説明

分散型エレクトロルミネッセンス素子

【課題】白色に発光し、かつ演色性、特に赤色の演色性に優れた分散型EL素子を得ること。
【解決手段】透明電極、蛍光体層、誘電体層および背面電極をこの順序で含有するエレクトロルミネッセンス素子において、誘電体層が、誘電体粒子および色変換材料を含み、
(1)色変換材料が特定の含有割合であり、該誘電体層が特定の厚みであること、または、(2)色変換材料の発光極大波長が600nm以上750nm以下であることを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロルミネッセンス蛍光体粒子を分散塗布して形成された発光粒子層を有する分散型エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレクトロルミネッセンス(以下、「EL」ともよぶ。)蛍光体は電圧励起型の蛍光体であり、蛍光体粒子を電極の間に挟んで発光素子とした分散型EL素子として用いられることが知られている。分散型EL素子の一般的な形状は、蛍光体粒子を高誘電率のバインダー中に分散したものを、少なくとも一方が透明な二枚の電極の間に挟み込んだ構造であり、両電極間に交流電場を印加することにより発光する。このような構造を持つ分散型EL素子は1mm以下の厚さとすることが可能であり、製造プロセスにおいて高温プロセスを用いず、プラスチックを基板としたフレキシブルで軽量な素子の形成が可能であること、真空装置を使用することなく比較的簡便な工程で、低コストで製造が可能であること、面発光体であるなど数多くの利点を有するため、LCDなどのバックライト、表示素子へ応用が可能であり、具体的には道路標識、各種インテリアやエクステリア用の照明、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ用の光源、大面積の広告用の照明光源等としての用途がある。
【0003】
分散型EL素子の光源としての用途から発光色は白色が望ましいが、単独で白色に発光する蛍光体がないため、分散型EL素子において白色光を得るために種々の技術が提案されてきた。これまでに提案されてきた白色発光する分散型EL素子は、主として青緑と橙〜赤色周辺の2つの波長域に発光強度が集中した発光波形を有している。これらの白色発光する分散型EL素子は、上記のとおり、フレキシブルな面状発光光源として種々の利点を有するが、他の、例えば蛍光灯などの白色光源と比べて演色性、特に赤色の演色性が大きく劣る点に重大な問題があった。例えば、透明陽画等の透過媒体をEL素子に載せて観察した場合、赤色の色再現性は、従来の蛍光灯等を平面光源とした場合に比べると大きく劣っており、ほとんど赤色を表現することが出来ないものであった。
【0004】
例えば、従来の分散型ELの多くは、ローダミン系化合物を発光粒子層に入れ、白色発光EL素子としていた(例えば特許文献1〜3等)。これらのEL素子ではローダミン系化合物の発光に由来する橙色発光が赤色発光として使われている。しかしながら、これらのEL素子は、白色発光ではあるが、透明陽画等の透過媒体をのせた時に赤色を再現性することが出来なかった。
【0005】
また、蛍光体層より上(透明電極側:視認側)に色変換層や顔料層を設けて、発光色の異なるEL素子を得る技術が提案されている(例えば特許文献4、5等)。さらには、発光粒子層の発光色と補色の関係にある色変換層と600nm近傍の波長のみを通過する赤色フィルタを発光粒子層より上に積層することで赤色発光EL素子を得る技術が提案されている(特許文献6)。しかしながら、これらの技術でも、充分な赤色の再現性(赤色の演色性)を得ることが出来なかった。
【0006】
一方、特許文献7において、光励起材をEL素子を構成するいずれかの層に含有するEL素子が提案されている。
【特許文献1】特開昭60−25195号公報
【特許文献2】特開昭60−170194号公報
【特許文献3】特開平2−78188号公報
【特許文献4】特開平6−163159号公報
【特許文献5】特開平3−15191号公報
【特許文献6】特開平11−67456号公報
【特許文献7】特開平11−67458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、白色に発光し、かつ演色性、特に赤色の演色性に優れた分散型EL素子を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来の分散型EL素子は、白色発光はするが、いずれの場合も赤発光の波長が短波(橙色発光)であり、透明陽画等の透過媒体をのせた時の赤色の色再現性(赤色の演色性)が極めて悪かった。本発明者らは、従来の技術において赤色の色再現性が悪いのは、従来の分散型EL素子には、本来の赤色の光の波長がほとんど含まれていないことに着目し、赤色の演色性を改善するためには、白色発光時の赤色光成分の発光波長を橙色から赤色に長波化する必要があると考えた。
【0009】
分散型EL素子においては、白色発光を作るために青緑色に発光する蛍光体粒子の他に赤色に発光する色変換材料を使用する。従来の分散型EL素子では、有機染料をポリマーに分散し粒子状に粉砕した顔料を赤色の色変換材料として発光粒子層(以下、蛍光体層ともいう。)内に分散して使用する。しかし、この様に媒体中に顔料が分散した状態において顔料の発光波長を測定すると、顔料粉末において測定した時の発光波長に比べ、より短波長側にシフトする。この短波長側へのシフトは赤色の色再現性を低くする。
【0010】
本発明者らは、前述の短波長側へのシフトを防ぐために、顔料を誘電体層に添加し、誘電体層中で起こる誘電体粒子の光散乱を利用することで、顔料の自己吸収を増加させ、見かけの発光波長を長波化できることを見出した。この長波化は、(1)誘電体層における顔料の含有割合が特定の範囲内にあり、該誘電体層の厚みが特定の範囲内にあるときに特に大きく、高い赤色の再現性が得られることを知見した。また、染料等の他の色変換材料についても同様の知見を得ることができた。さらには、(2)誘電体層に含有される色変換材料の発光極大波長が600nm以上750nm以下である場合にも、高い赤色の再現性が得られることを知見した。さらに、蛍光体層より下に色変換材料が含まれる誘電体層を設けることで、EL発光からの光吸収を最小限に留め、輝度を維持したEL素子を得られることも知見した。本発明者らはこれらの知見から以下の構成のEL素子が上記目的を達成しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
一方、従来のEL素子は、耐久性が不十分であり、蛍光体粒子の劣化による発光輝度の低下が少なく、耐久性に優れたEL素子の開発が要望されているのが現状である。EL素子の耐久性を向上させる方策の1つとして、水分を蛍光体粒子に触れさせない様にすることにより、長い時間に亘り白色と良好な演色性を保ち、かつ輝度も維持できるEL素子を得るに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の構成を有するものである。
(1) 透明電極、蛍光体層、誘電体層および背面電極をこの順序で含有するエレクトロルミネッセンス素子において、
該誘電体層が、誘電体粒子および色変換材料を含み、該色変換材料の含有割合が誘電体粒子に対して0.1質量%以上20質量%以下であり、該誘電体層の厚みが1μm以上20μm以下であることを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子。
(2) 透明電極、蛍光体層、誘電体層および背面電極をこの順序で含有するエレクトロルミネッセンス素子において、
該誘電体層が、誘電体粒子および色変換材料を含み、該色変換材料の発光極大波長が600nm以上750nm以下であることを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子。
(3) 透明電極、蛍光体層、誘電体層および背面電極をこの順序で含有するエレクトロルミネッセンス素子において、該誘電体層が、誘電体粒子および色変換材料を含み、該色変換材料の発光極大波長が600nm以上750nm以下であり、該色変換材料の含有割合が誘電体粒子に対して0.1質量%以上20質量%以下であり、該誘電体層の厚みが1μm以上20μm以下であることを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子。
(4) 色変換材料が有機化合物をポリマー中に分散した材料であることを特徴とする(3)に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
(5) 透明電極、蛍光体層、誘電体層および背面電極をこの順序で含有するエレクトロルミネッセンス素子において、該蛍光体層が、被覆層を有する蛍光体粒子を含むことを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載のエレクトロルミネッセンス素子。
(6) 上記被覆層が波長280nm〜420nmに吸収端を有する材料を含むことを特徴とする(5)に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
(7) 可視域に2つの発光極大を有し、該2つの発光極大のうち、短波側発光極大を480nm〜510nmの範囲に有し、長波側発光極大を590nm〜625nmの範囲に有し、発光極小を571nm〜583nmの範囲に有することを特徴とする(1)から(6)のいずれかに記載のエレクトロルミネッセンス素子。
(8) 該蛍光体粒子が、平均粒子サイズが0.1〜20μmで、粒子サイズ分布の変動係数が35%未満であり、5nm以下の面間隔の積層欠陥を10層以上含有する粒子を蛍光体粒子全体の30体積%以上有するZnS系エレクトロルミネッセンス蛍光体であることを特徴とする(5)〜(7)のいずれかに記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【発明の効果】
【0013】
本発明のEL素子によれば、白色に発光し、かつ演色性、特に赤色の演色性に優れた分散型EL素子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明のEL素子について、詳細に説明する。
本発明のEL素子は、透明電極、蛍光体層、誘電体層および背面電極をこの順序で含有する。
【0015】
<誘電体層>
誘電体層は、誘電体粒子および色変換材料を含む。
そして、(1)該色変換材料の含有割合が誘電体粒子に対して0.1質量%以上20質量%以下であり、該誘電体層の厚みが1μm以上20μm以下である。
または、(2)該誘電体層が、誘電体粒子および色変換材料を含み、該色変換材料の発光極大波長が600nm以上750nm以下である。
以上の構成にすることにより、白色に発光し、かつ演色性、特に赤色の演色性に優れた分散型EL素子とすることができる。
上記(1)において、誘電体層に含まれる色変換材料の含有割合は誘電体粒子に対しての質量%で、前述のとおり0.1質量%以上20質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以上10質量%以下の範囲である。
また、色変換材料を含む誘電体層の厚みは、前述のとおり1μm以上20μm以下であり、好ましくは3μm以上18μm以下の範囲である。
誘電体層に含まれる色変換材料の含有割合および該誘電体層の厚みを上記の範囲内とすることで、EL素子を、白色発光で、高い演色性を実現することができる。
上記(2)において、色変換材料の発光極大波長は、前述のとおり600nm以上750nm以下であり、好ましくは610nm以上650nm以下の範囲であり、より好ましくは610nm以上630nm以下の範囲である。
誘電体層に含まれる色変換材料の発光極大波長を上記の範囲内とすることで、EL素子を、白色発光で、高い演色性を実現することができる。
また、前述のとおり、本発明のEL素子は、透明電極、蛍光体層、誘電体層および背面電極をこの順序で含有しており、色変換材料を蛍光体層より下側(背面電極側)に設けることで、EL発光からの光吸収を最小限に留め、輝度を維持することができる。
【0016】
以上の構成とすることで、分散型EL素子の白色発光時の赤色発光のピーク波長を、590nm以上625nm以下の好ましい範囲内にすることが出来、青緑発光のピーク波長を480〜510nmとすることが出来る。さらに、この時、青緑発光バンドと赤色発光バンドの間極小値を571nm〜583nmの範囲にすることが出来る。赤色の発光ピーク波長として、より好ましくは595nm以上620nm以下、最も好ましくは600nm以上615nm以下の範囲である。青緑発光の発光ピーク波長としては、483nm〜505nmであることがより好ましく、さらに好ましくは485nm〜503nmである。
【0017】
本発明のEL素子は前記の順序で層を有していれば、後述する他の層を設けることができる。
また、本発明においては、前述の色変換材料を含む誘電体層(以下、色変換材料含有誘電体層または誘電体層Aとも称する。)の他に、さらに色変換材料を含まない誘電体層(以下、誘電体層Bとも称する。また「誘電体層B−数字」の数字は、EL素子における誘電体層Bの位置を表す。)を設けてもよい。例えば、誘電体層Aと誘電体層Bを積層して、透明電極、蛍光体層、誘電体層A、誘電体層Bおよび背面電極の順序を有するEL素子とすることができる。さらには、誘電体層Bを誘電体層Aの両側に設けて、透明電極、蛍光体層、誘電体層B−1、誘電体層A、誘電体層B−2および背面電極の順序を有するEL素子とすることができる。さらにまた、誘電体層Bを蛍光体層を挟んで誘電体層Aとは反対側(透明電極側)に設けて、透明電極、誘電体層B−3、蛍光体層、誘電体層Aおよび背面電極の順序を有するEL素子とすることができる。
誘電体層Aの他に誘電体層Bを有する構成とする場合、誘電体層全体の合計の厚みとしては5μm以上40μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以上35μm以下である。誘電体層Bを誘電体層Aの両側に設ける場合、蛍光体層側に設ける誘電体層B−1の厚みは、1μm以上10μm以下が好ましく、より好ましくは1μm以上7μm以下である。
【0018】
色変換材料含有誘電体層Aは、誘電体粒子および色変換材料を含む。本発明においては、色変換材料は実質的に色変換材料含有誘電体層Aのみに含まれる。実質的に色変換材料含有誘電体層Aのみに含まれるとは、EL素子に含まれる色変換材料の70質量%以上が誘電体層Aに含まれることを言う。色変換材料として用いる蛍光顔料が分散溶媒に対する耐性が低いものを使用した場合には、分散溶媒に添加する前の蛍光顔料中に含有される染料の1/2以上が誘電体層Aに含まれることも、実質的に色変換材料が誘電体層Aに含まれる、と言う。また、色変換材料は色変換材料含有誘電体層Aにおいて実質的に均一に含まれる。実質的に均一に含まれるとは、層全体としてみたときに濃度勾配がなく、色変換材料の分子や顔料粒子が層全体として分布に偏りがない状態で含まれていることを言う。このとき、色変換材料分子や粒子は、層全体として実質的に均一に含まれていれば、複数の分子や粒子が集まった状態で存在していてもよい。
【0019】
[誘電体粒子]
色変換材料含有誘電体層Aは、誘電体粒子を含んで形成される。
誘電体粒子は、誘電率と絶縁性とが高く、高い誘電破壊電圧を有する誘電体材料で、かつ高い反射率を有するものであれば任意のものを用いて形成することが出来る。このような材料は、金属酸化物、窒化物から選択され、例えばTiO,BaTiO,SrTiO,PbTiO,KNbO3,PbNbO,Ta,BaTa26,LiTaO3,Y,Al,ZrO,AlON,ZnSなどが挙げられる。誘電体粒子の平均サイズは、平均粒子径で、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは0.01μm以上1.0μm以下、最も好ましくは0.05μm以上0.5μm以下である。色変換材料を含まない誘電体層Bは、色変換材料含有誘電体層Aと同様に、誘電体粒子を含んで形成することができる。誘電体粒子は色変換材料含有誘電体層Aと色変換材料を含まない誘電体層Bとで同じ粒子を用いても異なる粒子を用いてもよい。
【0020】
[色変換材料]
色変換材料含有誘電体層Aに用いられる色変換材料としては、蛍光顔料または蛍光染料を好ましく用いることが出来る。また、これらは併用してもよい。これらの発光中心をなす化合物としては、ローダミン、ラクトン、キサンテン、キノリン、ベンゾチアゾール、トリエチルインドリン、ペリレン、トリフェンニン、ジシアノメチレンを骨格として持つ化合物が好ましく、他にもシアニン系色素、アゾ染料、ポリフェニレンビニレン系ポリマー、ジシランオリゴチエニレン系ポリマー、ルテニウム錯体、ユーロピウム錯体、エルビウム錯体を用いることも好ましい。これらの化合物は単独で用いても複数種類を用いてもよい。
また、前記(1)の実施態様において、色変換材料として発光極大波長が600nm以上750nm以下であるものを使用することも好ましい。このような構成とすることで、赤色の演色性がさらに優れたものとなり、好ましい。
また、これらの化合物はさらにポリマー等に分散した後に使用してもよい。
【0021】
[結合剤]
誘電体粒子は結合剤に分散することが好ましい。結合剤としては、シアノエチルセルロース系樹脂のように、比較的誘電率の高いポリマーや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ化ビニリデンなどの樹脂が好ましい。誘電体粒子の分散方法としては、ホモジナイザー、遊星型混練機、ロール混練機、超音波分散機などを用いて分散することが好ましい。
【0022】
色変換材料を含まない誘電体層Bは、均一な膜として形成することもできる。また、前述のとおり、誘電体粒子を含んで形成することもできる。あるいはこれらの組み合わせであっても良い。「膜が均一である」とは、誘電体層そのものがアモルファス、あるいは結晶構造を持った層であることを意味する。均一な膜としては、例えば、高誘電率バインダーのみからなる層や薄膜結晶層等が挙げられる。誘電体層Bを均一な膜として形成する場合、その厚みは0.1μm以上10μm以下の範囲であることが好ましい。
【0023】
誘電体層を塗布で形成する場合は、スライドコーター又はエクストルージョンコーターを用いることが好ましい。薄膜結晶層の場合は、基板にスパッター、真空蒸着等の気相法で形成した薄膜であっても、BaやSrなどのアルコキサイドを用いたゾルゲル膜であっても良い。
【0024】
誘電体層Aを形成する場合および誘電体層Bを誘電体粒子を含んで形成する場合には、誘電体層形成用塗布液を塗布して形成することが好ましい。該誘電体層形成用塗布液は、少なくとも誘電体粒子、結合剤、および結合剤を溶解する溶剤を含有してなる塗布液である。誘電体層Aを形成するための塗布液には、さらに色変換材料が含有される。ここで、溶剤は、蛍光体層に用いられるものと同様のものが挙げられる。
【0025】
誘電体層形成用塗布液の粘度は、0.1Pa・s以上5Pa・s以下の範囲が好ましく、0.3Pa・s以上1.0Pa・s以下の範囲が特に好ましい。誘電体層形成用塗布液の粘度が、上述の範囲内にあれば、塗膜の膜厚ムラが生じにくく、また分散後の時間経過とともに誘電体粒子が分離沈降せず、比較的高速での塗布も可能であり、好ましい。なお、前記粘度は、塗布温度と同じ16℃において測定される値である。
【0026】
<蛍光体層>
蛍光体層は蛍光体粒子を含んで形成される。
[蛍光体粒子]
本発明に好ましく用いられる蛍光体粒子は、母体材料と付活剤と必要に応じて共付活剤とを混合して焼成など種々調製法により調製してなる粒子が用いられる。
この際用いられる母体材料としては、具体的には第II族元素とVI族元素とから成る群から選ばれる元素の一つあるいは複数と、第III族元素と第V族元素とから成る群から選ばれる一つあるいは複数の元素とから成る半導体の微粒子であり、必要な発光波長領域により任意に選択される。例えば、CdS,CdSe,CdTe,ZnS,ZnSe,ZnTe,CaS,MgS,SrS,GaP,GaAs,及びそれらの混晶などが挙げられるが、ZnS,CdS,CaSなどを好ましく用いることができる。さらに、粒子の母体材料としては、BaAl、CaGa、Ga、ZnSiO、ZnGaO、ZnGa,ZnGeO,ZnGeO,ZnAl,CaGa,CaGeO,CaGe,CaO,Ga,GeO,SrAl,SrGa,SrP,MgGa,MgGeO,MgGeO,BaAl,GaGe,BeGa,YSiO,YGeO,YGe,YGeO,Y、YS,SnO及びそれらの混晶なども好ましく用いることができる。
また、付活剤としては、MnやCuなどの金属イオン及び、希土類元素などを好ましく用いることができる。
また、必要に応じて添加される共付活剤としては、Cl,Br,Iなどのハロゲン元素やAlなどを好ましく用いることができる。
【0027】
さらに、本発明では、以下の蛍光体粒子を用いることがより好ましい。
(a)平均粒子サイズ(球相当直径)が、0.1μm以上20μm以下の範囲で粒子サイズの変動係数が35%未満の範囲である蛍光体粒子。
(b)平均粒子サイズが0.1μm以上20μm以下の範囲で、粒子内部に5nm以下の面間隔の積層欠陥を10層以上含有することを特徴とする蛍光体粒子。
(c)0.01μm以上の厚みを有する非発光シェル層で被覆されていることを特徴とする前記(a)または(b)のいずれか一項に記載の蛍光体粒子。
(d)付活剤が銅、マンガン、銀、金及び希土類元素から選択された少なくとも一種のイオンである前記(a)〜(c)のいずれか一項に記載の蛍光体粒子。
(e)共付活剤が塩素、臭素、ヨウ素、及びアルミニウムから選択された少なくとも一種のイオンである前記(a)〜(d)のいずれか一項に記載の蛍光体粒子。
(f)付活剤が銅イオンであり、共付活剤が塩素イオンである前記(a)〜(e)のいずれか一項に記載の蛍光体粒子。
【0028】
特に、本発明では、以下の蛍光体粒子を用いることが好ましい。
蛍光体粒子は、蛍光体層の膜厚を小さくして電界強度を高めるために、平均粒子サイズが0.1〜20μmの範囲が好ましく、1〜15μmがより好ましい。発光の均一性や蛍光体層の蛍光体粒子の充填率を高めるために、粒子サイズの変動係数は35%未満が好ましく、30%未満がより好ましい。その粒子内部は、面状の積層欠陥が多い構造を有する方がEL発光の効率が高いため、積層欠陥の平均面間隔が5nm以下の面間隔で10層以上の積層欠陥を有する粒子数が全蛍光体粒子数の30%以上存在することが好ましく、50%以上存在することがより好ましく、70%以上存在することがさらに好ましい。
また、蛍光体粒子は、ZnS系エレクトロルミネッセンス蛍光体であることが好ましい。上記のような蛍光体粒子を用いることで、紫外線による劣化を更に低減させて耐久性を向上させることができ、好ましい。
【0029】
本発明に利用可能な蛍光体粒子は、当業界で広く用いられる焼成法(固相法)で形成することができる。例えば、硫化亜鉛の場合、液相法で結晶子サイズ10nm以上50nm以下の範囲の微粒子粉末(通常生粉と呼ぶ)を作成し、これを一次粒子として用い、これに付活剤と呼ばれる不純物を混入させて融剤とともに坩堝にて900℃以上1300℃以下の範囲の高温で30分以上10時間以下の範囲、第1の焼成を行い粒子を得る。第1の焼成によって得られる中間体蛍光体粒子をイオン交換水で繰り返し洗浄してアルカリ金属ないしアルカリ土類金属及び過剰の付活剤、共付活剤を除去する。次いで、得られた中間体蛍光体粒子に第2の焼成を施す。第2の焼成は、第1の焼成より低温の500以上800℃以下の範囲で、また短時間の30分以上3時間以下の範囲の加熱(アニーリング)をする。これら焼成により蛍光体粒子内には多くの積層欠陥が発生するが、微粒子でかつより多くの積層欠陥が蛍光体粒子内に含まれるように、第1の焼成と第2の焼成の条件を適宜選択することが好ましい。また、上記中間体蛍光体粒子に、ある範囲の大きさの衝撃力を加えることにより、粒子を破壊することなく、積層欠陥の密度を大幅に増加させることができる。衝撃力を加える方法としては、中間体蛍光体粒子同士を接触混合させる方法、アルミナ等の球体を混ぜて混合させる(ボールミル)方法、粒子を加速させ衝突させる方法、超音波を照射する方法などを好ましく用いることができる。その後、HCl等の酸でエッチングして表面に付着している金属酸化物を除去し、さらに表面に付着した硫化銅を、KCNで洗浄して除去、乾燥して蛍光体粒子を得る。
また、本発明に利用可能な蛍光体粒子の形成方法として、水熱合成法、尿素溶融法、噴霧熱分解法を用いて形成することも好ましく、さらに、レーザー・アブレーション法、CVD法、プラズマCVD法、スパッタリングや抵抗加熱、電子ビーム法、流動油面蒸着を組み合わせた方法などの気相法と、複分解法、プレカーサーの熱分解反応による方法、逆ミセル法やこれらの方法と高温焼成を組み合わせた方法、凍結乾燥法などの液相法などを用いて形成することもできる。
【0030】
[被覆層]
本発明において用いられる蛍光体粒子は、該蛍光体粒子として、核粒子の表面に被覆層を形成してなる被覆層を有する蛍光体粒子を含むことも好ましい。該被覆層の平均膜厚は0.01〜1μmであることが好ましく、0.05〜0.5μmがより好ましい。ここで、被覆層の平均膜厚とは、被覆層を形成した蛍光体粒子の断面SEM写真から、10個以上の粒子に対して被覆層膜厚を1粒子当たりに任意の3点を実測し平均した値をいう。
被覆層の平均膜厚が上記の範囲内において、良好な防湿性やイオンバリア性が得られるとともに、蛍光体粒子への電界強度を減少させることなく、輝度低下や発光閾値電圧の上昇を引き起こし難いため、好ましい。
また、被覆層は、粒子の平均サイズに適した膜厚であることが好ましく、例えば1μmの粒子に1μmの被覆層を形成した場合には、粒子への電界強度の低下を引き起こし易い。従って、粒子の平均粒子サイズに対する被覆層の平均膜厚の比は、0.001〜0.1の範囲であることが好ましく、0.002〜0.05の範囲であることがより好ましい。
【0031】
被覆層の組成は特に限定されないが、酸化物、窒化物、水酸化物、フッ化物、リン酸塩、ダイヤモンド状カーボン及び有機化合物を用いることができ、それらの混合物、混晶、多層膜等の使用も好ましい。具体的には、SiO2、Al23、TiO2、ZrO2、HfO2、Ta25、Y23、La23、CeO2、BaTiO3、SrTiO3、PZT、Si34、AlN、Al(OH)3、MgF2、CaF2、Mg3(PO42、Ca3(PO42、Sr3(PO42、Ba3(PO42、フッ素樹脂等が好ましい。
【0032】
被覆層により、蛍光体粒子の発光効率が向上され、経時的な劣化が減少する。また防湿性やイオンバリア性も付与される。さらには、被覆層を設けることにより、紫外線吸収についての作用を付加することができる場合があり、その結果経時的な劣化がさらに減少でき、さらにはカラーバランスのずれが減少でき、好ましい。この紫外線吸収の観点からは、該被覆層は、波長280nm〜420nmに吸収端を有する材料を含むものが好ましい。
このような材料としては、以下の材料が挙げられる。
i) 被覆材料自体が紫外線を吸収するもの(TiO、ZnO、CeO、ZrO、マイカ、カオリン、セリサイトなど)により被覆層を形成した場合には、被覆するだけで紫外線吸収効果が得られる。
ii) 被覆材料自体は紫外線を吸収しないもの(Al、SiOなど)を用いても、有機系、桂皮酸系、パラアミノ安息香酸系、カンフル系、ベンゾフェノン系、ベンゾイルメタン系の紫外線吸収物質等を更に積層させることにより紫外線吸収効果が得られる。
【0033】
また、被覆層は、十分な防湿性やイオンバリア性を得るために、ピンホールやクラックが無く、連続的であることが好ましい。このような被覆層は、ゾルゲル法、沈殿法、等の液相合成法を用いて形成することができるが、流動床、撹拌床、振動床、転動床、等を利用したCVD法、プラズマCVD法、スパッタリング法、及びメカノフュージョン法、等で形成することがより好ましい。
【0034】
本発明における被覆層は、例えば、以下の方法で形成することができる。
被覆層形成の第1の方法として、蛍光体粒子核粒子を流動化させた状態で、被覆層の原料を供給して粒子表面に堆積又は反応させることで被覆層を形成する方法が挙げられる。
【0035】
蛍光体粒子核粒子の流動化は、公知の方法を適宜採用することによって行うことができ、例えば、流動床、撹拌床、振動床、転動床を使用する方法が挙げられる。流動床は、例えば図1に示すように、円筒形容器に蛍光体粒子核粒子を充填し、容器底部から多孔板を通して導入したキャリアガスによって充填した蛍光体粒子核粒子を浮遊させて流動化させ
る方法であり、撹拌床は、例えば図2に示すように、充填した蛍光体粒子核粒子をインペラー攪拌機、等で直接流動化させる方法であり、振動床は、例えば図3に示すように、容器に充填した蛍光体粒子核粒子を容器ごと機械的又は電気的に振動させる方法であり、転動床は、例えば図4に示すように、水平又は傾斜位置に設置した円筒容器に充填したEL
蛍光体核粒子を、円筒容器を回転させることで流動化させる方法である。
【0036】
特に、均一で連続な被覆層を得るためには、流動床を用いることが好ましい。ここで、蛍光体粒子サイズが小さくなると、凝集する傾向が強くなり流動化が困難となることから、蛍光体粒子核粒子に、蛍光体粒子核粒子よりも大きい粒子サイズの流動化促進剤を添加することが好ましい。該流動化促進剤の粒子サイズは、蛍光体粒子核粒子の平均粒径の2〜5倍程度であることが好ましい。流動化促進剤は、蛍光体粒子と反応温度で不活性な物質が好ましく、例えばSiO2、Al23、ZrO2、等を好ましく用いることができる。
また、流動化促進剤の形状は、流動性の最も良好な球形であることが好ましい。
【0037】
流動化した蛍光体粒子核粒子表面への被覆層材料の供給及び反応は、例えば、キャリアガスに気体状の被覆層原料を含有させて、同経路又は別経路で導入した反応ガスと粒子表面で反応させる方法が利用できる。このとき、反応ガスを用いずに気体状の被覆層原料を熱分解させて被覆層を形成することもできる。気体状の被覆層原料としては、アルコキシド、アルキル化合物、塩化物、水素化物、炭化水素、等が利用できる。各反応装置の温度は、通常100〜500℃程度の範囲で反応が行われるが、蛍光体粒子への熱的ダメージを低減するためには、300℃以下の温度であることが好ましい。また、液体状の被覆層原料を流動床にスプレー、等の方法で供給することも好ましい。
【0038】
酸化物、窒化物、水酸化物、ダイヤモンド状カーボン、等の被覆層が上記方法で形成できる。例えば、TiCl4溶液をN2ガスでバブリングして気化させて、水蒸気を含有したN2ガスと蛍光体粒子核粒子表面で反応させることでTiO2前駆体被覆層を形成することができ、アルキルアルミニウムと無水アンモニアガスとの反応でAlN被覆層が形成できる。
【0039】
被覆層形成の第2の方法として、蛍光体粒子核粒子を溶媒中に分散させた状態で、被覆層の原料を供給して粒子表面に堆積又は反応させることで被覆層を形成する方法が挙げられる。
この方法では、蛍光体粒子核粒子を、溶媒とともに反応容器に導入し、インペラー攪拌機等を用いて分散させることができる。反応容器は、円筒形が好ましく、容器底部は円錐形又は半球形が好ましい。攪拌羽根の形状は、スクリュー型、ねじり羽根型、パドル型、等を利用できるが、撹拌軸の円周方向と垂直方向の撹拌流が形成できるスクリュー−パドル複合型を用いることがより好ましい。図5に示すように、撹拌羽根の周囲にストレーナーを設けて、垂直方向の撹拌流をより強く形成することが好ましい。また、溶媒としては、水、有機溶媒又はそれらの混合物を好ましく用いることができる。特殊な溶媒として、融点以上に加熱して溶融させた尿素を用いることもできる。さらに、溶媒中に界面活性剤、等の分散剤を添加することも好ましい。
【0040】
溶媒中での被覆層の形成は、被覆層原料を蛍光体粒子核粒子が分散する溶媒中に溶解して、その中に反応溶液を添加することにより粒子表面に被覆層を形成する方法、または蛍光体粒子核粒子が分散する溶媒中に、被覆層原料溶液と反応溶液とを同時に添加する方法を好ましく用いることができる。このとき、被覆層原料溶液及び反応溶液は、撹拌が最も激しく行われている領域に添加することが好ましい。被覆層原料溶液及び反応溶液の添加方法としては、既知の定量ポンプやオリフィス添加を用いることができるが、送液の脈動が少ないシリンジポンプを用いることが好ましい。被覆層原料溶液及び反応溶液の添加において、反応容器中のイオン濃度を検知して、各溶液の添加速度を個別に制御することが好ましい。溶媒が尿素の場合などには、反応剤は溶液に限らず、固体のまま添加することもできる。
【0041】
また、反応温度の制御は、反応容器をマントルヒーター、等で直接加熱することによって行うこともできるが、反応容器の周囲にジャケットを設けて、温水や冷水を供給することで制御することが好ましい。反応温度は、溶媒が水又は有機溶媒の場合には40〜80℃の範囲が好ましく、尿素の場合には130〜150℃の範囲が好ましい。また、これらはすべて常圧下での反応であるが、オートクレーブを用いることにより加圧下で反応させることも、被覆層の緻密化や分解・縮合反応の促進の観点から、好ましい。この場合、反応温度は、100℃を超えて臨界温度まで利用できる。オートクレーブ中への溶液の添加は、オートクレーブ内部圧力以上の耐圧性を有する送液ポンプを用いて行うことが好ましい。
【0042】
酸化物、水酸化物、リン酸塩、フッ化物、等の被覆層が上記方法で形成できる。例えば、チタンアルコキシドのアルコール溶液に蛍光体粒子を分散させ、反応溶液としてアルコールで希釈した水をチタンアルコキシドの10倍等量程度添加することでTiO2前駆体被覆層が蛍光体粒子核粒子表面に形成できる。また、Na3(PO4)水溶液に蛍光体粒子を分散させ、反応溶液としてMgCl2水溶液を添加することでMg3(PO42被覆層が蛍光体粒子核粒子表面に形成でき、Mg(CH3COO)2のアルコール溶液に蛍光体粒子を分散させ、反応溶液としてアルコールで希釈したCF3COOHを添加することでMgF2被覆層が蛍光体粒子核粒子表面に形成できる。
【0043】
上記2つの被覆層形成方法において、形成処理後にアニールすることも好ましい。部分的に水酸化物が生成している場合など、アニールによってほぼ完全に酸化物に転換することができ、また被覆層の緻密性が向上して耐湿性やイオンバリア性が向上する。
【0044】
被覆層形成の第3の方法として、蛍光体粒子核粒子と被覆層材料とを混合した状態で、機械的熱的エネルギーを加えることで被覆層を形成する方法が挙げられる。
被覆層材料は、衝撃や摩擦による機械的熱的エネルギーを受けて蛍光体粒子核粒子表面に固化できる。このような機械的熱的エネルギーを与える装置として、ハイブリダイザー、シーターコンポーザー、等を好ましく用いることができる。被覆材料は、高分子樹脂、等の有機化合物を用いることが好ましいが、無機化合物でも可能である。また、有機化合物の被覆層を形成した上に、無機化合物の被覆層を多層化したり、有機化合物と無機化合物の混合物で被覆することも好ましい。
【0045】
蛍光体層は、蛍光体粒子含有塗布液を塗布して形成することができる。該蛍光体粒子含有塗布液は、少なくとも蛍光体粒子、結合剤、および結合剤を溶解する溶剤を含有してなる塗布液である。結合剤としては、シアノエチルセルロース系樹脂のように、比較的誘電率の高いポリマーや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ化ビニリデンなどの樹脂を用いることが好ましい。これらの結合剤に、BaTiOやSrTiOなどの高誘電率の微粒子を、結合剤100質量部に対して5〜50質量部混合して誘電率を調整することもできる。分散方法としては、ホモジナイザー、遊星型混練機、ロール混練機、超音波分散機などを用いることができる。溶剤としては極性の高い溶剤であれば限定無く用いることが出来、アルコール、ケトン、エステル、多価アルコールおよびその誘導体、可塑剤などを好ましく用いることが出来る。
【0046】
蛍光体粒子含有塗布液の粘度は、0.1Pa・s以上5Pa・s以下の範囲が好ましく、0.3Pa・s以上1.0Pa・s以下の範囲が特に好ましい。蛍光体粒子含有塗布液の粘度が、上述の範囲内にあれば、塗膜の膜厚ムラが生じにくく、また分散後の時間経過とともに蛍光体粒子が分離沈降せず、比較的高速での塗布も可能であり、好ましい。なお、前記粘度は、塗布温度と同じ16℃において測定される値である。
【0047】
蛍光体層は、スライドコーター又はエクストルージョンコーターなどを用いて、透明電極を付設したプラスチック支持体等の上に、塗膜の乾燥膜厚が0.5μm以上30μm以下の範囲になるように連続的に塗布することが好ましい。このとき、蛍光体層の膜厚変動は、12.5%以下が好ましく、特に5%以下が好ましい。
蛍光体層を薄層化すると、同一駆動条件では従来のEL素子のような蛍光体層が厚い場合に比べて蛍光体層に印加させる電圧が高くなるため、輝度が高くなる。従来のEL素子と同程度の輝度で駆動する場合には、駆動電圧や周波数を低くすることができるため、電力消費が少なくなり、さらに振動や騒音を改善することができる。そのような効果を得るためには、蛍光体層の厚みが0.5μm以上で70μm以下の範囲が好ましく、より好ましくは10μm以上60μm以下である。
【0048】
本発明に用いられる蛍光体粒子は、前述の通り平均粒径が0.1μm以上20μm以下の範囲の粒子を使用することが好ましい。この範囲内とすることで、蛍光体層を30μm以下とした場合にも、層を均一に形成することができ、好ましい。また蛍光体層中の蛍光体粒子の充填率に制限はないが、好ましくは60質量%以上95質量%以下の範囲で、より好ましくは70質量%以上90質量%以下の範囲である。本発明の一実施態様において蛍光体粒子の粒子サイズを20μm以下にすることで、蛍光体層の塗膜の膜厚の均一性が向上し、塗膜表面の平滑性も同時に向上する。さらに、単位面積当たりの粒子数が大幅に増加することで、微細な発光ムラが著しく改善できる。さらに、粒子サイズの減少は、蛍光体粒子の印加電圧の増加につながり、蛍光体層の薄層化による蛍光体層への電界強度の増加と併せて、EL素子の輝度向上にとって好ましく、雑音の原因となる振動の抑制にも好ましい。
【0049】
<電極>
本発明のEL素子において用いられる透明電極としては、一般的に用いられる任意の透明電極材料を用いて形成された電極が用いられる。透明電極材料としては、例えば錫ドープ酸化錫、アンチモンドープ酸化錫、亜鉛ドープ酸化錫などの酸化物、銀の薄膜を高屈折率層で挟んだ多層構造、ポリアニリン、ポリピロールなどのπ共役系高分子などが挙げられる。透明電極にはこれに櫛型あるいはグリッド型等の金属細線を配置して通電性を改善することも好ましい。
透明電極の比抵抗率は、0.01Ω/□以上30Ω/□以下の範囲が好ましい。
背面電極は、光を取り出さない側であり、導電性の有る任意の材料が使用できる。例えば、金、銀、白金、銅、鉄、アルミニウムなどの金属、グラファイトなどの中から、作成する素子の形態、作成工程の温度等により適時選択することができる。導電性さえあればITO等の透明電極を用いても良い。
また、透明電極、背面電極の両電極とも、導電性の前記微粒子材料を結合剤とともに分散した導電材料含有塗布液を作製して、スライドコーター又はエクストルージョンコーターを用いて塗布することもできる。
【0050】
<その他>
その他、本発明の素子構成において、各種保護層、フィルター層、光散乱反射層などを必要に応じて付与することができる。
本発明のEL素子は、支持体上に透明電極を配置するのが好ましい。この際用いることができる支持体としては、柔軟であり、透明度の高いものであれば限定無く用いることができる。好適には、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PES(ポリエーテルサルフォン)、PAr(ポリアリレート)、PC(ポリカーボネート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)などのプラスチックフィルムである。
【0051】
支持体上に塗布された各機能層は、少なくとも塗布から乾燥工程までを連続工程として形成することが好ましい。乾燥工程は、塗膜が乾燥固化するまでの恒率乾燥工程と、塗膜の残留溶媒を減少させる減率乾燥工程に分けられる。本発明では、各機能層の結合剤比率が高いため、急速乾燥させると表面だけが乾燥し塗膜内で対流が発生し、いわゆるベナードセルが生じやすくなり、また急激な溶媒の膨張によりブリスター故障を発生しやすくなり、塗膜の均一性を著しく損う。逆に、最終の乾燥温度が低いと、溶媒が各機能層内に残留してしまい、防湿フィルムのラミネート工程等のEL素子化の後工程に影響を与えてしまう。したがって、乾燥工程は、恒率乾燥工程を緩やかに実施し、溶媒が乾燥するのに十分な温度で減率乾燥工程を実施することが好ましい。恒率乾燥工程を緩やかに実施する方法としては、支持体が走行する乾燥室をいくつかのゾーンに分けて、塗布工程終了後からの乾燥温度を段階的に上昇することが好ましい。
【0052】
本発明のEL素子の製造においては、蛍光体層にカレンダー処理機を用いてカレンダー処理を施してもよい。カレンダー処理により形成された蛍光体層の両主面の平滑度は、0.5μm以下の範囲が好ましく、0.2μm以下がより好ましい。使用するカレンダー処理機は特に限定されるものではなく、公知の装置の中から適宜選択することができる。少なくとも一方を例えば50℃〜200℃に加熱した一対のロールの間に、加圧しながら結合剤中に蛍光体粒子を分散させた蛍光体層を対象物として通すことで平滑化処理を施すものである。カレンダー処理において、カレンダーロールの加熱温度は、蛍光体層に含まれる結合剤の軟化温度以上にすることが好ましい。また、カレンダー圧力と搬送速度は、蛍光体粒子を破壊したり、必要以上に蛍光体層を延伸したりしないように、カレンダー温度と蛍光体層の塗布幅も考慮して、必要な平滑度が得られるように適宜選択することが好ましい。
【0053】
EL素子の振動抑制のために補償電極を付与する場合にも、前述の導電材料を用いることができる。例えば光を取り出す透明電極の外側に補償電極を付与する場合には、錫ドープ酸化錫、アンチモンドープ酸化錫、亜鉛ドープ酸化錫などの酸化物、銀の薄膜を高屈折率層で挟んだ多層構造、ポリアニリン、ポリピロールなどのπ共役系高分子などの透明電極材料を用いることが好ましい。
【0054】
また、光を取り出さない背面電極の外側に補償電極を付与する場合には、金、銀、白金、銅、鉄、アルミニウムなどの金属、グラファイトなど導電性の有る任意の材料が使用できるが、導電性さえあればITO等の透明電極を用いても良い。この補償電極は前記の透明電極や背面電極と絶縁層を介して付設されるが、絶縁層材料は絶縁性の無機材料や高分子材料、無機材料粉体を高分子材料に分散した分散液などを蒸着、塗布などにより形成できる。また、導電性の前記微粒子材料を結合剤とともに分散した導電材料含有塗布液を作製して、スライドコーター又はエクストルージョンコーターを用いて塗布することもできる。さらに、前記絶縁性材料を結合剤とともに分散した絶縁材料含有塗布液を作製して、前記導電材料含有塗布液と同時に塗布することもできる。付設した補償電極に駆動電源より電圧を印加するが、このとき蛍光体層に印加される電圧と逆位相にすることで、蛍光体層で発生する振動を相殺できる。補償電極は、透明電極の外側又は背面電極の外側のいずれかに絶縁層を挟んで付設しても同様の効果があるが、同時に付設して一方を接地させることで、さらなる振動抑制効果を期待できるので好ましい。また、蛍光体層(と誘電体層)の誘電率と補償電極の内側の絶縁層の誘電率が実質同等であるように調整することが振動抑制を効果的に行うためには好ましい。
【0055】
EL素子の振動抑制のための別の方法としてEL素子に用いる緩衝材層を付与する場合には、緩衝材層として衝撃吸収能の高い高分子材料や発泡剤を加えて発泡させた高分子材料を用いることが好ましい。衝撃吸収能の高い高分子材料としては、例えば天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ハイパロン、シリコンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴムなどが使用できる。これら高分子材料の硬度としては、振動吸収能の点から50以下が好ましく、30以下がさらに好ましい。また、ブチルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴムなどは、吸水性が低いためEL素子を水分から保護する保護膜としても機能するためより好ましい。上記のゴム材料やポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレン樹脂に発泡剤を加えて発泡させた材料を緩衝材として用いることも好ましい。これらの緩衝材を用いた緩衝材層は、緩衝材層を接着剤でEL素子に貼り付けることで付設することができるが、緩衝材料を溶剤に溶解して緩衝材料含有塗布液を作製し、スライドコーター又はエクストルージョンコーターを用いて塗布することもできる。緩衝材層の膜厚は、高分子材料の硬度にもよるが、振動を十分に吸収するためには20μm以上が必要で、50μm以上が好ましい。200μm以上になると素子厚みが大きく増加して、質量やフレキシビリティの点で好ましくない。また、上記の補償電極と緩衝材層の併用は、さらに振動を抑制することができるので好ましい。
【0056】
本発明の分散型EL素子は、最後に封止フィルムを用いて、外部環境からの湿度や酸素の影響を排除するよう加工するのが好ましい。EL素子を封止する封止フィルムは、40℃−90%RHにおける水蒸気透過率が0.05g/m/day以下が好ましく、0.01g/m/day以下がより好ましい。さらに40℃−90%RHでの酸素透過率が0.1cm/m/day/atm以下が好ましく、0.01cm/m/day/atm以下がより好ましい。このような封止フィルムとしては、有機物膜と無機物膜の積層膜が好ましく用いられる。
有機物膜の形成材料としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂などが好ましく用いられ、特にポリビニルアルコール系樹脂がより好ましく用いることができる。ポリビニルアルコール系樹脂などは吸水性があるため、あらかじめ真空加熱などの処理を施すことで絶乾状態にしたものを用いることがより好ましい。これらの樹脂を塗布などの方法によりシート状に加工したものの上に、無機物膜を蒸着、スパッタリング、CVD法などを用いて堆積させる。堆積させる無機物膜としては、酸化ケイ素、窒化珪素、酸窒化珪素、酸化ケイ素/酸化アルミニウム、窒化アルミニウムなどが好ましく用いられ、特に酸化ケイ素がより好ましく用いられる。より低い水蒸気透過率や酸素透過率を得たり、無機物膜が曲げ等によりひび割れることを防止するために、有機物膜と無機物膜の形成を繰り返したり、無機物膜を堆積した有機物膜を接着剤層を介して複数枚貼り合わせて多層膜とすることが好ましい。有機物膜の膜厚は、5μm以上300μm以下の範囲が好ましく、10μm以上200μm以下の範囲がより好ましい。無機物膜の膜厚は、10nm以上300nm以下の範囲が好ましく、20nm以上200nm以下の範囲がより好ましい。積層した封止フィルムの膜厚は、30μm以上1000μm以下の範囲が好ましく、50μm以上300μm以下の範囲がより好ましい。例えば、40℃−90%RHにおける水蒸気透過率が0.05g/m/day以下の封止フィルムを得るためには、上記の有機物膜と無機物膜とが2層ずつ積層された構成では50〜100μmの膜厚で済んでしまうが、従来から封止フィルムとして使用されているポリ塩化三フッ化エチレンでは200μm以上の膜厚を必要とする。封止フィルムの膜厚は、薄い方が光透過性や素子の柔軟性の点で好ましい。
【0057】
この封止フィルムでELセルを封止する場合、2枚の封止フィルムでELセルを挟んで周囲を接着封止しても、1枚の封止フィルムを半分に折って封止フィルムが重なる部分を接着封止しても良い。封止フィルムで封止されるELセルは、ELセルのみを別途作成しても良いし、封止フィルム上に直接ELセルを作成することもできる。この場合には、支持体の替わりとすることができる。また、封止工程は、真空又は露点管理された乾燥雰囲気中で行うことが好ましい。
【0058】
高度な封止加工を実施した場合でも、ELセルの周囲に乾燥剤層を配置することが好ましい。乾燥剤層に用いられる乾燥剤としては、CaO、SrO、BaOなどのアルカリ土類金属酸化物、酸化アルミニウム、ゼオライト,活性炭、シリカゲル、紙や吸湿性の高い樹脂などが好ましく用いられるが、特にアルカリ土類金属酸化物が吸湿性能の点でより好ましい。これらの吸湿剤は粉体の状態でも使用することはできるが、例えば樹脂材料と混合して塗布や成形などによりシート状に加工したものを使用したり、樹脂材料と混合した塗布液をディスペンサーなどを用いてEL素子の周囲に塗布したりして乾燥剤層を配置することが好ましい。さらに、ELセルの周囲のみならず、ELセルの下面や上面を乾燥剤で覆うことがより好ましい。この場合、光を取り出す面には透明性の高い乾燥剤層を選択することが好ましい。透明性の高い乾燥剤層としては、ポリアミド系樹脂等を用いることができる。
【実施例1】
【0059】
以下に、本発明のEL素子を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は以下の各実施例に制限されるものではない。
【0060】
「従来技術によるEL素子の作成」(比較例1−1)
平均粒子サイズが0.2μmのBaTiO3の微粒子を30質量%シアノエチルセルロース溶液に分散した溶液を層厚みが30μmになるように、厚み75μmのアルミシート上に塗布、110℃で5時間乾燥して誘電体層を形成したアルミシートを得た。続いて、平均粒子サイズが15μmの銅と塩素を付活した硫化亜鉛粒子と30質量%のシアノエチルセルロース溶液を1.2:1の比で混合・分散し、さらにシンロイヒ社製赤色顔料(シンロイヒFA−001)を硫化亜鉛粒子に対して3質量%添加、分散し、出来上がりの層厚みが45μmになる様に前述の誘電体層を形成したアルミシート上に塗布し、温風乾燥機を用いて110℃で5時間乾燥し、顔料含有蛍光体層を形成した。
厚さ100ミクロンのポリエチレンテレフタレート上にITOをスパッターにより40nmの厚さに均一に付着したフィルムを作製し、このITO面と、上記アルミシートの顔料含有蛍光体層を形成した面とを熱圧着し、リード片を載設、防湿フィルムで挟み封止して、比較例1−1のEL素子とした。
【0061】
「従来技術によるEL素子の作成」(比較例1−2)
赤色顔料をシンロイヒFA−007に変えた以外は比較例1と同様にして比較例1−2のEL素子を得た。
【0062】
「従来技術によるEL素子の作成」(比較例1−3)
平均粒子サイズが0.2μmのBaTiO3の微粒子を30質量%シアノエチルセルロース溶液に分散した溶液を層厚みが20μmになるように、厚み75μmのアルミシート上に塗布、110℃で5時間乾燥し、誘電体層を形成したアルミシートを得た。続いて、平均粒子サイズが0.2μmのBaTiO3の微粒子を30質量%シアノエチルセルロース溶液に分散し、さらにこの分散液にシンロイヒ社製赤色顔料(シンロイヒFA−007)をBaTiO3の質量の8%になる様に添加、分散し、出来上がりの層厚みが10μmになる様に前述の誘電体層を形成したアルミシートに塗布、再び110℃で5時間乾燥し、顔料含有誘電体層を形成した。続いて、平均粒子サイズが15μmの銅と塩素を付活した硫化亜鉛粒子と30質量%のシアノエチルセルロース溶液を1.2:1の比で混合・分散し、さらに赤色顔料(FA−007)を硫化亜鉛粒子に対して3質量%を添加、分散し、出来上がりの層厚みが45μmになる様に前述の顔料含有誘電体層を形成したアルミシート上に塗布し、温風乾燥機を用いて110℃で5時間乾燥し、顔料含有蛍光体層を形成した。
厚さ100ミクロンのポリエチレンテレフタレート上にITOをスパッターにより40nmの厚さに均一に付着したフィルムを作製し、このITO面と、上記アルミシートの顔料含有蛍光体層を形成した面とを熱圧着し、リード片を載設、防湿フィルムで挟み封止して、比較例1−3のEL素子とした。
【0063】
「本発明によるEL素子の作成(1−I)」
平均粒子サイズが0.2μmのBaTiO3の微粒子を30質量%シアノエチルセルロース溶液に分散した溶液を層厚みが20μmになるように、厚み75μmのアルミシート上に塗布、110℃で5時間乾燥し、誘電体層を形成したアルミシートを得た。続いて、平均粒子サイズが0.2μmのBaTiO3の微粒子を30質量%シアノエチルセルロース溶液に分散し、さらにこの分散液にシンロイヒ社製赤色顔料(シンロイヒFA−007)をBaTiO3の質量の8%になる様に添加、分散し、出来上がりの層厚みが10μmになる様に前述の誘電体層を形成したアルミシートに塗布、再び110℃で5時間乾燥し、顔料含有誘電体層を形成した。さらに、平均粒子サイズが15μmの銅と塩素を付活した硫化亜鉛粒子と30質量%のシアノエチルセルロース溶液を1.2:1の比で混合・分散した後、顔料含有誘電体層が形成してあるアルミシートに蛍光体層の層厚みが45μmになる様に塗布し、温風乾燥機を用いて110℃で5時間乾燥し、蛍光体層を形成した。
厚さ100ミクロンのポリエチレンテレフタレート上にITOをスパッターにより40nmの厚さに均一に付着したフィルムを作製し、このITO面と、上記アルミシートの蛍光体層を形成した面とを熱圧着し、リード片を載設、防湿フィルムで挟み封止して、本発明によるEL素子(1−I)とした。
【0064】
「本発明によるEL素子の作成(1−II)」
平均粒子サイズが0.2μmのBaTiO3の微粒子を30質量%シアノエチルセルロース溶液に分散した溶液を層厚みが20μmになるように、厚み75μmのアルミシート上に塗布、110℃で5時間乾燥し、誘電体層を形成したアルミシートを得た。続いて、平均粒子サイズが0.2μmのBaTiO3の微粒子を30質量%シアノエチルセルロース溶液に分散し、さらにこの分散液に620nmに発光を持つ赤色顔料をBaTiO3の質量の6%になる様に添加、分散し、出来上がりの層厚みが10μmになる様に前述の誘電体層を形成したアルミシートに塗布、再び110℃で5時間乾燥し、顔料含有誘電体層を形成した。さらに、平均粒子サイズが15μmの銅と塩素を付活した硫化亜鉛粒子と30質量%のシアノエチルセルロース溶液を1.2:1の比で混合・分散した後、顔料含有誘電体層を形成したアルミシートに出来上がりの層厚みが45μmになる様に塗布し、温風乾燥機を用いて110℃で5時間乾燥し、蛍光体層を形成した。
厚さ100ミクロンのポリエチレンテレフタレート上にITOをスパッターにより40nmの厚さに均一に付着したフィルムを作製し、このITO面と、上記アルミシートの蛍光体層を形成した面とを熱圧着し、リード片を載設、防湿フィルムで挟み封止して、本発明によるEL素子(1−II)とした。
【0065】
「本発明によるEL素子の作成(1−III)」
赤色顔料の代わりに赤色発光材料としてLumogen F Red 200(BASF社製)をBaTiO3の質量の5%になる様に使用したこと以外は本発明のEL素子の作成(1−II)と同様にして本発明によるEL素子(1−III)を得た。
【0066】
「本発明によるEL素子の作成(1−IV)」
平均粒子サイズが0.2μmのBaTiO3の微粒子を30質量%シアノエチルセルロース溶液に分散し、さらにこの分散液に620nmに発光を持つ赤色顔料をBaTiO3の質量の6%になる様に添加、分散した溶液を層厚みが15μmになるように、厚み75μmのアルミシート上に塗布、110℃で5時間乾燥し、顔料含有誘電体層を形成したアルミシートを得た。さらに、平均粒子サイズが15μmの銅と塩素を付活した硫化亜鉛粒子と30質量%のシアノエチルセルロース溶液を1.2:1の比で混合・分散した後、顔料含有誘電体層を形成したアルミシートに出来上がりの層厚みが45μmになる様に塗布し、温風乾燥機を用いて110℃で5時間乾燥し、蛍光体層を形成した。
厚さ100ミクロンのポリエチレンテレフタレート上にITOをスパッターにより40nmの厚さに均一に付着したフィルムを作製し、このITO面と、上記アルミシートの蛍光体層を形成した面とを熱圧着し、リード片を載設、防湿フィルムで挟み封止して、本発明によるEL素子(1−IV)とした。
【0067】
「本発明によるEL素子の作成(1−V)」
平均粒子サイズが0.5μmのBaTiO3の微粒子を30質量%シアノエチルセルロース溶液に分散した溶液を層厚みが15μmになるように、厚み75μmのアルミシート上に塗布、110℃で5時間乾燥し、誘電体層を形成したアルミシートを得た。続いて、平均粒子サイズが0.5μmのBaTiO3の微粒子を30質量%シアノエチルセルロース溶液に分散し、さらにこの分散液に610nmに発光を持つ赤色顔料をBaTiO3の質量の2.8%になる様に添加、分散し、出来上がりの層厚みが15μmになる様に前述の誘電体層を形成したアルミシートに塗布、再び110℃で5時間乾燥し、顔料含有誘電体層を形成した。さらに、平均粒子サイズが15μmの銅と塩素を付活した硫化亜鉛粒子と30質量%のシアノエチルセルロース溶液を1.2:1の比で混合・分散した後、顔料含有誘電体層を形成したアルミシートに出来上がりの層厚みが45μmになる様に塗布し、温風乾燥機を用いて110℃で5時間乾燥し、蛍光体層を形成した。
厚さ100ミクロンのポリエチレンテレフタレート上にITOをスパッターにより40nmの厚さに均一に付着したフィルムを作製し、このITO面と、上記アルミシートの蛍光体層を形成した面とを熱圧着し、リード片を載設、防湿フィルムで挟み封止して、本発明によるEL素子(1−V)とした。
【0068】
「本発明によるEL素子の作成(1−VI)」
平均粒子サイズが0.5μmのBaTiO3の微粒子を30質量%シアノエチルセルロース溶液に分散した溶液を層厚みが10μmになるように、厚み75μmのアルミシート上に塗布、110℃で5時間乾燥し、誘電体層を形成したアルミシートを得た。続いて、平均粒子サイズが0.5μmのBaTiO3の微粒子を30質量%シアノエチルセルロース溶液に分散し、さらにこの分散液に610nmに発光を持つ赤色顔料をBaTiO3の質量の0.8%になる様に添加、分散し、出来上がりの層厚みが20μmになる様に前述の誘電体層を形成したアルミシートに塗布、再び110℃で5時間乾燥し、顔料含有誘電体層を形成した。さらに、平均粒子サイズが15μmの銅と塩素を付活した硫化亜鉛粒子と30質量%のシアノエチルセルロース溶液を1.2:1の比で混合・分散した後、顔料含有誘電体層を形成したアルミシートに出来上がりの層厚みが45μmになる様に塗布し、温風乾燥機を用いて110℃で5時間乾燥し、蛍光体層を形成した。
厚さ100ミクロンのポリエチレンテレフタレート上にITOをスパッターにより40nmの厚さに均一に付着したフィルムを作製し、このITO面と、上記アルミシートの蛍光体層を形成した面とを熱圧着し、リード片を載設、防湿フィルムで挟み封止して、本発明によるEL素子(1−VI)とした。
【0069】
「本発明によるEL素子の作成(1−VII)」
平均粒子サイズが0.5μmのBaTiO3の微粒子を30質量%シアノエチルセルロース溶液に分散した溶液を層厚みが15μmになるように、厚み75μmのアルミシート上に塗布、110℃で5時間乾燥し、誘電体層を形成したアルミシートを得た。続いて、平均粒子サイズが0.5μmのBaTiO3の微粒子を30質量%シアノエチルセルロース溶液に分散し、さらにこの分散液に630nmに発光を持つ赤色顔料をBaTiO3の質量の6%になる様に添加、分散し、出来上がりの層厚みが15μmになる様に前述の誘電体層を形成したアルミシートに塗布、再び110℃で5時間乾燥し、顔料含有誘電体層を形成した。さらに、平均粒子サイズが15μmの銅と塩素を付活した硫化亜鉛粒子と30質量%のシアノエチルセルロース溶液を1.2:1の比で混合・分散した後、顔料含有誘電体層を形成したアルミシートに出来上がりの層厚みが45μmになる様に塗布し、温風乾燥機を用いて110℃で5時間乾燥し、蛍光体層を形成した。
厚さ100ミクロンのポリエチレンテレフタレート上にITOをスパッターにより40nmの厚さに均一に付着したフィルムを作製し、このITO面と、上記アルミシートの蛍光体層を形成した面とを熱圧着し、リード片を載設、防湿フィルムで挟み封止して、本発明によるEL素子(1−VII)とした。
【0070】
以上により作成した本発明のEL素子および比較例のEL素子を100V、1kHzで発光させた時の演色性を比較し、表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
比較例1−1〜1−3、本発明のEL素子(1−I)〜(1−VII)とも発光色は白色であった。本発明のEL素子の平均演色評価数Raは従来型である比較例のEL素子より優れており、特に赤色の演色性R9に優れていることがわかる。肌色の演色性R15についても本発明のEL素子では大きく改善されていることが分かる。R15は、赤色の演色性R9が悪いものでは良好に表現できず、透明陽画等の透過媒体をEL素子に載せて観察する時に重要な要素である。
【実施例2】
【0073】
実施例1の各蛍光体粒子に対して、それぞれトリメチルアルミニウムを原料とし、反応ガスをOとした流動床反応装置を用いてAlの被覆層を設けた。被覆層の層厚は170nmであった。蛍光体層の粒子として、この粒子を用いたことを除いて、全て実施例1と同様にして実施例2の各素子を作成し、それぞれ比較例および本発明のEL素子とした。
これらのEL素子について、1kHzの交流電場を印加し、25℃、相対湿度60%の下、初期輝度が300cd/mとなる様に電圧を調整し、点灯したところ、どの素子においても輝度半減時間は15〜20%長くなった。演色性の変化は、平均演色評価数の変化について、比較例で約10低下するものが約5になり、本発明では約6低下するものが2〜3に良化した。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上のように、本発明にかかるエレクトロルミネッセンス素子は、白色に発光し、且つ演色性、特に赤色の演色性に優れ、バックライトや表示素子として用いるのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1は、蛍光体粒子に被覆層を形成するための流動床反応装置の概略説明図である。
【図2】図2は、蛍光体粒子に被覆層を形成するための撹拌床反応装置の概略説明図である。
【図3】図3は、蛍光体粒子に被覆層を形成するための振動床反応装置の概略説明図である。
【図4】図4は、蛍光体粒子に被覆層を形成するための転動床反応装置の概略説明図である。
【図5】図5は、蛍光体粒子に被覆層を形成するための液相反応装置の概略説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明電極、蛍光体層、誘電体層および背面電極をこの順序で含有するエレクトロルミネッセンス素子において、
該誘電体層が、誘電体粒子および色変換材料を含み、該色変換材料の含有割合が誘電体粒子に対して0.1質量%以上20質量%以下であり、該誘電体層の厚みが1μm以上20μm以下であることを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
透明電極、蛍光体層、誘電体層および背面電極をこの順序で含有するエレクトロルミネッセンス素子において、
該誘電体層が、誘電体粒子および色変換材料を含み、該色変換材料の発光極大波長が600nm以上750nm以下であることを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
透明電極、蛍光体層、誘電体層および背面電極をこの順序で含有するエレクトロルミネッセンス素子において、該蛍光体層が、被覆層を有する蛍光体粒子を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
上記被覆層が波長280nm〜420nmに吸収端を有する材料を含むことを特徴とする請求項3に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
可視域に2つの発光極大を有し、該2つの発光極大のうち、短波側発光極大を480nm〜510nmの範囲に有し、長波側発光極大を590nm〜625nmの範囲に有し、発光極小を571nm〜583nmの範囲に有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
上記蛍光体粒子が、平均粒子サイズが0.1〜20μmで、粒子サイズ分布の変動係数が35%未満であり、5nm以下の面間隔の積層欠陥を10層以上含有する粒子を蛍光体粒子全体の30体積%以上有するZnS系エレクトロルミネッセンス蛍光体であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載のエレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−156358(P2006−156358A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−311407(P2005−311407)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】