説明

分散性に優れた野菜パウダー及びその製造方法

【課題】喫食時に熱湯又は温水を加えた際、ままこ(ダマ)の発生が少なく分散性に優れ、且つ、風味良好な野菜パウダーの工業生産に有利な製造方法と、該方法によって得られる野菜パウダー、並びに、該野菜パウダーを用いた、分散性に優れた粉末又は顆粒状の即席食品を提供すること。
【解決手段】澱粉含有野菜ペーストに澱粉分解酵素を作用させ、該酵素が失活しない条件下において、該ペーストの粘度が一定になるまで酵素処理を行った後、該酵素が失活する温度まで昇温する工程、前記工程において得られたペースト40〜80重量部に対して、酵素未処理の澱粉含有野菜ペーストを20〜60重量部混合する工程、及び前記工程において得られた混合ペーストをドラムドライヤーにて乾燥し、粉末化する工程、を含む野菜パウダーの製造方法、及び前記方法により得られる野菜パウダー、該野菜パウダーを含有する即席食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムドライヤーを使用した野菜パウダーの製造方法、該製造方法によりえら得られる野菜パウダー、及び、該野菜パウダーを用いた、分散性に優れた粉末又は顆粒状の即席食品に関する。
【背景技術】
【0002】
澱粉含有野菜パウダーは、粉末状又は顆粒状の即席食品等に利用されている。特にインスタントスープやインスタントソース等の即席食品は、熱湯又は温水を加え攪拌するだけで喫食することができる利便性があることから、一般に広く利用されている。
しかしながら、これら粉末状又は顆粒状の即席食品は、熱湯又は温水を加えた後の攪拌が十分でないと、ままこ(ダマ)が多量に発生してしまうという問題がある。
そのため、ままこ(ダマ)の発生を抑えるために、デキストリンやラクトース等の分散剤や食用油脂を添加したり、顆粒化したりといった工夫がされてきたが、デキストリンやラクトース等の分散剤を過度に添加した場合、逆に溶解しにくくなり、食用油脂を添加した場合、食用油脂の添加量が増すほど製造時の油ダマ(凝集ダマ)の発生量が増加し、歩留りが悪くなるという問題があった。また、顆粒化の場合、分散性を向上させるために大きな顆粒を形成すると、逆に溶解性が悪化してしまうという問題があった(特許文献1)。
【0003】
コーンパウダーのままこ(ダマ)の発生を抑える方法として、澱粉を酵素によって分解する方法(特許文献2)が知られている。この方法は、コーンペーストをα−アミラーゼにより酵素処理するに際し、コーンペースト中の全含有澱粉100重量部に対し、α−アミラーゼを0.1ないし0.3重量部を用い、60ないし70℃にて10ないし30分間処理することで、分散性に優れたコーンパウダーを得る、というものである。
この方法では、行うべき酵素処理の度合いを、澱粉の分解率と分解生成物の平均分子量で規定している。即ち、この方法に定める条件でコーンペーストを酵素処理した場合、澱粉全体のうち10〜25重量%が分子量2,000〜20,000まで分解され、これにより、とうもろこし風味の良好で、且つ、熱水、又は温水を加えた際の分散性に優れたコーンパウダーが得られるというものである。
【0004】
しかし、前記の方法を工業的に行う場合、原料となる野菜の種類や、酵素処理の規模、使用する設備特性、処理工程の環境等に応じて酵素処理時間や酵素処理条件を規定し、酵素処理工程を慎重に管理する必要がある。即ち、例えば澱粉の分解を期待する度合いで停止させる為には、酵素を適当な時間作用させた後、該ペーストを酵素が失活する温度に達するまで加熱する、又は酵素反応がそれ以上起こらない温度に達するまで冷却する必要がある。この加熱、又は冷却に要する時間やその間の品温推移も考慮した酵素処理を行わなくてはならないが、これらは酵素処理の規模や、処理工程の環境等に大きな影響を受け、必ずしも一定とは限らない。
仮に、ペースト中の澱粉分解が不十分であった場合、分散性向上効果が得られないという問題が生じる。
【0005】
また、ペースト中の澱粉分解が進行し過ぎた場合、ドラムドライヤーを利用して該ペーストを乾燥する場合において、シート性が著しく低下し、工業生産性が大きく低下する結果を招く。
それゆえ、前記の方法にて分散性に優れた野菜パウダーを工業生産しようとする際、ドラムドライヤーを利用する場合は酵素処理過程において極めて慎重な工程管理が必要となる。
ドラムドライヤー乾燥時のシート性を向上させる為にペーストに乾燥助剤を配合した場合、得られた乾燥物の全重量部が野菜由来ではなくなる為、重量当たりの風味力価が低下してしまうことは言うまでもない。
また、こうして得られた野菜パウダーをインスタントスープ又はインスタントソース等の即席食品に利用する場合、良好な風味を得るのにより多くの該野菜パウダーが必要となり、かえって分散性が低下する結果を招き、本来の目的である分散性向上効果も得られないという問題が生じる。
また、ドラムドライヤーを利用する代わりに、フリーズドライヤーを利用して乾燥を行った場合、製造コストが嵩み工業生産において不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−304826号公報
【特許文献2】特開2002−153224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、分散性に優れ、且つ、風味良好な野菜パウダーの工業生産に有利な製造方法、該方法によって得られる野菜パウダー、及び、該野菜パウダーを含有する、熱湯又は温水への分散性に優れた粉末又は顆粒状の即席食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意検討を行った結果、澱粉含有野菜ペーストに澱粉分解酵素を十分に作用させた後、該酵素を失活させ、次いで酵素未処理の澱粉含有野菜ペーストを特定割合で混合し、次いでドラムドライヤーにて乾燥した後、粉末化することで、分散性に優れ、且つ本来の風味を保持した野菜パウダーが容易に得られことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、(1)澱粉含有野菜ペーストに澱粉分解酵素を作用させ、該酵素が失活しない条件下において、該ペーストの粘度が一定になるまで酵素処理を行った後、該酵素が失活する温度条件下まで昇温する工程、
(2)工程(1)において得られたペースト40〜80重量部に対して、酵素未処理の澱粉含有野菜ペーストを20〜60重量部混合する工程、及び
(3)工程(2)において得られた混合ペーストをドラムドライヤーにて乾燥し、粉末化する工程、
を含むことを特徴とする、野菜パウダーの製造方法を提供する。
本発明はまた、前記製造方法により得られる野菜パウダーを提供する。
本発明はまた、前記野菜パウダーを含有する、粉末又は顆粒状の即席食品を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、喫食時に熱湯又は温水を加えた際、ままこ(ダマ)の発生が少なく分散性に優れ、且つ本来の風味を保持した野菜パウダーを、慎重な酵素処理工程管理を行うことなく、ドラムドライヤーによる乾燥時のシート性を良好に保ち、高い工業生産性を得ることができる。本発明の即席食品も熱湯又は温水への分散性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
工程(1)
本発明における澱粉含有野菜ペーストとは、とうもろこしやかぼちゃ、じゃがいも等の澱粉を含有する野菜を、ミキサーやフードプロセッサーや裏ごし機等を用いて微粉砕化したものである。
【0012】
本発明で用いる澱粉分解酵素とは、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ等の澱粉分解能力を有する酵素であり、植物由来であるか、動物由来であるかを問わない。単独で使用しても2種以上を併用してもよい。澱粉分解酵素としてはα−アミラーゼが好ましい。
【0013】
本発明における酵素処理とは、前記野菜ペーストに、澱粉分解酵素を添加し、酵素が失活しない条件下で酵素反応を行い、反応の進行に伴い、前記ペーストの粘度が低下し、それ以上低下せず一定になるまで前記ペースト中の澱粉を分解する処理をいう。
酵素が失活しない範囲内であれば、反応温度やpHを適宜調整することができる。一般的な食品工業用のα−アミラーゼの場合、一般に、至適温度は50〜75℃であり、至適pHは4.0〜8.0である。酵素処理は、至適条件下で0.15〜3.0時間行うのがよい。
酵素処理中は、一定の温度条件下で反応が進行するように、常時攪拌するのが好ましい。撹拌速度は特に限定されず、2〜3rpm程度の低速でもよいし、7〜15rpm程度での高速でもよい。加温して酵素処理を行う場合、撹拌することにより焦げ付きを防止することもできる。効率的な澱粉分解に必要であれば、細胞破壊酵素等、その他の酵素を併用しても構わない。
【0014】
本発明における酵素処理では、野菜ペースト中の澱粉分解の程度を適度に抑える必要はなく、十分に進行させれば良い。したがって、酵素の添加量は、野菜ペースト中の澱粉が十分に分解されるのに必要な量以上であれば良い。一般に、澱粉分解酵素の添加量は、処理対象となる野菜ペーストに対して十分に少量であり、処理後の野菜ペースト中澱粉分解度が結果として等しいとき、酵素添加量の違いが品質へ及ぼす影響はほとんどない。一方で、酵素添加量を増やした場合、澱粉分解に要する時間はそれに応じて短縮される。したがって、本発明によれば、使用する酵素の価格と酵素処理工程の単位時間費用を比較し、前者が後者に対して相応に少額であれば、酵素を澱粉分解に必要な最小量より多く添加することで酵素処理時間を短縮し、コスト面の優位性を高めることが可能である。ペーストに含まれる澱粉量により異なるが、酵素の添加量は、通常、ペーストの固形分100重量部に対し、0.001重量部以上、好ましくは0.005〜0.02重量部である。
【0015】
酵素処理終了後、酵素が失活する温度まで昇温する。酵素として一般的な食品工業用のα−アミラーゼを用いた場合、一般に、85℃以上で1〜15分間保持することにより、該酵素を失活させることができる。酵素が失活したか否かは、ヨウ素−澱粉反応の呈色度を測定する方法等公知の方法により確認することができる。
【0016】
工程(2)
本工程において、酵素処理ペーストと酵素未処理ペーストとを所定割合で混合する。同種の野菜ペーストを用いることで、得られた野菜パウダーに原料野菜本来の風味を与えることができる。
酵素処理ペーストと酵素未処理ペーストとの混合割合は、酵素処理ペースト40〜80重量部に対して酵素未処理ペーストを20〜60重量部、好ましくは酵素処理ペースト70〜80重量部に対して酵素未処理ペーストを20〜30重量部である。両者の固形分量が同程度であるのが好ましい。合計が100重量部となる割合で両者を混合するのがよい。ドラムドライヤーを活用した工業生産を行う上では、良好なシート性を得るために酵素処理ペースト80重量部以下に対して酵素未処理ペースト20重量部以上となるように混合することが好ましい。分散性に優れたパウダーを得る為には、酵素処理ペースト40重量部以上に対し酵素未処理ペースト60重量部以下となるように混合することが好ましく、より好ましくは酵素処理ペースト70重量部以上に対し酵素未処理ペースト30重量部以下である。従って、上記範囲で混合することが、分散性と工業生産性の両面において好ましい。
【0017】
工程(3)
本工程において、工程(2)で得られた混合ペーストをドラムドライヤーで乾燥し、粉末化する。ドラムドライヤーには、ダブルドラム型、シングルドラム型、減圧(真空)型等があるが、ドラムドライヤーであれば種類は問わない。ドラムドライヤーの表面温度は、ドラムドライヤーの種類や型、野菜の種類などを考慮して当業者であれば適宜設定することができるが、例えば、パンプキンペーストを大気圧下で乾燥する場合、ドラムドライヤーの表面温度を120〜150℃程度に設定するのがよい。ドラム回転速度もまた、当業者であれば適宜決定することができる。例えば、表面温度を120〜150℃程度に設定したドラムドライヤーを用いてパンプキンペーストを大気圧下で乾燥する場合、1〜7rpm程度にするのがよい。
本発明における乾燥後の粉末化において、粉砕方法は問わない。例えば、整粒機を用いて粉砕することができる。
【0018】
このようにして得られる本発明の野菜パウダーは、分散性に優れ、熱湯や温水を注入してもままこ(ダマ)の発生が少ない。なお、本明細書において、ままこ(ダマ)とは、澱粉を含む粉末又は顆粒状の乾燥食品に熱湯や温水を注入した際、澱粉が水に触れた直後に表面で吸水し急激に膨潤して膜をつくる。これが水の粉体内部への侵入を防ぎ塊を形成する。この塊をままこ(ダマ)と定義する。
より優れた分散性を得る為には、粉末化後の野菜パウダーのメディアン径が150μm以上であることが好ましく、好ましくは200μm以上、より好ましくは450μm以上であって、好ましくは1,000μm以下、より好ましくは700μm以下である。
なお、本明細書において、野菜パウダーのメディアン径は、粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0019】
〔任意工程〕
工程(3)の前に、ドラムドライヤーに供する総野菜ペーストの固形分100重量部に対し好ましくは0.5重量部以上の疎水性乳化剤を混合すると、より分散性に優れた野菜パウダーを得ることができる。工程(3)の前であれば、工程(1)の途中、工程(1)の後、工程(2)の途中、工程(2)の後のいずれでもよい。工程(3)の終了後、即ち、野菜ペーストを乾燥し、野菜パウダーとした後に乳化剤を混合しても所期の効果は得られるが、使用量に見合う効果ではない。
本発明における疎水性乳化剤とは、グリフィンの式によるHLBが5以下である乳化剤である。疎水性の弱いHLBが5を超える乳化剤では求める効果を得ることは困難である。本発明で使用可能な乳化剤としては、グリフィンの式によるHLBが5以下であるグリセリン脂肪酸エステル(例えば、グリセリンステアリン酸エステル)、ポリグリセリン脂肪酸エステル(例えば、ポリグリセリンベヘン酸エステル)、ソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ソルビタンステアリン酸エステル)、ショ糖脂肪酸エステル(例えば、ショ糖ベヘン酸エステル)等があげられる。このうち、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルが好ましく、ポリグリセリンベヘン酸エステル、ショ糖ベヘン酸エステルがより好ましい。
前記乳化剤は、乾燥に供する総野菜ペーストの固形分100重量部に対し0.5重量部以上添加することが好ましく、2重量部以上3重量部以下の割合で添加することがより好ましい。乾燥に供する総野菜ペーストの固形分100重量部に対し3重量部より多く疎水性乳化剤を添加した場合、得られる野菜パウダーの品質を損なう場合があり、好ましくない。
【0020】
〔即席食品〕
本発明の製造方法により得られた野菜パウダーは、そのまま利用することができるし、油脂、調味料、澱粉を含有しない野菜のパウダー、チーズ粉末、比較的少量の澱粉含有野菜パウダー、塩、砂糖等と混合して、粉末又は顆粒状インスタントスープ又はインスタントソース等の即席食品とすることもできる。本発明の野菜パウダー以外の原料の一部又は全部を造粒したものに本発明の野菜パウダーを混合しても良いし、本発明の野菜パウダーとその他の原料とを全て混合した後に造粒して顆粒状スープ又はソース等の即席食品を調製しても良い。本発明の即席食品もまた分散性に優れる。
【実施例】
【0021】
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0022】
実施例1
パンプキンを裏ごし機で微粉砕することにより調製したパンプキンペースト(水分86.5%)を用いた。なお、ペースト中の水分は、常圧乾燥法により測定した。
ニーダーに該パンプキンペーストを投入し、ペースト温度が後述の酵素の至適温度である63〜68℃に達するまで加熱した。尚、加熱中は攪拌羽を使用し、焦げ付き防止の為常時攪拌を行った。また、攪拌の負荷を軽減する為、加熱開始前にペースト100重量部に対して水を7重量部投入し、ペーストの水分を87.4%として撹拌した。このときのペーストのpHは5.8であった(ガラス電極を用い、25℃で測定)。
ペーストの温度が酵素の至適温度に達した後、該ペースト100重量部に対し、澱粉分解酵素としてα−アミラーゼ(ノボザイム社製、BAN)を0.007重量部添加し、該至適温度にて30分間反応させた。反応時のパンプキンペースト粘度の推移を表1に示す。尚、粘度は、B型粘度計(株式会社東京計器)を使用し、60℃において測定した。
このように酵素反応させた後、ペースト温度が95℃に達するまで昇温せしめ、該温度にて10分間保持し、酵素を失活させ、酵素処理パンプキンペーストを得た。
該酵素処理パンプキンペースト80重量部に対し、酵素処理をおこなっていないパンプキンペースト20重量部を投入し、混合した。
このようにして得られた混合ペーストを、表面温度を135℃に設定したドラムドライヤーに投入し、ドラムを3rpmで回転させて大気圧下で乾燥し、乾燥パンプキンシートを得た後、これをクアドロコーミル(株式会社パウレック)により粉砕し、メディアン径200μm前後のパンプキンパウダー(本発明品1)を得た。なお、パンプキンパウダーのメディアン径は、レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−3000(株式会社島津製作所)により測定した。
ドラムドライヤーでの乾燥時におけるシートの様子(混合ペースト乾燥時のシート状態)を表2に示す。尚、比較対象として、酵素処理パンプキンペーストのみをドラムドライヤーに供した場合のシートの様子(酵素処理ペースト単独乾燥時のシート状態)及び、酵素未処理パンプキンペーストのみをドラムドライヤーに供した場合のシートの様子(酵素未処理ペースト単独乾燥時のシート状態)も同様に表2に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1の結果によると、酵素反応開始後、澱粉の消化進行に伴い、10分経過後には初期粘度の半分以下にまで低下し、20分後以降は一定で推移していることが確認できる。このことから、前記条件下にて30分間の保持により、十分に酵素処理が行えたことは明らかである。
【0025】
【表2】

【0026】
表2の結果によれば、本発明の定める方法にてα−アミラーゼにて酵素処理を行ったパンプキンペースト(酵素処理ペースト)と酵素未処理のペースト(酵素未処理ペースト)を混合したペーストを乾燥した場合に得られるシートの状態(表中左写真)は、酵素未処理ペースト単独で乾燥した場合のシート状態(表中右写真)に比べて若干薄いものの、一様なシート状態を保ちながら連続的に剥離されており、十分に工業生産が可能な状態にある。
一方、酵素処理ペースト単独で乾燥した場合のシート状態(表中中央写真)は劣悪であり、もはやシート状態とみなせない状態にある。即ち、カッターによるドラムからの剥離が連続的に起きず、シート状態となるべき乾燥物が収斂(しゅうれん)した状態で吐出されている。この為、該吐出物は、本来ドラムから剥離した後にシート状態となって落下する際に受ける乾燥効果が得られず、十分に乾燥されていない状態にある。また、このようにして得られた吐出物は、その水分の高さと収斂し固まった状態のために粉砕し難い。このような状態では、工業的に連続且つ大量生産する上の大きな支障があることは言うまでもない。
このことから、工業生産性を得る為には、酵素処理ペースト80重量部以下に対して酵素非処理ペースト20重量部以上となるように混合することが好ましいことは明らかである。
【0027】
実施例2
実施例1において、乾燥パンプキンシートの粉砕時に、メディアン径300μm前後となるように粉砕する以外は同様に行いパンプキンパウダー(本発明品2)を得た。
【0028】
実施例3
実施例1において、乾燥パンプキンシートの粉砕時に、メディアン径450μmとなるように粉砕する以外は同様に行いパンプキンパウダー(本発明品3)を得た。
【0029】
実施例4
実施例1において、ドラムドライヤーに供する前の総パンプキンペーストの固形分100重量部に対して2重量部のショ糖ベヘン酸エステル(HLB3)を投入し混合した後にドラムドライヤーに供した以外は、実施例1と同様に行いパンプキンパウダー(本発明品4)を得た。
【0030】
実施例5
実施例2において、ドラムドライヤーに供する前の総パンプキンペーストの固形分100重量部に対して2重量部のショ糖ベヘン酸エステル(HLB3)を投入し混合した後にドラムドライヤーに供した以外は、実施例2と同様に行いパンプキンパウダー(本発明品5)を得た。
【0031】
実施例6
実施例3において、ドラムドライヤーに供する前の総パンプキンペーストの固形分100重量部に対して2重量部のショ糖ベヘン酸エステル(HLB3)を投入し混合した後にドラムドライヤーに供した以外は、実施例3と同様に行いパンプキンパウダー(本発明品6)を得た。
【0032】
比較例1
実施例1において、α−アミラーゼを使用しなかった以外は、実施例1と同様にして行い、パンプキンパウダー(比較対象品1)を得た。
【0033】
比較例2
実施例2において、α−アミラーゼを使用しなかった以外は、実施例2と同様にして行い、パンプキンパウダー(比較対象品2)を得た。
【0034】
比較例3(比較対象品3)
実施例3において、α−アミラーゼを使用しなかった以外は、実施例3と同様にして行い、パンプキンパウダー(比較対象品3)を得た。
【0035】
比較例4
実施例4において、α−アミラーゼを使用しなかった以外は、実施例4と同様にして行い、パンプキンパウダー(比較対象品4)を得た。
【0036】
比較例5
実施例5において、α−アミラーゼを使用しなかった以外は、実施例5と同様にして行い、パンプキンパウダー(比較対象品5)を得た。
【0037】
比較例6
実施例6において、α−アミラーゼを使用しなかった以外は、実施例6と同様にして行い、パンプキンパウダー(比較対象品6)を得た。
【0038】
実施例1〜6によって得られた本発明品1〜6のそれぞれと、比較例1によって得られた比較対象品1について、以下のようにして官能評価を行った。官能評価結果の平均値を表3に示す。
官能評価は、上記のようにして得られたパンプキンパウダーを官能検査員4名にて、色の濃さ、香りの強さ、甘味の強さ、味・風味の強さ、全体の好ましさについて、下記の5段階の評価基準により行った。結果を表3に示す。
【0039】
[色の濃さ、香りの強さ、甘味の強さ、味・風味の強さについての評価基準]
1:大変弱い
2:弱い
3:普通
4:強い
5:大変強い
【0040】
[全体の好ましさについての評価基準]
1:大変好ましくない
2:好ましくない
3:普通
4:好ましい
5:大変好ましい
【0041】
【表3】

【0042】
表3の結果によれば、本発明の定める方法にて作製した本発明品1〜6は、いずれも比較対象品1に比べて同等乃至はそれ以上の官能評価結果を示している。
したがって、本発明品1〜6によれば、かぼちゃとして好ましい色や風味を損なうことのないパンプキンパウダーを調製できたことは明らかである。
【0043】
実施例A
(1)粉末パンプキンスープの調製
本発明品1、本発明品2、本発明品3、本発明品4、本発明品5、本発明品6、比較対象品1、比較対象品2、比較対象品3、比較対象品4、比較対象品5、比較対象品6をそれぞれを用い、それぞれのパンプキンパウダーに対して表4に示す配合表に従い各原料を混合し、粉末パンプキンスープを調製した。なお、表中の野菜パウダーは、本発明以外の方法で製造した。
【0044】
【表4】

【0045】
(2)分散性の評価
上記(1)で調製された粉末パンプキンスープぞれぞれについて、下記の方法にて分散性の評価を実施した。結果を表5に示す。
分散性の評価は、各粉末パンプキンスープ25gに熱湯150gを注ぎ入れ、スプーンで15秒間攪拌した後、目開き2360μmのメッシュにあけ、メッシュ上に残ったダマの重量(g)を測定することにより行った。したがって、この値が小さいほど、ままこ(ダマ)の発生量が少なく分散性が良いことを示している。本応用例に用いた粉末パンプキンスープでは、前記に方法にて測定した際、メッシュ上に残ったダマの重量が10g以下のとき分散性は良好と言える。
【0046】
【表5】

【0047】
表5の結果によれば、比較対象品1を用いて調製した粉末パンプキンスープに比べ、α−アミラーゼ処理を行った本発明品1を用いて調製した粉末パンプキンスープの方が分散性に優れていることが明らかである。
また、本発明品1を用いて調製した粉末パンプキンスープの分散性結果と、本発明品2又は3を用いて調製した粉末パンプキンスープの分散性結果を比べると、メディアン径を大きくするほど優れた分散性を得ることが判る。
一方、比較対象品1を用いて調製した粉末パンプキンスープの分散性結果と、比較対象品2又は3を用いて調製した粉末パンプキンスープの分散性結果を比べると、α−アミラーゼ処理を行わなかった場合でも、パンプキンパウダーのメディアン径を大きくするほど調製した粉末パンプキンスープの分散性が優れていることが判る。しかし、α−アミラーゼ処理を行っていない比較対象品1〜3をそれぞれ用いた粉末パンプキンスープの分散性はいずれもα−アミラーゼ処理を行った本発明品1を用いて調製した粉末パンプキンスープの分散性には及ばない。このことから、本発明に定める酵素処理が分散性向上に有効であることは明らかである。
【0048】
さらに、本発明品1〜3をそれぞれ用いて調製した粉末パンプキンスープの分散性結果と、本発明品4〜6をそれぞれ用いて調製した粉末パンプキンスープの分散性結果を比べると、ショ糖ベヘン酸エステルの添加によって分散性がさらに向上することが判る。
一方、比較対象品1〜3をそれぞれ用いて調製した粉末パンプキンスープの分散性結果と、比較対象品4〜6をそれぞれ用いて調製した粉末パンプキンスープの分散性結果を比べると、α−アミラーゼ処理を行わなかった場合でも、ショ糖ベヘン酸エステルの添加によって分散性が向上することが判る。しかし、α−アミラーゼ処理を行っていない比較対象品4〜6をそれぞれ用いた粉末パンプキンスープの分散性はいずれも、α−アミラーゼ処理とショ糖ベヘン酸エステル添加の両方を行った本発明品4〜6をそれぞれ用いて調製した粉末パンプキンスープの分散性には及ばない。それどころか、α−アミラーゼ処理を行いショ糖ベヘン酸エステル添加を行わなかった本発明品1〜3をそれぞれ用いて調製した粉末パンプキンスープの分散性にも及ばない。このことから、本発明に定める酵素処理が分散性向上に有効であることは明らかであり、さらに本発明に定めるとおり、酵素処理と疎水性乳化剤添加の組み合わせることが分散性に極めて有効であることは明らかである。
【0049】
実施例7
実施例6において、ドラムドライヤーにて乾燥する前に、酵素処理パンプキンペースト60重量部に対し、酵素未処理のパンプキンペースト40重量部を投入し混合した以外は実施例6と同様にして行い、パンプキンパウダー(本発明品7)を得た。
【0050】
実施例8
実施例6において、ドラムドライヤーにて乾燥する前に、酵素処理パンプキンペースト40重量部に対し、酵素未処理のパンプキンペースト60重量部を投入し混合した以外は実施例6と同様にして行い、パンプキンパウダー(本発明品8)を得た。
【0051】
比較例7
実施例6において、ドラムドライヤーにて乾燥する前に、酵素処理パンプキンペースト20重量部に対し、酵素未処理のパンプキンペースト80重量部を投入し混合した以外は実施例6と同様にして行い、パンプキンパウダー(比較対象品7)を得た。
【0052】
実施例7又は8によって得られた本発明品7又は8のそれぞれについて、前記と同様に官能評価を行った。官能評価結果の平均値を表6に示す。
【0053】
【表6】

【0054】
表6の結果によれば、本発明の定める方法にて作製した本発明品7及び8は、いずれも上記表2に記載の比較対象品1に比べて同等乃至はそれ以上の官能評価結果を示している。
したがって、本発明品7及び8によれば、かぼちゃとして好ましい色や風味を損なうことのないパンプキンパウダーを調製できたことは明らかである。
【0055】
実施例B
(1)粉末パンプキンスープの調製
本発明品7、本発明品8、比較対象品7をそれぞれ用い、実施例Aの(1)と同様の方法にて、粉末パンプキンスープを調製した。
【0056】
(2)分散性の評価
上記(1)で調製された粉末パンプキンスープぞれぞれについて、実施例Aの(2)と同様の方法にて分散性の評価を実施した。結果を表7に示す。
また、表7には、実施例Aにて示した本発明品6、比較対象品6をそれぞれ用いて調製した粉末パンプキンスープの分散性結果も併せて示す。
【0057】
【表7】

【0058】
表7の結果によると、比較対象品7を用いて調製した粉末パンプキンスープの分散性は、α−アミラーゼ処理を行っていないペーストのみを乾燥して得た比較対象品6を用いて調製した粉末パンプキンスープの分散性と比べても優れているとは言い難い。したがって、ドラムドライヤーにて乾燥する前のペースト混合過程において、α−アミラーゼによる酵素処理を行ったパンプキンペースト20重量部に対し、酵素処理を行わなかったパンプキンペースト80重量部を投入し混合したのでは、酵素処理の効果をさほど得られないことが判る。
しかし、本生産品6〜8をそれぞれ用いて調製した粉末パンプキンスープはいずれも、比較対象品6を用いて調製した粉末パンプキンスープに比べ分散性に優れており、酵素処理ペーストの混合比が高く酵素未処理ペーストの混合比が低いほど、得られるパンプキンパウダーを用いて調製した粉末パンプキンスープの分散性が優れている傾向にあることが判る。
このことから、分散性に優れたパウダーを得る為には、酵素処理ペースト40重量部以上に対し酵素未処理ペースト60重量部以下となるように混合することが好ましく、酵素処理ペーストの混合比が高い方が分散性においてより好ましいことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明により得られる野菜パウダーは、粉末又は顆粒状のインスタントスープ又はインスタントソースの製造用原料として、食品工業分野において極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)澱粉含有野菜ペーストに澱粉分解酵素を作用させ、該酵素が失活しない条件下において、該ペーストの粘度が一定になるまで酵素処理を行った後、該酵素が失活する温度まで昇温する工程、
(2)工程(1)において得られたペースト40〜80重量部に対して、酵素未処理の澱粉含有野菜ペーストを20〜60重量部混合する工程、及び
(3)工程(2)において得られた混合ペーストをドラムドライヤーにて乾燥し、粉末化する工程、
を含むことを特徴とする、野菜パウダーの製造方法。
【請求項2】
酵素処理を、50〜75℃、pH4.0〜8.0において0.15〜3.0時間行うことを特徴とする請求項1記載の野菜パウダーの製造方法。
【請求項3】
工程(1)において得られたペースト70〜80重量部に対して、酵素未処理の澱粉含有野菜ペーストを20〜30重量部混合することを特徴とする請求項1又は2記載の野菜パウダーの製造方法。
【請求項4】
工程(3)の前に、総野菜ペーストの固形分100重量部に対して0.5重量部以上のグリフィンの式によるHLBが5以下である乳化剤を添加する工程を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
前記乳化剤が、グリフィンの式によるHLBが5以下であるグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルからなる群から選ばれる請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
得られる野菜パウダーのメディアン径が、150μm以上であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法により得られる野菜パウダー。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の野菜パウダーを含有する、粉末又は顆粒状の即席食品。

【公開番号】特開2011−103807(P2011−103807A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261979(P2009−261979)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】