ流体デバイス」は、本発明においては、マイクロリットル程度、さらにはマイクロリットル未満の極少量の液体試料を用いる小型化されたデバイスを意味する。デバイスの内部では、上記結晶化チャンバの形状および減少した寸法によって溶液における対
流運動が最小化される(例えば、インターフェロメトリーなどによって観察される)。すなわち、このマイクロ流体環境は、対流現象の制限された、さらには対流現象の存在しない媒質中における、より均一質な結晶の成長に有利である。
【0010】
「結晶化チャンバ」は、本発明では、分子の結晶化に適合したチャンバ、より詳細には液密および気密領域、さらに詳細には水密、揮発性溶媒(アルコールなど)密、蒸気密、空気密領域のうちの1つ以上を意味する。
【0011】
より詳細には、結晶化チャンバは1つ以上のタンク(R1)に接続されている。
「タンク」は、本発明では、流体を収容するのに適切な気密筐体を意味し、その体積は結晶化チャンバより大きくてよい。
【0012】
結晶化チャンバは、本発明では、バッチ結晶化または液液拡散(contre−diffusion)による結晶化(好適には液液拡散による結晶化)を可能とするように構成されてよい。
【0013】
液液拡散による結晶化の技術はガルシア・ルイーズ(Garcia−Ruiz)によって1994年に開発されており、この技術は当業者にはよく知られている(ガルシア・ルイーズおよびモレノ(Moreno)、1994年、Acta. Cryst. D50,484〜490)。
【0014】
より詳細には、本発明では、結晶化チャンバは、直径が400μm以下、好適には300μm以下、より好適には200μm以下、さらには100μm以下の部分を有する。
本発明による結晶化チャンバは、10mm以上、より好適には30mm以上の長さを有してよい。
【0015】
本発明による結晶化チャンバは、10以上、より好適には100以上、最も好適には1,000以上の長さ/幅比を有してよい。
本発明による結晶化チャンバは、正方形、矩形、半円、三角形または管状の断面、より好適には正方形または矩形の断面を有してよい。
【0016】
より詳細には、本発明による結晶化チャンバの形状は、結晶化を改良するための手段、より詳細には、官能基のグラフト、電荷、酵素基質、配位子のうちの1つ以上やバッフル板、粗さすなわち表面の不規則性などの特定の形状構成から選択される、形成される結晶の数を増加させるための手段を含む。
【0017】
官能基のグラフト、電荷、酵素基質、配位子のうちの1つ以上に関連した技術は、当業者にはよく知られている(ウルマン(Ulman)、「有機薄膜入門:ラングミュア−ブロジェットから自己集合まで(Introduction to thin organic films: From Langmuir−Blodgett to self
Assembly)」、1991年、アカデミック・プレス(Academic Press)、ボストン)。
【0018】
したがって、本発明によるデバイスは、より詳細には、酵素、核酸または膜蛋白などの巨大分子の結晶化を可能とすることができる。
本発明による結晶化チャンバは、リソグラフィ、マイクロマシニング、射出成形、プレス成形、ホットまたはコールドプレスキャストおよび印刷のうちの1つ以上の方法によって得られる。
【0019】
「リソグラフィ法」は半導体産業における方法を意味し、その一般原理は、チャン(C
hang)およびスー(Sze)が記載しているように(1996年、ULSIテクロノジー(ULSI technology)、マグロウヒル・インターナショナル版(McGraw−Hill International Editions))、あるいはシャ(Xia)およびホワイトサイズ(Whitesides)が記載しているように(1998年、Annu. Rev. Mater. Sci.,28,153〜184)、感光材料の層によって覆われた基板に像を形成することである。
【0020】
リソグラフィ法の例としては、フォトリソグラフィ、X線リソグラフィ、EUVリソグラフィ、電子リソグラフィ、イオンリソグラフィおよびナノ印刷リソグラフィが挙げられる。当業者には、その一般知識によって、そのような技術が容易に識別される。
【0021】
材料の除去を含むマイクロマシニング法は、切削工具またはレーザーの利用に基づいてよい。
本発明による結晶化チャンバおよびその周囲を形成する材料は透明であってよく、より詳細には、可視光、入射X線、および結晶散乱された信号のうちの1つ以上を透過させてよい。上記材料は、より詳細には、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート、シクロオレフィンコポリマー(COC)およびSU8樹脂から選択されてよく、好適にはポリメタクリル酸メチルである。
【0022】
したがって、本発明によるデバイスによって、結晶成長運動の監視(例えば、ビデオ顕微鏡による)や、濃度勾配の形成の監視(特に、インターフェロメトリーによる)が可能となる。
【0023】
詳細には、本発明による結晶化チャンバによって形成される空間のうち1つ以上の部分はゲルを含む。
「ゲル」は、結晶化される分子の溶液などの液体に浸漬された架橋ポリマーの三次元網目構造からなる二相性の媒質を意味する。架橋は、物理的なもの(例えば、アガロース、セルロース、およびそれらの誘導体のうちの1つ以上のゲルの場合)であっても、化学的なゲル(例えば、シリカまたはアクリルアミド−ビスアクリルアミドのゲルなど)であってもよい。
【0024】
本発明によるゲルは、アガロース、セルロースおよびそれらの誘導体のうちの1つ以上、シリカ、ならびにアクリルアミド−ビスアクリルアミドのゲルから選択されてよい。
詳細には、本発明による結晶化チャンバの1つの端部によって形成される空間の少なくとも一部はゲルを含む。
【0025】
好適には、本発明による結晶化チャンバによって形成される全空間がゲルを含む。
本発明による結晶化チャンバは、その内面の少なくとも一部に、その濡れ性を増加させるための手段を有してよい。
【0026】
「濡れ性」は、本発明では、表面が水溶液によって濡らされる能力を意味し、90°未満の接触角が観察される。
すなわち、結晶化チャンバが疎水性の表面を有するとき(エラストマーまたはプラスチックの場合に当てはまる)、より詳細には、結晶化チャンバがチャネルの形態であるとき、界面活性剤などの湿潤剤の添加によって、水溶液(タンパク質を含有している水溶液を含む)を自然に結晶化チャンバへ入らせることが可能となるという点で、本発明は優れている。すなわち、それらの界面活性剤の添加によって、試料の湿潤力を増加させることが可能となり、試料は毛細管現象によって結晶化チャンバへ進入するので、バルブおよびポンプ系を除去することが可能となる。
【0027】
本発明による別の解決策は、チャンバの表面をより親水性とするように、チャンバの表面を化学的に修飾することである。
すなわち、濡れ性を増大させるための手段の例として、次を挙げることができる。
i)物理的、化学的または両者の組み合わせによる表面改質(例えば、プラズマ(より詳細には、酸素、オゾン)処理、紫外線処理、イオン処理、界面活性剤の吸着、親水基のグラフトなど)、
ii)水溶液に対する表面活性分子の添加。
【0028】
特定の実施形態では、結晶化チャンバは毛細管現象によって充填されてよい。
「毛細管現象」は、本発明では、直径の小さなチューブ中に流体が上昇することに見られる現象を意味する。
【0029】
「溶液」は、本発明では、1つ以上の溶媒と、その溶媒に溶解されている溶質とからなる均一な液体を意味する。
「化合物」は、本発明では、化学物質を意味する。
【0030】
より詳細には、上記化合物は結晶化剤である。
「結晶化剤」は、本発明では、分子の結晶化に有利な有機または無機化合物、天然化合物、および合成化合物を意味する。
【0031】
結晶化剤の例としては、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウムなどの塩類、メチル−2,4−ペンタンジオール、エタノールなどのアルコール、ポリエチレングリコールなどのポリマー、およびそれらの誘導体、ならびにポリアミンが挙げられる。
【0032】
「濃度勾配」は、本発明では、最も濃縮された媒質から最も濃縮されていない媒質への化合物の濃度の変化を意味する。
より詳細には、上記マイクロ流体デバイスでは、化合物の飽和濃度(より詳細には、結晶化剤の飽和濃度)の25%以下、好適には20%以下、さらには15%以下、好適には10%以下、さらに好適には5%以下または0%から、50%以上、さらには75%以上、好適には85%以上、より好適には95%以上、最も好適には100%までの範囲の化合物濃度(より詳細には、結晶化剤濃度)の勾配を得ることが可能である。
【0033】
より詳細には、上記濃度勾配は、結晶化チャンバの長さの20%以上、好適には40%以上、より好適には60%以上、最も好適には80%以上において、または結晶化チャンバの全長において確立される。
【0034】
したがって、本発明によるデバイスでは、極めて広範で連続的な結晶化条件を得ることが可能である。詳細には、上記デバイスでは、連続的またはほぼ連続的な勾配変化を得ることが可能である。
【0035】
より詳細には、本発明によるデバイスは幾つかの結晶化チャンバを備え、上記化合物、より詳細には結晶化剤は、各結晶化チャンバに異なる濃度で存在する。
したがって、結晶化条件を決定するとき、このデバイスを用いてその最適化を行うことができる。
【0036】
対流現象を制限することによって、本発明によるデバイスは、極少量の材料を結晶化させて高品質の結晶を得ることを可能とする。
「対流現象」は、本発明では、例えば、温度や密度の変動によって生じる流体内の運動を意味する。
【0037】
「形状」は、本発明では、部材の空間的な構成、より詳細には上記結晶化チャンバの構成を意味する。
より詳細には、本発明によるデバイスは、化合物、詳細には結晶化する分子の質の低下を生じる空気、気体またはその両方の存在しない媒質における分子の結晶化を可能とする。これによって、影響を受けやすい分子、より詳細には酸化の影響を受けやすい分子の結晶化を可能とする。
【0038】
本発明によるデバイスは、界面活性物質、より詳細には、結晶化する分子を溶解することを可能とする、より詳細には非イオン界面活性剤および両性イオン界面活性剤から選択される界面活性剤を含む、1つ以上の溶液を含む。
【0039】
「界面活性物質」は、本発明では、界面活性化能を有する化合物を意味する。
界面活性物質の例としては、オクチルグルコシド、オクチルチオグルコシド、ノニルグルコシド、LDAO(ラウリルジアミンオキシド)、Triton X−100(登録商標)(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)、CHAPS(3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパンスルホン酸)、およびそれらの誘導体が挙げられ、特にオクチルグルコシドが挙げられる。
【0040】
界面活性物質の濃度は選択される製品に応じて異なり、より詳細には、1〜100%または臨界ミセル濃度(CMC)より高い濃度であってよい。
例えば、水中でのCMCは、オクチルグルコシドでは20mM、オクチルチオグルコシドでは6.5mM、ノニルグルコシドでは9.5mM、LDAOでは2mM、Triton X−100(登録商標)では0.9mM、CHAPSでは8mMである。
【0041】
より詳細には、本発明によるデバイスは、次のうちの1つ以上、すなわち、
・結晶化チャンバを充填するための機械的手段(特にバルブおよび圧力手段など)、
・可動部品(特に、結晶化チャンバの充填中に上記デバイスの使用を可能とするための)を備えていない。
【0042】
したがって、本発明によるデバイスは容易に使用可能であり、優れた信頼性、低減された生産コストまたはその両方を有する。
有利には、本発明によるデバイスは、X線散乱によって結晶化チャンバ中に存在する結晶のin situ解析が可能である。
【0043】
本発明によるデバイスは、光に対し透明または半透明である、より詳細には肉眼または光学的な拡大による、好適には光学的な拡大による結晶の観察が可能である。
より詳細には、本発明による溶液は、化学的、生物学的、医学的または薬学的な対象となる1つ以上の分子、より詳細には、無機もしくは有機分子、天然巨大分子または合成巨大分子、より詳細には、核酸、タンパク質、超分子複合体およびウィルスから選択される分子をさらに含む。
【0044】
本発明によるマイクロ流体デバイスは、デバイス全体または1つ以上の結晶化チャンバにおいて所与の温度を得るための手段を含む。
本発明によるマイクロ流体デバイスは、1つ以上の結晶化チャンバの1つ以上の部分において、より好適には1つ以上の結晶化チャンバの全長において、最も好適にはマイクロ流体デバイス全体において温度勾配を得るための手段を含む。
【0045】
当業者には、その一般知識によって、そのような手段が容易に識別される。
デバイス全体または1つ以上の結晶化チャンバにおいて所与の温度を得るための手段の例としては、ペルティエ素子の利用が挙げられる。「ペルティエ」効果は、性質を異にす
る接合された複数の導体における電流に存在する熱移動効果を意味する。接続材料のうちの一方はわずかに冷却され、他方はわずかに加熱される。
【0046】
より詳細には、本発明によるマイクロ流体デバイスは、1つ以上の結晶化チャンバの1つ以上の部分において、さらには1つ以上の結晶化チャンバの全長において、温度勾配を得るための手段を含む。
【0047】
当業者には、その一般知識によって、そのような手段が容易に識別される。
1つ以上の結晶化チャンバの1つ以上の部分において、さらには1つ以上の結晶化チャンバの全長において、温度勾配を得るための手段の例としては、ペルティエ素子が挙げられる。
【0048】
別の態様では、本発明は、次の用途のうちの1つ(より詳細には、塩類、有機分子、無機分子、生体巨大分子、ウィルスまたは薬品有効成分などの分子を対象とする場合)における本発明によるデバイスの使用を提供する:
・液液拡散による結晶化、
・新たな有効成分と、有効成分の新たな形態、より詳細には新たな結晶形態とのうちの1つ以上の研究、
・結晶化条件のスクリーニングおよび最適化の研究。
【0049】
したがって、本発明によるデバイスは、分子の結晶化条件のスクリーニングおよび最適化のために用いることが可能である。
別の態様では、本発明のさらなる目的は、結晶化チャンバ中に存在する結晶のX線散乱解析を行うことを可能とするシステム内における本発明によるデバイスの使用である。
【0050】
したがって、本発明によるデバイスは、結晶の品質に影響を与える取扱なしで、結晶のin situ解析を行うために用いることが可能である。
別の態様では、本発明のさらなる目的は、少なくとも次の工程を含む、会合錯体を調製する方法である:
(i)1つ以上の対象の分子を、より詳細には巨大分子を含む溶液を、結晶化チャンバの1つの端部に配置する工程、
(ii)1つ以上の結晶化剤を含む溶液を結晶化チャンバの別の端部に配置する工程、および
(iii)結晶を形成させる工程。
【0051】
より詳細には、本発明によるこの方法では、上記結晶化チャンバは本発明によるデバイスに含まれる結晶化チャンバである。
より詳細には、本発明による結晶化方法は、次の工程をさらに含む:
(iv)結晶化チャンバの1つの端部に、酵素基質、配位子、凍結防止剤、および重原子など三次元構造の決定用の化合物から選択される化合物を含む溶液を配置する工程。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1A】PDMS製の本発明によるデバイスを示し、分離チャネル型、くし型およびツリー型の結晶化チャンバの3種類の形状のマスクを示す図。
【図1B】PDMS製の本発明によるデバイスを示し、ツリー形状の4つのキャスト成形されたデバイスを含むPDMS基板を示す図。
【図2A】PDMSの層(斜線により示す)を含む、全厚4〜5mmの本発明によるデバイスを示す図。結晶化チャンバはチャネル状に成形され、第2のPDMS層を接着することによって閉止されている。
【図2B】厚さ0.5〜1mmのPDMSの層によって形成された本発明によるデバイスを示す図。結晶化チャンバはチャネル状に成形され、透明なプラスチックフィルム(暗灰色により示す)によって閉止されている。PDMSの層は、PMMA製の支持層(明灰色により示す)によって剛性を付与される。
【図2C】厚さ0.25mmのPMMAの層によって形成された本発明によるデバイスを示す図。結晶化チャンバはチャネル状に成形され、透明なプラスチックフィルムによって閉止されている。
【図3】本発明によるデバイスのPDMSによる充填を示す図。
【図4A】本発明によるデバイスにおけるソーマチンの結晶の形成の写真。
【図4B】本発明によるデバイスにおけるカブ黄斑モザイクウイルス(TYMV)の結晶の形成の写真。
【図4C】本発明によるデバイスにおけるソーマチンの結晶の形成の写真。
【図4D】本発明によるデバイスにおける鶏リゾチームの結晶の形成の写真。
【図4E】本発明によるデバイスにおける七面鳥リゾチームの結晶の形成の写真。
【図5】X線解析用のシンクロトロン光線に対する本発明によるデバイスの配置を示す図。デバイスは標準的なマイクロプレート(除去可能な行に96のウェルを有するNUNCプレート)に固定され、組立品はX線光において、MAR CCD検出器から200mm離れて位置し、ロボット(ストーブリ(Staeubli)社、フランス)のハンドリングアームのクランプによって所定の位置に保持される。
【図6A】X線散乱による鶏リゾチーム結晶のin situ解析を示し、結晶化チャンバがツリー状に配置されたPMMA製の本発明によるデバイスを示す図。このデバイスはマイクロプレート上に固定され、クランプによって所定の場所に保持されている。
【図6B】X線散乱による鶏リゾチーム結晶のin situ解析を示し、前方視カメラを通じて観察された鶏リゾチーム結晶を示す図。
【図6C】X線散乱による鶏リゾチーム結晶のin situ解析の散乱像を示す図。その解像範囲は、0.21nm(2.1オングストローム)、0.28nm、0.43nmおよび0.85nmの円によって示されている。
【図6D】タンパク質の原子モデルによる電子密度マップ(解像度0.215nm)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0053】
[実施例]
I.実施例1:デバイスの作製
I.1 ポリジメチルシロキサン(PDMS)によるデバイスの作製
次の4つの連続的な工程により、ポリジメチルシロキサン(PDMS)によるマイクロ流体デバイスを作製した:
・レーザー印刷によって透明フィルム上にマスクを得た。
・次いで、上記マスクからフォトリソグラフによって厚い樹脂SU8による型を作製した(図1B)。
・次いで、型成形によってデバイスを得た。
・次いで、第2のPDMSの層またはViewseal(登録商標)、Clearseal(登録商標)、Mylar(登録商標)などの透明なプラスチックフィルムを接着させることによって、結晶化チャンバを封止した。
【0054】
図1Aに示すように、様々な形状の結晶化チャンバを備えるデバイスを作製した。結晶化チャンバはチャネルが分離した型か、またはくし型もしくはツリー型のチャネルである。
【0055】
図1Bには、PDMS製の4つのデバイスの型成形を示す。それらのデバイスの結晶化チャンバは、ツリー型の形状を有する。
I.2 ポリメタクリル酸メチル(PMMA)製のデバイスの作製
本発明によるデバイスを、レーザアブレーション(ポリメタクリル酸メチル(PMMA)の厚さ250μmの層に結晶化チャンバのエッチングを行う)によって作製した。次いで、結晶化チャンバを透明プラスチックフィルムによって閉止した(図2C)。
【0056】
PMMAから作製された本発明によるデバイスは、結晶解析、より詳細にはX線回析に特に好適であり、PDMS製のデバイスに対して多くの利点を有することが分かった。
II. デバイスの充填
II.1 デバイスを充填するための2つの主な技術
本発明によるデバイスの結晶化チャンバは、毛細管現象、より詳細には次の2つの技術によって充填された。
【0057】
1)結晶化させる分子、アガロースなどのゲル化剤(0.2%〜0.5% w/v)およびオクチルグルコシドなどの界面活性物質(0.5% w/v)を含む溶液の液滴を、結晶化チャンバの端部に配置し、これを毛細管現象によって充填した。
【0058】
次いで、結晶化剤を含む溶液を結晶化チャンバの別の端部に配置した。
2)結晶化させる分子およびオクチルグルコシドなどの界面活性物質(0.5% w/v)を含む溶液の液滴を、結晶化チャンバの端部に配置し、これを毛細管現象によって充填した。
【0059】
次いで、アガロースなどのゲル化剤(2% w/v)を含む溶液を結晶化チャンバの別の端部に配置した。
次いで最後に、結晶化剤を含む溶液を結晶化チャンバの同じ端部のゲル上に配置した。
【0060】
界面活性物質によって、分子、より詳細には巨大分子を安定化することが可能となった。
ゲル化剤によって、結晶化チャンバにおいて溶液および結晶の運動を妨げることが可能となった。また、これによって、対流現象を減少させ、したがって高品質の結晶の成長に寄与することが可能となった。
【0061】
II.2 PDMS製のデバイスの充填
PDMS製のデバイスの充填について図3に示す。
チャネル型の結晶化チャンバを含むPDMSの層を、チャネルの反対側に配置されたPMMA(C)製の薄いプレート上に配置した。PMMAは、ViewSeal(登録商標)、ClearSeal(登録商標)およびMylar(登録商標)などの透明なプラスティックフィルム(D)によって閉止される。次いで、この組立品をPMMA製の厚さ5mmの支持部(B2)上に螺設した。結晶化させる分子、アガロースなどのゲル化剤(0.2%〜0.5% w/v)およびオクチルグルコシドなどの洗剤(0.5% w/v)を含む溶液の液滴を、ツリー型のチャネルの端部に配置し、これを毛細管(F)によって充填した。
【0062】
次いで、組立品(A)を、PMMA製の螺合可能な2枚のプレート(BおよびB2)の間に挟み、結晶化剤を含む溶液を結晶化チャンバに接続されたタンクに配置した。
次いで、密閉封止を保証するために、組立品を透明なフィルムによって閉止した。
【0063】
III.本発明によるデバイスにおけるYTMVウィルス、ソーマチン、鶏および七面鳥リゾチームの結晶化
上述の手順を用いて、3つの異なるタンパク質および1つのウィルスから液液拡散によって結晶を得た。
【0064】
ソーマチンの結晶(22kDa)を図4Aおよび4Cに示す。結晶化剤の濃度勾配は、右から左へ拡散するように確立させた。チャネル型の結晶化チャンバに沿って結晶化剤の濃度が減少するにつれて、結晶の寸法は増大し、その数は減少している。図4Cは、100μmのチャネル部分を有する本発明によるチャネル型結晶化チャンバに3日間の条件で得られた両錐体形のソーマチン結晶をより近くで見たものである。
【0065】
TYMVウイルス(カブ黄斑モザイクウイルス)の結晶(5×106kDa)を図4Bに示す。
分離チャネル型の結晶化チャンバを備えるPDMS製のデバイスにおいて得られた鶏リゾチームの立方晶を、図4Dに示す。結晶は、偏光により容易に視認可能である。
【0066】
ツリー型のチャネルの結晶化チャンバを備えるPDMS製のデバイスにおいて得られた七面鳥リゾチームの六方晶を、図4Eに示す。偏光器と解析器とが互いに交差しているとき、結晶は容易に視認可能である(挿入写真を参照)。
【0067】
これらの結果は、本発明によるデバイスによって液液拡散によるタンパク質の結晶化が可能となることを示している。
加えて、PDMSおよびPMMAから作製された本発明によるデバイスは、結晶の肉眼による観察、または偏光下での観察を含む顕微鏡を用いた観察を可能とするのに充分に透明である。
【0068】
加えて、本発明によるデバイスにより得られる結晶は50μmより大きい寸法を有し、これはX線散乱による直接解析と矛盾しない。
IV.X線回析による結晶の直接解析
鶏リゾチームの結晶について、X線散乱によるin situ解析を行った(図6)。この解析は、グルノーブル(Grenoble)のESRFにて、シンクロトロンX線放射下で行った。
【0069】
寸法250μm、PMMA製でプラスチックフィルムによって閉止された本発明によるデバイスにおいて、バッチ技術を用いて、そのような結晶を得た(図2C)。
すなわち、次の組成を有する3μlの結晶化混合物で、デバイスを充填した:
・100mM酢酸ナトリウムによる80mg/mlリゾチーム溶液5μl(pH 4.6)、
・試薬X(100mM酢酸ナトリウム、pH 4.6、1M NaCl、30%のPEG
3350)3μl、
・10%(w/v)または0.3%(w/v)のオクチルグルコシド0.3μl、
・100mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH 4.6)1.7μl。
【0070】
デバイスを標準的なマイクロプレート(除去可能な行に96のウェルを有するNUNCプレート)に固定し、得られた組立品をX線光において、MAR CCD検出器から200mm離して配置し、ロボット(ストーブリ社、フランス)のハンドリングアームによって保持した(図5)。
【0071】
1つの結晶に対して撮影した30枚の連続した写真の組によって(露出:20秒、距離200mm、波長0.0800nm)、解像度0.215nmで電子密度マップを計算することと、タンパク質の三次元構造を決定すること(図6D)とが可能であった。
【0072】
結晶データについて以下にまとめる。
波長 0.0799nm(0.799オングストローム)
距離 200mm
露出 15秒
振幅 1°
写真数 30
空間群 P43212
結晶格子パラメータ a=7.91nm、c=3.88nm
解像度 0.215〜2.0nm
反射数(一意) 12115(5040)
完全性 72.4%(72.7%)*
Rsym 7.4%(20.1%)*
* 高解像度データ:0.215〜0.221nm。
【0073】
これらの実験はすべて、本発明によるデバイスが極少量の材料を結晶化させて高品質の結晶を得ることを可能とすることを示している。加えて、本発明によるデバイスは、結晶化条件のスクリーニングおよび最適化、ならびに結晶のビデオ顕微鏡による監視およびin situでのX線散乱解析を可能とする。本発明のデバイスの容易な操作およびデバイスの形状により、より詳細には構造的なゲノム学における高出力用途における、全工程の自動化が可能となる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の化合物が濃度勾配に従って存在する溶液を含むように適合された1つ以上の結晶化チャンバを備えるマイクロ流体デバイスであって、前記結晶化チャンバの形状によって対流現象が制限されるマイクロ流体デバイス。
【請求項2】
1つ以上の化合物は、化合物の飽和濃度の25%以下、好適には20%以下さらには15%以下、より好適には10%以下、さらに好適には5%以下さらには0%から、50%以上さらには75%以上、好適には85%以上、より好適には95%以上および最も好適には100%までの範囲の濃度勾配に従って存在する請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項3】
結晶化チャンバは1つ以上のタンク(R1)に接続されている請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項4】
結晶化チャンバは液液拡散による結晶化を可能とするように構成されている請求項1乃至3のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
前記化合物は結晶化剤である請求項1乃至4のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
前記濃度勾配は、結晶化チャンバの長さの20%以上、好適には40%以上、より好適には60%以上、最も好適には80%以上において、さらには結晶化チャンバの全長において確立されている請求項1乃至5のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
結晶化チャンバは、直径が400μm以下、より好適には300μm以下、最も好適には200μm以下、さらには100μm以下の部分を有する請求項1乃至6のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項8】
結晶化チャンバは、10mm以上、より好適には30mm以上の長さを有する請求項1乃至7のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項9】
結晶化チャンバは、10以上、より好適には100以上、最も好適には1,000以上の長さ/幅比を有する請求項1乃至8のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項10】
結晶化チャンバによって形成される空間のうち1つ以上の部分はゲルを含む請求項1乃至9のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項11】
結晶化チャンバの1つの端部によって形成される空間のうち1つ以上の部分はゲルを含む請求項1乃至10のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項12】
前記ゲルは、アガロース、セルロースおよびそれらの誘導体のうちの1つ以上、シリカ、ならびにアクリルアミド−ビスアクリルアミドのゲルから選択される請求項10または11に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項13】
界面活性物質、より詳細には非イオン性界面活性剤および両性イオン性界面活性剤から選択される界面活性物質を含む1つ以上の溶液を含む請求項1乃至12のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項14】
結晶化チャンバは毛細管現象によって充填されるように適合されている請求項1乃至1
3のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項15】
バルブおよび圧力手段などの機械的手段、より詳細には結晶化チャンバを充填するための機械的手段と、
可動部品、より詳細には、結晶化チャンバ充填する際に前記デバイスの使用を可能とするための可動部品とのうちの1つ以上を備えていない請求項1乃至14のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項16】
結晶化チャンバの形状は、結晶化を改良するための手段、より詳細には、官能基のグラフト、電荷、酵素基質、配位子のうちの1つ以上や粗さすなわち表面の不規則性などの特定の形状構成から選択される、形成される結晶の数を増加させるための手段を含む請求項1乃至15のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項17】
X線散乱によって結晶化チャンバ中に存在する結晶のin situ解析が可能である請求項1乃至16のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項18】
結晶化チャンバおよびその周囲を形成する材料は透明である、すなわち、可視光、入射X線、および結晶散乱された信号のうちの1つ以上を透過させる請求項1乃至17のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項19】
結晶化チャンバを形成する材料は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート、シクロオレフィンコポリマー(COC)およびSU8樹脂から選択され、好適にはポリメタクリル酸メチルである請求項1乃至18のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項20】
光に対し透明または半透明である、より詳細には肉眼または光学的な拡大による結晶の観察、好適には光学的な拡大による結晶の観察が可能である請求項1乃至19のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項21】
結晶化チャンバは、正方形、矩形、半円、三角形または管状の断面、より好適には正方形または矩形の断面を有する請求項1乃至20のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項22】
結晶化チャンバは、リソグラフィ、マイクロマシニング、射出成形、プレス成形、ホットまたはコールドプレスキャストおよび印刷のうちの1つ以上の方法によって得られる請求項1乃至21のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項23】
前記溶液は、化学的、生物学的、医学的または薬学的な対象となる1つ以上の分子、より詳細には、無機もしくは有機分子、天然巨大分子または合成巨大分子、より詳細には、核酸、タンパク質、超分子複合体およびウィルスから選択される分子をさらに含む請求項1乃至22のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項24】
デバイス全体または1つ以上の結晶化チャンバにおいて所与の温度を得るための手段を含む請求項1乃至23のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項25】
1つ以上の結晶化チャンバの1つ以上の部分において、より好適には1つ以上の結晶化チャンバの全長において、最も好適には前記マイクロ流体デバイス全体において温度勾配を得るための手段を含む請求項1乃至23のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項26】
次の用途のうちの1つ以上、すなわち、
液液拡散による結晶化と、
新たな有効成分、および有効成分の新たな形態、より詳細には新たな結晶形態のうちの1つ以上の研究と、
結晶化条件のスクリーニングおよび最適化の研究と、のうちの1つ以上における、
より詳細には、塩類、有機分子、無機分子、生体巨大分子、ウィルスまたは薬品有効成分などの分子を対象とする用途における請求項1乃至25のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイスの使用。
【請求項27】
X線散乱によって結晶化チャンバ中に存在する結晶の解析を可能とするシステム内における請求項1乃至25のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイスの使用。
【請求項28】
(i)1つ以上の対象の分子を、より詳細には巨大分子を含む溶液を、結晶化チャンバの1つの端部に配置する工程と、
(ii)1つ以上の結晶化剤を含む溶液を結晶化チャンバの別の端部に配置する工程と、
(iii)結晶を形成させる工程と、を含む結晶化方法であって、
前記結晶化チャンバは請求項1乃至25のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイスに含まれる結晶化チャンバである方法。
【請求項1】
1つ以上の化合物が濃度勾配に従って存在する溶液を含むように適合された1つ以上の結晶化チャンバを備えるマイクロ流体デバイスであって、前記結晶化チャンバの形状によって対流現象が制限されるマイクロ流体デバイス。
【請求項2】
1つ以上の化合物は、化合物の飽和濃度の25%以下、好適には20%以下さらには15%以下、より好適には10%以下、さらに好適には5%以下さらには0%から、50%以上さらには75%以上、好適には85%以上、より好適には95%以上および最も好適には100%までの範囲の濃度勾配に従って存在する請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項3】
結晶化チャンバは1つ以上のタンク(R1)に接続されている請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項4】
結晶化チャンバは液液拡散による結晶化を可能とするように構成されている請求項1乃至3のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
前記化合物は結晶化剤である請求項1乃至4のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
前記濃度勾配は、結晶化チャンバの長さの20%以上、好適には40%以上、より好適には60%以上、最も好適には80%以上において、さらには結晶化チャンバの全長において確立されている請求項1乃至5のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
結晶化チャンバは、直径が400μm以下、より好適には300μm以下、最も好適には200μm以下、さらには100μm以下の部分を有する請求項1乃至6のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項8】
結晶化チャンバは、10mm以上、より好適には30mm以上の長さを有する請求項1乃至7のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項9】
結晶化チャンバは、10以上、より好適には100以上、最も好適には1,000以上の長さ/幅比を有する請求項1乃至8のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項10】
結晶化チャンバによって形成される空間のうち1つ以上の部分はゲルを含む請求項1乃至9のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項11】
結晶化チャンバの1つの端部によって形成される空間のうち1つ以上の部分はゲルを含む請求項1乃至10のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項12】
前記ゲルは、アガロース、セルロースおよびそれらの誘導体のうちの1つ以上、シリカ、ならびにアクリルアミド−ビスアクリルアミドのゲルから選択される請求項10または11に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項13】
界面活性物質、より詳細には非イオン性界面活性剤および両性イオン性界面活性剤から選択される界面活性物質を含む1つ以上の溶液を含む請求項1乃至12のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項14】
結晶化チャンバは毛細管現象によって充填されるように適合されている請求項1乃至1
3のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項15】
バルブおよび圧力手段などの機械的手段、より詳細には結晶化チャンバを充填するための機械的手段と、
可動部品、より詳細には、結晶化チャンバ充填する際に前記デバイスの使用を可能とするための可動部品とのうちの1つ以上を備えていない請求項1乃至14のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項16】
結晶化チャンバの形状は、結晶化を改良するための手段、より詳細には、官能基のグラフト、電荷、酵素基質、配位子のうちの1つ以上や粗さすなわち表面の不規則性などの特定の形状構成から選択される、形成される結晶の数を増加させるための手段を含む請求項1乃至15のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項17】
X線散乱によって結晶化チャンバ中に存在する結晶のin situ解析が可能である請求項1乃至16のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項18】
結晶化チャンバおよびその周囲を形成する材料は透明である、すなわち、可視光、入射X線、および結晶散乱された信号のうちの1つ以上を透過させる請求項1乃至17のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項19】
結晶化チャンバを形成する材料は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート、シクロオレフィンコポリマー(COC)およびSU8樹脂から選択され、好適にはポリメタクリル酸メチルである請求項1乃至18のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項20】
光に対し透明または半透明である、より詳細には肉眼または光学的な拡大による結晶の観察、好適には光学的な拡大による結晶の観察が可能である請求項1乃至19のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項21】
結晶化チャンバは、正方形、矩形、半円、三角形または管状の断面、より好適には正方形または矩形の断面を有する請求項1乃至20のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項22】
結晶化チャンバは、リソグラフィ、マイクロマシニング、射出成形、プレス成形、ホットまたはコールドプレスキャストおよび印刷のうちの1つ以上の方法によって得られる請求項1乃至21のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項23】
前記溶液は、化学的、生物学的、医学的または薬学的な対象となる1つ以上の分子、より詳細には、無機もしくは有機分子、天然巨大分子または合成巨大分子、より詳細には、核酸、タンパク質、超分子複合体およびウィルスから選択される分子をさらに含む請求項1乃至22のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項24】
デバイス全体または1つ以上の結晶化チャンバにおいて所与の温度を得るための手段を含む請求項1乃至23のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項25】
1つ以上の結晶化チャンバの1つ以上の部分において、より好適には1つ以上の結晶化チャンバの全長において、最も好適には前記マイクロ流体デバイス全体において温度勾配を得るための手段を含む請求項1乃至23のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項26】
次の用途のうちの1つ以上、すなわち、
液液拡散による結晶化と、
新たな有効成分、および有効成分の新たな形態、より詳細には新たな結晶形態のうちの1つ以上の研究と、
結晶化条件のスクリーニングおよび最適化の研究と、のうちの1つ以上における、
より詳細には、塩類、有機分子、無機分子、生体巨大分子、ウィルスまたは薬品有効成分などの分子を対象とする用途における請求項1乃至25のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイスの使用。
【請求項27】
X線散乱によって結晶化チャンバ中に存在する結晶の解析を可能とするシステム内における請求項1乃至25のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイスの使用。
【請求項28】
(i)1つ以上の対象の分子を、より詳細には巨大分子を含む溶液を、結晶化チャンバの1つの端部に配置する工程と、
(ii)1つ以上の結晶化剤を含む溶液を結晶化チャンバの別の端部に配置する工程と、
(iii)結晶を形成させる工程と、を含む結晶化方法であって、
前記結晶化チャンバは請求項1乃至25のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイスに含まれる結晶化チャンバである方法。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図6】
【図5】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図6】
【図5】
【公表番号】特表2009−543573(P2009−543573A)
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−520013(P2009−520013)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際出願番号】PCT/FR2007/001243
【国際公開番号】WO2008/009823
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(505045610)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ スィヤンティフィック(セーエヌエルエス) (41)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE(CNRS)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際出願番号】PCT/FR2007/001243
【国際公開番号】WO2008/009823
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(505045610)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ スィヤンティフィック(セーエヌエルエス) (41)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE(CNRS)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]