説明

分析対象物の検出のための方法およびデバイス

【課題】試料中の目的の一又は複数の分析対象物を検出するための方法、デバイス、およびキットを提供する。
【解決手段】
流路内でタンパク質などの一又は複数の分析対象物を検出するための方法が提供される。該方法は、キャピラリーなどの流路内で一又は複数の分析対象物を分離する工程と、固定化する工程と、検出する工程とを含む。かかるアッセイを実施するためのデバイスおよびキットも含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2004年7月19日出願の米国特許出願第60/589,139号、発明の名称「Continuous Determination of Cellular Contents by Chemiluminescence」、および2004年10月8日出願の米国特許出願第60/617,362号、発明の名称「Determination of Captured Cellular Contents」に基づき、米国特許法(35U.S.C.)第119条(e)に従って優先権を主張するものであり、その開示はその全体が参照により本明細書中に援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、分析対象物の検出およびその様々な使用のための方法、デバイスおよびキットに関する。
【背景技術】
【0003】
序論
分析対象物を検出するための方法およびデバイスは、生物学的用途および産業用途において分析対象物を特徴付けるための重要なツールである。多くの用途においては、試料中の一又は複数の分析対象物の存在を検出することが望ましい。例えば、分子生物学プロトコル、医薬品開発および疾患の診断では、タンパク質混合物の中から特定のタンパク質を迅速に検出することが特に有用である。
【0004】
分析対象物の検出に極めて多数のアプローチが開発されているが、多種多様な分析対象物を安価、便利に検出しかつ特徴付けるのに使用可能な新たなアッセイの設計を見出そうとする需要は依然として大きい。しかしながら、現在利用可能なアッセイプロトコルは不便で高価であるかまたは他の欠陥を有する。例えば、ウエスタンブロッティングは、タンパク質の検出において20年超の期間にわたり幅広く利用されている。この技術では、2枚のプレート間でゲルのシートが保持され、通常、被分析試料にアクセス可能なゲルシートの上縁に垂直に取り付けられる。試料はゲル上縁に沿って作製されるウェル内に加えられ、電気泳動電位がゲルシートの上縁と下縁の間に与えられる。電気泳動電位は、DC電源によって与えられ、50〜1000ボルト超の範囲でありうる。電気泳動電位は、試料中のタンパク質がゲルシート中を通って垂直に自らを分布させる(すなわち分離する)のに可能な時間、通常1〜4時間にわたって与えられるが、場合によってそれよりもかなり長い時間にわたる。タンパク質が望まれたとおりに分布したら電位を取り除かなければならない。次いでゲルシートは、その2つのガラス製保持プレートの間から取り出され、次いで長さと幅の寸法がゲルシートの寸法とほぼ一致する、多孔質ニトロセルロースなどのブロッティング材料のシート上に配置される。ここでブロッティング材料は既にそれを水和するための緩衝液中に漬けられている。この工程では、分布したタンパク質がゲルからブロッティング材料に直接移動するのを妨げるであろう、ゲルとブロッティング材料の間の気泡の存在を回避するのに注意を払わなければならない。次いで、ゲルおよびブロッティング材料のいずれかの面に2つの電極プレートを配置することで、ゲルシートおよびブロッティング材料のシートが電極プレート間でサンドイッチ構造をなすようにする。電極プレートには、好ましくはゲルシートおよびブロッティング材料のシートの厚みを横切る均一な電気泳動場がかけられる必要がある。典型的には100〜500ボルトのこの電気泳動場は、タンパク質をゲルからブロッティング材料へゲルマトリックス中で捕捉されたのと等しい分布で移動させる。この移動過程は約1〜2時間かかるが、移動されるべき一部のタンパク質では一晩相当かかる可能性がある。タンパク質がブロッティング材料に付着すると、ブロッティング材料はサンドイッチ構造から取り出され、スキムミルク、ウシ血清アルブミンまたはtween−20デタージェントなどの一又は複数のブロッキング剤を含有する緩衝液中で1〜4時間にわたって洗浄され、次いでタンパク質に特異的なレポーター抗体の溶液中に浸漬される。浸漬期間中、通常ブロッティング紙がブロッティング紙面内の振動または円形運動によって撹拌される。浸漬工程は通常は1〜4時間かかるが、一部の抗体−タンパク質対では一晩かそれ以上かかる可能性がある。用いられる分析法に依存する、光学色素、放射性マーカーもしくは発色マーカー、蛍光色素もしくはレポーター酵素などの種々のマーカーによってレポーター抗体を検出することが可能である。これらの結果は、タウビン H.(Towbin H.)、シュテヘリン T.(Staehelin T.)、およびゴルドン J.(Gordon J.)、Proc.Nat.Acad.Sci.USA、76:4350−4354頁(1979年)、バーネット W.N.(Burnette W.N.)、Anal.Biochem.、112:195−203頁(1981年)、およびリビッキ(Rybicki)&フォン・ヴェヒマール(von Wechmar)、J.Virol.Methods、第5巻:267−278頁(1982年)で記載されるウエスタンブロットとして知られている。
【0005】
ウエスタンブロット技術は、広く用いられる一方、多数の短所や欠陥を有している。第1に、上記によって明らかなように処理は非常に複雑である。ゲルによって分析されるタンパク質を分布させる初期工程と、分布されたタンパク質をブロッティング材料に移動させる中間工程と、レポーター抗体を結合する後期工程と、結果を読み取るかまたは分析する最終工程とを含む多数の明らかに異なる工程が存在する。これらの主要な工程の間に、調製工程と様々に処理された技術の構成要素の洗浄工程が存在する。第2に、取り扱う技術の要素が広範にわたる。ゲルは分布装置内に配置され、次いでブロッティング装置に移して位置付けられなければならず、次いでブロッティング材料はレポーター基質を結合させるように取り扱わなければならない。構成要素、特に壊れやすいゲルシートはこの取り扱い中に破壊する可能性がある。第3に、たった1回のブロットに達するのに相当な時間がかかる。たった1回のブロットを生成するのに少なくとも1日を要し、一般に1日半〜2日を要する。処理の初期過程において、この手法の精度は、ブロッティング材料中にタンパク質が固定化されるまでその移動によって影響を受け、その結果バンド幅が広がる可能性がある。第4に、取り扱いおよび処理の複雑さによってもたらされる可変性に対しては、満足できる結果が得られるまでに数回繰り返されるべき処理が必要となりうる。第5に、結果のばらつきのため、ブロットの結果の読み取り時に主観的な判断を要することが多い。この主観性によって定量化可能で客観的な結果を得る能力が低下し、この手法が高度な訓練を受けた経験豊富な人物によって実行されるように限定されることが多い。第6に、処理の変動および複雑さは、処理を自動化する能力には妨げとなる。第7に、この手法の感度は低く、一般に数十万もしくは数百万個の細胞内容物に有効であるにすぎない。確かにこの手法を用いても個々の哺乳類細胞の酵素を分析することはできない。第8に、この手法は定量性が十分ではない。一例では、撹拌処理によってレポーター基質のブロッティング材料中の分析対象物への一様な結合がもたらされない可能性がある。別の例では、電気ブロッティング工程では、一部のタンパク質を移動させるのに必要な時間は、他のタンパク質がブロッティング膜を通過し失われるのを可能にするのに十分である。最後に、処理は使用されるべき大量の高価なプローブおよびレポーター抗体を必要としうる。つまり、ウエスタンゲルブロッティング技術は、一般に複雑で、多大な時間を要し、高価で、感度が悪く、かつ不正確である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、分析対象物を検出するのに極めて多くのアプローチが開発されているが、多種多様な分析対象物を便利に感度良く検出しかつ特徴付けるのに利用可能な新しい方法およびデバイスを見出そうとする需要は依然として大きい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
概要
本発明は、試料中の目的の一又は複数の分析対象物を検出するための方法、デバイス、およびキットを提供する。一部の実施形態では、一又は複数の分析対象物が流路内で分離され、かつ分析対象物が流路内で固定化されることを特徴とする、試料中の少なくとも一の分析対象物を検出する方法が提供される。検出剤は、流路を通って輸送され、分析対象物と結合又は相互作用し、かつ流路内での固定化された分析対象物の検出を可能にする。
【0008】
別の態様では、キャピラリー内で一又は複数のタンパク質を分離する工程と、キャピラリー内で一又は複数のタンパク質を光固定化する工程と、キャピラリー内で抗体を固定化されたタンパク質に接触させることで抗体−タンパク質複合体を形成する工程と、タンパク質を検出する工程とを含む、試料中の少なくとも一のタンパク質を検出するための方法が提供される。
【0009】
さらなる態様では、試料中の少なくとも一のタンパク質を検出する方法が提供され、一又は複数の標的タンパク質がキャピラリー内で分離される。キャピラリーは、少なくとも一又は複数の光反応基を含む。一部の実施形態では、キャピラリーは、一又は複数の光反応基を含む高分子材料または重合可能材料を含有する。タンパク質はキャピラリー内に光固定化される。次いで、抗体が光固定化されたタンパク質と接触されることによりキャピラリー内で抗体−タンパク質複合体が形成され、タンパク質が検出される。
【0010】
流路内で一又は複数のタンパク質を濃縮する工程と、流路内でタンパク質を固定化する工程と、流路内で固定化された標的タンパク質を検出剤に接触させることで検出剤−タンパク質複合体を形成する工程と、標的タンパク質を検出する工程とを含む、試料中の少なくとも一のタンパク質を検出するさらなる方法が提供される。
【0011】
さらに、流路内で分析対象物を固定化可能な、内部に含有される一又は複数の反応基を有する流路を含む、試料中の少なくとも一の分析対象物を検出するためのシステムが提供される。流路に電源が結合され、それは分析対象物が流路内で分離される場合の流路沿いに電圧を加えるように構成される。流路内で固定化された分析対象物を検出する検出器が提供される。
【0012】
別の態様では、一又は複数の反応性部分、緩衝液および検出剤を含む一もしくは複数の流路を含む、試料中の少なくとも一の分析対象物を検出するためのキットが提供される。
【0013】
これらおよび本教示の他の特徴が下記に示される。
【0014】
当業者であれば、下記の図面があくまでも図示を目的としていることを理解するであろう。図面は、決して本教示内容の範囲の限定を意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1a】キャピラリー内で、細胞物質を分離し、固定化し、かつ標識する典型的な実施形態を図示する。
【図1b】キャピラリー内で、細胞物質を分離し、固定化し、かつ標識する典型的な実施形態を図示する。
【図1c】キャピラリー内で、細胞物質を分離し、固定化し、かつ標識する典型的な実施形態を図示する。
【図1d】キャピラリー内で、細胞物質を分離し、固定化し、かつ標識する典型的な実施形態を図示する。
【図2a】キャピラリー内で、材料中で分離された分析対象物を高分子材料中で固定化する典型的な実施形態を図示する。
【図2b】キャピラリー内で、材料中で分離された分析対象物を高分子材料中で固定化する典型的な実施形態を図示する。
【図3】一又は複数の分析対象物を検出する典型的な実施形態を図示する。
【図4】細胞物質を検出する典型的な実施形態を図示する。
【図5】細胞を分析する典型的な実施形態を図示する。
【図6】細胞物質を検出する典型的な実施形態を図示する。
【図7】細胞を分析する典型的な実施形態を図示する。
【図8】細胞を分析する典型的な実施形態を図示する。
【図9】細胞を分析する典型的な実施形態を図示する。
【図10】細胞物質を分析する典型的な実施形態を図示する。
【図11】細胞物質を分析するための方法の典型的な実施形態を図示する。
【図12a】2つの流体充填されたウェルと電極の間のキャピラリーの典型的な実施形態を図示する。
【図12b】キャピラリーアレイデバイスの典型的な実施形態を図示する。
【図13】化学発光によるキャピラリー内での細胞物質の分析システムの検出に関する典型的な実施形態を図示する。
【図14】分析デバイスの典型的な実施形態を図示する。
【図15】分析デバイスの典型的な実施形態を図示する。
【図16】分析デバイスの典型的な実施形態を図示する。
【図17】グリーン蛍光タンパク質の蛍光検出を図示する。
【図18】グリーン蛍光タンパク質の化学発光検出を図示する。
【図19】ウマミオグロビンの蛍光検出を図示する。
【図20】Aktタンパク質の化学発光検出を図示する。
【図21】リン酸化Aktタンパク質の化学発光検出を図示する。
【図22】Aktタンパク質およびリン酸化Aktタンパク質の化学発光検出を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施形態の詳細な説明
前述の概要と以下の説明の双方は単に典型的かつ説明的なものであり、本明細書に記載の方法およびデバイスを限定するものではないことが理解されるべきである。本願では、単数形の使用には、特に異なる意味で述べられる場合を除いて複数が含まれる。さらに「または」の使用は、異なる意味で述べられる場合を除いては「および/または」を意味する。同様に、「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(include)」、「含む(includes)」および「含む(including)」は限定することを意図していない。
【0017】
定義
本願全体で用いられる以下の用語は、以下の意味を有するものとする。
【0018】
「抗体」はその標準的意味を有し、抗体全体又は組換えDNA技術を用いてdo novo合成された抗体の修飾によってそれぞれ生成されるFab抗体、Fab抗体、一本鎖抗体(例えばFv)、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体などを含む、完全長および当該技術分野において既知の抗体フラグメントを示すことが意図される。
【0019】
「検出する」および「検出」は、それらの標準的意味を有し、分析対象物の存在もしくは非存在、測定、および/または特徴付けを含む検出を包含するように意図される。
【0020】
本明細書において用いられる「標識」とは検出可能な部分を示す。当業者によって理解されているように、適切な標識は多種多様な考えられる部分を包含する。一般に、標識は、a)放射能を有するかまたは重同位体でありうる同位体標識と;b)抗体または抗原でありうる免疫標識と;c)着色色素または蛍光色素を含む光学色素と;d)アルカリホスファターゼおよび西洋わさびペルオキシダーゼなどの酵素と;e)コロイド、磁気粒子などの粒子と、蛍光標識抗体および化学発光標識抗体などのこれらの組み合わせとを含む。
【0021】
「タンパク質」は、その標準的意味を有し、非天然に生じるアミノ酸およびアミノ酸類似体を含有するタンパク質やペプチド模倣構造を含む、タンパク質、オリゴペプチドおよびペプチド、誘導体および類似体を示すように意図され、組換え技術を用い、すなわち組換え核酸の発現を介して作製されるタンパク質を含む。
【0022】
方法
本明細書において試料中の一又は複数の分析対象物を検出する方法が提供される。一部の実施形態では、一又は複数の分析対象物が流路内で分離され、分析対象物が流路内で固定化されることを特徴とする、試料中の少なくとも一の分析対象物を検出する方法が提供される。検出剤は、分析対象物に結合するかまたはそれらと相互作用する流路を通って輸送され、流路内での固定化された分析対象物の検出を可能にする。
【0023】
一部の実施形態では、試料中の目的の少なくとも一の分析対象物を検出する方法が提供される。一部の実施形態では、該方法は、流路内で一又は複数の分析対象物を分離する工程と、流路内で分析対象物を固定化する工程と、固定化された分析対象物を検出剤に接触させる工程と、分析対象物を検出する工程とを含む。一部の実施形態では、該方法は、流路内で試料を2種類以上の成分に分離する工程と、流路内で目的の一又は複数の分析対象物を固定化する工程と、固定化された分析対象物を検出剤に接触させる工程と、分析対象物を検出する工程とを含む。
【0024】
試料は検出されるべき一又は複数の分析対象物を含有する。試料は種々の成分すなわち異なるタンパク質を含有し、不均一であってもよい。あるいは、試料は一の成分を含有し、均一であってもよい。試料は天然に得られる生物学的材料または人工材料であってもよい。例えば、試料は、単一の細胞もしくは複数の細胞、血液試料、組織試料、皮膚試料、尿試料、水試料、または土壌試料であってもよい。一部の実施形態では、試料は単一の細胞内容物または複数の細胞内容物を含有する。試料は、真核生物、原核生物、哺乳動物、ヒト、酵母、または細菌などの生物由来であってもよく、あるいはウイルス由来であってもよい。一部の実施形態では、齧歯類の尾から得られる連続切片など、単一の動物から連続試料を、時間をかけてアッセイしてもよい。
【0025】
一部の実施形態では、試料は、一又は複数の幹細胞であってもよい。幹細胞とは、不定期間で分化し、特異性細胞を発生させる能力を有する任意の細胞である。適切な例として、ヒト胚性幹細胞(hES)などの胚性幹細胞や、間葉、造血、または成人幹細胞(MSC)などの非胚性幹細胞が挙げられる。
【0026】
当業者には理解されるであろうが、分析対象物の検出に先立ち、試料に対して仮想的に任意の処理を施すことが可能である。例えば、試料に、溶解工程、変性工程、加熱工程、精製工程、沈降工程、免疫沈降工程、カラムクロマトグラフィー工程、遠心分離などを施してもよい。一部の実施形態では、天然基質、目的の分析対象物すなわちタンパク質に対して試料の分離および固定化を行うか、または流路内で変性を施し、それらの内部の疎水基を固定化のために露出させることも可能である。
【0027】
検出されるべき分析対象物は、使用者によって選択される任意の分析対象物であってよい。分析対象物は、検出可能な任意の有機分子または無機分子を含有しうる。検出可能な分析対象物の非限定的な例として、非天然アミノ酸およびアミノ酸類似体を含有するタンパク質を含む、タンパク質、オリゴペプチドおよびペプチド、誘導体および類似体が挙げられる。検出可能な分析対象物の他の例として、炭水化物、多糖類、糖タンパク質、ウイルス、代謝産物、コファクター、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、遷移状態類似体、阻害剤、薬剤、栄養物、電解質、ホルモン、成長因子および他の生体分子や、非生体分子、ならびに上記すべての断片および組み合わせが挙げられる。
【0028】
当業者には理解されるであろうが、流路内で試料を装填する任意の方法を仮想的に実施することが可能である。例えば、試料を流路の一端に装填してもよい。一部の実施形態では、試料が流体力学的流れによって流路の一端に装填される。例えば、流路がキャピラリーである場合の実施形態では、キャピラリーがマイクロピペットとして用いられるように、試料を流体力学的流れによってキャピラリーの一端に装填される。図3bは、キャピラリー作用によるキャピラリー内への試料の装填に関する典型的な実施形態を図示する。一部の実施形態では、例えば流路が充填されたゲルである場合など流体力学的流れに比較的抵抗性を示す場合には、電気泳動によって試料を流路内に装填してもよい。
【0029】
流路は、液体分子または溶存分子の流れを可能にする任意の構造を含んでもよい。したがって流路は、本明細書に記載の方法およびデバイスと互換性がある限り、当該技術において既知の任意の構造を含んでもよい。一部の実施形態では、流路は、液体分子または溶存分子が中を通って流れることが可能な穴またはチャネルである。一部の実施形態では、流路は、液体分子または溶存分子の流れを可能にする透過性材料中の経路である。
【0030】
流路は、流路内で分析対象物の検出を可能にする任意の材料を含有する。流路は、ガラス、プラスチック、シリコン、溶融シリカ、ゲルなどの任意の便利な材料を含む。一部の実施形態では、該方法は複数の流路を用いる。複数の流路は、複数の試料の同時分析を可能にする。
【0031】
流路は、例えば、諸寸法、幅、深さおよび断面、ならびに円形、台形、長方形などの形状について変化しうる。流路は、直線形、円形、蛇行形などでもよい。下記の如く、流路の長さは、試料の大きさや、目的の一又は複数の分析対象物を分離するのに必要な試料分離の度合いなどの因子に部分的に依存する。
【0032】
一部の実施形態では、流路はキャピラリーなどの穴を有するチューブを含む。一部の実施形態では、該方法は複数のキャピラリーを用いる。適切な大きさとして約10〜約l000μmの内径を有するキャピラリーが含まれるがこれらに限定されることはなく、より典型的には約25〜約400μmの内径を有するキャピラリーを利用してもよい。直径がより小さいキャピラリーには相対的に少ない試料装填が用いられる一方、相対的に多穴のキャピラリーは相対的に多い試料の装填を可能にしかつ改善されたシグナル検出をもたらす可能性がある。
【0033】
キャピラリーの長さは様々でありうる。適切な長さには、約2〜20cmの長さのキャピラリーが含まれるがこれらに限定されることはなく、それよりいくらか長短があるキャピラリーの使用が可能である。一部の実施形態では、キャピラリーの長さは約3、4、5もしくは6cmである。キャピラリーが長くなると、典型的には分離が向上しかつ複合体混合物の分離が改善される結果となる。長めのキャピラリーは、量が不十分な分析対象物の分離における特定用途となりうる。
【0034】
プラスチック製キャピラリーおよびPYREX(登録商標。すなわち非晶質ガラス)の使用が可能であるが、一般にキャピラリーは溶融シリカからなる。上記の如く、キャピラリーは円形またはチューブ状の形状を有する必要がなく、本明細書に記載の方法およびデバイスと互換性がある限り、他の形状も利用可能である。
【0035】
一部の実施形態では、流路はチャネルであってもよい。一部の実施形態では、該方法は複数のチャネルを用いる。一部の実施形態では、流路はマイクロ流体デバイス内のチャネルであってもよい。マイクロ流体は、基板内のチャネルを用いて多種多様な動作を行う。マイクロ流体デバイスは、基板表面内に成形された一又は複数のチャネルを含みうる。マイクロ流体デバイスは固体の不活性基板から得られ、一部の実施形態ではチップ形態で得られる。マイクロ流体デバイスの諸寸法は重要ではないが、一部の実施形態では、諸寸法は約l00μm〜約5mmの厚み、一辺が約1cm〜約20cm程度である。適切な大きさとして、約5μm〜約200μmの深さを有するチャネルが含まれるがこれらに限定されず、より典型的には約20μm〜約l00μmの深さを有するチャネルを利用してもよい。本明細書に記載の方法およびデバイスと互換性がある限り、マイクロチャネルまたはナノチャネルなどのより小型のチャネルを使用してもよい。
【0036】
一部の実施形態では、流路はゲルを含有する。一部の実施形態では、ゲルは分子量を基準として試料成分を分離することが可能である。かかる多種多様なゲルは当該技術において既知であり、非限定的例としてポリアクリルアミドゲルが挙げられる。
【0037】
該方法は、一般に流路内で試料中に含有される一又は複数の分析対象物を分離する工程を含む。混合物を2種類以上の成分に分離する方法は当業者には周知であり、様々な種類の電気泳動を含みうるがこれらに限定されない。本明細書で用いられるように、電気泳動とは、流体と接触した電極に加えられる起電力の作用下での流体またはゲルを介する懸濁分子または溶存分子の移動を示す。
【0038】
一部の実施形態では、一又は複数の分析対象物を分離する工程は試料の等電点電気泳動(IEF)を含む。電場内では、分子は自らが有する正味電荷と逆の電荷を有する極(カソードまたはアノード)に向かって移動することになる。この正味電荷は、分子が移動中の培地のpHに一部依存する。1つの一般的な電気泳動法は、電場の各境界で異なるpH値を有し、その間にpHの勾配範囲を有する溶液を作製することである。ある特定のpHにおいて分子の等電点が得られ、そこで分子は正味電荷を全く有しない。分子は、pH勾配を横切る際にその正味電荷がゼロである点(すなわちその等電点)に到達し、その後は電場内に固定される。したがって、この電気泳動法では、分子がその異なる等電点によって分離される。
【0039】
一部の実施形態では、例えば分離が等電点電気泳動による場合、両性電解質試薬を流路内に装填してもよい。両性電解質試薬は、異なる等電点の範囲を有する分子の混合物である。典型的な両性電解質試薬は、Buckinghamshire、英国のアマシャム・バイオサイエンス(Amersham Biosciences)から入手可能なPharmalyte(商標)およびAmpholine(商標)である。ポンピング、キャピラリー作用、重力流、電気浸透ポンピング、または電気泳動、あるいは連続的に流路まで延在可能なグラヴィティ・サイフォンにより、流路の各末端または両末端で両性電解質を供給してもよい。
【0040】
一部の実施形態では、一又は複数の分析対象物を分離する工程は、高分子ゲル中での試料の電気泳動を含む。ポリアクリルアミドゲルまたはアガロースゲルなどの高分子ゲル中の電気泳動では、分子の大きさを基準として分子が分離される。高分子ゲルにより、分子が移動可能な多孔質の経路が提供される。大きい方の分子はゲルに乗って小さい方の分子よりも遅く移動することから、高分子ゲルは分子の大きさによる分子の分離を可能にする。
【0041】
一部の実施形態では、一又は複数の分析対象物を分離する工程は、試料のミセル界面動電クロマトグラフィー(MEKC)を含む。ミセル界面動電クロマトグラフィーでは、イオン性界面活性剤が試料に添加されることでミセルが形成される。ミセルは界面活性剤の疎水性部分が内側にありかつ帯電部分が外側に面している構造を有する。分析対象物分子の分離は、これらの溶質のミセルとの相互作用に基づく。相互作用が強くなるほど、ミセルを伴う溶質の移動は長くなる。界面活性剤の選択だけでなく調節剤の試料への添加によってもMEKCの選択性を制御することが可能である。ミセル界面動電クロマトグラフィーは、中性分子と荷電分子の分離を可能にする。
【0042】
該方法は、流路内で一又は複数の分離された分析対象物を固定化する工程を含む。本明細書で用いられる固定化する工程は、流路内での分子の移動を著しく低減させるかまたは失わせることを示す。共有結合または疎水性もしくはイオン性相互作用などの非共有手段を介して固定化することが可能である。一部の実施形態では、分離された試料の分析対象物は、等電点電気泳動によって流路内で固定化される。
【0043】
一部の実施形態では、流路は、一又は複数の反応性部分を含有する。反応性部分を使用することで、流路内で分離された一又は複数の分析対象物を共有結合によって固定化することが可能である。反応性部分は、試料の個々の分子に対応する反応基との共有結合を形成可能な任意の反応基を含みうる。したがって、反応性部分は、本明細書に記載の方法およびデバイスと互換性がある限り当該技術において既知の任意の反応基を含みうる。一部の実施形態では、反応性部分は目的の分析対象物に対応する反応基と共有結合を形成可能な反応基を含む。2種類以上の反応性部分を用いる実施形態では、各反応性部分が同一でありうるか、または反応性部分の一部もしくはすべてが異なる場合がある。
【0044】
反応性部分の流路への付着は直接的であっても間接的であってもよい。一部の実施形態では、反応性部分は、溶液中または懸濁液中に供給可能であり、活性化の際に流路の壁と試料中の分子の間に架橋を形成しうる。別の実施形態では、反応性部分は、流路の内側を覆いうるか、または他の実施形態では、流路内の線状ポリマー上もしくは架橋ポリマー上に存在しうる。ポリマーが活性化前および/または活性化後に流路の壁に結合されるか否かは不明である。
【0045】
2個の分子を互いに共有結合させるのに適する多種多様な反応性部分は周知である。反応性部分の実際の選択は、種々の因子に依存し、当業者にとっては明らかであろう。例えば、反応性部分はタンパク質の炭素−水素(C−H)結合に結合しうる。多数の分離媒体はC−H結合を含む成分も含有することから、スルフヒドリル(S−H)基と反応する化学物質は、S−H基が大部分の分離媒体成分と比べてもタンパク質上に特異的に見出される場合に有利でありうる。アミン基またはカルボキシル基と反応する化学物質は、タンパク質上にかかる基が豊富に存在することによっても有利でありうる。
【0046】
適切な反応性部分は、光反応基、化学反応基、および熱反応基(thermoreactive groups)を含むがこれらに限定されない。
【0047】
流路内での光固定化は、一又は複数の光反応基の活性化によって実現しうる。光反応基は、外部エネルギー源による活性化時に他の分子と共有結合を形成する一又は複数の潜在的な光反応基を含む。例えば、本明細書において参照により援用される開示である米国特許第5,002,582号明細書および米国特許第6,254,634号明細書を参照のこと。光反応基は、フリーラジカル、特にナイトレン、カルベン、および電磁エネルギーの吸収時のケトンの励起状態などの活性種を生成する。スペクトルの紫外部、赤外部および可視部に反応性を有する光反応基などの電磁スペクトルの様々な部分に反応性を有する光反応基を選択してもよい。例えば、光源への暴露時に光反応基を活性化させることで隣接分子と共有結合を形成させてもよい。
【0048】
適切な光反応基には、アリールケトン、アジド、ジアゾ、ジアジリン、およびキノンが含まれるがこれらに限定されない。
【0049】
一部の実施形態では、光反応基には、ベンゾフェノン、アセトフェノン、アントラキノン、アントロン、およびアントロン様複素環などのアリールケトンまたはそれらの置換誘導体が含まれる。ベンゾフェノンは、項間交差を経て三重項状態に至る励起一重項状態の初期形成を伴う光化学励起を可能にすることから、好ましい光反応性部分である。励起三重項状態が水素原子の引き抜きによって炭素−水素結合の中に入り込むことで、ラジカル対の生成が可能である。それに続くラジカル対の崩壊は、新たな炭素−炭素結合の形成を招く。もし反応性結合(例えば炭素−水素)が結合として利用できない場合、ベンゾフェノン基の紫外光によって誘発される励起は可逆的であり、エネルギー源の除去時に分子は基底状態のエネルギーレベルに戻る。
【0050】
一部の実施形態では、光反応基は、フェニルアジド、4−フルオロ−3−ニトロフェニルアジドなどのアリールアジド、ベンゾイルアジドおよびp−メチルベンゾイルアジドなどのアシルアジド、エチルアジドホルマート、フェニルアジドホルマートなどのアジドホルマート、ベンゼンスルホニルアジドなどのスルホニルアジド、ならびにジフェニルホスホリルアジドおよびジエチルホスホリルアジドなどのホスホリルアジドなどのアジドを含む。
【0051】
一部の実施形態では、光反応基はジアゾ化合物を含み、かつジアゾメタンおよびジフェニルジアゾメタンなどのジアゾアルカン、ジアゾアセトフェノンおよび1−トリフルオロメチル−1−ジアゾ−2−ペンタノンなどのジアゾケトン、t−ブチルジアゾアセテートおよびフェニルジアゾアセテートなどのジアゾアセテート、ならびにt−ブチルアルファジアゾアセトアセテートなどのベータ−ケト−アルファ−ジアゾアセテートを含む。
【0052】
一部の実施形態では、光反応基は3−トリフルオロメチル−3−フェニルジアジリンなどのジアジリンを含み、かつ光反応基はジフェニルケテンなどのケテンを含む。
【0053】
一部の実施形態では、光反応基は、N−((2−ピリジルジチオ)エチル)−4−アジドサリチルアミド、4−アジド−2,3,5,6−テトラフルオロ安息香酸、4−アジド−2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアミン、ベンゾフェノン−4−マレイミド、ベンゾフェノン−4−イソチオシアネート、または4−ベンゾイル安息香酸を含む。
【0054】
上記の如く、2種類以上の反応性部分を用いる実施形態では、各反応性部分は同一であるか、または反応性部分の一部もしくはすべてが異なる場合がある。例えば、流路は光反応基を含みうるとともに化学的に反応性を有する。一部の実施形態では、流路は種々の光反応基を含みうるとともに、非限定的例としてベンゾフェノンおよび4−アジド−2,3,5,6−テトラフルオロ安息香酸(ATFB)が挙げられる。
【0055】
上記の光活性化可能な化学物質の使用に加え、化学活性化または熱活性化についても利用可能である。
【0056】
一部の実施形態では、反応性部分は、分析対象物上に存在する相補基と共有結合を形成することによって反応性部分を分析対象物に付着させるのに使用可能な官能基を含む。共有結合を形成可能な相補基対は当該技術で周知である。一部の実施形態では、分析対象物は求核基を含み、かつ反応基は求電子基を含む。他の実施形態では、反応基は求核基を含み、かつ分析対象物は求電子基を含む。アッセイ条件において安定な共有結合を形成するのに有用な相補的な求核基および求電子基、または適切に活性化することが可能なこれらの前駆体は周知でかつ使用可能である。米国特許第6,348,596号明細書では、適切な相補的な求核基および求電子基、ならびに結果としてそれらから形成される結合の例が提供される。
【0057】
一部の実施形態では、該方法は、一又は複数の分析対象物を一又は複数の検出剤と接触させる工程を含む。検出剤は、検出されるべき分析対象物に結合するかまたはそれらと相互作用することが可能である。検出剤を目的の一又は複数の分析対象物と接触させる工程は、本明細書に記載の方法およびデバイスと互換性がある限り、当該技術において既知の任意の方法によって実施してもよい。流路を通して検出剤を輸送するための例として、流体力学的流れ、電気浸透流、または電気泳動が挙げられるがこれらに限定されない。
【0058】
検出剤は、検出されるべき分析対象物と相互作用するのに結合可能な任意の有機分子または無機分子を含んでもよい。検出剤の非限定的例として、検出されるべき分析対象物に結合可能なタンパク質、ペプチド、抗体、酵素基質、遷移状態類似体、コファクター、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、アプタマー、レクチン、小分子、リガンド、阻害剤、薬剤、および他の生体分子、ならびに非生体分子が挙げられる。
【0059】
一部の実施形態では、検出剤は、一又は複数の標識部分を含有する。2種類以上の標識部分を利用する実施形態では、各標識部分が同一であるか、または標識部分の一部もしくはすべてが異なる場合がある。
【0060】
一部の実施形態では、標識部分は化学発光標識を含む。化学発光標識は、光シグナルを生成しかつ本明細書に記載の方法およびデバイスに従うように使用可能な任意の実体を含みうる。多種多様なかかる化学発光標識は、当該技術において既知である。例えば、本明細書において参照により援用される開示である、米国特許第6,689,576号明細書、米国特許第6,395,503号明細書、米国特許第6,087,188号明細書、米国特許第6,287,767号明細書、米国特許第6,165,800号明細書、および米国特許第6,126,870号明細書を参照のこと。適切な標識には、化学発光による光子放射が誘導されるような方法で化学発光基質と反応可能な酵素が含まれる。かかる酵素は、酵素活性によって他の分子中の化学発光を誘導する。かかる酵素は、化学発光基質の利用が可能なペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、ホスファターゼ、またはその他の酵素を含みうる。一部の実施形態では、化学発光標識を、ルミノール標識、イソルミノール標識などの種々のクラスのいずれかから選択してもよい。一部の実施形態では、検出剤は化学発光標識抗体を含む。
【0061】
一部の実施形態では、検出剤は化学発光基質を含む。一旦分析対象物が流路内で固定化されると、化学発光基質をそれらの電荷に依存して流路の片端から供給することが可能である。例えば流体力学的流れまたは電気浸透流により、流路の片端から非荷電基質を供給することが可能である。Foster Cityのアプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)から入手可能なGalacton基質、イリノイ州Rockfordのピアースバイオテクノロジー(Pierce Biotechnology,Inc.)から入手可能なCaliforniaまたはSuperSignal West Femto Maximum Sensitivity基質または他の適切な基質などの化学発光基質は当該技術で周知である。
【0062】
同様に標識部分は生物発光化合物を含みうる。生物発光は、触媒タンパク質が化学発光反応の効率を高める場合の生体系で見出される化学発光の一種である。発光の有無を検出することによって生物発光化合物の有無が判定される。適切な生物発光化合物には、ルシフェリン、ルシフェラーゼおよびエクオリンが含まれるがこれらに限定されない。
【0063】
一部の実施形態では、標識部分は蛍光色素を含む。蛍光色素は、蛍光シグナルを生成しかつ本明細書に記載の方法およびデバイスに従って使用可能な任意の実体を含みうる。典型的には、蛍光色素は、第1の波長で光を吸収し、かつ吸収事象に反応して第2の波長で蛍光を発する共鳴−非局在系または芳香環系を含む。かかる多種多様な蛍光色素分子は、当該技術において既知である。例えば、蛍光化合物の種々のクラスのいずれかから蛍光色素を選択してもよく、非限定的例として、キサンテン、ローダミン、フルオレセイン、シアニン、フタロシアニン、スクアライン(squaraine)、ボディピー(bodipy)色素、クマリン、オキサジン、およびカルボピロニンが挙げられる。一部の実施形態では、例えば検出剤が蛍光色素などのフルオロフォアを含有する場合、それらの蛍光は適切な光源で励起されることによって検出され、それらの特有の蛍光発光波長に感度を示す検出器によって監視される。一部の実施形態では、検出剤は蛍光色素標識抗体を含む。
【0064】
異なる分析対象物に結合するかまたはそれらと相互作用する2種類以上の検出剤を使用する実施形態では、様々な分析対象物を同時に検出することが可能である。一部の実施形態では、一の分析対象物に結合するかまたはそれと相互作用する2種類以上の検出剤を同時に検出することが可能である。2種類以上の検出剤を使用する実施形態では、ある検出剤、例えば1°抗体は、一又は複数の分析対象物に結合するかまたはそれらと相互作用することで検出剤−分析対象物複合体を形成することが可能であり、第2の検出剤、例えば2°抗体を使用して、検出剤−分析対象物複合体に結合するかまたはそれと相互作用しうる。
【0065】
一部の実施形態では、目的のリン形態と非リン形態の両方の分析対象物に対する2種類の検出剤、例えば抗体は、目的の両方の形態の分析対象物の検出を可能にしうる。一部の実施形態では、単一の特異的な検出剤、例えば抗体は、リン酸化形態と非リン酸化形態の両方の分析対象物の検出および分析を、これらが流路内で分離されうる際に可能にしうる。一部の実施形態では、複数の検出剤を複数の基質とともに使用することで色多重化がもたらされうる。例えば、使用される異なる化学発光基質は、異なる色の光子を発するように選択されるであろう。回折格子、プリズム、一連の着色フィルタ、または他の手段の利用によって行われる異なる色の選択的検出は、流路に沿った任意の位置でどの色光子が発せられているか否かの判定や、それ故に各発光位置でどの検出剤が存在するか否かの判定を可能にする。一部の実施形態では、異なる化学発光試薬の連続的供給を可能にすることで、結合される異なる検出剤の連続的検出が可能になる。
【0066】
分析対象物の検出には、分析対象物の有無の検出、測定、および/または特徴付けが含まれる。典型的には、標識からのシグナルを検出することによって分析対象物が検出され、分析対象物は、同位体標識、免疫標識、光学色素、酵素、粒子、および化学発光標識抗体および蛍光標識抗体などのそれらの組み合わせを検出する工程を含むがこれらに限定されない。
【0067】
分析対象物を検出する工程は、本明細書に記載の方法およびデバイスと互換性がある限り、当該技術において既知の任意の方法によるものであってもよい。従来の方法および器具を用いてシグナルを監視することによって分析対象物を検出してもよく、非限定的な例として、光検出器、光検出器アレイ、電荷結合素子(CCD)アレイなどが挙げられる。例えば、シグナルをリアルタイムで継続的に監視することで、使用者は分析対象物が試料中に存在するか否か、場合によっては分析対象物の量または活性について迅速に測定することができる。一部の実施形態では、少なくとも2つの異なる時点からシグナルを測定してもよい。一部の実施形態では、継続的にまたはいくつかの選択される時点でシグナルを監視してもよい。あるいは、一定の時間経ってからシグナルが測定される終点での実施形態においてシグナルを測定してもよく、シグナルは対照シグナル(分析対象物を含まない試料)、閾値シグナル、または標準曲線に対して比較される。
【0068】
シグナルをリアルタイムで監視することで、使用者は分析対象物が試料中に存在するか否か、場合によって分析対象物の量または活性について迅速に測定することができる。一部の実施形態では、少なくとも2つの異なる時点からシグナルを測定してもよい。一部の実施形態では、シグナルを継続的にまたはいくつかの選択される時点で監視してもよい。あるいは、一定の時間経ってからシグナルが測定される終点での実施形態においてシグナルを測定してもよく、シグナルは対照シグナル(分析対象物を含まない試料)、閾値シグナル、または標準曲線に対して比較される。
【0069】
典型的には、分析対象物を検出する工程は流路を画像化する工程を含む。一部の実施形態では、流路の全長を画像化してもよい。あるいは、流路の際立った部分を画像化してもよい。生成されるシグナル量は、重要ではなく広範囲にわたって変化しうる。唯一の必要条件は、使用される検出系によってシグナルの測定が可能である点である。一部の実施形態では、シグナルはバックグラウンドよりも少なくとも2倍大きい可能性がある。一部の実施形態では、バックグラウンドよりも2〜10倍大きいシグナルが生成されうる。一部の実施形態では、シグナルはバックグラウンドよりも10倍大きい可能性がある。
【0070】
生成されるシグナル量は、重要ではなく広範囲にわたって変化しうる。唯一の必要条件は、使用される検出系によってシグナルの測定が可能である点である。一部の実施形態では、シグナルはバックグラウンドよりも少なくとも2倍大きい可能性がある。一部の実施形態では、バックグラウンドよりも2〜10倍大きいシグナルが生成されうる。一部の実施形態では、シグナルはバックグラウンドよりも10倍大きい可能性がある。
【0071】
図1a〜dは、キャピラリー内の細胞物質の分離、固定化および標識化に関する典型的な実施形態を図示する。図1aは光反応基12で裏打ちされたキャピラリー10の縦断面図である。異なる陰影によって示される、電気泳動移動度が異なる細胞タンパク質の混合物14は、キャピラリー内部の流体中に位置している。図1bでは、流体に電場を加えることで、タンパク質はそれらの等電点電気泳動(IEF)により等電点に従って14a、14bおよび14cの群に分離されている。図1cでは、適切な波長の光15を適用することで、12aで示されるように活性化され、タンパク質14をキャピラリー内でのそれらの分離位置で結合させるように光反応基が活性化される。次いで、標識を有する検出抗体16は、図1d中の矢印18によって示されるようにキャピラリーを流される。検出抗体16は、図1dに示されるように出会ったタンパク質14に結合することになる。検出抗体が化学発光標識を含有する場合、結合タンパク質は発光検出に対するそれらの結合位置で標識化される。この実施形態では、化学発光試薬の流れがキャピラリーを流され、それはタンパク質に結合した標識と出会った場合に反応しうる。タンパク質の各部位からの発光が光子検出器によって検出され、記録されることにより、結合位置から発せられる光によるタンパク質の同定が可能になる。この手法は、有利にも細胞物質の同定を可能にし、かつ細胞物質(基質)の修飾がモニターされる場合には、これらのネイティブの基質の使用が可能になり、IEFによる細胞物質の分離に先立って任意の同定物質を導入する必要がない。
【0072】
一般に、本明細書に記載の方法から、ウエスタンブロットによって得られる結果に類似する結果が得られるが、それはわずかな時間においてである。例えば、IEFによる細胞物質の分離は5分以内で可能であり、それに続く固定化は2分以内でなされる。これは、検出剤は分離の開始から10分以内で分離された試料に結合可能であることと、分離工程における30分以内で検出剤の分析が可能であることを意味する。全体的なプロセスは、ウエスタンブロット分析技術よりも迅速で、簡易で、高感度で、正確であり、かつ高度な自動化が可能である。固定化工程は、使用に先立って分子形態の均質性について検出剤(酵素標識抗体など)を評価する必要性を除き、かつこれらの種類の試薬においては通常行われない過度な精製を行う必要性を除く。したがって、本明細書に記載の方法では、費用をかけずにプローブ抗体を使用することが可能である。
【0073】
先の実施形態において示された分離技術は等電点電気泳動であるが、分析対象物を分離するのに、例えば自由溶液電気泳動、ふるい電気泳動(sieving electrophoresis)、またはミセル界面動電クロマトグラフィーも利用可能である。
【0074】
一部の実施形態では、流路内で一又は複数のタンパク質を分離する工程と、流路内で分析対象物を固定化する工程と、流路内で固定化された分析対象物を検出剤と接触させることで一又は複数の検出剤−分析対象物複合体を形成する工程と、分析対象物を検出する工程とを含む、少なくとも一の分析対象物を検出する方法が提供される。一部の実施形態では、検出剤は標識を含む。一部の実施形態では、該方法は、検出剤−分析対象物複合体を標識された検出剤と接触させる工程をさらに含む。一部の実施形態では、該方法は化学発光シグナルを検出する工程を含む。一部の実施形態では、該方法は蛍光シグナルを検出する工程を含む。
【0075】
一部の実施形態では、キャピラリー内で一又は複数のタンパク質を分離する工程と、キャピラリー内でタンパク質を光固定化する工程と、キャピラリー内で固定化されたタンパク質を抗体と接触させることで一又は複数の抗体−タンパク質複合体を形成する工程と、タンパク質を検出する工程とを含む、試料中の目的の少なくとも一のタンパク質を検出する方法が提供される。一部の実施形態では、抗体は標識を含む。一部の実施形態では、該方法は、抗体−タンパク質複合体を標識抗体と接触させる工程をさらに含む。一部の実施形態では、該方法は化学発光シグナルを検出する工程を含む。一部の実施形態では、該方法は蛍光シグナルを検出する工程を含む。
【0076】
一部の実施形態では、一又は複数の反応基、および場合によって、一又は複数の反応基を含む高分子材料または重合可能材料を含有する流路内で一又は複数の分析対象物を分離する工程と、流路内で分析対象物を固定化する工程と、検出剤を固定化された分析対象物に接触させる工程と、分析対象物を検出する工程とを含む、試料中の少なくとも一の分析対象物を検出する方法が提供される。
【0077】
図2a〜bは、キャピラリー内の高分子材料中で、分離された分析対象物を固定化する典型的な実施形態を図示する。図2aはキャピラリー10の縦断面を図示する。上パネルは、内部の表面を、閉じた楕円で表される光反応基12でコーティングしたキャピラリー10壁を示す。かかる材料の適切な非限定的例として、ベンゾフェノン部分などの光反応基を含有するポリアクリルアミドが挙げられる。図2aには、光反応基12を表す円形の末端を有する4本の腕からなる構造によって表される溶液中の高分子材料24も示される。かかる材料の適切な非限定的例として、ベンゾフェノン、ATFBなどの光反応基12を担持する分岐ポリエチレングリコールが挙げられる。さらに、斜交平行構造によって表される、分離されたタンパク質の2つのバンド14a、14bが示される。図2bは、光活性化15の後の上記の構造を示す。光反応基の活性化が両壁上の凹半円構造12aおよびキャピラリーを満たす高分子材料によって表される。多数のこれらの光反応基12aは、相互に、ポリマーの長さと、かつこれら光反応基の各々と有効に架橋し合うバンド内のタンパク質と関連している。したがって、分離されたタンパク質バンドは、ゆるやかな網目の共有結合や高分子材料を介して適所に結合される。一部の実施形態では、網目は抗体などの検出剤などの材料における、ゆるやかな網目を通る移動を可能にする開孔構造を形成することが望ましい。
【0078】
図3a〜hは、流路内で一又は複数の分析対象物を検出するための典型的な実施形態を図示する。図3aは、キャピラリー10および目的の一又は複数の分析対象物を含有する成分の混合物を含む試料1を図示する。図3bは、試料1をキャピラリー作用によってキャピラリー10内に装填する工程を図示する。図3cは、2つの流体充填されたウェルまたはトラフの20aと20bの間に延在する、一又は複数の反応性部分を含有する、試料1が装填されたキャピラリー10を図示する。図3dに図示されるように、目的の分析対象物1aまたは分析対象物1aおよび1bがキャピラリー10の片側の溶液と接触した一又は複数の電極によって分離され、かつ別の一又は複数の電極がキャピラリー10の反対側の溶液と接触するようにして試料1の成分は分離される。図3eは、キャピラリー10内で目的の分析対象物1aおよび1bを固定化可能な一又は複数の反応性部分の活性化について図示する。次いで検出剤2が、図3fおよび図3g中の矢印によって示されるようにキャピラリー10を流される。次いで検出剤2が検出され、図3h中に図示されたようにキャピラリー内で発せられたシグナルにより目的の分析対象物の固定化された位置における検出が可能になる。
【0079】
図4は、細胞物質を分析するための方法の典型的な実施形態を図示する。工程61では、分析されるべき細胞物質はキャピラリーの一端に位置付けされる。工程61aでは、細胞物質はキャピラリー内に装填される。工程62では、細胞物質は、例えばIEFによってキャピラリー内で分離される。工程63では、分離された材料はキャピラリー内で固定化される。工程64では、検出剤、例えばレポーター抗体は、キャピラリー内でタンパク質などの固定化された分析対象物に結合される。工程65では、化学発光試薬、または他の検出剤がキャピラリーを貫流することで、化学発光などの検出されるべき事象がもたらされる。次いで工程66では、発光が検出される。
【0080】
図5は、細胞を分析する方法の典型的な実施形態を図示する。工程60では、分析されるべき一又は複数の細胞はキャピラリーの端に位置付けられる。工程60aでは、一又は複数の細胞はキャピラリー内に引き込まれて溶解される。工程62では、細胞物質は、例えばIEFによってキャピラリー内で分離される。工程63では、分離された物質はキャピラリー内で固定化される。工程64では、検出剤、例えばレポーター抗体は、キャピラリー内でタンパク質などの固定化された分析対象物に結合される。工程65では、化学発光試薬、または他の検出剤がキャピラリーを貫流することで、化学発光などの検出されるべき事象がもたらされる。次いで工程66では、発光が検出される。
【0081】
図6は、細胞物質を分析するための方法の典型的な実施形態を図示する。工程61では、分析されるべき細胞物質はキャピラリーの一端に位置付けられる。工程61aでは、細胞物質はキャピラリー内に装填される。工程62では、細胞物質は、例えばIEFによってキャピラリー内で分離される。工程63では、分離された材料はキャピラリー内で固定化される。工程64では、検出剤、例えばレポーター抗体は、キャピラリー内でタンパク質などの固定化された分析対象物に結合される。工程65aでは、検出剤上のフルオロフォア、例えば蛍光標識抗体が光で励起される。次いで工程66では、発光が検出される。
【0082】
図7は、細胞を分析する典型的な実施形態を図示する。工程60では、分析されるべき一又は複数の細胞はキャピラリーの端に位置付けられる。工程60aでは、一又は複数の細胞は、キャピラリー内に引き込まれて溶解される。工程62では、細胞物質はキャピラリー内で分離され、例えばタンパク質はIEFによって分離される。工程63では、分離された材料はキャピラリー内で固定化される。工程64では、検出剤、例えばレポーター抗体は、キャピラリー内でタンパク質などの固定化された分析対象物に結合される。工程65aでは、検出剤上のフルオロフォア、例えば蛍光標識抗体が光で励起される。次いで工程66では、発光が検出される。
【0083】
図8は、標識された細胞物質がキャピラリー内に導入される瞬間に細胞から放出される場合の典型的な実施形態を図示する。次いで、細胞物質は分離されて固定化される。工程91では、検出剤を含有する一又は複数の細胞はキャピラリーの一端に位置付けられる。次いで工程92では、一又は複数の細胞は、溶解されることでそれらの標識タンパク質が放出され、キャピラリー内で輸送される。工程93では、細胞物質は、例えばIEFによってキャピラリー内で分離される。工程94では、分離された物質はキャピラリー内で固定化される。次いで工程95aでは、化学発光試薬がキャピラリーを貫流され、化学発光によって光子が生成される。次いで工程96では、放射光子が検出される。
【0084】
図9は、分離に先立って分析対象物が標識される場合の典型的な実施形態を図示する。工程101では、一又は複数の細胞はキャピラリーの一端に位置付けられる。次いで工程102では、一又は複数の細胞は、溶解されることでそれらの内容物が放出される。工程103では、検出剤が放出された細胞内容物、例えばタンパク質に結合される。工程104では、細胞物質は、例えばIEFによってキャピラリー内で分離される。工程105では、分離された標識材料は、キャピラリー内で適所に固定化される。次いで工程106では、化学発光基質がキャピラリーを貫流され、化学発光によって光子が生成される。次いで工程107では、放射光子が検出される。
【0085】
図10は、分析対象物の化学発光検出のための典型的な実施形態を図示する。工程302では、pH勾配のための両性電解質試薬が流路内に装填される。工程304では、化学発光を触媒可能でかつ目的の分析対象物に結合可能な酵素標識抗体が流路内に装填される。ステップ306では、細胞内容物は流体経路内に装填され、ここで酵素標識抗体は目的の1種もしくは複数種の分析物と結合することになる。ステップ308では、等電点電気泳動を適用することで、pH勾配内で酵素標識抗体と分析物が分離され、次いで固定化される。工程310では、酵素標識抗体と互換性がある化学発光基質が供給され、次いで工程312では、化学発光放出が化学発光基質と酵素標識抗体との相互作用から検出され、分析対象物と結合される。一部の実施形態では、分析対象物はIEFによって固定化され、かつ化学発光試薬は勾配におけるすべてのpHでそれ自体の電荷を運ぶことによって流路を貫流される。
【0086】
図11は、分析対象物の化学発光検出のための典型的な実施形態を図示する。この実施形態では、工程402において細胞がキャピラリー内またはキャピラリーの注入口で溶解される。工程404では、溶解により、検出剤、例えば化学発光標識抗体と反応する細胞内容物が放出される。工程406では、標識されかつ結合された細胞内容物は、等電点電気泳動によってキャピラリー内で分離される。工程408では、細胞内容物に結合した抗体の酵素と反応することになる化学発光試薬が供給される。この実施形態では、分析対象物はIEFによって固定化され、化学発光試薬は勾配におけるすべてのpHでそれ自体の電荷を運ぶことによって流路を貫流される。工程410では、光細胞またはCCDアレイ検出器などの光子検出器を用いて化学発光が検出される。
【0087】
当業者であれば本明細書に記載の方法の諸工程の順序を容易に変更するであろう。例えば、分析対象物と検出剤の接触に先立ち、試料を分離し、次いで分析対象物を流路内でのその分離位置で固定化してもよい。一部の実施形態では、検出剤を分析対象物と接触させることで複合体が形成され、次いで複合体が流路内で分離される。一部の実施形態では、検出剤を、後に系内に装填される試料中に予備装填してもよいであろう。別の例として、化学発光試薬の供給後、等電点電気泳動などの分離工程を適用してもよい。
【0088】
本明細書では、試料からの一又は複数のタンパク質がキャピラリー内で分離され、タンパク質がキャピラリー内で光固定化され、抗体がタンパク質または抗体−タンパク質複合体に結合するかまたはそれらと相互作用する該キャピラリーを通って輸送され、かつ該キャピラリー内で固定化される間にタンパク質の検出を可能にすることを特徴とする、試料中の少なくとも一のタンパク質を検出する方法も提供される。
【0089】
さらに本明細書では、流路内で一又は複数の分析対象物を濃縮する工程と、流路内で一又は複数の分析対象物を固定化する工程と、固定化された分析対象物を検出剤と接触させる工程と、目的の分析対象物を検出する工程とを含む、試料中の少なくとも一のタンパク質を検出する方法も提供される。
【0090】
本明細書で用いられる如く、濃縮する工程は希釈を低下させることを意味する。試料を濃縮する方法は当業者にとっては周知であり、様々な種類の電気泳動や等電点電気泳動などを含みうるがこれらに限定されない。
【0091】
流路内で一又は複数のタンパク質を濃縮する工程と、流路内でタンパク質を固定化する工程と、固定化されたタンパク質を抗体と接触させることにより流路内で一又は複数の抗体−タンパク質複合体を形成する工程と、タンパク質を検出する工程とを含む、試料中の少なくとも一のタンパク質を検出する方法も提供される。
【0092】
デバイス
本明細書では、試料中の一又は複数の分析対象物を検出するためのシステムおよびデバイスが提供される。デバイスは、一般に流路と;流路内で試料の個々の成分を分離するために流路に沿って電圧を加えるための電源と;流路内で分析対象物を検出可能な検出器とを含む。
【0093】
一又は複数の分析対象物を固定化可能な一又は複数の反応基を含む流路と、流路内で一又は複数の分析対象物を分離可能な流路に沿って電圧を加えるための電源と;該流路内で分析対象物を検出可能な検出器とを含む、試料中の目的の少なくとも一の分析対象物を検出するためのシステムも提供される。
【0094】
一又は複数の分析対象物を固定化可能な一又は複数の反応基を含む流路と、流路内で一又は複数の分析対象物を濃縮可能な流路に沿って電圧を加えるための電源と;該流路内で分析対象物を検出可能な検出器とを含む、試料中の目的の少なくとも一の分析対象物を検出するためのシステムも提供される。
【0095】
図12aは、流路が、複数の流体充填されたウェルと電極の間のキャピラリーを含む場合の典型的な実施形態を示す。一又は複数の反応性部分を含有するキャピラリー10は、2つの流体充填されたウェルまたはトラフ20aと20bの間に延在する。試料はトラフの一方に、好ましくはキャピラリーのオリフィスに配置される。例えば、試料はキャピラリー内に装填されている細胞内容物でありうる。一部の実施形態では、一又は複数の細胞はキャピラリー内に引き込まれ、in situで溶解される。一部の実施形態では、一又は複数の細胞は、ウェル、トラフまたはキャピラリー開口部内に引き込まれ、溶解されることで細胞内容物が放出されうる。次いで、試料は電気泳動によってキャピラリーを流され、例えば等電点電気泳動によってキャピラリー内で分離される。電極22a、22bはキャピラリーの各端で溶液中に位置付けられることで、電気泳動および等電点電気泳動に必要な電場が加えられる。目的の分析対象物を標識するのに使用される検出剤を、好ましくは分離および固定化が起こった後で、他方のトラフ内に配置し、電気泳動、電気浸透流、または流体力学的流れ(典型的にはサイフォン式もしくはポンプ式で行われる)によってキャピラリーを貫流させてもよい。一部の実施形態では、検出剤を、試験管などの容器からキャピラリー内に装填してもよい。次いで検出剤をトラフの一方に導入し、キャピラリーを貫流させることで検出事象が誘発される。
【0096】
図12bは、片側の複数のウェル32aおよび反対側の別の複数のウェル32bの間に延在するキャピラリーアレイ30を含む典型的な実施形態を図示する。一部の実施形態では、キャピラリーアレイは片側のトラフと反対側の別のトラフの間に延在可能である。一部の実施形態では、キャピラリーアレイは、片側の共通の緩衝液容器と反対側の別の共通の緩衝液容器の間に延在可能である。一又は複数の電極34aはキャピラリーの片側の溶液と接触し、かつ別の一又は複数の電極34bはキャピラリーの反対側の溶液と接触している。電極の一部は容器構造にとって不可欠でありうる。容器およびキャピラリーは、スライドなどの基板36の上または中に位置付けられる。
【0097】
図13は典型的な実施形態であり、キャピラリー122内での抗体−分析対象物複合体の分離および検出がキャピラリー切片の縦断面図中に図示される。抗体−分析対象物複合体160がキャピラリー122に沿って各位置に位置付けられる。各抗体−分析対象物複合体160は正味電荷164を有し、それは複合体が移動することになる中性電荷位置162bを決定する。各複合体は、両性電解質試薬の等電点電気泳動によって生成されるそのpH勾配内の中性電荷位置162a、162b、162cに位置付けられる。加えられる電位電圧は、分析対象物を図面中に図示されるこれらの等電位置での狭バンド内に集束させる。化学発光基質170は、電気泳動の流れ方向172に移動してキャピラリーを通過する。化学発光基質170が、等電点電気泳動された、ペルオキシダーゼ酵素が結合した抗体−タンパク質複合体などの標識抗体−分析対象物複合体160に出会うと、化学発光基質は光を伴う生成物に変換される。基質170aは、変換された化学発光基質を表す。変換によって基質170aによる発光180が生じる。かかる変換から生じる基質生成物170bは、矢印172の方向に流れ続ける。変換されていない化学発光基質170がキャピラリーを流れ続け反応相手の新たな化学発光酵素と出会う限り、この過程は継続する。
【0098】
図14は典型的な分析デバイスを図示する。必要な一又は複数の反応性部分が装填されることで分析対象物、緩衝液、および分析されるべき試料を固定化するキャピラリーアレイ40が光密閉箱42内に位置付けられる。制御可能な電源46をキャピラリーの片側の電極に連結させることで、試料を分離しかつ検出剤および/または化学発光試薬をキャピラリーに貫流させるのに必要な電圧が加えられる。電圧を加えることで、試料がキャピラリー内を流れ、例えば等電点電気泳動によって試料が分離される。あるいは、試料は流体力学的流れによってキャピラリー内に装填され、その後に例えば等電点電気泳動によって分離されうる。反応性部分を活性化できるエネルギー源(図示せず)が提供される。例えば、紫外線ランプなどの光源が箱内部に照明をもたらすことで試料の個々の成分がそれらの分離位置で固定化される。一部の実施形態では、システムは蛍光標識の誘導用光源を含む。例えば本明細書に記載される一又は複数の検出剤は、キャピラリーの一端でウェル内に導入され、キャピラリーを貫流され、分析対象物に結合する。一部の実施形態では、検出試薬はウェル内に導入され、キャピラリーを貫流される。一部の実施形態では、検出剤は別々のより小型のウェルから導入されうる。追加的により小型のウェルを使用することにより、検出剤の保護が可能である。固定化された分析対象物および検出分子から発せられた光子を受信する箱42内部でキャピラリーを映すのはCCDカメラ44である。電源46および照明をスイッチングし、検出分子および試薬の適用を制御し、CCDカメラ44によって受信される光子シグナルを記録しかつ分析するコンピュータ48によってシステムは制御される。同様に、分離の際に流される分子標準の蛍光を誘導するための光源は、化学発光で発生する光を検出するのに使用されるものと同一のCCDカメラによる検出を可能にしうる。内部標準は、等電点に関し、または別の分離モード、分子量に対して分離を調整するのに役立つ。IEFのための内部標準は当該技術分野で周知である。例えば、シムラ,K.(Shimura,K.)、カミヤ,K.(Kamiya,K.)、マツモト,H.(Matsumoto,H.)およびK.カサイ(K.Kasai)(2002年) 「Fluorescence−Labeled Peptide pI Markers for Capillary Isoelectric Focusing」、Analytical Chemistry 第74巻:1046−1053頁、ならびに米国特許第5,866,683号明細書を参照のこと。蛍光によって検出されるべき標準は、化学発光の前後のいずれかにおいて励起可能であろうが、一般に化学発光と同時には行われない。
【0099】
一部の実施形態では、分析対象物および標準が蛍光によって検出される。分析対象物および標準を別々に検出可能であるように、別々の発光波長で検出可能な各蛍光色素によって分析対象物および標準をそれぞれ標識してもよい。
【0100】
図15は、検出分子からの放射光子がキャピラリーアレイ40の直下に位置するCCDアレイによって受信される場合の典型的な実施形態である。CCDアレイ52は、増幅された受信シグナルをコンピュータ48に提供するCCDコントローラ54によって監視される。
【0101】
図16は、化学発光による細胞物質のキャピラリー検出のための分析デバイスに関する典型的な実施形態を図示する。システム110は、CRTスクリーン上に表示されかつ/またはビデオテープレコーダーまたはデジタルレコーダー(図示せず)によって記録されるCCDカメラなどのビデオ接限レンズの読み出し114を有する顕微鏡112を含む。一部の実施形態では、システムは、自動化された細胞処理および分析においてコンピュータシステム内の画像のデジタル保存およびパターン処理を可能にする。CCDビデオカメラシステム114は、標的細胞のリアルタイム明視野画像を記録することが可能である。デバイスは、場合によってカバースリップ36上の標的細胞に隣接して位置付けられるレーザー、超音波発生器、電子パルス発生器、または電極などの細胞溶解デバイス16を含みうる。図示された実施形態では、細胞溶解後に、細胞内容物が流体力学的流れまたは電気泳動によってキャピラリー端に充填される。一部の実施形態では、このキャピラリー端は細胞溶解時に標識抗体の短い(数mm以下)スラグが既に充填されている。その後、ハイブリダイゼーション期間を経てから、必要であれば例えば等電点電気泳動による分離が開始される。
【0102】
溶融シリカ製キャピラリー122は、その注入口126が顕微鏡ステージ130上に位置するカバースリップ136またはスライドまたはマイクロウェルプレートの上に位置するように、マイクロマニピュレーター(図示せず)とともに位置付けられる。細胞を囲みカバースリップまたは類似の容器の上にある緩衝溶液は高電圧電位とカップリングされる。ハイブリダイゼーションは溶解に先立て細胞を検出剤とともに装填することによって行ってもよいし、または溶解後に緩衝溶液中でハイブリダイゼーションさせても良い。後者の事象では、高濃度の検出剤が細胞を取り囲むかまたはそれに隣接して位置付けられる。所望の高濃度の細胞内容物と高濃度の検出剤との接触を実現するための一方法は、流体力学的手段または電気泳動手段によって細胞内容物をキャピラリー端に隣接する短い領域に引き込むことである。このモードでは、このキャピラリーの短い領域に、チューブもしくはウェル(図示せず)などの別の供給源からの検出剤を予備装填するか、またはそれを細胞内容物とともにキャピラリー端に引き込んでもよい。キャピラリー122の遠位端132または近位端126は、化学発光基質の溶液134中に配置される。一部の実施形態では、検出剤の添加に先立ち目的の一又は複数の分析対象物を分離する工程と固定化する工程を行ってもよい。次いで試料の分離および固定化の後、検出剤が流路を流される。
【0103】
両性電解質試薬142は、キャピラリー溶液に適用される場合、両性電解質の移動によってキャピラリー22内でpH勾配の発生をもたらす高電圧電位と電気的に結合される。20,000ボルトの電圧を供給可能なPlainview、ニューヨーク州のスペルマン(Spellman)製モデルCZE 1000Rなどの高電圧電源を使用することで、カラムまたはキャピラリー122内のpH勾配を維持することが可能である。
【0104】
溶融シリカ製キャピラリー122は、典型的には100ミクロンの内径および360ミクロンの外径を示しうる。Phoenix、アリゾナ州のスペルコ(Supelco)製などの中性コーティングを用いて内腔壁をコーティングしてもよい。コーティングを使用することで電気浸透流が最小になることから抗体−標的複合体の移動時間が短縮される。この実施形態におけるキャピラリーの全長は90〜100cm程度に長くてもよいが、好ましくは、かなり短い10〜30cmまたは3〜6cmの範囲である。細胞チャンバ136は、標的細胞分子、場合によって両性電解質試薬および化学発光試薬のための注入容器として機能し、キャピラリーの他端での高電圧電位に対する接地電位で保持されうる。一部の実施形態では、キャピラリーの一端が高電圧電位であってもう一端が接地電位であるか、あるいは一端が正極であってもう一端が負極でありうる。例えば、出口容器134はキャピラリーの近位端の接地電位に対して15〜20kVで維持されうる。実用上の電位は、一般にキャピラリーにおける1cm当たりの所望の電圧降下によって選択される。流体力学的な装填の場合には、キャピラリー122の遠位出口132は注入口126の約5センチメートル下方に設けられる。それと同程度かより有効でありうる電気泳動的な装填の場合には、キャピラリーの遠位端を特に上昇させる必要はない。キャピラリー122の注入口126は、細胞溶解後に細胞内容物をキャピラリー122内に導入するためのマイクロピペットとして使用される。あるいは、細胞はキャピラリー内に無傷で引き込まれ、次いでキャピラリー内で溶解されうる。
【0105】
注入口126の上方でキャピラリー122からポリイミドコーティングを5mm分除去した後、注入口126はマイクロマニピュレーター(図示せず)によってカバースリップ136に垂直に取り付けられる。マイクロマニピュレーターは、キャピラリー122内に装填されるかまたは溶解されかつ装填される標的細胞に対するキャピラリー内腔の正確な位置決めを可能にする。
【0106】
キャピラリー122は光学観察窓138を含み、それを通して化学発光事象または蛍光事象が観察され、CCDアレイ140もしくは類似の検出器によって検出される。延在された観察窓138は、長さが限定された短めの窓を通して観察される場合よりも多数の事象の同時検出が可能であることから理想的である。一般に、観察窓の長さは、使用されるCCDアレイ140の長さを考慮して選択されることになる。不透明なコーティングが施されたキャピラリーが使用される場合、キャピラリー122のポリイミドコーティングは少なくともCCDアレイ140に対向するキャピラリー長にわたって除去される。観察窓138は、機械的手段または接着手段によってCCDアレイ140と関連する定位置で維持される。好ましくは、CCDアレイによって検出される唯一の光がキャピラリー内での化学発光または蛍光事象による発光であるように、観察窓およびCCDアレイは暗所に入れられる。検出された化学発光事象または蛍光事象からのシグナルは、それらが記録されるパーソナルコンピュータ144と結合される。一部の実施形態では、事象データは事象が生じるCCDアレイ内の位置とともに記録されうる。データはプロットされ、各集束バンドに対応する全シグナルは、マサチューセッツ州、North Hampton、のマイクロカル(Microcal)から入手可能なオリジン(Origin)ソフトウェアや、オランダ、Eindhovenのヴァン・ミールロ(Van Mierlo,Inc.)から入手可能なダックス(DAX)ソフトウェア、ナショナルインスツルメンツ(National Instruments Corp.)、Austin、テキサス州から入手可能なLabVIEWソフトウェアまたは類似のデータ解析パッケージを用いて計算される。データは、ヒストグラム、電気泳動図、または他のグラフ表示として、あるいはスプレッドシートまたは他の数値形式として示される場合がある。
【0107】
一部の実施形態、検出剤で予備装填されていない1個もしくは複数の細胞では、キャピラリー122の注入口126は、溶解されるべき1個もしくは複数の標的細胞の直上に配置される。1個もしくは複数の細胞は高濃度の検出剤と接触可能であるか、または好ましくは高濃度の検出剤が細胞溶解時にキャピラリー端に既に装填されている。溶解デバイス116は、溶解性の衝撃波または1個もしくは複数の細胞に隣接した他の細胞に対する溶解崩壊をもたらすことを目的とする。溶解パルスが適用される場合、細胞内容物が放出され、流体力学的流れ、電気泳動、または電気浸透流により、溶解事象の力は細胞内容物のキャピラリー内腔への移動を促進しうる。細胞内容物の装填に先立ってキャピラリーの外部で、またはキャピラリーの内部で、目的の分析対象物および検出剤のハイブリダイゼーションが迅速に行われる。ハイブリダイゼーション度は、検出剤および試料の濃度に対して直線性を示すであろう。例えば、結合性の高い(高結合親和性)抗体は、キャピラリー輸送および等電点電気泳動の間にその連結特性を保持する分子をもたらす。かかる抗体の例として、典型的にはELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)において使用されるものが挙げられる。好ましくは非変性条件下でハイブリダイゼーションが行われる。抗体およびそれらの分析対象物に対して自然状態を生じさせることにより、抗体とこれらの標的複合体および化学発光レポーターの間の認識が促進される。等電点電気泳動の場が適用されることで、正味電荷が中性である、キャピラリー内のpH勾配のpH点への抗体−標的複合体の移動がもたらされる。複合体は、それらの分子成分(例えば、リン、カルボキシル、アミノ、および他の帯電した官能基)の電荷がようやくゼロを得るpH点においてキャピラリー内で固定化することになる。もし流れまたは拡散からの力が原因で複合体がそれらの個々の等電点から流出する場合、勾配場が複合体をそれらの中性電荷位置に戻るように移動させることになる。それ故、抗体−標的複合体はキャピラリー等電点電気泳動によって観察窓138に沿って分離される。一部の実施形態では、検出剤の添加に先立ち、目的の一又は複数の分析対象物の分離および固定化を行ってもよい。次いで検出剤は、試料の分離および固定化の後に流路を貫流される。
【0108】
次いで電気泳動電位を利用することで、化学発光基質溶液134のキャピラリー内の貫流がもたらされる。これはpH勾配を確定するのに最初に加えられる電場と同時に、または勾配が既に確定されかつ抗体−標的複合体が集束された後に開始されうる。一又は複数の基質がキャピラリー内で会合するすべてのpH条件で正味電荷を示すように選択されることで、基質はキャピラリー内で分離しないばかりか連続的流れの中で流れ続ける。基質がキャピラリー沿いで抗体−標的複合体に会合する際、複合体の抗体のレポーター酵素によって開裂されることで光子の放出が引き起こされる。したがって、化学発光基質流れがキャピラリーを連続的に貫流するにつれ、分離された抗体−標的複合体は光子を発生し続けることになる。あるいは、励起光源を使用することで蛍光検出が実現されうる。化学発光が用いられる実施形態では、化学発光基質流れが促進される限り発光は連続的であり、蛍光をベースとするシステムにおける逸脱した励起光に付随するノイズが回避される。
【0109】
光子放射事象が隣接するCCDアレイ140によって検出され、検出された事象がコンピュータによって蓄積される。選択された期間にわたる検出および蓄積の継続が可能であることで、極めて少量の標的細胞分子の高感度検出を目的に長い検出期間の利用が可能になる。単一の標識抗体のみが使用される場合、蓄積された事象数は、溶解物の調製に使用される1個もしくは複数の細胞内の分析対象物の量の尺度になる。異なる細胞タンパク質または分子の量を測定するのに、異なる等電点で異なる抗体−標的複合体を生成する異なる抗体を利用してもよい。光子事象数および(キャピラリーの勾配場に沿った集束バンドまたは等電点に対応する)事象が検出されるCCDアレイに沿った位置を記録することにより、標識が異なる分析対象物から発せられる光子事象を細分化してもよい。スループットを増大させるために、単一の器具に組み込まれた一又は複数のCCDアレイを通過する複数の平行なキャピラリーまたはチャネルを作動させてもよい。別の実施形態では、スペクトル的に分解可能なシグナルを有する異なる蛍光色素で標識された複数の抗体を使用することで、単一のキャピラリー内での異なるタンパク質の多重分析が可能になる。
【0110】
必要に応じ、蛍光体を励起光に暴露することにより、化学発光シグナルが収集された前後に同検出器を使用して蛍光標準を別々に読み取ってもよい。すべての蛍光系においては、励起可能な色素と検出可能な色素を区別して使用することによって分析対象物と標準とを識別してもよい。
【0111】
CCDアレイはアレイに沿って生じる光子事象を同時に検出する能力を有することから好ましいが、所定の実施形態ではより限定的な検出技術が許容可能であることが理解されている。例えば、単一の光子センサを観察窓138に沿って掃引するかまたは移動させることで、化学発光事象または蛍光光子事象が検出されうる。しかし、センサをキャピラリーの異なる点に向けるかまたは位置付ける場合、このアプローチはキャピラリーの1点での事象を見逃す可能性がある。さらに、CCDアレイなどの拡張した検出デバイスの使用により、集光窓をベースとする検出器のいくつかの欠点が除かれる。一般に入手可能な窓位置が固定されたキャピラリー電気泳動機器用に設計された市販のキャピラリーIEF分離システムで共通に見られるように、もし等電点の勾配が検出用の単一の窓を通過して移動される場合、キャピラリー内で層流によって分離が悪化する可能性があり、それならば光子源が観察窓内にある限られた時間に起因して化学発光または蛍光感受性が低下するであろう。
【0112】
キット
該方法を実行しかつ本教示内容に関するシステムおよびデバイスとともに使用するためのキットについても提供される。本発明で使用される材料には、流路、キャピラリー、緩衝液、検出剤、一又は複数の反応性部分、一又は複数の反応性部分を含有する高分子または重合可能材料;化学発光基質、ブロッキング溶液、および洗浄溶液が含まれるがこれらに限定されない。一部の実施形態では、キットは、固定化物質、両性電解質、および一又は複数の反応性部分をさらに含みうる。一部の実施形態では、キットは、反応性部分の活性化のための化学物質をさらに含有しうる。これらの他の成分は、互いに別々に提供されるか、または乾燥形態もしくは液体形態で共混合されうる。
【実施例】
【0113】
決して本教示内容の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない以下の実施例を考慮すると本教示内容の態様がさらに理解されうる。
【0114】
実施例1 グリーン蛍光タンパク質(GFP)の蛍光検出
分析のためのGFP試料の調製:微量遠心管内で、DI水40μL、1mg/mlのGFP1μL(部品番号632373、ベクトン・ディッキンソン(Beckton−Dickinson)、San Jose、カリフォルニア州、米国)、bioPLUS pI4〜7(バイオ・ワールド(Bio−World)、Dublin、オハイオ州)5μL、およびATFB−PEG架橋剤(2mM)2μLを結合した。ATFB−PEG架橋剤は、各分岐端をATFB(4−アジド−2,3,5,6−テトラフルオロ安息香酸)の官能性(製品番号A−2252、インビトロジェン(Invitrogen Corporation)、Carlsbad、カリフォルニア州)によって誘導体化した15,000MWの分岐ポリエチレングリコール(製品番号P4AM−15、サンバイオ(SunBio)、Anyang City、韓国)からなる。
【0115】
キャピラリーの調製:100μI.D.×375μO.D.のビニルコーティングした内部を有するテフロン(登録商標)コーティングした溶融シリカキャピラリー(製品番号0100CEL−01、ポリミクロ・テクノロジーズ(Polymicro Technologies)、Phoenix、アリゾナ州)の内面上に、1モル分率のベンゾフェノンを含有するポリアクリルアミドを表面移植した。このキャピラリー材料の切片4cmをより長い所から切断し、下記の如く使用した。
【0116】
キャピラリー内部への試料の装填:図3bに図示の如く空のキャピラリーの先端を試料に接触させることにより、上で調製した試料を上記の如く調製したキャピラリーの切片内に装填した。キャピラリー作用は5秒未満でキャピラリーを完全に満たすほど十分であった。
【0117】
等電点電気泳動(IEF)による分離:上記の如く装填したキャピラリーを、図12bに図示の如くキャピラリーホルダ内に取り付けた。電極およびキャピラリーに接触するように、20mMのNaOH溶液をカソード端内に配置し、10mMのHPO溶液をホルダのアノード端内に配置した。次いで、300Vの電位を900秒間与えることで、この時間の最初の数分以内に行われることが多い等電点電気泳動を促進した。GFPを4〜7pI勾配内で分離させた。
【0118】
紫外光による固定化:電気泳動期間後、キャピラリーから5インチ(12.7cm)の距離で1800ワットのF300Sランプ(フュージョン・システムズ(Fusion Systems,Inc.)、Gaithersburg、メリーランド州)を使用し、キャピラリーにUV光を30秒間照射することで光架橋を起こした。
【0119】
洗浄、ブロッキングおよびプロービング工程:上記の如く固定化した後、キャピラリーをキャピラリーホルダから取り外し、各キャピラリーのアノード端を、10mMのトリス−HCl、150mMのNaCl、0.05%のTween20、pH6.8からなるTBST溶液と接触するように配置した。5mmHg以上の真空源を各キャピラリーのカソード端に適用し、TBST溶液を各キャピラリーに5分間引き通した。同じ5mmHg以上の真空源およびキャピラリーオリエンテーション(capillary orientation)を使用し、TBST中の5%粉末スキムミルク溶液(w/v)を各キャピラリーに20分間引き通した。次いで、同真空源を2分間適用した後、真空をオフにした状態で10分間インキュベートすることで、蛍光色素で標識した一次抗体溶液(Alexa−555で標識したウサギ抗−GFPを1:1000希釈、部品番号A−31851、モレキュラー・プローブ(Molecular Probes)、Eugene、オレゴン州、米国、TBST中の5%ミルク中)を各キャピラリーに導入した。この抗体の適用手順を全部で5回繰り返した。次いで、同アプローチを用い、キャピラリーをTBST中の5%ミルク溶液で20分間洗い流した。最後に、キャピラリーをTBSTで5分間、次いでTBS(10mMのトリス−HCl、150mMのNaCl)で2分間洗い流した。
【0120】
蛍光による検出:蛍光検出のために、532nmの励起および575nmの発光検出を備えたMolecular Dynamics Avalanche(商標)スキャナーを用いてキャピラリーを読み取った。図17にキャピラリーの長さに沿った相対蛍光単位を画素数として示す。CCDやキャピラリーに対する相対位置が異なることから、図17〜22中の画素数の目盛りは異なっている。
【0121】
実施例2:GFPの化学発光検出
分析のためのGFP試料の調製:微量遠心管内で、DI水40μL、1mg/mlのGFP1μL(部品番号632373、BDバイオサイエンス(BD Biosciences)、San Jose、カリフォルニア州、米国)、bioPLUS pI4〜7(バイオ・ワールド(Bio−World)、Dublin、オハイオ州)5μL、およびATFB−PEG架橋剤(2mM)2μLを結合した。ATFB−PEG架橋剤は、各分岐端をATFB(4−アジド−2,3,5,6−テトラフルオロ安息香酸)の官能性(製品番号A−2252、インビトロジェン(Invitrogen Corporation)、Carlsbad、カリフォルニア州)によって誘導体化した15,000MWの分岐ポリエチレングリコール(製品番号P4AM−15、サンバイオ(SunBio)、Anyang City、韓国)からなる。
【0122】
キャピラリーの調製:100μI.D.×375μO.D.のビニルコーティングした内部を有するテフロンコーティングした溶融シリカキャピラリー(製品番号0100CEL−01、ポリミクロ・テクノロジーズ(Polymicro Technologies)、Phoenix、アリゾナ州)の内面上に、1モル分率のベンゾフェノンを含有するポリアクリルアミドを表面移植した。このキャピラリー材料の切片4cmをより長い所から切断し、下記の如く使用した。
【0123】
キャピラリー内への試料の装填:図3bに図示の如く空のキャピラリーの先端を試料に接触させることにより、上で調製した試料を上記の如く調製したキャピラリーの切片内に装填した。キャピラリー作用は5秒未満でキャピラリーを完全に満たすほど十分であった。
【0124】
等電点電気泳動(IEF)による分離:上記の如く装填したキャピラリーを、図12bに図示の如くキャピラリーホルダ内に取り付けた。電極およびキャピラリーに接触するように、20mMのNaOH溶液をカソード端内に配置し、10mMのHPO溶液をホルダのアノード端内に配置した。次いで、300Vの電位を900秒間与えることで、この時間の最初の数分以内に行われることが多い等電点電気泳動を促進した。GFPを4〜7pI勾配内で分離させた。
【0125】
紫外光による固定化:電気泳動期間後、キャピラリーから5インチ(12.7cm)の距離で1800ワットのF300Sランプ(フュージョン・システムズ(Fusion Systems,Inc.)、Gaithersburg、メリーランド州)を使用し、キャピラリーにUV光を30秒間照射することで光架橋を起こした。
【0126】
洗浄、ブロッキングおよびプロービング工程:上記の如く固定化した後、キャピラリーをキャピラリーホルダから取り外し、各キャピラリーのアノード端を、10mMのトリス−HCl、150mMのNaCl、0.05%のTween20、pH6.8からなるTBST溶液と接触するように配置した。5mmHg以上の真空源を各キャピラリーのカソード端に適用し、TBST溶液を各キャピラリーに5分間引き通した。同じ5mmHg以上の真空源およびキャピラリーオリエンテーションを使用して、TBST中の5%粉末スキムミルク溶液(w/v)を各キャピラリーに20分間引き通した。次いで、同真空源を2分間適用した後、真空をオフにした状態で10分間インキュベートすることで、一次抗体溶液(ウサギ抗−GFPを1:1000希釈、部品番号A−11122、モレキュラー・プローブ(Molecular Probes)、Eugene、オレゴン州、米国、TBST中の5%ミルク中)を各キャピラリーに導入した。この抗体の適用手順を全部で5回繰り返した。次いで、同アプローチを用い、キャピラリーをTBST中の5%ミルク溶液で20分間洗い流した。次いで、再び真空をオンにした状態で抗体溶液を2分間流した後、真空をオフにした状態で10分間インキュベートすることにより、二次(2°)抗体溶液を適用し(TBST中の5%ミルク中で抗−ウサギHRPを1:10,000、Cat#81−6120、ザイメッド(Zymed)、South San Francisco、カリフォルニア州)、これを全部で5回繰り返した。次いで、再びキャピラリーをTBST中の5%ミルク溶液で20分間洗い流した。最後に、キャピラリーをTBSTで5分間、次いでTBS(10mMのトリス−HCl、150mMのNaCl)で2分間洗い流した。
【0127】
化学発光による検出:化学発光検出のため、SuperSignal West Femto Stable Peroxide Buffer(Cat#1859023、ピアース(Pierce)、Rockford、イリノイ州)とルミノール/エンハンサー溶液(Cat#1859022、ピアース(Pierce)、Rockford、イリノイ州)の等量混合物をキャピラリーに供給し、5mmHgの真空下で貫流させた。2005年4月9に出願された米国特許出願第60/669,694号明細書でのセル・バイオサイエンス(Cell Biosciences)製の試作品の化学発光検出モジュールでは、化学発光シグナルがCCDカメラを使用して60秒かけて収集された。図18にキャピラリーの長さに沿った相対発光シグナルを画素数として示す。
【0128】
実施例3:ウマミオグロビンの蛍光検出
タンパク質試料の調製:**緩衝液中で20μg/mlで調製し、使用するまで4℃で保存するかまたは長期保存のために−70℃で凍結させた。
【0129】
分析のための試料の調製:微量遠心管内で、DI水40μL、4mg/mlの精製したウマミオグロビン(部品番号M−9267、シグマアルドリッチ(Sigma−Aldrich)、St.Louis、ミズーリ州、米国)ミオグロビン溶液2μL、ファルマライト(Pharmalyte)両性電解質pI3〜10(シグマ(Sigma)、St.Louis)5μL、およびATFB−PEG架橋剤(2mM)2μLを結合した。ATFB−PEG架橋剤は、各分岐端をATFB(4−アジド−2,3,5,6−テトラフルオロ安息香酸)の官能性(製品番号A−2252、インビトロジェン(Invitrogen Corporation)、Carlsbad、カリフォルニア州)によって誘導体化した15,000MWの分岐ポリエチレングリコール(製品番号P4AM−15、サンバイオ(SunBio)、Anyang City、韓国)からなる。
【0130】
キャピラリーの調製:100μI.D.×375μO.D.のビニルコーティングした内部を有するテフロンコーティングした溶融シリカキャピラリー(製品番号0100CEL−01、ポリミクロ・テクノロジーズ(Polymicro Technologies)、Phoenix、アリゾナ州)の内面上に、1モル分率のベンゾフェノンを含有するポリアクリルアミドを表面移植した。このキャピラリー材料の切片4cmをより長い所から切断し、下記の如く使用した。
【0131】
キャピラリー内部への試料の装填:図3bに図示の如く空のキャピラリーの先端を試料に接触させることにより、上で調製した試料を上記の如く調製したキャピラリーの切片内に装填した。キャピラリー作用は5秒未満でキャピラリーを完全に満たすほど十分であった。
【0132】
等電点電気泳動(IEF)による分離:上記の如く装填したキャピラリーを、図12bに図示の如くキャピラリーホルダ内に取り付けた。電極およびキャピラリーに接触するように、20mMのNaOH溶液をカソード端内に配置し、10mMのHPO溶液をホルダのアノード端内に配置した。次いで、300Vの電位を900秒間与えることで、この時間の最初の数分以内に行われることが多い等電点電気泳動を促進した。ウマミオグロビンを3〜10pI勾配内で分離させた。
【0133】
紫外光による固定化:電気泳動期間後、キャピラリーから5インチ(12.7cm)の距離で1800ワットのF300Sランプ(フュージョン・システムズ(Fusion Systems,Inc.)、Gaithersburg、メリーランド州)を使用し、キャピラリーにUV光を30秒間照射することで光架橋を起こした。
【0134】
洗浄、ブロッキングおよびプロービング工程:上記の如く固定化した後、キャピラリーをキャピラリーホルダから取り外し、各キャピラリーのアノード端を、10mMのトリス−HCl、150mMのNaCl、0.05%のTween20、pH6.8からなるTBST溶液と接触するように配置した。5mmHg以上の真空源を各キャピラリーのカソード端に適用し、TBST溶液を各キャピラリーに5分間引き通した。同じ5mmHg以上の真空源およびキャピラリーオリエンテーションを使用し、TBST中の5%粉末スキムミルク溶液(w/v)を各キャピラリーに20分間引き通した。Alexa−647色素(部品番号A20006、モレキュラー・プローブ(Molecular Probes)、Eugene、オレゴン州)とのNHSエステルカップリング化学反応により、ヤギ抗−ウマミオグロビン一次抗体(部品番号A150−103A、ベチル・ラボラトリーズ(Bethyl Labs)、Montgomery、テキサス州)の蛍光標識を行った。次いで、同真空源を2分間適用した後、真空をオフにした状態で10分間インキュベートすることで、一次抗体溶液(Alexa−647で標識したヤギ抗−ウマミオグロビンを1:50希釈、TBST中の5%ミルク中)を各キャピラリーに導入した。この抗体の適用手順を全部で5回繰り返した。次いで、同アプローチを用い、キャピラリーをTBST中の5%ミルク溶液で20分間洗い流した。最後に、キャピラリーをTBSTで5分間、次いでTBS(10mMのトリス−HCl、150mMのNaCl)で2分間洗い流した。
【0135】
蛍光による検出:蛍光検出のために、633nmの励起および675nmの発光検出を備えたMolecular Dynamics Avalanche(商標)スキャナーを用いてキャピラリーを読み取った。図19にキャピラリーの長さに沿った相対蛍光単位を画素数として示す。
【0136】
実施例4:LNCaP細胞溶解液試料由来のAktタンパク質の化学発光検出:
細胞溶解液の調製:4℃のHNTG溶解緩衝液(20mM HEPES pH7.5、150mMのNaCl、0.1%のTriton−X 100、10%グリセリン)1ml中にLNCaP細胞(ヒト前立腺癌細胞系)1×10個を溶解することにより、分析用の細胞溶解液を調製した。4℃で15分間、11,000gでの遠心分離によって生成溶解物から不溶性の細胞残屑を浄化した。上清を新たなチューブに移し、使用するまで4℃で保存するかまたは長期保存のために−70℃で凍結させた。
【0137】
分析のための溶解物試料の調製:微量遠心管内で、DI水40μL、細胞溶解液50μL、bioPLUS pI4〜7(バイオ・ワールド(Bio−World)、Dublin、Ohio)5μL、およびATFB−PEG架橋剤(2mM)2μLを結合した。ATFB−PEG架橋剤は、各分岐端をATFB(4−アジド−2,3,5,6−テトラフルオロ安息香酸)の官能性(製品番号A−2252、インビトロジェン(Invitrogen Corporation)、Carlsbad、カリフォルニア州)によって誘導体化した15,000MWの分岐ポリエチレングリコール(製品番号P4AM−15、サンバイオ(SunBio)、Anyang City、韓国)からなる。
【0138】
キャピラリーの調製:100μI.D.×375μO.D.のビニルコーティングした内部を有するテフロンコーティングした溶融シリカキャピラリー(製品番号0100CEL−01、ポリミクロ・テクノロジーズ(Polymicro Technologies)、Phoenix、アリゾナ州)の内面上に、1モル分率のベンゾフェノンを含有するポリアクリルアミドを表面移植した。このキャピラリー材料の切片4cmをより長い所から切断し、下記の如く使用した。
【0139】
キャピラリー内への試料の装填:図3bに図示の如く空のキャピラリーの先端を試料に接触させることにより、上で調製した試料を上記の如く調製したキャピラリーの切片内に装填した。キャピラリー作用は5秒未満でキャピラリーを完全に満たすほど十分であった。
【0140】
等電点電気泳動(IEF)による分離:上記の如く装填したキャピラリーを、図12bに図示の如くキャピラリーホルダ内に取り付けた。電極およびキャピラリーに接触するように、20mMのNaOH溶液をカソード端内に配置し、10mMのHPO溶液をホルダのアノード端内に配置した。次いで、300Vの電位を900秒間与えることで、この時間の最初の数分以内に行われることが多い等電点電気泳動を促進した。Aktを4〜7pI勾配内で分離させた。
【0141】
紫外光による固定化:電気泳動期間後、キャピラリーから5インチ(12.7cm)の距離で1800ワットのF300Sランプ(フュージョン・システムズ(Fusion Systems,Inc.)、Gaithersburg、メリーランド州)を使用し、キャピラリーにUV光を30秒間照射することで光架橋を起こした。
【0142】
洗浄、ブロッキングおよびプロービング工程:上記の如く固定化した後、キャピラリーをキャピラリーホルダから取り外し、各キャピラリーのアノード端を、10mMのトリス−HCl、150mMのNaCl、0.05%のTween20、pH6.8からなるTBST溶液と接触するように配置した。5mmHg以上の真空源を各キャピラリーのカソード端に適用し、TBST溶液を各キャピラリーに5分間引き通した。同じ5mmHg以上の真空源およびキャピラリーオリエンテーションを使用して、TBST中の5%粉末スキムミルク溶液(w/v)を各キャピラリーに20分間引き通した。次いで、同真空源を2分間適用した後、真空をオフにした状態で10分間インキュベートすることで、一次抗体溶液(ウサギ抗−AKTを1:100希釈、sc8312、サンタクルーズ・バイオテクノロジー(Santa Cruz Biotechnology)、Santa Cruz、カリフォルニア州、TBST中の5%ミルク中)を各キャピラリーに導入した。この抗体の適用手順を全部で5回繰り返した。次いで、同アプローチを用い、キャピラリーをTBST中の5%ミルク溶液で20分間洗い流した。次いで、再び真空をオンにした状態で抗体溶液を2分間流した後、真空をオフにした状態で10分間インキュベートすることにより、二次(2°)抗体溶液を適用し(TBST中の5%ミルク中で抗−ウサギHRPを1:10,000、Cat#81−6120、ザイメッド(Zymed)、South San Francisco、カリフォルニア州)、これを全部で5回繰り返した。次いで、再びキャピラリーをTBST中の5%ミルク溶液で20分間洗い流した。最後に、キャピラリーをTBSTで5分間、次いでTBS(10mMのトリス−HCl、150mMのNaCl)で2分間洗い流した。
【0143】
化学発光による検出:化学発光検出のため、SuperSignal West Femto Stable Peroxide Buffer(Cat#1859023、ピアース(Pierce)、Rockford、イリノイ州)とルミノール/エンハンサー溶液(Cat#1859022、ピアース(Pierce)、Rockford、イリノイ州)の等量混合物をキャピラリーに供給し、5mmHgの真空下で貫流させた。2005年4月9日に出願された米国仮特許出願第60/669,694号明細書でのセル・バイオサイエンス(Cell Biosciences)製の試作品の化学発光検出モジュールでは、化学発光シグナルがCCDカメラを使用して60秒かけて収集された。図20および図22の上パネルにキャピラリーの長さに沿った相対発光シグナルを画素数として示す。
【0144】
実施例5:抗−リン−S473−抗体を使用するLNCaP細胞溶解液由来のAktタンパク質の化学発光の検出:
細胞溶解液の調製:4℃のHNTG溶解緩衝液(20mM HEPES pH7.5、150mMのNaCl、0.1%のTriton−X 100、10%グリセリン)1ml中にLNCaP細胞(ヒト前立腺癌細胞系)1×10個を溶解することにより、分析用の細胞溶解液を調製した。4℃で15分間、11,000gでの遠心分離によって生成溶解物から不溶性の細胞残屑を浄化した。上清を新たなチューブに移し、使用するまで4℃で保存するかまたは長期保存のために−70℃で凍結させた。
【0145】
分析のための溶解物試料の調製:微量遠心管内で、DI水40μL、細胞溶解液50μL、Pharmalyte両性電解質 pI3〜10(シグマ(Sigma)、St.Louis)5μL、およびATFB−PEG架橋剤(2mM)2μLを結合した。ATFB−PEG架橋剤は、各分岐端をATFB(4−アジド−2,3,5,6−テトラフルオロ安息香酸)の官能性(製品番号A−2252、インビトロジェン(Invitrogen Corporation)、Carlsbad、カリフォルニア州)によって誘導体化した15,000MWの分岐ポリエチレングリコール(製品番号P4AM−15、サンバイオ(SunBio)、Anyang City、韓国)からなる。
【0146】
キャピラリーの調製:100μI.D.×375μO.D.のビニルコーティングした内部を有するテフロンコーティングした溶融シリカキャピラリー(製品番号0100CEL−01、ポリミクロ・テクノロジーズ(Polymicro Technologies)、Phoenix、アリゾナ州)の内面上に、1モル分率のベンゾフェノンを含有するポリアクリルアミドを表面移植した。このキャピラリー材料の切片4cmをより長い所から切断し、下記の如く使用した。
【0147】
キャピラリー内への試料の装填:図3bに図示の如く空のキャピラリーの先端を試料に接触させることにより、上で調製した試料を上記の如く調製したキャピラリーの切片内に装填した。キャピラリー作用は5秒未満でキャピラリーを完全に満たすほど十分であった。
【0148】
等電点電気泳動(IEF)による分離:上記の如く装填したキャピラリーを、図12bに図示の如くキャピラリーホルダ内に取り付けた。電極およびキャピラリーに接触するように、20mMのNaOH溶液をカソード端内に配置し、10mMのHPO溶液をホルダのアノード端内に配置した。次いで、300Vの電位を900秒間与えることで、この時間の最初の数分以内に行われることが多い等電点電気泳動を促進した。タンパク質を4〜7pI勾配内で分離させた。
【0149】
紫外光による固定化:電気泳動期間後、キャピラリーから5インチ(12.7cm)の距離で1800ワットのF300Sランプ(フュージョン・システムズ(Fusion Systems,Inc.)、Gaithersburg、メリーランド州)を使用し、キャピラリーにUV光を30秒間照射することで光架橋を起こした。
【0150】
洗浄、ブロッキングおよびプロービング工程:上記の如く固定化した後、キャピラリーをキャピラリーホルダから取り外し、各キャピラリーのアノード端を、10mMのトリス−HCl、150mMのNaCl、0.05%のTween20、pH6.8からなるTBST溶液と接触するように配置した。5mmHg以上の真空源を各キャピラリーのカソード端に適用し、TBST溶液を各キャピラリーに5分間引き通した。同じ5mmHg以上の真空源およびキャピラリーオリエンテーションを使用して、TBST中の5%粉末スキムミルク溶液(w/v)を各キャピラリーに20分間引き通した。次いで、同真空源を2分間適用した後、真空をオフにした状態で10分間インキュベートすることで、一次抗体溶液(ウサギ抗−リン−S473AKTを1:100希釈、部品番号4051、セル・シグナリング・テクノロジー(Cell Signaling Technologies)、Beverly、マサチューセッツ州、米国、TBST中の5%ミルク中)を各キャピラリーに導入した。この抗体の適用手順を全部で5回繰り返した。次いで、同アプローチを用い、キャピラリーをTBST中の5%ミルク溶液で20分間洗い流した。次いで、再び真空をオンにした状態で抗体溶液を2分間流した後、真空をオフにした状態で10分間インキュベートすることにより、二次(2°)抗体溶液を適用し(TBST中の5%ミルク中で抗−ウサギHRPを1:10,000、Cat#81−6120、ザイメッド(Zymed)、South San Francisco、カリフォルニア州)、これを全部で5回繰り返した。次いで、再びキャピラリーをTBST中の5%ミルク溶液で20分間洗い流した。最後に、キャピラリーをTBSTで5分間、次いでTBS(10mMのトリス−HCl、150mMのNaCl)で2分間洗い流した。
【0151】
化学発光による検出:化学発光検出のため、SuperSignal West Femto Stable Peroxide Buffer(Cat#1859023、ピアース(Pierce)、Rockford、イリノイ州)とルミノール/エンハンサー溶液(Cat#1859022、ピアース(Pierce)、Rockford、イリノイ州)の等量混合物をキャピラリーに供給し、5mmHgの真空下で貫流させた。2005年9月4日に出願された米国仮特許出願第60/669,694号明細書でのセル・バイオサイエンス(Cell Biosciences)製の試作品の化学発光検出モジュールでは、化学発光シグナルがCCDカメラを使用して60秒かけて収集された。図21および図22の下パネルにキャピラリーの長さに沿った相対発光シグナルを画素数として示す。
【0152】
図22では、上パネル図21中の単一の全タンパク質−特異抗体によるリン酸化形態および非リン酸化形態のAktタンパク質の分離を図示する図21および図22において生成される化学発光シグナルを比較している。リン−特異抗体を使用して生成されるシグナルを示す下パネル図21は、箱A内で分離されたピークがリン酸化形態である一方、箱B内で分離されたピークがセリン473で非リン酸化されることを示す。
【0153】
前述の本発明の特定の実施形態に関する説明が図示および説明を目的に示されている。それらは網羅的であるかまたは開示された正確な形態に本発明を限定することを意図しておらず、上記の教示内容を考慮すると明らかに多数の変更および変形が可能である。実施形態が選ばれかつ記載されたのは、本発明の原理およびその実際の用途を最もよく説明し、それによって当業者らが本発明および検討された特定の使用に適する様々な変更を伴う様々な実施形態を最もよく利用できるようにするためである。本発明の範囲は、本明細書に添付の特許請求の範囲およびその等価物によって限定されることを意図していない。
【0154】
すべての特許、特許出願、出版物、および本明細書において引用された参考文献は、単独の出版物または特許出願の各々が具体的かつ個別に参照により援用されるものとして示される場合と同程度に、明示的に参照により援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の少なくとも一の分析対象物を検出する方法であって、
一又は複数の分析対象物が流路内で分離され、前記分析対象物が前記流路内で固定化され、及び前記分析対象物と結合又は相互作用し且つ前記固定化された分析対象物の検出を可能にする検出剤が前記流路を通して輸送されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記流路がキャピラリーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
キャピラリーである複数の流路をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記流路がマイクロ流体デバイス内のチャネルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
マイクロ流体デバイス内のチャネルである複数の流路をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記分析対象物が電気泳動によって分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記分析対象物が等電点電気泳動、ゲル電気泳動、または界面動電クロマトグラフィーによって分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記分析対象物が等電点電気泳動によって前記流路内で固定化される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記流路が、前記流路内で前記分析対象物を固定化可能な一又は複数の反応性部分をさらに含み、ここで固定化が前記一又は複数の反応性部分を活性化する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記活性化が、前記一又は複数の反応性部分の光活性化、化学活性化または熱活性化を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記検出剤が、流体力学的流れ、電気浸透流、または電気泳動によって前記流路を通して輸送される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記検出剤が、抗体、ペプチド、タンパク質、酵素基質、遷移状態類似体、コファクター、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、アプタマー、レクチン、小分子、リガンド、阻害剤、薬剤、またはこれらの標識分子、または化学発光基質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記検出剤が化学発光標識抗体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記検出剤が蛍光標識抗体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記分析対象物の検出が化学発光シグナルを検出する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記分析対象物の検出が蛍光シグナルを検出する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記分析対象物の検出が光検出器によるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記分析対象物の検出が光検出器アレイによるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記分析対象物の検出が電荷結合素子(CCD)アレイによるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
試料中の少なくとも一の目的タンパク質を検出する方法であって、
a)キャピラリー内で一又は複数のタンパク質を分離する工程と、
b)前記キャピラリー内で前記タンパク質を光固定化する工程と、
c)キャピラリー内で前記固定化されたタンパク質を抗体と接触させることで一又は複数の抗体−タンパク質複合体を形成する工程と、
d)前記タンパク質を検出する工程と、
を含む、方法。
【請求項21】
前記抗体が標識を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記抗体−タンパク質複合体を標識抗体と接触させる工程をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記検出する工程が化学発光シグナルを検出する工程を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記検出する工程が蛍光シグナルを検出する工程を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
試料中の少なくとも一のタンパク質を検出する方法であって、
a)一又は複数の光反応基、および場合によって、一又は複数の光反応基を含む高分子材料または重合可能材料を含有するキャピラリー内で一又は複数のタンパク質を分離する工程と、
b)前記キャピラリー内で前記タンパク質を光固定化する工程と、
c)前記キャピラリー内で抗体を前記光固定化されたタンパク質と接触させることで一又は複数の抗体−標的複合体を形成する工程と、
d)前記タンパク質を検出する工程と、
を含む、方法。
【請求項26】
試料中の少なくとも一のタンパク質を検出する方法であって、
a)流路内で一又は複数のタンパク質を濃縮する工程と、
b)前記流路内で前記タンパク質を固定化する工程と、
c)前記流路内で前記固定化されたタンパク質を抗体と接触させることで一又は複数の抗体−タンパク質複合体を形成する工程と、
d)前記タンパク質を検出する工程と、
を含む、方法。
【請求項27】
試料中の目的の少なくとも一の分析対象物を検出するためのシステムであって、
a)前記分析対象物を固定化可能な一又は複数の反応基を含む流路と、
b)内部で前記分析対象物を分離可能な前記流路に沿って電圧を加えるための電源と、
c)前記流路内の前記分析対象物を検出可能な検出器と、
を含む、システム。
【請求項28】
前記検出器が光検出器を含む、請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
前記検出器が光検出器アレイを含む、請求項27に記載のシステム。
【請求項30】
前記検出器が電荷結合素子(CCD)アレイによるものである、請求項27に記載のシステム。
【請求項31】
細胞溶解デバイスをさらに含む、請求項27に記載のシステム。
【請求項32】
一又は複数の反応性部分、緩衝液、および検出剤を含む流路を含む、試料中の少なくとも一の分析対象物を検出するためのキット。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12a】
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【図12b】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−209301(P2011−209301A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−148034(P2011−148034)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【分割の表示】特願2007−522674(P2007−522674)の分割
【原出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【出願人】(507018768)セル バイオサイエンシズ,インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】