説明

分散型無機EL素子、その製造方法および無機EL発光層の製造装置

【課題】発光素子用として充分に高い輝度を有する分散型無機EL発光素子およびその素子を効率よく製造する方法を提供すること。
【解決手段】電極間に無機EL発光層を含んでなる分散型無機EL素子の製造方法であって、前記無機EL発光層が、電界によって配向させた蛍光体を接着剤層に付着させることによって形成されることを特徴とする分散型無機EL素子の製造方法。前記蛍光体の前記接着剤層への付着が、蛍光体を帯電させ、蛍光体の保持容器と接着剤層の間に電界を形成することにより行われることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化亜鉛を母体とし発光の中心となる付活剤および共付活剤を含有する蛍光体を用いた分散型無機エレクトロルミネッセンス(EL)素子、特に、高輝度で長寿命の分散型無機EL素子およびその製造方法、ならびに無機EL発光層の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
分散型無機EL素子は、代表的には、少なくとも一方が光透過性を有する透明導電膜電極と対を成す背面電極間に、フッ素系樹脂あるいはシアノ基を有する樹脂等の高誘電性樹脂中に蛍光体粉末を含む無機EL発光層が設置された素子である。さらに絶縁破壊を防ぐ為に電極と発光層との間に高誘電性樹脂中にチタン酸バリウムのような強誘電体の粉末を含む誘電層が設置されるのが通常の形態である。
【0003】
分散型無機EL素子は、素子構成時に高温プロセスを用いないため、プラスチックなどのフレキシブルな材料構成が可能であること、真空装置を使用しなくても比較的簡便な工程で、高表面積の素子を低コストで製造が可能であることなどの特長を有し、バックライト、表示素子へ応用されている。
【0004】
分散型無機EL素子に用いる蛍光体粉末としては、硫化亜鉛を母体として、銅等の付活剤および塩素等の共付活剤が添加されたものが広く知られている。しかし、この蛍光体粉末を用いて作成された発光素子は、LEDなどの発光素子に較べて発光輝度が低く、また発光寿命が短いという欠点があり、このため従来から種々の改良が試みられてきた。
【0005】
分散型無機EL素子の発光輝度を向上させる方法として、蛍光体粉末の粒子を配向させて、輝度を向上させる方法が開示されている(特許文献1参照)。
また、蛍光体の調製方法として、特許文献2に示されるような液相方法によって得られた前駆体を焼成する方法、特許文献3に示されるような硫化亜鉛粉末に発光中心を固体混合して焼成する方法、などが知られている。
【0006】
粒子を膜状に固定化する方法として、導電性の電極材料からなる粒子を帯電させ、接着層に付着固定化する方法が開示されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−131583号公報
【特許文献2】特開2005−132947号公報
【特許文献3】特開2004−2867号公報
【特許文献4】特開2008−135256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、軸比(長軸長/短軸長)が3以上の粒子を電極面に平行な方向に配向させることで輝度向上に繋がったとしているが、性能の向上が十分でなく、より高い輝度の素子が求められている。
【0009】
特許文献4には、電極材料の固定化方法に関する記載はあるが、蛍光体の固定化に関する記載は一切書かれていない。
【0010】
上記従来技術の問題点を考慮して、本発明は、発光素子用として充分に高い輝度を有する分散型無機EL発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ね、分散型無機EL素子を作成するにあたって、外場力をかけて粒子を配向させることにより、安定的に、高輝度な分散型無機EL素子が形成されることを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明によれば、以下のものが提供される。
【0013】
[1] 電極間に無機EL発光層を含んでなる分散型無機EL素子の製造方法(例えば、透明電極、発光層、場合によって採用される誘電層、および背面電極を含んでなる分散型無機EL素子)であって、前記無機EL発光層が、電界によって配向させた蛍光体を接着剤層に付着させることによって形成されることを特徴とする分散型無機EL素子の製造方法。
[2] 前記蛍光体の前記接着剤層への付着が、蛍光体を帯電させ、蛍光体の保持容器と接着剤層の間に電界を形成することにより行われることを特徴とする[1]に記載の分散型無機EL素子の製造方法。
[3] 前記蛍光体保持容器と接着剤層との間に形成された電界により前記蛍光体を帯電させることを特徴とする[1]に記載の製造方法。
[4] 電極表面に蛍光体を接合した無機EL発光層の製造装置であって、蛍光体粉末を収容する容器と接着剤層が形成された電極表面との間に電界を形成することにより帯電された蛍光体粉末を電極表面上の接着剤層に付着させる無機EL発光層形成手段を備え、電極上の接着剤層の乾燥により蛍光体粉末が電極の表面に定着して無機EL発光層が形成されることを特徴とする無機EL発光層の製造装置。
[5] [1]に記載の製造方法により製造された無機EL発光層中の蛍光体粉末の70%以上の粒子の長軸と無機EL発光層主面の法線とのなす角度が45度以内となるように該粒子が配向していることを特徴とする分散型無機EL素子。
[6] 蛍光体粉末の60%以上の粒子の長軸長と短軸長との比が1.1以上であることを特徴とする[5]に記載の分散型無機EL素子。
[7] 前記蛍光体粉末が硫化亜鉛を母体とし付活剤および/または共付活剤を含有する蛍光体粉末であることを特徴とする[5]に記載の分散型無機EL素子。
【発明の効果】
【0014】
本発明の分散型無機EL素子は、発光素子用として高い輝度を有する。また該分散型無機EL発光素子は本発明の製造方法によって、効率的に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(無機EL発光層)
本発明の分散型無機EL素子を構成する無機EL発光層には蛍光体粉末が含まれる。該蛍光体粉末に用いる蛍光体は、特に限定されないが、例えば硫化亜鉛や硫化カルシウム(CaS)、硫化ストロンチウム、セレン化亜鉛、セレン化カドミウムが挙げられ、特に、化学的安定性から、硫化亜鉛の使用が好ましい。
【0016】
蛍光体の調製方法としては、特に限定されるものではなく、特許文献2に示されるような液相方法によって得られた前駆体を焼成する方法、特許文献3に示されるような硫化亜鉛粉末に発光中心を固体混合して焼成する方法によって調製されたものを用いることができる。
【0017】
本発明に使用する蛍光体の付活剤としては、特に限定されるものではなく、銅、マンガン、銀、金などの遷移金属、セリウム、ユーロピウム、テルビウムなどの希土類金属を使用することができる。外場力による配向性の観点から、銅、金、希土類が好ましい。これら付活剤の導入方法に特に制限はなく公知の方法を用いることが出来る。例えば蛍光体の製造工程において金などの付活剤を直接添加してもよく、銅の導入には硫酸銅、マンガンの導入には硫化マンガンというように導入する付活剤の誘導体を添加してもよい。
【0018】
付活剤の量としては、特に限定されるものではなく、所望する発光色にも依存するが、通常、重量基準で、100から50000ppmの範囲、より好ましくは、120から30000ppmの範囲で添加される。
【0019】
該蛍光体で用いることができる共付活剤としては、特に限定されるものではなく、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン、アルミニウム、ガリウムなどの金属を使用することができる。これら共付活剤の導入方法に特に制限はなく公知の方法を用いることが出来る。例えば蛍光体の製造工程においてハロゲンの導入にアルカリ金属塩、ガリウムの導入に酸化ガリウムというように導入する共付活剤の誘導体を添加してもよい。使用される量としては、特に限定されることはなく、通常付活剤に対して、0.2から10重量倍、より好ましくは、0.3から5重量倍の範囲で使用される。
【0020】
本発明の分散型無機EL素子を構成する無機EL発光層に含まれる蛍光体粉末は、長軸長と短軸長との比(長軸長/短軸長)が1.1以上であることが好ましい。電界の作用で配向させるためには、例えば蛍光体粉末内で分極構造が必要となるため、電荷の偏りが明確になるだけの大きさが必要である。一方で、この比が大きすぎると、蛍光体粉末の固定化が難しく、接着剤層が固化し、蛍光体粉末が固定化する前に、法線と蛍光体長軸の角度が大きくなるため、配向性が劣化してしまうため好ましくなく、3.0以下であることが好ましい。すなわち、本発明に用いる蛍光体粉末としては、長軸長と短軸長との比が1.1以上3.0以下であることが好ましい。本発明において、配向による分散型無機EL素子の発光特性を高めるためには、少なくとも60%以上の蛍光体粉末の長軸長と短軸長との比(長軸長/短軸長) が1.1以上3.0以下であることが好ましく、さらに該蛍光体粉末の80%以上が該比の範囲にあることが、より好ましい。
【0021】
本発明に係る無機EL発光層の製造方法は、電極の表面に接着剤層を形成し、蛍光体粉末を接着剤層に付着させ、接着剤層を乾燥させることにより蛍光体粉末を電極表面に定着させる方法である。
【0022】
なお、蛍光体粉末の接着剤層への付着は、蛍光体粉末を帯電させ、蛍光体粉末を収納する容器と電極表面との間に電界を形成することにより行うことができる。また、蛍光体粉末の分散が必要な場合は、電界からの力を受けて電極表面へと進行する蛍光体粉末を振動篩に通すことにより、あるいは、帯電された蛍光体粉末を流動状態にすることにより、行うことができる。
【0023】
本発明で収納容器と電極間に印加する電圧は、帯電した蛍光体粉末が静電吸着によって接着剤層に付着できる範囲にあればよく、通常500Vから500kVの範囲、より好ましくは、1kVから100kVの範囲で印加され、蛍光体が電極表面上の接着剤層に付着される。
【0024】
本発明で接着剤層として使用される接着剤としては、光の吸収率が低いものであればよく、通常透明性の接着剤を用いる。エポキシ系、アクリル系の接着剤を使用することもできるし、シアノエチルセルロース、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール系樹脂のように、比較的誘電率の高いポリマーや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ化ビニリデン、アクリル系樹脂などの樹脂をラクトン、エステルなどの溶解性の高い溶媒に溶解させたものを使用してもよい。これらの樹脂に、BaTiOやSrTiOなどの高誘電率の微粒子を適度に混合して誘電率を調整することもできる。かかる微粒子の分散方法としては、ホモジナイザー、遊星型混練機、ロール混練機、超音波分散機、遠心脱泡機などを用いることができる。
【0025】
接着剤層の成膜方法は特に制限されず、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法、あるいはスプレー塗布法などを用いて塗布することができる。
【0026】
接着剤層上に蛍光体粉末を付着させた後の乾燥方法も特に制限されず、使用する接着剤の種類によっても異なるが、熱風乾燥、加熱乾燥、真空乾燥いずれの方法を用いてもよい。
【0027】
無機EL発光層は、接着剤層の乾燥後、再び接着剤層を成膜して、蛍光体粉末の付着を行うことで、無機EL発光層を複層化し、蛍光体の密度を上げることも可能である。本無機EL発光層の蛍光体粉末と接着剤の比率としては、特に制限されるものではないが、通常、無機EL発光層中の蛍光体濃度として、好ましくは10重量%から90重量%の範囲、より好ましくは20重量%から80重量%の範囲である。
【0028】
本発明において、無機EL発光層を形成する電極は、透明電極上でも、背面電極上でも差し支えなく製造できる。
【0029】
上記の分散型無機EL発光素子の無機EL発光層の製造方法によれば、電界を利用して、蛍光体粉末の粒子の長軸と無機EL発光層主面の法線のなす角度が45度以内となるように粒子を配向することができる。45度以内に配向することにより、効果的に発光させることができ、輝度向上に繋がり、この角度が小さければより輝度向上に繋がる。蛍光体粉末の長軸と無機EL発光層主面の法線のなす角度が、45度から0度の範囲、好ましくは、30度から0度の範囲、より好ましくは15度から0度の範囲で配向させる。
【0030】
本発明の分散型無機EL発光素子の蛍光体粉末は、70%以上の、好ましくは80%以上の、該蛍光体粉末の長軸と無機EL発光層主面の法線のなす角度が45度以内となるように配向している。また、50%以上の、好ましくは55%以上の該蛍光体粉末の長軸と無機EL発光層主面の法線のなす角度が30度以内に配向していることが好ましく、25%以上の、好ましくは30%以上の、該蛍光体粉末の長軸と無機EL発光層主面の法線のなす角度が15度以内に配向していることがより好ましい。これらの蛍光体粉末の配向状態は、ミクロトーム、クロスセクションポリッシャー、イオンポリッシャーなどの切断機を用いて調製した分散型無機EL素子の断面の超薄切片をSEM(二次電子顕微鏡)、TEM(透過型電子顕微鏡)、またはマイクロスコープなどで観察することにより容易に認識することができる。
【0031】
(電極)
2以上の電極の間に発光層を配置することによって発光層を電界下に置き、発光させることができる。分散型無機EL素子の代表的な構成は、透明電極、発光層、場合によって採用される誘電層、および背面電極を含んでなるので、以下、透明電極及び背面電極について説明するが、本発明は上記の代表的な構成に限定されるものではない。
【0032】
1.透明電極
本発明の分散型無機EL素子を構成する透明電極は一般的に用いられている任意の透明電極材料が用いられる。例えば、錫がドープされた酸化インジウム、フッ素がドープされた酸化錫、アンチモンがドープされた酸化錫、アルミニウムがドープされた酸化亜鉛、ガリウムがドープされた酸化亜鉛などの酸化物、該酸化物の微粒子と有機バインダーからなる導電性ペースト、銀の薄膜を高屈折率層で挟んだ多層構造体、および、ポリアニリン、ポリピロールなどのπ共役系高分子が挙げられる。
【0033】
透明電極の表面抵抗率は、1000Ω/□以下であることが好ましく、0.1Ω/□〜800Ω/□が更に好ましい。特に0.2Ω/□〜500Ω/□が好ましい。透明電極の表面抵抗率は、JIS K6911に記載の方法に準じて測定することができる。
【0034】
透明電極の調製法には特に制限はなく、スパッター、真空蒸着等の気相法やペースト状のITOや酸化錫を塗布またはスクリーン印刷によって成膜したり、材料をレーザー等で加熱することで成膜しても良い。
【0035】
2.背面電極
本発明の分散型無機EL素子を構成する光を取り出さない側の背面電極は、導電性の有る材料であれば任意の材料が使用出来る。金、銀、白金、銅、鉄、アルミニウムなどの金属、グラファイトなどから、作成する素子の形態、作成工程の温度等により適時選択される。
【0036】
(誘電層)
本発明の分散型無機EL素子の誘電層を構成する誘電体物質は、薄膜結晶層であっても粒子形状であってもよい。これらは単独で使用しても、複合して使用してもよい。該誘電層は、無機EL発光層の片側に設けてもよく、両側に設けることもできる。エネルギー効率を考慮すると両側に設けることが好ましい。誘電層は、誘電率と絶縁性が高く、且つ高い誘電破壊電圧を有する材料であればよく、好適には金属酸化物、窒化物から選択され、例えばTiO,BaTiO,SrTiO,PbTiO,KNbO3,PbNbO,Ta,BaTa26,LiTaO3,Y,Al,ZrO,AlON,ZnSなどが用いられる。これらは、単独で使用しても、複合して使用してもよい。また、均一な膜として設置してもよいし、粒子構造を有する膜として用いてもよい。
【0037】
薄膜結晶層の場合は、基板にCVD、スパッタリング等の気相法で形成した薄膜や、BaやSrなどのアルコキサイド等より形成されたゾルゲル膜が挙げられる。
【0038】
誘電体物質が粒子形状である場合は、蛍光体粉末の大きさに対し十分に小さいことが好ましい。蛍光体粉末の巻き込み、光の反射などを考慮して、蛍光体粉末サイズの1/3〜1/1000の大きさが好ましい。
【0039】
誘電層は、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法、あるいはスプレー塗布法などを用いて塗布して形成することができる。特に、スクリーン印刷法のような印刷面を選ばない方法やスライドコート法のような連続塗布が可能な方法を用いることが好ましい。例えば、スクリーン印刷法では、蛍光体粉末や誘電体の微粒子を高誘電率のポリマー溶液に分散した分散液をスクリーンメッシュを通して塗布する。メッシュの厚さ、開口率、塗布回数を選択することにより膜厚を制御できる。なお分散液の種類を変えることで、無機EL発光層や誘電層のみならず、背面電極層なども形成でき、さらにスクリーンの大きさを変えることで大面積化が容易となる。
【0040】
本発明の無機EL発光層の製造装置は、電極の表面に蛍光体固定化した無機EL発光層を製造する装置において、蛍光体粉末を収納する収納容器と、蛍光体粉末を帯電する帯電手段と、必要に応じて蛍光体を分散する分散手段と、接着剤層が形成された電極表面と収納容器との間に電界を形成することにより帯電された蛍光体粉末を電極の接着剤層に付着させる電界形成手段とを備えたものである。電極の接着剤層の乾燥により蛍光体粉末が電極の表面に定着される。
【0041】
なお、蛍光体粉末が載置される電界形成用電極を収納容器に備え、電界形成手段が、電極の表面と電界形成用電極との間に電界を形成するように構成することができる。さらに、電界形成手段が帯電手段を兼ねていてもよい。この場合、分散手段として、電極表面と電界形成用電極との間に配置された振動フルイ、あるいは、電界形成用電極上で蛍光体粉末を流動状態とする流動化装置を用いることができる。
【0042】
本発明の分散型EL発光素子の製造方法の具体例を挙げると、例えば
(a)透明電極を支持体として、その一方の面上に接着剤を塗布する;
(b)該接着剤と蛍光体収納容器の間に電界を印加して、蛍光体粉末を特定の配向状態で付着させる;
(c)蛍光体の付着した該接着剤を乾燥させ、蛍光体を固定化させて無機EL発光層を形成する;
(d)該無機EL発光層の上面に誘電層を形成する;
(e)該誘電層の上面に背面電極を形成する;
工程を含んでなる方法が挙げられる。
上記工程において、(a)〜(c)を複数回行って、複層化した積層体としてもよい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例により本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下の実施例により限定されない。
【0044】
(試験例1)蛍光体粉末の調製
高純度硫化亜鉛粉末(堺化学工業株式会社製、RAK−N(商品名))150gに2.0gの酢酸銅水和物 (Cu(CHCO・HO)を加え、さらに、融剤として30gの塩化マグネシウム(MgCl) 、20gの塩化ナトリウム(NaCl) および10gの塩化カリウム(KCl)を混合したものを、遊星型攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、AR−250(商品名))に装入し、10分間よく混合した。次いで、この原料粉体を磁製ルツボに封入し、1050℃で3時間焼成した後、イオン交換水3リットルで洗浄、濾過を10回繰り返して融剤を完全に洗い流し、乾燥して中間蛍光体粉末(平均粒径22μm)を得た。次に、この中間蛍光体粉末120gをイオン交換水600gに分散し、超音波振動器(BRANSON製、Degital Sonifier(商品名))にて、出力60%で5分間連続照射、5分間停止のサイクルを3回行って超音波振動を加えた。この後、脱水、熱風乾燥機により80℃、12時間乾燥した。この中間蛍光体粉末乾燥物100gに、硫酸銅5水和物2.5g、硫酸亜鉛7水和物25gを混合し、遊星型攪拌脱泡機(シンキー社製、AR−250)に装入し、10分間よく混合した。次いで、この混合物を磁製ルツボに封入し、窒素雰囲気下で700℃、3時間再焼成した後、室温に冷却した。焼成物を5%塩酸1200g中で30分間撹拌して、残留した塩の洗浄および表面エッチング処理を行ない、イオン交換水500gで洗浄後、さらに1%KCN水溶液500gで洗浄して、粒子表面の硫化銅を除去した。その後、イオン交換水2リットルで2回水洗し、熱風乾燥機により80℃、12時間乾燥して蛍光体粉末80gを得た。得られた蛍光体粉末をSEM(二次電子顕微鏡、装置名:HITACHI社製 TM−100 MINISCOPE)で撮影し、200個の粒子についてその軸比(長軸長/短軸長)を測定したところ、75%の粒子が1.1〜1.5の範囲であった。
【0045】
(実施例1)
フッ化ビニリデン樹脂(アトケム社製、Kynar9301(商品名))40gを酢酸カルビトール40gに溶解して接着剤を作成し、この接着剤を透明導電膜付ガラス(株式会社倉元製作所製コーニング1737(商品名)、以下の例において同じ)上に56μmの厚さで塗布して接着剤層を形成した。
【0046】
静電植毛装置(株式会社グリーンテクノ製)を用いて試験例1で製造した蛍光体粉末を直流電圧45KVで帯電させ、接着剤層に植毛した。この後、熱風乾燥機により110℃、30分乾燥を行って膜厚24.5μmの蛍光体膜を調製した。蛍光体膜中の蛍光体含量は、示差熱・熱重量同時測定機(エス・アイ・アイ・ナノテクノロジーズ社製、TG/DTA6300(商品名))を用いて500℃、30分間蛍光体膜を熱処理し、その重量変化から算出したところ、56wt%であった。
【0047】
上記蛍光体膜上に誘電層としてチタン酸バリウムペースト(デュポン製、8153(商品名))を100メッシュスクリーンを用いてスクリーン印刷し、120℃、30分間乾燥した(誘電層厚さ20μm)。その誘電層上に背面電極として銀ペースト(ヘンケル株式会社製 ELECTRODAG461S(商品名)、以下の例で同じ製品を使用)を印刷し、透明電極と背面電極に電圧を供給するためのリード線を付設した後、全体を封止フィルムで封止して分散型無機EL素子を得た。
【0048】
上記のように作製された分散型無機EL素子の透明電極一端に接続した電圧印加用リード線と、背面電極の一端に接続した電圧印加用リード線との間に200V、1kHzの交流電圧を印加し、分散型無機EL素子を発光させ、その輝度を色彩輝度計(トプコン社製 BM7)にて測定したところ、その発光輝度は230cd/cmであった。
【0049】
上記分散型無機EL素子の破断面をマイクロスコープ(株式会社ナカデン製、デジタルマイクロスコープ MX-1200II(商品名)、以下の例で同じ装置を使用)により撮影し、無機EL発光層中の蛍光体粉末100個の長軸と無機EL発光層主面の法線のなす角度を調べたところ、75%の蛍光体粉末が45度以内に配向していた。また、59.8%の蛍光体粉末が30度以内に配向していた。さらに30.1%の蛍光体粉末が15度以内に配向していた。
【0050】
(実施例2)
シアノエチルプルラン(信越化学工業株式会社製、CR-Sタイプ(商品名))40gをγ−ブチロラクトン40gに溶解して接着剤を作成し、透明導電膜付ガラス上に50μmの厚さで塗布して接着剤層を形成した。
【0051】
静電植毛装置(株式会社グリーンテクノ製)を用いて試験例1で製造した蛍光体粉末を直流電圧48kVで帯電させ、接着剤層に植毛した。この後、熱風乾燥機により110℃、30分乾燥を行って膜厚23.4μmの蛍光体膜を調製した。蛍光体膜中の蛍光体含量を実施例1と同様に求めたところ、54wt%であった。
【0052】
この蛍光体膜から実施例1と同様にして分散型無機EL素子を作製し、発光させたところ、その発光輝度は340cd/cmであった。
【0053】
上記分散型無機EL素子の破断面をマイクロスコープ撮影し、無機EL発光層中の蛍光体粉末100個の長軸と無機EL発光層主面の法線のなす角度を調べたところ、72.5%の蛍光体粉末が45度以内に配向していた。また、60.1%の蛍光体粉末が30度以内に配向していた。さらに32.1%の蛍光体粉末が15度以内に配向していた。
【0054】
(実施例3)
シアノエチルPVA(信越化学工業株式会社製、CR-Vタイプ(商品名))40gをγ−ブチロラクトン40gに溶解して接着剤を作成し、この接着剤を透明導電膜付ガラス上に34μmの厚さで塗布し、接着剤層を形成した。
【0055】
静電植毛装置(株式会社グリーンテクノ製)を用いて試験例1で製造した蛍光体粉末を直流電圧43kVで帯電させ、上記接着剤層に植毛した。この後、熱風乾燥機により110℃、30分乾燥を行って膜厚16μmの蛍光体膜を調製した。
【0056】
上記操作を3回繰り返すことで膜厚40.6μmの蛍光体膜を調製した。蛍光体膜中の蛍光体含量を実施例1と同様に求めたところ、57wt%であった。
【0057】
以下実施例1と同様にして分散型無機EL素子を作製し、発光させたところ、その発光輝度は280cd/cmであった。
【0058】
上記分散型無機EL素子の破断面をマイクロスコープ撮影し、無機EL発光層中の蛍光体粉末100個の長軸と無機EL発光層主面の法線のなす角度を調べたところ、74.3%の蛍光体粉末が45度以内に配向していた。また、58.8%の蛍光体粉末が30度以内に配向していた。さらに30.7%の蛍光体粉末が15度以内に配向していた。
【0059】
(比較例1)
フッ化ビニリデン樹脂(アトケム社製、Kynar9301(商品名))40gを酢酸カルビトール40gに溶解して接着剤を作成し、この接着剤を透明導電膜付ガラス上に52μmの厚さで塗布して接着剤層を形成した。該接着剤層に試験例1で製造した蛍光体粉末を塗布し、余剰の蛍光体粉末を風圧により除去した後に熱風乾燥機により110℃、30分加熱乾燥を行うことで膜厚24.8μmの蛍光体膜を調製した。
【0060】
この後、蛍光体膜中の蛍光体含量を実施例1と同様に求めたところ、57wt%であった。
【0061】
上記蛍光体膜から実施例1と同様にして分散型無機EL素子を作製し、発光させたところ、その発光輝度は157cd/cmであった。
【0062】
上記分散型無機EL素子の破断面をマイクロスコープ撮影し、無機EL発光層中の蛍光体粉末100個の長軸と無機EL発光層主面の法線のなす角度を調べたところ、全粒子の50.1%が45度以内に配向していた。また、22.4%の蛍光体粉末が30度以内に配向していた。さらに9.5%の蛍光体粉末が15度以内に配向していた。
【0063】
(比較例2)
フッ化ビニリデン樹脂(アトケム社製、Kynar9301(商品名))40gを酢酸カルビトール65gに溶解し、それに試験例1で得られた蛍光体粉末49gを遊星型攪拌脱泡機(シンキー社製、AR−250(商品名))にて混合して蛍光体ペーストを作成した。
この蛍光体ペーストを透明導電膜付ガラス上に70μmの厚さで塗布し、110℃で30分間加熱することで酢酸カルビトールを揮発乾燥させ、膜厚22μmの蛍光体膜を調製した。
【0064】
蛍光体膜中の蛍光体含量を実施例1と同様に求めたところ、55wt%であった。上記蛍光体膜を用いた以外は実施例1と同様にして分散型無機EL素子を作製し、発光させたところ、その発光輝度は141cd/cmであった。
【0065】
上記分散型無機EL素子の破断面をマイクロスコープ撮影し、無機EL発光層中の蛍光体粉末100個の長軸と無機EL発光層主面の法線のなす角度を調べたところ、全粒子の48.5%が45度以内に配向していた。また、21.5%の蛍光体粉末が30度以内に配向していた。さらに5.5%の蛍光体粉末が15度以内に配向していた。
【0066】
(比較例3)
シアノエチルプルラン(信越化学工業株式会社製、CR-Sタイプ(商品名))40gをγ−ブチロラクトン110gに溶解し、それに試験例1で得られた蛍光体粉末47gを遊星型攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、AR−250(商品名))にて混合して蛍光体ペーストを作成した。
この蛍光体ペーストを透明導電膜付ガラス上に70μmの厚さで塗布し、110℃で30分間加熱することでγ−ブチロラクトンを揮発乾燥させ、膜厚24μmの蛍光体膜を調製した。
【0067】
蛍光体膜中の蛍光体含量を実施例1と同様に求めたところ54wt%であった。上記蛍光体ペーストを用いた以外は比較例1と同様にして分散型無機EL素子を作製し、発光させたところ、その発光輝度は212cd/cmであった。
【0068】
上記分散型無機EL素子の破断面をマイクロスコープ撮影し、無機EL発光層中の蛍光体粉末100個の長軸と無機EL発光層主面の法線のなす角度を調べたところ、全粒子の46.5%が45度以内に配向していた。また、20.2%の蛍光体粉末が30度以内に配向していた。さらに6.1%の蛍光体粉末が15度以内に配向していた。
【0069】
(比較例4)
シアノエチルPVA(信越化学工業株式会社製、CR-Vタイプ(商品名))40gをγ−ブチロラクトン110gに溶解し、それに試験例1で得られた蛍光体49gを遊星型攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、AR−250(商品名))にて混合して蛍光体ペーストを作成した。
この蛍光体ペーストを透明導電膜付ガラス上に70μmの厚さで塗布し、110℃で30分間加熱することでγ−ブチロラクトンを揮発乾燥させた。この操作を三回繰り返すことによって膜厚39μmの蛍光体膜を調製した。
【0070】
蛍光体膜中の蛍光体含量を実施例1と同様に求めたところ55wt%であった。上記蛍光体ペーストを用いた以外は比較例1と同様にして分散型無機EL素子を作製し、発光させたところ、その発光輝度は170cd/cmであった。
【0071】
上記分散型無機EL素子の破断面をマイクロスコープ撮影し、無機EL発光層中の蛍光体粉末100個の長軸と無機EL発光層主面の法線のなす角度を調べたところ、全粒子の49.1%が45度以内に配向していた。また、22.2%の蛍光体粉末が30度以内に配向していた。さらに7.7%の蛍光体粉末が15度以内に配向していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極間に無機EL発光層を含んでなる分散型無機EL素子の製造方法であって、前記無機EL発光層が、電界によって配向させた蛍光体を接着剤層に付着させることによって形成されることを特徴とする分散型無機EL素子の製造方法。
【請求項2】
前記蛍光体の前記接着剤層への付着が、蛍光体を帯電させ、蛍光体の保持容器と接着剤層の間に電界を形成することにより行われることを特徴とする請求項1に記載の分散型無機EL素子の製造方法。
【請求項3】
前記蛍光体保持容器と前記接着剤層との間に形成された電界により前記蛍光体を帯電させることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
電極表面に蛍光体を接合した無機EL発光層の製造装置であって、蛍光体粉末を収容する容器と接着剤層が形成された電極表面との間に電界を形成することにより帯電された蛍光体粉末を電極表面上の接着剤層に付着させる無機EL発光層形成手段を備え、電極上の接着剤層の乾燥により蛍光体粉末が電極の表面に定着して無機EL発光層が形成されることを特徴とする無機EL発光層の製造装置。
【請求項5】
請求項1に記載の製造方法により製造された無機EL発光層中の蛍光体粉末の70%以上の粒子の長軸と無機EL発光層主面の法線とのなす角度が45度以内となるように該粒子が配向していることを特徴とする分散型無機EL素子。
【請求項6】
蛍光体粉末の60%以上の粒子の長軸長と短軸長との比が1.1以上であることを特徴とする請求項5に記載の分散型無機EL素子。
【請求項7】
前記蛍光体粉末が硫化亜鉛を母体とし付活剤および/または共付活剤を含有する蛍光体粉末であることを特徴とする請求項5に記載の分散型無機EL素子。