説明

分散剤およびその製造方法

【課題】分散添加剤及びそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】20℃の温度及び101325Paの圧力で液体でありかつ一般式(I)[R−O(SO)(EO)(CHCHCHO)(BO)−[PO−(OH)3−x−R〔式中、R=カルダノール基、R=H、M、または1〜3個のC原子を有するアルキル基、SO=スチレンオキシド、EO=エチレンオキシド、BO=ブチレンオキシド、かつa=0〜3、b=0〜100、好ましくは少なくとも1、c=0〜20、d=0〜3、x=1〜3、y=0または1、ただし、y+zは=1であり、z=1のときxもまた=1であり、a、c、及びd=0のときbは1〜15、好ましくは6〜10であり、cまたはdが0以外のとき他の指数a〜dの1つも同様に0以外であり、かつ合計a+b+c+dは3超である〕で示される化合物、その製造方法、これらの化合物を含む組成物、及びその使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意選択によりスチレンオキシドを含有し、かつ、任意選択によりリン酸化された、アルコキシル化により得られるフェノール系化合物(これらの化合物は、カルダノール(cardanol)またはカシューナッツ殻液(CNSL)という総称語でまとめられる)、ならびに水性のコーティング材料および印刷インクのための添加剤としての、より具体的には水性顔料ペースト中の分散剤としてのそれらの使用、さらにはそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルダノールの使用は、何十年も前から知られている。たとえば、カルダノールは、不飽和側鎖を介する重合およびそれに続くホルミル化によりカルダノール−ホルムアルデヒド樹脂を形成した後、使用される樹脂とブレーキのアスベストとの間の温度依存性摩擦係数が、カルダノール−ホルムアルデヒド樹脂を用いることにより安定化されて、均一な制動を可能にするので、自動車のブレーキで摩擦粒子の形態で使用される[とくに、米国特許第2686140号、米国特許第3227249号、仏国特許第1573564号、米国特許第4072650号を参照されたい]。
【0003】
カルダノールは、ホスホジエステラーゼ阻害剤[P. P. Kumar; R. Paramashivappa; P. J. Vithayathil, P. V. Subba Rao, A. Srinivasa Rao, J. Agric. Food Chem 50 (2002) 4705]、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ阻害剤[Junia M. Pereira, Richele P. Severino, Paulo C. Vieira, Joao B. Fernandes, M. Fatima G. G. da Silva, Aderson Zottis, Adriano D. Andricopulo, Glaucius Oliva, Arlene G. Correa, Bioorganic & Medicinal Chemistry 16 (2008) 8889]、カルシウムアンタゴニスト[P. P. Kumar, Stefanie C. Stotz, R. Paramashivappa, Aaron M. Beedle, Gerald W. Zamponi, A. Srinivasa Rao, Molecular Pharmacology 61 (2002) 649]、または抗生物質[国際公開第2008/062436号]などの医薬活性物質の製造用としても記載されている。
【0004】
カルダノールはさらに、ホルムアルデヒドおよびエチレンジアミンやジエチルトリアミンなどのアミンとマンニッヒ反応で反応させると、フェナルカミンを生成する。フェナルカミンは、ポリアミドを用いた場合と比較してより低い硬化温度であるので、海洋用の塗料および接着剤、床用の無溶剤塗料の製造において、農機具の塗装ならびにタンクライニングおよびパイプライニングのために、硬化剤として当技術分野に導入されてきた。それらは、硬化過程で高い耐湿性を提供するとともに、良好な耐薬品性および弾性の両方を提供する[とくに、R. A. Gardine, Modern Paint and Coatings 68 (1978) 33、P. H. Gedam, P. S. Sampathkumaran, Progress in Organic Coatings 14 (1986) 115、B. S. Rao, S. K. Pathak, Journal of Applied Polymer Science 100 (2006) 3956、J.-L. Dallons, European Coatings Journal 6 (2005) 34、米国特許出願公開第2004/0048954号、米国特許第5075034号を参照されたい]。より最近になって、ヒドロシリル化により調製されるカルダノール系硬化剤も知られるようになった[米国特許出願公開第2008/0275204号]。カルダノール系フェノール樹脂は、生態系に優しい耐酸性防食塗料として機能し[中国特許第101125994号]、塗料の化学的および機械的な性質は、化学修飾されたカルダノールにより改良されてきた[A. I. Aigbodion, C. K. S. Pillai, I. O. Bakare, L. E. Yahaya, Paintindia 51 (2001) 39、V. Madhusudhan, B. G. K. Murthy, Progress in Organic Coatings 20 (1992) 63、M. Yaseen, H. E. Ashton, Journal of Coatings Technology 50 (1978), 50]。
【0005】
塗料系で顔料の信頼性のある分散および安定化を行うために、分散剤を使用することにより、固体の効果的分散に必要な機械的剪断力を低減すると同時に非常に高い充填度を実現するのが慣例である。分散剤は、凝集塊の破壊を支援し、界面活性材料として、分散される粒子の表面を湿潤および被覆して、望ましくない再集塊が起こらないように安定化させる。顔料は、重要な配合成分として、塗膜の光学的外観および物理化学的性質を決定するので、顔料の安定化は、塗料工業で非常に重要である。塗膜でその効果を最適に発揮しうるように、分散操作時、コーティング材料中に均一にかつ微細化された状態で分布させなければならない。調製、貯蔵、処理、および後続のフィルム形成の過程でこの条件が維持されるように、分布を安定化させなければならない。一次粒子および凝集物のいかなる再結合が起こっても、沈降、粘度増加、光沢損失、不十分な色濃度、低隠蔽力、顔料の色浮き(floating)および色むら(flooding)、ならびに再現性の悪い色調をもたらす可能性がある[Goldschmidt, Streitberger; BASF Handbuch Lackiertechnik, BASF Munster und Vincentz Verlag Hannover 2002, p. 205 ff]。
【0006】
現在では、多種多様な物質が固体用の分散剤として使用されている。レシチン、脂肪酸およびその塩などの低分子質量の非常に単純な化合物とともに、たとえば、脂肪アルコールアルコキシレート[J. Bielmann, Polymers Paint Colour Journal 3 (1995) 17]およびポリマー[Frank O. H. Pirrung, Peter H. Quednau, Clemens Auschra, Chimia 56 (2002) 170]も分散剤としての使用が記載されている。パラアルキルフェノールエトキシレートも、顔料ペースト用の分散添加剤として使用可能である[J. Bielmann, Polymers Paint Colour Journal 3 (1995) 17]。それらは、低い価格および性能の面で優れているので、最適な分散添加剤であると考えられる。しかしながら、生態毒性学的な立場から、それらは、エストロゲン様挙動が理由で批判にさらされてきた[A. M. Soto, H. Justicia, J.W. Wray, C. Sonnenschein, Environ Health Perspect 92 (1991) 167]。また、ノニルフェノールエトキシレートに関しても、ノニルフェノールと女性ホルモン17−β−エストラジオールとの類似性が論じられてきた。魚類および哺乳類の授精周期へのそのような分解生成物の介入は、実証されていると考えられる[C. A. Staples, J. Weeks, J. F. Hall, C. G. Naylor, Environmental Toxicology and Chemistry 17 (1998) 2470、A. C. Nimrod, W. H. Benson, Critical Reviews in Toxicology, 26 (1996) 335]。したがって、多くの国々で、洗剤でのそれらの使用は、すでに禁止されている。塗料および印刷インクの業界でも、類似の禁止が予想される。
【0007】
パラアルキルフェノールアルコキシレートを使用する代わりに、特許出願の欧州特許第1167452号および欧州特許第0940406号には、スチレンオキシドを含有し、かつ、直鎖状もしくは分枝状もしくは脂環式の出発化合物を有するポリアルキレンオキシドの使用が提示され、これらは、後続のリン酸化により反応させると、対応するリン酸エステルを形成する。しかしながら、そこに記載されるポリアルキレンオキシド用の原料は、もっぱら石油系原料であり、塗料工業においてもより高い持続可能性に対する一般的要求がなんら考慮されていない[S. Milmo, Coatings Comet 17 (2009) 10; T. Wright, Coatings World 4 (2008) 46、Robson F. Storey, The Waterborne Symposium, Advances in Sustainable Coatings Technology, Proceedings (2008) 465]。
【0008】
水系(water-based)顔料調製物、印刷インク、およびコーティング材料のための分散添加剤としてのエトキシル化カルダノール系界面活性剤は、米国特許第7084103号ですでに知られている。しかしながら、通常の処理温度では、そこに記載される構造体は、固体であり、これは、業界ユーザーによる工業用途に関しては欠点である。
【0009】
しかしながら、ユーザーにとって、エマルジョン塗料は、いくつかの欠点を抱えている。たとえば、エマルジョン塗料を屋外で使用した場合、まだ比較的塗装されたばかりの建物面で、たとえ短期間であっても雨に晒されると、その外観から「スネイルトレイル(snail trail)」と呼ばれることも多い光沢領域を建物面上に生じることもある。エマルジョン塗料は、常に、たとえば結合剤中の乳化剤、増粘剤、および湿潤剤などの水溶性成分を含む。これらは、調製、貯蔵寿命、および処理に関連して技術上きわめて重要である。適用されたばかりの塗料の乾燥の過程で、これらの添加剤は、対象の基材の吸収性および優勢な乾燥条件に依存して、部分的に基材中に吸収されるが、また、部分的に塗膜の表面へ移行して「堆積物」を形成する。その際、たええ短時間であっても雨が降ると、建物面上で、とくに比較的限られた乾燥時間の後、または他の好ましくない天候条件を受けた場合、水溶性成分は、再び溶解し、たとえ再乾燥後であっても、より長期間の降雨により建物面が実質的に「清浄」に洗浄されるまで、小滴の形態でまたは縞状に光沢領域として残存する。塗料の品質特性は、水溶性画分の流出により悪影響を受けることはない。しかしながら、塗装されたばかりの建物面の光学的外観は、かなり曇った状態になる。
【0010】
塗料の他の重要な因子は、水膨潤性である。これは、水を吸収して後で再放出する塗料の能力を表す。急速な水膨潤性つまり高い水吸収性は、一般的には基材に有害である。しかしながら、塗料系はまた、完全に非膨潤性であってはならない。なぜなら、そうでないと、湿気に晒された際の膨れ形成の結果として塗膜が基材から浮き上がるおそれがあるからである[Zorll, Rompp Lexikon Lacke und Druckfarben, Thieme Verlag Stuttgart New York 1998, p. 625]。
【0011】
高品質の塗料のさらなる重要な判定基準は、その清浄性である。この品質は、「耐湿潤摩耗性」として測定され、たとえば表面を清浄化する場合のような、機械的研磨に対する塗料の耐性の尺度である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、容易に処理可能であり、好ましくは再生可能な原料をベースとし、より具体的には水性の塗料および印刷インクを色付けする(tint)ための水性顔料ペーストで使用するのに好適であり、そのうえ好ましくはスネイルトレイルの形成を低減し、水膨潤性を低下させ、かつ/または耐湿潤摩耗性を改良する、分散添加剤を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
驚くべきことに、この目的は、20℃の温度および101325Paの圧力で液体である式(I)で示される化合物により達成されることを見いだした。
【0014】
したがって、本発明は、20℃の温度および101325Paの圧力で液体である式(I)で示される化合物、その製造方法、本発明の1種以上の化合物を含む組成物、および好ましくは水性顔料系のための添加剤としての、より具体的には分散添加剤としての、化合物および組成物の使用を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の化合物またはその混合物は、20℃の温度および101325Paの圧力で液体の形態で存在し、したがって、非常に容易に処理可能であるという利点を有する。とくに、本発明の化合物が、そのうえさらに、顔料系の液相、好ましくは水と混和しうる場合、本発明の化合物は、固体の形態で存在する添加剤を使用した場合よりも実質的に容易かつ均一に顔料系中に混合可能である。
【0016】
化合物が液状の凝集化状態であるため、分散添加剤としての本発明の化合物は、より容易に顔料の表面に均一に付着することによりその機能を満たすことが可能である。
【0017】
分散剤としての本発明の化合物の使用はさらに、先行技術の添加剤と比較して、より低いラブアウト値(rub-out value)およびより高い明度が達成されるという利点を有する。本発明の化合物を使用するさらなる利点は、しかるべく製造された顔料ペーストが長い貯蔵寿命を有することである。
【0018】
本発明の化合物、それを含む組成物、その製造方法、および本発明の化合物/組成物の使用は、以下に例として記載されているが、本発明をこれらの例示的実施形態に限定することをなんら意図するものではない。化合物の範囲、一般式、またはクラスが以下に示されている場合、それらは、明示的に挙げられた化合物の対応する範囲またはグループだけでなく、個々の値(範囲)または化合物を取り出すことにより取得可能な化合物のすべての部分範囲およびサブグループも包含することを意図する。本発明に関連して文献が引用された場合、それらの内容がすべて、本発明の開示内容に属することが意図されている。パーセント単位の数値が以下に与えられた場合、これらの数値は、とくに指定がないかぎり、重量パーセント単位の数値である。平均値が以下に指定された場合、対象の値は、とくに指定がないかぎり、数平均である。
【0019】
20℃の温度および101325Paの圧力で液体である本発明の化合物、または式(I)で示される化合物よりなる液体混合物は、化合物が、一般式(I)
[R−O(SO)(EO)(CHCHCHO)(BO)−[PO−(OR3−x−R (I)、
〔式中、
R=
【化1】


=−O(SO)(EO)(CHCHCHO)(BO)−単位への結合、
=Hまたは−O(SO)(EO)(CHCHCHO)(BO)−[PO−(OR2−x’(Rx’y’−Rz’、好ましくはH、
=同一もしくは異なり、15個の炭素原子と25〜31個の水素原子とを有する飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素基、
=同一もしくは異なり、H、M、または1〜3個のC原子を有するアルキル基、
=有機基、
=同一もしくは異なり、HまたはM
=金属または半金属のカチオン、好ましくはケイ素、アルミニウム、アルカリ金属、またはアルカリ土類金属のカチオン、
SO=スチレンオキシド、
EO=エチレンオキシド、
BO=ブチレンオキシド、かつ
a=0〜3、好ましくは0、1、または2、より好ましくは0または1、
b=0〜100、好ましくは少なくとも1、より好ましくは1〜20、非常に好ましくは6〜12、
c=0〜20、好ましくは0または1〜5、
d=0〜3、好ましくは0または2または3、
x=1〜3、好ましくは1または2、より好ましくは1、
y=0または1、好ましくは1、
z=0または1、好ましくは0、
y’=0または1、好ましくは0、
z’=0または1、好ましくは1、かつ
x’=0〜2、好ましくは0、
ただし、y+zは=1であり、z=1のときにx=1であり、y’+z’=1であり、z’=1のときにx’=1であり、a、c、およびd=0のときにbは1〜12、好ましくは6〜10であり、cまたはdが0以外のときに他の指数a〜dも同様に0以外であり、かつ合計a+b+c+d(存在する単位−O(SO)(EO)(CHCHCHO)(BO)−あたり)は3超である〕
に従うという事実により特徴づけられる。
【0020】
式(I)に示されるビルディングブロックの異なるモノマー単位は、任意の数のブロックを有して互いにブロック状の構成をとることが可能であり、任意の順序または統計的分布に従うことができる。式中で使用される指数は、統計的平均値(数平均)と見なされるものとする。
【0021】
基Rは、完全飽和の炭化水素基または一価、二価、もしくは三価の不飽和炭化水素基であってもよい。式(I)で示される化合物が化合物の混合物を含む場合、上記混合物は、Rが各々の場合に同一であるかあるいは基Rが異なる式(I)で示される化合物を排他的に含んでもよい。式(I)で示される好ましい化合物は、基Rが、脱カルボキシル化されたアナカルド酸(側鎖中に0〜3個の二重結合を有する、カシューナッツの殻から取得可能な(Z,Z)−6−(ペンタデカニル)サリチル酸の混合物)から誘導されるものである。式(I)で示されるとくに好ましい化合物は、基Rのうち35〜45mol%、好ましくは約42mol%が三価不飽和であり、30〜40mol%、好ましくは約34mol%が二価不飽和であり、15〜25mol%、好ましくは約22mol%が一価不飽和であり、かつ0〜5mol%、好ましくは約2mol%が飽和であるものである。
【0022】
指数a〜dを有する単位のそれぞれの数を介して、HLB値に対して特定の制御を加えることが可能である。さらに、顔料表面の立体的要件を適宜考慮に入れてもよい。それぞれの単位の数を介して、さらに、化合物とそれぞれの顔料系との適合性を調整することが可能である。
【0023】
式(I)で示されるとくに好ましい化合物は、bが0以外、好ましくは6〜20、より好ましくは6〜12であるものである。特定の最小限の割合のエチレンオキシド単位を組み込むことにより、式(I)で示される化合物が水溶性であることあるいは、第2の相を形成することなく任意の割合で水と混和することを保障することが可能である。
【0024】
とくに好ましい化合物は、R=H、y=1、かつz=0であり、かつ好ましくはx=1であるものである。
【0025】
指数a、b、c、および/またはdを伴って示される単位は、統計的に分布されても、またはブロック状に配置されてもよい。指数a、b、c、および/またはdを伴って示される単位は、好ましくはブロック状に配置される。
【0026】
指数a、b、c、およびdを有する単位のうちの最後の単位、言い換えれば、基Rから最も離れ、リンまたはRへの結合を有する単位は、エチレンオキシド単位であることが有利でありうる。
【0027】
式(I)で示される好ましい化合物は、指数aおよびbの単位を専ら有するものである。とくに好ましい化合物は、出発アルコールとしてのカルダノール基Rから数えて、最初にエチレンオキシドブロック(B1)、次にプロピレンオキシドブロック(A)、そして最終的に再びエチレンオキシドブロック(B2)を有するものであり、好ましい選択肢としては、エチレンブロックB1およびB2が各々の場合に3〜8個、好ましくは6個のエチレンオキシド単位を有し、かつプロピレンオキシドブロックAが2〜4個、好ましくは2個のプロピレンオキシド単位を有する化合物が挙げられる。式(I)で示されるこれらの好ましい化合物の場合、基Rが水素であればさらに好ましい。
【0028】
基Rの一部もしくは全部、好ましくは全部がM、より具体的にはアルカリ金属カチオンであることが、有利でありうる。
【0029】
式(I)で示される化合物が、典型的には、本質的に統計の法則により支配された分布を有するこれらの化合物の混合物の形態で存在することは、当業者の熟知するところである。式(I)で示される化合物の混合物が存在する場合、示された指数は、各々の場合に数平均を表す。
【0030】
本発明の化合物は、さまざまな方法で取得可能である。本発明の化合物およびその混合物は、好ましくは、以下に記載の本発明の方法により製造される。
【0031】
本発明の化合物またはその混合物を製造するための本発明の方法は、
A) 好適な酸性触媒、塩基性触媒、またはDMC触媒(二元金属シアン化物触媒)を用いて、OH基を含有する出発化合物を活性化する工程と、
B) 工程A)で得られた化合物を脂肪族および/または芳香族アルキレンオキシドと反応させる工程であって、脂肪族および/または芳香族アルキレンオキシドは、式(I)中に示される指数a、b、c、およびd、より具体的には好ましい実施形態において指数a〜dとして記述されるものが得られるようなモル量で使用される工程と、
C) 任意選択により、工程B)で得られた化合物を、リン酸エステルを形成するリン化合物と反応させる工程と、
D) 任意選択により、工程C)で得られた化合物を中和剤と反応させる工程と、
を含むという事実により特徴づけられる。
【0032】
中和工程E)を工程B)とCとの間で行うことが有利でありうる。
【0033】
工程A)
触媒として、先行技術から公知である触媒のすべてを利用することが可能である。
【0034】
使用可能な酸性触媒としては、たとえば、独国特許第102004007561号に記載の酸性触媒が含まれる。酸性触媒としては、元素の周期表の主族IIIAおよびIVA元素、より具体的には元素B、Al、およびSnのハロゲン化合物を使用することが好ましい。とくに好ましい選択肢では、酸性触媒としてHBF、BF、AlCl、またはSnClが使用される。
【0035】
好ましい選択肢として使用可能な塩基性触媒の例としては、たとえば、水酸化カリウムやナトリウムメチラートなどのアルカリ金属水酸化物およびアルカリ金属メチラートが含まれる。とくに好ましい選択肢では、工程A)の塩基性触媒としてカリウムメチラートが使用される。
【0036】
DMC触媒としては、たとえば、独国特許第102007057146号およびそこに引用されている文献に記載のDMC触媒を使用することが可能である。好ましい選択肢としては、亜鉛とコバルトとを含むDMC触媒、好ましくはヘキサシアノコバルト酸亜鉛(III)を含むものを使用することが挙げられる。米国特許第5158922号、米国特許出願公開第2003/0119663号、または国際公開第2001/080994号に記載のDMC触媒を使用することが好ましい。使用されるDMC触媒は、非晶性であっても、または結晶性であってもよい。
【0037】
反応混合物中の触媒濃度、具体的にはDMC触媒の濃度は、好ましくは0超〜10000wppm(質量ppm)、より好ましくは0超〜2500wppm、非常に好ましくは0.1〜200wppmであり、30〜100wppmがとくに好ましい。この濃度は、反応混合物の全質量を基準にする。
【0038】
触媒は、好ましくは、反応器内に1回だけ計量導入される。触媒の量は、方法に十分な触媒活性を提供するように設定しなければならない。触媒は、固体としてまたは触媒懸濁液の形態で、好ましくは固体として計量されてもよい。
【0039】
工程a)でとくに好ましい選択肢として使用されるのは、塩基性触媒またはDMC触媒、より具体的には以上で明示的に特定されたものである。
【0040】
OH基含有出発化合物(出発アルコール)としては、1種以上のカルダノールを使用することが好ましい。カルダノールは、好ましくは、側鎖中に0〜3個の二重結合を有する、カシューナッツの殻から取得可能な(Z,Z)−6−(ペンタデカニル)サリチル酸の混合物であるアナカルド酸の脱カルボキシル化により取得可能なものである。とくに好ましいカルダノールは、ペンタデカニル基が、数平均で、35〜45mol%、好ましくは約42mol%は三価不飽和であり、30〜40mol%、好ましくは約34mol%は二価不飽和であり、15〜25mol%、好ましくは約22mol%は一価不飽和であり、かつ0〜5mol%、好ましくは約2mol%は飽和であるものである。
【0041】
工程B)
工程B)は、先行技術に記載されるそれ自体公知の方式で行ってもよい。工程B)は、好ましくは、たとえば、米国特許第3427256号、米国特許第3427334号、米国特許第3427335号、米国特許第3278457号、米国特許第3278458号、米国特許第3278459号、米国特許第5470813号、または米国特許第5482908号に記載されるように行われる。
【0042】
工程B)は、好ましくは90〜200℃、より好ましくは100〜150℃、非常に好ましくは約120℃の温度で行われる。工程B)が好ましく行われる圧力は、好ましくは101325〜1013250Pa、より好ましくは401325〜801325Pa、非常に好ましくは601325Pa以下である。
【0043】
工程B)は、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、もしくはエチレングリコールジメチルエーテルなどの不活性溶媒の存在下でまたはバルク中で実施してもよい。工程B)の反応は、好ましくはバルク中で行われる。
【0044】
種々の脂肪族および/または芳香族アルキレンオキシドの反応が逐次的に実施されることが有利でありうる。このようにすると、ブロック状の構成を単純な方式で制御することが可能である。
【0045】
工程C)
工程C)は、バルク中でまたは溶媒の存在下で実施してもよい。使用可能な溶媒としては、具体的には、たとえば炭化水素などの非プロトン性有機溶媒が含まれる。トルエンは、より好ましい使用溶媒である。工程C)は、好ましくはバルク中で行われる。
【0046】
工程C)では、リン化合物として、好ましくはリン酸、塩化ホスホリル、およびポリリン酸(HPO中の溶液状のP)から選択されるリン化合物、より好ましくは塩化ホスホリルまたはポリリン酸(HPO中の溶液状のP)、非常に好ましくはポリリン酸(HPO中の溶液状のP)が使用される。好適なポリリン酸の例は、Clariant製のHPO中の含有率84重量%の溶液状のPを有するCAS No.8017−16−1により特定されるポリリン酸である。
【0047】
ポリリン酸は、好ましくは、工程B)で得られるポリエーテルのOH基とPとして計算されるポリリン酸とのモル比が1:0.1〜1:2、好ましくは1:0.2〜1:1、より好ましくは1:0.5になるような量で添加される。
【0048】
工程C)は、好ましくは40〜150℃、より好ましくは55〜125℃で、非常に好ましくは70〜110℃の温度で行われる。工程C)が好ましく行われる圧力は、101325Paである。
【0049】
工程D)
中和剤としては、具体的にはアルカリ金属水酸化物を工程D)で使用することが可能である。工程D)の中和剤としては、好ましくは水性溶液の形態で、水酸化カリウムを使用することが好ましい。とくに好ましくは、20重量%〜30重量%の濃度を有する水酸化カリウム水溶液を工程D)で使用することである。
【0050】
工程D)では、処理反応混合物のpHが8〜9、好ましくは8.5になるような量の中和剤を添加することが好ましい。
【0051】
pHは、好ましくは、20〜25℃の温度でガラス電極を有するpH計を用いてDIN EN 1262に従って決定される。一定の読み値が得られた1分後、読み取りを行って小数第1位の精度でpHを記録する。
【0052】
工程D)は、好ましくは20〜90℃、より好ましくは40〜80℃、非常に好ましくは50〜70℃の温度で行われる。工程D)が好ましく行われる圧力は、101325Paである。
【0053】
工程E)
工程A)および/またはB)で使用される触媒に依存して、それぞれ、工程B)の後で中和工程E)を行うことが有利または必要であり得る。
【0054】
工程A)および/またはB)で触媒として塩基性触媒を使用する場合、中和剤は、好ましくは乳酸やリン酸などの酸、より好ましくは乳酸、またはそれらの水性溶液である。
【0055】
工程A)および/またはB)で触媒として酸性触媒を使用する場合、中和剤は、好ましくは塩基、より好ましくはアルカリ金属水酸化物もしくはアルカリ金属炭酸塩、非常に好ましくはNaOH、またはそれらの水性の溶液もしくは懸濁液である。中和剤の水性溶液を使用する場合、工程C)を行う前、水を分離除去するプロセス工程を行うことが有利でありうる。水の分離は、たとえば蒸留により達成されてもよい。
【0056】
本発明の化合物を用いて、少なくとも1種の本発明の化合物を含む本発明の組成物が利用可能になる。本発明の式(I)で示される少なくとも1種の化合物以外に、本発明の組成物は、水を含んでもよいし、またはこれらの成分よりなってもよい。本発明の組成物が水および式(I)で示される化合物を含む場合、式(I)で示される化合物の割合は、好ましくは0.1重量%〜99.9重量%、より好ましくは5重量%〜60重量%、非常に好ましくは10重量%〜30重量%であり、水の割合は、好ましくは0.1重量%〜99.9重量%、より好ましくは40重量%〜95重量%、非常に好ましくは70%重量%〜90重量%である。
【0057】
本発明の組成物はさらに、たとえば脱泡剤、脱気剤、または保存剤などの1種以上の助剤および1種以上の固体、より具体的には顔料を含んでもよい。本発明の目的に合った固体は、原則として、20℃の温度および101325Paの圧力で固体である任意の有機もしくは無機の材料であってもよい。本発明の式(I)で示される化合物の割合は、固体、好ましくは顔料の重量を基準にして、好ましくは2.0重量%〜200重量%、より好ましくは5.0%重量%〜100重量%、非常に好ましくは10重量%〜30重量%である。
【0058】
本発明の組成物中に存在してもよい固体の例は、たとえば、顔料、充填剤、染料、蛍光増白剤、セラミック材料、磁性材料、ナノ分散固体、金属、殺生物剤、農薬、および医薬であり、これらは、分散体として利用される。
【0059】
好ましい固体は、顔料、たとえば、Colour Index, Third Edition, Volume 3; The Society of Dyers and Colourists (1982)およびその後の改訂版に明記されているものなどである。
【0060】
顔料の好ましい例は、無機顔料、たとえば、カーボンブラック、二酸化チタン、酸化亜鉛、プルシアンブルー、酸化鉄、硫化カドミウム、クロム顔料、たとえばクロム酸塩、モリブデン酸塩、および混合クロム酸塩、ならびに鉛、亜鉛、バリウム、カルシウムの硫酸塩、さらにはそれらの混合物である。無機顔料のさらなる例は、H. Endriss, Aktuelle anorganische Bunt-Pigmente, Vincentz Verlag, Hannover (1997)の書籍に与えられている。
【0061】
有機顔料の好ましい例は、アゾ顔料、ジスアゾ顔料、縮合アゾ顔料、ナフトール顔料、金属錯体顔料、チオインジゴ顔料、インダントロン顔料、イソインダントロン顔料、アンタントロン顔料、アントラキノン顔料、イソジベンゾアントロン顔料、トリフェノジオキサジン顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、ジケトピロロピロール顔料、およびフタロシアニン顔料よりなる群から選ばれるものである。有機顔料のさらなる例は、W. Herbst, K. Hunger, Industrial Organic Pigments, VCH, Weinheim (1993)の書籍に掲載されている。
【0062】
さらなる好ましい固体は、充填剤、たとえば、タルク、カオリン、シリカ、バライト、および石灰;セラミックス材料、たとえば、酸化アルミニウム、ケイ酸塩、酸化ジルコニウム、酸化チタン、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ケイ素−窒化アルミニウム混合物、および金属チタン酸塩;磁性材料、たとえば、遷移金属の磁性酸化物、たとえば、酸化鉄、コバルトドープ酸化鉄、およびフェライト;金属、たとえば、鉄、ニッケル、コバルト、およびそれらの合金;ならびに殺生物剤、農薬、および医薬、たとえば、殺菌類剤である。
【0063】
本発明の固体含有および/または顔料含有の組成物では、式(I)で示される化合物は、単独または組合せで使用されてもよい。これらの化合物の製造のために、本発明の式(I)で示される化合物は、分散される固体(顔料)と事前に混合されても、または固体(顔料)および任意のさらなる固体の添加の前もしくは添加と同時に、水性分散媒体中に分散されても、もしくは直接溶解されてもよい。上記の成分に加えて、本発明の組成物は、さらなる添加剤および助剤、より具体的には他の従来の顔料湿潤添加剤および/または樹脂を含んでもよい。
【0064】
本発明の式(I)で示される化合物は、添加剤として、好ましくは顔料の湿潤剤および/または分散剤として使用してもよい。本発明の式(I)で示される化合物は、より好ましくは、顔料ペースト、ワニス、塗料、または印刷インクのための添加剤として、好ましくは対応する水性(水含有)製品のための添加剤として使用される。
【0065】
本発明の組成物は、塗料、ワニス、印刷インク/印刷ワニス、結合剤含有もしくは結合剤無しの顔料ペースト、またはコーティング材料を製造するために、あるいは塗料、ワニス、印刷インク/印刷ワニス、結合剤含有もしくは結合剤無しの顔料ペースト、またはコーティング材料として、使用可能である。本発明の組成物は、好ましくは、対応する水性もしくは水含有の製品を製造するために、または対応する水性もしくは水含有の製品として、使用される。
【0066】
以下に明記された実施例では、本発明は、例として記載されており、本発明は、その適用範囲が明細書および特許請求の範囲の全体から明らかにされるものであって、実施例で特定された実施形態に限定されることがなんら意図されるものではない。
【実施例】
【0067】
実施例1a: ポリアルキレンオキシドPAO1の合成
303g(1mol)のカルダノールおよび2.7g(0.05mol)のナトリウムメチラートを反応器内に入れた。超高純度窒素で注意深くフラッシングした後、125℃に加熱を行い、240g(2mol)のスチレンオキシドを1時間にわたり添加した。さらに2時間後、スチレンオキシドの付加反応は、GCに基づく残留スチレンオキシド含有率が0.1重量%未満であったことから明らかなように、終了した。次に、内部温度が125℃を超えずかつ圧力が6barを超えないような速度で、484g(11mol)のエチレンオキシドを反応器内に計量導入した。エチレンオキシドの導入が終了した後、一定した圧力計圧力が後続反応の終了を示すまで温度を125℃に保持した。最後に、80℃〜90℃で、未反応残留モノマーを減圧下で除去した。リン酸を用いて、得られた生成物を中和し、蒸留により水を除去し、濾過助剤と共に濾過することにより、形成されたリン酸ナトリウムを除去した。
【0068】
実施例1b〜1f: ポリアルキレンオキシドPAO2〜PAO6の合成
実施例1aの場合と同様に化合物PAO2〜PAO6を調製した。
【0069】
実施例1a〜1fで使用した成分の利用モル量は、表1aから得ることが可能である(mol単位の数値)。
【0070】
【表1】

【0071】
実施例2a: リン酸エステルA1の合成
1OH当量のポリアルキレンオキシドPAO1を反応器に充填し、110℃に加熱した。減圧することにより、揮発性画分のすべて、具体的には生成物中に存在するすべての水を蒸留により反応空間から除去した。窒素の導入後、バッチを80℃に設定して、ポリリン酸(CAS No.8017−16−1;ポリリン酸84%、HPO中の溶液状のPとして計算した純度、製造業者:Clariant)をOH当量に基づいて添加した。2時間後、反応は終了し、脂肪族ヒドロキシル基はH−NMRスペクトルで検出できなかった。
【0072】
実施例2b〜2h: リン酸エステルA2〜A8の合成
実施例2aの場合と同様にリン酸エステルA2〜A8を調製した。実施例2gおよび2h(化合物A7およびA8)の場合、エステル化はなかった。表1bは、式(I)に対して示された定義を有するx、y、z、およびRを用いて、得られたリン酸エステルをさらに詳細に特定している。
【0073】
【表2】

【0074】
実施例3: 分散性の試験
以下に記載の性能検査のために、濃度25重量%の希薄水酸化カリウム水溶液を用いて化合物A1〜A8を30重量%の総固体含有率に希釈し、この混合物を分散添加剤として使用した。選択された固体は、以下の市販の顔料であった。
・ ヘリオゲンブルー(Heliogen Blue)L7101F(BASF SE)
・ パーマネントレッド(Permanent Red)FGR70(Clariant)
・ バイフェロックス(Bayferrox)120M(Lanxess)
【0075】
実施例3.1: 顔料ペーストの製造:
表2に示される配合に従って配合成分を250mLネジ蓋付きガラス槽に秤取し、ガラスビーズを添加した(混合に供される材料100gあたり200gのガラスビーズ)。続いて、密封した槽をSkandex混合機(Lau GmbH製のモデル:DAS H200-K)中で2時間振盪した。続いて、篩(Erich Drehkopf GmbH製のE-D-Schnellsieb 400μ、綿メッシュ、ミディアム)を用いてガラスビーズを顔料ペーストから分離した。
【0076】
【表3】

【0077】
これらの顔料ペーストに対して、直後および実施例3.1の顔料ペーストを50℃で4週間貯蔵した後の両方において、23℃かつ300および1000秒−1の両方で粘度の測定を行った(CP 50-2測定コーンを備えた回転式粘度計Anton Paar Physica MCR 301;1つの剪断速度あたり5つの測定点とし、後で平均する;各測定点につき10秒間の予備剪断)。この試験の結果を表3a〜3cに報告する。
【0078】
【表4】

【0079】
【表5】

【0080】
【表6】

【0081】
実施例3.2: 水性白色顔料の色付け(tinting):
直鎖状アクリレートの分散体(DSM NeoResins製のネオクリル(Neocryl)XK90)をベースとする水性白色顔料を使用した。以下の表4の配合に従って、白色顔料用の配合成分を200gのガラスビーズと混合し、次に、Skandex混合機(Lau GmbH製のモデル:DAS H 200K)で1時間振盪した。続いて、篩(Erich Drehkopf GmbH製のE-D-Schnellsieb 400μ、綿メッシュ、ミディアム)を利用してガラスビーズを顔料ペーストから分離除去した。
【0082】
【表7】

【0083】
色付けされた塗料を作製するために、実施例3.1の1gの各顔料ペーストおよび20gの白色顔料を秤取一体化した。Speedmixer(Hauschild & Co. KG製のモデル:DAC 150 FVZ)を用いて混合物を2500rpmで1分間ホモジナイズした。巻線コーティングバー(100μm)を用いて、このようにして作製された色付けされた試験塗料をコントラストチャート(Leneta(登録商標))上にナイフコーティングし、室温で乾燥させた。X-Rite製の計測器(モデル:X-Rite SP 60)を用いて、塗料ブレンド(Leneta(登録商標)コントラストチャート上の100μmの膜厚さ)の測色を行った。5分間乾燥させた後、ラブアウト試験(rub-out test)を行い、測色値をCIE L色モデル(DIN 6174:「ほぼ均一なCIELAB色空間に基づく色座標(colour coordinates)および色差の測色評価」)の成分として再現した。
【0084】
測色の結果を表5a〜5cにまとめる。
【0085】
【表8】

【0086】
【表9】

【0087】
【表10】

【0088】
表3a〜3cおよび5a〜5cに明記された結果は、本発明の化合物が顔料ペーストの作製および白色ベース塗料の色付けに好適であることを示している。
【0089】
実施例4: 性能試験
以下に記載の性能検査のために、濃度25重量%の希薄水酸化カリウム水溶液を用いてエステルA1〜A8を30重量%の総固体含有率に希釈し、この混合物を分散添加剤として使用した。使用した比較添加剤は、以下でB1として特定されたテゴディスパース(Tego Dispers) 715 W(ナトリウムポリアクリレートの溶液、Evonik Tego GmbH)、以下でB2として特定されたテゴディスパース(Tego Dispers) 740 W(脂肪酸エトキシレート、Evonik Tego GmbH)、および以下でB3として特定されたハイドロパラート(Hydropalat) 34(疎水性アンモニウムコポリマー、Cognis)であった。
【0090】
実施例4.1: スネイルトレイル
300μmの4ウェイコーティングバー(four-way coating bar)を用いて、白色顔料としてまたは色付けされた塗料として、ガラスプレート上に塗料をドローダウンすることにより、スネイルトレイル形成の試験を行った。このドローダウンを50℃で24時間乾燥させた。次に、計量システム(蠕動ポンプSP 041、Otto Huber GmbH (Bottingen))を用いて、45℃の角度で、2.5mL/minで、50mLの水を塗膜に滴状に適用した。実施例4.1.1および4.1.2のために選択された固体は、市販の白色顔料(クロノス(Kronos) 2310、Kronos、およびホンビタン(Hombitan) R 611、Sachtleben)であった。次に、光沢領域(スネイルトレイル)の形成を光学的に評価した。
【0091】
実施例4.1.1: シリコーン樹脂メーソンリー塗料上のスネイルトレイル
表6に明記された配合に基づく配合成分1〜13をディソルバー(ディスパーマット(Dispermat)CV2-SiP、VMA Getzmann GmbH (D-51580、Reichshof))の1Lポット中に導入した。この後、毎分2500回転で300gのガラスビーズを用いて分散を30分間行った。分散後、配合成分14〜17を毎分2500回転で15分間攪拌した。配合成分1〜17の全質量は、300gであった。次に、篩(Erich Drehkopf GmbH製のE-D-Schnellsieb 400μ、綿メッシュ、ミディアム)を利用してガラスビーズをメーソンリー塗料から分離した。
【0092】
【表11】

【0093】
実施例4.1.1の光学評価の結果は、表7から取り出すことが可能である。
【0094】
【表12】

【0095】
実施例4.1.2: 外装用エマルジョン塗料上のスネイルトレイル
表8に明記された配合に基づく配合成分1〜14をディソルバー(ディスパーマット(Dispermat) CV2-SiP、VMA Getzmann GmbH (D-51580、Reichshof))の1Lポット中に導入した。この後、毎分2500回転で300gのガラスビーズを用いて分散を30分間行った。分散を行った後、配合成分15を毎分2500回転で撹拌し、混合物をさらに15分間撹拌した。配合成分1〜15の全質量は、300gであった。次に、篩(Erich Drehkopf GmbH製のE-D-Schnellsieb 400μ、綿メッシュ、ミディアム)を利用してガラスビーズを外装用エマルジョン塗料から分離した。
【0096】
【表13】

【0097】
実施例4.1.2の光学評価の結果は、表9から取り出すことが可能である。
【0098】
【表14】

【0099】
表7および9に再現された試験結果に基づいて、本発明の化合物の使用を介してスネイルトレイルの形成を防止しうることは明らかである。
【0100】
実施例4.2: 水膨潤性
実施例4.1.2、表8からの水性外装用エマルジョン塗料を使用した。300μmフォーウェイコーティングバーを用いて塗料をガラスプレートに適用した。この後、50℃で24時間強制乾燥させた。続いて、バードローダウン(bar drawdown)を室温(23℃)で24時間貯蔵し、その後、ピペットを用いて0.3mLの水を乾燥塗膜に適用した。水滴を半球レンズで覆い、水膨潤が目視認識可能になるまでに要した時間を記録した。この試験の結果は、表10に再現されている。
【0101】
【表15】

【0102】
表10に再現された試験結果に基づいて、本発明の化合物の使用により水膨潤を遅らせうることがはっきりと認められる。
【0103】
実施例4.3: 耐湿潤摩耗性
実施例4.1.2、表8からの水性外装用エマルジョン塗料を使用した。300μmフォーウェイコーティングバーを用いて塗料を黒色Lenetaシートに適用した。40℃で14日間の乾燥時間の後、規格EN ISO 11998に準拠して耐湿潤摩耗性の試験を行った。この試験の結果は、表11に再現されている。
【0104】
【表16】

【0105】
表11に再現された試験結果に基づいて、本発明の化合物を用いることにより耐湿潤摩耗性を先行技術よりも改良しうることがはっきりと認められる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃の温度および101325Paの圧力で液体であり、かつ一般式(I)
[R−O(SO)(EO)(CHCHCHO)(BO)−[PO−(OH)3−x−R (I)、
〔式中、
R=
【化1】


=−O(SO)(EO)(CHCHCHO)(BO)−単位への結合、
=同一もしくは異なり、Hまたは−O(SO)(EO)(CHCHCHO)(BO)−[PO−(OH)2−x’(Rx’y’−Rz’
=同一もしくは異なり、15個の炭素原子と25〜31個の水素原子とを有する飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素基、
=同一もしくは異なり、H、M、または1〜3個のC原子を有するアルキル基、
=有機基、
=同一もしくは異なり、HまたはM
=金属または半金属のカチオン、
SO=スチレンオキシド、
EO=エチレンオキシド、
BO=ブチレンオキシド、かつ
a=0〜3、
b=0〜100、好ましくは少なくとも1、
c=0〜20、
d=0〜3、
x=1〜3、
y=0または1、
z=0または1、
y’=0または1、
z’=0または1、かつ
x’=0〜2、
ただし、y+zは=1であり、z=1のときにx=1であり、y’+z’=1であり、z’=1のときにx’=1であり、a、c、およびd=0のときにbは1〜12、好ましくは6〜10であり、cまたはdが0以外のときに他の指数a〜dも同様に0以外であり、かつ合計a+b+c+dは3超である〕
で示される化合物、または式(I)で示される化合物よりなる液体混合物。
【請求項2】
=Hであり、y=1であり、かつz=0であることを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記指数a、b、c、および/またはdを伴って表される単位がブロック状に配置されることを特徴とする、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
前記基Rから最も離れかつリンまたはRへの結合を有する前記単位がエチレンオキシド単位であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
A) 好適な酸性触媒、塩基性触媒、またはDMC触媒を用いてOH基を含有する出発化合物を活性化する工程と、
B) 工程A)で得られた化合物を脂肪族および/または芳香族アルキレンオキシドと反応させる工程であって、前記脂肪族および/または芳香族アルキレンオキシドは、式(I)中に示される指数a、b、c、およびdが得られるようなモル量で使用される工程と、
C) 任意選択により、工程B)で得られた化合物を、リン酸エステルを形成するリン化合物と反応させる工程と、
D) 任意選択により、工程C)で得られた化合物を中和剤と反応させる工程と、
を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物の製造方法。
【請求項6】
工程B)において、異なる脂肪族および/または芳香族アルキレンオキシドの反応が逐次的に行われることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程C)が行われ、かつポリリン酸(HPO中の溶液状のP)がリン化合物として使用されることを特徴とする、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
OH基1molあたり0.5molのPが使用されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の少なくとも1種の化合物を含む、組成物。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の少なくとも1種の化合物とさらに水とを含むか、またはこれらの成分よりなることを特徴とする、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
少なくとも1種の顔料を含むことを特徴とする、請求項9または10に記載の組成物。
【請求項12】
好ましくは水性の顔料ペースト、塗料、および印刷インクのための、添加剤としての、好ましくは顔料の湿潤剤および/または分散剤としての、請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項13】
塗料および印刷インク/印刷ワニス、結合剤含有または結合剤無しの顔料ペースト、ならびにコーティング材料を製造するための、請求項9〜11のいずれか一項に記載の組成物の使用。

【公開番号】特開2012−41341(P2012−41341A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−173641(P2011−173641)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(507375465)エヴォニク ゴールドシュミット ゲーエムベーハー (100)
【Fターム(参考)】