説明

分散剤

【課題】低温での安定性に優れる分散剤の提供。
【解決手段】アミロペクチン含有量が85質量%以上のカチオン性澱粉と(メタ)アクリルアミドを含むモノマー類を反応させて得られる澱粉グラフトポリマーを含有する置換コハク酸無水物サイズ剤用乳化分散剤であり、好ましくは、前記澱粉グラフトポリマーのカチオン性澱粉由来の成分が50〜95質量%、モノマー類の由来の成分が5〜50質量%である分散剤であり、さらに好ましくは、前記澱粉グラフトポリマーのカチオン性澱粉のアミロペクチン含有量が95質量%以上である分散剤である。
【効果】この分散剤を用いることでASAエマルションの分散安定性に優れ、サイズ効果に優れる置換コハク酸無水物サイズ剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミロペクチン含有量85質量%以上のカチオン性澱粉と(メタ)アクリルアミドを含むモノマー類を反応させて得られる澱粉グラフトポリマーを含有することを特徴とする置換コハク酸無水物(以下、ASAと略すことがある)サイズ剤用の分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アルケニルコハク酸無水物は、製紙分野において紙に耐水性を付与するサイズ剤として広く使用されている。同じくアルキルケテンダイマーに代表される2−オキセタノン化合物もサイズ剤として使用されているが、ASAは2−オキセタノン化合物よりも抄造直後のサイズ度が優れ、また古紙パルプや機械パルプに対してサイズ効果が優れる特徴を有する。実際の製紙工程において、ASAは水媒体中に乳化分散したエマルションとして使用される。ASAは常温あるいは加温状態で油状物質であるので、分散剤および高速攪拌機を用いた従来公知の乳化方法により乳化することができる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ASAを乳化させるための分散剤として、例えば、カチオン化澱粉糊液を使用する方法(例えば特許文献1、2参照)、(メタ)アクリルアミドを含むモノマー類をカチオン化澱粉にグラフト重合させたグラフト化カチオン化澱粉を使用する方法(例えば、特許文献3参照)などの澱粉をベースとした分散剤が提案されている。
【0004】
しかしながら、上記の澱粉をベースとした分散剤は、分散剤自身の低温での安定性が悪く、実際の使用に際して、温度の下がる冬期に使用が難しい問題があった。
【0005】
一方、澱粉ベースの乳化剤以外としては、水溶性カチオンモノマーのビニル付加重合体や(メタ)アクリルアミド系のカチオン性ポリマーを使用する方法(例えば、特許文献4,5参照)、両性アクリルアミド系ポリマーを使用する方法(例えば、特許文献6、7参照)が提案されている。
【0006】
上記の分散剤を用いてもASAは、水分との接触による加水分解を起こし易く、希釈安定性が悪いとの問題があり、ASA加水分解物が製紙工程の汚れの原因になり易く、未だ満足できるものではなかった。
【0007】
また、特定のカチオン性デンプンを用いて液状の2−オキセタノン化合物とASAとを混合する2−オキセタノン化合物が主体となっているサイズ剤が例示されている(例えば、特許文献8参照)。しかし、2−オキセタノン化合物を主体とするサイズ剤を改良する技術であり、カチオン性デンプンを分散剤とするものであり、上記のASAの有する課題を解決するには十分でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許3821069号公報
【特許文献2】特公昭39−002305号公報
【特許文献3】特許第3491413号公報(特開平9−111692号公報)
【特許文献4】特開昭60−246893号公報
【特許文献5】特公平6−33597号公報
【特許文献6】特公平3−4247号公報
【特許文献7】特開昭58−45731号公報
【特許文献8】特表2000−506941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、優れた低温での安定性を示し、本発明の分散剤を用いることでASAエマルションの安定性に優れ、サイズ効果に優れる置換コハク酸無水物サイズ剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、特定の澱粉グラフトポリマーが優れた低温安定性をしめし、またASAエマルションの安定性、紙のサイズ付与効果に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、前記課題を解決する手段は、
(1)アミロペクチン含有量が85質量%以上のカチオン性澱粉と(メタ)アクリルアミドを含むモノマー類を反応させて得られる澱粉グラフトポリマーを含有する置換コハク酸無水物サイズ剤用分散剤、
(2)前記澱粉グラフトポリマーのカチオン性澱粉由来の成分が50〜95質量%、モノマー類の由来の成分が5〜50質量%である前記(1)の分散剤、
(3)前記澱粉グラフトポリマーのカチオン性澱粉のアミロペクチン含有量が95質量%以上である前記(1)又は(2)の分散剤、
である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は低温での安定性に優れ、本発明の分散剤を用いることでASAエマルションの分散安定性に優れ、サイズ効果に優れる置換コハク酸無水物サイズ剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の分散剤に用いられる澱粉は、アミロペクチン含有量が85質量%以上のカチオン性澱粉である。アミロペクチン含有量が85質量%未満のカチオン性澱粉を用いた場合、低温での分散剤としての安定性が悪く、取り扱いが困難となる。
【0014】
本発明で用いるカチオン性澱粉は、アミロペクチン含有量が85質量%以上の澱粉全体としてカチオン性を有している澱粉であれば良く、アニオン性基(例えば、リン酸エステル基等)や疎水性基を有していてもよい。
【0015】
前記カチオン性澱粉として、例えばトウモロコシ、小麦、馬鈴薯、米、タピオカ等の生澱粉およびそれらの澱粉に、一級、二級、第三級の各アミノ基及び四級アンモニウム塩基からなる群から選ばれる少なくとも一種の塩基性窒素を含有させたアミロペクチン含有量が85質量%以上のカチオン性澱粉が挙げられる。これらは一種又は二種以上を用いることができる。これらの中でも、特に、アミロペクチンの含有量が多い点で、ワキシーコーンに、一級、二級、第三級の各アミノ基及び四級アンモニウム塩基からなる群から選ばれる少なくとも一種の塩基性窒素を含有させたカチオン性澱粉が好ましい。
【0016】
澱粉のアミロペクチンの含有量は、カチオン性澱粉をデンプンハンドブック(214頁、朝倉書店株式会社発行 第9版、昭和44年発行)に記載されている、ヨウ素呈色比色法で測定した値である。
【0017】
本発明で用いる澱粉グラフトポリマーは、カチオン性澱粉の存在下にアクリルアミド系ポリマーを形成し得るモノマー類をグラフト重合させて調製することができる。
【0018】
例えば、カチオン性澱粉水溶液中において、(メタ)アクリルアミドを少なくとも含有し、必要に応じてカチオン性基含有モノマー、アニオン性基含有モノマーおよびその他ビニルモノマーの少なくとも1種を重合して得ることができる。
【0019】
(メタ)アクリルアミドの使用量は通常50〜100モル%であり、50モル%未満の範囲で、必要に応じてカチオン性基含有モノマー、アニオン性基含有モノマーおよびその他ビニルモノマーを用いることができる。
【0020】
前記(メタ)アクリルアミドは、アクリルアミド及びメタクリルアミドである。
【0021】
前記カチオン性基含有モノマーはカチオン性基を有するモノマーであり、具体例としては、モノ−或いはジ−アルキルアミノアルキルアクリレート、モノ−或いはジ−アルキルアミノアルキルメタアクリレート、モノ−或いはジ−アルキルアミノアルキルアクリルアミド、モノ−或いはジ−アルキルアミノアルキルメタアクリルアミド、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、モノ−或いはジ−アリールアミン及びそれらの混合物、更にそれらの第4級アンモニウム塩等を例示することができる。
【0022】
前記アニオン性基含有モノマーはアニオン性基を有するモノマーであり、具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のα,β−不飽和カルボン酸類のほか、スルホン酸基やリン酸基を有するモノマーを例示することができる。
【0023】
前記その他のビニル系モノマーとしては、(メタ)アクリルアミドなどと共重合可能なN−メチロールアクリルアミド、メチレン(ビス)アクリルアミド、2官能性モノマー、3官能性モノマー、4官能性モノマーなどの架橋性ビニルモノマー、や(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、酢酸ビニルなどのノニオン性ビニルモノマーなどの公知の各種重合性モノマー類等も併用可能である。
【0024】
また、メタリルスルホン酸ナトリウム、ドデシルメルカプタンなどの連鎖移動剤も使用することができる。
【0025】
さらに、澱粉グラフトポリマーとした後に、(メタ)アクリルアミドを主成分とする水溶性ポリマー部位を変性することによってイオン性基を導入することも可能である。
【0026】
前記変性方法による場合、カチオン性基の導入には、ホフマン変成反応、マンニッヒ反応及びポリアミンによるアミド交換反応が利用され、他方アニオン性基の導入には、加水分解反応等が利用できる。
【0027】
本発明で用いる澱粉グラフトポリマーの製造法としては、従来公知の各種方法により行うことができる。例えば、攪拌機、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に構成成分である本発明に用いる澱粉とビニルモノマーと水とを仕込み、重合開始剤として過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、アンモニウムハイドロパーオキサイドなどの過酸化物、或はこれらの過酸化物と重亜硫酸ソーダなどの還元剤との組み合わせからなる任意のレドックス開始剤、更には2−2’アゾビス(アミノプロパン)塩酸類のような水溶性アゾ系開始剤などを使用し、反応温度40〜80℃で1〜5時間反応させてアクリルアミド系ポリマー類を得ることができる。
【0028】
本発明で用いる澱粉グラフトポリマーのカチオン性澱粉由来成分とモノマー類の由来の成分の割合は、カチオン性澱粉由来成分:モノマー類の由来の成分=95〜50質量%:5〜50質量%が好ましく、さらには、95〜75質量%:5〜25質量%が好ましい。カチオン性澱粉由来成分が95%を超える場合には、低温での安定性が悪い場合があり、50%よりも少ない場合には、希釈安定性が悪い場合がある。
【0029】
本発明の分散剤で乳化されるアルケニルコハク酸無水物としては、アルケニルコハク酸無水物であればよいが、好ましくは25℃で液状であり、さらに好ましくは内部異性化オレフィンを含む炭素数16以上24以下のオレフィンと無水マレイン酸との付加反応生成物である。ここで内部異性化オレフィンとは、α−オレフィン(二重結合の位置がオレフィンの1位と2位の炭素を結ぶ位置にあるオレフィン)ではなく、何らかの方法により二重結合がα−位より炭素鎖の内部に存在するオレフィンを言うこととする。また、この発明においては、内部異性化オレフィンはその二重結合がα位に形成されていないのであれば、二重結合が形成される炭素の位置は発明の目的を達成するのに何等問題にならない。
【0030】
具体的には、内部異性化ヘキサデセニルコハク酸無水物、内部異性化オクタデセニルコハク酸無水物、内部異性化イコセニルコハク酸無水物、内部異性化ドコセニルコハク酸無水物、内部異性化テトラコセニルコハク酸無水物等が挙げられ、これらは単独で使用しても良いし、複数混合して使用しても良い。
【0031】
前記オレフィンの炭素数が16以上24以下である場合は、サイズ剤組成物の紙へのサイズ付与効果が優れるため好ましい。また内部異性化オレフィンを含むオレフィンと無水マレイン酸との付加反応生成物であるアルケニルコハク酸無水物であると、ASAが加水分解し難くなるため、サイズ剤組成物の紙へのサイズ付与効果の低下が少なくなるため好ましい。
【0032】
内部異性化オレフィンについて、オレフィンのα−位(1位の炭素と2位の炭素を結ぶ位置)より内部に二重結合が存在することは、オレフィンのH−NMRによる分析において、5.4ppm付近に内部異性化オレフィン由来のピークがあることで確認できる。また逆に、α−オレフィンが含まれている場合は、オレフィンのH−NMRによる分析において、5.0ppm付近および5.8ppm付近にα−オレフィン由来のピークがあることで確認できる。また、上記ピークの積分値を基にα−オレフィンと内部異性化オレフィンの比率を求めることも可能である。
【0033】
内部異性化オレフィンは、通常の有機合成法により合成することができるが、例えば、シリカ・アルミナ系触媒を用いてα−オレフィンを内部異性化することで得ることができる。通常の有機合成法によりα−オレフィンを内部異性化して得られる内部異性化オレフィンは、二重結合の位置が炭素鎖の2位、3位等の様々な位置に形成されてなる内部オレフィンの混合物となっているが、この発明においては、異性化反応により形成された内部オレフィンの混合物である内部異性化オレフィンにあっては、その内部オレフィンの具体的な二重結合の位置が特定されなくてもよく、内部オレフィンの混合物である限り各内部オレフィンが特定されなくてもよい。
【0034】
上記オレフィンに無水マレイン酸を付加させ、アルケニルコハク酸無水物を得る方法としては、通常の有機合成法が適用できる。例えば、窒素雰囲気下210℃に加熱したオレフィンに無水マレイン酸を徐々に加え、6〜10時間攪拌することでアルケニルコハク酸無水物を得ることができる。
【0035】
本発明の分散剤を用いたアルケニルコハク酸無水物エマルションは、作業性から水性分散液として使用することが好ましい。エマルションは本発明の分散剤以外の界面活性剤や各種水性高分子分散剤を用い、公知の乳化方法にて乳化分散することもできる。なお、エマルションの調製はアルケニルコハク酸無水物の加水分解による性能低下を最小限にする目的から、使用直前に分散したり、ポンプで連続的に乳化装置に送って水分散液を調製し、連続的に使用したりすることが好ましい。
【0036】
本発明の分散剤を用いたアルケニルコハク酸無水物の乳化において、アルケニルコハク酸無水物に2−オキセタノン化合物あるいは/および界面活性剤を混合した混合物を乳化することが、乳化性を改善すること、抄紙用具に汚れが付着し難いことから好ましい。
【0037】
アルケニルコハク酸無水物に混合可能な2−オキセタノン化合物は、常圧下に25℃で液状であれば良く、好ましい2−オキセタノン化合物は、炭素数8から30の飽和モノカルボン酸、炭素数8から30の不飽和モノカルボン酸、炭素数6から44の飽和ジカルボン酸および炭素数6から44の不飽和ジカルボン酸よりなる群から選択される少なくとも一種、好ましくは二種以上の混合物であって、これら脂肪酸から製造され、かつ常圧下に25℃で液状である2−オキセタノン化合物、好ましくは脂肪酸の混合物から製造され、かつ常圧下に25℃で液状である2−オキセタノン化合物混合物である。より好ましくは、オレイン酸やリノール酸などの不飽和脂肪酸を含む脂肪酸から製造されるアルケニルケテンダイマー、イソステアリン酸などの分岐脂肪酸を含む脂肪酸から製造されるアルキルケテンダイマー、および炭素数8の脂肪酸と炭素数10の脂肪酸とが8〜20質量%、炭素数12〜18である脂肪酸が92〜80質量%であり、不飽和脂肪酸が2質量%以下である脂肪酸混合物である脂肪酸を利用して製造されるアルキルケテンダイマーを含み、かつ常圧下に25℃で液状である2−オキセタノン化合物である。
【0038】
アルケニルコハク酸無水物と上記混合可能な2−オキセタノン化合物の量は、質量比でアルケニルコハク酸無水物:2−オキセタノン化合物=100:0〜:70:30の範囲が好ましい。2−オキセタノン化合物の割合が上記範囲よりもオキセタノン化合物が多いと、サイズ効果が劣り好ましくない場合がある。
【0039】
アルケニルコハク酸無水物に混合可能な界面活性剤の使用量は、アルケニルコハク酸無水物100質量部に対して0.01〜10質量部が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましい。混合用界面活性剤の量が多すぎると、アルケニルコハク酸無水物と界面活性剤の混合物の保管時に混合物が空気中の水分を吸収しやすくなるため、アルケニルコハク酸無水物の加水分解を促進する場合があり、加水分解物であるアルケニルコハク酸が抄紙用具の汚れとサイズ性能の低下をもたらす恐れがある。混合用界面活性剤の量が少なすぎると混合による前記利点が十分に発揮されないおそれがある。
【0040】
混合用界面活性剤としては、従来公知のカチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、アニオン性界面活性剤あるいはノニオン性界面活性剤が使用できる。これらは1種又は2種以上を使用しても良い。
【0041】
前記カチオン性界面活性剤としては、たとえば長鎖アルキルアミン塩、変性アミン塩、テトラアルキル4級アンモニウム塩、トリアルキルベンジル4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルキノリウム塩、アルキルスルホニウム塩などが挙げられる。
【0042】
前記両性界面活性剤としては、たとえば各種ベタイン系界面活性剤が挙げられる。
【0043】
前記アニオン性界面活性剤としては、たとえばアルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキル燐酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルアリール硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアラルキルアリール硫酸エステル塩、アルキル−アリールスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキル燐酸エステル塩および各種スルホコハク酸エステル系界面活性剤等が挙げられる。
【0044】
前記ノニオン性界面活性剤としては、脂肪酸ソルビタンエステルおよびそのポリアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸ポリグリコールエステル、各種ポリアルキレンオキサイド型ノニオン性界面活性剤(ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレン脂肪族アミン、ポリオキシエチレン脂肪族メルカプタン、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンアラルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェノールエーテル燐酸エステル等)が挙げられる。
【0045】
これらの中でもアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が好ましく、具体的には、スルホコハク酸ジアルキルナトリウム塩またはポリオキシアルキレンアルキルエーテル燐酸エステルが好ましい。
【0046】
混合用界面活性剤はアルケニルコハク酸無水物の乳化直前にアルケニルコハク酸無水物に連続混合してもよいが、予めアルケニルコハク酸無水物に混合しておくことが好ましい。
【0047】
乳化装置としては本発明の澱粉グラフトポリマーとアルケニルコハク酸無水物と必要に応じて用いられる2−オキセタノン化合物、界面活性剤や各種水性高分子分散剤および水とからサイズ剤組成物の分散液を調製することが可能であれば特に制限はなく、スタティックミキサー、ベンチュリーミキサー、ブレンダー、ホモミキサー、高圧・高速吐出ホモジナイザー、超音波乳化機、高せん断型回転乳化機等の各種乳化機乃至乳化装置が使用可能である。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の効果を製造例及び実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの例にのみ限定されるものではない。
【0049】
実施例1
アミロペクチン含有量100質量%のカチオン化澱粉(原料:ワキシーコーン、10質量%糊液)900部、40質量%濃度のアクリルアミド水溶液25質量部、水60質量部の混合物を窒素雰囲気化に調整し、次いで温度50℃で2質量%過硫酸アンモニウム水溶液2.5質量部、2質量%重亜硫酸ソーダ水溶液2.5質量部を添加して、80℃で3時間反応させた後、水で希釈し、固形分濃度10質量%の澱粉グラフトポリマーである分散剤1を得た。なお、アミロペクチンの含有量の測定はデンプンハンドブック(214頁、朝倉書店株式会社発行 第9版、昭和44年発行)を参考にヨウ素呈色比色法にて行った。以下、同様にしてアミロペクチンの含有量を測定した。
【0050】
実施例2
アミロペクチン含有量100質量%のカチオン化澱粉(原料:ワキシーコーン、10%糊液)800質量部、40質量%濃度のアクリルアミド水溶液50質量部、水130質量部の混合物を窒素雰囲気化に調整し、次いで温度50℃で2質量%過硫酸アンモニウム水溶液5質量部、2質量%重亜硫酸ソーダ水溶液5質量部を添加して、80℃℃で3時間反応させた後、水で希釈し、固形分濃度10質量%の澱粉グラフトポリマーである分散剤2を得た。
【0051】
実施例3
アミロペクチン含有量100質量%のカチオン化澱粉(原料:ワキシーコーン、10質量%糊液)700質量部、40質量%濃度のアクリルアミド水溶液74質量部、水201質量部の混合物を窒素雰囲気化に調整し、次いで温度50℃で2質量%過硫酸アンモニウム水溶液7.5質量部、2質量%重亜硫酸ソーダ水溶液7.5質量部を添加して、80℃で3時間反応させた後、水で希釈し、固形分濃度10質量%の澱粉グラフトポリマーである分散剤3を得た。
【0052】
実施例4
アミロペクチン含有量100質量%のカチオン化澱粉(原料:ワキシーコーン、10質量%糊液)500質量部、40質量%濃度のアクリルアミド水溶液124質量部、水341質量部の混合物を窒素雰囲気化に調整し、次いで温度50℃で2質量%過硫酸アンモニウム水溶液12.5質量部、2質量%重亜硫酸ソーダ水溶液12.5質量部を添加して、80℃で3時間反応させた後、水で希釈し、固形分濃度10質量%の澱粉グラフトポリマーである分散剤4を得た。
【0053】
実施例5
アミロペクチン含有量100質量%のカチオン化澱粉(原料:ワキシーコーン、10質量%糊液)800部、40質量%濃度のアクリルアミド水溶液38質量部、40質量%ジメチルアミノ(メチルクロライド塩)エチルアクリレート水溶液12質量部、水130質量部の混合物を窒素雰囲気化に調整し、次いで温度50℃で2質量%過硫酸アンモニウム水溶液5部、2質量%重亜硫酸ソーダ水溶液5質量部を添加して、80℃で3時間反応させた後、水で希釈し、固形分濃度10質量%の澱粉グラフトポリマーである分散剤5を得た。
【0054】
実施例6
アミロペクチン含有量100質量%のカチオン化澱粉(原料:ワキシーコーン、10質量%糊液)800質量部、40質量%濃度のアクリルアミド水溶液23質量部、40質量%ジメチルアミノ(メチルクロライド塩)エチルアクリレート水溶液27部、水129質量部の混合物を窒素雰囲気化に調整し、次いで温度50℃で2質量%過硫酸アンモニウム水溶液5質量部、2質量%重亜硫酸ソーダ水溶液5質量部を添加して、80℃で3時間反応させた後、水で希釈し、固形分濃度10質量%の澱粉グラフトポリマーである分散剤6を得た。
【0055】
実施例7
アミロペクチン含有量100質量%のカチオン化澱粉(原料:ワキシーコーン、10質量%糊液)800部、40質量%濃度のアクリルアミド水溶液13部、40質量%ジメチルアミノ(メチルクロライド塩)エチルアクリレート水溶液36部、水129部の混合物を窒素雰囲気化に調整し、次いで温度50℃で2%過硫酸アンモニウム水溶液5部、2質量%重亜硫酸ソーダ水溶液5部を添加して、80℃℃で3時間反応させた後、水で希釈し、固形分濃度10質量%の澱粉グラフトポリマーである分散剤7を得た。
【0056】
実施例8
アミロペクチン含有量100質量%のカチオン化澱粉(原料:ワキシーコーン、10質量%糊液)800部、40質量%濃度のアクリルアミド水溶液44質量部、40質量%アクリル酸水溶液5質量部、水137質量部の混合物を窒素雰囲気化に調整し、次いで温度50℃で2質量%過硫酸アンモニウム水溶液5質量部、2質量%重亜硫酸ソーダ水溶液5質量部を添加して、80℃で3時間反応させた後、水で希釈し、固形分濃度10質量%の澱粉グラフトポリマーである分散剤8を得た。
【0057】
実施例9
アミロペクチン含有量100質量%のカチオン化澱粉(原料:ワキシーコーン、10%糊液)800質量部、40質量%濃度のアクリルアミド水溶液43質量部、40質量%アクリル酸水溶液1質量部、40質量%ジメチルアミノプロピルアクリルアミド水溶液6部、水140部の混合物を窒素雰囲気化に調整し、次いで温度50℃で2質量%過硫酸アンモニウム水溶液5質量部、2質量%重亜硫酸ソーダ水溶液5質量部を添加して、80℃で3時間反応させた後、水で希釈し、固形分濃度10%の澱粉グラフトポリマーである分散剤9を得た。
【0058】
実施例10
アミロペクチン含有量100質量%のカチオン化澱粉(原料:ワキシーコーン、10質量%糊液)400質量部、アミロペクチン含有量75質量%のカチオン化澱粉(コーン、10質量%糊液)400質量部、40質量%濃度のアクリルアミド水溶液50質量部、水130質量部の混合物を窒素雰囲気化に調整し、次いで温度50℃で2%過硫酸アンモニウム水溶液5質量部、2質量%重亜硫酸ソーダ水溶液5質量部を添加して、80℃で3時間反応させた後、水で希釈し、固形分濃度10質量%の澱粉グラフトポリマーである分散剤10を得た。
【0059】
比較例用分散剤1
アミロペクチン含有量100質量%のカチオン化澱粉(原料:ワキシーコーン、10質量%糊液)を比較例用分散剤1とした。
【0060】
比較例用分散剤2
40質量%濃度のアクリルアミド水溶液190質量部、40質量%ジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液50質量部、水740質量部の混合物を窒素雰囲気化に調整し、次いで温度50℃で2質量%過硫酸アンモニウム水溶液5質量部、2質量%重亜硫酸ソーダ水溶液5質量部を添加して、80℃で3時間反応させた後、水で希釈し、固形分濃度10質量%のポリマーである比較例用分散剤2を得た。
【0061】
比較例用分散剤3
比較例1のカチオン化澱粉糊液800質量部と比較例用分散剤2で調整したポリマー200質量部の混合物である比較例用分散剤3を得た。
【0062】
比較例用分散剤4
アミロペクチン含有量83質量%のカチオン化澱粉(原料:タピオカ、10質量%糊液)500質量部、40質量%濃度のアクリルアミド水溶液124質量部、水341質量部の混合物を窒素雰囲気化に調整し、次いで温度50℃で2質量%過硫酸アンモニウム水溶液12.5質量部、2質量%重亜硫酸ソーダ水溶液12.5質量部を添加して、80℃で3時間反応させた後、水で希釈し、固形分濃度10質量%の澱粉グラフトポリマーである比較例用分散剤4を得た。
【0063】
比較例用分散剤5
アミロペクチン含有量83質量%のカチオン化澱粉(原料:タピオカ、10質量%糊液)800質量部、40質量%濃度のアクリルアミド水溶液50質量部、水130質量部の混合物を窒素雰囲気化に調整し、次いで温度50℃で2質量%過硫酸アンモニウム水溶液5質量部、2質量%重亜硫酸ソーダ水溶液5質量部を添加して、80℃で3時間反応させた後、水で希釈し、固形分濃度10質量%の澱粉グラフトポリマーである比較例用分散剤5を得た。
【0064】
凍結試験
実施例1〜10、比較例用分散剤1〜5に記載の分散剤を−5℃で24時間かけて凍結させた後、25℃水浴を用いて解凍し、解凍後の溶液の状態を評価した。解凍後も液状を保つものが優れ、分離するものは劣ることを示す。結果を表1に示す。
【0065】
アルケニルコハク酸無水物系エマルションサイズ剤の調製
実施例1〜10、比較例1〜5で得た分散剤51gとAS1533(星光PMC株式会社製、アルケニルコハク酸無水物)15gを混合し、ユニバーサルホモジナイザー(日本静機製作所製)を用いて13000rpmで120秒間乳化操作を行い、水を加え、アルケニルコハク酸無水物成分1%、粒子径0.8μmのASAエマルションサイズ剤(サイズ剤1〜10、比較例用サイズ剤1〜5)を得た。
【0066】
希釈安定性(100mS/m)
硫酸カルシウムで電導度100mS/mに調整したpH8の硬水を用いて、前記のようにして得られたASAエマルションサイズ剤を0.1%濃度に希釈した後、40℃で24時間、静置した後の、エマルションの粒子状態を顕微鏡により観察した。○は24時間後にも粒子状態が良好であることを示し、△は粒子が一部凝集していることを示し、×は粒子が全て凝集して不安定な状態であることを示す。結果を表1に示す。
【0067】
希釈安定性(1000mS/m)
硫酸カルシウムで電導度150mS/mに調整し、次いで硫酸ナトリウムで電導度1000mS/mに調整したpH8の硬水を用いて、前記のようにして得られたASAエマルションサイズ剤を0.1%濃度に希釈した後、40℃で24時間、静置した後の、エマルションの粒子状態を顕微鏡により観察した。○は24時間後にも粒子状態が良好であることを示し、△は粒子が一部凝集していることを示し、×は粒子が全て凝集して不安定な状態であることを示す。結果を表1に示す。
【0068】
コブ吸水度(サイズ評価)
カナディアンスタンダードフリーネス360、灰分14質量%に調整した段ボール古紙パルプを用い、パルプに対して、前記のようにして得られたASAエマルションサイズ剤を0.12質量%添加し、電導度100mS/mの用水でパルプを0.8%に希釈した後、NR12MLS(高分子歩留まり剤、ハイモ社製)0.03質量%添加した。このパルプスラリーを用いて、ノーブルアンドウッド製シートマシンで坪量80g/mとなるよう手抄きを行い、ドラムドライヤー100℃、80秒の条件で乾燥した。得られた紙を23℃、50%RHの恒温恒湿室中で24時間調湿した後、120秒のコブ(Cobb)サイズ度を測定した。結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1中の略号の説明
澱粉由来:澱粉グラフトポリマー中の澱粉由来の割合又は分散剤中に占める澱粉の割合
モノマー由来:澱粉グラフトポリマー中のビニルモノマーの割合又は分散剤中に占めるビニルモノマー重合体の割合
Cobb120:120秒のコブサイズ度を示し、JIS
P 8140に準拠して測定した値である。
【0071】
表1の結果から本発明の実施例は分散剤として低温での安定性に優れ、本発明の分散剤を用いることでASAエマルションの分散安定性に優れ、サイズ効果に優れる置換コハク酸無水物サイズ剤を提供することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
製紙産業に貢献する優れたサイズ剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミロペクチン含有量85質量%以上のカチオン性澱粉と(メタ)アクリルアミドを含むモノマー類を反応させて得られる澱粉グラフトポリマーを含有することを特徴とする置換コハク酸無水物サイズ剤用乳化分散剤。
【請求項2】
前記澱粉グラフトポリマーのカチオン性澱粉由来の成分が50〜95質量%、モノマー類の由来の成分が5〜50質量%である請求項1記載の分散剤。
【請求項3】
前記澱粉グラフトポリマーのカチオン性澱粉のアミロペクチン含有量が95質量%以上である請求項1記載の分散剤。

【公開番号】特開2011−202022(P2011−202022A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70806(P2010−70806)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000109635)星光PMC株式会社 (102)
【Fターム(参考)】