説明

分析システム

【課題】反応試薬を予め貯蔵し分析後に試薬と共に処分しうる分析システムを得る。
【解決手段】被検体が導入される反応セル113と、反応セルに供給される試薬が貯蔵される試薬貯蔵部111と、を有し、試薬を反応セルに流して反応を光学的に検出してDNA分析を行う分析システムにおいて、反応セル113と、1検査分の試薬が内蔵された試薬貯蔵部(dNTP槽)111と、を有する分析チップと、分析チップが着脱可能として装着される分析装置と、分析チップが分析装置に装着された場合、試薬を試薬貯蔵部から反応セルに注入する分析装置に設けられたポンプ101と、を備え、反応セル113に被検体を導入した後に、ポンプ101を駆動して試薬を反応セル113に注入し、分析装置に設けられた光検出器によりDNA分析を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者に対してDNA分析を行う分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
POCテスティングに使用しうる分析装置として、特許文献1には本分析装置は、表面に流体が流れる微細な溝を有する有機ポリマー製の平板を有するチップと、チップ上の溝内の液体の少なくとも一部分に励起光を照射して、前記液体の部分的な温度変化に伴う物理量変化を計測する光熱変換検出装置を備えた分析装置が開示されている。これは、まず、チップ内の検体用液だめに検体を200μL、また試薬用液だめに試薬を200μL分注する。そして、前記検体用液だめと試薬用液だめから廃液だめへの電気浸透流を発生させ、検査用液だめと廃液液だめを連絡する溝を通じて検体を廃液だめに送り、また試薬用液だめと廃液液だめを連絡する溝を通じて試薬を廃液だめに送る。この時、前記2種類の溝が廃液だめの上流側で合流するため、合流した1本の溝内で試薬と検体が混合され、3〜5分間で反応が完結する。そして、反応が完結した検体にレーザー光を照射し、光熱変換法により検出するものである。
【0003】
また、特許文献2には、試薬を内包した核酸の増大検出装置が開示されている。また、特許文献3には、試薬を内包した使い捨て式カートリッジが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−266759号公報
【特許文献2】特開平6−197751号公報
【特許文献3】特開2001−527220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記公知例に記載の分析装置は、検体と試薬が分析チップの溝内を流れながら反応するため反応のために供給する試薬の量の低減には限度がある。また、流れながら混合する形態のため反応時間の短縮が十分でない。
【0006】
予め反応に要する試薬を貯蔵した基板等の容器に被検体を供給してその中で反応させ、分析後に前記容器を廃棄するような用い方をする分析装置においては迅速な分析を行うことが重要である。また、簡便で精度の高い分析を行うことが要求される。
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、反応試薬を予め貯蔵し分析後に試薬と共に処分しうる分析チップ、分析装置を提供することにある。特に、取り扱いが容易で迅速な分析ができるディスポーザブルな分析チップ、或いはそれを備えた分析システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、生体から採取される被検体が導入される反応セルと、前記反応セルに供給される試薬が貯蔵される試薬貯蔵部と、を有し、前記試薬を前記反応セルに流して反応を光学的に検出してDNA分析を行う分析システムにおいて、前記反応セルと、1検査分の試薬が内蔵された前記試薬貯蔵部(dNTP槽)と、を有する分析チップと、前記分析チップが着脱可能として装着される分析装置と、前記分析チップが前記分析装置に装着された場合、前記試薬を前記試薬貯蔵部から前記反応セルに注入する前記分析装置に設けられたポンプと、を備え、前記反応セルに前記被検体を導入した後に、前記ポンプを駆動して前記試薬を前記反応セルに注入し、前記分析装置に設けられた光検出器によりDNA分析を行うものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、取り扱いが容易で迅速な分析ができ、反応試薬を予め貯蔵し分析後に試薬と共に処分しうる分析チップ及びそれを備えた分析システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
分析チップは、被検査体を貯蔵し、該被検査体と分注された試薬との反応を進行させる反応セルと、前記反応セルに連絡した、試薬を貯蔵する試薬貯蔵部(1個あるいは複数個)と、前記反応セルと前記試薬貯蔵部を結ぶ連絡管(ノズル)を備えるディスポーザブルな分析チップであることができる。なお、この反応セルは大気解放でも密閉型でもよい。また反応セルの個数は1個あるいは複数個であってよい。
【0011】
具体的には以下の構成を有することができる。
(1)分析チップは、被検体の供給部で試薬との反応を行うよう形成するものである。
【0012】
具体的には、基板と、前記基板に形成され、生体から採取される被検体が導入される反応セルと、前記反応セルに供給される試薬が貯蔵される試薬貯蔵部と、前記反応セルと前記試薬貯蔵部とを連絡し、前記試薬貯蔵部に貯蔵される前記試薬が前記反応セルに流れる流路を構成する試薬ノズル部と、を有することを特徴とする分析チップである。
【0013】
前記のように被検体が供給される部分で反応を行うことで、試薬が混合される部分より下流側に流下して反応部を構成するよりも試薬量を少量化することができ、迅速な反応を行うことができる。このため、使い切りの分析チップに好適である。
(2)分析チップは、外部流体による試薬の流れの制御供給機構を備えるものである。
【0014】
例えば、基板と、前記基板に形成され、生体から採取される被検体が導入される反応セルと、前記反応セルに供給される試薬が貯蔵される試薬貯蔵部と、前記反応セルと前記試薬貯蔵部とを連絡し、前記試薬貯蔵部に貯蔵される前記試薬が前記反応セルに流れる流路を構成する試薬ノズル部と、前期試薬貯蔵部に連絡し、前記試薬を前記試薬貯蔵部から前記試薬ノズル部に流動させる流体を前記試薬貯蔵部に供給する流体供給経路と、を有することを特徴とする分析チップである。
例えば、前記流体供給経路は、外部から前記流体を導入する導入部を備える。
(3)分析チップは、微細流路で試薬貯蔵部と反応セルとを連絡するものである。
【0015】
例えば、基板と、前記基板に形成され、生体から採取される被検体が導入される反応セルと、前記反応セルに供給される試薬が貯蔵される試薬貯蔵部と、前記反応セルと前記試薬貯蔵部とを連絡し、前記試薬貯蔵部に貯蔵される前記試薬が前記反応セルに流れる流路を構成する試薬ノズル部と、を有し、前記流路は、少なくとも前記被検体が導入される前の状態で、前記試薬貯蔵部から前記反応セルにつながる間隙が形成されてなることを特徴とする分析チップである。
特に、微細流路は流路断面積が15,000μm2以下の領域を有するようにすることが好ましい。
(4)前記(1)から(3)の何れかにおいて、前記外部から流体を供給する機構の代わりに前記試薬貯蔵部は外力により前記試薬貯蔵部の容積を減少させるよう変形する領域を備えるようにすることができる。
(5)前記(1)から(4)の何れかにおいて、前記流体供給経路は、前記試薬ノズルの前記試薬貯蔵部への連絡部から前記試薬貯蔵部の内壁における最も離れた領域までの距離の80%以上の距離の領域で前記試薬貯蔵部への連絡部が形成されることを特徴とする。
(6)前記(1)から(5)の何れかにおいて、前記基板は、第一の基板と前記第一の基板の一主面側に形成された第二の基板とを有し、前記試薬貯蔵部は前記第一の基板と前記第二の基板との間に前記試薬が貯蔵される領域が形成され、前記一主面を貫く方向に関して、前記試薬貯蔵部が形成される領域の外側の領域に前記試薬ノズルの少なくとも一部が形成される。
(7)前記(1)から(6)の何れかにおいて、前記試薬ノズルより、前記流体供給経路の容積の方が大きく形成される。
(8)前記(1)から(7)の何れかにおいて、前記試薬ノズルより前記流体供給経路の最小流路断面積の方が大きく形成される。
(9)前記(1)から(8)の何れかにおいて、前記試薬貯蔵部と、前記試薬貯蔵部と反応セルを連絡する試薬ノズルとを複数備える。
(10)前記(1)から(9)の何れかにおいて、少なくとも前記反応セルは、導入される被検体と試薬との反応に基づく光を反射する反射板を前記基板に設置する。
(11)前記(1)から(10)の何れかにおいて、前記基板は有機材料を主構成要素とする。
(12)前記(1)から(11)の何れかにおいて、分析チップの反応セルと試薬貯蔵部とを結ぶ流路はできるだけ等しくすることが好ましい。例えば、前記基板に前記試薬貯蔵部が複数形成され、前記試薬貯蔵部から前記反応セルまでの流路のうち最短の流路は最長の流路の95%以上の長さを有する。これにより、液の供給量の制御が容易となり、精度良い検出ができるチップを提供することができる。例えば、遺伝子情報を含む被検体を供給する場合等、試薬により発光或いは蛍光反応をさせる場合等に好適である。
【0016】
本分析装置は、前記少なくとも何れかの特徴を備えた分析チップを支持する部材(この部材は、分析チップの流路と連絡する流路、および吸着用の溝を備えていることが好ましい)、分析チップを前記支持部材に脱着可能に固定する固定機構、基板の流路と分析チップの流路を通じて分析チップ内の試薬貯蔵部に流体を送液して試薬貯蔵部内の試薬を分析チップ内の反応セルに押し出す機構(ポンプ),貯蔵された被検査体と分注された試薬との反応を検出する検出部(反応検出は、発光,蛍光,比色いずれも可)を備えることが好ましい。
(13)例えば、生体から採取される被検体が導入される反応セルと、前記反応セルに供給される試薬が貯蔵される試薬貯蔵部と、前記反応セルと前記試薬貯蔵部とを連絡する試薬ノズル部と、を有する分析チップを設置する分析チップ設置部と、前記試薬貯蔵部の前記試薬を前記試薬ノズル部に排出させる流体を前記分析チップ試薬貯蔵部に供給する供給機構と、前記反応セルに対向して前記反応セルで生じる光を検出する検出部と、を有する分析装置である。
(14)前記(13)において、いわゆる真空チャックにより分析チップを保持するようにすることが好ましい。
【0017】
例えば、前記分析チップ設置部には、前記分析チップを前記分析チップ設置部に固定する固定機構を備える。また、前記分析チップ設置部に減圧ポンプに連絡する経路を備える。
【0018】
本分析装置により、POCテスティングに用いる分析装置をはじめとする医療現場で使用する分析装置に好適な、小型・可搬で、分析結果が迅速に得られる装置を提供することができる。また、診療所など患者に近いところでルーチン検査に用いるのに好適な、取り扱いが容易な装置を形成することができる。
【0019】
また、微量の試薬ですむので検体毎にチップを交換して廃棄するような使用形態にも適する。
【0020】
また、分析方法としては、被検体を収容した反応セルを温度制御機構により昇温し、前記被検体をある温度まで短時間に昇温する手順、前記反応セルにおいて、被検体と供給された試薬との反応に由来する発光を検出する手順、反応セルを冷却して前記被検体を室温まで短時間に冷却する手順、とを含むことが好ましい。
(15)複数のヌクレオチドを供給する場合に間に一旦温度を低下させて昇温させる工程を有する。
【0021】
具体的には、一本鎖DNAを含む被検体に第一のヌクレオチドを供給する第一の供給工程と、前記被検体に前記第二のヌクレオチドを供給する第二の供給工程と、を有し、前記第一のヌクレオチドと前記被検体とを室温より高い第一の温度にする第一の昇温工程と、前記第一の温度から前記第一の温度より低い第二の温度にする工程と、前記第二のヌクレオチドと前記被検体とを前記第二の温度より高い第三の温度にする工程と、有することを特徴とする分析方法である。
【0022】
なお、前記第一の供給工程の後に、前記第一のヌクレオチドと前記被検体との作用の有無を検知する第一の検知工程を備えることが好ましい。また、前記第二の供給工程の後に、前記第二のヌクレオチドと前記被検体との作用の有無を検知する第二の検知工程を備えることが好ましい。
【0023】
前記披検体は、例えば、プライマを備えた一本鎖DNAを含むものであることができる。前記ヌクレオチドは前記DNAを構成する塩基に対して相補性を有するものを含む。
ATGCの各ヌクレオチドを順次供給するようにすることが好ましい。また、前記第一或いは第三の温度は、45度以下であることが好ましい。或いはまた、25度以上であることが効果的である。
(16)生体から採取される被検体が導入される反応セルと、前記反応セルに供給される試薬が貯蔵された試薬貯蔵部と、前記反応セルと前記試薬貯蔵部とを連絡し、前記試薬貯蔵部に貯蔵される前記試薬が前記反応セルに流れる流路を構成する試薬ノズル部と、を有する分析チップを提供する工程と、前記提供された分析チップの前記試薬貯蔵部の試薬を冷却して凝固する工程と、前記凝固した試薬を貯蔵する前記分析チップを搬送する工程と、前記搬送された前記分析チップを昇温して前記試薬を融解する工程と、前記反応セルに生体から採取された被検体が導入され、前記試薬と混合される工程と、前記混同により生じる反応を検知する工程と、を有することを特徴とする分析チップの使用方法である。
【0024】
これにより、試薬の劣化を抑制でき、分析チップ搬送等の取り扱い時に外力が加わった場合でもチップの損傷や貯蔵試薬の流動を抑制できる。また、簡易で精度の高い分析ができる分析チップを提供できるので、高信頼性の分析を行うことができる。生化学分析用の多くの試薬のように失活が早いものであっても活性の高い状態で分析を実施できる。また試薬の失活を防ぐためにユーザが検査直前に試薬のタンクから試薬だめに分注する場合に比べ、ユーザの分注の負担及び試薬の汚染の可能性を簡易に抑制できる。
【0025】
また、例えば、分析チップは、前記流路は、少なくとも前記被検体が導入される前の状態で、前記試薬貯蔵部から前記反応セルにつながる間隙が形成される形態を有するものであることが好ましい。
(17)分析チップの取り扱いに関しては、生体から採取される被検体が導入される反応セルと、前記反応セルに供給される試薬が貯蔵された試薬貯蔵部と、前記反応セルと前記試薬貯蔵部とを連絡し、前記試薬貯蔵部に貯蔵される前記試薬が前記反応セルに流れる流路を構成する試薬ノズル部と、を有する分析チップを提供する工程と、前記提供された分析チップの前記試薬貯蔵部の試薬を冷却して凝固する工程と、前記凝固した試薬を貯蔵する前記分析チップを搬送する工程と、を有することを特徴とする分析チップの使用方法を用いることが好ましい。
(18)前記(16)のように凝固する代わりに、提供された分析チップを冷却装置に導入して、前記分析チップの前記試薬貯蔵部の試薬が凝固する温度以上の温度に冷却する工程と、前記分析チップを前記冷却装置の外よりも温度が低く且つ前記試薬が凝固する温度以上の温度で搬送する工程と、前記搬送された前記分析チップを昇温する工程と、前記反応セルに生体から採取された被検体が導入され、前記試薬と混合される工程と、前記混同により生じる反応を検知する工程と、を有することを特徴とすることもできる。
【0026】
これにより、試薬の活性の低下を抑制できるので、このような試薬を貯蔵した分析チップを用いることにより精度良い効率的な分析を行うことができる。特に、試薬に酵素を含む場合、冷却して酵素の活性低下を抑制できる。加えて、予め試薬を貯蔵した分析チップを昇温して被検体と前記試薬を分析チップで混合することにより、検査時の分注装置により分注する場合に分注装置に付着する洗浄液等との接触によるPHの変化等による活性低下を抑制できる。
【0027】
また、特に、凝固する場合に比べて液体状態で冷蔵する工程を有するので凝固時に前記流路が堆積膨張し、変形するのを防止できる点で好ましい。なお、例えば、前記温度は
10℃以下程度であって凝固以上の温度とすることができる。
【0028】
また、例えば、分析チップは、前記流路は、少なくとも前記被検体が導入される前の状態で、前記試薬貯蔵部から前記反応セルにつながる間隙が形成される形態を有するものであることが好ましい。
(19)また、分析チップの取り扱いについて、生体から採取される被検体が導入される反応セルと、前記反応セルに供給される試薬が貯蔵された試薬貯蔵部と、前記反応セルと前記試薬貯蔵部とを連絡し、前記試薬貯蔵部に貯蔵される前記試薬が前記反応セルに流れる流路を構成する試薬ノズル部と、を有する分析チップを提供する工程と、前記提供された分析チップを冷蔵装置に導入して、前記試薬貯蔵部の試薬を前記試薬の凝固点以上の温度に冷却する工程と、前記分析チップを前記冷却装置の外よりも温度が低く且つ前記試薬が凝固する温度以上の温度で搬送する工程と、を有することを特徴とする分析チップの使用方法を用いることができる。
(20)また、被検体の遺伝子に関する分析を行う複数のユーザに対して、ネットワークを介して接続された遺伝子情報に関するデータベースを備えた情報管理センタであって、前記情報管理センタは、前記ユーザから前記分析結果情報と前記ユーザのIDとを受信し、前記受信された前記分析結果情報を対応する前記データベースの情報とに基いて評価した評価情報を前記ユーザに送信し、前記分析結果情報を前記ユーザから送信された前記ユーザと前記情報管理センタとを連絡するネットワークとを前記データベースに組込むことを行うことを特徴とする情報管理センタである。前記送信には送信装置或いは受信には受信装置、組込みには制御装置を備えることができる。
(21)前記(20)において、前記情報管理センタは、前記分析に使用した装置の使用情報とを受信し、前記情報管理センタは、ネットワークを介して接続された前記使用情報を利用するサービスプロバイダに前記使用情報を送信し、また、前記サービスプロバイダからデータベースの情報に関する情報を受信する。
(22)(20)或いは(21)の少なくとも一方においてサービスプロバイダは、前記情報管理センタから、前記分析に使用する装置の使用情報を受信し、前記データベースの情報に関する情報を前記情報センタに送信する。
【0029】
なお、前述のような分析チップ,分析装置等を用いることにより、在宅やベッドサイドでの検査や、一般診療所での患者の近くでの迅速検査等、いわゆるPOC(Point−of−
Care)テスティングを好適に実施できる。
【0030】
具体的には、例えば、前述の微小な反応セルを有する分析チップと簡便な光検出器を組み合わせることにより、分析時間が従来よりも短縮され、かつ小型で可搬な分析装置を提供することが出来る。またディスポーザブルな分析チップに予め1検査分のみの試薬を内蔵し、分析チップを凍結した状態でユーザに提供することで、POC検査に最適な環境を作ることができる。また、本発明の分析チップを核としたPOC向けの検査サービスの態勢を敷くことにより、遺伝子情報や臨床データを活かした好適な医療サービスを提供できる。
【0031】
本発明の一実施例として、DNAの塩基配列の分析を行う例を説明する。
(分析の原理)
DNA塩基配列の分析方法の一つとして、プライマが結合したDNAサンプルのプライマ以降の塩基配列を分析する手法がPCTWO98/28440号に開示されている。具体的には、DNAサンプルを構成する4種の塩基、すなわちアデニン(A),シトシン(C),グアニン(G),チミン(T)に対して、それぞれ相補性(AはTと、CはGと、水素結合で引き合う性質)を有する4種のデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)、すなわちデオキシチミン三リン酸(dTTP),デオキシグアニジン三リン酸(dGTP),デオキシシトシン三リン酸(dCTP),デオキシアデニン三リン酸(dATP)をDNAサンプルに順次加える。
【0032】
添加したdNTPがDNAサンプルに結合した時、副産物としてピロリン酸が生成するので、そのピロリン酸を発光反応により検出する。4種のdNTPを順次加えてどのdNTPを加えた時に発光するかを見ることで、DNAサンプルの塩基配列を読み取ることができる。上記の反応行程は、大きく分けて以下の3段階である。
・第1段階
DNAポリメラーゼ(DNA合成酵素)の存在下、添加したdNTPがDNAサンプルに結合すると、プライマが伸長し、dNTPからピロリン酸(PPi)が遊離する。
【0033】
(DNA)n+dNTP→(DNA)n+1+PPi…(1)
・第2段階
PPiはアデノシン三リン酸スルフリラーゼ(ATPスルフリラーゼ)の存在下、アデノシン5′−ホスホ硫酸(APS)と反応することで、アデノシン三リン酸(ATP)へと変換される。
【0034】
PPi+APS→ATP+SO42- …(2)
・第3段階
生成したATPは、ルシフェラーゼの存在下、ルシフェリンと反応し、発光体であるオキシルシフェリンを生成する。その発光を検出することにより、プライマの伸長が分析される。すなわち、添加したdNTPとDNAサンプルとの結合の有無が確認される。
ATP+luciferin+O2→AMP+PPi+oxyluciferin+CO2+光 …(3)
なお、未反応の前記dNTPと余剰ATPは、アピラーゼ等の核酸分解酵素により分解される。
dNTP→dNDP+PPi→dNMP+PPi …(4)
ATP→ADP+PPi→AMP+PPi …(5)
(分析装置の構成)
分析装置の構成を図1,図2,図3を用いて説明する。図1は分析装置の斜視図、図2は分析チップの詳細図、図3はポンプの断面図である。
本分析装置は大きく分けて,基板100・分析チップ110・光検出器120の3つの構成要素から成る。基板100は、微量の流体(本実施例では、1回の送液量が0.1μL)を送液する4つのポンプ101-i(i=1,2,3,4)、ポンプから出た流体が流れる4本の基板流路102-i(i=1,2,3,4)、分析チップ110の反応セル113を配置する領域に形成する分析チップ110の温度を最適化するための温度制御機構103、分析チップ110を吸着させるための吸着溝104から構成される。なお、本実施例では4種類のdNTP(dATP,dTTP,dGTP,dCTP)を扱うため、ポンプ
101-iや基板流路102-iの数が4であるが、分析用途に応じてそれらの数を変更することができる。
温度制御機構103にペルチェを使用した場合、印加電流の向きを変えるだけで分析チップ110の昇温・冷却操作を簡便に行うことができる。
【0035】
ポンプ101-iの形態は特に限定されるものではない。本実施例においては、図3に示されるように厚さ1.5mm程度のシリコン製容積型ポンプであり、マイクロファブリケーションにより吸入口131、吐出口132、ダイアフラム133、ポンプ室134、吸入弁135および吐出弁136等の加工が施されている。ポンプの駆動は、外部のアクチュエーター137でダイアフラム133を変形させることにより行う。すなわち、ダイアフラム133が上方に膨らんだ時はポンプ室134の内部が減圧されるため、吐出弁136が閉じて吸入弁135が開き、吸入口131からポンプ室134に液体が吸入される。次に、ダイアフラム133が下方に凹むとポンプ室134の内部が加圧されるため、吸入弁
135が閉じて吐出弁136が開き、吐出口132からポンプ室134の外部へと液体が吐出される。
【0036】
基板100上に置く分析チップ110は、4種類のdNTP(dATP,dTTP,
dGTP,dCTP)をそれぞれ保管する4つのdNTP槽111-i(i=1,2,3,4)、すなわちdATP槽111-1、dCTP槽111-2、dTTP槽111-3、dGTP槽111-4と、基板100流路から送られた流体を各dNTP槽111-iに連絡する4本の分析チップ流路112-i(i=1,2,3,4)を有する。基板の基板流路102-iに接続される領域を備え、DNAサンプルとdNTPが反応する反応セル113と、反応セル113と4つのdNTP槽111-iを連結する4本のdNTPノズル114-i(i=1,2,3,4)、すなわちdATPノズル114-1、dCTPノズル114-2、dTTPノズル114-3、dGTPノズル114-4から構成される。なお上述のように、分析チップ流路112-iやdNTP槽111-i、dNTPノズル114-i、および反応セル113の数は分析用途に応じて変更することが出来る。前記dNTPノズルは同様の長さであることが好ましい。例えば、最長のdNTPノズルの95%の長さ以上の長さを最も短いノズルが有していることが好ましい。それにより、液量の供給制御が容易となり精度より分析ができる。
【0037】
この分析チップ110を基板100の上に置き、基板100を固定する。そして、分析チップ流路112-iと基板流路102-iを連絡させる。具体的には、基板100の吸着溝104を真空排気用ポンプ105により真空引きすることにより、分析チップ110は基板100に吸着することができる。このように真空チャックを行うことで、基板流路
102-iと分析チップ流路112-iが確実に接続され、流体の漏れを防止する一方で、分析チップ110は基板100に対して容易に着脱可能となる。分析チップ110をPOC用途で使い捨てとするには、真空チャックによる分析チップ110の固定方式が極めて実用的である。
【0038】
光検出器120は、光検出器120受光面が反応セル113に対向して配置する(例えば、反応セル113の上にくるよう配置する)。光検出器120としてはCCDカメラ、光電子倍増管、フォトダイオード等を使用できるが、装置を小型化するにはフォトダイオードが好ましい。
【0039】
本発明の実施例の形態では、大型の励起用レーザーを用いなくとも、分析チップ110を基板100上に置いて簡便な光検出器120を組み合わせて、小型で可搬な分析装置を提供することが出来る。
(分析チップの作成)
分析チップ110の材料として、加工費用が高くまた割れ易いガラスよりも、廃棄処理性に優れる樹脂のほうが好ましい。樹脂の種類は特に限定されるものではないが、本実施例では以下の優れた特性を有するポリジメチルシロキサン(PDMS:ダウコーニングアジア社製,シルポット184)を使用した。
・生体適合性良好(通常のシリコンゴムは生理的に不活性)
・サブミクロンの精度で型の転写が可能(硬化前は低粘度で流動性に富むため、複雑な形状の細部まで良好に浸透)
・低コスト(マイクロデバイス材料のパイレックス(登録商標)ガラスより安価)
・焼却により容易に廃棄可能
以下に樹脂基板(以下には、一例としてPDMSを使用した場合を記載)を使用した分析チップ110作成の流れを図4に示す。分析チップは、分析チップの構成要素を型どるパターンをフォトリソグラフィー技術により作成し、このパターンを樹脂に転写成形して成型することができる。
【0040】
プロセスは大きく分けて、〔1〕PDMSに転写するパターンの成形,〔2〕PDMSへのパターン転写,〔3〕PDMS同士の接合、からなる。
〔1〕PDMSに転写するパターンの成形
パターンの材料として感光性厚膜レジスト207(Micro.Chem社製,NANOSU−8)をシリコンウェハ208に塗布(ステップ201)、フォトマスク209を感光性厚膜レジスト207の上に置いて露光(ステップ202),現像の行程(ステップ203)を経てマイクロパターンが成形される。尚、製法はこれに限られるわけではない。本方法によればウェットエッチングによるフォトファブリケーションより、短形断面を保持しながら曲線形状を成形できる長所を有する。
〔2〕PDMSへのパターン転写
PDMS210をパターン上に塗布,加熱することによりPDMS210は硬化する
(ステップ204)。凸形状のマイクロパターンより、凹形状のPDMS210が得られる(ステップ205)。
〔3〕PDMS同士の接合
パターンが転写されたPDMS210の表面を酸素プラズマ処理し、2枚のPDMS
210を重ねあわせることで、PDMS210同士は接合する。接合強度は、接合部位を剥がそうとするとPDMS210が破断するほど充分なものである。なお、一方をPDMSとして、シリコン,ガラスと接合させてもよい。
【0041】
上記の方法により得られた分析チップ110の断面を図5に示す。図5に示されるように、dNTPノズル114-iおよび反応セル113をパターン成形したPDMS第1層
115(縦25mm,横25mm,厚さ1mm)と、dNTP槽111-i,分析チップ流路
112-iおよび反応セル113をパターン成形したPDMS第2層116(縦25mm,横25mm,厚さ1mm)とを接合したものである。なお、分析チップ流路112-i,dNTP槽111-iとdNTPノズル114-iおよび反応セル113をパターン成形したPDMSと、何もパターン成形していない平板のPDMSとを接合して作成することも勿論可能である。
【0042】
上記の方法で作成された反応セル113が貫通穴である場合は、底となる板が必要である。前述のように、分析チップ110の底板は温度制御機構103から反応セル113に熱を伝える媒体の役割も果たすことから、熱伝導性が良い材料であることが好ましい。さらに、底板の表面が鏡面であれば、反応セル113内での試薬の発光が底板に反射し、反応セル113上部の光検出器120により検出される発光強度が増加する。分析チップ
110の底板として、反射率の異なる材質A,材質B,材質Cの3種類を分析チップ110の底部に取り付け、DNA分析の最終かつ代表反応であるATPとルシフェリン・ルシフェラーゼの発光反応(式(3))を行った結果を図6に示す。材質Cとしてシリコンウェハの切片を使用すると、その鏡面による反射効果で発光量が材質A(ガラス)使用時よりもかなり大きくなった。そこで、熱伝導性が良好であり、かつPDMSとの接合が酸素プラズマ処理のみで容易に行えるシリコンウェハの切片を分析チップ110の底板として取付けた。例えば、前記底板110又は反応セル113の底部は前記分析チップの表面の反射率より大きくなるよう形成する。
なお、PDMSの成形方法は上記の手法に限定されるものではなく、例えば押し出し成形によって加工することもできる。
【0043】
分析チップ110の構成要素の寸法は以下の通りである。dNTP槽111-iは縦10mm,横10mm,深さ0.1mm で容量が10μLである。なお、dNTP槽111-iの形状は、特に限定されるものではない。
【0044】
分析チップ流路112-iは断面形状が縦1mm,横0.1mmで長さ2mmで、dNTP槽
111-iにつながっている。分析チップ流路112-i端は、dNTPノズル114-iの端面から最も離れた領域付近に形成されることがこのましい。dNTP槽111-iにおける最も離れた部位までの距離の8割以上の距離を持つ領域に形成される。これにより円滑な流動及び液を効果的に使用できるので好ましい。またdNTPノズル114-iの断面形状は縦40μm,横20μmで長さ4mmである。dNTPノズル114-iの断面積を1000
μm2以下と十分小さくすることで、dNTP槽111-iから反応セル113への試薬の漏れ込みを効果的に防止することができる。dNTPノズル114-iの断面積を800
μm2以下とするとより好ましく、500μm2以下とするとさらに好ましい。
【0045】
このようにdNTPノズル114-iの断面積を充分小さくすることで、流体をハンドリングする為の弁を用いず、簡便な構造とすることができる。なお、下限は例えば、液供給時の脈動防止の観点から80μm2以上の断面積を有することが好ましい。または、液中の気泡が発達して送液の妨げとならないよう、300μm2以上の断面積を有することが好ましい。また、冷凍して分析チップを搬送することを考慮して300μm2以上の断面積を有することがチップの損傷などを防止する観点で好ましい。一方、上限は、バルブレスであっても液を適切に保持できるようにすることを考慮して15,000μm2以下の断面積を有する。Pw−Pa+mg/R=γ(2/R)(Pw:液圧、Pa:空気圧、
mg/R水滴の圧力、γ:液と空気との表面張力、R:流路の半径)から好適な値として前記値を算出した。また、搬送時に冷凍する場合にその体積変化の影響を考慮して8,000μm2 以下の断面積にすることが好ましい。また、搬送時の外力が加わることを考慮すれば、3,000μm2以下の断面積にすることが好ましい。流路形状は上記観点から目的に応じて上限或いは下限を選択することが好ましい。
【0046】
例えば、複数のdNTP槽111-iからdNTPノズル114-iを会して連絡する反応セル113は直径2mm、容量が約5μLである。反応セル113の容量を1〜5μLと微小化することで、熱応答性が向上し、反応セル113の温度制御が迅速化する。これにより、反応セル113の温度を秒単位で変化させながら最適な条件下で反応を進行させることが出来る。また反応セル113の容量を微小化することで、dNTP槽111-iから反応セル113に分注されたdNTPが反応セル113全域に短時間(例えば約1秒程度)で拡散するため、混合操作が簡易となる。簡素化のためには、混合操作を用いないことも考えられる。
【0047】
従来技術(特開2000−266759号公報)では流路内で検体と試薬を混合しながら3〜5分間で反応を検出していたが、容量を1〜5μLと微小化した反応セル113内で検体と試薬をバッチ式に混合することで、反応を約1秒間で検出することができる。なお、反応セル113の容量を1〜7μLとしても効果的であり、また1〜10μLに設定しても微小化の効果を得ることができる。
(分析の手順)
分析チップ110を用いた分析の手順を、図7,図8を参照しながら説明する。図7は分析方法の手順を示すフローチャート図、図8は分析装置の断面図である。
初めに、DNAサンプルを作成する。塩基配列を分析したい一本鎖DNAサンプルに、塩基数15〜20のプライマを加え、95℃で5分間アニールした後に室温で30分間静置する。これにより、一本鎖DNAサンプルとプライマは結合する。この時結合しなかったプライマは洗浄して流す。次に、プライマ伸長酵素とdNTP分解試薬を混合した試薬を調整する。プライマ伸長酵素として、TaqDNAポリメラーゼ,TthDNAポリメラーゼ、VentDNAポリメラーゼ、サーモシーケナーゼのいずれかを用いることができる。またdNTP分解試薬として、ATPジホスファーゼ、ATPピロホスファーゼのいずれかを用いることができる。さらに、プライマの伸長が円滑に進むように、混合試薬に緩衝液を付加することが好ましい。該緩衝液としては、pH緩衝液としてのトリス−塩酸等、プライマの伸長反応の基質となる錯体(dNTPとMg2+)を作成するためのMgCl2、酵素タンパク質を酸化変性から保護するためのディチオスレイトールを混合して用いることが好ましい(ステップ211)。
【0048】
DNAサンプルの作成が済んだら、4種類のdNTPが予め4つのdNTP槽111-iに内蔵され、凍結保存しておいた分析チップ110を室温で解凍する。分析チップ110に予め1検査分のみのdNTPを内蔵してユーザに提供することで、分析チップ110を1検査の使い切りとしても試薬の無駄がなく、経済性が向上する。またユーザはdNTPをdNTP槽111-iに分注する手間を省くことができ、時間が短縮されるだけでなく、汚染を防ぐことも出来る。さらに、この分析チップ110を凍結した状態でユーザに提供し、ユーザが0℃で分析チップ110を凍結保存することで、dNTPの活性は1ヶ月保たれる。また、−20℃で凍結保存しておけば、半年以上dNTPの活性を保つことが可能である。このように、ディスポーザブルな分析チップ110に予め1検査分のみの試薬を内蔵し、分析チップ110を凍結した状態でユーザに提供することで、POC検査に最適な環境を作ることができる(ステップ212)。
【0049】
次に、分析チップ110を基板100の上に置き、分析チップ流路112-iと基板流路102-iが連通したのを確認したのち、吸着溝104を真空引きし、真空チャックにより分析チップ110を基板100に固定する(ステップ213)。
【0050】
そして、4つのポンプ101-iを駆動し、4本の基板流路102-iとそれに連通した4本の分析チップ流路112-iを流体で満たす。ここで使用する流体は、水、アルコール、或いは空気など、dNTPと接した時にdNTPの活性が損なわれないものであればよい(ステップ214)。
【0051】
次いで、先に調整したDNAサンプルを反応セル113の上部から反応セル113に5μL分注する(ステップ215)。
【0052】
その後、温度制御機構103を作動し、分析チップ底板106を介して反応セル113内のDNAサンプルの温度を短時間で昇温する。DNAサンプルにはいくつかの酵素が含まれるが、酵素の活性は温度の上昇と共に増加する。しかし、ある温度以上で酵素を長時間放置すると、酵素の変性が起こり、酵素の活性が急激に失われる。そこで、DNA分析の最終かつ代表反応であるATPとルシフェリン・ルシフェラーゼの発光反応(式(3))において、酵素を短時間で設定温度まで昇温し、発光検出を行った後、室温まで急速に冷却するという温度制御を、設定温度を変えて行った結果を図9に示す。酵素を短時間で
43℃まで昇温することで、発光量が20℃の時の2倍となった。すなわち、DNAサンプルの温度を短時間で43℃付近まで昇温することで、分析の際検出する発光量を20℃時の2倍に増大させることができる。なお、40℃までの昇温でも発光量は十分増大し、また25℃以上にすることで、20℃時以上の発光量を得ることが出来る。
【0053】
このように、DNAサンプルの温度を短時間で昇温することで発光量が増大することから、バックグランドノイズに対して発光信号値が高くなり、高感度な発光検出を行うことが出来る(ステップ216)。なお、酵素の活性等を考慮して、少なくとも昇温温度は5℃以上とする。また、同様の観点から45℃以下に昇温するようにする。
【0054】
次に、4つのポンプ101-iのうち一つのポンプ、例えば101-1を駆動し、基板流路102-1と分析チップ流路112-1に充填された流体を0.1μL送液する。これにより、分析チップ流路112-1と連絡したdATP槽111-1から0.1μLのdATPが
dATPノズル114-1を経て反応セル113に注入される(ステップ217)。
【0055】
注入したdATPがDNAサンプルに結合した場合、1秒以内で発光することから、この発光を光検出器120で測定することにより、DNAサンプルとdATPの結合が検出できる(ステップ218)。
【0056】
このあと、温度制御機構103を作動して反応セル113内の温度を短時間で室温まで冷却する。結合しなかったdATPが混合試薬により分解されるのに約50秒間を要するので、その間反応セル113内を43℃に保持したままでは、酵素の活性が失われるからである(ステップ219)。
【0057】
以下、dCTP212,dTTP213,dGTP214についても同様の操作を繰り返すことで、DNAサンプル201の塩基配列が分析される。すなわち、温度制御機構
103を作動して反応セル113内の温度を短時間で43℃まで昇温する(ステップ220)。
【0058】
次にポンプ101-2を駆動することで、dCTP槽111-2から0.1μLのdCTPがdCTPノズル114-2を経て反応セル113に注入される(ステップ221)。
【0059】
そして光検出器120により発光を測定し、DNAサンプルとdCTPの結合を検出する(ステップ222)。
【0060】
このあと、未反応のdCTPが混合試薬により分解される間、温度制御機構103を作動して反応セル113内の温度を短時間で室温まで冷却する(ステップ223)。
【0061】
ここで再び温度制御機構103を作動して反応セル113内の温度を短時間で43℃まで昇温する(ステップ224)。
【0062】
次にポンプ101-3を駆動することで、dTTP槽111-3から0.1μLのdTTPがdTTPノズル114-3を経て反応セル113に注入される(ステップ225)。
【0063】
そして光検出器120により発光を測定し、DNAサンプルとdTTPの結合を検出する(ステップ226)。
【0064】
このあと、未反応のdTTPが混合試薬により分解される間、温度制御機構103を作動して反応セル113内の温度を短時間で室温まで冷却する(ステップ227)。
【0065】
最後に、再び温度制御機構103を作動して反応セル113内の温度を短時間で43℃まで昇温する(ステップ228)。
【0066】
次にポンプ101-4を駆動することで、dGTP槽111-4から0.1μLのdGTPがdGTPノズル114-4を経て反応セル113に注入される(ステップ229)。
【0067】
そして光検出器120により発光を測定し、DNAサンプルとdGTPの結合を検出する(ステップ230)。
【0068】
このあと、未反応のdGTPが混合試薬により分解される間、温度制御機構103を作動して反応セル113内の温度を短時間で室温まで冷却する(ステップ231)。
【0069】
以上の行程を、4種類のdNTPについて繰り返して、DNAサンプルの配列を一塩基ずつ決定する(ステップ232)。
【0070】
なお、dATPとdTTP、或いはdCTPとdGTPとはそれぞれ結合する可能性があり、上述のようにdATPとdTTP、或いはdCTPとdGTPが連続しない順序でdNTPを反応させるのが望ましい。これにより各dNTP間の汚染を防止して、dNTPとDNAサンプルとの確実な結合を図ることができる。
【0071】
上記の手順に基づき、DNAサンプルの塩基配列を分析した時のDNAサンプルとdNTPとの具体的な結合について、図10を用いて説明する。図10は、DNAサンプルとdNTPとの結合を示す模式図である。
【0072】
DNAサンプル301は、一本鎖DNAサンプル302と、この一本鎖DNAサンプル302に結合しているプライマ303とから成っている。該DNAサンプル301の初期状態は、図10(a)に示すように、一本鎖DNAサンプル302にプライマ303が結合し、一本鎖DNAサンプル302のプライマ303以降の塩基配列がわからない場合の例である。なお、塩基配列の記号は、A:アデニン,G:グアニン,C:シトシン,T:チミンである。
【0073】
この初期状態で、混合試薬の存在下、dATP311を添加すると、図10(b)に示されるように、DNAサンプル301とdATP311が結合する。その時の発光を検出することにより、1塩基分の発光量変化が計測される。その後、未反応のdATP311を混合試薬により分解する。
【0074】
次に、混合試薬の存在下、dCTP312を添加すると、図10(C)に示されるように、DNAサンプル301とdCTP312が結合しない。よって、発光検出を行っても、発光量変化は計測されない。その後、未反応のdCTP312を混合試薬により分解する。
【0075】
さらに、混合試薬の存在下、dTTP313を添加すると、図10(d)に示されるように、DNAサンプル301と2つのdTTP313が続けて結合する。その時の発光を検出することにより、2塩基分の発光量変化が計測される。その後、未反応のdTTP313を混合試薬により分解する。
【0076】
最後に、混合試薬の存在下、dGTP314を添加すると、図10(e)に示されるように、DNAサンプル301とdGTP314が結合する。その時の発光を検出することにより、1塩基分の発光量変化が計測される。その後、未反応のdGTP314を混合試薬により分解する。
【0077】
上記の行程により、計測された発光強度のプロファイルはdATP311で1塩基分、dTTP313で2塩基分、dGTP314で1塩基分の順序であるから、DNAサンプル301のプライマ303以降の塩基配列がTAACであることが分析される。
【0078】
なお、本実施例においてはDNAの塩基配列を分析したが、分析対象はRNA、タンパク質、アレルギ、種々の抗原など広範囲に渡る。
【0079】
例えば、分析チップの反応セルに被検査体(含抗原)を充填し、試薬槽から試薬(例えば、B型肝炎ウィルス診断であればHBs抗体,B型肝炎ウィルス診断であればHCV抗体)を反応セルに注入して、反応セル内での抗原と抗体の凝集反応を光検出器により検出することで、被検査体の感染症の罹患具合を分析することが出来る。
【0080】
また、反応セルに血清を充填し、例えば、特表平9−504732号公報に記載の血液分析用の試薬を試薬槽から反応セルに注入した時の比色を吸光光度計により測定することで、血液中の蛋白質、酵素などを分析することができる。
【0081】
以上のように、流路内で検体と試薬を混合しながら流下させて3〜5分間で反応を検出するのに比べて、容量を5μLと微小化した反応セル113内で検体と試薬をバッチ式に混合することで、反応を短時間(例えば約1秒間)で検出することができる。また、大型の励起用レーザーが不要であり、分析チップ110を基板100上に置いて簡便な光検出器120を組み合わせるだけの、小型で可搬な分析装置を提供することが出来る。さらにディスポーザブルな分析チップ110に予め1検査分のみの試薬を内蔵し、分析チップ
110を凍結した状態でユーザに提供することで、POC検査に最適な環境を作ることができる。
【0082】
反応セル113に試薬を何度も分注するために、ポンプ101-iを用いて試薬を送液したが、試薬の分注が1〜2回であれば、図11に示すような試薬槽の容積変化を利用した形態で簡便に分析を行うことが出来る。すなわち、分析チップ400には反応セル401、試薬槽402-i、試薬ノズル403-iを設け、試薬槽402-iの上部にアクチュエーター404-iを設置する。なお、分析チップ400の作成時、反応セル401と試薬ノズル403-iをパターン形成したPDMS第1層405と、反応セル401および試薬槽
402-iをパターン形成したPDMS第2層406とを接合する前に、試薬を予め試薬槽に注入し、2枚のPDMSを接合した直後に分析チップ400を急速冷凍することで、試薬の活性を損なうことなく試薬槽402-iに封入することが出来る。
【0083】
試薬の反応セル401への分注は、試薬槽402-i上部のアクチュエーター404-iを駆動し、試薬槽402-iを下方に凹ませることで行う。PDMSは柔らかい材質であるので、PDMS第1層405の厚さが0.1〜1mmで試薬槽402-Iの変形が可能である。 分注精度は実施例1にやや劣るが、分析チップを基板に真空チャックするのに必要な真空用ポンプや、試薬を送液するためのポンプが不要となるので、装置の小型化を図ることができる。
【0084】
本発明の分析チップおよび分析装置を用いたPOC(Point−of−Care)向けのサービスを図12に示す。サービスプロバイダ500は、POCに対応した分析装置503および分析装置503に装着するディスポーザブルな分析チップ504をユーザ501に提供する。その際、分析チップ504は凍結した状態にしておく。ユーザ501はインターネット505を介して情報管理センタ502とのデータ交換が可能である。すなわち、ユーザ501は、情報管理センタ502にアクセスしてユーザIDを登録する。そして、ユーザ501は検査が終わった後、検査データ506をユーザIDと共に情報管理センタ502に送信することで、検査データ505を元にした診断情報507を情報管理センタ502から得ることが出来る。いっぽう、情報管理センタ502とサービスプロバイダ500もまたインターネット505を介してデータが相互交換されている。すなわち、情報管理センタ502はサービスプロバイダ500から遺伝子解析情報や臨床データを包括したデータベース508を受け取る代わりに、ユーザ501が消耗した分析チップ504の消費データ509とユーザIDをサービスプロバイダ500に送信する。この情報を受けて、サービスプロバイダ500は各ユーザ501の使用状況に応じた試薬を調製し、この試薬を凍結保存した分析チップ504をユーザ501の元に迅速に提供することが出来る。ユーザ501は、調製試薬が即凍結保存された分析チップ504を受け取ることが出来るので、試薬の活性維持に労力を割くことなく検査を行うことが出来る。
【0085】
情報管理センタ502はデータベースを有する場合等、の具体例について以下記載する。
【0086】
ユーザ501は、情報管理センタ502に対して、検査データ506等の分析結果情報と予め登録したユーザ501のIDとを送信する。IDは、例えば、ユーザと情報管理センタとの間で認証されたものである。情報管理センタ502では、受信された検査データ506を対応する前記データベースの情報とに基いて評価した評価情報である診断情報
507をユーザ501に送信する。検査データ506は、データベースに組込みより高精度の診断を行うのに利用される。前記送信には送信装置或いは受信には受信装置、組込みには制御装置を備えることができる。
【0087】
このように、情報管理センタ502は、データベースに基いて、送信された検査データ506に対する評価を提供する代わりに、多くのサンプルからなるデータベースを構築できるので、より精度の高い評価を行うことができる。特に遺伝子の配列等のように被検体の情報の蓄積により疾病の傾向がつかめるようなものである場合には、精度を効果的に高めることができる。
【0088】
前記遺伝子に関する分析は、たとえば、特定の部位の遺伝子配列についての分析であることができる。また、遺伝子情報に関するデータベースとは、特定部位の遺伝子の配列に基く疾病に関するデータベースであることができる。ここで評価とは例えば遺伝子多型情報に基くガンなどの疾病発症率などのようなことであることができる。
【0089】
また、前記分析は遺伝子に関する分析だけでなく、被検体の分析であれば適応することもできる。その場合は、前記遺伝子情報に関するデータベースは分析に関する個人のアレルギの度合いや薬の副作用の強さ等のデータベースである。
【0090】
また、更に、情報管理センタ502は、ユーザ501から前記分析に使用した装置の使用情報を受信するようにする。なお、この使用情報には装置の消耗品の消費情報等を含むことが好ましい。これにより、分析装置の消耗品の消耗状況などを把握することができ、ユーザ501への効果的なサービスを提供できる。
【0091】
前記情報管理センタが消費データ500などの装置の使用情報を受信して、前記使用情報を利用するサービスプロバイダ500に送信する。サービスプロバイダ500からは、遺伝子・臨床データベース508に提供する。
【0092】
このように、情報管理センタ502にとっては、予め特定の前記サービスプロバイダ
500との前記の情報の授受を行うことにより、効果的にデータベース内の情報の蓄積を高めて精度の高い評価を行うことができる。
【0093】
サービスプロバイダ500にとって、予め特定の前記情報管理センタ502と前記情報の授受を行うことにより、効果的にユーザの装置使用情報を収集でき効果的なサービスを提供することができる。
【0094】
このように、ディスポーザブルな分析チップ504を核としたPOC向けの検査サービスの態勢を敷くことにより、ユーザ501は時間と労力を節約しながら診断情報507を得ることができ、また分析チップ504も迅速に補充される。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】実施例1の分析システムの一例を示す斜視図である。
【図2】図1の分析チップの構成を示す拡大図である。
【図3】図1のポンプの構成を示す断面図である。
【図4】図1の分析チップの作成手順を示すフローチャート図である。
【図5】図1の分析チップの構成を示す断面図である。
【図6】分析チップの底板材料と発光検出量との関係を示すグラフである。
【図7】実施例1の分析手順を示すフローチャート図である。
【図8】実施例1の装置構成を示す断面図である。
【図9】発光量に対する温度制御の効果を示すグラフである。
【図10】DNAサンプルとdNTPとの結合状態を説明する模式図である。
【図11】実施例2の分析チップの構成を示す断面図である。
【図12】本発明の分析チップを核としたPOC検査サービスを示す説明図である。
【符号の説明】
【0096】
100…基板、101-1,101-2,101-3,101-4…ポンプ、102-1,102-2,102-3,102-4…基板流路、103…温度制御機構、104…吸着溝、105…真空排気用ポンプ、106…分析チップ底板、110…分析チップ、111-1…dATP槽、111-2…dCTP槽、111-3…dTTP槽、111-4…dGTP槽、112-1,
112-2,112-3,112-4…分析チップ流路、113…反応セル、114-1…dATPノズル、114-2…dCTPノズル、114-3…dTTPノズル、114-4…dGTPノズル、115…PDMS第1層、116…PDMS第2層、120…光検出器、121…電源、122…記録計、131…吸入口、132…吐出口、133…ダイアフラム、134…ポンプ室、135…吸入弁、136…吐出弁、137…アクチュエーター、207…感光性厚膜レジスト、208…シリコンウェハ、209…フォトマスク、210…PDMS、301…DNAサンプル、302…一本鎖DNAサンプル、303…プライマ、310…混合試薬、311…dATP、312…dCTP、313…dTTP、314…dGTP、400…分析チップ、401…反応セル、402-1,402-2,402-3,402-4…試薬槽、403-1,403-2,403-3,403-4…試薬ノズル、404-1,404-2,
404-3,404-4…アクチュエーター、405…PDMS第1層、406…PDMS第2層、500…サービスプロバイダ、501…ユーザ、502…情報管理センタ、503…分析装置、504…分析チップ、505…インターネット、506…検査データ、507…診断情報、508…データベース、509…消費データ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から採取される被検体が導入される反応セルと、前記反応セルに供給される試薬が貯蔵される試薬貯蔵部と、を有し、前記試薬を前記反応セルに流して反応を光学的に検出してDNA分析を行う分析システムにおいて、
前記反応セルと、1検査分の試薬が内蔵された前記試薬貯蔵部(dNTP槽)と、を有する分析チップと、
前記分析チップが着脱可能として装着される分析装置と、
前記分析チップが前記分析装置に装着された場合、前記試薬を前記試薬貯蔵部から前記反応セルに注入する前記分析装置に設けられたポンプと、
を備え、前記反応セルに前記被検体を導入した後に、前記ポンプを駆動して前記試薬を前記反応セルに注入し、前記分析装置に設けられた光検出器によりDNA分析を行うことを特徴とする分析システム。
【請求項2】
請求項1に記載のものにおいて、前記分析チップは凍結保存され、前記試薬は解凍されてDNA分析が行われることを特徴とする分析システム。
【請求項3】
請求項1に記載のものにおいて、前記分析チップが前記分析装置に装着された場合、前記反応セルの昇温、冷却を可能とする温度制御機構を前記分析装置に備えたことを特徴とする分析システム。
【請求項4】
請求項1に記載のものにおいて、前記反応セルの昇温を可能とする温度制御機構を前記分析装置に備え、前記試薬を前記反応セルに注入した後、前記反応セルを昇温し、前記光検出器によりDNA分析を行うことを特徴とする分析システム。
【請求項5】
請求項1に記載のものにおいて、それぞれ複数設けられた前記試薬貯蔵部と、前記反応セルの昇温、冷却を可能とする前記分析装置に設けられた温度制御機構と、を備え、前記試薬を前記反応セルに注入した後、前記反応セルの昇温、冷却を繰り返すことで、DNAの塩基配列を一つずつ決定することを特徴とする分析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−33456(P2007−33456A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−244971(P2006−244971)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【分割の表示】特願2002−180746(P2002−180746)の分割
【原出願日】平成14年6月21日(2002.6.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】