説明

分子ポンプの軸受放熱構造

【課題】高速で回転するロータの回転軸を上下の転がり軸受で軸支して真空排気を行なう分子ポンプにおいて、前記転がり軸受の放熱性を向上させて軸受の長寿命化を図る。
【解決手段】ロータ2の回転軸3を上側の第1玉軸受8aと下側の第2玉軸受8bで軸支する構造の分子ポンプ1において、該分子ポンプ1は第2玉軸受8bの外輪を保持するスリーブ9と、該スリーブ9の外周部に嵌着したOリング7cを介して該スリーブ9が軸方向に摺動可能に嵌入するスリーブケース6bとを有しており、これらスリーブ9とスリーブケース6bとを可撓性を有する熱伝達手段の放熱板11で連結したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速で回転するロータを有して中真空から超高真空にわたる圧力範囲で使用するターボ分子ポンプ又は複合分子ポンプ等の分子ポンプの軸受放熱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のターボ分子ポンプの1例の縦断面図を図3に示した。
【0003】
図3においてaはターボ分子ポンプのロータ、bは回転軸、cはモータである。
【0004】
モータcの駆動によって回転軸b及びロータaが高速で回転し、吸気口dから吸気をして排気口eから排気を行なう。
【0005】
回転軸bは上部の第1玉軸受fと下部の第2玉軸受g(いずれもグリース封入式玉軸受)によってハウジングh内に軸支されている。
【0006】
前記第2玉軸受gはハウジングhに設けられた円穴h1に該第2玉軸受gの外周部との間に微小の隙間を有して嵌入されていると共に、Oリングm2を介して弾性的に該円h1に支承されている。
【0007】
一方、前記第1玉軸受fは軸受スリーブjの円孔j1に該第1玉軸受fの外周部との間に微小の隙間を有して嵌入されていると共にOリングm1を介して弾性的に該円孔j1内に支承されている。
【0008】
このように第1玉軸受f及び第2玉軸受gを弾性的に支承するのは、回転質量のアンバランスによって生じる回転軸bの軸直角方向への微小な揺動をこれらOリングm1、m2によって吸収するためである。
【0009】
グリース封入式の転がり軸受によって回転軸を軸支している分子ポンプにおいて、従来は軸受の振動騒音の遮断を目的として、前記の軸受外周へのOリングの配置と共に、上下軸受の側端面にゴム板等の弾性体を配置する方法も一般に用いられているが、その場合、この弾性体の熱伝導性が悪い為に、モータや転がり軸受の発熱により該転がり軸受部が過熱して、封入したグリースが消耗したり又は転がり軸受の寿命が短くなったりするという問題があった。
【0010】
そこで、転がり軸受部の熱を速やかにハウジング側に伝達して該転がり軸受の過熱を防止すると共に、該転がり軸受部に発生した振動のハウジング側への伝達が防止されるようにするために出願人は先に、回転軸を上下の転がり軸受で軸支する構造の分子ポンプにおいて、前記上下の転がり軸受を分子ポンプのハウジングにある上部及び下部の円穴内にそれぞれ前記転がり軸受の外輪の外周部に嵌合するOリング等の弾性体を介して支承するようにし、更に前記上部円穴の上端部及び前記下部円穴の下端部にそれぞれ内径方向に向かって突出するドーナツ状のフランジを設けて該フランジの内側面と前記転がり軸受の外輪の側端面とを向かい合わせると共に、これら向かい合うフランジの内側面と転がり軸受の外輪の側端面との間に金属薄板製の緩衝板を介在させた分子ポンプの軸受支持構造を提案した(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−138717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
高速で連続運転を行なう分子ポンプにあっては、転がり軸受部の熱を速やかにハウジング側に伝達して該軸受部が高温になるのを防止する必要があるが、前記特許文献1に記載の分子ポンプの軸受支持構造では、この熱伝達能力が不足する場合があるという問題があった。
【0013】
本発明は前記問題点を解消し、高速で連続運転行なうような分子ポンプにおいても充分に軸受部を冷却できて、転がり軸受の寿命を長く保持できるような分子ポンプの軸受放熱構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記の目的を達成すべく、ロータの回転軸を上下の転がり軸受と、どちらか一方のころがり軸受の外輪を保持するスリーブと、該スリーブの外周部に嵌着したOリング等の弾性体を介して該スリーブが軸方向に摺動可能に嵌入するスリーブケースとを有しており、これらスリーブとスリーブケースとを可撓性を有する熱伝達手段で連結した。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高速で回転するロータを有する分子ポンプにおいて、該ロータの回転軸を支承する転がり軸受部の熱を速やかにハウジング側に伝達して、該転がり軸受部の寿命を長く保持することができる効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の軸受放熱構造を採用した複合分子ポンプの縦断面図である。
【図2】前記複合分子ポンプの軸受構造部の詳細図である。
【図3】従来のターボ分子ポンプの一例の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための形態の実施例を以下に示す。
【実施例1】
【0018】
図1は本発明の軸受放熱構造を採用した複合分子ポンプ1の縦断面図、図2はその軸受構造部の詳細図である。
【0019】
複合分子ポンプ1はターボ分子ポンプ部1Aとその下部に連設されたねじ溝ポンプ部1Bとを有する竪形配置となっている。
【0020】
2はこれらターボ分子ポンプ部1Aとねじ溝ポンプ部1Bのアルミ合金等からなるロータ、3は該ロータ2の中心孔に固定されて下方に延びる鋼製の回転軸である。
【0021】
1Cは前記ねじ溝ポンプ部1Bの下方に連設されているベース部、4は該ベース部1Cの中央部に形成されているモータハウジングを示し、該モータハウジング4内には、前記回転軸3に連結するモータ5が収容されている。
【0022】
そして前記モータハウジング4の上端に固定されている上部フランジ6aの中心透孔にOリング7aを介して上部のころがり軸受の第1玉軸受8aが支持されており、又前記モータハウジング4の下端に固定されているスリーブケース6bの大径の中心透孔内にころがり軸受の第2玉軸受8bが支持されている。
【0023】
そして前記回転軸3は上部の第1玉軸受8a及び下部の第2玉軸受8bに回動自在に支承されている。
【0024】
ここで該第2玉軸受8bはスリーブ9内にOリング7bを介して支持されていると共に、該スリーブ9はその外周部に嵌着したOリング7cを介して前記スリーブケース6bの中心透孔6c内に軸方向に摺動可能に嵌入している。
【0025】
前記第1玉軸受8aは外輪の上端面が前記上部フランジ6aの内方突縁6dに当接して上方への移動が制限されていると共に、前記第2玉軸受8bは外輪の下端面が前記スリーブ9の後述する肩部9aに当接して下方へ移動が制限されている。
【0026】
前記スリーブ9は、前記スリーブケース6bの中心透孔6cに嵌入する本体部9bの下方部に、小径の円筒状部9cを下方へ突出させて、2段の径の異なる円筒状からなり、この径の異なる部分を肩部9aに形成した。
【0027】
10はコイルスプリングで、該コイルスプリング10はスリーブケース6bの下端部の内方突条6eと前記スリーブ9との間に介在して、該スリーブ9を軸方向の上方に向って押圧している。
【0028】
11は熱伝達手段の放熱板であり、該放熱板11は熱伝導性の良い薄い金属円板を複数枚積み重ねて、同心円の波打ち状の凹凸を有する円板状体に形成されている。
【0029】
尚、該放熱板11は、前記コイルスプリング10の弾発力に比べて遥かに弱い弾性を有するフレキシブルな構造としている。
【0030】
放熱板11は、前記スリーブ9から突出する小径の円筒状部9cの下端面及び前記スリーブケース6bの下端面部に当接して係着されており、スリーブ9とスリーブケース6bとの間の熱伝達を行なう。
【0031】
尚12は前記ベース部1cの下面に係着され前記スリーブケース6bを覆う下側蓋体を示す。
【0032】
次に本実施例の分子ポンプ1の作動及びその効果について説明する。
【0033】
分子ポンプ1は、モータ5が回転軸3を介してロータ2を回転駆動することにより、吸気口1aより吸気をして排気口1bより排気を行なう。
【0034】
ロータ2を高速回転させることによって第1玉軸受8a及び第2玉軸受8bが発熱するが第1玉軸受8aに生じた熱は該第1玉軸受8aの外輪から上部フランジ6aへ伝達され、更にモータハウジング4とベース部1Cを経て分子ポンプ1の外部へ放出される。
【0035】
一方、第2玉軸受8bに生じた熱は該第2玉軸受8bの外輪からスリーブ9へと伝達されるが、該スリーブ9は熱伝達性の悪いOリング7cを介してスリーブケース6bに嵌入しているため、該スリーブ9の外周部からスリーブケース6bへの熱伝達が制限される。
【0036】
そこで、スリーブ9からスリーブケース6bへの熱伝達は、両者を連結する放熱板11によって行なわれ、該スリーブケース6bに伝達された熱はモータハウジング4とベース部1Cを経て分子ポンプ1の外部へ放出される。
【0037】
コイルスプリング10は、スリーブ9を介して第2玉軸受8bの外輪を上方へ押し上げており、該コイルスプリング10の弾発力によって第2玉軸受8bの回転する玉と該軸受8bの内外との接触圧力が適正に保たれる。
【0038】
このように、放熱板11を組み込むことにより、上下の玉軸受8a、8bの各玉の接触圧力が適正に保たれると共に発熱による高温化も防止されるので、本発明の軸受放熱構造により分子ポンプの軸受寿命が長く保たれるようになる効果を有している。
【0039】
尚、本実施例では熱伝達手段である放熱板11は薄い金属円板を複数枚積み重ねて形成した円板状体からなるとしたが、該放熱板11を、熱伝導率の高い材料からなる金属細線を編み上げて布状とし、円板状に切り抜いて使用してもよい。
【0040】
このように金属細線を編み上げて布状としたことにより、前記金属円板を積み重ねた放熱板11よりもフレキシブルに形成することが可能となり、前記コイルスプリング10の作動に及ぼす抵抗力が小さくなる効果が得られる。
【0041】
又、本実施例では前記放熱板11をスリーブ9及びスリーブケース6bの各下面側に係着したが、放熱板をスリーブ9及びスリーブケース6bの各上面側に係着するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、高速で回転するロータを有して真空排気を行なう分子ポンプの軸受部に使用される。
【符号の説明】
【0043】
1 分子ポンプ
2 ロータ
3 回転軸
6b スリーブケース
7c Oリング
8a、8b 転がり軸受
9 スリーブ
11 熱伝達手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータの回転軸の上下のころがり軸受と、どちらか一方のころがり軸受の外輪を保持するスリーブと、該スリーブの外周部に嵌着したOリング等の弾性体を介して該スリーブが軸方向に摺動可能に嵌入するスリーブケースとを有しており、これらスリーブとスリーブケースとを可撓性を有する熱伝達手段で連結したことを特徴とする分子ポンプの軸受放熱構造。
【請求項2】
前記熱伝達手段は熱伝導率の高い材料からなる金属細線を編み上げて形成した可撓性を有する布状体からなる請求項1に記載の分子ポンプの軸受放熱構造。
【請求項3】
前記熱伝達手段は熱伝導率の高い材料からなる薄い金属板を複数枚重ね合せて形成した可撓性を有する円板状体からなる請求項1に記載の分子ポンプの軸受放熱構造。
【請求項4】
前記熱伝達手段を前記スリーブ及び前記スリーブケースの各下面側に係着した請求項1乃至請求項3のいずれか1に記載の分子ポンプの軸受放熱構造。
【請求項5】
前記熱伝達手段を前記スリーブ及び前記スリーブケースの各上面側に係着した請求項1乃至請求項3のいずれか1に記載の分子ポンプの軸受放熱構造。
【請求項6】
前記円板状体は前記薄い金属板を同心円の波打ち状の凹凸を有する円板状体に形成してなる請求項3に記載の分子ポンプの軸受放熱構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−38534(P2011−38534A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183330(P2009−183330)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000149170)株式会社大阪真空機器製作所 (38)
【Fターム(参考)】