分散体、リン酸カルシウム中空粒子、リン酸カルシウム多孔質体、リン酸カルシウム複合微粒子、及びそれらの製造方法、並びにそれらの利用
【課題】分散剤としてCaPのみを用いて、簡便に製造可能であり、かつ安定な分散体を提供する。
【解決手段】親水性液体、疎水性物質、及びリン酸カルシウムを含む液体からなる分散体であって、上記疎水性物質は、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む物質である。
【解決手段】親水性液体、疎水性物質、及びリン酸カルシウムを含む液体からなる分散体であって、上記疎水性物質は、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む物質である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散体、リン酸カルシウム中空粒子、リン酸カルシウム多孔質体、リン酸カルシウム複合微粒子、及びそれらの製造方法、並びにそれらの利用に関するものである。さらに詳しくは、リン酸カルシウム以外の分散剤を含まず、かつ、安定な分散体、及び当該分散体を利用して製造したリン酸カルシウム中空粒子、リン酸カルシウム多孔質体、リン酸カルシウム複合微粒子、及び、それらの製造方法、並びにそれらの利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイドロキシアパタイト(以下、「HAp」と表記する)を代表とするリン酸カルシウム(以下、「CaP」と表記する)は、様々な態様で用いられている。
【0003】
例えば、CaPの粒子は、懸濁重合用の分散剤として用いられている。
【0004】
特許文献1及び2では、スチレンを懸濁重合させる際に、CaPを分散安定剤として用いて、水中にスチレンを懸濁させた分散体を作製する方法が提案されている。また、特許文献3では、CaPと界面活性剤とを懸濁安定剤として併用してビニル化合物のモノマーの分散体を作製した上で、懸濁重合反応系を熱処理することで、ビニル化合物の懸濁重合を行なう方法が提案されている。特許文献4では、懸濁重合用分散剤として有用なアパタイトゾルを製造する方法が提案されている。特許文献5では、CaO/P2O5が1.30(Ca/P = 1.66 molar ratio)のアパタイトスラリーを強力剪断分散処理する懸濁重合用安定剤の製造方法が提案されている。
【0005】
また、CaPの中空粒子や、多孔質体は、医薬担体や触媒担体としての用途から注目を集めている。CaPの中空粒子の製造方法としては、例えば、以下の方法が提案されている。
【0006】
非特許文献1では、CaPの原料水溶液をスプレードライし、原料濃度やスプレー速度等の条件を調整することでCaPの中空粒子を製造する方法が開示されている。
【0007】
非特許文献2、特許文献6では、予め製造しておいたバテライト型(水中に溶解する)炭酸カルシウム粒子の表面を、メタノール媒体中でリン酸化することで、炭酸カルシウムをリン酸カルシウムで被覆して、その後、炭酸カルシウムを水中で溶解させることで中空CaP微粒子を製造する方法が開示されている。
【0008】
非特許文献3では、予め製造しておいた炭酸マンガン粒子表面にイオン性高分子の積層膜を形成し、その後に炭酸マンガンを塩酸水溶液で溶解・除去することで製造したイオン性高分子中空粒子を用いて、イオン性高分子中空粒子の壁にリン酸カルシウムを析出させることでCaPの中空粒子を製造する方法が開示されている。
【0009】
また、CaPの多孔質体の製造方法としては、従来以下のような方法が提案されている。
【0010】
非特許文献4では、予め製造しておいたホウ酸リチウム-カルシウム系の多孔質ガラス粒子表面にCaPを析出させることで、複数の中空を内部に持つ多孔質CaP粒子を製造する方法が開示されている。
【0011】
特許文献7では、酸性コラーゲン水溶液中にアルカリを添加することによってゲル化させ、次いで炭酸アパタイト粒子を混合し、炭酸アパタイトとコラーゲンとからなる含水複合ゲルを得て、得られた含水複合ゲルを遠心分離器にかけて水分を適宜除去し、凍結した後、凍結真空乾燥処理することによって、スポンジ状多孔質炭酸アパタイト・コラーゲン複合体を得る方法が開示されている。
【0012】
非特許文献5及び特許文献8では、粒子径約150μmのカーボンビーズと繊維状CaPとを混合し、1300℃で5時間焼成することでカーボンを燃焼させて多孔質CaPを製造する方法が開示されている。
【0013】
特許文献9では、セラミックス粉と特定の官能基を有する添加剤とを水中に分散させたスラリーを一方向から凍結させ、凍結水を減圧下で昇華させることで多孔質乾燥体を得る製造法が開示されている。
【0014】
非特許文献6では、カゼインタンパク質で安定化したオリーブ油分散体の水相にHApを析出した後、減圧濾過後、乾燥することで水を分離し、その後ヘキサンあるいは超臨界二酸化炭素でオリーブ油を抽出することで、HAp含有多孔質体を製造する方法が開示されている。
【0015】
ところで、近年、CaPは、その生体親和性の高さから、生体材料として注目されている。そこで、上述のような、CaPを用いた分散体や、CaPの中空粒子(以下、単に「CaP中空粒子」と表記する)、CaPの多孔質体(以下、単に「CaP多孔質体」と表記する)は、CaPの生体材料としての用途を広げる態様として期待される。
【特許文献1】特公昭29−1298(1954年3月11日公告)
【特許文献2】特公昭30−6490(1955年9月13日公告)
【特許文献3】特公昭47‐23666(1972年7月1日公告)
【特許文献4】特開2006‐82985(2006年3月30日公開)
【特許文献5】特許公開平7−102005(1995年4月18日公開)
【特許文献6】特開平11−171514(1999年6月29日公開)
【特許文献7】特開2003‐169845(2003年6月17日公開)
【特許文献8】特開2004‐284933(2004年10月14日公開)
【特許文献9】特開2005‐1943(2005年1月6日公開)
【非特許文献1】P. Luo, T.G. Nieh, Preparing hydroxyapatite powders with controlled morphology, Biomaterials, 1996, vol. 17, 1959-1964
【非特許文献2】上田裕清、新田邦之、中嶋卓也、広浜陽一、笠原英充、花崎実、源吉嗣郎、炭酸カルシウムをシードとする形態制御されたヒドロキシアパタイトの作成、無機マテリアル、1998、vol. 5, 28-35
【非特許文献3】D.G. Shchukin, G.B. Sukhorukov, H. Mohwald, Biomimetic fabrication of nanoengineered hydroxyapatite/polyelectrolyte composite shell, Chem. Mater., 2003, vol. 15, 3947-3950.
【非特許文献4】Q. Wang, W. Huang, D. Wang, B.W. Darvell, D.E. Day, M.N. Rahaman, Preparation of hollow hydroxyapatite microspheres, Journal of Materials Science. Materials in Medecine, 2006, vol. 17, 641-646.
【非特許文献5】相澤守、上野宏子、板谷清司、繊維状アパタイトによる細胞培養用多孔質シートの作製, マテリアルインテグレーション, 1999. vol. 12 pp. 75-77.
【非特許文献6】C. Ritzoulis, N. Scoutaris, K. Papademetriou, S. Stavroulias, C. Panayiotou, Milk protein-base emulsion gels for bone tissue engineering, Food Hydrocolloids, 2005, vol. 19, 575-581.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上記従来のCaPを用いた分散体を作製する際には、CaPに加え、さらに界面活性剤を添加することを必要としていた。
【0017】
例えば、特許文献1及び2では、HApの分散安定剤としての再現性及び信頼性を高めるために、表面活性剤やポリリン酸塩などとHApとを併用することを必要とする。特許文献3では、CaPと界面活性剤とを併用している。特許文献4では、アパタイトゾルに、ヘキサメタリン酸ソーダを添加している。特許文献5では、アパタイトスラリーを懸濁重合用安定剤として用いるときに、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダを添加している。なお、特許文献5では、超高圧乳化分散機という高価な設備を必要とするため、アパタイトスラリーが高コストとなる。
【0018】
このように、従来のCaPを用いた分散体では、界面活性剤等が添加されている。つまり、CaPのみを分散剤として用い、他の界面活性剤を用いない分散体は、従来報告が無かった。
【0019】
また、本発明者らが調査したところ、従来のCaPを用いた分散体では、1〜12時間程度で、分散体中に分散していた水成分と油成分とが集合してしまい、長時間安定な構造を維持することができない。
【0020】
これでは、CaPを用いた分散体を薬物担体等の生体用材料に用いるときにも支障を来たす。例えば、難水溶性の薬物を体内に投与するとき、CaPを用いて、難水溶性薬剤の分散体を作製しても、長期の保存は不可能であり、作製後極めて短時間内に分散体を投与する必要がある。また、生体内で早期に分散体が壊れることで難水溶性薬剤が分離して、その吸収効率が低下する恐れがある。
【0021】
さらに、界面活性剤は、生体に対して毒性を与える恐れのある成分であるため、CaPと界面活性剤とを併用した分散体を用いると、生体に対して毒性を与える恐れがある。例えば、上述の難水溶性薬剤の分散体を、CaPを用いて、従来の方法で作製しても、低分子界面活性剤(低分子分散安定剤)を用いることが必要である。しかし、上述のように、界面活性剤には毒性を示す恐れがある。そこで、界面活性剤等を用いずに、CaPのみを用いて分散体を作製することが望まれる。
【0022】
これらの問題を解決するためには、用いる分散剤をCaPのみとして、かつ、CaPを効率よく油滴表面に吸着させて分散体を安定化させる技術が必要となる。しかし、このような技術は従来存在していない。
【0023】
ところで、従来のCaPの中空粒子や多孔質体は、その製造に煩雑な作業を要する。また、その構造が不安定である等の理由から、生体に適用することができないという問題を有している。
【0024】
例えば、非特許文献1に記載されたCaP中空粒子の製造方法では、スプレードライ装置が必要であるため、製造コストが高くなる。また、噴霧された水滴中でリン酸カルシウムが析出して、水滴表面へ移行することにより中空構造を形成するため、再現性に乏しい。また、水滴の表面に集まったCaPが骨組みとなって中空構造を保持することにより、CaPの殻が厚くなる恐れがある。
【0025】
非特許文献2及び特許文献6に記載のバテライト型炭酸カルシウムは、天然に存在するものでは無く、非常に不安定な結晶である。また、バテライト型炭酸カルシウムの製造は再現性が低く、さらにバテライト型炭酸カルシウムは保存も困難である。さらに、バテライト型炭酸カルシウムは、炭酸イオンを多く含むため、中空CaP微粒子の水に対する溶解性が大きくなる。そのため、炭酸カルシウムを水中で溶解させる工程で、当該中空CaP微粒子も溶解してしまい、製造効率が低くなる。また、水溶性が高いと生体内で急速に溶解するため、生体材料として用いることができない。
【0026】
非特許文献3に記載の中空粒子は、イオン性高分子とCaPとの混合物である。このイオン性高分子は生体に対して有毒なものもあるため、生体材料としては不適切である。また、中空粒子の製造に必要な工程数が多く、コストも高くなる。
【0027】
非特許文献4に記載の多孔質CaP粒子は、ガラスとCaPとの混合物である。ガラスは生体に吸収されないため、当該多孔質CaP粒子を生体材料として用いることができない。
【0028】
特許文献7に記載のスポンジ状多孔質炭酸アパタイト・コラーゲン複合体では、感染症が伝染する恐れがあるコラーゲンを必須とするため、生体材料として積極的に用いることができない。
【0029】
非特許文献5及び特許文献8に記載の多孔質CaPの製造方法で用いられるカーボンビーズの分散性は低いため、カーボンビーズが局所的に凝集しやすい。よって、カーボンビーズを燃焼させることによりCaPに形成される孔の分布が、不均一になりやすいという問題がある。多孔質CaPを生体材料として用いるためには、一定の性質を保障する必要があるが、このように孔が不均一となると、発揮する性質の再現性が低く、生体材料としては適当でない。
【0030】
特許文献9に記載の多孔質乾燥体の製造方法では、多孔質乾燥体上の孔を形成する凍結水は、一方向から凍結される。そのため、多孔質乾燥体上には、当該一方向のみに連結した孔しか形成されず、一般に多孔質材料に求められる吸着性等が劣ることとなる。また、スラリーを凍結させて、さらに凍結水を減圧下で昇華させる必要がある。このため、製造工程が煩雑であり、また、製造に長時間を要する。
【0031】
非特許文献6では、カゼイン蛋白質等、HAp以外の成分を多く含むため、生体組織接着性やイオン吸着性等の、HApの表面性質を発揮しにくい。また、溶解性が高いため、生体材料として用いることができない。
【0032】
このように、従来のCaPが用いられてなる分散体、CaP中空粒子及びCaP多孔質体は、生体に用いることが困難な場合があり、また、製造工程が煩雑であるなどの課題を有している。
【0033】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、界面活性剤等のCaP以外の分散剤を用いることなく、安定な分散体を簡便に製造し得る方法を提供し、ひいては、生体に対して安全な、分散体、CaP中空粒子及びCaP多孔質体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0034】
本発明に係る分散体は、上記課題を解決するために、親水性液体、疎水性物質、及びリン酸カルシウムを含む分散体であって、上記疎水性物質は、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む物質であることを特徴としている。
【0035】
上記の構成によれば、上記分散体には、親水性液体及び疎水性物質のうち、いずれか一方が分散媒として、他方が分散質として、さらに、CaPが分散剤として存在している。つまり、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む物質は、CaPと相互作用可能な部位を分子中に有するため、親水性液体と当該疎水性物質との界面にCaPが安定に吸着する。よって、CaPが分散剤として機能し、分散体を形成することができる。
【0036】
このため、本発明に係る分散体は、界面活性剤等の、CaP以外の分散剤を用いることを必要とせず簡便に製造することができる。
【0037】
また、本発明に係る分散体は、分散体中の分散質が24時間以上集合せず、極めて安定である。
【0038】
さらに、CaP及び親水性液体の混合物とは分散体を形成しない疎水性物質であっても、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む物質を溶解させることで、界面活性剤等を用いることなく簡便に分散体を形成することができる。
【0039】
従って、簡便に製造できるため低コストで、かつ安定な構造を有し、界面活性剤を含まない分散体を提供することができる。
【0040】
本発明に係る分散体では、上記カルボニル基を有する飽和有機化合物が、飽和脂肪酸エステルであることがより好ましい。
【0041】
上記の構成によれば、カルボニル基とCaP表面のカルシウムイオンあるいはリン酸イオンとの、静電相互作用により、互いに引力を生じさせるため、CaPは、飽和脂肪酸エステルと親水性液体との界面に、より安定かつ高濃度に密集することができる。よって、より安定な分散体を提供することができる。
【0042】
本発明に係る分散体では、上記カルボニル基を有する飽和有機化合物が、ミリスチン酸メチルであることがより好ましい。
【0043】
上記の構成によれば、カルボニル基とCaP表面のカルシウムイオンとの、静電相互作用により、互いに引力を生じさせるため、CaPは、親水性液体と、ミリスチン酸メチルとの界面に安定かつ高濃度に密集することができる。よって、さらに安定な分散体を提供することができる。
【0044】
本発明に係る分散体では、上記アルカンが、炭素数5以上30以下のアルカンからなる群から選択される少なくとも一つ以上のアルカンであることがより好ましい。
【0045】
上記の構成によれば、CaPは、親水性液体と、炭素数5以上30以下のアルカンとの界面に安定かつ高濃度に密集することができる。よって、より安定な分散体を提供することができる。
【0046】
本発明に係る分散体では、上記アルカンが、ドデカン及び/又はヘキサンであることがより好ましい。
【0047】
上記の構成によれば、CaPは、親水性液体と、n−ドデカンやn−ヘキサンとの界面に安定かつ高濃度に密集することができる。よって、より安定な分散体を提供することができる。なお、本明細書において「A及び/又はB」と記載した場合、A、B、又はA及びBを意味するものとする。
【0048】
本発明に係る分散体では、上記カルボニル基を有する飽和有機化合物が、カルボニル基を有する生分解性ポリマーであることがより好ましい。
【0049】
上記の構成によれば、CaP及び親水性液体の混合物に混合しても分散体を形成し得ない疎水性物質を用いた場合であっても、界面活性剤等を用いることなく簡便に分散体を形成することができる。さらに、カルボニル基を有する飽和有機化合物として生分解性ポリマーを用いることで、得られる分散体の生体親和性及び安全性を向上させることができる。よって、簡便に得ることができ、かつより生体親和性及び安全性が高い分散体を提供することができる。
【0050】
CaP及び親水性液体の混合物に混合しても分散体を形成し得ない疎水性物質を用いた場合であっても、カルボニル基を有する生分解性ポリマーが溶解された液体を用いることによって、界面活性剤等を用いることなく簡便に分散体を形成し得るという、知見は従来知られておらず、また当業者も予想し得ない事実である。上記知見は、発明者らの鋭意努力と独自の発想によって初めて見出されたものである。それゆえ本発明は上記新規知見に基づく技術的思想を含むものといえる。
【0051】
本発明に係る分散体では、上記生分解性ポリマーが、ポリ乳酸であることがより好ましい。
【0052】
上記の構成によれば、ポリ乳酸は、生体親和性及び生体に対する安全性が高い。また、ポリ乳酸に含まれるカルボニル基とCaP表面のカルシウムイオンとの、静電相互作用により、互いに引力を生じさせるため、ポリ乳酸を溶解した疎水性物質と親水性液体との界面には、CaPが密集して安定に存在することができる。さらに、ポリ乳酸は、生分解性ポリマーの中でも、安価に入手可能である。よって、生体親和性及び安全性が高く、安定な分散体を安価に提供することができる。
【0053】
本発明に係る分散体では、上記リン酸カルシウムが、平均粒子径1nm以上1000nm以下のリン酸カルシウムであることがより好ましい。
【0054】
上記の構成によれば、ナノメートルサイズのCaPを用いるので、親水性液体と疎水性物質との界面に、CaPの粒子がより密集して存在することができる。よって、より効率良く、安定な分散体を提供することができる。
【0055】
本発明に係る分散体では、上記リン酸カルシウムが、ハイドロキシアパタイトであることがより好ましい。
【0056】
上記の構成によれば、生体の骨や歯の成分に近いHApを用いるので、生体親和性及び安全性がさらに向上した分散体を提供することができる。
【0057】
本発明に係る分散体では、上記リン酸カルシウムが、ハイドロキシアパタイトの焼結体であることがより好ましい。
【0058】
上記の構成によれば、生体の骨や歯の成分に近く、かつ焼結することで構造が安定となったHApの焼結体を用いるため、生体親和性及び安全性が高く、安定な分散体を提供することができる。
【0059】
本発明に係る分散体では、上記親水性液体又は上記疎水性物質を分散媒として、上記分散媒中に第1の滴及び第2の滴を含む分散体であり、上記第1の滴が、上記親水性液体及び上記疎水性物質のうち上記分散媒ではない方を上記リン酸カルシウムが被覆してなるものであって、上記分散媒中に分散しているものであり、上記第2の滴が、上記分散媒が上記親水性液体であるときは上記親水性液体を、上記分散媒が上記疎水性物質であるときは上記疎水性物質を、上記リン酸カルシウムが被覆してなるものであって、上記第1の滴中に分散しているものであってもよい。
【0060】
上記の構成によれば、分散媒中に分散した滴の中にさらに滴が分散している。このような分散体を利用すれば、例えば、有用物質が内部に分散した粒子を容易に製造することができる。つまり、分散媒中に分散している滴の中にさらに分散している滴となる親水性液体又は疎水性物質に任意の物質を溶解させておき、分散媒を蒸発させれば、当該粒子を得ることができる。そして、上記の構成では界面活性剤を使用しなくてもこのような粒子が得られることから、生体用材料として好適である。
【0061】
本発明に係る分散体の製造方法は、上記課題を解決するために、親水性液体、疎水性物質、及びリン酸カルシウムを含む分散体の製造方法であって、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、親水性液体と、リン酸カルシウムとを混合する工程を含むことを特徴としている。
【0062】
上記の構成によれば、親水性液体及び疎水性物質のうち、いずれか一方が分散媒として、他方が分散質として、さらに、CaPが分散剤として存在する分散体を製造することができる。そして、当該分散体は、界面活性剤等の、CaP以外の分散剤を用いることなく簡便に製造され得る。さらに、当該分散体は、分散体中の分散質が24時間以上集合せず極めて安定である。また、CaP及び親水性液体の混合物に混合しても分散体を形成し得ない疎水性物質を用いた場合であっても、カルボニル基を有する飽和有機化合物を溶解させることで、界面活性剤等を用いることなく簡便に分散体を製造することができる。さらに、親水性液体、疎水性物質、及びCaPを混合するだけで上記分散体を製造することができる。従って、安定な分散体を、簡便に製造することができる。
【0063】
本発明に係る分散体の製造方法では、上記分散体が、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質、又は親水性液体を分散媒として、上記分散媒中に第1の滴が分散しており、上記第1の滴中に第2の滴が分散している分散体であり、上記疎水性物質と、上記親水性液体と、上記リン酸カルシウムとを混合することで、上記分散媒を上記親水性液体とするときは上記親水性液体を、上記分散媒を上記疎水性物質とするときは上記疎水性物質を、上記リン酸カルシウムで被覆してなる上記第2の滴が、当該親水性液体及び当該疎水性物質のうち上記分散媒でない方のものの中に分散している第1の分散体を製造する第1混合工程と、上記第1の分散体と、上記分散媒と、上記リン酸カルシウムとを混合することで、当該第1の分散体をリン酸カルシウムが被覆してなる第1の滴が、上記分散媒中に分散する第2の分散体を製造する第2混合工程と、を含んでいてもよい。
【0064】
上記の構成によれば、分散媒中に分散した滴の中にさらに滴が分散した分散体を、2回の混合工程を行なうことにより簡便に製造することができる。
【0065】
本発明に係る分散体の製造方法では、カルボニル基を有する飽和有機化合物を、予め混合した疎水性物質を用いることがより好ましい。
【0066】
上記の構成によれば、CaP及び親水性液体の混合物に混合しても分散体を形成し得ない疎水性物質を用いた場合であっても、カルボニル基を有する飽和有機化合物を当該疎水性物質に溶解させることで、界面活性剤等を用いることなく、簡便に、分散体を製造することができる。
【0067】
本発明に係る分散質の集合方法は、上記課題を解決するために、親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを含み、上記親水性液体及び上記疎水性物質の内、いずれか一方を分散媒とし、他方を分散質とし、リン酸カルシウムを分散剤とする分散体に、酸性化合物を混合することを特徴としている。
【0068】
上記の構成によれば、酸性化合物が混合されることにより、親水性液体のpHが低下する。CaPは、酸性、特にpHが5未満の液体に好適に溶ける。そのため、親水性液体のpHが低下すれば、親水性液体と疎水性物質との界面に吸着していたCaPは親水性液体に溶解する。そして、親水性液体中に分散していた疎水性物質の滴、又は、疎水性物質中に分散していた親水性液体の滴は、滴の形状を保つことができなくなる。よって、酸性化合物を加えることで、容易に、分散体中の分散質を集合させることができる。
【0069】
本発明に係る分散質の集合方法を用いれば、例えば、地中のポンプによる汲み上げが困難な、粘度の高い原油の回収が容易になる。まず、原油に対して水及びCaPを混合して分散体を形成して粘度を低下させる。ここで、CaPを混合するだけでは分散体が形成しない場合は、当該油に溶解するカルボニル基を有する飽和有機化合物を混合した上で、CaPを混合することで、分散体を形成する。そして、当該分散体をポンプ等で汲み上げて回収槽等に移した上で、酸性化合物を混合することで、水成分と油成分とを分け、油成分のみの回収を容易とする。
【0070】
また、上記の構成によれば、酸性条件下においてCaPを溶解させることで分散体内部の油を放出することが可能となるため、ドラッグデリバリシステムのキャリアとして応用可能である。
【0071】
本発明に係る分散質の再分散方法は、上記課題を解決するために、親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを含み、上記親水性液体及び上記疎水性物質の内、いずれか一方を分散媒とし、他方を分散質とし、リン酸カルシウムを分散剤とする分散体に、酸性化合物を混合することによって、上記分散質が集合した液体に、アルカリ性化合物を混合することを特徴としている。
【0072】
上記の構成によれば、アルカリ性化合物が混合されることにより、親水性液体のpHが高くなる。CaPは、pHが5以上の液体には溶け難いため、当該親水性液体から析出する。そのため、CaPは、親水性液体と疎水性物質との界面に、吸着されて、密集するため、アルカリ性化合物を混合することで、再度、分散質を分散媒中に分散させて、分散体を得ることができる。
【0073】
例えば、本発明に係る分散質の再分散方法を用いれば、上述した油を回収するために用いたCaPを再利用することができる。つまり、上述の本発明に係る分散質の集合方法において、酸性となりCaPを溶解した親水性液体を、原油に混合する。その上で、アルカリ性化合物を、添加して攪拌する等により混合することで、分散体を形成することができる。よって、上述の本発明に係る分散質の集合方法で説明した油を回収する方法と同様に、油を回収することができる。
【0074】
本発明に係るリン酸カルシウム中空粒子の製造方法では、上記課題を解決するために、下記の(i)及び(ii)の工程を含むことを特徴としている;
(i)親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを混合して分散体を製造する工程;
(ii)上記分散体を焼成する工程。
【0075】
上記の構成によれば、分散体中に含まれる親水性液体及び疎水性物質が除去され、焼成されたCaPは残存する。そして、CaPにより形成されていた滴に由来する、空の孔を有するCaP中空粒子を得ることができる。
【0076】
従って、生体吸収性の高いCaPによって形成され、かつ微細な孔を有するCaP中空粒子を提供することができる。
【0077】
本発明に係るリン酸カルシウム中空粒子の製造方法では、上記(ii)の工程の前に、(iii)上記分散体を乾燥する工程を含むことがより好ましい。
【0078】
上記分散体を乾燥させることで、分散体中の分散媒が蒸散して除去される。そして、当該分散媒を除去した上で焼成することで、中空粒子同士が融着することを防ぐことができる。また、段階的にCaPに加わる熱の温度を上げることで、CaP中空粒子の形状が崩れることを防ぐことができる。
【0079】
本発明に係るリン酸カルシウム中空粒子は、上記課題を解決するために、上記の本発明にかかるリン酸カルシウム中空粒子の製造方法によって得られたリン酸カルシウム中空粒子であることを特徴としている。
【0080】
上記の構成によれば、生体吸収性の高いCaPによって形成され、かつ微細な孔を有するCaP中空粒子を提供することができる。
【0081】
本発明に係るリン酸カルシウム多孔質体の製造方法は、上記課題を解決するために、下記の(iv)〜(vi)の工程を含むことを特徴としている:
(iv)親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを混合して分散体を製造する工程;
(v)上記分散体中に分散している滴を密集させる工程;
(vi)密集した上記滴を焼成する工程。
【0082】
上記の構成によれば、分散体中の親水性液体及び疎水性物質が、焼成されることで蒸散して除去され、CaPのみが残存する。そして、CaP粒子同士が接触するように密な状態で焼成されることで、CaP粒子同士が融着して、CaP多孔質体を得ることができる。
【0083】
また、上記CaP多孔質体を形成するCaPは、分散体中に分散する微細な滴を被覆していたCaPであるため、当該滴の大きさ程度の孔を多数有する。
【0084】
従って、生体吸収性の高いCaPによって形成され、かつ微細な孔を多数有するCaP多孔質体を、簡便に得ることができる。
【0085】
本発明に係るリン酸カルシウム多孔質体の製造方法では、上記(vi)の工程の前に、(vii)上記分散体を乾燥する工程を含むことがより好ましい。
【0086】
上記分散体を乾燥させることで、段階的にCaPに加わる熱の温度が上がるため、CaP多孔質体が崩れることを防ぐことができる。
【0087】
本発明に係るリン酸カルシウム多孔質体は、上記課題を解決するために、上記の本発明に係るリン酸カルシウム多孔質体の製造方法によって得られたリン酸カルシウム多孔質体であることを特徴としている。
【0088】
上記の構成によれば、生体吸収性の高いCaPによって形成され、かつ微細な孔を多数有するCaP多孔質体を提供することができる。
【0089】
本発明に係るリン酸カルシウム複合微粒子の製造方法は、上記課題を解決するために、任意の物質がリン酸カルシウムで被覆されてなるリン酸カルシウム複合微粒子の製造方法であって、下記の(viii)及び(ix)の工程を含むことを特徴としている:
(viii)親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを混合して分散体を製造する工程;
(ix)上記分散体を乾燥させる工程。
【0090】
上記の構成によれば、任意の物質が親水性液体又は疎水性物質に溶解された分散体を作製して、目的に応じて、上記分散体を乾燥させることにより、当該任意の物質がCaPにより被覆されたCaP複合微粒子を、製造することができる。よって、様々な種類の物質をCaPで被覆した、CaP複合微粒子を提供することができる。CaPは生体親和性に優れているため、当該任意の物質が、生体親和性の低い薬剤等であっても、当該任意の物質を生体に取り込ませることができる。
【0091】
従って、生体親和性の低い物質を、生体に良好に親和させることができ、簡便に製造可能なCaP複合微粒子を提供することができる。
【0092】
本発明に係るリン酸カルシウム複合微粒子の製造方法では、上記(viii)の工程で製造する上記分散体が、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質、又は親水性液体を分散媒として、上記分散媒中に第1の滴が分散しており、上記第1の滴中に第2の滴が分散している分散体であり、上記(viii)の工程が、上記疎水性物質と、上記親水性液体と、上記リン酸カルシウムとを混合することで、上記分散媒を上記親水性液体とするときは上記親水性液体を、上記分散媒を上記疎水性物質とするときは上記疎水性物質を、上記リン酸カルシウムで被覆してなる上記第2の滴が、当該親水性液体及び当該疎水性物質のうち上記分散媒でない方の中に分散する第1の分散体を形成する第1混合工程と、上記第1の分散体と、上記分散媒と、上記リン酸カルシウムとを混合することで、当該第1の分散体をリン酸カルシウムが被覆してなる第1の滴が、上記分散媒中に分散する第2の分散体を形成する第2混合工程と、を含む工程であり、上記第1混合工程において、上記親水性液体及び上記疎水性物質のうち少なくとも一方に、上記任意の物質を予め混合させておく製造方法であってもよい。
【0093】
上記の構成によれば、有用物質を内部に分散させたリン酸カルシウム複合微粒子を容易に製造することができる。例えば、分散媒中に分散した滴の中にさらに分散している滴となる親水性液体又は疎水性物質に任意の物質を溶解させておき、分散媒を蒸発させれば、当該リン酸カルシウム複合微粒子を容易に製造することができる。また、界面活性剤を使用しなくてもよいので、生体用材料として好適なリン酸カルシウム複合微粒子を得ることができる。
【0094】
本発明に係るリン酸カルシウム複合微粒子の製造方法では、上記(viii)の工程において、上記任意の物質を、上記親水性液体又は上記疎水性物質に予め混合することが好ましい。
【0095】
上記の構成によれば、上記任意の物質を、予め、上記親水性液体又は上記疎水性物質に対して、溶解又は分散等して充分に混合させた上で用いるため、上記任意の物質が溶けずに残存することによるロスを抑え、CaP複合微粒子の生産性を向上させることができる。
【0096】
本発明に係るリン酸カルシウム複合微粒子は、上記課題を解決するために、上記の本発明にかかるリン酸カルシウム複合微粒子の製造方法によって得られたリン酸カルシウム複合微粒子であることを特徴としている。
【0097】
上記の構成によれば、生体親和性の低い物質を、生体に良好に親和させることができ、簡便に製造可能なCaP複合微粒子を提供することができる。
【0098】
本発明に係る生体用材料は、上記課題を解決するために、上記の本発明に係る分散体を含むことを特徴としている。
【0099】
上記の構成によれば、生体親和性に優れたCaPを用いた分散体を含むため、生体親和性に優れた生体用材料を提供することができる。
【0100】
また、本発明に係る生体用材料は、上記課題を解決するために、上記の本発明に係るリン酸カルシウム多孔質体を含むことを特徴としている。
【0101】
上記の構成によれば、生体親和性に優れたCaP多孔質体を含むため、生体親和性に優れた生体用材料を提供することができる。
【0102】
また、本発明に係る生体用材料は、上記課題を解決するために、上記の本発明に係るリン酸カルシウム中空粒子を含むことを特徴としている。
【0103】
上記の構成によれば、生体親和性に優れたCaP中空粒子を含むため、生体親和性に優れた生体用材料を提供することができる。
【0104】
また、本発明に係る生体用材料は、上記課題を解決するために、上記の本発明に係るリン酸カルシウム複合微粒子を含むことを特徴としている。
【0105】
上記の構成によれば、生体親和性に優れたCaP複合微粒子含むため、生体親和性に優れた生体用材料を提供することができる。
【0106】
本発明に係る薬物担体は、上記課題を解決するために、上記の本発明に係る生体用材料を含むことを特徴としている。
【0107】
上記の構成によれば、上記本発明に係る生体用材料を含むため、生体親和性に優れた薬物担体を提供することができる。
【0108】
本発明に係る細胞培養材料は、上記課題を解決するために、上記の本発明に係る生体用材料を含むことを特徴としている。
【0109】
上記の構成によれば、上記本発明に係る生体用材料を含むため、生体親和性に優れた細胞培養材料を提供することができる。
【0110】
本発明に係る医療用材料は、上記課題を解決するために、上記の本発明に係る生体用材料を含むことを特徴としている。
【0111】
上記の構成によれば、上記本発明に係る生体用材料を含むため、生体親和性に優れた医療用材料を提供することができる。
【0112】
本発明に係る歯科用材料は、上記課題を解決するために、上記の本発明に係る生体用材料を含むことを特徴としている。
【0113】
上記の構成によれば、上記本発明に係る生体用材料を含むため、生体親和性に優れた歯科用材料を提供することができる。
【発明の効果】
【0114】
上記のように、本発明に係る分散体及び本発明に係る分散体の製造方法によれば、簡便に製造することができ、安定であり、かつ界面活性剤を含まない分散体を提供することができるという効果を奏する。
【0115】
また、本発明に係る分散質の集合方法によれば、容易に、分散体中の分散質を集合させることができるという更なる効果を奏する。
【0116】
また、本発明に係る分散質の再分散方法によれば、分散質を、分散媒中に再度分散させて、分散体を得ることができるという更なる効果を奏する。
【0117】
また、本発明に係るリン酸カルシウム中空粒子の製造方法によれば、生体吸収性の高いCaPによって形成され、かつ微細な孔を有するCaP中空粒子を提供することができるという更なる効果を奏する。
【0118】
また、本発明に係るリン酸カルシウム多孔質体の製造方法によれば、生体吸収性の高いCaPによって形成され、かつ微細な孔を多数有するCaP多孔質体を簡便に得ることができるという更なる効果を奏する。
【0119】
また、本発明に係るリン酸カルシウム複合微粒子の製造方法によれば、生体親和性の低い物質を、生体に良好に親和させることができ、かつ簡便に製造可能なCaP複合微粒子を提供することができるという更なる効果を奏する。
【0120】
また、本発明によれば、生体親和性に優れた、生体用材料、特に、薬物担体、細胞培養材料、医療用材料、歯科用材料を提供することができるという更なる効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0121】
本発明の実施の形態について説明すれば、以下のとおりである。尚、本発明はこれに限定されるものではない。
【0122】
〔本発明に係る分散体及びその製造方法〕
本発明に係る分散体は、親水性液体、疎水性物質、及びリン酸カルシウムを含む分散体であって、上記疎水性物質は、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む物質であればよい。
【0123】
つまり、本発明に係る分散体では、親水性液体及び疎水性物質の内、いずれか一方が分散媒として、他方が分散質となり、CaPが分散剤となる。例えば、親水性液体が分散媒となり、疎水性物質が分散質となり、CaPは、当該疎水性物質表面を被覆して滴を形成する。換言すれば、CaPで被覆された疎水性物質の滴が、親水性液体中に分散した分散体を得ることができる。また、同様に、疎水性物質を分散媒として、CaPで被覆された親水性液体の滴が分散した分散体を得ることができる。どちらの分散体を得ることができるかは、親水性液体及び疎水性物質の種類及び体積比、温度、圧力、容器壁の性質等によって異なる。
【0124】
さらに、CaPは上記親水性液体と上記疎水性物質との界面に、安定かつ高濃度に密集するため、CaP以外の分散剤、例えば界面活性剤を含まない安定な分散体を得ることができる。例えば、疎水性物質が、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、及びカルボニル基を有する環状オレフィンの内、少なくとも一つの化合物を含む場合は、当該化合物中のカルボニル基とCaP表面のカルシウムイオンとの、静電相互作用により、互いに引力を生じさせ、上記界面に密集する。
【0125】
本明細書において、「分散体」とは、微粒子及び媒体を含む物質であって、当該微粒子が当該媒質中に分散しているものを意図する。具体的には、本明細書では、親水性液体及び疎水性物質のうち、いずれか一方が分散媒となり、他方が分散質として微小な滴となり、当該分散媒中に分散したものを意図する。また、本明細書において「分散質」とは、分散体中に分散している微粒子を意図する。なお、分散媒中に分散している分散質はCaPで被覆されているので、分散体中に分散しておりCaPで被覆された分散質を単に「滴」と表記することもある。また、「分散媒」とは、微粒子を分散させている媒体を意図する。
【0126】
本明細書において、「親水性液体」とは、水、又は、水に親和性のある液体であって任意の量を水に均一に混合することができる液体を意図する。
【0127】
本明細書において「疎水性物質」とは、任意の量を水に均一に混合することができない、液体、ゲル、固体等の物質を意図し、例えば油等を意図する。なお、本明細書において「ビニレン化合物」及び「環状オレフィン」とは、それぞれ、大津隆行、改訂高分子合成の化学、化学同人、1968、35頁に記載の「ビニレン化合物」及び「環状オレフィン」を意図する。
【0128】
本発明に係る分散体に含まれる親水性液体としては、特に限定されるものではなく、例えば水、メタノール、エタノール等が挙げられるが、中でも水が好ましい。水は容易に入手可能であり、また、人体および環境への負荷がなく、さらに、後述するCaP多孔質体等の製造に当該分散体を用いる場合、親水性液体を除去する必要があるが、水を除去することは容易だからである。また、本発明に係る分散体に含まれる親水性液体のpHが、高いことが好ましい。具体的には、5以上が好ましく、より好ましくは7.7以上である。CaPは、pHが低い親水性液体には可溶であるが、親水性液体のpHが5以上であれば、CaPが親水性液体に溶解することを防ぐことができる。
【0129】
本発明に係る分散体に含まれる疎水性物質としては、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む物質である限り、特に限定されるものではない。つまり、本発明に係る分散体に含まれる疎水性物質としては、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物自体であってもよく、当該化合物が、溶解又は分散等により、他の疎水性物質に混合された物質であってもよい。また、当該化合物の中でも、カルボニル基を有する飽和有機化合物、アルカンが好ましい。以下、説明の簡単のため、「カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物」を、単に「カルボニル基を有する飽和有機化合物等」と表記する。
【0130】
上記カルボニル基を有する飽和有機化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、ミリスチン酸メチル等のミリスチン酸エステル、トリメチル酢酸メチル等のトリメチル酢酸エステル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸オクチル等の酢酸エステル、プロピオン酸メチル等のプロピオン酸エステル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ペンチル等の酪酸エステル、吉草酸ペンチル、吉草酸ペンチル等の吉草酸エステル、サリチル酸メチル等のサリチル酸エステル、カプロン酸エチル等のカプロン酸エステル等、ヘプタン酸エステル、オクタン酸エステル、ノナン酸エステル、デカン酸エステル、ドデカン酸エステル、テトラデカン酸エステル、ペンタデカン酸エステル、ヘキサデカン酸エステル、ヘプタデカン酸エステル、オクタデカン酸エステル、ノナデカン酸エステル、イコサン酸エステル、ドコサン酸エステル、テトラコサン酸エステル、ヘキサコサン酸エステル、オクタコサン酸エステル、トリアコンタン酸エステルの飽和脂肪酸エステルが好ましく、中でもミリスチン酸メチルが好ましい。飽和脂肪酸エステルを用いれば、得られる分散体の安定性が向上し、製造後、長期間経過しても親水性液体と疎水性物質とが分離することの無い、安定な分散体を得ることができる。例えば、ミリスチン酸メチルを用いれば、6ヶ月以上も保存可能という安定な分散体を得ることができる。
【0131】
また、上記アルカンとしては、特に限定されるものではないが、炭素数5以上30以下のアルカンが好ましく、ドデカン、ヘキサンがさらに好ましく、n−ドデカン、n−ヘキサンが特に好ましい。炭素数5以上30以下のアルカンを用いれば、得られる分散体の安定性が向上し、作製後、長期間経過しても親水性液体と疎水性物質とが分離することの無い、安定な分散体を得ることができる。また、常温で液体であるアルカンが好ましいが、用いるアルカンの凝固点が、用いる親水性液体の凝固点以下であることにより、当該アルカンが当該親水性液体を凍結することがない限り、限定されるものではない。なお、炭素数5以上17以下のアルカンであれば常温で液体であるため、扱いが容易であり、本発明に係る分散体を簡便に得ることができる。また、炭素数18以上30以下のアルカンであっても、他の溶媒を用いて当該アルカンを溶解させた上で、当該溶媒を用いれば、本発明に係る分散体を得ることができる。
【0132】
また、親水性液体及びCaPの混合物に混合しても分散体を形成しない疎水性物質であっても、上記カルボニル基を有する飽和有機化合物等を含む物質を、溶解又は分散させる等によって混合した上で、当該疎水性物質を用いれば、本発明に係る分散体を得ることができる。当該疎水性物質としては、上記カルボニル基を有する飽和有機化合物等と混合しても、疎水性が維持されるものであり、かつ当該カルボニル基を有する飽和有機化合物等を均一に混合可能なものであれば限定されるものではなく、例えば、ジクロロメタン、トルエン、クロロホルム、1−ウンデカノールを用いてもよく、後述する炎症を治療するための薬剤等を用いてもよい。
【0133】
上述した、親水性液体及びCaPの混合物に混合しても分散体を形成しない疎水性物質に混合する、カルボニル基を有する飽和有機化合物等としては、特に限定されるものではないが、カルボニル基を有し、飽和有機化合物である、生分解性ポリマーであることが好ましい。カルボニル基を有する飽和有機化合物である生分解性ポリマーとしては、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、グリコリド-ラクチド共重合体、グリコリド-トリメチレンカーボネート共重合体、グリコリド-εカプロラクトン共重合体、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸(PHB)、3−ヒドロキシ酪酸−3−ヒドロキシ吉草酸共重合体(PHBV)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリカプロラクトン(PLC)、酢酸セルロース系(PH)重合体、ポリエチレンサクシネート(PESu)、ポリエステルアミド、変性ポリエステル、が挙げられるが、中でもポリ乳酸が好ましい。生分解性ポリマーを用いれば、本発明に係る分散体の、生体吸収性等の生体親和性を向上させることができる。
【0134】
また、分散媒を疎水性物質とする場合において、CaPが分散しにくい疎水性物質を用いる場合、当該疎水性物質にポリ乳酸を予め混合させておき、かつ分散剤としてポリ乳酸で修飾したCaPを用いることがより好ましい。
【0135】
CaPをポリ乳酸で修飾する方法としては特に限定されるものではない。例えば、後述する実施例では、ポリ乳酸とロッド状CaPとの混合物を固体状態で熱処理することで、ロッド状CaPをポリ乳酸で修飾した。また、溶液中にポリ乳酸及びロッド状CaPが溶解又は懸濁している状態で熱処理してもよく、CaP存在下で乳酸(モノマー)を重合させてポリ乳酸をCaP表面にグラフト化させてもよい。このようにCaPをポリ乳酸で修飾する方法についてはX. Qui, L. Chen, J. Hu, J. Sun, Z. Hong, A. Liu, X. Chen, X. Jing, Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry, 2006, Vol. 43 5177-5185、Z. Hong, P. Zhang, A. Liu, Li. Chen, X. Chen, Z. Jing, Journal of Biomedical Materials Research, 2007, Vol. 81A, 515-522等の文献を参照できる。
【0136】
本発明に係る分散体で用いるCaPの形態、種類は、特に限定されるものではなく、分散体の用途等に応じて適宜選択すればよいが、例えば、HAp(Ca10(PO4)6(OH)2)、リン酸トリカルシウム(Ca3(PO4)2)、メタリン酸カルシウム(Ca(PO3)2)、Ca10(PO4)6F2、Ca10(PO4)6Cl2などが挙げられる。中でも、生体適合性の高さからHApが好ましく、HApの焼結体がさらに好ましい。
【0137】
また、上記CaPとしては、平均粒子径1nm以上1000nm以下であるナノメートルサイズの粒子であることが好ましい。ナノメートルサイズのCaP粒子を用いれば、親水性液体と疎水性物質との界面に、より高濃度かつ安定に、CaPが密集するため、さらに安定な分散体を得ることができる。また、分散体中に分散する滴の径が小さい分散体を得ることができる。上記ナノメートルサイズのCaP粒子の形状は、特に限定されるものではなく、球状、ロッド状、ファイバー状等、種々の形状の内、適宜選択すればよい。
【0138】
上記CaPは、湿式法や、乾式法、加水分解法、水熱法などの従来公知の製造方法によって人工的に製造されたものであってもよく、また、骨、歯等から得られる天然由来のものであってもよい。また、CaPには、CaPの水酸イオン及び/又はリン酸イオンの一部が炭酸イオン、塩化物イオン、フッ化物イオン等で置換された化合物などが含まれていてもよい。例えば、特開2006−130007に記載されたCaPの製造方法によって製造されたCaPが本発明に利用され得る。
【0139】
また、ナノメートルサイズのCaP粒子は、従来公知の方法で得ればよいが、例えば、硝酸カルシウム等のカルシウム塩の水溶液に、リン酸アンモニウム等のリン酸塩を混合して得ればよい。このとき、CaP以外の沈殿物が生じない組合せで、カルシウム塩及びリン酸塩を選択することが好ましい。また、リン酸塩を加える方法やpHにより、様々な形状のCaPの粒子を得ることができる。リン酸塩を一括して加えれば、球状のCaP粒子が得られ、アルカリ性のリン酸塩溶液を連続して滴下すれば、ロッド状のCaP粒子が得られ、中性のリン酸塩溶液を連続して滴下すれば、ファイバー状のCaP粒子を得ることできる。
【0140】
なお、本明細書において「平均粒子径」とは、個々の粒子における径の、粒子群全体での平均を意図するが、ロッド状粒子、又は、ファイバー状粒子の場合は、個々の粒子における長径の粒子群全体での平均と、個々の粒子における短径の粒子群全体での平均をいう。なお、本明細書では、桿状のCaP粒子を「ロッド状粒子」と表記し、中でも長径が1μm以上のものを「ファイバー状粒子」と表記する。
【0141】
本発明に係る分散体の製造方法は、上記カルボニル基を有する飽和有機化合物等を含む疎水性物質と、親水性液体と、リン酸カルシウムとを混合する工程を含めばよい。例えば、上述した親水性液体、疎水性物質及びCaPを攪拌することで、本発明に係る分散体を製造することができる。当該攪拌は、従来公知の機器、方法により行なえばよく、例えば、ホモジナイザー等の攪拌機、振盪機、超音波乳化装置、電気乳化装置、シラスポーラスガラス膜乳化装置、マイクロチャネル乳化装置等を用いてもよく、手で振ってもよい。また、攪拌速度や攪拌時間等の攪拌の条件は、用いる親水性液体及び疎水性物質の種類に応じて適宜設定すればよい。
【0142】
上述した親水性液体及びCaPの混合物に混合しても分散体を形成しない疎水性物質を用いて、本発明に係る分散体を製造するときは、当該親水性液体と、当該疎水性物質と、CaPと、上記カルボニル基を有する飽和有機化合物等とを、予め、溶解又は分散させる等によって混合すればよい。また、予め当該疎水性物質に、上記カルボニル基を有する飽和有機化合物等を混合して、用いてもよい。
【0143】
本発明に係る分散体の製造方法で用いる、親水性液体と、疎水性物質との含有量の体積比は、分散体の用途や、親水性液体、疎水性物質の種類に応じて適宜設定すればよい。親水性液体を分散媒とする場合は、体積比で99.9:0.1〜40:60であることが好ましく、さらに好ましくは99:1〜50:50である。疎水性物質を分散媒とする場合は、親水性液体と疎水性物質との体積比は、0.1:99.9〜60:40であることが好ましく、さらに好ましくは1:99〜50:50である。なお、どのような親水性液体及び疎水性物質の組合せであればどちらが分散媒となりどちらが分散質となるかという点については、親水性液体及び疎水性物質の種類の影響も受けるものであり、当業者はその組合せから、この点について容易に理解する。
【0144】
本発明に係る分散体の製造方法において用いるCaPの質量は、親水性液体及び疎水性物質の内、分散媒とする方の液体又は物質の質量に対して、0.01〜20質量%が好ましく、さらに好ましくは、0.1〜10質量%である。
【0145】
なお、本発明に係る分散体は、親水性液体及び疎水性物質のうちいずれか一方を分散媒として、他方を分散質とする、いわゆるO/W型分散体又はW/O型分散体に限定されるものではない。つまり、本発明に係る分散体は、上記親水性液体又は上記疎水性物質を分散媒として、上記分散媒中に第1の滴及び第2の滴を含む分散体であり、上記第1の滴が、上記親水性液体及び上記疎水性物質のうち上記分散媒ではない方を上記リン酸カルシウムが被覆してなるものであって、上記分散媒中に分散しているものであり、上記第2の滴が、上記分散媒が上記親水性液体であるときは上記親水性液体を、上記分散媒が上記疎水性物質であるときは上記疎水性物質を、上記リン酸カルシウムが被覆してなるものであって、上記第1の滴中に分散しているものであってもよい。
【0146】
当該分散体の実施形態としては、例えば、分散媒である親水性液体中に疎水性物質の滴が分散しており当該疎水性物質の滴中に親水性液体の滴が分散している分散体(以下、説明の便宜のため「W/O/W型分散体」と表記する)が挙げられる。このとき分散媒となる親水性液体と、疎水性物質の滴中に分散している親水性液体は同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。また、疎水性物質の滴中に分散している親水性液体には、分散体の用途に応じて任意の物質を溶解させておいてもよい。
【0147】
また、別の実施形態としては、例えば、分散媒である疎水性物質中に親水性液体の滴が分散しており当該親水性液体の滴中に疎水性物質の滴が分散している分散体(以下、説明の便宜のため「O/W/O型分散体」と表記する)が挙げられる。W/O/W型分散体と同様に、分散媒となる疎水性物質と、親水性液体の滴中に分散している疎水性物質は同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。また、親水性液体の滴中に分散している疎水性物質には、分散体の用途に応じて任意の物質を溶解させておいてもよい。
【0148】
分散媒中に分散した滴の中にさらに滴が分散している分散体を用いれば、有用物質を内部に分散させた粒子を容易に製造することができる。例えば、分散媒中に分散した滴の中にさらに分散している滴となる親水性液体又は疎水性物質に任意の有用物質を溶解させておき、分散媒を蒸発させれば、当該粒子を容易に製造することができる。また、界面活性剤を使用しなくてもこのような粒子が得られることから、生体用材料として好適な粒子を得ることができる。なお、当該粒子は本発明に係るリン酸カルシウム複合微粒子の一実施形態である。
【0149】
このようなO/W/O型分散体又はW/O/W型分散体は、次の製造方法により製造してもよい。即ち、本発明に係る分散体の製造方法には、上記分散体が、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質、又は親水性液体を分散媒として、上記分散媒中に第1の滴が分散しており、上記第1の滴中に第2の滴が分散している分散体であり、上記疎水性物質と、上記親水性液体と、上記リン酸カルシウムとを混合することで、上記分散媒を上記親水性液体とするときは上記親水性液体を、上記分散媒を上記疎水性物質とするときは上記疎水性物質を、上記リン酸カルシウムで被覆してなる上記第2の滴が、当該親水性液体及び当該疎水性物質のうち上記分散媒でない方のものの中に分散している第1の分散体を製造する第1混合工程と、上記第1の分散体と、上記分散媒と、上記リン酸カルシウムとを混合することで、当該第1の分散体をリン酸カルシウムが被覆してなる第1の滴が、上記分散媒中に分散する第2の分散体を製造する第2混合工程と、を含む製造方法が包含される。
【0150】
例えば、上述のW/O/W型分散体を製造する場合、疎水性物質が分散媒となるような疎水性物質及び親水性液体の種類及び容量等の組合せにて、当該疎水性物質、当該親水性液体及びリン酸カルシウムを混合して分散体(第1の分散体)を作製する。次に、第1の分散体とリン酸カルシウムと親水性液体とを混合することで分散体(第2の分散体)を作製する。このようにして得られた第2の分散体が、上述のW/O/W型分散体である。
【0151】
同様に、上述のO/W/O型分散体を製造する場合、親水性液体が分散媒となるような疎水性物質及び親水性液体の種類及び容量等の組合せにて、当該疎水性物質、当該親水性液体及びリン酸カルシウムを混合して分散体(第1の分散体)を作製する。次に、第1の分散体とリン酸カルシウムと疎水性物質とを混合することで分散体(第2の分散体)を作製する。このようにして得られた第2の分散体が、上述のW/O/W型分散体である。
【0152】
このように本発明に係る分散体の製造方法によれば、分散媒中に分散した滴の中にさらに滴が分散した分散体を、2回の混合工程により、簡便に製造することができる。
【0153】
本発明に係る分散体としてのW/O/W型分散体又はO/W/O型分散体に関する、親水性液体、疎水性物質、リン酸カルシウムに関する好ましい条件等は、これまでに説明した事項を準用できる。
【0154】
〔本発明に係る分散質の集合方法及び分散質の再分散方法〕
本発明に係る分散質の集合方法は、本発明に係る分散体に、酸性化合物を混合すればよい。本発明に係る分散体中の、親水性液体のpHが低下することにより、分散剤であるCaPが、当該親水性液体に溶解する。これにより、分散質は分散媒中に分散できなくなり、分散質が集合する。なお、本明細書において、「分散質が集合する」とは、分散体の安定性が失われ、滴を形成していた分散質が合一して連続層を形成することを意図する。換言すれば、「分散質が集合する」とは、安定性を失った分散質同士が衝突、融合して一つになり、その結果、分散していた分散質が一つになることを意図する。
【0155】
本発明に係る分散質の集合方法で用いる酸性化合物としては、特に限定されるものではないが、カルシウムイオンと混合したときに、水に不溶なカルシウム塩を形成しない酸であることが好ましく、中でも、硝酸、塩酸が好ましい。また、親水性液体のpHは、5以下にすることが好ましく、さらに好ましくは4以下である。なお、このときpHの下限値は、限定されるものではなく、本発明に係る分散質の集合方法を行なう際に用いられる反応器が耐えうる程度であればよい。
【0156】
また、本発明に係る分散質の集合方法における酸性化合物を混合する方法は、特に限定されるものではなく、例えば添加するのみでもよく、添加した上で軽く攪拌した後に静置する等してもよい。
【0157】
本発明に係る分散質の再分散方法は、本発明に係る分散質の集合方法により、分散質が集合した液体に、アルカリ性化合物を混合すればよい。
【0158】
当該液体に含まれる親水性液体のpHが高くなることで、親水性液体に溶解していたCaPが析出する。これにより、例えば親水性液体中で疎水性物質の滴が形成され、当該滴が分散することで、再度分散体が形成される。本明細書において、このように分散質が集合したものが、再度分散媒中に分散して、分散体を形成することを「再分散」と表記する。
【0159】
本発明に係る分散質の再分散方法で用いるアルカリ性化合物は、特に限定されるものではないが、水に不溶なリン酸塩を形成しないアルカリ性化合物が好ましい。リン酸イオンと混合したとき、水に不溶なリン酸塩を形成しないアルカリ性化合物としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物が挙げられるが、中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。なお、水に不溶なリン酸塩を形成するアルカリ性化合物であっても、当該リン酸塩が分散剤として機能する場合もあり、このとき本発明に係る分散質の再分散方法を好適に実施することができる。このように、水に不溶なリン酸塩を形成するが、当該リン酸塩が、分散剤として機能するアルカリ性化合物としては、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛等が挙げられる。また、親水性液体のpHは5以上にすることが好ましく、さらに好ましくは7.7以上である。なお、このときpHの上限値は、限定されるものではなく、再分散の際に用いられる反応器が耐えうる程度であればよい。
【0160】
また、本発明に係る分散質の再分散方法において、アルカリ性化合物を、例えば添加した上で攪拌する等によって、混合することで、良好に、上記分散質が集合した液体を再分散させることができる。当該攪拌は、上記の、本発明に係る分散体の製造方法における親水性液体、疎水性物質及びCaPの攪拌の説明に準じて行なえばよい。
【0161】
本発明に係る分散質の集合方法及び分散質の再分散方法は、繰り返して行なうことができる。つまり、本発明に係る分散体を含む反応器に、酸性化合物の混合、アルカリ性化合物の混合、酸性化合物の混合、と繰り返すことで、当該分散質の集合、再分散、分散質の集合を、繰り返すことができる。
【0162】
これは、例えば、地中のポンプによる汲み上げが困難な、粘度の高い原油の回収を容易にする。すなわち、原油に対して水及びCaPを混合して分散体を形成して粘度を低下させる。ここで、CaPを混合するだけでは分散体が形成しない場合は、当該油に溶解するカルボニル基を有する飽和有機化合物等を混合した上で、CaPを混合することで、分散体を形成する。そして、当該分散体をポンプ等で汲み上げて回収槽等に移した上で、酸性化合物を混合することで、水成分と油成分とを分け、油成分のみの回収を容易にする。さらに、上述した油を回収するために用いたCaPを再利用することができる。つまり、上述の本発明に係る分散質の集合方法において、酸性となりCaPを溶解した親水性液体を、原油に混合する。その上で、アルカリ性化合物を混合することで、分散体を形成することができる。よって、上述の本発明に係る分散質の集合方法で説明した油を回収する方法と同様に、油を回収することができる。このように、CaPを繰り返し利用することができるので、低コストかつ簡便に、粘度の高い原油を回収することができる。
【0163】
〔本発明に係るリン酸カルシウム中空粒子〕
本発明に係るリン酸カルシウム中空粒子(CaP中空粒子)の製造方法は、下記の(i)及び(ii)の工程を含めばよい:
(i)親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを混合して分散体を製造する工程;
(ii)上記分散体を焼成する工程。
【0164】
本発明に係る分散体が焼成されることにより、親水性液体及び疎水性物質が除去され、分散体中に分散していた滴を形成していたCaPが残存する。よって、当該滴の形状に由来する中空構造を有する、CaP中空粒子を得ることができる。このとき、本発明に係るCaP中空粒子の製造方法に、上述したナノメートルサイズのCaP粒子を用いれば、極めて薄い厚さの殻のCaP中空粒子を得ることができる。当該殻の厚さは、1個のCaP粒子の厚さとなり例えば1nm以上1000nm以下の厚さとなる。また、当該殻上には、多数の貫通孔が形成される。これは、CaP粒子間の隙間に由来する孔であり、後述する焼成温度によって、当該貫通孔の径が異なる。焼成温度が高いほど貫通孔の径が小さくなり、焼成温度が低ければ、貫通孔の径が大きくなる。例えば、焼成温度が500℃の場合、100nm〜500nmの径を有する貫通孔が形成される。
【0165】
なお、本明細書において「中空粒子」とは、粒子の内部が空であり、殻を構成する物質のみからなる粒子を意図する。つまり、本発明に係るCaP中空粒子は、殻がCaPで形成され、内部が空の粒子である。
【0166】
本発明に係るCaP中空粒子の製造方法において、上記(i)の工程は、上述した本発明に係る分散体の製造方法の説明に準じて行なえばよい。
【0167】
また、上記(i)の工程では、親水性液体に、疎水性物質の滴が分散した分散体を製造し、かつ、当該疎水性物質として、カルボニル基を有する飽和有機化合物である生分解性ポリマーを溶解した疎水性物質を用いることが好ましい。焼成する過程で、疎水性物質及び親水性液体が蒸散した後も、当該生分解性ポリマーは、熱分解するまで残存して、当該滴を被覆していたCaPの形状を保持する。よって、球状のCaP中空粒子を好適に得ることができる。
【0168】
本発明に係るCaP中空粒子の製造方法では、上記(i)の工程の後に、上記(ii)の工程を行なう。上記(ii)の工程において、分散体を焼成する温度は、分散体中から親水性液体及び疎水性物質を、蒸散や熱分解等によって除去できる温度である限り、限定されるものではない。例えば、500℃以上2000℃以下の範囲が好ましく、800℃以上1500℃以下の範囲がさらに好ましい。500℃以上であれば、CaPが焼結されて安定な構造のCaP中空粒子を得ることができる。2000℃以下であれば、個々のCaP中空粒子において、当該CaP中空粒子を構成するCaP同士が融着して、形状が崩れることを防ぐことができる。
【0169】
また、上記(ii)の工程では、上記分散体中の滴を密集させないようにして焼成することが好ましい。例えば、上記分散体を平板等に塗布した上で、焼成することが好ましく、塗布する厚さは、薄ければ薄いほどよいが、これに限定されない。後述の(vi)の工程のように、滴を密集させる工程を行なわなければよく、例えば、上記(i)の工程で得た分散体をそのまま焼成しても本発明に係るCaP中空粒子を製造することは可能である。
【0170】
平板上に塗布することで、分散体中に分散していた滴を形成していたCaPと、他の滴を形成していたCaPとが融着することを抑えることができる。さらに、薄く塗布することで、当該平板の鉛直方向に、上記分散体に分散していた滴が複数重なり、当該滴同士が融着することを防ぐことができる。なお、ここで用いる平板は、上述の焼成の温度に耐え得る限り、特に限定されるものではないが、例えば、ガラス、ステンレス、アルミナ等の材料からなる、蒸発皿、シャーレ等の底が平坦な反応器を用いればよい。
【0171】
また、本発明に係るCaP中空粒子の製造方法では、上記(i)の工程の後、上記(ii)の工程の前に、(iii)上記分散体を乾燥する工程を含むことが好ましい。分散体を乾燥させて、分散媒を除去した上で、焼成することで、CaP同士が融着することを防ぐことができる。また、段階的にCaPに加わる熱の温度を上げることで、CaP中空粒子の形状が崩れることを防ぐことができる。
【0172】
上記(iii)の工程において、分散体を乾燥させる温度及び圧力は、分散体中の分散媒を蒸発させることができる温度及び圧力であれば限定されるものではない。なお、上記(iii)の工程の乾燥によって、分散媒が除去されることで残存した、分散体中に分散していた滴は、後述する本発明に係るCaP複合微粒子の一実施形態であるといえる。
【0173】
〔本発明に係るリン酸カルシウム多孔質体〕
本発明に係るリン酸カルシウム多孔質体(CaP多孔質体)の製造方法は、下記の(iv)〜(vi)の工程を含めばよい:
(iv)親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを混合して分散体を製造する工程;
(v)上記分散体中に分散している滴を密集させる工程;
(vi)密集した上記滴を焼成する工程。
【0174】
本発明に係る分散体中に分散している滴を焼成することで、親水性液体及び疎水性物質が除去され、焼成されたCaPが残存する。さらに、CaP粒子同士を密集させているため、CaP粒子同士が融着する。これにより、CaP多孔質体を得ることができる。
【0175】
なお、本明細書において「多孔質体」とは、多数の微細な孔を有する物質であり、骨格となる物質中に、多数の微細な孔が複雑に連結して存在するスポンジ状多孔質もその意味に含む。
【0176】
つまり、本発明に係るCaP多孔質体の製造方法によれば、CaPを骨格とするスポンジ状の多孔質体を好適に得ることができる。また、本発明に係るCaP多孔質体は、疎水性物質の滴に由来する孔(マイクロメーターサイズ)及び、CaP粒子間の隙間(ナノメーターサイズ)の孔という、大きさの異なる孔を合わせもつ。
【0177】
本発明に係るCaP多孔質体の製造方法によれば、気孔率が70%〜99%、見かけの密度が0.03〜3×10−5g/cm3のCaP多孔質体を好適に得ることができる。
【0178】
本発明に係るCaP多孔質体の製造方法において、上記(iv)の工程は、上述した本発明に係る分散体の製造方法の説明に準じて行なえばよい。
【0179】
本発明に係るCaP多孔質体の製造方法では、上記(iv)の工程の後に、上記(v)の工程を行ない、その後に上記(vi)の工程を行なう。
【0180】
上記(v)の工程で、上記(iv)の工程で得た分散体中に分散している滴を密集させる方法は、特に限定されるものではないが、ろ紙等を用いて滴(分散質及びCaP)のみを回収してもよく、当該分散体を遠心分離、減圧ろ過、加圧ろ過に供してもよい。また、ろ過した後に、水圧プレスや油圧プレスによって、回収した滴同士の隙間を小さくして、回収した滴同士をさらに密着させてもよい。
【0181】
上記(vi)の工程において、分散体を焼成する温度は、分散体中から親水性液体及び疎水性物質を、蒸散や熱分解等によって除去できる温度である限り、限定されるものではない。例えば、500℃以上2000℃以下の範囲が好ましく、800℃以上1500℃以下の範囲がさらに好ましい。500℃以上であれば、CaPが焼結されて安定な構造のCaP多孔質体を得ることができる。2000℃以下であれば、CaP同士が融着することによる孔の数及び大きさの減少を防ぐことができ、より多くかつ微小なサイズの孔を有するCaP多孔質体を得ることができる。
【0182】
また、本発明に係るCaP中空粒子の製造方法では、上記(iv)の工程の後、上記(vi)の工程の前に、(vii)上記分散体を乾燥する工程を含むことが好ましい。段階的にCaPに加える温度を上げることで、CaP多孔質体が崩れることを防ぐことができる。
【0183】
上記(vii)の工程において、分散体を乾燥させる温度及び圧力は、分散体中の分散媒を蒸発させることができる温度及び圧力であれば限定されるものではない。なお、上記(vii)の工程の乾燥によって、分散媒が除去されることで残存した、分散体中に分散していた滴は、後述する本発明に係るCaP複合微粒子の一実施形態であるといえる。
【0184】
〔本発明に係るリン酸カルシウム複合微粒子〕
本発明に係るリン酸カルシウム複合微粒子(CaP複合微粒子)の製造方法は、下記の(viii)及び(ix)の工程を含めばよい:
(viii)親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを混合して分散体を製造する工程;
(ix)上記分散体を乾燥させる工程。
【0185】
本明細書において「リン酸カルシウム複合微粒子(CaP複合微粒子)」とは、CaP以外の任意の物質を、CaPで被覆した粒子を意図する。
【0186】
即ち、本発明に係るCaP複合微粒子の製造方法によれば、任意の物質を被覆したCaP複合微粒子を得ることができる。また、本発明に係るCaP複合微粒子の製造方法によれば、例えば、平均粒子径1μm〜1cmのCaP複合微粒子を良好に得ることができる。
【0187】
CaPで被覆する物質としては、親水性液体及び疎水性物質のうち、少なくとも一方の液体に対して溶解あるいは分散性を有していれば限定されるものではなく、用途に応じて、適宜選択すればよい。
【0188】
つまり、当該任意の物質は、親水性液体、上記カルボニル基を有する飽和有機化合物等であってもよく、これら以外の物質であってもよい。例えば、任意の物質が親水性液体又はカルボニル基を有する飽和有機化合物等であるときは、上記(viii)の工程で当該任意の物質が分散質となる分散体を製造してもよく、任意の物質がカルボニル基を有する飽和有機化合物等以外の物質であるときは、親水性液体及びカルボニル基を有する飽和有機化合物等のうち分散質となる方に当該任意の物質を溶解させておいてもよい。このように、上記(viii)の工程で製造する分散体の分散質に上記任意の物質が含まれるようにすればよい。
【0189】
例えば、当該任意の物質として、薬剤を用いてもよい。薬剤をCaPで被覆したCaP複合微粒子は、生体内で長時間継続して当該薬剤を徐々に放出することができる。CaPは生体親和性が高いが、即座に生体内の水分に溶解する物質ではないからである。
【0190】
また、炎症を治療するための薬剤をCaPで被覆したCaP複合微粒子を用いれば、炎症を効率的に治療することができる。即ち、上述の通り、CaPはpHが低い水に可溶であり、炎症した細胞付近ではpHが低いことが知られている。よって、当該CaP複合微粒子は、炎症した細胞付近で優位に溶解するため、炎症を効率的に治療することができるのである。
【0191】
このように本発明により得られるCaP複合微粒子は、DDSにも応用することができる。本発明において、CaPで被覆する物質として使用可能な薬剤としては、限定されるものではないが、例えば、アドリアマイシン、パクリタキセル、イリノテカン、トランスフォーミング増殖因子、上皮増殖因子、アドレノメデュリン、塩基性線維芽細胞増殖因子、血管内皮増殖因子、骨形成蛋白等が挙げられる。
【0192】
本発明に係るCaP複合微粒子の製造方法において、上記(viii)の工程では、上記任意の物質として親水性液体を選択した場合は、CaPと、上記カルボニル基を有する飽和有機化合物等を含む疎水性物質と、当該任意の物質とを混合して分散体を得ればよい。
【0193】
また、上記任意の物質として、親水性液体に可溶又は分散可能な物質を選択した場合は、CaPと、上記カルボニル基を有する飽和有機化合物等を含む疎水性物質と、当該任意の物質と、親水性液体とを混合して分散体を得ればよい。
【0194】
また、上記任意の物質として、カルボニル基を有する飽和有機化合物等を選択した場合は、当該任意の物質が液体であれば、当該任意の物質と、親水性液体と、CaPとを混合して分散体を得ればよく、当該任意の物質が液体でない場合は、当該任意の物質と、当該任意の物質を溶解又は分散させることが可能な疎水性物質と、親水性液体と、CaPとを混合して分散体を得ればよい。
【0195】
また、上記任意の物質として、上記カルボニル基を有する飽和有機化合物等以外の、疎水性物質を選択した場合は、当該任意の物質と、当該任意の物質を溶解又は分散させることが可能なカルボニル基を有する飽和有機化合物等と、親水性液体と、CaPとを混合して分散体を得ればよい。
【0196】
また、上記任意の物質を、親水性液体又はカルボニル基を有する飽和有機化合物等を含む疎水性物質に、予め溶解又は分散させる等により混合させた上で、分散体を製造してもよい。
【0197】
つまり、任意の物質として、どのような物質を選択したとしても、親水性液体及び疎水性物質のうち分散質となる方が、当該任意の物質を包含するようにした分散体を製造すればよい。
【0198】
なお、上記(viii)の工程における分散体の製造方法について、ここで説明していない構成は、上述した本発明に係る分散体の製造方法の説明に準じて行なえばよい。
【0199】
本発明に係るCaP複合微粒子の製造方法では、上記(viii)の工程の後に、上記(ix)の工程を行なう。
【0200】
上記(ix)の工程において、分散体を乾燥させるための温度及び圧力は、特に限定されないが、上記(viii)の工程で製造した分散体中の分散媒を蒸発させることが可能な温度及び圧力であってもよい。例えば、上記(viii)の工程において、分散媒を親水性液体とした分散体を製造した場合、当該親水性液体が蒸発可能な温度であればよい。また、室温で放置するだけでもよいし、濾過等行なって分散媒をある程度取り除いた後で、回収した濾物から残存する分散媒を除いてもよい。また、CaP複合微粒子の用途に応じて、分散質として用いた疎水性物質を蒸発させてもよいが、上記(ix)の工程では、分散媒を乾燥させる工程である限り限定されない。
同様に、上記(viii)の工程において、分散媒を疎水性物質とした分散体を製造した場合、当該疎水性物質が蒸発可能な温度であればよい。このとき、CaP複合微粒子の用途に応じて、分散質として用いた親水性液体を蒸発させてもよい。いずれの場合であって、上記分散体を乾燥させるための温度は、上記任意の物質が蒸発や熱分解によって、除去される温度より低い温度であることが好ましい。
【0201】
また、親水性の任意の物質が、CaPに被覆された油中に分散したCaP複合微粒子、及び、疎水性の任意の物質が、CaPに被覆された親水性液体中に分散したCaP複合微粒子も本発明に係るリン酸カルシウム複合微粒子の範疇である。
【0202】
このようなCaP複合微粒子も本発明に係るCaPの製造方法により製造することができる。このとき、本発明に係るCaP複合微粒子の製造方法は、上記(viii)の工程で製造する上記分散体が、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質、又は親水性液体を分散媒として、上記分散媒中に第1の滴が分散しており、上記第1の滴中に第2の滴が分散している分散体であり、上記(viii)の工程が、上記疎水性物質と、上記親水性液体と、上記リン酸カルシウムとを混合することで、上記分散媒を上記親水性液体とするときは上記親水性液体を、上記分散媒を上記疎水性物質とするときは上記疎水性物質を、上記リン酸カルシウムで被覆してなる上記第2の滴が、当該親水性液体及び当該疎水性物質のうち上記分散媒でない方の中に分散する第1の分散体を形成する第1混合工程と、上記第1の分散体と、上記分散媒と、上記リン酸カルシウムとを混合することで、当該第1の分散体をリン酸カルシウムが被覆してなる第1の滴が、上記分散媒中に分散する第2の分散体を形成する第2混合工程と、を含む工程であり、上記第1混合工程において、上記親水性液体及び上記疎水性物質のうち少なくとも一方に、上記任意の物質を予め混合させておく製造方法であってもよい。
【0203】
例えば、親水性の任意の物質が、CaPに被覆された疎水性物質中に分散したCaP複合微粒子を製造する場合について具体的に説明すると次の通りである。
【0204】
まず、親水性の任意の物質を親水性液体に溶解しておき、当該親水性液体と、上記疎水性物質と、CaPとを混合することで、当該疎水性物質中に当該親水性液体の滴が分散した分散体(第1の分散体)を製造する。次に、第1の分散体と、親水性液体と、CaPとを混合することで、親水性液体中に第1の分散体の滴が分散した分散体(第2の分散体)を製造する。この第2の分散体を乾燥させることで分散媒(親水性液体)を蒸発させると、親水性の任意の物質が、CaPに被覆された疎水性物質中に分散したCaP複合微粒子を得ることができる。
【0205】
また、例えば、疎水性の任意の物質が、CaPに被覆された親水性液体中に分散したCaP複合微粒子を製造する場合について具体的に説明すると次の通りである。
【0206】
まず、疎水性の任意の物質を上記疎水性物質に溶解しておき、当該疎水性物質と、親水性液体と、CaPとを混合することで、当該親水性液体中に当該疎水性物質の滴が分散した分散体(第1の分散体)を製造する。次に、第1の分散体と、疎水性物質と、CaPとを混合することで、疎水性物質中に第1の分散体の滴が分散した分散体(第2の分散体)を製造する。この第2の分散体を乾燥させることで分散媒(疎水性物質)を蒸発させると、疎水性の任意の物質が、CaPに被覆された親水性液体中に分散したCaP複合微粒子を得ることができる。
【0207】
この例では、任意の物質は第2の滴となるものに予め混合されているが、これに限定されるものではない。任意の物質は、第1の滴となるものに混合しておいてもよく、第1の滴及び第2の滴となるもの両方に混合しておいてもよい。
【0208】
〔本発明に係る分散体、CaP多孔質体、CaP中空粒子及びCaP複合微粒子の利用〕
本発明に係る生体用材料は、上述した、本発明に係る分散体、CaP多孔質体、CaP中空粒子及びCaP複合微粒子を含めばよい。
【0209】
本明細書において「生体用材料」とは、生体に対して用いる器材や薬剤等の製品の材料を意図する。
【0210】
本発明に係る生体用材料は、特に薬物担体、細胞培養材料、医療用材料、歯科用材料として好適に用いることができる。
【0211】
例えば、本発明に係る分散体において、分散している滴中に薬物を含有させて用いれば、当該滴の殻となるCaPは生体親和性が高いため、生体に良好に吸収される。また、本発明に係る分散体において、培地成分を分散媒として用いれば、細胞は、生体親和性の高いCaP上で良好に培養されるため、細胞培養材料として用いることができる。
【0212】
本発明に係るCaP多孔質体やCaP中空粒子を、薬物担体として用いることができる。例えば、薬物をこれらに含ませることで、生体内でさらに長時間継続して当該薬剤を徐々に放出することができる。また、本発明に係るCaP多孔質体やCaP中空粒子は生体親和性が高く、細胞接着性が高い。そのため、これらを細胞培養材料として用いて培地中に混合すれば、生体の細胞をCaP多孔質体やCaP中空粒子上で良好に培養することができる。
【0213】
また、本発明に係るCaP複合微粒子は、薬物担体として用いることができる。例えば、殻内に生分解性ポリマーを有する本発明に係るCaP複合微粒子に、さらに上記任意の物質として薬物を含ませたものは、生体内でさらに長時間継続して当該薬剤を徐々に放出することができる。このように、薬物を含ませたCaP複合微粒子は、生体吸収性の高い薬剤そのものとして用いることもできる。
【0214】
また、本発明に係るCaP複合微粒子は細胞培養材料として好適に利用できる。後述の実施例でも示すように、本発明に係るCaP複合微粒子は細胞接着性が高い。そのため、本発明に係るCaP複合微粒子は、例えば、細胞を培養する際の足場として好適に利用できる。また、殻内に増殖因子を含有させると、pH等によって当該増殖因子の溶出を制御できるので、細胞の増殖速度を制御可能な細胞培養材料として用いることができる。つまり、CaP複合微粒子の周囲のpHを低くすると、培地成分の溶出が多くなり、pHを高くすると培地成分の溶出が抑えられる。
【0215】
なお、本明細書において「細胞培養材料」とは、細胞の培養の際に、細胞の足場として用いる材料を意図する。
【0216】
本発明に係る生体用材料は、生体の骨や歯の成分と近いため、適宜、薬剤等と組み合わせることで、医療分野において、例えば、再生医療(組織工学)用細胞足場材料、血液浄化用材、塞栓療法用材、骨充填剤、歯科用充填剤、薬物徐放剤などの歯科用材料又は医療用材料として広く用いることができる。
【0217】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0218】
〔実施例1;分散剤として用いるCaPの製造〕
球状、ロッド状、ファイバー状の形態を有するCaPの粒子を湿式法で合成した。以下にそれぞれの粒子の合成法を示す。なお、後述するCa(NO3)2水溶液、(NH4)2HPO4水溶液、アンモニア水は、いずれも和光純薬工業(株)製のCa(NO3)2・4H2O、(NH4)2HPO4、25%アンモニア水を用いた。
【0219】
(球状CaP)
アンモニア水でpHを12に調整したCa(NO3)2水溶液(42mM;800mL)を、冷却管及び半月状攪拌翼を接続した1Lフラスコに注ぎ入れ、25℃に保った。このフラスコに、アンモニア水を用いてpHを12に調整した(NH4)2HPO4水溶液(100mM;200mL)を、25℃にて一気に添加した。その後、当該フラスコを10時間攪拌して、球状CaPを得た。
【0220】
(ロッド状CaP)
アンモニア水を用いてpHを12に調整したCa(NO3)2水溶液(42mM;800mL)をコンデンサー、半月状攪拌翼が設置された1Lフラスコに注ぎ入れ、80℃に保った。このフラスコに、アンモニア水を用いてpHを12に調整した(NH4)2HPO4水溶液(100mM;200mL)を80℃にて10mL/hの速度で添加した。その後、当該フラスコを24時間攪拌して、ロッド状CaPを得た。
【0221】
(ファイバー状CaP)
pHを調整していないCa(NO3)2水溶液(42mM;800mL)をコンデンサー、半月状攪拌翼が設置された1Lフラスコに注ぎ入れ、80℃に保った。80℃にて、このフラスコにpH調整しない(NH4)2HPO4水溶液(100mM;200mL)を10mL/hの速度で添加した。その後、当該フラスコを24時間攪拌してファイバー状CaPを得た。
【0222】
なお、得られたCaPを、いずれも、遠心分離した後、純水に媒体置換することで洗浄した。
【0223】
次に、得られた各CaPを走査型電子顕微鏡で観察した。結果を図1に示す。図1は、本実施例で得た各CaPを走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図であり、(a)は上記球状CaPの走査型電子顕微鏡画像を示し、(b)は上記ロッド状CaPの走査型電子顕微鏡画像を示し、(c)は上記ファイバー状CaPの走査型電子顕微鏡画像を示す。
【0224】
なお、走査型電子顕微鏡は、日本電子株式会社製、モデル名JSM-6301Fを用いて、倍率30000倍又は95000倍で観察を行った。
【0225】
図1から、球状CaP、ロッド状CaP、及び、ファイバー状CaPが得られたことが確認できた。
【0226】
また、得られた各CaPの粒子径及び密度を測定した。各CaPの粒子径は、上述の走査型電子顕微鏡観察により得た画像から求めた。各CaPの密度は、ピクノメーター(マイクロメトリックス社製、モデル名Accu Pyc 1300)を用いて、乾燥状態で室温にて測定を行なった。各CaPの粒子径及び密度を測定した結果を表1に示す。
【0227】
【表1】
【0228】
その結果、球状CaPの平均粒子径は40nmであり、変動係数は17%であった。ロッド状CaPの平均粒子径は、長径410nm(変動係数50%)、短径80nm(変動係数18%)であり、アスペクト比は5.1であった。ファイバー状CaPの平均粒子径は、長径2320nm(変動係数58%)、短径100nm(変動係数36%)であり、アスペクト比は24であった。ピクノメーターから求めた粒子の密度は、球状CaP粒子では2.72g/cm3、ロッド状CaPでは3.01g/cm3、ファイバー状CaPでは3.00g/cm3であった。
【0229】
次に、得られた球状CaPのゼータ電位を測定した。ゼータ電位の測定は、10mMのKNO3水溶液中に、球状CaPを分散させ、HNO3又はKOH水溶液を用いてpHを調製した後、ゼータ電位測定装置(マルヴァーン社製、モデル名Nano ZS ZEN3600)を用いて、室温にて行なった。ゼータ電位は典型的なS字曲線を描き、pH5.9付近に等電点を有することが示された。また、pH3.5以下では、球状CaPナノ粒子は水中に溶解し、無色透明のイオン水溶液となった。
【0230】
〔実施例2;CaPを分散剤とする分散体の作製〕
本実施例では、実施例1に記載の方法で得たロッド状CaPを分散剤とする、分散体を作製した。
【0231】
まず、親水性液体として水を用い、水に、1質量%の固形分濃度となるようにロッド状CaPを混合して、CaPを水に分散させた分散体を調製した。当該分散体(5mL)をサンプル瓶(15mL)に計り取り、HNO3及びKOH水溶液を用いてpHを調整した後、当該サンプル瓶に、5mLの疎水性物質を静かに混合した。次に、ホモジナイザー(IKA社製、モデル名Ultra-Turrax T-18)を用いて12,000rpm、20℃にて2分間攪拌して、分散体を得た。なお、以下の実施例において、分散体の作製に用いる親水性液体は全て水である。
【0232】
本実施例で用いた疎水性物質(以下、「油」と表記する)は、n-ドデカン、ミリスチン酸メチル、1-ウンデカノール、トルエン、n-ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、トリメチル酢酸メチルである。なお、n-ドデカン、ミリスチン酸メチル、1-ウンデカノールとしては、アルドリッチ製、n-ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタンとしては、フィッシャー・サイエンティフィック製、トリメチル酢酸メチルとしてはランカスター・シンセシス製のものを用いた。
【0233】
次に、上述したそれぞれの油を用いた各分散体のタイプ及び安定性の評価、各分散体の油滴の観察、及び、その大きさの測定を行なった。
【0234】
分散体のタイプは導電率計(Hana model Primo 5)を用いて、又は、当該分散体を水中および油中に滴下して評価した。導電率計を用いた場合、導電率が1mS/cm以上の場合を水中油滴型(分散媒が水であり、分散質が油である)の分散体、1mS/cm以下の場合を油中水滴型(分散媒が油であり、分散質が水である)の分散体と判断した。また、分散体を水中に滴下し、分散体が速やかに分散した系を水中油滴型と判断し、分散体を油中に滴下し、分散体が速やかに分散した系を油中水滴型と判断した。
【0235】
水中油滴型の分散体の安定性は、下記式(1)から求めた24時間静置後に、集合せずに分散体中に分散していた油の割合から評価した。
【0236】
100−(B/A×100) % 式(1)
ここで、Aは仕込みの疎水性物質の体積、Bは24時間放置後に分散体中の油が集合して生じた油層の体積である。
【0237】
分散体中の油滴の観察には、デジタルカメラ(Nikon Coolpix 4500)を搭載した光学顕微鏡(James Swift MP3502, Prior Scientific Instruments Ltd.)を用いた。また、油滴の大きさの測定には、レーザー回折・散乱法(Malvern Mastersizer 2000)を用いた。
【0238】
各分散体のタイプ及び安定性の評価、並びに、油滴の大きさを測定した結果を表2に示す。
【0239】
【表2】
【0240】
油として、ミリスチン酸メチルあるいはトリメチル酢酸メチルを用いた場合、24時間放置後においても分散体は安定に存在し、安定性は100%であった。n-ドデカンあるいはn-ヘキサンを用いた場合、24時間放置後の油相の70%以上が分散している安定な分散体が得られた。トルエン、クロロホルム、ジクロロメタンを用いた場合、ミリメートルサイズの巨大な油滴が形成されるのみで、分散体を得ることができなかった。1-ウンデカノールを用いた場合、ホモジナイザーで攪拌した後、すぐに水層と油層との分離が起こり、分散体を得ることができなかった。
【0241】
〔実施例3;実施例2で安定な分散体が得られなかった油を用いた分散体の作製〕
本実施例では、実施例2で安定な分散体を得ることができなかった油であるジクロロメタンに、カルボニル基を有する飽和有機化合物の生分解性ポリマーであるポリ乳酸を混合して、分散体の形成を試みた。
【0242】
まず、ジクロロメタン中に、ポリ乳酸(MW=150,000)をジクロロメタンに対して1質量%の濃度で溶解させた。
【0243】
なお、分散剤として、実施例1で得た球状CaPを用い、油としてポリ乳酸を溶解したジクロロメタンを用いた以外は、実施例2と同様の操作により分散体を作製した。
【0244】
図2に、本実施例により得た分散体を観察した結果を示す。図2において(a)は水とジクロロメタンとの混合物であり、(b)は水とポリ乳酸を溶解したジクロロメタンとの混合物であり、(c)及び(c’)は水とジクロロメタンとの混合物に球状CaPを分散させたものであり、(d)及び(d’)は水とポリ乳酸を溶解したジクロロメタンとの混合物に球状CaPを分散させたものを示す図である。なお、図2において、(c’)は(c)に示すサンプル瓶を、(d’)は(d)に示すサンプル瓶を、下部から観察した結果を示す図である。
【0245】
図2に示すように、ポリ乳酸を溶解していないジクロロメタンを用いた場合、巨大な油滴が形成されるのみで安定な分散体は形成されなかった。しかし、ポリ乳酸をジクロロメタン中に溶解させて、CaPを水中に混合することで安定な分散体を得ることができた。
【0246】
なお、ポリ乳酸をジクロロメタン中に溶解させた場合でも、水中にCaPが存在しない場合には、分散体が得られなかった。
【0247】
〔実施例4;CaPの形状が、得られる分散体に与える影響の評価〕
本実施例では、球状CaP、ロッド状CaP、ファイバー状CaPを、それぞれ、分散剤として用いたときの、得られる分散体中の油滴のサイズに与える影響を評価した。
【0248】
油としては、ミリスチン酸メチルを用いた。また、分散体の作製方法としては、実施例2と同様の操作を行なった。
【0249】
球状CaP、ロッド状CaP、ファイバー状CaPの、いずれの分散剤を用いて場合においても、24時間静置した後においても100%のまま安定に存在し、さらに、6ヶ月以上も保存可能という、安定な分散体が得られた。
【0250】
得られた分散体を光学顕微鏡で観察した結果を図3に、レーザー回折・散乱法によって、得られた分散体中の油滴サイズの分布を測定した結果を図4に示す。図3において、(a)は球状CaP、(b)はロッド状CaP、(c)はファイバー状CaPを、それぞれ分散剤として用いて得られた分散体の光学顕微鏡画像を示す。また、図4において(a)は球状CaP、(b)はロッド状CaP、(c)はファイバー状CaPを、それぞれ分散剤として用いて得られた分散体中の油滴サイズの分布を測定した結果を示す。なお、上記レーザー回折・散乱法による油滴のサイズ分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置(マルヴァーン社製;品番Mastersizer 2000;サンプル分散ユニットHydro 2000SM付属)を用いて測定した。
【0251】
図3及び図4に示すように、球状CaP、ロッド状CaP、ファイバー状粒子CaPの順に、油滴の大きい分散体が得られた。
【0252】
〔実施例5;溶剤のpHが、得られる分散体に与える影響の評価〕
本実施例では、分散媒を水として、水のpHが分散体の形成に与える影響を検討した。
【0253】
本実施例に係る分散体の作製には、油(分散質)としてミリスチン酸メチルを用い、分散剤として実施例1で得られた球状CaP粒子を用いた。また、水のpHを11.7、11.0、10.0、9.0、7.7、6.1、5.0、4.0とした以外は、実施例2と同様の操作によって、分散体の作製を行なった。
【0254】
分散体を作製した後、24時間後のそれぞれのサンプル瓶の外観を観察した結果を図5に示し、当該サンプル瓶の中身を光学顕微鏡で観察した結果を図6に示す。
【0255】
図5において、(a)は水のpHを11.7、(b)は水のpHを11.0、(c)は水のpHを10.0、(d)は水のpHを9.0、(e)は水のpHを7.7、(f)は水のpHを6.1、(g)は水のpHを5.0、(h)は水のpHを4.0としたときの、サンプル瓶の外観を示す。
【0256】
図6において、(a)は水のpHを4.0、(b)は水のpHを5.0、(c)は水のpHを6.1、(d)は水のpHを7.7、(e)は水のpHを9.0、(f)は水のpHを10.0、(g)は水のpHを11.0、(h)は水のpHを11.7としたときの、サンプル瓶の中身を光学顕微鏡で観察した結果を示す。
【0257】
図5及び6に示すように、pH7.7以上の系全てにおいて、24時間後においても分散質の集合は起こらず、分散体は100%のまま安定に存在した。さらに、pH7.7以上の系全ての分散体は、6ヶ月以上も保存可能という安定なものであった。なお、実施例4と同様に、レーザー回折・散乱法によって、分散体中の油滴径を測定した結果、当該油滴径のサイズ分布は、50〜100μmの範囲であった。
【0258】
また、図5及び6に示すように、pH6.1、pH5.0の系では、24時間後、1%から10%の油(分散質)が集合したものの、それ以外の油は分散体中に分散した。なお、pH6.1、pH5.0の系でも、6ヶ月以上保存可能な安定な分散体が得られた。また、光学顕微鏡を用いて観察を行ない、分散体の油滴径のサイズ分布を測定したところ、pH6.1の系では、10〜200μmの範囲であり、pH5.0の系では、20μm〜2mmの範囲であった。pH4.0の系では、攪拌後、油層と水層との界面にミリメーターサイズの油滴が形成されたが、時間の進行に伴い、油滴は油層に吸収され、消失した。図示しないが、水のpHを3.3以下とした分散体を、油としてミリスチン酸メチルを用い、分散剤として実施例1で得られた球状CaP粒子を用いて、実施例2に記載の操作と同様に分散体の作製を試みた。しかし、球状CaPは水中に溶解し、ホモジナイザーで攪拌後、数秒以内に油層と水層とが分離し、安定な油滴を得ることができなかった。
【0259】
〔実施例6;pH操作による分散質の集合・再分散〕
本実施例では、分散体の水(分散媒)のpHを下げることで、分散体中の分散質を集合させ、次に、pHを上げることで集合した分散質を再分散させて再度分散体を作製する検討を行なった。
【0260】
まず、分散剤として球状CaPを用い、油(分散質)としてミリスチン酸メチルを用いた分散体を作製した。分散体の作製は実施例2と同様の操作により行なった。
【0261】
得られた分散体のpHは7.8である。次に、当該分散体に硝酸を混合して、pH3.0以下に調整した。次に、水酸化カリウムを混合して、pHを5.0以上とした。これを繰り返して、硝酸の混合を5回、水酸化カリウムの混合を4回行なった。その結果を図7に示す。図7において、(a)は作製直後、(b)は1回目の硝酸混合後、(c)は1回目の水酸化カリウム混合後、(d)は2回目の硝酸混合後、(e)は2回目の水酸化カリウム混合後、(f)は3回目の硝酸混合後、(g)は3回目の水酸化カリウム混合後、(h)は4回目の硝酸混合後、(i)は4回目の水酸化カリウム混合後、(j)は5回目の硝酸混合後のサンプル瓶の外観を観察した結果を示す図である。
【0262】
図7(a)に示す本実施例で作製した分散体は、1回も硝酸を混合していない状態では6ヶ月以上も保存が可能な安定な分散体であった。しかし、硝酸を混合しpHを3.0以下に調整することによって、数十秒以内にすみやかに油が集合して、図7(b)に示すように水層と油層とが分離した。次に、水酸化カリウムを混合してpHを5以上に調整して、ホモジナイザーを用いて攪拌すると、図7(c)に示すように再分散した。この油の分散、油の集合の繰り返しが、5回可能であったことが確認できた。図7(c)、(e)、(g)、(i)に示す、再分散により作製された分散体の油滴径のサイズ分布を実施例2と同様の操作により計測したところ、図7(c)、(e)、(g)、(i)に示す全ての分散体に含まれる油滴径のサイズ分布は、47μm〜154μmの範囲であった。
【0263】
〔実施例7;CaPを用いた分散体を鋳型とする多孔質体〕
本実施例では、CaPを用いて作製した分散体を焼成することで、CaP多孔質体を作製した。
【0264】
まず、分散剤として実施例1で得た球状CaPを0.05g用い、油(分散質)として、5mlのミリスチン酸メチルを用いた以外は、実施例2と同様の操作により、分散体を作製した。次に、得られた分散体を濾過することで、水を分離して油滴粒子を得た。次に、得られた油滴粒子を、電気炉中で10℃/minの速度で1000℃まで昇温し、1000℃で1時間保持して、CaP多孔質体を得た。得られたCaP多孔質体を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した結果を図8に示す。なお、走査型電子顕微鏡による観察は、倍率を1000倍とした以外は、実施例1と同様にして行なった。
【0265】
図8に示すように、油滴のサイズと同じ大きさの孔を有する多孔質体が得られたことが確認できた。
【0266】
〔比較例1;実施例7との比較〕
実施例1で得た球状CaPのみを、電気炉中で10℃/minの速度で1000℃まで昇温し、1000℃で1時間保持した。その結果、多孔質体は得られず、CaPが密集した焼成体を得た。
【0267】
〔実施例8;CaP複合微粒子の作製1〕
本実施例及び後述する実施例9では、球状のCaP内にポリ乳酸を含むCaP複合粒子を作製した。
【0268】
まず、50ml容量のサンプル瓶中で、実施例1で得た球状CaPを0.02質量%含む水25g中に、ポリ乳酸を1質量%含むジクロロメタン2.5gを加え、サンプル瓶を撹拌することで分散体を作製した。
【0269】
得られた分散体を光学顕微鏡で観察した結果を図9に示す。安定な分散体が得られ、油滴の大きさは30μmであった。
【0270】
次に、当該分散体を室温で24時間放置することでジクロロメタンを蒸発させた。次に60℃で24時間乾燥させることによって、水分を蒸発させ、CaP複合微粒子を得た。
【0271】
得られたCaP複合微粒子を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した結果を図10に示す。走査型電子顕微鏡による観察は、倍率を8000倍とした以外は、実施例1と同様にして行なった。図10に示すように、粒子径11μmの球状粒子が得られたことを確認できた。ポリ乳酸の表面に球状CaPが均一に被覆したCaP複合微粒子の生成が確認できた。
【0272】
また、得られたCaP複合微粒子を60℃で乾燥させて、ポリエチレン製カプセルに入れた上で、Agar SCIENTIFIC LTD製のエポキシ樹脂中に包理した。次に、ウルトラミクロトーム用ダイヤモンドナイフ(住友電工社製、品番:SK3045)を用いて、当該エポキシ樹脂を厚さ100nmに切断して切片を作製した。当該切片を透過型電子顕微鏡(PHILIPS社製、品番:CM120)を用いて観察した。結果を図13に示す。図13は本実施例で得られたCaP複合微粒子の断面を、透過型電子顕微鏡を用いて観察した結果を示す図である。
【0273】
図13に示すように、球状CaPが、CaP複合微粒子の内部ではなく、表面に均一に被覆していることが確認できた。
【0274】
〔実施例9;CaP複合微粒子の作製2〕
まず、50ml容量のサンプル瓶中で、実施例1で得た球状CaP0.2質量%を含む水25g中に、5質量%のポリ乳酸を含むジクロロメタン2.5gを加え、サンプル瓶を撹拌することで分散体を作製した。
【0275】
得られた分散体を室温で24時間放置することでジクロロメタンを蒸発させ、CaP複合微粒子を得た。
【0276】
得られたCaP複合微粒子を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した結果を図11に示す。走査型電子顕微鏡による観察は、倍率を500倍とした以外は、実施例1と同様にして行なった。図11に示すように、粒子径が46μmの粒子をはじめ、様々な形状の粒子を確認できた。これは、ポリ乳酸の表面に、CaPを均一に被覆した、様々な形状のCaP複合微粒子が得られたことを示している。
【0277】
〔実施例10;CaP中空粒子の作製〕
まず、実施例8で得られたCaP複合微粒子を蒸発皿上に薄く塗布して、60℃で乾燥させた。その後、電気炉中で1℃/minの速度で1000℃まで昇温して、1000℃で1時間保持することでCaP複合微粒子を焼成して、CaP中空粒子を得た。なお、当該焼成によって、CaP複合微粒子中のポリ乳酸は熱分解される。
【0278】
得られたCaP複合微粒子を走査型電子顕微鏡により観察した結果を図12に示す。図12において(a)は倍率500倍で観察した結果を示し、(b)は倍率5000倍で観察した結果を示す。走査型電子顕微鏡による観察は、倍率を500倍又は5000倍とした以外は、実施例1と同様にして行なった。
【0279】
図12に示すように、CaP中空粒子が得られたことが確認できた。
【0280】
〔実施例11;CaP複合微粒子の作製3〕
50ml容量のサンプル瓶中で、球状CaPを0.2質量%含む水25g中に、ポリ乳酸を1質量%含むジクロロメタン2.5gを加えて、攪拌することで分散体を作製した。ポリ乳酸としては、分子量が5,000、125,000及び300,000のものをそれぞれ使用した。得られたそれぞれの分散体を室温で24時間静置することにより、ジクロロメタンを蒸発させてCaP複合微粒子を得た。
【0281】
次に、得られたCaP複合微粒子を走査型電子顕微鏡で観察した。結果を図14に示す。図14は本実施例で得られたCaP複合微粒子を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図であり、(a)及び(a’)は分子量5,000のポリ乳酸を用いた結果を示し、(b)及び(b’)は分子量125,000のポリ乳酸を用いた結果を示し、(c)及び(c’)は分子量300,000のポリ乳酸を用いた結果を示す。
【0282】
図14に示すように、ポリ乳酸の分子量に影響されず、表面が球状CaPで均一に被覆されたCaP複合微粒子が得られたことが確認できた。
【0283】
また、図14に基づいて算出したCaP複合微粒子の粒子径と、ポリ乳酸の分子量との関係を図15に示す。図15は本実施例で得たCaP複合微粒子の粒子径とポリ乳酸の分子量との関係を示す図であり、縦軸が粒子径を示し、横軸がポリ乳酸の分子量を示す。図15に示すように、本実施例では約7〜30μmの粒子径のCaP複合微粒子を得た。
【0284】
〔実施例12:CaP複合微粒子の作製4〕
50ml容量のサンプル瓶中で、0.2質量%の球状CaPを含む水25g中に、ポリ乳酸(分子量5,000)を含むジクロロメタン2.5gを加え、サンプル瓶を撹拌することで分散体を作製した。ジクロロメタン中のポリ乳酸の濃度は、2.0質量%、4.8質量%又は9.1質量%とした。得られた分散体を室温で24時間放置することでジクロロメタンを蒸発させ、CaP複合微粒子を作製した。
【0285】
次に、得られたCaP複合微粒子を走査型電子顕微鏡写真で観察した。結果を図16に示す。図16は本実施例で得られたCaP複合微粒子を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図であり、(a)及び(a’)はポリ乳酸の濃度を2.0質量%とした場合の結果を示し、(b)及び(b’)はポリ乳酸の濃度を4.8質量%とした場合の結果を示し、(c)及び(c’)はポリ乳酸の濃度を9.1質量%とした場合の結果を示す。全ての場合において、表面が球状CaPで均一に被覆されたCaP複合微粒子が得られたことが確認できた。
【0286】
また、図16に基づいて算出したCaP複合微粒子の粒子径と、ポリ乳酸濃度との関係を図17に示す。図17は本実施例で得たCaP複合微粒子の粒子径とポリ乳酸濃度との関係を示す図であり、縦軸が粒子径を示し、横軸がポリ乳酸濃度を示す。図17に示すように、本実施例では約7〜20μmの粒子径のCaP複合微粒子を得た。
【0287】
〔実施例13:CaP複合微粒子の細胞接着性〕
本実施例では実施例8で得たCaP複合微粒子に対する細胞接着性を確認した。まず、当該CaP複合微粒子をポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム上に載せた。また、比較のため、実施例8で得たCaP複合微粒子に塩酸水溶液(pH2)を滴下することでCaPを除去した微粒子(以下、「ポリ乳酸微粒子」と表記する)をPETフィルム上に載せた。
【0288】
次に、それぞれのPETフィルムにエタノールを滴下して5分間滅菌した後、PETフィルムを24‐wellマルチプレート中に置いた。次に、培養したL929繊維芽細胞(1.0×105個)をそれぞれのPETフィルム上に播種して、37℃、CO2濃度5%の条件下で24時間培養した。培養後、培養液を除去して、ピンセットを用いてPETフィルムを回収した。次に、回収したPETフィルムを37℃のリン酸緩衝液で3回洗浄した後、5%グルタルアルデヒド溶液で20分間固定した。次に、30%、50%、70%、90%、95%、99.5%、100%のエタノール、ブタノールを15分間ずつこの順で用いて脱水した後、凍結乾燥を行なった。凍結乾燥後のPETフィルムを走査型電子顕微鏡で観察した。結果を図18に示す。図18はCaP複合微粒子に対する細胞接着性を観察した結果を示す図であり、(a)はCaP複合微粒子を用いた場合の結果を示し、(b)はポリ乳酸微粒子を用いた場合の結果を示す。
【0289】
図18に示すように、ポリ乳酸微粒子を用いた場合、繊維芽細胞がほとんど確認されなかった。これは、繊維芽細胞のポリ乳酸微粒子に対する接着性が極めて低かったことを示している。一方、CaP複合微粒子を用いた場合、繊維芽細胞がCaP複合微粒子に接着している様子が観察された。このことから、CaPで表面が被覆されたCaP複合微粒子の優れた細胞接着性が示された。
【0290】
〔実施例14:分散体の作製〕
本実施例では、分散媒を油(ポリ乳酸を溶解させたジクロロメタン)、分散質を水、分散剤を実施例1で作製したロッド状CaPとする分散体を作製した。また、本実施例では、分散体をより効率よく製造するために、分散剤であるロッド状CaPをポリ乳酸で修飾した。これにより分散剤が分散媒中に分散しやすくなり、分散体をより簡便に作製できる。以下、説明の便宜のため、ポリ乳酸で修飾したロッド状CaPを「ポリ乳酸修飾CaP」と表記する。
【0291】
(14−1:ポリ乳酸によるロッド状CaPの修飾)
まず、ロッド状CaPをポリ乳酸で修飾した方法について説明する。50ml容のガラス容器に、実施例1で作製したロッド状CaP、及びジクロロメタンを加えた。次に、ポリ乳酸(分子量5,000)を溶解したジクロロメタンを加えた。このとき、ロッド状CaPとポリ乳酸との質量比率が0.3/1となるようにした。次に、室温でジクロロメタンを蒸発させて、残存したロッド状CaP及びポリ乳酸の混合物を減圧下で熱処理した。熱処理の温度としては、100℃、150℃又は200℃とした。
【0292】
ここで、ポリ乳酸修飾CaP(熱処理を150℃で行なったもの)をジクロロメタンに加えた様子を観察した。その結果を図19に示す。図19はポリ乳酸修飾CaPをジクロロメタンに加えた様子を観察した結果を示す図であり、(a)はポリ乳酸修飾CaPを用いた場合の結果を示し、(b)はポリ乳酸で修飾しないロッド状CaPを用いた場合の結果を示す。
【0293】
図19に示すように、ポリ乳酸修飾CaPはジクロロメタン中に均一に分散したが、ポリ乳酸で修飾しないロッド状CaPを用いた場合、当該ロッド状CaPの沈殿が確認された。この結果から、ポリ乳酸でCaPを修飾することで、ジクロロメタン中における分散性が向上することが確認された。
【0294】
(14−2:ポリ乳酸修飾CaPを分散剤とした分散体の作製)
次に、上記14−1で得たポリ乳酸修飾CaP(熱処理を150℃で行なったもの)を分散剤として分散体を作製した。具体的には次の通りである。まず、固形分濃度で、CaPが0.66質量%、ポリ乳酸が2質量%となるように、ポリ乳酸(分子量5,000)及びポリ乳酸修飾CaPをジクロロメタンに加えて懸濁液を得た。サンプル瓶(50ml)に、得られた懸濁液を25ml計り取った後に、当該サンプル瓶に5mgの水を加えた。次に、超音波バス(エスエヌディ社製、モデル名:US−2)を用いて、38kHz、120W、室温にて5分間攪拌することで乳化させた。得られた分散体をデジタルカメラ(Nikon Coolpix 4500)を搭載した光学顕微鏡(James Swift MP3502,Prior Scientific Instruments Ltd.)を用いて観察した。この結果を図20に示す。図20は本実施例で得られた分散体を観察した結果を示す図である。図20に示すように、本実施例では、約50μm径の滴が分散した分散体が得られた。
【0295】
また、本実施例で得た分散体の導電率を、導電率計(HORIBA製D-24)を用いて測定した。その結果、1mS/cm以下であった。この結果から、本実施例で得られた分散体は油中水滴型の分散体であることが確認できた。
【0296】
また、熱処理温度を200℃として作製したポリ乳酸修飾CaPを用いた場合においても油中水滴型分散体が得られた。なお、熱処理温度を100℃として作製したポリ乳酸修飾CaPを用いた場合、水中油滴型分散体が得られた。これは、ポリ乳酸がCaPから剥離したためであると考えられる。また、実施例1で作製したロッド状CaPをそのまま用いた場合においても水中油滴型分散体が得られた。このように、本実施例では、分散剤の性質によって、油中水滴型分散体及び水中油滴型分散体を選択的に作製できることが確認できた。
【0297】
〔実施例15:pH操作による分散質の集合〕
本実施例では、実施例14で得た分散体(分散剤として熱処理温度を150℃として作製したポリ乳酸修飾CaPを用いたもの)に、酸を添加することで分散質を集合させた。
【0298】
具体的には、当該分散体(15mL)に硝酸を混合して、pHを3.0以下にした。次に、水酸化カリウム水溶液を混合してpHを5以上に調製して、ホモジナイザーで撹拌した。この結果を図21に示す。図21は、実施例14で得られた分散体の溶剤のpHを下げて、分散質を集合させ、さらに、pHを上げて当該分散質が集合した後の液体を再分散させる検討を行なった結果を示す図であり、(a)は酸を加える前、(b)は酸を加えた後、(c)はアルカリを加えた後のサンプル瓶の外観を観察した結果を示す。
【0299】
硝酸を混合して数十秒以内に、図21の(b)に示すように、滴が集合して水相と油相とが分離した。また、アルカリ(水酸化カリウム溶液)を混合すると、図21の(c)に示すように再分散した。
【0300】
〔実施例16:分散体の作製〕
本実施例では、水を分散媒として油の滴を分散させ、さらに当該油の滴の中に水の滴を分散させた分散体(W/O/W型分散体)を作製した。
【0301】
まず、実施例14で得た分散体(分散剤として熱処理温度を150℃として作製したポリ乳酸修飾CaPを用いたもの)(2.5ml)を、サンプル瓶(50ml)に計り取り、同サンプル瓶に実施例1で作製した球状CaPを0.1g含む水(25ml)を加えた。次に、当該サンプル瓶を撹拌することでW/O/W型分散体を得た。
【0302】
得られたW/O/W型分散体を光学顕微鏡で観察した。この結果を図22に示す。図22は本実施例で得られた分散体を観察した結果を示す図である。図22に示すように、本実施例により得られたW/O/W型分散体は安定しており、水中に分散した油滴中に水が分散していることが確認できた。また、油滴の大きさは約60μmであった。
【0303】
〔実施例17:pH操作による分散質の集合2〕
本実施例では、実施例16で得られたW/O/W型分散体に、酸を添加することで分散質を集合させた。
【0304】
具体的には、当該分散体(15mL)に硝酸を混合して、pHを3.0以下にした。次に、水酸化カリウム水溶液を混合してpHを5以上に調製して、ホモジナイザーで撹拌した。この結果を図23に示す。図23は、実施例16で得られた分散体の溶剤のpHを下げて、分散質を集合させ、さらに、pHを上げて当該分散質が集合した後の液体を再分散させる検討を行なった結果を示す図であり、(a)は酸を加える前、(b)は酸を加えた後、(c)はアルカリを加えた後のサンプル瓶の外観を観察した結果を示す。
【0305】
硝酸を混合して数十秒以内に、図23の(b)に示すように、滴が集合して水相と油相とが分離した。また、アルカリ(水酸化カリウム溶液)を混合すると、図23の(c)に示すように再分散した。
【0306】
〔実施例18:CaP複合微粒子の作製5〕
実施例16で得たW/O/W型分散体を室温で24時間放置することでジクロロメタンを蒸発させた。次に、60℃で24時間乾燥させることによって、水分を蒸発させた。これによりCaP複合微粒子を得た。
【0307】
得られたCaP複合微粒子をさらに60℃で乾燥させて、ポリエチレン製カプセルに入れた上で、Agar SCIENTIFIC LTD製のエポキシ樹脂中に包埋した。次に、ウルトラミクロトーム用ダイヤモンドナイフ(住友電工社製、品番:SK3045)用いて、当該エポキシ樹脂を厚さ100nmに切断して切片を作製した。当該切片を透過型電子顕微鏡(PHILIPS社製、品番:CM120)を用いて観察した。結果を図24に示す。図24は本実施例で得られたCaP複合微粒子の断面を、透過型電子顕微鏡を用いて観察した結果を示す図である。なお、図24において(a)はCaP複合微粒子1個全体を示しており、(b)はCaP複合微粒子の中に形成された空間の壁面を示している。当該空間はCaP複合微粒子を得る前のW/O/W型分散の状態のとき、油滴中に分散していた水の滴に由来するものである。
【0308】
図24に示すように、球状CaPが外表面を均一に被覆し、また、ロッド状CaPが内表面を均一に被覆しており、任意の物質としてポリ乳酸が包含されているCaP複合微粒子が得られたことが確認できた。また、当該複合粒子の粒子径は約10μmであった。
【0309】
〔実施例19:CaP複合微粒子の作製6〕
本実施例では、表面がCaPで被覆され、かつ内部にCaPが分散したCaP複合微粒子を作製した。
【0310】
まず、CaPが0.66重量%、ポリ乳酸が2質量%の固形分濃度になるように、ジクロロメタン中にポリ乳酸(分子量5,000)及び実施例14で得たポリ乳酸修飾CaPを加えて懸濁液を得た。サンプル瓶(50ml)に、得られた懸濁液を2.5ml計り取り、当該サンプル瓶に、実施例1で得た球状CaPを0.1g含む水(25ml)を加えた。次に、当該サンプル瓶を撹拌した。これにより分散体を得た。
【0311】
次に、得られた分散体を室温で24時間放置することでジクロロメタンを蒸発させた。次に、60℃で24時間乾燥させることによって、水分を蒸発させた。これにより、CaP複合微粒子を得た。
【0312】
得られたCaP複合微粒子を60℃で乾燥させて、ポリエチレン製カプセルに入れた上で、Agar SCIENTIFIC LTD製のエポキシ樹脂中に包埋した。次に、ウルトラミクロトーム用ダイヤモンドナイフ(住友電工社製、品番:SK3045)用いて、当該エポキシ樹脂を厚さ100nmに切断して切片を作製した。当該切片を透過型電子顕微鏡(PHILIPS社製、品番:CM120)を用いて観察した。この結果を図25に示す。図25は本実施例で得られたCaP複合微粒子の断面を、透過型電子顕微鏡を用いて観察した結果を示す図である。本実施例で得られたCaP複合微粒子は、外表面が球状CaPで均一に被覆され、また、ロッド状CaPが内部に分散していることが確認できた。また、当該CaP複合微粒子の粒子径は約10μmであった。
【0313】
〔実施例20:実施例2で安定な分散体が得られなかった油を用いた分散体の作製2〕
本実施例は、実施例2で安定な分散体が得られなかった油であるジクロロメタンに、カルボニル基を有する高分子化合物であるポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル、ポリ酢酸ビニルを混合して分散体の形成を試みた。また、比較としてカルボニル基を持たない高分子であるポリスチレンを用いて同様の検討を行なった。
【0314】
まず、ジクロロメタン中に、各高分子をジクロロメタンに対して1質量%の濃度で溶解させた。なお、分散剤として、実施例1で得た球状CaPを用い、油として上記高分子化合物を溶解したジクロロメタンを用いた以外は、実施例2と同じ操作を行ない分散体の作製を試みた。この結果を図26に示す。図26は本実施例で得た分散体を観察した結果を示す図であり、(a)はポリエチレンテレフタレートを用いた場合の結果を示し、(b)はポリメタクリル酸メチルを用いた場合の結果を示し、(c)はポリ酢酸ビニルを用いた場合の結果を示し、(d)はポリスチレンを用いた場合の結果を示す。
【0315】
図26に示すように、カルボニル基を持たない高分子であるポリスチレンを用いた場合には、粗大な液滴が観察され、安定な分散体が得られなかった。一方、カルボニル基を有する高分子であるポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル、ポリ酢酸ビニルを用いることで安定な分散体が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0316】
本発明に係る分散体は、生体親和性が高いCaPのみを分散剤として用いており、さらに、CaP以外の界面活性剤等を含んでいない。また、本発明に係るCaP中空粒子、CaPCaP多孔質体、複合微粒子は、生体親和性が高い。よって、薬物担体、細胞培養材料、医療用材料、歯科用材料等の生体用材料として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0317】
【図1】実施例1で得られたCaPを走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図2】実施例3で得られた分散体を観察した結果を示す図である。
【図3】実施例4で得られた分散体を光学顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図4】実施例4で得られた分散体の油滴サイズの分布を測定した結果を示す図である。
【図5】実施例5で得られた分散体を、作製後24時間後に観察した結果を示す図である。
【図6】実施例5で得られた分散体を、作製後24時間後に、光学顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図7】実施例6で、分散体の溶剤のpHを下げて、分散質を集合させ、さらに、pHを上げて当該分散質が集合した後の液体を再分散させる検討を行なった結果を示す図である。
【図8】実施例7で得られたCaP多孔質体を、走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図9】実施例8で得られた分散体を光学顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図10】実施例8で得られたCaP複合微粒子を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図11】実施例9で得られたCaP複合微粒子を、走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図12】実施例10で得られたCaP複合微粒子を、走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図13】実施例8で得られたCaP複合微粒子の断面を、透過型電子顕微鏡を用いて観察した結果を示す図である。
【図14】実施例11で得られたCaP複合微粒子を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図15】実施例11で得られたCaP複合微粒子の粒子径とポリ乳酸の分子量との関係を示す図である。
【図16】実施例12で得られたCaP複合微粒子を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図17】実施例12で得られたCaP複合微粒子の粒子径とポリ乳酸濃度との関係を示す図である。
【図18】CaP複合微粒子に対する細胞接着性を観察した結果を示す図である。
【図19】ポリ乳酸修飾CaPをジクロロメタンに加えた様子を観察した結果を示す図である。
【図20】実施例14で得られた分散体を観察した結果を示す図である。
【図21】実施例14で得られた分散体の溶剤のpHを下げて、分散質を集合させ、さらに、pHを上げて当該分散質が集合した後の液体を再分散させる検討を行なった結果を示す図である。
【図22】実施例16で得られた分散体を観察した結果を示す図である。
【図23】実施例16で得られた分散体の溶剤のpHを下げて、分散質を集合させ、さらに、pHを上げて当該分散質が集合した後の液体を再分散させる検討を行なった結果を示す図である。
【図24】実施例18で得られたCaP複合微粒子の断面を、透過型電子顕微鏡を用いて観察した結果を示す図である。
【図25】実施例19で得られたCaP複合微粒子の断面を、透過型電子顕微鏡を用いて観察した結果を示す図である。
【図26】実施例20で得られた分散体を観察した結果を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散体、リン酸カルシウム中空粒子、リン酸カルシウム多孔質体、リン酸カルシウム複合微粒子、及びそれらの製造方法、並びにそれらの利用に関するものである。さらに詳しくは、リン酸カルシウム以外の分散剤を含まず、かつ、安定な分散体、及び当該分散体を利用して製造したリン酸カルシウム中空粒子、リン酸カルシウム多孔質体、リン酸カルシウム複合微粒子、及び、それらの製造方法、並びにそれらの利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイドロキシアパタイト(以下、「HAp」と表記する)を代表とするリン酸カルシウム(以下、「CaP」と表記する)は、様々な態様で用いられている。
【0003】
例えば、CaPの粒子は、懸濁重合用の分散剤として用いられている。
【0004】
特許文献1及び2では、スチレンを懸濁重合させる際に、CaPを分散安定剤として用いて、水中にスチレンを懸濁させた分散体を作製する方法が提案されている。また、特許文献3では、CaPと界面活性剤とを懸濁安定剤として併用してビニル化合物のモノマーの分散体を作製した上で、懸濁重合反応系を熱処理することで、ビニル化合物の懸濁重合を行なう方法が提案されている。特許文献4では、懸濁重合用分散剤として有用なアパタイトゾルを製造する方法が提案されている。特許文献5では、CaO/P2O5が1.30(Ca/P = 1.66 molar ratio)のアパタイトスラリーを強力剪断分散処理する懸濁重合用安定剤の製造方法が提案されている。
【0005】
また、CaPの中空粒子や、多孔質体は、医薬担体や触媒担体としての用途から注目を集めている。CaPの中空粒子の製造方法としては、例えば、以下の方法が提案されている。
【0006】
非特許文献1では、CaPの原料水溶液をスプレードライし、原料濃度やスプレー速度等の条件を調整することでCaPの中空粒子を製造する方法が開示されている。
【0007】
非特許文献2、特許文献6では、予め製造しておいたバテライト型(水中に溶解する)炭酸カルシウム粒子の表面を、メタノール媒体中でリン酸化することで、炭酸カルシウムをリン酸カルシウムで被覆して、その後、炭酸カルシウムを水中で溶解させることで中空CaP微粒子を製造する方法が開示されている。
【0008】
非特許文献3では、予め製造しておいた炭酸マンガン粒子表面にイオン性高分子の積層膜を形成し、その後に炭酸マンガンを塩酸水溶液で溶解・除去することで製造したイオン性高分子中空粒子を用いて、イオン性高分子中空粒子の壁にリン酸カルシウムを析出させることでCaPの中空粒子を製造する方法が開示されている。
【0009】
また、CaPの多孔質体の製造方法としては、従来以下のような方法が提案されている。
【0010】
非特許文献4では、予め製造しておいたホウ酸リチウム-カルシウム系の多孔質ガラス粒子表面にCaPを析出させることで、複数の中空を内部に持つ多孔質CaP粒子を製造する方法が開示されている。
【0011】
特許文献7では、酸性コラーゲン水溶液中にアルカリを添加することによってゲル化させ、次いで炭酸アパタイト粒子を混合し、炭酸アパタイトとコラーゲンとからなる含水複合ゲルを得て、得られた含水複合ゲルを遠心分離器にかけて水分を適宜除去し、凍結した後、凍結真空乾燥処理することによって、スポンジ状多孔質炭酸アパタイト・コラーゲン複合体を得る方法が開示されている。
【0012】
非特許文献5及び特許文献8では、粒子径約150μmのカーボンビーズと繊維状CaPとを混合し、1300℃で5時間焼成することでカーボンを燃焼させて多孔質CaPを製造する方法が開示されている。
【0013】
特許文献9では、セラミックス粉と特定の官能基を有する添加剤とを水中に分散させたスラリーを一方向から凍結させ、凍結水を減圧下で昇華させることで多孔質乾燥体を得る製造法が開示されている。
【0014】
非特許文献6では、カゼインタンパク質で安定化したオリーブ油分散体の水相にHApを析出した後、減圧濾過後、乾燥することで水を分離し、その後ヘキサンあるいは超臨界二酸化炭素でオリーブ油を抽出することで、HAp含有多孔質体を製造する方法が開示されている。
【0015】
ところで、近年、CaPは、その生体親和性の高さから、生体材料として注目されている。そこで、上述のような、CaPを用いた分散体や、CaPの中空粒子(以下、単に「CaP中空粒子」と表記する)、CaPの多孔質体(以下、単に「CaP多孔質体」と表記する)は、CaPの生体材料としての用途を広げる態様として期待される。
【特許文献1】特公昭29−1298(1954年3月11日公告)
【特許文献2】特公昭30−6490(1955年9月13日公告)
【特許文献3】特公昭47‐23666(1972年7月1日公告)
【特許文献4】特開2006‐82985(2006年3月30日公開)
【特許文献5】特許公開平7−102005(1995年4月18日公開)
【特許文献6】特開平11−171514(1999年6月29日公開)
【特許文献7】特開2003‐169845(2003年6月17日公開)
【特許文献8】特開2004‐284933(2004年10月14日公開)
【特許文献9】特開2005‐1943(2005年1月6日公開)
【非特許文献1】P. Luo, T.G. Nieh, Preparing hydroxyapatite powders with controlled morphology, Biomaterials, 1996, vol. 17, 1959-1964
【非特許文献2】上田裕清、新田邦之、中嶋卓也、広浜陽一、笠原英充、花崎実、源吉嗣郎、炭酸カルシウムをシードとする形態制御されたヒドロキシアパタイトの作成、無機マテリアル、1998、vol. 5, 28-35
【非特許文献3】D.G. Shchukin, G.B. Sukhorukov, H. Mohwald, Biomimetic fabrication of nanoengineered hydroxyapatite/polyelectrolyte composite shell, Chem. Mater., 2003, vol. 15, 3947-3950.
【非特許文献4】Q. Wang, W. Huang, D. Wang, B.W. Darvell, D.E. Day, M.N. Rahaman, Preparation of hollow hydroxyapatite microspheres, Journal of Materials Science. Materials in Medecine, 2006, vol. 17, 641-646.
【非特許文献5】相澤守、上野宏子、板谷清司、繊維状アパタイトによる細胞培養用多孔質シートの作製, マテリアルインテグレーション, 1999. vol. 12 pp. 75-77.
【非特許文献6】C. Ritzoulis, N. Scoutaris, K. Papademetriou, S. Stavroulias, C. Panayiotou, Milk protein-base emulsion gels for bone tissue engineering, Food Hydrocolloids, 2005, vol. 19, 575-581.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上記従来のCaPを用いた分散体を作製する際には、CaPに加え、さらに界面活性剤を添加することを必要としていた。
【0017】
例えば、特許文献1及び2では、HApの分散安定剤としての再現性及び信頼性を高めるために、表面活性剤やポリリン酸塩などとHApとを併用することを必要とする。特許文献3では、CaPと界面活性剤とを併用している。特許文献4では、アパタイトゾルに、ヘキサメタリン酸ソーダを添加している。特許文献5では、アパタイトスラリーを懸濁重合用安定剤として用いるときに、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダを添加している。なお、特許文献5では、超高圧乳化分散機という高価な設備を必要とするため、アパタイトスラリーが高コストとなる。
【0018】
このように、従来のCaPを用いた分散体では、界面活性剤等が添加されている。つまり、CaPのみを分散剤として用い、他の界面活性剤を用いない分散体は、従来報告が無かった。
【0019】
また、本発明者らが調査したところ、従来のCaPを用いた分散体では、1〜12時間程度で、分散体中に分散していた水成分と油成分とが集合してしまい、長時間安定な構造を維持することができない。
【0020】
これでは、CaPを用いた分散体を薬物担体等の生体用材料に用いるときにも支障を来たす。例えば、難水溶性の薬物を体内に投与するとき、CaPを用いて、難水溶性薬剤の分散体を作製しても、長期の保存は不可能であり、作製後極めて短時間内に分散体を投与する必要がある。また、生体内で早期に分散体が壊れることで難水溶性薬剤が分離して、その吸収効率が低下する恐れがある。
【0021】
さらに、界面活性剤は、生体に対して毒性を与える恐れのある成分であるため、CaPと界面活性剤とを併用した分散体を用いると、生体に対して毒性を与える恐れがある。例えば、上述の難水溶性薬剤の分散体を、CaPを用いて、従来の方法で作製しても、低分子界面活性剤(低分子分散安定剤)を用いることが必要である。しかし、上述のように、界面活性剤には毒性を示す恐れがある。そこで、界面活性剤等を用いずに、CaPのみを用いて分散体を作製することが望まれる。
【0022】
これらの問題を解決するためには、用いる分散剤をCaPのみとして、かつ、CaPを効率よく油滴表面に吸着させて分散体を安定化させる技術が必要となる。しかし、このような技術は従来存在していない。
【0023】
ところで、従来のCaPの中空粒子や多孔質体は、その製造に煩雑な作業を要する。また、その構造が不安定である等の理由から、生体に適用することができないという問題を有している。
【0024】
例えば、非特許文献1に記載されたCaP中空粒子の製造方法では、スプレードライ装置が必要であるため、製造コストが高くなる。また、噴霧された水滴中でリン酸カルシウムが析出して、水滴表面へ移行することにより中空構造を形成するため、再現性に乏しい。また、水滴の表面に集まったCaPが骨組みとなって中空構造を保持することにより、CaPの殻が厚くなる恐れがある。
【0025】
非特許文献2及び特許文献6に記載のバテライト型炭酸カルシウムは、天然に存在するものでは無く、非常に不安定な結晶である。また、バテライト型炭酸カルシウムの製造は再現性が低く、さらにバテライト型炭酸カルシウムは保存も困難である。さらに、バテライト型炭酸カルシウムは、炭酸イオンを多く含むため、中空CaP微粒子の水に対する溶解性が大きくなる。そのため、炭酸カルシウムを水中で溶解させる工程で、当該中空CaP微粒子も溶解してしまい、製造効率が低くなる。また、水溶性が高いと生体内で急速に溶解するため、生体材料として用いることができない。
【0026】
非特許文献3に記載の中空粒子は、イオン性高分子とCaPとの混合物である。このイオン性高分子は生体に対して有毒なものもあるため、生体材料としては不適切である。また、中空粒子の製造に必要な工程数が多く、コストも高くなる。
【0027】
非特許文献4に記載の多孔質CaP粒子は、ガラスとCaPとの混合物である。ガラスは生体に吸収されないため、当該多孔質CaP粒子を生体材料として用いることができない。
【0028】
特許文献7に記載のスポンジ状多孔質炭酸アパタイト・コラーゲン複合体では、感染症が伝染する恐れがあるコラーゲンを必須とするため、生体材料として積極的に用いることができない。
【0029】
非特許文献5及び特許文献8に記載の多孔質CaPの製造方法で用いられるカーボンビーズの分散性は低いため、カーボンビーズが局所的に凝集しやすい。よって、カーボンビーズを燃焼させることによりCaPに形成される孔の分布が、不均一になりやすいという問題がある。多孔質CaPを生体材料として用いるためには、一定の性質を保障する必要があるが、このように孔が不均一となると、発揮する性質の再現性が低く、生体材料としては適当でない。
【0030】
特許文献9に記載の多孔質乾燥体の製造方法では、多孔質乾燥体上の孔を形成する凍結水は、一方向から凍結される。そのため、多孔質乾燥体上には、当該一方向のみに連結した孔しか形成されず、一般に多孔質材料に求められる吸着性等が劣ることとなる。また、スラリーを凍結させて、さらに凍結水を減圧下で昇華させる必要がある。このため、製造工程が煩雑であり、また、製造に長時間を要する。
【0031】
非特許文献6では、カゼイン蛋白質等、HAp以外の成分を多く含むため、生体組織接着性やイオン吸着性等の、HApの表面性質を発揮しにくい。また、溶解性が高いため、生体材料として用いることができない。
【0032】
このように、従来のCaPが用いられてなる分散体、CaP中空粒子及びCaP多孔質体は、生体に用いることが困難な場合があり、また、製造工程が煩雑であるなどの課題を有している。
【0033】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、界面活性剤等のCaP以外の分散剤を用いることなく、安定な分散体を簡便に製造し得る方法を提供し、ひいては、生体に対して安全な、分散体、CaP中空粒子及びCaP多孔質体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0034】
本発明に係る分散体は、上記課題を解決するために、親水性液体、疎水性物質、及びリン酸カルシウムを含む分散体であって、上記疎水性物質は、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む物質であることを特徴としている。
【0035】
上記の構成によれば、上記分散体には、親水性液体及び疎水性物質のうち、いずれか一方が分散媒として、他方が分散質として、さらに、CaPが分散剤として存在している。つまり、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む物質は、CaPと相互作用可能な部位を分子中に有するため、親水性液体と当該疎水性物質との界面にCaPが安定に吸着する。よって、CaPが分散剤として機能し、分散体を形成することができる。
【0036】
このため、本発明に係る分散体は、界面活性剤等の、CaP以外の分散剤を用いることを必要とせず簡便に製造することができる。
【0037】
また、本発明に係る分散体は、分散体中の分散質が24時間以上集合せず、極めて安定である。
【0038】
さらに、CaP及び親水性液体の混合物とは分散体を形成しない疎水性物質であっても、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む物質を溶解させることで、界面活性剤等を用いることなく簡便に分散体を形成することができる。
【0039】
従って、簡便に製造できるため低コストで、かつ安定な構造を有し、界面活性剤を含まない分散体を提供することができる。
【0040】
本発明に係る分散体では、上記カルボニル基を有する飽和有機化合物が、飽和脂肪酸エステルであることがより好ましい。
【0041】
上記の構成によれば、カルボニル基とCaP表面のカルシウムイオンあるいはリン酸イオンとの、静電相互作用により、互いに引力を生じさせるため、CaPは、飽和脂肪酸エステルと親水性液体との界面に、より安定かつ高濃度に密集することができる。よって、より安定な分散体を提供することができる。
【0042】
本発明に係る分散体では、上記カルボニル基を有する飽和有機化合物が、ミリスチン酸メチルであることがより好ましい。
【0043】
上記の構成によれば、カルボニル基とCaP表面のカルシウムイオンとの、静電相互作用により、互いに引力を生じさせるため、CaPは、親水性液体と、ミリスチン酸メチルとの界面に安定かつ高濃度に密集することができる。よって、さらに安定な分散体を提供することができる。
【0044】
本発明に係る分散体では、上記アルカンが、炭素数5以上30以下のアルカンからなる群から選択される少なくとも一つ以上のアルカンであることがより好ましい。
【0045】
上記の構成によれば、CaPは、親水性液体と、炭素数5以上30以下のアルカンとの界面に安定かつ高濃度に密集することができる。よって、より安定な分散体を提供することができる。
【0046】
本発明に係る分散体では、上記アルカンが、ドデカン及び/又はヘキサンであることがより好ましい。
【0047】
上記の構成によれば、CaPは、親水性液体と、n−ドデカンやn−ヘキサンとの界面に安定かつ高濃度に密集することができる。よって、より安定な分散体を提供することができる。なお、本明細書において「A及び/又はB」と記載した場合、A、B、又はA及びBを意味するものとする。
【0048】
本発明に係る分散体では、上記カルボニル基を有する飽和有機化合物が、カルボニル基を有する生分解性ポリマーであることがより好ましい。
【0049】
上記の構成によれば、CaP及び親水性液体の混合物に混合しても分散体を形成し得ない疎水性物質を用いた場合であっても、界面活性剤等を用いることなく簡便に分散体を形成することができる。さらに、カルボニル基を有する飽和有機化合物として生分解性ポリマーを用いることで、得られる分散体の生体親和性及び安全性を向上させることができる。よって、簡便に得ることができ、かつより生体親和性及び安全性が高い分散体を提供することができる。
【0050】
CaP及び親水性液体の混合物に混合しても分散体を形成し得ない疎水性物質を用いた場合であっても、カルボニル基を有する生分解性ポリマーが溶解された液体を用いることによって、界面活性剤等を用いることなく簡便に分散体を形成し得るという、知見は従来知られておらず、また当業者も予想し得ない事実である。上記知見は、発明者らの鋭意努力と独自の発想によって初めて見出されたものである。それゆえ本発明は上記新規知見に基づく技術的思想を含むものといえる。
【0051】
本発明に係る分散体では、上記生分解性ポリマーが、ポリ乳酸であることがより好ましい。
【0052】
上記の構成によれば、ポリ乳酸は、生体親和性及び生体に対する安全性が高い。また、ポリ乳酸に含まれるカルボニル基とCaP表面のカルシウムイオンとの、静電相互作用により、互いに引力を生じさせるため、ポリ乳酸を溶解した疎水性物質と親水性液体との界面には、CaPが密集して安定に存在することができる。さらに、ポリ乳酸は、生分解性ポリマーの中でも、安価に入手可能である。よって、生体親和性及び安全性が高く、安定な分散体を安価に提供することができる。
【0053】
本発明に係る分散体では、上記リン酸カルシウムが、平均粒子径1nm以上1000nm以下のリン酸カルシウムであることがより好ましい。
【0054】
上記の構成によれば、ナノメートルサイズのCaPを用いるので、親水性液体と疎水性物質との界面に、CaPの粒子がより密集して存在することができる。よって、より効率良く、安定な分散体を提供することができる。
【0055】
本発明に係る分散体では、上記リン酸カルシウムが、ハイドロキシアパタイトであることがより好ましい。
【0056】
上記の構成によれば、生体の骨や歯の成分に近いHApを用いるので、生体親和性及び安全性がさらに向上した分散体を提供することができる。
【0057】
本発明に係る分散体では、上記リン酸カルシウムが、ハイドロキシアパタイトの焼結体であることがより好ましい。
【0058】
上記の構成によれば、生体の骨や歯の成分に近く、かつ焼結することで構造が安定となったHApの焼結体を用いるため、生体親和性及び安全性が高く、安定な分散体を提供することができる。
【0059】
本発明に係る分散体では、上記親水性液体又は上記疎水性物質を分散媒として、上記分散媒中に第1の滴及び第2の滴を含む分散体であり、上記第1の滴が、上記親水性液体及び上記疎水性物質のうち上記分散媒ではない方を上記リン酸カルシウムが被覆してなるものであって、上記分散媒中に分散しているものであり、上記第2の滴が、上記分散媒が上記親水性液体であるときは上記親水性液体を、上記分散媒が上記疎水性物質であるときは上記疎水性物質を、上記リン酸カルシウムが被覆してなるものであって、上記第1の滴中に分散しているものであってもよい。
【0060】
上記の構成によれば、分散媒中に分散した滴の中にさらに滴が分散している。このような分散体を利用すれば、例えば、有用物質が内部に分散した粒子を容易に製造することができる。つまり、分散媒中に分散している滴の中にさらに分散している滴となる親水性液体又は疎水性物質に任意の物質を溶解させておき、分散媒を蒸発させれば、当該粒子を得ることができる。そして、上記の構成では界面活性剤を使用しなくてもこのような粒子が得られることから、生体用材料として好適である。
【0061】
本発明に係る分散体の製造方法は、上記課題を解決するために、親水性液体、疎水性物質、及びリン酸カルシウムを含む分散体の製造方法であって、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、親水性液体と、リン酸カルシウムとを混合する工程を含むことを特徴としている。
【0062】
上記の構成によれば、親水性液体及び疎水性物質のうち、いずれか一方が分散媒として、他方が分散質として、さらに、CaPが分散剤として存在する分散体を製造することができる。そして、当該分散体は、界面活性剤等の、CaP以外の分散剤を用いることなく簡便に製造され得る。さらに、当該分散体は、分散体中の分散質が24時間以上集合せず極めて安定である。また、CaP及び親水性液体の混合物に混合しても分散体を形成し得ない疎水性物質を用いた場合であっても、カルボニル基を有する飽和有機化合物を溶解させることで、界面活性剤等を用いることなく簡便に分散体を製造することができる。さらに、親水性液体、疎水性物質、及びCaPを混合するだけで上記分散体を製造することができる。従って、安定な分散体を、簡便に製造することができる。
【0063】
本発明に係る分散体の製造方法では、上記分散体が、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質、又は親水性液体を分散媒として、上記分散媒中に第1の滴が分散しており、上記第1の滴中に第2の滴が分散している分散体であり、上記疎水性物質と、上記親水性液体と、上記リン酸カルシウムとを混合することで、上記分散媒を上記親水性液体とするときは上記親水性液体を、上記分散媒を上記疎水性物質とするときは上記疎水性物質を、上記リン酸カルシウムで被覆してなる上記第2の滴が、当該親水性液体及び当該疎水性物質のうち上記分散媒でない方のものの中に分散している第1の分散体を製造する第1混合工程と、上記第1の分散体と、上記分散媒と、上記リン酸カルシウムとを混合することで、当該第1の分散体をリン酸カルシウムが被覆してなる第1の滴が、上記分散媒中に分散する第2の分散体を製造する第2混合工程と、を含んでいてもよい。
【0064】
上記の構成によれば、分散媒中に分散した滴の中にさらに滴が分散した分散体を、2回の混合工程を行なうことにより簡便に製造することができる。
【0065】
本発明に係る分散体の製造方法では、カルボニル基を有する飽和有機化合物を、予め混合した疎水性物質を用いることがより好ましい。
【0066】
上記の構成によれば、CaP及び親水性液体の混合物に混合しても分散体を形成し得ない疎水性物質を用いた場合であっても、カルボニル基を有する飽和有機化合物を当該疎水性物質に溶解させることで、界面活性剤等を用いることなく、簡便に、分散体を製造することができる。
【0067】
本発明に係る分散質の集合方法は、上記課題を解決するために、親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを含み、上記親水性液体及び上記疎水性物質の内、いずれか一方を分散媒とし、他方を分散質とし、リン酸カルシウムを分散剤とする分散体に、酸性化合物を混合することを特徴としている。
【0068】
上記の構成によれば、酸性化合物が混合されることにより、親水性液体のpHが低下する。CaPは、酸性、特にpHが5未満の液体に好適に溶ける。そのため、親水性液体のpHが低下すれば、親水性液体と疎水性物質との界面に吸着していたCaPは親水性液体に溶解する。そして、親水性液体中に分散していた疎水性物質の滴、又は、疎水性物質中に分散していた親水性液体の滴は、滴の形状を保つことができなくなる。よって、酸性化合物を加えることで、容易に、分散体中の分散質を集合させることができる。
【0069】
本発明に係る分散質の集合方法を用いれば、例えば、地中のポンプによる汲み上げが困難な、粘度の高い原油の回収が容易になる。まず、原油に対して水及びCaPを混合して分散体を形成して粘度を低下させる。ここで、CaPを混合するだけでは分散体が形成しない場合は、当該油に溶解するカルボニル基を有する飽和有機化合物を混合した上で、CaPを混合することで、分散体を形成する。そして、当該分散体をポンプ等で汲み上げて回収槽等に移した上で、酸性化合物を混合することで、水成分と油成分とを分け、油成分のみの回収を容易とする。
【0070】
また、上記の構成によれば、酸性条件下においてCaPを溶解させることで分散体内部の油を放出することが可能となるため、ドラッグデリバリシステムのキャリアとして応用可能である。
【0071】
本発明に係る分散質の再分散方法は、上記課題を解決するために、親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを含み、上記親水性液体及び上記疎水性物質の内、いずれか一方を分散媒とし、他方を分散質とし、リン酸カルシウムを分散剤とする分散体に、酸性化合物を混合することによって、上記分散質が集合した液体に、アルカリ性化合物を混合することを特徴としている。
【0072】
上記の構成によれば、アルカリ性化合物が混合されることにより、親水性液体のpHが高くなる。CaPは、pHが5以上の液体には溶け難いため、当該親水性液体から析出する。そのため、CaPは、親水性液体と疎水性物質との界面に、吸着されて、密集するため、アルカリ性化合物を混合することで、再度、分散質を分散媒中に分散させて、分散体を得ることができる。
【0073】
例えば、本発明に係る分散質の再分散方法を用いれば、上述した油を回収するために用いたCaPを再利用することができる。つまり、上述の本発明に係る分散質の集合方法において、酸性となりCaPを溶解した親水性液体を、原油に混合する。その上で、アルカリ性化合物を、添加して攪拌する等により混合することで、分散体を形成することができる。よって、上述の本発明に係る分散質の集合方法で説明した油を回収する方法と同様に、油を回収することができる。
【0074】
本発明に係るリン酸カルシウム中空粒子の製造方法では、上記課題を解決するために、下記の(i)及び(ii)の工程を含むことを特徴としている;
(i)親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを混合して分散体を製造する工程;
(ii)上記分散体を焼成する工程。
【0075】
上記の構成によれば、分散体中に含まれる親水性液体及び疎水性物質が除去され、焼成されたCaPは残存する。そして、CaPにより形成されていた滴に由来する、空の孔を有するCaP中空粒子を得ることができる。
【0076】
従って、生体吸収性の高いCaPによって形成され、かつ微細な孔を有するCaP中空粒子を提供することができる。
【0077】
本発明に係るリン酸カルシウム中空粒子の製造方法では、上記(ii)の工程の前に、(iii)上記分散体を乾燥する工程を含むことがより好ましい。
【0078】
上記分散体を乾燥させることで、分散体中の分散媒が蒸散して除去される。そして、当該分散媒を除去した上で焼成することで、中空粒子同士が融着することを防ぐことができる。また、段階的にCaPに加わる熱の温度を上げることで、CaP中空粒子の形状が崩れることを防ぐことができる。
【0079】
本発明に係るリン酸カルシウム中空粒子は、上記課題を解決するために、上記の本発明にかかるリン酸カルシウム中空粒子の製造方法によって得られたリン酸カルシウム中空粒子であることを特徴としている。
【0080】
上記の構成によれば、生体吸収性の高いCaPによって形成され、かつ微細な孔を有するCaP中空粒子を提供することができる。
【0081】
本発明に係るリン酸カルシウム多孔質体の製造方法は、上記課題を解決するために、下記の(iv)〜(vi)の工程を含むことを特徴としている:
(iv)親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを混合して分散体を製造する工程;
(v)上記分散体中に分散している滴を密集させる工程;
(vi)密集した上記滴を焼成する工程。
【0082】
上記の構成によれば、分散体中の親水性液体及び疎水性物質が、焼成されることで蒸散して除去され、CaPのみが残存する。そして、CaP粒子同士が接触するように密な状態で焼成されることで、CaP粒子同士が融着して、CaP多孔質体を得ることができる。
【0083】
また、上記CaP多孔質体を形成するCaPは、分散体中に分散する微細な滴を被覆していたCaPであるため、当該滴の大きさ程度の孔を多数有する。
【0084】
従って、生体吸収性の高いCaPによって形成され、かつ微細な孔を多数有するCaP多孔質体を、簡便に得ることができる。
【0085】
本発明に係るリン酸カルシウム多孔質体の製造方法では、上記(vi)の工程の前に、(vii)上記分散体を乾燥する工程を含むことがより好ましい。
【0086】
上記分散体を乾燥させることで、段階的にCaPに加わる熱の温度が上がるため、CaP多孔質体が崩れることを防ぐことができる。
【0087】
本発明に係るリン酸カルシウム多孔質体は、上記課題を解決するために、上記の本発明に係るリン酸カルシウム多孔質体の製造方法によって得られたリン酸カルシウム多孔質体であることを特徴としている。
【0088】
上記の構成によれば、生体吸収性の高いCaPによって形成され、かつ微細な孔を多数有するCaP多孔質体を提供することができる。
【0089】
本発明に係るリン酸カルシウム複合微粒子の製造方法は、上記課題を解決するために、任意の物質がリン酸カルシウムで被覆されてなるリン酸カルシウム複合微粒子の製造方法であって、下記の(viii)及び(ix)の工程を含むことを特徴としている:
(viii)親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを混合して分散体を製造する工程;
(ix)上記分散体を乾燥させる工程。
【0090】
上記の構成によれば、任意の物質が親水性液体又は疎水性物質に溶解された分散体を作製して、目的に応じて、上記分散体を乾燥させることにより、当該任意の物質がCaPにより被覆されたCaP複合微粒子を、製造することができる。よって、様々な種類の物質をCaPで被覆した、CaP複合微粒子を提供することができる。CaPは生体親和性に優れているため、当該任意の物質が、生体親和性の低い薬剤等であっても、当該任意の物質を生体に取り込ませることができる。
【0091】
従って、生体親和性の低い物質を、生体に良好に親和させることができ、簡便に製造可能なCaP複合微粒子を提供することができる。
【0092】
本発明に係るリン酸カルシウム複合微粒子の製造方法では、上記(viii)の工程で製造する上記分散体が、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質、又は親水性液体を分散媒として、上記分散媒中に第1の滴が分散しており、上記第1の滴中に第2の滴が分散している分散体であり、上記(viii)の工程が、上記疎水性物質と、上記親水性液体と、上記リン酸カルシウムとを混合することで、上記分散媒を上記親水性液体とするときは上記親水性液体を、上記分散媒を上記疎水性物質とするときは上記疎水性物質を、上記リン酸カルシウムで被覆してなる上記第2の滴が、当該親水性液体及び当該疎水性物質のうち上記分散媒でない方の中に分散する第1の分散体を形成する第1混合工程と、上記第1の分散体と、上記分散媒と、上記リン酸カルシウムとを混合することで、当該第1の分散体をリン酸カルシウムが被覆してなる第1の滴が、上記分散媒中に分散する第2の分散体を形成する第2混合工程と、を含む工程であり、上記第1混合工程において、上記親水性液体及び上記疎水性物質のうち少なくとも一方に、上記任意の物質を予め混合させておく製造方法であってもよい。
【0093】
上記の構成によれば、有用物質を内部に分散させたリン酸カルシウム複合微粒子を容易に製造することができる。例えば、分散媒中に分散した滴の中にさらに分散している滴となる親水性液体又は疎水性物質に任意の物質を溶解させておき、分散媒を蒸発させれば、当該リン酸カルシウム複合微粒子を容易に製造することができる。また、界面活性剤を使用しなくてもよいので、生体用材料として好適なリン酸カルシウム複合微粒子を得ることができる。
【0094】
本発明に係るリン酸カルシウム複合微粒子の製造方法では、上記(viii)の工程において、上記任意の物質を、上記親水性液体又は上記疎水性物質に予め混合することが好ましい。
【0095】
上記の構成によれば、上記任意の物質を、予め、上記親水性液体又は上記疎水性物質に対して、溶解又は分散等して充分に混合させた上で用いるため、上記任意の物質が溶けずに残存することによるロスを抑え、CaP複合微粒子の生産性を向上させることができる。
【0096】
本発明に係るリン酸カルシウム複合微粒子は、上記課題を解決するために、上記の本発明にかかるリン酸カルシウム複合微粒子の製造方法によって得られたリン酸カルシウム複合微粒子であることを特徴としている。
【0097】
上記の構成によれば、生体親和性の低い物質を、生体に良好に親和させることができ、簡便に製造可能なCaP複合微粒子を提供することができる。
【0098】
本発明に係る生体用材料は、上記課題を解決するために、上記の本発明に係る分散体を含むことを特徴としている。
【0099】
上記の構成によれば、生体親和性に優れたCaPを用いた分散体を含むため、生体親和性に優れた生体用材料を提供することができる。
【0100】
また、本発明に係る生体用材料は、上記課題を解決するために、上記の本発明に係るリン酸カルシウム多孔質体を含むことを特徴としている。
【0101】
上記の構成によれば、生体親和性に優れたCaP多孔質体を含むため、生体親和性に優れた生体用材料を提供することができる。
【0102】
また、本発明に係る生体用材料は、上記課題を解決するために、上記の本発明に係るリン酸カルシウム中空粒子を含むことを特徴としている。
【0103】
上記の構成によれば、生体親和性に優れたCaP中空粒子を含むため、生体親和性に優れた生体用材料を提供することができる。
【0104】
また、本発明に係る生体用材料は、上記課題を解決するために、上記の本発明に係るリン酸カルシウム複合微粒子を含むことを特徴としている。
【0105】
上記の構成によれば、生体親和性に優れたCaP複合微粒子含むため、生体親和性に優れた生体用材料を提供することができる。
【0106】
本発明に係る薬物担体は、上記課題を解決するために、上記の本発明に係る生体用材料を含むことを特徴としている。
【0107】
上記の構成によれば、上記本発明に係る生体用材料を含むため、生体親和性に優れた薬物担体を提供することができる。
【0108】
本発明に係る細胞培養材料は、上記課題を解決するために、上記の本発明に係る生体用材料を含むことを特徴としている。
【0109】
上記の構成によれば、上記本発明に係る生体用材料を含むため、生体親和性に優れた細胞培養材料を提供することができる。
【0110】
本発明に係る医療用材料は、上記課題を解決するために、上記の本発明に係る生体用材料を含むことを特徴としている。
【0111】
上記の構成によれば、上記本発明に係る生体用材料を含むため、生体親和性に優れた医療用材料を提供することができる。
【0112】
本発明に係る歯科用材料は、上記課題を解決するために、上記の本発明に係る生体用材料を含むことを特徴としている。
【0113】
上記の構成によれば、上記本発明に係る生体用材料を含むため、生体親和性に優れた歯科用材料を提供することができる。
【発明の効果】
【0114】
上記のように、本発明に係る分散体及び本発明に係る分散体の製造方法によれば、簡便に製造することができ、安定であり、かつ界面活性剤を含まない分散体を提供することができるという効果を奏する。
【0115】
また、本発明に係る分散質の集合方法によれば、容易に、分散体中の分散質を集合させることができるという更なる効果を奏する。
【0116】
また、本発明に係る分散質の再分散方法によれば、分散質を、分散媒中に再度分散させて、分散体を得ることができるという更なる効果を奏する。
【0117】
また、本発明に係るリン酸カルシウム中空粒子の製造方法によれば、生体吸収性の高いCaPによって形成され、かつ微細な孔を有するCaP中空粒子を提供することができるという更なる効果を奏する。
【0118】
また、本発明に係るリン酸カルシウム多孔質体の製造方法によれば、生体吸収性の高いCaPによって形成され、かつ微細な孔を多数有するCaP多孔質体を簡便に得ることができるという更なる効果を奏する。
【0119】
また、本発明に係るリン酸カルシウム複合微粒子の製造方法によれば、生体親和性の低い物質を、生体に良好に親和させることができ、かつ簡便に製造可能なCaP複合微粒子を提供することができるという更なる効果を奏する。
【0120】
また、本発明によれば、生体親和性に優れた、生体用材料、特に、薬物担体、細胞培養材料、医療用材料、歯科用材料を提供することができるという更なる効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0121】
本発明の実施の形態について説明すれば、以下のとおりである。尚、本発明はこれに限定されるものではない。
【0122】
〔本発明に係る分散体及びその製造方法〕
本発明に係る分散体は、親水性液体、疎水性物質、及びリン酸カルシウムを含む分散体であって、上記疎水性物質は、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む物質であればよい。
【0123】
つまり、本発明に係る分散体では、親水性液体及び疎水性物質の内、いずれか一方が分散媒として、他方が分散質となり、CaPが分散剤となる。例えば、親水性液体が分散媒となり、疎水性物質が分散質となり、CaPは、当該疎水性物質表面を被覆して滴を形成する。換言すれば、CaPで被覆された疎水性物質の滴が、親水性液体中に分散した分散体を得ることができる。また、同様に、疎水性物質を分散媒として、CaPで被覆された親水性液体の滴が分散した分散体を得ることができる。どちらの分散体を得ることができるかは、親水性液体及び疎水性物質の種類及び体積比、温度、圧力、容器壁の性質等によって異なる。
【0124】
さらに、CaPは上記親水性液体と上記疎水性物質との界面に、安定かつ高濃度に密集するため、CaP以外の分散剤、例えば界面活性剤を含まない安定な分散体を得ることができる。例えば、疎水性物質が、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、及びカルボニル基を有する環状オレフィンの内、少なくとも一つの化合物を含む場合は、当該化合物中のカルボニル基とCaP表面のカルシウムイオンとの、静電相互作用により、互いに引力を生じさせ、上記界面に密集する。
【0125】
本明細書において、「分散体」とは、微粒子及び媒体を含む物質であって、当該微粒子が当該媒質中に分散しているものを意図する。具体的には、本明細書では、親水性液体及び疎水性物質のうち、いずれか一方が分散媒となり、他方が分散質として微小な滴となり、当該分散媒中に分散したものを意図する。また、本明細書において「分散質」とは、分散体中に分散している微粒子を意図する。なお、分散媒中に分散している分散質はCaPで被覆されているので、分散体中に分散しておりCaPで被覆された分散質を単に「滴」と表記することもある。また、「分散媒」とは、微粒子を分散させている媒体を意図する。
【0126】
本明細書において、「親水性液体」とは、水、又は、水に親和性のある液体であって任意の量を水に均一に混合することができる液体を意図する。
【0127】
本明細書において「疎水性物質」とは、任意の量を水に均一に混合することができない、液体、ゲル、固体等の物質を意図し、例えば油等を意図する。なお、本明細書において「ビニレン化合物」及び「環状オレフィン」とは、それぞれ、大津隆行、改訂高分子合成の化学、化学同人、1968、35頁に記載の「ビニレン化合物」及び「環状オレフィン」を意図する。
【0128】
本発明に係る分散体に含まれる親水性液体としては、特に限定されるものではなく、例えば水、メタノール、エタノール等が挙げられるが、中でも水が好ましい。水は容易に入手可能であり、また、人体および環境への負荷がなく、さらに、後述するCaP多孔質体等の製造に当該分散体を用いる場合、親水性液体を除去する必要があるが、水を除去することは容易だからである。また、本発明に係る分散体に含まれる親水性液体のpHが、高いことが好ましい。具体的には、5以上が好ましく、より好ましくは7.7以上である。CaPは、pHが低い親水性液体には可溶であるが、親水性液体のpHが5以上であれば、CaPが親水性液体に溶解することを防ぐことができる。
【0129】
本発明に係る分散体に含まれる疎水性物質としては、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む物質である限り、特に限定されるものではない。つまり、本発明に係る分散体に含まれる疎水性物質としては、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物自体であってもよく、当該化合物が、溶解又は分散等により、他の疎水性物質に混合された物質であってもよい。また、当該化合物の中でも、カルボニル基を有する飽和有機化合物、アルカンが好ましい。以下、説明の簡単のため、「カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物」を、単に「カルボニル基を有する飽和有機化合物等」と表記する。
【0130】
上記カルボニル基を有する飽和有機化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、ミリスチン酸メチル等のミリスチン酸エステル、トリメチル酢酸メチル等のトリメチル酢酸エステル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸オクチル等の酢酸エステル、プロピオン酸メチル等のプロピオン酸エステル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ペンチル等の酪酸エステル、吉草酸ペンチル、吉草酸ペンチル等の吉草酸エステル、サリチル酸メチル等のサリチル酸エステル、カプロン酸エチル等のカプロン酸エステル等、ヘプタン酸エステル、オクタン酸エステル、ノナン酸エステル、デカン酸エステル、ドデカン酸エステル、テトラデカン酸エステル、ペンタデカン酸エステル、ヘキサデカン酸エステル、ヘプタデカン酸エステル、オクタデカン酸エステル、ノナデカン酸エステル、イコサン酸エステル、ドコサン酸エステル、テトラコサン酸エステル、ヘキサコサン酸エステル、オクタコサン酸エステル、トリアコンタン酸エステルの飽和脂肪酸エステルが好ましく、中でもミリスチン酸メチルが好ましい。飽和脂肪酸エステルを用いれば、得られる分散体の安定性が向上し、製造後、長期間経過しても親水性液体と疎水性物質とが分離することの無い、安定な分散体を得ることができる。例えば、ミリスチン酸メチルを用いれば、6ヶ月以上も保存可能という安定な分散体を得ることができる。
【0131】
また、上記アルカンとしては、特に限定されるものではないが、炭素数5以上30以下のアルカンが好ましく、ドデカン、ヘキサンがさらに好ましく、n−ドデカン、n−ヘキサンが特に好ましい。炭素数5以上30以下のアルカンを用いれば、得られる分散体の安定性が向上し、作製後、長期間経過しても親水性液体と疎水性物質とが分離することの無い、安定な分散体を得ることができる。また、常温で液体であるアルカンが好ましいが、用いるアルカンの凝固点が、用いる親水性液体の凝固点以下であることにより、当該アルカンが当該親水性液体を凍結することがない限り、限定されるものではない。なお、炭素数5以上17以下のアルカンであれば常温で液体であるため、扱いが容易であり、本発明に係る分散体を簡便に得ることができる。また、炭素数18以上30以下のアルカンであっても、他の溶媒を用いて当該アルカンを溶解させた上で、当該溶媒を用いれば、本発明に係る分散体を得ることができる。
【0132】
また、親水性液体及びCaPの混合物に混合しても分散体を形成しない疎水性物質であっても、上記カルボニル基を有する飽和有機化合物等を含む物質を、溶解又は分散させる等によって混合した上で、当該疎水性物質を用いれば、本発明に係る分散体を得ることができる。当該疎水性物質としては、上記カルボニル基を有する飽和有機化合物等と混合しても、疎水性が維持されるものであり、かつ当該カルボニル基を有する飽和有機化合物等を均一に混合可能なものであれば限定されるものではなく、例えば、ジクロロメタン、トルエン、クロロホルム、1−ウンデカノールを用いてもよく、後述する炎症を治療するための薬剤等を用いてもよい。
【0133】
上述した、親水性液体及びCaPの混合物に混合しても分散体を形成しない疎水性物質に混合する、カルボニル基を有する飽和有機化合物等としては、特に限定されるものではないが、カルボニル基を有し、飽和有機化合物である、生分解性ポリマーであることが好ましい。カルボニル基を有する飽和有機化合物である生分解性ポリマーとしては、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、グリコリド-ラクチド共重合体、グリコリド-トリメチレンカーボネート共重合体、グリコリド-εカプロラクトン共重合体、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸(PHB)、3−ヒドロキシ酪酸−3−ヒドロキシ吉草酸共重合体(PHBV)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリカプロラクトン(PLC)、酢酸セルロース系(PH)重合体、ポリエチレンサクシネート(PESu)、ポリエステルアミド、変性ポリエステル、が挙げられるが、中でもポリ乳酸が好ましい。生分解性ポリマーを用いれば、本発明に係る分散体の、生体吸収性等の生体親和性を向上させることができる。
【0134】
また、分散媒を疎水性物質とする場合において、CaPが分散しにくい疎水性物質を用いる場合、当該疎水性物質にポリ乳酸を予め混合させておき、かつ分散剤としてポリ乳酸で修飾したCaPを用いることがより好ましい。
【0135】
CaPをポリ乳酸で修飾する方法としては特に限定されるものではない。例えば、後述する実施例では、ポリ乳酸とロッド状CaPとの混合物を固体状態で熱処理することで、ロッド状CaPをポリ乳酸で修飾した。また、溶液中にポリ乳酸及びロッド状CaPが溶解又は懸濁している状態で熱処理してもよく、CaP存在下で乳酸(モノマー)を重合させてポリ乳酸をCaP表面にグラフト化させてもよい。このようにCaPをポリ乳酸で修飾する方法についてはX. Qui, L. Chen, J. Hu, J. Sun, Z. Hong, A. Liu, X. Chen, X. Jing, Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry, 2006, Vol. 43 5177-5185、Z. Hong, P. Zhang, A. Liu, Li. Chen, X. Chen, Z. Jing, Journal of Biomedical Materials Research, 2007, Vol. 81A, 515-522等の文献を参照できる。
【0136】
本発明に係る分散体で用いるCaPの形態、種類は、特に限定されるものではなく、分散体の用途等に応じて適宜選択すればよいが、例えば、HAp(Ca10(PO4)6(OH)2)、リン酸トリカルシウム(Ca3(PO4)2)、メタリン酸カルシウム(Ca(PO3)2)、Ca10(PO4)6F2、Ca10(PO4)6Cl2などが挙げられる。中でも、生体適合性の高さからHApが好ましく、HApの焼結体がさらに好ましい。
【0137】
また、上記CaPとしては、平均粒子径1nm以上1000nm以下であるナノメートルサイズの粒子であることが好ましい。ナノメートルサイズのCaP粒子を用いれば、親水性液体と疎水性物質との界面に、より高濃度かつ安定に、CaPが密集するため、さらに安定な分散体を得ることができる。また、分散体中に分散する滴の径が小さい分散体を得ることができる。上記ナノメートルサイズのCaP粒子の形状は、特に限定されるものではなく、球状、ロッド状、ファイバー状等、種々の形状の内、適宜選択すればよい。
【0138】
上記CaPは、湿式法や、乾式法、加水分解法、水熱法などの従来公知の製造方法によって人工的に製造されたものであってもよく、また、骨、歯等から得られる天然由来のものであってもよい。また、CaPには、CaPの水酸イオン及び/又はリン酸イオンの一部が炭酸イオン、塩化物イオン、フッ化物イオン等で置換された化合物などが含まれていてもよい。例えば、特開2006−130007に記載されたCaPの製造方法によって製造されたCaPが本発明に利用され得る。
【0139】
また、ナノメートルサイズのCaP粒子は、従来公知の方法で得ればよいが、例えば、硝酸カルシウム等のカルシウム塩の水溶液に、リン酸アンモニウム等のリン酸塩を混合して得ればよい。このとき、CaP以外の沈殿物が生じない組合せで、カルシウム塩及びリン酸塩を選択することが好ましい。また、リン酸塩を加える方法やpHにより、様々な形状のCaPの粒子を得ることができる。リン酸塩を一括して加えれば、球状のCaP粒子が得られ、アルカリ性のリン酸塩溶液を連続して滴下すれば、ロッド状のCaP粒子が得られ、中性のリン酸塩溶液を連続して滴下すれば、ファイバー状のCaP粒子を得ることできる。
【0140】
なお、本明細書において「平均粒子径」とは、個々の粒子における径の、粒子群全体での平均を意図するが、ロッド状粒子、又は、ファイバー状粒子の場合は、個々の粒子における長径の粒子群全体での平均と、個々の粒子における短径の粒子群全体での平均をいう。なお、本明細書では、桿状のCaP粒子を「ロッド状粒子」と表記し、中でも長径が1μm以上のものを「ファイバー状粒子」と表記する。
【0141】
本発明に係る分散体の製造方法は、上記カルボニル基を有する飽和有機化合物等を含む疎水性物質と、親水性液体と、リン酸カルシウムとを混合する工程を含めばよい。例えば、上述した親水性液体、疎水性物質及びCaPを攪拌することで、本発明に係る分散体を製造することができる。当該攪拌は、従来公知の機器、方法により行なえばよく、例えば、ホモジナイザー等の攪拌機、振盪機、超音波乳化装置、電気乳化装置、シラスポーラスガラス膜乳化装置、マイクロチャネル乳化装置等を用いてもよく、手で振ってもよい。また、攪拌速度や攪拌時間等の攪拌の条件は、用いる親水性液体及び疎水性物質の種類に応じて適宜設定すればよい。
【0142】
上述した親水性液体及びCaPの混合物に混合しても分散体を形成しない疎水性物質を用いて、本発明に係る分散体を製造するときは、当該親水性液体と、当該疎水性物質と、CaPと、上記カルボニル基を有する飽和有機化合物等とを、予め、溶解又は分散させる等によって混合すればよい。また、予め当該疎水性物質に、上記カルボニル基を有する飽和有機化合物等を混合して、用いてもよい。
【0143】
本発明に係る分散体の製造方法で用いる、親水性液体と、疎水性物質との含有量の体積比は、分散体の用途や、親水性液体、疎水性物質の種類に応じて適宜設定すればよい。親水性液体を分散媒とする場合は、体積比で99.9:0.1〜40:60であることが好ましく、さらに好ましくは99:1〜50:50である。疎水性物質を分散媒とする場合は、親水性液体と疎水性物質との体積比は、0.1:99.9〜60:40であることが好ましく、さらに好ましくは1:99〜50:50である。なお、どのような親水性液体及び疎水性物質の組合せであればどちらが分散媒となりどちらが分散質となるかという点については、親水性液体及び疎水性物質の種類の影響も受けるものであり、当業者はその組合せから、この点について容易に理解する。
【0144】
本発明に係る分散体の製造方法において用いるCaPの質量は、親水性液体及び疎水性物質の内、分散媒とする方の液体又は物質の質量に対して、0.01〜20質量%が好ましく、さらに好ましくは、0.1〜10質量%である。
【0145】
なお、本発明に係る分散体は、親水性液体及び疎水性物質のうちいずれか一方を分散媒として、他方を分散質とする、いわゆるO/W型分散体又はW/O型分散体に限定されるものではない。つまり、本発明に係る分散体は、上記親水性液体又は上記疎水性物質を分散媒として、上記分散媒中に第1の滴及び第2の滴を含む分散体であり、上記第1の滴が、上記親水性液体及び上記疎水性物質のうち上記分散媒ではない方を上記リン酸カルシウムが被覆してなるものであって、上記分散媒中に分散しているものであり、上記第2の滴が、上記分散媒が上記親水性液体であるときは上記親水性液体を、上記分散媒が上記疎水性物質であるときは上記疎水性物質を、上記リン酸カルシウムが被覆してなるものであって、上記第1の滴中に分散しているものであってもよい。
【0146】
当該分散体の実施形態としては、例えば、分散媒である親水性液体中に疎水性物質の滴が分散しており当該疎水性物質の滴中に親水性液体の滴が分散している分散体(以下、説明の便宜のため「W/O/W型分散体」と表記する)が挙げられる。このとき分散媒となる親水性液体と、疎水性物質の滴中に分散している親水性液体は同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。また、疎水性物質の滴中に分散している親水性液体には、分散体の用途に応じて任意の物質を溶解させておいてもよい。
【0147】
また、別の実施形態としては、例えば、分散媒である疎水性物質中に親水性液体の滴が分散しており当該親水性液体の滴中に疎水性物質の滴が分散している分散体(以下、説明の便宜のため「O/W/O型分散体」と表記する)が挙げられる。W/O/W型分散体と同様に、分散媒となる疎水性物質と、親水性液体の滴中に分散している疎水性物質は同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。また、親水性液体の滴中に分散している疎水性物質には、分散体の用途に応じて任意の物質を溶解させておいてもよい。
【0148】
分散媒中に分散した滴の中にさらに滴が分散している分散体を用いれば、有用物質を内部に分散させた粒子を容易に製造することができる。例えば、分散媒中に分散した滴の中にさらに分散している滴となる親水性液体又は疎水性物質に任意の有用物質を溶解させておき、分散媒を蒸発させれば、当該粒子を容易に製造することができる。また、界面活性剤を使用しなくてもこのような粒子が得られることから、生体用材料として好適な粒子を得ることができる。なお、当該粒子は本発明に係るリン酸カルシウム複合微粒子の一実施形態である。
【0149】
このようなO/W/O型分散体又はW/O/W型分散体は、次の製造方法により製造してもよい。即ち、本発明に係る分散体の製造方法には、上記分散体が、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質、又は親水性液体を分散媒として、上記分散媒中に第1の滴が分散しており、上記第1の滴中に第2の滴が分散している分散体であり、上記疎水性物質と、上記親水性液体と、上記リン酸カルシウムとを混合することで、上記分散媒を上記親水性液体とするときは上記親水性液体を、上記分散媒を上記疎水性物質とするときは上記疎水性物質を、上記リン酸カルシウムで被覆してなる上記第2の滴が、当該親水性液体及び当該疎水性物質のうち上記分散媒でない方のものの中に分散している第1の分散体を製造する第1混合工程と、上記第1の分散体と、上記分散媒と、上記リン酸カルシウムとを混合することで、当該第1の分散体をリン酸カルシウムが被覆してなる第1の滴が、上記分散媒中に分散する第2の分散体を製造する第2混合工程と、を含む製造方法が包含される。
【0150】
例えば、上述のW/O/W型分散体を製造する場合、疎水性物質が分散媒となるような疎水性物質及び親水性液体の種類及び容量等の組合せにて、当該疎水性物質、当該親水性液体及びリン酸カルシウムを混合して分散体(第1の分散体)を作製する。次に、第1の分散体とリン酸カルシウムと親水性液体とを混合することで分散体(第2の分散体)を作製する。このようにして得られた第2の分散体が、上述のW/O/W型分散体である。
【0151】
同様に、上述のO/W/O型分散体を製造する場合、親水性液体が分散媒となるような疎水性物質及び親水性液体の種類及び容量等の組合せにて、当該疎水性物質、当該親水性液体及びリン酸カルシウムを混合して分散体(第1の分散体)を作製する。次に、第1の分散体とリン酸カルシウムと疎水性物質とを混合することで分散体(第2の分散体)を作製する。このようにして得られた第2の分散体が、上述のW/O/W型分散体である。
【0152】
このように本発明に係る分散体の製造方法によれば、分散媒中に分散した滴の中にさらに滴が分散した分散体を、2回の混合工程により、簡便に製造することができる。
【0153】
本発明に係る分散体としてのW/O/W型分散体又はO/W/O型分散体に関する、親水性液体、疎水性物質、リン酸カルシウムに関する好ましい条件等は、これまでに説明した事項を準用できる。
【0154】
〔本発明に係る分散質の集合方法及び分散質の再分散方法〕
本発明に係る分散質の集合方法は、本発明に係る分散体に、酸性化合物を混合すればよい。本発明に係る分散体中の、親水性液体のpHが低下することにより、分散剤であるCaPが、当該親水性液体に溶解する。これにより、分散質は分散媒中に分散できなくなり、分散質が集合する。なお、本明細書において、「分散質が集合する」とは、分散体の安定性が失われ、滴を形成していた分散質が合一して連続層を形成することを意図する。換言すれば、「分散質が集合する」とは、安定性を失った分散質同士が衝突、融合して一つになり、その結果、分散していた分散質が一つになることを意図する。
【0155】
本発明に係る分散質の集合方法で用いる酸性化合物としては、特に限定されるものではないが、カルシウムイオンと混合したときに、水に不溶なカルシウム塩を形成しない酸であることが好ましく、中でも、硝酸、塩酸が好ましい。また、親水性液体のpHは、5以下にすることが好ましく、さらに好ましくは4以下である。なお、このときpHの下限値は、限定されるものではなく、本発明に係る分散質の集合方法を行なう際に用いられる反応器が耐えうる程度であればよい。
【0156】
また、本発明に係る分散質の集合方法における酸性化合物を混合する方法は、特に限定されるものではなく、例えば添加するのみでもよく、添加した上で軽く攪拌した後に静置する等してもよい。
【0157】
本発明に係る分散質の再分散方法は、本発明に係る分散質の集合方法により、分散質が集合した液体に、アルカリ性化合物を混合すればよい。
【0158】
当該液体に含まれる親水性液体のpHが高くなることで、親水性液体に溶解していたCaPが析出する。これにより、例えば親水性液体中で疎水性物質の滴が形成され、当該滴が分散することで、再度分散体が形成される。本明細書において、このように分散質が集合したものが、再度分散媒中に分散して、分散体を形成することを「再分散」と表記する。
【0159】
本発明に係る分散質の再分散方法で用いるアルカリ性化合物は、特に限定されるものではないが、水に不溶なリン酸塩を形成しないアルカリ性化合物が好ましい。リン酸イオンと混合したとき、水に不溶なリン酸塩を形成しないアルカリ性化合物としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物が挙げられるが、中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。なお、水に不溶なリン酸塩を形成するアルカリ性化合物であっても、当該リン酸塩が分散剤として機能する場合もあり、このとき本発明に係る分散質の再分散方法を好適に実施することができる。このように、水に不溶なリン酸塩を形成するが、当該リン酸塩が、分散剤として機能するアルカリ性化合物としては、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛等が挙げられる。また、親水性液体のpHは5以上にすることが好ましく、さらに好ましくは7.7以上である。なお、このときpHの上限値は、限定されるものではなく、再分散の際に用いられる反応器が耐えうる程度であればよい。
【0160】
また、本発明に係る分散質の再分散方法において、アルカリ性化合物を、例えば添加した上で攪拌する等によって、混合することで、良好に、上記分散質が集合した液体を再分散させることができる。当該攪拌は、上記の、本発明に係る分散体の製造方法における親水性液体、疎水性物質及びCaPの攪拌の説明に準じて行なえばよい。
【0161】
本発明に係る分散質の集合方法及び分散質の再分散方法は、繰り返して行なうことができる。つまり、本発明に係る分散体を含む反応器に、酸性化合物の混合、アルカリ性化合物の混合、酸性化合物の混合、と繰り返すことで、当該分散質の集合、再分散、分散質の集合を、繰り返すことができる。
【0162】
これは、例えば、地中のポンプによる汲み上げが困難な、粘度の高い原油の回収を容易にする。すなわち、原油に対して水及びCaPを混合して分散体を形成して粘度を低下させる。ここで、CaPを混合するだけでは分散体が形成しない場合は、当該油に溶解するカルボニル基を有する飽和有機化合物等を混合した上で、CaPを混合することで、分散体を形成する。そして、当該分散体をポンプ等で汲み上げて回収槽等に移した上で、酸性化合物を混合することで、水成分と油成分とを分け、油成分のみの回収を容易にする。さらに、上述した油を回収するために用いたCaPを再利用することができる。つまり、上述の本発明に係る分散質の集合方法において、酸性となりCaPを溶解した親水性液体を、原油に混合する。その上で、アルカリ性化合物を混合することで、分散体を形成することができる。よって、上述の本発明に係る分散質の集合方法で説明した油を回収する方法と同様に、油を回収することができる。このように、CaPを繰り返し利用することができるので、低コストかつ簡便に、粘度の高い原油を回収することができる。
【0163】
〔本発明に係るリン酸カルシウム中空粒子〕
本発明に係るリン酸カルシウム中空粒子(CaP中空粒子)の製造方法は、下記の(i)及び(ii)の工程を含めばよい:
(i)親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを混合して分散体を製造する工程;
(ii)上記分散体を焼成する工程。
【0164】
本発明に係る分散体が焼成されることにより、親水性液体及び疎水性物質が除去され、分散体中に分散していた滴を形成していたCaPが残存する。よって、当該滴の形状に由来する中空構造を有する、CaP中空粒子を得ることができる。このとき、本発明に係るCaP中空粒子の製造方法に、上述したナノメートルサイズのCaP粒子を用いれば、極めて薄い厚さの殻のCaP中空粒子を得ることができる。当該殻の厚さは、1個のCaP粒子の厚さとなり例えば1nm以上1000nm以下の厚さとなる。また、当該殻上には、多数の貫通孔が形成される。これは、CaP粒子間の隙間に由来する孔であり、後述する焼成温度によって、当該貫通孔の径が異なる。焼成温度が高いほど貫通孔の径が小さくなり、焼成温度が低ければ、貫通孔の径が大きくなる。例えば、焼成温度が500℃の場合、100nm〜500nmの径を有する貫通孔が形成される。
【0165】
なお、本明細書において「中空粒子」とは、粒子の内部が空であり、殻を構成する物質のみからなる粒子を意図する。つまり、本発明に係るCaP中空粒子は、殻がCaPで形成され、内部が空の粒子である。
【0166】
本発明に係るCaP中空粒子の製造方法において、上記(i)の工程は、上述した本発明に係る分散体の製造方法の説明に準じて行なえばよい。
【0167】
また、上記(i)の工程では、親水性液体に、疎水性物質の滴が分散した分散体を製造し、かつ、当該疎水性物質として、カルボニル基を有する飽和有機化合物である生分解性ポリマーを溶解した疎水性物質を用いることが好ましい。焼成する過程で、疎水性物質及び親水性液体が蒸散した後も、当該生分解性ポリマーは、熱分解するまで残存して、当該滴を被覆していたCaPの形状を保持する。よって、球状のCaP中空粒子を好適に得ることができる。
【0168】
本発明に係るCaP中空粒子の製造方法では、上記(i)の工程の後に、上記(ii)の工程を行なう。上記(ii)の工程において、分散体を焼成する温度は、分散体中から親水性液体及び疎水性物質を、蒸散や熱分解等によって除去できる温度である限り、限定されるものではない。例えば、500℃以上2000℃以下の範囲が好ましく、800℃以上1500℃以下の範囲がさらに好ましい。500℃以上であれば、CaPが焼結されて安定な構造のCaP中空粒子を得ることができる。2000℃以下であれば、個々のCaP中空粒子において、当該CaP中空粒子を構成するCaP同士が融着して、形状が崩れることを防ぐことができる。
【0169】
また、上記(ii)の工程では、上記分散体中の滴を密集させないようにして焼成することが好ましい。例えば、上記分散体を平板等に塗布した上で、焼成することが好ましく、塗布する厚さは、薄ければ薄いほどよいが、これに限定されない。後述の(vi)の工程のように、滴を密集させる工程を行なわなければよく、例えば、上記(i)の工程で得た分散体をそのまま焼成しても本発明に係るCaP中空粒子を製造することは可能である。
【0170】
平板上に塗布することで、分散体中に分散していた滴を形成していたCaPと、他の滴を形成していたCaPとが融着することを抑えることができる。さらに、薄く塗布することで、当該平板の鉛直方向に、上記分散体に分散していた滴が複数重なり、当該滴同士が融着することを防ぐことができる。なお、ここで用いる平板は、上述の焼成の温度に耐え得る限り、特に限定されるものではないが、例えば、ガラス、ステンレス、アルミナ等の材料からなる、蒸発皿、シャーレ等の底が平坦な反応器を用いればよい。
【0171】
また、本発明に係るCaP中空粒子の製造方法では、上記(i)の工程の後、上記(ii)の工程の前に、(iii)上記分散体を乾燥する工程を含むことが好ましい。分散体を乾燥させて、分散媒を除去した上で、焼成することで、CaP同士が融着することを防ぐことができる。また、段階的にCaPに加わる熱の温度を上げることで、CaP中空粒子の形状が崩れることを防ぐことができる。
【0172】
上記(iii)の工程において、分散体を乾燥させる温度及び圧力は、分散体中の分散媒を蒸発させることができる温度及び圧力であれば限定されるものではない。なお、上記(iii)の工程の乾燥によって、分散媒が除去されることで残存した、分散体中に分散していた滴は、後述する本発明に係るCaP複合微粒子の一実施形態であるといえる。
【0173】
〔本発明に係るリン酸カルシウム多孔質体〕
本発明に係るリン酸カルシウム多孔質体(CaP多孔質体)の製造方法は、下記の(iv)〜(vi)の工程を含めばよい:
(iv)親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを混合して分散体を製造する工程;
(v)上記分散体中に分散している滴を密集させる工程;
(vi)密集した上記滴を焼成する工程。
【0174】
本発明に係る分散体中に分散している滴を焼成することで、親水性液体及び疎水性物質が除去され、焼成されたCaPが残存する。さらに、CaP粒子同士を密集させているため、CaP粒子同士が融着する。これにより、CaP多孔質体を得ることができる。
【0175】
なお、本明細書において「多孔質体」とは、多数の微細な孔を有する物質であり、骨格となる物質中に、多数の微細な孔が複雑に連結して存在するスポンジ状多孔質もその意味に含む。
【0176】
つまり、本発明に係るCaP多孔質体の製造方法によれば、CaPを骨格とするスポンジ状の多孔質体を好適に得ることができる。また、本発明に係るCaP多孔質体は、疎水性物質の滴に由来する孔(マイクロメーターサイズ)及び、CaP粒子間の隙間(ナノメーターサイズ)の孔という、大きさの異なる孔を合わせもつ。
【0177】
本発明に係るCaP多孔質体の製造方法によれば、気孔率が70%〜99%、見かけの密度が0.03〜3×10−5g/cm3のCaP多孔質体を好適に得ることができる。
【0178】
本発明に係るCaP多孔質体の製造方法において、上記(iv)の工程は、上述した本発明に係る分散体の製造方法の説明に準じて行なえばよい。
【0179】
本発明に係るCaP多孔質体の製造方法では、上記(iv)の工程の後に、上記(v)の工程を行ない、その後に上記(vi)の工程を行なう。
【0180】
上記(v)の工程で、上記(iv)の工程で得た分散体中に分散している滴を密集させる方法は、特に限定されるものではないが、ろ紙等を用いて滴(分散質及びCaP)のみを回収してもよく、当該分散体を遠心分離、減圧ろ過、加圧ろ過に供してもよい。また、ろ過した後に、水圧プレスや油圧プレスによって、回収した滴同士の隙間を小さくして、回収した滴同士をさらに密着させてもよい。
【0181】
上記(vi)の工程において、分散体を焼成する温度は、分散体中から親水性液体及び疎水性物質を、蒸散や熱分解等によって除去できる温度である限り、限定されるものではない。例えば、500℃以上2000℃以下の範囲が好ましく、800℃以上1500℃以下の範囲がさらに好ましい。500℃以上であれば、CaPが焼結されて安定な構造のCaP多孔質体を得ることができる。2000℃以下であれば、CaP同士が融着することによる孔の数及び大きさの減少を防ぐことができ、より多くかつ微小なサイズの孔を有するCaP多孔質体を得ることができる。
【0182】
また、本発明に係るCaP中空粒子の製造方法では、上記(iv)の工程の後、上記(vi)の工程の前に、(vii)上記分散体を乾燥する工程を含むことが好ましい。段階的にCaPに加える温度を上げることで、CaP多孔質体が崩れることを防ぐことができる。
【0183】
上記(vii)の工程において、分散体を乾燥させる温度及び圧力は、分散体中の分散媒を蒸発させることができる温度及び圧力であれば限定されるものではない。なお、上記(vii)の工程の乾燥によって、分散媒が除去されることで残存した、分散体中に分散していた滴は、後述する本発明に係るCaP複合微粒子の一実施形態であるといえる。
【0184】
〔本発明に係るリン酸カルシウム複合微粒子〕
本発明に係るリン酸カルシウム複合微粒子(CaP複合微粒子)の製造方法は、下記の(viii)及び(ix)の工程を含めばよい:
(viii)親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを混合して分散体を製造する工程;
(ix)上記分散体を乾燥させる工程。
【0185】
本明細書において「リン酸カルシウム複合微粒子(CaP複合微粒子)」とは、CaP以外の任意の物質を、CaPで被覆した粒子を意図する。
【0186】
即ち、本発明に係るCaP複合微粒子の製造方法によれば、任意の物質を被覆したCaP複合微粒子を得ることができる。また、本発明に係るCaP複合微粒子の製造方法によれば、例えば、平均粒子径1μm〜1cmのCaP複合微粒子を良好に得ることができる。
【0187】
CaPで被覆する物質としては、親水性液体及び疎水性物質のうち、少なくとも一方の液体に対して溶解あるいは分散性を有していれば限定されるものではなく、用途に応じて、適宜選択すればよい。
【0188】
つまり、当該任意の物質は、親水性液体、上記カルボニル基を有する飽和有機化合物等であってもよく、これら以外の物質であってもよい。例えば、任意の物質が親水性液体又はカルボニル基を有する飽和有機化合物等であるときは、上記(viii)の工程で当該任意の物質が分散質となる分散体を製造してもよく、任意の物質がカルボニル基を有する飽和有機化合物等以外の物質であるときは、親水性液体及びカルボニル基を有する飽和有機化合物等のうち分散質となる方に当該任意の物質を溶解させておいてもよい。このように、上記(viii)の工程で製造する分散体の分散質に上記任意の物質が含まれるようにすればよい。
【0189】
例えば、当該任意の物質として、薬剤を用いてもよい。薬剤をCaPで被覆したCaP複合微粒子は、生体内で長時間継続して当該薬剤を徐々に放出することができる。CaPは生体親和性が高いが、即座に生体内の水分に溶解する物質ではないからである。
【0190】
また、炎症を治療するための薬剤をCaPで被覆したCaP複合微粒子を用いれば、炎症を効率的に治療することができる。即ち、上述の通り、CaPはpHが低い水に可溶であり、炎症した細胞付近ではpHが低いことが知られている。よって、当該CaP複合微粒子は、炎症した細胞付近で優位に溶解するため、炎症を効率的に治療することができるのである。
【0191】
このように本発明により得られるCaP複合微粒子は、DDSにも応用することができる。本発明において、CaPで被覆する物質として使用可能な薬剤としては、限定されるものではないが、例えば、アドリアマイシン、パクリタキセル、イリノテカン、トランスフォーミング増殖因子、上皮増殖因子、アドレノメデュリン、塩基性線維芽細胞増殖因子、血管内皮増殖因子、骨形成蛋白等が挙げられる。
【0192】
本発明に係るCaP複合微粒子の製造方法において、上記(viii)の工程では、上記任意の物質として親水性液体を選択した場合は、CaPと、上記カルボニル基を有する飽和有機化合物等を含む疎水性物質と、当該任意の物質とを混合して分散体を得ればよい。
【0193】
また、上記任意の物質として、親水性液体に可溶又は分散可能な物質を選択した場合は、CaPと、上記カルボニル基を有する飽和有機化合物等を含む疎水性物質と、当該任意の物質と、親水性液体とを混合して分散体を得ればよい。
【0194】
また、上記任意の物質として、カルボニル基を有する飽和有機化合物等を選択した場合は、当該任意の物質が液体であれば、当該任意の物質と、親水性液体と、CaPとを混合して分散体を得ればよく、当該任意の物質が液体でない場合は、当該任意の物質と、当該任意の物質を溶解又は分散させることが可能な疎水性物質と、親水性液体と、CaPとを混合して分散体を得ればよい。
【0195】
また、上記任意の物質として、上記カルボニル基を有する飽和有機化合物等以外の、疎水性物質を選択した場合は、当該任意の物質と、当該任意の物質を溶解又は分散させることが可能なカルボニル基を有する飽和有機化合物等と、親水性液体と、CaPとを混合して分散体を得ればよい。
【0196】
また、上記任意の物質を、親水性液体又はカルボニル基を有する飽和有機化合物等を含む疎水性物質に、予め溶解又は分散させる等により混合させた上で、分散体を製造してもよい。
【0197】
つまり、任意の物質として、どのような物質を選択したとしても、親水性液体及び疎水性物質のうち分散質となる方が、当該任意の物質を包含するようにした分散体を製造すればよい。
【0198】
なお、上記(viii)の工程における分散体の製造方法について、ここで説明していない構成は、上述した本発明に係る分散体の製造方法の説明に準じて行なえばよい。
【0199】
本発明に係るCaP複合微粒子の製造方法では、上記(viii)の工程の後に、上記(ix)の工程を行なう。
【0200】
上記(ix)の工程において、分散体を乾燥させるための温度及び圧力は、特に限定されないが、上記(viii)の工程で製造した分散体中の分散媒を蒸発させることが可能な温度及び圧力であってもよい。例えば、上記(viii)の工程において、分散媒を親水性液体とした分散体を製造した場合、当該親水性液体が蒸発可能な温度であればよい。また、室温で放置するだけでもよいし、濾過等行なって分散媒をある程度取り除いた後で、回収した濾物から残存する分散媒を除いてもよい。また、CaP複合微粒子の用途に応じて、分散質として用いた疎水性物質を蒸発させてもよいが、上記(ix)の工程では、分散媒を乾燥させる工程である限り限定されない。
同様に、上記(viii)の工程において、分散媒を疎水性物質とした分散体を製造した場合、当該疎水性物質が蒸発可能な温度であればよい。このとき、CaP複合微粒子の用途に応じて、分散質として用いた親水性液体を蒸発させてもよい。いずれの場合であって、上記分散体を乾燥させるための温度は、上記任意の物質が蒸発や熱分解によって、除去される温度より低い温度であることが好ましい。
【0201】
また、親水性の任意の物質が、CaPに被覆された油中に分散したCaP複合微粒子、及び、疎水性の任意の物質が、CaPに被覆された親水性液体中に分散したCaP複合微粒子も本発明に係るリン酸カルシウム複合微粒子の範疇である。
【0202】
このようなCaP複合微粒子も本発明に係るCaPの製造方法により製造することができる。このとき、本発明に係るCaP複合微粒子の製造方法は、上記(viii)の工程で製造する上記分散体が、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質、又は親水性液体を分散媒として、上記分散媒中に第1の滴が分散しており、上記第1の滴中に第2の滴が分散している分散体であり、上記(viii)の工程が、上記疎水性物質と、上記親水性液体と、上記リン酸カルシウムとを混合することで、上記分散媒を上記親水性液体とするときは上記親水性液体を、上記分散媒を上記疎水性物質とするときは上記疎水性物質を、上記リン酸カルシウムで被覆してなる上記第2の滴が、当該親水性液体及び当該疎水性物質のうち上記分散媒でない方の中に分散する第1の分散体を形成する第1混合工程と、上記第1の分散体と、上記分散媒と、上記リン酸カルシウムとを混合することで、当該第1の分散体をリン酸カルシウムが被覆してなる第1の滴が、上記分散媒中に分散する第2の分散体を形成する第2混合工程と、を含む工程であり、上記第1混合工程において、上記親水性液体及び上記疎水性物質のうち少なくとも一方に、上記任意の物質を予め混合させておく製造方法であってもよい。
【0203】
例えば、親水性の任意の物質が、CaPに被覆された疎水性物質中に分散したCaP複合微粒子を製造する場合について具体的に説明すると次の通りである。
【0204】
まず、親水性の任意の物質を親水性液体に溶解しておき、当該親水性液体と、上記疎水性物質と、CaPとを混合することで、当該疎水性物質中に当該親水性液体の滴が分散した分散体(第1の分散体)を製造する。次に、第1の分散体と、親水性液体と、CaPとを混合することで、親水性液体中に第1の分散体の滴が分散した分散体(第2の分散体)を製造する。この第2の分散体を乾燥させることで分散媒(親水性液体)を蒸発させると、親水性の任意の物質が、CaPに被覆された疎水性物質中に分散したCaP複合微粒子を得ることができる。
【0205】
また、例えば、疎水性の任意の物質が、CaPに被覆された親水性液体中に分散したCaP複合微粒子を製造する場合について具体的に説明すると次の通りである。
【0206】
まず、疎水性の任意の物質を上記疎水性物質に溶解しておき、当該疎水性物質と、親水性液体と、CaPとを混合することで、当該親水性液体中に当該疎水性物質の滴が分散した分散体(第1の分散体)を製造する。次に、第1の分散体と、疎水性物質と、CaPとを混合することで、疎水性物質中に第1の分散体の滴が分散した分散体(第2の分散体)を製造する。この第2の分散体を乾燥させることで分散媒(疎水性物質)を蒸発させると、疎水性の任意の物質が、CaPに被覆された親水性液体中に分散したCaP複合微粒子を得ることができる。
【0207】
この例では、任意の物質は第2の滴となるものに予め混合されているが、これに限定されるものではない。任意の物質は、第1の滴となるものに混合しておいてもよく、第1の滴及び第2の滴となるもの両方に混合しておいてもよい。
【0208】
〔本発明に係る分散体、CaP多孔質体、CaP中空粒子及びCaP複合微粒子の利用〕
本発明に係る生体用材料は、上述した、本発明に係る分散体、CaP多孔質体、CaP中空粒子及びCaP複合微粒子を含めばよい。
【0209】
本明細書において「生体用材料」とは、生体に対して用いる器材や薬剤等の製品の材料を意図する。
【0210】
本発明に係る生体用材料は、特に薬物担体、細胞培養材料、医療用材料、歯科用材料として好適に用いることができる。
【0211】
例えば、本発明に係る分散体において、分散している滴中に薬物を含有させて用いれば、当該滴の殻となるCaPは生体親和性が高いため、生体に良好に吸収される。また、本発明に係る分散体において、培地成分を分散媒として用いれば、細胞は、生体親和性の高いCaP上で良好に培養されるため、細胞培養材料として用いることができる。
【0212】
本発明に係るCaP多孔質体やCaP中空粒子を、薬物担体として用いることができる。例えば、薬物をこれらに含ませることで、生体内でさらに長時間継続して当該薬剤を徐々に放出することができる。また、本発明に係るCaP多孔質体やCaP中空粒子は生体親和性が高く、細胞接着性が高い。そのため、これらを細胞培養材料として用いて培地中に混合すれば、生体の細胞をCaP多孔質体やCaP中空粒子上で良好に培養することができる。
【0213】
また、本発明に係るCaP複合微粒子は、薬物担体として用いることができる。例えば、殻内に生分解性ポリマーを有する本発明に係るCaP複合微粒子に、さらに上記任意の物質として薬物を含ませたものは、生体内でさらに長時間継続して当該薬剤を徐々に放出することができる。このように、薬物を含ませたCaP複合微粒子は、生体吸収性の高い薬剤そのものとして用いることもできる。
【0214】
また、本発明に係るCaP複合微粒子は細胞培養材料として好適に利用できる。後述の実施例でも示すように、本発明に係るCaP複合微粒子は細胞接着性が高い。そのため、本発明に係るCaP複合微粒子は、例えば、細胞を培養する際の足場として好適に利用できる。また、殻内に増殖因子を含有させると、pH等によって当該増殖因子の溶出を制御できるので、細胞の増殖速度を制御可能な細胞培養材料として用いることができる。つまり、CaP複合微粒子の周囲のpHを低くすると、培地成分の溶出が多くなり、pHを高くすると培地成分の溶出が抑えられる。
【0215】
なお、本明細書において「細胞培養材料」とは、細胞の培養の際に、細胞の足場として用いる材料を意図する。
【0216】
本発明に係る生体用材料は、生体の骨や歯の成分と近いため、適宜、薬剤等と組み合わせることで、医療分野において、例えば、再生医療(組織工学)用細胞足場材料、血液浄化用材、塞栓療法用材、骨充填剤、歯科用充填剤、薬物徐放剤などの歯科用材料又は医療用材料として広く用いることができる。
【0217】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0218】
〔実施例1;分散剤として用いるCaPの製造〕
球状、ロッド状、ファイバー状の形態を有するCaPの粒子を湿式法で合成した。以下にそれぞれの粒子の合成法を示す。なお、後述するCa(NO3)2水溶液、(NH4)2HPO4水溶液、アンモニア水は、いずれも和光純薬工業(株)製のCa(NO3)2・4H2O、(NH4)2HPO4、25%アンモニア水を用いた。
【0219】
(球状CaP)
アンモニア水でpHを12に調整したCa(NO3)2水溶液(42mM;800mL)を、冷却管及び半月状攪拌翼を接続した1Lフラスコに注ぎ入れ、25℃に保った。このフラスコに、アンモニア水を用いてpHを12に調整した(NH4)2HPO4水溶液(100mM;200mL)を、25℃にて一気に添加した。その後、当該フラスコを10時間攪拌して、球状CaPを得た。
【0220】
(ロッド状CaP)
アンモニア水を用いてpHを12に調整したCa(NO3)2水溶液(42mM;800mL)をコンデンサー、半月状攪拌翼が設置された1Lフラスコに注ぎ入れ、80℃に保った。このフラスコに、アンモニア水を用いてpHを12に調整した(NH4)2HPO4水溶液(100mM;200mL)を80℃にて10mL/hの速度で添加した。その後、当該フラスコを24時間攪拌して、ロッド状CaPを得た。
【0221】
(ファイバー状CaP)
pHを調整していないCa(NO3)2水溶液(42mM;800mL)をコンデンサー、半月状攪拌翼が設置された1Lフラスコに注ぎ入れ、80℃に保った。80℃にて、このフラスコにpH調整しない(NH4)2HPO4水溶液(100mM;200mL)を10mL/hの速度で添加した。その後、当該フラスコを24時間攪拌してファイバー状CaPを得た。
【0222】
なお、得られたCaPを、いずれも、遠心分離した後、純水に媒体置換することで洗浄した。
【0223】
次に、得られた各CaPを走査型電子顕微鏡で観察した。結果を図1に示す。図1は、本実施例で得た各CaPを走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図であり、(a)は上記球状CaPの走査型電子顕微鏡画像を示し、(b)は上記ロッド状CaPの走査型電子顕微鏡画像を示し、(c)は上記ファイバー状CaPの走査型電子顕微鏡画像を示す。
【0224】
なお、走査型電子顕微鏡は、日本電子株式会社製、モデル名JSM-6301Fを用いて、倍率30000倍又は95000倍で観察を行った。
【0225】
図1から、球状CaP、ロッド状CaP、及び、ファイバー状CaPが得られたことが確認できた。
【0226】
また、得られた各CaPの粒子径及び密度を測定した。各CaPの粒子径は、上述の走査型電子顕微鏡観察により得た画像から求めた。各CaPの密度は、ピクノメーター(マイクロメトリックス社製、モデル名Accu Pyc 1300)を用いて、乾燥状態で室温にて測定を行なった。各CaPの粒子径及び密度を測定した結果を表1に示す。
【0227】
【表1】
【0228】
その結果、球状CaPの平均粒子径は40nmであり、変動係数は17%であった。ロッド状CaPの平均粒子径は、長径410nm(変動係数50%)、短径80nm(変動係数18%)であり、アスペクト比は5.1であった。ファイバー状CaPの平均粒子径は、長径2320nm(変動係数58%)、短径100nm(変動係数36%)であり、アスペクト比は24であった。ピクノメーターから求めた粒子の密度は、球状CaP粒子では2.72g/cm3、ロッド状CaPでは3.01g/cm3、ファイバー状CaPでは3.00g/cm3であった。
【0229】
次に、得られた球状CaPのゼータ電位を測定した。ゼータ電位の測定は、10mMのKNO3水溶液中に、球状CaPを分散させ、HNO3又はKOH水溶液を用いてpHを調製した後、ゼータ電位測定装置(マルヴァーン社製、モデル名Nano ZS ZEN3600)を用いて、室温にて行なった。ゼータ電位は典型的なS字曲線を描き、pH5.9付近に等電点を有することが示された。また、pH3.5以下では、球状CaPナノ粒子は水中に溶解し、無色透明のイオン水溶液となった。
【0230】
〔実施例2;CaPを分散剤とする分散体の作製〕
本実施例では、実施例1に記載の方法で得たロッド状CaPを分散剤とする、分散体を作製した。
【0231】
まず、親水性液体として水を用い、水に、1質量%の固形分濃度となるようにロッド状CaPを混合して、CaPを水に分散させた分散体を調製した。当該分散体(5mL)をサンプル瓶(15mL)に計り取り、HNO3及びKOH水溶液を用いてpHを調整した後、当該サンプル瓶に、5mLの疎水性物質を静かに混合した。次に、ホモジナイザー(IKA社製、モデル名Ultra-Turrax T-18)を用いて12,000rpm、20℃にて2分間攪拌して、分散体を得た。なお、以下の実施例において、分散体の作製に用いる親水性液体は全て水である。
【0232】
本実施例で用いた疎水性物質(以下、「油」と表記する)は、n-ドデカン、ミリスチン酸メチル、1-ウンデカノール、トルエン、n-ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、トリメチル酢酸メチルである。なお、n-ドデカン、ミリスチン酸メチル、1-ウンデカノールとしては、アルドリッチ製、n-ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタンとしては、フィッシャー・サイエンティフィック製、トリメチル酢酸メチルとしてはランカスター・シンセシス製のものを用いた。
【0233】
次に、上述したそれぞれの油を用いた各分散体のタイプ及び安定性の評価、各分散体の油滴の観察、及び、その大きさの測定を行なった。
【0234】
分散体のタイプは導電率計(Hana model Primo 5)を用いて、又は、当該分散体を水中および油中に滴下して評価した。導電率計を用いた場合、導電率が1mS/cm以上の場合を水中油滴型(分散媒が水であり、分散質が油である)の分散体、1mS/cm以下の場合を油中水滴型(分散媒が油であり、分散質が水である)の分散体と判断した。また、分散体を水中に滴下し、分散体が速やかに分散した系を水中油滴型と判断し、分散体を油中に滴下し、分散体が速やかに分散した系を油中水滴型と判断した。
【0235】
水中油滴型の分散体の安定性は、下記式(1)から求めた24時間静置後に、集合せずに分散体中に分散していた油の割合から評価した。
【0236】
100−(B/A×100) % 式(1)
ここで、Aは仕込みの疎水性物質の体積、Bは24時間放置後に分散体中の油が集合して生じた油層の体積である。
【0237】
分散体中の油滴の観察には、デジタルカメラ(Nikon Coolpix 4500)を搭載した光学顕微鏡(James Swift MP3502, Prior Scientific Instruments Ltd.)を用いた。また、油滴の大きさの測定には、レーザー回折・散乱法(Malvern Mastersizer 2000)を用いた。
【0238】
各分散体のタイプ及び安定性の評価、並びに、油滴の大きさを測定した結果を表2に示す。
【0239】
【表2】
【0240】
油として、ミリスチン酸メチルあるいはトリメチル酢酸メチルを用いた場合、24時間放置後においても分散体は安定に存在し、安定性は100%であった。n-ドデカンあるいはn-ヘキサンを用いた場合、24時間放置後の油相の70%以上が分散している安定な分散体が得られた。トルエン、クロロホルム、ジクロロメタンを用いた場合、ミリメートルサイズの巨大な油滴が形成されるのみで、分散体を得ることができなかった。1-ウンデカノールを用いた場合、ホモジナイザーで攪拌した後、すぐに水層と油層との分離が起こり、分散体を得ることができなかった。
【0241】
〔実施例3;実施例2で安定な分散体が得られなかった油を用いた分散体の作製〕
本実施例では、実施例2で安定な分散体を得ることができなかった油であるジクロロメタンに、カルボニル基を有する飽和有機化合物の生分解性ポリマーであるポリ乳酸を混合して、分散体の形成を試みた。
【0242】
まず、ジクロロメタン中に、ポリ乳酸(MW=150,000)をジクロロメタンに対して1質量%の濃度で溶解させた。
【0243】
なお、分散剤として、実施例1で得た球状CaPを用い、油としてポリ乳酸を溶解したジクロロメタンを用いた以外は、実施例2と同様の操作により分散体を作製した。
【0244】
図2に、本実施例により得た分散体を観察した結果を示す。図2において(a)は水とジクロロメタンとの混合物であり、(b)は水とポリ乳酸を溶解したジクロロメタンとの混合物であり、(c)及び(c’)は水とジクロロメタンとの混合物に球状CaPを分散させたものであり、(d)及び(d’)は水とポリ乳酸を溶解したジクロロメタンとの混合物に球状CaPを分散させたものを示す図である。なお、図2において、(c’)は(c)に示すサンプル瓶を、(d’)は(d)に示すサンプル瓶を、下部から観察した結果を示す図である。
【0245】
図2に示すように、ポリ乳酸を溶解していないジクロロメタンを用いた場合、巨大な油滴が形成されるのみで安定な分散体は形成されなかった。しかし、ポリ乳酸をジクロロメタン中に溶解させて、CaPを水中に混合することで安定な分散体を得ることができた。
【0246】
なお、ポリ乳酸をジクロロメタン中に溶解させた場合でも、水中にCaPが存在しない場合には、分散体が得られなかった。
【0247】
〔実施例4;CaPの形状が、得られる分散体に与える影響の評価〕
本実施例では、球状CaP、ロッド状CaP、ファイバー状CaPを、それぞれ、分散剤として用いたときの、得られる分散体中の油滴のサイズに与える影響を評価した。
【0248】
油としては、ミリスチン酸メチルを用いた。また、分散体の作製方法としては、実施例2と同様の操作を行なった。
【0249】
球状CaP、ロッド状CaP、ファイバー状CaPの、いずれの分散剤を用いて場合においても、24時間静置した後においても100%のまま安定に存在し、さらに、6ヶ月以上も保存可能という、安定な分散体が得られた。
【0250】
得られた分散体を光学顕微鏡で観察した結果を図3に、レーザー回折・散乱法によって、得られた分散体中の油滴サイズの分布を測定した結果を図4に示す。図3において、(a)は球状CaP、(b)はロッド状CaP、(c)はファイバー状CaPを、それぞれ分散剤として用いて得られた分散体の光学顕微鏡画像を示す。また、図4において(a)は球状CaP、(b)はロッド状CaP、(c)はファイバー状CaPを、それぞれ分散剤として用いて得られた分散体中の油滴サイズの分布を測定した結果を示す。なお、上記レーザー回折・散乱法による油滴のサイズ分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置(マルヴァーン社製;品番Mastersizer 2000;サンプル分散ユニットHydro 2000SM付属)を用いて測定した。
【0251】
図3及び図4に示すように、球状CaP、ロッド状CaP、ファイバー状粒子CaPの順に、油滴の大きい分散体が得られた。
【0252】
〔実施例5;溶剤のpHが、得られる分散体に与える影響の評価〕
本実施例では、分散媒を水として、水のpHが分散体の形成に与える影響を検討した。
【0253】
本実施例に係る分散体の作製には、油(分散質)としてミリスチン酸メチルを用い、分散剤として実施例1で得られた球状CaP粒子を用いた。また、水のpHを11.7、11.0、10.0、9.0、7.7、6.1、5.0、4.0とした以外は、実施例2と同様の操作によって、分散体の作製を行なった。
【0254】
分散体を作製した後、24時間後のそれぞれのサンプル瓶の外観を観察した結果を図5に示し、当該サンプル瓶の中身を光学顕微鏡で観察した結果を図6に示す。
【0255】
図5において、(a)は水のpHを11.7、(b)は水のpHを11.0、(c)は水のpHを10.0、(d)は水のpHを9.0、(e)は水のpHを7.7、(f)は水のpHを6.1、(g)は水のpHを5.0、(h)は水のpHを4.0としたときの、サンプル瓶の外観を示す。
【0256】
図6において、(a)は水のpHを4.0、(b)は水のpHを5.0、(c)は水のpHを6.1、(d)は水のpHを7.7、(e)は水のpHを9.0、(f)は水のpHを10.0、(g)は水のpHを11.0、(h)は水のpHを11.7としたときの、サンプル瓶の中身を光学顕微鏡で観察した結果を示す。
【0257】
図5及び6に示すように、pH7.7以上の系全てにおいて、24時間後においても分散質の集合は起こらず、分散体は100%のまま安定に存在した。さらに、pH7.7以上の系全ての分散体は、6ヶ月以上も保存可能という安定なものであった。なお、実施例4と同様に、レーザー回折・散乱法によって、分散体中の油滴径を測定した結果、当該油滴径のサイズ分布は、50〜100μmの範囲であった。
【0258】
また、図5及び6に示すように、pH6.1、pH5.0の系では、24時間後、1%から10%の油(分散質)が集合したものの、それ以外の油は分散体中に分散した。なお、pH6.1、pH5.0の系でも、6ヶ月以上保存可能な安定な分散体が得られた。また、光学顕微鏡を用いて観察を行ない、分散体の油滴径のサイズ分布を測定したところ、pH6.1の系では、10〜200μmの範囲であり、pH5.0の系では、20μm〜2mmの範囲であった。pH4.0の系では、攪拌後、油層と水層との界面にミリメーターサイズの油滴が形成されたが、時間の進行に伴い、油滴は油層に吸収され、消失した。図示しないが、水のpHを3.3以下とした分散体を、油としてミリスチン酸メチルを用い、分散剤として実施例1で得られた球状CaP粒子を用いて、実施例2に記載の操作と同様に分散体の作製を試みた。しかし、球状CaPは水中に溶解し、ホモジナイザーで攪拌後、数秒以内に油層と水層とが分離し、安定な油滴を得ることができなかった。
【0259】
〔実施例6;pH操作による分散質の集合・再分散〕
本実施例では、分散体の水(分散媒)のpHを下げることで、分散体中の分散質を集合させ、次に、pHを上げることで集合した分散質を再分散させて再度分散体を作製する検討を行なった。
【0260】
まず、分散剤として球状CaPを用い、油(分散質)としてミリスチン酸メチルを用いた分散体を作製した。分散体の作製は実施例2と同様の操作により行なった。
【0261】
得られた分散体のpHは7.8である。次に、当該分散体に硝酸を混合して、pH3.0以下に調整した。次に、水酸化カリウムを混合して、pHを5.0以上とした。これを繰り返して、硝酸の混合を5回、水酸化カリウムの混合を4回行なった。その結果を図7に示す。図7において、(a)は作製直後、(b)は1回目の硝酸混合後、(c)は1回目の水酸化カリウム混合後、(d)は2回目の硝酸混合後、(e)は2回目の水酸化カリウム混合後、(f)は3回目の硝酸混合後、(g)は3回目の水酸化カリウム混合後、(h)は4回目の硝酸混合後、(i)は4回目の水酸化カリウム混合後、(j)は5回目の硝酸混合後のサンプル瓶の外観を観察した結果を示す図である。
【0262】
図7(a)に示す本実施例で作製した分散体は、1回も硝酸を混合していない状態では6ヶ月以上も保存が可能な安定な分散体であった。しかし、硝酸を混合しpHを3.0以下に調整することによって、数十秒以内にすみやかに油が集合して、図7(b)に示すように水層と油層とが分離した。次に、水酸化カリウムを混合してpHを5以上に調整して、ホモジナイザーを用いて攪拌すると、図7(c)に示すように再分散した。この油の分散、油の集合の繰り返しが、5回可能であったことが確認できた。図7(c)、(e)、(g)、(i)に示す、再分散により作製された分散体の油滴径のサイズ分布を実施例2と同様の操作により計測したところ、図7(c)、(e)、(g)、(i)に示す全ての分散体に含まれる油滴径のサイズ分布は、47μm〜154μmの範囲であった。
【0263】
〔実施例7;CaPを用いた分散体を鋳型とする多孔質体〕
本実施例では、CaPを用いて作製した分散体を焼成することで、CaP多孔質体を作製した。
【0264】
まず、分散剤として実施例1で得た球状CaPを0.05g用い、油(分散質)として、5mlのミリスチン酸メチルを用いた以外は、実施例2と同様の操作により、分散体を作製した。次に、得られた分散体を濾過することで、水を分離して油滴粒子を得た。次に、得られた油滴粒子を、電気炉中で10℃/minの速度で1000℃まで昇温し、1000℃で1時間保持して、CaP多孔質体を得た。得られたCaP多孔質体を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した結果を図8に示す。なお、走査型電子顕微鏡による観察は、倍率を1000倍とした以外は、実施例1と同様にして行なった。
【0265】
図8に示すように、油滴のサイズと同じ大きさの孔を有する多孔質体が得られたことが確認できた。
【0266】
〔比較例1;実施例7との比較〕
実施例1で得た球状CaPのみを、電気炉中で10℃/minの速度で1000℃まで昇温し、1000℃で1時間保持した。その結果、多孔質体は得られず、CaPが密集した焼成体を得た。
【0267】
〔実施例8;CaP複合微粒子の作製1〕
本実施例及び後述する実施例9では、球状のCaP内にポリ乳酸を含むCaP複合粒子を作製した。
【0268】
まず、50ml容量のサンプル瓶中で、実施例1で得た球状CaPを0.02質量%含む水25g中に、ポリ乳酸を1質量%含むジクロロメタン2.5gを加え、サンプル瓶を撹拌することで分散体を作製した。
【0269】
得られた分散体を光学顕微鏡で観察した結果を図9に示す。安定な分散体が得られ、油滴の大きさは30μmであった。
【0270】
次に、当該分散体を室温で24時間放置することでジクロロメタンを蒸発させた。次に60℃で24時間乾燥させることによって、水分を蒸発させ、CaP複合微粒子を得た。
【0271】
得られたCaP複合微粒子を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した結果を図10に示す。走査型電子顕微鏡による観察は、倍率を8000倍とした以外は、実施例1と同様にして行なった。図10に示すように、粒子径11μmの球状粒子が得られたことを確認できた。ポリ乳酸の表面に球状CaPが均一に被覆したCaP複合微粒子の生成が確認できた。
【0272】
また、得られたCaP複合微粒子を60℃で乾燥させて、ポリエチレン製カプセルに入れた上で、Agar SCIENTIFIC LTD製のエポキシ樹脂中に包理した。次に、ウルトラミクロトーム用ダイヤモンドナイフ(住友電工社製、品番:SK3045)を用いて、当該エポキシ樹脂を厚さ100nmに切断して切片を作製した。当該切片を透過型電子顕微鏡(PHILIPS社製、品番:CM120)を用いて観察した。結果を図13に示す。図13は本実施例で得られたCaP複合微粒子の断面を、透過型電子顕微鏡を用いて観察した結果を示す図である。
【0273】
図13に示すように、球状CaPが、CaP複合微粒子の内部ではなく、表面に均一に被覆していることが確認できた。
【0274】
〔実施例9;CaP複合微粒子の作製2〕
まず、50ml容量のサンプル瓶中で、実施例1で得た球状CaP0.2質量%を含む水25g中に、5質量%のポリ乳酸を含むジクロロメタン2.5gを加え、サンプル瓶を撹拌することで分散体を作製した。
【0275】
得られた分散体を室温で24時間放置することでジクロロメタンを蒸発させ、CaP複合微粒子を得た。
【0276】
得られたCaP複合微粒子を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した結果を図11に示す。走査型電子顕微鏡による観察は、倍率を500倍とした以外は、実施例1と同様にして行なった。図11に示すように、粒子径が46μmの粒子をはじめ、様々な形状の粒子を確認できた。これは、ポリ乳酸の表面に、CaPを均一に被覆した、様々な形状のCaP複合微粒子が得られたことを示している。
【0277】
〔実施例10;CaP中空粒子の作製〕
まず、実施例8で得られたCaP複合微粒子を蒸発皿上に薄く塗布して、60℃で乾燥させた。その後、電気炉中で1℃/minの速度で1000℃まで昇温して、1000℃で1時間保持することでCaP複合微粒子を焼成して、CaP中空粒子を得た。なお、当該焼成によって、CaP複合微粒子中のポリ乳酸は熱分解される。
【0278】
得られたCaP複合微粒子を走査型電子顕微鏡により観察した結果を図12に示す。図12において(a)は倍率500倍で観察した結果を示し、(b)は倍率5000倍で観察した結果を示す。走査型電子顕微鏡による観察は、倍率を500倍又は5000倍とした以外は、実施例1と同様にして行なった。
【0279】
図12に示すように、CaP中空粒子が得られたことが確認できた。
【0280】
〔実施例11;CaP複合微粒子の作製3〕
50ml容量のサンプル瓶中で、球状CaPを0.2質量%含む水25g中に、ポリ乳酸を1質量%含むジクロロメタン2.5gを加えて、攪拌することで分散体を作製した。ポリ乳酸としては、分子量が5,000、125,000及び300,000のものをそれぞれ使用した。得られたそれぞれの分散体を室温で24時間静置することにより、ジクロロメタンを蒸発させてCaP複合微粒子を得た。
【0281】
次に、得られたCaP複合微粒子を走査型電子顕微鏡で観察した。結果を図14に示す。図14は本実施例で得られたCaP複合微粒子を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図であり、(a)及び(a’)は分子量5,000のポリ乳酸を用いた結果を示し、(b)及び(b’)は分子量125,000のポリ乳酸を用いた結果を示し、(c)及び(c’)は分子量300,000のポリ乳酸を用いた結果を示す。
【0282】
図14に示すように、ポリ乳酸の分子量に影響されず、表面が球状CaPで均一に被覆されたCaP複合微粒子が得られたことが確認できた。
【0283】
また、図14に基づいて算出したCaP複合微粒子の粒子径と、ポリ乳酸の分子量との関係を図15に示す。図15は本実施例で得たCaP複合微粒子の粒子径とポリ乳酸の分子量との関係を示す図であり、縦軸が粒子径を示し、横軸がポリ乳酸の分子量を示す。図15に示すように、本実施例では約7〜30μmの粒子径のCaP複合微粒子を得た。
【0284】
〔実施例12:CaP複合微粒子の作製4〕
50ml容量のサンプル瓶中で、0.2質量%の球状CaPを含む水25g中に、ポリ乳酸(分子量5,000)を含むジクロロメタン2.5gを加え、サンプル瓶を撹拌することで分散体を作製した。ジクロロメタン中のポリ乳酸の濃度は、2.0質量%、4.8質量%又は9.1質量%とした。得られた分散体を室温で24時間放置することでジクロロメタンを蒸発させ、CaP複合微粒子を作製した。
【0285】
次に、得られたCaP複合微粒子を走査型電子顕微鏡写真で観察した。結果を図16に示す。図16は本実施例で得られたCaP複合微粒子を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図であり、(a)及び(a’)はポリ乳酸の濃度を2.0質量%とした場合の結果を示し、(b)及び(b’)はポリ乳酸の濃度を4.8質量%とした場合の結果を示し、(c)及び(c’)はポリ乳酸の濃度を9.1質量%とした場合の結果を示す。全ての場合において、表面が球状CaPで均一に被覆されたCaP複合微粒子が得られたことが確認できた。
【0286】
また、図16に基づいて算出したCaP複合微粒子の粒子径と、ポリ乳酸濃度との関係を図17に示す。図17は本実施例で得たCaP複合微粒子の粒子径とポリ乳酸濃度との関係を示す図であり、縦軸が粒子径を示し、横軸がポリ乳酸濃度を示す。図17に示すように、本実施例では約7〜20μmの粒子径のCaP複合微粒子を得た。
【0287】
〔実施例13:CaP複合微粒子の細胞接着性〕
本実施例では実施例8で得たCaP複合微粒子に対する細胞接着性を確認した。まず、当該CaP複合微粒子をポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム上に載せた。また、比較のため、実施例8で得たCaP複合微粒子に塩酸水溶液(pH2)を滴下することでCaPを除去した微粒子(以下、「ポリ乳酸微粒子」と表記する)をPETフィルム上に載せた。
【0288】
次に、それぞれのPETフィルムにエタノールを滴下して5分間滅菌した後、PETフィルムを24‐wellマルチプレート中に置いた。次に、培養したL929繊維芽細胞(1.0×105個)をそれぞれのPETフィルム上に播種して、37℃、CO2濃度5%の条件下で24時間培養した。培養後、培養液を除去して、ピンセットを用いてPETフィルムを回収した。次に、回収したPETフィルムを37℃のリン酸緩衝液で3回洗浄した後、5%グルタルアルデヒド溶液で20分間固定した。次に、30%、50%、70%、90%、95%、99.5%、100%のエタノール、ブタノールを15分間ずつこの順で用いて脱水した後、凍結乾燥を行なった。凍結乾燥後のPETフィルムを走査型電子顕微鏡で観察した。結果を図18に示す。図18はCaP複合微粒子に対する細胞接着性を観察した結果を示す図であり、(a)はCaP複合微粒子を用いた場合の結果を示し、(b)はポリ乳酸微粒子を用いた場合の結果を示す。
【0289】
図18に示すように、ポリ乳酸微粒子を用いた場合、繊維芽細胞がほとんど確認されなかった。これは、繊維芽細胞のポリ乳酸微粒子に対する接着性が極めて低かったことを示している。一方、CaP複合微粒子を用いた場合、繊維芽細胞がCaP複合微粒子に接着している様子が観察された。このことから、CaPで表面が被覆されたCaP複合微粒子の優れた細胞接着性が示された。
【0290】
〔実施例14:分散体の作製〕
本実施例では、分散媒を油(ポリ乳酸を溶解させたジクロロメタン)、分散質を水、分散剤を実施例1で作製したロッド状CaPとする分散体を作製した。また、本実施例では、分散体をより効率よく製造するために、分散剤であるロッド状CaPをポリ乳酸で修飾した。これにより分散剤が分散媒中に分散しやすくなり、分散体をより簡便に作製できる。以下、説明の便宜のため、ポリ乳酸で修飾したロッド状CaPを「ポリ乳酸修飾CaP」と表記する。
【0291】
(14−1:ポリ乳酸によるロッド状CaPの修飾)
まず、ロッド状CaPをポリ乳酸で修飾した方法について説明する。50ml容のガラス容器に、実施例1で作製したロッド状CaP、及びジクロロメタンを加えた。次に、ポリ乳酸(分子量5,000)を溶解したジクロロメタンを加えた。このとき、ロッド状CaPとポリ乳酸との質量比率が0.3/1となるようにした。次に、室温でジクロロメタンを蒸発させて、残存したロッド状CaP及びポリ乳酸の混合物を減圧下で熱処理した。熱処理の温度としては、100℃、150℃又は200℃とした。
【0292】
ここで、ポリ乳酸修飾CaP(熱処理を150℃で行なったもの)をジクロロメタンに加えた様子を観察した。その結果を図19に示す。図19はポリ乳酸修飾CaPをジクロロメタンに加えた様子を観察した結果を示す図であり、(a)はポリ乳酸修飾CaPを用いた場合の結果を示し、(b)はポリ乳酸で修飾しないロッド状CaPを用いた場合の結果を示す。
【0293】
図19に示すように、ポリ乳酸修飾CaPはジクロロメタン中に均一に分散したが、ポリ乳酸で修飾しないロッド状CaPを用いた場合、当該ロッド状CaPの沈殿が確認された。この結果から、ポリ乳酸でCaPを修飾することで、ジクロロメタン中における分散性が向上することが確認された。
【0294】
(14−2:ポリ乳酸修飾CaPを分散剤とした分散体の作製)
次に、上記14−1で得たポリ乳酸修飾CaP(熱処理を150℃で行なったもの)を分散剤として分散体を作製した。具体的には次の通りである。まず、固形分濃度で、CaPが0.66質量%、ポリ乳酸が2質量%となるように、ポリ乳酸(分子量5,000)及びポリ乳酸修飾CaPをジクロロメタンに加えて懸濁液を得た。サンプル瓶(50ml)に、得られた懸濁液を25ml計り取った後に、当該サンプル瓶に5mgの水を加えた。次に、超音波バス(エスエヌディ社製、モデル名:US−2)を用いて、38kHz、120W、室温にて5分間攪拌することで乳化させた。得られた分散体をデジタルカメラ(Nikon Coolpix 4500)を搭載した光学顕微鏡(James Swift MP3502,Prior Scientific Instruments Ltd.)を用いて観察した。この結果を図20に示す。図20は本実施例で得られた分散体を観察した結果を示す図である。図20に示すように、本実施例では、約50μm径の滴が分散した分散体が得られた。
【0295】
また、本実施例で得た分散体の導電率を、導電率計(HORIBA製D-24)を用いて測定した。その結果、1mS/cm以下であった。この結果から、本実施例で得られた分散体は油中水滴型の分散体であることが確認できた。
【0296】
また、熱処理温度を200℃として作製したポリ乳酸修飾CaPを用いた場合においても油中水滴型分散体が得られた。なお、熱処理温度を100℃として作製したポリ乳酸修飾CaPを用いた場合、水中油滴型分散体が得られた。これは、ポリ乳酸がCaPから剥離したためであると考えられる。また、実施例1で作製したロッド状CaPをそのまま用いた場合においても水中油滴型分散体が得られた。このように、本実施例では、分散剤の性質によって、油中水滴型分散体及び水中油滴型分散体を選択的に作製できることが確認できた。
【0297】
〔実施例15:pH操作による分散質の集合〕
本実施例では、実施例14で得た分散体(分散剤として熱処理温度を150℃として作製したポリ乳酸修飾CaPを用いたもの)に、酸を添加することで分散質を集合させた。
【0298】
具体的には、当該分散体(15mL)に硝酸を混合して、pHを3.0以下にした。次に、水酸化カリウム水溶液を混合してpHを5以上に調製して、ホモジナイザーで撹拌した。この結果を図21に示す。図21は、実施例14で得られた分散体の溶剤のpHを下げて、分散質を集合させ、さらに、pHを上げて当該分散質が集合した後の液体を再分散させる検討を行なった結果を示す図であり、(a)は酸を加える前、(b)は酸を加えた後、(c)はアルカリを加えた後のサンプル瓶の外観を観察した結果を示す。
【0299】
硝酸を混合して数十秒以内に、図21の(b)に示すように、滴が集合して水相と油相とが分離した。また、アルカリ(水酸化カリウム溶液)を混合すると、図21の(c)に示すように再分散した。
【0300】
〔実施例16:分散体の作製〕
本実施例では、水を分散媒として油の滴を分散させ、さらに当該油の滴の中に水の滴を分散させた分散体(W/O/W型分散体)を作製した。
【0301】
まず、実施例14で得た分散体(分散剤として熱処理温度を150℃として作製したポリ乳酸修飾CaPを用いたもの)(2.5ml)を、サンプル瓶(50ml)に計り取り、同サンプル瓶に実施例1で作製した球状CaPを0.1g含む水(25ml)を加えた。次に、当該サンプル瓶を撹拌することでW/O/W型分散体を得た。
【0302】
得られたW/O/W型分散体を光学顕微鏡で観察した。この結果を図22に示す。図22は本実施例で得られた分散体を観察した結果を示す図である。図22に示すように、本実施例により得られたW/O/W型分散体は安定しており、水中に分散した油滴中に水が分散していることが確認できた。また、油滴の大きさは約60μmであった。
【0303】
〔実施例17:pH操作による分散質の集合2〕
本実施例では、実施例16で得られたW/O/W型分散体に、酸を添加することで分散質を集合させた。
【0304】
具体的には、当該分散体(15mL)に硝酸を混合して、pHを3.0以下にした。次に、水酸化カリウム水溶液を混合してpHを5以上に調製して、ホモジナイザーで撹拌した。この結果を図23に示す。図23は、実施例16で得られた分散体の溶剤のpHを下げて、分散質を集合させ、さらに、pHを上げて当該分散質が集合した後の液体を再分散させる検討を行なった結果を示す図であり、(a)は酸を加える前、(b)は酸を加えた後、(c)はアルカリを加えた後のサンプル瓶の外観を観察した結果を示す。
【0305】
硝酸を混合して数十秒以内に、図23の(b)に示すように、滴が集合して水相と油相とが分離した。また、アルカリ(水酸化カリウム溶液)を混合すると、図23の(c)に示すように再分散した。
【0306】
〔実施例18:CaP複合微粒子の作製5〕
実施例16で得たW/O/W型分散体を室温で24時間放置することでジクロロメタンを蒸発させた。次に、60℃で24時間乾燥させることによって、水分を蒸発させた。これによりCaP複合微粒子を得た。
【0307】
得られたCaP複合微粒子をさらに60℃で乾燥させて、ポリエチレン製カプセルに入れた上で、Agar SCIENTIFIC LTD製のエポキシ樹脂中に包埋した。次に、ウルトラミクロトーム用ダイヤモンドナイフ(住友電工社製、品番:SK3045)用いて、当該エポキシ樹脂を厚さ100nmに切断して切片を作製した。当該切片を透過型電子顕微鏡(PHILIPS社製、品番:CM120)を用いて観察した。結果を図24に示す。図24は本実施例で得られたCaP複合微粒子の断面を、透過型電子顕微鏡を用いて観察した結果を示す図である。なお、図24において(a)はCaP複合微粒子1個全体を示しており、(b)はCaP複合微粒子の中に形成された空間の壁面を示している。当該空間はCaP複合微粒子を得る前のW/O/W型分散の状態のとき、油滴中に分散していた水の滴に由来するものである。
【0308】
図24に示すように、球状CaPが外表面を均一に被覆し、また、ロッド状CaPが内表面を均一に被覆しており、任意の物質としてポリ乳酸が包含されているCaP複合微粒子が得られたことが確認できた。また、当該複合粒子の粒子径は約10μmであった。
【0309】
〔実施例19:CaP複合微粒子の作製6〕
本実施例では、表面がCaPで被覆され、かつ内部にCaPが分散したCaP複合微粒子を作製した。
【0310】
まず、CaPが0.66重量%、ポリ乳酸が2質量%の固形分濃度になるように、ジクロロメタン中にポリ乳酸(分子量5,000)及び実施例14で得たポリ乳酸修飾CaPを加えて懸濁液を得た。サンプル瓶(50ml)に、得られた懸濁液を2.5ml計り取り、当該サンプル瓶に、実施例1で得た球状CaPを0.1g含む水(25ml)を加えた。次に、当該サンプル瓶を撹拌した。これにより分散体を得た。
【0311】
次に、得られた分散体を室温で24時間放置することでジクロロメタンを蒸発させた。次に、60℃で24時間乾燥させることによって、水分を蒸発させた。これにより、CaP複合微粒子を得た。
【0312】
得られたCaP複合微粒子を60℃で乾燥させて、ポリエチレン製カプセルに入れた上で、Agar SCIENTIFIC LTD製のエポキシ樹脂中に包埋した。次に、ウルトラミクロトーム用ダイヤモンドナイフ(住友電工社製、品番:SK3045)用いて、当該エポキシ樹脂を厚さ100nmに切断して切片を作製した。当該切片を透過型電子顕微鏡(PHILIPS社製、品番:CM120)を用いて観察した。この結果を図25に示す。図25は本実施例で得られたCaP複合微粒子の断面を、透過型電子顕微鏡を用いて観察した結果を示す図である。本実施例で得られたCaP複合微粒子は、外表面が球状CaPで均一に被覆され、また、ロッド状CaPが内部に分散していることが確認できた。また、当該CaP複合微粒子の粒子径は約10μmであった。
【0313】
〔実施例20:実施例2で安定な分散体が得られなかった油を用いた分散体の作製2〕
本実施例は、実施例2で安定な分散体が得られなかった油であるジクロロメタンに、カルボニル基を有する高分子化合物であるポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル、ポリ酢酸ビニルを混合して分散体の形成を試みた。また、比較としてカルボニル基を持たない高分子であるポリスチレンを用いて同様の検討を行なった。
【0314】
まず、ジクロロメタン中に、各高分子をジクロロメタンに対して1質量%の濃度で溶解させた。なお、分散剤として、実施例1で得た球状CaPを用い、油として上記高分子化合物を溶解したジクロロメタンを用いた以外は、実施例2と同じ操作を行ない分散体の作製を試みた。この結果を図26に示す。図26は本実施例で得た分散体を観察した結果を示す図であり、(a)はポリエチレンテレフタレートを用いた場合の結果を示し、(b)はポリメタクリル酸メチルを用いた場合の結果を示し、(c)はポリ酢酸ビニルを用いた場合の結果を示し、(d)はポリスチレンを用いた場合の結果を示す。
【0315】
図26に示すように、カルボニル基を持たない高分子であるポリスチレンを用いた場合には、粗大な液滴が観察され、安定な分散体が得られなかった。一方、カルボニル基を有する高分子であるポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル、ポリ酢酸ビニルを用いることで安定な分散体が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0316】
本発明に係る分散体は、生体親和性が高いCaPのみを分散剤として用いており、さらに、CaP以外の界面活性剤等を含んでいない。また、本発明に係るCaP中空粒子、CaPCaP多孔質体、複合微粒子は、生体親和性が高い。よって、薬物担体、細胞培養材料、医療用材料、歯科用材料等の生体用材料として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0317】
【図1】実施例1で得られたCaPを走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図2】実施例3で得られた分散体を観察した結果を示す図である。
【図3】実施例4で得られた分散体を光学顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図4】実施例4で得られた分散体の油滴サイズの分布を測定した結果を示す図である。
【図5】実施例5で得られた分散体を、作製後24時間後に観察した結果を示す図である。
【図6】実施例5で得られた分散体を、作製後24時間後に、光学顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図7】実施例6で、分散体の溶剤のpHを下げて、分散質を集合させ、さらに、pHを上げて当該分散質が集合した後の液体を再分散させる検討を行なった結果を示す図である。
【図8】実施例7で得られたCaP多孔質体を、走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図9】実施例8で得られた分散体を光学顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図10】実施例8で得られたCaP複合微粒子を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図11】実施例9で得られたCaP複合微粒子を、走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図12】実施例10で得られたCaP複合微粒子を、走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図13】実施例8で得られたCaP複合微粒子の断面を、透過型電子顕微鏡を用いて観察した結果を示す図である。
【図14】実施例11で得られたCaP複合微粒子を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図15】実施例11で得られたCaP複合微粒子の粒子径とポリ乳酸の分子量との関係を示す図である。
【図16】実施例12で得られたCaP複合微粒子を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図17】実施例12で得られたCaP複合微粒子の粒子径とポリ乳酸濃度との関係を示す図である。
【図18】CaP複合微粒子に対する細胞接着性を観察した結果を示す図である。
【図19】ポリ乳酸修飾CaPをジクロロメタンに加えた様子を観察した結果を示す図である。
【図20】実施例14で得られた分散体を観察した結果を示す図である。
【図21】実施例14で得られた分散体の溶剤のpHを下げて、分散質を集合させ、さらに、pHを上げて当該分散質が集合した後の液体を再分散させる検討を行なった結果を示す図である。
【図22】実施例16で得られた分散体を観察した結果を示す図である。
【図23】実施例16で得られた分散体の溶剤のpHを下げて、分散質を集合させ、さらに、pHを上げて当該分散質が集合した後の液体を再分散させる検討を行なった結果を示す図である。
【図24】実施例18で得られたCaP複合微粒子の断面を、透過型電子顕微鏡を用いて観察した結果を示す図である。
【図25】実施例19で得られたCaP複合微粒子の断面を、透過型電子顕微鏡を用いて観察した結果を示す図である。
【図26】実施例20で得られた分散体を観察した結果を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性液体、疎水性物質、及びリン酸カルシウムを含む分散体であって、
上記疎水性物質は、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む物質であることを特徴とする分散体。
【請求項2】
上記カルボニル基を有する飽和有機化合物が、飽和脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項1に記載の分散体。
【請求項3】
上記カルボニル基を有する飽和有機化合物が、ミリスチン酸メチルであることを特徴とする請求項1に記載の分散体。
【請求項4】
上記アルカンが、炭素数5以上30以下のアルカンからなる群から選択される少なくとも一つ以上のアルカンであることを特徴とする請求項1に記載の分散体。
【請求項5】
上記アルカンが、ドデカン及び/又はヘキサンであることを特徴とする請求項1に記載の分散体。
【請求項6】
上記カルボニル基を有する飽和有機化合物が、カルボニル基を有する生分解性ポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の分散体。
【請求項7】
上記生分解性ポリマーが、ポリ乳酸であることを特徴とする請求項6に記載の分散体。
【請求項8】
上記リン酸カルシウムが、平均粒子径1nm以上1000nm以下のリン酸カルシウムであることを特徴とする請求項1に記載の分散体。
【請求項9】
上記リン酸カルシウムが、ハイドロキシアパタイトであることを特徴とする請求項1に記載の分散体。
【請求項10】
上記リン酸カルシウムが、ハイドロキシアパタイトの焼結体であることを特徴とする請求項1に記載の分散体。
【請求項11】
上記親水性液体又は上記疎水性物質を分散媒として、当該分散媒中に第1の滴及び第2の滴を含む分散体であり、
上記第1の滴が、上記親水性液体及び上記疎水性物質のうち上記分散媒ではない方を上記リン酸カルシウムが被覆してなるものであって、上記分散媒中に分散しているものであり、
上記第2の滴が、上記分散媒が上記親水性液体であるときは上記親水性液体を、上記分散媒が上記疎水性物質であるときは上記疎水性物質を、上記リン酸カルシウムが被覆してなるものであって、上記第1の滴中に分散しているものであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の分散体。
【請求項12】
親水性液体、疎水性物質、及びリン酸カルシウムを含む分散体の製造方法であって、
カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、親水性液体と、リン酸カルシウムとを混合する工程を含むことを特徴とする分散体の製造方法。
【請求項13】
上記分散体が、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質、又は親水性液体を分散媒として、上記分散媒中に第1の滴が分散しており、上記第1の滴中に第2の滴が分散している分散体であり、
上記疎水性物質と、上記親水性液体と、上記リン酸カルシウムとを混合することで、上記分散媒を上記親水性液体とするときは上記親水性液体を、上記分散媒を上記疎水性物質とするときは上記疎水性物質を、上記リン酸カルシウムで被覆してなる上記第2の滴が、当該親水性液体及び当該疎水性物質のうち上記分散媒でない方のものの中に分散している第1の分散体を製造する第1混合工程と、
上記第1の分散体と、上記分散媒と、上記リン酸カルシウムとを混合することで、当該第1の分散体をリン酸カルシウムが被覆してなる第1の滴が、上記分散媒中に分散する第2の分散体を製造する第2混合工程と、を含むことを特徴とする請求項12に記載の分散体の製造方法。
【請求項14】
カルボニル基を有する飽和有機化合物を、予め混合した疎水性物質を用いることを特徴とする請求項12又は13に記載の分散体の製造方法。
【請求項15】
親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを含み、上記親水性液体及び上記疎水性物質の内、いずれか一方を分散媒とし、他方を分散質とし、リン酸カルシウムを分散剤とする分散体に、酸性化合物を混合することを特徴とする分散質の集合方法。
【請求項16】
親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを含み、上記親水性液体及び上記疎水性物質の内、いずれか一方を分散媒とし、他方を分散質とし、リン酸カルシウムを分散剤とする分散体に、酸性化合物を混合することによって、上記分散質が集合した液体に、アルカリ性化合物を混合することを特徴とする分散質の再分散方法。
【請求項17】
下記の(i)及び(ii)の工程を含むことを特徴とするリン酸カルシウム中空粒子の製造方法:
(i)親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを混合して分散体を製造する工程;
(ii)上記分散体を焼成する工程。
【請求項18】
上記(ii)の工程の前に、
(iii)上記分散体を乾燥する工程
を含むことを特徴とする請求項17に記載のリン酸カルシウム中空粒子の製造方法。
【請求項19】
請求項17又は18に記載の製造方法によって得られたリン酸カルシウム中空粒子。
【請求項20】
下記の(iv)〜(vi)の工程を含むことを特徴とするリン酸カルシウム多孔質体の製造方法:
(iv)親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを混合して分散体を製造する工程;
(v)上記分散体中に分散している滴を密集させる工程;
(vi)密集した上記滴を焼成する工程。
【請求項21】
上記(vi)の工程の前に、
(vii)上記分散体を乾燥する工程
を含むことを特徴とする請求項20に記載のリン酸カルシウム多孔質体の製造方法。
【請求項22】
請求項20又は21に記載の製造方法によって得られたリン酸カルシウム多孔質体。
【請求項23】
任意の物質がリン酸カルシウムで被覆されてなるリン酸カルシウム複合微粒子の製造方法であって、下記の(viii)及び(ix)の工程を含むことを特徴とするリン酸カルシウム複合微粒子の製造方法:
(viii)親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを混合して分散体を製造する工程;
(ix)上記分散体を乾燥させる工程。
【請求項24】
上記(viii)の工程において、上記任意の物質を、上記親水性液体又は上記疎水性物質に予め混合することを特徴とする請求項23に記載のリン酸カルシウム複合微粒子の製造方法。
【請求項25】
上記(viii)の工程で製造する上記分散体が、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質、又は親水性液体を分散媒として、上記分散媒中に第1の滴が分散しており、上記第1の滴中に第2の滴が分散している分散体であり、
上記(viii)の工程が、
上記疎水性物質と、上記親水性液体と、上記リン酸カルシウムとを混合することで、上記分散媒を上記親水性液体とするときは上記親水性液体を、上記分散媒を上記疎水性物質とするときは上記疎水性物質を、上記リン酸カルシウムで被覆してなる上記第2の滴が、当該親水性液体及び当該疎水性物質のうち上記分散媒でない方の中に分散する第1の分散体を形成する第1混合工程と、
上記第1の分散体と、上記分散媒と、上記リン酸カルシウムとを混合することで、当該第1の分散体をリン酸カルシウムが被覆してなる第1の滴が、上記分散媒中に分散する第2の分散体を形成する第2混合工程と、
を含む工程であり、
上記第1混合工程において、上記親水性液体及び上記疎水性物質のうち少なくとも一方に、上記任意の物質を予め混合させておくことを特徴とする請求項23に記載のリン酸カルシウム複合微粒子の製造方法。
【請求項26】
請求項23〜25のいずれか1項に記載の製造方法によって得られたリン酸カルシウム複合微粒子。
【請求項27】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の分散体を含むことを特徴とする生体用材料。
【請求項28】
請求項19に記載のリン酸カルシウム中空粒子を含むことを特徴とする生体用材料。
【請求項29】
請求項22に記載のリン酸カルシウム多孔質体を含むことを特徴とする生体用材料。
【請求項30】
請求項26に記載のリン酸カルシウム複合微粒子を含むことを特徴とする生体用材料。
【請求項31】
請求項27〜30のいずれか1項に記載の生体用材料を含むことを特徴とする薬物担体。
【請求項32】
請求項27〜30のいずれか1項に記載の生体用材料を含むことを特徴とする細胞培養材料。
【請求項33】
請求項27〜30のいずれか1項に記載の生体用材料を含むことを特徴とする医療用材料。
【請求項34】
請求項27〜30のいずれか1項に記載の生体用材料を含むことを特徴とする歯科用材料。
【請求項1】
親水性液体、疎水性物質、及びリン酸カルシウムを含む分散体であって、
上記疎水性物質は、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む物質であることを特徴とする分散体。
【請求項2】
上記カルボニル基を有する飽和有機化合物が、飽和脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項1に記載の分散体。
【請求項3】
上記カルボニル基を有する飽和有機化合物が、ミリスチン酸メチルであることを特徴とする請求項1に記載の分散体。
【請求項4】
上記アルカンが、炭素数5以上30以下のアルカンからなる群から選択される少なくとも一つ以上のアルカンであることを特徴とする請求項1に記載の分散体。
【請求項5】
上記アルカンが、ドデカン及び/又はヘキサンであることを特徴とする請求項1に記載の分散体。
【請求項6】
上記カルボニル基を有する飽和有機化合物が、カルボニル基を有する生分解性ポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の分散体。
【請求項7】
上記生分解性ポリマーが、ポリ乳酸であることを特徴とする請求項6に記載の分散体。
【請求項8】
上記リン酸カルシウムが、平均粒子径1nm以上1000nm以下のリン酸カルシウムであることを特徴とする請求項1に記載の分散体。
【請求項9】
上記リン酸カルシウムが、ハイドロキシアパタイトであることを特徴とする請求項1に記載の分散体。
【請求項10】
上記リン酸カルシウムが、ハイドロキシアパタイトの焼結体であることを特徴とする請求項1に記載の分散体。
【請求項11】
上記親水性液体又は上記疎水性物質を分散媒として、当該分散媒中に第1の滴及び第2の滴を含む分散体であり、
上記第1の滴が、上記親水性液体及び上記疎水性物質のうち上記分散媒ではない方を上記リン酸カルシウムが被覆してなるものであって、上記分散媒中に分散しているものであり、
上記第2の滴が、上記分散媒が上記親水性液体であるときは上記親水性液体を、上記分散媒が上記疎水性物質であるときは上記疎水性物質を、上記リン酸カルシウムが被覆してなるものであって、上記第1の滴中に分散しているものであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の分散体。
【請求項12】
親水性液体、疎水性物質、及びリン酸カルシウムを含む分散体の製造方法であって、
カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、親水性液体と、リン酸カルシウムとを混合する工程を含むことを特徴とする分散体の製造方法。
【請求項13】
上記分散体が、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質、又は親水性液体を分散媒として、上記分散媒中に第1の滴が分散しており、上記第1の滴中に第2の滴が分散している分散体であり、
上記疎水性物質と、上記親水性液体と、上記リン酸カルシウムとを混合することで、上記分散媒を上記親水性液体とするときは上記親水性液体を、上記分散媒を上記疎水性物質とするときは上記疎水性物質を、上記リン酸カルシウムで被覆してなる上記第2の滴が、当該親水性液体及び当該疎水性物質のうち上記分散媒でない方のものの中に分散している第1の分散体を製造する第1混合工程と、
上記第1の分散体と、上記分散媒と、上記リン酸カルシウムとを混合することで、当該第1の分散体をリン酸カルシウムが被覆してなる第1の滴が、上記分散媒中に分散する第2の分散体を製造する第2混合工程と、を含むことを特徴とする請求項12に記載の分散体の製造方法。
【請求項14】
カルボニル基を有する飽和有機化合物を、予め混合した疎水性物質を用いることを特徴とする請求項12又は13に記載の分散体の製造方法。
【請求項15】
親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを含み、上記親水性液体及び上記疎水性物質の内、いずれか一方を分散媒とし、他方を分散質とし、リン酸カルシウムを分散剤とする分散体に、酸性化合物を混合することを特徴とする分散質の集合方法。
【請求項16】
親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを含み、上記親水性液体及び上記疎水性物質の内、いずれか一方を分散媒とし、他方を分散質とし、リン酸カルシウムを分散剤とする分散体に、酸性化合物を混合することによって、上記分散質が集合した液体に、アルカリ性化合物を混合することを特徴とする分散質の再分散方法。
【請求項17】
下記の(i)及び(ii)の工程を含むことを特徴とするリン酸カルシウム中空粒子の製造方法:
(i)親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを混合して分散体を製造する工程;
(ii)上記分散体を焼成する工程。
【請求項18】
上記(ii)の工程の前に、
(iii)上記分散体を乾燥する工程
を含むことを特徴とする請求項17に記載のリン酸カルシウム中空粒子の製造方法。
【請求項19】
請求項17又は18に記載の製造方法によって得られたリン酸カルシウム中空粒子。
【請求項20】
下記の(iv)〜(vi)の工程を含むことを特徴とするリン酸カルシウム多孔質体の製造方法:
(iv)親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを混合して分散体を製造する工程;
(v)上記分散体中に分散している滴を密集させる工程;
(vi)密集した上記滴を焼成する工程。
【請求項21】
上記(vi)の工程の前に、
(vii)上記分散体を乾燥する工程
を含むことを特徴とする請求項20に記載のリン酸カルシウム多孔質体の製造方法。
【請求項22】
請求項20又は21に記載の製造方法によって得られたリン酸カルシウム多孔質体。
【請求項23】
任意の物質がリン酸カルシウムで被覆されてなるリン酸カルシウム複合微粒子の製造方法であって、下記の(viii)及び(ix)の工程を含むことを特徴とするリン酸カルシウム複合微粒子の製造方法:
(viii)親水性液体と、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン、及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質と、リン酸カルシウムとを混合して分散体を製造する工程;
(ix)上記分散体を乾燥させる工程。
【請求項24】
上記(viii)の工程において、上記任意の物質を、上記親水性液体又は上記疎水性物質に予め混合することを特徴とする請求項23に記載のリン酸カルシウム複合微粒子の製造方法。
【請求項25】
上記(viii)の工程で製造する上記分散体が、カルボニル基を有する飽和有機化合物、カルボニル基を有するビニレン化合物、カルボニル基を有する環状オレフィン及びアルカンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含む疎水性物質、又は親水性液体を分散媒として、上記分散媒中に第1の滴が分散しており、上記第1の滴中に第2の滴が分散している分散体であり、
上記(viii)の工程が、
上記疎水性物質と、上記親水性液体と、上記リン酸カルシウムとを混合することで、上記分散媒を上記親水性液体とするときは上記親水性液体を、上記分散媒を上記疎水性物質とするときは上記疎水性物質を、上記リン酸カルシウムで被覆してなる上記第2の滴が、当該親水性液体及び当該疎水性物質のうち上記分散媒でない方の中に分散する第1の分散体を形成する第1混合工程と、
上記第1の分散体と、上記分散媒と、上記リン酸カルシウムとを混合することで、当該第1の分散体をリン酸カルシウムが被覆してなる第1の滴が、上記分散媒中に分散する第2の分散体を形成する第2混合工程と、
を含む工程であり、
上記第1混合工程において、上記親水性液体及び上記疎水性物質のうち少なくとも一方に、上記任意の物質を予め混合させておくことを特徴とする請求項23に記載のリン酸カルシウム複合微粒子の製造方法。
【請求項26】
請求項23〜25のいずれか1項に記載の製造方法によって得られたリン酸カルシウム複合微粒子。
【請求項27】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の分散体を含むことを特徴とする生体用材料。
【請求項28】
請求項19に記載のリン酸カルシウム中空粒子を含むことを特徴とする生体用材料。
【請求項29】
請求項22に記載のリン酸カルシウム多孔質体を含むことを特徴とする生体用材料。
【請求項30】
請求項26に記載のリン酸カルシウム複合微粒子を含むことを特徴とする生体用材料。
【請求項31】
請求項27〜30のいずれか1項に記載の生体用材料を含むことを特徴とする薬物担体。
【請求項32】
請求項27〜30のいずれか1項に記載の生体用材料を含むことを特徴とする細胞培養材料。
【請求項33】
請求項27〜30のいずれか1項に記載の生体用材料を含むことを特徴とする医療用材料。
【請求項34】
請求項27〜30のいずれか1項に記載の生体用材料を含むことを特徴とする歯科用材料。
【図4】
【図15】
【図17】
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図15】
【図17】
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【公開番号】特開2008−156213(P2008−156213A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−290177(P2007−290177)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】
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