説明

分析対象物質抽出装置および表面分析方法

【課題】分析対象物質を含む被測定面から分析対象物質を抽出する抽出時間を短縮し、迅速な分析を実現する分析対象物質抽出装置を提供する。
【解決手段】分析対象物質を含む被測定面から分析対象物質を抽出する抽出液を収容するための容器と、容器に設けられた、被測定面と抽出液とを接触させるための開口部と、容器内の抽出液を循環する循環手段と容器内の抽出液を振動させる振動手段とのうち少なくとも1つと、を備える分析対象物質抽出装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析対象物質抽出装置および表面分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物質表面の分析方法には、いろいろな方法が知られている。例えば、物質表面のイオン成分の定量方法としては、被測定物質を抽出液に浸漬させ、抽出液中に溶出してくるイオン成分をイオンクロマトグラフ法、キャピラリ電気泳動法等によって定量することが一般的に用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、周囲環境からの汚染を防止し、目的とするイオン成分の定量精度を向上させるために、抽出液を送液、回収できる注吸水口を有したカバーで平滑な試料表面を密閉し、抽出液を送液、回収する方法が提案されている。
【0004】
特許文献2には、超純水に含まれるイオン成分など、低濃度領域での高精度の検量線の作成を行うため、標準液のゼロ水のばらつきや標準液調製時の外部汚染を低減することでpptオーダの低濃度領域の定量を行う方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−59834号公報
【特許文献2】特開平5−223797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、分析対象物質を含む被測定面から分析対象物質を抽出する抽出時間を短縮し、迅速な分析を実現する分析対象物質抽出装置および表面分析方法を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の本発明によって達成される。すなわち、請求項1に係る発明は、分析対象物質を含む被測定面から前記分析対象物質を抽出する抽出液を収容するための容器と、前記容器に設けられた、前記被測定面と前記抽出液とを接触させるための開口部と、前記容器内の抽出液を循環する循環手段と前記容器内の抽出液を振動させる振動手段とのうち少なくとも1つと、を備える分析対象物質抽出装置である。
【0008】
請求項2に係る発明は、前記容器が樹脂素材を含んで構成される請求項1に記載の分析対象物質抽出装置である。
【0009】
請求項3に係る発明は、前記循環手段が、抽出液循環流路と、抽出液送液回収流路と、前記抽出液循環流路と前記抽出液送液回収流路とを切り替える流路切り替え手段と、を備える請求項1または2に記載の分析対象物質抽出装置である。
【0010】
請求項4に係る発明は、分析対象物質を含む被測定面を、開口部を有する容器により前記開口部を前記被測定面に対向させて覆う覆い工程と、前記容器内に前記分析対象物質を抽出する抽出液を送液する抽出液送液工程と、前記抽出液を前記容器内に循環させる方法または前記抽出液を前記容器内で振動させる方法のうちの少なくとも1つにより、前記開口部を通して前記分析対象物質を抽出する抽出工程と、前記抽出液を回収する抽出液回収工程と、前記回収された回収液に含まれる分析対象物質を分析する分析工程と、を含む表面分析方法である。
【0011】
請求項5に係る発明は、前記分析対象物質が、前記被測定面に付着している陽イオン、陰イオン、有機酸類、アミン類からなる群から選択される少なくとも1つである請求項4に記載の表面分析方法である。
【0012】
請求項6に係る発明は、前記分析が、イオンクロマトグラフ法およびキャピラリ電気泳動法のうちの少なくとも1つである請求項4または5に記載の表面分析方法である。
【0013】
請求項7に係る発明は、前記被測定面が、平滑な平面および平滑な曲面のうちの少なくとも1つである請求項4〜6のいずれか1項に記載の表面分析方法である。
【0014】
請求項8に係る発明は、前記被測定面が、電子工業分野で使用される装置部品表面および原材料表面のうちの少なくとも1つである請求項4〜7のいずれか1項に記載の表面分析方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1によると、容器内の抽出液を循環する循環手段と容器内の抽出液を振動させる振動手段とのうち少なくとも1つを備えない場合に比較すると、分析対象物質を含む被測定面から分析対象物質を抽出する抽出時間を短縮し、迅速な分析を実現する分析対象物質抽出装置を提供する。
【0016】
本発明の請求項2によると、容器が樹脂素材を含んで構成されない場合に比較すると、分析する被測定物質の形状の制限が少ない分析対象物質抽出装置を提供する。
【0017】
本発明の請求項3によると、循環手段が、抽出液循環流路と、抽出液送液回収流路と、抽出液循環流路と抽出液送液回収流路とを切り替える流路切り替え手段とを備えない場合に比較すると、迅速な分析を実現する分析対象物質抽出装置を提供する。
【0018】
本発明の請求項4によると、抽出液を容器内に循環させる方法または抽出液を容器内で振動させる方法のうちの少なくとも1つにより分析対象物質を抽出する抽出工程を含まない場合に比較すると、分析対象物質を含む被測定面から分析対象物質を抽出する抽出時間を短縮し、迅速な分析を実現する表面分析方法を提供する。
【0019】
本発明の請求項5によると、分析対象物質が被測定面に付着している陽イオン、陰イオン、有機酸類、アミン類からなる群から選択される少なくとも1つである場合に好適に用いられる表面分析方法を提供する。
【0020】
本発明の請求項6によると、分析がイオンクロマトグラフ法およびキャピラリ電気泳動法のうちの少なくとも1つである場合に好適に用いられる表面分析方法を提供する。
【0021】
本発明の請求項7によると、被測定面が平滑な平面および平滑な曲面のうちの少なくとも1つである場合に好適に用いられる表面分析方法を提供する。
【0022】
本発明の請求項8によると、被測定面が電子工業分野で使用される装置部品表面および原材料表面のうちの少なくとも1つである場合に好適に用いられる表面分析方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)本発明の実施形態に係る分析対象物質抽出装置の構成の一例を示す概略上面図である。(b)図1(a)におけるA−A’断面図である。
【図2】(a)本発明の実施形態に係る分析対象物質抽出装置の構成の他の例を示す概略上面図である。(b)図2(a)におけるA−A’断面図である。
【図3】(a)本発明の実施形態に係る分析対象物質抽出装置の構成の他の例を示す概略上面図である。(b)図3(a)におけるA−A’断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0025】
図1(a)は、本発明の実施形態に係る分析対象物質抽出装置の構成の一例を示す概略上面図であり、図1(b)は、図1(a)におけるA−A’断面図である。図1の分析対象物質抽出装置1は、開口部20を有する容器10と、容器10内の抽出液を振動させる振動手段である振動装置12とを備える。容器10には、容器10内へ抽出液を送液する抽出液送液手段である抽出液送液流路14と、容器10内から抽出液を回収する抽出液回収手段である抽出液回収流路16とが接続されており、抽出液送液流路14にはポンプ18が接続されている。また、容器10の外側面には、振動装置12が設置されている。図1の分析対象物質抽出装置1において、容器10は、開口部20を有し、抽出液送液流路14と抽出液回収流路16とが接続されているが、それ以外は密閉された構造を有している。
【0026】
図1の分析対象物質抽出装置1を用いた表面分析方法について説明する。まず、分析対象物質を含む被測定面24を有する被測定物質22を、開口部20を有する容器10により、開口部20を被測定面24に対向させて覆う(覆い工程)。容器10は密着面26を有し、密着面26により被測定面24と密着され、被測定面24の少なくとも一部は周囲環境からの汚染が防止される。
【0027】
次に、容器10内に分析対象物質を抽出する抽出液を送液する(抽出液送液工程)。例えば、抽出液は、図示しない抽出液タンクからポンプ18により抽出液送液流路14を通って送液される。
【0028】
容器10内を抽出液で満たした後、容器10内の抽出液を振動装置12により振動させて、開口部20を通して被測定面24から分析対象物質を抽出する(抽出工程)。抽出工程において、容器10内に予め定めた量の抽出液を充填した後、振動装置12により容器10を振動させて分析対象物質を抽出する。また、後述するように、容器10内の抽出液を循環しながら、振動装置12により振動させて分析対象物質を抽出してもよい。
【0029】
抽出工程の後、容器10内の抽出液を回収する(抽出液回収工程)。例えば、抽出液は、ポンプ18により抽出液回収流路16を通って回収される。
【0030】
抽出液回収工程の後、回収された回収液に含まれる分析対象物質を分析する(分析工程)。本装置および本方法により、サンプリングするための容器10に、振動装置12を設置したことにより、抽出液に振動が与えられて効率的な抽出操作が行われ、抽出時間が短縮され、迅速な分析が実現される。また、本装置および本方法により、被測定物質の表面に付着した分析対象物質に対する、周囲環境からの汚染が防止され、目的とする分析対象物質の正確な定量が行われる。あらかじめユニット化された抽出装置を用いることで、装置の構成時間の短縮と繰り返し再現性が確保される。また、被測定物質22を全て抽出液中に浸漬させてしまうこともなく、任意の被測定面24における分析対象物質の定量が行われる。さらに、被測定物質22の表面と裏面の両面から等、被測定物質22の表面全体の分析対象物質の総和として定量されることもない。
【0031】
図2(a)は、本発明の実施形態に係る分析対象物質抽出装置の構成の他の例を示す概略上面図であり、図2(b)は、図2(a)におけるA−A’断面図である。図2の分析対象物質抽出装置1は、開口部20を有する容器10と、容器10内の抽出液を循環させる循環手段である抽出液循環流路28と、抽出液送液回収流路30とを備える。容器10には、抽出液循環流路28が接続されており、抽出液循環流路28の任意の場所にはポンプ18が接続され、ポンプ18には、抽出液送液回収流路30が接続されている。図2の分析対象物質抽出装置1において、容器10は、開口部20を有し、抽出液循環流路28が接続されているが、それ以外は密閉された構造を有している。
【0032】
図2の分析対象物質抽出装置1を用いた表面分析方法について説明する。まず、分析対象物質を含む被測定面24を有する被測定物質22を、開口部20を有する容器10により、開口部20を被測定面24に対向させて覆う(覆い工程)。容器10は、密着面26を有し、密着面26により被測定面24と密着され、被測定面24は、周囲環境からの汚染が防止される。
【0033】
次に、容器10内に分析対象物質を抽出する抽出液を送液する(抽出液送液工程)。例えば、抽出液は、図示しない抽出液タンクからポンプ18により抽出液送液回収流路30を通って送液される。
【0034】
容器10内を抽出液で満たした後、ポンプ18等の流路を切り替えて、容器10内の抽出液を循環させて、開口部20を通して被測定面24から分析対象物質を抽出する(抽出工程)。
【0035】
抽出工程の後、容器10内の抽出液を回収する(抽出液回収工程)。例えば、抽出液は、ポンプ18等の流路を切り替えて、ポンプ18により抽出液送液回収流路30を通って回収される。
【0036】
抽出液回収工程の後、回収された回収液に含まれる分析対象物質を分析する(分析工程)。本装置および本方法により、サンプリングするための容器10に、抽出液を循環させるための抽出液送液流路28を設置したことにより、抽出液が静止した状態で抽出するよりも効率的に分析対象物質が抽出され、効率的な抽出操作が行われ、抽出時間が短縮され、迅速な分析が実現される。
【0037】
図3(a)は、本発明の実施形態に係る分析対象物質抽出装置の構成の一例を示す概略上面図であり、図3(b)は、図3(a)におけるA−A’断面図である。図3の分析対象物質抽出装置1は、開口部20を有する容器10と、容器10内の抽出液を振動させる振動手段である振動装置12と、容器10内の抽出液を循環させる循環手段である抽出液循環流路28と、抽出液送液回収流路30とを備える。容器10には、抽出液循環流路28が接続されており、抽出液循環流路28の任意の場所にはポンプ18が接続され、ポンプ18には、抽出液送液回収流路30が接続されている。また、容器10の外側面には、振動装置12が設置されている。図3の分析対象物質抽出装置1において、容器10は、開口部20を有し、抽出液循環流路28が接続されているが、それ以外は密閉された構造を有している。
【0038】
図3の分析対象物質抽出装置1を用いた表面分析方法について説明する。まず、分析対象物質を含む被測定面24を有する被測定物質22を、開口部20を有する容器10により、開口部20を被測定面24に対向させて覆う(覆い工程)。容器10は、密着面26を有し、密着面26により被測定面24と密着され、被測定面24は、周囲環境からの汚染が防止される。
【0039】
次に、容器10内に分析対象物質を抽出する抽出液を送液する(抽出液送液工程)。例えば、抽出液は、図示しない抽出液タンクからポンプ18により抽出液送液回収流路30を通って送液される。
【0040】
容器10内を抽出液で満たした後、ポンプ18等の流路を切り替えて、容器10内の抽出液を循環させて、かつ容器10内で振動装置12により振動させて、開口部20を通して被測定面24から分析対象物質を抽出する(抽出工程)。
【0041】
抽出工程の後、容器10内の抽出液を回収する(抽出液回収工程)。例えば、抽出液は、ポンプ18等の流路を切り替えて、ポンプ18により抽出液送液回収流路30を通って回収される。
【0042】
抽出液回収工程の後、回収された回収液に含まれる分析対象物質を分析する(分析工程)。本装置および本方法により、サンプリングするための容器10に、抽出液を循環させるための抽出液送液流路28と抽出液を振動させるための振動装置12とを設置したことにより、抽出液が静止した状態で抽出するよりも効率的に分析対象物質が抽出され、かつ振動が与えられるため、より効率的な抽出操作が行われ、抽出時間がより短縮され、より迅速な分析が実現される。
【0043】
本実施形態における被測定物質22としては、特に制限はないが、例えば、電子工業分野で使用される装置部品、原材料、ウェーハ等である。被測定面24は、特に制限はないが、例えば、電子工業分野で使用される装置部品表面、原材料表面、ウェーハ表面等である。本装置および本方法は、これらのうち、被測定面に存在している物質のみを測定する点等から、被測定面24が電子工業分野で使用される装置部品表面および原材料表面のうちの少なくとも1つである場合に好ましく用いられる。本装置および本方法は、例えば、電子写真用感光体の表面分析、液晶表示装置、有機EL素子、半導体等の電子デバイスの表面分析等に好ましく用いられる。
【0044】
被測定面24の形状としては、特に制限はないが、例えば、平滑な平面、平滑な曲面等である。本装置および本方法は、これらのうち、接触面積を多く確保する点等から、平滑な平面および平滑な曲面のうちの少なくとも1つである場合に好ましく用いられる。本装置および本方法によれば、被測定面24が曲面であっても容易に測定が行われる。
【0045】
本実施形態における分析対象物質としては、特に制限はないが、例えば、被測定面24に付着している陽イオン、陰イオン、有機酸類、アミン類からなる群から選択される少なくとも1つである。本装置および本方法は、これらのうち、対象物質の定性、定量性等から、被測定面24に付着している陽イオン、陰イオン、有機酸類、アミン類からなる群から選択される少なくとも1つである場合に好ましく用いられる。
【0046】
分析対象物質の分析方法としては、特に制限はないが、例えば、イオンクロマトグラフ法、キャピラリ電気泳動法、液体クロマトグラフ法等である。本装置および本方法は、これらのうち、分析対象物質としてイオン成分を扱うことが多い点等から、イオンクロマトグラフ法、キャピラリ電気泳動法に好ましく用いられる。
【0047】
容器10の材質は、容器からの汚染を防ぐ必要があるため、樹脂が好ましく、樹脂の中でもポリエチレンやポリプロピレン、テフロン(登録商標)等を含んで構成されることがより好ましい。また、これらの樹脂でコートしたSUS等の金属製のものを用いてもよい。容器10が、柔軟性を有する樹脂を含んで構成されていると、容易に変形され、密着面26も変形する。したがって、表面が平坦な平面だけでなく、電子写真感光体のような表面が曲面であるような対象曲面にも密着させて抽出作業が行われるため、分析対象となる被測定物質22の形状の制限があまりない。
【0048】
容器10は、密着面26に密着性の高い素材を用いる方法、密着面26に吸盤を設ける方法、発泡性材料、樹脂等のシール材を介する方法等により被測定面24へ密着させてもよいし、被測定物質22の任意の被測定面24にクランプ、もしくは手によって容器10を押圧し、被測定面24へ密着させて、外部環境から切り離して汚染を防止してもよい。被測定物質22の任意の被測定面24との密着性がよいと、分析対象物質の抽出する方向が従来の鉛直方向に限定されず、全方位で抽出される。また、抽出液送液流路14、抽出液回収流路16、抽出液送液回収流路30を伸ばすことで、容器10を例えば聴診器のように抽出、測定したい場所に密着させてもよい。
【0049】
容器10の開口部20の形状は、特に制限はなく、例えば、四角形状、円形状等が挙げられる。端部での分析対象物質等の付着が少ない等の点で角部を有さない円形状が好ましい。
【0050】
振動装置12としては、直接的または間接的に容器10内の抽出液を振動させるものであればよく、特に制限はないが、例えば、超音波振動装置、振盪器等を用いればよい。振動装置12の設置位置は、直接的または間接的に容器10内の抽出液を振動させるように設置すればよく、特に制限はないが、振動装置12の方式等に応じて決めればよい。振動装置12が超音波振動装置等の場合は、例えば、容器10の外側面に設置すればよい。
【0051】
抽出液を送液、回収、循環させるための抽出液送液流路14、抽出液回収流路16、抽出液循環流路28、抽出液送液回収流路30の材質は、汚染防止等のため、樹脂等が挙げられる。これらのうち、フレキシブルなテフロン(登録商標)製等の樹脂製のチューブであることが好ましい。また、これらの流路は、容器10、ポンプ18等と自由に着脱されるように接続されることが好ましい。
【0052】
図2,図3の分析対象物質抽出装置において、抽出液循環流路28と抽出液送液回収流路30とを切り替える流路切り替え手段を備えることが好ましい。例えば、ポンプ18に、抽出液送液流路28と抽出液送液回収流路30とを切り替えるスイッチを具備すればよく、容器10内に抽出液を送液し、循環させ、分析を行うために抽出液を回収することがスイッチ1つで切り替えられるようにしてもよい。流路切り替え手段として、バルブ等を別途設けてもよい。
【0053】
本実施形態に係る分析対象物質抽出装置は、容器10の構成に対して、部品を個別ではなく一体化してもよい。これにより、測定ごとに容器10を構成する時間が必ずしも必要なく、繰り返し再現性が向上する。
【0054】
本実施形態に係る分析対象物質抽出装置は、ポータブル化することで、聴診器のように容器10を扱うことにより、分析対象物質を抽出する場所の自由度が上がり、鉛直方向だけに限定されずに全方位で抽出作業が行われる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
<実施例1>
曲面(84φ)のアルミニウム素管上に形成された表面が光電導層から構成された誘電体の縦20mm、横が400mmの領域に放電テスト装置で60分間放電を行い、放電により発生したイオン性生成物を表面に付着させたものを被測定物質とした。この被測定物質に対して、放電テスト装置からはずすことなく、図3に示す抽出装置を用いて、前述した領域の表面を容器10(20mm×100mmの開口部20を有する)の密着面26と手で押さえつけることによって密着させた。容器10としてはポリテトラフルオロエチレン樹脂製のものやポリテトラフルオロエチレン樹脂コートしたSUS等の金属性のもの(大きさ30mm×120mm)、抽出液送液流路28と抽出液送液回収流路30にはテフロン(登録商標)製のチューブ(φ4mm)を用いた。振動装置12としては市販の超音波振動装置を用いた。抽出液として25℃の純水を送液し、振動装置12を作動させながら抽出液を15分間循環させた。その後、抽出液を回収し、イオンクロマトグラフ装置(ダイオネクス製、DX−320J)を用いてカラム濃縮イオンクロマトグラフ法にて分析を実施したところ、放電生成物であるアンモニウムイオンが4ng/cm、硝酸イオンが15ng/cm検出された。
【0057】
<実施例2>
実施例1と同じ実験を実施して作製したサンプルを被測定物質とした。この被測定物質に対して、放電テスト装置からはずすことなく、図1に示す抽出装置を用いて、前述した領域の表面を容器10の密着面26と手で押さえつけることによって密着させた。容器10、振動装置12としては実施例1と同様のものを用い、抽出液送液流路14と抽出液回収流路16には実施例1と同様のチューブを用いた。抽出液として25℃の純水を送液し、抽出液を容器10内に満たした後、振動装置12を作動させながら抽出作業を15分間行った。その後、抽出液を回収し、実施例1と同様にしてイオンクロマトグラフ法にて分析を実施したところ、放電生成物であるアンモニウムイオンが2ng/cm、硝酸イオンが6ng/cm検出された。
【0058】
<実施例3>
実施例1と同じ実験を実施して作製したサンプルを被測定物質とした。この被測定物質に対して、放電テスト装置からはずすことなく、図2に示す抽出装置を用いて、前述した領域の表面を容器10の密着面26と手で押さえつけることによって密着させた。容器10としては実施例1と同様のものを用い、抽出液送液流路28と抽出液送液回収流路30には実施例1と同様のチューブを用いた。抽出液として25℃の純水を送液し、抽出液を15分間循環させた。その後、抽出液を回収し、実施例1と同様にしてイオンクロマトグラフ法にて分析を実施したところ、放電生成物であるアンモニウムイオンが1ng/cm、硝酸イオンが5ng/cm検出された。
【0059】
<比較例1>
実施例1と同じ実験を実施して作製したサンプルを被測定物質とした。この被測定物質に対して、放電テスト装置からはずすことなく、図3に示す抽出装置を用いて、前述した領域の表面を容器10の密着面26と手で押さえつけることによって密着させた。抽出液として純水を送液し、抽出液を容器10内に満たした後、振動装置12を作動させずに、さらに抽出液の循環も行わないで、15分間抽出作業を行った。その後、抽出液を回収し、実施例1と同様にしてイオンクロマトグラフ法にて分析を実施したところ、アンモニウムイオンも硝酸イオンも未検出レベル(検出限界0.2ng/cm以下)であった。
【0060】
<比較例2>
実施例1と同じ実験を実施して作製したサンプルを被測定物質とした。この被測定物質に対して、放電テスト装置からはずすことなく、図3に示す抽出装置を用いて、前述した領域の表面を容器10の密着面26と手で押さえつけることによって密着させた。抽出液として純水を送液し、抽出液を容器10内に満たした後、振動装置12を作動させずに、さらに抽出液の循環も行わないで、120分間抽出作業を行った。その後、抽出液を回収し、実施例1と同様にしてイオンクロマトグラフ法にて分析を実施したところ、放電生成物であるアンモニウムイオンが2ng/cm、硝酸イオンが6ng/cm検出された。
【0061】
このように、実施例1から3の方法により、分析対象物質を含む被測定面から分析対象物質を抽出する抽出時間を短縮し、迅速な分析が実現された。
【符号の説明】
【0062】
1 分析対象物質抽出装置、10 容器、12 振動装置、14 抽出液送液流路、16 抽出液回収流路、18 ポンプ、20 開口部、22 被測定物質、24 被測定面、26 密着面、28 抽出液循環流路、30 抽出液送液回収流路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象物質を含む被測定面から前記分析対象物質を抽出する抽出液を収容するための容器と、
前記容器に設けられた、前記被測定面と前記抽出液とを接触させるための開口部と、
前記容器内の抽出液を循環する循環手段と前記容器内の抽出液を振動させる振動手段とのうち少なくとも1つと、
を備えることを特徴とする分析対象物質抽出装置。
【請求項2】
前記容器が樹脂素材を含んで構成されることを特徴とする請求項1に記載の分析対象物質抽出装置。
【請求項3】
前記循環手段が、抽出液循環流路と、抽出液送液回収流路と、前記抽出液循環流路と前記抽出液送液回収流路とを切り替える流路切り替え手段と、を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の分析対象物質抽出装置。
【請求項4】
分析対象物質を含む被測定面を、開口部を有する容器により前記開口部を前記被測定面に対向させて覆う覆い工程と、
前記容器内に前記分析対象物質を抽出する抽出液を送液する抽出液送液工程と、
前記抽出液を前記容器内に循環させる方法または前記抽出液を前記容器内で振動させる方法のうちの少なくとも1つにより、前記開口部を通して前記分析対象物質を抽出する抽出工程と、
前記抽出液を回収する抽出液回収工程と、
前記回収された回収液に含まれる分析対象物質を分析する分析工程と、
を含むことを特徴とする表面分析方法。
【請求項5】
前記分析対象物質が、前記被測定面に付着している陽イオン、陰イオン、有機酸類、アミン類からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項4に記載の表面分析方法。
【請求項6】
前記分析が、イオンクロマトグラフ法およびキャピラリ電気泳動法のうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項4または5に記載の表面分析方法。
【請求項7】
前記被測定面が、平滑な平面および平滑な曲面のうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の表面分析方法。
【請求項8】
前記被測定面が、電子工業分野で使用される装置部品表面および原材料表面のうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載の表面分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−64502(P2011−64502A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213455(P2009−213455)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】