説明

分散型エレクトロルミネッセンス素子

【課題】 素子の劣化を抑制して高輝度で長時間発光させることが可能な新規な構造を有する分散型EL素子を提供すること。
【解決する手段】 背面電極及び透明電極からなる一対の電極の間に少なくとも1層の発光層を有する分散型エレクトロルミネセンス素子であって、
前記発光層に、金、セシウム、アンチモンおよびビスマスのうち、少なくとも1種の元素を含有する蛍光体粒子を含み、
前記背面電極の熱伝導率が200W/m・K以上であることを特徴とする分散型エレクトロルミネセンス素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散型エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
分散型エレクトロルミネッセンス蛍光体は電圧励起型の蛍光体であり、蛍光体粉末を電極の間に挟んで発光素子とした分散型エレクトロルミネセンス(以下、「EL」と称する)素子として用いられることが知られている。分散型EL素子の一般的な形状は、蛍光体粉末を高誘電率のバインダー中に分散したものを、少なくとも一方が透明な二枚の電極の間に挟み込んだ構造からなり、両電極間に交流電場を印加することにより発光する。蛍光体粉末を用いて作成されたEL素子は数mm以下の厚さとすることが可能で、面発光体であり、発熱が少ないなど数多くの利点を有するため、道路標識、各種インテリアやエクステリア用の照明、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ用の光源、大面積の広告用の照明光源等としての用途がある。
【0003】
分散型エレクトロルミネセンス素子は、高温プロセスを用いないため、プラスチックを基板としたフレキシブルな素子の形成が可能であること、真空装置を使用することなく比較的簡便な工程で、低コストで製造が可能であること、また発光色の異なる複数の蛍光体粒子を混合することで素子の発光色の調節が容易であるという特長を有し、LCDなどのバックライト、表示素子へ応用されている。しかしながら、発光輝度及び効率が低いことや高輝度発光に100V以上の高電圧が必要なことから、応用範囲が限られており、従来は高輝度で長時間発光する用途(例えば、サインアンドディスプレイ用途)には使用できなかった。
【0004】
また、一般的に分散型エレクトロルミネセンス素子は電圧をかけると発熱するという問題がある。分散型エレクトロルミネセンス素子は熱に弱く、長時間発光させることができない。これは、発熱によって熱に弱い部分、例えば、分散型EL素子でいえば、蛍光体粉末を分散させているバインダーの劣化が加速されるためであると考えられていた。
この問題を解決するために、例えば特許文献1では、電界発光素子の背面部に熱伝導性の高いグラファイトシートを貼付することで、局所的な発熱を放熱、均熱化し、駆動寿命を改善する方法を開示しているが、得られる効果には限界があった。
【0005】
一方、特許文献2に記載されているように金を、特許文献3に記載されているようにセシウムを、特許文献4に記載されているようにアンチモンを、特許文献5に記載されているようにビスマスを蛍光体粒子中にそれぞれ含有することにより、蛍光体粒子の劣化が抑制され、素子の寿命が向上することが知られているが、これら元素を添加して寿命を向上させてもなお十分ではなく、更なる長寿命化が求められているのが現状である。
【特許文献1】特開2003−59644号公報
【特許文献2】特許第2994058号明細書
【特許文献3】特開平11−172245号公報
【特許文献4】特開2000−178551号公報
【特許文献5】特開2002−053854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、素子の劣化を抑制して高輝度で長時間発光させることが可能な、新規な構造を有する分散型EL素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
蛍光体粒子中に含有される金、セシウム、アンチモン、ビスマスが素子の寿命を延伸させることが知られているが、本発明者らは、これらの元素を添加することによる素子の寿命延伸効果が、駆動時の発熱による素子の温度上昇によって著しく損なわれることを見出した。
前述したように、分散型EL素子の温度上昇による劣化は、バインダーなどの劣化であると考えられていたが、蛍光体粒子中に含まれる上記元素による寿命延伸効果を十分に得るためにも、この温度上昇を抑制する必要がある。
以下の本発明によって、上記課題が解決される。
【0008】
(1) 背面電極及び透明電極からなる一対の電極の間に少なくとも1層の発光層を有する分散型エレクトロルミネセンス素子であって、
前記発光層に、金、セシウム、アンチモンおよびビスマスのうち、少なくとも1種の元素を含有する蛍光体粒子を含み、
前記背面電極の熱伝導率が200W/m・K以上であることを特徴とする分散型エレクトロルミネセンス素子。
(2) 前記背面電極がグラファイトシートであることを特徴とする上記(1)に記載の分散型エレクトロルミネセンス素子。
(3) 背面電極及び透明電極からなる一対の電極の間に少なくとも1層の発光層を有する分散型エレクトロルミネセンス素子であって、
前記発光層に、金、セシウム、アンチモンおよびビスマスのうち、少なくとも1種の元素を含有する蛍光体粒子を含み、
前記背面電極の発光層とは反対側の面に放熱板を有することを特徴とする分散型エレクトロルミネセンス素子。
(4) 前記背面電極の発光層とは反対側の面に放熱板を有することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の分散型エレクトロルミネセンス素子。
(5) 前記放熱板がセラミックスシートであることを特徴とする上記(3)または(4)に記載の分散型エレクトロルミネセンス素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発熱を抑制して長時間高輝度で発光させることが可能な、新規な構造を有する分散型EL素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の分散型EL素子について以下に詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」は、その前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味として使用される。
【0011】
本発明の分散型EL素子の第一の実施態様は、背面電極及び透明電極からなる一対の電極の間に少なくとも1層の発光層を有し、前記発光層には金、セシウム、アンチモンおよびビスマスのうち、少なくとも1種の元素を含有する蛍光体粒子を含み、さらに背面電極の熱伝導率が200W/m・K以上であることを特徴とする分散型EL素子である。
また、本発明の分散型EL素子の第二の実施態様は、背面電極及び透明電極からなる一対の電極の間に少なくとも1層の発光層を有し、前記発光層に、金、セシウム、アンチモンおよびビスマスのうち、少なくとも1種の元素を含有する蛍光体粒子を含み、さらに前記背面電極の発光層とは反対側の面に放熱板を有することを特徴とする分散型EL素子である。
【0012】
分散型EL素子では、高輝度発光における発光効率が低く、投入電力の大半が発熱で消費されてしまうため、高輝度発光時は特に素子の劣化が著しく、素子寿命が短い。従って、本発明の分散型EL素子は、特に強い発熱を伴う高輝度で発光させた場合、好ましくは輝度が300 cd/m2以上、より好ましくは500 cd/m2以上で発光させた場合に、特に顕著な寿命延伸効果を奏する。
【0013】
以下、本発明の第一の実施態様である分散型EL素子について詳細に説明する。
[背面電極]
光を取りさない側の背面電極には、分散型EL素子における発熱による温度上昇を抑制する観点から、熱伝導率が200 W/m・K以上、好ましくは300W/m・K以上、より好ましくは500 W/m・K以上の導電性材料を用いる。熱伝導率はJIS A 1412に記載の測定方法に準じて測定される。前記導電性材料としては、例えば、銅、グラファイトシート等が挙げられ、作製する分散型EL素子の形態や作製工程の温度に応じて適宜選択して作製できる。その中でも、グラファイトシートを用いることが好ましい。グラファイトシートは、電気伝導性、熱伝導性に優れ、さらに一般的に背面電極として用いられるアルミニウムなどの金属に比べて軽く、柔軟性があるため、電極材料として好適であるためである。本発明では、背面電極を単に電極としてだけでなく、熱拡散、放熱シートとして作用させることで、発光層における発熱が効果的に熱拡散および放熱され、高輝度かつ長時間の発光が可能となる。
【0014】
ここで用いられるグラファイトシートとは、グラファイトを実質的に主成分とするシートであり、グラファイトシート中、炭素原子を好ましくは98.0質量%以上、より好ましくは99.0質量%以上、更に好ましくは99.5質量%以上含有するものである。
本発明で用いるグラファイトシートは、上記の中でも、特に電気伝導性および熱伝導性に優れた高配向性グラファイトシートであることが好ましい。以下、高配向性グラファイトシートの製法について記すが、これらに限定されるものではない。
【0015】
高配向性グラファイトシートは、延伸した芳香族イミドフィルムを不活性ガス雰囲気で2600度で処理することにより得られる。フィルムを延伸することで、芳香族ユニットがフィルム面に平行に配向し、配向性グラファイトが得やすくなると考えられる。さらに別の製法として、炭素粉末と、フェノール樹脂との混合物を、所定形状になるよう加熱し加圧硬化することによっても高配向性グラファイトシートが得られる。ここでいう炭素粉末は、炭素を主成分とするものであれば適用可能で、例えばカーボンブラック、グラファイト、木炭粉等を挙げることができる。炭素粉末の形状は、特に限定されるものではないが、中でも球状の炭素粉末は、フェノール樹脂中に均一に分散し易く、素子を形成したときの信頼性が高く好ましい。フェノール樹脂としては、その合成条件によってノボラック型とレゾール型が知られているが、本発明はいずれも適用可能である。
【0016】
さらに、グラファイトシートの電気伝導度は高いほど好ましく、1000 S/cm以上であることが好ましく、5000 S/cm以上であることがより好ましい。
また、グラファイトシートの厚みは、50μm〜5nmであることが好ましく、80μm〜3nmがより好ましく、100μm〜1nmがさらに好ましい。
【0017】
[発光層]
以下、発光層について説明する。
発光層は、EL蛍光体粒子を分散含有して形成された層である。本発明で用いるEL蛍光体粒子は、平均球相当径が0.1〜15μmであることが好ましく、1〜10μmであることがさらに好ましい。平均平均球相当径を上記サイズとすることで、高輝度発光可能な素子を得ることができる。また球相当径の変動係数は、30%以下であることが好ましく、5〜20%であることがさらに好ましい。
なお、ここにいう「球相当径」とは、EL蛍光体粒子サイズをそれと体積が等しい球に換算したときの球の直径を意味する。
【0018】
EL蛍光体粒子の調製方法としては、焼成法、尿素溶融法、噴霧熱分解法または水熱合成法(Hydrothermal method)を好ましく用いることができる。調製されたEL蛍光体粒子は多重双晶構造を有することが好ましい。例えば、EL蛍光体粒子が硫化亜鉛である場合には、多重双晶(積層欠陥構造)の面間隔は1〜10nmであることが好ましく、2〜5nmであることがさらに好ましい。
【0019】
本発明で用いるEL蛍光体粒子は、当業界で広く用いられている焼成法(固相法)により調製できる。例えば、硫化亜鉛の場合、液相法で10〜50nmの粒子粉末(通常生粉と呼ぶ)を作製し、これを一次粒子として用い、これに付活剤と呼ばれる不純物と共に、本発明ではEL蛍光体の寿命を向上を目的として、さらにAu、Sb、Bi、Csから選ばれる元素を含有する添加剤を少なくとも一種、好ましくは少なくとも2種を混入させて、融剤とともに坩堝にて900〜1300℃の高温で30分〜10時間、第1の焼成を行い、中間蛍光粉末を得る。Au、Sb、Bi、Csから選ばれる元素を含有する添加剤の中でも、特にAuを含有する添加剤を添加することが好ましい。Auを添加することで、例えばEL蛍光体の電子発生源であるCuxS結晶の劣化を抑制することができるため寿命が著しく向上する。この効果は、特に粒子サイズの小さなEL蛍光体で顕著である。Au原子の添加量は、ZnS 1molに対して1×10-5〜1×10-3molの範囲が好ましく、5×10-5〜5×10-4molがより好ましい。
次いで、得られた中間蛍光体粉末をイオン交換水で繰り返し洗浄し、アルカリ金属またはアルカリ土類金属および過剰の付活剤、共付活剤を除去する。次いで、得られた中間体蛍光体粉末に第2の焼成を行う。第2の焼成は、第1の焼成より低温の500〜800℃で行い、かつ焼成時間は30分〜12時間と短時間の加熱(アンニーリング)を行う。
【0020】
第1および第2の焼成により中間蛍光体粒子内には多くの積層欠陥が発生するが、粒子サイズをより小さく、かつより多くの積層欠陥を粒子内に含むように第1の焼成および第2の焼成の条件を適宜選択することが好ましい。
【0021】
また第1の焼成物にある範囲の大きさの衝撃力を加えることにより、粒子を破壊することなく、積層欠陥の密度を大幅に増加させることもできる。衝撃力を加える方法としては、中間蛍光粒子同士を接触混合させる方法、アルミナ等の球体を混ぜて混合させる(ボールミル)方法、中間蛍光体粒子を加速させ衝突させる方法、超音波を照射する方法などを好ましく用いることができる。
【0022】
上記方法により、本発明では5nm以下の積層欠陥密度を有する積層欠陥を10層以上有する粒子を形成することができる。その頻度の評価法としては、粒子を乳鉢で磨り潰し、ほぼ0.2μm以下の厚みの砕片に砕いたものを加速電圧200KVの電子顕微鏡で観察した際に、5nm以下の積層欠陥を10層以上含む破片粒子の頻度で評価できる。なお、粒径が0.2μm未満である場合には、前記破砕は不要である。
本発明の素子をより高輝度発光させるためには、上記頻度が50%を超えるものが好ましく、70%を超えるものがさらに好ましい。頻度は高いほどよく、間隔は狭いほどよい。
【0023】
その後、前記中間蛍光体粒子を、HCl等の酸でエッチングして表面に付着している金属酸化物を除去し、さらに表面に付着した硫化銅をKCN溶液で洗浄して除去する。続いて該中間蛍光体を乾燥してEL蛍光体粒子を得る。
【0024】
硫化亜鉛の場合などは、蛍光体結晶中に多重双晶構造を導入するため、蛍光体の粒子形成方法として水熱合成法を用いることが好ましい。水熱合成系では、粒子は、よく攪拌された水溶媒に分散されており、かつ粒子成長を起こす亜鉛イオンおよび/または硫黄イオンは、反応容器外から水溶液で制御された流量で、決められた時間添加される。したがって、この系では粒子は水溶媒中で自由に動くことができ、かつ添加されたイオンは水中を拡散して粒子成長を均一に起こすことができる。このため、水熱合成法によれば、粒子内部における付活剤または共付活剤の濃度分布を変化させることができ、焼成法では得られない粒子を得ることができる。また粒径分布の調整において、核形成過程と成長過程を明確に分離でき、かつ粒子成長中の過飽和度を自由に制御することにより粒径分布を調整可能で、粒径分布の狭い単分散の硫化亜鉛粒子を得ることができる。核形成過程と成長過程の間に、オストワルド熟成工程を入れることが粒径の調整および多重双晶構造の実現のために好ましい。
【0025】
例えば、硫化亜鉛結晶は、水における溶解度が非常に低く、これは水溶液中においてイオン反応により粒子を成長させる場合に非常に不利となる。硫化亜鉛結晶の水での溶解度は、温度上昇に伴い上昇するが、375℃以上では水は超臨界状態となってイオンの溶解度は激減する。したがって、粒子調製温度は100〜375℃であることが好ましく、200〜375℃であることがさらに好ましい。粒径調整にかける時間は好ましくは100時間以内であり、さらに好ましくは5分〜12時間である。
【0026】
硫化亜鉛の水に対する溶解度を増加させる他の方法として、本発明ではキレート剤を用いることが好ましい。Znイオンのキレート剤としては、アミノ基、カルボキシル基を有するものが好ましく、具体的には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、N−2−ヒドロオキシエチルエチレンジアミン三酢酸(EDTA−OH)、ジエチレントリアミン五酢酸、2−アミノエチルエチレングリコール四酢酸、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸、ニトリロ三酢酸、2−ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、イミノ二酢酸、2−ヒドロキシエチルグリシン、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジエチルアミン、ジエチレントリアミン、トリアミノトリエチルアミン、アリルアミン、エタノールアミン等が挙げられる。
【0027】
また、構成元素の先駆体を用いず、構成する金属イオンとカルゴゲンアニオンを直接の沈殿反応による場合には、両者の溶液の急速混合が必要で、ダブルジェット式の混合器を用いるのが好ましい。
【0028】
また、本発明で用いる蛍光体粒子の調製方法として、尿素溶融法を用いることが好ましい。尿素溶融法は、蛍光体粒子を合成する媒体として溶融した尿素を用いる方法である。 尿素を融点以上の温度で維持して溶融状態にした液中に、蛍光体母体や付活剤を形成する元素を含む物質を溶解する。必要に応じて、反応剤を添加する。例えば、硫化物蛍光体を合成する場合は、硫酸アンモニウム、チオ尿素、チオアセトアミド等の硫黄源を添加して沈殿反応を起こさせる。その融液を450℃程度まで徐々に昇温すると、蛍光体粒子や蛍光体中間体が、尿素由来の樹脂中に均一に分散した固体が得られる。この固体を微粉砕した後、電気炉中で樹脂を熱分解させながら焼成する。焼成雰囲気として、不活性雰囲気、酸化性雰囲気、還元性雰囲気、アンモニア雰囲気、真空雰囲気を選択することで、酸化物、硫化物、窒化物を母体とした蛍光体粒子が合成できる。
【0029】
また、本発明で用いる蛍光体の調製方法として、噴霧熱分解法を用いることも好ましい。噴霧熱分解法により、霧化器を用いて蛍光体の前駆体溶液を微小液滴化し、液滴内での凝縮や化学反応または液滴周囲の雰囲気ガスとの化学反応により、蛍光体粒子または蛍光体中間生成物を合成できる。液滴化の条件を好適にすることで、微粒子化、微量不純物の均一化、球形化、狭粒子サイズ分布化した粒子が得られる。微小液滴を生成する霧化器としては、2流体ノズル、超音波霧化器、静電霧化器を用いることが好ましい。霧化器によって生成した微小液滴を、キャリアガスで電気炉などに導入し、加熱することで、脱水・縮合し、さらに液滴内物質同士の化学反応や焼結、または雰囲気ガスとの化学反応により目的とする蛍光体粒子または蛍光体中間生成物を得る。得られた粒子を、必要に応じて追加焼成する。
【0030】
例えば、硫化亜鉛蛍光体を合成する場合、硝酸亜鉛とチオ尿素の混合溶液を霧化し、800℃程度の温度において、不活性ガス(例えば窒素)中で熱分解し、球形の硫化亜鉛蛍光体を得る。出発の混合溶液中に、Mn、Cuおよび希土類などの微量不純物を溶解させておけば、発光中心をとして作用する。また、硝酸イットリウムと硝酸ユーロピウムの混合溶液を出発溶液として、1000℃程度で、酸素雰囲気中で熱分解して、ユーロピウムで付活された酸化イットリウム蛍光体を得る。液滴中の成分は、すべてが溶解している必要はなく、二酸化珪素の超微粒子を含有させてもよい。亜鉛溶液と二酸化珪素の超微粒子を含んだ微小液滴の熱分解で、珪酸亜鉛蛍光体の粒子が得られる。
【0031】
また、本発明で用いる蛍光体粒子の調製方法として、レーザー・アブレーション法、CVD法、プラズマCVD法、スパッタリングや抵抗加熱、電子ビーム法、流動油面蒸着を組み合わせた方法などの気相法と、複分解法、プレカーサーの熱分解反応による方法、逆ミセル法やこれらの方法と高温焼成を組み合わせた方法、凍結乾燥法などの液相法なども用いることができる。これらの方法において、粒子の調製条件を制御することで、本発明に好ましい0.1〜10μmの大きさの蛍光体粒子を得ることができる。
【0032】
蛍光体粒子は、特許第2756044号公報や米国特許6458512号明細書に記載されているように、0.01μm以上の金属酸化物や金属窒化物で構成される非発光シェル層で被覆することにより良好な防水性と耐水性を付与できる。またWO02/080626号公報に記載されているように、発光中心を含むコア部と非発光のシェル部からなる2重構造化することにより光取り出し効率を高める技術を好ましく用いることができる。
【0033】
本発明で用いられる蛍光体粒子は、粒子の表面に非発光シェル層を有することがより好ましい。この非発光シェル層は、EL蛍光体粒子のコアとなる半導体微粒子の調製に引き続いて化学的な方法を用いて0.01μm以上、好ましくは0.01〜1.0μmの厚みで形成することが望ましい。
【0034】
非発光シェル層は、酸化物、窒化物、酸窒化物や、母体蛍光体粒子上に形成した同一組成で発光中心を含有しない物質から作製できる。また、母体蛍光体粒子材料上にエピタキシャルに成長させた、異なる組成の物質から作製できる。
【0035】
非発光シェル層の形成方法として、レーザー・アブレーション法、CVD法、プラズマCVD法、スパッタリングや抵抗加熱、電子ビーム法などと流動油面蒸着を組み合わせた方法などの気相法と、複分解法、ゾルゲル法、超音波化学法、プレカーサーの熱分解反応による方法、逆ミセル法やこれらの方法と高温焼成を組み合わせた方法、水熱合成法、尿素溶融法、凍結乾燥法などの液相法や噴霧熱分解法なども用いることができる。特に、蛍光体の粒子形成で好適に用いられる、水熱合成法、尿素溶融法や噴霧熱分解法は、非発光シェル層の合成にも適している。
【0036】
例えば、水熱合成法を用いて硫化亜鉛蛍光体粒子の表面に非発光シェル層を形成する場合には、溶媒中にコア粒子となる硫化亜鉛蛍光体を添加し、懸濁させる。粒子形成の場合と同様に、非発光シェル層材料となる金属イオンと、必要に応じてアニオンを含む溶液を反応容器外から、制御された流量で、決められた時間で添加する。反応容器内を十分に撹拌することで、粒子は溶媒中を自由に動くことができ、かつ添加されたイオンは溶媒中を拡散して粒子成長を均一に起こすことができるため、コア粒子の表面に非発光シェル層を均一に形成することができる。この粒子を必要に応じて焼成することで、非発光シェル層を表面に有する硫化亜鉛蛍光体粒子が合成できる。
【0037】
また、尿素溶融法を用いて硫化亜鉛蛍光体粒子の表面に非発光シェル層を形成する場合、非発光シェル層材料となる金属塩が溶解、溶融した尿素溶液中に、硫化亜鉛蛍光体粒子を添加する。硫化亜鉛は尿素に溶解しないため、粒子形成の場合と同様に溶液を昇温し、尿素由来の樹脂中に硫化亜鉛蛍光体と非発光シェル層材料が均一に分散した固体を得る。この固体を微粉砕した後、電気炉中で樹脂を熱分解させながら焼成する。焼成雰囲気として、不活性雰囲気、酸化性雰囲気、還元性雰囲気、アンモニア雰囲気、真空雰囲気を選択することで、酸化物、硫化物、窒化物からなる非発光シェル層を表面に有する硫化亜鉛蛍光体粒子が合成できる。
【0038】
また、噴霧熱分解法を用いて硫化亜鉛蛍光体粒子の表面に非発光シェル層を形成する場合には、非発光シェル層材料となる金属塩が溶解した溶液中に、硫化亜鉛蛍光体を添加する。この溶液を霧化し、熱分解することで、硫化亜鉛蛍光体粒子の表面に非発光シェル層が生成する。熱分解の雰囲気や追加焼成の雰囲気を選択することで、酸化物、硫化物、窒化物からなる非発光シェル層を表面に有する硫化亜鉛蛍光体粒子が合成できる。
【0039】
本発明で好ましく用いるEL蛍光体粒子の母体材料としては、具体的には第II族元素と第VI族元素とからなる群から選ばれる元素の1つまたは複数と、第III族元素と第V族元素とからなる群から選ばれる1つまたは複数の元素とからなる半導体の微粒子であり、必要な発光波長領域により任意に選択される。例えば、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、CaS、MgS、SrS、GaP、GaAs、およびそれらの混晶などが挙げられるが、ZnS、CdS、CaSなどを好ましく用いることができる。
【0040】
さらに、EL蛍光体粒子の母体材料としては、BaAl24、CaGa24、Ga23、Zn2SiO4、Zn2GaO4、ZnGa24、ZnGeO3、ZnGeO4、ZnAl24、CaGa24、CaGeO3、Ca2Ge27、CaO、Ga23、GeO2、SrAl24、SrGa24、SrP27、MgGa24、Mg2GeO4、MgGeO3、BaAl24、Ga2Ge27、BeGa24、Y2SiO5、Y2GeO5、Y2Ge27、Y4GeO8、Y23、Y22S、SnO2およびそれらの混晶などを好ましく用いることができる。
【0041】
また、本発明で用いるEL蛍光体粒子の付活剤としては、銅、マンガン、銀および希土類元素から選択された少なくとも一種のイオンを好ましく用いることができる。また共付活剤としては、塩素、臭素、ヨウ素およびアルミニウムから選択された少なくとも一種のイオンを好ましく用いることができる。
【0042】
また、発光中心としては、MnやCrなどの金属イオンおよび希土類を好ましく用いることができる。
【0043】
上記のEL蛍光体粒子の母体材料、付活剤および発光中心を適宜選択し、複数の蛍光体粒子を用いることにより、染料や蛍光染料を用いなくても、色度図上0.3<x<0.4、0.3<y<0.4の範囲の白色発光を実質的に得ることができる。
【0044】
発光層は、上述した蛍光体粒子を分散剤中に分散させることにより形成することができる。発光層で蛍光体粒子を分散するために用いられる分散剤としては、例えば、シアノエチルセルロース系樹脂のような比較的誘電率の高いポリマーや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ化ビニリデンなどの樹脂を用いることができる。また、これらの樹脂にBaTiO3やSrTiO3などの高誘電率の微粒子を適度に混合して誘電率を調整することもできる。分散剤の分散方法としては、ホモジナイザー、遊星型混練機、ロール混練機、超音波分散機などを用いることができる。高輝度発光させるには、発光層における粒子と分散剤との重量比は、5.0〜20であることが好ましい。
【0045】
高輝度を得るためには、発光層の厚みは薄いことが好ましく、1〜60μmであることが好ましく、3〜50μmであることがさらに好ましい。また、発光層は、後述する背面電極と透明電極の間の距離のバラツキを中心線平均粗さRaとして見たとき、発光層の表面は、発光層の厚みdに対して(d×1/8)以下の平滑性を有していることが好ましい。
【0046】
[誘電体層]
本発明における分散型EL素子は、無機誘電体物質を含有する誘電体層を必要に応じて発光層に隣接させて形成することができる。無機誘電体物質は、誘電率および絶縁性が高く、かつ高い誘電破壊電圧を有する材料であれば任意のものが用いられる。無機誘電体物質は、各種の金属酸化物および窒化物を用いることができ、例えば、SiO2、TiO2、BaTiO3、SrTiO3、PbTiO3、KNbO3、PbNbO3、Ta23、BaTa26、LiTaO3、Y23、Al23、ZrO2、AlON、ZnSなどを用いることができる。これらは単独でまたは組み合わせて用いることができる。誘電体層は、均一な膜として形成されてもよいし、また粒子構造を有する膜として形成されてもよい。さらに、誘電体層は単層であっても異なる絶縁層を積層させたものであってもよい。
【0047】
誘電体層は、薄膜結晶層構造および粒子形状構造のいずれの構造でもよく、さらにそれらの組合せた構造であってもよい。また誘電体層は、発光層の片面側だけに設けられていてもよいが、高輝度を得る観点からは発光層の両面に設けることが好ましい。誘電体層が薄膜結晶層構造を有する場合、基板にスパッタリング等の気相法で薄膜化させたものでも、BaやSrなどのアルコキサイドを用いたゾルゲル膜であってもよい。また、誘電体層が粒子形状構造を有する場合、誘電体物質のサイズは、蛍光体粒子サイズと比較して十分小さいサイズであることが好ましい。具体的には、誘電体物質の粒子は、蛍光体粒子の平均粒子サイズの1/3〜1/1000のサイズであることが好ましい。
【0048】
本発明の分散型EL素子は、少なくとも一方が透明な、対向する一対の電極で狭持した蛍光体物質を含む発光層を有する構成を有する。そのため前述の発光層と誘電体層との合計の厚み(以下「素子厚み」ともいう)は、EL蛍光体粒子の平均球相当径以上のサイズであるが、素子の平滑性を確保するためには、EL蛍光体粒子の平均球相当径に対して素子厚みが1.1〜10倍であることが好ましく、2〜10倍であることがより好ましく、3〜5倍であることがさらに好ましい。
【0049】
また、粒子の上部の一部を覆うように、すなわち発光層の一部に、誘電体層が一部乗り入れるように塗設することにより接触点を増加させ、あるいは素子表面の平滑性を改善するなどの効果が現れるため好ましい。
【0050】
誘電体層に含有される誘電体物質と発光層に含有される蛍光体粒子とは、誘電体物質と蛍光体粒子とが直接接触することもできるが、誘電体物質は、非発光シェル層で完全に被覆または部分的に被覆された状態の蛍光体粒子と接触することが好ましい。また、誘電体物質と蛍光体物質との接触は、単に接触させるだけでもよいが、蛍光体粒子の上部を完全にまたは一部を覆うように、すなわち発光層の全体に誘電体層が覆うように接触させるか、あるいは発光層に誘電体層が一部乗り入れるように接触させた状態で塗設して接触させることは、接触点を増加させ、また素子表面の平滑性を改良するなどの効果を発現できる観点から好ましい。
【0051】
誘電体層および発光層は、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法、またはスプレー塗布法などを用いて塗布して形成されることが好ましい。特に、スクリーン印刷法のような印刷面を選ばない方法やスライドコート法のような連続塗布が可能な方法を用いることが好ましい。例えば、スクリーン印刷法は、蛍光体や誘電体の微粒子を高誘電率のポリマー溶液に分散した分散液を、スクリーンメッシュを通して塗布する。スクリーンメッシュの厚さ、開口率、塗布回数を適宜選択することにより膜厚を制御できる。分散液を調整することにより誘電体層や発光層のみならず、背面電極なども形成でき、さらにスクリーンメッシュの大きさを変えることで大面積化が容易である。また、誘電体層の調製法はスパッター法、真空蒸着法等の気相法であってもよい。また、発光層の一部に誘電体層が一部乗り入れるように塗設することにより発光体粒子と誘電体物質の接触点を増加させることができ、さらに分散型EL素子の平滑性を改良するなどの効果を得ることができるため好ましい。
【0052】
[透明電極]
透明電極は、一般的に用いられる任意の透明電極材料で形成することができる。そのような透明電極材料としては、例えば、錫ドープ酸化錫、アンチモンドープ酸化錫、亜鉛ドープ酸化錫、錫ドープインジウム(ITO)などの酸化物、銀の薄膜を高屈折率層で挟んだ多層構造、ポリアニリン、ポリピロールなどのπ共役系高分子などが挙げられる。透明電極は、ポリエチレンテレフタラート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等の透明シートからなる基材上に、上記透明電極材料から形成される透明導電膜を設けることによって形成することができる。
【0053】
透明電極として好ましく用いられる透明導電性シートの抵抗値は、発光面における輝度の均一性の観点では、表面抵抗率が0.05〜50Ω/□であることが好ましく、0.1〜30Ω/□であることがさらに好ましい。
【0054】
透明電極の調製法はスパッター法および真空蒸着等の気相法のいずれであってもよい。 しかし、これらの単独では十分に低抵抗化できない場合がある。その場合には、例えば櫛型あるいはグリッド型等の網目状の金属および/または合金の細線を配置して通電性を改善することが好ましい。
金属や合金の細線としては、銅や銀、アルミニウムが好ましいが、目的によっては透明導電膜の形成で使用される上記透明電極材料を用いてもよく、電気伝導性と熱伝導性が高い材料であることが好ましい。この金属および/または合金の細線の太さは任意であるが、0.1μm〜100μmの間が好ましい。細線は50μm〜1000μmの間隔のピッチで配置されていることが好ましく、100μm〜500μmピッチであることが特に好ましい。金属および/または合金の細線を配置することで光の透過率が減少するが、減少を出来るだけ小さく抑えることが重要であり、細線の間隔を狭くしすぎたり、細線幅や高さを大きく取りすぎたりすることなく、90%以上100%未満の透過率を確保することが重要である。
好ましい細線の形状は、正方形網目状、長方形網目状、又は、ひし形網目状が挙げられる。細線の幅は目的に応じて決めればよいが、典型的には、細線間隔の1/10000以上、1/10以下が好ましい。
細線の高さも同様であるが、細線の幅に対して1/100以上10倍以下の範囲が好ましく用いられる。
透明導電膜部分と、金属および/または合金の細線構造部とを有する透明電極の形成方法としては、細線を透明導電性シートに貼り合わせてもよいし、シート上に形成した網目状細線上にITO等の透明電極材料を塗布、蒸着しても良い。
【0055】
以下、本発明における第二の実施態様の分散型EL素子について詳細に説明する。
[放熱板]
本発明の分散型EL素子は、前記背面電極の発光層とは反対側の面に放熱板を有する。 ここでいう放熱板とは、素子の温度を低下せしめる板である。
放熱板としては、ゴム、セラミックス板、セラミックスシート等が挙げられ、セラミックスシートが特に好ましい。
セラミックスシートとは、セラミックス物質を30質量%〜70質量%含有するシートであり、例えば、シリコーン樹脂の如き樹脂に、セラミックス物質が分散された構成となっている。セラミックスとは無機固体物質を指し、無機固体物質の単一物質でも、混合物でも良い。無機固体物質とは、例えば、酸化アルミニウム・酸化チタン・酸化ジルコニウム・酸化アンチモン・酸化ゲルマニウム・酸化珪素・酸化カルシウム・酸化バリウム・酸化ストロンチウム・酸化ビスマス・酸化錫などの金属酸化物、窒化珪素・窒化アルミニウム・窒化ジルコニウム・窒化錫・窒化ストロンチウム・窒化チタン・窒化バリウムなどの窒化物、などを挙げることができる。
【0056】
放熱板は、熱放射率が好ましくは0.8以上、より好ましくは0.85以上、更に好ましくは0.9以上のものが好ましい。熱放射とは、熱エネルギーの電磁波変換による熱放出のことであり、熱放射率とは、物体が熱を帯びている時に出す赤外線の強さを表す数値を、「理想黒体」を1.0(100%)にしたときの比率で表したものである。熱放射率はJIS A 1423に記載される測定方法に準じて測定される。熱放射率が0.8未満であると、十分な素子温度低下の効果を得ることができない。
【0057】
放熱板の面積には特に制限はなく、素子設計上に制約がない限り、より大面積なものが放熱性の観点から好ましいが、面積が大き過ぎると分散型EL素子の軽量性、柔軟性、設置場所の自由度の観点では好ましくない。放熱板の面積は、素子の発光層の面積の 0.7倍〜2倍であることが好ましく、0.9倍〜1.5倍であることがさらに好ましい。
分散型EL素子への放熱板の載設方法は、特に制限はなく、例えば、接着剤による装着、EL素子防湿フィルムへの埋め込み、樹脂による基板への塗り固め等の方法を挙げることができる。
【0058】
放熱板は、放熱効果を高める目的で、これらを冷却する機構を備えていることも好ましい。具体的には、放熱板に冷却フィンを設置する方法や、ペルチェ素子等の電子冷却素子を設置する方法等が挙げられる。
【0059】
[背面電極]
第二の実施態様における背面電極は、導電性を有する任意の材料、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、ベリリウム、コバルト、クロム、鉄、ゲルマニウム、イリジウム、カリウム、リチウム、マグネシウム、モリブデン、ナトリウム、ニッケル、白金、珪素、錫、タンタル、タングステン、亜鉛、グラファイトシート等の金属などの中から、作製する素子の形態や作製工程の温度に応じて適宜選択して作製できる。好ましくは、前記第一の実施態様の分散型EL素子において使用される背面電極である。
【0060】
第二の実施態様の分散型EL素子におけるその他の構成は、第一の実施態様のものを用いることができる。
【0061】
[用途]
本発明で用いられる分散型EL素子の発光色は、光源としての用途を考えると、白色であることが好ましい。発光色を白色とする具体的な方法としては、例えば、銅とのマンガンが賦活され、焼成後に徐冷されたZnS蛍光体のように単独で白色発光する蛍光体粒子を用いる方法や、3原色または補色関係に発光する複数の蛍光体を混合する方法(例えば、青色−緑色−赤色の組み合わせや、青緑色−オレンジ色の組み合わせなど)を用いることが好ましい。また、特開平7−166161号公報、特開平9−245511号公報、特開2002−62530号公報に記載の青色のように短い波長で発光させて、蛍光顔料や蛍光染料を用いて発光の一部を緑色や赤色に波長変換(発光)させて白色化する方法を用いることも好ましい。さらに、CIE色度座標(x,y)は、x値が0.30〜0.4の範囲で、かつy値が0.30〜0.40の範囲であることが好ましい。
【0062】
通常、分散型EL素子は交流で駆動され、典型的には100Vで50〜400Hzの交流電源を用いて駆動される。分散型EL素子の面積が小さい場合には、輝度は印加電圧および周波数にほぼ比例して増加する。しかし、0.25m2以上の大面積のEL素子の場合、EL素子の容量成分が増大し、EL素子と電源のインピーダンスマッチングとの間にずれが生じたり、EL素子への蓄電荷に必要な時定数が大きくなったりする。そのため、大面積のEL素子では、高電圧化、特に高周波化しても電力供給が不十分になる場合がある。特に0.25m2以上の大面積のEL素子では、500Hz以上の交流駆動に対しては、しばしば駆動周波数の増大に対して印加電圧の低下がおこり、低輝度化が起こることがしばしば起こる。
これに対し、本発明の分散型EL素子は、熱伝導率が200W/m・Kの背面電極および/または背面電極の発光層とは反対面に放熱体を設けることによって、発熱による素子の劣化を抑制できるため、0.25m2以上のサイズでも通常より高い周波数の駆動、好ましくは500Hz〜5KHzでの駆動、さらに好ましくは800Hz〜4KHzでの駆動が可能であり、高輝度化且つ長寿命化が可能である。
【0063】
本発明の分散型EL素子は、例えば、インクジェット記録方法で画像記録されたインクジェット記録用バックライトディスプレイ用フィルムのバックライトへ応用することができる。
また、本発明の分散型EL素子は、例えば、最大濃度が1.5以上ある高画質な透過プリント画像のバックライトに応用することができ、高画質な大面積広告等を実現することができる。
【実施例】
【0064】
<蛍光体粒子1、2の作製>
ZnS 150g(フルウチ化学製・純度99.999%)に水を加えてスラリーとし、0.416gのCuSO4・5H2Oを含む水溶液を添加し、一部にCuを置換したZnS生粉(平均粒径100nm)を得た。得られた生粉25.0gに、BaCl2・2H2O 4.2g、MgCl2・6H2O 11.1g、SrCl2・6H2O 27.3gを加え、1200℃で1時間焼成を行い、蛍光体中間体を得た。上記の粒子をイオン交換水で10回水洗し、乾燥した。得られた中間体にアルミナビーズによるボールミル衝撃工程(蛍光体5gに対してボールサイズボールサイズφ0.5mmのアルミナビーズ50gを混合し、20分ミルをかけた。)を加え、700℃で6時間、アニールした。得られた蛍光体粒子を、10%のKCN水溶液で洗浄して表面にある余分な銅(硫化銅)を取り除いた後5回水洗を行い、平均粒径14μm、変動係数は34%のエレクトロルミネッセンス蛍光体粒子2(比較例に使用)を得た。
【0065】
また、上記の蛍光体粒子2の作製において、ZnS(フルウチ化学製、純度99.999%)150gに水を加えてスラリーとし、CuSO4・5H2Oを0.416gと、HAuCl4・4H2OをZnSに対して1.3×10-2mol%となるように加えた以外は蛍光体粒子2と同様の方法によって、蛍光体粒子1を作製した。
【0066】
[実施例1: 素子1〜3の作製]
(素子1の作製)
蛍光体粒子1と平均粒径が4μmである赤色顔料(シンロイヒFA−001、シンロイヒ社(製))とを30質量%のシアノエチルセルロース溶液に分散して、発光層用ペーストとした。
また30質量%のシアノエチルセルロース溶液に平均粒径0.2μmのチタン酸バリウム粉末を均一に分散し、誘電体ペーストとした。
上記誘電体ペーストをグラファイトシート(PGSグラファイトシート(商品名);熱伝導率 800W/m・K、松下電子部品(株)製)上に、膜厚35μmになるように塗布し、温風乾燥機にて110℃で4時間乾燥させた。さらにこの上に上記発光層用ペーストを膜厚35μmになるように塗布し、温風乾燥機にて110℃で6時間乾燥させた。
次に厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート上にITOをスパッターにより100nmの厚さに均一に付着したシートを透明電極として用い、該シートの導電面側に給電線として銀ペーストをスクリーン印刷法により印刷、乾燥し、銅アルミシートからなるリード片よりなるリード電極を取り付けた。
上記グラファイトシートの塗布面と上記透明導電シートの導電面とを貼りあわせて熱圧着し、無機分散型エレクトロルミネッセンス素子を得た。
【0067】
(素子2の作製)
背面電極を、グラファイトシート(スーパーλGS(商品名);熱伝導率 350W/m・K、鈴木総業(株)製)に変更した以外は、素子1と同様の作製方法により、素子2を作製した。
【0068】
(素子3の作製)
背面電極を、銅板(熱伝導率;400W/m・K)に変更した以外は、素子1と同様の作製方法により、素子3を作製した。
【0069】
[比較例1: 素子4〜6の作製]
(素子4の作製)
背面電極をアルミシート(厚み75μm、熱放射率0.04、熱伝導率180W/m・K)に変更した以外は、素子1の作製と同様の方法により、素子4を作製した。
(素子5の作製)
蛍光体粒子1を蛍光体粒子2に変更した以外は、素子1の作製方法と同様の方法により、素子5を作製した。
(素子6の作製)
蛍光体粒子1を蛍光体粒子2に変更した以外は、素子4の作製方法と同様の方法により、素子6を作製した。
【0070】
作製した素子1〜6に、260V、1KHzの電圧を印加したところ、いずれの素子でも初期輝度1000cd/m2が得られた。これらの素子を連続駆動した場合の輝度半減期(EL輝度が初期輝度の半分に低下するのに要する駆動時間)を表1に示す。また、放熱の度合いを調べるために、発光面側の駆動時の素子表面の温度を表面温度計にて計測した。
【0071】
【表1】

【0072】
素子5と素子6を比較して分かるように、背面電極をアルミニウムから熱伝導率800W/m・Kのグラファイトシートを用いることで素子寿命が改善しているが、効果は十分でない。また、素子4と素子6を比較して分かるように、蛍光体粒子にAuを含有している粒子を用いた素子では、素子寿命が改善しているが、これも効果が十分でない。素子1のように、熱伝導率800W/m・Kのグラファイトシートを用いて十分に放熱をさせた素子において、Auを含有している蛍光体粒子を用いた素子を用いると、飛躍的に寿命が向上することが分かる。
また、スーパーλGSを用いた素子2、または銅板を用いた素子3でも、熱伝導率が低い分、800W/m・Kのグラファイトシートよりは放熱の効果が少ないものの、同様に寿命に顕著な効果が見られる。
【0073】
[実施例2: 素子7〜9の作製]
(素子7の作製)
上記素子4のアルミシートの塗布面とは反対側に銅アルミシートからなるリード片よりなるリード電極を取り付け、その後、上記アルミシートの塗布面と上記透明導電シートの導電面とを貼りあわせて熱圧着した。さらに、アルミシートの塗布面とは反対側に、セラミックスシート(商品名「まず貼る一番」、セラミッション(株)製、熱放射率;0.96、シート厚み300μm)を貼付した以外は、素子4と同様の方法で素子7を作製した。
【0074】
(素子8の作製)
アルミシートの替わりにグラファイトシート(PGSグラファイトシート(商品名);熱伝導率800W/m・K、松下電子部品(株)製)を背面電極に用いたこと以外は、素子7と同様の方法で、素子8を作製した。
(素子9の作製)
アルミシートの替わりにグラファイトシート(スーパーλGS(商品名);熱伝導率350W/m・K、鈴木総業(株)製))を背面電極に用いたこと以外は、素子7と同様の方法で、素子9を作製した。
【0075】
作製した素子に、260V、1KHzの電圧を印加したところ、いずれの素子でも初期輝度1000cd/m2が得られた。これらの素子を連続駆動した場合の輝度半減期(EL輝度が初期輝度の半分に低下するのに要する駆動時間)を表2に示す。また、放熱の度合いを調べるために、発光面側の駆動時の素子表面温度を表面温度計にて計測した。
【0076】
【表2】

【0077】
素子4および素子7に示すように、Auを含む蛍光体粒子を用いた素子でも、放熱が十分でないと、十分な寿命が得られていなかった。本発明のように、セラミックスシートを用いて放熱を十分にさせると、素子の半減期が飛躍的に改善され、背面電極をグラファイトシートにした際に特に顕著であった。
【0078】
<蛍光体粒子3〜5の作製>
蛍光体粒子2の作製方法において、フラックス(Flux)として、ZnS生粉25.0gに対して、BaCl2・2H2O 4.2g、MgCl2・6H2O 11.1g、SrCl2・6H2O 27.3gの他に、CsClを5.0g加え、他の処方を蛍光体粒子2の作製と同様にして、蛍光体粒子3を作製した。
【0079】
蛍光体粒子2と同様の方法で第1の焼成工程を行った後、得られた蛍光体中間体20gに対して、ビスマス粉末(フルウチ化学製)3gと共に石英管に真空に封じ、700℃6時間加熱した。
同様に、アンチモン粉末(フルウチ化学製)3gと共に石英管に真空に封じ、700℃で6時間加熱した。得られた蛍光体粒子を、10%のKCN水溶液で洗浄して表面にある余分な銅(硫化銅)を取り除いた後5回水洗を行った。
Biを含有する蛍光体を蛍光体粒子4、Sbを含有する蛍光体を蛍光体粒子5とした。
【0080】
[実施例3: 素子11,13,15の作製]
蛍光体粒子3〜5を用いて、前記素子1の作製方法と同様の方法により、素子11、13、15をそれぞれ作製した。
【0081】
[比較例2: 素子10、12、14の作製]
蛍光体粒子3〜5を用いて、前記素子4の作製方法と同様の方法により、素子10、12、14をそれぞれ作製した。
【0082】
作製した素子10〜15の評価を行なった。但し、蛍光体粒子3〜5を用いた場合は、輝度電圧特性が異なったため、蛍光体粒子1及び2を用いた素子と同じく、周波数を1KHzとして、1000cd/m2の初期輝度が得られるように電圧を変えて印加した。結果を、蛍光体1及び2を用いた素子の場合とあわせて、表3に示す。
【0083】
【表3】

【0084】
セシウム、ビスマス、またはアンチモンを含有する蛍光体粒子は、金と同様それぞれの元素を含有しない素子よりも寿命が延びるが、金を含有させた場合が最も効果が顕著であった。背面電極において、グラファイトシートを用いた場合、得られた効果がより顕著であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
背面電極及び透明電極からなる一対の電極の間に少なくとも1層の発光層を有する分散型エレクトロルミネセンス素子であって、
前記発光層に、金、セシウム、アンチモンおよびビスマスのうち、少なくとも1種の元素を含有する蛍光体粒子を含み、
前記背面電極の熱伝導率が200W/m・K以上であることを特徴とする分散型エレクトロルミネセンス素子。
【請求項2】
前記背面電極がグラファイトシートであることを特徴とする請求項1に記載の分散型エレクトロルミネセンス素子。
【請求項3】
背面電極及び透明電極からなる一対の電極の間に少なくとも1層の発光層を有する分散型エレクトロルミネセンス素子であって、
前記発光層に、金、セシウム、アンチモンおよびビスマスのうち、少なくとも1種の元素を含有する蛍光体粒子を含み、
前記背面電極の発光層とは反対側の面に放熱板を有することを特徴とする分散型エレクトロルミネセンス素子。
【請求項4】
前記背面電極の発光層とは反対側の面に放熱板を有することを特徴とする請求項1または2に記載の分散型エレクトロルミネセンス素子。
【請求項5】
前記放熱板がセラミックスシートであることを特徴とする請求項3または4に記載の分散型エレクトロルミネセンス素子。