説明

分析チップ

【課題】被検物質を含む溶液を、選択結合性物質固定化担体上にアプライする際に、撹拌子の動きを妨げることなく、気泡の発生を防止して検体と固定化された選択結合性物質との選択的な反応を簡便に且つ安定して行うことができる分析チップ及び分析方法を提供する。
【解決手段】表面に凹部を有する担体と、前記担体の表面を覆い前記担体と接着されたカバー部材と、前記担体と前記カバー部材との間に介在しこれらを接着させる接着部材と、前記担体と前記カバー部材との間の空隙内に封入されてなる撹拌子とからなる分析チップであって、前記担体表面における担体とカバー部材との接着地点が、凹部の外周部端面より離れた外側の領域に位置しており、前記接着部材の厚みが、撹拌子の最短径より短いことを特徴とする分析チップ、及びこれを用いる分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検物質と選択的に結合する物質(本明細書において「選択結合性物質」という。)を固定化した担体を備え、被検物質が含まれる溶液と選択結合性物質との反応による分析を行う際に用いうる分析チップ及び当該分析チップを用いた分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種生物の遺伝情報解析の研究が始められている。ヒト遺伝子をはじめとして、多数の遺伝子とその塩基配列、また遺伝子配列にコードされる蛋白質およびこれら蛋白質から二次的に作られる糖鎖に関する情報が急速に明らかにされつつある。配列の明らかにされた遺伝子、蛋白質、糖鎖などの高分子体の機能は、各種の方法で調べることができる。主なものとして、核酸は、ノーザンブロッティング、あるいはサザンブロッティングのような、各種の核酸/核酸間の相補性を利用して、各種遺伝子とその生体機能発現との関係を調べることができる。蛋白質は、ウエスタンブロッティングに代表される蛋白質/蛋白質間の反応を利用し蛋白質の機能および発現について調べることができる。
【0003】
近年、多数の遺伝子発現を一度に解析する手法として、DNAマイクロアレイ法(DNAチップ法)と呼ばれる新しい分析法が開発され、DNAのみならず蛋白質や糖鎖検出・定量にも応用されている。これらの方法の大きな特徴は、マイクロアレイ又はDNAチップと呼ばれるガラスの平面基板片上に、多数のDNA断片や蛋白質、糖鎖が高密度に整列固定化されたものが用いられている点にあり、例えば、研究対象細胞の発現遺伝子等を蛍光色素等で標識したサンプルを平面基板片上でハイブリダイゼーションさせ、互いに相補的な核酸(DNAあるいはRNA)同士を結合させ、その箇所を高解像度検出装置(スキャナー)で高速に読み取る方法や、電気化学反応にもとづく電流値等の応答を検出する方法に応用され、サンプル中の遺伝子量の迅速な推定に貢献している。また、DNAチップの応用分野は、発現遺伝子の量を推定する遺伝子発現解析のみならず、遺伝子の一塩基多型(SNP)を検出する手段としても大きく期待されている。
【0004】
DNAチップの使用時は、調製した検体溶液を、DNAチップ上の選択結合性物質が設けられた領域全体に広がるようにアプライすることが必要であると同時に、チップ上の微量な検体DNA溶液を、蒸発を抑えながら安定して検体溶液とのハイブリダイゼーションを進めることが必要である。このような検体溶液の蒸発の問題を解決する手段として、DNAチップを湿潤状態に保てる密閉容器が市販されており、これを使用することで蒸発は抑えられる。しかしながら、このような手段を用いる場合、新たに密閉容器を購入することで実験コストが上昇するという問題や、密閉容器内にDNAチップを安定して設置するといった操作が加わり、実験作業が煩雑になるという問題がある。
【0005】
一方、特許文献1では、あらかじめ微粒子を検体DNA溶液に添加しておいた微粒子分散溶液をDNAチップにアプライして、カバーガラスを被せて、シール剤により密閉し、カバーガラス、DNAチップ及びシール剤により規定される密閉された空隙を形成することが開示されている。これにより微粒子の運動を利用して撹拌を行いながら検体溶液の蒸発を防いでハイブリダイゼーションを行うことができる。
【0006】
しかしながら、微粒子分散溶液のピペットでの操作は、微粒子が沈殿しやすいことなどから煩雑な作業となる。また、検体溶液を密閉する操作においては、検体溶液がシール剤に接触して、検体溶液へのシール剤のコンタミネーションによるバックグラウンドノイズの上昇や、溶液漏れによる検体溶液のロスが起こるといった不都合が多い。従って、特許文献1に開示される技術に従って良好な分析を行うには、熟練した技術が必要であるという問題がある。更に、カバー部材とチップとの間の接着部分に微粒子が付着し動かなくなり、その結果微粒子が障害物となり細部にまで検体溶液が浸透しなくなる可能性があった。
【0007】
【特許文献1】特許第3557419号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するもので、被検物質を含む溶液を、選択結合性物質固定化担体上にアプライする際に、撹拌子の動きを妨げることなく、気泡の発生を防止して検体と固定化された選択結合性物質との選択的な反応を簡便に且つ安定して行うことができる分析チップ及び分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明によれば、下記のものが提供される:
〔1〕 表面に凹部を有する担体と、
前記担体の表面を覆い前記担体と接着されたカバー部材と、
前記担体と前記カバー部材との間に介在しこれらを接着させる接着部材と、
前記担体と前記カバー部材との間の空隙内に封入されてなる撹拌子とからなる分析チップであって、
前記担体表面における担体とカバー部材との接着地点が、凹部の外周部端面より離れた外側の領域に位置しており、前記接着地点における担体表面とカバー部材の担体側表面との間隔が、撹拌子の最短径より短いことを特徴とする分析チップ。
〔2〕 前記カバー部材の担体側表面外周に凸部が設けられており、前記接着部材が、前記担体と前記カバー部材の担体側表面外周の凸部との間に介在することを特徴とする前記〔1〕記載の分析チップ。
〔3〕 前記担体が、その表面であって前記空隙内に位置する領域上に固定化された選択結合性物質を有することを特徴とする、前記〔1〕または〔2〕に記載の分析チップ。
〔4〕 前記カバー部材が、前記担体に脱離可能に接着されていることを特徴とする前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の分析チップ。
〔5〕 前記接着部材が、シリコーン系ポリマー、アクリル系ポリマー及びこれらの混合物からなる群より選択されるポリマーを含む樹脂組成物であることを特徴とする前記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の分析チップ。
〔6〕 (A)前記〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の分析チップに被検物質をアプライする工程;(B)前記被検物質を前記担体に選択的に結合させる工程;及び(C)前記担体上に前記選択結合性物質を介して結合した前記被検物質量を測定する工程を含むことを特徴とする、被検物質の分析方法。
〔7〕 前記分析チップが、前記担体の表面であって前記空隙内に位置する領域上に固定化された選択結合性物質を有し、前記工程(C)が、前記被検物質と前記選択結合性物質とを相互作用させ、前記被検物質を前記選択結合性物質を介して前記担体に結合させることを含む、前記〔6〕記載の分析方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の分析チップ及び分析方法によれば、核酸等のハイブリダイゼーションに代表される、検体と固定化された選択結合性物質との選択的な反応を簡便に且つ安定して行うことができる。特に微量検体溶液による反応においても適用可能であり、より高精度な結果を得ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の分析チップは、表面に凹部を有する担体と、担体の表面を覆い担体と接着されたカバー部材と、前記担体と前記カバー部材との間に介在しこれらを接着させる接着部材と、前記担体と前記カバー部材との間の空隙に封入されてなる撹拌子とを備える。
【0012】
本発明の分析チップとは、被検物質を含む溶液を当該チップにアプライし、被検物質の存在の有無や、被検物質の量や、被検物質の性状等を測定するために用いるチップをいう。具体的には、担体表面に固定化された選択結合性物質と検体との反応により、検体の量や、検体の有無を測定するバイオチップが挙げられる。より具体的には、核酸を担体表面に固定化したDNAチップ、抗体に代表されるタンパク質を担体表面に固定化したタンパク質チップ、糖鎖を担体表面に固定化した糖鎖チップ、及び担体表面に細胞を固定化した細胞チップ等が挙げられる。選択結合性物質及びその固定化の態様については後述する。
【0013】
前記担体としては、表面に凹部を有するものを用いることが必要である。前記カバー部材は、前記担体の表面の少なくとも一面の一部を覆い、担体と、カバー部材との間に空隙を有するよう接着されることができる。
そして、担体は、好ましくはその表面であって前記空隙内に位置する領域上に固定化された選択結合性物質を有する。即ち、好ましくは、前記選択結合性物質が固定化された領域が、当該空隙内に存在するように、前記カバー部材は前記担体に接着される。前記カバー部材は、前記空隙が形成される限りにおいて、どのような態様で接着されてもよいが、好ましくは、両面テープ、樹脂組成物等の接着部材を介して接着される。担体の形状、前記選択結合性物質、その固定化の態様、空隙の形状、接着の態様等の具体例については後に詳述する。
【0014】
図1は、本発明の分析チップの概略的な態様の例を示す斜視図であり、図2は図1の分析チップを矢印A1に沿った面で切断した断面図である。図1及び図2に示す例においては、担体2が、接着部材3を介してカバー部材1で覆われ、凹部R1を含む空隙5を形成しており、空隙5は、本発明において必要に応じて設けることのできる複数の貫通孔4を介して外部と連通する他は、外部と連通しない閉じた空間となっている。
図1及び図2の例においては、担体表面における担体とカバー部材との接着地点P1が凹部R1の外側に位置している。また、図示しないが、空隙5に撹拌子が封入されており、接着部材の厚みH1が撹拌子の最短径より短いものである。
【0015】
本発明の分析チップにおいて、担体表面における担体とカバー部材との接着地点は、担体表面の凹部以外の領域に位置していることが必要である。このように、接着地点が凹部以外の領域に位置していることにより、接着部材に撹拌子が付着しないため微粒子が自由に動きまわり、その結果気泡の発生を防止して検体と固定化された選択結合性物質との選択的な反応を簡便に且つ安定して行うことができる。
【0016】
ここで、担体とカバー部材との接着地点とは、担体とカバー部材との間に介在する接着部材の位置を意味し、本発明においては、担体側の接着地点が、接着部材と担体表面の凹部の外周部端面より離れた外側の領域に位置する必要がある。凹部の外周部端面から接着地点までの距離(例えば、図2のw)は、使用する攪拌子が接着部材に接触しない距離であれば特に限定されないが、1〜700μmであることが好ましい。
【0017】
接着地点における担体表面とカバー部材の担体側表面との間隔は、空隙5に封入される撹拌子の最短径より短い必要がある。ここでいう接着地点における担体表面とカバー部材の担体側表面との間隔は、例えば図1及び図2の例のようにカバー部材が平坦である場合は、接着部材の厚み(例えば、図2のH1)であり、また、例えば後述する図3又は図4のようにカバー部材の担体側表面外周に凸部が設けられている場合は、接着部材の厚みと凸部の高さ(凸部上面とカバー部材内面との間隔)の合計(例えば、図3および図4のH1+H2の高さ)となる。該間隔は、撹拌子が入り込まない長さであれば特に限りはないが、好ましくは撹拌子の最短径の90%以下、より好ましくは80%以下である。ここで、撹拌子の最短径とは撹拌子の形状を規定する径のうち最も短い径を意味する。
また、後述するように、使用する撹拌子をふるいなどに掛けて選抜している場合には撹拌子の最短径に多少の幅が生じる場合もあるが、その場合には、もっとも小さいサイズの撹拌子の最短径を基準として、これより短い間隔とすることができる。
撹拌子の最短径は、撹拌子の形状が球形の場合には直径が該当し、マイクロロッド状(棒状)の場合には底面の直径が該当する。尚、撹拌子の形状は球状やマイクロロッド状に限定されない点については、後述するとおりである。
【0018】
上述したように、接着地点は、接着部材と担体表面の凹部の外周部端面より離れた外側の領域に位置することにより、接着地点において、担体表面の凹部とカバー部材と接着地点により三方向を囲まれた空間が生じることとなる。
図2を引用して具体的に説明すると、凹部R1の外周部端面P2が接着部材の内側断面P3よりも内側に位置し、担体表面において、凹部R1に隣接して凹部R1よりも高い部分P4が生じる。その結果、空隙5の外縁部分には、接着部材の断面P3、担体のP4及びカバー部材の一部により三方を囲まれた空間S1が形成される。
本発明の分析チップにおける接着部材の厚みは、通常は1μm〜100μmの範囲で規定され、一定の接着強度を備えるために、5〜80μmとすることが好ましい。図1及び図2の例のような平面状のカバー部材を用いる場合は、接着部材の厚みが接着地点における担体表面とカバー部材の担体側表面との間隔になるので、接着部材の厚みを撹拌子の最短径より短くする必要がある。
【0019】
一方、本発明の分析チップの形状は特に限定されず、図1及び図2の例のように平面状のものを利用することができるほか、カバー部材の担体側表面外周に凸部が設けられたものを用いることができる。このような凸部が設けられたカバー部材を用いることにより、接着部材の位置決めが容易となるので好ましい。この場合、前記接着部材は、担体とカバー部材の凸部との間に介在させることができる。すなわち、前記カバー部材表面における担体とカバー部材との接着地点を前記凸部の一部分、好ましくは凸部上面の全部あるいは一部分、特に好ましくは凸部上面のうち少なくとも内周部分を含む一部分或いは全部に位置させることができる。この場合も、担体表面、カバー部材(具体的には担体側表面及びカバー部材の凸部側面)、及び接着部材により三方向を囲まれた空間が生じることが好ましい。特に、カバー部材の凸部の側面と接着部材の空隙側端面とが平面を構成するか、あるいは接着部材の空隙側端面の方がカバー部材の凸部の側面よりもやや外側に位置すると、微粒子と接着部材との接着を効果的に回避できるので好ましい。凸部の形状については特に限定されないが、凸部の高さ(図3及び図4のH2)としては0〜150μmの範囲であることが好ましい。また担体との接着面が凸部の上面であることが好ましく、中でも上面がカバー部材の担体側表面に対し水平であることが好ましく、さらに凸部の高さが均一であることがもっとも好ましい。また、凸部の内側面の形状については特に問わないが、平面であることが好ましく、カバー部材の担体側表面に対し略直行する平面を呈することが最も好ましい。尚、カバー部材に凸部を設ける場合も接着部材の厚み(図3及び図4のH1)については、上述したように通常は1μm〜100μmの範囲で規定され、一定の接着強度を備えるために、5〜80μmとすることが好ましい。このようなカバー部材を備える分析チップの一例を図3及び図4に示す。
図3に示す例においては、カバー部材の担体側表面外周に凸部1Aが設けられ、凸部1A上面の一部に担体とカバー部材との接着地点P5が位置している。一方、図4に示す例では、カバー部材の担体側表面外周に凸部1Aが設けられ、凸部1Aの上面全体が担体とカバー部材との接着地点P5となっている。
【0020】
本発明の分析チップにおいて、カバー部材は、担体に、脱離可能に接着されていることが好ましい。担体がDNAチップの場合、通常、DNAチップを専用スキャナーで読み取ることが必要である。その時、カバー部材が接着された状態では、専用スキャナーにセットすることが難しく、セットされたとしてもスキャン操作を実施するとカバー部材とスキャナーの光学系部品が接触し、故障の原因となることがある。また、カバー部材を介しての読み取りが可能であっても、読み取り値が不正確となりうる。そのため、読み取りの工程においてカバー部材を取り外せるよう、カバー部材が脱離可能であることが好ましい。
【0021】
カバー部材を担体に脱離可能に接着する態様は、特に限定されないが、カバー部材と担体が損傷されることなく脱離することが可能である態様が好ましい。例えば、両面テープ、樹脂組成物等の接着部材を介して接着することができる。
【0022】
接着部材として両面テープを使用した場合、両面で接着力の異なる両面テープを用いることが好ましい。より具体的には、両面で接着力の異なる両面テープの、接着力の弱い面を担体側に接着し、接着力の強い面をカバー部材側に接着することが好ましい。このような態様とすることにより、カバー部材を剥離する際に、両面テープがカバー部材に接着した状態で同時に担体より脱離し易く、それにより、担体上への接着部材の残存による読み取りの工程における不都合を回避することができる。このような両面テープとしては、日東電工株式会社製の製品番号No.535A、住友スリーエム株式会社製の製品番号9415PC及び4591HL、並びに株式会社寺岡製作所製の製品番号No.7691等が挙げられる。
【0023】
接着部材として樹脂組成物を用いる場合、当該樹脂組成物としては、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、及びこれらの混合物からなる群より選択されるポリマーを含む樹脂組成物等を用いることができる。これらを接着層に用いることで両面テープより密閉性を高めることが可能となるので、これらも好ましく用いることができる。特に、このような樹脂組成物を接着部材とした場合、両面テープに比べて、長期間のインキュベーションに対しても安定であるため、そのような長期間のインキュベーションが必要な分析系においては特に好ましい。
【0024】
特に、接着部材としてシリコーン系のエラストマーを用いると、密閉性が良好であり、しかも、容易に脱離が可能な状態でカバーを接着することができる。このようなエラストマーとしては、具体的には、シルガード(シルガードはダウコーニング社の登録商標)や、信越化学工業社製の二液型RTVゴム(型取り用)を挙げることができる。特に、接着部材としてシリコーン系のエラストマーを用いると、密閉性が良好であり、しかも、容易に脱離が可能な状態でカバーを接着することができるので好ましい。このようなエラストマーとしては、具体的には、シルガード(ダウコーニング社の登録商標)や、信越化学工業社製の二液型RTVゴム(型取り用)を挙げることができる。
【0025】
カバー部材の担体への接着は、ディスペンサー(武蔵エンジニアリング社製)を用いて、前記担体の凹部から離れた場所に接着部材を塗布し、前記カバー部材をプローブDNA固定化領域に被さるように設置し、カバー部材の上から荷重を掛け、静置して乾燥させることにより行うことができる。この時、掛ける荷重により、接着部材の厚みを調節することができる。接着時の荷重は、10〜100g重の範囲を好ましく用いることができる。
【0026】
本発明の分析チップでは担体、カバー部材及び接着部材を含む構造により規定される空隙内に封入された撹拌子をさらに含む。当該撹拌子を含むことにより、検体溶液をアプライした後に分析チップを揺動、回転等させることで、空隙内で撹拌子を運動させ、検体溶液の十分な撹拌を達成し、より精密な分析を行うことができる。
【0027】
特許文献1に開示される、微粒子を含む検体溶液をアプライしてカバーガラスを被せてシール剤により密閉する方法では、上述の通り操作が煩雑となり、且つ、バックグラウンドノイズの上昇を起こすことがある。しかし、本発明の分析チップの場合、カバー部材及び担体等が接着され一体となっているため、予め撹拌子を封入しておくことができ、検体溶液のアプライする作業を容易に行うことが可能である。そして、検体溶液をアプライした後の貫通孔を塞ぐ作業においてもテープやシール剤が検体溶液と接触することがないので、バックグラウンドノイズが上昇しないという利点もある。
【0028】
前記撹拌子の形状は、特に限定されず、球状の形状以外に、多角形、円筒形などの任意の形状とすることができる。また、撹拌子のサイズは、接着地点における担体表面とカバー部材の担体側表面との間隔が、撹拌子の最短径より短いものであれば特に限りはない。好ましくは、該間隔が撹拌子の最短径の90%以内、より好ましくは80%以内となるものを用いる。例えば球状の微粒子の場合、直径0.1〜400μm、好ましくは0.1〜300μmの範囲とすることができ、また、円筒形の微粒子の場合、長さ50〜30000μm、底面直径10〜400μm、好ましくは10〜300μmの範囲とすることができる。撹拌子が球状の微粒子であってそのサイズにバラツキがある場合には、微粒子を特定サイズのふるいに掛け、これを通過しない微粒子を選別することで、所望の最短径を有する微粒子を得ることができる。ふるいのサイズは任意に選択できるが、例えば250μm、212μm、198μm、180μm、150μm、125μm、90μmのサイズのふるいを用いることにより、これらを最短径とする微粒子を得ることができる。また、特定のサイズのふるいを通過する微粒子を選別することで、所望の最長径を有する微粒子を得ることができる。尚、撹拌子としてサイズや形状の異なる2種類以上の微粒子を組み合わせて用いることもできる。
前記撹拌子の材質も、特に限定されないが、ガラス、セラミック(例えばイットリウム部分安定化ジルコニア)、金属(例えば金、白金、ステンレス)、プラスチック(例えばナイロンやポリスチレン)等を用いることができる。
【0029】
本発明の分析チップは、撹拌子を、予め封入した態様であることが好ましいが、これには限定されず、撹拌子が封入されていない態様であってもよい。この場合、撹拌子を使用せず分析を行ってもよく、検体溶液に撹拌子を混入させて検体溶液のアプライと同時に空隙内に撹拌子を充填してもよく、または検体溶液のアプライの前又は後に、貫通孔を介して撹拌子を別途充填してもよい。
【0030】
前記カバー部材は、前記空隙に連通する1つ以上の貫通孔を有することが好ましい。図1〜図4に示す分析チップの使用においては、検体溶液を貫通孔4の任意の1箇所以上よりアプライし、空隙5に充填する。その後、貫通孔4を封止部材で塞ぐことで、検体溶液を簡便に密閉保持することができる。その結果、検体と、担体の領域R1に固定化された選択結合性物質との反応を、安定して行うことができる。貫通孔を有す貫通孔の数は、1つ以上であれば良いが、被検物質が含まれる溶液の充填が容易となる観点から、複数、特に3〜6個とすることが好ましい。なお、後述するように、空隙が、互いに連通しない複数の空間に分かれている場合は、各空間あたりに複数個、特に3〜6個の貫通孔を有することが好ましい。貫通孔の孔径は必要に応じて適宜設定可能であるが、複数の貫通孔を設ける場合、そのうちの一部をアプライ口とし、その他の貫通孔を空気の抜け口として機能させる場合、検体溶液のアプライの容易さ及び該溶液の密閉保持性の点から、アプライ口のみをアプライに必要な広い孔径、例えば直径0.01から2.0mmの範囲内とし、その他の貫通孔をより狭い孔径、例えば0.01〜1.0mmとすることができる。
【0031】
貫通孔の少なくとも1つは、貫通孔の封止を容易かつ確実に行う観点から、上端に径の広い部分、いわゆる液面駐止用チャンバーを備えるものとすることが好ましい。液面駐止用チャンバーの形状は、円柱形、角柱形、円錐形、角錐形、半球形等の任意の形状を適宜選択とすることができ、特に製造の容易さ及び検体溶液の上昇抑制効果の高さ等の観点からは、円柱形が好ましい。
【0032】
貫通孔の孔径サイズは検体溶液のアプライを容易に行うとともに、アプライ後封止前の検体溶液の蒸発などをより効果的に抑制する観点から定めることができる。例えば、図5に示す縦断面形状の円筒形の貫通孔4及び液面駐止用チャンバー4Aとの組み合わせの場合を例に挙げると、貫通孔4の孔径サイズ(直径)は、0.01から2.0mmが好ましく、0.3から1.0mmがより好ましい。
一方、液面駐止用チャンバー4Aの孔径サイズ(直径)については、十分な液面駐止効果を得る観点から定めることができ、通常1.0mm以上、好ましくは1.0mm以上10mm以下とすることができる。また、液面駐止用チャンバー4Aの深さは、特に限定されないが、0.1〜5mmの範囲内とすることができる。
【0033】
上記カバー部材の形状は、前記基材の表面の少なくとも一面の一部を覆い、基材と、カバー部材との間に空隙を有するよう接着されうる形状を適宜選択することができる。カバー部材の脱離の際の基材損傷を回避する観点から、その外周部分において、基材に近い部分より基材に遠い部分において突出した部分を有する構造、すなわちオーバーハング構造が設けられたものであってもよい。
【0034】
本発明の分析チップは、担体、カバー部材及び任意に接着部材を含む構造により規定される空隙を有するが、当該空隙は、1つの空間でもよく、複数の仕切られた空間であってもよい。複数の仕切られた空間は、例えば図5に示すような仕切り構造により設けることができる。図5に示す例においては担体の凸部2B及びカバー部材1が接着部材3Bを介して接着することにより、複数の仕切られた空間5を設けている。この例においては、空間5は、互いに連通せず、それぞれが別々に、1以上の貫通孔4及び液面駐止用チャンバー4Aを有することになる。このように、複数の仕切られた空間を設けることによって、1枚の分析チップに複数種の検体溶液をアプライすることが可能となり、従って複数種の検体を同時に1枚の分析チップで測定することができる。
【0035】
また、本発明の分析チップは、一枚の担体あたり一枚のカバー部材を有していてもよく、二枚以上のカバー部材を有していてもよい。具体的には、図6及び図7に示す通り、一枚の担体2上に、複数のカバー部材1を有することができる。複数のカバー部材1のそれぞれは、それぞれ別の接着部材3Cを介して担体2上に設けることができる。好ましくは、複数のカバー部材1のそれぞれが、担体2との間に空隙5を有し、且つ各空隙に連通する1つ以上の貫通孔を有することができ、そして、各カバー部材1がそれぞれ別の、選択結合性物質が固定化された領域(凹部)R1を有することができる。このような態様をとることによって、上記複数の仕切られた空間を有する態様と同様に、複数種の検体を同時に1枚の分析チップで測定する等の効果を得ることができる。さらに、このような態様をとることにより、それぞれの領域R1についてカバー部材を独立して脱離させることができるので、例えば一つの領域R1について分析を行った後に他の領域R1を用いて分析を行うといった、独立した使用を行いうる。
【0036】
本発明の分析チップを構成するカバーの材料としては、特に限定されるものではないが、検体溶液をアプライした際に、溶液の様子を観察可能とするために、透明な材料が好ましい。そのような材質としては、ガラス又はプラスチックが挙げられる。特に、貫通孔や液面駐止チャンバー等の構造を容易に作製可能という点から、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート等の透明樹脂を好ましく用いることができる。カバーの作製方法も特に限定されるものではなく、切削加工や射出成型法による加工が可能である。大量生産が可能という観点から、射出成型法を好ましく用いることができる。
【0037】
本発明の分析チップを構成する担体は、前述の通り表面に凹部を有するものであれば特に限定されないが、その少なくとも一面の一部、好ましくは凹部の一部に選択結合性物質が固定化された領域を有するものとすることが好ましい。特に凹部はその内部に凸部を1つ以上有するものとし、凸部上面に選択結合性物質が固定化されることが好ましい。このような構造を取ることにより、検出の際、非特異的に吸着した検体を検出することがないので、ノイズが小さく、結果的によりS/Nが良好な結果を得ることができる。ノイズが小さくなる具体的な理由は、以下の通りである。すなわち、凸部上面に選択結合性物質を固定化した担体をスキャナーと呼ばれる装置を用いてスキャンすると、凹凸部の凸部上面にレーザー光の焦点が合っているため、凹部では、レーザー光がぼやけ、凹部に非特異的に吸着した検体の望まざる蛍光(ノイズ)を検出しがたいという効果があるためである。
【0038】
凹部に設けられる凸部の高さに関しては、それぞれの凸部の上面の高さが略同一であるであることが好ましい。ここで、高さが略同一とは、多少高さの違う凸部の表面に選択結合性物質を固定化し、これと蛍光標識した検体とを反応させ、そして、スキャナーでスキャンした際、その信号レベルの強度差が問題とならない高さをいう。具体的に高さが略同一とは、高さの差が50μm以下であることをいう。高さの差は30μm以下であることがより好ましく、高さが同一であればなお好ましい。なお、本願でいう同一の高さとは、生産等で発生するばらつきによる誤差も含むものとする。最も高い凸部上面の高さと、最も低い凸部上面の高さの差が50μmより大きいと、高さのずれた凸部上面でのレーザー光がぼやけてしまい、この凸部上面に固定化された選択結合性物質と反応した検体からのシグナル強度が弱くなる場合があるため好ましくない。
【0039】
凹部において、表面上方からみた際の凸部の配置は、列状であっても良いしランダム状であっても良い。凸部を列状に配置させる場合は、列間を等間隔または、任意の間隔とすることができる。また、凸部の列間を調整してマトリクス状に配置されたサブブロック領域を形成させることもでき、この場合には列間に応じた複数のサイズおよび/または形状の撹拌子と組み合わせて用いることができる。但し、凹部にマイクロロッド状の撹拌子を保持する場合には、列状、特に、一定の方向に等間隔或いは任意の間隔にて凸部が配置されてなることが好ましい。また、凸部分の上面は、実質的に平坦であることが好ましい。ここで凸部上面が実質的に平坦とは、20μm以上の凹凸がないことを意味する。尚、上面が平坦であれば、凸部全体の形状は台形、円柱状、多角柱状などの任意の形状を取っていても良い。
【0040】
本発明の分析チップは、さらに好ましくは、担体の凹部が設けられる表面の凹部以外の部分には平坦部が設けられていることが好ましい。この場合、平坦部に接着地点が位置することになる。担体表面の凹部内に凸部を設ける場合、凸部の上面の高さと平坦部分の高さは、略同一であることが好ましい。すなわち、平坦部の高さと凸部上面の高さの差は、50μm以下であることが好ましい。凸部上面の高さと平坦部の高さの差が50μmを超えると、検出できる蛍光強度が弱くなる場合があるため好ましくない。平坦部の高さと凸部上面の高さの差は、より好ましくは30μm以下であり、最も好ましくは、平坦部の高さと凸部の高さは同一である。
【0041】
本発明の分析チップの構成要素として好ましく用いうる担体の具体例を図8及び図9に例示する。図8及び図9に示す例において、選択結合性物質が固定化された領域R1は、複数の凸部6を含む凹部により構成されており、その周りに平坦部8が設けられている。凸部6の上面には、選択結合性物質(例えば核酸)が固定化されている。この平坦部を使って、容易にスキャナーの励起光等の測定用の光線の焦点を凸部の上面に合わせることが可能となる。より具体的に説明すると、スキャナーが担体の表面に励起光の焦点を合わせる際には図10に示すように、バネ13で付勢して治具14に担体2を突き当て、この治具の突き当て面15の高さにレーザー光12が合焦するようレンズ11等により予め焦点を調整しておくことが多い。本発明の分析チップの担体の平坦部を治具の面15に突き当てることにより、容易に担体の凸部上面にスキャナーのレーザー光の焦点を合わせることが可能となる。なお、図10の例においては、担体2は、選択結合性物質が固定化された面が下側になるよう固定されている。
【0042】
本発明の分析チップの担体において、凹部内の選択結合性物質が固定化される凸部とは、データとして必要な選択結合性物質(例えば核酸)が固定化された部分をいうが、担体はその他に、何も固定化していない凸部や、ただ単にダミーの選択結合性物質を固定化した部分を有していてもよい。
【0043】
本発明の分析チップの担体が、選択結合性物質が固定化された凸部を有する場合、当該凸部の上面の面積は略同一であることが好ましい。凸部の上面の面積が略同一であることにより、多種の選択結合性物質が固定化される部分の面積を同一にできるので、後の解析に有利である。ここで、凸部の上部の面積が略同一とは、凸部の中で最も大きい上面面積を、最も小さい上面面積で割った値が1.2以下であることを言う。
【0044】
選択結合性物質が固定化された凸部の上面の面積は、特に限定される物ではないが、選択結合性物質の量を少なくすることができる点とハンドリングの容易さの点から、1mm2以下、10μm2以上が好ましい。
【0045】
本発明で好ましく用いられる担体の凹部における凸部の高さ、即ち凸部上面と凹部底面との高さの差は、10μm以上、500μm以下が好ましく、50μm以上、300μm以下が特に好ましい。凸部の高さが10μmより低いと、スポット以外の部分の非特異的に吸着した検体試料を検出してしまうことがあり、結果的にS/Nが悪くなることがあるため好ましくない。また、凸部の高さが500μmより高いと、凸部が折れて破損しやすいなどの問題が生じる場合があり好ましくない。
【0046】
本発明の分析チップにおける、担体、カバー部材、接着部材及び撹拌子の関係の好ましい例を、図11及び図12を参照して説明する。図11及び図12に示した例では、DNA等の選択結合性物質9は、担体2の凸部上面6上に固定化されている。そして、撹拌子(この場合は球状のビーズ)7は、担体2の凹部の空隙内に載置されている。選択結合性物質9及び撹拌子7は、検体DNA(被検物質)が含まれる検体溶液(図示せず)に触れることになる。検体溶液は、担体2、接着部材3及びカバー部材1により規定される空隙内で保持されることになる。図11の例においては、担体の凸部上面6とカバー部材1との間隔の最短距離が、撹拌子7の直径未満となっている。それにより、撹拌子7が凸部上面6に接触できなくなり、凸部上面6上の選択結合性物質9を傷つけることを防ぐことができる。撹拌子が、例えば楕円形等の非球状の形状である場合は、凸部上面と容器との最短距離が撹拌子の最小径未満であれば、同様に凸部上面6と撹拌子との接触を防ぎ、選択結合性物質9の損傷を防ぐことが可能となる。
【0047】
本発明の分析チップの担体の材質は、特に限定されないが、ガラス、セラミック、シリコンなどの無機材料、ポリエチレンテレフタレート、酢酸セルロース、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、シリコーンゴム等のポリマーなどを挙げることができる。この中でも、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)エラストマー、ガラス及びシリコンを特に好ましく用いることができる。また、上記材料に加え、担体を黒色にし光学的測定のS/N比を高めるため、カーボンブラック等の添加剤を配合することができる。
【0048】
担体は、材質がポリマー等の場合、射出成形法、ホットエンボス法、鋳型内で重合させる方法等により成型することができる。また材質がガラスやセラミック等の無機物の場合、サンドブラスト法、シリコンの場合は公知の半導体プロセスなどで成型することができる。
【0049】
成型した担体は、選択結合性物質をその表面に固定化するのに先立ち、必要に応じて各種の表面処理を施すことができる。かかる表面処理としては、具体的には例えば特開2004−264289号公報に記載されるものなどを挙げることができる。
【0050】
担体の表面に固定化する選択結合性物質としては、被検物質と直接的又は間接的に、選択的に結合し得る各種の物質を用いることができ、代表的な例として、核酸、タンパク質、糖類及び他の抗原性化合物を挙げることができる。核酸は、DNAやRNAでもPNAでもよい。特定の塩基配列を有する一本鎖核酸は、該塩基配列又はその一部と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸と選択的にハイブリダイズして結合するので、本発明でいう「選択結合性物質」に該当する。また、タンパク質としては、抗体及びFabフラグメントやF(ab')2フラグメントのような、抗体の抗原結合性断片、並びに種々の抗原を挙げることができる。抗体やその抗原結合性断片は、対応する抗原と選択的に結合し、抗原は対応する抗体と選択的に結合するので、「選択結合性物質」に該当する。糖類としては、多糖類が好ましく、種々の抗原を挙げることができる。また、タンパク質や糖類以外の抗原性を有する物質を固定化することもできる。「選択結合性物質」として、特に好ましいものは、核酸、抗体及び抗原である。本発明に用いる選択結合性物質は、市販のものでもよく、また、生細胞などから得られたものでもよい。また、選択結合性物質として、担体の表面に細胞を固定化してもよい。
【0051】
生細胞からのDNA又はRNAの調製は、公知の方法、例えばDNAの抽出については、Blinらの方法(Blin et al.,Nucleic Acids Res.3:2303(1976))等により、また、RNAの抽出については、Favaloroらの方法(Favaloro et al.,Methods Enzymol.65:718(1980))等により行うことができる。固定化する核酸としては、更に、鎖状若しくは環状のプラスミドDNAや染色体DNA、これらを制限酵素により若しくは化学的に切断したDNA断片、試験管内で酵素等により合成されたDNA、又は化学合成したオリゴヌクレオチド等を用いることもできる。
【0052】
本発明の分析チップを用いた分析方法に供せられる被検物質としては、分析すべき核酸、例えば、病原菌やウイルス等の遺伝子や、遺伝病の原因遺伝子等並びにその一部分、抗原性を有する各種生体成分、病原菌やウイルス等に対する抗体等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらの被検物質を含む検体としては、血液、血清、血漿、尿、便、髄液、唾液、各種組織液等の体液や、各種飲食物並びにそれらの希釈物等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。また、被検物質となる核酸は、血液や細胞から常法により抽出した核酸を標識してもよいし、該核酸を鋳型として、PCR等の核酸増幅法によって増幅したものであってもよい。後者の場合には、測定感度を大幅に向上させることが可能である。核酸増幅産物を被検物質とする場合には、蛍光物質等で標識したヌクレオシド三リン酸の存在下で増幅を行うことにより、増幅核酸を標識することが可能である。また、被検物質が抗原又は抗体の場合には、被検物質である抗原や抗体を常法により直接標識してもよいし、被検物質である抗原又は抗体を選択結合性物質と結合させた後、担体を洗浄し、該抗原又は抗体と抗原抗体反応する標識した抗体又は抗原を反応させ、担体に結合した標識を測定することもできる。
【0053】
本発明の被検物質の分析方法は、(A)前記本発明の分析チップに被検物質をアプライする工程;(B)前記被検物質を前記担体に選択的に結合させる工程;及び(C)前記担体上に前記選択結合性物質を介して結合した前記被検物質量を測定する工程を含む。
【0054】
前記工程(A)は、必要に応じ上述のような標識、増幅等を施した被検物質を水溶液や適当な緩衝液等の溶液とし、ピペット等の通常の器具で担体の凹部に注入することにより行うことができる。特に、前記分析チップとして貫通孔を備えるカバー部材を備えるものを用いる場合には、注入を貫通孔より行うことができる。
【0055】
貫通孔を備えるカバー部材を備える分析チップを用いる場合には、貫通孔に被検物質を注入した後、貫通孔の一部又は全て、好ましくは全てを封止する態様で封止部材を貼付することにより封止することが望ましい。前記封止部材としては、例えばカプトン(商標、ポリイミドフィルム、東レ・デュポン社製)、ポリエステル、セロハン、又は塩化ビニル製の粘着テープ等の可とう性のテープを好ましく挙げることができるが、これに限らず、非可とう性の板状の接着可能な任意の部材を用いることもでき、非定型のシーリング剤を用いることもできるが、液面駐止用チャンバーによる本発明の効果をより良好に得るという観点からは、可とう性のテープ及び板状の部材が好ましく、操作の簡便性などの観点から、可とう性のテープがさらに好ましい。
【0056】
封止部材としてテープ又は板状の部材を用いる場合、その使用枚数は任意である。具体的には、カバー部材上の全ての貫通孔を一枚の封止部材で封止してもよく、複数の封止部材を用いてそれぞれで複数の貫通孔の一部を封止してもよい。また、前記の通り一枚の担体上に複数のカバー部材が設けられている場合、カバー部材のそれぞれに別々の封止部材を用いてもよく、複数のカバー部材上の貫通孔をまとめて一枚の封止部材で封止してもよい。通常は、一枚のカバー部材あたり一枚の封止部材を用いることが、簡便且つ確実な封止を達成しうることから好ましい。
【0057】
封止の具体例を、図12を参照して説明する。図12の例では、検体溶液(図示せず)を貫通孔4よりアプライした後、可とう性の粘着テープ10を、液面駐止用チャンバー4Aの全面を覆うように貼付し、貫通孔を封止している。このような態様により、簡便で且つ検体溶液の漏出や測定誤差を招かない封止を達成できる。
【0058】
前記工程(B)は、従来の分析チップにおける操作と全く同様に行うことができる。前記工程(B)は、好ましくは前記分析チップとして前記担体の表面であって前記空隙内に位置する領域上に固定化された選択結合性物質を有するものを用い、前記被検物質と前記選択結合性物質とを相互作用させ、前記被検物質を前記選択結合性物質を介して前記担体に結合させることにより行うことができる。反応温度及び時間は、ハイブリダイズさせる核酸の鎖長や、免疫反応に関与する抗原及び/又は抗体の種類等に応じて適宜選択されるが、核酸のハイブリダイゼーションの場合、通常、30℃〜70℃程度で1分間〜十数時間、免疫反応の場合には、通常、室温〜40℃程度で1分間〜数時間程度である。また、前記工程(B)においては、必要に応じて、分析チップを揺動、回転等させ、選択的結合を促進することができる。選択的結合が終了した後、通常はカバー部材を脱離させた後、次の工程(C)に供することができる。
【0059】
前記工程(C)も、従来の分析チップにおける操作と全く同様に行うことができる。例えば、適宜蛍光標識され、選択結合性物質と結合した被検物質の量について、公知のスキャナ等により、その蛍光量を読み取ることにより測定することができる。
【0060】
本発明の分析方法において、選択結合性物質として核酸を固定化した場合には、この核酸又はその一部と相補的な配列を有する核酸を測定することができる。また、選択結合性物質として抗体又は抗原を固定化した場合には、この抗体又は抗原と免疫反応する抗原又は抗体を測定することができる。なお、本明細書でいう「測定」は検出と定量の両者を示すものである。
【0061】
本発明の分析キットは、前記本発明の分析チップのうち貫通孔を有するものと、前記カバー部材に貼付し前記貫通孔を封止する封止部材とを含む。当該封止部材としては、前記本発明の分析方法の工程(A)において説明したものと同様のものを含むことができる。本発明の分析キットは、前記本発明の分析方法に従って使用することができる。
【実施例】
【0062】
本発明を以下の実施例によってさらに詳細に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0063】
実施例1
(DNA固定化担体の作製)
平均分子量5万のPMMA(ポリメチルメタクリレート)99質量部及びカーボンブラック(三菱化学製 商品名 #3050B)1質量部を混合し樹脂組成物を調製した。
【0064】
公知の方法であるLIGA(Lithographie Galvanoformung Abformung)プロセスを用いて、射出成形用の型を作製した。この型を用い、上記樹脂組成物を射出成型し、後述する通りの形状を有する黒色の担体を得た。
【0065】
担体の形状は、概ね図13に示す通りの形状であり、大きさが縦76mm、横26mm、厚み1mmであり、担体の中央部分R1を除き表面は平坦であった。担体の中央部分R1には、縦横10mm、深さ150μmの矩形の凹んだ部分が設けてあり、この凹みの中に、直径130μm、高さ150μm、上面の径130μmの凸部6を64箇所(8×8)設けた(図13は概略図であるため、図中に示される凸部の数は、実際のものより少ない。)。凹凸部分の凸部上面の高さ(64箇所の凸部の高さの平均値)と平坦部分8との高さの差を測定したところ、3μm以下であった。また、64個の凸部上面の高さのばらつき(最も高い凸部上面の高さと最も低い凸部上面との高さの差)を測定したところ、3μm以下であった。さらに、凸部のピッチL1(凸部中央部から隣接した凸部中央部までの距離)は560μmであり、最外側の凸部から凹部周縁部までの距離は790μmであった。
【0066】
この黒色担体の分光反射率と、分光透過率を測定したところ、分光反射率は、可視光領域(波長が400nmから800nm)のいずれの波長でも5%以下であり、また、同範囲の波長で、厚み方向の透過率は0.5%以下であった。分光反射率、分光透過率とも、可視光領域において特定のスペクトルパターン(ピークなど)はなく、スペクトルは一様にフラットであった。なお、分光反射率は、JIS Z 8722の条件Cに適合した照明・受光光学系を搭載した装置(ミノルタカメラ製、CM−2002)を用いて、担体からの正反射光を取り込んだ場合の分光反射率を測定した。
【0067】
(プローブDNAの固定化)
配列番号1に示される配列を有し、5’末端がアミノ化されたDNAを合成した。このDNAを、図15に示すスキームにしたがって固定化した。
【0068】
上記の担体2を10Nの水酸化ナトリウム水溶液に70℃で12時間浸漬した。これを、純水、0.1NのHCl水溶液、純水の順で洗浄し、担体表面にカルボキシル基を生成した。
【0069】
DNAを純水に0.3nmol/μlの濃度で溶かして、ストックソリューションとした。担体に点着する際は、PBS(NaClを8g、Na2HPO4・12H2Oを2.9g、KClを0.2g、KH2PO4を0.2g純水に溶かし1lにメスアップしたものにpH調整用の塩酸を加えたもの、pH5.5)でプローブDNAの終濃度を0.03nmol/μlとし、かつ、担体表面のカルボン酸とプローブDNAの末端のアミノ基とを縮合させるため、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を加え、この終濃度を50mg/mlとした。そして、この混合溶液をガラスキャピラリーで担体凸部上面に点着した。次いで、担体を密閉したプラスチック容器に入れて、37℃、湿度100%の条件で20時間程度インキュベートして、純水で洗浄し、担体凸部上面上に固定化プローブDNAを得た。
【0070】
(検体DNAの調製)
検体DNAとして、上記DNA固定化担体に固定化されたプローブDNAとハイブリダイズ可能な、配列番号4の塩基配列を持つDNA(968塩基)を用いた。このDNAの調製方法を以下に示す。
【0071】
配列番号2と配列番号3の塩基配列を持つDNAを合成した。これらをそれぞれ純水に溶解して濃度100μMの水溶液とした。次いで、pKF3 プラスミドDNA(タカラバイオ(株)製品番号;3100)(配列番号5:2246塩基)を用意して、これをテンプレートとし、配列番号2および配列番号3のDNAをプライマーとして、PCR反応(Polymerase Chain Reaction)により増幅を行った。
【0072】
PCRの条件は以下の通りである。すなわち、ExTaq 2μl、10×ExBuffer 40μl、dNTP Mix 32μl(以上はタカラバイオ(株)製 製品番号RR001Aに付属)、配列番号2のDNA溶液を2μl、配列番号3のDNA溶液を2μl、テンプレート(配列番号5)を0.2μl加え、純水によりトータル400μlにメスアップした。これらの混合液を、4つのマイクロチューブに分け、サーマルサイクラーを用いてPCR反応を行った。これを、エタノール沈殿により精製し、40μlの純水に溶解した。PCR反応後の溶液の一部をとり電気泳動で確認したところ、増幅したDNAの塩基長は、およそ960塩基であり配列番号4(968塩基)に示す配列を有するDNAが増幅されていることを確認した。
【0073】
次いで、9塩基のランダムプライマー(タカラバイオ(株)製;製品番号3802)を6mg/mlの濃度に溶かし、上記のPCR反応後精製したDNA溶液に2μl加えた。この溶液を100℃に加熱した後、氷上で急冷した。これらにKlenow Fragment(タカラバイオ(株)製;製品番号2140AK)付属のバッファーを5μl、dNTP混合物(dATP、dTTP、dGTPの濃度はそれぞれ2.5mM、dCTPの濃度は400μM)を2.5μl加えた。さらに、Cy3−dCTP(アマシャムファルマシアバイオテク製;製品番号PA53021)を2μl加えた。この溶液に10UのKlenow Fragmentを加え、37℃で20時間インキュベートし、Cy3で標識された検体DNAを得た。なお、標識の際ランダムプライマーを用いたので検体DNAの長さには、ばらつきがある。最も長い検体DNAは配列番号4(968塩基)となる。なお、検体DNAの溶液を取り出して、電気泳動で確認したところ、960塩基に相当する付近にもっとも強いバンドが現れ、それより短い塩基長に対応する領域に薄くスメアがかかった状態であった。そして、これをエタノール沈殿により精製し、乾燥した。
【0074】
この標識化された検体DNAを、1重量%BSA(ウシ血清アルブミン)、5×SSC(5×SSCとは、20×SSC(シグマ製)を純水にて4倍に希釈したもの。)、0.1重量%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、0.01重量%サケ精子DNAの溶液(各濃度はいずれも終濃度)、400μlに溶解し、ハイブリダイゼーション用のストック溶液とした。
【0075】
以下の実施例、比較例において、ハイブリダイゼーションの際の検体溶液は、特に断りのない限り、上記で調製したストック溶液を、1重量%BSA、5×SSC、0.01重量%サケ精子DNA、0.1重量%SDSの溶液(各濃度はいずれも終濃度)で200倍に希釈したものを用いた。なお、この溶液の検体DNAの濃度を測定したところ、1.5ng/μLであった。
【0076】
(分析チップの作製)
厚さ1mmのPMMA板から切削加工により図13及び図14に示す貫通孔4を4つ有し、担体側表面外周に高さが100μmの凸部を有するカバー部材を作製した。このカバー部材の凸部は、その接着地点が担体表面凹部の端面から外側500μmの距離(図13のW)に位置するように作製した。
シリコーン系エラストマー(シルガード)3を接着部材として、ディスペンサーを用いて、吐出圧力0.45MPaで前記担体の凹部から離れた場所に接着部材を塗布した。前記カバー部材を、プローブDNA固定化領域に被さるように設置し、カバー部材の上から50g重の荷重を掛け、接着部材が接着面全域に広がるまで静置した。接着部材が全面に広がるのを確認した後、荷重を取り外し、接着部材が完全に固まるまで42℃のオーブン内で2時間静置した。
接着部材の厚みをマイクロメーターを用いて測定した。具体的には、作成した分析チップの厚みから、予め測定しておいた担体およびカバー部材凸部の厚みを差し引くことで算出した。各辺における接着部材の厚み(図13のH)は、各々14μm、10μm、9μm、12μmであり(図14参照)、ほぼ所望とした10μm厚となった。すなわち、担体表面とカバー部材の担体側表面との間隔は、ほぼ110μmとなった。
カバー部材の貫通孔を通じて、空隙内に、直径が150μm〜180μmのジルコニア製撹拌子を添加し、図13及び図14に示す分析チップを得た。
【0077】
(ハイブリダイゼーション)
上記で得られた分析チップに上記検体DNAをハイブリダイゼーションさせた。具体的には、マイクロピペットを用いてハイブリダイゼーション用の溶液50μlを貫通孔4より注入した。その後、カプトンテープ(アズワン株式会社製、型番 5−5018−01)で貫通孔を塞いだ。但し、カプトンテープとしては3mm角にカットしたもの4枚を用い、それぞれで1つずつの貫通孔を塞ぐこととした。その後、分析チップを42℃の条件で16時間インキュベートした。インキュベート後、担体からカバー部材と両面テープを脱離後に担体を洗浄、乾燥した。
【0078】
(評価)
上記のハイブリダイゼーションの過程において、分析チップの空隙内部の観察を行い、次の項目に関して評価した。
(1)攪拌によって、接着部材へ攪拌子が付着していないか。
(2)検体溶液をアプライしたときに、溶液が空隙内全体に行き渡っているか。
(3)攪拌時に攪拌子が空隙内をスムーズに動き回るか。
(4)ハイブリダイゼーション中、空隙内部に気泡が発生していないか。
本実施例において評価した結果、以下のとおりであった。接着部材に撹拌子の付着は見られなかった。得られた分析チップに検体溶液をアプライすると、検体溶液は空隙内全体に行き渡り、細部に隙間は見られなかった。検体溶液をアプライした後、撹拌子は空隙内で滞りなく運動し、空隙内の撹拌が効率よく行われることが確認できた。ハイブリダイゼーション後に空隙内部の観察を行ったところ、空隙内において気泡の発生は確認されなかった。
【0079】
分析チップのプローブDNAを固定化した凸部3箇所(スポット1〜3)の蛍光強度を測定して、検体DNAとプローブDNAとのハイブリダイゼーション結果を評価した。DNAチップ用のスキャナー(Axon Instruments社のGenePix 4000B)に上記処理後の担体をセットし、レーザー出力33%、フォトマルチプライヤーの電圧設定を500にした状態で測定を行った。その結果を表1に示す。ここで示す3つの蛍光強度は、異なる凸部3箇所のハイブリダイゼーション後の蛍光強度の値である。
測定の結果、3箇所全てにおいて十分な蛍光強度が得られ、スポット場所の違いによるハイブリダイゼーション反応のばらつきは見られなかった。
【0080】
比較例1
担体とカバー部材との接着部材を介在した接着地点が前記担体の凹部と接して位置していること以外は、実施例1と同様に操作し、図16に示すような分析チップを調製し、空隙内部の目視観察、ハイブリダイゼーション及び蛍光強度の測定を行った。結果を表1に示す。
検体溶液のアプライ前に空隙内に撹拌子を添加したところ、接着部材部分に撹拌子が付着して固定化され、検体溶液を注入する際に固定化された撹拌子が障害となり、検体溶液が領域全体に広がらなかった。
また、付着した撹拌子と接着部材との間に隙間が発生したことにより、これが起因となり、ハイブリダイゼーション後に空隙内全体に気泡が発生した。
また、全体的に蛍光強度が低下し、スポット場所による蛍光強度のばらつきが見られた。
【0081】
比較例2
担体とカバー部材との接着地点が前記担体の凹部から離れて位置しているが、撹拌子の直径が担体とカバー部材との隙間より小さいこと以外は、実施例1と同様に操作して分析チップを調製し、空隙内部の目視観察、ハイブリダイゼーション及び蛍光強度の測定を行った。結果を表1に示す。
その結果、実施例1と比べて、空隙内に撹拌子を添加する際に担体とカバー部材との隙間に撹拌子が入り込み、接着部材部分に撹拌子が付着した。このため、検体溶液をアプライする際に付着した撹拌子が障害となり、領域全体に検体溶液が広がらなかった。
また、付着した撹拌子周りに発生した隙間が起因となり、ハイブリダイゼーション後に空隙内全体に気泡が発生した。
また、全体的に蛍光強度の低下が見られ、スポット場所により蛍光強度のばらつきが見られた。
【0082】
比較例3
担体とカバー部材との間の空隙内に撹拌子を封入しないこと以外は実施例1と同様に操作して分析チップを調製し、ハイブリダイゼーション及び蛍光強度の測定を行った。結果を表1に示す。
撹拌子を封入しない場合は、空隙内全体に検体溶液が行き渡ることを確認した。また、ハイブリダイゼーション後に、空隙内には泡が観察されなかった。しかし、撹拌子が存在しないために空隙内の撹拌が十分行われず、スポット場所による蛍光強度のばらつきが著しかった。また、スポット場所により、蛍光強度の低下が見られた。
【0083】
実施例2
カバー部材をその上から20g重の荷重を掛けて接着して、各辺における接着部材の厚み(図13のH)が各々24μm、26μm、28μm、25μmとなった分析チップを使用したことと、カバー部材の貫通孔を通じて、空隙内に、直径が180μm〜212μmのジルコニア製攪拌子を添加したこと以外は、実施例1と同様に操作し、図13及び図14(但し、図14中のHは上述の数値に代えたものである。)に示すような分析チップを調製し、空隙内の目視観察、ハイブリダイゼーション及び蛍光強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0084】
検体溶液のアプライ前において、接着部材への攪拌子の付着は見られなかった。検体溶液を分析チップにアプライすると、検体溶液は空隙内全体に行き渡り、攪拌子は空隙内で滞りなく運動し、空隙内の攪拌が効率よく行われることが確認できた。ハイブリダイゼーション後に空隙内部の観察を行ったところ、空隙内において気泡の発生は確認されなかった。ハイブリダイゼーション後に得られた異なる凸部3箇所における蛍光強度は、3箇所全てにおいて十分な蛍光強度が得られ、スポット場所の違いによるハイブリダイゼーション反応のばらつきは見られなかった。
【0085】
実施例3
カバー部材をその上から10g重の荷重を掛けて接着して、各辺における接着部材の厚み(図13のH)が各々52μm、55μm、56μm、54μmとなった分析チップを使用したことと、カバー部材の貫通孔を通じて、空隙内に、直径が212μm〜250μmのジルコニア製攪拌子を添加したこと以外は、実施例1と同様に操作し、図13及び図14(但し、図14中のHは上述の数値に代えたものである。)に示すような分析チップを調製し、空隙内の目視観察、ハイブリダイゼーション及び蛍光強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0086】
検体溶液のアプライ前において、接着部材への攪拌子の付着は見られなかった。検体溶液を分析チップにアプライすると、検体溶液は空隙内全体に行き渡り、攪拌子は空隙内で滞りなく運動し、空隙内の攪拌が効率よく行われることが確認できた。ハイブリダイゼーション後に空隙内部の観察を行ったところ、空隙内において気泡の発生は確認されなかった。ハイブリダイゼーション後に得られた異なる凸部3箇所における蛍光強度は、3箇所全てにおいて十分な蛍光強度が得られ、スポット場所の違いによるハイブリダイゼーション反応のばらつきは見られなかった。
【0087】
実施例4
カバー部材をその上から50g重の荷重を掛けて接着して、各辺における接着部材の厚み(図13のH)が各々10μm、12μm、13μm、11μmとなった分析チップを使用したことと、カバー部材の貫通孔を通じて、空隙内に、直径が180μm〜198μmのジルコニア製攪拌子を添加したこと以外は、実施例1と同様に操作し、図13及び図14(但し、図14中のHは上述の数値に代えたものである。)に示すような分析チップを調製し、空隙内の目視観察、ハイブリダイゼーション及び蛍光強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0088】
検体溶液のアプライ前において、接着部材への攪拌子の付着は見られなかった。検体溶液を分析チップにアプライすると、検体溶液は空隙内全体に行き渡り、攪拌子は空隙内で滞りなく運動し、空隙内の攪拌が効率よく行われることが確認できた。ハイブリダイゼーション後に空隙内部の観察を行ったところ、空隙内において気泡の発生は確認されなかった。ハイブリダイゼーション後に得られた異なる凸部3箇所における蛍光強度は、3箇所全てにおいて十分な蛍光強度が得られ、スポット場所の違いによるハイブリダイゼーション反応のばらつきは見られなかった。
【0089】
実施例5
カバー部材の凸部の接着地点が、担体表面凹部の端面から外側700μmの距離(図13のW)に位置し、かつ、カバー部材をその上から50g重の荷重を掛けて接着して、各辺における接着部材の厚み(図13のH)が各々11μm、12μm、12μm、11μmとなった分析チップを使用したであることと、カバー部材の貫通孔を通じて、空隙内に、直径が125μm〜150μmのジルコニア製攪拌子を添加したこと以外は実施例1と同様に操作し、図13及び図14(但し、図14中のHは上述の数値に代えたものである。)に示すような分析チップを調製し、空隙内部の目視観察、ハイブリダイゼーション及び蛍光強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0090】
検体溶液のアプライ前において、接着部材への攪拌子の付着は見られなかった。検体溶液を分析チップにアプライすると、検体溶液は空隙内全体に行き渡り、攪拌子は空隙内で滞りなく運動し、空隙内の攪拌が効率よく行われることが確認できた。ハイブリダイゼーション後に空隙内部の観察を行ったところ、空隙内において気泡の発生は確認されなかった。ハイブリダイゼーション後に得られた異なる凸部3箇所における蛍光強度は、3箇所全てにおいて十分な蛍光強度が得られ、スポット場所の違いによるハイブリダイゼーション反応のばらつきは見られなかった。
【0091】
実施例6
カバー部材の凸部の接着地点が、担体表面凹部の端面から外側300μmの距離(図13のW)に位置し、かつ、カバー部材をその上から50g重の荷重を掛けて接着して、各辺における接着部材の厚み(図13のH)が各々11μm、12μm、13μm、11μmとなった分析チップを使用したことと、カバー部材の貫通孔を通じて、空隙内に、直径が180μm〜212μmのジルコニア製攪拌子を添加したこと以外は実施例1と同様に操作し、図13及び図14(但し、図14中のHは上述の数値に代えたものである。)に示すような分析チップを調製し、空隙内部の目視観察、ハイブリダイゼーション及び蛍光強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0092】
検体溶液のアプライ前において、接着部材への攪拌子の付着は見られなかった。検体溶液を分析チップにアプライすると、検体溶液は空隙内全体に行き渡り、攪拌子は空隙内で滞りなく運動し、空隙内の攪拌が効率よく行われることが確認できた。ハイブリダイゼーション後に空隙内部の観察を行ったところ、空隙内において気泡の発生は確認されなかった。ハイブリダイゼーション後に得られた異なる凸部3箇所における蛍光強度は、3箇所全てにおいて十分な蛍光強度が得られ、スポット場所の違いによるハイブリダイゼーション反応のばらつきは見られなかった。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】図1は、本発明の分析チップの一例を概略的に示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示される本発明の分析チップを矢印A1に沿った面で切断した部分断面図である。
【図3】図3は、本発明の分析チップの一例を示す部分断面図である。
【図4】図4は、本発明の分析チップの一例を示す部分断面図である。
【図5】図5は、仕切り構造を有する本発明の分析チップの一例を概略的に示す縦断面図である。
【図6】図6は、本発明の分析チップの別の一例を概略的に示す斜視図である。
【図7】図7は、図6に示される本発明の分析チップを矢印A2に沿った面で切断した部分断面図である。
【図8】図8は、本発明の分析チップを構成する担体の一例を概略的に示す斜視図である。
【図9】図9は、図8に例示される担体の縦断面図である。
【図10】図10は、本発明の分析チップを用いた反応の結果を読み取る治具及びスキャナーの一例を概略的に示す縦断面図である。
【図11】図11は、本発明の分析チップの一例を概略的に示す断面図である。
【図12】図12は、本発明の分析チップの別の一例を概略的に示す縦断面図である。
【図13】図13は、実施例における分析チップの一例を概略的に示す縦断面図である。
【図14】図14は、図13の分析チップのうちカバー部材を上方より見た平面図である。
【図15】図15は、本願実施例及び比較例における、プローブDNAの固定化を示す概略図である。
【図16】図16は、比較例における分析チップを概略的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0096】
1 カバー部材
1A カバー部材の凸部
2 担体
3、3C 接着部材
4 貫通孔
4A 液面駐止用チャンバー
5 空隙(空間)
6 担体表面の凸部
7 撹拌子
8 平坦部
9 選択結合性物質
10 封止部材(テープ)
11 対物レンズ
12 レーザー励起光
13 マイクロアレイを治具に突き当てるためのバネ
14 治具
15 治具突き当て面
P1 担体側の接着地点
P2 担体表面の凹部の外周部端面
P3 接着部材の内側断面
P4 担体の凹部外側の表面部分
P5 カバー部材側の接着地点
S1 空間
R1 選択結合性物質が固定化された領域(凹部)
L1 凸部ピッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹部を有する担体と、
前記担体の表面を覆い前記担体と接着されたカバー部材と、
前記担体と前記カバー部材との間に介在しこれらを接着させる接着部材と、
前記担体と前記カバー部材との間の空隙内に封入されてなる撹拌子とからなる分析チップであって、
前記担体表面における担体とカバー部材との接着地点が、凹部の外周部端面より離れた外側の領域に位置しており、前記接着地点における担体表面とカバー部材の担体側表面との間隔が、撹拌子の最短径より短いことを特徴とする分析チップ。
【請求項2】
前記カバー部材の担体側表面外周に凸部が設けられており、前記接着部材が、前記担体と前記カバー部材の担体側表面外周の凸部との間に介在することを特徴とする請求項1記載の分析チップ。
【請求項3】
前記担体が、その表面であって前記空隙内に位置する領域上に固定化された選択結合性物質を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の分析チップ。
【請求項4】
前記カバー部材が、前記担体に脱離可能に接着されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の分析チップ。
【請求項5】
前記接着部材が、シリコーン系ポリマー、アクリル系ポリマー及びこれらの混合物からなる群より選択されるポリマーを含む樹脂組成物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の分析チップ。
【請求項6】
(A)請求項1〜5のいずれか1項に記載の分析チップに被検物質をアプライする工程;
(B)前記被検物質を前記担体に選択的に結合させる工程;及び
(C)前記担体上に前記選択結合性物質を介して結合した前記被検物質量を測定する工程
を含むことを特徴とする、被検物質の分析方法。
【請求項7】
前記分析チップが、前記担体の表面であって前記空隙内に位置する領域上に固定化された選択結合性物質を有し、前記工程(C)が、前記被検物質と前記選択結合性物質とを相互作用させ、前記被検物質を前記選択結合性物質を介して前記担体に結合させることを含む、請求項6記載の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−304093(P2007−304093A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−103683(P2007−103683)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】