説明

分散性色材とその製造方法、該分散性色材を用いた水性インク、インクタンク、インクジェット記録装置、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録画像

【課題】色材表面が高い官能基密度で充分に水系媒体中に分散安定化され、その表面に樹脂成分が存在し、且つ樹脂成分の色材からの脱離がない分散性色材及びその簡便な製造方法の提供、更に、この優れた分散性色材を用いることで、高い濃度の滲みのない高品位な画像が得られ、インクの定着性が高く、耐擦過性及び耐マーカー性に優れる画像が得られ、しかも分散安定性、吐出安定性に優れる水性インクジェット記録用インク、インクジェット記録方法の提供。
【解決手段】色材と、該色材より小さい扁平状荷電性樹脂擬似微粒子とを有する分散性色材であって、上記色材と上記扁平状荷電性樹脂擬似微粒子とが融着していることを特徴とする分散性色材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散性色材とその製造方法に関し、更には、該分散性色材を用いた水性インクジェット記録用インク、インクジェット記録装置、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録画像に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、インクジェット記録装置に用いられるインクジェット記録用インクに要求される性能としては、(1)紙上で、滲みやかぶりのない、高解像度、高濃度で均一な画像が得られること、(2)ノズル先端でのインクの乾燥による目詰まりが発生せず、常に吐出応答性、吐出安定性が良好であること、(3)紙上においてインクの定着性がよいこと、(4)得られる画像の堅牢性(即ち、耐擦過性や耐マーカー性等)がよいこと、(5)長期保存安定性がよいこと、等が挙げられる。特に、近年における印字速度の高速化に伴って、コピー用紙等の普通紙に印字しても、インクの乾燥及び定着が速く、且つ高画質な印字が得られるインクが要求されている。
【0003】
かかる要求に対して、より高い画像の耐候性、耐水性を実現できる水性インクジェット記録用インクの色材として、本質的に水に不溶な色材、特に顔料を用いたインクの開発が精力的に進められている。
【0004】
例えば、カーボンブラックの表面に親水基を直接若しくは他の原子団を介して結合させた自己分散型カーボンブラックを色材として用いた水性顔料インクが開示されている(特許文献1参照)。しかし、このような表面化学修飾型顔料は、自己分散型顔料と呼ばれ、水溶性樹脂等を必要としないために良好なインクジェット吐出安定性を示すが、本発明者らの検討によれば、樹脂を含まないために色材の記録紙への接着力が弱く、特に高い印字濃度において記録紙上での耐擦過性、耐マーカー性に劣るという問題があった。一方、顔料を樹脂で被覆するマイクロカプセル型顔料の開発が進められてきている(例えば、特許文献2参照)。しかし、この場合も、充分な分散安定性を得るためには被覆している樹脂の親水性を高める必要があり、それによって樹脂が顔料表面から脱離しやすくなり、保存安定性と分散安定性との兼ね合いが難しいことが、本発明者らの検討により明らかになっている。
【0005】
一方、顔料表面からの樹脂の脱離を防ぐために、疎水性の高い樹脂にて色材を修飾する手法の例としては、水系析出重合を用いる手法が検討されている。特許文献3では、「水不溶性着色剤を含有する水系着色微粒子分散物において、該着色微粒子分散物が水不溶性着色剤を分散剤の存在下で水系媒体中に分散させた後にビニルモノマーを添加して重合したものであり、該分散剤が水不溶性着色剤を分散した場合には分散安定性を示し、且つ、該分散剤のみの存在下で該ビニルモノマーを重合した場合には生じるラテックスの安定性が乏しいことを特徴とする水系着色微粒子分散物」が開示されており、「水不溶性着色剤分散物に乳化重合した場合に、ビニルモノマーや生じたポリマーに対する分散剤の親和性がそれほど高くないために、顔料表面からの分散剤の脱着が起こりにくく、分散剤が吸着した顔料表面で重合が進行したため」「顔料表面が被覆された微粒子分散物を凝集することなく、高い収率で得られる」としており、該着色微粒子分散物を用いることで、分散安定性、印字適性に優れ、紙種依存性がなく、金属光沢が少なく、耐水性、耐光性、耐擦過性に優れたインクジェット記録用インクを得たとしている。
【0006】
【特許文献1】特開平10−195360号公報
【特許文献2】特開平8−183920号公報
【特許文献3】特開2003−34770公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献3について本発明者らが追検討したところ、特に普通紙において充分な印字濃度を得られず、光沢紙と普通紙での印字濃度において明らかな差異がみられた。これは、特許文献3において「顔料表面からの分散剤の脱着が起こりにくく、分散剤が吸着した顔料表面で重合が進行したため」に、得られる水系着色微粒子分散物の表面には分散剤が吸着しており、特に普通紙上で分散剤が浸透剤としてはたらくためと考えられる。そこで、本発明者らは、分散剤を精製し除去することでこれを回避しようとしたが、分散安定性の著しい低下がみられ、目的が達成されなかった。これは、「分散剤でビニルモノマーのみを重合した場合には、生じるラテックスの安定性が乏しい」条件を満たす分散剤を用いて「顔料表面が被覆された微粒子分散物」を作製しているため、被覆しているポリマーが顔料を分散安定化できないことによると考えられる。
【0008】
従って、充分に分散安定性が高く、長期的に保存安定性に優れ、記録媒体上では接着性に優れ、且つ得られる記録物の画像濃度が充分に高くなるような水性インクを得るためには、色材表面が高い官能基密度で充分に分散安定化され、その表面に樹脂成分が存在し、且つ樹脂成分の色材からの脱離がない水不溶性色材が必要であると考えられるが、そのような色材はいまだ知られていない。
【0009】
本発明の目的は、これら従来技術の課題を解決し、色材表面が高い官能基密度で充分に水系媒体中に分散安定化され、その表面に樹脂成分が存在し、且つ樹脂成分の色材からの脱離がない分散性色材及びその簡便な製造方法を提供することにある。更に、本発明の別の目的は、かかる優れた分散性色材を用いることで、特にインクの定着性が高く、耐擦過性に優れる画像が得られる、水性インクジェット記録用インク、インクタンク、インクジェット記録装置、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録画像を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、上記の課題を解決する手段として、本質的に界面活性剤や高分子分散剤を必要とせずに高い分散安定性を保つことができ、且つ記録紙に対して充分な接着性や造膜性を有する新規な分散性色材を見いだし、該分散性色材を用いることで、インクジェット記録用途として十分な吐出安定性や分散安定性を有し、更に高い画像品位及び優れた堅牢性をもつ印字物を与える水性インクジェット記録用インクが得られることを知見して本発明に至った。
【0011】
即ち、本発明は、色材と、該色材よりも小さい扁平状荷電性樹脂擬似微粒子とを有してなる分散性色材であって、上記色材と上記扁平状荷電性樹脂擬似微粒子とが融着していることを特徴とする分散性色材である。
【0012】
又、本発明は、上記分散性色材を得るための製造方法であって、水不溶性色材の分散水溶液中にて、アニオン性或いは両性水性ラジカル重合開始剤を用いてラジカル重合性モノマーを水系析出重合することによって、前記色材と前記扁平状荷電性樹脂擬似微粒子とを融着させる工程を有することを特徴とする分散性色材の製造方法である。
【0013】
又、本発明は、上記分散性色材を得るための製造方法であって、水不溶性色材の分散水溶液中にて、カチオン性或いは両性水性ラジカル重合開始剤を用いてラジカル重合性モノマーを水系析出重合することによって、前記色材と前記扁平状荷電性樹脂擬似微粒子とを融着させる工程を有することを特徴とする分散性色材の製造方法である。
【0014】
又、本発明は、上記分散性色材を含んでなることを特徴とする水性インクである。
【0015】
又、本発明は、上記水性インクを含んでなることを特徴とするインクタンクである。
【0016】
又、本発明は、上記水性インクを用いて、インクジェット記録画像を形成することを特徴とするインクジェット記録装置である。
【0017】
又、本発明は、上記水性インクを用いて、インクジェット記録装置により画像を形成することを特徴とするインクジェット記録方法である。
【0018】
又、本発明は、上記水性インクを用いて、インクジェット記録装置により形成されることを特徴とするインクジェット記録画像である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、色材表面が高い官能基密度で充分に分散安定化され、その表面に樹脂成分が存在し、且つ該樹脂成分の色材からの脱離がない分散性色材及びその簡便な製造方法が提供される。又、本発明によれば、かかる優れた分散性色材を用いることで、インクジェット記録用途として優れた定着性を有する水性インク、該インクを利用したインクタンク、インクジェット記録装置、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録画像が提供される。
【0020】
又、本発明の別の効果として、記録媒体上での速乾性及び耐擦過性に優れたインクが提供される。又、本発明の別の効果として、光沢性記録媒体上での光沢性に優れた画像を与える水性インク、及び光沢性記録媒体上での耐ひっかき性に優れた画像を与える水性インクがそれぞれ提供される。本発明の別の効果として、長期保存安定性に優れた水性インクが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の最良と思われる実施の形態を挙げて、本発明を具体的に説明する。先ず、本発明で用いる「分散性色材」の意味するところは、本質的に界面活性剤や高分子分散剤を添加することなく水又は水性インク媒体中に分散可能であること、即ち、自己分散性を有する色材を意味している。
【0022】
本発明の第一の特徴は、色材と、該色材よりも小さい扁平状荷電性樹脂擬似微粒子とからなる分散性色材であって、色材が、扁平状荷電性樹脂擬似微粒子を融着している点にある。図1に、本発明にかかる分散性色材の模式図を示した。図中の1は色材であり、2は扁平状荷電性樹脂擬似微粒子であるが、色材1の表面に扁平状荷電性樹脂擬似微粒子2が融着している状態を模式的に示している。本発明にかかる分散性色材は、このように、色材が扁平状荷電性樹脂擬似微粒子を融着することで、色材表面に該微粒子による電荷が付与され、この結果、分散性色材は、水又は水性インク媒体へ分散可能なものとなる。又、同時に、本発明にかかる分散性色材は、色材表面に融着している微粒子を構成している樹脂成分の存在によって、記録媒体へ付与された場合に、優れた接着性を示す。このとき、樹脂成分の単純な物理吸着ではなく、本発明の分散性色材を特徴づける、扁平状荷電性樹脂擬似微粒子と色材とが融着している状態とすると、扁平状荷電性樹脂擬似微粒子が色材表面から脱離することがないため、本発明の分散性色材は、例えば、インクのような分散体溶液とした場合において優れた長期保存安定性を示す。
【0023】
ここで、本発明における扁平状荷電性樹脂擬似微粒子とは、樹脂成分が強く凝集状態にある樹脂集合体であり、好ましくはその内部に物理的架橋を多く形成しており、更に、該樹脂集合体は、扁平な球状形態或いはそれに近い形状の微小凝集体として安定な形態を有しているものである。この扁平状荷電性樹脂擬似微粒子についての詳細は後述する。
【0024】
本発明でいう色材表面と扁平状荷電性樹脂擬似微粒子との融着状態では、色材表面と扁平状荷電性樹脂擬似微粒子との強い相互作用によりなっており、更に、該微粒子の形状が扁平状であるので、該粒子比表面積の約25%以上、好ましくは35%以上が色材と接することになる。そして、このような融着状態は、次のような状態となることで達成されているものと考えられる。尚、本発明における「融着」とは、上記のように色材と荷電性樹脂擬似微粒子が十分に、且つ強固に接していることを表し、色材と荷電性擬似微粒子とが界面で溶け合っている必要はない。
【0025】
図4に、扁平状荷電性樹脂擬似微粒子の色材との界面を拡大した模式図を示した。先ず、色材1との界面において、扁平状荷電性樹脂擬似微粒子2は、様々なモノマーユニット組成で構成されるポリマーが絡み合って形成されている(図中9−1及び9−2で示した)。このとき、ポリマーは局所的に様々な構造をとっており、その表面エネルギー状態には分布が生じている。色材の、化学構造及び表面構造から生じる表面エネルギーと、ポリマーの化学構造及び表面構造から生じる表面エネルギーとが、局所的によく一致する点において、2つの界面は強固に結合することとなる。更に、一つの扁平状荷電性樹脂擬似微粒子が色材と接する界面において、図4の10に示されるような、表面エネルギーが局所的に一致する点は複数あり、この複数個所の強固な相互作用によって、本発明における融着状態は成り立っていると予想される。
【0026】
特に、扁平状荷電性樹脂擬似微粒子2の内部は、構成するポリマー間に強い相互作用が働いており、場合によっては、構成するポリマーは互いに絡まりあって物理架橋を形成しているため、扁平状荷電性樹脂擬似微粒子が多くの親水性基を有する場合であっても、融着した扁平状荷電性樹脂擬似微粒子が色材から脱離したり、扁平状荷電性樹脂擬似微粒子から親水性基を有する樹脂成分が溶出し続けたりすることがない。これに対し、特許文献2に記載されている、色材を樹脂を用いてカプセル化する方法においては、例えば、親水性の高い樹脂は色材と強く結合できないために樹脂が色材から脱離し易く、結果として、カプセル化することで達成されていた長期保存安定性が充分に得られなくなる場合がある。
【0027】
又、本発明の分散性色材において、色材と扁平状荷電性樹脂擬似微粒子とが融着していることによるメリットとして、該微粒子の扁平な球状形態によって分散性色材としての比表面積を増大でき、その多くの部分に該扁平状荷電性樹脂擬似微粒子が表面に有する電荷を分布させることができる点が挙げられる。このように、分散性色材が高い比表面積を有することによって、扁平状荷電性樹脂擬似微粒子の有する電荷を極めて高い効率で分散性色材の表面電荷とすることができる。即ち、本発明にかかる分散性色材の形態は、より多くの表面電荷を、より効率的に分散性色材の表面に配する形態であり(図4参照)、特許文献2に代表されるような色材を樹脂で被覆してカプセル化する形態に比して、樹脂成分の実質酸価又はアミン価がより小さい場合においても、高い分散安定性を付与できる。
【0028】
更に、色材が有機顔料である場合において、特許文献1記載の技術のように、親水性基による直接化学修飾を行うと、本来水に不溶となって結晶化している顔料分子が、親水基12の結合によって水溶化されて顔料粒子1から溶け出す、いわゆる「顔料剥離」が起こり、色調が著しく変化するという問題が生じる(図6(a)、(b)参照)。これに対し、本発明にかかる、色材を有機顔料とした分散性色材の場合は、前述したように、色材と融着した状態において扁平状荷電性樹脂擬似微粒子の複数の相互作用点がランダムに分布しているために、扁平状荷電性樹脂擬似微粒子11は、顔料結晶中のいくつかの顔料分子にまたがって融着する(図5参照)。従って、従来の技術で生じていた局所的に顔料分子が親水化されることによる「顔料剥離」は、本発明においては起こることはない。本発明において、有機顔料を色材として用いる場合においては、扁平状荷電性樹脂擬似微粒子の大きさを、顔料粒子よりは小さく、且つ顔料分子よりは大きい範囲に制御することによって、顔料の結晶構造を壊さずに、高い分散性を付与した有機顔料の分散性色材を得ることができる。
【0029】
本発明における、色材が扁平状荷電性樹脂擬似微粒子を「融着」している状態の分散性色材であることは、簡易的には次のような三段階の分離を伴う手法で確認することができる。先ず、第一の分離にて、確認する色材と、インク又は水分散体中に含まれるその他の水溶性成分(水溶性樹脂成分も含む)とを分離し、次に、第二の分離にて、第一の分離における沈殿物中に含まれる色材と水不溶性樹脂成分とを分離する。更に、第三の分離にて、弱く吸着されている樹脂成分と、扁平状荷電性樹脂擬似微粒子を融着している分散性色材とを分離し、第三の分離の上澄みに含まれる樹脂成分の定量及び第二の分離の沈殿物と第三の分離の沈殿物との比較を行うことによって、色材と扁平状荷電性樹脂擬似微粒子との融着を確認する。
【0030】
具体的には、例えば、次のような条件で確認できる。色材が分散しているインク又は水分散体20gをとり、全固形分質量が約10%程度となるように調整し、遠心分離装置にて、12,000回転、60分の条件で第一の分離を行う。分離したうちの、色材を含んでいる下層の沈降物を、該沈降物のほぼ3倍量の純水に再分散し、続いて、80,000回転、90分の条件にて第二の分離を行う。色材を含んでいる下層の沈降物を3倍量の純水に再分散したものを、再び80,000回転、90分の条件にて第三の分離を行い、色材を含んでいる下層の沈降物を3倍量の純水に再分散する。第二の分離における沈降物と、第三の分離における沈降物をそれぞれ固形分が0.5g程度となるようにとり、30℃、18時間にて減圧乾燥させたものを、走査型電子顕微鏡にて5万倍で観察する。観察された分散性色材が、その表面に微粒子様物質又はそれに準ずる微小集合体を複数付着している様子が確認され、且つ第二の分離と第三の分離からのそれぞれの沈降物が同様の形態を有していれば、この色材は、樹脂擬似微粒子を融着していると判断される。更に、第三の分離における上層の上澄み分を上から静かに体積で半分程度となるようにとり、60℃、8時間にて乾燥させた前後の質量変化から固形分率質量固形分重量を算出し、固形分重量が1%未満であれば、分散性色材から樹脂擬似微粒子の脱離がなく、当該分散性色材は、樹脂擬似微粒子を融着していると判断できる。
【0031】
上記した分離条件は好ましい例であり、その他のどのような分離方法又は分離条件にあっても、上述した第一の分離及び第二、第三の分離の目的を達する手法であれば、本発明にかかる分散性色材の判定方法として適用することができる。即ち、第一の分離においては、インク及び水分散体中に含まれる色材及びそれに吸着している樹脂成分と、水溶性成分とを分離することが目的であり、第二の分離においては、色材及び色材に融着している樹脂成分と、色材に吸着しているその他の樹脂成分とを分離することが目的である。更に、第三の分離は、色材に融着している樹脂成分が脱離しないものであることを確認することが目的である。勿論、第一、第二及び第三の分離のそれぞれの目的を達する分離手法であれば、その他公知或いは新しく開発されるどのような分離手法でもよく、その手順も三段階より多くても、又、少なくても適用できる。
【0032】
本発明にかかる分散性色材の第二の特徴は、上記で説明したように、色材1が扁平状荷電性樹脂擬似微粒子2を融着した状態で、単独で水性媒体中に分散し得る分散性を有するものである点にある。前述したように、本発明にかかる分散性色材は、本質的には他の界面活性剤や高分子分散剤等の助けがなくとも、安定に水や水性インク中に分散できる、自己分散型の色材である。この定義及び判定方法については後に詳細に述べる。従って、本発明にかかる分散性色材は、長期的に脱離する可能性がある高分子分散剤やその他の樹脂成分、或いは界面活性剤成分を、色材の分散安定化を目的として添加する必要がない。その結果、かかる分散性色材を水性インクとして用いた場合には、分散性色材以外の成分に関する設計の自由度が大きくなり、例えば、普通紙のようなインクの浸透性が高い記録媒体上においても充分に高い印字濃度が得られる水性インクとすることができる。
【0033】
本発明にかかる分散性色材の自己分散性については、例えば、次のような方法によって確認できる。先ず、色材が分散しているインク又は水分散体を純水で10倍に希釈し、分画分子量50,000の限外ろ過フィルターを用いて元の濃度になるまで濃縮する。この濃縮液を遠心分離装置にて、12,000回転、2時間の条件で分離し、沈降物を取り出して純水に再分散させる。このとき、沈降物が良好に再分散し得るものが、自己分散性を有すると判断される。良好に再分散しているかどうかは、目で見て均一に分散していること、1〜2時間静置している間に目立った沈降物が発生しないか、あっても軽く震蕩すれば元に戻ること、動的光散乱法にて分散粒径を測定した際に、平均粒径が操作前の粒径の2倍以内であること、等から総合的に判断できる。
【0034】
前述したように、本発明にかかる分散性色材は、色材が扁平状荷電性樹脂擬似微粒子を融着することによって高い比表面積を有する形態をとり、その広大な表面に多くの電荷を有することで、例えば、インクのような分散体溶液とした場合に優れた分散安定性(保存安定性)を実現する。従って、扁平状荷電性樹脂擬似微粒子は、色材に対して多数、且つ点在して融着していることにより、更に好ましい結果が得られるものとなる。特に、色材に融着している扁平状荷電性樹脂擬似微粒子間に一定の距離があり、好ましくは均一に分布し、更に好ましくは、色材の表面が一部露出した状態であることが望ましい。このような状態は、本発明にかかる分散性色材を有するインクを、透過型電子顕微鏡或いは走査型電子顕微鏡で観察することにより、確認できる。即ち、色材表面に融着している扁平状荷電性樹脂擬似微粒子が、一定の距離をおいて複数融着しているか、或いは融着している扁平状荷電性樹脂擬似微粒子間に、色材表面が露出している状態が観察できる。
【0035】
本発明者らの検討によれば、上記で説明したような分散性色材を含む本発明にかかる水性インクは、記録媒体上で優れた速乾性を示すことが明らかとなった。この理由は定かではないが、次のようなメカニズムに基づくと考えられる。前記分散性色材は上述したように、色材表面に扁平状荷電性樹脂擬似微粒子を融着した形態にてインク中に分散している。このインクが記録媒体上に到達したとき、インク中の水性溶媒(以下、インク溶媒)は毛細管現象により記録媒体上の細孔(普通紙の場合はセルロース繊維間の空隙であり、コート紙や光沢紙の場合は受容層の細孔である)へ吸収される。このとき、本発明にかかる分散性色材は、その形態的特徴から、色材同士が接した部分に扁平状荷電性樹脂擬似微粒子が点在するために細かい隙間が多く形成され、色材間に存在するインク溶媒に毛細管現象が働く。このため、色材間のインク溶媒は速やかに記録媒体中に吸収される。本発明にかかる分散性色材のうち、扁平状荷電性樹脂擬似微粒子が表面に点在した形態であるものがより好ましい速乾性を示す水性インクを与えることからも、上述したメカニズムによって速乾性が達成されていることが予想される。
【0036】
本発明にかかる分散性色材は、表面官能基密度が、250μmol/g以上1,000μmol/g未満であることが好ましく、更には、290μmol/g以上900μmol/g未満であることが好ましい。この範囲よりも小さな表面官能基密度を有する場合には、分散性色材の長期保存安定性が悪くなることがある。又、この範囲よりもかなり大きな表面官能基密度を有する場合には、分散安定性が高くなり過ぎて、記録媒体上に付与された場合に分散性色材が浸透しやすくなるので、画像を形成した場合に、高い印字濃度を確保することが難しくなる場合がある。一方、色材としてカーボンブラックを用いる場合においては、カーボンブラックの比重が高く、分散安定性を高める必要があることと、インクとした場合に、特に記録媒体上での黒濃度は高いものが好まれることから、この場合には、350μmol/g以上800μmol/g未満になるように設定されることが更に好ましい。
【0037】
特に、分散性色材の表面電荷がアニオン性である場合には、本発明における表面官能基密度は、例えば、次のようにして求められる。測定対象である分散性色材を含む水分散体、又はインクに、大過剰量の塩酸水溶液を加え、遠心分離装置にて20,000rpm、1時間の条件で沈降させる。沈降物を回収し、純水に再分散させた後、乾燥法にて固形分率を測定する。再分散させた沈降物を秤量し、既知量の炭酸水素ナトリウムを加えて撹拌した分散液を、更に遠心分離装置にて80,000rpm、2時間の条件にて沈降させる。上澄みを秤量し、0.1規定塩酸にて中和滴定によって求めた中和量から、炭酸水素ナトリウムの既知量を差し引くことで、顔料1g当たりのmol数として求められる。分散性色材が極性基としてカチオン性基を有する場合には、上記と同様の手法にて、塩酸の代わりに水酸化ナトリウムを用い、炭酸水素ナトリウムの代わりに塩化アンモニウムを用いることで、求めることができる。
【0038】
[色材]
本発明にかかる分散性色材の構成成分である色材について以下に説明する。本発明で用いることのできる色材としては、従来公知のもの或いは新規に開発されたもの等、どのような色材でも用いることができるが、好ましくは、疎水性染料、無機顔料、有機顔料、金属コロイド、着色樹脂粒子等、水に不溶な色材で、分散剤とともに水中にて安定に分散できるものが望ましい。又、好ましくは、分散粒径が0.01〜0.5μm(10〜500nm)の範囲、特に好ましくは0.03〜0.3μm(30〜300nm)の範囲となる色材を使用する。この範囲に分散された色材を用いて得られた本発明の分散性色材は、高い着色力と高い耐候性を有する分散性色材となるため、特に水性インクの色材として好適に利用できる。尚、かかる分散粒径は、動的光錯乱法によって測定された粒径のキュムラント平均値とする。
【0039】
本発明において有効に用いることのできる無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、亜鉛華、酸化亜鉛、トリポン、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、クロムバーミリオン、モリブデートオレンジ、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ピリジアン、コバルトグリーン、チタンコバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、群青、ウルトラマリンブルー、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、マイカ等が挙げられる。
【0040】
本発明において有効に用いることのできる有機顔料としては、例えば、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンツイミダゾロン系、イソインドリン系、イソインドリノン系等の各種顔料が挙げられる。
【0041】
その他、本発明で用いることのできる有機性の不溶性色材としては、例えば、アゾ系、アントラキノン系、インジゴ系、フタロシアニン系、カルボニル系、キノンイミン系、メチン系、キノリン系、ニトロ系等の疎水性染料が挙げられる。これらの中でも分散染料が特に好ましい。
【0042】
[扁平状荷電性樹脂擬似微粒子]
本発明の分散性色材のもう一つの構成成分である扁平状荷電性樹脂擬似微粒子(以下、荷電性樹脂擬似微粒子という)は、水に対し実質的に不溶であり、融着する対象である色材よりは小さく、充分に重合度の高い樹脂成分が集合してなる微小体と定義され、その形態としては、擬似的に扁平な球状のものである。該荷電性樹脂擬似微粒子を構成する樹脂成分は、互いに物理的に又は化学的に架橋されていることが望ましい。荷電性樹脂擬似微粒子を構成する樹脂成分が互いに架橋されているかどうかについては、例えば、以下のような手法にて確かめることができる。荷電性樹脂擬似微粒子を構成する樹脂成分をあらかじめ公知の分析方法にて推定し、同じ化学構造となる(又は同じモノマーユニット組成となる)直鎖型ポリマーを溶液重合にて合成し、そのポリマーに対して良溶媒である有機溶媒に前記荷電性樹脂擬似微粒子及びポリマーをそれぞれ浸漬させて、その溶解性を比較したとき、荷電性樹脂擬似微粒子の溶解性が、ポリマーの溶解性より低い場合に、荷電性樹脂擬似微粒子の内部が架橋されていることが確かめられる。
【0043】
又、別の好ましい様態としては、荷電性樹脂擬似微粒子の水中での分散粒径が、例えば、動的光散乱法にて測定可能な場合においては、好ましくはその分散粒径の中心値が10〜200nmの範囲にあることが望ましい。更に、分散性色材の長期保存安定性の観点から、分散粒径の多分散度指数が0.2未満に抑えられることが更に好ましい。分散粒径の中心値が200nmより大きい場合又は多分散度指数が0.2より大きい場合には、色材を微細に分散安定化するという本来の目的が充分達成されない場合がある。又、分散粒径の中心値が10nmより小さい場合には、荷電性樹脂擬似微粒子としての形態を充分に維持できず、樹脂が水に溶解しやすくなるために、本発明のメリットが得られない場合がある。一方、10〜200nmの範囲にて、更にその粒径が色材粒子そのものよりも小さいことによって、本発明における、荷電性樹脂擬似微粒子の融着による色材の分散安定化が効果的に発現される。上記の好ましい様態は、荷電性樹脂擬似微粒子の分散粒径が測定不可能な場合においても同様であり、その場合は、例えば、電子顕微鏡観察における荷電性樹脂擬似微粒子の平均径が、上記した好ましい範囲か又はそれに準ずる範囲と考えられる。
【0044】
又、色材が有機顔料である場合においては、上記の範囲に加えて、前述したように荷電性樹脂擬似微粒子が顔料の1次粒子よりは小さく、且つ顔料分子より大きい範囲とすることによって、構造的に極めて安定で且つ高い分散性を有する分散性色材を得られるので望ましい。
【0045】
本発明における荷電性とは、水系媒体中において、そのもの自身が何らかの形でイオン化した官能基を保持しており、望ましくはその荷電性によって自己分散可能である状態をいう。従って、荷電性樹脂擬似微粒子であるかどうかについては、公知且つ任意の手法にて荷電性樹脂擬似微粒子の表面ゼータ電位を測定する、後述するような手法にて電位差滴定を行って官能基密度として算出する、荷電性樹脂擬似微粒子の水系分散体中に電解質を添加して分散安定性の電解質濃度依存性を確かめる、又は荷電性樹脂擬似微粒子の化学構造分析を公知の手法にて行いイオン性官能基の有無を調べる、のいずれかの方法にて確認される。
【0046】
荷電性樹脂擬似微粒子を構成する樹脂成分は、一般的に用いられるあらゆる天然又は合成高分子、或いは本発明のために新規に開発された高分子等、いかなる樹脂成分であっても制限なく使用できる。使用できる樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン/アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、多糖類、ポリペプチド類等が挙げられる。
【0047】
特に、一般的に使用でき、荷電性樹脂擬似微粒子の機能設計を簡便に行える観点から、アクリル樹脂やスチレン/アクリル樹脂が類される、ラジカル重合性不飽和結合を有するモノマー成分の重合体或いは共重合体が好ましく使用できる。
【0048】
荷電性樹脂擬似微粒子を作製する際に、例えば、使用する重合開始剤の種類や濃度、構成するモノマーの種類や共重合比率等の多くの制御因子によって、分散性色材及び荷電性樹脂擬似微粒子の種々の特性等を、適宜に制御することが可能であるが、特に、荷電性樹脂擬似微粒子を、上述したうち、少なくとも1種類の疎水性モノマーと、少なくとも1種類のノニオン性親水性モノマーと、少なくとも1種類のアニオン性若しくはカチオン性親水性モノマーを含むモノマー成分の共重合体からなる構成とすることは望ましい。このとき少なくとも1種類の疎水性モノマーを用いて構成することで色材への良好な融着性と熱安定性を、少なくとも1種類のノニオン性親水性モノマーを用いて構成することで、樹脂擬似微粒子に扁平な球状の形状と分散安定性を、少なくとも1種類のアニオン性若しくはカチオン性親水性モノマーを用いて構成することで、良好な分散安定性を、それぞれ付与できる。従って、これらのモノマーを同時に用いることで、常に良好に色材に融着し、且つ良好な分散安定性を付与できる荷電性樹脂擬似微粒子を得ることができる。上記の条件を満たした上で更に、荷電性樹脂擬似微粒子を構成する樹脂成分のモノマー種や共重合比率を適宜選択することにより、本発明の分散性色材及び/又は色材に融着される荷電性樹脂擬似微粒子にさらなる機能性を付与できる。
【0049】
本発明で使用する疎水性モノマーとしては、具体的には、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルのようなアクリル酸アルキルエステル化合物、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ベンジルのようなメタアクリル酸アルキルエステル化合物(以降、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物のように表記する)、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン等の如きスチレン系モノマー;イタコン酸ベンジル等の如きイタコン酸エステル;マレイン酸ジメチル等の如きマレイン酸エステル;フマール酸ジメチル等の如きフマール酸エステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0050】
特に(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物は、色材への良好な接着性を有すると同時に、前記したような親水性モノマー成分との共重合性に優れ、形成される荷電性樹脂擬似微粒子の、表面性質の均一性、及び色材への均一な融着性という観点から、好ましい結果を与える。
【0051】
本発明で使用するノニオン性親水性モノマーとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシルプロピル等の構造内にラジカル重合性の不飽和結合と強い親水性を示すヒドロキシル基を同時に有するモノマー類、更に、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のアルキレンオキサイド基を含むモノマー類、この他、公知又は新規の各種オリゴマー、マクロモノマー等についても制限なく使用できる。
【0052】
特にアルキレンオキサイド基含有モノマーは、前記したような疎水性モノマー成分との共重合性に優れ、形成される荷電性樹脂擬似微粒子の、表面性質の均一性、及び色材への均一な融着性という観点から、好ましい結果を与える。この理由は、下記のようであると考えられる。
【0053】
アルキレンオキサイド基含有モノマー成分を重合して荷電性樹脂擬似微粒子を形成することで、当該モノマーの親水性が高いため、微粒子の外表面に局在して存在し、且つ構成する共重合体成分のガラス転移温度が低くなるため、水中で扁平な球状の形態をとるようになる。その結果、色材と接する表面積が大きくなり、荷電性樹脂擬似微粒子が色材に強固に融着した形態をとるものと考えられる。そして、このような構成を有する分散性色材は、荷電性樹脂擬似微粒子に付与される高い造膜性によって、記録紙上で隣り合った色材と造膜し、強固な着色膜を形成し得る。従って、当該分散性色材を用いて得られる印字物に、高い耐擦過性を付与するだけでなく、耐擦過性に極めて不利な光沢性記録媒体上においても、耐擦過性に優れた印字物の形成を可能とすることができる。
【0054】
更に、荷電性樹脂擬似微粒子に付与される高い融着性によって、記録紙上に水性インクをインクジェット記録装置等で印字し画像を形成するにあたり、隣り合った色材との融着を促進し、それにより記録紙上に残存する水分等の残存溶媒量の減少速度を早め、記録紙上での定着時間を短縮することができる。
【0055】
更に、本発明で使用するアニオン性親水性モノマーとしては、水中でアニオン性を示す官能基を有するモノマーであれば特に限定されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、エタアクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、フマール酸等の如きカルボキシル基を有するモノマー及びこれらの塩、スチレンスルホン酸、スルホン酸−2−プロピルアクリルアミド、アクリル酸−2−スルホン酸エチル、メタクリル酸−2−スルホン酸エチル、ブチルアクリルアミドスルホン酸等の如きスルホン酸基を有するモノマーとこれらの塩、メタクリル酸−2−ホスホン酸エチル、アクリル酸−2−ホスホン酸エチル等の如きホスホン酸基を有するモノマー等が挙げられる。
【0056】
これらのアニオン性モノマーを含む構成とすることで、荷電性樹脂擬似微粒子により多くのアニオン性基を導入することができ、色材の表面官能基密度を前述したような好ましい値へ制御する手法としても有効である。又、これらのアニオン性モノマーを含む構成とすることで、特に高〜中pH領域で高い分散安定性を示す分散性色材を得ることができる。
【0057】
前記したアニオン性モノマーの中でも、他のモノマー成分との共重合性、汎用性、アニオン性の強さ等の観点から、アクリル酸、メタクリル酸、p−スチレンスルホン酸及びこれらの塩が特に好ましく用いられる。
【0058】
又、本発明で使用するカチオン性親水性モノマーとしては、水中でカチオン性を示す官能基を有するモノマーであれば特に限定されないが、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸アミノプロピル、メタクリル酸アミド、メタクリル酸アミノエチル、等の如き第1級アミノ基を有するモノマー、アクリル酸メチルアミノエチル、アクリル酸エチルアミノエチル、メタクリル酸メチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノエチル等の如き第2級アミノ基を有するモノマー、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等の如き第3級アミノ基を有するモノマー、アクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、アクリル酸ジメチルアミノエチルベンジルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルベンジルクロライド塩等の如き第4級アンモニウム基を有するモノマー、各種ビニルイミダゾール類等が挙げられる。
【0059】
親水性モノマーとしてカチオン性モノマーを少なくとも含む構成は、特に中〜低pH領域で高い分散安定性を示す分散性色材を得ることができる好ましい形態である。これらの中でも特に、汎用性、疎水モノマーとの共重合性等の観点からアクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルが好適である。
【0060】
又、架橋性モノマーを用いることも好ましい様態である。例えば、ジビニルベンゼン、(メタ)アクリル酸アリル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジアクリレート、メチレンビスアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド等が挙げられ、その他公知又は新規の各種架橋性モノマーについても使用できる。
【0061】
又、連鎖移動剤を用いて、得られる樹脂の分子量を適宜に制御することも好ましい様態である。この際に使用する連鎖移動剤としては、例えば、メルカプトエタノール、メルカプトプロピオン酸、オクチルメルカプタン等が挙げられる。
【0062】
上述したように、荷電性樹脂擬似微粒子を構成するモノマー種や共重合比率を適宜選択することにより、本発明の分散性色材及び/又は色材に融着される荷電性樹脂擬似微粒子の性質を制御することができるが、荷電性樹脂擬似微粒子に含まれる共重合体成分のガラス転移温度が−100℃以上0℃以下となるように制御することも好ましい形態である。ガラス転移温度をこの範囲にすることで、色材に融着する荷電性樹脂擬似微粒子は扁平な球状の形態をとり、且つ色材とより強固に融着することができる。
【0063】
荷電性樹脂擬似微粒子のガラス転移温度は、一般的に用いられる示差走査熱分析にて測定することができる。本発明においては、METTLER社製のDSC822eを用いて測定した値を使用する。詳細な測定条件は実施例の中で述べる。
【0064】
本発明において好適な荷電性樹脂擬似微粒子を得るには、上述したモノマー群のうち、そのモノマーから得られるホモポリマーのガラス転移温度が低いことが知られているものを選択して用いることが好ましい。例えば、疎水性モノマーとしては、下記式(1)で示されるものが挙げられる。
(1)CH2=CH−COOCn(2n+1) 3≦n≦10
【0065】
具体的には、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ヘプチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸−2−エチルブチル、アクリル酸ドデシル等である。親水性モノマーとしては、前記したアルキレンオキサイド基を含むモノマー類、等が挙げられる。
【0066】
[荷電性樹脂擬似微粒子の合成及び色材への融着]
荷電性樹脂擬似微粒子の合成、及び該粒子の色材への融着は、その具体的な手順及び方法は公知である荷電性樹脂擬似微粒子の合成方法や、荷電性樹脂擬似微粒子と色材の複合化方法によって実施され得る。これに対して、本発明者らは、鋭意検討の結果、本発明の特徴である、色材と、該色材より小さい荷電性樹脂擬似微粒子とを有する分散性色材であって、色材と荷電性樹脂擬似微粒子とが融着している状態の分散性色材の簡便な製造方法を発明するに至った。以降、本発明で好ましく実施される、本発明の分散性色材の製造方法について述べる。
【0067】
本発明者らの検討によって、上述したような特性を有する分散性色材を、下記の条件で水系析出重合法を適用することによって、極めて簡便に製造できることが明らかとなった。先ず、分散剤にて水不溶性色材を分散することによって該水不溶性色材の分散水溶液とし、次いで、この分散水溶液にて、水性ラジカル重合開始剤を用いてラジカル重合性モノマーを水系析出重合する工程によって、荷電性樹脂擬似微粒子を色材に融着する製造方法である。この工程を経て得られた分散性色材は、該水系析出重合過程にて合成された荷電性樹脂擬似微粒子を、均一且つ点在した状態で強力に融着した水不溶性色材からなり、単独での分散安定性に優れている。上記水系析出重合過程において、荷電性樹脂擬似微粒子の特性を、これまで述べたような好ましい形態に簡便に制御することができ、その際にも本発明の特徴である色材との融着状態が良好に達成される。以降、上記製造方法における好ましい実施形態を詳しく述べる。
【0068】
[水不溶性色材の分散]
先ず、前述したような本発明に好ましく用いられる色材を分散剤にて分散して水分散体とする。色材を水溶液に分散させるための分散剤としては、イオン性、ノニオン性等、いずれのものも使用できるが、その後の重合工程での分散安定性を保つ観点から、高分子分散剤又は水溶性高分子を用いるのが望ましい。特に、充分な水溶性を示し、色材微粒子表面及び重合工程で加えられるラジカル重合性モノマー、特に疎水性モノマーの油滴界面への吸着サイトとなる、疎水部分を有しているものが好ましく用いられる。更に望ましくは、その後の重合工程で用いる疎水性モノマーのうちの少なくとも1種類が、分散剤を構成するユニットとして存在しているようにすることが、その後の重合工程において荷電性樹脂擬似微粒子の融着を誘起しやすい観点から好ましい。
【0069】
本発明で使用できる分散剤として機能する、高分子分散剤及び水溶性高分子の製造方法は、特に限定されず、例えば、イオン性基を有するモノマーと、他の重合し得るモノマーとを、非反応性溶媒中で、触媒の存在下又は不存在下で反応させることにより製造できる。特に、前述したようなイオン性基を有するモノマーと、スチレンモノマーとを必須成分として重合させることによって得られるスチレン/アクリル系高分子化合物、又はイオン性基を有するモノマーと、炭素原子の個数が5以上の(メタ)アクリル酸エステルモノマーとを必須成分として重合させることによって得られるイオン性基含有アクリル系高分子化合物から選ばれる分散剤を用いると良好な結果となることが明らかとなっている。この際、得られる分散性色材が特にアニオン性基を有することを目的とする場合にはアニオン性の分散剤を、一方、得られる分散性色材が特にカチオン性基を有することを目的とする場合には、カチオン性基を有するか、或いはノニオン性の分散剤を、それぞれ選択することが望ましい。
【0070】
後に行う水系析出重合の過程で、荷電性樹脂擬似微粒子の色材への融着を促進することと、重合過程での色材の分散安定性を保持することを両立する観点から、アニオン性分散剤を用いる場合には酸価100〜250のものを、又、カチオン性分散剤を用いる場合にはアミン価150〜300のものを、それぞれ用いることも望ましい形態である。酸価及びアミン価がこの範囲より小さい場合には、水系析出重合の際に、疎水性モノマーと分散剤との親和性が、色材と分散剤との親和性より高くなり、荷電性樹脂擬似微粒子が色材に融着するより前に分散剤が色材表面から脱離して、分散状態を保てなくなる場合がある。又、酸価及びアミン価がこの範囲より大きい場合には、色材表面での分散剤の排除体積効果及び静電反発力が強くなりすぎるために、色材への荷電性樹脂擬似微粒子の融着が阻害される場合がある。アニオン性分散剤を用いる場合には、色材への樹脂微粒子の融着を阻害しない観点から、アニオン性基としてカルボキシル基を有する分散剤を選択するのが好ましい。
【0071】
水不溶性色材を分散剤にて分散水溶液とする過程において、色材は、好ましくは分散粒径が0.01〜0.5μm(10〜500nm)の範囲、特に好ましくは0.03〜0.3μm(30〜300nm)の範囲に分散する。この過程での分散粒径が、得られる分散性色材の分散粒径に大きく反映し、前述した着色力や画像の耐候性の観点、及び分散安定性の観点から、上記の範囲が好ましい。
【0072】
又、本発明で使用する水不溶性色材の分散粒径分布は、なるべく単分散であることが好ましい。一般的には、帯電樹脂擬似微粒子が融着して得られる分散性色材の粒径分布は、図2(b)に示した重合工程よりも前の、分散水溶液における粒径分布よりも狭くなる傾向にあるが、基本的には分散水溶液の粒径分布に依存する。又、色材と帯電樹脂擬似微粒子とのヘテロ凝集による融着を確実に誘起するためにも、色材の粒径分布を狭くすることは重要である。本発明者らの検討によれば、色材の多分散度指数が0.25以下の範囲にあるものを使用したときに、得られる分散性色材の分散安定性は優れたものとなる。
【0073】
ここで、分散状態にある色材の粒径は各種測定方式で異なり、特に、有機顔料は球形粒子である場合は極めて少ないが、本発明においては大塚電子工業社製ELS−8000にて動的光散乱法を原理として測定し、キュムラント解析することによって求められた平均粒径と多分散度指数を用いている。
【0074】
水不溶性色材を水系媒体に分散させる方法としては、色材を水に安定に分散できる方法のうち、前記したような分散剤を用いた方法であれば、従来知られているいずれの方法でも限定されない。或いは本発明のために新規に開発された分散方法であってもよい。使用する高分子分散剤の添加量としては、一般的には、例えば、水不溶性色材が顔料である場合は、顔料に対し10質量%〜130質量%とすることが適している。
【0075】
又、用いる水不溶性色材が、それ自体が自己分散性を有しないときに、前述した融着する帯電樹脂擬似微粒子の好ましい実施様態によって得られる分散性色材の性能を制御できる点で好ましい。
【0076】
本発明で用いることのできる色材の分散方法としては、ペイントシェイカー、サンドミル、アジテーターミル、3本ロールミル等の分散機やマイクロフルイダイザー、ナノマイザー、アルチマイザー等の高圧ホモジナイザー、超音波分散機等、それぞれの色材に一般的に用いられる分散方法であれば、どのような手法でも制限されない。
【0077】
[ラジカル重合開始剤]
本発明で使用するラジカル重合開始剤としては、一般的な水溶性のラジカル重合開始剤であれば、どのようなものでも使用可能である。水溶性ラジカル重合開始剤の具体的な例としては、過硫酸塩等が挙げられる。或いは水溶性ラジカル重合開始剤と還元剤の組み合わせによるレドックス開始剤であってもよい。具体的には、先に説明した、重合工程に用いる色材、分散剤、モノマーの特性を考慮して、最適な組み合わせとなるように設計して使用する。望ましくは、得られる分散性色材の表面特性と同符号の重合開始剤残基を与える重合開始剤を選択する。即ち、例えば、アニオン性基を有する水不溶性色材を得る場合には、開始剤残基が中性又はアニオン性となるものを選択することで、表面電荷をより効率的に得ることができる。同様に、カチオン性基を有する分散性色材を得る場合には、開始剤残基が中性又はカチオン性となるものを選択することが好ましい。
【0078】
[ラジカル重合性モノマー]
本発明の製造方法で用いられるラジカル重合性モノマーは、水系析出重合を経て荷電性樹脂擬似微粒子を構成する成分となるので、[扁平状荷電性樹脂擬似微粒子]の項で述べたように、得ようとする荷電性樹脂擬似微粒子及び分散性色材の特性によって適宜選択すればよい。本発明の製造方法においても、従来から公知であるラジカル重合性モノマー、又は本発明のために新規に開発されたラジカル重合性モノマーのいかなるものでも使用できる。
【0079】
[水系析出重合]
続いて、本発明にかかる製造方法の特徴である扁平状の荷電性樹脂擬似微粒子を合成し、色材に融着させる工程である、水系析出重合の好ましい実施形態について述べる。図2は、上記製造方法の工程フローを模式的に記載した工程図である。本工程によって分散性色材を得るまでの過程は、次のように考えられる。先ず、図2(a)に示したように、水溶液中に色材1を分散剤3によって分散した分散水溶液を用意する。このとき、色材は分散剤の吸着によって分散安定化されていて、この吸着は熱的に平衡状態にある。次に、図2(a)で用意した分散体を撹拌しながら昇温し、この中に、モノマー成分4を、水性ラジカル重合開始剤5と共に添加する(図2(b)参照)。添加された水性ラジカル重合開始剤は、昇温することにより開裂してラジカルを発生し、分散水溶液中に添加されたモノマー成分のうち、微量に水相に溶解した疎水性モノマーと水相中の水溶性モノマーとの反応に寄与する。
【0080】
図3は、モノマー4が重合し、分散性色材を生成するまでの過程を記載した模式図である。前記したようなモノマー4の反応が進行すると、モノマー成分の重合反応によって生成したオリゴマー7は水に不溶となり、水相より析出する(8)が、このとき析出したオリゴマーは十分な分散安定性を有していないため、合一して荷電性樹脂擬似微粒子2を形成する。荷電性樹脂擬似微粒子2は、更に、分散水溶液中の色材の有する疎水性表面を核としてヘテロ凝集を起こし、色材表面と荷電性樹脂擬似微粒子2を構成する樹脂成分が疎水性相互作用によって強く吸着する。このとき、荷電性樹脂擬似微粒子2の内部では重合反応が進行しつづけており、色材との吸着点を増やしながら、よりエネルギー的に安定する形態へ変化する。同時に、荷電性樹脂擬似微粒子内部は高度に物理架橋が形成されるため、色材と最も安定に吸着する形態を固定して融着状態となる。一方、色材1は、複数の荷電性樹脂擬似微粒子2が融着していくことによって安定化され、平衡状態にあった分散剤3は色材表面から脱離する。
【0081】
荷電性樹脂擬似微粒子の、色材との融着界面側の模式図を図4に示した。樹脂成分の集合体である荷電性樹脂擬似微粒子は、親水性モノマーユニット9−1、疎水性モノマーユニット9−2等が任意に分布して存在するため、その局所的な表面エネルギーには分布があり、色材の表面エネルギーと一致する吸着点10が無数に存在する。図5に、荷電性樹脂擬似微粒子と色材との融着界面の拡大模式図を示したが、荷電性樹脂擬似微粒子の界面11は図4に示した吸着点10を吸着しながら、色材1の表面形状に応じた形態をとって安定に融着する。前述したようにこの過程においても荷電性樹脂擬似微粒子内での重合反応が進行しているため、吸着が安定化した形態で固定化されることで色材への融着を達成する。以上のような過程により、前記した構成の分散性色材が、容易に形成される(図2(d)参照)。このとき、荷電性樹脂擬似微粒子が充分な表面電荷を有して自己分散性を達成している系においては、ヘテロ凝集による色材への吸着及び融着過程にて、荷電性樹脂擬似微粒子間に相互に静電斥力が働くことによって、荷電性樹脂擬似微粒子は色材に対して点在して融着し、前述した好ましい形態となる。
【0082】
重合反応条件は、使用する重合開始剤及び分散剤、モノマーの性質によっても異なるが、例えば、反応温度は100℃以下とし、好ましくは40〜80℃の範囲である。又、反応時間は、1時間以上、好ましくは6時間〜30時間である。反応中の撹拌速度は、50〜500rpm、好ましくは150〜400rpmとするのが望ましい。
【0083】
前述した重合工程において、特に少なくとも1種類の疎水性モノマー、少なくとも1種類のノニオン性親水性モノマー、及び少なくとも1種類のアニオン性、若しくはカチオン性親水性モノマーを含むモノマー成分を重合させて荷電性樹脂擬似微粒子を得る際には、好ましくは、モノマー成分を、水性ラジカル重合開始剤を含んだ水不溶性色材の分散水溶液中に滴下することが望ましい。疎水性モノマーと親水性モノマーのように性質の異なるモノマーの混合物から、所望の荷電性樹脂擬似微粒子を均一に得るためには、性質の異なるモノマーの共重合比率を常に一定に保つことが望ましい。モノマーの混合物を一定時間内に重合反応で消費されるモノマー量に比して過剰に重合系内に添加した場合、特定のモノマー種のみが先行して重合し、残りのモノマーは先行で重合したモノマーが消費されてから重合する傾向があり、この場合には、生成する荷電性樹脂擬似微粒子の性質に大きな不均一を生じる。一方、モノマー成分を、水性ラジカル重合開始剤を含んだ水不溶性色材の分散水溶液中に、それぞれ滴下することによって、疎水性モノマーと親水性モノマーとの共重合比率が常に一定に保たれ、所望の共重合比率で構成される荷電性樹脂擬似微粒子を均一に得ることができる。
【0084】
又、親水性モノマーとして、特に、アクリル酸、メタクリル酸等のアニオン性モノマーを重合系内に添加する際に、色材を分散している高分子分散剤の特性によっては部分的に不安定化し、凝集を引き起こす場合もある。これを防ぐために、アニオン性モノマーを予め中和し、ナトリウム塩やカリウム塩の状態で添加することも好適な実施形態である。
【0085】
上述した工程で得た、本発明にかかる扁平状の荷電性樹脂擬似微粒子を融着した水不溶性色材を用いて水性インクを調製する際には、上記の工程に加えて更に精製処理を行うことが望ましい。特に、未反応の重合開始剤、モノマー成分、分散剤、色材への融着に至らなかった水溶性樹脂成分及び扁平状荷電性樹脂擬似微粒子等について精製処理を行うことは、分散性色材の有する保存安定性を高く維持する点で重要である。この際に使用する精製方法としては、通常一般的に用いられている精製方法から最適なものを選択して用いればよい。例えば、遠心分離法や、限外ろ過法を用いて精製することも好ましい実施形態である。
【0086】
上述した重合工程を経れば、多くの制御因子をコントロールすることによって、色材の表面に所望の共重合体からなる所望の扁平状の荷電性樹脂擬似微粒子を融着した分散性色材を得ることができる。特に、高い分散安定性を目的としてアニオン性モノマーを使用する場合には、上記した重合工程を経た分散性色材は、上記工程で用いるアニオン性モノマーが比較的少ない量であっても大きな表面官能基密度のものを得ることができるので、色材に高い分散安定性を付与することができる。この結果、長期保存安定性を損なうことなく、該扁平状荷電性樹脂擬似微粒子によって分散性色材の分散安定性を高くすることが可能となる。この理由は明らかでないが、本発明者らは次のように考えている。水中で発生したラジカルにより重合が開始され、オリゴマーが析出して荷電性樹脂擬似微粒子を形成する際、アニオン性モノマー由来成分の多い部分が優先的に水相側、即ち、荷電性樹脂擬似微粒子の表面付近に配向する。この状態は、荷電性樹脂擬似微粒子が色材に融着した後にも維持され、構造的に大きな比表面積を有する本発明の分散性色材の表面は、更にアニオン性モノマー成分由来のアニオン性基が多く存在することになる。この結果として、本発明の製造方法による分散性色材は、より少ないアニオン性モノマー成分で、より安定化されたものが形成されると予想される。
【0087】
[水性インク]
本発明の水性インクは、以上説明した分散性色材を含むことを特徴とする。前記色材が顔料である場合には、一般的には顔料含有量がインクに対して0.1〜20質量%、好ましくは0.3〜15質量%となるようにする。更に、水性媒体として、水、或いは更に水溶性の有機溶媒を必要に応じて含むことが好ましい。又、記録媒体への浸透性を助けるための浸透剤、防腐剤、防黴剤等を含んでもよい。
【0088】
本発明の分散性色材は、図1に示されているように、色材1の表面に、荷電性樹脂擬似微粒子2を融着した状態でインク中に存在している。従って、色材は、表面に融着している荷電性樹脂擬似微粒子を介して、記録紙上で記録紙及び隣り合った色材と相互に接着する。従って、このような色材を含有する本発明の水性インクを用いて得られる印字物は、優れた耐擦過性を有するものとなる。更に、この荷電性樹脂擬似微粒子が扁平な球状形態をとっていることにより、色材が相互に接着する際に隣り合う色材間の距離が短くなり、色材の凝集速度を速めることができる。従って、記録紙上での定着速度を速めることができる、又、良好なブリード性を示す。更に、通常では水不溶性色材で光沢画像を得ることが難しい光沢媒体上に印字する際、色材に融着している荷電性樹脂擬似微粒子が扁平な球状形態をとっていることにより、接着した色材が平滑な表面を形成するため、乱反射を防ぎ、高光沢印字が可能となる。
【0089】
[記録画像]
本発明のインクジェット記録画像は、本発明の水性インクを用いて、後述するようなインクジェット記録装置にて記録媒体上に形成される。本発明において使用する記録媒体は、インクジェット記録可能どのような媒体でも制限なく用いることができる。
【0090】
[画像記録方法及び記録装置]
本発明の分散性色材、及びこれを用いた水性インクは、インクジェット吐出方式のヘッドに用いられ、又、そのインクが収納されているインクタンクとしても、或いは、その充填用のインクとしても有効である。特に、本発明は、インクジェット記録方式の中でもバブルジェット方式の記録ヘッド、記録装置において、優れた効果をもたらすものである。
【0091】
その代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4,723,129号明細書、同第4,740,796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式は所謂オンデマンド型、コンティニュアス型のいずれにも適用可能であるが、特に、オンデマンド型の場合には、インクが保持されているシートや液路に対応して配置された電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を超える急速な温度上昇を与える少なくとも一つの駆動信号を印加することによって、電気熱変換体に熱エネルギーを発生せしめ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰させて、結果的にこの駆動信号に一対一対応し、インク内の気泡を形成できるので有効である。この気泡の成長、収縮により吐出用開口を介してインクを吐出させて、少なくとも一つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行われるので、特に応答性に優れたインクの吐出が達成でき、より好ましい。このパルス形状の駆動信号としては、米国特許第4,463,359号明細書、同第4,345,262号明細書に記載されているようなものが適している。尚、上記熱作用面の温度上昇率に関する発明の米国特許第4,313,124号明細書に記載されている条件を採用すると、更に優れた記録を行うことができる。
【0092】
記録ヘッドの構成としては、上述の各明細書に開示されているような吐出口、液路、電気熱変換体の組み合わせ構成(直線状液流路又は直角液流路)の他に熱作用部が屈曲する領域に配置されている構成を開示する米国特許第4,558,333号明細書、米国特許第4,459,600号明細書を用いた構成にも本発明は有効である。加えて、複数の電気熱変換体に対して、共通すると吐出孔を電気熱変換体の吐出部とする構成(特開昭59−123670号公報等)に対しても、本発明は有効である。
更に、記録装置が記録できる最大記録媒体の幅に対応した長さを有するフルラインタイプの記録ヘッドとしては、上述した明細書に開示されているような複数記録ヘッドの組み合わせによって、その長さを満たす構成や一体的に形成された一個の記録ヘッドとしての構成のいずれでもよいが、本発明は、上述した効果を一層有効に発揮することができる。
【0093】
加えて、装置本体に装着されることで、装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッド、或いは記録ヘッド自体に一体的に設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドを用いた場合にも本発明は有効である。又、本発明は、適用される記録装置の構成として設けられる、記録ヘッドに対しての回復手段、予備的な補助手段等を付加することは本発明の効果を一層安定できるので好ましいものである。これらを具体的に挙げれば、記録ヘッドに対してのキャピング手段、クリーニング手段、加圧或いは吸引手段、電気熱変換体或いはこれとは別の加熱素子或いはこれらの組み合わせによる予備加熱手段、記録とは別の吐出を行う予備吐出モードである。
【実施例】
【0094】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。尚、文中「部」又は「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0095】
[実施例1]
実施例1にかかる記録インク1を下記の要領で作製した。先ず、カーボンブラック10部、グリセリン6部、スチレン−アクリル酸系樹脂分散剤10部、水74部からなる組成の混合液を、金田理化工業社製のサンドミルにて1,500rpm、5時間分散し、顔料分散液1を得た。サンドミルでは0.6mm径のジルコニアビーズを使用し、ポット内の充填率は70%とした。本実施例で使用したカーボンブラックは、米国Cabot社より上市されているBlack Pearls 880(以下、BP880と略す)である。又、スチレン−アクリル酸系樹脂分散剤には、共重合比70:30、Mw=8,000、酸価170のものを使用した。かかるスチレン−アクリル酸系樹脂分散剤は、予め、水及び、上記の酸価と当量の水酸化カリウムを加えて80℃にて撹拌し、水溶液としたものを使用した。得られた顔料分散液1は、平均分散粒径98nmで安定に分散されており、多分散度指数は0.16であった。
【0096】
次に、前記顔料分散液1を100部として、窒素雰囲気下、70℃に加熱した状態で、モーターで撹拌しながら下記の3つの液をそれぞれ50ml注射器に注入し、マイクロフィーダ(古江サイエンス(株)製)を用いて5時間かけて徐々に滴下して加え、更に2時間熟成を行った。添加した液の配合は、(1)アクリル酸ブチル4.0部、M230G[新中村化学(株)製、商品名、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(分子量約1,100)]1.5部、(2)アクリル酸0.5部、水酸化カリウム0.35部、水4.5部、(3)過硫酸カリウム0.05部と水20部である。得られた分散液を水にて10倍に希釈し、5,000rpmにて10分間遠心分離を行って凝集成分を除去した。その後、更に12,500rpm、2時間の条件で遠心分離することにより、沈降物である分散性色材1を得た。該分散性色材1を水に分散し、1,2000回転、60分間の遠心分離を行って沈降物を水に再分散させたものを乾燥させ、走査型電子顕微鏡JSM−6700(日本電子ハイテック(株)製)にて5万倍にて観察したところ、該分散性色材1は、色材であるカーボンブラックよりも小さく扁平な球状の荷電性樹脂擬似微粒子がカーボンブラックの表面に融着している状態が観察された。尚、本実施例に記載されるこれ以降の色材についても同様の手法にて形態を確認した。
【0097】
次に、得られた分散性色材1が、インク中に4%濃度になるように、下記成分を混合し、更に、ポアサイズが2.5ミクロンのメンブレンフィルターにて加圧濾過し、本実施例の記録用インク1とした。尚、インクの全量が100部となるように水で調整した。以降のインクにおいても同様である。
・グリセリン 7部
・ジエチレングリコール 5部
・トリメチロールプロパン 7部
・アセチレノールEH(商品名:川研ファインケミカ
ル社製) 0.2部
・イオン交換水 残部
【0098】
[実施例2]
実施例1で調製したと同様の顔料分散液1を100部用い、実施例1と同様の方法で下記3つの液を5時間かけて徐々に滴下して加え、更に2時間熟成を行った。添加した液の配合は(1)メタクリル酸ベンジル2.8部、M90G(新中村化学(株)製、商品名、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(分子量約500))2.5部、ジビニルベンゼン0.2部、(2)アクリル酸0.5部、水酸化カリウム0.35部、水4.5部、(3)過硫酸カリウム0.05部と水20部である。重合後、実施例1と同様の方法で遠心分離にて精製を行い、分散性色材2を得た。得られた分散性色材を実施例1と同様に観察したところ、色材よりも小さく扁平な球状の荷電性樹脂擬似微粒子が色材に融着していることが観察された。次に、得られた分散性色材2が4%濃度になるように、実施例1と同様にして、本実施例の記録用インク2を調製した。
【0099】
[実施例3]
実施例1で調製したと同様の顔料分散液1を100部用い、実施例1と同様の方法で下記3つの液を5時間かけて徐々に滴下して加え、更に2時間熟成を行った。添加した液の配合は(1)メタクリル酸メチル2.7部、M90Gを2.7部、1,6−ヘキサンジアクリレート0.1部、(2)アクリル酸0.5部、水酸化カリウム0.35部、水4.5部、(3)過硫酸カリウム0.05部と水20部である。重合した後、実施例1と同様の方法で遠心分離にて精製を行って、分散性色材3を得た。得られた分散性色材を実施例1と同様に観察したところ、色材よりも小さく扁平な球状の荷電性樹脂擬似微粒子が色材に融着していることが観察された。次に、得られた分散性色材3が4%濃度になるように、実施例1に同様に調合し、本実施例の記録用インク3を調製した。
【0100】
[実施例4]
実施例1で調製したと同様の顔料分散液1を100部用い、実施例1と同様の方法で下記3つの液を5時間かけて徐々に滴下して加え、更に2時間熟成を行った。添加した液の配合は(1)アクリル酸ブチル11.7部、M230Gを4.5部、ジビニルベンゼン0.3部、(2)アクリル酸1.5部、水酸化カリウム1.05部、水13.5部、(3)過硫酸カリウム0.15部と水20部である。重合後、実施例1と同様の方法で遠心分離にて精製を行って、分散性色材4を得た。得られた分散性色材を実施例1と同様に観察したところ、色材よりも小さく扁平な球状の荷電性樹脂擬似微粒子が色材に融着していることが観察された。次に、得られた分散性色材4が4%濃度になるように、実施例1に同様に調合し、本実施例の記録用インク4を調製した。
【0101】
[実施例5]
実施例1で調製したと同様の顔料分散液1を100部用い、実施例1と同様の方法で下記3つの液を5時間かけて徐々に滴下して加え、更に2時間熟成を行った。添加した液の配合は(1)アクリル酸ブチル3.8部、M230Gを1.5部、1,6−ヘキサンジアクリレート0.2部、(2)p−スチレンスルホン酸ナトリウム0.5部、水5.5部、(3)過硫酸カリウム0.05部と水20部である。重合した後、実施例1と同様の方法で遠心分離にて精製を行い、分散性色材5を得た。得られた分散性色材を実施例1と同様に観察したところ、色材よりも小さく扁平な球状の荷電性樹脂擬似微粒子が色材に融着していることが観察された。次に、得られた分散性色材5が、4%濃度になるように、実施例1と同様にして、本実施例の記録用インク5を調製した。
【0102】
[実施例6]
本実施例にかかる記録インク6を下記の要領で作製した。先ず、カーボンブラック10部、グリセリン6部、スチレン−アクリル酸ジメチルアミノエチル共重合カチオン性分散剤10部、水74部からなる組成の混合液を、金田理化工業社製のサンドミルにて1,500rpm、5時間分散し、顔料分散液2を得た。サンドミルでは0.6mm径のジルコニアビーズを使用し、ポット内の充填率は70%とした。カーボンブラックは、実施例1で使用したと同様のBP880であり、又、スチレン−アクリル酸ジメチルアミノエチル共重合カチオン性分散樹脂には、共重合比70:30、Mw=8,000、アミン価170のものを使用した。該分散樹脂は、予め、水及び、アミン価よりもやや過剰な酢酸を加えて80℃にて撹拌し、水溶解液としたものを使用した。得られた顔料分散液2は平均分散粒径105nmにて安定に分散されており、多分散度指数は0.18であった。
【0103】
次に、顔料分散液2を100部用い、窒素雰囲気下55℃に加熱し、モーターで撹拌しながら、下記2つの液を5時間かけて徐々に滴下して加え、更に2時間熟成を行った。添加した液の配合は(1)メタクリル酸メチル2.0部、アクリル酸ジメチルアミノエチル1.2部、M90Gを2.8部、(2)過硫酸カリウム0.3部及び過硫酸カリウムと等モルのチオ硫酸ナトリウムと水20部である。重合後、得られた分散液を水にて10倍に希釈し、5,000rpmにて10分間遠心分離を行って凝集成分を除去した後、更に12,500rpm、2時間の条件で遠心分離することによって、沈降物である分散性色材6を得た。得られた分散性色材を実施例1と同様に観察したところ、色材よりも小さく扁平な球状の荷電性樹脂擬似微粒子が色材に融着していることが観察された。次に、得られた分散性色材6を用いて実施例1と同様の処方にて調合、ろ過を行い、本実施例の記録用インク6を調製した。
【0104】
[実施例7]
本実施例にかかる記録インク7を下記の要領で作製した。先ず、色材としてピグメントブルー(PB)15:3(クラリアント社製)を10部、グリセリン6部、スチレン−アクリル酸系分散剤10部、水74部からなる組成を有する混合液を、金田理化工業社製のサンドミルにて1,500rpm、5時間分散し、顔料分散液3を得た。サンドミルでは0.6mm径のジルコニアビーズを使用、ポット内の充填率は70%とした。分散剤として用いたスチレン−アクリル樹脂は、共重合比70:30、Mw=8,000、酸価170のものを使用した。得られた顔料分散液3は平均分散粒径108nmにて安定に分散されており、多分散度指数は0.14であった。
【0105】
次に、上記顔料分散液3を100部用い、実施例1と同様の方法で下記3つの液を5時間かけて徐々に滴下して加え、更に2時間熟成を行った。添加した液の配合は(1)アクリル酸ブチル4.0部、M90Gを1.5部、(2)アクリル酸0.5部、水酸化カリウム0.35部、水4.5部、(3)過硫酸カリウム0.05部と水20部である。重合後、得られた分散液を水にて10倍に希釈し、5,000rpmにて10分間遠心分離を行って凝集成分を除去した後、更に、12,500rpm、2時間の条件で遠心分離することにより、沈降物である分散性色材7を得た。得られた分散性色材を実施例1と同様に観察したところ、色材よりも小さく扁平な球状の荷電性樹脂擬似微粒子が色材に融着していることが観察された。次に、得られた分散性色材7を用いて、顔料濃度が3.5%となるように、実施例1と同様の処方にて調合、ろ過し、本実施例の記録用インク7を調製した。
【0106】
[実施例8]
本実施例にかかる記録インク8を、色材としてピグメントレッド122(クラリアント社製)を10部用いる以外は、実施例7と同様の要領で作製し、顔料分散液4を得た。得られた顔料分散液4は平均分散粒径99nmにて安定に分散されており、多分散度指数は0.12であった。
【0107】
次に、上記顔料分散液4を100部用い、実施例1と同様の方法で下記3つの液を5時間かけて徐々に滴下して加え、更に2時間熟成を行った。添加した液の配合は(1)アクリル酸ブチル4.0部、M90Gを1.5部、(2)アクリル酸0.5部、水酸化カリウム0.35部、水4.5部、(3)VA057(和光純薬(株)、製品名、2,2’−アゾビス(2−(N−(2−カルボキシエチル)アミジノ)プロパン))0.05部と水20部である。重合後、得られた分散液を水にて10倍に希釈し、5,000rpmにて10分間遠心分離を行って凝集成分を除去した後、更に、12,500rpm、2時間の条件で遠心分離することにより、沈降物である分散性色材8を得た。得られた分散性色材を実施例1と同様に観察したところ、色材よりも小さく扁平な球状の荷電性樹脂擬似微粒子が色材に融着していることが観察された。次に、得られた分散性色材8を用いて、顔料濃度が4.0%となるように、実施例1と同様の処方にて調合、ろ過し、本実施例の記録用インク8を調製した。
【0108】
[実施例9]
本実施例にかかる記録インク9を、色材としてピグメントイエロー(PY)74(クラリアント社製)を10部用いる以外は、実施例7と同様の要領で作製し、顔料分散液5を得た。得られた顔料分散液5は平均分散粒径112nmにて安定に分散されており、多分散度指数は0.16であった。
【0109】
次に、上記顔料分散液5を100部用い、実施例1と同様の方法で下記3つの液を5時間かけて徐々に滴下して加え、更に2時間熟成を行った。添加した液の配合は(1)アクリル酸ブチル4.0部、M90Gを1.5部、(2)アクリル酸0.5部、水酸化カリウム0.35部、水4.5部、(3)過硫酸カリウム0.05部と水20部である。上記したようにして5時間かけて重合後、得られた分散液を水にて10倍に希釈し、5,000rpmにて10分間遠心分離を行って凝集成分を除去した後、更に、12,500rpm、2時間の条件で遠心分離することにより、沈降物である分散性色材9を得た。得られた分散性色材を実施例1と同様に観察したところ、色材よりも小さく扁平な球状の荷電性樹脂擬似微粒子が色材に融着していることが観察された。次に、得られた分散性色材9を用いて、顔料濃度が4.0%となるように、実施例1と同様の処方にて調合、ろ過し、本実施例の記録用インク9を調製した。
【0110】
[分散性色材の特性]
上記の実施例1〜9で得た各分散性色材について、それぞれ下記に説明した方法で観察、及び各種の物性を測定した。そして、得られた結果を表1にまとめて示した。
【0111】
<観察結果・点在性>
各分散性色材を水に分散して乾燥させ、走査型電子顕微鏡JSM−6700(日本電子ハイテック(株)製)にて5万倍にて観察した。そして、扁平状荷電性樹脂微粒子が融着している様子が確認できたものを○、できなかったものを×として、観察の評価結果とした。又、観察時、樹脂微粒子が点在していることが確認できたものを○、局在していたり、不均一に融着している様子がみられたものを×として、点在性を評価した。
【0112】
<分散安定性>
各分散性色材の5%水分散液を純水で10倍に希釈し、分画分子量50,000の限外ろ過フィルターを用いて元の濃度になるまで濃縮し、濃縮液を遠心分離装置にて12,000回転、2時間の条件で分離した。分離された沈降物を取り出して純水に再分散させ、目で見て均一に分散していること、及び後述する動的光散乱法にて測定した平均粒径が操作前の粒径の2倍以内であることを確認し、条件を満たしたものを○、条件を満たさなかったものを×として単独分散性を評価した。
【0113】
<平均分散粒径>
各分散性色材を、大塚電子(株)製、ELS−8000を用いて動的光散乱法にて測定し、キュムラント平均値を平均粒径とした。
【0114】
<ガラス転移温度:Tg(℃)>
各分散性色材に融着している樹脂微粒子のガラス転移温度は、分散性色材を乾燥させたものを試料とし、メトラー・トレド社製DSC822eにて測定した。
【0115】
<表面官能基密度>
各分散性色材の表面官能基密度を次のように求めた。色材の水分散液に大過剰量の塩酸水溶液を加え、遠心分離装置にて20,000rpm、1時間の条件で沈降したものを純水に再分散させ、固形分率を求めて沈降物を秤量し、既知量の炭酸水素ナトリウムを加えて撹拌した分散液を、更に遠心分離装置にて80,000rpm、2時間の条件にて沈降させた。上澄みを秤量し、0.1規定塩酸にて中和滴定より求めた中和量から、炭酸水素ナトリウムの既知量及び純水を測定したブランク値を差し引き、表面官能基密度を算出した。極性基としてカチオン性基を有すると明らかな場合には、同様の手法にて、塩酸の代わりに水酸化ナトリウムを、炭酸水素ナトリウムの代わりに塩化アンモニウムを用いて求めた。
【0116】
<長期保存安定性>
保存安定性は、ガラス製のサンプル瓶中に各分散性色材を顔料濃度が10%となるように入れ、その状態で室温にて1ヶ月放置した後におけるインク中の分散状態を目視にて判断した。評価基準は以下の通りである。
A:固形分の凝集・沈降がみられない。
B:固形分の沈降がややみられるが、軽く振ると元の均一な分散状態に戻る。
C:固形分の凝集・沈降がみられ、軽く振っても均一にならない。
【0117】

【0118】

【0119】
[水性インクジェット記録用インクの評価方法及び評価結果]
上述した方法で得た各記録用インクを用いて、インクジェット記録装置にて記録媒体への印字を行って、得られた画像について評価した。使用したインクジェット記録装置としては、キヤノン(株)製インクジェットプリンタBJS700を用いて画像を形成した。この時、ブラックインクはBCI−3eBkのタンクに注入し、シアン、マゼンタ、イエローはそれぞれの色のタンクに注入しセットした。そして、上記条件で印字した印字物の画像濃度(OD)、シャープネス、耐擦過性、耐マーカー性、常温保存安定性及び吐出安定性を、以下のようにして評価し、その結果を表2に示した。
【0120】
<画像濃度(OD)>
各記録用インクを用いてキヤノンPPC用紙にBkテキストを印字後、1日経過した印字物の画像濃度(OD)を測定した。印字物のODが1.3以上である場合をA、ODが0.8以上1.3未満である場合をB、ODが0.8未満である場合をCと、それぞれ評価した。但し、実施例7についてはBkテキストの代わりにシアンのテキストを印字し、ブラックの代わりにシアンの光学濃度を測定し、ODが1.0以上である場合をAとして評価した。同様に実施例8についてはマゼンタを、実施例9についてはイエローをそれぞれ測定し、評価した。
【0121】
<定着性>
印字物の定着性は、印字部分を40g/cm2の重さをかけたシルボン紙で、印字終了20秒後に1回擦り、印字部分の乱れを目視で観察し、下記の基準で評価した。
A:白紙部分の汚れがほとんどない。
B:白紙部分が僅かに汚れるが、文字の認識には問題がない。
C:印字の乱れが発生し、白紙部分が明らかに汚れる。
【0122】
<耐擦過性>
印字物の耐擦過性は、印字部分を40g/cm2の重さをかけたシルボン紙で5回擦り、印字部分の乱れを目視で観察し、下記の基準で評価した。
A:擦れによる印字の乱れや白色部の汚れがない。
B:擦れによる印字の乱れや白色部の汚れが殆どなく、気にならない。
C:擦れにより印字が大きく乱れ、白色部に汚れがみられる。
【0123】
<長期保存安定性>
保存安定性は、ガラス製のサンプル瓶中に各インクを入れ、その状態で室温にて1ヶ月放置した後におけるインク中の分散状態を目視にて判断した。評価基準は以下の通りである。
A:固形分の凝集・沈降がみられない。
B:固形分の沈降がややみられるが、軽く振ると元の均一な分散状態に戻る。
C:固形分の凝集・沈降がみられ、軽く振っても均一にならない。
【0124】
<吐出安定性>
吐出安定性は、特定のBkテキストを連続で100枚印字し、初期の印字物と最後の印字物を比較して目視にて判断した。
A:スジ、ムラ等なく、初期と最後で違いがない。
B:僅かなスジ、ムラ、ヨレがあるものの、問題なく印字できる。
C:大きく品位の低下がみられる、又は印字できなくなる。
【0125】

【0126】

【0127】
上記した通り、いずれの実施例においても、得られた分散性色材についての観察結果は良好であり、単独分散性を有した色材が得られることが確認された。又、これらの色材を用いた記録インクにおいても、いずれも優れた印字性能を示すことが確認された。
【0128】
[比較例1]
実施例1で調製された、重合工程前の顔料分散液1を、顔料が4%濃度となるように実施例1と同様の処方にて調製し、比較インク1とした。比較インク1中の色材を実施例1と同様に観察したところ、色材の表面には何ら融着している樹脂微粒子は観察されなかった。
【0129】
[比較例2]
先ず、実施例1で用いたスチレン−アクリル酸系樹脂分散剤と、当量の水酸化カリウムとの2%水溶液を100部として、窒素雰囲気下、70℃に加熱した状態で、モーターで撹拌しながら下記の液を徐々に滴下して加え、5時間重合を行った。添加した液の配合は、メタクリル酸メチル5.5部、アクリル酸0.5部、水酸化カリウム0.35部、過硫酸カリウム0.05部と水20部である。得られた分散液を水にて10倍に希釈し、5,000rpmにて10分間遠心分離を行って凝集成分を除去した。その後、更に20,000rpm、1時間の条件で遠心分離することにより、沈降物である樹脂微粒子B−1を得た。
【0130】
次に、実施例1で調製された、重合工程前の顔料分散液1を固形分濃度4%に、上記で得た樹脂微粒子B−1を1.6%の濃度になるように、実施例1と同様の処方に調整して比較インク2を調製した。比較インク2中の色材を実施例1と同様に観察したところ、ところどころ色材の表面には付着している樹脂微粒子がみられたが、その分布は均一でなく、樹脂微粒子の凝集体も観察された。
【0131】
上記の比較例1及び2で得た各比較インクについて、実施例1〜9で行ったと同様の方法で評価し、得られた結果を表3に示した。
【0132】

【0133】
上記した通り、比較例1及び2のどちらも、実施例に比較して、特に印字濃度、長期保存安定性、及び吐出安定性の点で大きく劣っていた。又、比較例2において、樹脂微粒子を充分に融着できないために、画像の耐擦過性や定着性についても大きく劣っていた。
【0134】
[光沢性媒体に対する評価]
更に、実施例1〜5で得た記録インクに対しては、以下のようにして光沢性媒体に対する評価を行った。即ち、前記した一連の評価に用いたプリンタで、キヤノン(株)から上市されるインクジェット記録用光沢紙PR−101上に、Bkの5cm角のベタパッチを印字し、光沢紙上での画像濃度、耐擦過性、及び光沢性について評価を行った。そして、得られた結果を表4に示した。
【0135】
<光沢紙画像濃度>
印字後、1日経過した印字物の光学濃度(OD)を測定し、印字物のODが2.3以上である場合をA、ODが1.7以上2.3未満である場合をB、ODが1.7未満である場合をCと、それぞれ評価した。
【0136】
<光沢紙耐擦過性>
印字物の耐擦過性は、印字部分を40g/cm2の重さをかけたシルボン紙で5回擦り、画像部分の削れを目視で観察し、下記の基準で評価した。
A:画像の削れや白色部の汚れがほとんどない。
B:画像の削れがあるが、印字部分の90%以上は残存している。
C:画像が大きく削れてしまう。
【0137】
<光沢性>
印字部分の光沢性を目視にて、以下の基準で評価した。
A:白色部と殆どかわらない光沢性を有する。
B:白色部に比べ乱反射が大きいが、充分な光沢性がある。
C:つやがなく、ほとんど光を反射しない。
【0138】

【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】本発明による、扁平状荷電性樹脂擬似微粒子を融着している分散性色材の基本的構造を示す模式図である。
【図2】本発明の製造方法における代表的な工程の模式図である。
【図3】本発明の製造方法における扁平状荷電性樹脂擬似微粒子の精製と色材への融着過程を示す模式図である。
【図4】本発明の荷電性樹脂擬似微粒子を、色材と融着する界面側から拡大した模式図である。
【図5】本発明の荷電性樹脂擬似微粒子と色材が融着している界面を拡大した模式図である。
【図6】特許文献1に代表される、有機顔料に親水性基を直接修飾した際の、顔料剥離現象の模式図である。
【符号の説明】
【0140】
1:色材
2:扁平状荷電性樹脂擬似微粒子
3:分散樹脂
4:モノマー
5:重合開始剤水溶液
6:分散性色材
7:モノマーが重合して形成されたオリゴマー
8:オリゴマーが水に不溶化した析出物
9−1:扁平状荷電性樹脂擬似微粒子中の親水性モノマーユニット部分
9−2:扁平状荷電性樹脂擬似微粒子中の疎水性モノマーユニット部分
10:色材との結合部位
11:扁平状荷電性樹脂擬似微粒子の色材との界面部分
12:色材に直接修飾された親水性基

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材と、該色材よりも小さい扁平状荷電性樹脂擬似微粒子とを有してなる分散性色材であって、上記色材と上記扁平状荷電性樹脂擬似微粒子とが融着していることを特徴とする分散性色材。
【請求項2】
前記扁平状荷電性樹脂擬似微粒子が上記色材に点在して融着している請求項1に記載の分散性色材。
【請求項3】
その表面官能基密度が、250μmol/g以上1,000μmol/g未満である請求項1又は2に記載の分散性色材。
【請求項4】
前記扁平状荷電性樹脂擬似微粒子が、少なくとも1種類の疎水性モノマーと、少なくとも1種類のノニオン性親水性モノマーと、少なくとも1種類のアニオン性親水性モノマーとを含むモノマー成分からなる共重合体を含んでなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の分散性色材。
【請求項5】
前記ノニオン性親水性モノマーが、少なくともアルキレンオキサイド基を有するノニオン性親水性モノマーを含有する請求項4に記載の分散性色材。
【請求項6】
前記扁平状荷電性樹脂擬似微粒子を構成する共重合体のガラス転移温度が、−100℃以上0℃以下である請求項4又は5に記載の分散性色材。
【請求項7】
前記疎水性モノマーが、少なくとも下記構造式(1)で示されるアクリル酸エステル化合物を含有する請求項4〜6のいずれか1項に記載の分散性色材。
(1)CH2=CH−COOCn(2n+1) 3≦n≦10
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の分散性色材を得るための製造方法において、水不溶性色材の分散水溶液中にて、アニオン性或いは両性水性ラジカル重合開始剤を用いてラジカル重合性モノマーを水系析出重合することによって、前記色材と前記扁平状荷電性樹脂擬似微粒子とを融着させる工程を有することを特徴とする分散性色材の製造方法。
【請求項9】
前記扁平状荷電性樹脂擬似微粒子が、少なくとも1種類の疎水性モノマーと、少なくとも1種類のノニオン性親水性モノマーと、カチオン性親水性モノマーとを含むモノマー成分からなる共重合体を含んでなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の分散性色材。
【請求項10】
前記ノニオン性親水性モノマーが、少なくともアルキレンオキサイド基を有するノニオン性親水性モノマーを含有する請求項9に記載の分散性色材。
【請求項11】
前記扁平状荷電性樹脂擬似微粒子を構成する共重合体のガラス転移温度が、−100℃以上0℃以下である請求項9又は10に記載の分散性色材。
【請求項12】
前記疎水性モノマーが、少なくとも下記構造式(1)で示されるアクリル酸エステル化合物を含有する請求項9〜11のいずれか1項に記載の分散性色材。
(1)CH2=CH−COOCn(2n+1) 3≦n≦10
【請求項13】
請求項1〜3及び9〜12のいずれか1項に記載の分散性色材を得るための製造方法において、水不溶性色材の分散水溶液中にて、カチオン性或いは両性水性ラジカル重合開始剤を用いてラジカル重合性モノマーを水系析出重合することによって、前記色材と前記扁平状荷電性樹脂擬似微粒子とを融着させる工程を有することを特徴とする分散性色材の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜7及び9〜12のいずれか1項に記載の分散性色材を含んでなることを特徴とする水性インク。
【請求項15】
インクジェット記録用である請求項14に記載の水性インク。
【請求項16】
請求項14又は15に記載の水性インクを含んでなることを特徴とするインクタンク。
【請求項17】
請求項15に記載の水性インクを用いて、インクジェット記録画像を形成することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項18】
請求項15に記載の水性インクを用いて、インクジェット記録装置により画像を形成することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項19】
請求項15に記載の水性インクを用いて、インクジェット記録装置により形成されることを特徴とするインクジェット記録画像。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−37082(P2006−37082A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181096(P2005−181096)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.バブルジェット
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】