説明

分散樹脂組成物、硬化性組成物及び懸濁粒子デバイス用フィルム

【課題】高温で長時間使用した場合にもコントラスト低下が小さい、耐熱性に優れたSPDが得られる、偏光粒子を分散させるための分散樹脂組成物を提供する。前記分散樹脂組成物を含有する、コントラストの耐熱性低下が小さいSPDが得られる硬化性組成物及びSPD用フィルムを提供する。
【解決手段】炭素原子数8〜18のモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(A)とメタクリロイル基を有するlogP=−5〜0の重合性モノマー(B)との共重合体(X)とを含有してなる懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物、(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂、偏光性粒子及び前記の懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物を含有する懸濁粒子デバイス用硬化性組成物、これら懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物または懸濁粒子デバイス用硬化性組成物を用いた懸濁粒子デバイス用フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
光弁(Light Valve)のうち、電圧により配向を変える粒子を懸濁した組成物を利用したデバイスを懸濁粒子デバイス(Suspended Particle Device、以下、SPDという場合がある)という。本発明は、この懸濁粒子デバイスに用いられる、分散樹脂組成物、硬化性組成物及び懸濁粒子デバイス用フィルムに関する。
【0002】
さらに詳しくは、懸濁粒子デバイスにおいて、偏光性粒子を懸濁させて液泡とする際に用いる、SPDを調製した際に高い耐熱性の発揮を可能とする懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物、該懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物を用いて偏光性粒子を懸濁させた液泡を、硬化性分散媒に分散させてなる硬化性組成物、及び該硬化性組成物を硬化してなる懸濁粒子デバイス用フィルムに関する。
【背景技術】
【0003】
SPDは、電界印加の有無により光の透過率が変化することによって、全体入射光量の調整が可能な光弁である。つまりSPDは光の遮蔽、透過を制御する働きを有する。SPDのマトリクス中において、無秩序な懸濁状態となっていた偏光性粒子は、電圧を加えると電場が形成され、粒子自体の配向性によって、配向する。電界印加下で配向した偏光性粒子を有する液泡は光を透過する。ここで、電圧をかけない状態に戻すと、配向していた偏光性粒子は再度無秩序に分散し、液泡は光透過性を失う。例えば透明導電性基板を通じて偏光性粒子に電界印加することによって、光の透過/遮断を制御するデバイスとすることができる。このような電圧のON/OFFによって、光の透過、遮断を行う材料は次世代調光材料として期待されている。
【0004】
SPDのマトリックスは、例えば、第一に光の透過、遮断を可能とする、アルカリ土類金属過沃化物と含窒素複素環式化合物との分子間化合物からなる偏光性粒子及び液状で透明な(メタ)アクリレート樹脂とからなる液泡と、第二に、液泡に対して相溶し難い、シリコーン樹脂からなる分散媒とから構成されている。
【0005】
このようなSPDを所望の形状で得るために、前記した第二の成分であるシリコーン樹脂として、必要な形状に保っての硬化が可能となるよう、(メタ)アクリロイル基を有するシリコーン樹脂が用いられている。
【0006】
加工成形前に、流動性を有し液状である(メタ)アクリロイル基を有するシリコーン樹脂を硬化することで、液泡が点在する状態で内包されたマトリックスを形成とすることができる。この硬化により、分散媒であるシリコーン樹脂だけは固体となり流動性が無くなるが、該液泡は流動性があるため、電界印加によって液泡中の偏光性粒子は配向することができる。このようにして光透過/遮断が可能な調光材料が得られる。
【0007】
SPDにおいて良好な光透過/遮断制御を行なおうとする場合、液泡の平均径を1〜10μmとする必要があるし、より短時間で液泡を分散媒に乳化分散できること、分散後は長時間に亘って安定であること等が生産性の観点からも好ましい。
【0008】
この様な条件の下、偏光性粒子を分散樹脂に分散させて安定的な液泡を得る手段として、この分散樹脂として、例えば、ラウリル(メタ)アクリレート−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート共重合体の様な液状で透明な(メタ)アクリレート樹脂を用いることが知られている(特許文献1〜2)。
【0009】
しかしながら、上記した様な液状で透明な(メタ)アクリレート樹脂を用いて液泡を調製した後SPDを調製すると、常温では長時間の使用においては、SPDのコントラスト低下は小さいものの、高温で長時間使用した場合には、そのコントラストが著しく低下するという欠点を有している。このコントラストの低下は、より過酷な条件下でSPDを使用した場合の、光透過と光遮断の濃淡差の低下、即ちシャッター効果の劣化に繋がるものである。
【0010】
【特許文献1】特開2005−300962公報
【特許文献2】特開2007−520577公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、液泡と分散媒を含有するSPD用硬化性組成物の調製時において、液泡を調製する際に用いると、高温で長時間使用した場合にもコントラスト低下が小さい、耐熱性に優れたSPDが得られる、偏光粒子を分散させるための分散樹脂組成物を提供することを課題とする。
また本発明は、このような分散樹脂組成物を含有する、コントラストの耐熱性低下が小さいSPDが得られる硬化性組成物及びSPD用フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記した課題に鑑みて、液泡調製のための、液状で透明な(メタ)アクリレート樹脂として用いる分散樹脂組成物を構成する重合体の化学構造につき鋭意検討した結果、従来のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの様な単量体に代えて、特定の親水性を有する単量体を用いる様にすると、すなわち、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと長鎖モノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルからなる共重合体に代えて、特定の親水性を有する単量体と長鎖モノアルコールと(メタ)アクリル酸とからなる共重合体を用いると、高温で長時間使用した場合にもコントラスト低下が小さい、耐熱性に優れたSPDが得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち本発明は、炭素原子数8〜18のモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(A)とメタクリロイル基を有するlogP=−5〜0の重合性モノマー(B)との共重合体(X)とを含有してなる懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物を提供する。
また本発明は、(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂、偏光性粒子及び上記の懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物を含有する懸濁粒子デバイス用硬化性組成物を提供する。
さらに本発明は、上記の懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物または懸濁粒子デバイス用硬化性組成物を用いた懸濁粒子デバイス用フィルムを提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物は、共重合体を構成するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート代替の単量体がメタクリロイル基を有するlogP=−5〜0の重合性モノマーであるため、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを用いて得た共重合体からなる分散樹脂組成物に比べて親水バランスにより優れ、これを用いて調製した液泡と分散媒とからSPDを調製したとき、コントラストの耐熱性低下が小さいSPDが得られるという格別顕著な効果を奏する。
このような分散樹脂組成物を含有してなる本発明の懸濁粒子デバイス用硬化性組成物は、コントラストの耐熱性低下が小さいSPDが得られるという格別顕著な効果を奏する。
また、このような分散樹脂組成物または硬化性組成物を用いた本発明の懸濁粒子デバイス用フィルムは、耐熱性低下が小さいという格別顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物は、炭素原子数8〜18のモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(A)とメタクリロイル基を有するlogP=−5〜0の重合性モノマー(B)との共重合体(X)とを含有してなることを特徴とする。尚、本発明において(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸の総称であり、(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートの総称である。
【0016】
この共重合体(X)からなる液状(メタ)アクリレート樹脂は、後記する(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂と出来るだけ同一の屈折率となる様にすることで、両者間の屈折率差を無くし、透明性を高めることが出来る。
【0017】
この液状(メタ)アクリレート樹脂を調製する際の、炭素原子数8〜18のモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(A)としては、例えば、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。液状(メタ)アクリレート樹脂が、側鎖に、炭素原子数8〜18という様な長鎖アルキル基を含有する重合体である場合には、それより炭素原子数が小さいアルキル基を含有する共重合体に比べて、樹脂粘度をより低く抑えることができるため、それを用いた際のSPDにおける偏光性粒子の応答速度をより速くすることが出来る。
【0018】
一方、前記エステル(A)と共重合すべき単量体は、メタクリロイル基を有するlogP=−5〜0の重合性モノマー(B)である。本発明においてlogPとは、オクタノール−水分配係数を意味する。このオクタノール−水分配係数は、有機化合物の親水性、疎水性の程度の一つの指標となるものであって、それがマイナスの値をとることは、その有機化合物が親水性に優れていることを意味する。
近年、以下の文献にある通り、このlogPの有機化合物の化学構造からの算術的試算が試みられ、実測値とその算術計算値との間に略一致或いは強い相関が認められることがわかってきた。
【0019】
W.H.Meylan, P.H.Howard, Atom/Fragment Contribution Method for Estimating Octanol-Water Partition Coefficients, Journal of Pharmaceutical Sciences, 84(1), 83-92(1995).
【0020】
以下、Atom/Fragment Contribution Methodを、AFC法という。このAFC法によれば、下式によりlogPは、有機化合物の化学構造のAtom/Fragment が持つ固有の定数(fi)と、それに対応するAtom/Fragment が化学構造中に含まれている個数(ni)の積算値と定数(b)との和にて表される。
【0021】
【数1】

【0022】
ここでAFC法におけるAtom/Fragment が持つ定数(fi)のうち、代表的なAtom/Fragmentの定数(fi)を以下に列記する。
【0023】
【表1】

【0024】
具体的に、2つの化合物について例示する。最初の例は、以下の化学構造の単量体(n=9)であり、次に示すようにlogP=−1.19と求められる。
【0025】
【化1】

【0026】
【表2】

【0027】
次の例は、以下の化学構造の単量体(m=1)であり、2−ヒドロキシエチルメタクリレートである。同様の計算により、logP=0.30と求められる。
【0028】
【化2】

【0029】
本発明において、耐熱性の維持に必須な成分であるメタクリロイル基を有するlogP=−5〜0の重合性モノマー(B)としては、エチレンレンオキシドの繰り返し単位を含有するメタクリレートモノマーがあり、例えば、日油(株)製ブレンマーPME−400(AFC法によるlogP=−1.19)、同ブレンマーPE−200(同logP=−0.52)等が挙げられる。
【0030】
重合性モノマー(B)が、メタクリロイル基を有するものである場合には、アクリロイル基を有するものである場合に比べて、フリーラジカルによる水素引き抜きが起こり難く、共重合体(X)の分解も起こり難くなるため、耐光性に優れたものとなる。
【0031】
本発明おける共重合体(X)は、エステル(A)と重合性モノマー(B)とを必須成分として共重合することにより得ることが出来る。これらの共重合割合は特に制限されるものではないが、エステル(A)と重合性モノマー(B)との合計を100モル%としたとき、両者仕込み時のモル比〔(A):(B)〕が、99:1〜85:15中でも98:2〜96:4で重合を行なった共重合体であることが、得られるSPDのコントラストの耐熱性に優れる点で好ましい。
【0032】
本発明おける共重合体(X)は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であっても良い。また共重合体(X)は、エステル(A)と重合性モノマー(B)との二元共重合体であっても、エステル(A)と重合性モノマー(B)とエチレン性不飽和二重結合を含有するその他の単官能単量体(C)との三元以上の多元共重合体であっても良い。
【0033】
この様なエチレン性不飽和二重結合を含有するその他の単官能単量体(C)としては、例えばヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの様なヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0034】
共重合体(X)は、エステル(A)と重合性モノマー(B)と必要に応じてエチレン性不飽和二重結合を含有するその他の単官能単量体(C)とを公知慣用の製造方法にて共重合することで容易に得ることが出来る。この際の製造方法としては、例えば溶液重合、乳化重合、懸濁重合等が挙げられる。
【0035】
勿論、上記した通常のラジカル重合のほかに、ATRP(Atom Transfer Radical Polymerization)重合やRAFT(Reversible Addition Fragmentatio chain Transfer)重合等を用いてもよい。
【0036】
この際の重合開始剤としては、例えば有機アゾ化合物系重合開始剤や有機過酸化物系重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、例えばt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジt−ブチルパーオキサイド等を使用することが出来る。
【0037】
重合開始剤の使用量は、重合性成分の合計量に対し0.01〜15質量%が好ましく、さらに好ましくは0.1〜10質量%である。共重合の際の温度としては、50〜150℃が好ましく、さらに好ましくは温度100〜140℃であり、重合時間は通常2〜25時間が好ましい。共重合体(X)の分子量を調整するに当たっては公知慣用のメルカプト系連鎖移動剤を併用することが出来る。連鎖移動剤としては、例えばn−オクチルメルカプトプロピオネートや2 − エチルヘキシルメルカプトプロピオネート等を使用することが出来る。
【0038】
共重合体(X)を溶液重合法で調製する際に使用する有機溶剤としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドおよびヘキサメチルホスホアミド等を挙げることができる。
【0039】
こうして得られた共重合体(X)が、液泡中で後記する偏光性粒子の分散樹脂として機能するためには、重量平均分子量8,000〜30,000、中でもより充分な分散性を得る観点から10,000〜25,000であることが好ましい。この重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)法により測定することができる。
【0040】
液胞は、偏光性粒子及び共重合体(X)を含有する分散樹脂組成物からなる液状(メタ)アクリレート樹脂とからなる。
【0041】
偏光性粒子としては、公知慣用のもの、例えばアルカリ土類金属過沃化物と含窒素複素環式化合物(粒子の前駆体)との分子間化合物(ポリ沃化物の針状小結晶粒子)が挙げられる。より具体的には、沃素と沃化カルシウムからなるポリ沃化物とピラジンジカルボン酸とから構成された分子間化合物があり、一般式 CaI(C・ZHO(x:3〜7、y:1〜2、Z:1〜3)で表される。この様な分子間化合物は、沃素と、アルカリ土類金属沃化物と、含窒素複素環式化合物とをニトロセルロースの様な分散剤の存在下、溶媒中で反応させることにより得られる。
【0042】
上記で得られた共重合体(X)を含有する分散樹脂組成物からなる液状(メタ)アクリレート樹脂に対して偏光性粒子を分散させることで、液泡を調製することが出来る。本発明の分散樹脂組成物に対して、上記した偏光性粒子を分散させることで液泡を調製することが出来る。偏光性粒子としてその溶媒分散液を用いた場合は、この分散樹脂組成物と偏光性粒子の溶媒分散液とを混合した後に、溶媒の除去を行なって、液泡とする。
【0043】
こうして得られた共重合体(X)は、懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物として、後記する偏光性粒子と混合して液泡を形成させることが出来る。懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物は、共重合体(X)のみであっても良いが、この共重合体(X)と、炭素原子数8〜18のモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(A)とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの共重合体(Y)とを含有するものであっても良い。従来、特許文献1〜2で用いられていた分散樹脂は、共重合体(Y)のみであり、共重合体(X)を必須成分として含有していないため、耐熱性の低下が著しい。
【0044】
偏光性粒子を液状で透明な分散樹脂に分散させた液泡を調製するに当たっては、共重合体(X)と共重合体(Y)とを混合して予め分散樹脂組成物を調製して、これと偏光性粒子とを混合しても、予め分散樹脂として共重合体(X)と偏光性粒子とを混合し分散させてから、それに共重合体(Y)を混合し更に分散させても良い。
【0045】
懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物を構成する、共重合体(X)と共重合体(Y)との含有割合は特に制限されるものではないが、SPDのコントラストの耐熱性を高めるだけでなく、SPDの応答速度を高め、更に取り扱いやすい低粘度とするためには、不揮発分の質量換算で、共重合体(X)/共重合体(Y)=10/90〜30/70となる様に両者を用いることが好ましい。
【0046】
次に本発明における懸濁粒子デバイス用硬化性組成物について説明する。本発明の懸濁粒子デバイス用硬化性組成物は、偏光性粒子、共重合体(X)を含有してなる懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物及び(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂を含有するものである。
【0047】
SPDを作製する際の分散媒としては、液泡の分散安定性、フィルム化した後の液泡との相分離状態の安定性、透明性、液泡成分との屈折率差、硬化性、ないしは硬化後の柔軟性の点から、従来シリコーン樹脂が用いられている。特に、分子中に(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂は、例えば光重合開始剤の存在下で紫外線を照射すると硬化する性質を有しているので、硬化成形可能な分散媒となる。
【0048】
本発明の懸濁粒子デバイス用硬化性組成物は、液泡が粒子として分散媒中に分散した形態がとれれば、どちらにどちらを加えて分散を行なっても良い。つまり、本発明の懸濁粒子デバイス用硬化性組成物は、液泡中に、(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂を加える様にして分散させても、その逆に、(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂中に液泡を加える様にして分散させても、調製することが出来る。懸濁粒子デバイス用硬化性組成物を調製するに当たっては、例えば、シリコン界面活性剤やシリコーンポリマー型乳化剤を必要に応じて併用することが出来る。好適なシリコーンポリマー型乳化剤としては、例えば、直鎖状オルガノポリシロキサンの片末端に(メタ)アクリロイル基を有する構造の単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマーと、長鎖モノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルとの共重合体が挙げられる。
【0049】
これら各成分を混合するに当たっては、通常の混合機、攪拌機、分散機でも十分安定な硬化性組成物が得られるが、分散時間と分散物の乳化安定性の面から、乳化機として市販されているホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、スタティックミキサーなどを用いることが好ましい。
【0050】
尚、分散媒である(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂と、液泡である偏光性粒子が分散した分散樹脂組成物とは、任意の割合で用いることが出来るが、(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂の硬化物が連続相を形成し、その連続相中に液泡が粒子として点在して分散する様な構造形態にすることで、調光特性の良好なSPDを作製出来ることから、質量換算で(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂100部当たり、液胞(偏光性粒子を含む分散樹脂組成物との合計)は20〜100部となる様に用いることが好ましい。硬化後の連続相に分散した点在する個々の液泡は、硬化物の固体マトリックス中に液滴として存在しているため、液泡中の偏光性粒子も何ら拘束はされておらず流動性を維持しており、電界印加により配向が出来るようになっている。
【0051】
分散媒中における液泡の平均径は、1〜10μmとなる様にすることが好ましい。この平均径は、光学顕微鏡で確認することができる。液泡は偏光性粒子により着色しており、一方、分散媒が無色透明である場合には、着色した液泡の径を測定することが出来る。この液泡は時間と共に合一して径が増加するため、その時間変化を追跡することで乳化安定性を評価することが可能である。
【0052】
懸濁粒子デバイス用硬化性組成物は、任意の方法にて硬化させることが出来る。この硬化により、分散媒である(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂が重合硬化し、偏光性粒子が分散した分散樹脂組成物からなる液泡が重合硬化物に固定されSPDが作製される。(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂を硬化させるためには、熱や、紫外線や電子線の様な活性エネルギー線を用いることができる。熱源よりも光源を用いた活性エネルギー線硬化のほうが、省エネルギーに貢献でき短時間での硬化が容易であるため、光源を用いて活性エネルギー線を照射して硬化することが好ましい。紫外線を用いる場合は、照射光の波長でラジカルを発生するエネルギー線重合開始剤を併用したり窒素パージしたりすることで、硬化性はより良好になる。
【0053】
活性エネルギー線重合開始剤としては、水素引き抜き型、直接開裂型のいずれも使用できるが、硬化速度の面から直接開裂型のアリールアルキルケトン系、オキシム系、アシルフォスフィンオキサイド系、メタロセン系が好ましい。特に分散媒が(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂の場合は、アシルフォスフィンオキシド系重合開始剤を用いることが好ましい。アシルフォスフィンオキサイド系としてはビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(同IRGACURE 819),2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(BASF社製Lucirin TPO),2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルフォスフィンオキサイド(同Lucirin TPO−L)が挙げられる。また、上記重合開始剤は二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0054】
本発明のSPD用硬化性組成物には、後記するSPD用フィルムの効果を阻害しない範囲で、前記した活性エネルギー線重合開始剤の他、紫外線吸収剤や酸化防止剤、安定剤、粘着付与剤、離型剤等の添加剤を添加することが出来る。
【0055】
本発明のSPD用硬化性組成物の性状は、25℃において液状であり、流動性を示すものであることがSPDを作製する際の作業性が良好であるため好ましい。
【0056】
本発明のSPD用硬化性組成物は、液状であると、塗布、吐出、あるいは注型等の方法で容易に任意形状とすることができ、これを硬化すれば所望の形状のSPDを容易に得ることが出来る。
【0057】
本発明のSPD用硬化性組成物の、硬化後の硬化物の性状は、全体として25℃において固体状であり流動性を示さないことが、取扱いが良好であるため好ましい。
【0058】
本発明の懸濁粒子デバイス用硬化性組成物は、例えば透明電極を蒸着した透明プラスチックフィルムの間で硬化させることで、SPD用フィルムとすることが出来る。この様な透明プラスチックフィルムとしてはPETフィルムを、透明電極としてはITO電極をそれぞれ用いることが出来る。
【0059】
この場合、本発明の懸濁粒子デバイス用硬化性組成物を、透明電極を蒸着した透明プラスチックフィルムに塗布した後、その上に透明電極を蒸着した透明プラスチックフィルムを重ね合わせてから、その外側から活性エネルギー線や熱によって、透明フィルムと透明電極の間にある(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂を硬化させて、SPD用フィルムとすることが出来る。透明プラスチックフィルムを用いることで、透明ガラスを用いるよりも可撓性に優れたSPDを作製することが出来る。これを成型加工し、調光材料として使用することができる。
【0060】
こうして得られた調光フィルムは、例えば、室内外の仕切り(パーティション)、建築物用の窓硝子/天窓、電子産業及び映像機器に使用される各種平面表示素子、各種計器板と既存の液晶表示素子の代替品、光シャッター、各種室内外広告及び案内表示板、航空機/鉄道車両/船舶用の窓硝子、自動車用の窓硝子/バックミラー/サンルーフ、眼鏡、サングラス、サンバイザー等の用途に使用することが出来る。
【0061】
以下、製造例、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【実施例1】
【0062】
滴下ロート、温度センサー、窒素導入管、ジムロートコンデンサーを備えた500mL4つ口フラスコにトルエン(国産化学(株)製試薬一級)を50mL仕込み、磁気攪拌子を用い攪拌しながら、室温にて窒素を30分間トルエンにバブリングさせ、系内を窒素置換した。ついで窒素導入管を少し引き上げてバブリングさせずに導入するようにすると同時に、オイルバスによる加熱を開始した。
系内が還流状態になったのを確認した後、ドデシルメタクリレート(和光純薬(株)製試薬一級)48.85g、ブレンマーPME−400(日油(株)製)4.34g、重合開始剤パーブチルO(日油(株)製) 2.49gの混合液を12分間かけて滴下した。このときフラスコ内温は124℃に上昇した。さらに加熱還流を3時間継続し、重合反応を進行させた。このとき、内温は124℃から131℃に上昇した。
反応終了後、60℃、2hPa、1時間の条件にて、エバポレーターを用いてトルエンを除去した。透明の油状物が54.11g得られた。ついで得られた油状物を、200℃、2Paの条件下で薄膜蒸留により揮発性不純物を除去して、本発明の分散樹脂組成物(X−1)を得た。
【実施例2】
【0063】
実施例1と同様にして系内が還流状態になったのを確認した後、ドデシルメタクリレート(和光純薬(株)製試薬一級)48.85g、ブレンマーPE−200(日油(株)製)2.27g、重合開始剤パーブチルO(日油(株)製) 4.98gの混合液を15分間かけて滴下した。このときフラスコ内温は122℃に上昇した。さらに加熱還流を3時間継続し、重合反応を進行させた。このとき、内温は122℃から131℃に上昇した。
反応終了後、60℃、2hPa、1時間の条件にて、エバポレーターを用いてトルエンを除去した。透明の油状物が52.27g得られた。ついで得られた油状物を、200℃、2Paの条件下で薄膜蒸留により揮発性不純物を除去して、本発明の共重合体からなる分散樹脂組成物(X−2)を得た。
【0064】
〔比較例1〕
実施例1と同様にしてオイルバス温度が142〜145℃に達し系内が還流状態になったのを確認した後、ドデシルメタクリレート(和光純薬(株)製試薬一級)122.10g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(和光純薬(株)製試薬一級)2.60g、N−オクチル3−メルカプトプロピオネート(日油(株)製連鎖移動剤、品名NOMP)16.00g、t−ブチルペルオキシ2−エチルヘキサノエート(日油(株)製有機過酸化物系重合開始剤、品名パーブチルO)12.50gの混合液を1時間かけて滴下した。さらに加熱還流を4時間継続し、重合反応を進行させた。
加熱を止め、60℃、2hPa、1時間の条件にて、エバポレーターを用いてトルエンを除去した。こうして、透明の油状物が147.85g得られた。ついで得られた油状物を、200℃、2Paの条件下で薄膜蒸留により揮発性不純物を除去して、従来の共重合体からなる分散樹脂組成物(Y)を得た。
【0065】
<偏光性粒子の製造例>
温度センサーを備えた500mL4つ口フラスコに10%のニトロセルロース(エス・エヌ・ピー・イー・ジャパン(株)製HIG1/16)を酢酸イソアミルに溶解した溶液265g、メタノール4.00g、純水(所要量は1.77gからニトロセルロースの酢酸イソアミル溶液、沃化カルシウム、メタノール中の水分を差し引き算出した)、沃化カルシウム5.30g、沃素9.00gを加え、45℃に保持した湯浴に漬けて1時間攪拌することによって沃化カルシウム、沃素を完全に溶解した。この溶液に、ピラジン− 2,5 −ジカルボン酸2水和物6.00gを投入し、同温度で攪拌を3時間継続し、さらに超音波分散機で2時間分散した(予備分散液)。
予備分散液を遠心分離機に入れ、12,000Gの重力で3時間遠心分離し、偏光性粒子を沈降させた。上澄みを廃棄し、沈降物に酢酸イソアミルを75g加えて超音波分散機で2時間分散し、再度遠心分離機に入れ、12,000Gの重力で2時間遠心分離し、偏光性粒子を沈降させた。上澄みを廃棄し、沈降物に酢酸イソアミルを75g加えて超音波分散機で2時間分散し、偏光性粒子分散液を製造した。
【0066】
<(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂の製造例>
温度センサー、ディーンスタークトラップを備えた2Lの4つ口フラスコに未精製量末端シラノール基ジメチルジフェニルシロキサンコポリマー158g、3−アクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン20g、ヘプタン800mlを投入し、磁気攪拌子を用い攪拌しながら、75分間加熱還流を行なった。留出水は0.4mlであった。一旦90℃に冷却し、2−エチルヘキサン酸スズ(II)66mgを少量のヘプタンに溶解した溶液に加え、再び105分間加熱還流し脱水を行なった。留出水は1.6mlであった。次いで、ディーンスタークトラップの冷却管上部より、メトキシトリメチルシラン120mlを注意深く加えた。2時間還流を継続後、冷却・部分的に脱溶剤を行い、無色透明油状の粗シリコーン樹脂316gを得た。該粗シリコーン樹脂を560gのメタノールで4回洗浄し、脱溶剤を行って、無色透明油状のアクリロイル基を含有するシリコーン樹脂166gを得た。
このアクリロイル基を含有するシリコーン樹脂は、ジメチルポリシロキサンとジフェニルポリシロキサンの両方の構造を同時に含有しているオルガノポリシロキサンであり、その重量平均分子量は52,000であった。
【0067】
<乳化剤の製造例>
滴下ロート、温度センサー、窒素導入管、ジムロートコンデンサーを備えた500mL4つ口フラスコにトルエン(国産化学(株)製試薬一級)を50mL仕込み、磁気攪拌子を用い攪拌しながら、室温にて窒素を30分間トルエンにバブリングさせ、系内を窒素置換した。ついで窒素導入管を少し引き上げてバブリングさせずに導入するようにすると同時に、オイルバスによる加熱を開始した。
系内が還流状態になったのを確認した後、ドデシルメタクリレート(和光純薬(株)製試薬一級)68.38g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(和光純薬(株)製試薬一級)1.46g、シリコーンマクロモノマーLSF−240(信越化学(株)製、品名X−22−174DX)29.30g、日油(株)製NOMP 6.40g、日油(株)製パーブチルO 4.98gのモノマー混合液を17分間かけて滴下した。このときフラスコ内温は132℃に上昇した。さらに加熱還流を3時間継続し、重合反応を進行させた。このとき、内温は132℃から141℃に上昇した。
反応終了後、60℃、2hPa、1時間の条件にて、エバポレーターを用いてトルエンを除去した。透明の油状物が106.72g得られた。ついで得られた油状物を、200℃、2Paの条件下で薄膜蒸留により揮発性不純物を除去して、直鎖状オルガノポリシロキサンの片末端に(メタ)アクリロイル基を有する構造の単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマーと、長鎖モノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルとの 共重合体からなる乳化剤を得た。
【実施例3】
【0068】
200mLビーカーに上記実施例1で得た分散樹脂組成物25g、トリメリット酸トリイソデシル13g、パーフルオロスベリン酸ジメチル1g、上記で得た偏光性粒子分散液33gを加え、攪拌機により30分間混合した。次いで、酢酸イソアミルをロータリーエバポレーターにて1,330Paの真空で70℃、3時間減圧除去し、偏光性粒子が分散された分散樹脂組成物を得た。
【実施例4】
【0069】
上記実施例1で得た分散樹脂組成物に代えて、上記実施例2で得た分散樹脂組成物の不揮発分の質量換算で同量となる様に用いる以外は、実施例3と同様にして、偏光性粒子が分散された分散樹脂組成物を得た。
【実施例5】
【0070】
200mLビーカーに上記実施例1で得た分散樹脂組成物5g、トリメリット酸トリイソデシル13g、パーフルオロスベリン酸ジメチル1g、製造例1で得た偏光性粒子分散体33gを加え、攪拌機により30分間混合した。次いで、酢酸イソアミルをロータリーエバポレーターにて1330Paの真空で70℃、3時間減圧除去し、さらに比較例1で得た分散樹脂組成物20gを加え、十分に混合して偏光性粒子が分散された分散樹脂組成物を得た。
【実施例6】
【0071】
<懸濁粒子デバイス用硬化性組成物の製造例>
上記で得られたアクリロイル基を含有するシリコーン樹脂150gに、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(チバ・スペシャリティ・ケミカル社製 Irgacure 819)0.45gを溶解させた後、上記で得られた乳化剤3gを混合し、さらに実施例3で得た偏光性粒子を含む分散樹脂組成物60gを加え、プライミクス社製T.K.ホモミキサーM型を用いて25℃で攪拌を開始し、1,400rpmに調整した。液温は50℃で安定した。そのまま4時間攪拌して、懸濁粒子デバイス用硬化性組成物を調製した。
<懸濁粒子デバイス用フィルムの調製>
こうして得られた硬化性組成物を、直ちにITO蒸着PETフィルムのITO蒸着面に3milのアプリケーターで塗布し、ITO蒸着PETフィルムと同じ大きさのITO蒸着PETフィルムを重ね合わせた。5J/cmの紫外線を照射して分散媒のアクリロイル基を重合させ、懸濁粒子デバイス用フィルムを作製した。
【実施例7】
【0072】
実施例3で得た偏光性粒子を含む分散樹脂組成物に代えて、実施例4で得た偏光性粒子を含む分散樹脂組成物の同量を用いる以外は、実施例6と同様にして、懸濁粒子デバイス用硬化性組成物及び懸濁粒子デバイス用フィルムを得た。
【実施例8】
【0073】
実施例3で得た偏光性粒子を含む分散樹脂組成物に代えて、実施例5で得た偏光性粒子を含む分散樹脂組成物の同量を用いる以外は、実施例6と同様にして、懸濁粒子デバイス用硬化性組成物及び懸濁粒子デバイス用フィルムを得た。
【0074】
〔比較例2〕
実施例1と同様にして系内が還流状態になったのを確認した後、ドデシルメタクリレート(和光純薬(株)製試薬一級)48.84g、ヒドロキシエチルメタクリレート(和光純薬(株)製試薬一級)1.04g、重合開始剤パーブチルO(日油(株)製)4.99gの混合液を13分間かけて滴下した。このときフラスコ内温は122℃に上昇した。さらに加熱還流を3時間継続し、重合反応を進行させた。このとき、内温は122℃から131℃に上昇した。
反応終了後、60℃、2hPa、1時間の条件にて、エバポレーターを用いてトルエンを除去した。透明の油状物が51.93g得られた。ついで得られた油状物を、200℃、2Paの条件下で薄膜蒸留により揮発性不純物を除去して、分散樹脂組成物を得た。
【0075】
200mLビーカーに上記比較例1で得た分散樹脂組成物25g、トリメリット酸トリイソデシル13g、パーフルオロスベリン酸ジメチル1g、上記で得た偏光性粒子分散液33gを加え、攪拌機により30分間混合した。次いで、酢酸イソアミルをロータリーエバポレーターにて1,330Paの真空で70℃、3時間減圧除去し、偏光性粒子が分散された分散樹脂組成物を得た。
【0076】
次いで実施例3で得た偏光性粒子を含む分散樹脂組成物に代えて、上記で得た偏光性粒子を含む分散樹脂組成物の同量を用いる以外は、実施例6と同様にして、懸濁粒子デバイス用硬化性組成物及び懸濁粒子デバイス用フィルムを得た。
【0077】
こうして上記で得られた各フィルムについて、コントラスト、応答速度及び耐熱性を下記の要領で測定した。
【0078】
コントラスト;
SPD用フィルムは、二つの電極の間に挟持した状態で電圧をかけることによって偏光性粒子が配向し、光の非透過の状態から光が透過する状態とすることができる。この方法において、電圧をかける状態をON、電圧をかけない状態をOFFと定義すると、ONとOFFのそれぞれの状態で得られる光の透過率の差をコントラストと称し、ΔT(%)にて表した(常態におけるコントラスト)。SPDとして実用上利用可能なコントラスト(ΔT)は50%以上であることが好ましい。ON−OFF時のそれぞれの光透過率は、(株)東洋精機製作所製Haze−Gard IIで測定した。尚、コントラスト測定時の印加電圧は100V、400Hzとした。
【0079】
応答速度;
上記で得られた各フィルムについて、電圧ONの状態からOFFの状態にしてから10秒後のコントラストΔTを測定し(10秒後のコントラスト)、「10秒後のコントラスト」と「常態におけるコントラスト」の比を応答速度(10秒後の回復率)と称した。応答速度の%の値が大きいほどスイッチ速度は速く、電気特性は良好である。SPDとして実用上不快を生じない応答速度は90%以上である。
【0080】
耐熱性;
上記で得られた各フィルムを、110℃の乾燥機に放置し、2,000時間まで、任意の時間間隔で、放置した各フィルムを同時に取り出し、ヘイズメーターにて、コントラストΔTをそれぞれ測定し、時間−コントラストをXY座標として、グラフ用紙にプロットを行なった。
そして、それぞれのフィルムについて、常態におけるコントラスト(ΔT)値からコントラストが10%減少するまでの時間を求めた。常態におけるコントラスト(ΔT)値からコントラストが10%減少するまでの放置時間が長いほど、そのSPDは、熱履歴前後のコントラストの差が小さく、耐熱性に優れる。
【0081】
こうして測定されたそれぞれの項目について、測定値を表3に示した。
【0082】
表3
【0083】
【表3】

【0084】
上記表1の結果からわかる通り、本発明の分散樹脂組成物を用いて製造した偏光性粒子を含むSPD用硬化性組成物から作製した実施例6のSPD用フィルムは、従来の分散樹脂組成物を用いて得たSPD用硬化性組成物から作製した比較例2のSPD用フィルムに比べて、コントラストが10%低下するまでの時間が大幅に向上しており、耐熱性が格段に高いことがわかる。
また、実施例6と実施例8との対比からわかる通り、炭素原子数8〜18のモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(A)とメタクリロイル基を有するlogP=−5〜0の重合性モノマー(B)との共重合体(X)からなる本発明の分散樹脂組成物と、炭素原子数8〜18のモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(A)とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(C)との共重合体(Y)からなる従来の分散樹脂組成物とを併用して、予め本発明の分散樹脂組成物と偏光性粒子とを混合し分散させてから、それに従来の分散樹脂組成物を混合し更に分散させた実施例8の混合分散樹脂組成物は、本発明の分散樹脂組成物だけを用いて偏光性粒子とを混合し分散させた分散樹脂組成物に比べて、SPDを調製した時は、コントラストの耐熱性が高まるだけでなく、SPDの応答速度をも高まっていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原子数8〜18のモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(A)とメタクリロイル基を有するlogP=−5〜0の重合性モノマー(B)との共重合体(X)とを含有してなる懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物。
【請求項2】
共重合体(X)が、重量平均分子量8,000〜30,000の共重合体である請求項1記載の懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物。
【請求項3】
炭素原子数8〜18のモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(A)とメタクリロイル基を有するlogP=−5〜0の重合性モノマー(B)との共重合体(X)と、炭素原子数8〜18のモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(A)とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(C)との共重合体(Y)とを含有してなる懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物。
【請求項4】
共重合体(X)と共重合体(Y)との含有割合が、不揮発分の質量換算で、共重合体(X)/共重合体(Y)=10/90〜30/70である請求項3記載の懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物。
【請求項5】
(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂、偏光性粒子及び請求項1〜4のいずれか一項に記載の懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物を含有する懸濁粒子デバイス用硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物を用いた懸濁粒子デバイス用フィルム。
【請求項7】
請求項5記載の硬化性組成物を用いた懸濁粒子デバイス用フィルム。

【公開番号】特開2010−126623(P2010−126623A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302330(P2008−302330)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】