説明

分散物および熱線遮蔽材

【課題】長期にわたって分散安定性が良好であり、長期保存後でも優れた熱線遮蔽性能を有する熱線遮蔽材を形成することができる分散物の提供。
【解決手段】金属平板粒子と、メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造を有する化合物の少なくとも1種を含み、前記金属平板粒子が、少なくとも前記メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造を有する化合物を含む分散媒に分散されていることを特徴とする分散物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散物および熱線遮蔽材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素削減のための省エネルギー施策の一つとして、自動車や建物の窓に対する熱線遮蔽性付与材料が開発されている。熱線遮蔽性(日射熱取得率)の観点からは、吸収した光の室内への再放射(吸収した日射エネルギーの約1/3量)がある熱線吸収型より、再放射がない熱線反射型が望ましく、様々な提案がなされている。
【0003】
このような熱線遮蔽材として、特許文献1および2には、特定の形状の銀平板粒子を含む分散物を支持体上に塗布し、特定の傾き角で銀平板粒子を配向させることにより、反射波長選択性および反射帯域選択性が高く、可視光線透過性および電波透過性に優れた熱線遮蔽材が開示されている。特許文献1および2では、分散媒としてゼラチンを用いて銀平板粒子の分散物を調製している。
【0004】
また、特許文献3には、銀を含有する平板金属微粒子に対して、硫黄原子および/または窒素原子を1個以上有する分散ポリマーを用いて分散させた分散物を用いた、赤外線遮蔽フィルターが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US2011/0111210A1号公報
【特許文献2】特開2011−118347号公報
【特許文献3】特開2007−178915号公報
【特許文献4】特開2006−291347号公報
【特許文献5】特開2003−287834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜3では分散物の安定性については検討されていなかった。ここで、熱線遮蔽材に分散物を用いる場合、金属平板粒子が凝集せずに面配向することが品質安定性向上のために必要となり、また、廃却ロスを減少させて製造コストを改善させる観点からも分散物の長期安定性が必要となる。そこで、本発明者が特許文献1および2に記載の分散物について、1週間の長期安定性を検討したところ、不満が残ることがわかった。
【0007】
分散物の安定性を改善する方法として、特許文献4には、特定の粒径の銀粒子がメルカプト基を有する化合物で被包された分散物が記載されており、分散性および安定性に優れることが開示されている。しかしながら、同文献では金属粒子が平板状であるという熱線遮蔽材として用いるために必要な条件を満たす場合については、分散性や安定性については検討されていなかった。また、特許文献4では、そもそも分散物の安定性についても同文献の実施例では3日間の評価結果が開示されているに過ぎなかった。
また、特許文献5には、銀のハロゲン化塩について、平板状粒子のアスペクト比を高くするほど凝集が問題になるとの課題が記載されている。それに対し、同文献では、メルカプト基を有するポリマーを用いることで、粒子凝集が防止され、安定に平板状ハロゲン化銀乳剤を製造できる方法が記載されている。しかしながら、金属(0価)の銀についての応用については何ら検討されていなかった。
【0008】
以上のように、分散物が1週間の長期安定性に優れ、長期保存後も良好な分散性を維持し、長期保存後の分散液を用いても優れた熱線遮蔽性能を発揮できるような、分散物の安定性向上の技術開発が望まれていた。
本発明は、従来における前記諸問題を解決することを目的とする。すなわち、本発明が解決しようとする課題は、長期にわたって分散安定性が良好であり、長期保存後でも優れた熱線遮蔽性能を有する熱線遮蔽材を形成することができる分散物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者が上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特許文献1および2に記載の金属平板粒子のゼラチン一次分散物に対して精製(脱塩および脱ゼラチン)を行い、平板状の金属粒子を特定の構造の化合物を含む分散物に分散させた二次分散物とすることで、分散物の長期安定性が改善され、長期保存後に優れた熱線遮蔽性能を有する熱線遮蔽材を形成することができることを見出すに至った。
【0010】
本発明は、本発明者による前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下のとおりである。
[1] 金属平板粒子と、メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造を有する化合物の少なくとも1種を含み、前記金属平板粒子が、少なくとも前記メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造を有する化合物を含む分散媒に分散されていることを特徴とする分散物。
[2] [1]に記載の分散物は、前記金属平板粒子が、略六角形状〜略円盤形状の金属平板粒子であることが好ましい。
[3] [2]に記載の分散物は、前記略六角形状〜略円盤形状の金属平板粒子の平均粒子径が70nm〜500nmであることが好ましい。
[4] [2]または[3]に記載の分散物は、前記略六角形状〜略円盤形状の金属平板粒子のアスペクト比(平均粒子径/平均粒子厚み)が8〜40であることが好ましい。
[5] [1]〜[4]のいずれか一項に記載の分散物は、前記メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造を有する化合物が、水溶性であることが好ましい。
[6] [1]〜[5]のいずれか一項に記載の分散物は、前記メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造を有する化合物が、メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造を側鎖または末端基に有するポリマーであることが好ましい。
[7] [1]〜[6]のいずれか一項に記載の分散物は、前記メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造が、メルカプトテトラゾール基またはメルカプトトリアゾール基であることが好ましい。
[8] [1]〜[7]のいずれか一項に記載の分散物は、前記金属平板粒子が、少なくとも銀を含むことが好ましい。
[9] [1]〜[8]のいずれか一項に記載の分散物を、基板上に塗布して得られる金属粒子含有層を含むことを特徴とする熱線遮蔽材。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、長期にわたって分散安定性が良好であり、長期保存後でも優れた熱線遮蔽性能を有する熱線遮蔽材を形成することができる分散物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】図1Aは、本発明の熱線遮蔽材に含まれる平板粒子の形状の一例を示した概略斜視図であって、略円盤形状の平板粒子を示す。
【図1B】図1Bは、本発明の熱線遮蔽材に含まれる平板粒子の形状の一例を示した概略斜視図であって、略六角形状の平板粒子を示す。
【図2A】図2Aは、本発明の熱線遮蔽材において、金属平板粒子を含む金属粒子含有層の存在状態の一例を示した概略断面図である。
【図2B】図2Bは、本発明の熱線遮蔽材において、金属平板粒子を含む金属粒子含有層の存在状態を示した概略断面図であって、金属平板粒子を含む金属粒子含有層(基材の平面とも平行)と略六角形状〜略円盤形状の金属平板粒子の平面とのなす角度(θ)を説明する図を示す。
【図2C】図2Cは、本発明の熱線遮蔽材において、金属平板粒子を含む金属粒子含有層の存在状態を示した概略断面図であって、金属粒子含有層の熱線遮蔽材の深さ方向における金属平板粒子の存在領域を示す図である。
【図3】図3は、本発明の熱線遮蔽材において、金属平板粒子を含む金属粒子含有層の存在状態の他の一例を示した概略断面図である。
【図4】図4は、本発明の熱線遮蔽材において、金属平板粒子を含む金属粒子含有層の存在状態の他の一例を示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の分散物および熱線遮蔽材について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
[分散物]
本発明の分散物は、金属平板粒子と、メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造を有する化合物の少なくとも1種を含み、前記金属平板粒子が、少なくとも前記メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造を有する化合物を含む分散媒に分散されていることを特徴とする。
【0015】
−金属平板粒子−
本発明の分散物は、金属平板粒子を含み、前記金属平板粒子が、少なくとも前記メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造を有する化合物を含む分散媒に分散されている。
以下、金属平板粒子と、分散媒について説明する。
【0016】
−−材料−−
前記金属平板粒子の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、熱線(近赤外線)の反射率が高い点から、例えば銀、金、アルミニウム、銅、ロジウム、ニッケル、白金などが好適であり、より好ましくは銀である。
【0017】
本発明における金属とは、金属元素単体もしくは2種類以上の金属元素同士が結合してできた化合物、または金属元素と非金属元素が結合してできた化合物のうち金属元素が組成式に占める割合(モル比率)が60%以上の化合物である。金属元素が占める割合は75%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。ただし、酸化などにより組成が変化する粒子表面近傍はこれに限らない。金属元素とは、元素の周期律表において、ホウ素、ケイ素、ヒ素、テルル、アスタチンを結ぶ斜めの線より左に位置する元素である。
【0018】
−−形状−−
前記金属平板粒子としては、2つの主平面からなる粒子(図1A及び図1B参照)であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、略六角形状、略円盤形状、略三角形状などが挙げられる。これらの中でも、可視光透過率が高い点で、略六角形状以上の多角形状〜略円盤形状であることがより好ましく、略六角形状または略円盤形状であることが特に好ましい。
本明細書中、略円盤形状とは、後述する金属平板粒子の平均円相当径の10%以下の凹凸を無視したときに、平均円相当径の50%以上の長さを有する辺の個数が1個の金属平板粒子当たり0個である形状のことを言う。前記略円盤形状としては、透過型電子顕微鏡(TEM)で金属平板粒子を主平面の上方から観察した際に、角が無く、丸い形状であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。金属平板粒子の「辺」とは、金属平板粒子を主平面の上方から観察した際の直線部分のことを言い、特に金属平板粒子の角が鈍い場合には角近傍の曲線部分を除いた直線部分のことを言う。
本明細書中、略六角形状とは、後述する金属平板粒子の平均円相当径の10%以下の凹凸を無視したときに、平均円相当径の20%以上の長さを有する辺の個数が1個の金属平板粒子当たり6個である形状のことを言う。なお、その他の多角形についても同様である。前記略六角形状としては、透過型電子顕微鏡(TEM)で金属平板粒子を主平面の上方から観察した際に、略六角形状であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、六角形状の角が鋭角のものでも、鈍っているものでもよいが、可視光域の吸収を軽減し得る点で、角が鈍っているものであることが好ましい。角の鈍りの程度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0019】
本発明の分散物中に存在する金属粒子のうち、略六角形状〜略円盤形状の金属平板粒子は、金属粒子の全個数に対して、60個数%以上であることが好ましく、65個数%以上がより好ましく、70個数%以上が更に好ましい。前記略六角形状〜略円盤形状の金属平板粒子の割合が、60個数%以上であると、可視光線透過率が高くなり、好ましい。
【0020】
−−平均粒子径(平均円相当径)及び粒子径(円相当径)の粒度分布−−
前記金属平板粒子の平均粒子径(平均円相当径)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、70nm〜500nmが好ましく、100nm〜400nmがより好ましい。前記平均粒子径(平均円相当径)が、70nm未満であると、金属平板粒子の吸収の寄与が反射より大きくなるため十分な熱線反射能が得られなくなることがあり、500nmを超えると、ヘイズ(散乱)が大きくなり、基板の透明性が損なわれてしまうことがある。
ここで、前記平均粒子径(平均円相当径)とは、一次粒子の粒子径(円相当径)をJIS Z 8901に規定される投影面積円相当径として顕微鏡を用いて測定して求めた値の平均値を意味する。本明細書中においては、具体的にはTEMで粒子を観察して得た像から任意に選んだ200個の平板粒子の主平面直径(最大長さ)の平均値を意味する。
前記金属粒子含有層中に平均粒子径(平均円相当径)が異なる2種以上の金属粒子を含有することができ、この場合、金属粒子の平均粒子径(平均円相当径)のピークが2つ以上、即ち2つ以上の平均粒子径(平均円相当径)を有していてもよい。
【0021】
本発明の分散物において、金属平板粒子の粒度分布における変動係数は、30%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。前記変動係数が、30%を超えると、熱線遮蔽材における熱線の反射波長域がブロードになってしまうことがある。
ここで、前記金属平板粒子の粒度分布における変動係数は、例えば前記の通り得た平均値の算出に用いた200個の金属平板粒子の粒度分布の標準偏差を求め、前記の通り得た主平面直径(最大長さ)の平均値(平均粒子径(平均円相当径))で割った値(%)である。
【0022】
−−アスペクト比−−
前記金属平板粒子のアスペクト比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、本発明の分散物を用いて形成した熱線遮蔽材の可視光域長波長側から近赤外光領域での反射率が高くなる点から、2〜80であることが好ましく、4〜60がより好ましく、8〜40であることが特に好ましい。前記アスペクト比が、2未満であると、反射波長が500nmより小さくなり、80を超えると、反射波長が2,000nmより長くなり、十分な熱線反射能が得られないことがある。
前記アスペクト比は、金属平板粒子の平均粒子径(平均円相当径)を金属平板粒子の平均粒子厚みで除算した値を意味する。平均粒子厚みは、金属平板粒子の主平面間距離に相当し、例えば、図1A及び図1Bに示す通りであり、原子間力顕微鏡(AFM)により測定することができる。
前記AFMによる平均粒子厚みの測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ガラス基板に金属平板粒子を含有する粒子分散液を滴下し、乾燥させて、粒子1個の厚みを測定する方法などが挙げられる。
【0023】
−−金属平板粒子の合成方法−−
前記金属平板粒子の合成方法としては、略六角形状〜略円盤形状を合成し得るものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、化学還元法、光化学還元法、電気化学還元法等の液相法などが挙げられる。これらの中でも、形状とサイズ制御性の点で、化学還元法、光化学還元法などの液相法が特に好ましい。六角形又は三角形状の金属平板粒子を合成後、例えば硝酸、亜硫酸ナトリウムなどの銀を溶解する溶解種によるエッチング処理、又は加熱によるエージング処理を行うことにより、六角形又は三角形状の金属平板粒子の角を鈍らせて、略六角形状〜略円盤形状の金属平板粒子を得てもよい。
【0024】
前記金属平板粒子の合成方法としては、前記の他、予めフィルムやガラスなどの透明基材の表面に種晶を固定後、平板状に金属粒子(例えばAg)を結晶成長させてもよい。
【0025】
本発明の分散物において、金属平板粒子は、所望の特性を付与するために、更なる処理を施してもよい。前記更なる処理としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、高屈折率シェル層の形成、分散剤、酸化防止剤等の各種添加剤を添加することなどが挙げられる。
【0026】
−分散媒−
本発明の分散物は、前記金属平板粒子が、少なくとも前記メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造を有する化合物を含む分散媒に分散されていることを特徴とする。
前記分散媒を添加する段階は特に制限はなく、前記金属平板粒子を調製するときに添加し、分散媒存在下で前記金属平板粒子を調製してもよい。また、前記金属平板粒子を調整後、分散状態の制御のために前記分散媒を添加してもかまわない。
前記分散媒は、低分子化合物であっても、ポリマーであってもよい。
以下、前記金属平板粒子を調製する前に添加することが好ましい分散媒と、分散状態の制御のために前記金属平板粒子を調整後に添加することが好ましい分散媒について、説明する。
【0027】
−−金属平板粒子を調製するときに添加することが好ましい分散媒−−
前記金属平板粒子を調製するときに添加することが好ましい分散媒としては、以下の分散ポリマーが好ましい。分散時における金属平板粒子の存在状態は特に限定されないが、金属平板粒子が安定な分散状態で存在していることが好ましく、例えばコロイド状態にあることがより好ましい。
前記分散ポリマーを添加する段階は、金属平板粒子を調製する前に添加し、分散ポリマー存在下で前記金属平板粒子を調製することが好ましい。
なお、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、前記金属平板粒子を調整後、分散状態の制御のために前記分散ポリマーを添加してもかまわない。
【0028】
前記分散ポリマーとしては、チオール基含有化合物、アミノ酸又はその誘導体、ペプチド化合物、多糖類及び多糖類由来の天然高分子、合成高分子及びこれらに由来するゲル等の高分子類等が挙げられ、分散剤として使用できる。
【0029】
前記高分子類としては、保護コロイド性のあるポリマーでゼラチン、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシプルピルセルロース、ポリアルキレンアミン、ポリアクリル酸の部分アルキルエステル、ポリビニルピロリドン、及びポリビニルピロリドン共重合体などが挙げられる。
分散剤として使用可能な前記分散ポリマーについては、例えば「顔料の事典」(伊藤征司郎編、(株)朝倉書院発行、2000年)の記載を参照できる。
【0030】
上記以外に、前記分散ポリマーとして、側鎖にカルボン酸基を有するポリマー、例えば、特公昭59−44615号公報、特公昭54−34327号公報、特公昭58−12577号公報、特公昭54−25957号公報、特開昭59−53836号公報、及び特開昭59−71048号公報に記載のメタクリル酸共重合体、アクリル酸共重合体、イタコン酸共重合体、クロトン酸共重合体、マレイン酸共重合体、部分エステル化マレイン酸共重合体などを挙げることができる。また、側鎖にカルボン酸基を有するセルロース誘導体も挙げることができる。このほか、水酸基を有するポリマーに環状酸無水物を付加したものも好ましく使用できる。特に、米国特許第4139391号明細書に記載のベンジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸の共重合体やベンジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸と他のモノマーとの多元共重合体も挙げることができる。
【0031】
前記分散ポリマーの中でも、好ましくはゼラチンであり、高分子量ゼラチン(数平均分子量15万以上)がより好ましい。
【0032】
前記金属平板粒子を調製するときに添加することが好ましい分散媒は、本発明の分散物中において、前記分散媒として含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。また、前記金属平板粒子を調製するときに添加することが好ましい分散媒が、本発明の分散物中に含まれている場合、前記金属平板粒子を調製するときとは異なる特性に変化して含まれていてもよい。また、前記金属平板粒子を調製するときに添加することが好ましい分散媒が、後述する金属平板粒子を調製した後に添加することが好ましい分散媒に置換されて、ほとんど含まれていない態様でもよい。
なお、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、後述する金属平板粒子を調製した後に添加することが好ましい分散媒を、前記金属平板粒子を調製するときに添加してもよい。
【0033】
−−金属平板粒子を調製した後に添加することが好ましい分散媒−−
前記金属平板粒子を調製した後に添加することが好ましい分散媒としては、前記メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造を有する化合物を挙げることができる。このような前記金属平板粒子を調製した後に添加することが好ましい分散媒は、本発明の分散物中に十分に残存していることが、長期安定性の観点から好ましい。
【0034】
(メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造を有する化合物)
前記メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造を有する化合物としては特に制限はなく、水溶性であっても難溶性であってもよい。また、前記メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造を有する化合物は、低分子化合物であっても、ポリマーであってもよい。
本発明の分散物は、前記メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造が、メルカプトテトラゾール基またはメルカプトトリアゾール基であることが好ましい。
以下、メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造を有する化合物について、好ましい構造を説明する。
【0035】
(1)水溶性メルカプト化合物
本発明の分散物では、前記メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造を有する化合物が、水溶性であることが好ましい。
その中でも、下記一般式(I−1)または下記一般式(I−2)で表される少なくとも1種の水溶性メルカプトテトラゾール化合物または水溶性メルカプトトリアゾール化合物が好ましい。
【0036】
一般式(I−1)
【0037】
【化1】

【0038】
一般式(I−1)において、R5は−SO3M、−COOM、−OHおよび−NHR2から成る群から選ばれた少なくとも1種で置換された有機残基を示し、Mは水素原子、アルカリ金属原子又は、四級アンモニウム基又は四級ホスホニウム基を表し、R2は水素原子、炭素数1〜6のアルキル、−COR3、−COOR3または−SO23を表わす。R3は水素原子、アルキル、アリールを表す。
【0039】
一般式(I−2)
【0040】
【化2】

【0041】
一般式(I−2)において、R6は水素原子、置換もしくは無置換のアルキル、または置換もしくは無置換のアリールを表わし、R5は−SO3M、−COOM、−OHおよび−NHR2から成る群から選ばれた少なくとも1種で置換された有機残基を示し、Mは水素原子、アルカリ金属原子又は、四級アンモニウム基又は四級ホスホニウム基を表し、R2は水素原子、炭素数1〜6のアルキル、−COR3、−COOR3または−SO23を表わす。R3は水素原子、アルキル、アリールを表す。
【0042】
先ず一般式(I−1)で示される水溶性メルカプトテトラゾール化合物について説明する。
【0043】
一般式(I−1)において、R5は−SO3M、−COOM、−OHおよび−NHR2から成る群から選ばれた少なくとも1種で置換された有機残基であり、具体的には炭素数1〜10のアルキル基(例えばメチル、エチル、プロピル、ヘキシル、シクロヘキシル)、炭素数6〜14のアリール基(例えばフェニル、ナフチル)、を示す。
【0044】
一般式(I−1)のR5で表される各基は更に置換されていても良く、置換基としては以下のものが挙げられる。ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、シアノ、ニトロ、アンモニオ(例えば、トリメチルアンモニオ)、ホスホニオ、スルホ(塩を含む)、スルフィノ(塩を含む)、カルボキシ(塩を含む)、ホスホノ(塩を含む)、ヒドロキシ、メルカプト、ヒドラジノ、アルキル(例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル,t−ブチル、n−オクチル、シクロペンチル、シクロへキシル)、アルケニル(例えば、アリル、2−ブテニル、3−ペンテニル)、アルキニル(例えば、プロパルギル、3−ペンチニル)、アラルキル(例えば、ベンジル、フェネチル)、アリール(例えば、フェニル、ナフチル、4−メチルフェニル)、ヘテロ環(例えば、ピリジル、フリル、イミダゾリル、ピペリジル、モルホリノ)、アルコキシ(例えば、メトキシ、エトキシ、ブチルオキシ)、アリールオキシ(例えば、フェノキシ、2−ナフチルオキシ)、アルキルチオ(例えば、メチルチオ、エチルチオ)、アリールチオ(例えば、フェニルチオ)、アミノ(例えば、無置換のアミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ、アリニノ)、アシル(例えば、アセチル、ベンゾイル、ホルミル、ピバロイル)、アルコキシカルボニル(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル)、アリールオキシカルボニル(例えば、フェノキシカルボニル)、カルバモイル(例えば、無置換のカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル、N−エチルカルバモイル、N−フェニルカルバモイル)、アシルオキシ(例えば、アセトキシ、ベンゾイルオキシ)、アシルアミノ(例えば、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ)、アルコキシカルボニルアミノ(例えば、メトキシカルボニルアミノ)、アリールオキシカルボニルアミノ(例えば、フェノキシカルボニルアミノ)、ウレイド(例えば、無置換のウレイド、N−メチルウレイド、N−フェニルウレイド)、アルキルスルホニルアミノ(例えば、メチルスルホニルアミノ)、アリールスルホニルアミノ(例えば、フェニルスルホニルアミノ)、アルキルスルホニルオキシ(例えば、メチルスルホニルオキシ)、アリールスルホニルオキシ(例えば、フェニルスルホニルオキシ)、アルキルスルホニル(例えば、メシル)、アリールスルホニル(例えば、トシル)、アルコキシスルホニル(例えば、メトキシスルホニル)、アリールオキシスルホニル(例えば、フェノキシスルホニル)、スルファモイル(例えば、無置換のスルファモイル、N−メチルスルファモイル、N,N−ジメチルスルファモイル、N−フェニルスルファモイル)、アルキルスルフィニル(例えば、メチルスルフィニル)、アリールスルフィニル(例えば、フェニルスルフィニル)、アルコキシスルフィニル(例えば、メトキシスルフィニル)、アリールオキシスルフィニル(例えば、フェノキシスルフィニル)、リン酸アミド(例えば、N,N−ジエチルリン酸アミド)などである。これらの基はさらに置換されていてもよい。また、置換基が2つ以上ある時は同じであっても、異なっていてもよい。
【0045】
ここでR5の置換基−SO3M、−COOM、−OHおよび−NHR2が2個以上あるときは同じであっても異なっていてもよい。
【0046】
一般式(I−1)において、R2は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、−COR3、−CO23、または−SO23を表し、R3は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、ヘキシル、シクロヘキシル、ドデシル、オクタデシル)、アリール(例えばフェニル、ナフチル)を表す。これらの基は、R5の置換基として挙げた置換基が置換していてもよい。
【0047】
一般式(I−1)において、Mは、水素原子、アルカリ金属原子(例えばリチウム、ナトリウム、カリウムなど)、四級アンモニウム(例えばアンモニオ、テトラメチルアンモニオ、ベンジルトリメチルアンモニオ、テトラブチルアンモニオなど)または四級ホスホニウム(例えばテトラメチルホスホニオなど)を表す。
【0048】
一般式(I−1)において、好ましくは、R5は−SO3Mが置換したフェニル、−COOMが置換したフェニル、−NHR2が置換したフェニル、−SO3Mが置換した炭素数1から4のアルキル、−COOMが置換した炭素数1から4のアルキルであり、R2は水素原子、炭素数1から4のアルキル、−COR3であり、R3は水素原子、親水性基(例えばカルボキシル、スルホ、ヒドロキシ)の置換した炭素数1から4のアルキルであり、Mは水素原子、ナトリウム原子である。より好ましくは、R5は−SO3Mが置換したフェニル、−COOMが置換したフェニルである。以下に一般式(I−1)で表される化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
【化3】

【0050】
【化4】

【0051】
【化5】

【0052】
次に、一般式(I−2)のメルカプトトリアゾール化合物について説明する。
【0053】
一般式(I−2)のM、およびR5は一般式(I−1)のM,およびR5と同義である。
【0054】
一般式(I−2)おいて、R6は水素原子、炭素数が1から10のアルキル基(例えばメチル、エチル、プロピル、ヘキシル、シクロヘキシルなど)、炭素数6〜15のアリール(例えばフェニル、ナフチルなど)を表し、アルキルまたはアリールは一般式(I−1)のR5の置換基に挙げた置換基で置換されていてもよい。
【0055】
一般式(I−2)において、好ましくは、R6は水素原子、炭素数1から4のアルキル基、フェニルであり、R5は−SO3Mが置換したフェニル、−COOMが置換したフェニル、−NHR2が置換したフェニル、−SO3Mが置換した炭素数1から4のアルキル、−COOMが置換した炭素数1から4のアルキルであり、R2は水素原子、炭素数1から4のアルキル、−COR3であり、R3は水素原子、親水性基(例えばカルボキシル、スルホ、ヒドロキシ)が置換した炭素数1から4のアルキルであり、Mは水素原子、ナトリウム原子である。より好ましくは、R6は水素原子であり、R5は−SO3Mが置換したフェニル、−COOMが置換したフェニルである。
【0056】
以下に一般式(I−2)で表される化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
【化6】

【0058】
【化7】

【0059】
【化8】

【0060】
一般式(I−1)、または一般式(I−2)で示される化合物は公知であり、また以下の文献に記載されている方法により合成することができる。John A. Montogomery編、"ザ・ケミストリ・オブ・ヘテロサイクリック・ケミストリ"、1,2,4−トリアゾール("The Chemistry of Heterocyclic Chemistry"1,2,4−triazole)、JOHN WILEY & SONS社(1981年)、404〜442頁、S.R.Sandler, W. Karo、"オルガニック・ファンクショナル・グループ・プレバレーション"("Organic Functional Group Preparation")Academic Press社(1968年)、312〜315頁、Kevin T. Pott編、"コンプリヘンシブ ヘテロサイクリック コンパウンズ"("COMPREHENSIVE HETEROCYCLIC COMPOUNDS")、PERGAMON PRESS社、第5巻、761〜784頁、同825〜834頁、RobertC. Elderfield編、"ヘテロサイクリック コンパウンズ"("HETEROCYCLIC COMPOUNDS")、JOHN WILEY & SONS社(1961年)、425〜445頁、Frederic R. Benson編、"ザ ハイ ナイトロジェン コンパウンズ"("THE HIGH NITROGEN COMPOUNDS")JOHN WILEY & SONS社(1984年)、640〜653頁。
【0061】
(2)メルカプト基を有する含窒素芳香族環を部分構造として有するポリマー
本発明の分散物は、前記メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造を有する化合物が、メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造を側鎖または末端基に有するポリマーであることが好ましい。前記メルカプト基を有する含窒素芳香族環を部分構造として有するポリマーは、下記一般式(1)で表されるメルカプト基を含有する。
一般式(1)
Z−SH
【0062】
前記一般式(1)中、Zで表される含窒素芳香族環とは、具体的には単環または縮環の含窒素芳香族ヘテロ環であり、好ましくは5〜7員の含窒素芳香族ヘテロ環であり、より好ましくは5または6員の含窒素芳香族ヘテロ環である。具体的には、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、テトラゾール、チアゾール、オキサゾール、セレナゾール、ベンズトリアゾール、ベンズチアゾール、ベンズオキサゾール、ベンズセレナゾール、チアジアゾール、オキサジアゾール、ナフトチアゾール、ナフトオキサゾール、アザベンズイミダゾール、プリン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、トリアザインデン、テトラザインデン等があげられる。さらに好ましくは、5員の含窒素芳香族ヘテロ環であり、具体的にはイミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、テトラゾール、チアゾール、オキサゾール、ベンズトリアゾール、ベンズチアゾール、ベンズオキサゾール、チアジアゾール、オキサジアゾールが挙げられる。特に好ましくは、トリアゾール、テトラゾールであり、最も好ましくはテトラゾールである。
【0063】
前記メルカプト基含有ポリマーは、水溶性高分子であるのが好ましい。本明細書において、「水溶性高分子」とは、水に0.5質量%以上溶解する高分子のことをいい、好ましくは1.0質量%以上溶解する高分子、より好ましくは2.0質量%以上溶解する高分子、さらに好ましくは4.0質量%以上溶解する高分子である。
【0064】
前記メルカプト基含有ポリマーは、前記一般式(1)で表されるメルカプト基を、平均で2個/(ポリマー鎖1本)以下含有することが好ましい。ポリマー鎖1本当たり平均で、より好ましくは0.1〜1.8個、さらに好ましくは0.5〜1.5個、よりさらに好ましくは0.8〜1.2個である。ここで、ポリマー鎖1本当たりのメルカプト基の個数は、ポリエチレンオキサイドを基準物質としてGPC測定を行った際のポリマーの数平均分子量Mnから求めた水溶性合成ポリマー水溶液のモル濃度AMnと、ポリマー水溶液中のメルカプト基を有する含窒素芳香族環のUV吸光度から求めたモル濃度QuVとを測定し、QuV/AMnの値として求められる。即ち、メルカプト基含有ポリマーは、QuV/AMnが2以下であるのが好ましく、1以下であるのがより好ましい。
【0065】
前記メルカプト基含有ポリマーは、前記一般式(1)で表されるメルカプト基が、ポリマーの片末端に導入されていることが好ましい。
【0066】
前記メルカプト基含有ポリマーの好ましい態様は、下記一般式(2)で表されるポリマーである。
【0067】
【化9】

【0068】
式中、Y1およびY2は、Xの末端基であり、少なくとも一方はHS−Z−L1−を表す。なお、Y1およびY2のうち一方のみがHS−Z−L1−を表すとき、他方はポリマー合成過程で導入されるいかなる基であってもよく、例えば、水素原子、重合開始剤、溶媒分子またはモノマー誘導体の他、合成時の添加剤誘導体が、他方の末端基となり得る。
【0069】
1は2価の連結基または単結合を表し、2価の連結基または単結合であれば特に制限はないが、L1として好ましくは炭素数0〜20の2価の連結基である。具体的には炭素数1〜20のアルキレン基(例えばメチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、キシリレンなど)、炭素数6〜20のアリーレン基(例えばフェニレン、ナフチレンなど)、−C(=O)−、−S(=O)2−、−S(=O)−、−S−、−O−、−P(=O)O-−、−P(=O)O-−、−P(=O)ORa−、−NRa−(Raは水素原子または置換基を表し、置換基としては後述の置換基Tとしてあげたものが適用できる)、−N=、芳香族へテロ環基、またはこれらを2種以上組み合わせて得られる炭素数0〜20の2価の連結基である。具体例を以下に示す。
【0070】
【化10】

【0071】
これらは、Zに対して左右いずれの向きで結合していてもよいが、左側がZと結合するのが好ましい。
【0072】
1は可能な場合にはさらに置換基Tを有していてもよく、置換基Tとしては例えばアルキル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8であり、例えばメチル、エチル、イソ−プロピル、tert−ブチル、n−オクチル、n−デシル、n−ヘキサデシル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられる。)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8であり、例えばビニル、アリル、2−ブテニル、3−ペンテニルなどが挙げられる)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8であり、例えばプロパルギル、3−ペンチニルなどが挙げられる)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニル、p−メチルフェニル、ナフチルなどが挙げられる)、置換または未置換のアミノ基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは炭素数0〜10、特に好ましくは炭素数0〜6であり、例えばアミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジベンジルアミノなどが挙げられる)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8であり、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシなどが挙げられる)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは炭素数6〜16、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルオキシ、2−ナフチルオキシなどが挙げられる)、
【0073】
アシル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばアセチル、ベンゾイル、ホルミル、ピバロイルなどが挙げられる)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜12であり、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニルなどが挙げられる)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜20、より好ましくは炭素数7〜16、特に好ましくは炭素数7〜10であり、例えばフェニルオキシカルボニルなどが挙げられる)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばアセトキシ、ベンゾイルオキシなどが挙げられる)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばアセチルアミノ、ベンゾイルアミノなどが挙げられる)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜12であり、例えばメトキシカルボニルアミノなどが挙げられる)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜20、より好ましくは炭素数7〜16、特に好ましくは炭素数7〜12であり、例えばフェニルオキシカルボニルアミノなどが挙げられる)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルホニルアミノ、ベンゼンスルホニルアミノなどが挙げられる)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは炭素数0〜16、特に好ましくは炭素数0〜12であり、例えばスルファモイル、メチルスルファモイル、ジメチルスルファモイル、フェニルスルファモイルなどが挙げられる)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばカルバモイル、メチルカルバモイル、ジエチルカルバモイル、フェニルカルバモイルなどが挙げられる)、
【0074】
アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメチルチオ、エチルチオなどが挙げられる)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは炭素数6〜16、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルチオなどが挙げられる)、スルホニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメシル、トシルなどが挙げられる)、スルフィニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルフィニル、ベンゼンスルフィニルなどが挙げられる)、ウレイド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばウレイド、メチルウレイド、フェニルウレイドなどが挙げられる)、リン酸アミド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばジエチルリン酸アミド、フェニルリン酸アミドなどが挙げられる)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは1〜12であり、ヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子、具体的には例えばイミダゾリル、ピリジル、キノリル、フリル、ピペリジル、モルホリノ、ベンゾオキサゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンズチアゾリルなどが挙げられる)、シリル基(好ましくは、炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは、炭素数3〜24であり、例えば、トリメチルシリル、トリフェニルシリルなどが挙げられる)などが挙げられる。これらの置換基はさらに置換されてもよい。また、置換基が二つ以上ある場合は、同じでも異なってもよい。また、可能な場合には互いに連結して環を形成してもよい。
【0075】
前記一般式(2)中、Xはエチレン性不飽和結合を有するモノマーの単独重合体または共重合体の基を表し、共重合体である場合は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体およびグラフト共重合体のいずれの形態であってもよい。また、Xが共重合体である場合は、L1と共有結合を形成するモノマーがいずれになるかについても特に限定されない。
【0076】
Xは、エチレン性不飽和結合を有するモノマーユニット(以下モノマー)を少なくとも1種含む。前記モノマーとしては、重合可能なモノマーであれば特に制限はなく、ラジカル重合またはイオン重合法で重合可能なモノマーのいずれも用いることができる。Xのモノマーとしては、その単独重合体が水溶性となるモノマーが好ましい。Xの水溶性を損なわない限り、Xは複数のモノマーの共重合体であってもよい。
【0077】
単独重合体が水溶性となるモノマーとしては、以下のモノマー群(k)が挙げられ、いずれもXのモノマーとして好ましく用いられる。(k)アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−アクリロイルモルホリン、N−アクリロイルピペリジン、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−メタクリロイルモルホリン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルアセトアミド、ジアセトンアクリルアミド、ω−メトキシポリエチレングリコールアクリレート(付加モル数n=9)、ω−メトキシポリエチレングリコールアクリレート(付加モル数n=23)、N−メトキシエチルアクリルアミド等。
【0078】
Xが共重合体である場合は、前述の(k)のモノマー群のいずれか少なくとも1種と、下記に示すモノマー群(a)〜(j)等のいずれか少なくとも1種との共重合体が好ましい。なお、前述の(k)モノマー群の属するモノマーであっても、(a)〜(j)モノマー群に属するものは、重複して列挙した。
【0079】
《モノマー群(a)〜(j)》
(a) 共役ジエン:1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、2‐n‐プロピル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、1−フェニル−1,3−ブタジエン、1−α−ナフチル−1,3−ブタジエン、1−β−ナフチル−1,3−ブタジエン、2‐クロロ1,3−ブタジエン、1−ブロム−1,3−ブタジエン、1‐クロロ1,3−ブタジエン、2‐フルオロ‐1,3−ブタジエン、2,3−ジクロロ1,3−ブタジエン、1,1,2−トリクロロ1,3−ブタジエン、2−シアノ−1,3−ブタジエン、シクロペンタジエン等。
(b) オレフィン:エチレン、プロピレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、6−ヒドロキシ−1−ヘキセン、4−ペンテン酸、8−ノネン酸メチル、ビニルスルホン酸、トリメチルビニルシラン、トリメトキシビニルシラン、1,4−ジビニルシクロヘキサン、1,2,5−トリビニルシクロヘキサン等。
【0080】
(c) α,β−不飽和カルボン酸エステル類:アルキルアクリレート(例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート等)、置換アルキルアクリレート(例えば、2−クロロエチルアクリレート、ベンジルアクリレート、2−シアノエチルアクリレート等)、アルキルメタクリレート(例えば、メチルメタクリレート、ブチルメタクリ−レート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート等)、置換アルキルメタクリレート(例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、グリセリンモノメタクリレート、2−アセトキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(ポリオキシプロピレンの付加モル数=2ないし100のもの)、3−N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリレート、クロロ−3−N,N,N−トリメチルアンモニオプロピルメタクリレート、2−カルボキシエチルメタクリレート、3−スルホプロピルメタクリレート、4−オキシスルホブチルメタクリレート、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレート、アリルメタクリレート、2−イソシアナトエチルメタクリレート等)、不飽和ジカルボン酸の誘導体(例えば、マレイン酸モノブチル、マレイン酸ジメチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸ジブチル等)、多官能エステル類(例えばエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−シクロヘキサンジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート、ペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1,2,4−シクロヘキサンテトラメタクリレート等)。
【0081】
(d) β−不飽和カルボン酸のアミド類:例えばアクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチル−N−ヒドロキシエチルメタクリルアミド、N−tertブチルアクリルアミド、N−tertオクチルメタクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−(2−アセトアセトキシエチル)アクリルアミド、N−アクリロイルモルフォリン、ジアセトンアクリルアミド、イタコン酸ジアミド、N−メチルマレイミド、2−アクリルアミド−2-メチルプロパンスルホン酸、メチレンビスアクリルアミド、ジメタクリロイルピペラジン等。
(e) 不飽和ニトリル類:アクリロニトリル、メタクリロニトリル等。
(f) スチレンおよびその誘導体:スチレン、ビニルトルエン、p−tertブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、α−メチルスチレン、p−クロロメチルスチレン、ビニルナフタレン、p−ヒドロキシメチルスチレン、p−アミノメチルスチレン、1,4−ジビニルベンゼン等。
(g)ビニルエーテル類:メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル等。
(h)ビニルエステル類:酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、サリチル酸ビニルクロロ酢酸ビニル等。
【0082】
(i) 酸基を含有するモノマー:アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、アクリル酸リチウム、アクリル酸アンモニウム、メタクリル酸、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カリウム、メタクリル酸リチウム、メタクリル酸アンモニウム、イタコン酸、イタコン酸カリウム、マレイン酸、CH2=CHCOOCH2CH2COOH、CH2=CHCONHCH2CH2COOH、CH2=CHC65COOH(p)、CH2=CHCOOCH2CH2CH2COOH、α−クロロアクリル酸等やスチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸アンモニウム、スチレンスルホン酸リチウム、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸アンモニウム、3−アクリロイルオキシ−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−メタクリロイルオキシ−プロパンスルホン酸カリウム、イソプレンスルホン酸等や3−アクリロイルオキシ−エチルホスホン酸ナトリウム等。
(j)その他の重合性単量体:N−ビニルイミダゾール、4−ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、2−ビニルオキサゾリン、2−イソプロペニルオキサゾリン、ジビニルスルホン等が挙げられる。
【0083】
Xとしては、上記(k)モノマー群から選ばれる1種の単独重合体もしくは2種以上の共重合体、または(k)モノマー群から選ばれる少なくとも1種と上記(i)酸基を含有するモノマー群から選ばれる少なくとも1種との共重合体が好ましく、上記(k)モノマー群から選ばれる1種の単独重合体もしくは2種以上の共重合体がより好ましい。Xのさらに好ましい態様は、カルボン酸基を有するモノマーの単独重合体もしくは2種以上の共重合体であり、よりさらに好ましい態様は、アクリル酸、メタクリル酸、CH2=CHCOOCH2CH2COOH、CH2=CHCONHCH2CH2COOHもしくはCH2=CHCOOCH2CH2CH2COOHの単独重合体またはこれら2種以上の共重合体であり、特に好ましい態様は、アクリル酸もしくはメタクリル酸の単独重合体、またはこれらとアクリル酸、メタクリル酸、CH2=CHCOOCH2CH2COOH、CH2=CHCONHCH2CH2COOHもしくはCH2=CHCOOCH2CH2CH2COOH等のモノマーとの共重合体である。
【0084】
前記一般式(2)で表されるポリマーの好ましい態様は、下記一般式(2−A)で表されるポリマーである。
【0085】
【化11】

【0086】
式中、R11は水素原子またはメチル基を表し、好ましくはメチル基である。
【0087】
12およびR13はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、置換としては上記置換基Tと同義である。R12およびR13としては、好ましくは水素原子またはアルキル基であり、より好ましくは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であり、さらに好ましくは水素原子またはメチル基であり、特に好ましくは水素原子である。
【0088】
式中、X1はエチレン性不飽和結合を有するモノマーのユニットを表し、1種類でも複数種であってもよい。X1は重合可能であれば特に制限はなく、上記一般式(2)中のXのモノマーとして例示した、モノマー群(a)〜(k)から選ばれるモノマーを用いることができる。
【0089】
前記一般式(2−a)で表されるポリマー化合物の好ましい態様は、X1が上記(i)酸基を含有するモノマー群から選ばれる少なくとも1種、またはX1がない(すなわちn=0であること)態様である。より好ましい態様は、X1がカルボン酸基を含有するモノマーの少なくとも1種である態様であり、さらに好ましい態様は、X1がアクリル酸、メタクリル酸、CH2=CHCOOCH2CH2COOH、CH2=CHCONHCH2CH2COOHまたはCH2=CHCOOCH2CH2CH2COOHである態様であり、特に好ましい態様は、X1がアクリル酸またはメタクリル酸の態様である。
【0090】
式中、mおよびnはモノマーユニットの質量比を表し、m+n=100である。mとして好ましくは50〜100、より好ましくは70〜100、さらに好ましくは80〜100である。nとして好ましくは0〜50、より好ましくは0〜30、さらに好ましくは0〜20である。なお、X1が2種以上のモノマーユニットを含む場合は、そのモノマーユニットの質量比の合計をnとする。
【0091】
1およびY2は末端基であるが、少なくとも一方はSH−Z−L1−を表す。Zは含窒素芳香族環を表し、前記一般式(1)中のZと同義であり、好ましい範囲も同様である。L1は2価の連結基または単結合を表し、前記一般式(2)中のL1と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0092】
前記一般式(2)で表されるポリマーのより好ましい態様は、下記一般式(2−B)で表されるポリマーである。
【0093】
【化12】

【0094】
式中、X1、R11、m1およびn1は一般式(2−A)におけるそれらと同義であり、好ましい範囲も同様である。Y11およびY12は末端基であり、少なくとも一方は下記一般式(3)で表される基を表す。
【0095】
【化13】

【0096】
式中、L1Aは2価の連結基または単結合を表す。2価の連結基または単結合であれば特に制限はないが、L1Aとして好ましくは炭素数0〜14の2価の連結基である。具体的には炭素数1〜14のアルキレン基(例えばメチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、キシリレンなど)、炭素数6〜14のアリーレン基(例えばフェニレン、ナフチレンなど)−C(=O)−、−S(=O)2−、−S(=O)−、−S−、−O−、−P(=O)O-−、−P(=O)O-−、−P(=O)ORa−、−NRa−(Raは水素原子または置換基を表し、置換基としては前述の置換基Tとしてあげたものが適用できる)、−N=、芳香族へテロ環基またはこれらの2種類以上を組合せて得られる炭素数0〜14の2価の連結基である。具体例を以下に示す。
【0097】
【化14】

【0098】
式中、QはN、CHまたはC−SHを表し、好ましくはNまたはCHであり、より好ましくはNである。
【0099】
前記一般式(2)で表されるポリマーのさらに好ましい態様は、下記一般式(2−C)で表されるポリマーある。
【0100】
【化15】

【0101】
式中、Y11およびY12は、前記一般式(2−B)におけるそれらと同義である。即ち、Y12およびY12の少なくとも一方は、前記一般式(3)で表される基を表し、好ましい範囲も同様である。式中、R11は前記一般式(2−B)におけるR11と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0102】
式中、R21は水素原子またはメチル基を表し、好ましくは水素原子である。
【0103】
式中、L2は単結合または2価の連結基を表し、単結合または2価の連結基であればなんでもよいが、L2として好ましくは単結合または炭素数0〜20の2価の連結基であり、より好ましくは単結合または炭素数0〜10の2価の連結基であり、具体的には単結合または炭素数1〜10のアルキレン基(例えばメチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、キシリレンなど)、炭素数6〜10のアリーレン基(例えばフェニレン、ナフチレンなど)−C(=O)−、−S(=O)2−、−S(=O)−、−S−、−O−、−P(=O)O-−、−P(=O)O-−、−P(=O)OR−、−NRa−(Raは水素原子または置換基を表し、置換基としては前述の置換基Tとしてあげたものが適用できる)、−N=、芳香族へテロ環基、またはこれらを2種以上組み合わせて得られる炭素数0〜10の2価の連結基であり、さらに好ましくは単結合または
【0104】
【化16】

【0105】
である。これらは、ポリマー主鎖に対して左右いずれの向きで結合してもよいが、左側がポリマー主鎖と結合するのが好ましい。
【0106】
式中、m2およびn2はモノマーユニットの質量比を表し、m2+n2=100である。m2として好ましくは50〜100、より好ましくは70〜100、さらに好ましくは80〜100である。n2として好ましくは0〜50、より好ましくは0〜30、さらに好ましくは0〜20である。
【0107】
式中、Mは水素原子またはカチオンを表す。好ましくは、水素原子またはナトリウムイオンである。
【0108】
メルカプト基含有ポリマーの分子量は、数平均分子量5,000以上が好ましく、より好ましくは10,000以上、さらに好ましくは30,000以上、特に好ましくは50,000以上であり、最も好ましくは100,000以上である。
【0109】
次に、メルカプト基含有ポリマーの一般的合成法の一例を示すが、これらに限定されるものではない。メルカプト基含有ポリマーは、あらかじめ重合反応により得られたポリマーに、メルカプト基を有する含窒素芳香族環を含みポリマー中の反応性基と共有結合を形成しうる化合物を反応させて前記メルカプト基を導入することによって合成してもよいし、メルカプト基を有する含窒素芳香族環を有する化合物をモノマーとともに重合してもよい。モノマーユニットは、ラジカル重合、イオン重合、縮重合、開環重合、重付加等のいずれの重合反応によって重合させてもよい。
【0110】
以下に、前記一般式(2)、(2−A)、(2−B)または(2−C)で表されるポリマーの具体例を示すが、本発明は、以下の具体例によってなんら限定されるものではない。
【0111】
【化17】

【0112】
【化18】

【0113】
【化19】

【0114】
(その他の化合物)
本発明の分散物には、金属平板粒子を調製した後に、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、その他の分散媒を添加してもよい。その他の添加剤としては、例えば、前記金属平板粒子を調製するときに添加することが好ましい分散媒などを挙げることができる。
【0115】
[分散物の製造方法]
本発明の分散物の製造方法としては特に制限は無く、公知の方法により調製することができる。例えば、特開2011−118347号公報に記載の方法にて金属平板粒子を調製した後に、上記にて説明した金属平板粒子を調製した後に添加することが好ましい分散媒を添加する方法を挙げることができる。また、金属平板粒子を精製・濃縮する場合、特開2011−118347号公報に記載の方法の他、以下の方法も好ましく用いることができる。
【0116】
−金属平板粒子の精製・濃縮−
また、本発明の分散物は、金属平板粒子調整後、共存する金属平板粒子以外のイオンや残留還元剤等の不純物を取り除き精製し、同時に金属平板粒子を濃縮する事が出来る。
上記、精製・濃縮方法は、遠心分離、デカンテーション、吸引濾過法等いずれの方法もとることが出来るが、熱線遮蔽材を作製した際の、熱線遮蔽材の耐湿性、耐熱性の観点から、限外濾過法が好ましい。限外濾過法に関しては、フジテクノシステム株式会社出版「最新の膜処理技術とその応用」に用いられている方法を参照することが出来る。
【0117】
分散液を限外濾過により洗浄、濃縮する際に用いられる濾過膜としては特に限定されないが、通常、例えば、ポリアクリロニトリル、塩化ビニル/アクリロニトリル共重合体、ポリスルフォン、ポリイミド、ポリアミド等の樹脂製のものが用いられる。これらのうち、ポリアクリロニトリル、ポリスルフォンが好ましく、ポリスルフォンがより好ましい。また、Al23を主成分とするセラミクス製ろ過膜も好ましい。上記限外濾過の濾過膜は、上記限外濾過終了後に通常行われる濾過膜の洗浄を効率よく行う点から、逆洗浄が可能な濾過膜を用いることが好ましい。
【0118】
上記の精製・濃縮方法にて、分散物中に含まれる全固形分中の金属重量の比すなわち金属の固形分重量比を40%以上に濃縮することが可能となる。また熱線遮蔽材作製の際の、安定性、耐久性を向上させるには、金属の固形分重量比は40%以上が好ましく、60%以上更に好ましく、80%以上が最も好ましい。
【0119】
また、上記の精製・濃縮の前に、金属平板粒子調製後の分散物中に、蛋白質分解酵素を添加することも好ましい。特に前記金属平板粒子を調製するときにゼラチンを添加した場合には、その分子量を制御する観点から好ましい。
前記蛋白質分解酵素としては特に制限はなく、以下のものを好ましく用いることができる。
例えばペプシンやパパインを好ましく用いることができる。
また、前記蛋白質分解酵素は商業的に入手して用いることもでき、例えば、科研製薬株式会社製アクチナーゼEを好ましく用いることができる。
【0120】
また、本発明の分散物は、金属平板粒子調製後に溶媒置換を行うこともできる。溶剤置換は、遠心分離、デカンテーション、吸引濾過法、限外濾過により、精製・濃縮した分散物に、目的の溶媒を添加することによって、行うことが出来る。例えばデカンテーション法を組み合わせれば、水から徐々に非極性溶媒を添加し、順次溶媒を置換することで、非水性の溶媒に置換することも出来る。溶媒置換後に、再分散を行う際には、超音波、ビーズミル分散機等を利用して機械的な分散を行うことが好ましい。このような再分散を行うことにより、残留した還元剤等の不純物を除去や溶媒置換をおこなうことができる。
【0121】
前記溶媒置換の際に用いる溶媒は特に制限なく用いられるが、中でもSP値が9.0以上のものが好ましい。「SP値」は溶解性パラメーターともいわれるもので、凝集エネルギー密度の平方根で表される。本発明においては、SP値とは、「接着ハンドブック」(日本接着学会編、日刊工業新聞社発行、1971年初版発行)の838頁記載のものを意味する。
例えば、n−ヘキサン/7.3、トルエン/8.9、酢酸エチル/9.1、メチルエチルケトン/9.3、アセトン/10.0、エチルアルコール/12.7、メチルアルコール/14.5、水/23.4等である。ここで前記SP値の単位は「(cal/cm31/2」である。
溶剤再分散の際にSP値が9.0以上のものを用いると、分散性が特に良好となり、メチルエチルケトン、2−プロパノール、1−プロパノール、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、シクロヘキサノン、アセトン、N−メチルピロリドン、あるいはそれらの混合物などが好適に上げられる。
【0122】
[熱線遮蔽材]
本発明の熱線遮蔽材は、本発明の分散物を、基板上に塗布して得られる金属粒子含有層を含むことを特徴とする。
このような本発明の熱線遮蔽材は、長期にわたって分散安定性が良好である本発明の分散物を用いて得られるため、長期保存後の分散物を用いた場合でも優れた熱線遮蔽性能を有する。
【0123】
(構成)
−金属粒子含有層−
本発明の熱線遮蔽材において、金属平板粒子は、その主平面が金属粒子含有層の一方の表面(熱線遮蔽材が基板を有する場合は、基板表面)に対して所定の範囲で面配向することを一態様とする。
前記金属平板粒子の存在状態は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、後述する図2Aのように基板上に並んでいることが好ましい。
前記面配向としては、金属平板粒子の主平面と、金属粒子含有層の一方の表面(熱線遮蔽材が基板を有する場合は、基板表面)とが、所定の範囲内で略平行になっている態様であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、面配向の角度は、0°〜±30°であり、0°〜±20°が好ましい。
前記金属平板粒子の存在状態は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、後述する図3、図4のように並んでいることが好ましい。
【0124】
ここで、図2A〜図2Cは、本発明の熱線遮蔽材において、金属平板粒子を含む金属粒子含有層の存在状態を示した概略断面図である。図2Aは、金属粒子含有層2中における金属平板粒子3の最も理想的な存在状態を示す。図2Bは、基板1の平面と金属平板粒子3の平面とのなす角度(±θ)を説明する図である。図2Cは、金属粒子含有層2の熱線遮蔽材の深さ方向における存在領域を示すものである。
図2Bにおいて、基板1の表面と、金属平板粒子3の主平面又は主平面の延長線とのなす角度(±θ)は、前記の面配向における所定の範囲に対応する。即ち、面配向とは、熱線遮蔽材の断面を観察した際、図2Bに示す傾角(±θ)が小さい状態をいい、特に、図2Aは、基板1の表面と金属平板粒子3の主平面とが接している状態、即ち、θが0°である状態を示す。基板1の表面に対する金属平板粒子3の主平面の面配向の角度、即ち図2Bにおけるθが±30°を超えると、熱線遮蔽材の所定の波長(例えば、可視光域長波長側から近赤外光領域)の反射率が低下してしまったり、ヘイズが大きくなってしまったりする。
【0125】
前記金属粒子含有層の一方の表面(熱線遮蔽材が基材を有する場合は、基材表面)に対して金属平板粒子の主平面が面配向しているかどうかの評価としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、特開2011−118347号公報に記載の方法を用いることができる。
【0126】
前記金属粒子含有層における金属平板粒子を構成する金属のプラズモン共鳴波長λは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、熱線反射性能を付与する点で、400nm〜2,500nmであることが好ましく、可視光透過率を付与する点から、700nm〜2,500nmであることがより好ましい。
【0127】
−基材−
前記基材としては、光学的に透明な基材であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、可視光線透過率が70%以上のもの、好ましくは80%以上のもの、又は近赤外線域の透過率が高いものが挙げられる。
前記基材の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、白板ガラス、青板ガラス等のガラス材料、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)、などが挙げられる。
【0128】
(熱線遮蔽材の製造方法)
本発明の熱線遮蔽材の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、基板上に、金属平板粒子を有する分散液を、ディップコーター、ダイコーター、スリットコーター、バーコーター、グラビアコーター等による塗布や、LB膜法、自己組織化法、スプレー塗布などの方法で面配向させる方法が挙げられる。
【0129】
また、金属平板粒子の基板表面への吸着性や面配向性を高めるために、静電的な相互作用を利用して、面配向させる方法であってもよい。具体的には、金属平板粒子の表面が負に帯電している場合(例えば、クエン酸等の負帯電性の媒質に分散した状態)は、基板の表面を正に帯電(例えば、アミノ基等で基板表面を修飾)させておき、静電的に面配向性を高めることにより、面配向させる方法であってもよい。また、金属平板粒子の表面が親水性である場合は、基板の表面をブロックコポリマーやμコンタクトスタンプ法などにより、親疎水の海島構造を形成しておき、親疎水性相互作用を利用して面配向性と金属平板粒子の粒子間距離とを制御してもよい。
【0130】
なお、面配向を促進するために、金属平板粒子を塗布後、カレンダーローラーやラミローラー等の圧着ローラーを通すことにより促進させてもよい。
【0131】
(熱線遮蔽材の使用態様)
本発明の熱線遮蔽材は、熱線(近赤外線)を選択的に反射または吸収するために使用される態様であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択すればよく、例えば、乗り物用フィルム、建材用フィルム、農業用フィルムなどが挙げられる。これらの中でも、省エネルギー効果の点で、乗り物用フィルム、建材用フィルムであることが好ましい。
なお、本発明において、熱線(近赤外線)とは、太陽光に約50%含まれる近赤外線(780nm〜1,800nm)を意味する。
【実施例】
【0132】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。
以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0133】
[実施例1]
―金属平板粒子の合成―
2.5mmol/L(2.5mM)のクエン酸ナトリウム水溶液50mLに0.5g/Lのポリスチレンスルホン酸水溶液を2.5mL添加し、35℃まで加熱した。この溶液に10mmol/Lの水素化ほう素ナトリウム水溶液を3mL添加し、0.5mmol/Lの硝酸銀水溶液50mLを20mL/minで攪拌しながら添加した。この溶液を30分間攪拌し、種溶液を作製した。
反応釜中に2.5mmol/Lのクエン酸ナトリウム水溶液132.7mLにイオン交換水87.1mLを添加し、35℃まで加熱した。反応釜中の上記溶液に、10mmol/Lのアスコルビン酸水溶液を2mL添加し、前記種溶液を42.4mL添加し、0.5mmol/Lの硝酸銀水溶液79.6mLを10mL/minで攪拌しながら添加した。30分間攪拌した後、0.35mol/Lのヒドロキノンスルホン酸カリウム水溶液を71.1mLを反応釜に添加し、7質量%ゼラチン水溶液200gを反応釜に添加した。反応釜中の上記溶液に、0.25mol/Lの亜硫酸ナトリウム水溶液107mLと、0.47mol/Lの硝酸銀水溶液107mLを混合してできた亜硫酸銀の白色沈殿物混合液を添加した。前記白色沈殿物混合液を添加した後すぐに0.17mol/LのNaOH水溶液72mLを反応釜に添加した。このときpHが10を超えないように添加速度を調節しながらNaOH水溶液を添加した。これを300分間攪拌し、銀平板粒子分散液(一次分散液)を得た。
【0134】
この銀平板粒子分散液中には、平均円相当径200nmの銀の六角平板粒子(以下、Ag六角平板粒子と称する)が生成していることを確認した。また、原子間力顕微鏡(NanocuteII、セイコーインスツル社製)で、六角平板粒子の厚みを測定したところ、平均12nmであり、アスペクト比が16.7の平板粒子が生成していることが分かった。
【0135】
―本発明の二次分散物の作成―
前記銀平板粒子分散液(一次分散液)800mLを40℃に保ち、1NのNaOHおよび/または1Nの硫酸を用いてpH=10に調整した。分散剤として非水溶性のフェニルメルカプトテトラゾール(和光純薬工業社製、商品名5−メルカプト−1−フェニルメルカプトテトラゾール)をさらに添加して、10分間撹拌を継続した。添加量は、銀に対するモル比率で1.0%とした。これを遠心分離器(日立工機社製himac CR−GIII、アングルローター)で9000rpmで60分の遠心分離を行い、上澄みを760mL捨てた。沈殿した銀平板粒子を卓上型ホモジナイザー(三井電気精機社製、SpinMix08)の容器に移し、0.2mmol/LのNaOH水溶液を160mL加えて、12000rpmで20分間分散した。得られた分散液に0.2mmol/LのNaOH水溶液を200mL加え、これを実施例1の二次分散物とした。
【0136】
―熱線遮蔽材の作製―
得られた二次分散物200mLに、イオン交換水560mL、メタノール240mLを加える。続いてポリエステルラテックス水分散液(商品名ファインテックスES−650、DIC社製、固形分濃度30質量%)を28.2mL、界面活性剤A(商品名ラピゾールA−90、日本油脂(株)製、固形分1質量%)を12.5mL、界面活性剤B(商品名:アロナクティーCL−95、三洋化成工業(株)製、固形分1質量%)を15.5mL加え、攪拌し、二次分散物を含む塗布液を作製した。
この塗布液を基材として用いるPETフィルム(フジペット、富士フイルム(株)製、厚み:188μm)の表面上に、ワイヤーバーを用いて、乾燥後の平均厚みが0.08μmになるように塗布した。その後、150℃で10分間加熱し、乾燥、固化し、金属粒子含有層を形成した。
得られたPETフイルムに厚み20nmになるようにカーボン薄膜を蒸着した後、SEM観察(日立製作所製、FE−SEM、S−4300、2kV、2万倍)した。PETフイルム上にAg六角平板粒子が凝集なく固定されており、上記のようにして測定したAg六角平板粒子の基板表面に占める面積率は45%であることが分かった。以上により、実施例1の熱線遮蔽材を作製した。
【0137】
[実施例2]
実施例1の二次分散物調製において、分散剤として非水溶性PMTの代わりに水溶性PMT(和光純薬工業社製、商品名1−(m−スルホフェニル)−5−メルカプト−1H−テトラゾールナトリウム)を1.6g添加した以外は実施例1と同様にして、実施例2の二次分散物を得た。得られた実施例2の分散液を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例2の熱線遮蔽材を作製した(塗布液中の銀量が同じになるように添加量を調節した)。
【0138】
[実施例3]
実施例1の二次分散物調製において、分散剤として非水溶性PMTの代わりにメルカプト基を有する含窒素芳香族環を部分構造として有するポリマー(下記WP−3)を1.6g添加した以外は実施例1と同様にして、実施例3の二次分散物を得た。得られた実施例3の分散液を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例3の熱線遮蔽材を作製した(塗布液中の銀量が同じになるように添加量を調節した)。
【0139】
【化20】

【0140】
[比較例1]
実施例1の二次分散物調製において、分散剤として非水溶性PMTを添加しない以外は実施例1と同様にして、比較例1の二次分散物を得た。得られた比較例1の分散液を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例1の熱線遮蔽材を作製した(塗布液中の銀量が同じになるように添加量を調節した)。
【0141】
[比較例2]
実施例1の二次分散物調製において、分散剤として非水溶性PMTの代わりに分散剤として高分子量ゼラチン(新田ゼラチン社製、数平均分子量20万、分子の長さ約3000Å程度)を添加した以外は実施例1と同様にして、比較例2の二次分散物を得た。得られた比較例2の分散液を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例2の熱線遮蔽材を作製した(塗布液中の銀量が同じになるように添加量を調節した)。
【0142】
[評価]
(分散物安定性)
上記の各実施例および比較例の分散物について、それぞれ、20℃の環境下で3日間放置した後の銀粒子の分散性を以下の4段階の基準に従い評価した。
《評価基準》
◎:分散質としての銀粒子は、極めて均一性の高い状態での分散状態を保持している。
○:銀粒子の沈殿等は認められないが、分散液中に銀粒子の大きさのばらつきに由来すると考えられる濃淡がわずかに認められる。
△:銀粒子の沈殿がわずかに認められる。
×:銀粒子の沈殿が顕著に認められる。
【0143】
(熱線遮蔽性能)
各熱線遮蔽材の可視光透過率と遮蔽係数の関係は同一分散物を用いた場合、塗布量によってある傾きをもって変化する。そこで、各実施例および比較例の分散物の塗布量を変化させて、各実施例および比較例のごとに多数の熱線遮蔽材を製造した。熱線遮蔽性能は、可視光透過率と遮蔽係数を以下の方法で測定し、x軸を可視光透過率(単位%)、y軸を遮蔽係数(単位なし)として、可視光透過率と遮蔽係数の関係をプロットしたグラフを作成した。得られたプロットを一次曲線(直線)に近似し、得られた一次曲線を外挿して各分散物に固有のx切片の値(遮蔽係数0のときの可視光透過率の値(単位%))を求めた。
(1)可視光透過率の測定方法
作製した各熱線遮蔽材について、380nm〜780nmまで測定した各波長の透過率を、各波長の分光視感度により補正した値を可視光透過率とした。
(2)遮蔽係数の測定方法
作製した各熱線遮蔽材について、350nm〜2,100nmまで測定した各波長の透過率から、JIS5759記載の方法に基づき、遮蔽係数を求めた。
《評価基準》
◎:調製直後の実施例1の分散物を用いて作成したグラフ中の一次曲線のx切片を基準として、x切片が+1%以上。
○:調製直後の実施例1の分散物を用いて作成したグラフ中の一次曲線のx切片を基準として、x切片が−1%以上、+1%未満。
△:調製直後の実施例1の分散物を用いて作成したグラフ中の一次曲線のx切片を基準として、x切片が−4%以上、−1%未満。
×:調製直後の実施例1の分散物を用いて作成したグラフ中の一次曲線のx切片を基準として、x切片が−4%未満。
その結果を下記表1に示した。
【0144】
【表1】

上記表中、PMTはフェニルメルカプトテトラゾールの略称を意味する。
【0145】
上記表1より、分散剤としてフェニルメルカプトテトラゾールを用いた実施例1〜3の分散物は、長期安定性に優れることがわかった。また、長期保存した実施例1〜3の分散物を用いて熱線遮蔽材を製造した場合も、熱線遮蔽性能が良好となることがわかった。
また、実施例2および3の分散物は、1ヶ月の長期保存後に分散物安定性試験を行った場合もそれぞれ「△」評価と「○」評価であり、1ヶ月の長期保存後に熱線遮蔽試験を行った場合もそれぞれ「△」評価と「○」評価であった。
一方、比較例1より、分散剤を用いない場合、1週間後には分散液安定性が劣ることがわかった。比較例2より、分散剤として高分子量ゼラチンを添加した場合は、熱線遮蔽性能が悪化することがわかった。
【0146】
[実施例11]
実施例1における前記銀平板粒子分散液(一次分散液)400mLを40℃に保ち、1NのNaOHおよび/または1Nの硫酸を用いてpH=10に調整した。分散剤として水溶性PMTである1−(m−スルホフェニル)−5−メルカプト−1H−テトラゾールナトリウム(和光純薬工業株式会社製)を撹拌しながら添加して、10分間撹拌を継続した。添加量は、銀に対するモル比率で1.0%とした。引き続き、蛋白質分解酵素として科研製薬株式会社製アクチナーゼEを1.6g添加して、40℃を維持したまま60分間撹拌を継続した。その後、遠心分離を行わずに限外濾過を行った。限外濾過には、旭化成製マイクローザMFペンシル型モジュールPSP−003を用いた。まず始めに200mLに濃縮濾過を行った後、200mLの液量を保ちながらイオン交換水1000mLを添加して洗浄濾過を行った(ダイアフィルトレーション)。濾過は40℃で行い、モジュールの入口圧力が最大80kPaになるように出口側のバルブを調節した。モジュール内の線速が25cm/秒になるようにポンプ流量を設定した。イオン交換水を使い切った時点で濾過終了とした。二次分散液を80℃に昇温して、2時間保った後、室温に戻した。このようにして二次分散液を得た。得られた実施例11の二次分散液を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例11の熱線遮蔽材を作製した(塗布液中の銀量が同じになるように添加量を調節した)。
【0147】
[実施例12]
実施例11の二次分散物調製において、分散剤として水溶性PMTの代わりにメルカプト基を有する含窒素芳香族環を部分構造として有するポリマー(WP−3)を1.6g添加した以外は実施例11と同様にして、実施例12の二次分散液を得た。得られた実施例12の分散液を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例12の熱線遮蔽材を作製した(塗布液中の銀量が同じになるように添加量を調節した)。
【0148】
[比較例11]
実施例11の二次分散物調製において、分散剤の水溶性PMTを添加せず、更に蛋白質分解酵素も添加しない以外は実施例11と同様にして、比較例11の二次分散液を得た。得られた比較例11の分散液を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例11の熱線遮蔽材を作製した(塗布液中の銀量が同じになるように添加量を調節した)。
【0149】
[比較例12]
実施例11の二次分散物調製において、分散剤の水溶性PMTを添加しない以外は実施例11と同様にして、比較例11の二次分散液を得た。得られた比較例11の分散液を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例11の熱線遮蔽材を作製した(塗布液中の銀量が同じになるように添加量を調節した)。
【0150】
【表2】

上記表中、PMTはフェニルメルカプトテトラゾールの略称を意味する。
【0151】
上記表2の結果から、分散剤としてフェニルメルカプトテトラゾールを用いた実施例11および12の分散物は、長期安定性に優れることがわかった。
また、実施例11および12の分散物は、1ヶ月の長期保存後に分散物安定性試験を行った場合もそれぞれ「△」評価と「○」評価であった。さらに、実施例12の分散物は、1ヶ月の長期保存後に熱線遮蔽試験を行った場合も「○」評価であった。
【0152】
[実施例21および22]
実施例11および12で、限外濾過器として旭化成製マイクローザ、ペンシル型モジュールPSP−003の代わりに、Cefilt Test LAB(日本ガイシ製セフィルト(MF、0.1μm)を濾過膜として使用)に変更した以外は同様にして、各実施例の分散液および熱線遮蔽材を製造した。
得られた各実施例の分散液および熱線遮蔽材についても実施例11および12と同様の方法で評価したところ、実施例11および12と同様の傾向の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明の熱線遮蔽材は、可視光透過性及び日射反射率が高く、遮熱性能に優れるので、例えば自動車、バス等の乗り物用フィルムや貼合せ構造体、建材用フィルムや貼合せ構造体などとして、熱線の透過を防止することの求められる種々の部材として好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0154】
1 基材
2 金属粒子含有層
3 金属平板粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属平板粒子と、
メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造を有する化合物の少なくとも1種を含み、
前記金属平板粒子が、少なくとも前記メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造を有する化合物を含む分散媒に分散されていることを特徴とする分散物。
【請求項2】
前記金属平板粒子が、略六角形状〜略円盤形状の金属平板粒子であることを特徴とする請求項1に記載の分散物。
【請求項3】
前記略六角形状〜略円盤形状の金属平板粒子の平均粒子径が70nm〜500nmであることを特徴とする請求項2に記載の分散物。
【請求項4】
前記略六角形状〜略円盤形状の金属平板粒子のアスペクト比(平均粒子径/平均粒子厚み)が8〜40であることを特徴とする請求項2または3に記載の分散物。
【請求項5】
前記メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造を有する化合物が、水溶性であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の分散物。
【請求項6】
前記メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造を有する化合物が、メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造を側鎖または末端基に有するポリマーであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の分散物。
【請求項7】
前記メルカプト基を有する含窒素芳香族環構造が、メルカプトテトラゾール基またはメルカプトトリアゾール基であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の分散物。
【請求項8】
前記金属平板粒子が、少なくとも銀を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の分散物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の分散物を、基材上に塗布して得られる金属粒子含有層を含むことを特徴とする熱線遮蔽材。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−80156(P2013−80156A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220944(P2011−220944)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】