説明

分散メディア

【課題】被分散体にダメージ(粒子の破砕、結晶構造の変化、表面の活性化等)を与えることなく微粒化・高分散することで、本来発現する性能の低下を防ぐための分散メディアを提供する。特に、被分散体の一般的な一次粒子径に対して二桁以上大きい粒子径の分散メディアであっても、被分散体にダメージを与えることなく、粒度分布がシャープで、かつ、一次粒子レベルまでの分散に到達可能な分散メディアを提供する。
【解決手段】平均粒径及び圧縮試験での破壊変位量Bとビーズ粒径Aとの比B/Aが所定の範囲である分散メディア。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子分散体を製造するための分散メディアに関する。特に、被分散体にダメージ(粒子の破砕、結晶構造の変化、表面の活性化等)を与えることなく、一次粒子レベルまでに分散するための分散メディアに関する。
【背景技術】
【0002】
粒子を解砕及び分散するための手法として、湿式法においては攪拌羽根によるせん断による分散方法、混練機を用いたせん断による分散方法、或いは、ビーズミル及びボールミルをはじめとする分散メディアを使用してなる分散方法等がある。
ボールミルに使用される分散メディアとしては、数mm径のジルコニア又はアルミナ等のセラミックスボールメディアや、ステンレス鋼(以下、「SUS」という。)を素材とする金属ボールメディアが一般的に用いられる。
上記のような数mm径のボールメディアを用いた場合には、通常、二次凝集体程度の
粒子解砕を目的とした粗分散に適用される。
【0003】
一方、近年の電子材料、顔料、塗料等に求められる性能はより高度なものとなっており、それに伴って、使用される材料の微粒子化及び高分散化の要求が高まりつつある。
これらの微粒子化及び高分散化された材料として、一次粒径で100nm未満までナノ粒子化された材料が挙げられる。そして、これらの材料の多くは、一次粒子レベル(粒子は、一次粒子もしくは一次粒子が数個塊った状態)まで均一に粒子が解砕され、更に、バインダ等の有機物により被膜され、又は、複数の無機材料が均一に混合されることにより、機能の発現又は性能の向上が達成されるものである。
このような高度の微粒子化・高分散化の要求に対して、各種ビーズミル分散機を用いた粒子解砕が主に試みられるが、上記のような数mm径やサブmm径の分散メディアではナノ粒子を一次粒子レベルまで分散することが難しい。そこで、ビーズミル分散処理を多段階にし、サブmm径から数mm径の分散メディアを用いて、ある程度の二次凝集体の解砕を行い、さらに微小な0.1mm径以下の分散メディアを使用して仕上げ分散することが行われている。このような多段階のビーズミル分散処理では、二次凝集体粒子の解砕及び分散の進度に対応して分散メディアの径を小さくしていき、粒子へのダメージを抑制しつつ微粒子化を進める方法が一般的である。
【0004】
仕上げ分散の例としては、サンドミル、サンドグラインダー等の分散機に、0.1mm径以下のセラミックスビーズを入れ、均一かつ微粒子にまで分散することが挙げられる。特に、粒子への衝突頻度を上げ、かつ、衝突によるダメージを低減する観点から、より微小な分散メディアが使用される傾向がある。また、被分散体を微粒子化及び高分散化するとともに、メディアの磨耗による粒子分散体の汚染を防ぐことを目的として、通常、分散メディアには、ジルコニア等のような衝撃を吸収する能力を有するセラミック材料が使用される。
例えば、非特許文献1には、数十μm径のジルコニアビーズを分散メディアとして使用し、被分散体を微分散する例が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「化学装置」2005年5月号、株式会社工業通信、p.67〜73(2005年5月発行)
【0006】
しかしながら、ジルコニア等からなる数十μm径のセラミックスビーズは、その径が被分散体の一次粒子径(<100nm)の100倍以上と大きく、被分散体の硬さによっては被分散体に対し粒子の破砕等のダメージを与える。さらに破砕された粒子は表面の活性が高いため、粒子の再凝集により粒度が大きくなったり、粒度分布が広がったりする現象が生じる。
このように、ジルコニア等からなる数十μm径のセラミックスビーズを使用した場合には、粒度分布がシャープで、かつ、一次粒子レベルの粒子分散体が得られないだけでなく、当該分散体が目的とする性能を十分に発揮しない問題が生ずることもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、被分散体にダメージ(粒子の破砕、結晶構造の変化、表面の活性化等)を与えることなく微粒化・高分散することで、本来発現する性能の低下を防ぐための分散メディアの提供を目的とするものである。特に、被分散体の一般的な一次粒子径に対して二桁以上大きい粒子径の分散メディアであっても、被分散体にダメージを与えることなく、粒度分布がシャープで、かつ、一次粒子レベルまでの分散に到達可能な分散メディアの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、平均粒径及び圧縮試験での破壊変位量Bとビーズ粒径Aとの比B/Aが特定の範囲である分散メディアを使用することにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0009】
本発明は、以下のとおりである。
<1> 平均粒径が0.2μm以上0.2mm以下であり、0.5mm/minの速度で圧縮力をかけながら圧縮変位量を計測する圧縮試験での破壊変位量Bとビーズ粒径Aとの比B/Aが0.15以上である、分散メディア。
<2> 高周波誘導熱プラズマ法により金属を加工してなる、<1>記載の分散メディア。
<3> 30℃の3.5質量%塩化ナトリウム水溶液に対する孔食電位が0mV以上である、<1>又は<2>記載の分散メディア。
<4> SUS304Lからなる、<1>〜<3>のいずれか一項に記載の分散メディア。
<5> 無機粉末、又は有機物に被膜された無機粉末を被分散体とする、<1>〜<4>のいずれか一項に記載の分散メディア。
<6> 上記被分散体を、平均粒径が100nm以下の粒状粒子にまで分散するための、<5>に記載の分散メディア。
<7> 上記被分散体を、平均厚みが100nm以下の平板状粒子にまで分散するための、<5>に記載の分散メディア。
<8> 上記被分散体を、平均細さが100nm以下のチューブ状粒子にまで分散するための、<5>に記載の分散メディア。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、被分散体にダメージ(粒子の破砕、結晶構造の変化、表面の活性化等)を与えることなく微粒化・高分散することで、本来発現する性能の低下を防ぐための分散メディアの提供を目的とするものである。特に、被分散体の一般的な一次粒子径に対して二桁以上大きい粒子径の分散メディアであっても、被分散体にダメージを与えることなく、粒度分布がシャープで、かつ、一次粒子レベルまでの分散に到達可能な分散メディアの提供を目的とする。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、平均粒径が0.2μm以上0.2mm以下であり、0.5mm/minの速度で圧縮力をかけながら圧縮変位量を計測する圧縮試験(以下、単に「圧縮試験」ともいう。)での破壊変位量Bとビーズ粒径Aとの比B/Aが0.15以上である、分散メディアに関する。
上記圧縮試験は、室温(20〜25℃)で行うことが好ましい。
【0012】
本発明において、被分散体の平均粒径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)により得られた画像から求めたものをいう。又、分散メディアの平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)又は、光学式顕微鏡により得られる画像から求めたものをいう。画像解析ソフトウエアWinROOF(三谷商事(株)製)等を用い、統計処理して平均粒径を算出することが好ましい。精度の観点からn数は200個以上が好ましい。本発明における圧縮試験におけるビーズ粒径は光学式顕微鏡で計測したものである。
【0013】
本発明において、使用する分散メディアの平均粒径は0.2μm以上0.2mm以下である。
分散メディアの平均粒径が0.2mmより大きいと、分散メディア同士が衝突する回数が低減し、分散メディア間で粒子が解砕される頻度の低減が生じる。一方で、破砕された粒子同士の凝集が発生し、全体としては被分散体の分散が進まなくなる現象も生じる。
また、分散メディアの平均粒径が0.2μmより小さいと、分散工程に要する時間が長くなる上に、粒子分散体と分散メディアとの分離にも時間がかかるため、作業効率が著しく低下し好ましくない。
分散メディアの平均粒径は1μm以上0.1mm以下が好ましく、7μm以上80μm以下がより好ましく、10μm以上70μm以下が更に好ましい。
【0014】
本発明において、使用する分散メディアの圧縮試験での破壊変位量Bとビーズ粒径Aとの比B/Aは分散メディアの硬度を示す指標であり、当該値が小さくなる程メディアは硬くなり、大きくなる程メディアは軟らかくなる。より正確には、B/Aが分散メディアに圧縮力がかかった際のビーズの変位(変形)のしやすさを示す指標になる。
本発明の分散メディアのB/Aは、0.15以上である。B/Aが0.15より小さい分散メディアは硬く、メディア同士が衝突する際にメディアは変形することなく点で接触する傾向となる。これにより、被分散体は過大な力を受けることで結晶構造の変化や破砕等のダメージを受けやすい。また、被分散体の結晶構造が変化したり、粒子が破砕することにより粒子表面の活性が高まり、分散剤やバインダ等の有機物の被膜が十分されない部分が生じることにより、被分散体の再凝集が発生しやすくなる。その結果、粒度が大きくなったり、粒度分布が広がったりする現象が生じる。
また、被分散体の結晶構造の変化や、被分散体の微粒子化及び高分散化が阻害されることで、機能性塗料や機能性膜等で所望の特性が十分に発揮されないという不都合も生じやすい。
【0015】
一方で、B/Aが0.15以上の分散メディアは軟らかく、衝突する際にメディアが変形し、メディア同士が衝突する際にメディアは面で接触する傾向となる。分散メディアが面で接触すると衝突のエネルギーは分散され、メディア間で解砕される被分散体にかかる力は弱まる。この結果、分散メディアのB/Aが0.15より小さい場合のような、被分散体の結晶構造が変化したり、粒子の破砕等による再凝集の問題は発生せず、粒度分布がより均一な粒子分散体が得られる。さらに、分散メディアが衝突してできた面内では、解砕された粒子は一定の距離を保つことができ、分散剤やバインダ等と接触することが容易となって粒子の再凝集を抑制することができるため、粒度分布がシャープで、かつ、一次粒子レベルまでの分散がより可能になる。
上記B/Aは0.20以上であることが好ましく、0.30以上であることがより好ましく、0.50以上であることがさらに好ましい。B/Aの上限は、通常0.95である。
【0016】
本発明の分散メディアは、平均粒径及び圧縮試験での破壊変位量Bとビーズ粒径Aとの比B/Aが上記の範囲であれば特に制限を受けないが、以下の範囲のものがより好ましい。
【0017】
本発明の分散メディアは、30℃の3.5質量%塩化ナトリウム水溶液に対する孔食電位が0mV以上であることが好ましい。分散メディアの孔食電位が上記の範囲内であれば、水分散に使用した際にメディアが錆びて粒子分散体を汚染する恐れがない。
【0018】
本発明の分散メディアは、比重の制限を受けない。従来の分散メディアには、粒子を解砕する能力を高めるために高い比重が求められてきたが、本発明は被分散体へのダメージを抑制することを目的とするからである。
但し、比重が高い分散メディアを使う場合は、より微小なものを選定したり、破壊変位量Bとビーズ粒径Aとの比B/Aが高いものを選定し、被分散体のダメージを抑制することが好ましい。
【0019】
本発明の分散メディアを構成する素材としては、上記B/Aを満たせば特に限定されないが、例えば、SUS等の金属、PMMAやポリスチレン等の樹脂、ゴム等が挙げられる。通常、分散処理に用いる溶媒に対してビーズの素材が溶出しないように、ビーズの素材を選定することが好ましい。
本発明の分散メディアを構成する金属としては、SUS304L、SUS420J、SUS430L、SUS440、SUS630、SUS316等が好ましい。
本発明の分散メディアとしてSUS420J、SUS430L又はSUS304L製のビーズを使用することがより好ましく、SUS304L製のビーズを使用することが最も好ましい。SUS304Lは、30℃の3.5質量%塩化ナトリウム水溶液に対する孔食電位が300mVを超えるため、ビーズ表面に形成される不働態皮膜に塩化物イオン及び水が共存する状態で穴があく危険性が低いからである。
【0020】
本発明の分散メディアの製造方法は特に制限されないが、例えば、上記金属素材を高周波誘導加熱を応用した熱プラズマを用いて球状に微粒子化する方法を用いることができる。当該熱プラズマは10,000℃を超える超高温の炎であり、誘導加熱により気体を電磁気的に励起し電離させることで得られる。
また、上記金属素材を0.15mm径程度の棒に圧延して、それを0.15mm程度の長さに切断したものを造粒し、加熱仕上げすることによっても、本発明の分散メディアを得ることができる。
【0021】
本発明の分散メディアは、メディアを使用する分散機に対し特に制限なく使用することができる。使用することができる分散機の例には乾式粉砕機も含まれるが、粒子解砕を一次粒子レベルまで高分散する用途では、湿式分散機が好ましい。
本分散メディアを適用する湿式分散装置は、一般的なビーズミル、ボールミル装置だけでなく、ベッセル内に羽根を有する攪拌装置、自公転ミキサー、オムニミキサーも含まれる。つまり、ビーズと被分散体を流動させる能力を有していれば、装置は限定されない。
【0022】
本発明の分散メディアによって解砕及び分散される被分散体としては、セラミックス、金属酸化物、金属、カーボンブラック等の無機粉末や、有機物に被膜された無機粉末が挙げられる。当該無機粉末、又は有機物に被膜された無機粉末の用途としては、電子材料、顔料インク、配線インク、導電性材料、圧電材料、熱電材料、遮熱塗料、磁性材料、蓄電デバイスの電極用塗料等を挙げることができる。
【0023】
上記被分散体は、平均一次粒子径が100nm以下のものが好ましく、その形状は、粒状、平板状又はチューブ状等のいかなる態様であってもよい。
【0024】
以上のとおり、本発明の分散メディアを用いることにより、被分散体にダメージを与えることなく、粒度分布がシャープで、かつ、一次粒子レベルまでの分散が可能となる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
<圧縮試験>
分散メディアに使用するビーズの圧縮試験は、以下の要領で行った。
微小強度評価試験機マイクロオートグラフMST−ITypeHR(島津製作所製)の下圧盤(HMV700硬さ基準片、Φ25mm)にビーズを載せ、最大50Nの負荷がかけられるロードセル容量の先端に円すい台圧子(Φ500μm)を付したものを0.5mm/minで下げ、ビーズに押し当てた。データは10msec間隔でTrape z iumXシングルソフトに取り込み、処理した。
計測にはサンプルとなるビーズを10個用意し、各ビーズ毎に50Nまで負荷をかけては開放する操作を室温(20℃)にて行い、ビーズ径及び破壊ストロークを計測した。破壊変位量Bとして上記10個のビーズについての計測で得られたデータのうちの最下限値を採用し、その計測でのビーズ粒径Aから、B/Aを求めた。
破壊時の判断は、試験力−ストローク線図を作成し、試験力/ストロークの傾きのリニアリティがなくなる点で規定した。
【0027】
<錆び確認試験>
純水中に2ヶ月浸漬させ、取り出したビーズを自然乾燥させた後に、ビーズ表面及び浸漬後の水の状態を確認した。
○:目視及び顕微鏡による観察共に、ビーズ変化が認められない。浸漬後の水は透明のままである。
△:目視でのビーズ変化が認められない。浸漬後の水が茶色がかる。
【0028】
〔実施例1〕
表1に示す材料及び平均粒径からなり、同表に示す作成メーカーにより所定の方法で製造されたビーズにつき、上記圧縮試験及び錆び確認試験を行った。その結果として得られた破壊変位量、ビーズ粒径及びB/Aを表1にまとめた。
【0029】
〔実施例2〜4、比較例1〜4〕
実施例1で行ったことと同様の操作を、実施例2〜4及び比較例1〜4に規定されるビーズについても行い、表1及び2にまとめた。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
表1より、本願所定の分散メディアは、柔らかく、衝突する際にメディアが変形し、被分散体の分散時の衝撃力を緩和できることがわかる。また、表2より、合金材料からなる分散メディアであっても、必ずしも本発明所定の要件を満たすとは限らないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が0.2μm以上0.2mm以下であり、0.5mm/minの速度で圧縮力をかけながら圧縮変位量を計測する圧縮試験での破壊変位量Bとビーズ粒径Aとの比B/Aが0.15以上である、分散メディア。
【請求項2】
高周波誘導熱プラズマ法により金属を加工してなる、請求項1に記載の分散メディア。
【請求項3】
30℃の3.5質量%塩化ナトリウム水溶液に対する孔食電位が0mV以上である、請求項1又は2に記載の分散メディア。
【請求項4】
SUS304Lからなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の分散メディア。
【請求項5】
無機粉末、又は有機物に被膜された無機粉末を被分散体とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の分散メディア。
【請求項6】
上記被分散体を、平均粒径が100nm以下の粒状粒子にまで分散するための、請求項5に記載の分散メディア。
【請求項7】
上記被分散体を、平均厚みが100nm以下の平板状粒子にまで分散するための、請求項5に記載の分散メディア。
【請求項8】
上記被分散体を、平均細さが100nm以下のチューブ状粒子にまで分散するための、請求項5に記載の分散メディア。

【公開番号】特開2013−27852(P2013−27852A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167671(P2011−167671)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】