説明

分岐トンネル施工用セグメント

【課題】親トンネルから分岐トンネルを施工する際に、分岐トンネルの施工効率を高める上で有利な分岐トンネル施工用セグメントを提供すること。
【解決手段】分岐トンネル施工用セグメント12は、セグメント本体14と、緊張材用挿通孔18と、補強シート20とを含んで構成されている。セグメント本体14は、内周面12Aと外周面12Bとを有している。緊張材用挿通孔18は、セグメント本体14の内部で延在し緊張材16を挿通してその緊張材16に引っ張り力を与えることでセグメント本体14に圧縮力を与えるためのものである。セグメント本体14の内部で円弧方向に延在するように管体24が埋め込まれ、緊張材用挿通孔18は管体24の内部で構成されている。セグメント本体14の内周面12Aと前記外周面12Bにそれぞれセグメント本体14の強度を高めるための補強シート20が取着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親トンネルから分岐させる形で新たなトンネルを構築する場合に、その分岐トンネル施工箇所に設置されて好適な分岐トンネル施工用セグメントに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、既に設置されたトンネル内で、新たなトンネルを分岐施工するための掘削機械を組み立て、一部が完成した状態で地山中に押し出し、逐次、組立と押出しを繰り返して掘削機械の発進を完了させる方法がある。
この方法では、既に設置されたトンネルの覆工のうち、新たなトンネルを発進させる部分のセグメントを、鉄筋などを取り除きかつ切削可能な素材としておくことで施工の効率化をはかることが多い(特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−253992
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、分岐施工する箇所に位置するセグメントは、シールド機により切削可能な材料で形成されているものの、土水圧に耐えられるように、セグメントは強度を有したコンクリートで形成され硬い。
そのため、クラックが生じないように、分岐施工する箇所でのシールド機の発進作業を慎重に行う必要があり、新たなトンネルの発進作業は時間のかかる作業となっている。
実際には、1分間に1ミリメートル程度しか進行できず、分岐施工する箇所に発進開口をあけるまで、10時間程度を費やしているのが現状であり、分岐トンネルの施工効率を高め、コストダウンを図る上で何らかの改善が望まれていた。
本発明は前記事情に鑑み案出されたものであって、本発明の目的は、親トンネルから分岐トンネルを施工する際に、分岐トンネルの施工効率を高める上で有利な分岐トンネル施工用セグメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記目的を達成するため本発明は、トンネル内で新たなトンネルを分岐施工する箇所に設置される分岐トンネル施工用セグメントであって、厚さ方向の一方の面がトンネルに臨む内周面とされ、厚さ方向の他方の面が地山に臨む外周面とされ円弧の板状に延在するセグメント本体と、前記セグメント本体の内部で延在し緊張材を挿通してその緊張材に引っ張り力を与えることで前記セグメント本体に圧縮力を与えるための緊張材用挿通孔と、 シールド機のカッターにより切削し易い材料からなり前記内周面と前記外周面にそれぞれ取着された補強シートとを備えることを特徴とする。
また、本発明は、トンネル内で新たなトンネルを分岐施工する箇所に設置される分岐トンネル施工用セグメントであって、 厚さ方向の一方の面がトンネルに臨む内周面とされ、厚さ方向の他方の面が地山に臨む外周面とされ円弧の板状に延在するセグメント本体と、前記セグメント本体の内部に延在する緊張材用挿通孔と、シールド機のカッターにより切削し易い材料からなり前記緊張材用挿通孔に挿通されて両端が前記セグメント本体に係止され引っ張り力が与えられ前記セグメント本体に圧縮力を与える緊張材と、シールド機のカッターにより切削し易い材料からなり前記内周面と前記外周面にそれぞれ取着された補強シートとを備えることを特徴とする。
また、本発明は、トンネル内で新たなトンネルを分岐施工する箇所に設置される分岐トンネル施工用セグメントであって、 厚さ方向の一方の面がトンネルに臨む内周面とされ、厚さ方向の他方の面が地山に臨む外周面とされ円弧の板状に延在するセグメント本体と、前記セグメント本体の内部で前記セグメント本体の円弧方向に延在する緊張材用挿通孔と、シールド機のカッターにより切削し易い材料からなり前記緊張材用挿通孔に挿通されて両端が前記セグメント本体に係止され引っ張り力が与えられ前記セグメント本体に前記円弧方向に圧縮力を与える緊張材と、シールド機のカッターにより切削し易い材料からなり前記内周面と前記外周面にそれぞれ取着された補強シートとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、分岐トンネル施工用セグメントに補助的な強度を加えることができるので、分岐トンネル施工用セグメントを、従来に比べて強度を低減したコンクリートで形成できる。
したがって、分岐施工する箇所に発進開口をあけるまでの時間を大幅に短縮でき、分岐トンネルの施工効率を高め、コストダウンを図る上で極めて有利となる。
また、従来の同じ強度のコンクリートを用いて分岐トンネル施工用セグメントを形成した場合には、分岐トンネル施工用セグメントの薄肉化が図れるため、分岐施工する箇所に発進開口をあけるまでの時間を短縮でき、分岐トンネルの施工効率を高め、コストダウンを図る上で有利となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態を図面にしたがって説明する。
図1は分岐トンネル施工用セグメントの斜視図、図2は緊張材が配設された分岐トンネル施工用セグメントの側面図を示す。
分岐トンネル施工用セグメント12は、トンネル内で新たなトンネルを分岐施工する箇所に設置されるものである。
分岐トンネル施工用セグメント12は、セグメント本体14と、緊張材用挿通孔18と、補強シート20とを含んで構成されている。
【0007】
セグメント本体14は、円弧の板状に延在し、厚さ方向の一方の面がトンネルに臨む内周面12Aとされ、厚さ方向の他方の面が地山に臨む外周面12Bとされる。
本実施の形態では、セグメント本体14は、トンネルの軸方向に沿った幅Wよりも、トンネルの周面に沿って円弧状に延在する長さLが大きい寸法で形成されている。
セグメント本体14は、シールド機のカッターにより切削し易くしかも剛性が確保された材料で形成されている。このようなものとして、鉄筋などを用いないでガラス繊維や炭素繊維などを用いた従来公知の様々なセグメントが使用可能である。
【0008】
緊張材用挿通孔18は、セグメント本体14の内部で延在し緊張材16を挿通してその緊張材16に引っ張り力を与えることでセグメント本体14に圧縮力を与えるためのものである。
本実施の形態では、緊張材挿通孔18は、セグメント本体14の内部で前記円弧方向に延在し、セグメント本体14の前記円弧方向の両端面12Cにそれぞれ開口している。
そして、緊張材挿通孔18に緊張材16を挿通してその緊張材16に引っ張り力を与えることでセグメント本体14の円弧方向に圧縮力を与えるように形成されている。
本実施の形態では、セグメント本体14の前記円弧方向の両端面12Cにそれぞれ凹部22が形成され、緊張材用挿通孔18は、両端面12Cの各凹部22の底面にそれぞれ開口している。
【0009】
本実施の形態では、セグメント本体14の内部で円弧方向に延在するように管体24が埋め込まれ、緊張材用挿通孔18は管体24の内部で構成されている。
管体24は、シールド機のカッターにより切削し易い材料で形成され、このような材料として例えば合成樹脂を用いることができる。
【0010】
また、セグメント本体14の内周面12Aと前記外周面12Bにそれぞれセグメント本体14の強度を高めるための補強シート20が取着されている。
補強シート20は、シールド機のカッターにより切削し易い材料から形成され、このような材料として、例えば、高強度炭素繊維などを使用可能である。
【0011】
次に、分岐トンネル施工用セグメント12の使用方法について説明する。
緊張材16を緊張材用挿通孔18に挿通して緊張材16に引っ張り力を与え、セグメント本体14に前記円弧方向に圧縮力を与える。
より詳細に説明すると、緊張材16として、シールド機のカッターにより切削し易い材料を用い、このような材料として、例えば、炭素繊維やガラス繊維などがより糸状によられたものが使用可能である。
そして、緊張材16を緊張材用挿通孔18に挿通し、適宜機械や器具を用いて緊張材16に引っ張り力を与えたのち、両端面12Cの各凹部22内において、係止具30を緊張材16に取着し、係止具30から突出する緊張材16部分を切断する。
【0012】
この場合、係止具30として、シールド機のカッターにより切削し易い材料を用い、このような材料として、例えば、合成樹脂が使用可能である。
係止具30の緊張材16への取着は、かしめることにより、あるいは、接着剤を用いた接着によるなど、従来公知の様々な手段が採用可能である。
このように凹部22内において緊張材16の端部を固定することで、セグメント本体14の両端面12Cは、緊張材16や係止具30が突出していない平坦面となり、従来のセグメントと同様に取り扱われ、トンネル内に組み付けられていく。
なお、図面では省略されているが、分岐トンネル施工用セグメント12を含むセグメントどうしの結合は、それらの周方向の端面どうしや、幅方向の端面どうしが従来公知の様々な継ぎ手を用いて行なわれる。
【0013】
本実施の形態によれば、分岐トンネル施工用セグメント12に緊張材16を用いて補助的な強度を加えることができ、これにより分岐トンネル施工用セグメント12(セグメント本体14)を、従来に比べて強度を低減したコンクリートで形成できる。
しかも緊張材16、補強シート20、管体24、係止具30などのセグメント本体14に加えられた部材は、全てシールド機のカッターにより切削し易い材料で形成されている。
したがって、分岐施工する箇所に発進開口をあけるまでの時間を大幅に短縮でき、分岐トンネルの施工効率を高め、コストダウンを図る上で極めて有利となる。
すなわち、従来に比べて強度を低減したコンクリートで分岐トンネル施工用セグメント12を形成できるので、切削が従来に比べて簡単になされ、また、硬度が低下するため従来に比べクラックは発生しにくくなり、したがって、シールド機による切削を効率よく行なえるようになる。
【0014】
実際には、1分間に2ミリメートル程度の進行が可能となり、分岐施工する箇所に発進開口をあけるまで5時間程度で済み、従来の半分の時間で発進開口が作れるようになる。
むろん、従来の同じ強度のコンクリートを用いて分岐トンネル施工用セグメント12を形成した場合にも、分岐トンネル施工用セグメント12の薄肉化が図れるため、分岐施工する箇所に発進開口をあけるまでの時間を短縮でき、分岐トンネルの施工効率を高め、コストダウンを図る上で有利となる。
【0015】
なお、緊張材16のセグメント本体14への取着は、セグメント本体14の製造工場で行ってもよく、あるいは、トンネル内の現場で行なってもよい。
また、緊張材用挿通孔18は、緊張材16に引っ張り力を与えることでセグメント本体14に圧縮力を与えられればよく、したがって、緊張材用挿通孔18の両端の開口の位置は両端面12Cに限定されず、例えば、両端面12C寄りの内周面12Aの箇所であってもよい。
また、上下に隣接して配置されるセグメントにも緊張材用挿通孔18を形成しておき、緊張材16の端部の係止は、それら上下に隣接して配置されるセグメントで行うようにしてもよい。
また、緊張材用挿通孔18の個数は、1つに限定されず、セグメント本体14の大きさや形状、与えるべき圧縮力に応じて適宜決定され、したがって、2つ以上であってもよい。
また、緊張材用挿通孔18の向きは円弧方向に限定されず、セグメント本体14の大きさや形状、与えるべき圧縮力の向きに応じて適宜決定され、例えば、セグメント本体14が、トンネルの軸方向に沿った幅Wが、トンネルの周面に沿って円弧状に延在する長さLよりも大きい寸法で形成されている場合には、緊張材用挿通孔18は、セグメント本体14の幅方向に延在形成される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】分岐トンネル施工用セグメントの斜視図である。
【図2】緊張材が配設された分岐トンネル施工用セグメントの側面図である。
【符号の説明】
【0017】
12……分岐トンネル施工用セグメント、14……セグメント本体、16……緊張材、18……緊張材用挿通孔、20……補強シート、24……管体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル内で新たなトンネルを分岐施工する箇所に設置される分岐トンネル施工用セグメントであって、
厚さ方向の一方の面がトンネルに臨む内周面とされ、厚さ方向の他方の面が地山に臨む外周面とされ円弧の板状に延在するセグメント本体と、
前記セグメント本体の内部で延在し緊張材を挿通してその緊張材に引っ張り力を与えることで前記セグメント本体に圧縮力を与えるための緊張材用挿通孔と、
シールド機のカッターにより切削し易い材料からなり前記内周面と前記外周面にそれぞれ取着された補強シートと、
を備えることを特徴とする分岐トンネル施工用セグメント。
【請求項2】
前記セグメント本体は、トンネルの軸方向に沿った幅よりも、トンネルの周面に沿って円弧状に延在する長さが大きい寸法で形成され、
前記緊張材挿通孔は、前記セグメント本体の内部で前記円弧方向に延在し緊張材を挿通してその緊張材に引っ張り力を与えることで前記セグメント本体の円弧方向に圧縮力を与えるように形成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の分岐トンネル施工用セグメント。
【請求項3】
前記緊張材用挿通孔は、前記セグメント本体の前記円弧方向の両端面にそれぞれ開口している、
ことを特徴とする請求項2記載の分岐トンネル施工用セグメント。
【請求項4】
前記セグメント本体の前記円弧方向の両端面にそれぞれ凹部が形成され、
前記緊張材用挿通孔は、前記両端面の各凹部の底面にそれぞれ開口している、
ことを特徴とする請求項2記載の分岐トンネル施工用セグメント。
【請求項5】
前記セグメント本体の内部に管体が埋め込まれ、
前記管体は、シールド機のカッターにより切削し易い材料で形成され、
前記緊張材用挿通孔は前記管体の内部で構成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の分岐トンネル施工用セグメント。
【請求項6】
トンネル内で新たなトンネルを分岐施工する箇所に設置される分岐トンネル施工用セグメントであって、
厚さ方向の一方の面がトンネルに臨む内周面とされ、厚さ方向の他方の面が地山に臨む外周面とされ円弧の板状に延在するセグメント本体と、
前記セグメント本体の内部に延在する緊張材用挿通孔と、
シールド機のカッターにより切削し易い材料からなり前記緊張材用挿通孔に挿通されて両端が前記セグメント本体に係止され引っ張り力が与えられ前記セグメント本体に圧縮力を与える緊張材と、
シールド機のカッターにより切削し易い材料からなり前記内周面と前記外周面にそれぞれ取着された補強シートと、
を備えることを特徴とする分岐トンネル施工用セグメント。
【請求項7】
トンネル内で新たなトンネルを分岐施工する箇所に設置される分岐トンネル施工用セグメントであって、
厚さ方向の一方の面がトンネルに臨む内周面とされ、厚さ方向の他方の面が地山に臨む外周面とされ円弧の板状に延在するセグメント本体と、
前記セグメント本体の内部で前記セグメント本体の円弧方向に延在する緊張材用挿通孔と、
シールド機のカッターにより切削し易い材料からなり前記緊張材用挿通孔に挿通されて両端が前記セグメント本体に係止され引っ張り力が与えられ前記セグメント本体に前記円弧方向に圧縮力を与える緊張材と、
シールド機のカッターにより切削し易い材料からなり前記内周面と前記外周面にそれぞれ取着された補強シートと、
を備えることを特徴とする分岐トンネル施工用セグメント。
【請求項8】
前記セグメント本体の前記円弧方向の両端面にそれぞれ凹部が形成され、
前記緊張材用挿通孔は、前記両端面の各凹部の底面にそれぞれ開口し、
前記緊張材の両端の前記セグメント本体への係止は、前記凹部内でなされている、
ことを特徴とする請求項6または7記載の分岐トンネル施工用セグメント。
【請求項9】
前記セグメント本体の内部に管体が埋め込まれ、
前記管体は、シールド機のカッターにより切削し易い材料で形成され、
前記緊張材用挿通孔は前記管体の内部で構成されている、
ことを特徴とする請求項6または7記載の分岐トンネル施工用セグメント。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−190247(P2008−190247A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26938(P2007−26938)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】