説明

分岐合流部のトンネル構造および施工方法

【課題】
上下に隣接する分岐合流部のトンネルを構成する天井版および床版のセグメント構造を縮小化することでトンネル内空スペースを拡大して建築限界スペースの干渉を避けることができるトンネルの連結構造と、これを構築する適切な施工方法を提供する。
【解決手段】
地中で水平方向に隣接して構築されたトンネル同士を上部に位置する天井版と下部に位置する床版とで接続することで形成されるトンネル分岐合流部が、略鉛直方向上下に隣接して構築されるトンネル構造であって、前記上側に構築されるトンネルにおける床版と、前記下側に構築されるトンネルにおける天井版とを、引張抵抗部材で連結することを特徴とする分岐合流部のトンネル構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2本のトンネルが分岐又は合流するトンネル分岐合流部のトンネル構造およびその施工方法に関し、特に上下に隣接する横型トンネル断面を構築する際に好適なトンネル分岐合流部のトンネル構造およびその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シールド工法に基づいて構築されるいわゆるシールドトンネルは、構造的に安定した円形断面のトンネルが主流である。しかし、近年における都市部の地下道路網の整備が進展するにつれて、2本のトンネルが分岐又は合流するトンネル分岐合流部が必要となるケースが増加している。特にこのトンネル分岐合流部は、1本の本線トンネルに対して1本のランプトンネルを連結させるケースにおいて頻繁に利用されている。
【0003】
さらに都市部の過密化にともない、分岐合流部を建設する用地確保が難しく、そのため、従来、トンネルを水平方向に併設して建設するところ、鉛直方向に重ねてトンネルを建設することで建設用地の縮小化を図るニーズが高まりつつある。
【0004】
図1(a)に本線トンネル202とランプトンネル203とが分岐又は合流するためのトンネル分岐合流部206の完成時における断面図を示しているが、このトンネル分岐合流部206が、地盤204における土被りが50mを超える大深度トンネルに適用される場合には、土圧に加えて0.5MPa以上の大きな地下水圧が作用することになる。図1(b)は、トンネル分岐合流部206に作用する曲げモーメントの分布214を示している。トンネル分岐合流部206は、本線トンネル202並びにランプトンネル203を包含する横長形状の横型トンネル断面として構成されるところ、当該横長形部の上部の天井版207aおよび下部の床版207bに大きな正曲げが発生する。この正曲げはトンネル内空面側へ引張力が負荷される形で作用することになる。このため、トンネル分岐合流部206では、このような大きな正曲げに対抗し得る、高耐力、高剛性のセグメント構造が必要となる。
【0005】
これに対して特許文献1では横型トンネルの天井版および床版にトラス材を形成することで内部補強構造として抵抗させているが、その結果、トンネル内空の建築限界スペースに干渉する課題がある。
【0006】
図2は本線トンネル202からランプトンネル203が分岐する代表的なトンネル断面図を示している。2本のトンネル間は鉄筋コンクリート製の接続部材207で連結される。図中黒色で示す領域208はトンネル内空の建築スペース(建築限界209および標識スペース210を図示)と干渉している部位を示しており、本構造では所定の空間を確保できない。特に下トンネルは設置深度が深いために外荷重が大きく作用し、天井版207aおよび床版207bの厚みが厚く必要となることから、トンネル内空の建築スペースに干渉しやすい。
【0007】
トンネル構造の断面寸法は、分岐合流部に連続して構築される単円トンネルの断面寸法で決定される。すなわち延長が数kmに及ぶトンネルを1台のシールドマシンで建設される道路トンネルでは、経済性の観点から単円トンネルの断面寸法でシールドマシンの寸法が決定されるため、分岐合流部のトンネル断面寸法を拡大することでは本課題を解決することはできない。
【0008】
さらに鉛直方向に隣接するトンネル構造では、特に下側トンネルは構築深度が深いために土水圧荷重が大きく作用するため、更なる天井版および床版のセグメント構造の大断面化が求められ、更なる建築限界との干渉を引き起こす課題が発生する。
【特許文献1】特開2006−283285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、上下に隣接する分岐合流部のトンネルを構成する天井版および床版のセグメント構造を縮小化することでトンネル内空スペースを拡大して建築限界スペースの干渉を避けることができる分岐合流部のトンネルの連結構造、並びにこれを構築する際に適切な施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)第1の発明のトンネル構造は、地中で水平方向に隣接して構築されたトンネル同士を上部に位置する天井版と下部に位置する床版とで接続することで形成されるトンネル分岐合流部が、略鉛直方向上下に隣接して構築されるトンネル構造であって、前記上側に構築されるトンネルにおける床版と、前記下側に構築されるトンネルにおける天井版とが、引張抵抗部材で連結されていることを特徴とする。
【0011】
(2)第2の発明のトンネル構造は、前記引張抵抗部材が、略トンネル軸方向において連続する壁状又は断続された柱状に形成された鉄筋コンクリート、鋼製、又は鋼コンクリート合成構造からなることを特徴とする。
【0012】
(3)第3の発明のトンネル構造は、前記柱状に形成される引張抵抗部材が、鋼管柱であることを特徴とする。
【0013】
(4)第4の発明のトンネル構造は、前記引張抵抗部材が、前記上側トンネル断面の下部に位置する床版に発生する曲げモーメントの略最大位置と、
前記下側トンネル断面の上部に位置する天井版に発生する曲げモーメントの略最大位置とを連結することを特徴とする。
【0014】
(5)第5の発明のトンネルの施工方法は、シールドマシーンを掘進しながら造成空間内壁にセグメント材を組み立ててセグメントリングを形成すると共に、当該リングをトンネルの軸方向に連結してなる単円トンネルを、水平方向に隣接させて2つ形成する一方、その鉛直方向の下側にも、水平方向に隣接する2つの単円トンネルを形成し、
前記上側の2つの単円トンネルの上部間、前記下側の2つの単円トンネルの下部間、および前記上側の2つの単円トンネルの下部と前記下側の2つの単円トンネルの上部との間を、地盤補強することで当該補強された地盤の内部に閉合スペースを構築し、
前記閉合スペースに接する前記4つのトンネルそれぞれのセグメント材を部分的に撤去し、前記閉合スペースの地盤を掘削して撤去することで、内空スペースを形成した後、前記内空スペース内で、
前記上側の2つの単円トンネルにおける前記セグメント材が撤去されている上部区間を天井版で接続した後に下部区間を床版で接続して、上側の分岐合流部トンネルを形成し、
前記下側の2つの単円トンネルにおける前記セグメント材が撤去されている下部区間を床版で接続した後に上部区間を天井版で接続して、下側の分岐合流部トンネルを形成し、
前記上側の分岐合流部トンネルの床版と、前記下側の分岐合流部トンネルの天井版の間を、引張抵抗部材で連結して、分岐合流部のトンネル構造を構築することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明を適用したトンネルの連結構造では、引張抵抗部材が上トンネルの床版および下トンネルの天井版とを連結することで当該天井版および床版に発生する曲げモーメントを低減させ、当該天井版および床版の構造が簡略化されることで天井版および床版の厚みが薄くできるため、トンネル内空スペースが拡大されて建築限界への干渉が回避される。
【0016】
また本発明を適用したトンネルの施工方法では、地表部に工事の影響を及ぼすことのない、いわゆる非開削工法により適切に本発明のトンネル構造物を構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、2本のトンネルが分岐又は合流するトンネル分岐合流部が鉛直方向に隣接する構成のトンネルの連結構造および施工方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
本発明を適用したトンネルの連結構造が適用されるトンネル分岐合流部1は、例えば図3に示すように、本線トンネル11とランプトンネル12とが合流して1本のトンネル13へと連結する。換言すれば、1本のトンネル13から本線トンネル11とランプトンネル12へ分岐する部分である。因みに、この図3(a)は、1本のトンネル13から、本線トンネル11並びにランプトンネル12へと2本に分岐するまでの構成を示しており、図3(b)は、この図3(a)におけるA−A断面図、図3(c)は、B−B断面図、図3(d)は、C−C断面図、図3(e)は、D−D断面図である。上記は鉛直方向に隣接する上トンネルあるいは下トンネルのいずれかを示したものである。
【0019】
本線トンネル11とランプトンネル12は、D−D断面図で示されるように、円形筒状のセグメントリングをトンネル軸方向に連続させる形で地中に埋設されている。ここで図3(a)に示す対象区間k1は、本線トンネル11並びにランプトンネル12が合流する区間である。対象区間k1に入り、トンネル11、12を互いに合流させる場合には、例えばC−C断面図である図3(d)に示すように、本線トンネル11の外周を構成していたセグメントの残置部11aと、ランプトンネル12の外周を構成していたセグメントの残置部12aとの間に、新たにセグメントを新設し、さらに仕切壁15を設けていくことになる。この新設されたセグメントが連続する領域を新設部14といい、トンネル上部に構成される部位を天井版14a、トンネル下部に構成される部位を床版14bという。対象区間k1では、トンネル断面は水平方向に寸法が大きい横型トンネル断面で構成される。
【0020】
この対象区間k1においては、本線トンネル11とランプトンネル12の各中心軸が徐々に接近してゆき、これに伴って新設部14の長さは、B−B断面図である図3(c)に示すように徐々に短縮化され、また仕切壁15も取り外される。そして、最終的にA−A断面図である図3(b)に示されるような1本の円形筒状のトンネル13へと連結され、対象区間k1は終了することになる。
【0021】
本発明を適用したトンネルの連結構造は、B−B断面からC−C断面における仕切壁15を持たない横型トンネル断面形状の区間に用いられる。
【0022】
但しトンネル線形の関係から、上下トンネルにおいて分岐合流部区間が同一区間とならない場合もあるが、例えば上側トンネル、或いは下側トンネルのみが分岐合流部の場合においても本発明を適用することで所期の効果が発揮される。
【0023】
仕切壁のある区間では引張抵抗部材は設置されず、仕切壁のない区間に移るに伴い、引張抵抗部材が設置される。また、仕切壁のある区間では、天井版、床版に発生する曲げモーメントが小さくなるため、天井版および床版の部材仕様は軽くすることができる。
【0024】
前記と同様にトンネル線形の関係から、上下トンネルにおいて分岐合流部区間が同一区間とならない場合もあるが、例えば上側トンネルには仕切壁が存在しても本発明を適用することができる。
【0025】
図4は各横型トンネル断面の変形図を示したものである。横型トンネルの天井版14aには上載する地盤の土圧および地下水による水圧20aが鉛直方向下向きに作用し、横型トンネルの床版14bには地盤の土圧および地下水による水圧20bが鉛直方向上向きに作用する。それによって、横型トンネルの天井版14aは鉛直方向下向きに、横型トンネル床版14bは鉛直方向上向きにそれぞれ変位し、それに伴い天井版および床版には正曲げが発生する。正曲げの最大値は横型トンネルのおよそトンネル幅中央部に発生し、トンネル内空側への変位21も最大となる。しかも、下トンネルに作用する土水圧荷重20はトンネルの設置深度が深いことから上トンネルよりも大きく、天井版14aおよび床版14bのトンネル内空側への変位量21も大きく発生する。
【0026】
トンネル水平方向からも地盤の土圧および地下水による水圧20cが作用するが、横型トンネル断面の水平方向の剛性は鉛直方向に比べて高いため、水平方向の変位は少ない。横型トンネルを上下に隣接する重層構造においても、横型トンネル断面の変形性質は上記のごとく同様であり、下トンネルは設置深度が深いことからトンネルの鉛直方向変位21が更に大きく発生する。
【0027】
本発明は上記の横型トンネル断面の変形性質を活用したものであり、すなわち、横型トンネルでは鉛直方向の上下に隣接する上トンネルの床版14bと下トンネルの天井版14aとの相対位置が増大する傾向が現れ、従って、当該間の相対変位を拘束することで当該トンネルの天井版14aあるいは床版14bに発生する正曲げを低減する効果が生まれるということが本発明のメカニズムである。
【0028】
図5に本発明の実施形態を示すトンネル断面の変形図を示し、図6に曲げモーメント図を示す。本実施形態は、上トンネル1aの床版14bと下トンネル1bの天井版14aを引張抵抗部材22で連結した構造における構造芯を実線で示したものである。
【0029】
引張抵抗部材22の一方を上トンネル1aの床版14bに連結し、他方を下トンネル1bの天井版14aに連結することで、当該床版14bおよび天井版14aのトンネル内空側への変形に対して引張抵抗することで変位21を抑制する効果が発揮され、当該天井版14aおよび床版14bに発生する曲げモーメントが抑制される効果が発揮される。
【0030】
本効果は当該天井版14aおよび床版14bにおける変形が最も大きくなる部位、すなわち発生モーメントの最大点同士を連結することで最も大きな効果が発揮される。
【0031】
図7に本発明の実施形態を示すトンネル断面図を示す。本線トンネル202は車線213が2車線、ランプトンネル203は1車線であり、上本線トンネル202の下端と下本線トンネル202の上端との上下トンネルの離隔は3mである。天井版207aと床版207bはRC製部材としたものを示す。トンネルセグメントは鋼製セグメントとし、上トンネル1aの天井版207aとの接続部近傍および下トンネル1bの床版207bとの接続部近傍は桁高さを大きくして補強構造としている。図中で破線で示しているものは建築限界209である。また、トンネル内空にはトンネル内の換気を目的とする送気・排気ダクト及び電力線等を設置する配管のスペース(PS)である配管・送排気ダクトスペース212および道路標識の設置スペースである標識スペース210が設けられる。
【0032】
上下の横型トンネル断面寸法は同一でなくてもよく、各トンネルの水平方向における略中央部同士を連結することで同様の効果が発揮される。また、上下トンネルが水平方向の設置位置を異なるように斜めに配置される場合においても、同様に各トンネルの略中央部同士を連結することで同様の効果が発揮される。
【0033】
引張抵抗部材22としては鉄筋コンクリート(以下RCと略する)製や鋼製あるいは鋼コンクリート合成構造製のいずれでも良い。なかでも引張抵抗に有効な鋼製断面が最も適している。
【0034】
トンネルのセグメント構造はRC製や鋼製あるいは鋼コンクリート合成構造製のいずれでもよい。セグメントリングのうち天井版207aおよび床版207bとの連結部については接合が容易な鋼製のセグメント構造が適している。
【0035】
天井版207aおよび床版207bの構造はRC製や鋼製あるいは鋼コンクリート合成構造製のいずれでもよい。RC製の場合の連結構造はセグメント部材および引張抵抗部材22の表面にずれ止めを設置してコンクリートと一体化を図る。鋼製の場合は溶接あるいはボルト接続により連結する。鋼コンクリート合成構造製の場合はRC製および鋼製の場合の連結形式を併用することで対応できる。
【0036】
図8に本発明の実施形態のうち、引張抵抗部材22がトンネル軸方向に連続する壁式構造22aの斜視図を示し、図9には引張抵抗部材22がトンネル軸方向に断続して設けられる柱式構造22bの斜視図を示す。いずれの実施形態も天井版207a、床版207bはRC製部材としたものを示している。
【0037】
また、柱式引張抵抗部材22bとしては鋼管を用いた鋼管柱でも良い。
【0038】
壁式構造22aの場合は、引張抵抗部材の引張抵抗力がトンネル天井版207aおよび床版207bに均一に作用するため、応力の局所的な集中が無く安定した構造を形成できる。欠点はトンネル軸方向に連続して形成される壁構造22aが地下水の流動を遮断することが挙げられる。
【0039】
柱式構造22bの場合は、地下水の流動を妨げる懸念は無い。引張抵抗部材の引張力が局所的にトンネル天井版207aおよび床版207bに伝達されるためにトンネル軸方向に応力分散するためには連結部には補強構造を配置する。例えば、天井版207aおよび床版207bがRC製の場合には、引張抵抗部材22bとの連結部の周囲を補強する補強鉄筋を配置することなどが考えられる。
【0040】
図10〜図15を用いて本発明によるトンネル連結部の施工手順を説明する。
【0041】
図10はシールドマシンにより円形トンネルを複数構築した状態を示しているものである。左側に配置される小径円形断面はランプトンネル12を示し、それと略水平方向の右側に隣接して配置される大径円形断面は本線トンネル11を示している。それらトンネル群1aおよび1bが上下に隣接して配置された状態を示している。各々のトンネルは円形シールドマシンで地盤を掘削した後、地盤と接する面にセグメントピースを組み合わせて円環状のセグメントリング202a、203aを形成して内空23を保持する。そして、複数のセグメントリングがトンネル軸方向に連結されて、シールドトンネルが形成される。セグメントリングは、ランプトンネル12および本線トンネル11が面する領域に撤去部セグメントピース11bおよび12bが配置され、双方のトンネルが面する側と反対側には残置部セグメントピース11aおよび12aが配置されている。
【0042】
図11は各トンネルの残置部11aおよび12aを橋渡しするように地盤補強24a、24bおよび24cを実施して、その内部に閉合スペース27a(図11中に図示する)を形成した状況を示したものである。この地盤補強24の後、閉合スペース内の土砂を撤去して内空スペース27を形成する。地盤補強24により周囲から作用する土圧および水圧に抵抗させてトンネル間接続作業を行う内空スペース27が保護される。この地盤補強24は一般的には原地盤にセメントミルクや水ガラスを含浸させて強度を高める地盤改良工法や低温食塩水や液体窒素を流動させて地盤を冷凍固化する凍結工法が採用される。地盤補強24の作業は全て先行構築した円形トンネル内23から実施する。特にトンネル11および12と地盤補強部24の接続界面から地下水が浸透しないように十分に補強を行う必要がある。通常、地盤補強土24の厚みは少なくとも2〜3m程度以上確保する必要がある。
【0043】
図12は各トンネルの撤去部のスキンプレート25を部分溶断して、地盤補強24により囲まれた閉合スペース27aの土砂を掘削し撤去した状態を示すものである。スキンプレート25撤去部から地盤補強24により囲まれた領域の土砂を順次トンネル内へと取り込む作業を繰り返し、これにより地盤補強24により囲まれた領域に断面が縦長の内空スペース27が構築される。
【0044】
図13は上側トンネル群1aの天井版14aおよび下側トンネル群1bの床版14bを配置し、ランプトンネル12および本線トンネル11間で各々連結した状態を示すものである。天井版14aおよび床版14bとしては鋼製部材を図示しており、例えば主桁、荷重伝達用の横桁およびスキンプレートを有する鋼製断面が適している。天井版14aおよび床版14bの構造はRC構造、鋼構造あるいは鋼コンクリート合成構造でもよい。(以下、図14、図15とも同じ)ランプトンネル12および本線トンネル11間の連結構造は、ずれ止めおよび定着鉄筋を配置してコンクリートで巻き込む構造でもよく、高力ボルトあるいは添接板によるボルト接続でも良い。あるいは鋼部材同士であれば溶接接続でも良い。
【0045】
図14はさらに上側トンネル群1aの床版14bおよび下側トンネル群1bの天井版14aを配置し、双方を鉛直方向に橋渡しするように引張抵抗部材22を配置して各々を連結した状態を示すものである。天井版14aおよび床版14bの構造は同様にRC構造、鋼構造あるいは鋼コンクリート合成構造でもよい。引張抵抗部材22はトンネル内空スペース27に仮設の支保材を配置しておき、一時固定することで正確な位置決めを行うことができる。その後、天井版14aおよび床版14bと連結する。連結構造は天井版14a、床版14bおよび引張抵抗部材22がRC構造であれば現場型枠を設置して内部に鉄筋を配置してコンクリートを打設する一般的な工法が採用できる。天井版14aおよび床版14bがRC部材であり、引張抵抗部材22は鋼製部材であるときは、例えば鋼管矢板井筒基礎の頂版接続構造に準じて引張抵抗部材22にずれ止めを配置して連結部を巻き込むようにコンクリートを打設することで構築が可能である。さらに天井版14a、床版14bおよび引張抵抗部材22が鋼製部材であれば、ボルト接続あるいは溶接により連結することができる。
【0046】
図15は天井版14aおよび床版14bにより挟まれる撤去部セグメント11bおよび12bを全て撤去し、上側トンネル群1aの天井版14aの上部、下側トンネル群1bの床版14bの下部さらに上下トンネル群間のスペースを埋め戻した状態26、すなわち施工が完了した状態を示す。地盤補強部は地盤凍結工法を採用する場合は解凍により原地盤に回復する。地盤改良工法の場合では補強地盤は残置される(図示せず)。また一般的には埋め戻し26には体積収縮を発生させない無収縮モルタルが採用される。
【実施例1】
【0047】
本発明による効果を明確に示すために、道路トンネルの分岐合流部を対象とした構造計算に基づく構造仕様を、実施例と比較例で比較してその程度を検証する。
【0048】
試算に用いたトンネルは都市部に計画される一般的な地下高速道路を想定している。本線のトンネルは片側2車線の円形トンネルであり、ランプトンネルは片側1車線の円形トンネルである。トンネルの外径は本線トンネルが12.3m、ランプトンネルが9.9mである。上トンネルの本線トンネル上端は地表面から約20m程度の深度に設置され、下トンネルは上トンネルの鉛直下側3.2mの位置に設置される。本線トンネルの右端からランプトンネル左端までの分岐合流部の横型断面のトンネル幅は20.5mとした。
【0049】
トンネルセグメント部材は鋼製、天井版および床版はRC製とした。
【0050】
そして実施例においては、引張抵抗部材としては、鋼管柱(鋼管φ800mm×厚さ40mm)をトンネル軸方向に断続配置した柱式構造とし、柱の間隔は柱軸間距離で1.2mとして構造計算した。
【0051】
比較例としては、引張抵抗部材を用いずに、本線トンネル、ランプトンネルおよび横型トンネルの断面寸法(幅20.5m)、さらには地表面からの設置深度を実施例と合せた上下トンネルを単独で構成するトンネル構造として構造計算した。
【0052】
図16、17に上記構造計算結果による変形分布を示す。変形のスケールを実際の約30倍にして表示したものである。図16が比較例の計算結果を示し、図17が実施例の計算結果を示す。同様に図18、19に上記構造計算結果による曲げモーメント分布を示す。
【0053】
図18が比較例の計算結果を示し、図19が実施例の計算結果を示す。
【0054】
本発明によらないトンネル断面では下側横型トンネル1bの天井版207aの中央部付近で最大値28mmのトンネル内空側への変位21が発生しているが、一方、本発明によるトンネル断面では最大値が7mmであり、トンネル変位21が著しく減少している。
【0055】
同時に曲げモーメントは比較例のトンネル断面では下側横型トンネル1bの天井版14aの中央部付近で最大16、000kNmの正曲げ214が発生しているが、実施例の本発明によると引張抵抗部材22に引張抵抗力6、400kNが発生して、その抵抗によって下側横型トンネル1bの天井版207bの中央部付近に発生する曲げモーメント214は最大でも150kNmまで抑制することができる。
【0056】
図20には比較例のトンネル断面の試算結果を示し、図21には実施例のトンネル断面の試算結果を示す。表1に構造仕様寸法の比較をそれぞれ示す。
【0057】
【表1】

【0058】
さらに図中に代表的なトンネル建築限界209および標識スペース210を図示している。
【0059】
本発明によらない試算結果では建築限界209および標識スペース210と干渉しているが、本発明によると建築限界との干渉はない。
【0060】
以上の試設計による検証から、本発明によりトンネル構造の寸法が最大28%縮小されることで、建築限界209および標識スペース210との干渉208も回避される効果が発揮されることが分かる。
【0061】
また、従来の引張抵抗部材を使用しない方法で建築限界および標識スペースを確保しようとすると、分岐合流部の寸法を拡大せざるを得ず、それに伴い作用する荷重および発生断面力が増大するので益々断面寸法を拡大せざるを得ないとの悪循環に陥る。さらには分岐合流部に接続するトンネル断面形状も拡大する必要が発生するため、シールドマシンの寸法拡大、掘削土量の増加など建設コストが増加する悪影響が発生する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】(a)は、分岐合流部の代表的なトンネル断面を示す図であり、(b)は、分岐合流部のセグメントに発生する代表的な曲げモーメント図である。
【図2】分岐合流部の代表的な横型トンネル断面形状および建築設備を示す図である。
【図3】代表的な分岐合流部の平面図および断面図である。
【図4】分岐合流部断面に作用する模式的な土水圧荷重とセグメントの変形状態を示す図である。
【図5】本発明による分岐合流部断面の変形状態を示す図である。
【図6】本発明による分岐合流部断面の曲げモーメント図を示す図である。
【図7】本発明による代表的な横型トンネル断面形状および建築設備を示す図である。
【図8】本発明による壁式引張抵抗部材を採用するトンネル断面形状の斜視図である。
【図9】本発明による柱式引張抵抗部材を採用するトンネル断面形状の斜視図である。
【図10】水平に隣接する円形形状の本線トンネルおよびランプトンネルが上下に重層して施工された状態を示す図である。
【図11】残置部セグメント間を橋渡しする地盤補強が施工された状態を示す図である。
【図12】撤去部セグメントのスキンプレートを撤去し地盤補強により囲まれた領域を掘削した状態を示す図である。
【図13】上側トンネルの天井版および下側トンネルの床版と残置セグメントを連結した状態を示す図である。
【図14】上側トンネルの床版と下側トンネルの天井版および引張抵抗部材を配置した状態を示す図である。
【図15】分岐合流部が完成した状態を示す図である。
【図16】従来の上下に重層した横型トンネル断面の分岐合流部が変形した状態を示す図である。
【図17】本発明の上下に重層した横型トンネル断面の分岐合流部が変形した状態を示す図である。
【図18】従来の上下に重層した横型トンネル断面の分岐合流部に発生する曲げモーメント分布を示す図である。
【図19】本発明の上下に重層した横型トンネル断面の分岐合流部に発生する曲げモーメント分布を示している。
【図20】従来の上下に重層した横型トンネル断面の分岐合流部の実施例である。
【図21】本発明による上下に重層した横型トンネル断面の分岐合流部の実施例である。
【符号の説明】
【0063】
k1 対象区間
1 分岐合流部
1a 上側トンネル
1b 下側トンネル
11 本線トンネル
11a 残置部
12 ランプトンネル
12a 残置部
14 新設部
14a 天井版
14b 床版
15 仕切壁
20a 土水圧
20b 土水圧
20c 土水圧
21 変位
22 引張抵抗部材
22a 壁式引張抵抗部材
22b 柱式引張抵抗部材
23 トンネル内空
24a 地盤補強
24b 地盤補強
24c 地盤補強
25 スキンプレート撤去部
26 埋め戻し
27 内空スペース
27a 閉合スペース
202 本線トンネル
203 ランプトンネル
202a セグメントリング
203a セグメントリング
204 地盤
206 分岐合流部
207 接続部材
207a 天井版
207b 床版
214 曲げモーメント
208 干渉部
209 建築限界
210 標識スペース
211 路版
212 配管・送排気ダクトスペース
213 車線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中で水平方向に隣接して構築されたトンネル同士を上部に位置する天井版と下部に位置する床版とで接続することで形成されるトンネル分岐合流部が、略鉛直方向上下に隣接して構築されるトンネル構造であって、
前記上側に構築されるトンネルにおける床版と、前記下側に構築されるトンネルにおける天井版とが、引張抵抗部材で連結されていることを特徴とする分岐合流部のトンネル構造。
【請求項2】
前記引張抵抗部材が、略トンネル軸方向において連続する壁状又は断続する柱状に形成された鉄筋コンクリート、鋼製、又は鋼コンクリート合成構造からなることを特徴とする請求項1に記載の分岐合流部のトンネル構造。
【請求項3】
前記柱状に形成される引張抵抗部材が、鋼管柱であることを特徴とする請求項2に記載の分岐合流部のトンネル構造。
【請求項4】
前記引張抵抗部材が、前記上側トンネル断面の下部に位置する床版に発生する曲げモーメントの略最大位置と、
前記下側トンネル断面の上部に位置する天井版に発生する曲げモーメントの略最大位置とを連結することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の分岐合流部のトンネル構造。
【請求項5】
シールドマシーンを掘進しながら造成空間内壁にセグメント材を組み立ててセグメントリングを形成すると共に、当該リングをトンネルの軸方向に連結してなる単円トンネルを、水平方向に隣接させて2つ形成する一方、その鉛直方向の下側にも、水平方向に隣接する2つの単円トンネルを形成し、
前記上側の2つの単円トンネルの上部間、前記下側の2つの単円トンネルの下部間、および前記上側の2つの単円トンネルの下部と前記下側の2つの単円トンネルの上部との間を、地盤補強することで当該補強された地盤の内部に閉合スペースを構築し、
前記閉合スペースに接する前記4つのトンネルそれぞれのセグメント材を部分的に撤去し、前記閉合スペースの地盤を掘削して撤去することで、内空スペースを形成した後、
前記内空スペース内で、
前記上側の2つの単円トンネルにおける前記セグメント材が撤去されている上部区間を天井版で接続した後に下部区間を床版で接続して、上側の分岐合流部トンネルを形成し、
前記下側の2つの単円トンネルにおける前記セグメント材が撤去されている下部区間を床版で接続した後に上部区間を天井版で接続して、下側の分岐合流部トンネルを形成し、
前記上側の分岐合流部トンネルの床版と、前記下側の分岐合流部トンネルの天井版の間を、引張抵抗部材で連結して、分岐合流部のトンネル構造を構築することを特徴とする分岐合流部のトンネルの施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2008−144485(P2008−144485A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333666(P2006−333666)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】