分子単電子トランジスタ(MSET)検出デバイス
ドレイン電極84およびソース電極82を接続する少なくとも1つの有機分子87を含む分子単電子トランジスタ(MSET)検出デバイス14を記載する。使用中、前記少なくとも1つの有機分子87は量子閉じ込め領域を形成する。対象の分子(検体)を結合する少なくとも1つの検体レセプタ部位90、92が前記少なくとも1つの有機分子87近傍に設けられる。MSET検出器、前濃縮装置4、および流体ゲート構造体6を備えた流体分析器2も記載する。流体ゲート構造体6は前濃縮装置4から検出器14および排出口12のいずれか一方に選択的に流体を送るように配置される。前濃縮装置4、流体ゲート構造体6および検出器14は各々実質的に平坦な層として形成され、積層体または立方体として配置される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体分析装置に関する。さらに具体的には、本発明は分子単電子トランジスタ検出デバイスを組み込んだ流体(特にガス)分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
気相検体を検出および分析するために種々の技術が知られている。低い分子濃度を検出するのに現在用いられる標準的な技術には一般に、前濃縮技術と共に用いられる質量分析法およびガスクロマトグラフィ法がある。近年では、例えば産業排出物および火山性排出物の現場(in situ)モニタリングを可能にする電池式携帯型システムを生成するドライブもある。しかし、そのような携帯型デバイスは重さ数kgになり、幾分感度が制限されることがある。
【0003】
ガス分析装置の感度を上げるのに用いられてきたいくつかのいわゆる「前濃縮装置(pre−concentrator)」が知られている。前濃縮装置の基本原理は、分析される分子(検体)をガスの流れから収集することである。適切な収集期間の後、適切な検体検出器によって次に分析するために収集した検体がより小さな体積で放出されるように、前濃縮装置は再構成(例えば、加熱)される。
【0004】
前濃縮装置の一例は米国特許第6171378号明細書に、またG.Frye−Masonらによっても論文「Hand−Held Miniature Chemical Analysis System(μChemLab(登録商標))for Detection of Trace Concentrations of Gas Phase Analytes」、Micro Total Analysis Systems 2000、229、3(2000)に記載されている。G.Frye−Masonらの前濃縮装置は、基板上に坦持された吸着材料の薄膜層から成り、熱量が本質的に低く、熱的分離が高いという利点を有する。しかし、このデバイスの著しい欠点は、本質的に平坦な吸着剤層が流体と前濃縮装置との間の相互作用を遅くするので、広い吸着面積は広いダイエリアを要求することである。
【0005】
前濃縮装置の別の例はWei−Cheng Tianらによって、Journal of Microelectromechanical Systems、第12巻第3号、2003年6月の「Microfabricated Preconcentrator−Focuser for a Microscale Gas Chromatograph」と題する論文に記載されている。この前濃縮装置は高アスペクト比のシリコンに深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)によって画定された複数のチャネルを含む。適した粒径の市販の吸着性粒剤(例えば、Carbopack、Carboxen)がチャネル内に設置される。このような構造体は所与の基板サイズのために表面を大きくするが、ガスの流れは依然として床の上を通過することになり、吸着剤の活性表面とのその接触は制限される。さらに、粒剤は単にチャネル内で静止するので、ヒータと緊密に熱接触しない。したがって、Wei−Cheng Tianらのデバイスは吸着性粒剤を加熱するのに相当の電力を必要とし、反応の速度は非常に遅い。
【0006】
ガス分析装置を通るガスの流れを制御するためのいくつかのガスゲートシステムも知られている。特に、前濃縮装置を通るガスの流れは排出口(例えば、検体が前濃縮装置によって収集されているとき)または検出器(例えば、前濃縮装置が吸着された検体を放出するとき)のいずれか一方へと制御自在に導かれなければならない。典型的には、ダイヤフラム構造に基づいた熱空圧式弁を用いて所要のガス流制御機能が提供されてきた。
【0007】
熱空圧式弁の例は、Yangらの「A MEMS Thermopneumatic Silicon Membrane valve」、IEEE The Tenth Annual International Workshop on Micro Electro Mechanical Systems(MEMS‘97)の会報、Nagoya、Japan、1997年1月26〜30日、114〜118頁;Grosjean,C.らの「A practical thermopneumatic valve」、Micro Electro Mechanical Systems 1999年(MEMS‘99)、Twelfth IEEE International Conference、1999年1月17〜21日、147〜152頁;およびJ.S.Fitchらの「Pressure−based mass−flow control using thermopneumatically−actuated microvalves」、Solid−State Sensor and Actuator Workshopの会報、162〜165頁(Transducers Research Foundation、オハイオ州クリーブランド、1998年)に記載されている。
【0008】
先行技術の熱空圧式弁の欠点は、そのようなガス制御弁をそれらの位置の1つに保つための能動作動の要件を含む(例えば、ノーマルオープン弁を閉位置に保持しておくには電力は連続的に印加されなければならない)。このことにより電力消費量が高くなるので、エネルギー収支が高くなる。さらに、そのような弁を通るガスの流れは渦巻き状の経路を辿り、流量範囲はデバイスの基本設計によって制限される。熱空圧式弁は反応速度も制限されており、ヒステリシス効果を被ることになる。
【0009】
前濃縮段階の後、検体はゲートステージを通って適した検出器へと放出され、運ばれる。いくつかの小型の質量分析器が知られている。例えば、J.Diazらの「Sub−miniature double focusing sector field mass spectrometer for in situ volcanic gas monitoring」、Am Soc.of Mass Spectrometry、Sanibel Island、FL、2000年1月、およびJ.J.Tullstallらの「Silicon micromachined mass filter for a low power,low cost quadrupole mass spectrometer」、The Eleventh Annual International Workshop on Micro Electro Mechanical Systemsの会報、1998年(MEMS‘98)、1998年1月25〜29日、438〜442頁を参照されたい。そのような小型の質量分析器は所要の検体分析を行うことができるが、真にサブミニチュアの大きさ(例えば10cm3未満の容積を有する)のシステムはまったく知られていない。質量分析器の動作を提供するために適した真空条件を生成することは、依然として小型化の大きな問題である。
【0010】
まったく関連のない技術分野では、単電子トランジスタ機能はソース電極とドレイン電極との間に位置決めされた有機分子によって提供され得ることも知られている。例えば、Kubatkinらの「Single−electron transistor of a single organic molecule with access to several redox states」、Nature誌、第425巻、2003年10月16日号を参照されたい。Kubatkinらは如何にしてMSETの電気特性を用いてMSETが形成されている有機分子の電気特性の情報を抽出することができるかについて説明している。Kubatkinらが記載したMSETは、−268.95℃(4.2K)に保たれた基板上で金蒸気を圧縮することによって形成されるソース電極およびドレイン電極を含む。このMSET構造体は低温でのみ動作可能である。つまり、室温では金製のソース電極/ドレイン電極構造体はブレークダウンする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は知られているシステムの上記欠点の少なくともいくつかを軽減する改善された検出デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様によれば、分子単電子トランジスタ(MSET)検出デバイスはドレイン電極およびソース電極に取り付けられた少なくとも1つの有機分子を含み、前記少なくとも1つの有機分子は使用中、量子閉じ込め領域(いわゆる、量子ドット)を提供し、少なくとも1つの検体レセプタ部位が前記少なくとも1つの有機分子の近傍に提供されることを特徴とする。
【0013】
このように、本発明はドレイン電極とソース電極との間に位置決めされた少なくとも1つの有機分子を有する分子単電子トランジスタを提供する。少なくとも1つの検体レセプタ部位が対象の分子(検体)を捕捉するために付加的にはMSETの少なくとも1つの有機分子近傍に設けられる。以下に記載のように、MSETの少なくとも1つの有機分子は少なくとも1つの検体レセプタ部位を担持する側基(side group)を含んでよく、かつ/または、検体レセプタ部位はMSETの少なくとも1つの有機分子に隣り合って位置決めされるが、その少なくとも1つの有機分子には実際には取り付けられていない付加的な分子の一部として提供されてよい。
【0014】
本発明のMSET検出器の電気特性(例えば、ソース−ドレイン電圧の関数としてのデバイスの導電率)は、少なくとも1つの有機分子の電気特性に、また少なくとも1つの有機分子が位置する局在的な電気的環境にも大きく依存する。したがって、MSETの電気特性の検出可能な変化は、検体が少なくとも1つの検体レセプタ部位によって保持されるときに発生する。さらに、MSETの電気特性の分析によって検体の存在または不存在を決定することができるだけでなく、捕捉した検体の電気特性の情報も提供することができ、これによって異なるタイプの検体を識別することができることがわかっている。したがって、本発明の検出器は非常に高い感度を有しており、対象の単分子(検体)を検出することが可能となるほか、捕捉した検体を識別することさえも可能になる。
【0015】
分子単電子トランジスタはKubatkinら(前掲)によって既に記載されているが、先に報告されている極低温動作の要件がそのようなデバイスを化学的検出のためには不適切なものにしている。本発明の分子SET(MSET)はまた、知られている質量分析器ベースの検体検出システムに比べて著しく小型のデバイスを提供する。
【0016】
少なくとも1つの有機分子は少なくとも1つの検体レセプタ部位を含むことが有利である。例えば、MSETの少なくとも1つの有機分子は少なくとも1つの検体レセプタ部位を提供する側基を有してもよい。すなわち、MSETの少なくとも1つの有機分子は対象の分子を結合する特異的官能基(検体レセプタ部位)を特徴とし、これによってMSET伝導性の観察可能な変化が得られる。別の場合、または付加的には、検体レセプタ部位は少なくとも1つの分子に隣り合って位置決めされてもよいが、その分子には取り付けられることはできない。例えば、検体レセプタ部位は単電子トランジスタが形成されている基板に固定された分子によって担持されてもよい。
【0017】
少なくとも1つの有機分子は第1および第2の末端を有する細長い共役有機分子(すなわち、共役有機棒状分子)であることが好ましい。細長い共役有機分子の第1の末端はソース電極に取り付けられ、かつその分子の第2の末端はドレイン電極に取り付けられるのが便宜的である。有機分子、例えば、共役有機棒状分子の自己集合単分子層は便宜的にはソース電極とドレイン電極との間に位置決めされてよく、これによってソース電極およびドレイン電極が接続される。有機単分子がソース電極およびドレイン電極に取り付けられるのが好ましい。
【0018】
少なくとも1つの有機分子がトンネル障壁を介してソース電極およびドレイン電極に取り付けられるのが有利である。トンネル障壁は便宜的には前記少なくとも1つの有機分子の電気的に絶縁性の領域(例えば、絶縁性の末端鎖)によって提供することができ、かつ/またはソース電極およびドレイン電極は、所要のトンネル障壁を形成する絶縁性材料を担持することができる。本デバイスはゲート電極をさらに備えることが好ましい。
【0019】
第1の材料の層がソース電極を提供し、第2の材料の層がドレイン電極を提供し、前記第1および第2の層が実質的に絶縁性材料の第3の層を挟み込み、かつその第3の層により離間されるのが有利である。
【0020】
実質的に絶縁性材料の第3の層に凹部を設けて、少なくとも1つの有機分子が位置決めされる領域をソース電極とドレイン電極との間に提供することが有利である。すなわち、第1の層と第2の層との間に自由空隙を画定するように何らかの方法で、材料の第3の層をパタン化、エッチング、付着等させる。ソース電極とドレイン電極との間の空隙は、実質的に絶縁性材料の第3の層の厚さに実質的に等しい。この空隙を形成後、少なくとも1つの有機分子はソース電極とドレイン電極との間の空隙内に位置決めされ、これによってMSETデバイスが形成される。
【0021】
このようにして、ソース電極およびドレイン電極を離間させる信頼できる手段が提供される。このような技術を用いれば、正確かつ一貫して数ナノメートルだけ離間されたソース電極およびドレイン電極を提供することができ、これによって所望の間隔を有する電極セットを形成することに伴う複雑さが低減される。さらに、そのような電極構造体は室温で上手く動作して、経時的に著しく劣化しない。
【0022】
実質的に絶縁性材料の第3の層の厚さは少なくとも1つの有機分子の長さに実質的に等しいことが好ましい。したがって、ソース電極とドレイン電極との間の間隔を、MSETの少なくとも1つの有機分子の長さに正確に適合させることができる。
【0023】
第1および第2の材料の少なくとも一方は半導体材料を含むことが便宜的である。すなわち、ソース電極および/またはドレイン電極は便宜的にはシリコンなどの半導体材料から形成されてよい。この半導体材料を必要に応じて「n」型または「p」型ドーパントでドープして、ソース電極およびドレイン電極を形成するのに必要な導電率を提供することもできる。このタイプの半導体ソース電極およびドレイン電極を形成することによって、室温でMSETが動作することが可能となる。これは有機分子と接触する金電極が約−123.15℃(約150K)を超える温度で分解するKubatkinらによって記載されたタイプ(前掲)の先行技術のデバイスとは対照的なものであるに違いない。
【0024】
この半導体材料はシリコンからなるのが有利である。少なくとも1つの有機分子はシリコンに結合する末端鎖を含むことが好ましい。
【0025】
材料の第1の層はシリコンウェハからなり、第2の材料の層はポリシリコンからなり、かつ実質的に絶縁性材料の第3の層は酸化シリコンからなることが好ましい。ゲート電極を有する検出器では、ウェハがポリシリコンの層を担持してゲート電極を形成し、第4の層が酸化シリコンの層によってシリコンウェハから分離されることも便宜的である。シリコンウェハからゲート電極を離間させるのに用いられる酸化シリコンの層を、シリコンウェハからドレイン電極を離間させる酸化シリコンの堆積(deposition)と同時に堆積できることも理解されよう。同じく、ゲート電極およびドレイン電極を形成するポリシリコン層を同じ製造段階で堆積することもできる。
【0026】
本発明のMSETデバイスの製造の際に、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)プロセス(例えば、標準的な0.35μmのCMOSプロセス)が使用されることが好ましい。このようなプロセスによって、MSETに適した幾何学形状がゲート酸化物ギャップの形態で得られる。高濃度ドープしたシリコンコンタクトを用いることによって、少なくとも1つの分子との電気的接触を成すことができる。ソースコンタクト−ドレインコンタクト間の間隔(すなわち、少なくとも1つの有機分子が取り付けられる間隔)を単分子層の精度にまで容易に制御することもできる。製造されると、少なくとも1つの有機分子はソース電極およびドレイン電極に取り付けられる。
【0027】
このようにして、本発明によって標準的なCMOSプロセス技術を用いてMSETを形成することが可能となる。同プロセスにおいて、関連する制御および/または増幅回路を製造することもできる。したがって、MSETのピコアンペア規模の電流のオンチッププロセスを用いて集積検出デバイスを備えたシングルチップを提供することができる。これによって、例えば金粒子の付着を用いた手作業によるプロセスに比べて、製造プロセスの良好な再現性が確実に得られる。分子自己集合(self−assembly)プロセスと組み合わせると、同一の特徴を有する複数のMSETの配列を製造でき、それにより、例えば組込み冗長性を提供することができる。
【0028】
このデバイスは、MSETの導電率(すなわち、少なくとも1つの有機分子の導電率)をソース−ドレイン電圧に応じて測定する手段を備えてよいことも有利である。別の場合、または付加的には、このデバイスはMSETの導電率をゲート電圧に応じて測定する手段を備えてもよい。このようにして、ゲート電圧およびソース−ドレイン電圧の関数としての導電率マップを生成することができる。このようなマップの特性は、エネルギースペクトルにおけるいわゆる「量子化空隙」を強調する。つまり、この特性はクローンブロッケイド効果を増強するだけでなく、取り付けられた分子の特性に依存する伝導中の共鳴も生じさせる。このようなマップを提供することによって、検体の分子を識別することが可能となる。
【0029】
本デバイスは少なくとも1つの有機分子の伝導性を(例えば、ソース−ドレイン電圧および/またはゲート電圧の関数として)測定する集積電子回路をさらに備えてよいことも便宜的である。CMOSプロセスを用いて本デバイスを形成する場合、電子回路はソース電極およびドレイン電極を形成するプロセスステップ中に形成できる。
【0030】
本発明の第2の態様によれば、流体分析器は上記タイプのMSETデバイスを備える。このように、流体(例えば、液体またはガス)に存在する検体の非常に効率的な検出器が提供される。
【0031】
分析器は流体から検体を放出自在に保持する前濃縮装置をさらに備えることが好ましい。前濃縮装置は流体が通過することのできる複数の開口部を有する材料の層を含むことが有利であり、前記開口部の内面は流体から検体を放出自在に保持するように構成されている。開口部を形成する材料の内面を有利には(例えば、コーティングを塗布するかまたは表面処理によって)流体から分子を放出自在に保持する(例えば、可逆的に吸着する)ように構成することもできる。すなわち、開口部の内面は流体から検体を吸収し、かつ例えば加熱されるとその検体を放出するように配置されている。
【0032】
前濃縮装置の開口部の内面は吸着性材料で被覆されることが便宜的である。別の場合には、開口部の表面を改変して所要の吸着性を提供することもできる。多数の表面化学反応を発生させて、例えば、適した材料を蒸着するか、または標準的な技術によって適した有機官能基を表面に加えることによって、所要の構造を提供することができる。例えば、水を拒絶しいくらかの選択的吸着性を提供する疎水性の表面に短鎖ポリシロキサン分子を移植することもできる。
【0033】
前濃縮装置の開口部を画定する内面を多孔化して(porosify)前濃縮装置の有効表面積を増大することが便宜的である。別の場合または付加的には、高容量のトラッピング基質を薄膜形態(例えば、ゾルゲル法を用い、薄膜ポリジメチルシロキサン、すなわちPDMSを直接塗布することによる多孔性の二酸化シリコン膜)で直接塗布することによって、前濃縮装置の表面積を増大させる。
【0034】
基板はシリコン層を含み、前記開口部はこのシリコン層を貫通して形成されることが有利である。製造が簡単で、材料を容易に多孔化できるので、シリコンを用いて前濃縮装置層を形成することが好ましい。また、有機官能基を添加することによってシリコンの表面化学およびその酸化物を改質させる種々の技術が当該分野ではよく知られている。しかし、当業者であれば、別の材料、例えば二酸化シリコン、ガラスまたはポリマー/プラスチックなどの材料の層を使用してもよいことが理解できよう。
【0035】
前濃縮装置の材料の層は、有利にはハニカム構造体を形成するように配置された開口部の規則的なアレイを備えていることも便宜的である。
【0036】
米国特許第6171378号明細書に記載したタイプの先行技術の前濃縮装置上ではなく、このようなハニカム構造体の開口部に流体を通すことによって、さらに広い表面積を検体を担持する流体に接触させることができる。シリコンの場合、多孔層を形成すれば未処理の平坦なシリコンウェハに比べて最高100倍だけ有効表面積を増大させることができることがわかっている。この改善は垂直のハニカム構造体を形成することによって使用可能な改善を10倍大きくするので、全体的な吸着増強は最大で約1000倍になる。したがって、より小型の前濃縮装置を提供することができる。
【0037】
深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)によって材料の層に開口部を形成することが便宜的である。DRIEはシリコンなどの半導体材料のウェハに開口部を形成する便利な手段を提供する。例えば、DRIEを用いて直径30μmおよび長さ数百μmの狭い開口部を形成することができる。このような開口部によって、流体は前濃縮装置表面と確実に効率的な相互作用を行える。そのような技術を用いれば、直径5〜100μmおよび長さ50〜1000μmの開口部の大きさを容易に形成することができる。
【0038】
さらに、前記材料の層は便宜的には加熱素子などのヒータを備えてもよい。ヒータは層に伝導性領域を形成することによって(例えば、半導体をドープすることによって)設けることができる。一体化したヒータを設けることによって、開口部の内面を急速に加熱して捕捉した検体を放出することが可能となる。別の場合には、導電性トラック(例えば、金属ライン)を層の上または中に形成してもよい。個別の加熱素子を層に取り付けてもよい。材料の第1の層の温度を監視できるように、熱センサ(例えば、プラチナトラック)を材料の層内に組み込んでもよい。
【0039】
加熱された材料の層は、前濃縮装置とその下側の基板(例えば、ガスゲートチップ)との間に熱絶縁層(例えば、ガラス界面)を含むことによって、次のデバイス層およびパッケージから分離されるのが好ましい。このような材料装置は熱伝導性が低いので、速い反応時間が達成される。
【0040】
このタイプの前濃縮装置は有利には本発明の分析器の一部として用いることができるが、そのような前濃縮装置は種々の別のデバイスにおいて構成要素として用いることもできる。すなわち、流体から検体を放出自在に保持するのに前濃縮装置を用いることができ、この場合、前濃縮装置は流体が通過することのできる複数の開口部を有する材料の層を含み、前記開口部の内面は流体から検体を放出自在に保持するように構成されている。
【0041】
分析器は前濃縮装置からMSETデバイスへの流体の流れを制御する流体ゲート構造体をさらに含み得ることが有利である。流体ゲート構造体は前濃縮装置からMSETデバイスまたは排出口のいずれか一方に流体を選択的に送るように配置されていることが便宜的である。これによって分析中の流体を、流体から検体を放出自在に保持する前濃縮装置の中/上を通過させ、排出口に送ることが可能となる。適した期間の後、前濃縮装置は捕捉した検体を放出するように調整されることができ、次に、流体ゲート構造体は放出された検体を含んだ流体をMSET検出器に送るように再構成されることができる。このように、MSETの上を通過した流体はより大きな密度の検体を含むことになるので、検出感度は増大する。
【0042】
流体ゲート構造体は実質的に平坦な基板と前記基板の面内で可動であるシャッタとを備えていることが有利である。このシャッタの面内運動を用いて、例えば、出口の入口開口部を覆うことによって、流路は出口に制限される。基板の面内で動くシャッタを設けることによって、先行技術の熱空圧式デバイスのいくつかの欠点は克服される。例えば、MEMSタイプのシャッタは熱空圧式弁に関する文献で報告されている熱ヒステリシス効果を受けることなく、開位置と閉位置との間でより高速で動くことができる。さらに、MEMSシャッタおよびそれに関連する作動機構を(例えば、シリコンウェハ上で)基板の単一の層から形成することができる。したがって、このような装置は上記の種々の先行技術の弁よりも著しく小型にすることができる。
【0043】
流体は、流体ゲート構造体の実質的に平坦な基板の面に対して実質的に垂直な長軸を有するチャネルに沿って流体ゲート構造体からMSETデバイスへ送られるのが便宜的である。したがって、流体ゲート構造体に入る流体は直交方向からシャッタに衝突する。同じく、出口を介してデバイスを出る流体は同方向に沿って通過するように配置され得る。このような構成では、流路に向かって、または流路から外れて動かされるときにシャッタは入ってくる流体の力に逆らって動く必要はない。したがって、開位置および閉位置間を動くとき、シャッタに関連する起動手段が用いる力はより小さくてよい。ある構成では、流体圧は、シャッタが懸架されているところからシャッタを基板と接触させるであろうことが理解できよう。このような場合には、シャッタを動かすときに流体圧を下げる必要があるかもしれない。
【0044】
シャッタは有利にはそれが流体ゲート構造体からMSETデバイスまでのチャネルへの入口と噛み合い、かつそれを密封するような形状であってよい。このように、シャッタに入ってくる流体の圧力を実際に用いて密封を向上させることができる。例えば、円形のシャッタをそれに対応するチャネルへの円形の入口と共に設けることもできる。使用中、シャッタは閉位置に動くことができるので、チャネルへの入口を覆うことができる。次に、流体圧が加えられることによって、シャッタを出口としっかりと噛み合わせ、それを密封することができる。さらに、隆起状の環状の密封リング部分を出口の周縁部に設けることもできる。シャッタがそのような密封リングと噛み合うことによって、流体密封の品質をさらに向上させることができる。
【0045】
シャッタは開位置または閉位置のいずれか一方を採用するように配置されてもよく、開位置は流体をMSET検出デバイスまで送ることを可能にし、閉位置は流体がMSETデバイスまで送られないようにする。さらに、シャッタは便宜的には電力を印加しなくても、流体が前濃縮装置からMSETデバイスまで送られる開位置または流体が前濃縮装置から排出口まで送られる閉位置に保持されてよい。
【0046】
上記のように、シャッタが閉位置にあるとき、受け取られる流体は排出口まで導かれる。さらに、シャッタが開位置にあるとき、流体は有利には排出口へと流れないようにすることができる。例えば、デバイスのシャッタが開位置にあるときに排出口の開口部を塞ぐようにシャッタ、すなわち可動部材の別の部分を配置することができる。
【0047】
シャッタが開位置のときにデバイスの流路が最小になることが便宜的である。これによって気相に含まれた検体が流体ゲート構造体の部分に付着する可能性が抑えられる。さらに、開位置にあるときのデバイスのデッドスペース(すなわち、流体が流れこむことができるデバイス内の空間であるが、流路の一部は含んでいない)が最小化されるのが有利である。また、これによって検体の損失が阻止される。当業者であれば、密封アームを設けてそのような機能を実行できることが理解できよう。不揮発性気相の流体を分析する場合、デバイスを適した温度まで加熱して、凝縮を低減または阻止することもできる。
【0048】
所要の流量制御を行うために、シャッタは複数の中間位置のいずれか1つに保持されてもよい。例えば、必要に応じて排出口およびMSET検出器へと至る流体の相対比率を制御することができる。さらに、クランプまたはラッチを設けてシャッタをそのような開位置、閉位置、または中間位置に保持してもよい。このような装置によって、そのような状態の1つに保持するために連続的に力を加える必要があった上記の先行技術の熱空圧式弁に比べて著しい利点が提供される。
【0049】
シャッタは微小電気機械(MEMS)シャッタであるのが有利である。可動部材はMEMSシャッタに運動を付与するためのMEMS電熱作動機構を含むことが便宜的である。さらに、この可動部材はMEMSに順応する変位機構を含むことが好ましい。次に、作動機構によって生成される運動の大きさを増幅して、得られるシャッタの移動量を増大させることができる。本明細書では、MEMSはマイクロ加工された要素、マイクロシステム技術、マイクロロボティック、およびマイクロ工学等を含むようにされる。
【0050】
平坦な基板はシリコンからなることが便宜的である。例えば、シリコンオンインシュレータ(SOI)ウェハ等を使用してもよい。デバイスは深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)プロセスを用いて作成されることが有利である。
【0051】
本発明はどのような流体(例えば、液体または気体)上でも動作することができるが、気体ベースの用途では流体ゲート構造体を用いることが好ましく、これによって気体流制御器が提供される。液体が使用される場合、当業者であれば液体が、デバイスの動作に(例えば、デバイスの電熱作動機構等からの熱移動による)悪影響を及ぼさないようにするのに用いることのできる種々の密封技術が理解できよう。
【0052】
したがって、本明細書に記載の流体ゲート構造体は、MSET検出器への受け取られた流体の流れを制御する。このようなガスゲート構造体は本発明の分析器に使用されるのに特に適しているが、多数の別の用途においては流体ゲート構造体は有利には流体制御デバイスとして用いられてもよいことに留意されたい。すなわち、第1の出口および可動部材を備えた流体デバイスを設けてもよく、前記可動部材は第1の出口への受け取られた流体の流れを制御し、この場合本デバイスは実質的に平坦な基板から形成され、可動部材は基板の平面内で可動であるシャッタを備える。このようなデバイスは、前記第1の出口へと流れるのが前記可動部材によって妨げられる流体を受け取るための排出口をさらに備えてもよい。このようなデバイスでは、第1の出口への流体の流れは上記MSETデバイスへの流体の流れと類似したものであろう。
【0053】
したがって、本発明は小型のハイブリッド積層体すなわち「立方体」の形態で流体分析器を提供する。例えば、前濃縮装置層と検出器層との間に挟み込まれた流体ゲート構造体を備えた垂直の3層積層体を提供することができる。使用中、流体が前濃縮装置を通され、流体ゲートデバイスを介して排出口へと導かれる取得モードが最初に用いられる。取得モードでは、前濃縮装置は検体を吸着するように準備されており、前濃縮装置を流れる流体(例えば、空気)は高速であるのが望ましい。所定の期間の後、デバイスは検出モードに切り換えられる。検出モードでは、前濃縮装置は(例えば、吸着性材料を加熱することによって)捕捉した検体を放出し、この検体は流体ゲートデバイスを介してMSET検出器へと導かれて分析に供される。検出モードでは、流体の流れは低速であるのが好ましく、有利には不活性のキャリア流体(例えば、アルゴンガス)がデバイスに通されてよい。
【0054】
平坦層に各分析器機能(すなわち、前濃縮、流体ゲート、および検出)を提供することによって、上記タイプの先行技術のデバイスに比べて、デバイスの容積を著しく縮小することができる。さらに、各層間の流路は先行技術のデバイスの隣接する構成要素間の流路よりも著しく小さくなるので、デバイスの感度が上昇することになる。
【0055】
そのような小型の立方体装置は上記のMSET検出器、前濃縮装置、および流体ゲート構造体を用いて実施されるのが好ましいが、別の構成要素(例えば、非MSETベースの検出器)を用いて、そのようなデバイスを形成することも可能であることに留意されたい。すなわち、前濃縮装置、流体ゲートデバイス、および検出器を備えた流体分析器を提供することができ、該流体ゲートデバイスは前濃縮装置から検出器または排出口のいずれか一方に流体を選択的に送るように配置され、ここでは前濃縮装置、流体ゲートデバイス、および検出器は実質的に平坦な層として各々形成され、積層体として配置される。
【0056】
この流体分析器は前濃縮装置および流体ゲートデバイスを介して流体を送るためのポンプをさらに備えることが有利である。ポンプは必要に応じて流体圧を低減または増大できるように可変電源を有してもよい。例えば、分析器が取得モードで動作しているときには、検出モードに比べてより高い圧力が必要になろう。また、流体ゲートデバイスが流体の流れを検出器から排出口へと、あるいは排出口から検出器へと切り換えるとき、流体圧(故に、シャッタまたは弁装置が動作するはずである力)を低減させることが有利であろう。
【0057】
電源を設けることも便宜的である。例えば、バッテリまたは他の電池である。電源は分析器と一体形成されることが好ましい。
【0058】
本発明の第3の態様によれば、化学的検出方法は、(a)ドレイン電極およびソース電極に取り付けられた、使用中に量子閉じ込め領域を提供する少なくとも1つの有機分子を含んだ分子単電子トランジスタを取得する工程と、(b)検体を受け取るための、前記少なくとも1つの有機分子近傍に少なくとも1つの検体レセプタ部位を提供する工程とを含む。この方法は(c)前記分子単電子トランジスタの電気特性を測定して検体の存在または不存在を決定する工程をさらに含むことが好ましい。この方法は少なくとも1つの検体レセプタ部位の上を流体を通過させる工程をさらに含むことが便宜的である。
【0059】
本発明の第4の態様によれば、分子単電子トランジスタデバイス用のキャリアは、キャリアがソース電極を提供する材料の第1の層と、ドレイン電極を提供する材料の第2の層とを含むことを特徴とし、前記材料の第1および第2の層は、実質的に絶縁性材料の第3の層を挟み込み、かつ、該第3の層により離間されている。
【0060】
キャリアは少なくとも1つの有機分子がドレイン電極およびソース電極に取り付けられるように配置されるのが好ましい。ソース電極およびドレイン電極は少なくとも1つの有機分子の長さに実質的に等しい距離だけ離間されることが有利である。
【0061】
したがって、使用中、量子閉じ込め領域を提供するように配置される少なくとも1つの有機分子がキャリアの前記ソース電極およびドレイン電極に取り付けられるときに、前記キャリアによって、分子単電子トランジスタ(MSET)検出デバイスを提供することができる。すなわち、ドレイン電極およびソース電極に取り付けられた、使用中に量子閉じ込め領域を提供する少なくとも1つの有機分子を含んだ、分子単電子トランジスタデバイスが提供され、材料の第1の層はソース電極を提供し、かつ材料の第2の層はドレイン電極を提供することを特徴とし、前記第1および第2の材料の層は実質的に絶縁性材料の第3の層を挟み込むと共に、該第3の層により離間されている。
【0062】
このようにして、棒状の有機分子の各末端がそこに取り付けられるように構成されたソース電極およびドレイン電極が離間して保持された、CMOSベースの単電子トランジスタを提供することができる。そのような構造体に適した分子を取り付けることによって、上記タイプのMSET検出器を容易に製造することができる。
【0063】
本発明の第5の態様によれば、分子単電子トランジスタ(MSET)検出デバイスは、ドレイン電極およびソース電極に取り付けられた、使用中に量子閉じ込め領域を提供する少なくとも1つの有機分子を含み、前記ソース電極および前記ドレイン電極のうちの少なくとも一方は半導体材料を含むか、または半導体材料から成ることを特徴とする。この半導体材料は高濃度ドープされることが好ましい。このような半導体材料から形成されたソース電極およびドレイン電極は室温で安定している。これは−123.15℃(150K)を超える温度で分解する、Kubatkinらによって記載されたMSETの金製のソース電極およびドレイン電極(前掲)とは対照的である。
【0064】
本発明の第6の態様によれば、分子単電子トランジスタを形成する方法は、(i)ソース電極およびドレイン電極を形成する工程と、(ii)前記ソース電極とドレイン電極との間に有機分子を位置決めする工程とを含み、ソース電極およびドレイン電極は相補型金属酸化膜(CMOS)プロセスを用いて形成されることを特徴とする。CMOSプロセスは確立されたものであるので、上記のようにMSETデバイスを容易かつ再現可能に製造することが可能となる。
【0065】
ここで単に例示であるが以下の図面を参照して本発明を説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0066】
図1a、図1bを参照すると、本発明のガス分析器2が示されている。分析器2は多層ハイブリッド構造体、すなわちMEMS立方体として形成されており、前濃縮装置層4、ゲート層6、および検出器層8を含んでいる。
【0067】
前濃縮装置4はハニカム状のシリコンウェハから成り、前濃縮機能を実行する。ハニカム層のウェハ貫通バイアの内面は対象の分子用のトラッピング層で被覆され、低熱量構造体は一体になった抵抗加熱要素によって加熱される。ゲート層6は排出口12または検出器層8のいずれかまでガスを導く電熱作動式MEMSシャッタ10を備える。
【0068】
検出器層8はシリコン−ASICチップ上に集積された分子単電子トランジスタ(MSET)検出器14を含む。このMSET検出器は共役有機ロッドを含んで量子ドット領域を形成する。これはトンネル障壁を介してシリコン電極に連結され、これによってドット領域において量子閉じ込めを生じさせる。検出の際には、対象の分子が有機量子ドットに取り付けられた適切な受容体に結合する。ちょうど単分子が受容体に結合することで、デバイスの伝導性に測定可能な変動が室温で生じるはずである。
【0069】
使用中、本装置は図1aに示した分子収集装置を最初に採用する。この構成では、対象のガスは前濃縮装置4を通されて、排出口12の外へ導かれる。対象の分子があれば前濃縮装置4のトラッピング層に結合する。
【0070】
特定のサンプリング期間の後、MEMSシャッタ10は分析器が図1bに示した配置を取るように動かされる。次に、前濃縮装置4のヒータを用いてトラッピング層が加熱され、対象となる分子がある場合にはそこから放出される。次に、これらの放出された分子はゲート層6を介して検出器層8へと導かれ、そこでそれら分子はMSET検出器14によって検出される。
【0071】
積層体を形成する個々の層の各々は相互に対して位置合わせされることが必要であることに留意されたい。前濃縮装置チップおよびガスゲートチップは、熱処理に耐性があるので、従来のボンディング技術を利用することができる。(感熱性)電子機器を含んだ検出器チップおよびMSETは低温のポリマーベースのボンディング技術を用いて結合される。一回の測定につき一層あたりシステムの統合されたエネルギー消費量は、前濃縮では100mJ未満、ガスゲート構造体では100mJ未満、検出回路では350mJ未満となることが推定される。このため、一回の測定で推定される総エネルギーは、デバイスに試料を流すのに必要なエネルギーを除外して1J未満である。
【0072】
本発明の分析器は先行技術のシステムに比べていくつかの利点を提供する。例えば、分析器を約2cm3の大きさになるように製造することができるので、先行技術のデバイスよりも相当小型になる。しかし、大きさが小さくても、知られている質量分析システムに比べて、本デバイスは特定の分子種を検出するために最高100倍まで感度を増大することができる。この固有の設計の立方体は蒸気のデッドスペースを縮小することもでき、より信頼できる検出をして読取りの誤りを少なくするために、検出器感度を増強することになる。さらに、本MEMS構成要素は機械的に非常に強固である。
【0073】
本ガス分析器を形成する種々の層の詳細な説明を以下に提供する。記載の前濃縮装置、ゲート構造体、およびMSETの組合せは上記利点を有する分析器を提供するが、当業者であればこれら構成要素のいずれか1つまたは複数を有利にはガス分析システムに用いてもよいことを認識するであろう。
【0074】
前濃縮装置
図2を参照すると、本発明の前濃縮装置20が示されている。この前濃縮装置はガラスキャリア24上で支持されたハニカム領域22を含む。上記タイプのガス分析器に関し、ハニカム領域は典型的には0.5mm2である。しかし、当業者であれば、領域22の大きさおよび/または形状は特定の用途に対して必要に応じて選択することができることが理解されよう。
【0075】
ハニカム領域22はシリコンから形成され、高アスペクト比のDRIE(深掘り反応性イオンエッチング)を用いてパタン化される。このプロセス技術によって、低熱量(thermal mass)で、表面積が数mm2、かつ流れ特性が良好な起伏のあるハニカム型構造体を実現することができる。このような技術を用いて、ピッチが40μmおよび直径が20μmの穴を容易に形成することができる。図3はシリコンウェハ30に形成されたそのような穴(すなわちバイア)32の顕微鏡写真である。例えば、ステインエッチングまたは陽極酸化を用いてバイア32の内面を多孔化して、試料の蒸気と接触する表面積を増大することもできる。図4はそのような高表面積の多孔化された材料の一例を示している。多孔化すれば約100倍だけ表面積が大きくなって、表面に適した吸着性の表面化学を生成することもできる。
【0076】
穴32は種々の適した化学層で裏打ちすることができるか、または所与の表面処理(例えば、自己集合単分子層)を適用することもできる。穴に適用することのできる種々の裏打ちまたは処理、例えば、安定した疎水性または親水性コーティングを準備して、対象とする特定の分子のみを選択的に取り込むこともできる。当業者であれば、種々の用途のために分子を取り込むのに使用することのできる様々な層/処理を知っているであろう。
【0077】
図2に示したデバイスでは、導電性のp型シリコンを用いてハニカム領域22が形成される。これによってハニカムのシリコン構造体は抵抗ヒータを形成することが可能となるので、金属製のヒータトラックの要件がなくなる。この装置は正確な温度制御も行うので、脱着の選択性が大きくなる。別の場合または付加的には、ポリシリコン層またはプラチナ層を構造体に含めて、抵抗ヒータまたは集積温度センサを形成することもできる。これらの層はウェハの上面に形成されてよいか、かつ/または垂直な穴に組み込まれてよい。このハニカム構造体は種々の別の材料、例えば、他の半導体材料またはマイクロ成形されたプラスチックに形成されてもよいことに留意されたい。
【0078】
決して不可欠なものではないが、ハニカム領域22はガラスキャリア24の上に設置されてもよい。ガラスキャリア24を(例えば、トレンチ26と共に)パタン化して、前濃縮装置からの熱損を抑えると共に、デバイスの平面を通って下側の基板と流体連通させることもできる。ガラスキャリアと比べてシリコンの熱伝導率は高いので、前濃縮装置の活性面積にわたって加熱の均一性を確実に高くすることができる。当然、前濃縮装置の正確な構造体は所与の用途に対して熱的性能が最高になるように最適化することができる。
【0079】
図5は1セットの伝導に関する図2に示したタイプの前濃縮装置構造体の予測した温度断面を示している。また、表1は上記タイプの前濃縮装置の熱特性をまとめたものである。
【表1】
【0080】
電力収支、熱応答時間、および活性面積間での最適な調和を達成するために、前濃縮装置構造体の厚さおよび設置面積を容易に調整することができる。例えば、ハニカム設置面積を1mm2まで拡大すれば、(未処理の)吸収材面積は約10mm2になる。印加する電力を0.5Wに上げれば、−73.15℃(200K)までの上昇時間は約120msになり、エネルギー要件は約0.06Jになる。
【0081】
このように、本発明の前濃縮装置の垂直構造によって、最小のデッドボリュームで、ガス分析器デバイス内に小型で実際的な組み込みが可能となる。
【0082】
ガスゲート構造体
図1aおよび図1bを参照して上に記載したように、ガスゲート構造体は異なる2つの経路のいずれか1つに沿ってガスを導くことのできる物理的な弁を含むように構成される。第1の経路はガス検出器を回避しながらデバイスにガスが高速で流れるようにし、第2の経路は前濃縮装置からのガス流の向きを検出器チップへと変える。第2の経路は前濃縮装置からの前濃縮された薬剤の制御された放出と一致するように選択される。
【0083】
図6aおよび図6bを参照すると、基板ポート64、排出口66、および可動MEMSシャッタ60を組み込んだガスゲート構成が示されている。MEMSシャッタ60は電機子62上に支持されている。この電機子は順応性の変位マルチプライヤ(図示せず)に取り付けられ、このマルチプライヤは電熱ベントビームアクチュエータ(図示せず)に取り付けられている。ベントビームアクチュエータは電機子62を変位かつ回転させる従順な構造体に変位を加える。これによってシャッタ60は図6aの第1の位置と図6bの第2の位置との間で動くことができる。
【0084】
前濃縮装置からのガスは表面の平面に対して垂直方向に、かつ基板ポート64の軸に一致する軸に沿ってガスゲート装置に入る。図6aに示した第1の位置では、基板ポート64は閉じられており、ガスは第1の経路に沿って通過し、排出口66を介してガスゲート装置を出る。図6bに示した第2の位置では、排出口66は閉じられており、ガスは第2の経路に沿って通過し、基板ポート64を介してガスゲート装置を出る。
【0085】
密封アーム68およびこれに対応する基板内の凹部70も設けられている。この密封アームは、シャッタが図6bの第2の位置にあるときに、MEMSの電機子およびアクチュエータが形成されている基板の中空領域内にガス流を妨げることによって流路内の「デッドスペース」の量が最小になるように配置されている。これによって対象となる最大数の分子が確実に検出器を通される。
【0086】
ガスゲート構造体は「ウェハ貫通」シリコンチャネルの深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)を用いて製造され、DRIEステップを用いて、微細加工されたMEMSシリコンシャッタ(弁)システムがSOI基板上に形成される。
【0087】
図6aおよび図6bに示したMEMSシャッタ装置は約0.5mmの投入動作で容易に設けることができる。また、MEMSシャッタ60は数ミリ秒以内に開閉することができるので、前濃縮装置からセンサに流れるガスが最大数の対象の分子および最少量の干渉物を確実に含むようになる。開位置では、放出された対象の分子はセンサへの視野方向アクセスを有する。これは、上記の先行技術のMEMSベースの弁を通る曲がりくねった経路とは対照的である。
【0088】
また、本発明のMEMSシャッタ装置の電力消費量は1ワット未満である。さらに、必要に応じて電熱ホールドラッチを用いてシャッタを開位置に固定すれば、平均的な電力消費量は最小化され、デバイスはエネルギー収支が低いシステムで使用するのに適した候補となる。シャッタを開けてラッチするのに要するエネルギーは約0.05Jであり、シャッタを適所に保持するのに必要な電力はゼロである。電熱アクチュエータを形成する材料のドーパント濃度を選択することによって、動作電圧を調整することができる。
【0089】
流体系にMEMSシャッタ装置を使用すれば、流量範囲を非常に大きくすることができる。これによって、先行技術のダイヤフラム弁システムに比べて開位置および閉位置の両方でより高速の流体の流れが可能となる。シャッタが閉位置にある場合(すなわち、ガスが排出口へ導かれる)、空気は閉じられたシャッタ領域の上の凹部を通ってシャッタの周りを比較的高圧で辿るであろう。シャッタの上へと流れる空気がシャッタを強制的に閉じさせやすくなり、密封を維持する。シャッタが開位置にあるとき(すなわち、ガスが基板ポートへと導かれる)、シャッタは凹部を通る経路を阻止し、空気は基板ポートを通って下の検出器の上へと直接送られる。再び空圧の動作がシャッタを閉じさせるが、ガスが検出器へと導かれるときは、より遅い流体の流速が必要となりやすい。開状態と閉状態とが切り替わる間、ガス流を低減してシャッタ要素にかかる圧力を低下させてもよい。
【0090】
図7を参照すると、開位置(図7下部)および閉位置(図7上部)のシャッタ設計の例が示されている。図7下部は起動状態のSOIベースのデバイスの顕微鏡写真である。
【0091】
MSET検出器
図8を参照すると、CMOSデバイスプロセスを用いて作成された、本発明の分子単電子トランジスタ(MSET)構造体の略図が示されている。このMSETはシリコンソース電極82、ポリシリコンドレイン電極84、およびポリシリコンゲート電極86を備えている。(図8の挿入図に詳細に示した)活性領域88はソース電極とドレイン電極との間に存在する有機分子の自己集合単分子層を含む。
【0092】
活性領域88の有機分子87はトンネル障壁を介してシリコン電極に連結された共役有機棒(量子ドット領域)を含む。これによって、以下に詳細に記載するように、量子閉じ込めがドット領域に生じる。動作中、小さなソース−ドレインバイアスをかけると、ゲートにはバイアスがかかるので、ソースからドレインへの単電子電流は相互伝導性曲線の最も急降下する部分にある。
【0093】
第1の結合部位90は有機分子87上に設けられ、かつ/または第2の部位92は基板上に設けられる。第1の部位90または第2の部位92において結合する対象の単分子が存在すれば、ソース−ドレイン電流に観察可能な変化が生じるので、検出することができる。吸着された分子のさらなる識別は、ソース−ドレインバイアスおよびゲートバイアスが変えられるときに、以下に詳細に考察するようなI−V「符号」を分析することによって可能である。
【0094】
図9aを参照すると、本発明のMSETデバイスの活性領域の略図がより詳細に示されている。このMSET構造体は電気絶縁性のある2つのσボンド基102の間に位置する分子半導体コア100として概念化することができる。このコアに取り付けられた化学的に活性のある基104が対象となる分子を結合する。分子100の各末端はシリコン電極106に化学結合する。図9bは図9aに示したデバイスのバンド構造の図を示しており、ΔVは小さな静電性の摂動(例えば、つながれた分子)が分子状態に及ぼす効果を表している。
【0095】
SETの導電率はゲート電圧(Vg)およびソース−ドレイン電圧(VDS)の両方によって制御することができる。図10aは得られた導電率マップをクローンブロッケイドを呈する従来のSETに対するVgおよびVDSの関数として示している。
【0096】
本明細書に記載のタイプのMSETデバイスは分子の電子的特性に特異的な付加的な構造を示す。これを図10bに示す。この符号はつながれた分子の詳細に対して非常に反応しやすくなるかもしれず、これを用いて吸着された分子を識別することもできる。分子識別プロセスは、分子の骨格(backbone)のみのエネルギーレベルおよびまた検体(すなわち、対象の分子)が取り付けられた骨格のエネルギーレベルの量子力学計算によって促進される。次に、これらのエネルギーレベルを用いてSETトランスポートの正当な理論を強化してMSETのI−V特性および伝導性マップを予測することができる。これによってつながれた分子の固有の識別が可能となり、骨格分子および受容体分子の設計および合成も誘導される。
【0097】
検出事象に関連する小さな(ピコアンペア)電流変位を検出するには、低雑音増幅器が必要になる。このような増幅器は工場の0.35μmCMOSプロセスに基づいて製造することができる。検出器回路はMSETの電極構造体を製造するのに用いられる同じCMOS(0.35μm)プロセス技術を用いて製造することができる。したがって、MSETおよび増幅回路は同じプロセスフローで、故に同じシリコンチップで製造することができる。完全に集積化されたMSETデバイスを完成するためには、後処理はCMOSパッシベーション層にMSET支持構造体へのアクセス窓を開け、次に、関連する有機分子を自己集合した単分子層の形態で導入することが必要となろう。示差測定法、および検出器のアレイを単一のチップ上に設けることも可能である。
【0098】
シリコン電極への活性分子の取り付けは化学結合によって達成される。この分子は各末端で取り付けられるのが好ましいので、二官能性の対称分子が好ましい。当業者であれば、例えば以下のような種々の取り付け方法の選択肢が理解されよう。
(i)シリコン表面を二酸化シリコンに酸化することで、トリアルコキシシラン基とつながれるのに適した表面が提供される。この化学反応は確立されており、分子の緻密な自己集合した単分子層の形成が可能となる。この技術を適用してSET用の活性分子の分散配列を形成することは容易である。
(ii)シリコン表面を塩素処理し、有機アミンと反応することのできる活性Si−Cl結合の配列を提供して、強固に結合した層を提供する。脂肪族アミンおよび芳香族アミンの緻密な層を組み立てることができ、この方法は有機アミンが比較的簡単な合成ターゲットであるという利点を有する。
(iii)シリコン表面を有機リチウム試薬またはグリニャール(Grignard)試薬と反応させることで、表面結合した有機分子への経路が得られる。この反応は表面の塩素処理によるか、または電気化学的に促進することができる。
(iv)有機アルケンをヒドロシリル化反応によってSi−H表面基を有するシリコンと結合することができる。
【0099】
上記選択肢は幅広い有機材料および表面処理条件を包含する。つまり、どれを使用するかの選択は、分子の合成の容易さおよびあらゆる材料および現行の種々の構造体とのプロセスの適合性によって決定されるであろう。
【0100】
SETに取り付けられる分子は、CMOSゲート酸化物の厚いところを架橋するのに十分な長さの棒状の分子ワイヤであることが好ましい。以下分子「I」と呼ぶことにする、図11に示した分子は、使用される分子の基礎を形成することのできる分子を表す。この分子(I)は金電極上につながれるために優れた純度および高い歩留りで既に合成されたものである。この分子の長さは6.8nmである。可溶性を保つために側置換基が提供されるが、分かりやすいように省略した。分子(I)は適した分子長を有し、溶液中でも可逆的な電気化学的ドーピング(還元)を有し、また表面に取り付けられるために各末端に官能基を有する。さらなる研究によって、官能基を(I)の側方に取り付けて、化学的検出のためのレセプタ部位を提供することができることが実証されている。
【0101】
SETで使用するのに適したものにするために、分子Iには種々の変更が必要である。まず、分子棒を改変して各末端に電気絶縁性のユニットを提供する。例えば、2,2,2−バイシクロオクタンなどの脂環式ユニットは構造体の剛性を維持する候補ユニットを提供する。また、この末端基を改変して、金ではなくシリコンに結合するのに適したものにする。対象の分子を選択的に結合するように調整された化学的受容ユニットを組み込む。ゲート酸化物の長さに正確に合うようにこの分子長も調整する。これによって固有の環境で電極上で容易につながれるようになる。原子を加えることによって0.2〜0.3nm単位の増加の合成段階で、かつ僅かに長いかまたは短い結合長を有する基と化学基を換えることによってより微細な規模で分子長を制御できることがよく知られている。
【0102】
求核基を組み込んだ受容体を加えれば、MSETはF−の求核置換反応によって殺虫剤などのフルオロホスホネート剤を結合する。異なる受容体が主鎖分子に取り付けられたMSET検出器のアレイを有することによって、さらなる識別を行うことができる。パタン認識技術を用いて、MSETの測定された伝導性を分析することもでき、これによって検体が識別される。
【0103】
MSETの製造中、光電子分光法を用いて、十分な感度のプローブを提供して電極表面上の有機材料の付着を監視することができ、被覆度合いを評価することが可能となる。別の場合、伝導性を現場(in situ)で監視することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1a】本発明のガス分析器を示す略図である。
【図1b】本発明のガス分析器を示す略図である。
【図2】ガス分析器システムの前濃縮装置を示す平面図である。
【図3】シリコンウェハにエッチングされたバイアを示す断面図である。
【図4】高多孔性シリコンを示すTEM像である。
【図5】図2の前濃縮装置のモデル化した温度分布を示す図である。
【図6a】開位置構成のガス検出システムのガスシャッタを示す図である。
【図6b】閉位置構成のガス検出システムのガスシャッタを示す図である。
【図7】図6aおよび図6bに関して記載したタイプのガスシャッタの一例を示す図である。
【図8】ガス検出システムの分子単電子トランジスタ(MSET)検出デバイスを示す略図である。
【図9a】MSETのレセプタ部分を示す略図である。
【図9b】デバイスのバンド構造を示す略図である。
【図10a】従来のSETの2D伝導性マップである。
【図10b】MSETの2D伝導性マップである。
【図11】図8〜10bのMSETで使用される分子の基礎を形成することができる分子「I」を示す構造式である。
【技術分野】
【0001】
本発明は流体分析装置に関する。さらに具体的には、本発明は分子単電子トランジスタ検出デバイスを組み込んだ流体(特にガス)分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
気相検体を検出および分析するために種々の技術が知られている。低い分子濃度を検出するのに現在用いられる標準的な技術には一般に、前濃縮技術と共に用いられる質量分析法およびガスクロマトグラフィ法がある。近年では、例えば産業排出物および火山性排出物の現場(in situ)モニタリングを可能にする電池式携帯型システムを生成するドライブもある。しかし、そのような携帯型デバイスは重さ数kgになり、幾分感度が制限されることがある。
【0003】
ガス分析装置の感度を上げるのに用いられてきたいくつかのいわゆる「前濃縮装置(pre−concentrator)」が知られている。前濃縮装置の基本原理は、分析される分子(検体)をガスの流れから収集することである。適切な収集期間の後、適切な検体検出器によって次に分析するために収集した検体がより小さな体積で放出されるように、前濃縮装置は再構成(例えば、加熱)される。
【0004】
前濃縮装置の一例は米国特許第6171378号明細書に、またG.Frye−Masonらによっても論文「Hand−Held Miniature Chemical Analysis System(μChemLab(登録商標))for Detection of Trace Concentrations of Gas Phase Analytes」、Micro Total Analysis Systems 2000、229、3(2000)に記載されている。G.Frye−Masonらの前濃縮装置は、基板上に坦持された吸着材料の薄膜層から成り、熱量が本質的に低く、熱的分離が高いという利点を有する。しかし、このデバイスの著しい欠点は、本質的に平坦な吸着剤層が流体と前濃縮装置との間の相互作用を遅くするので、広い吸着面積は広いダイエリアを要求することである。
【0005】
前濃縮装置の別の例はWei−Cheng Tianらによって、Journal of Microelectromechanical Systems、第12巻第3号、2003年6月の「Microfabricated Preconcentrator−Focuser for a Microscale Gas Chromatograph」と題する論文に記載されている。この前濃縮装置は高アスペクト比のシリコンに深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)によって画定された複数のチャネルを含む。適した粒径の市販の吸着性粒剤(例えば、Carbopack、Carboxen)がチャネル内に設置される。このような構造体は所与の基板サイズのために表面を大きくするが、ガスの流れは依然として床の上を通過することになり、吸着剤の活性表面とのその接触は制限される。さらに、粒剤は単にチャネル内で静止するので、ヒータと緊密に熱接触しない。したがって、Wei−Cheng Tianらのデバイスは吸着性粒剤を加熱するのに相当の電力を必要とし、反応の速度は非常に遅い。
【0006】
ガス分析装置を通るガスの流れを制御するためのいくつかのガスゲートシステムも知られている。特に、前濃縮装置を通るガスの流れは排出口(例えば、検体が前濃縮装置によって収集されているとき)または検出器(例えば、前濃縮装置が吸着された検体を放出するとき)のいずれか一方へと制御自在に導かれなければならない。典型的には、ダイヤフラム構造に基づいた熱空圧式弁を用いて所要のガス流制御機能が提供されてきた。
【0007】
熱空圧式弁の例は、Yangらの「A MEMS Thermopneumatic Silicon Membrane valve」、IEEE The Tenth Annual International Workshop on Micro Electro Mechanical Systems(MEMS‘97)の会報、Nagoya、Japan、1997年1月26〜30日、114〜118頁;Grosjean,C.らの「A practical thermopneumatic valve」、Micro Electro Mechanical Systems 1999年(MEMS‘99)、Twelfth IEEE International Conference、1999年1月17〜21日、147〜152頁;およびJ.S.Fitchらの「Pressure−based mass−flow control using thermopneumatically−actuated microvalves」、Solid−State Sensor and Actuator Workshopの会報、162〜165頁(Transducers Research Foundation、オハイオ州クリーブランド、1998年)に記載されている。
【0008】
先行技術の熱空圧式弁の欠点は、そのようなガス制御弁をそれらの位置の1つに保つための能動作動の要件を含む(例えば、ノーマルオープン弁を閉位置に保持しておくには電力は連続的に印加されなければならない)。このことにより電力消費量が高くなるので、エネルギー収支が高くなる。さらに、そのような弁を通るガスの流れは渦巻き状の経路を辿り、流量範囲はデバイスの基本設計によって制限される。熱空圧式弁は反応速度も制限されており、ヒステリシス効果を被ることになる。
【0009】
前濃縮段階の後、検体はゲートステージを通って適した検出器へと放出され、運ばれる。いくつかの小型の質量分析器が知られている。例えば、J.Diazらの「Sub−miniature double focusing sector field mass spectrometer for in situ volcanic gas monitoring」、Am Soc.of Mass Spectrometry、Sanibel Island、FL、2000年1月、およびJ.J.Tullstallらの「Silicon micromachined mass filter for a low power,low cost quadrupole mass spectrometer」、The Eleventh Annual International Workshop on Micro Electro Mechanical Systemsの会報、1998年(MEMS‘98)、1998年1月25〜29日、438〜442頁を参照されたい。そのような小型の質量分析器は所要の検体分析を行うことができるが、真にサブミニチュアの大きさ(例えば10cm3未満の容積を有する)のシステムはまったく知られていない。質量分析器の動作を提供するために適した真空条件を生成することは、依然として小型化の大きな問題である。
【0010】
まったく関連のない技術分野では、単電子トランジスタ機能はソース電極とドレイン電極との間に位置決めされた有機分子によって提供され得ることも知られている。例えば、Kubatkinらの「Single−electron transistor of a single organic molecule with access to several redox states」、Nature誌、第425巻、2003年10月16日号を参照されたい。Kubatkinらは如何にしてMSETの電気特性を用いてMSETが形成されている有機分子の電気特性の情報を抽出することができるかについて説明している。Kubatkinらが記載したMSETは、−268.95℃(4.2K)に保たれた基板上で金蒸気を圧縮することによって形成されるソース電極およびドレイン電極を含む。このMSET構造体は低温でのみ動作可能である。つまり、室温では金製のソース電極/ドレイン電極構造体はブレークダウンする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は知られているシステムの上記欠点の少なくともいくつかを軽減する改善された検出デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様によれば、分子単電子トランジスタ(MSET)検出デバイスはドレイン電極およびソース電極に取り付けられた少なくとも1つの有機分子を含み、前記少なくとも1つの有機分子は使用中、量子閉じ込め領域(いわゆる、量子ドット)を提供し、少なくとも1つの検体レセプタ部位が前記少なくとも1つの有機分子の近傍に提供されることを特徴とする。
【0013】
このように、本発明はドレイン電極とソース電極との間に位置決めされた少なくとも1つの有機分子を有する分子単電子トランジスタを提供する。少なくとも1つの検体レセプタ部位が対象の分子(検体)を捕捉するために付加的にはMSETの少なくとも1つの有機分子近傍に設けられる。以下に記載のように、MSETの少なくとも1つの有機分子は少なくとも1つの検体レセプタ部位を担持する側基(side group)を含んでよく、かつ/または、検体レセプタ部位はMSETの少なくとも1つの有機分子に隣り合って位置決めされるが、その少なくとも1つの有機分子には実際には取り付けられていない付加的な分子の一部として提供されてよい。
【0014】
本発明のMSET検出器の電気特性(例えば、ソース−ドレイン電圧の関数としてのデバイスの導電率)は、少なくとも1つの有機分子の電気特性に、また少なくとも1つの有機分子が位置する局在的な電気的環境にも大きく依存する。したがって、MSETの電気特性の検出可能な変化は、検体が少なくとも1つの検体レセプタ部位によって保持されるときに発生する。さらに、MSETの電気特性の分析によって検体の存在または不存在を決定することができるだけでなく、捕捉した検体の電気特性の情報も提供することができ、これによって異なるタイプの検体を識別することができることがわかっている。したがって、本発明の検出器は非常に高い感度を有しており、対象の単分子(検体)を検出することが可能となるほか、捕捉した検体を識別することさえも可能になる。
【0015】
分子単電子トランジスタはKubatkinら(前掲)によって既に記載されているが、先に報告されている極低温動作の要件がそのようなデバイスを化学的検出のためには不適切なものにしている。本発明の分子SET(MSET)はまた、知られている質量分析器ベースの検体検出システムに比べて著しく小型のデバイスを提供する。
【0016】
少なくとも1つの有機分子は少なくとも1つの検体レセプタ部位を含むことが有利である。例えば、MSETの少なくとも1つの有機分子は少なくとも1つの検体レセプタ部位を提供する側基を有してもよい。すなわち、MSETの少なくとも1つの有機分子は対象の分子を結合する特異的官能基(検体レセプタ部位)を特徴とし、これによってMSET伝導性の観察可能な変化が得られる。別の場合、または付加的には、検体レセプタ部位は少なくとも1つの分子に隣り合って位置決めされてもよいが、その分子には取り付けられることはできない。例えば、検体レセプタ部位は単電子トランジスタが形成されている基板に固定された分子によって担持されてもよい。
【0017】
少なくとも1つの有機分子は第1および第2の末端を有する細長い共役有機分子(すなわち、共役有機棒状分子)であることが好ましい。細長い共役有機分子の第1の末端はソース電極に取り付けられ、かつその分子の第2の末端はドレイン電極に取り付けられるのが便宜的である。有機分子、例えば、共役有機棒状分子の自己集合単分子層は便宜的にはソース電極とドレイン電極との間に位置決めされてよく、これによってソース電極およびドレイン電極が接続される。有機単分子がソース電極およびドレイン電極に取り付けられるのが好ましい。
【0018】
少なくとも1つの有機分子がトンネル障壁を介してソース電極およびドレイン電極に取り付けられるのが有利である。トンネル障壁は便宜的には前記少なくとも1つの有機分子の電気的に絶縁性の領域(例えば、絶縁性の末端鎖)によって提供することができ、かつ/またはソース電極およびドレイン電極は、所要のトンネル障壁を形成する絶縁性材料を担持することができる。本デバイスはゲート電極をさらに備えることが好ましい。
【0019】
第1の材料の層がソース電極を提供し、第2の材料の層がドレイン電極を提供し、前記第1および第2の層が実質的に絶縁性材料の第3の層を挟み込み、かつその第3の層により離間されるのが有利である。
【0020】
実質的に絶縁性材料の第3の層に凹部を設けて、少なくとも1つの有機分子が位置決めされる領域をソース電極とドレイン電極との間に提供することが有利である。すなわち、第1の層と第2の層との間に自由空隙を画定するように何らかの方法で、材料の第3の層をパタン化、エッチング、付着等させる。ソース電極とドレイン電極との間の空隙は、実質的に絶縁性材料の第3の層の厚さに実質的に等しい。この空隙を形成後、少なくとも1つの有機分子はソース電極とドレイン電極との間の空隙内に位置決めされ、これによってMSETデバイスが形成される。
【0021】
このようにして、ソース電極およびドレイン電極を離間させる信頼できる手段が提供される。このような技術を用いれば、正確かつ一貫して数ナノメートルだけ離間されたソース電極およびドレイン電極を提供することができ、これによって所望の間隔を有する電極セットを形成することに伴う複雑さが低減される。さらに、そのような電極構造体は室温で上手く動作して、経時的に著しく劣化しない。
【0022】
実質的に絶縁性材料の第3の層の厚さは少なくとも1つの有機分子の長さに実質的に等しいことが好ましい。したがって、ソース電極とドレイン電極との間の間隔を、MSETの少なくとも1つの有機分子の長さに正確に適合させることができる。
【0023】
第1および第2の材料の少なくとも一方は半導体材料を含むことが便宜的である。すなわち、ソース電極および/またはドレイン電極は便宜的にはシリコンなどの半導体材料から形成されてよい。この半導体材料を必要に応じて「n」型または「p」型ドーパントでドープして、ソース電極およびドレイン電極を形成するのに必要な導電率を提供することもできる。このタイプの半導体ソース電極およびドレイン電極を形成することによって、室温でMSETが動作することが可能となる。これは有機分子と接触する金電極が約−123.15℃(約150K)を超える温度で分解するKubatkinらによって記載されたタイプ(前掲)の先行技術のデバイスとは対照的なものであるに違いない。
【0024】
この半導体材料はシリコンからなるのが有利である。少なくとも1つの有機分子はシリコンに結合する末端鎖を含むことが好ましい。
【0025】
材料の第1の層はシリコンウェハからなり、第2の材料の層はポリシリコンからなり、かつ実質的に絶縁性材料の第3の層は酸化シリコンからなることが好ましい。ゲート電極を有する検出器では、ウェハがポリシリコンの層を担持してゲート電極を形成し、第4の層が酸化シリコンの層によってシリコンウェハから分離されることも便宜的である。シリコンウェハからゲート電極を離間させるのに用いられる酸化シリコンの層を、シリコンウェハからドレイン電極を離間させる酸化シリコンの堆積(deposition)と同時に堆積できることも理解されよう。同じく、ゲート電極およびドレイン電極を形成するポリシリコン層を同じ製造段階で堆積することもできる。
【0026】
本発明のMSETデバイスの製造の際に、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)プロセス(例えば、標準的な0.35μmのCMOSプロセス)が使用されることが好ましい。このようなプロセスによって、MSETに適した幾何学形状がゲート酸化物ギャップの形態で得られる。高濃度ドープしたシリコンコンタクトを用いることによって、少なくとも1つの分子との電気的接触を成すことができる。ソースコンタクト−ドレインコンタクト間の間隔(すなわち、少なくとも1つの有機分子が取り付けられる間隔)を単分子層の精度にまで容易に制御することもできる。製造されると、少なくとも1つの有機分子はソース電極およびドレイン電極に取り付けられる。
【0027】
このようにして、本発明によって標準的なCMOSプロセス技術を用いてMSETを形成することが可能となる。同プロセスにおいて、関連する制御および/または増幅回路を製造することもできる。したがって、MSETのピコアンペア規模の電流のオンチッププロセスを用いて集積検出デバイスを備えたシングルチップを提供することができる。これによって、例えば金粒子の付着を用いた手作業によるプロセスに比べて、製造プロセスの良好な再現性が確実に得られる。分子自己集合(self−assembly)プロセスと組み合わせると、同一の特徴を有する複数のMSETの配列を製造でき、それにより、例えば組込み冗長性を提供することができる。
【0028】
このデバイスは、MSETの導電率(すなわち、少なくとも1つの有機分子の導電率)をソース−ドレイン電圧に応じて測定する手段を備えてよいことも有利である。別の場合、または付加的には、このデバイスはMSETの導電率をゲート電圧に応じて測定する手段を備えてもよい。このようにして、ゲート電圧およびソース−ドレイン電圧の関数としての導電率マップを生成することができる。このようなマップの特性は、エネルギースペクトルにおけるいわゆる「量子化空隙」を強調する。つまり、この特性はクローンブロッケイド効果を増強するだけでなく、取り付けられた分子の特性に依存する伝導中の共鳴も生じさせる。このようなマップを提供することによって、検体の分子を識別することが可能となる。
【0029】
本デバイスは少なくとも1つの有機分子の伝導性を(例えば、ソース−ドレイン電圧および/またはゲート電圧の関数として)測定する集積電子回路をさらに備えてよいことも便宜的である。CMOSプロセスを用いて本デバイスを形成する場合、電子回路はソース電極およびドレイン電極を形成するプロセスステップ中に形成できる。
【0030】
本発明の第2の態様によれば、流体分析器は上記タイプのMSETデバイスを備える。このように、流体(例えば、液体またはガス)に存在する検体の非常に効率的な検出器が提供される。
【0031】
分析器は流体から検体を放出自在に保持する前濃縮装置をさらに備えることが好ましい。前濃縮装置は流体が通過することのできる複数の開口部を有する材料の層を含むことが有利であり、前記開口部の内面は流体から検体を放出自在に保持するように構成されている。開口部を形成する材料の内面を有利には(例えば、コーティングを塗布するかまたは表面処理によって)流体から分子を放出自在に保持する(例えば、可逆的に吸着する)ように構成することもできる。すなわち、開口部の内面は流体から検体を吸収し、かつ例えば加熱されるとその検体を放出するように配置されている。
【0032】
前濃縮装置の開口部の内面は吸着性材料で被覆されることが便宜的である。別の場合には、開口部の表面を改変して所要の吸着性を提供することもできる。多数の表面化学反応を発生させて、例えば、適した材料を蒸着するか、または標準的な技術によって適した有機官能基を表面に加えることによって、所要の構造を提供することができる。例えば、水を拒絶しいくらかの選択的吸着性を提供する疎水性の表面に短鎖ポリシロキサン分子を移植することもできる。
【0033】
前濃縮装置の開口部を画定する内面を多孔化して(porosify)前濃縮装置の有効表面積を増大することが便宜的である。別の場合または付加的には、高容量のトラッピング基質を薄膜形態(例えば、ゾルゲル法を用い、薄膜ポリジメチルシロキサン、すなわちPDMSを直接塗布することによる多孔性の二酸化シリコン膜)で直接塗布することによって、前濃縮装置の表面積を増大させる。
【0034】
基板はシリコン層を含み、前記開口部はこのシリコン層を貫通して形成されることが有利である。製造が簡単で、材料を容易に多孔化できるので、シリコンを用いて前濃縮装置層を形成することが好ましい。また、有機官能基を添加することによってシリコンの表面化学およびその酸化物を改質させる種々の技術が当該分野ではよく知られている。しかし、当業者であれば、別の材料、例えば二酸化シリコン、ガラスまたはポリマー/プラスチックなどの材料の層を使用してもよいことが理解できよう。
【0035】
前濃縮装置の材料の層は、有利にはハニカム構造体を形成するように配置された開口部の規則的なアレイを備えていることも便宜的である。
【0036】
米国特許第6171378号明細書に記載したタイプの先行技術の前濃縮装置上ではなく、このようなハニカム構造体の開口部に流体を通すことによって、さらに広い表面積を検体を担持する流体に接触させることができる。シリコンの場合、多孔層を形成すれば未処理の平坦なシリコンウェハに比べて最高100倍だけ有効表面積を増大させることができることがわかっている。この改善は垂直のハニカム構造体を形成することによって使用可能な改善を10倍大きくするので、全体的な吸着増強は最大で約1000倍になる。したがって、より小型の前濃縮装置を提供することができる。
【0037】
深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)によって材料の層に開口部を形成することが便宜的である。DRIEはシリコンなどの半導体材料のウェハに開口部を形成する便利な手段を提供する。例えば、DRIEを用いて直径30μmおよび長さ数百μmの狭い開口部を形成することができる。このような開口部によって、流体は前濃縮装置表面と確実に効率的な相互作用を行える。そのような技術を用いれば、直径5〜100μmおよび長さ50〜1000μmの開口部の大きさを容易に形成することができる。
【0038】
さらに、前記材料の層は便宜的には加熱素子などのヒータを備えてもよい。ヒータは層に伝導性領域を形成することによって(例えば、半導体をドープすることによって)設けることができる。一体化したヒータを設けることによって、開口部の内面を急速に加熱して捕捉した検体を放出することが可能となる。別の場合には、導電性トラック(例えば、金属ライン)を層の上または中に形成してもよい。個別の加熱素子を層に取り付けてもよい。材料の第1の層の温度を監視できるように、熱センサ(例えば、プラチナトラック)を材料の層内に組み込んでもよい。
【0039】
加熱された材料の層は、前濃縮装置とその下側の基板(例えば、ガスゲートチップ)との間に熱絶縁層(例えば、ガラス界面)を含むことによって、次のデバイス層およびパッケージから分離されるのが好ましい。このような材料装置は熱伝導性が低いので、速い反応時間が達成される。
【0040】
このタイプの前濃縮装置は有利には本発明の分析器の一部として用いることができるが、そのような前濃縮装置は種々の別のデバイスにおいて構成要素として用いることもできる。すなわち、流体から検体を放出自在に保持するのに前濃縮装置を用いることができ、この場合、前濃縮装置は流体が通過することのできる複数の開口部を有する材料の層を含み、前記開口部の内面は流体から検体を放出自在に保持するように構成されている。
【0041】
分析器は前濃縮装置からMSETデバイスへの流体の流れを制御する流体ゲート構造体をさらに含み得ることが有利である。流体ゲート構造体は前濃縮装置からMSETデバイスまたは排出口のいずれか一方に流体を選択的に送るように配置されていることが便宜的である。これによって分析中の流体を、流体から検体を放出自在に保持する前濃縮装置の中/上を通過させ、排出口に送ることが可能となる。適した期間の後、前濃縮装置は捕捉した検体を放出するように調整されることができ、次に、流体ゲート構造体は放出された検体を含んだ流体をMSET検出器に送るように再構成されることができる。このように、MSETの上を通過した流体はより大きな密度の検体を含むことになるので、検出感度は増大する。
【0042】
流体ゲート構造体は実質的に平坦な基板と前記基板の面内で可動であるシャッタとを備えていることが有利である。このシャッタの面内運動を用いて、例えば、出口の入口開口部を覆うことによって、流路は出口に制限される。基板の面内で動くシャッタを設けることによって、先行技術の熱空圧式デバイスのいくつかの欠点は克服される。例えば、MEMSタイプのシャッタは熱空圧式弁に関する文献で報告されている熱ヒステリシス効果を受けることなく、開位置と閉位置との間でより高速で動くことができる。さらに、MEMSシャッタおよびそれに関連する作動機構を(例えば、シリコンウェハ上で)基板の単一の層から形成することができる。したがって、このような装置は上記の種々の先行技術の弁よりも著しく小型にすることができる。
【0043】
流体は、流体ゲート構造体の実質的に平坦な基板の面に対して実質的に垂直な長軸を有するチャネルに沿って流体ゲート構造体からMSETデバイスへ送られるのが便宜的である。したがって、流体ゲート構造体に入る流体は直交方向からシャッタに衝突する。同じく、出口を介してデバイスを出る流体は同方向に沿って通過するように配置され得る。このような構成では、流路に向かって、または流路から外れて動かされるときにシャッタは入ってくる流体の力に逆らって動く必要はない。したがって、開位置および閉位置間を動くとき、シャッタに関連する起動手段が用いる力はより小さくてよい。ある構成では、流体圧は、シャッタが懸架されているところからシャッタを基板と接触させるであろうことが理解できよう。このような場合には、シャッタを動かすときに流体圧を下げる必要があるかもしれない。
【0044】
シャッタは有利にはそれが流体ゲート構造体からMSETデバイスまでのチャネルへの入口と噛み合い、かつそれを密封するような形状であってよい。このように、シャッタに入ってくる流体の圧力を実際に用いて密封を向上させることができる。例えば、円形のシャッタをそれに対応するチャネルへの円形の入口と共に設けることもできる。使用中、シャッタは閉位置に動くことができるので、チャネルへの入口を覆うことができる。次に、流体圧が加えられることによって、シャッタを出口としっかりと噛み合わせ、それを密封することができる。さらに、隆起状の環状の密封リング部分を出口の周縁部に設けることもできる。シャッタがそのような密封リングと噛み合うことによって、流体密封の品質をさらに向上させることができる。
【0045】
シャッタは開位置または閉位置のいずれか一方を採用するように配置されてもよく、開位置は流体をMSET検出デバイスまで送ることを可能にし、閉位置は流体がMSETデバイスまで送られないようにする。さらに、シャッタは便宜的には電力を印加しなくても、流体が前濃縮装置からMSETデバイスまで送られる開位置または流体が前濃縮装置から排出口まで送られる閉位置に保持されてよい。
【0046】
上記のように、シャッタが閉位置にあるとき、受け取られる流体は排出口まで導かれる。さらに、シャッタが開位置にあるとき、流体は有利には排出口へと流れないようにすることができる。例えば、デバイスのシャッタが開位置にあるときに排出口の開口部を塞ぐようにシャッタ、すなわち可動部材の別の部分を配置することができる。
【0047】
シャッタが開位置のときにデバイスの流路が最小になることが便宜的である。これによって気相に含まれた検体が流体ゲート構造体の部分に付着する可能性が抑えられる。さらに、開位置にあるときのデバイスのデッドスペース(すなわち、流体が流れこむことができるデバイス内の空間であるが、流路の一部は含んでいない)が最小化されるのが有利である。また、これによって検体の損失が阻止される。当業者であれば、密封アームを設けてそのような機能を実行できることが理解できよう。不揮発性気相の流体を分析する場合、デバイスを適した温度まで加熱して、凝縮を低減または阻止することもできる。
【0048】
所要の流量制御を行うために、シャッタは複数の中間位置のいずれか1つに保持されてもよい。例えば、必要に応じて排出口およびMSET検出器へと至る流体の相対比率を制御することができる。さらに、クランプまたはラッチを設けてシャッタをそのような開位置、閉位置、または中間位置に保持してもよい。このような装置によって、そのような状態の1つに保持するために連続的に力を加える必要があった上記の先行技術の熱空圧式弁に比べて著しい利点が提供される。
【0049】
シャッタは微小電気機械(MEMS)シャッタであるのが有利である。可動部材はMEMSシャッタに運動を付与するためのMEMS電熱作動機構を含むことが便宜的である。さらに、この可動部材はMEMSに順応する変位機構を含むことが好ましい。次に、作動機構によって生成される運動の大きさを増幅して、得られるシャッタの移動量を増大させることができる。本明細書では、MEMSはマイクロ加工された要素、マイクロシステム技術、マイクロロボティック、およびマイクロ工学等を含むようにされる。
【0050】
平坦な基板はシリコンからなることが便宜的である。例えば、シリコンオンインシュレータ(SOI)ウェハ等を使用してもよい。デバイスは深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)プロセスを用いて作成されることが有利である。
【0051】
本発明はどのような流体(例えば、液体または気体)上でも動作することができるが、気体ベースの用途では流体ゲート構造体を用いることが好ましく、これによって気体流制御器が提供される。液体が使用される場合、当業者であれば液体が、デバイスの動作に(例えば、デバイスの電熱作動機構等からの熱移動による)悪影響を及ぼさないようにするのに用いることのできる種々の密封技術が理解できよう。
【0052】
したがって、本明細書に記載の流体ゲート構造体は、MSET検出器への受け取られた流体の流れを制御する。このようなガスゲート構造体は本発明の分析器に使用されるのに特に適しているが、多数の別の用途においては流体ゲート構造体は有利には流体制御デバイスとして用いられてもよいことに留意されたい。すなわち、第1の出口および可動部材を備えた流体デバイスを設けてもよく、前記可動部材は第1の出口への受け取られた流体の流れを制御し、この場合本デバイスは実質的に平坦な基板から形成され、可動部材は基板の平面内で可動であるシャッタを備える。このようなデバイスは、前記第1の出口へと流れるのが前記可動部材によって妨げられる流体を受け取るための排出口をさらに備えてもよい。このようなデバイスでは、第1の出口への流体の流れは上記MSETデバイスへの流体の流れと類似したものであろう。
【0053】
したがって、本発明は小型のハイブリッド積層体すなわち「立方体」の形態で流体分析器を提供する。例えば、前濃縮装置層と検出器層との間に挟み込まれた流体ゲート構造体を備えた垂直の3層積層体を提供することができる。使用中、流体が前濃縮装置を通され、流体ゲートデバイスを介して排出口へと導かれる取得モードが最初に用いられる。取得モードでは、前濃縮装置は検体を吸着するように準備されており、前濃縮装置を流れる流体(例えば、空気)は高速であるのが望ましい。所定の期間の後、デバイスは検出モードに切り換えられる。検出モードでは、前濃縮装置は(例えば、吸着性材料を加熱することによって)捕捉した検体を放出し、この検体は流体ゲートデバイスを介してMSET検出器へと導かれて分析に供される。検出モードでは、流体の流れは低速であるのが好ましく、有利には不活性のキャリア流体(例えば、アルゴンガス)がデバイスに通されてよい。
【0054】
平坦層に各分析器機能(すなわち、前濃縮、流体ゲート、および検出)を提供することによって、上記タイプの先行技術のデバイスに比べて、デバイスの容積を著しく縮小することができる。さらに、各層間の流路は先行技術のデバイスの隣接する構成要素間の流路よりも著しく小さくなるので、デバイスの感度が上昇することになる。
【0055】
そのような小型の立方体装置は上記のMSET検出器、前濃縮装置、および流体ゲート構造体を用いて実施されるのが好ましいが、別の構成要素(例えば、非MSETベースの検出器)を用いて、そのようなデバイスを形成することも可能であることに留意されたい。すなわち、前濃縮装置、流体ゲートデバイス、および検出器を備えた流体分析器を提供することができ、該流体ゲートデバイスは前濃縮装置から検出器または排出口のいずれか一方に流体を選択的に送るように配置され、ここでは前濃縮装置、流体ゲートデバイス、および検出器は実質的に平坦な層として各々形成され、積層体として配置される。
【0056】
この流体分析器は前濃縮装置および流体ゲートデバイスを介して流体を送るためのポンプをさらに備えることが有利である。ポンプは必要に応じて流体圧を低減または増大できるように可変電源を有してもよい。例えば、分析器が取得モードで動作しているときには、検出モードに比べてより高い圧力が必要になろう。また、流体ゲートデバイスが流体の流れを検出器から排出口へと、あるいは排出口から検出器へと切り換えるとき、流体圧(故に、シャッタまたは弁装置が動作するはずである力)を低減させることが有利であろう。
【0057】
電源を設けることも便宜的である。例えば、バッテリまたは他の電池である。電源は分析器と一体形成されることが好ましい。
【0058】
本発明の第3の態様によれば、化学的検出方法は、(a)ドレイン電極およびソース電極に取り付けられた、使用中に量子閉じ込め領域を提供する少なくとも1つの有機分子を含んだ分子単電子トランジスタを取得する工程と、(b)検体を受け取るための、前記少なくとも1つの有機分子近傍に少なくとも1つの検体レセプタ部位を提供する工程とを含む。この方法は(c)前記分子単電子トランジスタの電気特性を測定して検体の存在または不存在を決定する工程をさらに含むことが好ましい。この方法は少なくとも1つの検体レセプタ部位の上を流体を通過させる工程をさらに含むことが便宜的である。
【0059】
本発明の第4の態様によれば、分子単電子トランジスタデバイス用のキャリアは、キャリアがソース電極を提供する材料の第1の層と、ドレイン電極を提供する材料の第2の層とを含むことを特徴とし、前記材料の第1および第2の層は、実質的に絶縁性材料の第3の層を挟み込み、かつ、該第3の層により離間されている。
【0060】
キャリアは少なくとも1つの有機分子がドレイン電極およびソース電極に取り付けられるように配置されるのが好ましい。ソース電極およびドレイン電極は少なくとも1つの有機分子の長さに実質的に等しい距離だけ離間されることが有利である。
【0061】
したがって、使用中、量子閉じ込め領域を提供するように配置される少なくとも1つの有機分子がキャリアの前記ソース電極およびドレイン電極に取り付けられるときに、前記キャリアによって、分子単電子トランジスタ(MSET)検出デバイスを提供することができる。すなわち、ドレイン電極およびソース電極に取り付けられた、使用中に量子閉じ込め領域を提供する少なくとも1つの有機分子を含んだ、分子単電子トランジスタデバイスが提供され、材料の第1の層はソース電極を提供し、かつ材料の第2の層はドレイン電極を提供することを特徴とし、前記第1および第2の材料の層は実質的に絶縁性材料の第3の層を挟み込むと共に、該第3の層により離間されている。
【0062】
このようにして、棒状の有機分子の各末端がそこに取り付けられるように構成されたソース電極およびドレイン電極が離間して保持された、CMOSベースの単電子トランジスタを提供することができる。そのような構造体に適した分子を取り付けることによって、上記タイプのMSET検出器を容易に製造することができる。
【0063】
本発明の第5の態様によれば、分子単電子トランジスタ(MSET)検出デバイスは、ドレイン電極およびソース電極に取り付けられた、使用中に量子閉じ込め領域を提供する少なくとも1つの有機分子を含み、前記ソース電極および前記ドレイン電極のうちの少なくとも一方は半導体材料を含むか、または半導体材料から成ることを特徴とする。この半導体材料は高濃度ドープされることが好ましい。このような半導体材料から形成されたソース電極およびドレイン電極は室温で安定している。これは−123.15℃(150K)を超える温度で分解する、Kubatkinらによって記載されたMSETの金製のソース電極およびドレイン電極(前掲)とは対照的である。
【0064】
本発明の第6の態様によれば、分子単電子トランジスタを形成する方法は、(i)ソース電極およびドレイン電極を形成する工程と、(ii)前記ソース電極とドレイン電極との間に有機分子を位置決めする工程とを含み、ソース電極およびドレイン電極は相補型金属酸化膜(CMOS)プロセスを用いて形成されることを特徴とする。CMOSプロセスは確立されたものであるので、上記のようにMSETデバイスを容易かつ再現可能に製造することが可能となる。
【0065】
ここで単に例示であるが以下の図面を参照して本発明を説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0066】
図1a、図1bを参照すると、本発明のガス分析器2が示されている。分析器2は多層ハイブリッド構造体、すなわちMEMS立方体として形成されており、前濃縮装置層4、ゲート層6、および検出器層8を含んでいる。
【0067】
前濃縮装置4はハニカム状のシリコンウェハから成り、前濃縮機能を実行する。ハニカム層のウェハ貫通バイアの内面は対象の分子用のトラッピング層で被覆され、低熱量構造体は一体になった抵抗加熱要素によって加熱される。ゲート層6は排出口12または検出器層8のいずれかまでガスを導く電熱作動式MEMSシャッタ10を備える。
【0068】
検出器層8はシリコン−ASICチップ上に集積された分子単電子トランジスタ(MSET)検出器14を含む。このMSET検出器は共役有機ロッドを含んで量子ドット領域を形成する。これはトンネル障壁を介してシリコン電極に連結され、これによってドット領域において量子閉じ込めを生じさせる。検出の際には、対象の分子が有機量子ドットに取り付けられた適切な受容体に結合する。ちょうど単分子が受容体に結合することで、デバイスの伝導性に測定可能な変動が室温で生じるはずである。
【0069】
使用中、本装置は図1aに示した分子収集装置を最初に採用する。この構成では、対象のガスは前濃縮装置4を通されて、排出口12の外へ導かれる。対象の分子があれば前濃縮装置4のトラッピング層に結合する。
【0070】
特定のサンプリング期間の後、MEMSシャッタ10は分析器が図1bに示した配置を取るように動かされる。次に、前濃縮装置4のヒータを用いてトラッピング層が加熱され、対象となる分子がある場合にはそこから放出される。次に、これらの放出された分子はゲート層6を介して検出器層8へと導かれ、そこでそれら分子はMSET検出器14によって検出される。
【0071】
積層体を形成する個々の層の各々は相互に対して位置合わせされることが必要であることに留意されたい。前濃縮装置チップおよびガスゲートチップは、熱処理に耐性があるので、従来のボンディング技術を利用することができる。(感熱性)電子機器を含んだ検出器チップおよびMSETは低温のポリマーベースのボンディング技術を用いて結合される。一回の測定につき一層あたりシステムの統合されたエネルギー消費量は、前濃縮では100mJ未満、ガスゲート構造体では100mJ未満、検出回路では350mJ未満となることが推定される。このため、一回の測定で推定される総エネルギーは、デバイスに試料を流すのに必要なエネルギーを除外して1J未満である。
【0072】
本発明の分析器は先行技術のシステムに比べていくつかの利点を提供する。例えば、分析器を約2cm3の大きさになるように製造することができるので、先行技術のデバイスよりも相当小型になる。しかし、大きさが小さくても、知られている質量分析システムに比べて、本デバイスは特定の分子種を検出するために最高100倍まで感度を増大することができる。この固有の設計の立方体は蒸気のデッドスペースを縮小することもでき、より信頼できる検出をして読取りの誤りを少なくするために、検出器感度を増強することになる。さらに、本MEMS構成要素は機械的に非常に強固である。
【0073】
本ガス分析器を形成する種々の層の詳細な説明を以下に提供する。記載の前濃縮装置、ゲート構造体、およびMSETの組合せは上記利点を有する分析器を提供するが、当業者であればこれら構成要素のいずれか1つまたは複数を有利にはガス分析システムに用いてもよいことを認識するであろう。
【0074】
前濃縮装置
図2を参照すると、本発明の前濃縮装置20が示されている。この前濃縮装置はガラスキャリア24上で支持されたハニカム領域22を含む。上記タイプのガス分析器に関し、ハニカム領域は典型的には0.5mm2である。しかし、当業者であれば、領域22の大きさおよび/または形状は特定の用途に対して必要に応じて選択することができることが理解されよう。
【0075】
ハニカム領域22はシリコンから形成され、高アスペクト比のDRIE(深掘り反応性イオンエッチング)を用いてパタン化される。このプロセス技術によって、低熱量(thermal mass)で、表面積が数mm2、かつ流れ特性が良好な起伏のあるハニカム型構造体を実現することができる。このような技術を用いて、ピッチが40μmおよび直径が20μmの穴を容易に形成することができる。図3はシリコンウェハ30に形成されたそのような穴(すなわちバイア)32の顕微鏡写真である。例えば、ステインエッチングまたは陽極酸化を用いてバイア32の内面を多孔化して、試料の蒸気と接触する表面積を増大することもできる。図4はそのような高表面積の多孔化された材料の一例を示している。多孔化すれば約100倍だけ表面積が大きくなって、表面に適した吸着性の表面化学を生成することもできる。
【0076】
穴32は種々の適した化学層で裏打ちすることができるか、または所与の表面処理(例えば、自己集合単分子層)を適用することもできる。穴に適用することのできる種々の裏打ちまたは処理、例えば、安定した疎水性または親水性コーティングを準備して、対象とする特定の分子のみを選択的に取り込むこともできる。当業者であれば、種々の用途のために分子を取り込むのに使用することのできる様々な層/処理を知っているであろう。
【0077】
図2に示したデバイスでは、導電性のp型シリコンを用いてハニカム領域22が形成される。これによってハニカムのシリコン構造体は抵抗ヒータを形成することが可能となるので、金属製のヒータトラックの要件がなくなる。この装置は正確な温度制御も行うので、脱着の選択性が大きくなる。別の場合または付加的には、ポリシリコン層またはプラチナ層を構造体に含めて、抵抗ヒータまたは集積温度センサを形成することもできる。これらの層はウェハの上面に形成されてよいか、かつ/または垂直な穴に組み込まれてよい。このハニカム構造体は種々の別の材料、例えば、他の半導体材料またはマイクロ成形されたプラスチックに形成されてもよいことに留意されたい。
【0078】
決して不可欠なものではないが、ハニカム領域22はガラスキャリア24の上に設置されてもよい。ガラスキャリア24を(例えば、トレンチ26と共に)パタン化して、前濃縮装置からの熱損を抑えると共に、デバイスの平面を通って下側の基板と流体連通させることもできる。ガラスキャリアと比べてシリコンの熱伝導率は高いので、前濃縮装置の活性面積にわたって加熱の均一性を確実に高くすることができる。当然、前濃縮装置の正確な構造体は所与の用途に対して熱的性能が最高になるように最適化することができる。
【0079】
図5は1セットの伝導に関する図2に示したタイプの前濃縮装置構造体の予測した温度断面を示している。また、表1は上記タイプの前濃縮装置の熱特性をまとめたものである。
【表1】
【0080】
電力収支、熱応答時間、および活性面積間での最適な調和を達成するために、前濃縮装置構造体の厚さおよび設置面積を容易に調整することができる。例えば、ハニカム設置面積を1mm2まで拡大すれば、(未処理の)吸収材面積は約10mm2になる。印加する電力を0.5Wに上げれば、−73.15℃(200K)までの上昇時間は約120msになり、エネルギー要件は約0.06Jになる。
【0081】
このように、本発明の前濃縮装置の垂直構造によって、最小のデッドボリュームで、ガス分析器デバイス内に小型で実際的な組み込みが可能となる。
【0082】
ガスゲート構造体
図1aおよび図1bを参照して上に記載したように、ガスゲート構造体は異なる2つの経路のいずれか1つに沿ってガスを導くことのできる物理的な弁を含むように構成される。第1の経路はガス検出器を回避しながらデバイスにガスが高速で流れるようにし、第2の経路は前濃縮装置からのガス流の向きを検出器チップへと変える。第2の経路は前濃縮装置からの前濃縮された薬剤の制御された放出と一致するように選択される。
【0083】
図6aおよび図6bを参照すると、基板ポート64、排出口66、および可動MEMSシャッタ60を組み込んだガスゲート構成が示されている。MEMSシャッタ60は電機子62上に支持されている。この電機子は順応性の変位マルチプライヤ(図示せず)に取り付けられ、このマルチプライヤは電熱ベントビームアクチュエータ(図示せず)に取り付けられている。ベントビームアクチュエータは電機子62を変位かつ回転させる従順な構造体に変位を加える。これによってシャッタ60は図6aの第1の位置と図6bの第2の位置との間で動くことができる。
【0084】
前濃縮装置からのガスは表面の平面に対して垂直方向に、かつ基板ポート64の軸に一致する軸に沿ってガスゲート装置に入る。図6aに示した第1の位置では、基板ポート64は閉じられており、ガスは第1の経路に沿って通過し、排出口66を介してガスゲート装置を出る。図6bに示した第2の位置では、排出口66は閉じられており、ガスは第2の経路に沿って通過し、基板ポート64を介してガスゲート装置を出る。
【0085】
密封アーム68およびこれに対応する基板内の凹部70も設けられている。この密封アームは、シャッタが図6bの第2の位置にあるときに、MEMSの電機子およびアクチュエータが形成されている基板の中空領域内にガス流を妨げることによって流路内の「デッドスペース」の量が最小になるように配置されている。これによって対象となる最大数の分子が確実に検出器を通される。
【0086】
ガスゲート構造体は「ウェハ貫通」シリコンチャネルの深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)を用いて製造され、DRIEステップを用いて、微細加工されたMEMSシリコンシャッタ(弁)システムがSOI基板上に形成される。
【0087】
図6aおよび図6bに示したMEMSシャッタ装置は約0.5mmの投入動作で容易に設けることができる。また、MEMSシャッタ60は数ミリ秒以内に開閉することができるので、前濃縮装置からセンサに流れるガスが最大数の対象の分子および最少量の干渉物を確実に含むようになる。開位置では、放出された対象の分子はセンサへの視野方向アクセスを有する。これは、上記の先行技術のMEMSベースの弁を通る曲がりくねった経路とは対照的である。
【0088】
また、本発明のMEMSシャッタ装置の電力消費量は1ワット未満である。さらに、必要に応じて電熱ホールドラッチを用いてシャッタを開位置に固定すれば、平均的な電力消費量は最小化され、デバイスはエネルギー収支が低いシステムで使用するのに適した候補となる。シャッタを開けてラッチするのに要するエネルギーは約0.05Jであり、シャッタを適所に保持するのに必要な電力はゼロである。電熱アクチュエータを形成する材料のドーパント濃度を選択することによって、動作電圧を調整することができる。
【0089】
流体系にMEMSシャッタ装置を使用すれば、流量範囲を非常に大きくすることができる。これによって、先行技術のダイヤフラム弁システムに比べて開位置および閉位置の両方でより高速の流体の流れが可能となる。シャッタが閉位置にある場合(すなわち、ガスが排出口へ導かれる)、空気は閉じられたシャッタ領域の上の凹部を通ってシャッタの周りを比較的高圧で辿るであろう。シャッタの上へと流れる空気がシャッタを強制的に閉じさせやすくなり、密封を維持する。シャッタが開位置にあるとき(すなわち、ガスが基板ポートへと導かれる)、シャッタは凹部を通る経路を阻止し、空気は基板ポートを通って下の検出器の上へと直接送られる。再び空圧の動作がシャッタを閉じさせるが、ガスが検出器へと導かれるときは、より遅い流体の流速が必要となりやすい。開状態と閉状態とが切り替わる間、ガス流を低減してシャッタ要素にかかる圧力を低下させてもよい。
【0090】
図7を参照すると、開位置(図7下部)および閉位置(図7上部)のシャッタ設計の例が示されている。図7下部は起動状態のSOIベースのデバイスの顕微鏡写真である。
【0091】
MSET検出器
図8を参照すると、CMOSデバイスプロセスを用いて作成された、本発明の分子単電子トランジスタ(MSET)構造体の略図が示されている。このMSETはシリコンソース電極82、ポリシリコンドレイン電極84、およびポリシリコンゲート電極86を備えている。(図8の挿入図に詳細に示した)活性領域88はソース電極とドレイン電極との間に存在する有機分子の自己集合単分子層を含む。
【0092】
活性領域88の有機分子87はトンネル障壁を介してシリコン電極に連結された共役有機棒(量子ドット領域)を含む。これによって、以下に詳細に記載するように、量子閉じ込めがドット領域に生じる。動作中、小さなソース−ドレインバイアスをかけると、ゲートにはバイアスがかかるので、ソースからドレインへの単電子電流は相互伝導性曲線の最も急降下する部分にある。
【0093】
第1の結合部位90は有機分子87上に設けられ、かつ/または第2の部位92は基板上に設けられる。第1の部位90または第2の部位92において結合する対象の単分子が存在すれば、ソース−ドレイン電流に観察可能な変化が生じるので、検出することができる。吸着された分子のさらなる識別は、ソース−ドレインバイアスおよびゲートバイアスが変えられるときに、以下に詳細に考察するようなI−V「符号」を分析することによって可能である。
【0094】
図9aを参照すると、本発明のMSETデバイスの活性領域の略図がより詳細に示されている。このMSET構造体は電気絶縁性のある2つのσボンド基102の間に位置する分子半導体コア100として概念化することができる。このコアに取り付けられた化学的に活性のある基104が対象となる分子を結合する。分子100の各末端はシリコン電極106に化学結合する。図9bは図9aに示したデバイスのバンド構造の図を示しており、ΔVは小さな静電性の摂動(例えば、つながれた分子)が分子状態に及ぼす効果を表している。
【0095】
SETの導電率はゲート電圧(Vg)およびソース−ドレイン電圧(VDS)の両方によって制御することができる。図10aは得られた導電率マップをクローンブロッケイドを呈する従来のSETに対するVgおよびVDSの関数として示している。
【0096】
本明細書に記載のタイプのMSETデバイスは分子の電子的特性に特異的な付加的な構造を示す。これを図10bに示す。この符号はつながれた分子の詳細に対して非常に反応しやすくなるかもしれず、これを用いて吸着された分子を識別することもできる。分子識別プロセスは、分子の骨格(backbone)のみのエネルギーレベルおよびまた検体(すなわち、対象の分子)が取り付けられた骨格のエネルギーレベルの量子力学計算によって促進される。次に、これらのエネルギーレベルを用いてSETトランスポートの正当な理論を強化してMSETのI−V特性および伝導性マップを予測することができる。これによってつながれた分子の固有の識別が可能となり、骨格分子および受容体分子の設計および合成も誘導される。
【0097】
検出事象に関連する小さな(ピコアンペア)電流変位を検出するには、低雑音増幅器が必要になる。このような増幅器は工場の0.35μmCMOSプロセスに基づいて製造することができる。検出器回路はMSETの電極構造体を製造するのに用いられる同じCMOS(0.35μm)プロセス技術を用いて製造することができる。したがって、MSETおよび増幅回路は同じプロセスフローで、故に同じシリコンチップで製造することができる。完全に集積化されたMSETデバイスを完成するためには、後処理はCMOSパッシベーション層にMSET支持構造体へのアクセス窓を開け、次に、関連する有機分子を自己集合した単分子層の形態で導入することが必要となろう。示差測定法、および検出器のアレイを単一のチップ上に設けることも可能である。
【0098】
シリコン電極への活性分子の取り付けは化学結合によって達成される。この分子は各末端で取り付けられるのが好ましいので、二官能性の対称分子が好ましい。当業者であれば、例えば以下のような種々の取り付け方法の選択肢が理解されよう。
(i)シリコン表面を二酸化シリコンに酸化することで、トリアルコキシシラン基とつながれるのに適した表面が提供される。この化学反応は確立されており、分子の緻密な自己集合した単分子層の形成が可能となる。この技術を適用してSET用の活性分子の分散配列を形成することは容易である。
(ii)シリコン表面を塩素処理し、有機アミンと反応することのできる活性Si−Cl結合の配列を提供して、強固に結合した層を提供する。脂肪族アミンおよび芳香族アミンの緻密な層を組み立てることができ、この方法は有機アミンが比較的簡単な合成ターゲットであるという利点を有する。
(iii)シリコン表面を有機リチウム試薬またはグリニャール(Grignard)試薬と反応させることで、表面結合した有機分子への経路が得られる。この反応は表面の塩素処理によるか、または電気化学的に促進することができる。
(iv)有機アルケンをヒドロシリル化反応によってSi−H表面基を有するシリコンと結合することができる。
【0099】
上記選択肢は幅広い有機材料および表面処理条件を包含する。つまり、どれを使用するかの選択は、分子の合成の容易さおよびあらゆる材料および現行の種々の構造体とのプロセスの適合性によって決定されるであろう。
【0100】
SETに取り付けられる分子は、CMOSゲート酸化物の厚いところを架橋するのに十分な長さの棒状の分子ワイヤであることが好ましい。以下分子「I」と呼ぶことにする、図11に示した分子は、使用される分子の基礎を形成することのできる分子を表す。この分子(I)は金電極上につながれるために優れた純度および高い歩留りで既に合成されたものである。この分子の長さは6.8nmである。可溶性を保つために側置換基が提供されるが、分かりやすいように省略した。分子(I)は適した分子長を有し、溶液中でも可逆的な電気化学的ドーピング(還元)を有し、また表面に取り付けられるために各末端に官能基を有する。さらなる研究によって、官能基を(I)の側方に取り付けて、化学的検出のためのレセプタ部位を提供することができることが実証されている。
【0101】
SETで使用するのに適したものにするために、分子Iには種々の変更が必要である。まず、分子棒を改変して各末端に電気絶縁性のユニットを提供する。例えば、2,2,2−バイシクロオクタンなどの脂環式ユニットは構造体の剛性を維持する候補ユニットを提供する。また、この末端基を改変して、金ではなくシリコンに結合するのに適したものにする。対象の分子を選択的に結合するように調整された化学的受容ユニットを組み込む。ゲート酸化物の長さに正確に合うようにこの分子長も調整する。これによって固有の環境で電極上で容易につながれるようになる。原子を加えることによって0.2〜0.3nm単位の増加の合成段階で、かつ僅かに長いかまたは短い結合長を有する基と化学基を換えることによってより微細な規模で分子長を制御できることがよく知られている。
【0102】
求核基を組み込んだ受容体を加えれば、MSETはF−の求核置換反応によって殺虫剤などのフルオロホスホネート剤を結合する。異なる受容体が主鎖分子に取り付けられたMSET検出器のアレイを有することによって、さらなる識別を行うことができる。パタン認識技術を用いて、MSETの測定された伝導性を分析することもでき、これによって検体が識別される。
【0103】
MSETの製造中、光電子分光法を用いて、十分な感度のプローブを提供して電極表面上の有機材料の付着を監視することができ、被覆度合いを評価することが可能となる。別の場合、伝導性を現場(in situ)で監視することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1a】本発明のガス分析器を示す略図である。
【図1b】本発明のガス分析器を示す略図である。
【図2】ガス分析器システムの前濃縮装置を示す平面図である。
【図3】シリコンウェハにエッチングされたバイアを示す断面図である。
【図4】高多孔性シリコンを示すTEM像である。
【図5】図2の前濃縮装置のモデル化した温度分布を示す図である。
【図6a】開位置構成のガス検出システムのガスシャッタを示す図である。
【図6b】閉位置構成のガス検出システムのガスシャッタを示す図である。
【図7】図6aおよび図6bに関して記載したタイプのガスシャッタの一例を示す図である。
【図8】ガス検出システムの分子単電子トランジスタ(MSET)検出デバイスを示す略図である。
【図9a】MSETのレセプタ部分を示す略図である。
【図9b】デバイスのバンド構造を示す略図である。
【図10a】従来のSETの2D伝導性マップである。
【図10b】MSETの2D伝導性マップである。
【図11】図8〜10bのMSETで使用される分子の基礎を形成することができる分子「I」を示す構造式である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドレイン電極およびソース電極に取り付けられ、使用中、量子閉じ込め領域を提供する少なくとも1つの有機分子を含む分子単電子トランジスタ(MSET)検出デバイスであって、少なくとも1つの検体レセプタ部位が前記少なくとも1つの有機分子の近傍に提供されることを特徴とする、分子単電子トランジスタ検出デバイス。
【請求項2】
少なくとも1つの有機分子は少なくとも1つの検体レセプタ部位を提供する請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
少なくとも1つの検体レセプタ部位は前記少なくとも1つの有機分子に隣り合って位置決めされるが、前記少なくとも1つの有機分子には取り付けられていない請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記少なくとも1つの有機分子は第1および第2の末端を有する細長い共役有機分子であり、第1の末端は前記ソース電極に取り付けられ、かつ第2の末端はドレイン電極に取り付けられた請求項1から3のいずれかに記載のデバイス。
【請求項5】
有機単分子はソース電極およびドレイン電極に取り付けられた請求項1から4のいずれかに記載のデバイス。
【請求項6】
前記少なくとも1つの有機分子はトンネル障壁を介してソース電極およびドレイン電極に取り付けられた請求項1から5のいずれかに記載のデバイス。
【請求項7】
トンネル障壁は前記少なくとも1つの有機分子の電気絶縁性の領域によって提供される請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
ソース電極およびドレイン電極は各々、前記トンネル障壁を形成する絶縁性材料を含む請求項6に記載のデバイス。
【請求項9】
ゲート電極をさらに含む請求項1から8のいずれかに記載のデバイス。
【請求項10】
材料の第1の層は前記ソース電極を提供し、材料の第2の層は前記ドレイン電極を提供し、前記第1および第2の層は実質的に絶縁性材料の第3の層を挟み込み、かつ第3の層により離間された請求項1から9のいずれかに記載のデバイス。
【請求項11】
実質的に絶縁性材料の第3の層に凹部を設けて、少なくとも1つの有機分子が位置決めされる領域をドレイン電極とソース電極との間に提供する請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
実質的に絶縁性材料の第3の層の厚さは少なくとも1つの有機分子の長さに実質的に等しい請求項10または11に記載のデバイス。
【請求項13】
第1および第2の材料の層の少なくとも一方は半導体材料からなる請求項10から12のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項14】
半導体材料はシリコンからなる請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
少なくとも1つの有機分子はシリコンに結合する末端鎖を含む請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
第1の材料の層はシリコンウェハからなり、第2の材料の層はポリシリコンからなり、かつ実質的に絶縁性材料の第3の層は酸化シリコンからなる請求項10から15のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項17】
直接的または間接的に請求項10を引用する場合、ウェハは付加的にはポリシリコンの層を担持してゲート電極を形成し、第4の層が酸化シリコンの層によってシリコンウェハから分離された請求項16に記載のデバイス。
【請求項18】
相補型金属酸化膜半導体(CMOS)製造プロセスを含むプロセスを用いて形成される請求項16または17に記載のデバイス。
【請求項19】
少なくとも1つの有機分子の導電率を印加されたソース−ドレイン電圧に応じて測定する手段をさらに含む請求項1から18のいずれかに記載のデバイス。
【請求項20】
直接的または間接的に請求項10を引用する場合、少なくとも1つの有機分子の導電率を印加されたゲート電圧に応じて測定する手段をさらに含む請求項1から19のいずれかに記載のデバイス。
【請求項21】
少なくとも1つの有機分子の導電率を測定する集積電子回路をさらに含む請求項19または20に記載のデバイス。
【請求項22】
請求項1から21のいずれかに記載のMSETデバイスを備えた流体分析器。
【請求項23】
流体から検体を放出自在に保持する前濃縮装置をさらに備えた請求項22に記載の分析器。
【請求項24】
前濃縮装置は流体が通過することのできる複数の開口部を有する材料の層を含み、前記開口部の内面は流体から検体を放出自在に保持するように構成された請求項23に記載の分析器。
【請求項25】
前濃縮装置の前記複数の開口部を画定する内面は多孔化された請求項24に記載の分析器。
【請求項26】
前濃縮装置が形成される材料の層はシリコンの層を含み、前記開口部は前記シリコンの層を貫通して形成され、かつハニカム構造体を形成するように配置された請求項24または25に記載の分析器。
【請求項27】
前濃縮装置の開口部の内面は可逆的吸着性である請求項24から26のいずれか一項に記載の分析器。
【請求項28】
前濃縮装置はヒータを含む請求項23から27のいずれか一項に記載の分析器。
【請求項29】
前濃縮装置からMSETデバイスへの流体の流れを制御する流体ゲート構造体をさらに含む請求項23から28のいずれか一項に記載の分析器。
【請求項30】
流体ゲート構造体は前濃縮装置からMSETデバイスおよび排出口のいずれか一方に流体を選択的に送るように配置された請求項29に記載の分析器。
【請求項31】
流体ゲート構造体は実質的に平坦な基板と前記基板の面内で可動であるシャッタとを含む請求項29または30に記載の分析器。
【請求項32】
流体は、流体ゲート構造体の実質的に平坦な基板の面に対して実質的に垂直な長軸を有するチャネルに沿って流体ゲート構造体からMSETデバイスへ送られる請求項31に記載の分析器。
【請求項33】
流体ゲート構造体は、前記チャネルへの入口と噛み合い、かつそれを密封するような形状であるシャッタを含む請求項32に記載の分析器。
【請求項34】
電力を印加しなくても、流体が前濃縮装置からMSETデバイスまで送られる開位置または流体が前濃縮装置から排出口まで送られる閉位置にシャッタが保持され得る請求項31から33のいずれか一項に記載の分析器。
【請求項35】
シャッタは微小電気機械(MEMS)シャッタである請求項31から34のいずれか一項に記載の分析器。
【請求項36】
流体ゲート構造体はMEMSシャッタに運動を付与するMEMS電熱作動機構を含む請求項35に記載の分析器。
【請求項37】
流体ゲート構造体はMEMSに順応する変位機構をさらに含む請求項36に記載の分析器。
【請求項38】
前濃縮装置、流体ゲートデバイス、およびMSETデバイスは実質的に平坦な層として形成され、かつ積層体として配置された請求項29から37のいずれかに記載の分析器。
【請求項39】
実質的に平坦な層の各々はシリコンからなる請求項38に記載の分析器。
【請求項40】
流体ポンプをさらに含む請求項22から39のいずれか一項に記載の分析器。
【請求項41】
一体型電源をさらに含む請求項22から40のいずれか一項に記載の分析器。
【請求項42】
化学的検出方法であって、
(a)ドレイン電極およびソース電極に取り付けられた、使用中に量子閉じ込め領域を提供する少なくとも1つの有機分子を含んだ分子単電子トランジスタを取得する工程と、
(b)検体を受け取るための、前記少なくとも1つの有機分子近傍に少なくとも1つの検体レセプタ部位を提供する工程とを含む方法。
【請求項43】
(c)前記分子単電子トランジスタの電気特性を測定して検体の存在または不存在を決定する工程をさらに含む請求項42に記載の化学的検出方法。
【請求項44】
少なくとも1つの検体レセプタ部位の上を流体を通過させる工程をさらに含む請求項42または43に記載の化学的検出方法。
【請求項45】
分子単電子トランジスタデバイス用のキャリアであって、キャリアがソース電極を提供するための第1の材料の層と、ドレイン電極を提供するための第2の材料の層とを含むことを特徴とし、前記第1および第2の材料の層は実質的に絶縁性材料の第3の層を挟み込み、かつ第3の層により離間されたキャリア。
【請求項46】
少なくとも1つの有機分子がドレイン電極およびソース電極に取り付けることができるように配置された請求項45に記載のキャリア。
【請求項47】
ソース電極およびドレイン電極は前記少なくとも1つの有機分子の長さに実質的に等しい距離だけ離間された請求項46に記載のキャリア。
【請求項48】
前記ソース電極およびドレイン電極に取り付けられた、使用中に量子閉じ込め領域を提供する少なくとも1つの有機分子をさらに含む請求項45から47のいずれか一項に記載の分子単電子トランジスタ(MSET)検出デバイス。
【請求項49】
ドレイン電極およびソース電極に取り付けられた、使用中に量子閉じ込め領域を提供する少なくとも1つの有機分子を含む分子単電子トランジスタ検出デバイスであって、前記ソース電極および前記ドレイン電極のうちの少なくとも一方が半導体材料から形成されることを特徴とする分子単電子トランジスタ(MSET)検出デバイス。
【請求項50】
(i)ソース電極およびドレイン電極を形成する工程と、(ii)前記ソース電極とドレイン電極との間に有機分子を位置決めする工程とを含む、分子単電子トランジスタを形成する方法であって、前記ソース電極およびドレイン電極は相補型金属酸化膜半導体(CMOS)プロセスを用いて形成されることを特徴とする分子単電子トランジスタを形成する方法。
【請求項1】
ドレイン電極およびソース電極に取り付けられ、使用中、量子閉じ込め領域を提供する少なくとも1つの有機分子を含む分子単電子トランジスタ(MSET)検出デバイスであって、少なくとも1つの検体レセプタ部位が前記少なくとも1つの有機分子の近傍に提供されることを特徴とする、分子単電子トランジスタ検出デバイス。
【請求項2】
少なくとも1つの有機分子は少なくとも1つの検体レセプタ部位を提供する請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
少なくとも1つの検体レセプタ部位は前記少なくとも1つの有機分子に隣り合って位置決めされるが、前記少なくとも1つの有機分子には取り付けられていない請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記少なくとも1つの有機分子は第1および第2の末端を有する細長い共役有機分子であり、第1の末端は前記ソース電極に取り付けられ、かつ第2の末端はドレイン電極に取り付けられた請求項1から3のいずれかに記載のデバイス。
【請求項5】
有機単分子はソース電極およびドレイン電極に取り付けられた請求項1から4のいずれかに記載のデバイス。
【請求項6】
前記少なくとも1つの有機分子はトンネル障壁を介してソース電極およびドレイン電極に取り付けられた請求項1から5のいずれかに記載のデバイス。
【請求項7】
トンネル障壁は前記少なくとも1つの有機分子の電気絶縁性の領域によって提供される請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
ソース電極およびドレイン電極は各々、前記トンネル障壁を形成する絶縁性材料を含む請求項6に記載のデバイス。
【請求項9】
ゲート電極をさらに含む請求項1から8のいずれかに記載のデバイス。
【請求項10】
材料の第1の層は前記ソース電極を提供し、材料の第2の層は前記ドレイン電極を提供し、前記第1および第2の層は実質的に絶縁性材料の第3の層を挟み込み、かつ第3の層により離間された請求項1から9のいずれかに記載のデバイス。
【請求項11】
実質的に絶縁性材料の第3の層に凹部を設けて、少なくとも1つの有機分子が位置決めされる領域をドレイン電極とソース電極との間に提供する請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
実質的に絶縁性材料の第3の層の厚さは少なくとも1つの有機分子の長さに実質的に等しい請求項10または11に記載のデバイス。
【請求項13】
第1および第2の材料の層の少なくとも一方は半導体材料からなる請求項10から12のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項14】
半導体材料はシリコンからなる請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
少なくとも1つの有機分子はシリコンに結合する末端鎖を含む請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
第1の材料の層はシリコンウェハからなり、第2の材料の層はポリシリコンからなり、かつ実質的に絶縁性材料の第3の層は酸化シリコンからなる請求項10から15のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項17】
直接的または間接的に請求項10を引用する場合、ウェハは付加的にはポリシリコンの層を担持してゲート電極を形成し、第4の層が酸化シリコンの層によってシリコンウェハから分離された請求項16に記載のデバイス。
【請求項18】
相補型金属酸化膜半導体(CMOS)製造プロセスを含むプロセスを用いて形成される請求項16または17に記載のデバイス。
【請求項19】
少なくとも1つの有機分子の導電率を印加されたソース−ドレイン電圧に応じて測定する手段をさらに含む請求項1から18のいずれかに記載のデバイス。
【請求項20】
直接的または間接的に請求項10を引用する場合、少なくとも1つの有機分子の導電率を印加されたゲート電圧に応じて測定する手段をさらに含む請求項1から19のいずれかに記載のデバイス。
【請求項21】
少なくとも1つの有機分子の導電率を測定する集積電子回路をさらに含む請求項19または20に記載のデバイス。
【請求項22】
請求項1から21のいずれかに記載のMSETデバイスを備えた流体分析器。
【請求項23】
流体から検体を放出自在に保持する前濃縮装置をさらに備えた請求項22に記載の分析器。
【請求項24】
前濃縮装置は流体が通過することのできる複数の開口部を有する材料の層を含み、前記開口部の内面は流体から検体を放出自在に保持するように構成された請求項23に記載の分析器。
【請求項25】
前濃縮装置の前記複数の開口部を画定する内面は多孔化された請求項24に記載の分析器。
【請求項26】
前濃縮装置が形成される材料の層はシリコンの層を含み、前記開口部は前記シリコンの層を貫通して形成され、かつハニカム構造体を形成するように配置された請求項24または25に記載の分析器。
【請求項27】
前濃縮装置の開口部の内面は可逆的吸着性である請求項24から26のいずれか一項に記載の分析器。
【請求項28】
前濃縮装置はヒータを含む請求項23から27のいずれか一項に記載の分析器。
【請求項29】
前濃縮装置からMSETデバイスへの流体の流れを制御する流体ゲート構造体をさらに含む請求項23から28のいずれか一項に記載の分析器。
【請求項30】
流体ゲート構造体は前濃縮装置からMSETデバイスおよび排出口のいずれか一方に流体を選択的に送るように配置された請求項29に記載の分析器。
【請求項31】
流体ゲート構造体は実質的に平坦な基板と前記基板の面内で可動であるシャッタとを含む請求項29または30に記載の分析器。
【請求項32】
流体は、流体ゲート構造体の実質的に平坦な基板の面に対して実質的に垂直な長軸を有するチャネルに沿って流体ゲート構造体からMSETデバイスへ送られる請求項31に記載の分析器。
【請求項33】
流体ゲート構造体は、前記チャネルへの入口と噛み合い、かつそれを密封するような形状であるシャッタを含む請求項32に記載の分析器。
【請求項34】
電力を印加しなくても、流体が前濃縮装置からMSETデバイスまで送られる開位置または流体が前濃縮装置から排出口まで送られる閉位置にシャッタが保持され得る請求項31から33のいずれか一項に記載の分析器。
【請求項35】
シャッタは微小電気機械(MEMS)シャッタである請求項31から34のいずれか一項に記載の分析器。
【請求項36】
流体ゲート構造体はMEMSシャッタに運動を付与するMEMS電熱作動機構を含む請求項35に記載の分析器。
【請求項37】
流体ゲート構造体はMEMSに順応する変位機構をさらに含む請求項36に記載の分析器。
【請求項38】
前濃縮装置、流体ゲートデバイス、およびMSETデバイスは実質的に平坦な層として形成され、かつ積層体として配置された請求項29から37のいずれかに記載の分析器。
【請求項39】
実質的に平坦な層の各々はシリコンからなる請求項38に記載の分析器。
【請求項40】
流体ポンプをさらに含む請求項22から39のいずれか一項に記載の分析器。
【請求項41】
一体型電源をさらに含む請求項22から40のいずれか一項に記載の分析器。
【請求項42】
化学的検出方法であって、
(a)ドレイン電極およびソース電極に取り付けられた、使用中に量子閉じ込め領域を提供する少なくとも1つの有機分子を含んだ分子単電子トランジスタを取得する工程と、
(b)検体を受け取るための、前記少なくとも1つの有機分子近傍に少なくとも1つの検体レセプタ部位を提供する工程とを含む方法。
【請求項43】
(c)前記分子単電子トランジスタの電気特性を測定して検体の存在または不存在を決定する工程をさらに含む請求項42に記載の化学的検出方法。
【請求項44】
少なくとも1つの検体レセプタ部位の上を流体を通過させる工程をさらに含む請求項42または43に記載の化学的検出方法。
【請求項45】
分子単電子トランジスタデバイス用のキャリアであって、キャリアがソース電極を提供するための第1の材料の層と、ドレイン電極を提供するための第2の材料の層とを含むことを特徴とし、前記第1および第2の材料の層は実質的に絶縁性材料の第3の層を挟み込み、かつ第3の層により離間されたキャリア。
【請求項46】
少なくとも1つの有機分子がドレイン電極およびソース電極に取り付けることができるように配置された請求項45に記載のキャリア。
【請求項47】
ソース電極およびドレイン電極は前記少なくとも1つの有機分子の長さに実質的に等しい距離だけ離間された請求項46に記載のキャリア。
【請求項48】
前記ソース電極およびドレイン電極に取り付けられた、使用中に量子閉じ込め領域を提供する少なくとも1つの有機分子をさらに含む請求項45から47のいずれか一項に記載の分子単電子トランジスタ(MSET)検出デバイス。
【請求項49】
ドレイン電極およびソース電極に取り付けられた、使用中に量子閉じ込め領域を提供する少なくとも1つの有機分子を含む分子単電子トランジスタ検出デバイスであって、前記ソース電極および前記ドレイン電極のうちの少なくとも一方が半導体材料から形成されることを特徴とする分子単電子トランジスタ(MSET)検出デバイス。
【請求項50】
(i)ソース電極およびドレイン電極を形成する工程と、(ii)前記ソース電極とドレイン電極との間に有機分子を位置決めする工程とを含む、分子単電子トランジスタを形成する方法であって、前記ソース電極およびドレイン電極は相補型金属酸化膜半導体(CMOS)プロセスを用いて形成されることを特徴とする分子単電子トランジスタを形成する方法。
【図1a】
【図1b】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7】
【図8】
【図9a】
【図9b】
【図10a】
【図10b】
【図11】
【図1b】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7】
【図8】
【図9a】
【図9b】
【図10a】
【図10b】
【図11】
【公表番号】特表2007−513322(P2007−513322A)
【公表日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−537442(P2006−537442)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【国際出願番号】PCT/GB2004/004699
【国際公開番号】WO2005/048350
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(501352882)キネテイツク・リミテツド (93)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【国際出願番号】PCT/GB2004/004699
【国際公開番号】WO2005/048350
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(501352882)キネテイツク・リミテツド (93)
【Fターム(参考)】
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