説明

分散装置

粉末吸入器用の分散装置は、粒子の流れを供給するための環状の流路(12)を有するマウスピース(10)を含む。この環状の流路は、軸方向の流入口(14)および軸方向の流出口(16)を有し、この軸方向の流出口(16)には、環状の方向変換チャンバ(18)が隣接する。この方向変換チャンバ(18)内において、軸方向に流入する粒子の流れが主として半径方向の流れに方向変換される。方向変換チャンバには、円周壁(22)および軸方向流出口(24)を有する回転チャンバ(20)が軸方向において隣接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粉末吸入器用の分散装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このタイプの分散装置は一般的に知られており、エーロゾルの分散発生用として用いられている。エーロゾルは活性剤とラクトースのような担体物質との混合物を含む。担体物質は、主として、流動性のような調合物の物理的特性を制御する機能を果たす。この場合、微小な活性剤は、基本的には粗大な担体物質の表面に付着している。呼吸可能な活性剤粒子を高率で発生させるためには、吸入中に、担体粒子および活性剤粒子の間、あるいは活性剤粒子の集塊の間に存在する付着力に打ち勝たなければならない。このために必要なエネルギーは分散装置に取り入れられることができる。
【0003】
既知の分散装置においては、分散させるために、衝突力または乱流、あるいはこれら2つの組み合わせが用いられる。また、衝突壁と付加的な供給空気流路とによって分散を発生させることも知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、構造が非常にコンパクトで組立が簡単な分散装置であって、吸引力を失うことなくできるだけ高い微小粒子分率を発生させることができる分散装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、請求項1の特徴によって、特に、粒子の流れを供給するためのリング状の流路が内部に設けられるマウスピースを備えた分散装置によって達成される。この場合、リング状の流路は、活性剤および担体物質の混合物を含む粒子の流れを供給するために、軸方向の流入口および軸方向の流出口を有する。本発明によれば、このリング状流路の軸方向の流出口に、リング形状の方向変換チャンバが隣接しており、そのチャンバ内において、軸方向に流入する粒子の流れが、主として半径方向の流れに方向変換される。同時に、この方向変換チャンバ内において、粒子の流れの加速を実現することが可能であり、それによって、軸方向において方向変換チャンバに隣接しかつ円周壁と軸方向流出口とを有する回転チャンバ内で、粒子の流れが円周形態に循環することになる。
【0006】
従って、リング状流路から供給される粒子の流れを、マウスピースにおける吸引によってのみ、方向変換チャンバから出た後にリング形状の循環径路に持ち込むことができる。その場合、軽量の粒子、例えば粒子径が5μm未満の純粋活性剤粒子は、その低い遠心力のために、初期段階において回転チャンバの軸方向流出口から流出することができる。一方、粗大粒子、例えば活性剤が凝着された担体粒子は、その慣性質量のために回転チャンバ内に長く保持され、回転チャンバ内において多数回循環して、その過程で回転チャンバの周囲壁に衝突し、それによって、微小活性剤粒子が、追加的に、粗大担体粒子から分離する。全微小粒子は、減速された速度で、回転チャンバの軸方向流出口を通る空気流れに追随し、非弾道性エーロゾルとして吸入用に利用できる。
【0007】
本発明によれば、方向変換チャンバおよび回転チャンバが粗大粒子の分離に用いられるのではなく、粗大粒子および微小粒子間の平均滞留時間が異なる配分が利用される。このため、粗大粒子も、吸入事象の終了まで回転チャンバから流出することができるので、吸入器の機能、または、別の注入用途の際の注入放出の一様性を劣化させる可能性がある真の粉末残留物は全く残らない。
【0008】
本発明によるリング状流路は、軸方向に向けられた流入口および流出口を有する。しかし、そうではあるものの、一般的に、リング状流路に導入される粒子の流れは、接線方向の流れの成分をも含むことができる。
【0009】
本発明の有利な実施形態は、本明細書と、図面と、従属請求項とに記述される。
【0010】
第1の有利な実施形態によれば、軸方向に対して斜めに向けられた案内羽根を方向変換チャンバの中に配置することができる。環状空間を経由して軸方向に流入する粒子の流れを、このような案内羽根によって簡単に接線方向の流れに方向変換できる。その場合、同時に、方向変換翼の設計によって、方向変換チャンバ内における粒子の流れの加速を効果的に行うことができる。
【0011】
この案内羽根は、所要の方向変換および加速効果を実現するように曲線形状にすることが有利である。この場合、案内羽根の曲率を軸方向に低減することが有利であり得る。これによって、案内羽根をタービン翼の方式で設計することが可能になり、可能最良の方向変換および加速を達成することができる。また、この場合、案内羽根が、断面において、湾曲した輪郭線を備えた翼形状を有することも有利であり得る。さらに、この場合、案内羽根が、方向変換チャンバの流入部の領域において丸められた前端部を有し、方向変換チャンバの流出部の領域においてより小さい丸みの後端部を有することも有利であり得る。実行したテストによれば、このような断面設計によって非常に良好な結果が得られる。
【0012】
別の有利な実施形態によれば、回転チャンバの軸方向流出口が中心に配置される。これによって、軽い粒子は初期段階に流出口を通って回転チャンバから流出でき、一方、重い粒子は回転チャンバの周囲壁に沿って循環する。
【0013】
さらに別の有利な実施形態によれば、末広がりの放出流路が回転チャンバの軸方向流出口に隣接している。この末広がり部分は凹面形状になっており、従って、吸入方向に対して横方向の比較的高い速度成分を有する回転チャンバ流出口からの流出エーロゾル粒子が、放出流路の領域内で減速され、これによって、エーロゾルの動きが主として流出流路における縦軸方向に向けられる。同時に、放出流路の断面積の増大によって、低速のエーロゾル放出が実現されるので、患者は非弾道性エーロゾルを吸入することになる。このようなマウスピースの形状を用いて流出方向および流出速度を変化させることによって、患者の口咽頭領域におけるエーロゾルの沈積が低減する。エーロゾルは、比較的高い半径方向速度で回転チャンバから流出口に流出するが、放出流路の末端におけるエーロゾルの流出速度は相対的に低速である。
【0014】
放出流路の流出側の末端部分に円筒状の領域を設けると、それによって、放出される粒子の流れを軸方向に束ねる効果が得られるので、さらに有利であり得る。凹面形状の設計の代わりに、凸面形状の設計も考えることができる。
【0015】
回転チャンバからの軽い粒子の沈積は、放出流路を、鋭いエッジを有するように形成し、特に鋭角の断面を有するエッジでもって回転チャンバに隣接させることによって、さらに追加的に改善できる。
【0016】
さらにまた、回転チャンバ内において、円周壁から軸方向流出口への移行部を、部分曲率を有するように形成することが有利であることも判明している。その理由は、この方策が、一方では空気力学的な改善に効果を有し、他方では粒子の沈積を低減するからである。
【0017】
本発明による分散装置においては、リング状流路の軸方向流出口と回転チャンバの流出口との間に、外部空気供給用の空気の流入開口は全く設けられない。これによって、分散装置の機能を維持するために追加的な吸引動力を加えなければならないという必要性がなくなる。この方式で追加動力を加えても、分散装置からの粉末の運動にも、また、実際の分散動力にも有利に働かない。粒子の流れの方向変換と咽頭に向けられた流出とは、本発明による幾何学的実践によってのみ実現される。
【0018】
次に、本発明を、有利な実施形態に基づいて、かつ添付の図面を参照して、純粋に事例として説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、マウスピース10を備えた粉末吸入器(図示されていない)用分散装置を示す。マウスピース10の下部側に、粒子流れ供給用のリング状流路12が設けられる。粒子の流れは、一般的にマウスピースにおける吸引によって生成される、すなわち、例えば、吸入器において活性剤および担体物質の所定注入量を使用し得るように準備し、続いて、それをマウスピースから吸引してリング状流路12の中に吸い込むことによって、粒子の流れが生成される。
【0020】
リング状流路12は、周囲方向において円周状に形成され、軸方向の流入口14および軸方向の流出口16を有し、流入口14および流出口16の両者はリング状流路12の全周にわたって延びている。
【0021】
リング状流路12の軸方向流出口16に隣接して、同様にリング形状の方向変換チャンバ18が設けられる。この方向変換チャンバ18はリング状流路12とほぼ同じ半径方向の広がりを有し、この方向変換チャンバ18において、軸方向に流入する粒子の流れが、主に半径方向の流れに方向変換される。方向変換チャンバ18の流出部においてほぼ半径方向に向けられた粒子の流れは、次に、円周壁22および軸方向流出口24を有する回転チャンバ20に導かれる。
【0022】
図1に示すように、リング状流路12の外径と、方向変換チャンバ18の外径と、回転チャンバ20の外径とはほぼ同一寸法である。リング状流路12の内径および方向変換チャンバ18の内径も互いに合致している。回転チャンバ20の軸方向流出口24の内径は、方向変換チャンバ18の内径よりも小さい。
【0023】
方向変換チャンバ18に軸方向に流入する粒子の流れを主として半径方向の流れに方向変換し、かつ同時にそれを加速するために、複数の案内羽根26を、その全周にわたって分布するように設け、軸方向に対して斜めの方位に向ける。各案内羽根26は方向変換チャンバ18の全断面にわたって延びている。各案内羽根は湾曲し、その曲率は軸方向に減少している。すなわち、その曲率は、方向変換チャンバ18の流入部において流出部におけるよりも明白に大きく形成されている。案内羽根26は、断面(縦軸方向断面)において、曲線化された輪郭線を備えた翼断面を有する。有利な実施形態によれば、案内羽根が、方向変換チャンバ18の流入部の領域において丸められた前端部を有し、方向変換チャンバ18の流出部の領域においてより小さい丸みの後端部を有する。その結果、案内羽根26の断面は、航空機の翼と同様のものになる。
【0024】
図1にさらに示すように、回転チャンバ20の周囲壁22は円筒形状であり、方向変換チャンバ18の流出部に直接隣接している。さらに、方向変換チャンバ18および回転チャンバ20の軸方向長さはほぼ等しい寸法である。回転チャンバ20は、その流出側の端部において、周囲壁22と中心に配置される軸方向流出口24との間の移行部を形成する端部壁28を有する。この場合、円周壁22から端部壁28への移行部は、隅の部分において湾曲している。
【0025】
放出流路30は回転チャンバ20の軸方向流出口24に隣接するが、その周囲壁32は凹面状に拡大している。しかし、回転チャンバ20の端部壁28と放出流路30の周囲壁32との間の移行部は、鋭いエッジを有するように形成され、図示の実施形態においては鋭角を有するように作られている。さらに、放出流路30は、その流出側の末端部分に円筒状の領域33を有する。この円筒状の領域33は放出流路30の末端まで延びており、放出される粒子の流れを軸方向に束ねる効果を有する。
【0026】
図1に示すように、リング状流路12の流入口14と放出流路30との間には、外部空気供給用の空気流入開口は全く設けられない。
【0027】
以上述べた分散装置を使用する際には、患者がマウスピース10から吸引し、それによって、粒子の流れがマウスピースを通って図示の矢印の方向(軸方向)に導かれる。この粒子の流れは、粉末吸入器(図示されていない)によって所要の注入量に予め使用可能に準備されたものである。吸引された粒子の流れは、最初に、流入口14を通ってリング状流路12に導入され、リング状流路12から、リング形状の軸方向流出口16を通ってリング形状の方向変換チャンバ18に流出する。方向変換チャンバ18において、粒子の流れは、一方では案内羽根26によって加速され、他方では主として半径方向の流れに方向変換される。その結果、粒子の流れは、方向変換チャンバ18の流出部において、方向変換チャンバ18に軸方向に隣接する回転チャンバ20の中にほぼ接線方向から流入する。粒子の流れは回転チャンバ20内で回転し、その場合、重い粒子は円周壁22の領域で長く循環し、軽い粒子は、空気流れに追随して、放出流路30の方向により速やかに移動する。
【0028】
回転チャンバ20内で当初循環する重い粒子は、その循環中に、周囲壁22との接触によって次第に小さい(活性剤)粒子を多く放出するようになり、最終的には、回転チャンバ20内に循環するこれらの粒子が同じように空気流れに追随して、同様に放出されるに至る。
【0029】
以上述べた分散装置は、有利な実施形態によれば、プラスチックから製造される。この場合、案内羽根26をインサート27と共に一体品として製作すること、例えば射出成形部品として製作することが有利であり得る。この場合は、案内羽根26がその上に成形されるインサート27を、マウスピース10の内部に差し込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】分散装置の部分的な側断面図である。
【符号の説明】
【0031】
10 マウスピース
12 リング状流路
14 リング状流路の流入口
16 リング状流路の流出口
18 方向変換チャンバ
20 回転チャンバ
22 円周壁
24 回転チャンバの流出口
26 案内羽根
27 インサート
28 端部壁(移行部)
30 放出流路
32 周囲壁
33 円筒状領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子の流れを供給するためのリング状の流路(12)が内部に設けられるマウスピース(10)を備えた粉末吸入器用分散装置であり、前記リング状の流路(12)は、軸方向の流入口(14)および軸方向の流出口(16)を有する分散装置であって、前記軸方向の流出口(16)にリング形状の方向変換チャンバ(18)が隣接し、前記方向変換チャンバ(18)内において、軸方向に流入する前記粒子の流れが主として半径方向の流れに方向変換され、かつ、前記方向変換チャンバ(18)に、円周壁(22)および軸方向流出口(24)を有する回転チャンバ(20)が軸方向において隣接する、分散装置。
【請求項2】
軸方向に対して斜めに向けられた複数の案内羽根(26)が前記方向変換チャンバ(18)の中に配置される、ことを特徴とする請求項1に記載の分散装置。
【請求項3】
前記案内羽根(26)が前記粒子の流れを加速する効果を有する、ことを特徴とする請求項2に記載の分散装置。
【請求項4】
前記案内羽根(26)が湾曲しており、その曲率が軸方向に低減する、ことを特徴とする請求項2または3に記載の分散装置。
【請求項5】
前記案内羽根(26)が、その断面において、湾曲した輪郭線を備えた流線型の翼形状を有する、ことを特徴とする請求項2、3または4に記載の分散装置。
【請求項6】
前記案内羽根(26)が、前記方向変換チャンバ(18)の流入部の領域において丸められた前端部を有し、前記方向変換チャンバ(18)の流出部の領域においてより小さい丸みの後端部を有する、ことを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の分散装置。
【請求項7】
前記回転チャンバ(20)の軸方向流出口(24)が中心に配置される、ことを特徴とする請求項1〜6の少なくとも1項に記載の分散装置。
【請求項8】
放出流路(30)、特に凹面状に拡大する放出流路が、前記回転チャンバ(20)の軸方向流出口(24)に隣接する、ことを特徴とする請求項1〜7の少なくとも1項に記載の分散装置。
【請求項9】
前記放出流路(30)が、鋭いエッジをもって、特に鋭角の断面をもって、前記回転チャンバ(20)に隣接する、ことを特徴とする請求項8に記載の分散装置。
【請求項10】
前記放出流路(30)が、前記放出される粒子の流れを軸方向に束ねる効果を得るために、流出側の末端部分に円筒状の領域(33)を有する、ことを特徴とする請求項8または9に記載の分散装置。
【請求項11】
前記回転チャンバ(20)内における前記円周壁(22)から前記軸方向流出口(24)への移行部(28)が部分的に湾曲している、ことを特徴とする請求項1〜10の少なくとも1項に記載の分散装置。
【請求項12】
前記リング状流路(12)の流出口(16)が全周にわたって延びている、ことを特徴とする請求項1〜11の少なくとも1項に記載の分散装置。
【請求項13】
前記リング状流路(12)の軸方向の流出口(16)と前記回転チャンバ(18)の流出口(24)との間に、外部空気供給用の空気流入開口は全く設けられない、ことを特徴とする請求項1〜12の少なくとも1項に記載の分散装置。

【図1】
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【公表番号】特表2009−526580(P2009−526580A)
【公表日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−554616(P2008−554616)
【出願日】平成19年1月9日(2007.1.9)
【国際出願番号】PCT/EP2007/000129
【国際公開番号】WO2007/096023
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(508248209)ジークフリート ゲェネリック インターナッィオナール アーゲー (1)
【Fターム(参考)】