説明

分子組織学

【課題】仮想デジタル画像の予測値または診断値を提供することで組織−病理学的試料検査の改善された診断アウトプットのための新しいレベルのデータクオリティーを提供すること。
【解決手段】 a)多細胞試料のデジタル画像を作成するための光学装置、
b)前記多細胞試料内の1つまたはいくつかの細胞に対応する前記デジタル画像内の目的の領域を選択するためのコンピューター手段、
c)前記多細胞試料から工程b)で選択された前記1つまたはいくつかの細胞を単離するための単離装置、
d)生化学分析を実行し、前記単離された1つまたはいくつかの細胞の、複数の分子値を含む分子プロフィールを作成するための分析装置、
e)前記分子プロフィールを前記デジタル画像内で対応する選択された目的の領域と関連付ける方法で前記デジタル画像および前記分子プロフィールを保存するためのソフトウェアアプリケーション、ならびに
f)工程d)で作成された1つ以上の前記分子値と共に、工程a)で作成された前記デジタル画像を含む修正デジタル画像を表わすための視覚化手段、
を含み、分子組織学的分析は前記修正デジタル画像に基づく、多細胞試料の分子組織学的分析を実行するためのシステム。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(発明の背景)
最近の技術進歩は、単一細胞の分子プロフィールの正確な測定を可能とする。例えば、非特許文献1は、逆転写酵素定量リアルタイムPCR(RT-QPCR)によって個体マウスの膵島細胞における複数の遺伝子発現を研究している。この技術は、遺伝子発現分析のための代替方法のものと比較して優れた感度、正確性、およびダイナミックレンジを付与する。Schliebenらは、個体の限定された細胞試料および単一細胞からのmRNA単離のための方法を以前に記載している(非特許文献2)。顕微鏡画像由来の形態学的データの処理を強化する試みにおいて、Kotsiantiらは、形態学的データの画像取得から組織の病理学的分類までのワークフローを記載している(特許文献1)。さらに、いかに生体マーカーデータと生体画像データの組み合わせが予測診断を派生するために使用され得るかについて利用可能な記載がある(Saidiら, 特許文献2)。
【0002】
マイクロマニピュレーション、蛍光活性化細胞分取またはレーザーマイクロ解剖等の、複合細胞試料から少数の純粋な細胞を単離する選択肢は、例えば、以下の概説論文:非特許文献3ならびに非特許文献4に記載される。
【0003】
しかし、現在、生物学的試料の顕微鏡画像由来の形態学的情報を処理試料の分子状態に派生する次の情報、特に単一細胞レベルに派生する分子データと組み合わせる利用可能な解決をプロセスするシームレスデータは存在しない。
【0004】
生物学的結果または診断結果を決定する可能性とそれらを作成する願望との間の格差は、この文脈におけるデータプロセスおよびデータ取り扱いのための新しいアプローチを必要としている。
【0005】
一般に、病理学者または研究者は細胞を含む試料の疾患状態または形態学的状態の決定のための視覚的評価を使用する。従って、細胞分析を強化し、試料をスループットでスピードアップするために、評価および診断のためのコンピューター補助システムが望ましく、研究者または病理学者による使用のための要約データにデジタル画像および一次分子データを変換する分析プロセスの自動化を可能にする。即ち、1つのシームレスプロセスにおいて細胞画像の形態学的データと細胞分析で得られた分子データを統合する方法が必要とされる。
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0165290号
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0108753号
【非特許文献1】Bengtson, M.,ら(Genome Research 15 (2005) 1388-1392)
【非特許文献2】技術事項TN41000-003 2004, BioNobile Oy
【非特許文献3】Burgemeister, R., J. Histochem. Cytochem. 53(2005) 409-412
【非特許文献4】Baech, J.およびJohnsen, H.E., Stem Cells. 18(2000) 76-86
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(発明の要約)
本発明の課題は、仮想デジタル画像の予測値または診断値を提供することで組織−病理学的試料検査の改善された診断アウトプットのための新しいレベルのデータクオリティーを提供することである。
【0007】
本発明は、仮想デジタル画像の予測値または診断値を提供することで組織−病理学的試料検査の改善された診断アウトプットのための新しいレベルのデータクオリティーを提供する。
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、測定された分子細胞値の文脈性の形態学的情報を保持することで新しいレベルのデータクオリィティを得るために、多細胞試料の分子組織学的分析のためのデータプロセスおよびデータ取り扱いを改善するための方法、コンピュータープログラム、データベースおよびシステムを提供する。
【0009】
即ち、多細胞試料由来の細胞で実行された測定結果は、デジタル画像に含まれる形態学的情報と組み合わされる。前記結果は、細胞の形態および組織学的状態の良好な画像がユーザーによる検査に保持される方法で画像に統合されるべきである。この統合は、個々の細胞の位置における細胞の質の視覚化を可能にし、従って多細胞試料の細胞の直接比較を可能にする。
【0010】
本発明の1つの局面は、
a)多細胞試料のデジタル画像を作成するための光学装置、
b)前記多細胞試料内の1つまたはいくつかの細胞に対応する前記デジタル画像内の目的の領域を選択するためのコンピューター手段、
c)前記多細胞試料から工程b)で選択された前記1つまたはいくつかの細胞を単離するための単離装置、
d)生化学分析を実行し、前記単離された1つまたはいくつかの細胞の、複数の分子値を含む分子プロフィールを作成するための分析装置
e)前記分子プロフィールを前記デジタル画像内の対応する選択された目的の領域と関連付けられる方法で前記デジタル画像および前記分子プロフィールを保存するためのソフトウェアアプリケーション、ならびに
f)工程b)で作成された1つ以上の前記分子値と共に、工程a)で作成された前記デジタル画像を含む修正デジタル画像を表わすための視覚化手段、
を含み、分子組織学的分析は前記修正デジタル画像に基づく、多細胞試料の分子組織学的分析を実行するためのシステムである。
【0011】
本発明を通して、分子組織学的分析は形態学的および分子局面に関する多細胞試料の分析である。多細胞試料は組織試料または細胞培養物等における、細胞の集合である。
【0012】
多細胞試料の形態学的情報を得るために、本発明のシステムは多細胞試料のデジタル画像を記録する光学装置を有する。光学装置として、光学顕微鏡、位相差顕微鏡、共焦点顕微鏡または蛍光顕微鏡を実行する装置等の当業者に公知の全ての種類の装置が、適切である。
【0013】
記録されたデジタル画像内で、システムはさらなる目的の細胞を選択し、目的の細胞に対応させて前記デジタル画像内の領域を規定する。記録されたデジタル画像内のこの領域は、本発明を通して目的の領域(ROI)と呼ばれる。このROIは複雑な形状を有する細胞の正確な輪郭としてまたは細胞およびその周辺の部分を含む単純な形状(円または正方形のような)としてコンピューター手段で示される。あるいは、かかるROIはまた、1つより多くの細胞を含むために規定され得る。
【0014】
ROIの選択は、目的の細胞を示すユーザーの手動入力によってまたはパターン認識アルゴリズムを用いるコンピューター手段によって自動的に開始され得る。かかるパターン認識アルゴリズムを用いて、このコンピューターがROIを選択するだけでなく、目的の細胞を同定することを意味することがあり得る。
【0015】
選択されたROIは、デジタル画像内の選択領域に対応した前記多細胞試料から前記1つまたはいくつかの細胞を単離する単離装置によってさらに使用される。語句いくつかの細胞は本発明を通して本システムの全ての適用により、多細胞試料から複数の単一細胞を単離することが必ずしも必要ではなく、隣接する細胞の集団で十分であり得ることを強調するために使用される。その後、多細胞試料からのかかる隣接する集団の細胞はさらに、単一の分子プロフィールを作成するために共に処理される。
【0016】
次に、単離された細胞または各ROIの細胞はさらなる処理のために個別の容器に置かれる。前記容器は、例えば、各ROIのための個別容器またはマルチウェルプレートであり得、各ウェルは1つのROIからの細胞または複数の細胞を含む。
【0017】
分析装置は分子プロフィールを作成するために単離された細胞に生化学分析を実行するために必要である。この目的のために、本発明の分析装置は、1つのROIからの細胞を含む各容器について個別の生化学分析を実行し得る。
【0018】
分析装置は前記多細胞試料から単離された細胞の分子プロフィールを作成する。これは、細胞の溶解が核酸およびタンパク質等の分子構成物に達するために必要とされることを含む。語句分子プロフィールは、それぞれの細胞の1つより多くの分子構成物が分析されることを強調するために本発明を通して使用される。従って、本発明を通して分子プロフィールは多細胞試料から1つの細胞またはいくつかの細胞を単離することによって得られる複数の分子値を含む。対応する分子構成物のかかる分子値は、例えば、濃度、絶対量、対照または参照に関する相対比または定性測定値としての物理的量であり得る。
【0019】
得られたデジタル画像および分子プロフィールはソフトウェアアプリケーションで処理される。本発明を通して前記ソフトウェアアプリケーションは、各分子プロフィールが前記分子プロフィールを得るために単離された細胞に対応する前記デジタル画像内の選択された目的の領域と関連付けられる方法でデジタル画像が分子プロフィールと共に保存されることを可能にしなければならない。一般に、かかるソフトウェアアプリケーションを提供する少なくとも2つのあり得る選択肢、つまり、データベースアプリケーションまたは画像ベースアプリケーションがある。
【0020】
最終的に、本発明によるシステムは、ユーザーに修正デジタル画像を表わす視覚化手段を含む。修正デジタル画像は、前記分子値がデジタル画像内で視覚化され、各分子値が明らかに細胞起源に対応する修正デジタル画像内の目的の領域に関連付けられる方法で光学装置によって記録されたオリジナルデジタル画像に基づき、特定の数の分子値で修正されている。
【0021】
本発明の別の局面は、
a) 多細胞試料のデジタル画像を得る工程、
b) 前記多細胞試料中の1つまたはいくつかの細胞に対応する前記デジタル画像内の目的の領域を選択する工程、
c) 前記多細胞試料から工程b)で選択された前記1つまたはいくつかの細胞を単離する工程、
d) 前記単離された1つまたはいくつかの細胞の、複数の分子値を含む分子プロフィールを作成するために生化学分析を実行する工程、ならびに
e) 分子組織学的分析を実行するために工程d)で作成された1つ以上の前記分子値と共に、工程a)で得られた前記デジタル画像を含む修正デジタル画像を作成する工程
を含む、多細胞試料の分子組織学的分析を実行するための方法である。
【0022】
本発明のまた別の局面は、分子組織学的分析を実行するために多細胞試料内の特徴的な細胞の位置の同定するための方法であり、前記方法は、
a) 多細胞試料内の1つまたはいくつかの細胞の分子プロフィールと共に前記多細胞試料のデジタル画像を提供する工程、各分子プロフィールは複数の分子値を含み、それぞれまたはいくつかの細胞に対応する前記デジタル画像内の目的の領域に関連付けられる、
b) 修正デジタル画像内で定義された分子基準を満たす前記多細胞試料内の細胞を強調する工程
を含み、
ここで、前記分子プロフィールは、前記多細胞試料から1つまたはいくつかの細胞を単離することで得られる。
【0023】
本発明のこの態様は、ユーザーが、修正デジタル画像の検査によって多細胞試料中の一定の分子基準を満たす細胞を同定するのを可能にする方法をさす。かかる分子基準を満たす細胞を、本発明全体を通して特徴的な細胞と呼び、多細胞試料の分子組織学的分析を実行するために前記特徴的な細胞の同定が必要である。
【0024】
多細胞試料の分子組織学的分析に重要な多くの異なる分子基準がある。例えば、細胞の構成成分の濃度に関して一定の閾値を超える多細胞試料内のすべての細胞が強調され得る。また、参照または対照に対する濃度、間隔要求と組み合わせた濃度基準または形態学的基準と組み合わせた分子の量などのより複雑な分子基準を想定することが望ましい場合がある。
【0025】
本発明による特徴的な細胞の位置を同定するための方法を用い、複数の組織学的仮説が、多細胞試料のデジタル画像およびこの多細胞試料の細胞の一定の数の分子プロフィールに基づいて試験され得る。
【0026】
本発明のさらに別の局面は、多細胞試料のデジタル画像から複数の修正デジタル画像を作成するためのコンピュータープログラムであり、前記デジタル画像は、前記多細胞試料内のそれぞれまたはいくつかの細胞の1つ以上の分子値で修正され、前記コンピュータープログラムは、
a) 多細胞試料のデジタル画像および前記多細胞試料からのそれぞれまたはいくつかの細胞の複数の分子値をロードする工程、各分子値は、それぞれまたはいくつかの細胞に対応する前記デジタル画像内の目的の領域に関連付けられる、ならびに
b) 前記デジタル画像およびいくつかの選択分子値を含む修正デジタル画像を作成する工程
を含み、
ここで、前記分子値は、前記多細胞試料からそれぞれまたはいくつかの細胞を単離することで得られる。
【0027】
かかるコンピュータープログラムは、例えば、前記修正デジタル画像に基づいた分子組織学的分析を実行するために、複数の修正デジタル画像を作成する。
【0028】
本発明によるこのコンピュータープログラムは、ユーザーがこれらの多細胞試料中の一定のユーザー定義の分子基準を満たす細胞を強調する修正デジタル画像を作成するのを可能にする。この修正デジタル画像は、例えば、組織学的仮説を検証するために使用され得る。
【0029】
さらに、本発明の局面は、多細胞試料の分子組織学的実験を管理するための方法であり、前記方法は、
a) ソフトウエアアプリケーションに前記多細胞試料のデジタル画像をロードする工程、
b) 前記多細胞試料内の対応する細胞に位置に関連付けられる目的の領域を前記デジタル画像内で定義する工程、および
c) 前記ソフトウエアアプリケーションに前記多細胞試料由来の1つまたはいくつかの細胞の、複数の分子プロフィールをロードする工程、各分子プロフィールは複数の分子値を含む、
を含み、
ここで、前記ソフトウエアアプリケーションは、工程c)でロードされた前記複数の分子プロフィールが、工程a)でロードされた前記デジタル画像内の工程b)で定義された対応する目的の領域に関連付けられるように構成され、
前記分子プロフィールは、前記多細胞試料から1つまたはいくつかの細胞を単離することで得られる。
【0030】
また、本発明は、分子組織学的分析を実行するために、多細胞試料内の特徴的な細胞の位置を同定するためのコンピュータープログラムに関し、前記コンピュータープログラムは、
a) 多細胞試料のデジタル画像をロードするため、前記多細胞試料内の対応する細胞の位置に関連付けられる目的の領域を前記デジタル画像内で定義するため、および第一の画像ファイルとして前記目的の領域と共に前記デジタル画像を保存するための第一のアプリケーション、
b) 複数の分子値を含む複数の分子プロフィールと前記第一の画像ファイルを組み合わせるため、および第二の画像ファイルとして前記複数の分子プロフィールと共に前記第一の画像ファイルを保存するための第二のアプリケーション、ここで、前記複数の分子プロフィールは、前記デジタル画像内の対応する目的の領域に関連付けられる、ならびに
c) ユーザー定義の分子基準による前記第二の画像ファイルから修正デジタル画像を抽出するための第三のアプリケーション、ここで、前記修正デジタル画像は、前記ユーザー定義の分子基準を満たす細胞を強調する、
を含み、
ここで、前記分子プロフィールは、前記多細胞試料から1つまたはいくつかの細胞を単離することで得られる。
【0031】
本発明のこの態様によるコンピュータープログラムは、コンピュータープログラム全体の一部分を実行する3つの異なるアプリケーションを含む。
【0032】
第1のアプリケーションは、デジタル画像をロードするため、および前記デジタル画像内のROIを規定するための画像形成アプリケーションである。前記のように、ROIは、細胞およびその周囲の一部を構成する複雑な形状または単純な形状(丸もしくは四角など)を有する細胞の正確な輪郭であり得る。あるいは、かかるROIは1つより多くの細胞を含み得る。ROIの規定は、目的の細胞を示すシステムのユーザーの手入力によって、またはパターン認識アルゴリズムによって自動的に開始され得る。手入力の代替法として、第1のアプリケーションには、ユーザーによる検査のためにデジタル画像を表示できることが必要である。さらに、前記第1のアプリケーションは、デジタル画像を規定されたROIと共にセーブするためのセーブ機能を有するが、デジタル画像および規定されたROIを含むファイルを第1の画像ファイルと呼ぶ。
【0033】
第2のアプリケーションは、前記第1の画像ファイルに複数の分子プロフィールを追加すること、および両方の成分を共に第2の画像ファイルとしてセーブすることができる。第2のアプリケーションは、分子プロフィールが、多細胞試料の前記分子プロフィールを提供した細胞を表す対応させたROIに関連付けられるように設計される。
【0034】
第3のアプリケーションは、第2の画像ファイルから修正デジタル画像を抽出するために必要である。前記のように、修正デジタル画像は、一定の数の分子値で修正されたオリジナルデジタル画像に基づくが、各修正デジタル画像は、ユーザー定義の基準に従って作成される。異なる種類の基準を前述したが、例えば、一定の閾値より上の濃度の細胞の構成成分を有する細胞または一定の相対濃度を有する細胞を含む。
【0035】
本発明はまた、多細胞試料の分子組織学的実験を管理するためのデータベースに関し、前記データベースは、
a) 多細胞試料内の対応する位置と共に細胞数を含む細胞表、
b) 前記多細胞試料内の細胞の分子プロフィールを含む分子値表、各分子プロフィールは複数の分子値を含む、ならびに
c) 前記多細胞試料のデジタル画像および前記デジタル画像内の細胞の座標を含むデジタル画像表
を含み、
ここで、前記細胞表は、前記多細胞試料の各細胞がそれぞれのデジタル画像内の対応する座標および対応する分子プロフィールに関連付けられるように前記分子値表および前記デジタル画像表と関連付けられ、
前記データベースは、複数のユーザー定義の分子基準を満たす細胞を強調する前記デジタル画像表由来のデジタル画像に基づく修正デジタル画像が作成可能であるように設計され、
ここで前記分子プロフィールは、前記多細胞試料から1つまたはいくつかの細胞を単離することで得られる。
【0036】
本発明のこの態様によるデータベースは、前記デジタル画像表からデジタル画像に基づく修正デジタル画像、および前記分子値表から一定の数の分子値を得るための、互いに関連付けられる少なくとも3つの基礎構造、すなわち、細胞表、分子値表およびデジタル画像表を含む。このデータベースは、一定の分子基準が規定されたら、複数の修正デジタル画像が抽出され得るように構成される。
【0037】
細胞表は、分子組織学的実験に使用される目的の各細胞に関する情報、すなわち、多細胞試料内の前記細胞の位置を、割振られた識別番号および、必要であれば後の生化学的分析のための解析番号(例えば、ウェル番号)と共に要約する。
【0038】
分子値表は、生化学的分析によって得られたすべての分子値を含むが、それぞれの細胞に属するすべての分子値は、分子プロフィールとしてグループ分けされる。
【0039】
デジタル画像表には、多細胞試料のデジタル画像が、それぞれのデジタル画像内の目的の細胞に対応させてROIを規定する座標と共に保存される。
【課題を解決するための手段】
【0040】
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕 a)多細胞試料のデジタル画像を作成するための光学装置、
b)前記多細胞試料内の1つまたはいくつかの細胞に対応する前記デジタル画像内の目的の領域を選択するためのコンピューター手段、
c)前記多細胞試料から工程b)で選択された前記1つまたはいくつかの細胞を単離するための単離装置、
d)生化学分析を実行し、前記単離された1つまたはいくつかの細胞の、複数の分子値を含む分子プロフィールを作成するための分析装置、
e)前記分子プロフィールを前記デジタル画像内で対応する選択された目的の領域と関連付ける方法で前記デジタル画像および前記分子プロフィールを保存するためのソフトウェアアプリケーション、ならびに
f)工程d)で作成された1つ以上の前記分子値と共に、工程a)で作成された前記デジタル画像を含む修正デジタル画像を表わすための視覚化手段、
を含み、分子組織学的分析は前記修正デジタル画像に基づく、多細胞試料の分子組織学的分析を実行するためのシステム、
〔2〕 前記光学装置が蛍光光学機器、好ましくは蛍光顕微鏡である、前記〔1〕記載のシステム、
〔3〕 前記単離装置がマイクロ解剖装置、好ましくはレーザー補助マイクロ解剖装置である、前記〔1〕〜〔2〕いずれかに記載のシステム、
〔4〕 工程c)における前記いくつかの単離された細胞は、100個未満、好ましくは10個未満、最も好ましくは5個未満の細胞を含む、前記〔1〕〜〔3〕いずれかに記載のシステム、
〔5〕 前記分析装置は下流分析プロセスを実行可能であり、好ましくは、前記分析装置は免疫アッセイ、質量分析、核酸配列決定、核酸ハイブリダイゼーションアッセイ、表面プラズモン共鳴、またはゲル電気泳動であり、より好ましくは、前記分析装置はPCR装置であり、最も好ましくは、前記分析装置はリアルタイムPCR装置である、前記〔1〕〜〔4〕いずれかに記載のシステム、
〔6〕 前記ソフトウェアアプリケーションがデータベース、画像ベースアプリケーションまたはその組合せである、前記〔1〕〜〔5〕いずれかに記載のシステム、
〔7〕 前記多細胞試料が組織試料、細胞培養試料、生検試料または細胞学的試料である、前記〔1〕〜〔6〕いずれかに記載のシステム、
〔8〕 前記分子プロフィールが核酸プロフィールである、前記〔1〕〜〔7〕いずれかに記載のシステム、
〔9〕 前記分子プロフィールがタンパク質プロフィールである、前記〔1〕〜〔7〕いずれかに記載のシステム、
〔10〕 前記分子組織学的分析が前記デジタル画像および前記分子プロフィールと共に予測アルゴリズムを用いて自動的に実行される、前記〔1〕〜〔9〕いずれかに記載のシステム、
〔11〕 a)多細胞試料のデジタル画像を得る工程、
b)前記多細胞試料内の1つまたはいくつかの細胞に対応する前記デジタル画像内の目的の領域を選択する工程、
c)前記多細胞試料から工程b)で選択された前記1つまたはいくつかの細胞を単離する工程、
d)前記単離された1つまたはいくつかの細胞の、複数の分子値を含む分子プロフィールを作成するために生化学分析を実行する工程、ならびに
e)前記分子組織学的分析を実行するために工程d)で作成された1つ以上の前記分子値と共に、工程a)で得られた前記デジタル画像を含む修正デジタル画像を作成する工程
を含む、多細胞試料の分子組織学的分析を実行するための方法、
〔12〕 前記生化学分析がPCR増幅、好ましくはリアルタイムPCRに基づく遺伝子発現分析である、前記〔11〕記載の方法、
〔13〕 前記生化学分析が免疫アッセイである、前記〔11〕〜〔12〕いずれかに記載の方法、
〔14〕 a)多細胞試料内の1つまたはいくつかの細胞の分子プロフィールと共に、前記多細胞試料のデジタル画像を提供する工程、各分子プロフィールは複数の分子値を含み、それぞれまたはいくつかの細胞に対応する前記デジタル画像内の目的の領域と関連付けられる、
b)修正デジタル画像内で定義された分子基準を満たす前記多細胞試料内の細胞を強調する工程
を含み、ここで前記分子プロフィールが前記多細胞試料から1つまたはいくつかの細胞を単離することで得られる、分子組織学的分析を実行するために多細胞試料内の特徴的な細胞の位置を同定するための方法、
〔15〕 a)多細胞試料のデジタル画像、および前記多細胞試料由来の1つまたはいくつかの細胞の、複数の分子値をロードすること、各分子値はそれぞれまたはいくつかの細胞に対応する前記デジタル画像内の目的の領域に関連付けられる、ならびに
b)前記デジタル画像およびいくつかの選択分子値を含む修正デジタル画像を生じること
を含み、ここで前記分子値が前記多細胞試料から1つの細胞またはいくつかの細胞を単離することで得られ、前記デジタル画像は前記多細胞試料内のそれぞれまたはいくつかの細胞の1つ以上の分子値で修正される、多細胞試料のデジタル画像から複数の修正デジタル画像を生成するためのコンピュータープログラム、
〔16〕 a)ソフトウェアアプリケーションに多細胞試料のデジタル画像をロードする工程、
b)前記多細胞試料内の対応する細胞の位置に関連付けられる目的の領域を前記デジタル画像内で定義する工程、および
c)前記ソフトウェアアプリケーションに前記多細胞試料由来の1つまたはいくつかの細胞の、複数の分子プロフィールをロードする工程、各分子プロフィールは複数の分子値を含む、
を含み、
ここで、前記ソフトウェアアプリケーションは工程c)でロードされた前記複数の分子プロフィールが工程a)でロードされた前記デジタル画像内の工程b)で定義された対応する目的の領域に関連付けられるように構築され、
ここで、前記分子プロフィールは前記多細胞試料から1つまたはいくつかの細胞を単離することで得られる、
多細胞試料の分子組織学的実験を管理するための方法、
〔17〕 前記多細胞試料の修正デジタル画像が前記多細胞試料の組織学的分析を実行するために作成される、前記〔16〕記載の方法、
〔18〕 前記ソフトウェアアプリケーションがデータベース、画像ベースアプリケーションまたはその組合せである、前記〔16〕〜〔17〕いずれかに記載の方法、
〔19〕 a)多細胞試料のデジタル画像をロードし、前記多細胞試料内の対応する細胞の位置に関連付けられる目的の領域を前記デジタル画像内で定義し、第一の画像ファイルとして前記目的の領域と共に前記デジタル画像を保存するための第一のアプリケーション、
b)複数の分子値を含む複数の分子プロフィールと前記第一の画像ファイルを組み合わせて、第二の画像ファイルとして前記複数の分子プロフィールと共に前記第一の画像ファイルを保存するための第二のアプリケーション、ここで前記複数の分子プロフィールは前記デジタル画像内の対応する目的の領域に関連付けられる、
c)ユーザー定義の分子基準による前記第二の画像ファイルから修正デジタル画像を抽出するための第三のアプリケーション、ここで前記修正デジタル画像は前記ユーザー定義の分子基準を満たす細胞を強調する、
を含み、ここで前記分子プロフィールは前記多細胞試料から1つまたはいくつかの細胞を単離することで得られる、
分子組織学的分析を実行するために多細胞試料内の特徴的な細胞の位置を同定するためのコンピュータープログラム、
〔20〕 画像ベースアプリケーション、好ましくはTIFFアプリケーションである、前記〔19〕記載のコンピュータープログラム、
〔21〕 a)多細胞試料内の対応する位置と共に細胞数を含む細胞表、
b)前記多細胞試料内の細胞の分子プロフィールを含む分子値表、各分子プロフィールは複数の分子値を含む、ならびに
c)前記多細胞試料のデジタル画像および前記デジタル画像内の細胞の座標を含むデジタル画像表、
を含み、
ここで、前記細胞表は、前記多細胞試料の各細胞がそれぞれのデジタル画像内の対応する座標および対応する分子プロフィールに関連付けられるように前記分子値表および前記デジタル画像表と関連付けられ、
ここで、前記データベースが、複数のユーザー定義の分子基準を満たす細胞を強調する前記デジタル画像表由来のデジタル画像に基づく修正デジタル画像が作成可能であるように設計され、
ここで、前記分子プロフィールは前記多細胞試料から1つまたはいくつかの細胞を単離することで得られる、
多細胞試料の分子組織学的実験を管理するためのデータベース
に関する。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、仮想デジタル画像の予測値または診断値を提供することで組織−病理学的試料検査の改善された診断アウトプットのための新しいレベルのデータクオリティーを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
(発明の詳細な説明)
本発明の1つの局面は、
a) 多細胞試料のデジタル画像を作成するための光学装置、
b) 前記多細胞試料中の1つまたはいくつかの細胞に対応する前記デジタル画像内の目的の領域を選択するためのコンピューター手段、
c) 前記多細胞試料から工程b)で選択された前記1つまたはいくつかの細胞を単離するための単離装置、
d) 生化学的分析を実行し、前記1つまたはいくつかの単離された細胞の、複数の分子値を含む分子プロフィールを作成するための分析装置、
e) 前記分子プロフィールを前記デジタル画像内で対応する選択された目的の領域と関連付ける方法で前記デジタル画像および前記分子プロフィールを保存するためのソフトウエアアプリケーション、ならびに
f) 工程d)で作成された1つ以上の前記分子値と共に工程a)で作成された前記デジタル画像を含む修正デジタル画像を表わすための視覚化手段
を含み、
ここで、分子組織学的分析は前記修正デジタル画像に基づく、
多細胞試料の分子組織学的分析を実行するためのシステムである。
【0043】
本発明によるシステムの重要な点は、工程b)におけるコンピューター手段による目的の領域(ROI)の選択である。前記のように、光学装置のデジタル画像内のROIを規定する、例えば、ROIを目的の細胞の輪郭として、または目的の細胞一面に及ぶ丸もしくは四角として規定する種々の代替法がある。
【0044】
本発明の好ましい態様において、前記目的の領域は、2つ以上の座標によって規定される。
【0045】
ROIを規定する最も単純な方法は、目的の細胞一面に及ぶ円の中心を規定する2つだけの座標を必要とする。他方、細胞の輪郭を示すROIは、いくつかの座標を必要とする。
【0046】
本発明の別の好ましい態様において、前記光学装置は、光学顕微鏡を行なうために配置される。
【0047】
前記のように、当業者に公知の複数の異なる光学装置は本発明に適する。光学顕微鏡検査を行なうためのデバイスの例は、市販の光学顕微鏡、コントラスト(contrast)顕微鏡または共焦点顕微鏡である。多細胞試料のデジタル画像を作成するための光学顕微鏡を使用することは、光学的対比を増強する化合物で試料を処理する必要性をもたらし得る。かかる対比増強剤は当業者に公知である。最も広く使用されている染色技術は、一般にH&Eと呼ばれるヘマトキシリンおよびエオシンのものである。この方法では、細胞の核が、ヘマトキシリンによって染色され、細胞質がエオシンによって着色される。この技術は、種々の形態で100年以上も存在している。Waldeyerは、1863年にロッグウッドの抽出物で組織学的切片の染色を試みた最初の人である (Waldeyer, W., Zeitschr. f. rat. Med. (Dritte R.) Bd. XX (1863) 193-256)。着色剤ヘマトキシリンは染料ではないが、ヘマチンへの酸化の際に着色特性を発揮する。この物質ヘマチンは組織要素に対してほとんどまたは全く親和性を有さず、無機イオンを必要とし、染料と組織間で「仲介物(go between)」(媒染剤と呼ばれる)として作用する。媒染剤は、ヘマトキシリン染浴内に組み込まれるのが最も一般的な方法であり得る。あるいは、組織を金属塩で前処理した後、ヘマトキシリンで染色され得る。エオシンは、作用するのに酸性環境を必要とする酸染料である。溶液中では、染料分子は負帯電であり、したがって、塩橋によって組織内の陽性部位に付着する。
【0048】
さらに、もちろん、細胞の構造の拡大を提供する光学装置を使用することが必要である。
【0049】
本発明のまた別の好ましい態様において、前記光学装置は蛍光光学機器、好ましくは、蛍光顕微鏡である。
【0050】
蛍光顕微鏡を用いることは、光学顕微鏡と比べて、解像度、多重化または対比などの利点を提供する。さらに、画像記録工程中で既にいくつかの分子情報を得るため、FISH(蛍光インサイチュハイブリダイゼーション)または蛍光標識抗体(組織(免疫組織化学)もしくは細胞培養物(免疫細胞化学)用)などの組織および細胞培養物のための確立された解析技術が使用され得る。
【0051】
本発明のまた好ましい態様において、前記単離装置は、マイクロ解剖装置, 好ましくは、レーザー補助マイクロ解剖装置である。
【0052】
本発明のまた別の好ましい態様において、前記単離装置は、手動マイクロ解剖装置、好ましくは、マイクロピペッティング装置である。
【0053】
細胞培養物または組織試料から1つの細胞を単離するための本発明に適した装置および方法は当業者に公知である。顕微操作、蛍光標識細胞分取またはレーザーマイクロ解剖などの複雑な細胞の試料から少数の精製細胞を単離するための選択肢は、例えば、Player, A., et al. (Expert. Rev. Mol. Diagn. 4 (2004) 831-840)の総論に記載されている。レーザーマイクロ解剖装置は、例えば、P.A.L.M. Microlaser Technologies GmbH, Bernried, Germanyから市販されている。
【0054】
本発明による好ましいシステムは、工程c)における前記いくつかの単離された細胞が100個未満、好ましくは10個未満、最も好ましくは5個未満の細胞を含むシステムである。
【0055】
システムのアプリケーションおよび使用する分析装置の性質に依存して、1回の単離当たりの細胞数に関して異なる要件が適用され得る。前記のように、1回の単離工程でいくつかの単離された細胞は、常に、多細胞試料の同じ部分に由来する一群の隣接する細胞である。一般に、もちろん、多細胞試料に関する最大限の情報を得るために、できるだけ少ない細胞、理想的にはただ1つの細胞を単離することが好ましい。組織から1つの細胞を単離することができる市販のマイクロ解剖装置、例えば、P.A.L.M. Microlaser Technologies GmbH (Bernried, Germany)のものがある。
【0056】
本発明による別の好ましいシステムは、前記分析装置が下流分析プロセスを実行可能であるシステムであり、好ましくは、前記分析装置は、免疫アッセイ、質量分析、核酸配列決定、核酸ハイブリダイゼーションアッセイ、表面プラズモン共鳴、またはゲル電気泳動であり、より好ましくは、前記分析装置は、PCR装置であり、最も好ましくは、前記分析装置はリアルタイムPCR装置である。
【0057】
本発明全体を通して、語句下流分析プロセスは、単離された細胞に関する分子レベルのさらなる情報を得るのに適したすべてのプロセスを要約する。本発明において、分子レベルに関する前記さらなる情報は、外部生化学分析での細胞の単離後に得られる。しかし、これは、標識抗体またはインサイチュハイブリダイゼーションに基づいて、既に画像記録中にさらなる分子細胞情報を得る可能性を排除しないことに注意されたい。
【0058】
核酸に基づいたさらなる分子情報を得るための適当な下流分析プロセスの群からは、一般に、わずかいくつかの単離された細胞から得られる核酸が少量であるため、PCR装置が特に好ましい。さらに、リアルタイムPCRを用いることは、1回のプロセスで所望の増幅および必要とされる分析を提供する。さらに、リアルタイムPCRは、細胞の分子プロフィールを得ることを補助する多重化能力を提供する。本発明に適用され得る生化学分析の1つは、多細胞試料から単離された個々の細胞由来のmRNAの定量である。
【0059】
本発明によるまた別の好ましいシステムは、前記ソフトウエアアプリケーションが、各々が前記デジタル画像内に対応する選択された目的の領域に関連付けられる複数の分子プロフィールを保存することができるシステムである。
【0060】
本発明のシステムは、多細胞試料の分子組織学的分析に適用可能であるため、ソフトウエアアプリケーションは、1つのデジタル画像内の異なる領域に関連付けられるいくつかの分子プロフィールを取扱い得ることが必要である。
【0061】
一般に、いくつかの分子プロフィールおよびそのそれぞれ目的の領域への割振りと一緒になったデジタル画像、すなわち、データベースまたは画像ファイルを保存する少なくとも2つの代替法がある。
【0062】
本発明のより好ましい態様において、前記ソフトウエアアプリケーションは、データベース、画像ベースアプリケーションまたはその組合せである。
【0063】
本発明の別のより好ましい態様において、前記画像ベースアプリケーションはTIFF-アプリケーションである。
【0064】
TIFF形式により、ブロック構造およびブロック内容を示すヘッダーによって、さらなる情報および画像オーバーレイの保存が可能になる。本発明にTIFF形式を使用するためには、TIFF形式を読むため、および画像をデータオーバーレイと共に表示するためのソフトウエアモジュールを使用しなければならない。
【0065】
ソフトウエアアプリケーションは、対象の位置および/またはその形態学的構造と相関し、また、それぞれの画像の名称もしくは番号を含むべきである識別名(identifier)によって、画像内の対象をアノテート(annotate)する。また、この識別名は、前記ブロック構造または例えば関連するデータベースに保存された前記識別名に対応させて対象の分子プロフィールと関連付けられる。
【0066】
最終的に、ソフトウエアアプリケーションは、画像を対象の分子プロフィールとともに表示し得る。これは、ユーザーが、識別名(画像名または画像番号を含む)に対応する位置および/または形態学的構造によって規定される対象をマーキングすることによって反復的に行なわれ得る。次に、ソフトウエアは、データベースまたはブロック構造から識別名に対応するデータを読むことにより、画像内の対象の分子プロフィールを表示し得る。このワークフローはまた、いくつかの対象の情報を並行して表示するために機能する。
【0067】
本発明の好ましい態様において、前記視覚化手段は、デジタル画像を前記デジタル画像内の複数の選択された目的の領域からの分子値と共に示す。
【0068】
前記のように、本発明のシステムは、多細胞試料の分子組織学的分析に適用可能であり、したがって、視覚化手段は、異なる目的の領域に属する複数の分子値を処理できることが必要である。
【0069】
本発明の別の好ましい態様において、前記視覚化手段は、デジタル画像をユーザーによって選択された分子値と共に示す。
【0070】
修正デジタル画像内に必要とされる分子値を示すため、いくつかの代替法が存在する。まず、分子値は、それぞれの細胞の位置に数値として表示され得、前記数値は、例えば、前記分子化合物の濃度であり得る。あるいは、分子値は、例えば、濃度が、白から黒または白から赤の範囲のカラースケールに従ってそれぞれの細胞の位置に表示されるように、色によって表示され得る。異なるカラースケールを用いて、一定の数の異なる濃度が同時に表示され得る。さらに、特定の分子基準を満たすこれらの細胞をマーキングするために単色が使用され得、例えば、タンパク質Aおよびタンパク質Bを有するすべての細胞が赤でマーキングされる。また、分子値を示すため、単色の強度が使用され得る。
【0071】
この種の視覚化により、本発明は、複数のユーザー定義のプロセス、例えば、生物学的試料中に含まれる個々の細胞に由来する分子種に基づいた異なる分子基準を満たす細胞の集団を測定するプロセスに適切に適用される。
【0072】
また、本発明の好ましい態様において、前記多細胞試料は、組織試料、細胞培養試料、生検試料または細胞学的試料である。
【0073】
かかる組織試料または細胞培養試料は、研究適用に典型的に使用される。組織病理学的試料または細針吸引物などの生検試料もまた、医学または診断適用に使用される。本発明のシステムの他の医学または診断適用では、前記多細胞試料は、血液スミア、頬スミアまたはPAPスミアなどの細胞学的試料であり得る。あるいは、かかる細胞学的試料は、移植目的のための幹細胞からなり得る。さらに、前記多細胞試料は、羊水穿刺由来の細胞学的試料であり得る。
【0074】
本発明による好ましいシステムは、前記分子プロフィールが核酸プロフィールであるシステムである。
【0075】
かかる核酸プロフィールは、核酸発現プロフィール、核酸変形物プロフィール、核酸メチル化プロフィールまたは他の核酸修飾プロフィールであり得る。
【0076】
本発明による別の好ましいシステムは、前記分子プロフィールがタンパク質プロフィールであるシステムである。
【0077】
かかるタンパク質プロフィールは、例えば、タンパク質発現プロフィール、翻訳後タンパク質修飾プロフィールまたはタンパク質活性プロフィールである。
【0078】
本発明による別の好ましいシステムは、前記分子プロフィールが、代謝産物ならびにシグナル伝達分子およびホルモンを含む他の内因性および外因性の小分子実体(sme)のプロフィールであるシステムである。
【0079】
かかる代謝産物プロフィールは、例えば、内因性生理学的もしくは病態生理学的代謝産物のプロフィールまたは生体異物代謝産物(薬理学的もしくは毒物学的に関連外因性物質の代謝産物)のプロフィールである。
【0080】
本発明によるさらに別の好ましいシステムは、前記分子組織学的分析が、前記デジタル画像および前記分子プロフィールと共に予想アルゴリズムを用いて、自動的に実行されるシステムである。
【0081】
本発明のシステムは、コンピューター補助アルゴリズムのためのインプットが、複数分子種の分子プロフィールと組み合わされた多細胞試料画像から作成された修正デジタル画像の自動分析が提供されて、期待値または診断値のさらなる解釈的な画像、医療データ、医療統計または医療報告書を作り出すことを可能にするようにさらに設定され得る。
【0082】
また、本発明によるシステムは、いくつかの組織学的試料または細胞学的標本の一次データを、器官または生物体のコンピューター的三次元モデルに変換するようにさらに設定され得る。器官の画像データ、(一つまたは複数の)細胞の分子的特徴(signature)、およびインプット試料に含有される細胞の表現型の組合せにより、コンピューター定量的分析が、組織学的試料または細胞学的標本の疾患状態に対する評価を提供することを可能にし得る。
【0083】
さらに、本発明によるシステムは、医学的決定の支持システムのためのインプットとして働き、コンピューターネットワークの処理、コンピューターネットワークへの信号送信、および/またはコンピューターネットワークとの情報伝達が可能となるようにさらに設定され得る。
【0084】
本発明の別の局面は、
a) 多細胞試料のデジタル画像を得る工程、
b) 前記多細胞試料中の1つまたはいくつかの細胞に対応する前記デジタル画像中の目的の領域を選択する工程、
c) 前記多細胞試料から工程b)で選択された前記1つまたはいくつかの細胞を単離する工程、
d) 生化学分析を実行し、前記単離された1つまたはいくつかの細胞の、複数の分子値を含む分子プロフィールを作成する工程、ならびに
e) 分子組織学的分析を実行するために工程d)で作成された1つ以上の前記分子値と共に、工程a)で得られた前記デジタル画像を含む修正デジタル画像を作成する工程
を含む、多細胞試料の分子組織学的分析を実行するための方法である。
【0085】
本発明による方法により、多細胞試料のオリジナルのデジタル画像に基づく修正デジタル画像(例えば、拡大または蛍光画像を用いてコントラストを強調した写真)、および単離された細胞の外部の生化学的分析により得られる分子値が作成される。細胞を単離して、生化学的分析を実行するための選択は、既に先に記載された。
【0086】
本発明による好ましい方法は、種々の目的の領域について工程b)〜d)を繰り返す方法である。
【0087】
本発明による別の好ましい方法は、多細胞試料の全ての細胞が分析されるまで、工程b)〜d)を繰り返す方法である。
【0088】
本発明による好ましい方法において、複数の修正デジタル画像が作成可能であり、それぞれが異なる分子値または分子値の異なる群を有する。
【0089】
当然、多細胞試料の分子組織学的分析についての支持を提供するために、多くのデジタル画像を修正する方法がある。前記修正デジタル画像は、例えば、多細胞試料中の、どこがある遺伝子の過剰発現を有する細胞であるか、または互いに一定の距離を有しある遺伝子を発現する細胞が存在するか、またはどこがある遺伝子の過剰発現を有し、一方で他の遺伝子がダウンレギュレーションされる細胞であるかのような問題を解くのに役立つ。このような問題を解くために、修正デジタル画像中に1つ以上の分子値を示すことが必要であり得る。
【0090】
本発明による別の好ましい方法において、前記修正デジタル画像は、数値として、または色で示された前記分子値を含む。
【0091】
本発明によるさらに別の方法において、前記修正デジタル画像は、種々の目的の領域由来の分子値と共に前記デジタル画像を含む。
【0092】
また、本発明による好ましい方法において、前記修正デジタル画像の前記分子値は、ユーザーによる視覚化について個々に選択される。
【0093】
ユーザー定義の基準に従った、デジタル画像中に種々の分子値を視覚化するための種々の選択は、既に先に記載された。
【0094】
本発明による好ましい方法は、前記生化学的分析がPCR増幅、好ましくはリアルタイムPCRに基づいた遺伝子発現分析である方法である。
【0095】
前述のように、多くの単離された細胞のみから得ることができる少量の核酸のために、細胞のさらなる分子情報を得るための適当な下流分析プロセスの群からは、PCR増幅が特に好ましい。さらに、リアルタイムPCRを用いることにより、多重の機能が設けられ、一回のプロセスにおいて所望の増幅および必要な分析が提供される。
【0096】
本発明による別の好ましい方法は、前記分子プロフィールが核酸プロフィール、好ましくは遺伝子発現プロフィールである方法である。
【0097】
下流分析プロセスとしてPCRを用いることで、多細胞試料から単離された個々の細胞由来のmRNAの定量に関して、細胞の遺伝子発現を分析することが可能である。所望の分子組織学的分析の複雑さに応じて、多細胞試料中で一定数の遺伝子をスクリーニングする必要がある。
【0098】
本発明によるより好ましい方法は、前記PCRが5より多い、好ましくは10より多い、最も好ましくは100より多い遺伝子を増幅する方法である。
【0099】
原則的に、個々の分子プロフィールにおいて分析され、要約される全ての遺伝子の発現は、色、強度および/または数値を用いて1枚の修正デジタル画像中に表され得ることに注意されたい。しかしながら、かかる複雑なデジタル画像の値が疑わしいために、全ての分析された遺伝子の一定量のみを表す、いくつかの異なる修正デジタル画像を作成することが望ましい。
【0100】
本発明によるさらに別の好ましい方法は、前記分子プロフィールがタンパク質プロフィールである方法である。
【0101】
あるいは、核酸分析に基づいた下流プロセスについて、当然、単離された細胞のタンパク質プロフィールを生じるタンパク質含有量に関して多細胞試料の細胞を試験することが可能である。
【0102】
本発明によるより好ましい方法は、前記生化学分析が免疫アッセイである方法である。
【0103】
タンパク質プロフィールの分子データが免疫組織化学または免疫細胞化学等の従来のインサイチュ染色によって得られるプロセスの代わりに、(単一の)細胞単離の後に、1つ以上のタンパク質種の1つ以上の分子特性の次の分析のために細胞内容物が別々の反応容器(または表面)に移されるプロセスが想定され得る。この目的のための好ましい分析アプローチは、ELISA技術またはタンパク質発現アレイ技術であり得る。感度における限界などの多重タンパク質分析における技術的困難を回避するために、かかる分析アプローチは例えばイムノPCRのような方法に基づき得る。
【0104】
本発明による別のより好ましい方法は、前記免疫アッセイが5より多い、好ましくは10より多い、最も好ましくは100より多いタンパク質を検出する方法である。
【0105】
本発明のさらに別の局面は、分子組織学的分析を実行するために多細胞試料内の特徴的な細胞の位置を同定するための方法であり、前記方法は、
a) 多細胞試料内の1つまたはいくつかの細胞の分子プロフィールと共に前記多細胞試料のデジタル画像を提供する工程、各分子プロフィールが複数の分子値を含み、それぞれまたはいくつかの細胞に対応する前記デジタル画像内の目的の領域と関連付けられる、
b) 修正デジタル画像内で定義された分子基準を満たす前記多細胞試料内の細胞を強調する工程、
を含み、
ここで、前記分子プロフィールは前記多細胞試料から1つまたはいくつかの細胞を単離することで得られる。
【0106】
前述のように、本発明のこの態様は、ユーザーが、修正デジタル画像の検査によって、一定の分子基準を満たす多細胞試料中の特徴的な細胞を同定することを可能にする方法のことをいう。この目的のために、多細胞試料中の各細胞が、デジタル画像中のいわゆる目的の領域に対応するので、個々の分子値を有する位置または範囲でデジタル画像を修正するために、各細胞について規定された位置または範囲が存在する。
【0107】
本発明による特徴的な細胞の位置を同定するための好ましい方法において、前記の個々の細胞の目的の領域は2つ以上の座標によって特定される。
【0108】
本発明による、特徴的な細胞の位置を同定するためのさらに別の好ましい方法は、前記強調が数値または色によってなされる方法である。
【0109】
デジタル画像中のROIを特定するための選択、およびその後の多細胞試料中の対応する細胞の単離ならびに修正デジタル画像中の分子値の表示は、先に詳細に記載された。
【0110】
本発明による、特徴的な細胞の位置を同定するためのさらに別の好ましい方法において、前記分子プロフィールは核酸プロフィール、好ましくは遺伝子発現プロフィールである。
【0111】
本発明による、特徴的な細胞の位置を同定するための好ましい方法は、前記分子基準が遺伝子の発現レベルまたは遺伝子の関連する群の発現レベルである方法である。
【0112】
本発明による、特徴的な細胞の位置を同定するための別の好ましい方法は、前記分子プロフィールがタンパク質プロフィールである方法である。
【0113】
本発明による、特徴的な細胞の位置を同定するためのより好ましい方法は、前記分子基準がタンパク質の濃度である方法である。
【0114】
前述のように、多細胞試料の分子組織学的分析は、好ましくは、単離された細胞の核酸またはタンパク質含量の測定に基づく。
【0115】
本発明のさらに別の局面は、多細胞試料のデジタル画像から複数の修正デジタル画像を生成するためのコンピュータープログラムであって、前記デジタル画像は前記多細胞試料内のそれぞれまたはいくつかの細胞の1つ以上の分子値で修正され、前記コンピュータープログラムは、
a) 多細胞試料の前記デジタル画像および前記多細胞試料由来の1つまたはいくつかの細胞の、複数の分子値をロードすること、各分子値はそれぞれまたはいくつかの細胞に対応する前記デジタル画像中の目的の領域に関連付けられる、ならびに
b) 前記デジタル画像およびいくつかの選択分子値を含む修正デジタル画像を作成すること
を含み、
ここで、前記分子値は、前記多細胞試料から1つまたはいくつかの細胞を単離することで得られる。
【0116】
好ましくは、前記コンピュータープログラムは、前記修正デジタル画像に基づく分子組織学的分析を実行するために、前記複数の修正デジタル画像を作成する。
【0117】
本発明による、複数の修正デジタル画像を作成するためのコンピュータープログラムは、ユーザーが、一定のユーザー定義の分子基準を満たす多細胞試料中のこれらの細胞を強調する修正デジタル画像を作成することを可能にする。この修正デジタル画像は、例えば組織学的仮説を実証するために使用され得る。
【0118】
この目的のために、デジタル画像および分子プロフィールをロードしながら、コンピュータープログラムが分子プロフィールをデジタル画像の定義領域と関連付けられ得ることが不可欠である。一般的に、デジタル画像の定義された領域は、単一の細胞または隣り合う細胞の群に対応し、前記領域は目的の領域(ROI)と呼ばれる。
【0119】
本発明による、好ましいコンピュータープログラムにおいて、個々の細胞の前記目的の領域は1つ以上の座標により特定される。
【0120】
本発明による、別の好ましいコンピュータープログラムにおいて、前記修正デジタル画像上の前記の選択された分子値は、数値で表されるか、または色で表される。
【0121】
ROIを特定するためおよび分子値を示すための選択は、既に先に詳細に記載された。
【0122】
本発明による、さらに別の好ましいコンピュータープログラムにおいて、目的の一定の分子値の閾値が選択され、全細胞は前記目的の分子値の閾値を超えるかまたは超えない前記修正デジタル画像中で強調される。
【0123】
本発明による、コンピュータープログラムのこの特別な態様において、修正デジタル画像中に示される基準は、一定の分子値についての閾値試験である。かかる閾値試験は、例えば、目的の遺伝子のアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションを有する多細胞試料中の全ての細胞を示すが、一方で閾値は前記遺伝子の正常発現である。
【0124】
本発明による、別の好ましいコンピュータープログラムは、前記分子値が核酸発現値であるコンピュータープログラムである。
【0125】
本発明による、さらに別の好ましいコンピュータープログラムは、前記分子値がタンパク質発現値であるコンピュータープログラムである。
【0126】
さらに、本発明の局面は、多細胞試料の分子組織学的実験を管理するための方法であり、前記方法は、
a) ソフトウェアアプリケーションに多細胞試料のデジタル画像をロードする工程、
b) 前記多細胞試料内の対応する細胞の位置に関連付けられる目的の領域を前記デジタル画像中で定義する工程、および
c) 前記ソフトウェアアプリケーションに前記多細胞試料由来の1つまたはいくつかの細胞の、複数の分子プロフィールをロードする工程、各分子プロフィールが複数の分子値を含む、
を含み、
ここで、前記ソフトウェアアプリケーションは、工程c)でロードされた前記複数の分子プロフィールが工程a)でロードされた前記デジタル画像中に工程b)で定義された対応する目的の領域に関連付けられるように構築され、
ここで、前記分子プロフィールは、前記多細胞試料から1つまたはいくつかの細胞を単離することで得られる。
【0127】
本発明による、分子組織学的実験を管理するための好ましい方法において、前記目的の領域は1つ以上の座標により特定される。
【0128】
本発明による、分子組織学的実験を管理するための別の好ましい方法において、前記分子プロフィールは、前記多細胞試料から1つまたはいくつかの細胞を単離することにより得られる。
【0129】
本発明による、分子組織学的実験を管理するためのさらに別の好ましい方法において、前記分子プロフィールは核酸プロフィール、好ましくは遺伝子発現プロフィールである。
【0130】
本発明による、分子組織学的実験を管理するための好ましい方法は、前記分子プロフィールがタンパク質プロフィールである方法である。
【0131】
本発明による、分子組織学的実験を管理するための別の好ましい方法は、前記多細胞試料の分子組織学的分析を実行する方法である。
【0132】
前述のように、分子組織学的実験は、形態面および分子面に関する多細胞試料の分析である。
【0133】
本発明による、分子組織学的実験を管理するためのさらに別の好ましい方法は、前記多細胞試料の組織学的分析を実行するために、前記多細胞試料の修正デジタル画像が作成される方法である。
【0134】
分子組織学的実験を行なった後、得られた分子値を、1つ以上の修正デジタル画像の作成に使用し、前記修正デジタル画像は、前記多細胞試料の組織学的分析のための基準となる。
【0135】
また、本発明による、分子組織学的実験を管理するための好ましい方法は、前記ソフトウェアアプリケーションがデータベース、画像ベースアプリケーションまたはその組合せである方法である。
【0136】
本発明による、分子組織学的実験を管理するためのより好ましい方法は、前記画像ベースアプリケーションがTIFFアプリケーションである方法である。
【0137】
本発明を通して利用可能である種々のソフトウェアアプリケーションは、既に先に詳細に記載された。
【0138】
また、本発明は、分子組織学的分析を実行するために多細胞試料内の特徴的な細胞の位置を同定するためのコンピュータープログラムに関し、前記コンピュータープログラムは、
a) 多細胞試料のデジタル画像をロードし、前記多細胞試料内の対応する細胞の位置に関連付けられる目的の領域を前記デジタル画像内で定義し、および第一の画像ファイルとして前記目的の領域と共に前記デジタル画像を保存するための第一のアプリケーション、
b) 複数の分子値を含む複数の分子プロフィールと前記第一の画像ファイルを組み合わせて、第二の画像ファイルとして前記複数の分子プロフィールと共に前記第一の画像ファイルを保存するための第二のアプリケーション、ここで前記複数の分子プロフィールが前記デジタル画像中の対応する目的の領域に関連付けられる、ならびに
c) ユーザー定義の分子基準による前記第二の画像ファイルから修正デジタル画像を抽出するための第三のアプリケーション、ここで前記修正デジタル画像が、前記ユーザー定義の分子基準を満たす細胞を強調する、
を含み、
ここで、前記分子プロフィールが、前記多細胞試料から1つまたはいくつかの細胞を単離することで得られる。
【0139】
本発明による、特徴的な細胞の位置を同定するためのコンピュータープログラムの一部である3つのアプリケーションの詳細は、既に先に記載された。
【0140】
簡潔に、第一のアプリケーションは、デジタル画像をロードするため、前記デジタル画像中のROIを特定するため、およびデジタル画像を特定されたROIと共に第一の画像ファイルとして保存するための画像化アプリケーションである。第二のアプリケーションは、前記第一の画像ファイルに複数の分子プロフィールを追加し、両方の内容を一緒に第二の画像ファイルとして保存し得る。第三のアプリケーションは、第二の画像ファイルから修正デジタル画像を抽出うするために必要である。
【0141】
本発明による、特徴的な細胞の位置を同定するための好ましいコンピュータープログラムは、前記目的の領域が1つ以上の座標により特定されるプログラムである。
【0142】
本発明による、特徴的な細胞の位置を同定するための別の好ましいコンピュータープログラムは、前記分子プロフィールが核酸プロフィール、好ましくは遺伝子発現プロフィールであるプログラムである。
【0143】
本発明による、特徴的な細胞の位置を同定するためのさらに別の好ましいコンピュータープログラムは、前記分子プロフィールがタンパク質プロフィールであるプログラムである。
【0144】
本発明による、特徴的な細胞の位置を同定するための好ましいコンピュータープログラムにおいて、前記修正デジタル画像は色で細胞を強調する。
【0145】
本発明による、特徴的な細胞の位置を同定するための別の好ましいコンピュータープログラムにおいて、前記コンピュータープログラムは画像ベースアプリケーション、好ましくはTIFFアプリケーションである。
【0146】
本発明はまた、多細胞試料の分子組織学的実験を管理するためのデータベースに関し、前記データベースは、
a) 前記多細胞試料内の対応する位置と共に細胞数を含む細胞表、
b) 前記多細胞試料内の細胞の分子プロフィールを含む分子値表、各分子プロフィールが複数の分子値を含む、ならびに
c) 前記多細胞試料のデジタル画像および前記デジタル画像内の細胞の座標を含むデジタル画像表、
を含み、
ここで、前記細胞表は、前記多細胞試料の各細胞がそれぞれのデジタル画像内の対応する座標、および対応する分子プロフィールに関連付けられるように前記分子値表および前記デジタル画像表に関連付けられ、
ここで、前記データベースは、複数のユーザー定義の分子基準を満たす細胞を強調する前記デジタル画像表由来のデジタル画像に基づく修正デジタル画像が作成可能であるように設計され、
前記分子プロフィールが前記多細胞試料から1つまたはいくつかの細胞を単離することで得られる。
【0147】
本発明による、多細胞試料の分子組織学的実験を管理するためのデータベースの内容の詳細は、既に先に記載された。
【0148】
簡潔に、本発明のこの態様によるデータベースは、分子組織学的実験に用いられる目的の各細胞についての情報をまとめる細胞表、生化学的分析により得られた全ての分子値を含む分子値表、および多細胞試料のデジタル画像をROIを特定する座標と共に蓄積するデジタル画像表を含む。
【0149】
本発明による好ましいデータベースにおいて、前記分子プロフィールは核酸プロフィール、好ましくは遺伝子発現プロフィールである。
【0150】
本発明による、別の好ましいデータベースにおいて、前記分子プロフィールはタンパク質プロフィールである。
【0151】
本発明による、さらに別の好ましいデータベースにおいて、前記修正デジタル画像は、色で前記細胞を強調する。
【実施例】
【0152】
腫瘍組織試料内の単一細胞集団の転写プロファイル及び形態学的特徴付けの自動化組み合わせ
腫瘍組織試料は、標準の手順に従って外科的に、切除、固定、包埋および染色される。形態学的分類による、目的の個々の細胞又は細胞集団のデジタル化形態学的情報の記録、及び単離は、例えば、製造者の推薦によるP.A.L.M. Microlaser Technologies GmbH (Bernried, Germany)から市販されているマイクロ解剖システムを用いて実施される。
【0153】
前記デジタル化形態学的情報はオリジナル組織画像として保存される。その後、組織のオリジナル画像は、ユーザーがマイクロ解剖による単離の前に組織画像内の細胞を同定し得るようにコンピューターモニターに示される。これらの細胞は組織から分離され、分子レベルで分析されることになる。コンピュータープログラムを用いて、画像内のユーザー定義細胞のオリジナル位置を、座標と関連付けて、前記座標はアクセサリー画像情報として保存される。
【0154】
次の工程において、単離された各細胞のために、細胞を切開するための溶解工程、細胞残骸由来の核酸を単離するための試料調製工程、および例えば、疾患の進行に関連する生物学的プロセスと関連することが公知の、遺伝子の増幅に関して、目的の遺伝子の特徴的な転写物を増幅および定量するための最終のリアルタイムPCR工程を含む個別のRT-PCR定量ワークフローが開始される。
【0155】
それぞれの細胞の座標及び最初のデジタル画像に関連付けられる生じた定量的PCRデータはさらに、得られたファイルはオリジナル組織画像だけでなく、PCR反応で生じた複数の分子データセットを含むようにTIFF形式のコンピュータープログラムによって保存される。TIFFファイル内で、各PCRデータセットは明らかに、組織内のそれぞれの細胞の座標に関連付けられる。
【0156】
このTIFFファイルは次に拡張データ分析のために使用される。形態学的基準による病理学的組織試料の検査に熟練したユーザーは、特定の分子情報を試料検査に加えることで試料の疾患の進行状態について判定することが可能になる。この機能は、前記細胞のための強度及び色を符号化した定量的分子情報に、単離された細胞のオリジナルのデジタル化形態学的情報を重ねることで達成される。これは、細胞の形態学的背景の情報を保持し、個々の細胞又は細胞集団の分子データの直接視覚化を可能にする。分子特異性は、色の符号によって示される(例えば、遺伝子Xは緑色を示し、遺伝子Yは赤色を示す)。分子の量は、ピクセル強度で符号化される。細胞境界線内の各ピクセルで示された色を単に変化させ、細胞境界線内の全ピクセルの同じ量によってピクセル強度を下げる又は上げることで、細胞内構造の詳細についてならびに単離された細胞の細胞形状についての形態学的情報が保持され得る。ディスプレイ機能は、一度に1つの分子種の視覚化に限定されなければならない:少なくとも2色の色重複(例えば、緑及び赤)は、単一細胞レベルで少なくとも2つの分子種(遺伝子Yに対する遺伝子X)の形態学的に分離された相対存在比の視覚イメージを生じるために確かに実行可能である。
【0157】
要するに、これは病理学的検査のより高度な正確性及び予測値を可能にする。
【0158】
以下の図面は、本発明の理解を補助するために提供され、本発明の真の範囲は付随の特許請求の範囲に記載される。本発明の精神を逸脱することなく、記載の手順において変更がなされ得ることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】図1は、本発明による一般的な方法のフローチャートである。
【図2】図2は、本発明による方法の詳細なフローチャートである。
【図3】図3は、本発明の一態様のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)多細胞試料のデジタル画像を作成するための光学装置、
b)前記多細胞試料内の1つまたはいくつかの細胞に対応する前記デジタル画像内の目的の領域を選択するためのコンピューター手段、
c)前記多細胞試料から工程b)で選択された前記1つまたはいくつかの細胞を単離するための単離装置、
d)生化学分析を実行し、前記単離された1つまたはいくつかの細胞の、複数の分子値を含む分子プロフィールを作成するための分析装置、
e)前記分子プロフィールを前記デジタル画像内で対応する選択された目的の領域と関連付ける方法で前記デジタル画像および前記分子プロフィールを保存するためのソフトウェアアプリケーション、ならびに
f)工程d)で作成された1つ以上の前記分子値と共に、工程a)で作成された前記デジタル画像を含む修正デジタル画像を表わすための視覚化手段、
を含み、分子組織学的分析は前記修正デジタル画像に基づく、多細胞試料の分子組織学的分析を実行するためのシステム。
【請求項2】
前記光学装置が蛍光光学機器、好ましくは蛍光顕微鏡である、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記単離装置がマイクロ解剖装置、好ましくはレーザー補助マイクロ解剖装置である、請求項1〜2いずれかに記載のシステム。
【請求項4】
工程c)における前記いくつかの単離された細胞は、100個未満、好ましくは10個未満、最も好ましくは5個未満の細胞を含む、請求項1〜3いずれかに記載のシステム。
【請求項5】
前記分析装置は下流分析プロセスを実行可能であり、好ましくは、前記分析装置は免疫アッセイ、質量分析、核酸配列決定、核酸ハイブリダイゼーションアッセイ、表面プラズモン共鳴、またはゲル電気泳動であり、より好ましくは、前記分析装置はPCR装置であり、最も好ましくは、前記分析装置はリアルタイムPCR装置である、請求項1〜4いずれかに記載のシステム。
【請求項6】
前記ソフトウェアアプリケーションがデータベース、画像ベースアプリケーションまたはその組合せである、請求項1〜5いずれかに記載のシステム。
【請求項7】
前記多細胞試料が組織試料、細胞培養試料、生検試料または細胞学的試料である、請求項1〜6いずれかに記載のシステム。
【請求項8】
前記分子プロフィールが核酸プロフィールである、請求項1〜7いずれかに記載のシステム。
【請求項9】
前記分子プロフィールがタンパク質プロフィールである、請求項1〜7いずれかに記載のシステム。
【請求項10】
前記分子組織学的分析が前記デジタル画像および前記分子プロフィールと共に予測アルゴリズムを用いて自動的に実行される、請求項1〜9いずれかに記載のシステム。
【請求項11】
a)多細胞試料のデジタル画像を得る工程、
b)前記多細胞試料内の1つまたはいくつかの細胞に対応する前記デジタル画像内の目的の領域を選択する工程、
c)前記多細胞試料から工程b)で選択された前記1つまたはいくつかの細胞を単離する工程、
d)前記単離された1つまたはいくつかの細胞の、複数の分子値を含む分子プロフィールを作成するために生化学分析を実行する工程、ならびに
e)分子組織学的分析を実行するために工程d)で作成された1つ以上の前記分子値と共に、工程a)で得られた前記デジタル画像を含む修正デジタル画像を作成する工程
を含む、多細胞試料の分子組織学的分析を実行するための方法。
【請求項12】
前記生化学分析がPCR増幅、好ましくはリアルタイムPCRに基づく遺伝子発現分析である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記生化学分析が免疫アッセイである、請求項11〜12いずれかに記載の方法。
【請求項14】
a)多細胞試料内の1つまたはいくつかの細胞の分子プロフィールと共に、前記多細胞試料のデジタル画像を提供する工程、各分子プロフィールは複数の分子値を含み、それぞれまたはいくつかの細胞に対応する前記デジタル画像内の目的の領域と関連付けられる、
b)修正デジタル画像内で定義された分子基準を満たす前記多細胞試料内の細胞を強調する工程
を含み、ここで前記分子プロフィールが前記多細胞試料から1つまたはいくつかの細胞を単離することで得られる、分子組織学的分析を実行するために多細胞試料内の特徴的な細胞の位置を同定するための方法。
【請求項15】
a)多細胞試料のデジタル画像、および前記多細胞試料由来の1つまたはいくつかの細胞の、複数の分子値をロードすること、各分子値はそれぞれまたはいくつかの細胞に対応する前記デジタル画像内の目的の領域に関連付けられる、ならびに
b)前記デジタル画像およびいくつかの選択分子値を含む修正デジタル画像を生じること
を含み、ここで前記分子値が前記多細胞試料から1つまたはいくつかの細胞を単離することで得られ、前記デジタル画像は前記多細胞試料内のそれぞれまたはいくつかの細胞の1つ以上の分子値で修正される、多細胞試料のデジタル画像から複数の修正デジタル画像を生成するためのコンピュータープログラム。
【請求項16】
a)ソフトウェアアプリケーションに多細胞試料のデジタル画像をロードする工程、
b)前記多細胞試料内の対応する細胞の位置に関連付けられる目的の領域を前記デジタル画像内で定義する工程、および
c)前記ソフトウェアアプリケーションに前記多細胞試料由来の1つまたはいくつかの細胞の、複数の分子プロフィールをロードする工程、各分子プロフィールは複数の分子値を含む、
を含み、ここで、前記ソフトウェアアプリケーションは工程c)でロードされた前記複数の分子プロフィールが工程a)でロードされた前記デジタル画像内の工程b)で定義された対応する目的の領域に関連付けられるように構築され、
ここで、前記分子プロフィールは前記多細胞試料から1つまたはいくつかの細胞を単離することで得られる、
多細胞試料の分子組織学的実験を管理するための方法。
【請求項17】
前記多細胞試料の修正デジタル画像が前記多細胞試料の組織学的分析を実行するために作成される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記ソフトウェアアプリケーションがデータベース、画像ベースアプリケーションまたはその組合せである、請求項16〜17いずれかに記載の方法。
【請求項19】
a)多細胞試料のデジタル画像をロードし、前記多細胞試料内の対応する細胞の位置に関連付けられる目的の領域を前記デジタル画像内で定義し、第一の画像ファイルとして前記目的の領域と共に前記デジタル画像を保存するための第一のアプリケーション、
b)複数の分子値を含む複数の分子プロフィールと前記第一の画像ファイルを組み合わせて、第二の画像ファイルとして前記複数の分子プロフィールと共に前記第一の画像ファイルを保存するための第二のアプリケーション、ここで前記複数の分子プロフィールは前記デジタル画像内の対応する目的の領域に関連付けられる、
c)ユーザー定義の分子基準による前記第二の画像ファイルから修正デジタル画像を抽出するための第三のアプリケーション、ここで前記修正デジタル画像は前記ユーザー定義の分子基準を満たす細胞を強調する、
を含み、ここで前記分子プロフィールは前記多細胞試料から1つまたはいくつかの細胞を単離することで得られる、
分子組織学的分析を実行するために多細胞試料内の特徴的な細胞の位置を同定するためのコンピュータープログラム。
【請求項20】
画像ベースアプリケーション、好ましくはTIFFアプリケーションである、請求項19記載のコンピュータープログラム。
【請求項21】
a)多細胞試料内の対応する位置と共に細胞数を含む細胞表、
b)前記多細胞試料内の細胞の分子プロフィールを含む分子値表、各分子プロフィールは複数の分子値を含む、ならびに
c)前記多細胞試料のデジタル画像および前記デジタル画像内の細胞の座標を含むデジタル画像表、
を含み、ここで、前記細胞表は、前記多細胞試料の各細胞がそれぞれのデジタル画像内の対応する座標および対応する分子プロフィールに関連付けられるように前記分子値表および前記デジタル画像表と関連付けられ、
ここで、前記データベースが、複数のユーザー定義の分子基準を満たす細胞を強調する前記デジタル画像表由来のデジタル画像に基づく修正デジタル画像が作成可能であるように設計され、
ここで、前記分子プロフィールは前記多細胞試料から1つまたはいくつかの細胞を単離することで得られる、
多細胞試料の分子組織学的実験を管理するためのデータベース。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−188012(P2008−188012A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−23017(P2008−23017)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】