説明

分散型ネットワークエミュレータシステム

【課題】無線リンク接続状態の更新処理が不要となり、その分オーバヘッド負荷を軽減できる分散型ネットワークエミュレータシステムを提供する。さらにまた、より高精度な時刻同期が可能となり、結果としてより高精度に移動シナリオを実行することが可能となる分散型ネットワークエミュレータシステムを提供する。
【解決手段】分散したエミュレータノード間を試験端末からのパケット中継用のLANとノード間の時刻同期用の制御メッセージ送受信用LANに分離し、端末移動シナリオから、試験端末間で無線通信可能な時間帯を事前に求め、無線リンクスケジュールとして各ノードに事前配布し、エミュレーション開始後は同期されたクロックと無線リンクスケジュールに基づいて試験端末間のパケット通信をエミュレーションする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
無線を用いた移動体通信システムを試験評価するためのネットワークエミュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
モバイルIPとその高速ハンドオーバー技術の進展により、列車のような高速移動体に対するインターネットアクセスサービスが実用化してきている。またITS(Intelligent Transportation Systems)の分野でも高速道路での安全安心向上のための路車間・車車間通信について、その実用化を目指した実証実験が欧州を中心に進められている。このような移動体向けの無線通信システムを実用化する場合、開発後期での実機試験と評価が品質向上や安定化のために必須となる。しかしながら列車や自動車のような高速移動体を対象としたシステムについて大規模な実機テストを実施する場合、その準備の時間とコストが大きく、仮に実施したとしても、限られた時間とパターンのみのテストとなり、実機システムの品質向上には限界がある。
このような問題に対し、移動体向け通信、特にモバイルIP関連やモバイルアドホックネットワークを対象として実機装置やソフトの実時間での試験や性能評価を可能とするエミュレータが提案されている。即ち、試験端末ごとの初期位置や移動速度が定義された移動シナリオに基づき、エミュレーション経過時間に応じて変化する端末間の無線リンク接続状態を切替えるとともに,試験端末からパケットを受信した時点で,無線リンク接続状態に基づき通信可能な端末を求めてパケットを転送する機能である。
このようなエミュレータにはその利用目的に応じて様々な要件が課せられるが、試験対象となる実機装置やソフトをなるべく変更せずエミュレータに接続できるポータビリティの確保、端末の移動シナリオの柔軟性、無線リンク特性模擬における精度の確保が共通的な要件となる。さらに、列車や自動車を対象とした高速移動体通信システムの試験では、小規模単体テストから大規模構成の総合テストまで柔軟に対応できるスケーラビリティ、時速数百kmの高速移動に対応した無線リンク接続状態の高速更新、長時間連続稼動によって始めて露見する不具合をチェックするための数時間から数十時間に渡る長時間試験が要求される。
以上の要件のうち特にスケーラビリティ向上に関しては、エミュレーション処理を複数ノードに分散する方式が有効である。これまで提案された分散型エミュレータとしては、非特許文献1に記載されたEMWINがある。EMWINでは、移動シナリオに基づき、試験端末間の無線リンク接続状態の変化を事前に求めておき、それを時刻対応のイベントリストにして全ノードに事前配布する。エミュレーション開始後は各ノードがそれぞれの時刻を同期させながら、イベントリストに基づいて無線リンク接続状態を時間経過とともに更新してゆく。方式が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Zheng and L. M. Lionel、 “EMWIN: Emulating a Mobile Wireless Network”、 Proc. of the 5th ACM international workshop on Wireless mobile multimedia Atlanta、 Georgia、 USA、 pp. 64−71、 2002.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
試験端末の数が大量となり、かつそれらが高速で移動する状況では、端末間の無線リンク接続状態の変化が短時間内に大量に発生する。そのため、試験端末とのパケット送受信処理に加えて、無線リンク接続状態をイベントリストに応じて更新する処理が頻繁にエミュレータ内で発生する。この処理は試験端末からパケットを受信しない場合でも必要となり、その負荷上昇がシステムを圧迫するという問題があった。さらに、EMWINではノード間の時刻同期のために必要となる制御メッセージを、試験端末との接続のためのネットワークを用いて送受信しているため、時刻合わせの精度が低下し、移動シナリオを正確に実施できない、という問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、
分散したエミュレータノード間を試験端末からのパケットを中継するためのLANとノード間の時刻同期のための制御メッセージ送受信のためのLANに分離し、
端末移動シナリオから、試験端末間で無線通信可能な時間帯を事前に求め、無線リンクスケジュールとして各ノードに事前配布し、
エミュレーション開始後は同期されたクロックと無線リンクスケジュールのみに基づいて試験端末間のパケット通信をエミュレーションする。
【発明の効果】
【0006】
本方式によれば無線リンク接続状態の更新処理が不要となり、その分オーバヘッド負荷を軽減できる。さらに時刻同期のためのLANを分離したため、より高精度な時刻同期が可能となり、結果としてより高精度に移動シナリオを実行することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】システム全体構成の一例を示す図である
【図2】マネージャノードのハードウェア構成の一例を示す図である
【図3】エージェントノードのハードウェア構成の一例を示す図である
【図4】試験端末のハードウェア構成の一例を示す図である
【図5】マネージャノードのソフトウェア構成の一例を示す図である
【図6】エージェントノードのソフトウェア構成の一例を示す図である
【図7】試験端末のソフトウェア構成の一例を示す図である
【図8】システム構成管理テーブルの構成の一例を示す図である
【図9】無線リンクスケジュール管理テーブルの構成の一例を示す図である
【図10】試験端末の移動シナリオの初期状態の例を示す図である
【図11】エミュレーション実行管理テーブルの構成の一例を示す図である
【図12】パケット中継/無線リンク模擬処理の構成の一例を示す図である
【図13】試験端末送受信パケットのフォーマットの一例を示す図である
【図14】到達可能端末検索処理の処理フローの一例を示す図である
【図15】エージェントノード間転送パケットのフォーマットの一例を示す図である
【図16】制御ヘッダのフォーマットの一例を示す図である
【図17】無線通信リンク模擬処理の内部構成の一例を示す図である
【図18】模擬補正処理の処理フローの一例を示す図である
【図19】遅延キューへの格納データのフォーマットの一例を示す図である
【図20】ロス・遅延模擬処理の処理フローの一例を示す図である
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施例を図面を用いて説明する。
【0009】
図1は、本発明におけるエミュレータのシステム構成を説明する図である。即ち、エミュレータはマネージャノード1、試験端末3−1〜3−9をイーサケーブル30−1〜30−9で接続するエージェントノード2−1〜2−3がLAN10で接続された構成となっている。またエージェントノード2−1〜2−3はマネージャノード1と時刻同期用制御パケットを交換するためのLAN20にも接続されている。
【0010】
図2はマネージャノード1のハードウエア構成図であり、入出力端末51を制御する入出力コントローラ52、CPU53、メモリ54、LAN10、およびLAN20へのパケット送受信を制御するネットワークインタフェースカード(以下NIC:Network Interface Cardと略す)55、56が、バス57により接続されている。
【0011】
図3はエージェントノード2−1、2−2、2−3のハード構成図であり、LAN10、LAN20へのパケット送受信を制御するためのNIC61、NIC62、CPU63、メモリ64、試験端末接続のためのNIC65、66、67が、バス68により接続されている。
【0012】
図4は試験端末3−1〜3−9のハードウエア構成図であり、エージェントノードとの接続のためのイーサケーブル30−iへのパケット送受信を制御するNIC71、CPU72、メモリ73がバス74により接続されている。
【0013】
図5はマネージャノード1内メモリ54に格納されるプログラムやファイルのソフトウエア構成図であり、エミュレータシステムのシステム構成定義コマンド101、移動シナリオ定義コマンド102、移動シナリオを格納する移動シナリオファイル103、無線リンクスケジュール生成コマンド104、エミュレーション実行管理コマンド105、時刻同期管理プログラム106、端末から入力されたコマンド名称とパラメータに応じて対応するコマンドやプログラムを起動しパラメータの入力や出力データの表示を実行管理107、入出力コントローラ制御のための入出力ドライバ108、そして、上記NIC55、56を制御してエージェントノードとのパケット送受信を行うための通信管理・ドライバ109から構成される。
【0014】
図6はエージェントノード2−1〜2−3のメモリ64に格納されるプログラムやテーブル、ファイルのソフトウエア構成図であり、マネージャノード1のコマンド101、102、104、105とLAN10を介した通信により後述する各種管理テーブルの設定・更新を実行する管理エージェント221、エミュレータシステムの構成情報を管理するシステム構成管理テーブル222、マネージャノード内の通信リンクスケジュール生成コマンド104が生成した通信リンクスケジュールを格納する無線リンクスケジュール管理テーブル223、エミュレーションの開始・終了時刻や無線リンク模擬におけるパラメータを格納するエミュレーション実行管理テーブル224、当該エージェントノードに接続されている試験端末から送信されてきたパケットを無線リンクスケジュール管理テーブル222に基づいて適当な試験端末への中継転送を行うとともに、遅延やロスなどの無線リンク模擬を実施するパケット中継/無線リンク模擬処理225、マネージャノード内の時刻同期管理プログラム106から送られてくる同期制御パケットに基づき、当該エージェントノード内のクロック227を制御する時刻同期制御226、そしてマネージャノードとのLAN10、LAN20を介したパケット送受信や試験端末とのパケット送受信をNICを制御して実現する通信管理・ドライバ228、229から構成される。
ここで本実施例では、時刻同期制御226はマネージャノード内の時刻同期管理プログラム106と、IEEE規格として定められている時刻同期プロトコルIEEE1588PTP(Precision Time Protocol)に従って時刻同期を行うものとする。即ち、時刻同期管理プログラム106はPTPにおけるバウンダリクロック機能を持ったプログラムであり、時刻同期のマスタークロックとして定期的に同期のための制御パケットをLAN20経由で全エージェントノードに送信する。これに対し各エージェントノードの時刻同期制御226はPTPで定められた手順でマスターと制御パケットを交換して時刻のズレ(オフセット)を求め、それに基づきクロック227を補正して時刻を一致させる。なお、PTP以外の時刻同期プロトコルを用いることも可能である。
【0015】
図7は試験端末3−1〜3−9のメモリ73に格納されるプログラムのソフトウエア構成図であり、通信管理・ドライバ310と試験対象となる通信処理プログラム311から構成される。
【0016】
図8はシステム構成管理テーブル222の構成図であり、エージェントノード毎にエントリーが設けられ、各エントリーはエージェントノード番号、当該エージェントノードのLAN10におけるIPアドレス、LAN20におけるIPアドレス、そして当該エージェントノードに接続される試験端末数がそれぞれ設定されるフィールド2221、2222、2223、2224から構成される。さらにこれらのフィールドに加えて、接続される試験端末ごとにその端末番号とNIC番号が設定されるフィールド2225、2226、2227、2228も設けられている。なお、本実施例では試験端末にはシステムで一貫した番号を割当てるものとする。また、以上の各フィールドへのデータの設定は、マネージャノード1のシステム構成定義コマンド101を入出力端末51から起動することにより実行される。即ち、エミュレーション実施者(以後、オペレータと呼ぶ)が事前に各エージェントノードについて、LAN10、LAN20におけるIPアドレス、接続している試験端末の端末番号とNIC番号を調べておき、それらの情報をエージェントノード毎にシステム構成定義コマンドの引数として入力する。システム構成定義コマンド101はLAN10を経由して入力された引数をエージェントノード3の管理エージェント221に送信し、管理エージェント221はシステム構成管理テーブル222空いているエントリーを探して、入力された引数に基づき、フィールド2221〜フィールド2228にデータを設定してゆく。
【0017】
図9は無線リンクスケジュール管理テーブルの構成図であり、エージェントノードに接続された全試験端末について、その番号に対応した2次元の配列構造となっている。即ち、第i行、第j列のエントリーは試験端末iと試験端末jが通信可能となる時間について、その開始時間を設定するフィールド2231、終了時間を設定するフィールド2232から構成されることを示している。これらのフィールドはマネージャノード1での移動シナリオ定義コマンド102によって生成された移動シナリオ103に基づき、無線リンクスケジュール生成コマンド104によって生成され、その結果はLAN10を介して管理エージェント221にて無線リンクスケジュール管理テーブル223に設定される。ここで移動シナリオとは、個々の試験端末について、初期位置、移動速度を定義したファイルであり、上述の移動シナリオ定義コマンド102によって入力される。
【0018】
図10は移動シナリオの例を2次元の図で示したものである。即ち、試験端末81、82、83、84について、それぞれの初期位置と移動速度がx1(0)、V1、x2(0)、V2、x3(0)、V3、x4(0)、V4と指定された場合を示している。試験端末84は移動速度V4が0であり、アクセスポイントに相当する。また速度は2次元のベクトルとして指定されることを示している。無線リンクスケジュール生成コマンド104はこれらの情報を移動シナリオから読み込み、エミュレーション開始後に各試験端末間が通信可能となる時間を計算する。具体的には、無線通信可能な距離をLとした時、試験端末iと試験端末jが通信可能な時間帯は不等式‖Xi(t)−Xj(t)‖≦Lを解くことで求める。この計算は全試験端末のペアについて実行され、その結果はLAN10を介して全エージェントノードにブロードキャストされる。各エージェントノードの管理エージェントは通信管理・ドライバ228経由でこれを受信し、無線リンクスケジュール管理テーブル223に設定する。
【0019】
図11はエミュレーション実行管理テーブル224の構成図であり、エミュレーション開始時刻とエミュレーション終了時刻を設定するフィールド2241、2242、無線通信リンク模擬のパラメータである無線リンク遅延時間、および無線リンクロス率をそれぞれ設定するフィールド2243、2244から構成されることを示している。これらフィールドの値は、上記エミュレーション実行管理コマンド105の引数として入力され、LAN10を介して全エージェントノード3にブロードキャストされ、それを通信管理・ドライバ228経由で受信した管理エージェント221がエミュレーション実行管理テーブル224に設定するものである。
【0020】
図12はエージェントノード内のパケット中継/無線リンク模擬処理225の処理構造を示した図である。本処理は、当該エージェントノードに接続されている試験端末が送出した他試験端末宛のパケットをNIC経由で受信したタイミング、或は他エージェントノードから転送されてきたエージェントノード間転送パケットを受信したタイミングで起動される処理である。即ち試験端末3iが送出したパケットはパケットキャプチャ処理2251が通信管理・ドライバ229経由で取込む。この時、通信管理・ドライバ229はパケットキャプチャ処理に対して当該パケットを取込んだNIC番号も入力する。ここで試験端末間の通信プロトコルは、本実施例ではUDP/IPによる通信とするが、イーサネット(登録商標)上のプロトコルであればUDP/IP以外のプロトコルでも対応が可能である。パケットキャプチャ処理が取込んだパケットは図13に示すようにMACレイヤヘッダ部301、IPレイヤヘッダ部302、UDPレイヤヘッダ部303、そしてUDPより上位のアプリケーションレイヤデータ部304から構成される。エミュレータはこれらヘッダ部とデータ部の内容を参照識別することなく、一体のデータとして処理する。
【0021】
上記パケットキャプチャ処理2251により取込まれたパケットは、上記無線リンクスケジュール管理テーブル223に基づいてその時点で無線リンクにより到達可能な他試験端末を探す到達可能端末検索処理2252に、パケットが取込まれたNIC番号とともに渡される。
図14はこの到達可能端末検索処理2252の処理フロー図であり、まずシステム構成管理テーブル222にアクセスして当該エージェントノード番号に対応するエントリーを参照し、次に入力されたNIC番号に対応する試験端末番号をフィールド2225、2226、2227、3338から検索する(処理2252−1)。次に、時刻同期されたクロック227を参照して現在時刻を読み出し、エミュレーション実行管理テーブル224のフィールド2241よりエミュレーション開始時刻を読み出し、上記現在時刻から差し引くことで、エミュレーション開始後の経過時間を求め、これをパケットキャプチャ時刻とする(処理2252−2)。次に、上記処理2252−1で求めた試験端末番号をキーとして通信リンクスケジュール管理テーブル223をアクセスし、列方向について試験端末ごとにエントリーに設定された通信可能開始時刻と通信可能終了時刻を読み出し(処理2252−3)、上記パケットキャプチャ時刻が通信可能開始時刻と通信可能終了時刻の間に含まれるか否かをチェックする(処理2252−4)。含まれない場合は、現時点で当該試験端末との無線通信可能な試験端末が存在しないことを意味し、従って、受信したパケットは廃棄する(処理2252−5)。
一方、通信可能な試験端末が存在する場合は、それぞれの端末について以下の処理を繰り返す。即ち、当該試験端末番号をキーとして、システム構成管理テーブル222のフィールド2225、2227をチェックし、接続先エージェントノード番号を検索し(2252−6)、同じエージェントノードか否かをチェックする(処理2221−7)。もし同一エージェントノード内であれば、送信先試験端末番号、上記処理2252−2で算出したパケットキャプチャ時刻、そして試験端末からキャプチャしたパケットデータを入力引数として通信リンク模擬処理2255を起動する。一方、同一エージェントノードでない場合は、当該他エージェントノードに対して他ノード転送処理2253を実施する。
他ノード転送処理2253では、転送先となるエージェントノード番号をキーとして、システム構成管理テーブルのIPアドレスフィールド2222を検索し、当該IPアドレス宛に図15で示されるエージェントノード間転送パケットを作成しUDP/IPにて送信する。ここでエージェント間エージェントノード間転送パケットは、試験端末からキャプチャしたパケットデータ301〜304に対して図16で示されるフォーマットの制御ヘッダ部311を付加したものである。制御ヘッダ部は送信元エージェントノード番号311−1、転送先エージェントノード番号311−2、キャプチャしたパケットを送信してきた試験端末の試験端末番号311−3、パケットキャプチャ時刻311−4、そして送信先試験端末番号311−5から構成される。
【0022】
以上の他ノード転送処理が終了すると、通信可能な試験端末全てについて上記処理2252−6〜2252−7を実施したかどうかをチェックし(処理2252−8)、もし終了していれば、到達可能端末検索処理を終了する。
【0023】
さて、他ノード転送処理によって送出されたエージェントノード間転送パケットはLAN10経由で転送先エージェントノードの通信管理・ドライバ228に受信され、他ノード受信処理2254に渡される。他ノード受信処理2254はエージェントノード間転送パケットの制御ヘッダ部311から送信先試験端末番号311−4とパケットキャプチャ時刻311−5を読み込み、キャプチャしたパケットデータ301〜304も含めて入力引数として通信リンク模擬処理2255を実行する。
【0024】
図17は無線通信リンク模擬処理2255の内部構成を示しており、模擬補正処理22551、遅延時間の模擬のためにキャプチャパケットを一時的に格納しておくための遅延バッファ22552、OSにより周期起動されるロス・遅延模擬処理22553から構成される。
【0025】
図18は模擬補正処理22551の処理フローを示す図である。まず、クロック227から現在時刻を取得し、エミュレーション実行管理テーブル224のフィールド2241からエミュレーション開始時刻を求めてエミュレーション経過時間をもとめ(処理22551−1)、その値から本処理起動時の引数として渡されたパケットキャプチャ時刻を差し引くことにより当該パケットデータがキャプチャされてからのエミュレータシステム滞留時間を算出する(処理22551−2)。次に、エミュレーション実行管理テーブル224のフィールド2243から無線リンク遅延時間を読み込み、上記エミュレータシステム滞留時間を差し引くことで無線リンク遅延時間を補正する(処理22551−3)。この補正値について遅延時間模擬可能かどうかをチェックし(処理22551−4)、不可の場合はログへの記録等とのエラー処理を行い(処理22551−5)、パケットを廃棄して終了する。なお、遅延時間模擬可能性のチェックは、例えば予め決められた遅延時間模擬最小分解能より小さいか否かで判断する。次に、処理22551−4で模擬可能と判定された場合はキャプチャパケットデータを遅延バッファに格納し(処理22551−7)処理を終了する。ここで遅延バッファへのキャプチャパケットデータを格納する時のフォーマットを図19に示す。即ち、補正された遅延時間とクロック227の現在時刻より求めたタイムアウト時刻を設定するフィールド401、引数として入力されている送信先試験端末番号を設定するフィールド402、そしてやはり引数として入力されているキャプチャパケットデータを格納するフィールド403から構成されている。
【0026】
図20はロス・遅延模擬処理のフローを示している。本処理はOSに周期的に起動されると、まずクロック227より現在時刻を読み込み、次に遅延バッファ内に図19のフォーマットで格納されているキャプチャパケットデータについて、順次それぞれのタイムアウト時刻設定フィールド401をチェックしタイムアウトしたデータをバッファから取り出す(処理22553−1)。次に当該パケットデータをロスパケット対象として廃棄するか否かを計算する(処理22553−2、3)。この計算は、例えばエミュレーション実行管理テーブル224のフィールド2244に設定されている無線リンクロス率に基づいて確率的に生成される擬似的乱数等に基づいて実現される。ロスパケット対象と判定された場合は当該キャプチャパケットデータを廃棄して(処理22553−4)処理を終了する。ロスパケット対象ではないと判定された場合は、フィールド402に設定されている送信先試験端末番号を読み出し(処理22553−5)、当該試験端末に対して通信管理・ドライバを経由しキャプチャパケットデータを送出して(処理22553−6)処理を終了する。
以上説明したシステム構成と処理により、試験端末から他の試験端末宛にパケットが送出されると、試験端末の移動シナリオに基づいて事前に生成され各エージェントノードに配布された無線リンクスケジュール管理テーブルと、正確に時刻同期された各エージェントノードのクロックのみに基づいて、パケット送信元の試験端末と通信可能な宛先試験端末が検索され、必要であればエージェントノード間が連携してパケットが宛先試験端末を接続するエージェントノードに転送され、必要な無線リンク模擬を行った後、宛先試験端末にパケットが送出される。この一連の処理により、当該試験端末間であたかも無線リンクを介した通信を模擬することが可能となる。
【符号の説明】
【0027】
1 マネージャノード
2 エージェントノード
3 試験端末
10 LAN
20 LAN
30 イーサケーブル
51 入出力端末
52 入出力コントローラ
53 CPU
54 メモリ
55、56 NIC
57 バス
61、62 NIC
63 CPU
64 メモリ
65、66、67 NIC
71 NIC
72 CPU
73 メモリ
74 バス
101 システム構成定義コマンド
102 移動シナリオ定義コマンド
103 移動シナリオファイル
104 無線リンクスケジュール生成コマンド
105 エミュレーション実行管理コマンド
106 時刻同期管理プログラム
107 実行管理
108 入出力ドライバ
109 通信管理・ドライバ
221 管理エージェント
222 システム構成管理テーブル
223 無線リンクスケジュール管理テーブル
224 エミュレーション実行管理テーブル
225 パケット中継/無線リンク模擬処理
226 時刻同期制御
227 クロック
228 通信管理・ドライバ
229 通信管理・ドライバ
310 通信管理・ドライバ
311 通信処理プログラム
2221 エージェントノード番号設定フィールド
2222 IPアドレス設定フィールド
2223 時刻同期用IPアドレス設定フィールド
2224 接続試験端末数設定フィールド
2225、2227 試験端末番号設定フィールド
2226、2228 試験端末NIC番号設定フィールド
2231 通信可能開始時刻設定フィールド
2232 通信可能終了時刻設定フィールド
81、82、83、84 試験端末
2241 エミュレーション開始時刻設定フィールド
2242 エミュレーション終了時刻設定フィールド
2243 無線リンク遅延時間設定フィールド
2244 無線リンクロス率設定フィールド
2251 パケットキャプチャ処理
2252 到達可能端末検索処理
2253 他ノード転送処理
2254 他ノード受信処理
2255 無線通信リンク模擬処理
2256 パケット送出処理
301 MACヘッダ部
302 IPヘッダ部
303 UDPヘッダ部
304 DATA部
311 エージェントノード間転送パケットヘッダ部
311−1 送信元エージェントノード番号設定部
311−2 転送先エージェントノード番号設定部
311−3 送信元試験端末番号設定部
311−4 送信先試験端末番号設定部
311−5 パケットキャプチャ時刻設定部
22551 無線通信リンク模擬補正処理部
22552 遅延バッファ
22553 ロス・遅延模擬処理部
401 タイムアウト時刻設定部
402 送信先試験端末番号設定部
403 キャプチャパケットデータ格納フィールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二つ以上のエージェントノードがバックボーンネットワークに接続され、各エージェントノードには試験対象となる試験端末が少なくとも一つ以上有線ケーブルにて接続された分散システムにおいて、
概試験端末とエージェントノードとの接続関係、およびエージェントノードの概バックボーンネットワーク上におけるアドレスを設定したシステム構成管理テーブルを各エージェントノードに持たせ、
該試験端末について他試験端末との通信可能となる時間帯を設定したリンク接続スケジュールテーブルを各エージェントノードに持たせ、
試験端末が有線ケーブルにパケットを送出した場合は、当該試験端末を接続しているエージェントノードがパケットをそのまま取込み、その試験端末のIDを送出元試験端末IDとして、パケットを取り込んだ時刻とともに記憶する手段を各エージェントノードに持たせ、
概リンク接続スケジュール管理テーブルを参照して概試験端末IDと取込み時刻に基づき、その時点で通信可能な試験端末のIDを検索し送出先試験端末IDとし、
検索された試験端末を接続しているエージェントノードをシステム構成管理テーブルより検索し、
検索されたエージェントノードに取込んだパケットを送出先試験端末IDとともに該バックボーンネットワークを介して転送し、
それを受信したエージェントノードは概パケットを待ちキューに格納し、
予め決められた待ち時間が経過した後にキューに格納された概パケットを送出先試験端末IDで指定される試験端末に概優先ケーブル経由にて送出することを特徴とする分散型ネットワークエミュレータシステム。
【請求項2】
請求項1記載の分散システムにおいて、エージェントノードの一つがマスターとなり、そのクロックに基づいて生成された時刻同期のための同期制御パケットを定期的に概バックボーンネットワークに送出し、その他のエージェントノードは概同期制御パケットに基づいて自ノード内のクロックを概マスターのクロックと同期することを特徴とする分散型ネットワークエミュレータシステム。
【請求項3】
請求項1記載の分散システムにおいて、概リンク接続スケジュール管理テーブルを、概試験端末毎に指定された移動モデルに基づいて生成することを特徴とする分散型ネットワークエミュレータシステム。
【請求項4】
請求項3記載の分散型ネットワークエミュレータシステムにおいて、リンク接続スケジュールに設定される通信可能時間帯を、概試験端末間の距離に応じて算出することを特徴とする分散型ネットワークエミュレータシステム。
【請求項5】
請求項3記載の分散型ネットワークエミュレータシステムにおいて、リンク接続スケジュールに設定される通信可能時間帯を、概試験端末間の位置関係と模擬する無線通信手段の特性を考慮して算出することを特徴とする分散型ネットワークエミュレータシステム。
【請求項6】
請求項1記載の分散型ネットワークエミュレータシステムにおいて、他のエージェントノードに転送する際に、概試験端末からのパケット取込み時刻も付加して転送し、
それを受信したエージェントノードはパケットを待ちキューに格納する際に概エージェントノードのクロックから現在時刻を読み出してパケット取込み時刻と比較することにより、パケット取込み後の経過時間をエミュレータ滞留時間として計算し、
概予め決められた待ち時間から概エミュレータ滞留時間を差し引いた時間を補正後の待ち時間とし、概補正後の待ち時間経過後に概待ちキューから取り出すことを特徴とする分散型ネットワークエミュレータシステム
【請求項7】
請求項1において、リンク接続スケジュール管理テーブルから検索された通信可能な送出先試験端末が複数存在する場合、検索された送出先試験端末毎にエージェントノードへの転送とそのエージェントノードでの待ち処理、送出先試験端末へのパケット送出処理を行うことを特徴とする分散型ネットワークエミュレータシステム。
【請求項8】
請求項6において、検索された複数の送出先試験端末が一つのエージェントノードに接続されている場合は、複数の送出先試験端末IDを取込んだパケットに付加してエージェントノードに転送し、それを受信したエージェントノードはパケットに付加された送出先試験端末IDごとに概待ち処理と試験端末への送出処理を行うことを特徴とする分散型ネットワークエミュレータシステム。
【請求項9】
請求項1の分散システムにマネージャノードを接続し、マネージャノードにて請求項3に記載されたリンク接続スケジュール管理テーブルの生成を実行し、生成されたリンク接続スケジュール管理テーブルを概バックボーンネットワークを用いてエージェントノードに配布することを特徴とする分散型ネットワークエミュレータシステム。
【請求項10】
請求項2の分散システムにマネージャノードを接続し、マネージャノードにそのクロックに基づいて生成された時刻同期のための同期制御パケットを定期的に概バックボーンネットワークに送出し、その他のエージェントノードは概同期制御パケットに基づいて自ノード内のクロックを概マスターのクロックと同期することを特徴とする分散型ネットワークエミュレータシステム。
【請求項11】
請求項2の分散システムにおいて、概バックボーンネットワークとは独立した時刻同期用ネットワークを各エージェントノードに接続し、時刻同期のための同期制御パケットをエージェントノードと送受する際は概時刻同期用ネットワークを用いることを特徴とする分散型ネットワークエミュレータシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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