説明

分子ポンプ

【課題】強い磁場内でも安全に運転することができて、周辺機器と干渉する心配がなく、分子ポンプ本体への固定にも問題がないような構造のシールド機能を有する分子ポンプを提供する。
【解決手段】ターボ分子ポンプ部Tのロータの動翼2Aを囲むケーシング6Aとねじ溝ポンプ部Sの外部を覆うケーシング6Bとを軟磁性材料からなる一体のケーシング6にて形成すると共に、該ケーシング6の下方部をポンプ本体Pの下端部より下方に延長した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強い磁場内での真空排気に好適な分子ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
加速器や核融合装置等の強い磁場を発生する装置内で真空排気を行なう場合、排気を行なうターボ分子ポンプや複合分子ポンプは強い磁場に曝されることになる。
【0003】
強い磁場内では、これら分子ポンプ内で高速回転するロータや回転軸に渦電流が発生して、回転に対するブレーキと発熱現象が生ずるため、運転が困難になるという問題があった。
【0004】
従来は、磁場中で分子ポンプを使う場合、分子ポンプの外側に鉄などの磁性材料の円筒を配置して磁気シールドとしていたが、該シールドが周辺機器と干渉したりして、その設置位置や分子ポンプ本体への固定手段に困難を生ずるなどの問題があった。
【0005】
又、出願人は先に、筐体内に固定の固定部材内に回転部材を回転して気体を圧縮排気する式の真空ポンプにおいて、前記筐体及び固定部材の両方又はどちらか一方を磁性材により構成した真空ポンプの出願を行なった(特許文献1参照。)。
【0006】
図3に、従来の真空ポンプの一例の複合分子ポンプの斜視断面図を示した。
【0007】
複合分子ポンプは、上部のターボ分子ポンプ部と、その下に連設されたねじ溝ポンプ部とからなり、6aが吸気口、7aが排気口である。
【0008】
又、2cがねじ溝ポンプ部のステータ、3cがターボ分子ポンプ部のスペーサであり、4aはポンプの筐体を示す。
【0009】
前記特許文献1の複合分子ポンプでは、これらステータ2cとスペーサ3cの固定部材、及び筐体4aの両方、又はどちらか一方を鉄系透磁性材料により形成するとしている。
【0010】
しかし、前記特許文献1の磁気シールドの構造では、強い磁場における対応が不充分であるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平01−190991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は周辺機器と干渉する心配がなく、分子ポンプ本体への固定にも問題がなく、しかも分子ポンプの全長に渡って磁気シールドが完全に施された構造の強い磁場内での真空排気に好適な分子ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記の目的を達成すべく、ターボ分子ポンプ部ロータの下にねじ溝ポンプ部ロータを連設して回転体を形成した複合分子ポンプにおいて、前記ねじ溝ポンプ部ロータの外側にねじ溝ポンプ部ステータ又はねじ溝ポンプ部ケーシングを設け、前記ターボ分子ポンプ部ロータの外側には、飽和磁束密度及び透磁率の高い軟磁性材料からなるケーシングを設けると共に該ケーシングは前記ねじ溝ポンプ部ステータ又は前記ねじ溝ポンプ部ケーシングを囲んで下方に伸びて、前記回転体の下端部よりも下方にまで延長した。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、強い磁場内で運転を行なう分子ポンプにおいて、周辺機器と干渉する心配がなく、分子ポンプ本体への固定にも問題がなく、分子ポンプの全長に渡って磁気シールドが完全に施された構造の分子ポンプを提供できる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の分子ポンプの実施例1の縦断面図である。
【図2】本発明の分子ポンプの実施例2の縦断面図である。
【図3】従来の分子ポンプの一例の斜視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態の実施例を以下に示す。
【実施例1】
【0017】
本発明の分子ポンプの実施例1を図1により説明する。
【0018】
図1はターボ分子ポンプ部Tの下方にねじ溝ポンプ部Sを連設してなる本発明の複合分子ポンプ1の縦断面図である。
【0019】
2はアルミ合金からなるロータで、該ロータ2の上部にはターボ分子ポンプ部の動翼2Aが放射状に且つ多段に該ロータ2から外方へ突出して形成されている。
【0020】
前記ロータ2の下部にはねじ溝ポンプ部ロータ2Bが円筒状に形成されている。
【0021】
3は軸受筐体で、該軸受筐体3は前記ロータ2の軸中心に固定されている回転軸21を回動自在に軸支する軸受構造を内蔵すると共に、該回転軸21を回転駆動する電動モータを内蔵している。
【0022】
前記ロータ2及び回転軸21等が複合分子ポンプ1の回転体を形成している。
【0023】
4は複合分子ポンプ1のベース部で、前記軸受筐体3を固定している。
【0024】
前記ベース部4の側方部には、当該複合分子ポンプ1の排気口4A及び電気配線や冷却水配管等の接続部を具備している。
【0025】
5はねじ溝ポンプ部Sのステータで、前記ねじ溝ポンプ部ロータ2Bの外周面に近接して配置され、内周部にねじ溝5Aを有している。該ステータ5はアルミ合金等からなる。
【0026】
6はケーシングで、けい素鋼又はパーマロイ等の鉄合金等の飽和磁性密度と透磁率の高い軟磁性材料に形成される。
【0027】
前記ケーシング6は、内周部にリング状のスペーサT1を嵌着してターボ分子ポンプ部Tの殻部をなす上部ケーシング6Aと、ねじ溝ポンプ部ステータ5を覆う下部ケーシング6Bとからなる。
【0028】
尚、6Cは吸気口を示す。
【0029】
本実施例では、下部ケーシング6Bを上部ケーシング6Aよりも大径に形成すると共に、上部ケーシング6Aから下部ケーシング6Bへ移行する段差部に前記ステータ5に設けたフランジ5Bを当接させて、ボルト6Dを用いて締結し、該ボルト6Dとフランジ5Bを介して、前記ステータ5と該ステータ5に固定の軸受筐体3と該軸受筐体3に回転自在に支持されている回転軸21と該回転軸21に固定のロータ2と前記ステータ5に固定のベース部4とからなるポンプ本体Pが前記ケーシング6に支持され、該ケーシング6の下部ケーシング6Bの下端部が前記ポンプ本体Pのベース部4より下方に延長形成されている。
【0030】
6Eは前記ケーシング6の下部ケーシング6Bの側壁部に設けられている開口部であり、該開口部6Eを前記排気口4A、冷却水配管及び電気配線等が挿通するようにした。
【0031】
次に本実施例の複合分子ポンプ1の使用法及びその効果について説明する。
【0032】
複合分子ポンプ1は、加速器や核融合装置等の強い磁場を発生する装置内の真空排気を行なうのに用いられる。
【0033】
複合分子ポンプ1の主要部分であるポンプ本体Pのロータ2や回転軸の回転体は、該ポンプ本体Pのベース部4より下方まで延長形成されている軟磁性材料からなるケーシング6で周囲を囲まれているので、強い磁場内にあっても回転に対するブレーキ作用や発熱等の心配がなく、安全に分子ポンプの排気作業を行なうことができる。
【0034】
尚、この実施例では、ケーシング6の下端部をポンプ本体Pのベース部4より下方に延長形成されている例を示したが、該ケーシング6の下端部をポンプ本体Pのロータ2や回転軸の回転体より少なくとも下方に位置すれば前述の作用が達成できる。
【実施例2】
【0035】
本発明の分子ポンプの実施例2を図2により説明する。
【0036】
図2は本実施例の複合分子ポンプ11の縦断面図である。
【0037】
複合分子ポンプ11は、前記実施例1の複合分子ポンプ1のケーシング6に、軟磁性材料の鉄合金からなる底板7を付設した点が前記複合分子ポンプ1とは異なる。
【0038】
このように、ポンプ本体Pの下方部にも磁場に対するシールドを設置したことにより、強い磁場内での分子ポンプの対応能力が一層向上した。特に、磁場方向が分子ポンプの回転軸に対して直角でない場合、つまり回転軸方向の磁場成分のある場合にも対応能力が向上している。
【0039】
尚、複合分子ポンプ1がより強い回転方向の磁場に曝される場合には、分子ポンプ1の吸気口6Cと被排気系との間に軟磁性材料からなる吸気管の短管(図示せず)を介在させてもよい。
【0040】
又、前記実施例は複合分子ポンプの場合を示したが、これはターボ分子ポンプのみからなるものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の分子ポンプは加速器や核融合装置等の強い磁場を発生する装置内の真空排気に用いられる。
【符号の説明】
【0042】
1、11 分子ポンプ(複合分子ポンプ)
2 ロータ
4 ベース部
5 ステータ(ねじ溝ポンプ部ステータ)
6 ケーシング
6E 開口部
7 底板
P ポンプ本体
S ねじ溝ポンプ部
T ターボ分子ポンプ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボ分子ポンプ部ロータの下にねじ溝ポンプ部ロータを連設して回転体を形成した複合分子ポンプにおいて、前記ねじ溝ポンプ部ロータの外側にねじ溝ポンプ部ステータ又はねじ溝ポンプ部ケーシングを設け、前記ターボ分子ポンプ部ロータの外側には、飽和磁束密度及び透磁率の高い軟磁性材料からなるケーシングを設けると共に該ケーシングは前記ねじ溝ポンプ部ステータ又は前記ねじ溝ポンプ部ケーシングを囲んで下方に伸びて、前記回転体の下端部よりも下方にまで延長したことを特徴とする分子ポンプ。
【請求項2】
前記分子ポンプは前記ねじ溝ポンプ部のロータの外側に設けたステータと前記ケーシングの内壁部とを連結した構造の請求項1に記載の分子ポンプ。
【請求項3】
前記ケーシングの下端開口部を前記軟磁性材料で形成した底板により塞いだことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の分子ポンプ。
【請求項4】
前記ステータの下部に当該分子ポンプのベース部を連設すると共に、当該ベース部に連通する配管は、前記ケーシングの側壁部に設けられている開口部を挿通するように形成したことを特徴とする請求項1又は請求項2又は請求項3に記載の分子ポンプ。
【請求項5】
前記分子ポンプの吸気口部に、飽和磁束密度と透磁率の高い軟磁性材料からなる吸気管の短管を接続して有する請求項1乃至請求項4のいずれか1に記載の分子ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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