説明

分子モータシステム及びその用途

【課題】微小管上にRNAアプタマースクリーニングプローブとなる結合物質を修飾したスクリーニングプローブコンジュゲート微小管を開発した結果、標的RNAをセンシングし、捕捉して運搬・回収することができる分子モータシステム及びその用途を提供する。
【解決手段】
結合機能性核酸であるRNAアプタマーのスクリーニングプローブとなるRNAアプタマー結合物質が微小管上に結合しているスクリーニングプローブコンジュゲート微小管、キネシンが塗布された基板、緩衝液からなり、導入されたDNA及び転写酵素の混在する転写液中を移動することにより、標的RNAとスクリーニングプローブコンジュゲート微小管とを反応させて微小管上で集約的に結合させたのち、フロー処理にて未反応混合物を洗浄作業の後、微小管を一箇所に集めることにより標的RNAを回収精製する分子モータシステム及びその用途。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子モータシステムとその応用に関し、より詳しくは、RNAアプタマースクリーニング微小管及びこれを移動させる基板を用いて、DNAの転写液の中から目的の物質に結合する機能を持った標的RNAアプタマーを効率よく検出し選別することができ、標的RNAを高濃度かつ高純度にワンステップで回収精製する分子モータシステム、RNAアプタマーを選別する方法、RNAアプタマーの精製方法、標的RNAアプタマーを濃縮する方法及びRNA転写検出方法に関する。

【背景技術】
【0002】
生体高分子を人工的に高速進化させて有用分子の創製を行う高速分子進化法は、創薬や医療、環境改善に応用できる物質を創製する方法として注目が集められている。現在毒素活性をもつタンパク質に結合する活性阻害物質や、微量毒素に結合して検出を行えるセンサー物質、がん化をひきおこすシグナル物質に結合してシグナル伝達を阻害する抗がん剤の創製などが分子進化工学的手法を用いて行われている。
このような有用生体高分子の中でも特定の物質に対して結合活性を持った結合機能性核酸(アプタマー)は、改変が容易で大量生産が可能であるという利点があり、大規模スクリーニングによる新機能性RNAアプタマーの探索が行われている。核酸(DNA、RNA)の中でもRNAは一本鎖であり二本鎖のDNAに比べて多様な3次構造をとりやすく、これにより多彩な機能を発揮することが期待でき、新機能性物質創製のターゲット材料として適している。このような新機能性物質の創製にあたっては、ランダムな塩基配列を含む大量の核酸断片のプールの中から特定の機能を持つ核酸の大規模並列スクリーニング(選別)が重要になっており、試験管の中で行われているスクリーニングを、マイクロアレイ進化リアクターチップなどを利用して集積化することが試みられている。
進化リアクターチップでは、生体分子は基板上に直接固定されるのではなく、磁気ビーズ表面に生体分子を固定化したのち、磁性体膜チップ上に固定し、大量の生体分子をビーズの自己組織化により配列し、スクリーニング後に回収するというものである。
RNAアプタマー選別の際には、微量な分子も回収できることや非特異的吸着がなく純度が高いこと、選択の精度と効率がよいことなどがハイスループット処理を目指す上で非常に重要になる。チップ上や磁気ビーズ上での固定では標的RNAの非特異的吸着がおこりやすく微量なRNAの検出にも困難がある。
【0003】
自己組織化能を持つ直径24
nmの細胞骨格線維である微小管は、分子の運動を誘導する経路として細胞内の輸送機構等に携わっている。神経軸索では、細胞体で作られた神経伝達物質等の輸送が、微小管系モータータンパク質であるキネシン及びダイニンによって行われる。これらのタンパク質は、ATP加水分解によるエネルギーを利用して、微小管に沿って一方向に運動して神経末端に神経伝達物質等を輸送する。
微小管はGTP結合チューブリンタンパク質サブユニットからなる会合体である。各々のサブユニットは、α−チューブリンおよびβ−チューブリンのヘテロ二量体である。チューブリンは2つのGTP分子に2つの異なる部位で結合し、3つのチューブリンは、不変のグリシンリッチ領域を共有し、その領域はヌクレオチド結合部位の1つへのアクセスの制御に関与していると考えられる。
【0004】
上記のキネシン-微小管系を用いて、目的物質を輸送させる研究が盛んに行われている。微小管を基板上に固定化し、キネシンの運動を観察する方法もあるが、微小管を固定化するのが難しい。そのためこれらの研究においては、キネシンをガラス基板上に物理的に固定化させ、微小管を運動させるmotility assay(非特許文献1)が一般的に使用されている。
【0005】
Muthukrishhanらは、ガラス基板上に固定化されたプローブDNAと、アビジン結合微小管にビオチン化DNAを修飾したDNA結合微小管とのハイブリッド形成を行い、微小管のパターニングを行い、キネシンモーターを移動させた(非特許文献2)。
【0006】
Bachandらは、ビオチン化微小管を用いて、アビジン化された量子ドットを微小管上に固定化し、輸送することに成功した(非特許文献3)。
【0007】
微小管の運動方向の制御は難しいが、微細加工技術を用いて、単一方向に微小管を運動させる報告もなされており、離れた別の場所に微小管自身が移動することにより目的物質を輸送することは可能である(非特許文献4)。
【0008】
パルス状に微小管運動速度の100倍程度の流速を付加して、微小管の方向をそろえることによっても単一方向の輸送は可能である(非特許文献5)。
【0009】
Grateらは、マラカイトグリーンイソチオシアネートを修飾したマラカイトグリーンアガロースを充填したカラムにDNAプールより転写したRNA転写液を通すことによりマラカイトグリーンと反応するRNAアプタマーを吸着させ、未反応物を洗浄後、フリーのマラカイトグリーンを流して標的RNAを溶液中に回収し選別を行った。さらにマラカイトグリーンアプタマーの配列をDNAレベルで組み込むことによりマラカイトグリーンとRNAの反応を利用して他RNAの処理に用いる技術を確立した(非特許文献6)。
【0010】
マラカイトグリーンアプタマーの転写に最低限必要なDNA配列としてT7 sense DNAとAnti-sense DNAの配列が明らかにされている。(非特許文献7)

【非特許文献1】Vale,R. D.; Reese, T. S.; Sheetz, M. P. Cell. 1985, 42, 39-50.
【非特許文献2】Muthukrishnan, G.; Roberts, C.A.; Chen, Y.C.; Zahn,J. D.; Hancock, W. O. Nano lett. 2004, 4, 2127-2132.
【非特許文献3】Bachand,G. D.; Rivera, S. B.; Boal, A. K.; Gaudioso, J.; Liu, J.; Bunker, B. C.; Nano Lett. 2004, 4, 817-821.
【非特許文献4】Hiratsuka, Y.; Tada, T.; Oiwa, K.;Kanayama, T.; Uyeda, T. Q. Biophys. J.2001.81,1555-1561.
【非特許文献5】Yokokawa, R.;Takeuchi, S.; Kon, T.; Nishiura, M.; Sutoh, K.; Fujita, H.; Nano Lett. 2004, 11, 2265-2270.
【非特許文献6】Grate, D.; Wilson, C.; Proc.Natl. Acad. Sci. 1999, 96,6131-6136.
【非特許文献7】Babendure, J. R.; Adams, S. R.; Tsein R.Y.; J. Am. Chem. Soc. 2003, 125,14716-14717.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
分子進化工学的手法による新しい結合特性を持つ結合機能性核酸(アプタマー)の創出は創薬や医療、環境改善などに役立つことから生体外で生体高分子に人工的な進化と淘汰を施して有用分子の創製を行うin vitro selectionの対象として非常に注目されている。従来のRNAアプタマーのin vitro selectionではDNAプールからのRNAの転写、標的RNAの選別と精製の行程をワンステップで行うことができず、大規模並列スクリーニングの効率に問題があった。
本発明者は、キネシン-微小管系分子モータータンパク質の物質輸送機能に着目し、微小管の自己組織化能を利用して溶液中に微量に含まれる標的RNAを微小管上に集約して選択的に捕捉して精製し、結合物質を用いて溶液中に回収するという一連の作業をフロー処理で行えることを見出した。また、キネシン-微小管分子モーターシステムによれば、標的RNAを微小管上に集約して目的地に集めることにより目的物質の濃縮精製を行うことができる。さらに微小管に搭載するスクリーニングプローブとしてRNAアプタマーが結合することにより蛍光を発するようなRNAアプタマーとRNAアプタマー結合物質の組み合わせを選択することにより標的RNA配列を含む微量RNAの転写の検出センサーにもなる。

【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明は、微小管表面上に結合機能性核酸であるRNAアプタマーのスクリーニングプローブとなるRNAアプタマー結合物質を導入したスクリーニングプローブコンジュゲート微小管を開発し、微小管の運動を妨げることなく選択的な標的RNAの選別、精製を可能にした。このことより、導入部位から選別および精製回収部位までの微小管による標的RNAの輸送が可能であることを見出した。
すなわち、本発明は、結合機能性核酸であるRNAアプタマーのスクリーニングプローブとなるRNAアプタマー結合物質が微小管上に結合しているスクリーニングプローブコンジュゲート微小管、キネシンが塗布された基板、緩衝液からなり、導入されたDNA及び転写酵素の混在する転写液中を移動することにより、標的RNAとスクリーニングプローブコンジュゲート微小管とを反応させて微小管上で集約的に結合させたのち、フロー処理にて洗浄作業の後、微小管を一箇所に集めることにより標的RNAを回収精製する分子モータシステムである。
また、本発明の分子モータシステムは、キネシンが塗布された基板上において、進化工学的手法等により作成したDNAプールよりRNAを転写して回路に導く導入部位、標的RNAアプタマーとスクリーニング物質を微小管と反応させる選別部位、微小管上のRNAアプタマー結合物質が選択的に回収した結合機能を持つRNAアプタマーを再び溶液中に回収する回収部位が、通路で結ばれ、導入と選別、移動と回収および濃縮を緩衝液中で行うことが出来る。
さらに、本発明の分子モータシステムは、スクリーニング物質(ここではRNAアプタマー結合物質)と微小管の結合を、アビジン化スクリーニング物質とビオチン化微小管若しくは、ビオチン化スクリーニング物質とアビジン化微小管により行うことができる。
また、本発明は本発明の分子モータシステムを用いて、有効な結合機能を持つRNAアプタマーを選別する方法である。
さらに、本発明は本発明の分子モータシステムを用いて、標的RNAアプタマーを捕捉した微小管を移動させ一ケ所に集積することで標的RNAアプタマーを濃縮する方法である。
また、本発明は本発明の分子モータシステムを用いて、未反応の混合物の洗浄作業の後、過剰の結合物質を投入することにより導入された転写混合液の中から標的RNAアプタマーを選択的に溶液中に回収するRNAアプタマーの精製方法である。
またさらに、本発明は本発明の分子モータシステムを用いて、RNAアプタマー結合物質にマラカイトグリーンイソチオシアネートを用い、検出したいRNAのDNA配列上流にマラカイトグリーン結合配列を組み込むことにより、マラカイトグリーンとRNAアプタマー配列部位の結合により発する蛍光観察によりRNA転写の有無の検出を効率的に行うことを可能にする自走式RNA転写検出方法である。

【発明の効果】
【0013】
本発明の分子モータシステムは、微小管上にRNAアプタマー結合物質を導入した形のスクリーニングプローブコンジュゲート微小管を用いて、反応溶液中を移動して標的RNAを結合させることができ、さらに標的RNAを結合したまま移動することもできる。(図 1A参照)。
また、RNAアプタマー結合後の移動が可能であれば、微小管運動の方向制御技術(例えば非特許文献4、5)と併せることで、未反応の混雑物を洗浄の後、一箇所に移動させて高濃度、高純度で回収することができる。スクリーニングプローブコンジュゲート微小管上には微小管の自己組織化能により多数のRNAアプタマー結合物質が集約されており、RNAアプタマー結合物質に結合した標的RNAも顕微鏡で蛍光が観察されるまでに高濃度に集約されている。これを一箇所に移動させて濃縮することにより回収も高濃度で行うことが可能になる。回収RNAアプタマーが高濃度であることはスクリーニングの後に酵素反応で回収物の増幅を精度よく有効に行う際に重要な要件となる。
また本操作はフロー処理によりワンステップで行うことができ、チップ操作を減らして精度よく標的RNAを回収することが可能で、さらに並列化によってワンステップ大規模スクリーニングシステムに実装することもできる。また、RNAアプタマー結合物質としてマラカイトグリーンイソチオシアネートを用い、RNAのテンプレートとなるDNAの配列にマラカイトグリーンアプタマーの配列を組み込むことによりマラカイトグリーンとマラカイトグリーンアプタマーの蛍光反応により微量のRNAの転写反応も微小管上に標的RNAを集積して顕微鏡で観察することが可能になり、標的RNA濃度依存性の応答を得られることからセンサー素子材料として使用することもできる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で用いる、RNAアプタマーのスクリーニングプローブとなるRNAアプタマー結合物質は、RNAの結合機能をひきだしたい物質であればなんでもよい。
本発明において、RNAアプタマー結合物質となりうるのは、RNAアプタマーと結合することにより活性阻害や蛍光などの機能を発揮することを期待できるRNAアプタマー探索をを目的とした有機物質、無機物質である。代表的には、活性部位に結合して活性阻害をひきおこすRNAアプタマーのスクリーニングを目的とした毒性を持つタンパク質群、具体的には、感受性大腸菌を殺すコリシン類やO157由来のベロ毒素やヒマから抽出される猛毒のリシンなど真核生物のリボソームを不活性化する毒素タンパク質、狂牛病の原因となる感染タンパク質プリオン、癌化やリウマチなどの疾患に関係するタンパク質などビオチン化あるいはストレプトアビジンに結合させることにより微小管に搭載可能なほとんどのタンパク質を挙げることができる。
さらに、マラカイトグリーンのようにビオチン-アビジン結合により微小管に搭載可能な試薬、疾患に関係するリン脂質などのシグナル伝達物質や、毒素タンパク質に翻訳される前のRNA自身などを挙げることができる。微小管に搭載する方法は、ビオチン・アビジン結合の他、微小管の官能基に直接結合させる方法など当業者にとって、周知の方法が適用できる。
本システムをRNAセンサーとして用いる場合には標的RNAの蛍光による検出機能をもつものとして、マラカイトグリーンイソチオシアネートが好ましい。この際転写の有無を調べたいDNAのノンコーディング領域にマラカイトグリーンアプタマーの配列をあらかじめ組み込んでおく必要がある。
本発明で用いるスクリーニングプローブコンジュゲート微小管を製造するに際して、用いられる微小管は、何でも良いが、とくに、蛍光物質であるオレゴングリーン488およびビオチン化チューブリンで修飾されたものを好ましく用いることができる。
また、本発明においてスクリーニングプローブ(RNAアプタマー結合物質)と微小管の結合は、どのような結合でも良いが、アビジン化スクリーニングプローブとビオチン化微小管若しくは、ビオチン化スクリーニングプローブとアビジン化微小管により行うことができる。好ましくは、アビジン化スクリーニングプローブとビオチン化微小管が良い。
さらに、本発明の分子モータシステムでは、キネシンが塗布された基板上において、進化工学的手法等により作成したDNAプールよりRNAを転写して回路に導く導入部位、標的RNAアプタマーとRNAアプタマー結合物質を微小管と反応させる選別部位、微小管上のRNAアプタマー結合物質が選択的に回収した結合機能を持つRNAアプタマーを再び溶液中に回収する回収部位が、通路で結ばれ、導入と選別、移動と回収および濃縮が緩衝液中で行われるが、代表的には図1Bに示される装置が簡便である。すなわち、基板ガラスに一定間隔で2本の両面接着テープを張り付け、上からカバーグラスを載せる。ガラス基板面のカバーグラスに、微細加工、またはPDMS(Polydimethylsiloxane)のようなシリコンポリマーを用いて反応部位と通路と検出部位等を刻っておくと良い(図1C)。
緩衝液としては、RNA、スクリーニングプローブコンジュゲート微小管、キネシン等が活発に動けるものあればどのようなものでも良いが、代表的なものは、アッセイバッファー (10 mM Tris-acetate (pH 7.5), 50 mM potassium acetate, 2.5 mM EGTA, 4 mM magnesium sulfate)を挙げることができる。
微小管を修飾する蛍光物質としては、何でも良いが、身近にあるものとしては、ローダミン、FITC、BODIPY、Oregon Green 514、Oregon Green 488、Cy dyeシリーズを挙げることができる。とくにローダミンやOregon Green 488が好ましく用いられる。
微小管を構成するチューブリンモノマーのビオチン化に際して、リンカーの長さは特に限定されるものではないが、身近にあるものとしては、Pierce社製の、Biotin-(Long
Arm)-NHS、EZ-link NHS-LC-LC-Biotinを挙げることができる。とくにBiotin-(Long Arm)-NHSが好ましく用いられる。

【実施例1】
【0015】
(マラカイトグリーンイソチオシアネート修飾ストレプトアビジン(SA)の調製)
本システムではモデルシステムとしてマラカイトグリーンアプタマーのスクリーニングをとりあげる。SAのフリーのアミノ基を利用してスクリーニングプローブ物質であるマラカイトグリーンイソチオシアネートを付加するため、マラカイトグリーンイソチオシアネートをDEMSOに溶かしたものとSAを0.1 M potassium phosphate/ 0.15 M NaCl, pH 7.3中、室温下の暗室で1時間反応させた。反応後、限外ろ過により未反応のマラカイトグリーンイソチオシアネートを除去した。さらに、凍結乾燥により目的のSA修飾MG (MG-SA)を得た。得られたMG-SAの反応及び本発明によるRNAアプタマースクリーニングの概念図を図1Aに示す。
(微小管の調製)
用いた微小管は、オレゴングリーン488修飾/ビオチン化チューブリン (仕込み比 1:1)を BRP80 (80 mM PIPES, pH 6.8, 1 mM MgCl2, 1 mM EGTA, 10 % glycerol, 5 mM GTP) 緩衝液に懸濁し 37 °C で42分間 インキュベートさせ、最後にタキソールで微小管を安定させることでオレゴングリーン修飾/ビオチン化-微小管(以下微小管)を調製した。
微小管の運動性を評価するために、キネシンをガラス基板上に固定化して微小管の観察を行う方法(motility assay)を採用した。微小管には蛍光物質であるオレゴングリーン488が修飾してあるため顕微鏡でその運動を可視化できる。
スライドガラス、カバーガラスを用いて作製した図1Bのようなフローチャンバーを用いてスクリーニングプローブコンジュゲート微小管の特性評価を行った。フローチャンバー内にアッセイバッファー (10 mM Tris-acetate (pH 7.5), 50 mM potassium acetate, 2.5 mM EGTA, 4 mM magnesium sulfate) 中に溶解したキネシン溶液を挿入し物理的に基板にキネシンを固定化した。その後、微小管溶液を同様にフローチャンバー内に挿入し微小管を基板上のキネシンに結合させた。
(スクリーニング用モデルDNAの準備)
モデルDNAとして非特許文献7に基づいて調整した共通のT7プロモーター配列を含むT7センスDNA(AGCTTAATACGACTCACTATAGGA)とアンチセンスMGアプタマー(GGATCCATTCGTTACCTGGCTCTCGCCAGTCGGGATCCTATAGTGAGTCGTATTAAGCT)およびコントロールのために用意したアンチセンスポリA(AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAGCT)とMGアプタマーと81.5%相同のアンチセンスホモログ(GGATCCCGAGTTTACCTGGCTCTCGCCAGTCGGGATCCTATAGTGAGTCGTATTAAGCT)の3種類のアンチセンス鎖をそれぞれ共通T7センスDNAとアニールさせて合成した部分二本鎖DNA3種類を準備した。これらをAmbion社MAXIscriptのT7 In vitro Transcription Kitを用いてRNAに転写したものを必要に応じて精製して使用する。
(スクリーニングプローブ微小管の調製と運動確認)
MG-SAを上記の微小管固定化基板に加えてオレゴングリーン488修飾/ビオチン化微小管上にMG-SAを固定化して、結合能力の評価もかねて、3種類のT7プロモーターを含むDNA(M:MGアプタマー配列、A:ポリA配列、H:MGアプタマーホモログ配列)をそれぞれ0.3
pmolずつ、Ambion社MAXIscriptのT7 In vitro Transcription Kitに加えて作成した20μL 未精製DNA転写液を用いて、アッセイバッファーで5倍に薄めてMG-SAを固定化した微小管と反応させた。オレゴングリーン488の蛍光とマラカイトグリーンアプタマーとマラカイトグリーンの複合体(図2A.I-(3))の蛍光を蛍光顕微鏡(OLYMPUS IX70)によりU-MNIBA2フィルターとU-MWIG2フィルター用いてそれぞれ観察した。この際、微小管がキネシン上を移動しないようにアッセイバッファーにはATPは加えていない。結果から、オレゴングリーン488の示す微小管上にマラカイトグリーンアプタマーとマラカイトグリーンの複合体の蛍光を観察することができたので微小管上にMG-SAが固定化されていると判断した。図2A(1)、(2)によればこの反応の前には微小管上でマラカイトグリーンアプタマーの蛍光は観察されていない。さらに図2Cに示すコントロール実験により、このDNA転写液にMGアプタマー配列を含むDNAが入っていないときにはマラカイトグリーンアプタマーの蛍光は観察できないことから、DNA転写液中のT7ポリメラーゼなどの酵素類と反応しているものなどではなく、マラカイトグリーンアプタマーが微小管上に固定化されたMG-SAと反応してマラカイトグリーンアプタマーとマラカイトグリーン複合体が蛍光を発しているものと考えられる。MG―SAの濃度はあらかじめ精製済みマラカイトグリーンアプタマー30 ngμL-1を用いて1、10、100 ngμL-1の濃度で固定し、蛍光強度を測定して検討を行い、10 ngμL-1を実験に採用した。さらにATPを加えて微小管の運動を観察した。この際微小管の運動を確認することができた(図3 (3))。このマラカイトグリーンアプタマー付加後の運動速度は、23℃で(0.102μm s-1)であった。
MG-SAを搭載した後も、微小管はキネシン固定化基板上を移動した(図3(2))。その際の速度は、0.095μm s-1である。これは、スクリーニングプローブを固定化していない微小管の速度(0.11 μm s-1)をコントロールとすると、86 %になる。
これらのことから、ビオチンアビジン結合により、微小管上にマラカイトグリーンイソチオシアネートを固定化することに成功し、また微小管上にマラカイトグリーンイソチオシアネートをビオチンアビジン結合で固定しても微小管の運動を阻害しないこと、さらにアプタマーを捕捉したことで微小管の移動に影響がないことがわかる。
(標的RNAのスクリーニング)
ひき続き、スクリーニングプローブコンジュゲート微小管と、標的RNAとの結合に関する評価をマラカイトグリーンアプタマーとマラカイトグリーン複合体の発する蛍光を指標として行った。キネシン固定化基板に前述と同様にスクリーニングプローブコンジュゲート微小管を調製し、3種類のT7プロモーターを含むDNA(M、A、H)をそれぞれ0.3
pmolずつ、Ambion社MAXIscriptのT7の In vitro Transcription Kitに加えて作成した20μL未精製 DNA転写液を、アッセイバッファーで5倍に薄めてMG-SAを固定化した微小管と反応させた。未反応混合物を洗浄後、前述と同様に蛍光顕微鏡により、U-MNIBA2フィルターとU-MWIG2フィルターを使用して微小管の運動およびマラカイトグリーンアプタマーとマラカイトグリーン複合体の蛍光をそれぞれ観察した。
【0016】
未精製混合DNA転写液(M、A、H)中の微小管の選択特異性に関する確認を行う。先に述べたように、等濃度の混合DNA転写液を投入すると微小管(図2A-I-3)の同じ位置からマラカイトグリーンアプタマーとマラカイトグリーン複合体の蛍光が観察された(図2A-II-3)。アプタマーが存在しないときは、微小管の蛍光は観察されたが(図2A-I-1、図2A-I-2)、アプタマーの蛍光は観察されなかった(図3A-II-1、図3A-II-2)。未精製混合DNA転写液中にMGアプタマーの元となるDNAが含まれない場合(A、H)も(図2C)アプタマーの蛍光は観察されなかった。これらのコントロールにおいて、フィルターの性能上ごくわずかではあるがオレゴングリーン 488の蛍光が観察されているが(図2A-II-1、図2A-II-2、図2C)、これはマラカイトグリーンとアプタマー複合体の蛍光を観察するために、顕微鏡のCCDカメラの感度を上げたことによりフィルターを通過したオレゴングリーン488の蛍光の漏れが映りこんでいるためである。アプタマー複合体観察の際にはU-MWIG2フィルターでの観察前にU-MNIBA2フィルターを通して微小管が励起されてしまった部分を避けて観察する必要がある。オレゴングリーン488の漏れこみが強くなるためである。このようにして観察した場合マラカイトグリーンアプタマー複合体の蛍光強度と比較すると蛍光の漏れは4〜5分の1程度の低いものであった(図2B)。これらの結果より、スクリーニングプローブコンジュゲート微小管が、ポリA鎖をもつDNAから転写されたRNA(A)およびマラカイトグリーンアプタマーとよく似た配列をもつRNA(H)やさらにその転写元であるDNAや転写酵素などが混在する中でも選択的にマラカイトグリーンアプタマーと反応し、複合体を形成して蛍光を発していることが確認できる。微小管、RNA、DNAは共にアニオン性であるために、マラカイトグリーンと結合できないRNAやDNAは静電的に微小管に近づくことが困難であるため、選択特異性が保たれるものと考えられる。さらにアッセイバッファーに溶解した過剰のフリーマラカイトグリーン(1μM)を投与すると微小管上のマラカイトグリーンアプタマーの80 %はすみやかに微小管から離脱することが観察された(図2A-II-4)。この結果から過剰のマラカイトグリーンにより容易に目的の場所で標的アプタマーを溶液中に回収できることがわかる。
【0017】
(感度応答)
キネシン固定化基板に前述と同様にスクリーニングプローブコンジュゲート微小管を調製し、定量評価を行うために精製RNAを用いて、濃度を0、0.1、0.5、1.0、 2.0、4.0、6.0、8.0 ngμL-1と変化させ顕微鏡観察にU-MWIG2フィルターを用いて蛍光強度を比較して、RNA濃度が0.5~8.0 ngμL-1の範囲で感度応答があることを確認した(図4)。精製MGアプタマーを用いてMG-SA修飾微小管とMG-SA非修飾微小管で感度応答を調べると、コントロールとしたマラカイトグリーン修飾をしていない微小管ではMGアプタマーを増やしても蛍光強度にほとんど変化がないことがわかる(図4(1))。さらにこの感度応答は精製RNA等濃度混合溶液中(M、A、H)でも保持される(図4(2))ことから、実際のDNAプールから目的のRNAをスクリーニングしてくる際にも感度応答が期待されバイオセンサーとしても本スクリーニングプローブコンジュゲート微小管が有効であることが確認された。図4(2)のコントロールにおいてはマラカイトグリーンアプタマーを含まない精製RNA等濃度混合溶液(A、H)を用いて、横軸に示す濃度は精製RNA混合溶液濃度の3分の1量になっている。バイオセンサーとして用いる場合はマラカイトグリーンアプタマーの蛍光観察の最適フィルターを用いることにより微量域での感度は上がるものと期待される。 本発明の分子モータシステムで用いるスクリーニングプローブコンジュゲート微小管はプレートリーダーで観察できない微量のマラカイトグリーンアプタマーの蛍光も微小管の自己組織化能を生かしてRNAアプタマーとマラカイトグリーンの複合体を微小管上に集積することにより顕微鏡上での観察を可能にするものであり、分子生物学的手法によりマラカイトグリーンに結合する配列を転写を検出したいDNAに組み込むことにより、自走するDNA転写反応のバイオセンシング素子としても利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明の分子モータシステムは、標的RNAを純度良く取り出すことができ、結合機能を持った有用RNAアプタマーの創製に関わる大規模スクリーニングや微量RNAの検出方法として有効なばかりか、これに基づいて高機能RNAアプタマーの創製、あるいは標的RNAの転写検出を定量的におこなうことができる。
本発明の分子モータシステムは、ライフサイエンスやナノテクノロジーの分野等に広く応用できる可能性を秘めたものであり、産業上の利用可能性は極めて高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】本発明のスクリーニングプローブコンジュゲート微小管の概念図
【図1B】本発明の分子モータシステムの具体化の一例
【図1C】検出システムの概念図 (1)シリコンポリマー(PDMS)を用いたデバイス(2)スクリーニングと精製・濃縮の概念図
【図2A】スクリーニングプローブコンジュゲート微小管の蛍光像 上段:微小管に修飾されているオレゴングリーン488の蛍光 下段:微小管上に修飾されているマラカイトグリーンとRNAアプタマー複合体の蛍光
【図2B】スクリーニングプローブコンジュゲート微小管上の蛍光強度の比較
【図2C】スクリーニングプローブコンジュゲート微小管の蛍光像(コントロール) 上段:微小管に修飾されているオレゴングリーン488の蛍光 下段:微小管上に修飾されているマラカイトグリーンとマラカイトグリーン(MG)アプタマー複合体の蛍光
【図3】スクリーニングプローブコンジュゲート微小管のキネシン固定基板上の移動 (1)MG-SA付加前:微小管に修飾されているオレゴングリーン488の蛍光(2)アプタマー付加前:微小管に修飾されているオレゴングリーン488の蛍光(3)アプタマー付加後:微小管上のマラカイトグリーンアプタマー複合体の蛍光
【図4】標的RNAのスクリーニング感度応答(1)精製MGアプタマーに対する感度応答(2)精製混合MGアプタマーに対する感度応答

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合機能性核酸であるRNAアプタマーのスクリーニングプローブとなるRNAアプタマー結合物質が微小管上に結合しているスクリーニングプローブコンジュゲート微小管、キネシンが塗布された基板、緩衝液からなり、導入されたDNA及び転写酵素の混在する転写液中を移動することにより、標的RNAとスクリーニングプローブコンジュゲート微小管とを反応させて微小管上で集約的に結合させたのち、フロー処理にて洗浄作業の後、微小管を一箇所に集めることにより標的RNAを回収精製する分子モータシステム。
【請求項2】
キネシンが塗布された基板上において、進化工学的手法等により作成したDNAプールよりRNAを転写して回路に導く導入部位、標的RNAアプタマーとRNAアプタマー結合物質を微小管と反応させる選別部位、微小管上のRNAアプタマー結合物質が選択的に回収した結合機能を持つRNAアプタマーを再び溶液中に回収する回収部位が、通路で結ばれ、導入と選別、移動と回収および濃縮が緩衝液中で行われることを特徴とする請求項1に記載した分子モータシステム。
【請求項3】
RNAアプタマー結合物質と微小管の結合が、アビジン化RNAアプタマー結合物質とビオチン化微小管若しくは、ビオチン化RNAアプタマー結合物質とアビジン化微小管により行われる請求項1又は請求項2に記載した分子モータシステム。
【請求項4】
結合機能性核酸であるRNAアプタマーのスクリーニングプローブとなるRNAアプタマー結合物質が微小管上に結合しているスクリーニングプローブコンジュゲート微小管、キネシンが塗布された基板、緩衝液からなり、導入されたDNA及び転写酵素の混在する転写液中を移動することにより、標的RNAとスクリーニングプローブコンジュゲート微小管とを反応させて微小管上で集約的に結合させたのち、フロー処理にて洗浄作業の後、微小管を一箇所に集めることにより標的RNAを回収精製する分子モータシステムを用いて、有効な結合機能をもつRNAアプタマーを選別する方法。
【請求項5】
結合機能性核酸であるRNAアプタマーのスクリーニングプローブとなるRNAアプタマー結合物質が微小管上に結合しているスクリーニングプローブコンジュゲート微小管、キネシンが塗布された基板、緩衝液からなり、導入されたDNA及び転写酵素の混在する転写液中を移動することにより、標的RNAとスクリーニングプローブコンジュゲート微小管とを反応させて微小管上で集約的に結合させたのち、フロー処理にて洗浄作業の後、微小管を一箇所に集めることにより標的RNAを回収精製する分子モータシステムを用いて、標的RNAアプタマーを捕捉した微小管を移動させ一カ所に集積することで標的RNAアプタマーを濃縮する方法。
【請求項6】
結合機能性核酸であるRNAアプタマーのスクリーニングプローブとなるRNAアプタマー結合物質が微小管上に結合しているスクリーニングプローブコンジュゲート微小管、キネシンが塗布された基板、緩衝液からなり、導入されたDNA及び転写酵素の混在する転写液中を移動することにより、標的RNAとスクリーニングプローブコンジュゲート微小管とを反応させて微小管上で集約的に結合させたのち、フロー処理にて洗浄作業の後、微小管を一箇所に集めることにより標的RNAを回収精製する分子モータシステムを用いて、洗浄作業の後、過剰の結合物質を投入することにより導入された転写混合液の中から標的RNAアプタマーを選択的に溶液中に回収するRNAアプタマーの精製方法。
【請求項7】
結合機能性核酸であるRNAアプタマーのスクリーニングプローブとなるRNAアプタマー結合物質が微小管上に結合しているスクリーニングプローブコンジュゲート微小管、キネシンが塗布された基板、緩衝液からなり、導入されたDNA及び転写酵素の混在する転写液中を移動することにより、標的RNAとスクリーニングプローブコンジュゲート微小管とを反応させて微小管上で集約的に結合させたのち、フロー処理にて洗浄作業の後、微小管を一箇所に集めることにより標的RNAを回収精製する分子モータシステムを用いて、スクリーニング物質にマラカイトグリーンイソチオシアネートを用い、検出したいRNAのDNA配列上流にマラカイトグリーン結合配列を組み込むことにより、マラカイトグリーンとRNAアプタマー配列部位の結合により発する蛍光観察によりRNA転写の有無の検出を効率的に行う自走式RNA転写検出方法。


【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−288336(P2006−288336A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−116694(P2005−116694)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度文部科学省「産総研ナノバイオ分野人材養成ユニット」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】