説明

分子治療用生分解性リンカー

生体材料を動物細胞又は組織に送達するための方法及び組成物であって:(a)生体材料;(b)加水分解性結合を有する生分解性クロスリンカー部位であって、前記生体材料に共有結合により結合された生分解性クロスリンカー部位;並びに(c)前記生分解性クロスリンカーが前記加水分解性結合の切断によって加水分解し、前記生体材料を放出及び送達し得るように、生分解性クロスリンカー部位に共有結合により結合された基体を含んでなる、方法及び組成物。また、この組成物を製造する方法も提供される。更に、生体材料を動物細胞又は組織に送達する方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面修飾に関し、より具体的には、表面への分子のクロスリンキングと、クロスリンクの分解による分子の放出とに関する。
【背景技術】
【0002】
核酸、タンパク質、細胞、医薬製剤、診断用薬剤等の様々な生体材料の送達は、集中的な研究の対象となってきた。遺伝子治療とは一般的に、核酸、例えばアンチセンスDNAやRNA、リボザイム、ウイルスゲノム断片、機能的に活性な治療用遺伝子等を、標的細胞に送達するように設計された技術を指すものと解される(Culver, 1994, Gene Therapy: A Handbook for Physicians, Mary Ann Liebert, Inc., New York, NY)。このような核酸は、例えばmRNAの翻訳を阻害するアンチセンスDNAのように、それら自体が治療作用を有する場合もあるが、細胞機能を促進、阻害、増強、或いは代替する治療用タンパク質等をコード化するものもある。遺伝子治療の成果は、所望の有機体に対する遺伝子送達の速度や質を操作する能力によって、評価することができる。
【0003】
現在の遺伝子治療戦略の重大な欠点の一つは、生体外及び生体内の何れの遺伝子治療法においても、従来言及されてきたベクターと送達系との組み合わせでは、標的となる集団の細胞の内部へ核酸を効率的に送達することができないという点である。
【0004】
ウイルスベクターは一般的に、最も効率的な核酸送達ベクターであると見做されている。組み換え複製欠損ウイルスベクターは、生体外及び生体内の双方において、動物細胞への形質導入(即ち、感染やトランスフェクション)に用いられてきた。このようなベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、及びヘルペスウイルスベクターが挙げられる。これらは遺伝子移入には極めて有効であるが、ウイルスベクターの使用に伴う主な不利点の一つは、多くのウイルスベクターが非分裂細胞には感染できないという点である。ウイルス遺伝子ベクターの使用に伴うもう一つの重大な課題は、このようなベクターは投与される患者に免疫応答を誘発する可能性があるという点である。このような免疫応答は、ウイルスベクターの有効性を制限することになる。ベクターの反復又は継続投与の際に、患者の免疫系がベクターを即座に排除してしまうからである。更に、ウイルスベクターにより遺伝子を細胞のゲノムに挿入すると、望ましからぬ突然変異を細胞に誘発してしまう場合がある。ウイルス遺伝子ベクターに伴う他の課題として、トランスフェクトされた細胞における経時的な遺伝子発現を適切に調節できない点、ウイルスベクターをヒト組織に送達することにより生じる毒性や他の副作用(例えば肝障害や心筋炎)、有害なウイルス粒子の産生や他のヒトへの伝播の可能性等が挙げられる。
【0005】
更に、従来技術法で使用されてきたようなウイルス遺伝子ベクターは、選択した組織に特異的・局在的に送達できない場合が多かった。代わりに、従来技術に係るウイルスベクターの投与法の多くは、所望の標的組織と隣接する組織、或いは液性伝達する組織へと、ベクターが全身に分散してしまう結果を招いていた。ウイルスベクターを局在化できないという点は、これらの方法の有用性を減ずることになる。なぜなら、非局在ウイルスベクターが、意図しない組織にトランスフェクトして免疫応答を誘発してしまい、身体から即座に排出されてしまうか、さもなくばトランスフェクション能が低下してしまうからである。ウイルスベクターを局在的に送達する方法が強く求められている。
【0006】
ウイルスベクターは、タンパク質や他の治療用分子を、ウイルスベクターがトランスフェクトした細胞に送達するためのビヒクルとして用いることができる。こうしたタンパク質や他の治療用分子は、ウイルスベクター粒子に受動的且つ非特異的に取り込ませることができる。或いは、ウイルスベクターは、ポリペプチドのウイルス性パッケージングシグナルを融合したタンパク質を含んでなる融合タンパク質を、特異的に取り込む。
【0007】
ウイルスベクターは実験遺伝子治療プロトコルや人体研究において広く用いられてきたにもかかわらず(Feldman et al., 1997, Cardiovasc. Res. 35:391−404; Roth et al., 1997, J. Natl. Cancer Inst. 89:21−39)、これらのベクターの中で、ウイルスベクターを介した遺伝子治療に有効であると証明されたものはない。アデノウイルスベクターの欠点は、少なくとも部分的には、宿主個体の免疫応答や宿主個体の器官に対する細胞毒性効果により、導入遺伝子発現が制限されることに起因する、との仮説が立てられている(Smith et al., 1996, Gene Ther. 3:190−200; Tripathy et al., 1996, Nat. Med. 2:545−549; Nabel et al., 1995, Gene Ther. Cardiovasc. Dis. 91:541−548)。別の研究者等は、アデノウイルスベクターを突然変異させ、免疫原性や毒性をより少なくするべく取り組んでいる。
【0008】
殆どの細胞型においてウイルスベクターの取り込み効率が低く、また、ウイルスベクターによって送達された遺伝子コンストラクトの発現が低レベルであることに加えて、多くの標的細胞群は体内に非常に少数しか存在しないため、これら特定の細胞型のトランスフェクション効率はより一層低くなってしまう。よって、ウイルスベクターを標的細胞群へ効率的に送達することが可能な遺伝子治療法が必要とされている。本分野の他の研究者達は、例えば、特殊化した受容体リガンドをベクターに付着させることにより、標的アデノウイルスベクターを特定の細胞型に特異的に送達する試みに取り組んでいる(Tzimagiorgis et al., 1996, Nucl. Acids 24:3476−3477)。
【0009】
遺伝子送達に有用であるためには、ウイルスベクターは、その生化学成分がそれらの機能を保持した形で、標的細胞に送達されなければならない。具体的に、ウイルスベクターは、標的細胞に結合する能力、ベクターに担持された核酸を細胞の内部に送達する能力、及び、状況によっては、細胞内の核酸が関与する化学反応(例えば、逆転写、宿主細胞ゲノムへの統合、又は核酸上の遺伝子素の転写促進)を触媒する能力を保持していなければならない。よって、ウイルスベクターを、化学的に過酷な条件や生化学的に不活性化される条件に晒すことなく、患者に投与することが重要である。更に、多くの基質はウイルスベクターとの接触に適合していない。理想的には、ウイルスベクターを基質内や基質上に配置する場合、その基質は生分解性であって、外科及び治療行為における使用に適した形態であることが求められる。
【0010】
他の研究者は、アデノウイルスベクターをポリリジン又はカチオン性脂質と混合し、溶解性のウイルスベクター複合体を形成することにより、トランスフェクションの増強効果が得られることを立証した(Fasbender et al., 1997, J. Biol. Chem. 272:6479−6489)。しかしながら、このようなウイルス複合体は依然として、上に説明したウイルスベクター特有の不利点、例えば、ウイルスベクターが所望の組織と接触するための持続時間が短い等の不利点を有している。
【0011】
生体材料送達のアプローチの一つとして、生体材料を含んでなる組成物により医療機器に被膜を設け、その被膜から生体材料を放出するというものがある(例えば、U.S. Patent No. 6,143,037 to Goldstein et al. 及びその参考文献)。こうした被膜の課題は、被膜の性質によっては急性又は慢性の炎症反応を引き起こす場合がある、という点である(Lincoff et al., J. Am. Coll. Cardiol., 29, 808.16 (1997) 参照)。また、被膜からの核酸の送達は、核酸を標的細胞群に効率的に移入し、生体内で遺伝子産物の高レベルの発現を達成する能力が制限されてしまうという点でも、課題を有している。
【0012】
更に、現行の方法では、生体材料と送達ビヒクルとの間に、十分に強固な結合を形成することができない。例えば、プラスミドDNAをコラーゲンスポンジに取り込ませ、それを骨内にインプラントすることにより、核酸を首尾よく送達することが可能であるが、大半のDNAは極めて短期間(例えば1時間未満)のうちに逸出してしまう(Bonadio et al., Nat. Med. 1999, 5(7):753-9 参照)。他の公知の方法は、生体材料を十分に放出させるためには基質の生分解によるしかなく、それもあまりに不十分である。
【0013】
被膜内に生分解領域を組み入れることにより、これらの課題を解決する試みもなされている。参考として、例えばU.S. Patent No. 6,639,014 to Pathak et al. には、生物活性材料を生分解性ヒドロゲルに組み入れて放出・送達を制御することが開示されている。しかしながら、このアプローチも、被膜と被覆表面との間の結合強度が不十分であるという課題を解決するものではない。
【0014】
発明者等は以前、親和性アダプタ(又はコネクタ)、例えば特異抗体又は組み換えタンパク質(例えば受容体断片)を用いることにより、遺伝子治療ベクターを他の送達系の表面に付着させ、或いは他の送達系の内部に含ませることができることを実証した(U.S. Patent Application Serial No. 09/487,949 by Levy et al.、U.S. Patent Application Publication No. 2003/0044408A1 by Levy et al.、及びU.S. Patent No. 6,333, 194 to Levy et al. 参照)。
【0015】
他の研究者等は、帯電させた生物活性剤を逆の極性に帯電させた電極表面に可逆的に結合させ、その電極を生体系と接触させた後に、電極表面の電荷を解消することにより、帯電させた生物活性剤を生体系に送達する試みを行なっている(例えば、U.S. Patents 4,585,652 and 5,208,154)。これらの方法は、電極を電源に連結するための導線を設けなければならず、また、生物活性剤を電極表面から持続的に放出させることが困難であることから、大きな制約を受ける。よって、ウイルスベクターを特定の組織に送達する上で、こうした組成物の有効性には限界がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
生体材料を長期間投与でき、且つ、そうした投与に伴う免疫原性を最小限としながら、生体材料を所望の組織に送達するのに好適な組成物が、依然として強く求められている。同時にその組成物は、送達される生体材料の生物活性(例えば、ベクターのトランスフェクション効率)に不利な影響を及ぼすものでないことが求められる。ここで説明する本発明の組成物及び方法は、こうした要求を満足するものである。
【0017】
ここで言及する全ての文献は、その全体が引用によりここに組み入れられる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
即ち、本発明によれば、生体材料を動物細胞又は組織に送達するための組成物であって、(a)生体材料;(b)加水分解性結合を有する生分解性クロスリンカー部位であって、前記生体材料に共有結合により結合された生分解性クロスリンカー部位;並びに(c)前記生分解性クロスリンカーが前記加水分解性結合の切断によって加水分解し、前記生体材料を放出及び送達するように、生分解性クロスリンカー部位に共有結合により結合された基体を含んでなる、組成物が提供される。
【0019】
特定の実施形態によれば、前記生体材料は、核酸、遺伝子ベクター、タンパク質、ペプチド、及び細胞からなる群より選択される要素である。特定の実施形態によれば、前記生体材料は医薬製剤を含んでなる。
【0020】
特定の実施形態によれば、前記加水分解性結合はアシル−酸素結合を含んでなる。
【0021】
特定の実施形態によれば、前記生分解性クロスリンカー部位は、
【化1】

からなる群より選択される要素である。
【0022】
特定の実施形態によれば、前記基体は、金属、金属酸化物、ミネラル、セラミック、ポリマー、カーボン、オルガノシレート化(organosylated)材料、及び有機金属材料からなる群より選択される要素である。
【0023】
特定の実施形態によれば、前記生分解性クロスリンカー部位は、前記生体材料を放出及び送達するのに十分な期間作用するように選択される。
【0024】
また、本発明の組成物を使用する方法であって、前記加水分解性結合を加水分解して前記生体材料を放出することにより、前記生体材料を前記動物細胞又は前記組織に送達させるのに十分な期間、前記組成物を前記動物細胞又は前記組織に接触させる工程を含んでなる方法が提供される。前記方法の特定の実施形態によれば、前記組成物の前記生分解性クロスリンカー部位は、当該期間作用するように選択される。
【0025】
また、本発明の組成物を製造する方法であって、(a)前記加水分解性結合を含んでなる前記生分解性クロスリンカー部位、(b)生体材料反応性末端基、及び(c)基体反応性末端基を有する生分解性クロスリンカーを供給する工程;少なくとも一つの反応性基を有する基体を供給する工程;前記生体材料を供給する工程;前記基体を前記生分解性クロスリンカーの前記基体反応性末端基と反応させ、前記生分解性クロスリンカー部位を前記基体に共有結合により付着させる工程;及び、前記生体材料を前記生分解性クロスリンカーの前記生体材料反応性末端基と反応させることにより、前記生体材料を前記生分解性クロスリンカー部位に共有結合により付着させ、前記組成物を作製する工程を含んでなる方法が提供される。前記方法の特定の実施形態によれば、前記基体反応性末端基はチオール反応性基である。前記方法の特定の実施形態によれば、前記生体材料反応性末端基はスルホスクシンイミジルエステル基、トレシレート(tresylate)基、及びエポキシ基のうち少なくとも一種である。前記方法の特定の実施形態によれば、前記基体の少なくとも一つの反応性基はチオール基である。
【0026】
前記方法の特定の実施形態によれば、前記生分解性クロスリンカーは、
【化2】

からなる群より選択される要素である。
【0027】
前記方法の特定の実施形態によれば、前記生体材料は、核酸、遺伝子ベクター、タンパク質、ペプチド、及び細胞からなる群より選択される要素である。前記方法の特定の実施形態によれば、前記生体材料は医薬製剤を含んでなる。
【0028】
前記方法の特定の実施形態によれば、前記基体は、金属、金属酸化物、ミネラル、セラミック、ポリマー、カーボン、オルガノシレート化(organosylated)材料、及び有機金属材料からなる群より選択される要素である。
【0029】
前記方法の特定の実施形態によれば、前記基体を前記基体反応性末端基と反応させて生分解性クロスリンカー修飾生体材料を形成する前に、前記生体材料を前記生体材料反応性末端基と反応させる。
【0030】
前記方法の特定の実施形態によれば、前記生分解性クロスリンカーを供給する工程、及び前記生体材料と反応させる工程が:(i)前記生体材料反応性末端基及び第1の官能末端基を有する第1の反応物質と、(ii)(a)前記加水分解性結合を含んでなる前記生分解性クロスリンカー部位、(b)前記第1の官能末端基と反応可能な第2の官能末端基、及び、(c)基体反応性末端基を含んでなる、第2の反応物質とを供給する工程;前記生体材料を前記第1の反応物質の前記生体材料反応性末端基と反応させる工程;並びに前記第1の官能基を前記第2の官能基と反応させ、前記生分解性クロスリンカー修飾生体材料を形成する工程を含んでなる。
【0031】
本実施形態の一変形例によれば、前記第1の反応物質が、マレイミド−(スルホ)スクシンイミジルエステル、マレイミド−トレシレート(tresylate)、又はピリジルジチオ−(スルホ)スクシンイミジルエステルであり、前記第2の反応物質が、ジチオール、チオール−メチルスルフィド、又はビス(メチルスルフィド)である。
【0032】
また、生体材料を動物細胞又は組織に送達する方法であって、(a)生体材料;(b)加水分解性結合を有する生分解性クロスリンカー部位であって、前記生体材料に共有結合により結合された生分解性クロスリンカー部位;及び(c)前記生分解性クロスリンカーが前記加水分解性結合の切断によって加水分解し、前記生体材料を放出するように、前記生分解性クロスリンカー部位に共有結合した基体を含んでなる、組成物を供給する工程;並びに、前記加水分解性結合を加水分解して前記生体材料を放出することにより、前記生体材料を動物細胞又は組織に送達するのに十分な期間、前記組成物を前記動物細胞又は前記組織に接触させる工程を含んでなる方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明について図を用いて説明するが、図中の同じ符号は同じ要素を表わす。
本発明は、生体材料(例えば、遺伝子ベクター、組み換えタンパク質、細胞、及び薬剤)を表面に共有結合により連結するための組成物及び方法であって、組成物を加水分解に晒すことにより、選択された生分解性クロスリンカー内の結合が切断されて、生体材料を制御下で表面から放出できるような組成物及び方法を開発しようとする要求の下になされたものである。本発明は、様々な用途において、生体材料を身体又は細胞に送達するために使用できる。例えば、治療用ウイルスベクターを冠動脈ステントに共有結合により結合させれば、再狭窄防止の遺伝子治療に対する新たなアプローチとなる。
【0034】
遺伝子ベクターを様々な表面に結合させる手法を検討するうちに、本発明者等は、市販の二官能性クロスリンキング剤、例えばスルホスクシンイミジル6−(3’−[2−ピリジルジチオ]−プロピオンアミド)ヘキサオナート等を用いて、遺伝子ベクターを表面に共有結合させると、ベクターを表面から脱離させることができないため、遺伝子送達を首尾よく行なうことができないとの知見を得た。この知見を基に、本発明者等は本知見に到達した。即ち、生分解性の加水分解可能な二官能性クロスリンカーを使用することにより、所望通り遺伝子ベクターを表面に共有結合で結合させることができ、且つ、ベクター機能の保持と、リンカーの加水分解による局在的な遺伝子移入とを実現することが可能となる。
【0035】
即ち、本発明によれば、生体材料を動物細胞又は組織に送達するための組成物であって、(a)生体材料;(b)加水分解性結合を有する生分解性クロスリンカー部位であって、前記生体材料に共有結合により結合された生分解性クロスリンカー部位;並びに(c)前記生分解性クロスリンカーが前記加水分解性結合の切断によって加水分解し、前記生体材料を放出及び送達するように、生分解性クロスリンカー部位に共有結合により結合された基体を含んでなる、組成物が提供される。特定の実施形態によれば、前記生体材料は、核酸、遺伝子ベクター、タンパク質、ペプチド、又は細胞である。特定の実施形態によれば、前記生体材料は、医薬製剤を含んでなる。
【0036】
本発明は、アデノウイルス(Ad)をステントに対して、開裂可能なクロスリンカーを介して共有結合により結合させると、クロスリンカーの加水分解による機能性Adの持続的な放出が可能となり、動脈壁への遺伝子移入を首尾よく達成できるという発見に基づくものである。例示される加水分解性エステル結合を組み込んだアミン−チオール反応性の二官能性クロスリンカー1(図1A)及び2(図1B)は、特別に合成されたものである。モデル実験によれば、化合物1におけるエステル結合の加水分解のt1/2は37℃で数週間程度であるのに対し、化合物2の加水分解は1桁のオーダーで速かった(同じ条件下におけるt1/2はほぼ数日であった)。こうして本発明者等は、適切なクロスリンカーを選択することで、生体材料の放出の時間を制御可能であることを見出した。
【0037】
組み換えアデノウイルスコンストラクトAd−GFPを加水分解性クロスリンカー2によりモル比1:30で修飾し、チオール化ポリアリルアミンビスホスフォネートの単層で被覆したステンレススチールのグリッドに結合させた。物理的に頑強とすべく、活性化されたステンレススチール表面上に設けた摩擦(摩耗)耐性のAd層を、蛍光染料Cy3で標識したウイルスベクターを用いて可視化した。SMCカルチャー(A10細胞)中で、共有結合したAd−GFPを有するステンレススチールグリッドを、厳密に局在化された導入遺伝子発現に導いたところ、形質導入開始を表わすクロスリンカーの加水分解によるAdの指数関数的な放出の後、20から72時間の間でX倍に増加した。同様にAd−GFPを共有結合させて修飾したステンレススチールステントを、ラット頚動脈モデル(n=6)に配置したところ、その4日後に大規模な内側及び外膜の形質導入が引き起こされたことが、蛍光顕微鏡法及び免疫組織化学により示された。これらの結果から、本発明の組成物により生体外及び生体内において生体材料を首尾よく送達できたことが裏付けられた。
【0038】
本発明の組成物の成分について詳しく説明する。
【0039】
生分解性クロスリンカー
本発明の生分解性クロスリンカーは、(a)加水分解性結合を含んでなる生分解性クロスリンカー部位、(b)生体材料反応性末端基、及び(c)基体反応性末端基を含んでなる。この生分解性クロスリンカーは、以下の一般式により表わすことができる。
t−A1−D−A2−Fp
ここで、Fpは、リンカーの残りの部分(Ft−A1−D−A2−)をアミノ酸残基(リジン、メチオニン等)に共有結合させる生体材料反応性末端基であり;A1及びA2は、ヘテロ原子(例えば、O、S、NH等)を含んでいてもよい、脂肪族又は芳香族のブリッジ又は部分であり;Dは、カルボン酸又はカルバミン酸のエステルを含んでなる、生理学的条件によって分解し得るブリッジ又は部分、或いは、水性媒体中で徐々に非酵素的に開裂し得るその他のブリッジであり;Ftは、基体反応性末端基、好ましくはチオール反応性基(ピリジルジチオ、マレイミド、ビニルスルホン、ヨードアセトアミド等)である。
【0040】
特定の実施形態によれば、前記加水分解性結合はアシル−酸素結合を含んでなる。本発明の生分解性クロスリンカーの非限定的な例を、図1A〜E、及び以下の式(a)〜(e)に示す。
【化3】

【0041】
好ましいクロスリンカーは、式(a)及び(b)のクロスリンカーであり、最も好ましいのは、式(b)のクロスリンカーである。
【0042】
特定の実施形態によれば、前記基体反応性末端基はチオール反応性基である。特定の実施形態によれば、前記生体材料反応性末端基は、スルホスクシンイミジルエステル基、トレシレート(tresylate)基、及びエポキシ基のうち、少なくとも一つである。前記の基体反応性末端基及び生体材料反応性末端基の選択は、選択された表面及び生体材料の反応性基の選択に依存する。例えば、表面の反応性基がチオール基である場合は、基体反応性末端基はチオール反応性基、例えば、ピリジルジチオ、マレイミド、ビニルスルホニル、エポキシ、又はヨードアセトアミド基等となる。同様に、生体材料が反応性基を有し、それがアミノ基の場合は、生体材料反応性末端基はアミノ基と反応し得る基、例えば、スルホスクシンイミジルエステル基、トレシレート(tresylate)基、エポキシ基、ペンタフルオロフェニルエステル基等であろう。基体反応性末端基及び生体材料反応性末端基の双方が同一であるか、又は同一の基と反応し得る基であってもよいが、異なる基であることが好ましい。また、基を選択する際には、表面及び/又は生体材料との反応を避けるべく、基体反応性末端基と生体材料反応性末端基とが互いに反応しないように留意すべきである。当業者であれば特段の実験を行なわなくとも、適切な基を選択できるはずである。
【0043】
加水分解により開裂し得るスペーサを有する、二つの生分解性の異種二官能性(アミノ及びチオール反応性)クロスリンカー1及び2(図1A及び1B、それぞれ式(a)及び(b))を、以下のように合成した。
【0044】
クロスリンカー1を調製するべく、SPDPを3−アミノプロパノールと反応させ、得られたアルコール3をアジピン酸無水物でアシル化し、エステル結合を有する酸4を形成させた。化合物4をN−ヒドロキシスルホスクシンイミド及びジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)でエステル化することにより、最終的にクロスリンカー1が得られた(図2)。
【0045】
ピリジルジチオアルコール3。
3−アミノプロパノール(0.76ml、10mmol)を、CH2Cl2(5ml)及び2−プロパノール(3ml)の混合物に溶解させ、氷浴で冷却した。SPDP(1.23g、3.9mmol)のCH2Cl2(2ml)中溶液を約1分間で加えた。この混合物を冷浴中で1.25時間攪拌し、13%NaH2PO4水溶液(15ml)及び85%H3PO4(0.5ml)を加えた。生成物を酢酸エチル(2×30ml)で抽出し、有機層を13%NaH2PO4、15%KHCO3で洗浄し、真空中で乾燥した。この粗化合物3(1.14g)をシリカゲルのフラッシュクロマトグラフィーで精製し、CHCl3及び2−プロパノールの混合物(体積比100:0から100:7)で溶出した。純化合物3の収率1.01g(94%)。化合物3のTLC(CHCl3〜2−プロパノール、9:1):1スポット、Rf約0.3。化合物3の1H NMR(CDCl3)、δ、ppm:1.68 (quint., 6Hz, 2H), 2.60 (t, 7Hz, 2H), 3.05 (t, 7Hz, 2H), 3.4 (br., 1H), 3.42 (q, 6Hz, 2H), 3.62 (br., 2H), 6.99 (br., 1H), 7.10 (m, 1H), 7.58−7.65 (m, 2H), 8.41 (m, 1H)。
【0046】
ピリジルジチオ−カルボン酸4。
アルコール3(1.44g、5.3mmol)をCH2Cl2(6ml)に溶解させ、アジピン酸無水物(1.74g、13.6mmol)を加えた(調製法は以下を参照:N. Ropson, P. H. Dubois, R. Jerome and P. H. Teyssie: Synthesis and characterization of biodegradable homopolymers and block copolymers based on adipic anhydride. Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry 1997, 35, 183−192)。混合物を真空下で乾燥してシロップ状とし(3.29g)、22℃で8時間反応させた後、ピリジン(5ml)で希釈した。10分間攪拌した後、水(55ml)を加え、この混合物を35〜40℃で約30gまで減圧濃縮した。酸4をCHCl3(2×50ml)で抽出し、4%KHCO3(3×40ml)中に再抽出した。水相をH3PO4でpH=3に酸性化し、酸4をCHCl3(3×40ml)で抽出した。この粗化合物(2.59g)を、シリカゲルのフラッシュクロマトグラフィーで精製し、CHCl3及び2−プロパノールの混合物(体積比100:0から100:8)で溶出した。純化合物4の収率:1.78g(84%)。化合物4のTLC(CHCl3〜2−プロパノール、9:1):1スポット、Rf約0.5。4の1H NMR(CDCl3)、δ、ppm:1.70 (m, 4H), 1 .88 (quint., 6Hz, 2H), 2.36 (t, 7Hz, 2H), 2.38 (t, 7Hz, 2H), 2.61 (t, 7Hz, 2H), 3.05 (t, 7Hz, 2H), 3.36 (q, 6Hz, 2H), 4.15 (t, 6Hz, 2H), 6.96 (br. t, 1H), 7.16 (m, 1H), 7.66−7.73 (m, 2H), 8.44 (m, 1H)。
【0047】
生分解性異種二官能性クロスリンカー1。
酸4(0.934g、2.33mmol)をN,N−ジメチルアセトアミド(17ml)に溶解させた。N−ヒドロキシスルホスクシンイミドのジナトリウム塩(Pierce、0.469g、2.16mmol)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(1.00g、4.85mmol)、及び水(2.0ml)を順に加え、混合物を20〜22℃で4時間攪拌した。ジシクロヘキシルウレアの沈殿を濾別し、濾液を(最高0.1mmHg、及び30℃を超えない条件で)減圧濃縮し、シロップ状とした(2.5g)。このシロップを数回に分けてヘキサン(計140ml)でよく洗浄し、酢酸エチル(45ml)を加えて凝固するまで練和した。4℃で一晩放置した後、固体を濾別し、tert−ブタノール(30ml)、酢酸エチル(60ml)で洗浄し、真空下で乾燥した。粗製物1(1.215g)を精製すべく、メタノール(30ml)に溶解させ、エタノール(30ml)で希釈し、セルロースCC 31(Whatman)層で濾過し、濾液を減圧濃縮して懸濁液(6.9g)とした後、続いて濾過し、エタノールで洗浄し、真空下で乾燥した。純クロスリンカー1の収率:1.06g(80%)。1の1H NMR(DMSO−d6)、δ、ppm:1.62 (m, 4H), 1.69 (quint., 7Hz, 2H), 2.33 (t, 7Hz, 2H), 2.49 (t, 7Hz, 2H), 2.68 (t, 7Hz, 2H), 2.85 (dd, 18, 2Hz, 1H), 3.01 (t, 7Hz, 2H), 3.10 (q, 7Hz, 2H), 3.16 (br., 1H), 3.94 (br. d, 1H) 4.01 (t, 7Hz, 2H), 7.25 (m, 1H), 7.76 (m, 1H), 7.83 (m, 1H), 8.00 (br. t, 6Hz, 1H), 8.46 (m, 1H)。
【0048】
クロスリンカー2の調製には、β−メルカプトエタノールを2−ピリジンスルフェニルクロリド(2,2’−ジピリジルジスルフィド及びCl2から新たに調製)と反応させ、得られた2−(2−ピリジルジチオ)エタノール5をBoc−Gly−OSuによりエステル化した。得られたBoc−グリシンエステル6を脱保護してアミン7とし、これをアジピン酸無水物でアシル化し、酸8を形成した。クロスリンカー1と同様にして、最終的にクロスリンカー2を調製した(図3参照)。
【0049】
2−(2−ピリジルジチオ)エタノール5。
2,2’−ジピリジルジスルフィド(Sigma−Aldrich、2.50g、11.35mmol)を乾燥ペンタン(150ml)中に懸濁させ、20分間、17〜20℃で激しく攪拌しながらCl2で飽和させた。得られた2−ピリジンスルフェニルクロリドの濃厚懸濁液を15mmHgで蒸発乾固させ、残渣をアルゴンで保護し、無水酢酸(39ml)を加えた。アルゴンによる保護を継続しながら、β−メルカプトエタノール(1.05ml)の無水酢酸(12ml)中溶液を、滴下により15分間かけて、18〜20℃で攪拌混合物に加えた。攪拌を更に5分間継続し、水(25ml)を加えた。反応溶液を真空下で乾燥してシロップ状とし(6.66g)、KHCO3(11g)の水(65ml)溶液を加えた。反応生成物をCHCl3(2×50ml)で抽出し、有機層をNa2SO4で乾燥し、乾燥剤を濾別し、真空下で溶媒を除去した。この粗化合物5(3.59g)をシリカゲルのフラッシュクロマトグラフィーで精製し、ヘキサン及び酢酸エチルの混合物(体積比5:1から1:1)で溶出した。純化合物5の収率:2.58g(92%)。5のTLC(ヘプタン〜酢酸エチル、2:3):1スポット、Rf約0.4。化合物5の1H NMR(CDCl3)、δ、ppm:2.93 (t, 6Hz, 2H), 3.77 (br. m, 2H), 5.75 (br. m, 1H), 7.13 (m, 1H), 7.38 (m, 1H), 7.56 (m, 1H), 8.49 (m, 1H)。
【0050】
Boc保護グリシンエステル6。
アルコール5(0.818g、4.36mmol)及びBoc−グリシンN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(Boc−GIy−OSu)(Sigma−Aldrich、1.835g、6.45mmol)を、乾燥ピリジン(3.5ml)中、55〜65℃で1時間攪拌した。反応混合物をトルエン(30ml)で希釈し、真空下で乾燥した。残渣(3.28g)を酢酸エチル(40ml)に溶解させ、ヘキサン(100ml)で希釈し、濾過して、10%NaCl(50ml)で洗浄した。有機層をNa2SO4で乾燥し、乾燥剤を濾別して、真空下で乾燥した。この粗化合物6(1.80g)をシリカゲルのフラッシュクロマトグラフィーで精製し、ヘキサン及び酢酸エチルの混合物(体積比5:1から1:1)で溶出した。純化合物6の収率:1.41g(94%)。化合物6のTLC(ヘプタン〜酢酸エチル、2:3):1スポット、Rf約0.7。化合物6の1H NMR(CDCl3)、δ、ppm:1.42 (s, 9H), 3.02 (t, 7Hz, 2H), 3.88 (d, 6Hz, 2H), 4.38 (t, 7Hz, 2H), 4.98 (br., 1H), 7.08 (m, 1H), 7.60−7.66 (m, 2H), 8.45 (m, 1H)。
【0051】
ピリジルジチオ−カルボン酸8。
化合物6(1.431g、4.1mmol)をCH2Cl2(10ml)に溶解させ、CF3COOH(5ml)を加えた。混合物を周囲温度で2時間放置した。揮発分を真空下で除去し、残渣であるアミンのトリフルオロ酢酸塩7(3.59g)を、CH2Cl2(10ml)とピリジン(5ml)との混合物に溶解させ、氷浴で冷却した。アジピン酸無水物(1.86g、14.5mmol)を滴下で1分間で加え、混合物を冷浴中で10分間、室温で0.5時間攪拌した。溶媒を真空下で除去し、残渣のシロップを水(40ml)で希釈し、KHCO3(4.0g)で中和し、30gまで減圧濃縮し(ピリジンを除去し)、H3PO4でpH=3に酸性化した。酸8をCHCl3(2×30ml)で抽出し、抽出物をNa2SO4で乾燥し、溶媒を真空下で除去した。この粗化合物8(2.35g)をKHCO3(3.0g)の存在下で水(60ml)に溶解し、非酸性不純物をCHCl3〜ヘキサン(体積比3:1、60ml)の混合物で抽出し、水相をH3PO4でpH=4に酸性化した。CHCl3(2×45ml)で抽出後、Na2SO4で乾燥し、溶媒を真空下で除去し、残渣(1.86g)を酢酸エチル(4ml)に溶解させ、ヘプタン(4ml)を徐々に加えて結晶化させた。化合物8の結晶を種晶として結晶化を補助した。結晶を濾別し、酢酸エチル〜ヘプタン(1:1、10ml)、ヘキサン(10ml)で洗浄し、真空下で乾燥した。純結晶化合物8の収率:1.31g(85%)。化合物8のTLC(CHCl3〜2−プロパノール、9:1):1スポット、Rf約0.4。化合物8の1H NMR(CDCl3)、δ、ppm:1.67 (m, 4H), 2.26 (t, 6Hz, 2H), 2.35 (t, 6Hz, 2H), 3.02 (t, 7Hz, 2H), 4.00 (d, 6Hz, 2H), 4.39 (t, 7Hz, 2H), 6.28 (br. t, 6Hz, 1H), 7.10 (m, 1H), 7.60−7.80 (m, 2H), 8.45 (m, 1H)。
【0052】
生分解性異種二官能性クロスリンカー2。
酸8(1.284g、3.45mmol)、N−ヒドロキシスルホスクシンイミドジナトリウム塩(Pierce、0.700g、3.22mmol)及びジシクロヘキシルカルボジイミド(1.50g、4.85mmol)を、N,N−ジメチルアセトアミド(26ml)及び水(3.0ml)中で、上述のクロスリンカー1について上述したのと同様にして反応させた。クロスリンカー2の単離及び精製は、クロスリンカー1の場合と同様に行なった。純クロスリンカー2の収率:1.652g(90%)。クロスリンカー2の1H NMR(DMSO−d6)、δ、ppm:1.61 (m, 4H), 2.18 (t, 6Hz, 2H), 2.67 (br. t, 6Hz, 2H), 2. 86 (d, 18Hz, 1H), 3.15 (br., 1H), 3.11 (t, 7Hz, 2H), 3.82 (d, 6Hz, 2H), 3.94 (br. d, 1H) 4.26 (t, 7Hz, 2H), 7.26 (m, 1H), 7.78 (m, 1H), 7.86 (m, 1H), 8.30 (br. t, 6Hz, 1H), 8.46 (m, 1H)。
【0053】
反応性基を有するよう官能化された表面
「表面」、「基体」、「基質」、又は「支持体」という語は、ここでは互換的に使用される語であって、本発明の生分解性クロスリンカーを介して生体材料を結合するのに適した官能基を有するよう処理又は官能化された、或いは処理又は官能化されるべき、任意の表面を意味する。こうした表面の非限定的な例としては、金属表面、少なくとも一の炭素を有する非金属表面、及び複合材料、例えばオルガノシレート化(organosylated)金属等、が挙げられる。
【0054】
本明細書において「金属支持体」とは、本発明に係る生体材料の送達に適した、一様な固体状の均一又は不均一材料からなる支持体、或いは支持構造ネットワークを指す。金属支持体は金属表面を有する如何なる構造であってもよいが、例としては機器類が挙げられ、好ましくは医療機器が挙げられる。「医療機器」という語は、医療行為の際に使用されうる任意の道具、機構、又は装置を意味する。例としては外科用インプラント、外科用縫合糸、及び補綴等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。本発明において好適な機器類は、少なくとも0.1mmの空間寸法を有することが好ましい。しかしながら、より小さな寸法(即ち、0.1mm未満)のものも対象となる。
【0055】
機器が「インプラントされる」とは、それが永久に又は一時的に細胞又は組織と接触した状態に置かれることをいう。この場合、その機器の全体或いは一部が、細胞又は組織と接触する。
【0056】
本発明の対象となる表面は、例えば生体材料の有機体への送達等、様々な用途に適した任意の形状又は形態を有し得る。ここで、この表面は、例えばステント、心臓血管弁、縫合糸等の既存の医療用インプラントを官能化し、次いで生体材料を結合させる処理を施したものでもよい。また、この表面は、所望の形状に成型する前或いは後に、まず官能化し、次いで生体材料を施したものでもよい。実施形態によっては、この表面は、以下に詳述するように、官能化されたポリマー粒子であってもよい。
【0057】
本発明における生体材料の送達に好適な医療機器としては、これらに制限されるものではないが、心臓弁、ワイヤー縫合糸、暫間関節置換具、及び尿路拡張具が挙げられる。本発明に好適な他の医療機器としては、整形用インプラント、例えば関節補綴、ネジ、釘、ナット、ボルト、プレート、ロッド、ピン、ワイヤー、挿入器、オステオポート(osteoports)、ハローシステム(halo systems)、並びに、脊髄や長骨の骨折や関節離断の安定化や固定に使用される他の整形用機器が挙げられる。他の機器としては、非整形用機器、暫間留置及び永久インプラント、例えば気管開口機器、空腸瘻及び胃瘻チューブ、尿道及び他の泌尿生殖器系インプラント、スタイレット、拡張具、ステント、血管用クリップ及びフィルター、ペースメーカー、皮下にインプラントされた血管カテーテルのワイヤーガイド及びアクセスポート、コンタクトレンズ等が挙げられる。好ましい実施形態によれば、この表面はステンレススチール表面を有する医療機器、例えばステントである。
【0058】
本発明において有用な他の機器の非限定的な例としては、例えば検査や診断の用途に使用可能な、コンテナー、プラットフォーム、プレートが挙げられる。
【0059】
本発明での使用に供すべく表面を官能化する用途の例を以下に挙げる。
【0060】
金属表面
金属支持体の官能化は、その金属に結合する化学部分を有するモノマー又はポリマーの表面修飾剤を用いて行なうことができる。これらは米国特許出願公開No. 2003/0044408 A1、Levy et al.、2002年6月14日出願に記載されており、その全体がここに組み込まれる。そうした金属材料を例示すると、ステンレススチール、MP35ステンレススチール、酸化アルミニウム、白金、白金合金、エルジロイ(elgiloy)、チバニウム(tivanium)、ビタリウム(vitallium)、チタン、チタン合金、NITINOL(ニッケル−チタン合金)、クロム、コバルト、それらの合金及び酸化物が挙げられる。
【0061】
金属支持体を官能化するのに好適な表面修飾剤としては、(i)金属表面に化学的に配位結合することができ、(ii)反応性基として、生分解性クロスリンカーの基体反応性末端基と共有結合的に反応するようにされた化学基を有する、任意の化合物が挙げられる。
【0062】
このような表面修飾剤の例としては、これらに制限されるものではないが、ポリビスホスフォネート及びポリアミンが挙げられ、好ましくはポリアミノビスホスフォネートである。分岐結合して増幅するための側官能基を有する他の表面配位性化合物としては、金属イオンに配位結合可能な基(例えばキレート配位基)、例えばホスホン酸基、ヒドロキサム酸基、カルボン酸基、スルホン酸残基、スルフィン酸基、アミノ基等、を有する、任意のポリマー、オリゴマー、又はモノマー化合物が挙げられる。
【0063】
金属表面用の表面修飾剤の反応性基は、生分解性クロスリンカーの基体反応性末端基と共有結合するようにされた化学基である。反応性基の非限定的な例としては、アミノ又はチオール基(また、潜在的な修飾として、例えばアルキルジチオ基、これは使用の直前にチオール基に還元することができる。)、アルキル化基(マレイミド、ビニルスルホニル、エポキシ、又はヨードアセトアミド基)、並びに、その他の基であって、他の反応性基と共有結合するのに好適であると同時に、表面の金属イオンに対する配位結合に対して比較的不活性な基が挙げられる。
【0064】
ポリマー性表面修飾剤のポリマー骨格は、水性環境下で十分に安定である必要があり、炭素原子のみからなる鎖で表わされるものでもよいが(例えばポリアリルアミン系ポリマー)、ヘテロ原子(酸素、窒素、等)をポリマー鎖中に有していてもよい(例えばポリリジン、ここで、金属に対してより良好に配位結合するよう、リジン残基の一部が修飾されて、キレート形成基が挿入されていてもよい。)。ポリマー性表面修飾剤はポリアミン由来でもよく、他のポリマー由来でもよい。例えば、ペンダントホスフォネート又はジェミナルビスホスフォネート基(表面の金属イオンへの配位のため)や、後段の反応のために潜在的なチオール官能性を有するアルキルジチオ基を有するポリマーであってもよい。
【0065】
キレート形成基は、金属イオンに配位結合可能であって、且つ、互いに近接して位置する、複数のユニットからなる化学要素であってもよい。これらが同時に同一の金属イオンに形成するので、相互作用の強度が高められる。キレート形成基が有するユニットは、金属イオンとの間に金属−酸素配位結合のみを形成可能なものでもよく(ジェミナルビスホスフォネート、ジェミナル若しくはビシナルジカルボキシレート、又はヒドロキサメート)、他の原子が関与するものでもよい(例えばイミノ二酢酸基、これは金属−酸素結合に加え、第3級アミノ基によって金属−窒素結合を形成する。)。
【0066】
金属表面への配位は、通常はpHに依存し、強酸性及び強アルカリ性の何れの媒体中でも抑制される。比較的強力なキレート化剤(例えば、ジェミナルビスホスフォネート基)は、広範囲のpH(およそ2から12)で使用できるのに対し、アミノ基は金属表面との配位結合に弱く、おそらくはそれらに特有のpKa値に近い、より狭い範囲のpH(脂肪族アミノ基の場合、約10)にしか有効でないと考えられる。これらの基は、単独又は組み合わせで、配位結合化学に基づく表面修飾に好適である。好ましくは、表面修飾剤はポリアミン、ポリアミノビスホスフォネート、ポリリジン又はポリアリルアミンである。
【0067】
例えば、金属表面を、潜在的なチオール基を有するポリアリルアミノビスホスフォネート(PAABP)又はポリ−ビスホスフォネートの何れかで処理し、ビスホスフォネート基の配位結合により結合する化学吸着層を形成してもよい。PAABPを使用する場合には、PAABP化学吸着層の第1級アミノ基を潜在的なチオール基に転換し、これを本発明の生分解性クロスリンカーの結合に使用してもよい。
【0068】
また、拡張化学(expansion chemistry)の幾つかの変法を使用することにより、化学吸着層に結合される反応性官能基の数を増幅することも可能である。即ち、増幅剤を使用することにより、反応性官能基の数を制御することができる。このような変形例の一つとして、化学吸着層に存在するチオール基を、多数のチオール反応性基を有するポリマー、例えば2−ピリジルジチオ−基(PDT−基)(PEI−PDT)で修飾した(ポリ)エチレンイミン(PEI)と反応させ、これを次いで還元剤で処理することにより、チオール基を形成することが挙げられる(実施例1参照)。
【0069】
例えば、ピリジルジチオ基は、水性(pH5から8)及び非水性媒体の双方において、チオールと迅速に反応し、安定なジスルフィド結合を形成する。大過剰のPAA−ピリジルジチオポリマーを使用することにより、増幅ポリマーの殆どのピリジルジチオ基は未反応のままとなり、後に還元されてチオール−基を形成することが可能となる。多数のピリジルジチオ基を有するポリマーは、SPDPをポリアリルアミンやポリエチレンイミン等のポリマー性アミンと反応させることにより調製し得る。これらのポリアミンは、その「遊離塩基」形において、非水性溶媒(ジクロロメタンや、ジクロロメタンとイソプロパノールとの混合物)に容易に溶解し、0〜20℃でSPDPと円滑に反応し得る。これらの反応は通常は30分もかからずに完了し、如何なる副反応(スクシンイミジルエステルの加水分解や、ピリジルジチオ基の分解)も生じない。この手法で調製された修飾ポリマーは、溶媒(例えばメタノールやイソプロパノール)を用いて抽出することにより、非ポリマー性不純物(N−ヒドロキシスクシンイミド、及び場合によっては、過剰のSPDP)から精製することができる。
【0070】
少なくとも1の炭素を有する非金属表面
少なくとも1の炭素を有する非金属表面として、好ましくはポリマー性表面である。本発明のポリマー性表面は、生分解性でも非生分解性でもよい。本発明において使用されるポリマー性表面の非限定的な例としては、ポリウレタン、ポリエステル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(ラクチド−co−グリコシド)、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリスチレン、ポリアミド、ゴム、シリコーンゴム、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、及びポリメタクリレート、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(オルトエステル)、ポリ(エーテル−エステル)、ポリ(ラクトン)、これらの混合物及びこれらのコポリマーが挙げられる。
【0071】
少なくとも1のカーボンを含んでなる表面(例えば、ポリマー性表面)は、例えば、光活性化可能な基及び所望の反応性基を含んでなる表面修飾剤を用いて、官能化してもよい。光活性化可能な基によって、修飾剤が共有結合により表面に結合され、所望の反応性基が表面から突き出た状態となる。
【0072】
本記載中で使用される「光活性化可能な基」という語は、外部の電磁気又は運動(熱)エネルギーを吸収して、フリーラジカル、ニトレン、カルベン、励起状態のケトン等の活性種を生じ得る化学基を指す。これらの基は、電磁スペクトルの様々な部分に対して反応性を有する基、例えば、スペクトルの紫外、可視、及び赤外部に対して反応性を有する基の中から選択し得る。好ましい光活性化可能な基としては、ベンゾフェノン、アセトフェノン、及びアリールアジドが挙げられる。励起により、光活性化可能な基は、ポリマー等の少なくとも1のカーボンを含んでなる表面に対して、共有結合することが可能である。
【0073】
このような表面修飾剤の一例は、本発明者等によるPCT出願番号PCT/US04/011861、名称「MAGNETICALLY CONTROLLABLE DRUG AND GENE DELIVERY STENTS」、2004年4月16日出願、及び、このPCT出願の継続出願である米国出願番号11/250,877、2005年10月14日出願に記載されているような、水溶性の光活性化可能なポリマーである。これらの出願はその全体が本願に組み込まれる。水溶性の光活性化可能なポリマーは、主にポリマー前駆体からなり、更に、ポリマー前駆体に対して共有結合し得る基である、光活性化可能な基、所望の反応性基、及び親水性基を含んでなる。
【0074】
本発明の特定の実施形態によれば、ポリマー前駆体は、アリルアミン、ビニルアミン、アクリル酸、カルボン酸、アルコール、エチレンオキシド、及びアシルヒドラジンからなる群より選択される、少なくとも1のモノマーを含んでなる。好ましくは、このポリマー前駆体はポリアリルアミンである。本発明の特定の実施形態によれば、ポリアリルアミンの分子量は約200KDaから約5KDaである。好ましい実施形態によれば、分子量は70KDaから15KDaである。
【0075】
水溶性の光活性化可能なポリマーの反応性基は、生分解性クロスリンカーの基体反応性末端基と共有結合的に反応するような化学基である。この反応性基の非限定的な例としては、アミノ基(第1級又は第2級)、チオール反応性基、カルボキシ基、チオール基、保護チオール基、アシルヒドラジン基、エポキシ基、アルデヒド基、及び水酸基。好ましくは、このチオール反応性基は、2−ピリジルジチオ基、3−カルボキシ−4−ニトロフェニルジチオ基、マレイミド基、ヨードアセトアミド基、及びビニルスルホニル基からなる群より選択される。
【0076】
本発明の水溶性の光活性化性ポリマーが有する親水性基の量は、水溶性の光活性化可能なポリマーを水に溶解可能とするために十分な量である。本発明の特定の実施形態においては、親水性基はアミノ基又はカルボキシ基である。
【0077】
本発明の水溶性の光活性化可能なポリマーの反応性基及び親水性基は、同一であっても異なっていてもよい。本発明の一実施形態によれば、反応性基及び親水性基はともにアミノ基である。本発明の別の実施形態によれば、反応性基は2−ピリジルジチオ基であり、親水性基はカルボキシ基である。
【0078】
本発明の特定の実施形態によれば、光活性化可能な基はアリールケトン又はアリールアジドである。好ましくは、アリールケトンはベンゾフェノン又はアセトフェノンである。
【0079】
水溶性の光活性化可能なポリマーは、1又は2以上の光活性化可能な基を有していてもよい。特定の実施形態によれば、水溶性の光活性化可能なポリマーは、光活性化可能な基を1分子当たり少なくとも1つ有する。好ましくは、水溶性の光活性化可能なポリマーは、光活性化可能な基を1分子当たり複数有する。より好ましくは、光活性化可能な基は、ポリマー前駆体のモノマー単位のうち少なくとも0.1%、更に好ましくは少なくとも1%、最も好ましくは約20から約50%を修飾する。
【0080】
照射源は、本発明の光活性化可能な基によって吸収され得る波長の光を発することが可能であれば、本技術分野に知られた任意の光源とすることが可能である。光活性化可能な基としてベンゾフェノンを用いる場合には、UVランプが好ましい。
【0081】
本明細書で使用される「水溶性のポリマー」という語は、本発明の水溶性の光活性化可能なポリマーを、実質的に有機共溶媒を含有しない水を用いて、少なくとも1wt%、好ましくは少なくとも0.1wt%まで希釈した場合に、20℃の温度で単相を形成することを意味する。
【0082】
本発明の一実施形態によれば、水溶性のポリマーはポリアリルアミン系ベンゾフェノン(PAA−BzPh)であり、以下の式で表わされる。
【化4】

ここで、nは50から2000であり、kは10から1000である。
【0083】
本発明の別の実施形態によれば、水溶性のポリマーは、ポリアリルアミン系ベンゾフェノンを更に修飾して2−ピリジルジチオ基を含有させたもの(PDT−BzPh)であり、以下の式で表わされる。
【化5】

ここで、nは50から2000であり、kは10から1000であり、mは10から1000である。
【0084】
光活性化可能な基を励起すると、水溶性ポリマーは表面に共有結合し、表面上に単分子層を形成する。
【0085】
本記載で使用される「層」という語は、本発明のポリマーを表面に対して共有結合させることにより形成される、連続的又は非連続的な付着物を意味する。好ましくは、層は実質的に、水溶性のポリマーのみからなり、極めて均質且つ高純度である。
【0086】
生体材料
本発明の生体材料は、適切な反応性基を有する分子又は高分子、例えばカルボキシ(−COOH)、アミノ(−NH2)、チオール基(−SH)等が結合されたものであれば、任意の分子又は高分子とすることができる。例えば、タンパク質又はペプチドを修飾してチオール基を含有させたものや、アミノ基を含有させたものが使用できる。あるタンパク質分子に結合しているチオール反応性基(2−ピリジルジチオ、マレイミド等)と、別のタンパク質分子(或いは他の生体分子)のチオール基との反応は、タンパク質複合体の調製に広く用いられている(Greg T. Hermanson, Bioconjugate Techniques, Academic Press, San Diego 1996参照)。殆どのチオール反応性基(特に2−ピリジルジチオ基)は、水性媒体中、温和な条件下で、チオール基と極めて選択的且つ高速に反応する。タンパク質は、様々な試薬を用いて、ジスルフィドブリッジを部分還元し、或いはリジン残基をチオール化することにより、チオール化することができる(Hermanson, pp. 57−70参照)。好ましくはチオール反応性基を有する生体材料であり、中でも好ましくは、生分解性クロスリンカーの生体材料反応性基と反応可能なアミノ基である。
【0087】
また、生体材料は治療的有用性を有する。好適な生体材料としては、核酸配列、例えば例えばトランスポゾン、創傷治癒を促進するシグナル伝達タンパク質、例えばTGF−β、細胞の生存及びアポトーシスを調節するFGF、PDGF、IGF、及びGHタンパク質、例えばBcl−Iファミリーメンバーやカスパーゼ;腫瘍抑制タンパク質、例えば網膜芽腫、p53、PAC、DCC、NFl、NF2、RET、VHL、及びWT−1遺伝子産物;細胞外基質タンパク質、例えばラミニン、フィブロネクチン、及びインテグリン;細胞接着分子、例えばカドヘリン、N−CAM、セレクチン、及び免疫グロブリン;抗炎症タンパク質、例えばチモシンβ−4、IL−10、及びIL−12等が挙げられる。
【0088】
特定の実施形態によれば、生体材料は、ヘパリン、共有結合性ヘパリン(covalent heparin)、又は他のトロンビン阻害剤、ヒルジン、ヒルログ(hirulog)、アルガトロバン、D−フェニルアラニル−L−ポリ−L−アルギニルクロロメチルケトン、又は他の抗血栓形成剤、又はこれらの混合物;ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、組織プラスミノーゲン活性化因子、又は他の血栓溶解剤、又はこれらの混合物;線維素溶解剤;血管痙攣阻害剤;カルシウムチャンネル遮断薬、硝酸塩、酸化窒素、酸化窒素プロモーター、又は他の血管拡張剤;抗菌剤又は抗生物質;アスピリン、チクロピジン、糖タンパク質IIb/IIIa阻害剤、又は他の表面糖タンパク質受容体の阻害剤、又は他の抗血小板剤;コルヒチン又は他の抗有糸分裂剤、又は他の微小管阻害剤、ジメチルスルホキシド(DMSO)、レチノイド、又は他の抗分泌剤;サイトカラシン又は他のアクチン阻害剤;再構築阻害剤;デオキシリボ核酸、アンチセンスヌクレオチド又は他の分子遺伝的介入用物質;メトトレキサート、又は他の抗代謝又は抗増殖剤;クエン酸タモキシフェン、TaxolTM、又はそれらの誘導体、又は他の抗癌 化学療法薬;デキサメタゾン、デキサメタゾンナトリウムホスフェート、デキサメタゾンアセテート、又は他のデキサメタゾン誘導体、又は他の抗炎症ステロイド又は非ステロイド抗炎症剤;シクロスポリン又は他の免疫抑制剤;トラピジル(trapidal)(PDGF拮抗剤)、アンジオゲニン、アンジオペプチン(angiopeptin)(成長ホルモン拮抗剤)、成長因子又は抗成長因子抗体、又は他の成長因子拮抗剤;ドーパミン、ブロモクリプチンメシレート、ペルゴリドメシレート、又は他のドーパミン作動薬;放射線治療薬;ヨウ素含有化合物、バリウム含有化合物、金、タンタル、白金、タングステン、又は他の放射線不透過性物質として機能する重金属;ペプチド、タンパク質、酵素、細胞外基質成分、細胞成分、又は他の生物因子;カプトプリル、エナラプリル、又は他のアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤;アスコルビン酸、α−トコフェロール、スーパオキシドジスムターゼ、デフェロキサミン、21−アミノステロイド(ラザロイド)、又は他のフリーラジカル捕捉剤、鉄キレート化剤又は抗酸化剤;上記記載のうち任意の物質の14C−、3H−、32P−、又は36S−放射標識体又は他の放射標識体;ホルモン;エストロゲン又は他の性ホルモン;AZT又は他の抗ポリメラーゼ剤;アシクロビル、ファムシクロビル、塩酸リマンタジン、ガンシクロビルナトリウム、又は他の抗ウイルス剤;5−アミノレブリン酸、メタ−テトラヒドロキシフェニルクロリン(meta−tetrahydroxyphenyl chlorin)、ヘキサデカフルオロ亜鉛フタロシアニン、テトラメチルヘマトポルフィリン、ローダミン123、又は他の光線力学療法薬;緑膿菌外毒素A抗性及びA431表皮癌細胞反応性のIgG2κ抗体、サポリンを結合させた(conjugated to saporin)ノルアドレナリン作動性酵素ドーパミンβヒドロキシラーゼ抗性のモノクローナル抗体、又は他の抗体標的治療薬;遺伝子治療薬;並びにエナラプリル及び他のプロドラッグ、又はこれらのうち何れかの混合物の中から、少なくとも1つを含んでなる。また、生体材料は、幾つかの主要な受容体ファミリーに属する細胞接着分子、例えば、インテグリン、カドヘリン、免疫グロブリンスーパーファミリー、ヒアルロン酸受容体、及びムチン、並びにこれらのリガンドから選択することも可能である。
【0089】
加えて、生体材料は、親和性リガンド対の何れの要素であってもよい。このような親和性リガンド対の例としては、アビジン−ビオチンや、IgG−タンパク質Aが挙げられる。更に、生体材料は、受容体−リガンド対の何れの要素であってもよい。一例として、トランスフェリンとその受容体が挙げられる。他の親和性リガンド対として、強力な水素結合又はイオン結合体、例えば化学錯体が挙げられる。後者の例としては、金属アミン錯体が挙げられる。他の興味深い複合体としては、特定の配列のオリゴヌクレオチドを固定化可能な核酸塩基対、特にアンチセンスが挙げられる。また、核酸デコイ又は合成類似体も、設計された遺伝子ベクターを興味ある部位に結合させる対形成剤として使用することができる。更に、DNA結合タンパク質もまた、特異的な親和剤とみなすことができる。これらの例としては、ヒストン、転写因子、糖質コルチコイド受容体等の受容体などの物質が挙げられる。
【0090】
好ましい一実施形態によれば、生体材料は抗核酸抗体である。これによって、細胞増殖を減少させ、又は細胞死を誘発し、それによって動脈や他の管の再狭窄の問題を軽減する産物(又は産物の前駆体)をコード化する核酸を、この抗体が特異的に結合することが可能となる。抗体を介して支持体に繋留された核酸は、細胞に効率的にトランスフェクト/形質導入することができる。一般的な用語において、「遺伝子治療」の分野には、標的細胞に対してある種のポリヌクレオチド、例えばアンチセンスDNA又はRNA、リボザイム、ウイルス断片、又はその細胞又はそれを有する有機体に対して治療又は予防効果を発揮する機能的に活性な遺伝子を送達することが含まれている。Culver, 1994, GENE THERAPY: A HANDBOOK FOR PHYSICIANS(Mary Ann Liebert, Inc., New York, N.Y.)。本組成物の抗体は、全長の(即ち、自然発生、又は、通常の免疫グロブリン遺伝子断片の組み換えプロセスを経て形成される)免疫グロブリン分子(例えば、IgG抗体、又はIgM若しくは何れかの抗体サブタイプ)でも、免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な(即ち、特異的に結合する)部分でもよい。本抗体は、核酸と特異的に結合する(即ち、他の種の分子とは実質的に結合しない)1又は2以上の部位を含んでなる。この結合部位は、その核酸のヌクレオチド配列に関係なく、所望の種類の核酸と特異的に結合するものであってもよい。或いはこの結合部位は、所望のヌクレオチド配列を含んでなる核酸のみと特異的に結合するものであってもよい。この抗体は、好ましくはチオール修飾抗体である。
【0091】
ポリヌクレオチド及び同族の抗体の間に形成された複合体を、種々の表面に固定化してもよい。これにより、表面が生体内原位置で生理環境に晒されると、結合されたポリヌクレオチドが経時的に放出され、近隣細胞へのポリヌクレオチドの送達を増大するようになる。驚くことに、免疫特異的繋留によりDNAを移送することで、核酸が遺伝子治療の対象となる領域内に維持される。
【0092】
好適な抗体の例としては、Fv、F(ab)、及びF(ab')2断片が挙げられる。これらは従来の手法、例えば抗体をペプシンや他のタンパク質分解 酵素により生成される。本発明の組成物に使用される核酸結合抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。「モノクローナル」抗体は、核酸に特異的に結合する抗原結合部位を、一種類のみ有するものである。「ポリクローナル」抗体は、核酸に特異的に結合する抗原結合部位を、複数有するものである。本発明で用いる抗体は、好ましくは全長抗体、或いは所望の結合特性を有するF(ab')2等の抗体断片である。
【0093】
本発明では核酸として、細胞の内部に輸送しようとする、任意のポリヌクレオチドを用いることができる。この文脈において「治療用ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドのポリマーであって、細胞に供給され、又は細胞内で発現されると、疾病や体調不良、例えば炎症を緩和、抑制、若しくは予防し、及び/又は、組織の治癒や修復(例えば創傷治癒)を促進するものである。核酸は、デオキシリボヌクレオシドからなるものでも、リボヌクレオシドからなるものでもよく、また、リン酸ジエステル結合や修飾結合、例えば以下に説明するものを有していてもよい。「核酸」という語は、生体系における代表的な5種の塩基、即ちアデニン、グアニン、チミン、シトシン及びウラシル、以外の塩基からなるポリヌクレオチドをも包含するものとする。
【0094】
好適な核酸としては、DNAでもRNAでもよく、直鎖でも環状でもよく、また、一本鎖でも二本鎖でもよい。この点で、「DNA」のカテゴリーには:cDNA;ゲノムDNA;三重らせん、高次コイル、Z−DNA、及び他の異型DNA;ポリヌクレオチド類似体;治療用タンパク質等のタンパク質をコード化するDNA断片を含んでなる発現コンストラクト;転写によりリボザイムやアンチセンスRNAを産生する、いわゆる「アンチセンス」コンストラクト;ウイルスゲノム断片、例えばウイルスDNA;プラスミド及びコスミド;及び、遺伝子や遺伝子断片が含まれる。
【0095】
また、核酸はRNAであってもよい。例としては、アンチセンスRNA、触媒RNA、触媒RNA/タンパク質複合体(即ち「リボザイム」)、並びに、直接翻訳されてタンパク質を生成するRNA、或いは、逆転写されてから転写又は転写・翻訳されて、それぞれRNA又はタンパク質産物を生成するRNAからなる発現コンストラクト;逆転写によるDNAの生成に必要なプロモーター/調節配列を取り込んだRNAを含んでなる転写可能なコンストラクト;ウイルスRNA;並びに、治療用タンパク質をコード化するRNA等が挙げられる。好適な核酸は、標的細胞の内部又はその細胞核に送達された場合にその核酸が示す、既知の、期待される、或いは予測される生物活性に基づいて、選択することができる。
【0096】
核酸の長さは、本発明にとっては重要ではない。全長遺伝子を最大として、如何なる数の塩基対をトランスフェクトしてもよい。例えば、核酸は約100から10,000塩基対の長さの直鎖又は環状の二本鎖DNA分子であってもよいが、より短い核酸やより長い核酸も使用可能である。
【0097】
核酸は、例えばmRNAの翻訳を阻害するアンチセンスDNA分子等の、治療薬であってもよい。或いは、核酸は、治療薬をエンコードするものであってもよい。例えば、核酸含有組成物が送達された標的細胞において発現され、その細胞又はその細胞を有する宿主有機体に対して治療効果を有する転写又は翻訳産物が挙げられる。治療用転写産物の例としては、タンパク質(例えば、抗体、酵素、受容体結合リガンド、創傷治癒タンパク質、抗再狭窄タンパク質、抗癌性タンパク質、及び、転写又は翻訳調節タンパク質)、アンチセンスRNA分子、リボザイム、ウイルスゲノム断片等が挙げられる。同様に、核酸は、組成物の使用により形質転換される細胞のマーカーとして機能する産物をコード化するものでもよい。マーカーの代表例としては、識別可能な分光学的特性を有するタンパク質、例えば緑蛍光タンパク質(GFP)や、細胞表面で発現されるタンパク質(即ち、標的細胞をそのタンパク質と特異的に結合する薬剤と接触させることにより検出されるもの)が挙げられる。また、核酸は、疾病の予防に有用な予防薬であってもよい。
【0098】
本発明において重要な核酸のカテゴリーには、創傷治癒に作用するタンパク質をコード化するポリヌクレオチドが含まれる。例えば、創傷の修復に大きな役割を果たしている、遺伝子egf、tgf、kgf、hb−egf、pdgf、igf、fgf−1、fgf−2、vegf、他の成長因子、及びそれらの受容体が挙げられる。
【0099】
他のポリヌクレオチドのカテゴリーとして、炎症プロセスの調節因子又は反作用因子をコード化するものも、本発明においては重要である。同様に関連するものとして、MSH等の抗炎症剤、IL−10等のサイトカイン、或いは炎症反応を減少させる受容体拮抗剤をコード化する遺伝子が挙げられる。
【0100】
好適なポリヌクレオチドとしては、その核酸に応じて細胞死を誘発し、或いは細胞生存を促進する、発現産物をコード化するものが挙げられる。これらのポリヌクレオチドは、腫瘍原性細胞や他の異常細胞を治療するためのみならず、正常細胞にアポトーシスを誘発するためにも有用である。従って、本発明において注目される他の核酸カテゴリーは、発現時に抗癌性タンパク質を産生し、又は、転写時に抗癌性アンチセンスオリゴヌクレオチドを産生するポリヌクレオチドに関するものである。この文脈において「抗癌性タンパク質」及び「抗癌性アンチセンスオリゴヌクレオチド」という語は、検体において細胞死が望まれる任意の領域や癌性又は前癌性病変部位に供給されると、当該部位における異常及び正常細胞の成長を阻止、阻害、逆行させ、或いは細胞のアポトーシスを誘発する、タンパク質又はアンチセンスオリゴヌクレオチドをそれぞれ指す。本発明に従って、このようなポリヌクレオチドを細胞に送達することにより、細胞の成長、分化、又は移動を阻害し、導入部位やその近隣での組織の移動や好ましくない増殖を防止することが可能となる。この抗癌カテゴリーの代表例としては、既知の抗癌性タンパク質の一つをコード化するポリヌクレオチドが挙げられる。このようなポリヌクレオチドとしては、例えば、下記の遺伝子のうち1又は2以上のヌクレオチド配列、又はそれらから派生する配列が挙げられる。abl、akt2、apc、bcl2−alpha、bcl2−beta、bcl3、bcl3、bcl−x、bad、bcr、brcal、brca2、cbl、ccndl、cdk4、crk−II、csflr/fms、dbl、dec、dpc4/smad4、e−cad、e2fl/rbap、egfr/erbb−1、elk1、elk3、eph、erg、ets1、ets2、fer、fgr/src2、fos、fps/fes、fral、fra2、fyn、hck、hek、her2/erbb−2/neu、her3/erbb−3、her4/erbb−4、hras1、hst2、hstfl、ink4a、ink4b、int2/fgf3、jun、junb、jund、kip2、kit、kras2a、kras2b、ck、lyn、mas、max、mcc、met、mlh1、mos、msh2、msh3、msh6、myb、myba、mybb、myc、mycl1、mycn、nf1、nf2、nras、p53、pdgfb、pim1、pms1、pms2、ptc、pten、raft、rb1、rel、ret、ros1、ski、src1、tal1、tgfbr2、thra1、thrb、tiam1、trk、vav、vhl、waf1、wnt1、wnt2、wt1、及びyes1。同様に、これらの遺伝子の一つの発現を阻害するオリゴヌクレオチドも、抗癌性アンチセンスオリゴヌクレオチドとして使用可能である。
【0101】
修飾ヌクレオシド間結合を有する核酸も、本発明に係る組成物として使用可能である。例えば、高いヌクレアーゼ安定性を示す修飾ヌクレオシド間結合を有する核酸を使用することができる。このようなポリヌクレオシドとしては、例えば、ホスフォネート、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロジアミデート、メトキシエチルホスホロジアミデート、ホルムアセタル、チオホルムアセタル、ジイソプロピルシリル、アセトアミデート、カルバメート、ジメチレン−スルフィド(−CH2−S−CH2−)、ジメチレン−スルホキシド(−CH2−SO−CH2−)、ジメチレンスルホン(−CH2−SO2−CH2−)、2’−O−アルキル、及び2’−デオキシ−2’−フルオロ−ホスホロチオエートのヌクレオシド間結合を、1又は2以上含有するものが挙げられる。
【0102】
本発明に用いる核酸は、核酸の調製や単離に一般的に使用されている任意の手段により、調製又は単離することができる。例として、DNAやRNAは、市販の試薬及び合成機を用い、公知の方法により化学的に合成することができる。例えば、Gait, 1985, in: OLIGONUCLEOTIDE SYNTHESIS: A PRACTICAL APPROACH(IRL Press, Oxford, England)参照。また、RNA分子は生体外転写技術により、例えばPromega Corporation(Madison, WI)から入手されるSP65等のプラスミドを用いて、高収率で生産することもできる。核酸は任意の好適な手法で精製してもよい。このような手法は多数知られている。例えば、核酸の精製は、逆相又はイオン交換HPLC、サイズ排除クロマトグラフィー、又はゲル電気泳動を用いることができる。勿論、当業者であれば分かるように、精製の方法は、精製されるDNAのサイズにも依存する。また、核酸は既知の、或いは今後開発される無数の組み換え技術のうち、任意のものを用いて調製することも可能である。
【0103】
好適な核酸は、発明の組成物の調製に好適なスケールで核酸の複製を可能にする、種々の公知の宿主ベクター系用に設計されたものでよい。ベクター系はウイルスであってもよく、非ウイルスであってもよい。ウイルスベクター系の具体例としては、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、及び単純ヘルペスウイルスが挙げられる。好ましくは、アデノウイルスベクターが用いられる。非ウイルスベクター系としては、プラスミド、環状二本鎖DNA分子が挙げられる。ウイルス及びウイルスベクター系には、送達された細胞内における核酸の転写、翻訳、又は両方を進行させるために必要な要素が、公知の方法によって組み込まれる。当業者に知られた方法を用ることにより、適切な転写/翻訳制御シグナルを操作可能なタンパク質コード配列を有する発現コンストラクトを構築することができる。これらの方法の例として、生体外組み換えDNA技術及び合成技術が挙げられる。例えばSambrook et al, 1989, MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL(Cold Spring Harbor Laboratory, New York)及びAusubel et al, 1997, CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(John Wiley & Sons, New York)を参照されたい。
【0104】
1又は2以上の目的タンパク質をコードする核酸が、種々の異なるプロモーター/レギュレーター配列と、動作可能に関連付けられていてもよい。このようなプロモーター/レギュレーター配列としては構成又は誘導プロモーターが挙げられ、適切な条件下で使用することにより、目的遺伝子の発現を高レベルとし、或いは調節することができる。使用可能なプロモーター/調節領域の具体例としては、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター/調節領域や、SV40初期遺伝子又はSV40後期遺伝子に関連するプロモーター/調節領域が挙げられる。好ましくはヒトCMVプロモーターが使用されるが、目的遺伝子の発現を高レベルとし、或いは調節するようなプロモーター/調節領域であれば、実質的に任意のものを使用することが可能である。
【0105】
また、使用される核酸が複数のタンパク質コード領域を有し、これらが1又は2以上のプロモーターの制御下で単一の遺伝的コンストラクトに組み合わされる場合も、本発明の範囲に含まれる。2又はそれ以上のタンパク質コード領域を単一プロモーターにより転写制御してもよく、核酸の転写物は、これらのタンパク質コード領域間に存在する1又は2以上の配列内リボソーム進入部位を含んでいてもよい。即ち、無数の異なる遺伝子及び遺伝的コンストラクトを利用することができる。
【0106】
また、本発明の生体材料としては、医薬、造影剤、及び診断薬が挙げられる。
【0107】
本組成物の特定の実施形態によれば、生体材料は、抗体、ウイルスベクター、成長因子、生物活性ポリペプチド、生物活性ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチド、細胞調節小分子、ペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチド、遺伝子治療薬、遺伝子トランスフェクションベクター、受容体、細胞、薬物、薬物送達剤、酸化窒素、抗菌剤、抗生物質、抗有糸分裂剤、ジメチルスルホキシド、抗分泌薬、抗癌化学療法薬、ステロイド性及び非ステロイド性抗炎症薬、ホルモン、細胞外基質、フリーラジカル捕捉剤、鉄キレート化剤、抗酸化剤、造影剤、及び放射線治療薬からなる群より選択される要素である。好ましくは、生体材料は抗小頭(anti−knob)抗体、アデノウイルス、コクサッキー−アデノウイルス受容体のD1ドメイン(CAR Dl)、インシュリン、血管新生ペプチド、抗血管新生ペプチド、アビジン、ビオチン、IgG、タンパク質A、トランスフェリン及びトランスフェリン用受容体、細胞接着分子及びリガンド細胞接着分子が挙げられる。本方法の特定の実施形態によれば、生体材料は、核酸、遺伝子ベクター、タンパク質、ペプチド、及び細胞からなる群より選択される要素である。複数の異なる生体材料を同一表面に固定化してもよい。
【0108】
本発明の組成物を作製する方法
また、本発明によれば、上述の組成物を作製する方法が提供される。本方法は、生分解性クロスリンカーを供給する工程と、少なくとも1の反応性基を有する基体を供給する工程と、上記の生体材料を供給する工程と、前記基体を前記生分解性クロスリンカーの基体反応性末端基と反応させ、生分解性クロスリンカー部位を前記基体に共有結合させる工程と、前記生体材料を前記生分解性クロスリンカーの生体材料反応性末端基と反応させることにより、前記生体材料を前記生分解性クロスリンカー部位に共有結合させ、前記組成物を作製する工程とを含んでなる。本方法の非限定的な例を図4Aに示す。必ずしも最初に生体材料をクロスリンカーと反応させる必要はないが、この順序の方が簡便であると思われる。即ち、特定の実施形態によれば、前記生体材料を前記生分解性クロスリンカーの生体材料反応性末端基と反応させる工程を、前記基体を前記生分解性クロスリンカーの基体反応性末端基と反応させる工程よりも前、或いは当該工程と同時に実施する。
【0109】
前記方法の特定の実施形態によれば、前記生分解性クロスリンカーを供給する工程、及び、生体材料と反応させる工程が:(i)前記生体材料反応性末端基及び第1の官能末端基を有する第1の反応物質と、(ii)(a)前記加水分解性結合を含んでなる前記生分解性クロスリンカー部位、(b)前記第1の官能末端基と反応可能な第2の官能末端基、及び、(c)基体反応性末端基を含んでなる、第2の反応物質とを供給する工程;前記生体材料を前記第1の反応物質の前記生体材料反応性末端基と反応させる工程;並びに、前記第1の官能基を前記第2の官能基と反応させ、前記生分解性クロスリンカー修飾生体材料を形成する工程を含んでなる。これらの実施形態によれば、前記生分解性クロスリンカー が前記生体材料上に直接形成され、その後、得られた生体材料/クロスリンカー複合体が前記表面に結合される。本実施形態の一変形例によれば、前記第1の反応物質は、マレイミド−(スルホ)スクシンイミジルエステル、マレイミド−トレシレート(tresylate)又はピリジルジチオ−(スルホ)スクシンイミジルエステルであり、前記第2の反応物質は、ジチオール、チオール−メチルスルフィド、又はビス(メチルスルフィド)である。
【0110】
条件、例えば温度、バッファー、反応性材料は、所望の構造に応じて選択すればよい。当業者であれば、一般的な化学原理に基づいて、これらの方法を実施することが可能であろう。こうした方法の非限定的な例については、後に実施例2〜4として詳述する。
【0111】
生体材料送達
また、本発明の組成物を使用する方法、例えば生体材料を送達する方法であって:前記加水分解性結合を加水分解して前記生体材料を放出することにより、前記生体材料を前記動物細胞又は前記組織に送達させるのに十分な期間、前記動物細胞又は前記組織に接触させる工程を含んでなる方法が提供される。本方法の非限定的な例を図4Bに示す。実施例5には本方法の一例を記載した。
【0112】
前記方法の特定の実施形態によれば、前記組成物の生分解性クロスリンカーは、当該機関作用するように選択される。先に述べたように、前記生分解性クロスリンカーはその設計に応じて、加水分解の速度を速めたり遅めたりすることができる。即ち、適切な生分解性クロスリンカーを選択することによって、送達の速度を制御することが可能となる。また、前記表面に結合する生体材料の量は、前記表面及び前記生体材料が有する反応性基の数に応じて変化し得る。例えばPEI−PDTを用いた増幅手法を用いて、所望の数の反応性基を有する表面を得ることができる。また、PDT基を処理してチオール基と交換し、後の生分解性クロスリンカーとの反応に供する場合には、PDT基の全てではなく一部のみを修飾してもよく、こうした方法によっても、所望の生体材料の担持量を選択的に得ることができる。この指針に従えば、生体材料の担持量は、利用可能な基の100%から0.1%まで選択することができる。一変形例によれば、この担持量は25%であった。
【実施例】
【0113】
本発明について、以下の実施例を参照しながらより詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではないと解すべきである。
【0114】
実施例1
本実験は、チオール開裂し得る異種二官能性クロスリンカーであるスルホスクシンイミジル6−(3’−[2−ピリジルジチオ]−プロピオンアミド)ヘキサオネート(スルホ−LC−SPDP)(Pierce Biotechnology, Inc., Rockford, IL)を用い、生体材料をステンレススチール表面に直接、共有結合により繋留するという思想を実証したものである。
【0115】
500μlのCy3標識アデノウイルス(Cy3Ad−GFP)(バッチ11;1.3×1012粒子)を、15mgのLC−スルホ−SPDPと、室温(RT)で70分間反応させ、Cy3標識DPT修飾アデノウイルス(Cy3Ad−PDT−GFP)を形成した。この反応混合物をSLIDE-A-LYZER透析カセット内に、10kDaのカットオフ(cut-off)とともに入れ、PBS中で22時間、PBSを3度交換しながら透析を行なった。最終分のPBSは脱気し、10mMのEDTAを含有させ、透析はアルゴン雰囲気下で実施した。
【0116】
翌日、316Lスチールのメッシュ9個を常法で前処理した(即ち、1Nの硝酸に15分間暴露、次いでイソプロパノールに15分間暴露、そして再蒸留水中で5回洗浄)。
【0117】
メッシュのうち6つは、PrSSPAABP、即ち2,2−ジホスホノエチル基(BP)及びプロピルジチオ基(PrSS)で修飾されたポリアリルアミン(PAA)の1.3%溶液とともに、60℃で5時間培養し、3つのメッシュは、2,2−ジホスホノエチル基(PAABP)で修飾したポリアリルアミン3%中、60℃で5時間培養した。次いで、メッシュを再蒸留水(DDW)で洗浄し、PrSSPAABPで処理した6つのメッシュを、トリ(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)(0.1M酢酸バッファー中に20mg/ml)と、RTで25分間反応させた。次に、これらのメッシュを酢酸バッファー及びPBSで洗浄し、それらのうち3つを、2−ピリジルジチオ基(PDT基)で修飾した(ポリ)エチレンイミン(PEI)(PEI−PDT)増幅剤(高修飾(エチレンイミン結合の総数の25%)09 IA-46-4 − 0.5ml、DDW − 1.25ml、0.4M酢酸バッファー − 0.25ml)と、振盪しながらRTで40分間反応させた。この増幅処理の目的は、表面上のPDT基の数を増加させることである。
【0118】
他の3つのメッシュは、PAABPと培養した3つのメッシュとともに、小型のエッペンドルフ・チューブ内で、4%BSA中、150μlの透析脱気Cy3標識DPT修飾アデノウイルス(Cy3Ad−PDT−GFP)と反応させた。増幅剤と反応させた3つのメッシュは、酢酸バッファー及びPBSで洗浄しDTT(DDW中20mg/ml)と、振盪しながらRTで20分間反応させた。最後に、これらのメッシュをPBSで洗浄し、小型エッペンドルフ・チューブ内で、4%BSA中、150μlの透析脱気Cy3Ad−PDT−GFPと反応させた。ウイルスのメッシュへの複合(conjugation)は、3グループの何れについても、RTで一晩振盪しながら実施した。
【0119】
大まかに、3グループのメッシュの化学スキームは、以下のように表わされる。
1.対照: Me−PAABP + (PDT−Ad)(共有結合形成なし)
2.増幅なし: (Me−PrSSPAABP + TCEP) → Me−PAABP−SH + PDT−Ad → Me−PAABP−Ad
3.PEI増幅: (Me−PrSSPAABP + TCEP) → Me−PAABP−SH + PDT−PEI → Me−PAABP−PEI−PDT(n) + DTT → Me−PAABP−PEI−SH(n) + PDT−Ad → Me−PABPP−PEI−Ad
【0120】
この一般スキームでは、参照の簡便のため、Cy3Ad−PDT−GFPはPDT−Adと略称している。
【0121】
翌日に、メッシュを蛍光顕微鏡で確認した。対照サンプル(グループ1)には実質的に蛍光が観察されなかったのに対し、グループ2のサンプルでは低−中度の蛍光が観察され、グループ3のサンプルには中−高度の蛍光強度が見られた。
【0122】
同日、約60%コンフルエントHEK293及びA10(ラット動脈平滑筋細胞)細胞の培養物中にメッシュを配置した。メッシュの配置から24時間後において、GFP陽性細胞はウェル内の何処にも見られなかった。次いで培地を替え、濃度40mg/mlのDTTを培地に溶解させた(1ウェル当たり80mg)。更に5日間培養したところ、その間にGFP陽性細胞が出現した。本実験は、スルホ−LC−SPDP等の非分解性共有結合リンカーが、アデノウイルスの形質導入を予防することを示している。
【0123】
実施例2
本実験は、開裂性(加水分解性)N−スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)−プロピオネート(SPDP)クロスリンカーを用いてスチール表面に共有結合させたAdと、加水分解の遅延キネティクスによるストラテジーを検証するために行なったものである。316Lスチールのメッシュ12個を常法で前処理し、そのうち8つを1%PrSSPAABP中、60℃で5時間反応させた。4つの対照(PAABPがチオール基を有さず、よってAdと共有結合していない)メッシュを、2,2−ジホスホノエチル基で修飾されたポリアリルアミン(PAABP)3%と、60℃で5時間反応させた。これらのメッシュを洗浄し、PrSSPAABP処理検体をTCEP(0.1M酢酸バッファー中20mg/ml)と、振盪しながらRTで25分間反応させた。TCEPの開裂後、メッシュをDDW中で洗浄し、PEI−PDT増幅剤(09 IA-46-4;0.5ml、DDW1.25ml、0.4M酢酸バッファー0.25ml)と1時間反応させた。その後、これらのメッシュを酢酸バッファー及びDDWで洗浄し、DTT(DDW中20mg/ml)とRTで振盪しながら20分間反応させた。
【0124】
並行して、750μlのCy3AdGFP(バッチ14)を、30mgの開裂性SPDP類似体、生分解性クロスリンカー1(12 IA-40-l)(図1A参照)と、RTで振盪しながら1時間反応させた。修飾ウイルスを、脱気PBS/EDTAで予備処理した脱塩カラム(Ultragel A6)を用いて精製した。
【0125】
次に、この活性化ウイルスを、チオール化メッシュ及びメッシュと、5%BSA/脱気PBS中で一晩反応させた。翌日、メッシュを蛍光顕微鏡で検査した。対照と、適切に複合されたメッシュとの何れにおいても、Cy3Adの存在が示された。しかしながら、連結されたAdの量は、適切に複合されたメッシュの方が遥かに多かった(「適切に複合された(properly conjugated)」という語は、Adが実際に、還元されたPrSSPAABPのチオール基を介して、メッシュに共有結合している状態を意味する。)。この対照は、メッシュに結合しているウイルス全体のうち、非特異的結合要素を評価するために行なったものである。
【0126】
これらのメッシュを、コンフルエントHEK293及び30%コンフルエントA10細胞培養物中に配置し、24時間後に形質導入を調べた。HEK293及びA10の両細胞内に配置された、対照と、適切に複合されたサンプルとの何れにおいても、形質導入された細胞は見られなかった。即ち、本実施例で使用したリンカー量では、遅延されたリンカーの加水分解キネティクスによりアデノウイルス形質導入を引き起こすことはできなかった。
【0127】
実施例3
本実験は、開裂性(加水分解性)SPDPクロスリンカーを用いてスチール表面に共有結合させたAdと、加水分解の急速キネティクスとを用いたストラテジーを探るために行なったものである。
【0128】
ステンレススチール(316L)のメッシュ12個を、イソプロパノール及び1N硝酸で浄化し、1.5%PrSSPAABP中、強振盪しながら80℃で3.5時間培養した。これらのメッシュをDDWで洗浄し、TCEP(30mg/ml;0.1M酢酸バッファー中)と、RTで振盪しながら30分間反応させた。引き続き酢酸バッファー及び水で洗浄した後、これらのメッシュをPEI−PDTと、42℃で強振盪しながら90分間反応させた。次に、これらのメッシュをPBSで洗浄し、DTT(DDW中25mg/ml)と、強振盪しながら30分間反応させた。
【0129】
並行して、1mlのAd−GFP(内部(in-house)バッチ、2.25×1012/ml)を、0.5mlの炭酸/重炭酸バッファー(pH=9.3)で希釈した。12.2mgの急速加水分解性クロスリンカー2(13 IA-55-3)(図1B参照)を1mlのPBS中に溶解させ、この溶液64μlをAd懸濁液に加えた。更に、1mgのCy3−NHS染料を1mlの炭酸/重炭酸バッファーに溶解させ、この希釈溶液200μlを反応混合物に加えた。穏やかに振盪しながら、RTで40分間、更に4℃で30分間反応させた。次いでこのAdを、Ultragel A6を用いて、脱気PBS/EDTA中にゲル濾過し、得られたウイルス含有分画(5〜7.5ml)を貯留し、アルゴンでバブリングした。この二重修飾Ad1mlを1mlの脱気PBSで希釈し、アルゴン雰囲気中、22℃で強振盪しながら(240rpm)、上記メッシュと14時間反応させた。
【0130】
翌日、メッシュを蛍光顕微鏡で調べたところ、ウイルスの結合を示す強い表面標識が観察される一方で、遊離型の二重修飾Adは極めて微かな蛍光を有していた。水を含浸させたラテックスの手袋でメッシュを擦ったところ、この蛍光の大部分が残っていたことから、驚くべきことに、表面のAd層は極めて強い摩耗耐性を有していた。
【0131】
2つのメッシュはHEK293細胞培養物中に配置し、4つのメッシュはA10細胞培養物中に配置した。残る4つのメッシュは個々に、エッペンドルフ・チューブ内の250μlのPBS中に入れ、チューブををRT(n=2)又は4℃(n=2)で68時間振盪した。
【0132】
メッシュの配置から18時間後、HEK293及びA10の両培養物において、強度の局所的な形質導入が観察された。その後、A10培養物中のメッシュを新鮮な細胞培養物に移送したところ、18時間後に強いデノボ形質導入が見られた(図示せず)。これは、持続性の生存ベクターが依然存在していることを示している。
【0133】
生体外「放出」実験用のメッシュについては、培養開始から68時間後に分析を行なった。4℃で培養したメッシュは、室温で処理されたもう一方のメッシュと比べて、より多量のCy3標識Adを保持していた。この観察結果は、Adをスチール表面に結合しているクロスリンカーの加水分解に基づく、推測の放出メカニズムと合致している。
【0134】
実施例4
9つのメッシュをイソプロパノール及び1Nの硝酸で前処理し、PrSSPAABPの2%溶液中で、70℃で強振盪(250rpm)しながら3時間培養した。次に、これらのメッシュを、TCEP(0.1M酢酸バッファー中20mg/ml)と、30℃で振盪しながら25分間反応させた。洗浄後、メッシュをPEI−PDT(14IA-13-1)と、30℃で強振盪しながら1時間反応させた。メッシュを洗浄し、同じ条件下でDTT(水中20mg/ml)と30分間反応させた。最後に、洗浄したメッシュを、急速開裂性クロスリンカー2で修飾されたAd−GFP0.5mlと、250rpmで振盪しながら30℃で2時間反応させた。
【0135】
Briefly、350μlの新たなAd−GFPバッチ(5e12/ml)を350μlの炭酸/重炭酸バッファー(pH9.3)で希釈し、急速加水分解性クロスリンカー2(13IA−55−3)のPBS中12.2mg/ml溶液75μlを加えた。RTで30分間修飾し、最終的に反応混合物をUltragel A6によりゲル濾過した。5〜8mlの分画を貯留し、複合反応に使用した。
【0136】
洗浄したメッシュをコンフルエントなA10(n=6)及びHEK293(n=3)の単層中に配置した。20及び72時間後に培養物を撮像し、その後の蛍光分析に供した。
【0137】
A10及びHEK(図5)の結果は、GFP形質導入が20時間目と72時間目との間で急激に上昇した(A10では約10倍)ことを、明確に示している。これは親和性アダプタ介在ウイルス繋留系では見られない現象である。これらの結果から、Ad放出がリンカーの加水分解によって生じることが示唆される(後者のT1/2は26日である)。
【0138】
実施例5
6個のステンレススチールVelocityTMステント(Cordis Corp)を、イソプロパノール、THF、クロロホルム(55℃で2時間)、1Nの硝酸(1時間)で浄化し、260℃に1時間加熱した。その後、これらのステントをカテーテルに圧着し、PrSSPAABPの2%水溶液と、58℃、250rpmで4時間反応させた。次に、これらのサンプルをTCEP(0.1M酢酸バッファー中25mg/ml)により、40〜35℃、250rpmで25分間還元した。洗浄後、これらのステントを、PEI−PDT増幅剤(14IA-13-1)と、28℃、250rpmで一晩反応させた。
【0139】
次に、これらのサンプルを酢酸バッファー及びPBSで洗浄し、DTT16mg/mlと28℃、250rpmで25分間反応させた。並行して、350μlのAd−GFP(5e12/ml)を350μlの炭酸/重炭酸バッファー(pH9.3)で希釈し、急速加水分解性クロスリンカー2(13IA−55−3)の12.2mg/mlのPBS中溶液75μlを加えた。RTで30分間修飾を行ない、最終的に反応混合物をUltragel A6を用いてゲル濾過した。分画(5〜8ml)を貯留した。DTT工程後に洗浄したステントを、Ad/クロスリンカー混合物に、28℃、250rpmで5時間暴露した。
【0140】
6頭のラットに、テフロン(登録商標)(TEFRON(登録商標))(登録商標)チューブ保護外筒を用いて、既定の方法でステントをインプラントした。ステント留置4日後にこれらの動物を屠殺した。ホルマリン灌流固定後、ステント留置動脈セグメントを回収した。ステントを取り除き、動脈をPBSで洗浄し、最適な切削温度化合物(冷凍ブロック調製(cryoblocks preparation)組織学に一般的に用いられるPVA及びPEGの混合物)中に包埋した。ブロックを切削し、動脈切片を直接、蛍光顕微鏡で観察し、或いは抗GFP抗体を用いて免疫染色した。ステント留置後の3日間に、6頭の動物全てにおいて、ステント留置動脈セグメントの中膜及び外膜に、強度の(Intensive)GFP発現が観察された。
【0141】
実施例6
本実験は、ポリビスホスフォネート修飾スチールに直接繋留したAdの放出速度を調べるべく計画された。実施例2及び3に記載された、緩徐及び急速の加水分解キネティクスによる、2つの異なる加水分解性クロスリンカー(即ち、それぞれクロスリンカー1(SHC)及びクロスリンカー2(RJC))を用いた。更に、RHCによるAdの修飾は、2つの異なるクロスリンカー濃度で行なった。表面結合Adを可視化し、蛍光定量及び顕微鏡観察による評価を可能にするため、クロスリンカーと蛍光タグ、Cy3とを併用してAdを共修飾した。
【0142】
表面結合Adの放出は、それらを表面に結び付けている加水分解性結合が、全て破壊されないと生じ得ない。クロスリンカー中の個々のエステル結合のt1/2は一定であり、且つ、RHCよりも遥かに高いことから、1)クロスリンカー濃度が増加すると、個々のウイルス粒子を繋ぎ止めているクロスリンカー分子全ての加水分解に要する時間が延長されるため、Adの放出速度が遅くなり、また、2)この放出速度は、RHCで修飾されたAdの方が、SHC処理Adよりも速くなる、と予測される。
【0143】
放出について調べるため、以下に説明する2種類の蛍光に基づく方法、即ち、上清法(supernatant method)及び表面結合蛍光法(surface associated fluorescence method)を使用した。
【0144】
上清法
ウイルス複合ステンレススチールホイルを各々、浸出溶液(PBS/0.06%Tween−20)中に37℃で配置した。所定の時点で上清を採取し、新たなPBS/0.06%Tween−20を加えた。上清中のCy3標識Adの量を蛍光定量法で決定した。
【0145】
表面結合蛍光法
ウイルス複合の直後に、ホイルの表面を蛍光顕微鏡法で調べ、各ホイルにつき4つのランダムな低倍率視野の画像を、標準設定の顕微鏡及びカメラを用いて撮影した。その後、ホイルをPBS/0.06%Tween−20中に配置した。所定の時点(バッファー交換及び上清サンプリングの際)で再び、画像を撮影した。得られたデジタル画像について、Adobe Photoshop(登録商標)により生成されたヒストグラムから平均発光強度を求め、これに基づいて表面結合Adの定量分析を行なった。
【0146】
1.25cm×1.25cmのステンレススチールホイル14枚を、カーバープレス(Carver press)を用いて平らにし、秤量し、イソプロパノール及び硝酸で清浄化し、各々個別に、1%PrSSPAABP(N=12)又は1.5%PAABP(N=2、対照)の溶液中で3.5時間(72℃、200rpm)反応させた。更にDDWで洗浄した後、PrSSPAABP処理検体はTCEP(0.1M酢酸バッファー中20mg/ml;37℃、200rpm)に25分間暴露した。その後、ホイルを洗浄し、PEI−PDT増幅剤(15IA-36-1)と反応させた(90分、37℃、200rpm)。次に、ホイルを水で洗浄し、DTTと反応させた(15mg/ml;30分、RT、弱振盪;4℃で30分間)。ホイルを即座に洗浄し、以下の手順で調製されたCy3/開裂性クロスリンカー共修飾Ad−tPAと反応させた。
【0147】
500μlのウイルス(4.3×1012/ml)のアリコート3つを、各々、200μlの炭酸−重炭酸バッファー(pH=9.3)を用いて700μlに希釈した。次に、150μlのCy3NHS(炭酸/重炭酸バッファー中1mg/ml)及び75μlの開裂性クロスリンカー2(13IA-55-3;炭酸/重炭酸バッファー中20mg/ml)を、3つのウイルスアリコートのうちの1つに加えた(配合#1)。
【0148】
配合#2も同様に調製したが、急速加水分解性 クロスリンカーの代わりに、遅延加水分解キネティクスによるクロスリンカー、クロスリンカー2(12IA−40−1)を同モル濃度(PBS中21.4mg/ml溶液を75μl)使用した。
【0149】
最後に、配合#3は配合#1と同様に調製したが、クロスリンカー2を75μlではなく25μl加えた。3つのAd配合の全てについて、複合化を、30℃、200rpmで30分間、更にRT、無振盪下で20分間実施した。複合Adサンプルは、脱気PBS/3mMEDTAで予備処理したSepharose B6カラムを用いて精製した。4から9mlを含んでなる分画を採取した(本手順による配合1、2、3の精製収率は、それぞれ77、86、及び75%であった。)。
【0150】
配合の蛍光と粒子数との間の換算係数を得るために、分光光度分析の直後、Cy3較正曲線を用いて、サンプルを蛍光定量法によりアッセイした。配合1、2、3の平均標識度数は、1ウイルス粒子当たりのCy3残基数で、それぞれ2792、2472、及び4152であった。
【0151】
配合1及び2は1mlの0.36%Tween/PBSで希釈し、6mlの0.06%Tween/PBSベースの配合を得た。配合#3は1mlの0.36%Tween/PBS及び1mlの0.06%Tween/PBSで希釈し、7mlの0.06%Tween/PBSベースの配合を得た。
【0152】
配合#1のアリコート1ml(2.695×1011粒子)をホイル##3〜6に加えた。配合#2のアリコート1ml(3.01×1011粒子)をホイル##7〜10に加えた。配合#3のアリコート1ml(2.25×1011粒子)をホイル##11〜14及び2つの対照(PAAPB処理)ホイル#1〜2に加えた。複合化(及び偽複合化(mock conjugation))は、28℃で振盪しながら(200rpm)13時間実施した。ウイルス配合の未使用残分(懸濁液1及び2が2ml、懸濁液3が1ml)は、複合化中のホイルと同じ条件に暴露し、非欠乏(non-depleted)対照として用いた。その後、個々のホイルの上清を、非欠乏(non-depleted)対照とともに、蛍光分析及び分光光度分析により評価した。最後に、サンプルを蛍光顕微鏡により分析し、各ホイルにつき4枚の代表画像を撮影した。検体を個々のボトル内に配置し、1mlの0.06%Tween/PBSを加えた。所定の時点において、ホイルの上清及びホイルの表面を、それぞれ蛍光定量法及び蛍光顕微鏡法により評価した。
【0153】
緩除加水分解性クロスリンカー1(SHC)を介して繋留されたAdの放出速度(累積アリコート;図6)は、急速加水分解性クロスリンカー2(RHC)を介して結合されたAdと比べて、遥かに平坦であった。更に、低濃度のRHCは、高濃度の同化合物に比べて、より放出が速かった(より急勾配な曲線であった)。表面の蛍光強度(図7)から見積られる放出量は、これらのデータとある程度対応していた(特に初期の時点において)。しかしながら、今回の実験計画によって十分に対処し切れていない懸念もある。顕微鏡法の際のスチール表面の照明がCy3の崩壊を招き、本方法で得られた放出結果の妥当性を部分的に損なっているように思われる。しかしながら、何れの実験も同じ条件で行なったのだから、この観察結果によって全体的な効果が変わるものではない。
【0154】
実施例7
実施例1で記載した増幅剤に加えて、ポリアリルアミンをベースとした以下の増幅剤を増幅手順に使用することも可能である。この増幅剤は以下に記載する手順で調製される(スキーム1参照)。
【0155】
ポリアリルアミン塩酸塩(PAAHCl、Sigma−Aldrich、数平均分子量Mn≒10kDa、重量分子量Mw≒15kDa、重合度n≒100)を、強塩基アニオン剤(anionite)Dowex G-55(Sigma、OH型)を用いた水溶液中処理により、遊離PAA塩基に変換した。その後、水を2−プロパノールに替え、PAA塩基の2−プロパノール中溶液(約1.1mmol/gのNH2基を含有)を更なる合成に用いた。この溶液(2.207g、2.43mmolのNH2)をCH2Cl2(5ml)で希釈し、氷中で冷却し、SPDP(Pierce、0.379g、1.21mmol)のCH2Cl2中溶液を、攪拌下、滴下により2分間で加えた。この混合物を更に氷中で20分間攪拌し、無水コハク酸(Sigma−Aldrich、0.161g、1.61mmol)を一度に加えた。氷中で更に1時間攪拌後、混合物を真空乾燥し、ポリマー残渣を酢酸エチルと一緒に蒸発濃縮して固化させた。固体ポリマーを酢酸エチルで洗浄し、乾燥後、KHCO3(0.556g、5.55mmol)を加えた水(10ml)に溶解させた。溶液を濾過し、H3PO4でpH=3に酸性化した。ポリマーの沈殿を濾別し、水、酢酸エチルで洗浄し、真空下で乾燥した。収率0.510g。1H NMR(D2O+K2CO3、pH=9)は、2−ピリジルジチオ及びコハク酸アミド基NHCOCH2CH2COOHの両方による修飾がほぼ同量である(k≒50)ことを示している。前者のシグナルは3つのバンドとしてδ8.20、7.48、及び7.02ppm(強度比1:2:1)に出現し、後者のCH2はδ2.41ppmに出現している。
【0156】
【化6】

【0157】
本発明について、具体的な実施例を用いて詳細に説明したが、その趣旨及び範囲を逸脱しない限りにおいて、様々な変更や修正を加えることが可能であることは、当業者には明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】図1Aは、タンパク質反応性スルホスクシンイミジルエステル及び表面反応性ピリジルジチオ基を有する生分解性クロスリンカー1を表わすスキームである。図1Bは、生分解性クロスリンカー2を表わすスキームである。図1Cは、トレシレート(tresylate)(タンパク質反応性)基及びマレイミド(チオール反応性)基を有する生分解性リンカーを表わすスキームである。図1Dは、エポキシ(タンパク質反応性)基及びビニルスルホン(チオール反応性)基を有する生分解性リンカーを表わすスキームである。図1Eは、ペンタフルオロフェニルエステル(タンパク質反応性)基及びヨードアセトアミド(チオール反応性)基を有する生分解性リンカーを表わすスキームである。
【図2】図2は、生分解性クロスリンカー1の合成を表わすスキームである。
【図3】図3は、生分解性クロスリンカー2の合成を表わすスキームである。
【図4】図4Aは、生分解性リンカー2を用いたアデノウイルス(AdV又はAd)の固相支持体への共有結合による固定化を表わすスキームである。図4Bは、加水分解によるブリッジの開裂による固定化されたアデノウイルスの放出を表わすスキームである。
【図5】図5は、任意蛍光単位を表わす棒グラフであり、実施例4で説明するように、エリアIは20時間後におけるGFP形質導入を表わし、エリアIIは72時間後におけるGFP形質導入を表わす。
【図6】図6は、緩序加水分解性クロスリンカー1(SHC)及び急速加水分解性クロスリンカー2(RHC)により繋留されたAdの放出速度を、アリコートを累積して表わすグラフである。RHCについては2つの濃度で表わしている。
【図7】図7は、約25日間における表面の蛍光強度を測定して得られた、緩序加水分解性クロスリンカー1(SHC)及び急速加水分解性クロスリンカー2(RHC)により繋留されたAdの放出量を表わすグラフである。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】

【図1E】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体材料を動物細胞又は組織に送達するための組成物であって:
(a)生体材料;
(b)加水分解性結合を有する生分解性クロスリンカー部位であって、前記生体材料に共有結合により結合された生分解性クロスリンカー部位;並びに
(c)前記生分解性クロスリンカーが前記加水分解性結合の切断によって加水分解し、前記生体材料を放出及び送達し得るように、生分解性クロスリンカー部位に共有結合により結合された基体を含んでなる、組成物。
【請求項2】
前記生体材料が、核酸、遺伝子ベクター、タンパク質、ペプチド、及び細胞からなる群より選択される要素である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記生体材料が、医薬製剤を含んでなる、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記加水分解性結合が、アシル−酸素結合を含んでなる、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記生分解性クロスリンカー部位が、
【化1】

からなる群より選択される要素である、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
前記基体が、金属、金属酸化物、ミネラル、セラミック、ポリマー、カーボン、オルガノシレート化(organosylated)材料、及び有機金属材料からなる群より選択される要素である、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
前記生分解性クロスリンカー部位が、前記生体材料を放出及び送達するのに十分な期間作用するように選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
前記生体材料が、ウイルスベクターを含有し、
前記生分解性クロスリンカー部位が、式(b)
【化2】

で表わされ、且つ、
前記基体が、金属を含んでなる、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
請求項1記載の組成物を使用する方法であって、
前記加水分解性結合を加水分解して前記生体材料を放出することにより、前記生体材料を前記動物細胞又は前記組織に送達させるのに十分な期間、請求項1記載の組成物を前記動物細胞又は前記組織に接触させる工程を含んでなる方法。
【請求項10】
前記生分解性クロスリンカー部位が、当該期間作用するように選択される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
請求項1記載の組成物を作製する方法であって:
(a)前記加水分解性結合を含んでなる前記生分解性クロスリンカー部位、(b)生体材料反応性末端基、及び(c)基体反応性末端基を有する生分解性クロスリンカーを供給する工程;
少なくとも一つの反応性基を有する基体を供給する工程;
前記生体材料を供給する工程;
前記基体を前記生分解性クロスリンカーの前記基体反応性末端基と反応させ、前記生分解性クロスリンカー部位を前記基体に共有結合により付着させる工程;及び、
前記生体材料を前記生分解性クロスリンカーの前記生体材料反応性末端基と反応させることにより、前記生体材料を前記生分解性クロスリンカー部位に共有結合により付着させ、前記組成物を作製する工程を含んでなる方法。
【請求項12】
前記生体材料を前記生分解性クロスリンカーの前記生体材料反応性末端基と反応させる工程を、前記基体を前記生分解性クロスリンカーの前記基体反応性末端基と反応させる工程よりも前に、又は当該工程と同時に実施する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記基体反応性末端基がチオール反応性基である、請求項11記載の方法。
【請求項14】
前記生体材料反応性末端基が、スルホスクシンイミジルエステル基、トレシレート(tresylate)基及びエポキシ基のうちの少なくとも一つである、請求項11記載の方法。
【請求項15】
前記基体の前記少なくとも一つの反応性基がチオール基である請求項11記載の方法。
【請求項16】
前記生分解性クロスリンカーが、
【化3】

からなる群より選択される要素である、請求項11記載の方法。
【請求項17】
前記生体材料が、核酸、遺伝子ベクター、タンパク質、ペプチド、及び細胞からなる群より選択される要素である、請求項11記載の方法。
【請求項18】
前記生体材料が、医薬製剤を含んでなる、請求項11記載の方法。
【請求項19】
前記基体が、金属、金属酸化物、ミネラル、セラミック、ポリマー、カーボン、オルガノシレート化(organosylated)材料、及び有機金属材料からなる群より選択される要素である、請求項11記載の方法。
【請求項20】
前記基体を前記基体反応性末端基と反応させて生分解性クロスリンカー修飾生体材料を形成する前に、前記生体材料を前記生体材料反応性末端基と反応させる、請求項11記載の方法。
【請求項21】
前記生分解性クロスリンカーを供給する工程、及び前記生体材料と反応させる工程が:
(i)前記生体材料反応性末端基及び第1の官能末端基を有する第1の反応物質と、(ii)(a)前記加水分解性結合を含んでなる前記生分解性クロスリンカー部位、(b)前記第1の官能末端基と反応可能な第2の官能末端基、及び、(c)基体反応性末端基を含んでなる、第2の反応物質とを供給する工程;
前記生体材料を前記第1の反応物質の前記生体材料反応性末端基と反応させる工程;並びに
前記第1の官能基を前記第2の官能基と反応させ、前記生分解性クロスリンカー修飾生体材料を形成する工程を含んでなる、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記第1の反応物質が、マレイミド−(スルホ)スクシンイミジルエステル、マレイミド−トレシレート(tresylate)、又はピリジルジチオ−(スルホ)スクシンイミジルエステルであり、前記第2の反応物質が、ジチオール、チオール−メチルスルフィド、又はビス(メチルスルフィド)である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
生体材料を動物細胞又は組織に送達する方法であって、
(a)生体材料;(b)加水分解性結合を有する生分解性クロスリンカー部位であって、前記生体材料に共有結合により結合された生分解性クロスリンカー部位;及び(c)前記生分解性クロスリンカーが前記加水分解性結合の切断によって加水分解し、前記生体材料を放出するように、前記生分解性クロスリンカー部位に共有結合により結合された基体を含んでなる、組成物を供給する工程;並びに
前記加水分解性結合を加水分解して前記生体材料を放出することにより、前記生体材料を動物細胞又は組織に送達するのに十分な期間、前記組成物を前記動物細胞又は前記組織に接触させる工程を含んでなる方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−519048(P2008−519048A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−540091(P2007−540091)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【国際出願番号】PCT/US2005/040106
【国際公開番号】WO2006/052790
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(301040958)ザ・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィア (3)
【氏名又は名称原語表記】THE CHILDREN’S HOSPITAL OF PHILADELPHIA
【Fターム(参考)】