説明

分岐用シールドの発進口取付方法

【課題】 発進位置の芯合わせを精度よく行うことができ、止水性を確保できる分岐用シールドの発進口取付方法を提供する。
【解決手段】 既設トンネル1の発進坑口9から分岐用シールド2を発進させるべく取り付ける分岐用シールドの発進口取付方法において、分岐用シールド2のカッタ6とフード7に合体した状態でこれらを覆う発進口エントランス5を組み立てると共にこれらを上記発進坑口9となる壁10に当て、その状態で発進口エントランス5を既設トンネル1に仮付けし、カッタ6とフード7を後退させ、発進口エントランス5を既設トンネル1に溶接固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設トンネルの発進坑口から分岐用シールドを発進させるべく取り付ける分岐用シールドの発進口取付方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シールド掘進機を既設トンネル等から発進させる場合、トンネル壁の所定の位置に予め筒状の受口部材を溶接すると共に、受口部材にシールド掘進機の外周をシールするためのエントランスシールをボルトアップし、エントランスシール内にシールド掘進機を挿入して発進させている。
【0003】
また、図8に示すように、既設トンネル1が極めて小径である場合など、受口部材30に予めエントランスシール31を設置できない場合、シールド本体32の外周にエントランスシール31を取り付け、そのシールド本体32を発進位置に設置後、エントランスシール31を受口部材30にボルトアップすることになる。
【0004】
【特許文献1】特開昭60−148994号公報
【特許文献2】特開2002−147168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シールド本体32の位置が決まった後でエントランスシール31を受口部材30に取り付けることとなるため、十分な精度で発進位置の芯合わせをし、かつ、止水性を確保するのが難しいという課題があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は上記課題を解決し、発進位置の芯合わせを精度よく行うことができ、かつ、止水性を確保できる分岐用シールドの発進口取付方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、既設トンネルの発進坑口から分岐用シールドを発進させるべく取り付ける分岐用シールドの発進口取付方法において、分岐用シールドのカッタとフードに合体した状態でこれらを覆う発進口エントランスを組み立てると共にこれらを上記発進坑口となる壁に当て、その状態で発進口エントランスを既設トンネルに仮付けし、カッタとフードを後退させ、発進口エントランスを既設トンネルに溶接固定するものである。
【0008】
上記発進口エントランスの側面には、溶接作業時の出入口となるマンホールを形成するとよい。
【0009】
発進口エントランスの先端には、既設トンネルと当接して溶接するための受口部材が一体に形成されるとよい。
【0010】
また、上記発進口エントランスの後方には、上記分岐用シールドのシールドフレームを支持すると共にその移動を同軸上に規制する発進架台が設けられるとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発進位置の芯合わせを精度よく行うことができ、かつ、止水性を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図4及び図5に示すように、既設トンネル1内に分岐用シールド2を搬入するとき、予め受口部材3とエントランスシール4とを接合して発進口エントランス5を形成しておくと共に、分岐用シールド2を輪切り方向(軸方向)に分割しておき、発進口エントランス5を分岐用シールド2のカッタ6とフード7(シールドフレームの一部)にその外周を覆うように設ける。すなわち、分岐用シールド2の前部分割部8のカッタ6とフード7に合体した状態でこれらを覆う発進口エントランス5を設けておく。受口部材3は、既設トンネル1の発進坑口9となる壁10に全周に渡って密着されるように馬鞍状に形成されており、溶接作業時の出入口となるマンホール11を一側に形成されている。特に略水平に延び断面円形の既設トンネル1にあっては、受口部材3の左右両側に比較的広い壁面部分が形成されることとなるため、この壁面部分にマンホール11を形成しておく。
【0013】
また、発進口エントランス5は、分岐用シールド2の前部分割部8と共に架台12に乗せ、既設トンネル1内の発進坑口9の近傍まで搬送する。このとき、架台12には走行車輪13を取り付けておき、既設トンネル1内に予め敷設したレール14上を走行させる。架台12は、発進口エントランス5を軸方向に移動可能に載置する受座15を有する。
【0014】
架台12が発進坑口9の近傍に到着したら、架台12をジャッキアップするなどして架台12から走行車輪13を取り外すと共に、発進坑口9に臨む位置のレール14を取り外して既設トンネル1の床面16を平滑とし、図6に示すように、床面16上に架台12を直接置く。
【0015】
この後、架台12から発進口エントランス5の受口部材3側を適宜突出させるように発進口エントランス5を受座15上で移動させ、図7に示すように、床面16上で架台12を滑らせて発進口エントランス5の受口部材3側を発進坑口9となる壁10に当てる。このとき、架台12は予め発進口エントランス5の高さを取付位置に合わせるように受座15の高さを設定されているため、位置合わせを容易に行うことができ、壁10に発進口エントランス5を容易に全周に渡って密着させることができる。
【0016】
この状態で発進口エントランス5を壁10に仮付けし、カッタ6とフード7を後退させる。仮付けは、壁10に発進口エントランス5の外周側を溶接することで行う。図2に示すように、発進坑口9となる壁10は、モルタル、無筋コンクリート等の材料で形成され分岐用シールド2のカッタ6で掘削可能な掘削可能壁部17と、掘削可能壁部17の内周側に一体に設けられ発進口エントランス5に溶接される金属壁部18とで構成されている。金属壁部18には、分岐用シールド2を通すための孔19が形成されており、シールド発進時に金属壁部18にカッタ6が当たらないようになっている。図7に示すように、カッタ6とフード7を後退させる前に、予め発進口エントランス5の後方に分岐用シールド2のシールドフレーム20を支持すると共にその移動を同軸上に規制する発進架台21を設置しておく。そして、発進口エントランス5から前部分割部8を後退させたとき、前部分割部8を発進架台21上に載せて支持するようにしておく。前部分割部8の後退は、手動ジャッキ(図示せず)等で分岐用シールド2の前部分割部8に力を加えることで行う。
【0017】
図1及び図3に示すように、前部分割部8が後退し、発進口エントランス5内に十分な作業用スペース22が形成されたら、既設トンネル1に発進口エントランス5を液密に溶接固定する。具体的には、マンホール11から発進口エントランス5内の作業用スペース22に進入し、発進坑口9となる壁10に発進口エントランス5の内周側を溶接する。このとき、溶接すべき壁10は弧状に湾曲されており、発進口エントランス5の上端部と下端部は、内周側にて壁10と鈍角に交差されることとなるため、外周側の溶接では難しい止水も内周側の溶接で簡単かつ確実に止水できる。
【0018】
この後、マンホール11を液密に閉じると共に、前部分割部8を発進架台21に沿って前進させ、発進口エントランス5内に進入させる。発進架台21は前部分割部8を同軸上で移動させるようにガイドするため、発進口エントランス5内に前部分割部8を極めて容易に進入させることができる。
【0019】
以降、前部分割部8の後側に他の分割部(図示せず)を順次継ぎ足し、他の分割部の中折れジャッキや推進ジャッキ等の推進手段(図示せず)で推力を発生させながらカッタ6を駆動させ、既設トンネル1内から分岐用シールド2を発進させる。
【0020】
このように、分岐用シールド2のカッタ6とフード7に合体した状態でこれらを覆う発進口エントランス5を組み立てると共にこれらを発進坑口9となる壁10に当て、その状態で発進口エントランス5を既設トンネル1に仮付けし、カッタ6とフード7を後退させ、発進口エントランス5を既設トンネル1に溶接固定するため、既設トンネル1が極めて小径である場合など、受口部材3に予めエントランスシール4を設置できない場合であっても十分な精度で発進位置の芯合わせをすることができ、止水性を容易に確保することができる。また、既設トンネル1に発進口エントランス5を直接溶接固定するため、既設トンネル1に受口部材3を予め設ける場合よりも機長の長い前部分割部8を既設トンネル1内に搬入することができ、狭いスペースを有効に利用することができる。
【0021】
発進口エントランス5の側面に、溶接作業時の出入口となるマンホール11を形成するため、発進口エントランス5内に容易に進入することができ、溶接作業を容易にできる。
【0022】
また、発進口エントランス5の先端には、既設トンネル1と当接して溶接するための受口部材3が一体に形成されるものとしたため、既設トンネル1に発進口エントランス5を容易に溶接できる。
【0023】
そして、発進口エントランス5の後方には、分岐用シールド2のシールドフレーム20を支持すると共にその移動を同軸上に規制する発進架台21が設けられるものとしたため、発進口エントランス5から前部分割部8を後退させたとき、前部分割部8が軸ずれを起こすのを防ぐことができ、発進口エントランス5内に前部分割部8を正確かつ円滑に戻すことができる。
【0024】
なお、既設トンネル1内に分岐用シールド2等を搬入する前に、予め発進坑口9周辺の地山に止水用固化剤を注入し、地盤改良しておくとよい。このとき、カッタ6の中心が当たる位置に止水用固化剤を注入するための孔を設け、この孔から止水用固化剤を注入するとよい。発進坑口9となる壁10の掘削を容易にすることができる。
【0025】
また、分岐用シールド2は輪切り方向に分割するものとしたが、分割せずとも既設トンネル1内に搬入でき、かつ、発進坑口9に所定の向きで設置できる場合、分割しなくてもよい。
【0026】
受口部材3とエントランスシール4は、既設トンネル1内に搬入する前に接合してカッタ6とフード7の外周に設けるものとしたが、これに限るものではない。例えば既設トンネル1内の拡幅部等に作業スペースを確保できる場合、既設トンネル1内に搬入したのちに受口部材3とエントランスシール4を接合してカッタ6とフード7の外周に設けてもよい。
【0027】
発進口エントランス5の仮付けは、発進坑口9となる壁10に発進口エントランス5の外周側を溶接することで行うものとしたが、発進口エントランス5内に溶接機の一部を挿入するなどして発進口エントランス5の内周側を一部溶接するものとしてもよい。この場合、発進口エントランス5から前部分割部8を後退させたのち、壁10に発進口エントランス5の内周側と外周側とを液密に溶接するとよい。
【0028】
架台12の後方に別途発進架台21を設けるものとしたが、架台12の発進口エントランス5後方の位置に発進架台として機能する部分(図示せず)を設け、架台12が発進架台を兼ねるものとしてもよい。
【0029】
マンホール11は、受口部材3の一側に形成するものとしたが、両側に形成してもよい。
【0030】
また、既設トンネル1が断面円形かつ略水平に延びる場合について説明したが、既設トンネル1は小径の立坑であってもよく、非円形断面であってもよい。既設トンネル1が小径の立坑である場合、マンホール11は発進口エントランス5の上下の側面部分に形成するとよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の好適実施の形態を示す既設トンネルに溶接固定している発進口エントランスと分岐用シールドの側面断面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】図1の平面断面図である。
【図4】既設トンネル内に搬入している発進口エントランスと分岐用シールドの側面断面図である。
【図5】図4の背面図である。
【図6】既設トンネルの所定位置に搬入した発進口エントランスと分岐用シールドの側面断面図である。
【図7】既設トンネルに当接させた発進口エントランスと分岐用シールドの側面断面図である。
【図8】従来の分岐用シールドの発進口取付方法を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1 既設トンネル
2 分岐用シールド
3 受口部材
5 発進口エントランス
6 カッタ
7 フード
9 発進坑口
11 マンホール
20 シールドフレーム
21 発進架台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設トンネルの発進坑口から分岐用シールドを発進させるべく取り付ける分岐用シールドの発進口取付方法において、分岐用シールドのカッタとフードに合体した状態でこれらを覆う発進口エントランスを組み立てると共にこれらを上記発進坑口となる壁に当て、その状態で発進口エントランスを既設トンネルに仮付けし、カッタとフードを後退させ、発進口エントランスを既設トンネルに溶接固定することを特徴とする分岐用シールドの発進口取付方法。
【請求項2】
上記発進口エントランスの側面に、溶接作業時の出入口となるマンホールを形成した請求項1記載の分岐用シールドの発進口取付方法。
【請求項3】
発進口エントランスの先端には、既設トンネルと当接して溶接するための受口部材が一体に形成される請求項1又は2記載の分岐用シールドの発進口取付方法。
【請求項4】
上記発進口エントランスの後方には、上記分岐用シールドのシールドフレームを支持すると共にその移動を同軸上に規制する発進架台が設けられる請求項1〜3いずれかに記載の分岐用シールドの発進口取付方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−97330(P2006−97330A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−284759(P2004−284759)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【特許番号】特許第3651486号(P3651486)
【特許公報発行日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】