説明

分散強化合金の接合方法

本発明は、少なくとも1個が分散強化合金から成る2個以上の部材および/または構造部品を接合する方法に関し、該合金の組成(wt%)は、C:0.08以下、Si:0.7以下、Cr:10〜25、Al:1〜10、Mo:1.5〜5、Mn:0.4以下、残部:Feおよび通常存在する不純物であり、該接合前に鍛造により接合部の断面が拡大されており、この方法によって製造された製品は900℃より高温の高温用途に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1個が分散強化合金から成る2個以上の部材および/または構造部品を接合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Kanthal APMまたはAPMTのような分散強化合金の構造部品は、周囲のバーナーで例えば1100℃といった高温に加熱され、内部をガスが通るラジアントチューブなどの高温用の構造部品に要求される事項に最も適合するということが分かってきた。ラジアントチューブは化学反応の起きる温度にまで外部から加熱される。典型的なチューブ温度は、ガス流入側が900℃、ガス流出側で1125℃であり、最高1200℃に達する。
【0003】
スエーデン特許第467414号には、FeCrAl分散強化合金が開示されており、合金元素としてコバルト、ニッケル、シリコン、マンガン、ジルコニウム、チタンを含有し、更に少量のイットリウムおよびハフニウムを添加し、1050℃以上で熱処理することによって、クリープ強度が向上したことが記載されている。この材料でラジアントチューブを作製している。
【0004】
スエーデン特許第513989号には、FeCrAl分散強化合金をガスアトマイゼーションにより製造する方法が開示されている。この特許で解決しているガスアトマイゼーションの問題点は、チタンを含有する分散強化合金を製造する際に、アトマイゼーションに供する材料中にTiNおよびTiCの小粒子が形成されていて、アトマイゼーションに用いる溶湯ノズルに小粒子が付着して、ノズルの閉塞が起きることである。その解決手段として、アトマイゼーション用材料に0.05〜0.50wt%のタンタルと0.10wt%のチタンを同時添加している。この特許513989号には、モリブデン(Mo)を含有してもよいと記載されている。
【0005】
また、特許第467414号の合金によりクリープ強度が向上する。しかし、クリープ強度、延性、ラジアントチューブの使用寿命に対する要請は一層高くなっている。更に、従来知られているチューブよりも高温で長時間の耐久性を備えた長尺チューブを製造できることも望ましい。
【0006】
スエーデン特許出願第0301500-5号には、分解炉に用いるラジアントチューブが開示されている。この分解炉は、チューブに炭化水素を流し、チューブ内で炭化水素をエチレンに分解する。炭化水素の分解が起きる温度にまでチューブの外から炭化水素を加熱する。チューブは、FeCrAl合金から成り、その組成はFeに加えて10〜25wt%のCr、1〜10wt%のAl、1.5〜5wt%のMoと、少量の合金元素を含む。
【0007】
分散強化合金は殆どの場合、1200℃に達する高温用途で用いられる。加えて、長尺の懸架チューブである構造のため、チューブの溶接部および接合部に対して特別の要請が生ずる。構造を最適化するために壁厚を薄くする。決定要因は使用寿命とチューブ外部からの熱伝達の最大化であり、これらはチューブ肉厚を薄く、強度を高くすることにより向上する。チューブの強度は、少なくとも自重に耐えるように設定しなくてはならない。構造部品は、典型的には長さ10〜17mであり、例えば2個以上の部分、例えば2個以上のチューブを溶接して作製される。
【0008】
少なくとも1個は分散強化合金である2個以上の部材または構造部品を接合する際には、窒化物および/または粗大な酸化物クラスターなどの析出を含む広い領域が生じる結果、構造が溶接部および接合部で大幅に強度低下する。この強度低下によって、分散強化合金の接合部が、特定の温度と荷重との組合せに対して、構造に必要な強度基準を満たさなくなる。分散強化合金を用いている多くの構造において、自重は接合部に負荷される最大の荷重である。したがって、チューブ全体に亘って肉厚を増加させると、荷重が増加して接合部の設計基準を満たさなくなるので、チューブ全体の肉厚増加はできない。また、コストおよび熱伝達の観点からも、チューブ構造の従来の設計よりも肉厚と増加させることは望ましくない。片方または両方が分散強化合金から成る構造部品同士を接合させる目的で、必要な加熱を行なった結果として、接合部の機械強度は母材部の半分に低下する。その結果、溶接部、接合部などが潜在的な破壊箇所となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明の目的は、上記従来技術の欠点を解消して構造を最適化できる、少なくとも一方が分散強化合金から成る部材同士を接合する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、一方または両方が分散強化合金から成る構造部品同士を接合する方法であって、荷重を支持できるだけ接合領域および溶接領域の強度をそれぞれ増加させるために、公知の接合技術と接合領域の断面積の拡大とを組み合わせる方法を提供する。
【0011】
本発明は、一方または両方が分散強化合金から成る構造部品同士を接合する方法であって、荷重を支持できるだけ接合領域および溶接領域の強度をそれぞれ増加させるために、接合の前に接合領域の断面積を拡大する方法および上記構造部品の高温用途での使用を提供する。
【0012】
本発明の方法に用いる分散強化合金の組成は下記(wt%)のとおりである。
【0013】
C 0.08以下
Si 0.7以下
Cr 10〜25
Al 1〜10
Mo 1.5〜5
Mn 0.4以下
残部 Feおよび通常存在する不純物。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
望ましくは、本発明の合金は、合金元素としてハフニウム、ジルコニウム、イットリウム、窒素、炭素、酸素のうちの1種以上を少量含有する。
【0015】
本発明の合金の組成は、特に含有量の低い合金元素については、種々変更が可能である。
【0016】
分散強化合金を用いることが可能であるために、構造部品の肉厚は接合領域でのみ増加させなくてはならない。従来の設計に比較して、自重が大幅に増加してはならないし、熱伝達が変わってはならない。
【0017】
接合部に負荷される荷重は式1により算出される。
【0018】
式(1) σ=F/A
σ=引張応力 (MPa)
F=力 (N)
A=断面積 (mm
仮に力Fによる接合部のクリープ破断基準σが例えば4MPa(1100℃×100000h)であり、分散強化合金の接合部の強度がσ=2MPaであるとすると、従来の設計による接合部では上記合金は用いることができない。
【0019】
これに対して、接合領域の肉厚拡大を採用すると、断面積Aを例えば係数2だけ拡大すると、力Fが同じであれば、クリープ破断基準は係数2だけ低下する。この場合、クリープ破断基準はσ=4MPaからσ=2MPaに低下し、一方または両方の部品が分散強化合金から成る接合部の強度は設計基準を満たすようになる。
【0020】
従来の設計による場合、式(1)から下記のようにσが求まる。
【0021】
F=F (N)
A=A (mm
式(1)→ σb=F/A
肉厚を拡大する場合、従来の設計に対してAが係数2だけ増加したとき、式(1)は下記のようになる。
【0022】
F=F (N)
A=2A (mm
式(1)→ σb=F/2A
接合対象とする構造部品の肉厚を望みどおりに拡大するには、鍛造、HIP、旋削などの複数の方法が可能である。上記合金を用いた構造部品の高温用途においては、多くの場合にチューブの長さが6mを超える。そのため、チューブを望みの形状および長さに接合または溶接する方法としては、鍛造が最も低コストである。
【0023】
接合部を肉厚拡大したチューブ形状は、チューブの外部でも内部でも操業プロセスにおける流れの性質に実質的に影響しない。実際上の理由から、肉厚拡大に伴って構造部品およびチューブが長手軸方法にそれぞれ30mm以上伸びる。断面の拡大量は少なくとも目標とする荷重低下量に対応した量とする。すなわち断面拡大量は上記の式に従って荷重に反比例する。
【0024】
本発明の方法は更に、分散強化合金および/またはステンレス鋼のような他の合金から成る1個以上の構造部品同士を接合できるという利点もある。
【0025】
本発明の方法は、鍛造した構造部品同士の接合にTIGのような従来の溶接法を利用できるという利点があり、これは構築および組み立て上、非常に重要である。
【0026】
本発明の方法で接合したチューブの可能な用途は、いわゆる分解炉用ラジアントチューブである。
【0027】
分解炉あるいはエチレン炉では、炭化水素が分解されてエチレンHC=HCになり、プラスチック製造用の素材として用いられる。
【0028】
分解炉内では、ラジアントチューブ内を炭化水素が流れ、チューブ内で炭化水素がエチレンに分解する。ラジアントチューブを周囲のバーナーで、分解が起きてエチレンが生成するのに十分高い温度、例えば1100℃に加熱し、このチューブ内に炭化水素を導入することにより分解が起きる。典型的には、チューブの温度は、ガス流入端で900℃、流出端で約1125℃、最高1200℃である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個が分散強化合金から成る1個以上の構造部品を接合する方法であって、上記接合前に、鍛造により接合部の断面が拡大されていることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1において、上記部品の少なくとも1個が下記組成(wt%):
C 0.08以下
Si 0.7以下
Cr 10〜25
Al 1〜10
Mo 1.5〜5
Mn 0.4以下
残部Feおよび通常存在する不純物
を有する分散強化合金から成ることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1および2に記載の方法により製造された構造部品であって、900℃より高温の高温用途用である構造部品。
【請求項4】
請求項1および2に記載の方法により製造された構造部品であって、分解炉用である構造部品。
【請求項5】
請求項1および2に記載の方法により製造された構造部品であって、接合部のクリープ破断基準σ=F1/A1が断面の拡大により増加している構造部品。

【公表番号】特表2007−535409(P2007−535409A)
【公表日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−510651(P2007−510651)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【国際出願番号】PCT/SE2005/000572
【国際公開番号】WO2005/105362
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(505277521)サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ (284)
【Fターム(参考)】