説明

分析システムおよび分析方法

【課題】分析システムおよび分析方法を提供することを目的とする。
【解決手段】分析システム100は、分析対象の着色試料を保持するためのウェルを備え、隣接した前記マイクロウェルの間が光不透過性とされたマイクロウェルプレート104を載置する原稿台と、白色光源と、CCDを備えるラインセンサとを備え、着色試料の2次元イメージを取得するスキャナ102と、スキャナ102が取得した2次元イメージを取得して画像解析し、着色試料の補色を与える明度レベルの値を取得して着色試料の濃度に対する検量線を与える多項回帰係数を回帰分析により決定するコンピュータ装置106とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水質の分析に関し、より詳細には、水中に存在する窒素、リンの分析技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、河川や湖沼に流入する生活排水や工業廃水による水の富栄養化が種々の環境問題を生じさせている。また、近年では、魚類、甲殻類などの栽培漁業も普及し、養殖池の水質、養殖筏が設置されている付近の水質を分析することは、安定した生産、品質の維持などの点から必要とされている。その他、生活環境における水質を分析することも、住民などへの衛生面から必要である。
【0003】
従来、水質分析を行う際に利用される分析法は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、イオンクロマトグラフィーや、吸光光度分析などが利用されている。HPLCは、移動層に溶解した分析対象の固定層に対する親和性を利用して分析対象の溶出時間、すなわち、リテンションタイムの相違から、分析対象を定性的にまたは定量的に分析する方法である。また、吸光光度分析は、分析対象が本来有する光吸収特性または分析対象と化学的に反応して与えられる特有の光吸収特性を利用し、特定波長または波長領域における光吸収強度を、Lambert-Beerの法則に基づいて定量する方法である。
【0004】
いずれも充分な精度で分析が可能であり、実績の多い方法である。しかしながら、HPLCや吸光光度分析を行うためには、分析システムを購入することが必要であり、このための投資として、数十万円〜数百万円を要する場合がある。
【0005】
水質分析の必要性は、先進工業国も必要ではあるが、開発途上国でも必要とされる。開発途上国では、水質分析のための投資は、大きな負担となり、水質分析の普及のための大きな障壁となっている。
【0006】
これまで、複数のサンプルを計測するために、マイクロプレートリーダーを利用する分析技術が知られている。例えば、特開平6−138129号公報(特許文献1)には、複数の試薬キットに対応できるマイクロプレートリーダーが記載されており、複数の被検試料を、吸光光度法を利用して光学的に分析する自動分析方法が記載されている。特許文献1に記載されたマイクロプレートリーダーは、試料セルの光学特性を個別に設置された光源からの光照射による吸光度測定を個別的に行うものであり、効率が悪く、また、専用の装置が必要となり、装置への投資も過大なものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−138129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、水質分析を充分な精度をもって高効率に、さらには低コストなシステムを利用して水質分析を行うことを可能とする、分析システムおよび分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、本発明では、情報処理装置と、画像解析アプリケーションと、スキャナと、スキャナ上に配置され、隣接するウェルからの光散乱の影響を排除するように、隣接するウェル間を光不透過性としたマイクロウェルプレートとを含む水質分析システムを提供する。
【0010】
マイクロウェルプレートは、隣接して複数のウェルが形成され、各ウェルは、分析試料を保持している。マイクロウェルプレートは、フラットベッドスキャナ上に載置され、フラットベッドスキャナにより同時に複数のウェル内の分析試料の吸収特性を反映した2次元イメージが取得される。
【0011】
2次元イメージは、分析試料の吸収特性を反映し、分析試料の吸収スペクトルは、分析試料の着色の補色として与えられ、この結果、2次元イメージの補色を与えるRGB成分が良好な濃度相関性を与えることができ、良好な濃度相関性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の分析システム100の概略図。
【図2】本実施形態で使用するスキャナ102にマイクロウェルプレート104が載置されている所を示す図。
【図3】本実施形態の分析システム100が採用する光吸収検出方法の原理を示す概略図。
【図4】本実施形態でマイクロウェルプレートに保持された試料の実施形態を示す図。
【図5】分析対象を、リン酸態リンとし、JIS K0102を使用してモリブデン青法によりシアンに発色させた場合の実施形態を示す図。
【図6】図4および図5に示した試料の分光特性に相違を示すため、Rに対応する色成分を抽出した輝度レベルヒストグラム。
【図7】本実施形態で得られた明度レベル(R、G、B)−濃度プロットを、硝酸態窒素(図7(a))およびリン酸態リン(図7(b))について示す図。
【図8】本実施形態で得られた検量線の回帰係数を示す図。
【図9】本実施形態で得られた検量線の回帰係数を示す図。
【図10】比較例で得られた検量線の回帰係数を示す図。
【図11】比較例で得られた検量線の回帰係数を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を、実施形態をもって説明するが、本発明は、後述する実施形態に限定されるものではない。図1は、本発明の分析システム100の概略図を示す。図1に示す分析システム100は、スキャナ102と、コンピュータ装置106とを含んで構成されている。スキャナ102は、白色光源(図示せず)と、CCDおよび光学フィルタを含むラインセンサ(図示せず)とを含む市販のものであり、読み取り台または原稿台上にマイクロウェルプレート104が載置されている。
【0014】
スキャナ102の形式は、特に限定されるものではないが、分析システム100のために専用化することを考慮すれば、市販のフラットベット式のスキャナを使用することが好ましい。マイクロウェルプレート104は、複数のウェルを備えていて、ウェル内に分析対象のサンプルを保持している。
【0015】
ユーザは、サンプルを保持したマイクロウェルプレート104を、スキャナ102の原稿台と、適切な白色板との間に配置し、コンピュータ装置106から画像取得指令を発行し、白色光源から放出され、白色光源−マイクロウェル−白色板−マイクロウェル−CCDの経路をたどった光線を平面的に取得し、サンプルの光吸収に対応する2次元イメージを取得する。
【0016】
コンピュータ装置106は、パーソナル・コンピュータまたはワークステーションなどを使用して実装でき、また、そのマイクロプロセッサ(MPU)は、これまで知られたいかなるシングルコア・プロセッサまたはマルチコア・プロセッサを含んでいてもよい。また、コンピュータ装置106は、WINDOWS(登録商標)シリーズ、UNIX(登録商標)、LINUX(登録商標)、MAC OSシリーズなど、これまで知られたいかなるオペレーティング・システムにより制御されてもよい。また、コンピュータ装置106は、ウェブ・サーバ(図示せず)にアクセスして、画像解析に基づく分析を依頼するため、Internet
Explorer(登録商標)、Mozilla(登録商標)、Opera(登録商標)、FireFox(登録商標)、Chrome(登録商標)などのブラウザ・ソフトウェアを実装することができる。
【0017】
その他、コンピュータ装置106は、Image-J(登録商標)や、Photoshop(登録商標)といった適切な画像解析アプリケーションおよびTWAINなど適切なイメージ取得ドライバを実装し、スキャナ102が取得した2次元イメージの解析を可能としている。なお、コンピュータ装置106は、ウェブサーバなどとの間で、TCP/IPなどのトランザクション・プロトコルを使用するHTTP、HTTPSなどのファイル転送プロトコルでテータ送受信を行っている。また、コンピュータ装置106は、データベースサーバにアクセスするために、JDBC(Java(登録商標)Database
Connectivity)、ODBC(Open Database Connectivity)などを実装し、JDBCなどで定められるアプリケーションレベル・プロトコルで、データベースアクセスすることができる構成とすることができる。
【0018】
コンピュータ装置106には、ディスプレイ装置108、キーボード110、マウス112などが接続され、処理結果を表示し、キーボード110、マウス112からのユーザ入力を受領して各種処理を実行している。コンピュータ装置106は、イーサネット(登録商標)などによってネットワーク114に接続され、遠隔接続されたウェブサーバにアクセス可能とされている。
【0019】
図2は、本実施形態で使用するスキャナ102にマイクロウェルプレート104が載置されている所を示す。スキャナ102の原稿台上には、マイクロウェルプレート104が載置されている。マイクロウェルプレート104には、複数のウェル120が形成されていて、分析対象の試料をウェル内に収容・保持することができる構成となっている。
【0020】
分析対象の試料は、着色溶液として調整され、図2の矩形枠122で示される領域にあるウェルに充填される。マイクロウェルプレート104のウェルの間の領域は、隣接するウェルの光学的影響を排除する目的で、黒色ペイントなど光遮蔽性の処理が施されている。また、スキャナ102の白色板は、スキャナ102がある程度の厚さのある物体について原稿台と白色板との間に挟み込めるように設定されていない場合には、白色板をスキャナ102本体とは別体とし、読み取り台または原稿台上のマイクロウェルプレート104を載置させていない部分も覆うように白色板を載置することで、2次元イメージを取得する構成とすることもできる。
【0021】
ユーザは、スキャナ102に試料を充填し、マイクロウェルプレート104とともに白色板を載せてコンピュータ装置106で、画像処理アプリケーションを起動して、マイクロウェルプレート104の2次元イメージを取得する。ウェル120内に保持された試料は、光学的に着色しているので、試料による光吸収に応じて異なる色相を有する2次元イメージが取得できる。
【0022】
図3は、本実施形態の分析システム100が採用する光吸収検出方法の原理を示す概略図である。スキャナ102から放出される白色光Iは、図3(a)で示すように、分光感度域(400〜700nm)にわたり、白色光を再現するようにRGB成分が調整されている。一方、試料は、本実施形態では、原稿台に載置された、減法混色のフィルタ(CMY)としてみなすことができる。このため、スキャナ102の白色光源が放出した白色光は、試料層を通過した後、図3(b)で示すように、試料による光吸収を反映し、試料の吸収による波長域が減少した反射光特性を与える。図3に示した実施形態では、試料は、マゼンタ(500〜600nm)領域に吸収を有するものとして説明するので、図3(b)で示すように、マゼンタ領域の波長成分が下記式(1)で示すように、減少する。
【0023】
【数1】

【0024】
上記式(1)中、I(λ)は、反射光強度であり、Iは、白色光強度であり、A(λ)は、分光感度補正を含む吸光度であり、cは、試料濃度、lは、マイクロウェルの実効的光路長である。このため、I(λ)は、マゼンタに対応する分光分布が減少する結果、補色である、シアン(400〜500nmの波長領域+600〜700nmの波長領域)の色調を有することになる。
【0025】
本実施形態では、上述した光吸収特性を利用し、A(λ)は、試料に固有な量であり、lは、各ウェルに固有の値であり、cが試料濃度であることを利用し、スキャナ102が取得した2次元イメージのうち、測定対象の試料の吸収特性についての補色の強度を利用して検量線を作成することで、試料の定量分析を行う。
【0026】
図4は、本実施形態でマイクロウェルプレート104に保持された試料の実施形態を示す。図4に示す実施形態は、水中の硝酸態窒素の分析を行うことを目的とし、還元ナフチルエチレンジアミン法(JIS K0102)を使用して硝酸態窒素を二酸化窒素に還元し、二酸化窒素を発色剤により、マゼンタに発色させた試料を使用した。図4(a)に示すように、マイクロウェルプレート104に保持された試料は、還元ナフチルエチレンジアミン法によりマゼンタに発色している。図4(b)に示すように、マイクロウェルプレート104には、矩形枠400で示す領域に、図面上から、0mg/L〜1.0mg/Lまでの試料が充填されていて、硝酸態窒素の濃度に応じて、マゼンタの濃度が異なっているのが示されている。
【0027】
図5は、分析対象を、リン酸態リンとし、JIS K0102を使用してモリブデン青法によりシアンに発色させた場合の実施形態を示す。図5に示す実施形態では、図5(a)に示すように、試料は、シアンに着色しており、図5(b)の矩形枠500内のマイクロウェルに0mg/L〜1.00mg/Lまでの濃度として充填されている。本実施形態では、図4(a)および図5(a)に示すウェルセットを2次元イメージとして取得し、各補色に対応する光強度を検出して定量分析を行う。
【0028】
図6は、図4および図5に示した試料の分光特性に相違を示すため、Rに対応する色成分を抽出した輝度レベルヒストグラムであり、図6(a)が、還元ナフチルエチレンジアミン法によるマゼンタ発色のRレベルヒストグラムであり、図6(b)が、モリブデン青法によるシアン発色のRレベルヒストグラムである。図6に示されるように、図6(a)は、還元ナフチルエチレンジアミン法によるマゼンタ発色のRレベルヒストグラムであり、R成分が明確に観測されている。一方、図6(b)で示すようにモリブデン青法によるシアン発色では、試料がマゼンタの波長領域を吸収することに対応し、R成分がまったく存在していないことが確認される。
【0029】
同様のことは、他の発色系の場合にも適用でき、測定対象の吸収のうち、吸収ピークに近い色成分が最も強く吸収を受けることから、シアン、マゼンタ、イエローの表色系に対応するRGB表色系の最も強く吸収を受ける色成分を使用して検量線を作成することが高感度測定を行うためには好ましい。
【0030】
図4〜図6に示すように、スキャナ102を利用することによって取得された2次元イメージについて補色を利用することで硝酸態窒素およびリン酸態リンの分析を高精度に行うことが可能であることがわかる。なお、本実施形態では、硝酸態窒素およびリン酸態リンの分析に関して具体的に説明したが、他の元素であっても、比色分析、吸光光度分析などを使用して行う定量分析には、本発明が適用できることは理解されよう。
【0031】
また、本実施形態では、分析対象の試料の吸収特性は、2次元イメージファイルとして取得できるので、例えば取得した2次元イメージファイルをネットワーク、セイコーエプソン(株)製、 GT−X970を介して遠隔的に設置されたサーバに送付し、サーバにより分析を行い、その結果をユーザに通知することによって、より効率的な分析システムおよび分析サービスを提供することもできる。
【0032】
さらに本発明では、マイクロウェルプレート104あたりのウェルの数は、1〜96の範囲で適宜選択でき、1回の測定で定量することができる試料数を飛躍的に増大できまた、発色のために使用する1サンプルあたりの試薬量も削減することができるので、測定システムのコストおよび分析のランニングコストを含め、低コストで、簡便であり、さらに普及性に優れた分析システム100を提供することができる。
【0033】
以下、本発明を具体的な実施例をもって説明する。なお、本発明は、後述する実施例によっても限定されるものではない。
【0034】
1.硝酸態窒素の分析
硝酸態窒素の分析は、還元ナフチルエチレンジアミン法(JIS K0102)を使用して、硝酸態窒素をマゼンダに発色させた。試薬は、共立理化学研究所(株)製のポータブル水質分析計Λ9000用に調整された試薬(LR−NO)を用いた。使用したリージェントは、R1、R2の2種類あり、NO−R1は、硝酸態窒素を、すべて二酸化窒素態窒素に還元する還元剤である。また、NO−R2は、還元された二酸化窒素態窒素を存在窒素の濃度に応じてマゼンダに着色する顕色剤である。
【0035】
試料の調整は、標準物質(和光純薬(株)製、特級 硝酸ナトリウム)1.0mlを試験管中に採取し、NO−R1試薬0.1mlを加え、試験管ミキサーにて撹拌・混合した。その後、常温(20℃〜30℃)で15min還元反応を行い、NO−R2を0.1ml添加し、試験管ミキサーにて撹拌・混合して発色反応を完了させた。発色させた試料を、マイクロウェル間を黒に着色した24穴マイクロウェルに移し、マイクロウェルをスキャナ(セイコーエプソン(株)製, GT−X970)の原稿台上に載置し、2次元イメージを取得し、補色であるシアンの明度レベルを画像解析により取得し、RGB成分の明度レベルを取得した。なお、本実施例で使用した部分黒塗りのマイクロウェルプレートは、IWAKI社製のEZViewカルチャープレートLBカバーガラスボトム(24well)5826-024であった。
【0036】
同様の方法で、硝酸態窒素の含有量の異なる試料を、窒素含有量で、0.00〜1.00mg/l(0.0、0.2、0.4、0.6、0.8、1.0mg/l)の範囲で調整し、RGB各成分のうち、補色のうち、最も強度減少のダイナミックレンジの大きな色成分であるGのデータを利用して濃度に対する検量線を作成した。
【0037】
2.リン酸態リンの分析
リン酸態リンの試料は、モリブデン青法(JIS K0102)にしたがって調整し、試薬としては、共立理化学研究所(株)製のポータブル水質分析計Λ9000用の試薬(LR−PO)を使用し、以下の手順で試料を調整した。
【0038】
標準物質(和光純薬(株)製、特級 リン酸1水素2カリウム)1.0mlを試験管中に投入し、PO−R1試薬0.2mlを添加して、試験管ミキサー内で撹拌混合し、さらにPO−R2試薬を添加して撹拌・混合を続け、常温(20℃〜30℃)で10min反応を行い、シアンに着色した試料を得た。
【0039】
発色させた試料を、マイクロウェル間を黒に着色した24穴マイクロウェルの各ウェル内に移しマイクロウェルプレートごとスキャナ(セイコーエプソン(株)製, GT−X970)の原稿台上に載置し、2次元イメージを取得し、補色であるマゼンタの明度レベルをRGB成分として画像解析により取得した。
【0040】
同様の方法で、リン酸態リンの含有量が異なる試料を、リン酸含有量で、0.00〜1.00mg/l(0.00、0.02、0.04、0.06、0.08、0.10、0.20、0.60、0.80、1.00mg/l)を作成し、RGB各成分のうち、最も強度変化のダイナミックレンジの大きなR成分の強度を使用して濃度に対する検量線を作成した。
【0041】
3.比較例
比較例として、同様にして調整した試料を、光路長10mmの小液量タイプのキュベットに移し、それぞれ540nm(硝酸態窒素)および880nm(リン酸態リン)の波長の光学濃度(OD)を、吸光光度分析計(島津製作所(株)製,紫外・可視分光光度計UV−1700)測定することにより検量線を作成した。
【0042】
4.結果
図7〜図9に実施例の結果を示し、図10および図11に比較例の結果を示す。図7は、本実施形態で得られた明度レベル(R、G、B)−濃度プロットを、硝酸態窒素(図7(a))およびリン酸態リン(図7(b))について示す。図7に示されるように、本実施例では、測定結果は、硝酸態窒素およびリン酸態リンの両者について非線形のプロットが得られた。得られたプロットを、RGBそれぞれの明度レベルに対する濃度を、Excel2003(マイクロソフトコーポレーション製)を使用して多項式回帰分析(2次)を行ってフィッティングし、それぞれの回帰係数を得た。その結果を、図8および図9に示す。図8および図9に示すように、統計検定の結果(標準誤差、P値)から、これらの回帰式は信頼性が高く、試料中の硝酸態窒素(NO−N)およびリン酸態リン(PO−P)の濃度を定量する場合の検量線に適用することができることが示された。
【0043】
一方、図10および図11に比較例の結果を示す。図10が硝酸態窒素の結果であり、図11がリン酸態リンの結果である。図10および図11に示すように、吸光光度分析による、ODは、濃度に対して概ねリニアな関係を示している。また、実施例と、比較例とについて測定限界などを比較した場合、いずれも、1.0mg/l程度までは充分な精度を持って測定することができ、検出限界についても同程度の結果が得られた。
【0044】
以上説明したように、本発明によれば、分光光度計などの高価な分析機器を使用することなく、充分な精度で水質分析を行うことができる分析システムおよび分析方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0045】
100 分析システム
102 スキャナ
104 マイクロウェルプレート
106 コンピュータ装置
108 ディスプレイ装置
110 キーボード
112 マウス
114 ネットワーク
120 ウェル
122 矩形枠
400 矩形枠
500 矩形枠


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学特性を利用して水質分析を行う分析システムであって、前記分析システムは、
分析対象の着色試料を保持するためのウェルを備え、隣接した前記ウェルの間が光不透過性とされたマイクロウェルプレートと、
前記マイクロウェルプレートを載置する原稿台と、白色光源と、CCDを備えるラインセンサとを備え、前記マイクロウェルプレートが保持する前記着色試料の2次元イメージを取得するスキャナと、
前記スキャナが取得した前記2次元イメージを取得して画像解析し、前記着色試料の補色を与える明度レベルの値を取得して前記着色試料の濃度に対する検量線を与える多項回帰係数を回帰分析により決定するコンピュータ装置と
を含む分析システム。
【請求項2】
前記着色試料は、還元ナフチルエチレンジアミン法によりマゼンタに着色した硝酸態窒素またはモリブデン青法によりシアンに着色したリン酸態リンであり、それぞれの前記補色は、シアンおよびマゼンタである、請求項1に記載の分析システム。
【請求項3】
前記コンピュータ装置は、ネットワークを介して前記2次元イメージを取得するサーバ装置である、請求項1または2に記載の分析システム。
【請求項4】
前記補色を構成するRGB成分のうち最も強度減少の大きい色成分の強度を使用して前記多項回帰係数の回帰分析を行って前記検量線とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の分析システム。
【請求項5】
光学特性を利用して水質分析を行う分析方法であって、前記分析方法は、
分析対象の着色試料を保持するためのウェルを備え、隣接した前記ウェルの間が光不透過性とされたマイクロウェルプレートに前記着色試料を保持させるステップと、
前記マイクロウェルプレートを載置する原稿台と、白色光源と、CCDを備えるラインセンサとを備えるスキャナにより前記マイクロウェルプレートが保持する前記着色試料の2次元イメージを取得するステップと、
コンピュータ装置により、前記スキャナが取得した前記2次元イメージを取得して画像解析し、前記着色試料の補色を与える明度レベルの値を取得して前記着色試料の濃度に対する検量線を与える多項回帰係数を回帰分析により決定するステップと、
を含む分析方法。
【請求項6】
前記着色試料は、還元ナフチルエチレンジアミン法によりマゼンタに着色した硝酸態窒素またはモリブデン青法によりシアンに着色したリン酸態リンであり、それぞれの前記補色は、シアンおよびマゼンタである、請求項5に記載の分析方法。
【請求項7】
前記補色を構成するRGB成分のうち最も強度減少の大きい色成分の強度を使用して前記多項回帰係数の回帰分析を行って前記検量線とする、請求項5または6に記載の分析方法。
【請求項8】
前記コンピュータ装置は、ネットワークを介して前記2次元イメージを取得するサーバ装置である、請求項5または6に記載の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−191081(P2011−191081A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55269(P2010−55269)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(500132214)学校法人明星学苑 (23)
【Fターム(参考)】