説明

分散処理システム及び車載端末

【課題】 車載端末から構成される分散処理システムにおいて、処理能力を向上させる技術を提供する。
【解決手段】 計算ノードの資源情報を記憶する資源情報記憶手段と、資源情報に基づいて処理を割り当てる計算ノードを特定する処理割り当て手段と、を有する基地局と、資源情報を送信するとともに分散処理システムへの登録を行う資源情報登録手段と、割り当てられる処理を実行する演算手段と、を有する車載端末とから分散処理システムを構成する。車載端末は、位置情報、予定走行経路及び基地局の通信可能範囲に基づいて、通信可能範囲に進入することを予測し、分散処理システムへの登録処理を開始することが好ましい。また、資源情報に含まれる演算資源の有効期間は、基地局の通信可能範囲と車載端末の位置情報、予定走行経路及び車速とに基づいて算出することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散処理システムに関し、特に車載端末から構成される分散処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分散処理システムの一形態としてグリッドコンピューティングシステムが知られている。グリッドコンピューティングシステムにおいては、ネットワークを介して複数の情報処理装置を接続し、これらの各情報処理装置に並列して処理を行わせることで、一台一台の情報処理装置の処理能力は低くても、全体として高速な処理が可能となる。あるいは、CPU使用率が低い情報処理装置に処理を割り当てることにより、利用されていない情報処理装置を活用することが可能となる。
【0003】
このようなグリッドコンピューティングシステムにおいては、演算資源として利用可能な情報処理装置に関する情報や、これら情報処理装置の稼働状況などを管理し、適切な情報処理装置に処理を割り当てる管理ノードが必要である。
【0004】
また、このようなグリッドコンピューティングシステムを車載端末で構成し、道路の合流地点における適切な車速を予測するシステムの研究がなされている(非特許文献1)。
【0005】
非特許文献1に記載のグリッドコンピューティングシステムでは、アドホック無線通信によって車載端末がネットワークを形成している。アドホック無線通信とは、アクセスポイントなどを利用せずに車載端末(無線端末)同士が直接通信する通信方式である。
【0006】
また、車両と路側機とが協調して通信を行う路車間通信の技術が知られている。
【非特許文献1】Joey Anda 他4名, "VGrid: Vehicular Ad Hoc Networking and Computing Grid for Intelligent Traffic Control", IEEE Vehicular Technology Conference, Spring 2005, インターネット<http://www.ece.ucdavis.edu/~chuah/paper/2005/vtc05-vgrid.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、車載端末から構成されるグリッドコンピューティングシステム(分散処理システム)では、通常のコンピュータから構成されるシステムとは異なる配慮が必要となる。すなわち、車載端末特有の条件として、高速で移動する無線端末であるという点が挙げられる。したがって、無線通信が不安定になりシステム全体としての処理能力が低下する可能性がある。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、車載端末から構成される分散処理システムにおいて、処理能力を向上させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明では、以下の手段または処理によって分散処理システムを構成する。
【0010】
本発明に係る分散処理システムは、無線通信によって互いに接続可能な基地局と車載端末から構成される。基地局は資源情報記憶手段と処理割り当て手段を有する。資源情報記
憶手段は、計算ノードとして機能する車載端末が有する演算資源に関する情報(資源情報)を記憶する。資源情報には、例えば、演算資源を提供する有効期限、CPUの処理能力、CPUの稼働状況、空きメモリ容量、通信速度等が含まれる。また、処理割り当て手段は、資源情報に基づいて、依頼された処理を実行させる車載端末を特定し、特定した車載端末に対して処理を実行させる。すなわち、基地局は、本発明に係る分散処理システムにおいて管理ノードとして機能する。
【0011】
車載端末は、資源情報登録手段と演算手段を有する。資源情報登録手段は、基地局に対して、自端末の資源情報を送信するとともに、分散処理システムへ自端末を計算ノードとして登録する。車載端末は、基地局の資源情報記憶手段に資源情報が登録されることによって、本発明に係る分散処理システムにおいて計算ノードとして機能する。すなわち、基地局から処理が割り当てられることになる。演算手段は、基地局から割り当てられる処理を実行する。
【0012】
このように、本発明に係る分散処理システムにおいては、基地局が管理ノードとして機能し、車載端末が計算ノードとして機能する。
【0013】
管理ノードは、システム内の他のノードと通信して全体を管理するため通信量及び通信頻度が最も高い。したがって、管理ノードとの通信の安定性を高めることで、システム内の通信の安定化が図られシステム全体の処理能力を向上させられる。
【0014】
管理ノードを車載端末にした場合は、管理ノードと計算ノードとの間で、車車間アドホック無線通信(移動端末間の不安定な通信)を行うか、アクセスポイントとしての基地局を間に介する1ホップ多い通信形態となってしまう。管理ノードを基地局とした場合には、固定端末と移動端末が直接通信する形態となるため、通信が安定する。
【0015】
上記のように、基地局が管理ノードとして機能することで、管理ノードと計算ノードの間の通信の安定性を高めることができる。したがって、本発明に係る分散処理システムでは、システム内の通信の安定化が図られ、システムとして処理能力を向上することができる。
【0016】
車載端末は高速で移動することから、上記のように基地局を管理ノードとした場合には、車載端末が基地局の通信可能範囲に留まる時間が短くなり、演算資源を提供する時間が短くなってしまうという問題が生じるおそれがある。
【0017】
そこで、以下のような手段によって、車載端末が演算資源を提供できる時間を長くすることが好適である。すなわち、本発明に係る分散処理システムにおいて、車載端末が車両位置情報取得手段と基地局エリア取得手段と進入判定手段をさらに有する。
【0018】
位置情報取得手段は、GPS(Global Positioning System)などにより車載端末の位
置情報を取得し、車載端末が今後走行する経路である予定走行経路を取得する。予定走行経路は、設定された目的地までの経路として取得されても良く、ジャイロ等を用いて取得された走行方向に基づいて算出されても良い。基地局エリア取得手段は、基地局の通信可能範囲をPOI(Point of Interest)情報として取得する。進入判定手段は、車載端末
の位置情報及び予定走行経路と基地局の通信可能範囲とに基づいて、車載端末が基地局の通信可能範囲に入るかを予測する。そして、車載端末の資源情報登録手段は、車載端末が基地局の通信可能範囲に入ると予測された場合に、本分散処理システムへの登録の準備を行う。
【0019】
システムへの登録の準備には、例えば、基地局の通信可能範囲に入る前に計算ノードと
して機能するために必要なプログラムの起動を行うことや、資源情報等の各種データをあらかじめ取得することが含まれる。また、車載端末の資源情報登録手段は、基地局の通信可能範囲に入る前から、基地局に対して登録要求を連続して送信することが好適である。これにより、基地局から電波を受信してから登録要求を送信する構成をとった場合よりも早く本分散処理システムへの登録が完了する。
【0020】
以上のような構成をとることによって、車載端末が基地局の通信可能範囲に入ると同時に、車載端末が基地局に登録され計算ノードとして機能することができるようになる。すなわち、計算ノードとして演算資源を提供する期間を最大限にすることが可能となる。これは、分散処理システムの観点から見ると、利用できる演算資源が増えることに相当し、処理能力の向上が図られることになる。
【0021】
本発明に係る分散処理システムにおける資源情報に演算資源を提供する有効期限が含まれる場合には、以下の方法によってその有効期限を算出することが好適である。すなわち、車載端末は上記の車両位置情報取得手段と基地局エリア取得手段に加えて、車速を取得する車速取得手段を有する。そして、資源情報登録手段は、自端末の位置情報、予定走行経路、及び車速と基地局の通信可能範囲に基づいて、自端末が基地局の通信可能範囲に留まる時間を算出し、算出した時間を有効期限とすることが好適である。
【0022】
このように、車載端末が基地局の通信可能範囲に留まる時間を有効期限とすることで、車載端末が計算ノードとして演算資源を提供する期間をあらかじめ把握することが可能となる。すなわち、車載端末が基地局の通信可能範囲から抜け出て演算資源が提供できないときを有効期限に含める可能性が最小限になる。分散処理システムの観点から見ると、資源の管理を正確に行えることとなり、適切な計算ノードに対して処理を割り当てることが可能となる。
【0023】
また、上記のように資源情報に車載端末が演算資源を提供する有効期限が含まれる場合には、基地局の処理割り当て手段は、この有効期限も考慮して、依頼された処理を実行させる車載端末を特定することが好適である。例えば、残りの有効期限と実行させる処理に要する時間とを比較し、処理に要する時間よりも長い有効期限を持つ車載端末に処理を割り当てる方法がある。また、処理に要する時間以上の有効期限を持つ車載端末が複数ある場合に、有効期限が短い車載端末から優先的に処理を割り当てても良い。
【0024】
このように、有効期限を考慮して処理を割り当てる車載端末を特定することで、割り当てられた処理を完了する前に車載端末が基地局の通信可能範囲から抜け出てしまうことによって生じる、処理結果が得られなくなる可能性を最小限にできる。また、システムで利用できる演算資源を有効活用することができる。
【0025】
なお、本発明は、上記手段の少なくとも一部を有する車載端末として捉えることができる。
【0026】
例えば、本発明の一態様としての車載端末は、無線通信によって互いに接続可能な他の車載端末及び基地局と分散処理システムを構成する車載端末であって、基地局に対して、自端末が有する演算資源に関する情報である資源情報を送信するとともに、分散処理システムへ自端末を計算ノードとして登録する資源情報登録手段と、基地局から割り当てられる処理を実行する演算手段と、自端末の位置情報及び予定走行経路を取得する車両位置情報取得手段と、基地局の通信可能範囲を取得する基地局エリア取得手段と、自端末の位置情報及び予定走行経路と基地局の通信可能範囲とに基づいて、自端末が基地局の通信可能範囲に入るかを予測する進入予測手段と、を有し、資源情報登録手段は、自端末が基地局の通信可能範囲に入ると予測された場合に、分散処理システムへの登録の準備を行う。
【0027】
また、本発明の一態様としての車載端末は、無線通信によって互いに接続可能な他の車載端末及び基地局と分散処理システムを構成する車載端末であって、基地局に対して、自端末が有する演算資源に関する情報である資源情報を送信するとともに、分散処理システムへ自端末を計算ノードとして登録する資源情報登録手段と、基地局から割り当てられる処理を実行する演算手段と、自端末の位置情報及び予定走行経路を取得する車両位置情報取得手段と、基地局の通信可能範囲を取得する基地局エリア取得手段と、車速を取得する車速取得手段と、を有し、資源情報には、車載端末が演算資源を分散処理システムに提供する有効期限が含まれ、資源情報登録手段は、自端末の位置情報、予定走行経路、及び車速と基地局の通信可能範囲に基づいて、自端末が通信可能範囲に留まる時間を算出し、算出した時間を有効期限とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、車載端末から構成される分散処理システムにおいて、処理能力を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
【0030】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るグリッドコンピューティングシステム(分散処理システム)の構成を示す概要図である。図1では、車両1a〜1dと路側機2からグリッドコンピューティングシステムが構成されている。車両1a〜1dは路側機2の通信可能範囲4の中に位置しており、各車両は路側機2と直接通信を行う。以下では、路側機2の通信可能範囲のことを「路側機エリア」という。
【0031】
図1におけるグリッドコンピューティングシステムでは、路側機2が管理ノードとして機能し、各車両(車載端末)が計算ノードとして機能する。また、路側機2は計算ノードとしての機能も兼ね備える。なお、グリッドコンピューティングシステムに処理を依頼する処理依頼ノードは、各車両及び路側機2のいずれであっても良い。
【0032】
管理ノードである路側機2は、グリッドコンピューティングシステム内の計算ノードが有する演算資源に関する情報(資源情報)を管理し、この資源情報に基づいて処理依頼ノードから依頼される処理を適切な計算ノードに割り当てる。資源情報には、演算資源を提供する期間、計算ノードが有するCPUの能力、CPU稼働状況、空きメモリ、通信速度等の情報が含まれる。また、管理ノードは、可能であれば依頼された処理を複数の演算ジョブに分割して、それぞれ異なる計算ノードに割り当てることで、並列して演算ジョブの実行を行うことができる。さらに、管理ノードは、計算ノードに対する処理の割り当て状況を管理し、計算ノードから得られた処理結果を処理依頼ノードへと通知する。
【0033】
なお、上記のような車両と路側機(インフラ設備)とが協調して構成するグリッドコンピューティングシステムのことを、以下では「インフラ協調グリッド」という。
【0034】
<ハードウェア構成>
[車載端末のハードウェア構成]
図2は、車両1に搭載される車載端末10の構成を示す図である。車載端末10は、CPU11、RAMなどの主記憶装置12、ハードディスクなどの補助記憶装置13を有する。また、車載端末は、車両内のナビゲーション装置14、車速センサ16や通信部15と接続されており、車両1の位置情報や走行速度の取得や、路側機との通信を行うことが可能である。
【0035】
CPU11は、補助記憶装置13に格納されたプログラムを主記憶装置12に読み出して、そのプログラムを実行する。
【0036】
ナビゲーション装置14は、GPS(Global Positioning System)を用いて車両1の
現在位置を取得する。また、ナビゲーション装置14は、あらかじめ保持された地図データと入力された目的地とに基づいて、目的地までの誘導経路を求める。さらに、ナビゲーション装置14は、周囲に存在する施設や店舗等に関する情報であるPOI情報を取得する。POI(Point of Interest)情報には、路側機の存在する場所とその通信可能エリ
ア(路側機エリア)が含まれる。車載端末10は、ナビゲーション装置14を介して、自車の現在位置や予定走行経路、路側機エリアを取得することができる。なお、予定走行経路は、ジャイロ等を用いて走行方向を取得し、この走行方向に基づいて算出しても良い。
【0037】
車速センサ16は、車両1の移動の速さ(車速)を取得する。車速センサ16は、車速が計測できるものであれば、磁気式、機械式などいかなる技術を用いても構わない。
【0038】
通信部15は、路側機2と無線通信を行う。路側機2との間の無線通信の方式は、IEEE802.11x等の無線LANや、DSRC(Dedicated Short Range Communication)など、どのような方式であっても構わない。
【0039】
[路側機のハードウェア構成]
図3は、路側機2の構成を示す図である。路側機2は、CPU21、RAMなどの主記憶装置22、ハードディスクなどの補助記憶装置23、及び通信部25を有する。
【0040】
CPU21は、補助記憶装置23に格納されたプログラムを主記憶装置22に読み出して、そのプログラムを実行する。
【0041】
通信部25は、車載端末と無線通信を行う。車載端末との間の無線通信方式は上記と同様である。また、通信部25は有線通信あるいは無線通信によって、他の情報処理装置(固定端末)と接続されても良い。この場合、インフラ協調グリッドにおいて、固定端末を計算ノードとして使用することが可能となる。
【0042】
<機能構成>
[グリッドコンピューティングに係る機能]
図4は、車載端末10及び路側機2が有する、グリッドコンピューティングに係る機能に関する機能ブロック図である。管理ノード6として機能するのは路側機2であり、計算ノード7及び処理依頼ノード5として機能するのは車載端末10である。なお、管理ノード6及び処理依頼ノード5は計算ノードとしても機能する。
【0043】
管理ノード6が有する資源管理部32は、計算ノード7として機能する車載端末及び路側機の演算資源に関する情報を、資源提供部33を介して取得する。資源管理部32が取得する演算資源に関する情報は、例えば、各車載端末及び路側機が演算資源を提供する期限、CPUの処理能力に関する情報、CPUの稼働状況、空きメモリ容量、通信速度などである。資源管理部32が取得したこれらの資源情報は、資源情報記憶部36に格納される。
【0044】
また、資源管理部32は、後述するスケジューラ31からの指示に従って、演算ジョブを指示された計算ノードの資源提供部33に送信する。
【0045】
資源提供部33は、その車載端末又は路側機が有する演算資源に関する情報を資源管理
部32に通知する。また、資源提供部33は、資源管理部32から与えられた演算ジョブを実行する。演算ジョブの実行は、アプリケーション34を計算ノードのCPUが実行することによって行われる。そして、実行結果を資源管理部32に対して送信する。
【0046】
処理依頼ノード5の処理依頼部35は、管理ノード6のスケジューラ31に対して実行すべき処理を依頼する。処理の依頼を受けたスケジューラ31は、可能であれば、その処理を複数の演算ジョブに分割する。1つの演算ジョブは、1台の計算ノードで独立して処理可能であり、依頼された処理を複数の演算ジョブに分割できる場合には、分割することによって並列処理が可能となる。
【0047】
また、スケジューラ31は、資源情報記憶部36に格納された各計算ノードの資源情報に基づいて、各演算ジョブを割り当てる計算ノードを特定する。そして、上述したように、特定した計算ノードに、資源管理部32を介して演算ジョブを実行させる。
【0048】
なお、上述した各機能部は、メモリに格納されたプログラムをCPU11,21が実行することによって実現される。
【0049】
[インフラ協調グリッドへの登録に係る機能]
図5は、車載端末10が有する、インフラ協調グリッドへの登録に係る処理に関する機能ブロック図である。車載端末10は、車載端末10が搭載された車両1の位置情報及び予定走行経路を取得する車両位置情報取得部41、路側機エリアを取得するPOI情報取得部42、車両1が路側機エリアに進入するか否かを予測する路側機エリア進入判定部43、路側機2に対してインフラ協調グリッドへの登録を行う資源情報登録部44を有する。
【0050】
車両位置情報取得部41は、ナビゲーション装置14のGPSによって取得された位置情報を取得し、また、ナビゲーション装置14によって求められた目的地までの最適経路を予定走行経路として取得する。予定走行経路は、ジャイロや電子方位計などによって走行方向を取得し、この走行方向と地図データとに基づいて決定しても良い。
【0051】
POI情報取得部42は、ナビゲーション装置14にあらかじめ格納されたPOI情報を用いて、車両1が存在する場所近辺の路側機エリアを取得する。
【0052】
路側機エリア進入判定部43は、車載端末10が路側機エリアに進入するか否かを予測する。この予測は、車両位置情報取得部41から取得された車両1の位置情報及び予定走行経路と、POI情報取得部42から取得された路側機エリアとに基づいて行われる。すなわち、車両1の現在位置と予定走行経路とから、車両1が所定の時間が経過するまでに路側機エリアに進入するか否かを判定する。
【0053】
資源情報登録部44は、路側機2に対してインフラ協調グリッドへの登録通知を行う。すなわち、車載端末10が有する演算資源をインフラ協調グリッドに対して提供することを通知する。この際、資源情報登録部44は、車載端末が有する演算資源に関する情報(資源情報)を路側機2に対して通知する。資源情報には、車載端末10が有するCPU11の処理能力、CPU11の稼働状況、空きメモリ容量、通信速度などが含まれる。
【0054】
また、資源情報登録部44は、車両1が路側機エリアに進入すると予測される場合に、インフラ協調グリッドへの登録の準備を開始する。登録の準備では、例えば、資源提供部33やアプリケーション34として機能するプログラムをあらかじめ起動したり、自端末が有する資源情報を収集する処理を開始したりすることが含まれる。また、登録の準備には、車両1が路側機エリアに進入する前から、登録通知を路側機2に対して連続的に送信
し、車両1が路側機エリアに進入すると同時に路側機2が登録通知を受信できるようにすることも含まれる。
【0055】
<処理フロー>
図6は、路側機エリアに進入すること予測してインフラ協調グリッドへの登録の準備を開始するか否かを決定する処理の流れを示すフローチャートである。この処理は、図7に示すように、車両1が路側機エリア4外に位置し、車両1がインフラ協調グリッドの計算ノードとして登録されていないときに行われる処理である。
【0056】
ステップS101で、車両位置情報取得部41は、車両1の位置情報及び予定走行経路を取得する。ステップS102で、POI情報取得部42は、路側機エリア4をPOI情報として取得する。そして、ステップS103で、路側機エリア進入判定部43が、車両1が路側機エリア4に進入するか否か判定する。
【0057】
ステップS103において、図7(b)に示すように、車両1が路側機エリア4に進入すると予測されない場合には、処理を終了する。
【0058】
ステップS103において、図7(a)に示すように、車両1の現在位置と予定走行経路とから、車両1が所定の時間内に路側機エリア4に進入すると予測される場合には、ステップS104に進む。ステップS104では、資源情報登録部44が、インフラ協調グリッドへ登録するための準備処理を行う。具体的には、資源提供部33やアプリケーション34をあらかじめ起動する。また、車両1が路側機エリア4に進入する前から登録通知を送信し、車両1が路側機エリア4に進入すると同時に路側機2が登録通知を受信できるようにする。
【0059】
<作用/効果>
車載端末と路側機とでグリッドコンピューティングシステムを構成し、管理ノードの機能を路側機に持たせることで次のような効果が得られる。まず第一に通信の安定が図られる。管理ノードは全ての計算ノードと通信して資源情報等を管理するため、通信量及び通信頻度が最も大きくなる。したがって、管理ノードとの通信の安定性を高めることが、グリッドシステムとしての通信の安定性を高めることに大きく貢献する。路側機は固定端末であるため、車載端末(移動端末)間での通信よりも安定性が高い。また、路側機には高い送信出力の送信機及び高い受信感度を持つ受信機を設置することができるので、広い範囲で安定した通信を行うことができる。以上のように、管理ノードを路側機とすることで、グリッドシステムとしての通信の安定性が高まる。
【0060】
第二に、車載端末は路側機を介して他の車載端末と通信するインフラモードを採用するため、アドホック通信のような複雑な通信を行わなくても良くなる。したがって、簡易な構成でグリッドシステムを構築することができる。
【0061】
また、路側機を管理ノードにするインフラ協調グリッドでは、車載端末は高速で移動するため路側機の通信可能範囲に留まる時間が短いという特徴がある。これは、車載端末(計算ノード)が演算資源を提供できる時間が短いということであり、グリッドシステムの観点からすれば利用できる演算資源が少なくなってしまうということである。
【0062】
この問題点を解消するために、車載端末は路側機の通信可能範囲に進入することを予測して、実際に通信可能範囲に進入する前からグリッドシステムへの登録処理を開始する。したがって、車載端末と路側機とが通信可能になると同時に、車載端末は計算ノードとして演算資源を提供できるようになるため、演算資源を提供できる期間を長くすることができる。グリッドシステムの観点からは、利用できる演算資源が増えることになり、したが
って処理性能が向上する。
【0063】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、車載端末が計算ノードとしてインフラ協調グリッドに参加する際の、演算資源を提供する期限(有効期限)の算出処理に特徴がある実施形態である。以下では、第1の実施形態と同一の部分については説明せず、異なる部分についてのみ説明する。
【0064】
図8は、車載端末10が有する、有効期限算出処理に係る機能に関する機能ブロック図である。本実施形態において車載端末10は、車速取得部45及び有効期限算出部46を有する。
【0065】
車速取得部45は、車速センサ16から車両1の車速を取得する。有効期限算出部46は、車両位置情報取得部41から取得される車両1の現在位置及び予定走行経路、車速取得部45から取得される車速、及びPOI情報取得部42から取得される路側機エリア4に基づいて、車両1が路側機エリア4に留まる時間(車両1が路側機エリア4を抜け出るまでに要する時間)を算出する。有効期限算出部46は、この時間を車両1が演算資源を提供できる期限(有効期限)とする。この際、車速取得部45は、車速センサ16から取得される現時点における車速ではなく、過去に取得された車速の履歴に基づいて予測される平均車速を、有効期限算出部46に対して与えても良い。また、地図情報に関連づけられて格納された、走行中の道路の制限速度を用いても良い。
【0066】
有効期限算出部46によって算出された有効期限は、資源情報登録部44に通知され、資源情報登録部44は車両1をインフラ協調グリッドに登録する際に、この有効期限を資源情報の一部として送信する。
【0067】
図9は、有効期限算出部46が、車両1が演算資源を提供する期限を算出する動作例を示すフローチャートである。
【0068】
有効期限算出部46は、車両位置情報取得部41から位置情報と予定走行経路とを取得し(S201)、POI情報取得部42から路側機エリア4を取得し(S202)、車速取得部45から車速を取得する(S203)。
【0069】
そして、有効期限算出部46は、上記のステップで得られた位置情報、予定走行経路、路側機エリア、車速に基づいて、車両1が路側機エリア4に留まる時間を算出する(S204)。そして、この時間を有効期限として資源情報登録部44に送信する(S205)。
【0070】
このように、位置情報、予定走行経路、車速及び路側機エリアとに基づいて、車両1がインフラ協調グリッドに演算資源を提供できる期限を算出して登録することで、管理ノードである路側機2は、演算ジョブを割り当てる計算ノードを効率的に選択することが可能となる。すなわち、管理ノードの資源管理部32は、演算ジョブを計算ノードに割り当てる際に、演算ジョブに要する処理時間と計算ノードの有効期限を比較して、処理時間以上の有効期限を持つ計算ノードに処理を割り当てることができる。
【0071】
(変形例)
上記の実施形態ではいずれも、車両1内に車載端末10が1台しか存在しなかったが、図10に示すように複数存在しても良い。また、車載端末はプログラムを実行することによってグリッドコンピューティングシステムを構成できるものであれば、どのような種類のものであってもかまわない。例えば、パーソナルコンピュータ、PDA(Personal Dig
ital Assistant)、携帯電話やカーナビゲーション装置、ECU(Electronic Control Unit)などが考えられる。
【0072】
また、路側機2も1台のみの場合を説明したが、図11に示すように複数の路側機が存在し、これら複数の路側機がネットワークを介して接続されていても良い。この場合、各路側機は自機の路側機エリアに存在する計算ノードの資源情報を交換して、全ての路側機エリアに存在する計算ノードの資源情報を把握することができる。すなわち、路側機の通信可能範囲を実質的に拡げたことになり、広範囲に及びグリッドコンピューティングシステムを構築することができる。通信可能範囲を拡げることは、より多くの計算ノードを保有できることになるので、グリッドコンピューティングシステムとしての処理能力が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】第1の実施形態におけるグリッドコンピューティングシステムのシステム構成を示す図である。
【図2】第1の実施形態における車載端末の構成を示す図である。
【図3】第1の実施形態における路側機の構成を示す図である。
【図4】第1の実施形態における車載端末及び路側機のグリッドコンピューティング処理に係る機能の機能ブロック図である。
【図5】第1の実施形態における車載端末のグリッドコンピューティングシステムに対する登録処理に係る機能の機能ブロック図である。
【図6】第1の実施形態における車載端末のグリッドコンピューティングシステムに対する登録処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】第1の実施形態における車載端末のグリッドコンピューティングシステムに対する登録処理を説明する図である。
【図8】第2の実施形態における車載端末の有効期限算出処理に係る機能の機能ブロック図である。
【図9】第2の実施形態における車載端末の有効期限算出処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】車載端末の構成の変形例を示す図である。
【図11】グリッドコンピューティングシステムのシステム構成の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
1 車両
2 路側機
4 路側機エリア
10 車載端末
11 CPU
12 主記憶装置
13 補助記憶装置
14 ナビゲーション装置
15 通信部
16 車速センサ
21 CPU
22 主記憶装置
23 補助記憶装置
25 通信部
31 スケジューラ
32 資源管理部
33 資源提供部
34 アプリケーション
35 処理依頼部
36 資源情報記憶部
41 車両位置情報取得部
42 POI情報取得部
43 路側機エリア進入判定部
44 資源情報登録部
45 車速取得部
46 有効期限算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信によって互いに接続可能な基地局と車載端末から構成される分散処理システムであって、
前記基地局は、
計算ノードとして機能する車載端末が有する演算資源に関する情報である資源情報を記憶する資源情報記憶手段と、
前記資源情報に基づいて、依頼された処理を実行させる車載端末を特定し、特定した車載端末に対して処理を実行させる処理割り当て手段と、
を有し、
前記車載端末は、
前記基地局に対して、自端末の資源情報を送信するとともに、前記分散処理システムへ自端末を計算ノードとして登録する資源情報登録手段と、
前記基地局から割り当てられる処理を実行する演算手段と、
を有する
ことを特徴とする分散処理システム。
【請求項2】
請求項1に記載の分散処理システムであって、
前記車載端末は、
自端末の位置情報及び予定走行経路を取得する車両位置情報取得手段と、
前記基地局の通信可能範囲を取得する基地局エリア取得手段と、
前記位置情報及び予定走行経路と前記基地局の通信可能範囲とに基づいて、自端末が前記基地局の通信可能範囲に入るかを予測する進入予測手段と、
をさらに有し、
前記車載端末の前記資源情報登録手段は、自端末が前記基地局の通信可能範囲に入ると予測された場合に、分散処理システムへの登録の準備を行う
ことを特徴とする分散処理システム。
【請求項3】
請求項1に記載の分散処理システムであって、
前記車載端末は、
自端末の位置情報及び予定走行経路を取得する車両位置情報取得手段と、
前記基地局の通信可能範囲を取得する基地局エリア取得手段と、
車速を取得する車速取得手段と、
をさらに有し、
前記資源情報には、車載端末が演算資源を分散処理システムに提供する有効期限が含まれ、
前記車載端末の前記資源情報登録手段は、自端末の位置情報、予定走行経路、及び車速と前記基地局の通信可能範囲に基づいて、自端末が前記通信可能範囲に留まる時間を算出し、算出した時間を前記有効期限とする
ことを特徴とする分散処理システム。
【請求項4】
請求項3に記載の分散処理システムであって、
前記基地局の処理割り当て手段は、前記有効期限も考慮して、依頼された処理を実行させる車載端末を特定する
ことを特徴とする分散処理システム。
【請求項5】
無線通信によって互いに接続可能な他の車載端末及び基地局と分散処理システムを構成する車載端末であって、
前記基地局に対して、自端末が有する演算資源に関する情報である資源情報を送信するとともに、前記分散処理システムへ自端末を計算ノードとして登録する資源情報登録手段
と、
前記基地局から割り当てられる処理を実行する演算手段と、
自端末の位置情報及び予定走行経路を取得する車両位置情報取得手段と、
前記基地局の通信可能範囲を取得する基地局エリア取得手段と、
前記位置情報及び予定走行経路と前記基地局の通信可能範囲とに基づいて、自端末が前記基地局の通信可能範囲に入るかを予測する進入予測手段と、
を有し、
前記資源情報登録手段は、自端末が前記基地局の通信可能範囲に入ると予測された場合に、分散処理システムへの登録の準備を行う
ことを特徴とする車載端末。
【請求項6】
無線通信によって互いに接続可能な他の車載端末及び基地局と分散処理システムを構成する車載端末であって、
前記基地局に対して、自端末が有する演算資源に関する情報である資源情報を送信するとともに、前記分散処理システムへ自端末を計算ノードとして登録する資源情報登録手段と、
前記基地局から割り当てられる処理を実行する演算手段と、
自端末の位置情報及び予定走行経路を取得する車両位置情報取得手段と、
前記基地局の通信可能範囲を取得する基地局エリア取得手段と、
車速を取得する車速取得手段と、
を有し、
前記資源情報には、車載端末が演算資源を分散処理システムに提供する有効期限が含まれ、
前記資源情報登録手段は、自端末の位置情報、予定走行経路、及び車速と前記基地局の通信可能範囲に基づいて、自端末が前記通信可能範囲に留まる時間を算出し、算出した時間を前記有効期限とする
ことを特徴とする車載端末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−87273(P2007−87273A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−277715(P2005−277715)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(502087460)株式会社トヨタIT開発センター (232)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】