説明

分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体、及びその製造方法

【課題】加硫物とするときの加工性が良好で、加硫物とした場合には、優れたウェットスキッド抵抗性を示しつつ低ヒステリシスロス性も良好で両者のバランスに優れており、実用上十分な耐摩耗性や破壊特性をも満足し、さらには生産性にも優れる分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】ランダム共重合体である、共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)であり、前記共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)中の芳香族ビニル結合量が38〜45質量%であり、共役ジエン全結合単位中のビニル結合量が43モル%を超えて50モル%以下であり、前記共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)の重量平均分子量(Mw−C)が700,000〜1,000,000であり、数平均分子量(Mn−C)に対する重量平均分子量(Mw−C)の比((Mw−C)/(Mn−C))が1.7〜3.0であり、120℃で測定されるムーニー粘度(ML−C)とムーニー緩和率(MSR−C)とが、下記式(1)の関係を満たす、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)。

{195−(ML−C)}/300≦(MSR−C)≦{235−(ML−C)}/300・・・(1)
(ここで、式(1)において、90≦(ML−C)≦125である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用タイヤは、安全性を確保する観点から、ウェットスキッド抵抗に優れ、実用上十分な耐摩耗性、破壊特性を有する材料を使用することが重要である。一方、近年においては、二酸化炭素排出量の抑制等、環境に対する配慮が社会的要請となっており、自動車に対する低燃費化要求も高まってきている。このような現状から、自動車用タイヤ、特に地面と接するタイヤトレッドの材料としては、転がり抵抗の小さい材料の開発が求められている。
【0003】
また、タイヤのライフサイクルの観点からは、製造工程における消費エネルギーの低減化への関心も高まっており、特にコンパウンド混練時の消費エネルギーの小さい、加工性が良好なゴム材料が求められている。さらに、原料合成ゴム生産においても生産性が良好でエネルギー消費を低減することが要求されてきている。
【0004】
タイヤトレッドの主要な材料の一つとして、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)が知られている。SBRの重合方法としては、水中に懸濁させたモノマーをラジカル重合する乳化重合SBR(E−SBR)と、炭化水素溶媒中のモノマーを、有機アルカリ金属を用いてアニオン重合する溶液重合SBR(S−SBR)とがある。これらのうち、ポリマー構造設計の自由度が高く、特にシリカを充填剤として用いたタイヤにおいて省燃費性能とウェットスキッド抵抗性とのバランスに優れることから、溶液重合SBR(S−SBR)の使用量が増加している。
【0005】
溶液重合SBR(S−SBR)の重合プロセスとしては、大きく分けてバッチ重合プロセスと、連続重合プロセスとの2種類がある。
【0006】
バッチ重合プロセスでは、ポリマーの活性末端に変性剤を付加させることで比較的容易に官能基を導入でき、タイヤトレッド用材料としたときに転がり抵抗の小さいゴムが得られる(例えば、特許文献1参照。)。その一方において、分子量分布が狭いこと、さらに変性基とシリカ等の充填剤との結合により、混練時に粘度が上昇することから加工性が悪く、また重合時においてはバッチごとの昇温・降温作業が必要なことからエネルギー消費量が多くなるという欠点も有している。
【0007】
一方、連続重合プロセスでは、重合の発熱反応で発生した熱によって重合開始や促進に必要な加熱も行うことができるため、生産量あたりのエネルギー使用量がバッチ重合プロセスに比べて少なくて済み、さらに分子量分布も広がることから、加工性が比較的よいといった利点もある。しかしながら、溶液重合SBR(S−SBR)は、重合中に多量の分岐ができる乳化重合SBR(E−SBR)に比較すると、組成物を製造するときのコンパウンド混練時に、消費エネルギーが大きく、加工性に劣るという欠点を有している。
【0008】
その他の技術としては、例えば、連続重合プロセスでアニオン重合した共役ジエン−芳香族ビニル共重合体を四塩化ケイ素等の3官能以上のケイ素カップリング剤でカップリングする方法(例えば、特許文献2参照。)、ハロゲン含有ケイ素化合物、アルコキシシラン化合物、アルコキシサルファイド化合物等でカップリングする方法(例えば、特許文献3参照。)、2個以上のエポキシ基を有する化合物でカップリングする方法(例えば、特許文献4参照。)等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−171418号公報
【特許文献2】特開昭61−255917号公報
【特許文献3】特開平11−199712号公報
【特許文献4】国際公開第01/23467号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、加硫物とするときの加工性が良好であり、加硫物とした場合の低ヒステリシスロス性とウェットスキッド抵抗性とのバランスに優れ、さらには実用上十分な耐摩耗性及び破壊特性を兼ね備えた共役ジエン−芳香族ビニル共重合体とするには未だ改善の余地がある。
【0011】
また、特許文献2〜4に開示されている方法は、いずれも高カップリング率を得るために、比較的低温条件下で重合を行う必要があるため、生産性について未だ改善の余地がある。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、加硫物とするときの加工性が良好で、加硫物とした場合には、優れたウェットスキッド抵抗性を示しつつ低ヒステリシスロス性も良好で両者のバランスに優れており、実用上十分な耐摩耗性や破壊特性をも満足し、さらには生産性にも優れる分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意研究を行った結果、芳香族ビニル結合量、共役ジエン全結合単位中のビニル結合量、重量平均分子量(Mw−C)、及び重量平均分子量(Mw−C)/数平均分子量(Mn−C)が特定の数値範囲であるとともに、120℃で測定されるムーニー粘度(ML−C)とムーニー緩和率(MSR−C)とが特定の関係式を満たす、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体とすることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下の通りである。
〔1〕
ランダム共重合体である、共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)であり、
前記共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)中の芳香族ビニル結合量が38〜45質量%であり、
共役ジエン全結合単位中のビニル結合量が43モル%を超えて50モル%以下であり、
前記共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)の重量平均分子量(Mw−C)が700,000〜1,000,000であり、
数平均分子量(Mn−C)に対する重量平均分子量(Mw−C)の比((Mw−C)/(Mn−C))が1.7〜3.0であり、
120℃で測定されるムーニー粘度(ML−C)とムーニー緩和率(MSR−C)とが、下記式(1)の関係を満たす、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)。

{195−(ML−C)}/300≦(MSR−C)≦{235−(ML−C)}/300・・・(1)
(ここで、式(1)において、90≦(ML−C)≦125である。)
〔2〕
重量平均分子量(Mw−I)が500,000〜700,000であり、120℃で測定されるムーニー粘度(ML−I)とムーニー緩和率(MSR−I)とが下記式(2)の関係を満たす、共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(I)を、4個以上の官能基を有する多官能変性剤を用いてカップリングしたものである請求項1に記載の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)。

{235−(ML−I)}/300≦(MSR−I)≦{270−(ML−I)}/300・・・(2)
(ここで、式(2)において、60≦(ML−I)≦90である。)
〔3〕
〔1〕又は〔2〕に記載の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)と、
無機充填剤と、
を含む、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物。
〔4〕
〔1〕又は〔2〕に記載の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)の製造方法であって、
共役ジエン化合物、芳香族ビニル化合物、及びアニオン重合開始剤を含む溶液を連続的に反応器に供給して重合反応を進行させ、活性末端を有する共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の溶液を得る工程と、
前記活性末端と反応可能な4個以上の官能基を有する多官能変性剤を用いて、前記共役ジエン−芳香族ビニル共重合体をカップリングさせる工程と、
を有する、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)の製造方法。
〔5〕
〔1〕又は〔2〕に記載の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)の製造方法であって、
攪拌機付きの反応器に、共役ジエン化合物、芳香族ビニル化合物、及びアニオン重合開始剤を含む溶液を連続的に供給して重合反応を進行させる工程と、
前記反応器出口から、活性末端を有する共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の溶液を連続的に得る工程と、
前記活性末端と反応可能な4個以上の官能基を有する多官能変性剤を用いて前記共役ジエン−芳香族ビニル共重合体をカップリングさせる工程と、
を有し、
前記重合反応においては、反応器出口における内温を90〜100℃に保ち、平均滞留時間20分以上40分以下で連続的に重合反応を進行させる、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)の製造方法。
〔6〕
前記アニオン重合開始剤のモル数に対して、前記多官能変性剤の官能基の合計モル数が、0.1〜0.5倍となるように前記多官能変性剤を用いる、〔4〕又は〔5〕に記載の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、加硫物とする際の加工性が良好で、当該加硫物は、優れたウェットスキッド抵抗性を示しつつ低ヒステリシスロス性も良好で両者のバランスに優れており、実用上十分な耐摩耗性や破壊特性をも満足し、さらに共重合体の生産性にも優れる、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明は以下に示す形態に限定されるものではない。本発明はその要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0017】
〔分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体〕
本実施形態の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)は、
ランダム共重合体である、共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)であり、
前記共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)中の芳香族ビニル結合量が38〜45質量%であり、
共役ジエン全結合単位中のビニル結合量が43モル%を超えて50モル%以下であり、
前記共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)の重量平均分子量(Mw−C)が700,000〜1,000,000であり、
数平均分子量(Mn−C)に対する重量平均分子量(Mw−C)の比((Mw−C)/(Mn−C))が1.7〜3.0であり、
120℃で測定されるムーニー粘度(ML−C)とムーニー緩和率(MSR−C)とが、下記式(1)の関係を満たす。

{195−(ML−C)}/300≦(MSR−C)≦{235−(ML−C)}/300・・・(1)
(ここで、式(1)において、90≦(ML−C)≦125である。)
【0018】
本実施形態の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)は、ランダム共重合体である。ここで、ランダム共重合体とは、芳香族ビニルの連鎖長が30以上の成分が少ないか又は無いものをいう。
【0019】
本実施形態における分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体は、共役ジエン化合物と、芳香族ビニル化合物とのランダム共重合体であればよく、その種類は限定されない。共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物としては、後述する化合物を適宜に用いることができる。共役ジエン−芳香族ビニル共重合体としては、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−ブタジエンイソプレン共重合体が好ましく、スチレン−ブタジエン共重合体がより好ましい。
【0020】
例えば、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体がブタジエン−スチレン共重合体の場合、Kolthoffの方法(I.M.KOLTHOFF,et al.,J.Polym.Sci.1,429(1946)に記載の方法)で、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)を分解し、メタノールに不溶なポリスチレン量を分析する方法によると、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)の全量に対する、ポリスチレン量が、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。
【0021】
また、オゾン分解による方法で、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)を分解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりスチレン連鎖分布を分析する方法によると、単離スチレン(即ちスチレン単位の連鎖が1のスチレン)が、全結合スチレンの40質量%以上であることが好ましく、長鎖ブロックスチレン(即ちスチレン単位の連鎖が8以上のスチレン)が全結合スチレンの5質量%以下であることがより好ましい。
【0022】
本実施形態の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体中の芳香族ビニル結合量は、38〜45質量%であり、好ましくは39〜43質量%である。芳香族ビニル結合量は、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)のフェニル基の紫外吸光を測定することにより求めることができる。
【0023】
また、共役ジエン全結合単位中のビニル結合量は、43モル%を超えて50モル%以下であり、好ましくは44〜48モル%である。例えば、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)がブタジエン−スチレン共重合体である場合には、ハンプトンの方法(R.R.Hampton,Analytical Chemistry 21,923(1949)に記載の方法)によりブタジエン結合単位中のビニル結合量(1,2−結合量)を求めることができる。
【0024】
共役ジエン−芳香族ビニル共重合体は、一般に天然ゴムやブタジエンゴム等と混合して、さらに加硫物とすることが多いが、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)の各結合が上記範囲にあるときに、これらのゴムと相容しすぎることも分離しすぎることもなく、良好なバランスで混合することができる。これにより、低ヒステリスロス性とウェットスキッド抵抗性のバランスに優れた加硫物が得られる。
【0025】
本実施形態の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)のガラス転移温度は、−20〜−5℃であることが好ましく、−18〜−8℃であることがさらに好ましい。ガラス転移温度がこの範囲にあることで特に優れたウェットスキッド抵抗性を発揮しつつ低ヒステリシスロス性も良好な加硫物が得られる。ガラス転移温度については、ISO22768:2006に従い、所定の温度範囲で昇温しながらDSC曲線を記録し、DSC微分曲線のピークトップ(Inflection point)をガラス転移温度とする。
【0026】
本実施形態の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体は、上記のように、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw−C)が700,000〜1,000,000であり、好ましくは750,000〜950,000である。良好な耐摩耗性や強度を得るために700,000以上であり、良好な加工性を保持するために1,000,000以下とする。
【0027】
また、数平均分子量(Mn−C)に対する重量平均分子量(Mw−C)の比((Mw−C)/(Mn−C))は、1.7〜3.0であり、好ましくは2.0〜2.8である。良好な加工性を得るために1.7以上であり、良好な機械特性を得るために3.0以下である。分子量及び分子量分布は、GPCを使用してクロマトグラムを測定し、標準ポリスチレンを使用した検量線により分子量を求めることで算出できる。
【0028】
本実施形態の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)の120℃で測定されるムーニー粘度(ML−C)とムーニー緩和率(MSR−C)は、下記式(1)の関係を満たす。

{195−(ML−C)}/300≦(MSR−C)≦{235−(ML−C)}/300・・・(1)
(ここで、式(1)において、90≦(ML−C)≦125である。)
【0029】
ムーニー緩和率(MSR)とは、ISO289−4:2003に規定される方法でムーニー粘度測定後にローターを停止し、その1.6秒後から5秒後までのトルク(T)と時間(t(秒))とを両対数プロットしたときの傾きの絶対値である。ムーニー粘度が等しい場合、分岐が多いほどこの値が小さくなるため、分岐度の指標として用いることができる。具体的には、後述する実施例に記載の方法により求めることができる。ムーニー粘度及びムーニー緩和率は、通常100℃で測定されるが、本実施形態では、120℃で測定されたムーニー粘度及びムーニー緩和率を採用する。
【0030】
式(1)において上記上限値以下となるように十分な分岐度を有する場合には加工性に優れ、加硫物の低ヒステリシスロス性とウェットスキッド抵抗性とのバランスに優れ、実用上十分な耐摩耗性や破壊特性も満足する。分岐度が高くMSR−Cが低いほど加工性に優れ、加硫物の低ヒステリシスロス性とウェットスキッド抵抗性とのバランスに優れるが、下限値を下回るとカップリング反応を高度化する必要があるため、生産性が低くなり、実用上好ましくない。
【0031】
本発明者が共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の挙動について検討したところ、同一ミクロ構造(芳香族ビニル結合量及び共役ジエン結合単位中のビニル結合量)であり、同程度の分岐状態である共重合体の場合、分子量を変化させた共重合体のML−CをX軸に、MSR−CをY軸にプロットしたところ、(MSR−C/ML−C)は傾き−1/300に近似できることを見出した。さらに、重合温度を変化させたり、多分岐変性剤等の配合量を変化させたりすること等によって分岐状態を変化させると、上記プロットされた直線は上下に移動する(傾きは−1/300を維持しつつ、Y切片のみが変動する)ことを見出した。これらの知見から、共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)のMSR−C及びML−Cが式(1)という条件を満たすことで好適な分岐状態を規定できるとともに、ビニル結合量、重量平均分子量(Mw−C)、数平均分子量に対する重量平均分子量の比((Mw−C)/(Mn−C))が特定範囲となるように制御することで、加硫物とするときの加工性が良好であり、加硫物とした場合には、低ヒステリシスロス性とウェットスキッド抵抗性とのバランスが優れており、実用上十分な耐摩耗性や破壊特性をも満足し、さらには生産性にも優れる共重合体となし得ることを見出した。
【0032】
さらにML−CとMSR−Cの関係は、下記式(1a)を満たすことが好ましい。下記式(1a)を満たすことで、上記した本実施形態の効果はより一層顕著なものになる。

{208−(ML−C)}/300≦(MSR−C)≦{222−(ML−C)}/300・・・(1a)
(ここで、式(1a)において、97≦(ML−C)≦110である。)
【0033】
本実施形態の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)は、共役ジエン−芳香族ビニル共重合体を、4個以上の官能基を有する多官能変性剤を用いてカップリングしたものであることが好ましい。これにより、分岐度及び分子量を効果的に上げることができ、共重合体生産性、及び加硫物とするときの加工性が良好であり、加硫物性能のバランスに優れた共重合体とすることができる。
【0034】
さらに、上記の本実施形態の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)は、GPCによって得られたポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw−I)が500,000〜700,000であり、120℃で測定されるムーニー粘度(ML−I)とムーニー緩和率(MSR−I)とが下記式(2)の関係を満たす、共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(I)であることがより好ましい。これにより、加硫物とするときの加工性が良好であり、加硫物とした場合には、低ヒステリシスロス性とウェットスキッド抵抗性とのバランスが優れており、実用上十分な耐摩耗性や破壊特性をも満足し、さらには生産性に優れる共重合体となし得ることができる。

{235−(ML−I)}/300≦(MSR−I)≦{270−(ML−I)}/300・・・(2)
(ここで、式(2)において、60≦(ML−I)≦90である。)
【0035】
さらに、120℃で測定されるムーニー粘度(ML−I)と120℃で測定されるムーニー緩和率(MSR−I)は、下記式(2a)の関係を満たすことが好ましい。

{241−(ML−I)}/300≦(MSR−I)≦{256−(ML−I)}/300・・・(2a)
(ここで、式(2a)において、68≦(ML−I)≦79である。)
【0036】
〔分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)の製造方法〕
本実施形態の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)の好ましい製造方法は、
共役ジエン化合物、芳香族ビニル化合物、及びアニオン重合開始剤を含む溶液を連続的に反応器に供給して重合反応を進行させ、活性末端を有する共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の溶液を得る工程と、
前記活性末端と反応可能な4個以上の官能基有する多官能変性剤を用いて、前記共役ジエン−芳香族ビニル共重合体をカップリングさせる工程と、
を有する。
【0037】
本実施形態の分岐状ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)のより好ましい製造方法としては、
攪拌機付きの反応器に、共役ジエン化合物、芳香族ビニル化合物、アニオン重合開始剤を含む溶液を連続的に供給して重合反応を進行させる工程と、
前記反応器の出口から、活性末端を有する共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の溶液を連続的に得る工程と、
前記活性末端と反応可能な、4個以上の官能基を有する多官能変性剤を用いてカップリングする工程と、
を有する。
【0038】
上述の製造方法によれば、加硫物としたときの加工性が良好であり、加硫物とした場合には低ヒステリシスロス性とウェットスキッド抵抗性とのバランスが優れており、実用上十分な耐摩耗性や破壊特性をも満足できる本実施形態の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)を効率よく製造することができる。例えば、従来では、上記したSBRを含むコンパウンドの混練りにはバンバリーミキサー等のインターナルミキサーが使用されているが、実験室レベルで使用される小容量(例えば、容量数リットル以下)のミキサーを用いる場合に比べて、タイヤ等のゴム製品の製造工程で使用される大容量(例えば、容量数百リットル以上)のミキサーを用いる場合には混練り加工性が大きく低下してしまう。そのため、加工性の問題はより顕著となる。その結果、コンパウンドの粘度の上昇、コンパウンドの生地の肌やエッジの荒れが生じる傾向がある。本実施形態の製造方法は、このようにスケールアップされた場合であっても優れた加工性を維持できるので、上記した問題が起こることなく、効率よく分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)を製造することができる。
【0039】
(共役ジエン化合物)
本実施形態の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)の製造に用いられる共役ジエン化合物としては、特に限定されず、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘプタジエン、1,3−ヘキサジエン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、入手容易性や経済性の観点から、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。
【0040】
(芳香族ビニル化合物)
本実施形態の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)の製造に用いられる芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、ジフェニルエチレン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、スチレンが好ましい。
【0041】
共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物中に不純物として含まれる可能性があるアレン類及びアセチレン類は、重合反応及びカップリング反応における阻害要因となるため、全単量体中の濃度を200ppm未満とすることが好ましい。
【0042】
(重合溶媒)
本実施形態において、通常、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物は、溶媒中で共重合させる。溶媒としては、特に限定されず、例えば、飽和炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素系溶媒が用いられる。具体的には、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の直鎖状及び分岐状の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素及びそれらの混合物からなる炭化水素が挙げられる。
【0043】
(単量体濃度)
本実施形態において、重合反応を行う重合溶液中の共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物の単量体濃度は、特に限定されないが、5〜50質量%が好ましく、10〜30質量%がよりに好ましい。
【0044】
(アニオン重合開始剤)
本実施形態の重合反応に用いることができるアニオン重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、アルカリ金属系開始剤、アルカリ土類金属系開始剤等が使用できる。アルカリ金属系開始剤又はアルカリ土類金属系開始剤としては、重合開始の能力がある全てのアルカリ金属系開始剤又はアルカリ土類金属系開始剤が使用可能である。それらの中でも、有機アルカリ金属化合物及び有機アルカリ土類金属化合物の少なくとも一種の化合物を含むことが好ましい。
【0045】
有機アルカリ金属化合物としては、特に限定されないが、反応性等の観点から、有機リチウム化合物が好ましい。有機リチウム化合物としては、低分子量の化合物、可溶化したオリゴマーの有機リチウム化合物、1分子中に単独のリチウムを有する化合物、1分子中に複数のリチウムを有する化合物、有機基とリチウムの結合様式において炭素−リチウム結合を有する化合物、窒素−リチウム結合を有する化合物、錫−リチウム結合を有する化合物等が挙げられる。
【0046】
具体的には、モノ有機リチウム化合物としては、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、n−ヘキシルリチウム、ベンジルリチウム、フェニルリチウム、スチルベンリチウム等が挙げられる。
【0047】
多官能有機リチウム化合物としては、1,4−ジリチオブタン、sec−ブチルリチウムとジイソプロペニルベンゼンの反応物、1,3,5−トリリチオベンゼン、n−ブチルリチウムと1,3−ブタジエン及びジビニルベンゼンとの反応物、n−ブチルリチウムとポリアセチレン化合物との反応物等が挙げられる。
【0048】
窒素−リチウム結合を有する化合物としては、リチウムジメチルアミド、リチウムジエチルアミド、リチウムジプロピルアミド、リチウムジ−n−ヘキシルアミド、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムヘキサメチレンイミド、リチウムピロリジド、リチウムピペリジド、リチウムヘプタメチレンイミド、リチウムモルホリド等が挙げられる。
【0049】
さらに、米国特許第5,708,092号明細書、英国特許第2,241,239号明細書、米国特許第5,527,753号明細書等に開示されている有機アルカリ金属化合物も使用できる。特に好ましいものは、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウムである。上述した有機リチウム化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を混合物として用いてもよい。
【0050】
その他の有機アルカリ金属化合物としては、有機ナトリウム化合物、有機カリウム化合物、有機ルビジウム化合物、有機セシウム化合物等が挙げられる。具体的には、ナトリウムナフタレン、カリウムナフタレンが挙げられ、その他にリチウム、ナトリウム、カリウムのアルコキサイド、スルフォネート、カーボネート、アミド等が用いられる。
有機アルカリ金属化合物は、他の有機金属化合物と併用して用いてもよい。
【0051】
アルカリ土類金属化合物としては、特に限定されず、例えば、有機マグネシウム化合物、有機カルシウム化合物、有機ストロンチウム化合物等が挙げられる。具体的には、ジブチルマグネシウム、エチルブチルマグネシウム、プロピルブチルマグネシウム等が挙げられる。また、アルカリ土類金属のアルコキサイド、スルフォネート、カーボネート、アミド等の化合物も用いることができる。これらの有機アルカリ土類金属化合物は、上記した有機アルカリ金属系開始剤その他有機金属化合物と併用して用いてもよい。
【0052】
(極性化合物)
本実施形態の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)の製造方法においては、芳香族ビニル化合物を共役ジエン化合物とランダムに共重合させる目的や、共重合体の共役ジエン部のミクロ構造を制御するためのビニル化剤として用いる目的や、重合速度の改善等の目的から、ルイス塩基等の極性化合物を少量添加することが好ましい。
【0053】
極性化合物としては、特に限定されないが、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジメトキシベンゼン、2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパン等のエーテル類;テトラメチルエチレンジアミン、ジピペリジノエタン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、キヌクリジン等の第三級アミン化合物;カリウム−t−アミラート、カリウム−t−ブチラート、ナトリウム−t−ブチラート、ナトリウムアミラート等のアルカリ金属アルコキシド化合物;ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の有機スルホン酸の金属塩;トリフェニルホスフィン等のホスフィン化合物等が挙げられる。これらの極性化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
極性化合物の使用量は、目的と効果の程度に応じて選択され、特に限定されないが、通常、アニオン重合開始剤中のアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属原子1モルに対して0.01〜100モルである。
【0055】
上記極性化合物は、重合体ジエン部分のミクロ構造の調節剤として、所望するビニル結合量に応じて適量使用できる。これにより、共役ジエン全結合単位中の、ビニル結合量を制御できる。多くの極性化合物は、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合において有効なランダム化効果も同時に有しており、極性化合物を使用することにより、共重合体中における芳香族ビニル化合物の分布の調整や芳香族ビニル化合物のブロック量(例えば、スチレンブロック量)の調整を行うことができる。
【0056】
(重合工程)
共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物の重合反応は、上述した共役ジエン化合物、芳香族ビニル化合物、アニオン重合開始剤、重合溶媒、必要に応じて少量の極性化合物を、所定の攪拌機付きの反応器に連続的に供給して行い、反応器出口から、共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の溶液を連続的に流出させて行うことができる。また、単量体及び/又は重合溶媒を、特開2002−284814号公報に開示されるような方法で反応器に供給する前段階で有機金属化合物と接触させ、微量不純物による重合阻害作用を不活性化させることもできる。
【0057】
単量体溶液等の供給位置及び共重合体溶液の流出位置は、特に限定されず、反応器の底部、頂部、及びその間の任意の位置の、いずれの位置であってもよいが、底部に近い位置から単量体溶液を供給し、頂部に近い位置から共重合体溶液を流出させることが好ましい。一般に、アニオン共重合では芳香族ビニル化合物よりも共役ジエン化合物の方が優先的に重合するため、ランダム化の目的で共役ジエン化合物の一部を反応器上部から供給することもできる。
【0058】
重合反応は、反応器出口における内温を90〜100℃に保ち、平均滞留時間20分以上40分以下で実施することが好ましい。ここで反応器出口における内温とは反応器出口における共重合体溶液の温度をいう。反応速度を高め、生産性を向上させるとともに、メタレーションによる熱分岐反応を促進させてカップリング反応前の段階においても適度な分岐構造を形成させるために、反応器出口における内温を90℃以上とすることが好ましい。一方、過度なメタレーション反応等による失活でカップリング反応が阻害されることを防ぐために100℃以下とすることが好ましい。内温は、外部熱交換や内部熱交換等の熱交換や、供給する単量体溶液の温度制御等によって調整できる。
【0059】
さらに、反応器下部における内温が反応器出口における内温よりも3〜15℃低いことが好ましい。ここで、反応器下部における内温とは、全容量の1/3の液を反応器に張った際に当該液に浸る位置であり、かつ反応器に供給する単量体溶液の流れの影響を直接受けない位置に設置された温度計により測定される温度とする。反応器内が完全混合の状態にある場合、反応器下部における内温は反応器出口における内温と事実上同一の温度となる。逆に、プラグフロー状態にある場合、反応器下部における内温と反応器出口における内温の間にはより大きな温度差が生じる。攪拌状態を制御して、反応器下部における内温と反応器出口における内温の差が3〜15℃の範囲内にあるように重合を行うことによって、適度な滞留時間分布が生じ、共重合体の熱分岐反応を適度に進行させることができる。
【0060】
また、一定以上の単量体の転化率を得て、さらに十分に熱分岐反応を進行させる観点から、平均滞留時間は20分以上とすることが好ましく、生産性の観点や失活によるカップリング反応への影響を抑制する観点から、40分以下であることが好ましい。
【0061】
反応器出口における単量体の転化率は、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である。転化率が高いほど原単位がよく、また溶媒回収工程への負荷が小さいために生産性に優れる。ここで、転化率は、後述する実施例に記載の方法により求めることができる。
【0062】
カップリング工程の前段階における重合工程で得られた共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(I)のGPCによって得られたポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw−I)は、特に限定されないが、500,000〜700,000であることが好ましい。良好な耐摩耗性や強度を得る観点から、500,000以上であることが好ましく、生産性の観点やカップリング後に得られる本実施形態の共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の加工性の観点から、700,000以下であることが好ましい。
【0063】
また、カップリング工程の前段階における重合工程で得られた共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(I)は、120℃で測定されるムーニー粘度(ML−I)とムーニー緩和率(MSR−I)とが、下記式(2)の関係を満たすことが好ましい。

{235−(ML−I)}/300≦(MSR−I)≦{270−(ML−I)}/300・・・(2)
(ここで、式(2)において、60≦(ML−I)≦90である。)
【0064】
カップリング後に得られる分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)が、十分な分岐度を有するために、上記式(2)において、上記上限値以下とすることが好ましく、重合反応の後に行うカップリング反応に十分な活性末端を確保するために上記下限値以上となるように重合反応を行うことが好ましい。
【0065】
上記のように、反応器出口から流出させた、活性末端を有する共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の溶液に、活性末端と反応可能な、4個以上の官能基を有する多官能変性剤を接触させてカップリング反応させることにより、本実施形態の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体が得られる。
【0066】
反応器は、重合器と同様な攪拌機付き槽型反応器であっても、重合器より小型の攪拌機付き槽型反応器であってもよいし、スタティックミキサーであってもよい。共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の溶液と多官能変性剤とが十分に混合され、反応に十分な滞留時間が得られることが好ましく、かかる観点から、攪拌機付き槽型反応器を用いた場合においては、反応器の容積は、乱流条件で重合器の1/20〜1/5の容積であることが好ましい。
【0067】
滞留時間は、特に限定されないが、上記観点から、1分間〜1時間が好ましく、1分間〜15分間がより好ましい。カップリング反応の反応温度は、特に限定されないが、上記観点から、50〜110℃が好ましく、70〜110℃がより好ましい。
【0068】
(4個以上の官能基を有する多官能変性剤)
本実施形態で用いられる、活性末端を有する共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の活性末端と反応可能な、4個以上の官能基を有する多官能変性剤としては、特に限定されず、例えば、エポキシ基、カルボニル基、カルボン酸エステル基、カルボン酸アミド基、酸無水物基、リン酸エステル基、亜リン酸エステル基、エピチオ基、チオカルボニル基、チオカルボン酸エステル基、ジチオカルボン酸エステル基、チオカルボン酸アミド基、イミノ基、エチレンイミノ基、ハロゲン基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、共役ジエン基、及びアリールビニル基からなる群より選択される1種以上の官能基を有する化合物が挙げられる。
【0069】
なお、官能基のモル数の計算においては、活性末端を有する共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の活性末端との反応性に鑑み、エポキシ基、カルボニル基、エピチオ基、チオカルボニル基、イミノ基、エチレンイミノ基、ハロゲン基、共役ジエン基、アリールビニル基、アルコキシシリル基の1個当たりのアルコキシ基は1官能として、カルボン酸エステル基、カルボン酸アミド基、酸無水物基、チオカルボン酸エステル基、ジチオカルボン酸エステル基、チオカルボン酸アミド基、イソシアネート基、チオイソシアネート基は2官能として、リン酸エステル基、亜リン酸エステル基は3官能として計算される。本実施形態において用いる多官能変性剤は、1分子中の上記の官能基の官能数の和が4以上のものである。
【0070】
エポキシ基を有する多官能変性剤としては、例えば、ポリエポキシ化液状ポリブタジエン等のポリエポキシ化合物;テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、テトラグリシジル−p−フェニレンジアミン、テトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン等のグリシジルアミノ化合物;3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等のエポキシ基と他の官能基を有する化合物が挙げられる。
【0071】
また、アルコキシシリル基を有する多官能変性剤としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、ビス(トリエトキシシリル)オクタン、ビス(トリエトキシシリル)エチレン、1,1−ビス(トリメトキシシリルメチル)エチレン、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)−N−メチルアミン等のアルコキシシラン化合物、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリブトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−(1−メチルプロピリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−エチリデン−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール等のイミノ基とアルコキシシリル基とを有する化合物が挙げられる。
【0072】
さらに、ハロゲン基を有する多官能変性剤としては、四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、四ヨウ化ケイ素、ビストリクロロシリルエタン、2,2,4,4,6,6−ヘキサクロロ−2,4,6−トリシラヘプタン、1,2,3,4,5,6−ヘキサキス[2−(メチルジクロロシリル)エチル]ベンゼン等のハロゲン化シラン化合物;モノクロロトリメトキシシラン、モノブロモトリメトキシシラン、ジクロロジメトキシシラン、ジブロモジメトキシシラン、トリクロロメトキシシラン、トリブロモメトキシシラン等のアルコキシハロゲン化シラン化合物等が挙げられる。
【0073】
またさらに、四塩化錫、四臭化錫、ビストリクロロスタニルエタン等のハロゲン化錫化合物;トリクロルフォスフィン、トリブロモフォスフィン等のポリハロゲン化リン化合物等が挙げられる。
【0074】
上記の中でも、さらに好ましい多官能変性剤としては、シリカとの親和性の大きい官能基を有する化合物、またカップリングによる分子量の向上効果の大きい4〜6官能のポリエポキシ化合物あるいは合計で4〜6官能のエポキシ基とアルコキシシリル基との両方を有する化合物が挙げられる。よりさらに好ましい多官能変性剤としては、分子中にアミノ基を含むグリシジル化合物、更には1分子中にジグリシジルアミノ基を2個又は3個有する化合物が挙げられる。例えば、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、テトラグリシジル−p−フェニレンジアミン、テトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン等が挙げられる。
上述した多官能変性剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
これらの多官能変性剤の添加量は、アニオン重合開始剤のモル数に対して、前記多官能変性剤の官能基の合計モル数が好ましくは0.1〜0.5倍であり、好ましくは0.2〜0.4倍である。分岐の付与による加工性の向上や分子量増加による強度の向上のために、0.1倍以上添加することが好ましく、経済性の観点から0.5倍以下で添加することが好ましい。
【0076】
上述したように、活性末端を有する共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の溶液に、活性末端と反応可能な、4個以上の官能基を有する多官能変性剤を接触させてカップリング反応させることにより、本実施形態の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)が得られる。
【0077】
上述のように、カップリング反応を行った後、必要に応じて溶液に、所定の失活剤、中和剤等を添加してもよい。失活剤としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類が挙げられる。中和剤としては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、バーサチック酸等のカルボン酸類、無機酸の水溶液、炭酸ガス等が挙げられる。
【0078】
また、本実施形態の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)は、それ自体が高粘度である場合もあるため、重合後の仕上げ工程でのゲル化を防止する観点や、加工時の安定性向上の観点から、必要に応じて、2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシトルエン(BHT)、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェノール)プロピネート、2−メチル−4,6−ビス[(オクチルチオ)メチル]フェノール等の公知のゴム用安定剤を添加することが好ましい。
【0079】
本実施形態の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)の加工性をより一層優れたものとする観点から、伸展油を添加することが好ましい。添加の方法は特に限定されないが、伸展油を重合体溶液に加え、混合して、油展共重合体溶液としたものを脱溶媒することが好ましい。伸展油としては、特に限定されず、例えば、アロマ油、ナフテン油、パラフィン油等を用いることができ、IP346法による多環芳香族成分が3質量%以下であるアロマ代替油が好ましい。これらの中でも、多環芳香族成分が3質量%以下であるアロマ代替油を用いることが、環境安全上の観点や、オイルブリード防止、さらにウェットグリップ特性といった観点から、より好ましいアロマ代替油としては、Kautschuk Gummi Kunststoffe 52(12)799(1999)に示されるTDAE(Treated Distillate Aromatic Extracts)、MES(Mild Extraction Solvate)等の他、RAE(Residual Aromatic Extracts)等が挙げられる。伸展油の使用量は、特に限定されないが、通常は、本実施形態の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)100質量部に対し、10〜60質量部であることが好ましく、20〜37.5質量部であることがより好ましい。
【0080】
本実施形態の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)を、重合溶液から取得する方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を適用できる。例えば、スチームストリッピング等で溶媒を分離した後、重合体を濾別し、さらにそれを脱水及び乾燥して重合体を取得する方法、フラッシングタンクで濃縮し、さらにベント押し出し機等で脱揮する方法、ドラムドライヤー等で直接脱揮する方法等が適用できる。
【0081】
〔分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物〕
分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物とは、上述した本実施形態の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体に所定の材料を混合したものをいう。この材料としては、例えば、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体以外のゴム状重合体、無機充填剤、金属酸化物や金属水酸化物、シランカップリング剤、ゴム用軟化剤、加硫剤、加硫促進剤・加硫助剤等のその他の充填剤が挙げられる。これらの中でも、無機充填剤を少なくとも含むものが好ましい。すなわち、本実施形態の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)と、無機充填剤と、を含む分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物が好ましい。
【0082】
上記分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)以外のゴム状重合体としては、例えば、共役ジエン系重合体又はその水添物、共役ジエン系化合物とビニル芳香族化合物のランダム共重合体又はその水添物、共役ジエン系化合物とビニル芳香族化合物とのブロック共重合体又はその水添物;非ジエン系重合体、天然ゴム等が挙げられる。
【0083】
具体的には、ブタジエンゴム又はその水素添加物、イソプレンゴム又はその水素添加物、スチレン−ブタジエンゴム又はその水素添加物、スチレン−ブタジエンブロック共重合体又はその水素添加物、スチレン−イソプレンブロック共重合体又はその水素添加物等のスチレン系エラストマー、アクリロニトリル−ブタジエンゴム又はその水素添加物等が挙げられる。
【0084】
また、非ジエン系重合体としては、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、エチレン−ブテン−ジエンゴム、エチレン−ブテンゴム、エチレン−ヘキセンゴム、エチレン−オクテンゴム等のオレフィン系エラストマー、ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、α、β−不飽和ニトリル−アクリル酸エステル−共役ジエン共重合ゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム等が挙げられる。
【0085】
上述したゴム状重合体は、官能基を有する変性ゴム状重合体であってもよい。その分子量は2,000〜2,000,000であることが好ましく、5,000〜1,500,000であることがさらに好ましい。低分子量のいわゆる液状ゴムを用いることもできる。
これらのゴム状重合体は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0086】
本実施形態の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)に、上述したゴム状重合体を組み合わせる場合、これらの質量比率は、特に限定されないが、低ヒステリシスロス性とウェットスキッド抵抗性とのバランスに優れ、実用上十分な耐摩耗性や破壊特性をも満足する加硫物を得る観点から、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)/上述したゴム状重合体として、20/80〜100/0が好ましく、30/70〜90/10がより好ましく、50/50〜80/20がさらに好ましい。
【0087】
上記無機充填剤としては、例えば、シリカ系無機充填剤やカーボンブラック等が挙げられる。
【0088】
シリカ系無機充填剤としては、例えば、SiO2、又はSi3Alを構成単位の主成分とする固体粒子が挙げられる。ここで、主成分とは、シリカ系無機充填剤の50質量%以上を占める成分をいう。シリカ系無機充填剤の具体例としては、シリカ、クレイ、タルク、マイカ、珪藻土、ウォラストナイト、モンモリロナイト、ゼオライト、ガラス繊維等の無機繊維状物質等が挙げられる。また、表面を疎水化したシリカ系無機充填剤や、シリカ系無機充填剤とシリカ系以外の無機充填剤との混合物も使用できる。これらの中でも、シリカ及びガラス繊維が好ましく、シリカがより好ましい。シリカとしては、特に限定されず、乾式シリカ、湿式シリカ、合成ケイ酸塩シリカ等が使用できる。これらの中でも破壊特性の改良効果並びにウェットスキッド抵抗性の両立効果に優れる湿式シリカが好ましい。
【0089】
分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物において、実用上良好な耐摩耗性や破壊特性を得る観点から、上述したシリカ系無機充填剤のBET吸着法で求められる窒素吸着比表面積は、100〜300m2/gであることが好ましく、170〜250m2/gであることがより好ましい。
【0090】
また必要に応じて、比較的比表面積が小さい(例えば、比表面積が200m2/g未満)のシリカ系無機充填剤と、比較的比表面積の大きい(例えば、200m2/g以上)のシリカ系無機充填剤とを組み合わせて用いることにより、良好な耐摩耗性や破壊特性と低ヒステリシスロス性を高度にバランスさせることもできる。
【0091】
分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物におけるシリカ系無機充填剤の配合量は、特に限定されないが、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)を含むゴム成分100質量部に対し、0.5〜300質量部が好ましく、5〜200質量部がより好ましく、20〜100質量部がさらに好ましい。充填剤としての添加効果が発現する観点から0.5質量部以上の添加が好ましく、一方においてシリカ系無機充填剤を十分に分散させ、組成物の加工性や機械強度を実用十分なものとする観点から300質量部以下とすることが好ましい。
【0092】
カーボンブラックとしては、特に限定されず、SRF、FEF、HAF、ISAF、SAF等の各クラスのカーボンブラックが使用でき、窒素吸着比表面積が50m2/g以上、DBP吸油量が80mL/100g以上のカーボンブラックが好ましい。
【0093】
カーボンブラックの配合量は、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体を含むゴム成分100質量部に対し、0.5〜100質量部が好ましく、3〜100質量部がより好ましく、5〜50質量部がさらに好ましい。ドライグリップ性能や導電性等のタイヤ等の用途に求められる性能を発現する観点から0.5質量部以上添加することが好ましく、分散性の観点から100質量部以下とすることが好ましい。
【0094】
なお、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物には、上述したシリカ系無機充填剤やカーボンブラック以外に、金属酸化物や金属水酸化物を添加してもよい。ここで、金属酸化物とは、化学式Mxy(Mは金属原子、x、yは各々1〜6の整数を表す。)を構成単位の主成分とする固体粒子のことをいい、例えば、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等が挙げられる。また、金属酸化物と金属酸化物以外の無機充填剤含む混合物も使用できる。金属水酸化物としては、特に限定されず、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム等が挙げられる。
【0095】
分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物においては、シランカップリング剤を添加してもよい。シランカップリング剤は、ゴム成分とシリカ系無機充填剤との相互作用を緊密にする機能を有しており、ゴム成分及びシリカ系無機充填剤のそれぞれに対する親和性又は結合性の基を有しており、一般的には硫黄結合部分とアルコキシシリル基、シラノール基部分を一分子中に有する化合物が用いられる。上記観点から、シランカップリング剤は、上述したシリカ系無機充填剤と併用することが好ましい。
【0096】
シランカップリング剤の具体例としては、ビス−[3−(トリエトキシシリル)−プロピル]−テトラスルフィド、ビス−[3−(トリエトキシシリル)−プロピル]−ジスルフィド、ビス−[2−(トリエトキシシリル)−エチル]−テトラスルフィド等が挙げられる。
【0097】
シランカップリング剤の配合量は、上述したシリカ系無機充填剤100質量部に対して、0.1〜30質量部が好ましく、0.5〜20質量部がより好ましく、1〜15質量部がさらに好ましい。シランカップリング剤の配合量は、配合効果の観点から0.1質量部以上が好ましく、経済性の観点から30質量部以下が好ましい。
【0098】
分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物には、加工性の改良を図るために、ゴム用軟化剤を配合してもよい。ゴム用軟化剤としては、鉱物油、又は液状若しくは低分子量の合成軟化剤が挙げられる。ゴムの軟化、増容、加工性の向上を図るために使用されているプロセスオイル又はエクステンダーオイルと呼ばれる鉱物油系ゴム用軟化剤は、芳香族環、ナフテン環、及びパラフィン鎖の混合物であり、パラフィン鎖の炭素数が全炭素中50%以上を占めるものがパラフィン系と呼ばれ、ナフテン環炭素数が30〜45%のものがナフテン系、芳香族炭素数が30%を超えるものが芳香族系と呼ばれている。分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)とともに用いるゴム用軟化剤としては、芳香族化合物を適度に含有するものがなじみがよく、好ましい。
【0099】
ゴム用軟化剤の配合量は、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)を含有するゴム成分100質量部に対して、0〜100質量部が好ましく、10〜90質量部がより好ましく、30〜90質量部がさらに好ましい。ゴム用軟化剤の配合量が前記ゴム成分100質量部に対して100質量部以下とすることでブリードアウトを一層抑制でき、組成物表面のベタツキを一層抑制できるため好ましい。
【0100】
分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)とその他のゴム状重合体、シリカ系無機充填剤、カーボンブラックやその他の充填剤、シランカップリング剤、ゴム用軟化剤等の各種添加剤を混合する方法については、特に限定されるものではない。例えば、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダー、単軸スクリュー押出機、2軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機等の一般的な混和機を用いた溶融混練方法、各成分を溶解混合後、溶剤を加熱除去する方法等が挙げられる。これらのうち、生産性及び良混練性の観点から、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、及び押出機を併用する溶融混練法が好ましい。共役ジエン−芳香族ビニル共重合体と各種配合剤とを一度に混練する方法、複数の回数に分けて混合する方法のいずれであってもよい。
【0101】
上述した分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物は、加硫剤により加硫処理を施した加硫組成物としてもよい。加硫剤としては、特に限定されず、例えば、有機過酸化物及びアゾ化合物等のラジカル発生剤、オキシム化合物、ニトロソ化合物、ポリアミン化合物、硫黄、硫黄化合物が使用できる。硫黄化合物としては、例えば、一塩化硫黄、二塩化硫黄、ジスルフィド化合物、高分子多硫化合物等が挙げられる。
【0102】
加硫剤の使用量は、特に限定されないが、通常は、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)を含むゴム成分100質量部に対して0.01〜20質量部が好ましく、0.1〜15質量部がより好ましい。
【0103】
加硫方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を適用できる。加硫温度は、例えば、120〜200℃であり、好ましくは140〜180℃である。加硫に際しては、必要に応じて加硫促進剤や加硫助剤等を用いてもよい。加硫促進剤としては、特に限定されず、従来公知の材料を用いることもできる。例えば、スルフェンアミド系、グアニジン系、チウラム系、アルデヒド−アミン系、アルデヒド−アンモニア系、チアゾール系、チオ尿素系、ジチオカルバメート系等の加硫促進剤が挙げられる。加硫助剤としては、特に限定されず、従来公知の材料を用いることもできる。例えば、亜鉛華、ステアリン酸等が挙げられる。
【0104】
加硫促進剤の使用量は、通常、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)を含有するゴム成分100質量部に対し0.01〜20質量部であるものとし、0.1〜15質量部が好ましい。加硫助剤の使用量は、特に限定されないが、上述したゴム成分100質量部に対し、1〜10質量部が好ましい。
【0105】
分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物には、本実施形態の目的を損なわない範囲内で、上述した以外の軟化剤、充填剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、耐候安定剤、老化防止剤、着色剤、滑剤等の各種添加剤を用いてもよい。充填剤としては、具体的には炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム等が挙げられる。耐熱安定剤、帯電防止剤、耐候安定剤、老化防止剤、着色剤、潤滑剤としては、公知の材料を適用できる。
【実施例】
【0106】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例に適用した、物性の測定方法、評価方法について下記に示す。
【0107】
測定用の試料をクロロホルム溶液とし、紫外可視分光光度計(島津製作所製、UV−2450)を用いて、スチレンのフェニル基によるUV254nmの吸収により、結合スチレン量(質量%)を測定した。
【0108】
(2)ブタジエン部分のミクロ構造(ビニル結合量)
測定用の試料を二硫化炭素溶液とし、溶液セルを用いて、フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光製、FT−IR230)を用いて、赤外線スペクトルを600〜1000cm-1の範囲で測定して、所定の波数における吸光度により、ハンプトンの方法の計算式に従い、ブタジエン部分のミクロ構造(ビニル結合量)を求めた。
【0109】
(3)ムーニー粘度及びムーニー緩和率
ムーニー粘度計(上島製作所製、VR1132)を用い、ISO289−1及びISO289−4に準拠し、温度を120℃として、ムーニー粘度及びムーニー緩和率を測定した。まず、試料を120℃で1分間予熱した後、2rpmでローターを回転させ、4分後のトルクを測定してムーニー粘度(ML1+4)とした。その後、即座にローターの回転を停止させ、停止後1.6〜5秒間の0.1秒ごとのトルクをムーニー単位で記録し、トルクと時間(秒)を両対数プロットした際の直線の傾きを求め、その絶対値をムーニー緩和率(MSR)とした。
【0110】
(4)重量平均分子量及び分子量分布
ポリスチレン系ゲルを充填剤としたカラムを3本連結したGPC測定装置を使用して、クロマトグラムを測定し、標準ポリスチレンを使用した検量線に基づいて重量平均分子量を求めた。さらに、数平均分子量に対する重量平均分子量の比から分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)を求めた。
【0111】
溶離液はテトラヒドロフラン(THF)を使用した。カラムは、ガードカラム:東ソー TSKguardcolumn HHR−H、カラム:東ソー TSKgel G6000HHR、TSKgel G5000HHR、TSKgel G4000HHRを使用した。オーブン温度40℃、THF流量1.0mL/分の条件で、RI検出器(東ソー社製、HLC8020)を用いた。測定用の試料を10mLのTHFに対して10mgを溶解させて測定溶液とし、測定溶液200μLをGPC測定装置に注入して測定した。
【0112】
(5)ガラス転移温度(Tg)
ISO22768:2006に準拠し、マックサイエンス社製、DSC3200Sを用いて測定した。ヘリウム50mL/分の流通下、−100℃から20℃/分で昇温しながらDSC曲線を記録し、DSC微分曲線のピークトップ(Inflection point)をガラス転移温度とした。
【0113】
(6)転化率
内部標準としてn−プロピルベンゼン0.50mLと、約20mLのトルエンを密封した100mLのボトルに、反応器出口から得られるポリマー溶液を約20mL注入して、測定用の試料を作製した。得られた試料を、アピエゾングリースを担持させたパックドカラムを装着したガスクロマトグラフィー(GC)に測定し、事前に得ていた1,3−ブタジエンモノマーとスチレンモノマーの検量線からポリマー溶液中の残留モノマー量を求め、1,3−ブタジエンモノマー及びスチレンモノマーの転化率を求めた。
【0114】
〔実施例1〕
内容積10Lで、直径(D)に対する内部の高さ(L)の比(L/D)が4であり、底部に入り口、頂部に出口を有し、攪拌機及び温度調整用のジャケットを有するオートクレーブを2基直列に連結し、1基目を重合反応器として、2基目をカップリング反応器とて用いた。
【0115】
予め、水分等の不純物を除去した、1,3−ブタジエンを22.0g/分、スチレンを14.8g/分、n−ヘキサンを167.5g/分の添加速度で混合して混合溶液とした。得られた混合溶液に対して、不純物不活性化処理用として、n−ブチルリチウム(処理n−ブチルリチウム)を0.103mmol/分の添加速度でスタティックミキサーを用いて混合した。この混合溶液を、1基目の重合反応器の底部に連続的に供給するとともに、極性物質として2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパンを0.052g/分の添加速度で、重合開始剤としてn−ブチルリチウムを0.170mmol/分の添加速度で、1基目の重合反応器の底部に供給し、重合反応器の出口の内温が93℃となるように制御して重合反応を継続させた。このとき、反応器内の平均滞留時間は33分であった。
【0116】
1基目の重合反応器の頂部より重合体溶液を連続的に取り出して、2基目のカップリング反応器の底部に供給した。1基目の重合反応器における重合反応が定常的になった状態で、2基目のカップリング反応器の入口から、空気との接触が起こらないように十分に注意しながら、ポリマー溶液を少量ずつ抜き出し、メタノール約1mLとシクロヘキサン約30mLの混合溶液中に加えた。そして、酸化防止剤(BHT:2,6−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン)を、ポリマー100gあたり0.2gとなるように混合溶液に添加した後、ドラムドライヤーで溶媒を除去して分子量並びにムーニー粘度及びムーニー緩和率を測定する試料(共役ジエン−芳香族ビニル共重合体)を得た。ムーニー粘度及びムーニー緩和率は、110℃に設定した6インチロールに10回通した後測定した。
【0117】
試料(共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(I))の120℃のムーニー粘度(ML−I)は68.8、ムーニー緩和率(MSR−I)は0.624であり、GPCで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw−I)は61.4万であった。また2基目のカップリング反応器の入口での重合転化率は1,3−ブタジエンが99%、スチレンが98%に達していた。
【0118】
2基目のカップリング反応器の温度を85℃に保ち、テトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンを0.0205mmol/分の添加速度で2基目のカップリング反応器の底部から添加し、カップリング反応を実施した。テトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンは1分子中にエポキシ基を4個有する化合物であり、その官能基の合計モル数と添加したn−ブチルリチウムのモル数との比(当量比)は0.30であった。2基目のカップリング反応器の頂部から取り出した重合体溶液に酸化防止剤(BHT)をポリマー100gあたり0.2gとなるように0.074g/分(n−ヘキサン溶液)で連続的に添加し、カップリング反応を終了させた。その後溶媒を除去し、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)を得た。
【0119】
このカップリング後の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)の120℃のムーニー粘度(ML−C)は98.5、ムーニー緩和率(MSR−C)は0.411、GPCで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw−C)は80.2万、数平均分子量に対する重量平均分子量の比((Mw−C)/(Mn−C))は2.38であった。また、結合スチレン量は40質量%、ブタジエン結合単位中の1,2−結合量は46モル%、DSCで測定したガラス転移温度は−13℃であった。
【0120】
さらに、この分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体溶液に、S−RAEオイル(ジャパンエナジー(株)製NC−140)を重合体100質量部あたり37.5質量部添加した後に溶媒を除去し、油展共重合体(試料a)を得た。共重合体の性状を表1に示す。
【0121】
〔実施例2〕
重合開始n−ブチルリチウム、2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパン及びテトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンを、表1に示す条件で用いた。その他の条件は、実施例1と同様として、油展共重合体(試料b)を得た。共重合体の性状を表1に示す。
【0122】
〔実施例3〕
表1に示すように、実施例1の方法からブタジエンとスチレンの量比は変えずにモノマーの供給量を変えた。平均滞留時間を25分、反応器出口の内温を97℃とした。その他の材料の供給量についても表1に示すように変えた。実施例1と同様に重合反応及びカップリング反応を実施し、オイルの添加及び脱溶媒を行って、油展共重合体(試料c)を得た。共重合体の性状を表1に示す。
【0123】
〔実施例4〕
表1に示すように、テトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンの添加量を変えた。その他の条件は、実施例3と同様に重合反応及びカップリング反応を実施し、オイルの添加及び脱溶媒を行って、油展共重合体(試料d)を得た。共重合体の性状を表1に示す。
【0124】
〔実施例5、6〕
表1に示すように、モノマーの供給量は変えずに、重合開始n−ブチルリチウム、2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパン及びテトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンの添加量を変えた。その他の条件は、実施例4と同様に重合反応及びカップリング反応を実施し、オイルの添加及び脱溶媒を行って、油展共重合体(試料e、f)を得た。共重合体の性状を表1に示す。
【0125】
〔比較例1〕
表2に示すように、実施例1の方法から、ブタジエンとスチレンの量比は変えずにモノマーの供給量を変え、平均滞留時間を45分、反応器出口の内温を85℃とし、その他の物質の供給量も表2に示すように変えて重合反応を実施した。テトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンの添加をゼロにしたため、実施例1〜6においては、1基の反応器で重合反応を行ったのに対して、この場合には2基の反応器で重合反応を実施したことになる。重合転化率は2基目の反応器の頂部から得た共重合体溶液で測定した。その後、実施例1と同様にオイルの添加及び脱溶媒を行って油展共重合体(試料g)を得た。共重合体の性状を表2に示す。
【0126】
〔比較例2〕
表2に示すように、実施例1の方法から、ブタジエンとスチレンの量比は変えずにモノマーの供給量を変え、平均滞留時間を45分、反応器出口の内温を85℃とし、その他の物質の供給量も表2に示すように変えて重合反応及びカップリング反応を実施し、オイルの添加及び脱溶媒を行って油展共重合体(試料h)を得た。重合転化率の測定等は実施例1と同様の方法により行った。共重合体の性状を表2に示す。
【0127】
〔比較例3〕
表2に示すように、テトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンの添加量を変えた以外は、比較例2と同様の方法により重合反応及びカップリング反応を実施し、オイルの添加及び脱溶媒を行って、油展共重合体(試料i)を得た。共重合体の性状を表2に示す。
【0128】
〔比較例4〕
表2に示すように、実施例1の方法から、ブタジエンとスチレンとの量比は変えずにモノマーの供給量を変え、平均滞留時間を22分、反応器出口の内温を105℃とし、その他の物質の供給量も表2に示すように変えて、重合反応及びカップリング反応を行った。その後、実施例1と同様にオイルの添加及び脱溶媒を行って油展共重合体(試料j)を得た。共重合体の性状を表2に示す。
【0129】
〔比較例5〕
表2に示すように、実施例1の方法からブタジエンとスチレンの量比を変え、さらにモノマーの供給量を変え、平均滞留時間を25分、反応器出口の内温を97℃とし、その他の物質の供給量も表2に示すように変えて、実施例1と同様に重合反応及びカップリング反応を行った。その後、実施例1と同様にオイルの添加及び脱溶媒を行って油展共重合体(試料k)を得た。共重合体の性状を表2に示す。
【0130】
【表1】

【0131】
【表2】

【0132】
〔実施例7〜10〕、〔比較例6〜10〕
上記表に示す試料(試料a、c〜e、g〜k)を原料ゴムとして、以下に示す配合に従い、それぞれの原料ゴムを含有するゴム組成物を作製した。
【0133】
・油展スチレン−ブタジエン共重合体(試料a、c〜e、g〜k):96.25質量部
・1,4−シス含有量の高いポリブタジエンゴム(以下、ハイシスポリブタジエンゴムという。)(宇部興産社製、UBEPOL−150):30.00質量部
・シリカ(デグサ社製、Ultrasil VN3):75.00質量部
・カーボンブラック(東海カーボン社製、N339):5.00質量部
・シランカップリング剤(デグサ社製、Si75):6.00質量部
・S−RAEオイル(ジャパンエナジー社製、JOMOプロセスNC140):15.75質量部
・亜鉛華:2.50質量部
・ステアリン酸:2.00質量部
・ワックス(大内新興化学社製、サンノックN):1.50質量部
・老化防止剤(N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン):2.00質量部
・硫黄:2.20質量部
・加硫促進剤(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフィンアミド):1.70質量部
・加硫促進剤(ジフェニルグアニジン):2.00質量部
合計:241.90質量部
【0134】
ゴム組成物は、下記の方法により混練を行った。
温度制御装置を具備する密閉混練機(内容量0.3L)を使用し、第一段の混練として、充填率72%、ローター回転数50/57rpmの条件で、原料ゴム(試料a、c〜e、g〜k、ハイシスブタジエンゴム)、シリカ、有機シランカップリング剤、プロセスオイルを混練した。このとき、密閉混合機の温度を制御し、排出温度(配合物)は155〜160℃でゴム組成物を得た。
【0135】
次に、第二段の混練として、上記で得た配合物を室温まで冷却後、カーボンブラック、亜鉛華、ステアリン酸、ワックス、老化防止剤を加え、再度混練した。この場合も、混合機の温度制御により排出温度(配合物)を155〜160℃に調整した。冷却後、第三段の混練として、70℃に設定したオープンロールにて、硫黄、加硫促進剤を加えて混練した。その後、成型し、160℃で20分間、加硫プレスにて加硫した。加硫後、ゴム組成物の物性を測定した。物性測定結果を表3に示した。
【0136】
ゴム組成物の物性は、下記の方法により測定した。
(1)バウンドラバー量
第2段混練工程の終了後の配合物(約0.2g)を約1mm角状に裁断し、ハリスかご(100メッシュ金網製)へ入れ、重量を測定した。その後、トルエン中に23℃で24時間浸漬後、乾燥処理を施し、トルエン非溶解成分の重量を測定した。非溶解成分の重量から充填剤に結合したゴム(分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体+ハイシスブタジエンゴム)の重量を計算し、最初の配合物中のゴム量に対する充填剤と結合したゴムの割合を求めた。
【0137】
(2)配合物ムーニー粘度
ムーニー粘度計を使用し、JIS K6300−1に準拠し、130℃で1分間の予熱を行った後に、ローターを毎分2回転(2rpm)で回転させ、4分後の粘度を測定した。ムーニー粘度が小さい値であるほど、混練時に消費エネルギーが小さく加工性が良好であることを示す。
【0138】
(3)引張強さ
JIS K6251の引張試験法に準拠して測定した。比較例6の測定値を100として指数化した。
【0139】
(4)粘弾性パラメータ
レオメトリックス・サイエンティフィック社製の粘弾性試験機(ARES)を使用し、ねじりモードで粘弾性パラメータを測定した。各々の測定値は、比較例6の測定値を100として指数化した。0℃において周波数10Hz、ひずみ1%で測定したtanδ(損失正接)をウェットスキッド抵抗性の指標とした。値が大きいほどウェットスキッド抵抗性が良好であることを示す。
【0140】
また50℃において周波数10Hz、ひずみ3%で測定したtanδ(損失正接)を省燃費特性の指標とした。値が小さいほど低ヒステリシスロス性が良好であることを示す。さらに同条件で測定したG’(貯蔵弾性率)を操縦安定性の指標とした。値が大きく剛性の高いほど安定性が良好であることを示す。
【0141】
(5)耐摩耗性
アクロン摩耗試験機(安田精機製作所製)を使用し、JIS−K6264−2に準拠し、荷重44.1N、1000回転の摩耗量を測定した。比較例6の測定値を100として指数化した。指数の大きいほど耐摩耗性が優れることを示す。
【0142】
【表3】

【0143】
実施例7〜10と比較例6とを比較する。試料a、c〜eを用いた実施例7〜10においては、配合物ムーニー粘度が低く加工性に優れ、50℃と0℃のtanδから見られるように低ヒステリシスロス性とウェットスキッド抵抗性とのバランスに優れており、引張強さ、耐摩耗性も良好で実用上十分な耐摩耗性や破壊特性をも満足していることが分かった。一方、カップリング反応を行わずに作製した比較例1の共重合体gは、分岐度が低くなったことに伴い、ムーニー緩和率が高くなり、上記式(1)の要件を満たさなくなった。この共重合体gを用いた比較例6は、上記各特性において実施例7〜10に比較して劣ったものとなった。
【0144】
実施例7〜10と比較例7とを比較する。比較例7は、配合物ムーニー粘度が低く加工性に優れ、低ヒステリシスロス性とウェットスキッド抵抗性とのバランスに優れており、引張強さ、耐摩耗性も良好で実用上十分な耐摩耗性や破壊特性をも満足している。しかしながら、比較例7においては、上記比較例2の共重合体hを用いており、共重合体hは、重合温度が低いため、分岐が十分に進行せず分岐度が低くなったことに伴い、ムーニー緩和率が高くなり、上記(1)の要件を満たさなくなった。この比較例2の共重合体hは、実施例1、3〜5の共重合体a、c〜eと同等の重合添加率を得るために、反応器内の滞留時間を必然的に長くしなければならず、共重合体の生産性が劣ったものとなった。よって、比較例7のゴム組成物は、実施例7〜10に比較して、少なくとも生産性の点で劣っていることがわかった。
【0145】
実施例7〜10と比較例8とを比較する。比較例8は、比較例3で作製した共重合体iを用いているが、共重合体gはテトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンの添加量が多く、カップリング量が多くなり、ムーニー粘度が高く、これを用いた比較例8のゴム組成物の配合物粘度が高くなり、少なくとも加工性において劣ったものとなった。また、カップリング効率を高くするため、重合反応は比較的低温で行う必要があることから、反応器内の滞留時間が長くなり、共重合体iの生産性は低いものとなった。
【0146】
実施例7〜10と比較例9とを比較する。比較例9は、比較例4で作製した共重合体jを用いているが、共重合体jは、重合温度が高く、分子量分布が広くなりすぎ、これを用いた比較例9のゴム組成物は、実施例7〜10に比較して、少なくとも引張強さ及び耐摩耗性において劣っていることが分かった。
【0147】
実施例7〜10と比較例10とを比較する。比較例10は、比較例5で作製した共重合体kを用いているが、共重合体kは、ビニル結合量、及び結合スチレン量が低く、これを用いた比較例10のゴム組成物は、実施例7〜10に比較して、0℃のtanδが低く、少なくともウェットスキッド抵抗性において劣っていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明の共役ジエン−芳香族ビニル共重合体は、タイヤトレッド用材料、履物、工業用品等として産業上の利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランダム共重合体である、共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)であり、
前記共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)中の芳香族ビニル結合量が38〜45質量%であり、
共役ジエン全結合単位中のビニル結合量が43モル%を超えて50モル%以下であり、
前記共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)の重量平均分子量(Mw−C)が700,000〜1,000,000であり、
数平均分子量(Mn−C)に対する重量平均分子量(Mw−C)の比((Mw−C)/(Mn−C))が1.7〜3.0であり、
120℃で測定されるムーニー粘度(ML−C)とムーニー緩和率(MSR−C)とが、下記式(1)の関係を満たす、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)。
{195−(ML−C)}/300≦(MSR−C)≦{235−(ML−C)}/300・・・(1)
(ここで、式(1)において、90≦(ML−C)≦125である。)
【請求項2】
重量平均分子量(Mw−I)が500,000〜700,000であり、120℃で測定されるムーニー粘度(ML−I)とムーニー緩和率(MSR−I)とが下記式(2)の関係を満たす、共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(I)を、4個以上の官能基を有する多官能変性剤を用いてカップリングしたものである請求項1に記載の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)。

{235−(ML−I)}/300≦(MSR−I)≦{270−(ML−I)}/300・・・(2)
(ここで、式(2)において、60≦(ML−I)≦90である。)
【請求項3】
請求項1又は2に記載の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)と、
無機充填剤と、
を含む、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)の製造方法であって、
共役ジエン化合物、芳香族ビニル化合物、及びアニオン重合開始剤を含む溶液を連続的に反応器に供給して重合反応を進行させ、活性末端を有する共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の溶液を得る工程と、
前記活性末端と反応可能な4個以上の官能基を有する多官能変性剤を用いて、前記共役ジエン−芳香族ビニル共重合体をカップリングさせる工程と、
を有する、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)の製造方法であって、
攪拌機付きの反応器に、共役ジエン化合物、芳香族ビニル化合物、及びアニオン重合開始剤を含む溶液を連続的に供給して重合反応を進行させる工程と、
前記反応器出口から、活性末端を有する共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の溶液を連続的に得る工程と、
前記活性末端と反応可能な4個以上の官能基を有する多官能変性剤を用いて前記共役ジエン−芳香族ビニル共重合体をカップリングさせる工程と、
を有し、
前記重合反応においては、反応器出口における内温を90〜100℃に保ち、平均滞留時間20分以上40分以下で連続的に重合反応を進行させる、分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)の製造方法。
【請求項6】
前記アニオン重合開始剤のモル数に対して、前記多官能変性剤の官能基の合計モル数が、0.1〜0.5倍となるように前記多官能変性剤を用いる、請求項4又は5に記載の分岐状共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(C)の製造方法。

【公開番号】特開2010−261027(P2010−261027A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88976(P2010−88976)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】