説明

分析方法、分析装置および分析プログラム

【課題】分析処理時間の短縮および分析精度の向上が可能である分析方法および分析装置を提供すること。
【解決手段】本発明は、分析対象の抗原50と結合する前に金粒子52による反応前のラマン散乱光Lfwを測光し、複合体53生成後に分析対象である抗原50と結合しなかった磁性粒子51と複合体53とをレーザ光の照射領域から除去した状態で分析対象の抗原50と結合しなかった金粒子52による反応後のラマン散乱光Lfuを測光し、反応前のラマン散乱光の測光値と反応後のラマン散乱光の測光値との差を演算することによって、複合体53そのものによるラマン散乱光を測定せずとも複合体53によるラマン散乱光の強度を取得できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体中の分析対象物と特異的に結合する磁性粒子を含む磁性試薬と、レーザ光が照射されることにより表面増強されたラマン散乱光を発するとともに分析対象の物と特異的に結合する標識物質を含む標識試薬とを使用し、検体を分析する分析方法、分析装置および分析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ラマン分光分析は、検体にレーザ光を照射することにより発生するラマン散乱光を検出する分析法であり、検出対象物の分子構造に関する情報を得ることができるため、ウィルス、蛋白質等の生化学物質や環境化学物質の検出、バイオセンサ等に有効な分析方法として知られている。このラマン分光分析では、原子レベルの粗さを持つ金、銀などの金属表面における吸着種のラマン散乱強度が非吸着種に比較して10−10倍増強される場合があることが知られており、この現象は表面増強ラマン散乱(SERS)と呼ばれている。
【0003】
このようなSERS分光分析法を用いた分析装置として、分析対象の抗原と表面増強ラマン粒子とのいずれかと結合可能である抗体を設けた基板を用い、この抗体と表面増強ラマン粒子とが会合した場合のラマン散乱光の強度と、表面増強ラマン粒子と分析対象の抗原とが接触し表面増強ラマン散乱粒子の代わりに分析対象の抗原が抗体と会合した場合のラマン散乱光の強度との差を検出することによって、分析対象の抗原を検出する分析方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、この特許文献1に記載された分析方法では、測定ごとに分析対象の抗原と会合可能である抗体を設けた複雑な構造の基板を用いる必要がある上に、各分析処理を各基板にそれぞれ対して同一の装置内で並行して実行するには非常に複雑な分析装置構成が必要となるという問題があった。
【0004】
これに対し、近年、金属ナノ粒子を凝集させることによって、非吸着種と比較してラマン散乱強度を1014倍程度まで増強させることができることが発見された。そこで、原子レベルの粗さを持つ金・銀などの金属ナノ粒子を標識物質として用い、これに加え、この標識物質と検出対象物との複合体を凝集させてラマン散乱強度を増強させることによって、検出対象物を分析する分析方法が注目されている。たとえば、標識物質である金属ナノ粒子を含む試薬に加えて、検体内の検出対象物と反応する磁性粒子を含んだ試薬をさらに検体内に注入する分析装置が提案されている(特許文献2参照)。この分析装置では、磁性粒子と、検出対象物と、標識物質との複合体を、反応容器外部から先端が尖形状を有する磁石を近接させることによって所定の大きさに凝集させ、生成した凝集体にレーザ光を照射し、表面増強されたラマン散乱光を測定することによって、複雑な装置構成を取ることなく検体内の検出対象物を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−526488号公報
【特許文献2】国際公開第2008/014223号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載された分析装置では、複合体を凝集させるために先端が尖った磁石を用いることから反応容器に近接する磁石面積が小さくなるため、ラマン散乱光を検出できる大きさにまで複合体を凝集させるには長い時間が必要となり、分析処理全体の処理時間が長時間化してしまうという問題があった。また、特許文献2に記載された分析装置では、常に一定の形状の凝集体が形成されるのではなく、複合体の分散状態などに応じて複合体の凝集形状にばらつきが生じる。この結果、この凝集体へのレーザ光の照射状態にも凝集形状によって差が生じることから、測光器が測定するラマン散乱光の強度もばらついてしまい、高精度の分析を行うことができないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、分析処理時間の短縮および分析精度の向上が可能である分析方法および分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる分析方法は、検体中の分析対象物と特異的に結合する磁性粒子を含む磁性試薬と、レーザ光が照射されることにより表面増強されたラマン散乱光を発するとともに前記分析対象物と特異的に結合する標識物質を含む標識試薬とを使用し、前記検体を分析する分析方法において、前記検体、前記磁性試薬および前記標識試薬を反応容器内に分注する分注ステップと、前記分注ステップで分注された前記磁性粒子および前記標識試薬が前記検体中の分析対象物と結合する前に、前記磁性粒子を前記レーザ光の照射領域から除去した状態で前記反応容器にレーザ光を照射し、前記反応容器内の前記標識物質によるラマン散乱光を測定する反応前測光ステップと、前記反応容器内で、前記磁性粒子、前記分析対象物および標識物質が特異的に結合した複合体を生成する反応を促進させる反応促進ステップと、前記反応促進ステップ後に、前記分析対象物と結合しなかった磁性粒子と前記複合体とを前記レーザ光の照射領域から除去した状態で前記反応容器内に前記レーザ光を照射し、前記反応容器内の前記標識物質によるラマン散乱光を測定する反応後測光ステップと、前記反応前測光ステップにおける測光値と前記反応後測光ステップにおける測光値との差または比を演算することによって前記複合体によるラマン散乱光の強度を取得し、該取得した前記複合体によるラマン散乱光の強度をもとに前記分析対象物の前記検体における濃度を求める演算ステップと、を含むことを特徴とする。
【0009】
また、この発明にかかる分析方法は、前記反応前測光ステップは、前記検体、前記磁性試薬および前記標識試薬が分注された反応容器内に磁界を発生させることによって前記磁性粒子を前記レーザ光の照射領域から除去し、前記反応後測光ステップは、前記複合体が生成された反応容器内に磁界を発生させることによって前記分析対象物と結合しなかった磁性粒子と前記複合体とを前記レーザ光の照射領域から除去することを特徴とする。
【0010】
また、この発明にかかる分析方法は、前記反応前測光ステップは、前記検体、前記磁性試薬および前記標識試薬が分注された反応容器の外部から前記レーザ光の照射領域以外の領域に磁石を近接させることによって、前記磁性粒子を前記レーザ光の照射領域外に集磁し、前記反応後測光ステップは、前記複合体が生成された反応容器の外部から前記レーザ光の照射領域以外の領域に磁石を近接させることによって、前記分析対象物と結合しなかった磁性粒子と前記複合体とを前記レーザ光の照射領域外に集磁することを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかる分析方法は、前記磁石は、前記反応容器の底面もしくは側面の少なくとも一部に近接できる大きさを有することを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかる分析方法は、前記磁石は、複数あることを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかる分析方法は、前記反応前測光ステップにおいて前記ラマン散乱光が測定される反応前測定用の反応容器とは異なる反応後測定用の反応容器内に、前記検体、前記磁性試薬および前記標識試薬を分注する反応後測定用分注ステップをさらに含み、前記反応前測光ステップは、磁界を発生する集磁棒を前記検体、前記磁性試薬および前記標識試薬が分注された前記反応前測定用の反応容器内に挿入し、前記磁性粒子を前記集磁棒に集磁させた状態で該集磁棒を前記反応前測定用の反応容器外に移送することによって、前記磁性粒子を前記レーザ光の照射領域から除去し、前記反応促進ステップは、前記反応後測定用分注ステップにおいて前記検体、前記磁性試薬および前記標識試薬が分注された反応後測定用の反応容器内で前記複合体を生成する反応を促進させ、前記反応後測光ステップは、前記集磁棒を前記複合体が生成された前記反応後測定用の反応容器内に挿入し、前記分析対象物と結合しなかった磁性粒子と前記複合体とを前記集磁棒表面に集磁させた状態で該集磁棒を前記反応後測定用の反応容器外に移送することによって、前記分析対象物と結合しなかった磁性粒子と前記複合体とを前記レーザ光の照射領域から除去することを特徴とする。
【0014】
また、この発明にかかる分析方法は、前記分注ステップおよび前記反応前測光ステップは、各検体ごとに行われることを特徴とする。
【0015】
また、この発明にかかる分析装置は、検体中の分析対象物と特異的に結合する磁性粒子を含む磁性試薬と、レーザ光が照射されることにより表面増強されたラマン散乱光を発するとともに前記分析対象物と特異的に結合する標識物質を含む標識試薬とを使用し、前記検体を分析する分析装置において、前記反応容器内にレーザ光を照射して前記標識物質によるラマン散乱光を測定する測光手段と、前記反応容器におけるレーザ光の照射領域から磁性体を除去する除去手段と、前記測光手段による測光値をもとに前記分析対象物の前記検体における濃度を求める演算手段と、を備え、前記除去手段は、前記磁性粒子および前記標識試薬が前記検体中の分析対象物と結合する前に前記磁性粒子を前記レーザ光の照射領域から除去する反応前除去処理と、前記反応手段によって前記複合体が生成された後に前記分析対象物と結合しなかった磁性粒子と前記複合体とを前記レーザ光の照射領域から除去する反応後除去処理とを行い、前記測光処理は、前記除去手段による前記反応前除去処理によって前記磁性粒子が前記レーザ光の照射領域から除去された状態で前記反応容器内に前記レーザ光を照射して前記反応容器内の前記標識物質によるラマン散乱光を測定する反応前測光処理と、前記除去手段による前記反応後除去処理によって前記分析対象物と結合しなかった磁性粒子と前記複合体とが前記レーザ光の照射領域から除去された状態で前記反応容器内に前記レーザ光を照射して前記反応容器内の前記標識物質によるラマン散乱光を測定する反応後測光処理とを行い、前記演算手段は、前記測光手段による前記反応前測光処理における測光値と前記反応後測光処理における測光値との差または比を演算することによって前記複合体によるラマン散乱光の強度を取得し、該取得した前記複合体によるラマン散乱光の強度をもとに前記分析対象物の前記検体における濃度を求めることを特徴とする。
【0016】
また、この発明にかかる分析装置は、前記除去手段は、前記反応前除去処理において前記検体、前記磁性試薬および前記標識試薬が分注された反応容器内に磁界を発生させることによって前記磁性粒子を前記レーザ光の照射領域から除去し、前記反応後除去処理において前記複合体が生成された反応容器内に磁界を発生させることによって前記分析対象物と結合しなかった磁性粒子と前記複合体とを前記レーザ光の照射領域から除去することを特徴とする。
【0017】
また、この発明にかかる分析プログラムは、上記いずれか一つに記載の分析方法を分析装置に実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、分析対象の抗原または抗体と結合する前に標識物質による反応前のラマン散乱光を測光し、複合体生成後に複合体と分析対象である抗原または抗体と結合しなかった磁性粒子とをレーザ光の照射領域から除去した状態で分析対象の抗原または抗体と結合しなかった標識物質による反応後のラマン散乱光を測光し、反応前のラマン散乱光の測光値と反応後のラマン散乱光の測光値との差または比を演算することによって、複合体そのものによるラマン散乱光を測定せずとも、複合体によるラマン散乱光の強度を取得できるため、複合体を凝集させた凝集体を形成する必要がなく、分析処理時間の短縮および分析精度の向上が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、実施の形態1にかかる分析装置の構成を示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示す測光部の構成を示す図である。
【図3】図3は、図1に示す分析装置による分析処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図4】図4は、図1に示す分析装置による分析処理を説明する図である。
【図5】図5は、図1に示す分析装置における攪拌処理後の反応時間と未反応粒子数との関係を示す図である。
【図6】図6は、図3に示す演算処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】図7は、図1に示す分析装置において得られるラマンスペクトル図である。
【図8】図8は、従来の分析処理を説明する図である。
【図9】図9は、図1に示す測光部の他の構成を示す図である。
【図10】図10は、図3に示す演算処理の他の処理手順を示すフローチャートである。
【図11】図11は、実施の形態2にかかる分析装置の構成を示す模式図である。
【図12】図12は、図11に示す集磁棒移送部および集磁棒洗浄部の概略を示す斜視図である。
【図13】図13は、図11に示す分析装置による分析処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図14】図14は、図13に示す反応前測定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図15】図15は、図13に示す反応前測定処理を説明する図である。
【図16】図16は、図13に示す反応後測定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図17】図17は、図13に示す反応後測定処理を説明する図である。
【図18】図18は、図13に示す演算処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図19】図19は、図12に示す演算処理の他の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明にかかる実施の形態である分析装置について、血液、尿または唾液などの体液検体に対してSERS分光分析法を用いて分析を行なう分析装置を例に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付している。
【0021】
(実施の形態1)
まず、実施の形態1について説明する。図1は、本実施の形態1にかかる分析装置の構成を示す模式図である。図1に示すように、実施の形態1にかかる分析装置1は、標識物質が含まれた反応容器内にレーザ光を発し、標識物質による表面増強されたラマン散乱光を測定する測定機構2と、測定機構2を含む分析装置1全体の制御を行なうとともに測定機構2における測定結果の分析を行なう制御機構4とを備える。分析装置1は、これらの二つの機構が連携することによって複数の検体に対する分析を自動的に行なう。
【0022】
測定機構2について説明する。測定機構2は、大別して、反応テーブル10、検体移送部19、検体分注部20、磁性試薬庫21、磁性試薬分注部22、プローブ洗浄部23、標識試薬庫24、標識試薬分注部25、プローブ洗浄部26、攪拌部27および測光部30を備える。
【0023】
反応テーブル10は、反応容器11を恒温保持しながら、反応容器11への検体や試薬の分注、反応容器11の攪拌、測光を行うために反応容器11を所定の位置まで移送する。この反応テーブル10は、後述する制御部41の制御のもと、図示しない駆動機構が駆動することによって、反応テーブル10の中心を通る鉛直線を回転軸として回動自在である。
【0024】
検体移送部19は、血液、尿または唾液等の液体検体を収容した複数の検体容器19aを保持し、図中の矢印方向に順次移送する複数の検体ラック19bを備える。検体移送部19上の検体吸引位置に移送された検体容器19a内の検体は、検体分注部20によって、反応テーブル10上に配列して搬送される反応容器11に分注される。
【0025】
検体分注部20は、鉛直方向への昇降および自身の基端部を通過する鉛直線を中心軸とする回転を自在に行うアームを備える。このアームの先端部には、検体の吸引および吐出を行う検体プローブが取り付けられている。検体分注部20は、図示しない吸排シリンジまたは圧電素子を用いた吸排機構を備える。検体分注部20は、上述した検体移送部19上の所定位置に移送された検体容器19aの中から検体プローブによって検体を吸引し、アームを図中反時計回りに旋回させ、反応テーブル10上の反応容器11内に検体を吐出する。
【0026】
磁性試薬庫21は、磁性試薬が収容された磁性試薬ボトル21aを複数収納できる。標識試薬庫24は、標識試薬が収容された標識試薬ボトル24aを複数収納できる。この磁性試薬ボトル21a内の磁性試薬、および、標識試薬ボトル24a内の標識試薬は、反応テーブル10の反応容器11内にそれぞれ分注される。磁性試薬庫21および標識試薬庫24は、図示しない駆動機構が駆動することによって、時計回りまたは反時計回りに回動自在であり、所望の試薬ボトルを磁性試薬分注部22または標識試薬分注部25による試薬吸引位置まで移送する。ここで、検体内の分析対象物は、たとえば、抗体、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、炭水化物、ホルモン、ステロイド、ビタミン、細菌、DNA、RNA、細胞、ウィルスに加え、任意の抗原物質、ハプテン、抗体およびこれらの組み合わせなどがある。磁性試薬は、分析対象である検体内の分析対象物と結合する抗原または抗体を固相した磁性粒子を含む試薬である。この磁性粒子は、磁界が及ぶ領域に位置する場合には、この磁界において磁力を有し、磁界発生源に引き寄せられる。標識試薬は、検体内の分析対象物と結合する標識物質を含む試薬である。標識物質は、原子レベルの表面粗さを持つ金、銀、銅または白金などの金属を含むナノ粒子であり、この粒子の表面には、分析対象物と結合可能である抗原または抗体がコーティングされている。この標識物質は、標識物質単体、あるいは、分析対象物と結合した複合体の状態であっても、レーザ光が照射された場合には表面増強されたラマン散乱光を発する。以後の説明では、標識物質として金粒子を用いた場合を例に説明する。
【0027】
磁性試薬分注部22は、磁性試薬の吸引および吐出を行なう試薬プローブが先端部に取り付けられ鉛直方向への昇降および自身の基端部を通過する鉛直線を中心軸とする回転を自在に行なうアームを備える。磁性試薬分注部22は、図示しない吸排シリンジまたは圧電素子を用いた吸排機構を備える。磁性試薬分注部22は、磁性試薬庫21によって所定位置に移動された磁性試薬ボトル21a内の試薬を、試薬プローブによって吸引し、アームを旋回させ、反応テーブル10によって磁性試薬吐出位置に搬送された反応容器11に分注する。標識試薬分注部25は、磁性試薬分注部22と同様の構成を有し、標識試薬庫24によって所定位置に移動された標識試薬ボトル24a内の試薬を、試薬プローブによって吸引し、アームを旋回させ、反応テーブル10によって標識試薬吐出位置に搬送された反応容器11に分注する。
【0028】
プローブ洗浄部23,26は、磁性試薬分注部22の試薬プローブの軌跡上、標識試薬分注部25の試薬プローブの軌跡上にそれぞれ配置され、試薬プローブの内側と外側との洗浄を行う。試薬分注が終了した試薬プローブは、プローブ洗浄部23,26によって洗浄された後、次の試薬の分注処理を行なう。
【0029】
攪拌部27は、反応容器11に分注された検体と試薬との攪拌を行い、反応を促進させる。反応容器11内に分注された検体、磁性試薬および標識試薬に含まれる磁性粒子、分析対象の抗体または抗原および標識物質は、攪拌部27によって攪拌されることによって反応が促進され、所定の反応時間を経過することによって、検体に含まれる分析対象物と磁性粒子と標識物質とが結合して複合体を生成する。この複合体は、磁性粒子を有する。また、この複合体は、標識物質を有するため、レーザ光が照射された場合には、この標識物質による表面増強されたラマン散乱光を発する。
【0030】
測光部30は、反応容器11内にレーザ光を照射して、反応容器11内の標識物質による表面増強されたラマン散乱光を測定する。測光部30は、たとえば図2に示すように、レーザ光源30a、ラマン分光計30bおよびレンズ30d,30e,30f,30gを備え、反応容器11側面に対し斜め方向からレーザ光を入射する構成を有する。レーザ光源30aから照射されたレーザ光Liは、レンズ30dによって平行光に揃えられた後、レンズ30eによって集光されて、反応容器11の側面に対し斜め方向から反応容器11内に入射する。このレーザ光Liは、反応容器11内の照射領域S1に位置する金粒子52に照射する。これによって、金粒子52表面で増強されたラマン散乱光Lfは、レンズ30fによって平行光に揃えられ、レンズ30gで集光された後、ラマン分光計30bに入射する。ラマン分光計30bの測定結果は、制御部41に出力され、分析部43は、この測定結果をもとに検体を分析する。
【0031】
そして、測光部30は、図2に示すように、反応容器11の外部であって、レーザ光源30aからのレーザ光Liの照射領域S1以外の領域に近接可能に設けられた永久磁石30cをさらに有する。この永久磁石30cは、上部に反応容器11が反応テーブル10によって移送された場合には、反応容器11の底面に近接する位置に配置される。そして、永久磁石30cは、反応容器11の底面のほぼ全面に近接できる大きさを有する。この永久磁石30cは、永久磁石30c上部に位置する反応容器11内部に磁界を発生させることによって、反応容器11内の磁性粒子、複合体を構成する磁性粒子を反応容器11底面側に集磁する。言い換えると、永久磁石30cは、永久磁石30c上部に位置する反応容器11内部に磁界を発生させることによって、反応容器11内の磁性粒子、複合体をレーザ光Liの照射領域S1から除去している。この永久磁石30cは、測光部30による測光位置にのみ設けられており、反応テーブル10の移送処理によって測光部30内の測光位置に移送された反応容器11が、反応容器11底面に永久磁石30cが近接するように位置することによって、内部の磁性粒子、複合体がレーザ光Liの照射領域S1から除去される。反応テーブル11によって測光位置以外に移送される反応容器11においては永久磁石30cによって集磁されることがないため、磁性粒子および複合体は、反応容器11内の液体中で分散した状態となっている。
【0032】
なお、分析処理が終了した反応容器11は、分析処理ごとに図示しない廃棄機構によって廃棄される。また、分析装置1は、図示しない容器洗浄機構を設けて、分析処理が終了した反応容器11を洗浄した後、再度分析処理に使用してもよい。この場合、容器洗浄機構は、ノズルによって、反応容器11内の混合液を吸引して排出するとともに、洗剤や洗浄水等の洗浄液を注入および吸引することで反応容器11を洗浄する。
【0033】
次に、制御機構4について説明する。制御機構4は、制御部41、入力部42、分析部43、記憶部44および出力部45を備える。測定機構2および制御機構4が備えるこれらの各部は、制御部41に電気的に接続されている。
【0034】
制御部41は、CPU等を用いて構成され、分析装置1の各部の処理および動作を制御する。制御部41は、これらの各構成部位に入出力される情報について所定の入出力制御を行い、かつ、この情報に対して所定の情報処理を行う。入力部42は、キーボード、マウス等を用いて構成され、検体の分析に必要な諸情報や分析動作の指示情報等を外部から取得する。分析部43は、測光部30から取得したラマン分光測光値に基づいて検体の分析を行う。記憶部44は、情報を磁気的に記憶するハードディスクと、分析装置1が処理を実行する際にその処理にかかわる各種プログラムをハードディスクからロードして電気的に記憶するメモリとを用いて構成され、検体の分析結果等を含む諸情報を記憶する。記憶部44は、CD−ROM、DVD−ROM、PCカード等の記憶媒体から情報を読み取ることができる補助記憶装置を備えてもよい。出力部45は、プリンタ、スピーカー等を用いて構成され、検体の分析結果を含む諸情報を出力する。出力部45は、図示しない通信ネットワークを介して所定の形式にしたがった情報を外部装置に出力してもよい。
【0035】
以上の構成を有する分析装置1においては、検体に含まれる分析対象物と磁性粒子と標識物質とが結合した複合体そのものによる散乱光の強度を測定するのではない。分析装置1では、分析対象物と結合する前の反応前の標識物質であって分注された標識物質の全量に相当するラマン散乱光の強度を測定し、さらに、反応促進処理による複合体生成後であって磁性粒子および複合体を除去した状態で、分析対象物と結合しなかった標識物質のラマン散乱光の強度を測定している。そして、分析装置1では、分注された反応前の標識物質の全量に相当するラマン散乱光の強度と、反応後であって分析対象物と結合しなかった標識物質によるラマン散乱光との差分値を求めることによって、間接的に複合体そのもののラマン散乱光の強度を取得し、この差分値をもとに検体中の分析対象物濃度を検出している。
【0036】
そこで、図3および図4を参照し、分析装置1の分析処理について詳細に説明する。図3は、図1に示す分析装置1による分析処理の処理手順を示すフローチャートであり、図4は、図1に示す分析装置1による分析処理を説明する図である。
【0037】
分析装置1では、分析処理開始が指示されることによって、図3および図4(1)に示すように、磁性試薬分注部22は、磁性試薬庫21によって所定位置に移送された磁性試薬ボトル21a内から磁性粒子51を含む磁性試薬を、反応テーブル10の磁性試薬分注位置に位置する反応容器11内に分注する磁性試薬分注処理を行なう(ステップS1)。次に、図4(2)に示すように、検体分注部20は、検体容器19a内から分析対象の検体を、磁性試薬が分注された反応容器11内に分注する(ステップS2)。検体内には、分析対象物である抗原50が含まれるほか、抗原50以外の夾雑物55も含まれており、検体分注処理においては、この夾雑物55も抗原50と一緒に反応容器11内に分注される。そして、図4(3)に示すように、標識試薬分注部25は、標識試薬庫24によって所定位置に移動された標識試薬ボトル24a内から、分析対象の抗原50と結合可能である金粒子52を含む標識試薬を、反応テーブル10の標識試薬分注位置に位置する反応容器11であって磁性試薬および検体が分注された反応容器11内に分注する標識試薬分注処理を行なう(ステップS3)。その後、反応テーブル10は、磁性試薬、検体および標識試薬が分注された反応容器11を攪拌部27による攪拌位置に移送し、攪拌部27は、この反応容器11内の液体を攪拌する攪拌処理を行なう(ステップS4)。
【0038】
攪拌部27による攪拌処理終了後、反応テーブル10は、磁性粒子51、抗原50および金粒子52の結合反応が進む前に、この反応容器11を測光部30による測光位置に移送する。測光部30においては、図2において説明したように、測光対象の反応容器11底面に永久磁石30cが近接した状態となる。
【0039】
この結果、図4(4)に示すように、反応容器11内の抗原50と結合前の磁性粒子51が永久磁石30cに近接した反応容器11底面に集磁される。言い換えると、抗原50と結合前の磁性粒子51は、レーザ光Liの照射領域から除去される。測光部30においては、この状態で、レーザ光源30aが反応容器11内にレーザ光Liを照射し、ラマン分光計30bは、抗原50と結合する前の金粒子52によるラマン散乱光Lfwの強度を測光する反応前測光処理(ステップS5)を行う。ここで、磁性粒子51は、標識物質である金粒子52の10倍以上の直径を有する上に、レーザ光Liを吸収する性質も有するため、磁性粒子51によって金粒子52へのレーザ光の到達が阻害される場合がある。反応前測光処理においては、この磁性粒子51をレーザ光Liの照射領域外に集磁することによって、反応容器11内の照射領域内に金粒子52および検体中の抗原50、夾雑物55のみが存在する状態で、分注された金粒子52の全量に相当するラマン散乱光を正確に測定している。なお、反応容器11底面のほぼ全面に永久磁石30cを近接して磁性粒子51の集磁を行うため、測光部30による集磁時間は約10秒程度の短時間で足りる。また、攪拌処理後の反応時間と未反応粒子数との関係を示す図5に示すように、反応前測光処理は、未反応粒子数が減少し始める前の期間Twの間であればいつ実行してもよく、たとえば、反応時間が5分経過したタイミングで実行する。なお、図4(4)では、測光部30における集光機構の図示を省略する。
【0040】
そして、この反応前測光処理が終了した後、攪拌部27は、この反応容器11に対して再度攪拌処理を行ない(ステップS6)、反応を促進させる。そして、分析装置1は、所定の時間、反応容器内で磁性粒子51、抗原50および金粒子52を特異的に結合させる抗原抗体反応を促進させる反応促進処理を行い(ステップS7)、図4(5)に示すように、反応容器11内に、磁性粒子51、抗原50および金粒子52が特異的に結合した複合体53を生成する。反応時間は、図5に示すように、減少していた未反応粒子数が一定となり、抗原との反応がほぼ終了したと考えられる期間Tuに含まれる時間まで行えば足りる。
【0041】
次いで、反応テーブル10は、所定の反応時間を経過し複合体が生成された反応容器11を測光部30による測光位置に移送する。測光部30においては、反応前測光処理(ステップS3)と同様に、図4(6)に示すように、測光対象の反応容器11底面に永久磁石30cが近接した状態となり、反応容器11内の磁性粒子51が反応容器11底面に集磁される。この複合体53形成後の反応容器11内においては、磁性体として、分析対象である抗原50と結合しなかった磁性粒子51の他に、複合体53を構成する磁性粒子が混在している。このため、複合体53形成後の反応容器11においては、これらの磁性粒子51および複合体53の磁性粒子が、永久磁石30cによって反応容器11底面に集磁される。これにともない、抗原50と結合し複合体53を構成する金粒子も反応容器11底面側に集磁され、レーザ光Liの照射領域から除去されることとなる。
【0042】
測光部30は、この状態で、レーザ光源30aが反応容器11内にレーザ光Liを照射し、ラマン分光計30bは、分析対象物である抗原50と結合しなかった金粒子52によるラマン散乱光Lfuの強度を測光する反応後測光処理(ステップS8)を行う。この反応後測光処理においては、磁性粒子51および複合体53を構成する磁性粒子をレーザ光Li照射領域外に集磁することによって、反応容器11内の照射領域内に、抗原50と結合しなかった金粒子52および検体中の夾雑物55のみが存在する状態で、抗原50と結合しなかった金粒子52に相当するラマン散乱光を正確に測定している。なお、分析装置1では、反応容器11底面のほぼ全面に永久磁石30cを近接して磁性粒子51および複合体53の磁性粒子の集磁を行うため、効率的な集磁処理が可能となり、測光部30による集磁時間は約10秒程度の短時間で足りる。また、攪拌処理後の反応時間と未反応粒子数との関係を示す図5に示すように、反応後測光処理は、減少していた未反応粒子数が一定となり、抗原との反応がほぼ終了したと考えられる期間Tuの間であればいつ実行してもよく、たとえば、反応時間が35分経過したタイミングで実行する。また、図4(6)では、測光部30における集光機構の図示を省略する。
【0043】
そして、分析部43は、反応前測光処理(ステップS3)における測光値と、反応後測光処理における測光値をもとに、分析対象の抗原50の検体における濃度を求める演算処理を行なう(ステップS9)。その後、出力部45が、分析部43が求めた抗原50の濃度を出力する出力処理を行ない(ステップS10)、分析装置1における分析処理を終了する。なお、制御部41は、分析部43が求めた抗原50の濃度を記憶部44に記憶させてもよい。
【0044】
次に、図3に示す演算処理について、図6を参照して説明する。図6は、図3に示す演算処理の処理手順を示すフローチャートである。図6に示すように、分析部43は、反応前測光値を取得し(ステップS20)、反応後測光値を取得する(ステップS22)。そして、分析部43は、取得した反応前測光値と反応後測光値との差分値を演算する(ステップS24)。
【0045】
具体的には、ラマン分光計30bでラマン散乱光を測定することによって、測定結果として、図7に示すような縦軸にラマン散乱強度、横軸にラマンシフトをとるラマンスペクトルを得ることができる。ここで、図7に示す曲線Lwは、反応前測光処理において得られたラマンスペクトルであり、曲線Luは、反応後測光処理において得られたラマンスペクトルである。分析部43は、曲線Lwにおける最大強度値から基底値を減算した値Iwを反応前測光値として取得し、曲線Luにおける最大強度値から基底値を減算した値Iuを反応前測光値として取得する。
【0046】
この反応前測光値は、前述したように、反応容器11内に分注された金粒子52の全量に相当するラマン散乱光の強度に相当する。そして、反応後測光値は、前述したように、複合体53を除去しているため、抗原50と結合しなかった金粒子52に相当するラマン散乱光の強度に相当する。このため、反応前測光値と反応後測光値との差分値は、反応後測光処理においてレーザ光Liの照射領域から除去された、抗原50と結合し複合体53を構成する金粒子によるラマン散乱光の強度に相当する。すなわち、反応前測光値と反応後測光値との差分値は、複合体53によるラマン散乱光の強度に相当する。分析装置1においては、分析部43が反応前測光値と反応後測光値との差分値を演算することによって、複合体53によるラマン散乱光の強度を間接的に取得している。
【0047】
そして、分析部43は、この複合体53によるラマン散乱光の強度に相当する差分値をもとに、この差分値に対応した分析値を演算して(ステップS26)、制御部41に演算結果を出力し、演算処理を終了する。
【0048】
このように、分析装置1においては、分析装置1では、分析対象物と結合する前の反応前の標識物質によるラマン散乱光の強度を測定し、反応促進処理による複合体生成後であって複合体を除去した状態で分析対象物と結合しなかった標識物質のラマン散乱光の強度を測定し、反応前の標識物質によるラマン散乱光の強度と、反応後であって分析対象物と結合しなかった標識物質によるラマン散乱光との差分値を求めることによって、間接的に複合体そのもののラマン散乱光の強度を取得して検体中の分析対象物濃度を検出している。
【0049】
ここで、従来の分析処理について説明する。従来では、図8(1)〜図8(3)に示すように、磁性粒子51、抗原50および夾雑物55を含む検体、および、金粒子52を分注した後、図8(4)に示すように、これらを反応させて、複合体53を形成する。次いで、従来では、図8(5)に示すように、先端が尖った永久磁石130cを反応容器11底面に近接させて複合体53を凝集させた凝集体54を反応容器11底面に形成する。そして、従来では、図8(6)に示すように、この凝集体54にレーザ光源130aからのレーザ光Li0を照射し、凝集体54による表面増強されたラマン散乱光Lf0をラマン分光計130bが測定していた。
【0050】
このような従来の分析処理では、常に一定の形状の凝集体が形成されるのではなく、複合体53の分散状態などに応じて凝集体54の形および大きさにばらつきが生じる。この凝集体54の形状ばらつきの結果、この凝集体54へのレーザ光Li0の照射状態にも差が生じることから、ラマン分光計130bが測定するラマン散乱光Lf0の強度もばらついてしまい、高精度の分析を行うことができないという問題があった。
【0051】
実際に、従来の分析処理にしたがって形成した凝集体54からのラマン散乱光の測定結果を表1に示す。表1は、この従来の分析処理を同条件下のもと10回行なった場合における各ラマン散乱光の測定値と、変動係数CV(Coefficient of Variation)値とを示す表である。また、使用した検体にはTSH抗原が200〔μIU/ml〕の濃度で含まれる。なお、変動係数CV値は、標準偏差を平均で割った値を100分比で示したものであり、平均値に対する相対誤差を示すものである。
【0052】
【表1】

【0053】
この表1に示すように、従来の分析処理にしたがって凝集体54を形成した場合、各ラマン散乱光のCV値は、4.3%と非常に高い値を示す。この表1に示すように、従来の分析処理を用いた場合、測光処理によって得られるラマン散乱光の強度はばらつきを大きく含んだものであることから、この測光値をもとに演算される分析結果もばらつきを含むものとなっていた。
【0054】
これに対し、本実施の形態1にかかる分析装置1は、従来のように凝集形状にばらつきが生じる凝集体54からのラマン散乱光、すなわち、複合体53そのものによるラマン散乱光を測定していない。分析装置1では、分析対象物と結合する前の金粒子52の全量に相当するラマン散乱光の強度を測定し、さらに、反応促進処理による複合体生成後であって複合体を除去した状態で、分析対象物と結合しなかった金粒子52のラマン散乱光の強度を測定している。そして、分析装置1は、いずれの測光処理においても、金粒子52の10倍以上の直径を有する上にレーザ光Liを吸収する性質も有する磁性粒子51を除去し、検体由来の夾雑物と測定対象となる金粒子52のみが分散する状態で、測定対象となる金粒子52によるラマン散乱光を測定する。言い換えると、分析装置1は、金粒子52へのレーザ光の到達が阻害されることない状態で、分注された金粒子52の全量に相当するラマン散乱光と、分析対象物と結合しなかった金粒子52のラマン散乱光との双方を測定することができるため、分注された金粒子52の全量に相当するラマン散乱光の強度と、分析対象物と結合しなかった金粒子52のラマン散乱光の強度とのいずれについても正確な値を取得することができる。
【0055】
そして、分析装置1は、この反応前の金粒子52の全量に相当するラマン散乱光の強度と、反応後であって分析対象物と結合しなかった標識物質によるラマン散乱光の強度との差分値を求めることによって、間接的に複合体のラマン散乱光の強度を取得し、この差分値をもとに検体中の分析対象物濃度を検出している。したがって、分析装置1は、この反応前の金粒子52の全量に相当するラマン散乱光の強度と、反応後であって分析対象物と結合しなかった標識物質によるラマン散乱光の強度とのいずれをも正確に取得することができるため、この反応前測光値と反応後測光値とを用いることによって、複合体そのもののラマン散乱光の強度についても正確な値を取得することができる。
【0056】
実際に、本分析装置1において図3および図4に示す分析処理を行なった場合における、反応前測光処理と反応後測光処理の結果を表2に示す。表2は、表1の場合と同検体について、分析装置1において分析処理を同条件下のもと10回行なった場合における各反応前測光処理における反応前測光値と、反応後測光処理における反応後測光値と、反応前測光値および反応後測光値の差分値と、各値の変動係数CV値とを示す表である。
【0057】
【表2】

【0058】
この表2に示すように、分析装置1においては、反応前測光値のCV値は0.65%であり、反応後測光値のCV値は1.30%であり、ともに従来と比較して低い値を示す。これは、磁性粒子51および複合体53の磁性粒子をレーザ光Liの照射領域外に除外した状態で反応前測光処理および反応後測光処理を行なっていることから、金粒子52へのレーザ光の到達が阻害されることのない状態で、反応前の金粒子52の全量に相当するラマン散乱光と、反応後であって分析対象物と結合しなかった標識物質によるラマン散乱光とを正確に測光できるためである。
【0059】
そして、表2に示すように、反応前測光値と反応後測光値との差分値のCV値は、0.59%と非常に低い値を示している。これは、反応前測光値と反応後測光値はともにばらつきが小さいため、これらの差分値もばらつきが小さくなるからである。この差分値は、複合体53そのもののラマン散乱光の強度に対応するため、分析装置1においては、この差分値を演算することによって、非常にばらつきが小さい複合体53そのもののラマン散乱光の強度を安定して取得することができる。さらに、分析装置1では、反応前測光処理を行った反応容器11と同じ反応容器に対して、反応後測光処理を行っているため、反応容器差に起因する測光誤差も考慮する必要がない。したがって、分析装置1は、従来と比較し、格段に分析精度を向上させることができる。
【0060】
また、従来の分析方法では、図8(5)に示すように、複合体53を凝集させるために先端が尖った永久磁石130cを用いることから反応容器に近接する磁石面積が小さくなるため、ラマン散乱光を検出できる大きさにまで複合体を凝集させるには長い時間が必要となり、分析処理全体の処理時間が長時間化してしまうという問題があった。具体的には、従来の分析処理では、複合体53形成のための反応時間として、約40分の時間が必要であるうえに、凝集体54を形成する集磁処理に約2分もの処理時間が必要であった。したがって、従来の分析装置においては、単位時間あたりの検体処理数を高めることに限界があり、分析処理の処理能力を向上させることができなかった。
【0061】
これに対し、分析装置1では、複合体53そのもののラマン散乱光を測定しているわけではないので、反応前測光処理および反応後測光処理においては、集磁形状に関係なく磁性粒子51、複合体53の磁性粒子を反応容器11底面側に集磁できれば足りる。このため、分析装置1では、図4(5)および図4(6)に示すように、反応容器11の底面のほぼ全面に近接できる大きな永久磁石30cを用いることが可能になり、反応容器11内の磁性粒子51、複合体53の磁性粒子51を効率よく反応容器11底面に集磁することができる。実際に、分析装置1が行う反応前測光処理および反応後測光処理における集磁時間は、前述したように約10秒程度の短時間で足りる。したがって、本実施の形態1にかかる分析装置1によれば、従来よりも確実に分析処理全体の処理時間の短縮が可能になり、単位時間あたりの検体処理数を高めて分析処理の処理能力を向上させることができる。もちろん、分析装置1は、図1に示すように、複雑な装置構成を取らずとも、複数の反応容器に対して複数の各分析処理を同一の装置内で並行して実行可能であるため、各処理を停滞させることなく速やかに進めることができる。
【0062】
なお、本実施の形態1では、図2に示した構成を有する測光部30を例として説明したが、もちろん図2に示す構成に限らない。たとえば、永久磁石30cは、反応容器11内の磁性粒子、複合体を構成する磁性粒子を反応容器11底面側に集磁できるのであれば、反応容器11の底面の全面ではなく、反応容器11の底面の少なくとも一部に近接していてもよい。測光部30は、たとえば、図9に示すように、反応容器11底面に対し斜め方向からレーザ光を入射する構成であってもよい。この場合、反応容器11下方のレーザ光源30aから照射されたレーザ光Liは、レンズ30dによって平行光に収束された後、レンズ30eによって集光されて、反応容器11の底面に対し斜め方向から入射する。このレーザ光Liは、反応容器11内の照射領域S11に位置する金粒子52に照射する。これによって、金粒子52表面で増強されたラマン散乱光Lfは、レンズ30fによって平行光に収束され、レンズ30gで集光された後、ラマン分光計30bに入射する。
【0063】
また、測光部30の永久磁石30cは、レーザ光源30aからのレーザ光Liの照射領域S11以外の領域に近接できる位置であれば、図9に示すように、反応容器11の側面側外部に位置していてもよい。また、この永久磁石30cは、単数のみならず、図12に示すように複数設けられていてもよい。さらに、測光部30は、永久磁石30cに代えて、磁性体によって形成される導線を巻回したコイルによって形成される電磁石を磁界発生部材として用いてもよい。この場合、制御部41は、電磁石に供給する電流を制御することによって、電磁石による磁界の発生および停止を制御し、少なくとも測光部30の測光位置に測光対象の反応容器が位置する間は、電流を供給して電磁石から磁界を発生させる。
【0064】
また、実施の形態1では、分析部43は、反応前測光値と反応後測光値との差分値を演算することによって、複合体の標識物質のラマン散乱光の強度を取得したが、反応前測光値と反応後測光値との比を演算することによって、複合体の標識物質のラマン散乱光の相対強度を取得して、検体中の分析対象物濃度を検出してもよい。
【0065】
この場合、図10のフローチャートに示すように、分析部43は、図6に示すステップS20〜ステップS23と同様に、反応前測光値を取得し(ステップS120)、反応後測光値を取得する(ステップS122)。そして、分析部43は、反応前測光値と反応後測光値との比を演算し(ステップS124)、この演算した比に対する分析値を演算して(ステップS126)、制御部41に演算結果を出力し、演算処理を終了する。この演算した比は、反応容器11内に分注された標識試薬の濃度に対する複合体の標識物質のラマン散乱光の相対強度に相当し、分析部43は、反応容器11内に分注された標識試薬の濃度と、演算した比の値とをもとに、検体における分析対象の抗原または抗体の濃度を演算する。
【0066】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。本実施の形態2にかかる分析装置では、反応容器内の磁性粒子および複合体を、反応容器内に直接挿入可能である集磁棒を用いて反応容器11外に除去することによって、磁性粒子、複合体をレーザ光の照射領域から除去している。
【0067】
図11は、実施の形態2にかかる分析装置の構成を示す図である。図11に示すように、実施の形態2にかかる分析装置201においては、図1に示す分析装置1と比して、測定機構202は、反応テーブル10に代えて反応テーブル210と、測光部30に代えて測光部230とを有し、磁性体を集磁可能である集磁棒を移送する集磁棒移送部228と、集磁棒を洗浄する集磁棒洗浄部229とをさらに備える。分析装置201の制御機構204は、分析装置1と比して、制御部41に代えて、集磁棒移送部228および集磁棒洗浄部229の処理動作についても制御する制御部241と、分析部43と同様の処理手順を行って検体を分析する分析部243とを備える。反応テーブル210は、集磁棒移送部228による集磁位置にも反応容器11を移送する。測光部230は、測光部30と比較し、図2に示す永久磁石30cを省いた構成を有する。
【0068】
集磁棒移送部228は、図12に示すように、磁界を発生する集磁棒228aが先端部に取り付けられ昇降および回転を自在に行なうアーム228bを有する。集磁棒移送部228は、検体および試薬を収容し反応テーブル10の所定の集磁位置に位置する反応容器11の内部、または、後述する集磁棒洗浄部229による洗浄位置に集磁棒228aを移送する。具体的には、集磁棒移送部228は、所定の軌跡L2にしたがって、反応テーブル10に移送される反応容器11であって軌跡L1上の所定の集磁位置に位置する反応容器11の内部、または、集磁棒洗浄部229の洗浄槽229a内部に、集磁棒228aを移送する。
【0069】
集磁棒移送部228は、図12に示すように、アーム228bの他端に接続し、このアーム228bの他端を通過する鉛直線が中心軸である支柱228cを有する。そして、集磁棒移送部228は、この支柱228cを回転させる回転機構228dと支柱228cを昇降させる昇降機構228eとを有する。
【0070】
回転機構228dは、プーリ2282dに接続するとともに装置本体の不動部分に固定された回転用モータ2281dと、支柱228cに一体となって設けられたプーリ2284dと、プーリ2282dおよびプーリ2284dに掛け渡された回転用ベルト2283dとを備える。回転用モータ2281dが時計回りまたは反時計回りに対応する向きで回転した場合、回転用モータ2281dの回転がプーリ2282d、回転用ベルト2283d、プーリ2284dに順次伝達することによって支柱228cが中心軸の回りを時計回りまたは反時計回りに回転する。この支柱228cの回転によって、支柱228cが接続するアーム228bが矢印Y5のように軌跡L2に沿って回転する。
【0071】
昇降機構228eは、プーリ2282eに接続するとともに分析装置1内部の不動部分に固定された昇降用モータ2281eと、支柱228c下端に一体となって設けられた昇降板2286eと、支柱228cと平行となるように分析装置1内部の不動部分に固定され下端にプーリ2284eが設けられたネジ軸2285eと、プーリ2282eおよびプーリ2284eに掛け渡された昇降用ベルト2283eとを備える。ネジ軸2285eは、昇降板2286e内を貫通しており、昇降板2286eとネジ軸2285eとは、たとえばボールねじ機構を構成している。昇降用モータ2281eが上昇方向または下降方向に対応する向きで回転した場合、昇降用モータ2281eの回転がプーリ2282e、昇降用ベルト2283e、プーリ2284eに順次伝達することによってネジ軸2285eが回転し、このネジ軸2285eの回転にともない昇降板2286eが上昇または下降することによって、支柱228cが上昇または下降する。この支柱228cの昇降によって、支柱228cが接続するアーム228bも矢印Y6のように昇降する。
【0072】
集磁棒移送部228は、検体、磁性試薬および標識試薬が分注され、複合体が生成された反応容器11内に集磁棒228aを挿入する。反応容器11内に挿入された集磁棒228aは、反応容器11内に磁界を発生させることによって、集磁棒228a表面に反応容器11内の磁性粒子、複合体における磁性粒子を吸着して集磁する。その後、集磁棒移送部228は、アーム228bを上昇させ、さらにアーム228bを回転させて、集磁棒228aを反応容器11に移送することによって、反応容器11内の磁性粒子、複合体を反応容器11外に除去する。次いで、集磁棒移送部228は、後述する集磁棒洗浄部229における洗浄槽229a上に集磁棒228aを移送した後、アーム228bを下降することによって洗浄槽229a内に集磁棒228aを挿入する。これによって、集磁棒228aは、洗浄槽229a内で洗浄される。
【0073】
集磁棒洗浄部229は、図12に示すように、洗浄槽229aと、洗浄槽229a側面に接続され、洗浄液タンクと接続し洗浄液を供給する洗浄液供給管229bと、洗浄槽229a底面に接続され、排液タンクと接続し洗浄液等を排出する排液管229cとを有し、集磁棒228aを洗浄する。
【0074】
本実施の形態2にかかる分析装置201では、集磁棒移送部228の動作処理によって、反応容器11の液体内に集磁棒228aを直接挿入し反応容器11内の磁性粒子、複合体を集磁棒228a表面に集磁させた状態で、この集磁棒228aを反応容器11外に移送することによって、磁性粒子、複合体を反応容器11外に除去している。これによって、分析装置201では、磁性粒子、複合体をレーザ光の照射領域から除去している。なお、集磁棒228a表面に集磁された磁性粒子および複合体は、集磁棒洗浄部229による集磁棒228aの洗浄処理によって、集磁棒228aの表面から取り除かれる。
【0075】
そして、本実施の形態2にかかる分析装置201では、反応前測光処理と反応後測光処理とは、同一の反応容器ではなく、異なる反応容器11に対してそれぞれ行っている。分析装置201は、検体ごとに、予め反応前測光処理用の反応容器11に対し反応前測光処理を行う。そして、分析装置201は、同一の検体に対しては、この反応前測光処理による測光値をレファレンスデータとしている。すなわち、分析装置201は、同一の検体に対して複数回の分析処理を指示された場合には、各分析処理ごとに反応前測定処理を行なうのではなく、反応前測定処理を一度だけ実施し、この反応前測定処理による反応前測光値をレファレンスデータとして、各分析処理の各反応後測光処理の測光値との差分値を演算し、検体中の分析対象物の濃度検出を行っている。
【0076】
具体的に、分析装置201の分析処理について詳細に説明する。図13は、図11に示す分析装置201による分析処理の処理手順を示すフローチャートである。図13に示すように、分析装置201は、所定の検体に対して所定項目の分析処理が指示されることによって、まず、反応前測光処理用の反応容器11に対して、磁性試薬、検体および標識試薬を分注し、磁性試薬、検体中の抗原および金粒子の結合反応が進む前に抗原と結合前の磁性粒子を反応容器11外に除去し、その後、抗原と結合する前の金粒子によるラマン散乱光の強度を測光する反応前測定処理(ステップS202)を行う。
【0077】
次いで、分析装置201は、反応前測定処理において使用された反応容器11とは異なる反応容器11に対して、磁性試薬、検体および標識試薬を分注し、磁性試薬中の磁性粒子、検体中の抗原および金粒子の結合反応によって複合体が生成された後に磁性粒子および複合体を反応容器11外に除去し、その後、分析対象物である抗原と結合しなかった金粒子によるラマン散乱光の強度を測光する反応後測定処理(ステップS204)を行う。
【0078】
次に、分析装置201では、制御部241が分析対象の検体に対して指示された全回数の測定処理を終了したか否かを判断する(ステップS206)。制御部241は、分析対象の検体に対して、指示された全回数の測定処理を終了していないと判断した場合(ステップS206:No)、ステップS204に戻り、新たな反応容器11に対して反応後測定処理を行なう。これに対し、制御部241が分析対象の検体に対して、指示された全回数の測定処理を終了したと判断した場合(ステップS206:Yes)、分析部243は、反応前測光処理(ステップS202)における測光値と、各反応後測光処理(ステップS204)における測光値をもとに、分析対象の抗原50の検体における濃度を求める演算処理を行なう(ステップS208)。その後、出力部45が、分析部43が求めた抗原の濃度を出力する出力処理を行ない(ステップS210)、分析装置1における分析処理を終了する。
【0079】
次に、図14および図15を参照して、図13に示す反応前測定処理について説明する。図14は、図13に示す反応前測定処理の処理手順を示すフローチャートであり、図15は、図13に示す反応前測定処理を説明する図である。
【0080】
分析装置201では、まず、図14および図15(1)の矢印Y21〜Y23に示すように、磁性試薬分注部22が反応前測定処理用の反応容器11a内に磁性粒子51を含む磁性試薬を分注する磁性試薬分注処理(ステップS220)と、検体分注部20が反応前測定処理用の反応容器11a内に抗原50および夾雑物55を含む検体を分注する検体分注処理(ステップS222)と、標識試薬分注部25が反応前測定処理用の反応容器11a内に金粒子52を含む標識試薬を分注する標識試薬分注処理(ステップS224)とを行う。そして、攪拌部27は、磁性試薬、検体および標識試薬が分注されたこの反応容器11a内の液体を攪拌する攪拌処理を行なう(ステップS226)。その後、反応テーブル210は、磁性粒子51、抗原50および金粒子52の結合反応が進む前に、この反応容器11aを所定の集磁位置に移送する。
【0081】
そして、集磁棒移送部228は、この反応容器11aから磁性粒子51を除去する磁性体除去処理を行なう(ステップS228)。具体的には、まず、集磁棒移送部228は、この磁性粒子51、抗原50、夾雑物55および金粒子52が分散する反応容器11a内部に、図15(2)の矢印Y25に示すように集磁棒228aを挿入する。そして、集磁棒228aによる反応容器11a内に発生した磁界によって、集磁棒228a表面に磁性粒子51が引き寄せられて吸着する。このように集磁棒228a表面に磁性粒子51を集磁した状態で、集磁棒移送部228は、図15(3)の矢印Y26に示すように、集磁棒228aを引き上げ、この集磁棒228aを反応容器11a外に移送する。この結果、この反応前測定処理用の反応容器11a内には、抗原50、夾雑物55および抗原50と結合する前の金粒子52のみが含まれることとなる。すなわち、抗原50と結合前の磁性粒子がレーザ光の照射領域から除去されることとなる。なお、分析装置201では、反応容器11aの液体内に直接集磁棒228aを挿入して磁性粒子51の集磁を行うため、効率的な集磁処理が可能となり、集磁棒228aによる集磁時間は約10秒程度の短時間で足りる。
【0082】
次いで、反応テーブル10は、この抗原50、夾雑物55および抗原50と結合する前の金粒子52のみが含まれる反応容器11aを測光部230の測光位置に移送する。そして、図15(4)に示すように、測光部230においては、レーザ光源30aが反応容器11a内にレーザ光Liを照射し、ラマン分光計30bは、抗原50と結合する前の金粒子52によるラマン散乱光Lfwの強度を測光する反応前測光処理(ステップS230)が行われる。この反応前測光処理においては、磁性粒子51が反応容器11a外に除去されているため、反応容器11内の照射領域内に金粒子52および検体中の抗原50、夾雑物55のみが存在する状態で、分注された金粒子52の全量に相当するラマン散乱光を正確に測定している。なお、図15(4)では、測光部230における集光機構の図示を省略する。
【0083】
次に、測光部230によって、この反応前測光処理における測光値が制御部241に出力されることによって、反応前測定処理は終了する。この反応前測定処理は、同一の検体に対してであれば、一度行うのみでよい。なお、反応前測定処理に使用された反応容器11aは、廃棄されるほか、洗浄後、再度分析処理に使用されてもよい。
【0084】
次に、図16および図17を参照して、図13に示す反応後測定処理について説明する。図16は、図13に示す反応後測定処理の処理手順を示すフローチャートであり、図17は、図13に示す反応後測定処理を説明する図である。
【0085】
反応後測定処理では、分析装置201において、図16および図17(1)の矢印Y31〜Y32に示すように、反応前測定処理用の反応容器11aとは別の反応後測定処理用の反応容器11bに、反応前測定処理における各分注処理において分注された各液体と同種および同量の液体がそれぞれ分注される。具体的には、磁性試薬分注部22が反応前測定処理において分注された磁性試薬と同種および同量の磁性試薬を反応後測定処理用の反応容器11b内に分注する磁性試薬分注処理(ステップS240)と、検体分注部20が反応前測定処理において分注された磁性試薬と同種および同量の検体を反応後測定処理用の反応容器11b内に分注する検体分注処理(ステップS242)と、標識試薬分注部25が反応前測定処理において分注された磁性試薬と同種および同量の標識試薬を反応後測定処理用の反応容器11b内に分注する標識試薬分注処理(ステップS244)とが行われる。したがって、図17(2)に示すように、反応後測定処理用の反応容器11b内では、図15(2)に示す反応前測定処理における各液体分注処理後の反応容器11a内と同じ状態で磁性粒子51、抗原50、夾雑物55および金粒子52が分散するとみなしてもよい。
【0086】
そして、攪拌部27は、この反応容器11b内の液体を攪拌する攪拌処理を行なって(ステップS246)、反応を促進させる。そして、分析装置201は、所定の時間、反応容器11b内で磁性粒子51、抗原50および金粒子52を特異的に結合させる抗原抗体反応を促進させる反応促進処理を行い(ステップS247)、図17(3)に示すように、反応容器11b内に、磁性粒子51、抗原50および金粒子52が特異的に結合した複合体53を生成する。
【0087】
そして、集磁棒移送部228は、この反応容器11bから磁性粒子51および複合体53の磁性粒子を除去する磁性体除去処理を行なう(ステップS248)。具体的には、集磁棒移送部228は、反応前測定処理における磁性体除去処理と同様に、磁性粒子51、抗原50、夾雑物55、金粒子52および複合体53が分散する反応容器11b内部に、図17(3)の矢印Y35に示すように集磁棒228aを挿入する。そして、集磁棒228aによる反応容器11b内に発生した磁界によって、集磁棒228a表面に磁性粒子51および複合体53の磁性粒子が引き寄せられて吸着する。このように集磁棒228a表面に磁性粒子51および複合体53の磁性粒子を集磁した状態で、集磁棒移送部228は、図17(4)の矢印Y36に示すように、集磁棒228aを引き上げ、この集磁棒228aを反応容器11b外に移送する。この結果、この反応後測定処理用の反応容器11b内には、夾雑物55および分析対象物である抗原50と結合しなかった金粒子52のみが含まれることとなる。なお、この磁性体除去処理では、反応前測定処理における磁性体除去処理と同様に、反応容器11bの液体内に直接集磁棒228aを挿入して磁性粒子51の集磁を行うため、効率的な集磁処理が可能となり、集磁棒228aによる集磁時間は約10秒程度の短時間で足りる。
【0088】
次いで、反応テーブル10は、夾雑物55および分析対象物である抗原50と結合しなかった金粒子52のみが含まれる反応容器11bを測光部230の測光位置に移送する。そして、図17(5)に示すように、測光部230においては、レーザ光源30aが反応容器11b内にレーザ光Liを照射し、ラマン分光計30bは、抗原50と結合しなかった金粒子52によるラマン散乱光Lfuの強度を測光する反応後測光処理(ステップS250)が行われる。この反応後測光処理においては、複合体53の磁性粒子および抗原50と結合しなかった磁性粒子51が反応容器11b外に除去されているため、反応容器11内の照射領域内に夾雑物55と抗原50と結合しなかった金粒子52のみが存在する状態で、抗原50と結合しなかった金粒子52に相当するラマン散乱光を正確に測定できる。なお、図17(5)では、測光部230における集光機構の図示を省略する。
【0089】
次に、測光部230によって、この反応後測光処理における測光値が制御部241に出力されることによって、反応後測定処理は終了する。この反応後測定処理は、図13に示すように、同一の検体に対して分析処理が複数回指示される場合には、各指示された処理内容ごとにそれぞれ実行される。なお、反応前測定処理に使用された反応容器11bは、廃棄されるほか、洗浄後、再度分析処理に使用されてもよい。
【0090】
次に、図18を参照して、図13に示す演算処理について説明する。図18は、図13に示す演算処理の処理手順を示すフローチャートである。図18に示すように、分析部243は、分析対象の検体の反応前測定処理での反応前測光値を取得する(ステップS260)。この反応前測光値は、同一の検体に対して反応後測定処理における反応容器11bとは異なる反応容器11aに対して行なわれたものをレファレンスとして用いる。次いで、分析部243は、この検体の反応後測定処理での反応後測光値を取得する(ステップS262)。そして、分析部243は、取得した反応前測光値と反応後測光値との差分値を演算する(ステップS264)。分析装置201においては、分析装置1と同様に、分析部243が反応前測光値と反応後測光値との差分値を演算することによって、抗原50と結合し複合体53を構成する金粒子52によるラマン散乱光の強度を間接的に取得している。そして、分析部243は、この抗原50と結合し複合体53を構成する金粒子52によるラマン散乱光の強度に相当する差分値をもとに、この差分値に対応した分析値を演算して(ステップS266)、制御部241に演算結果を出力する。次いで、分析部243は、指示された全回数の演算処理を終了したか否かを判断する(ステップS268)。分析部243は、指示された全回数の演算処理を終了していないと判断した場合には(ステップS268:No)、ステップS260に戻り、再度、処理対象の検体に対応する反応前測光値の取得を行う。これに対し、分析部243は、指示された全階数の演算処理を終了したと判断した場合には(ステップS268:Yes)、演算処理を終了する。
【0091】
このように、分析装置201においては、実施の形態1と同様に、磁性粒子51、複合体53の磁性粒子を反応容器11から除去し、金粒子52へのレーザ光の到達が阻害されることのない状態で、分注された金粒子52の全量に相当するラマン散乱光と、分析対象物と結合しなかった金粒子52のラマン散乱光とを正確に測定することができる。したがって、分析装置201は、反応前の金粒子52の全量に相当するラマン散乱光の強度と、反応後であって分析対象物と結合しなかった標識物質によるラマン散乱光の強度との差分値を求めることによって、複合体53そのもののラマン散乱光の強度についても正確な値を取得することができ、格段に分析精度を向上させることができる。
【0092】
また、分析装置201では、反応容器11の液体内に直接集磁棒228aを挿入して磁性粒子51の集磁を行うため、反応容器11内の磁性粒子51、複合体53の磁性粒子を効率よく集磁することができる。したがって、分析装置201では、実施の形態1と同様に、従来よりも確実に分析処理全体の処理時間を短縮が可能になり、単位時間あたりの検体処理数を高めて分析処理の処理能力を向上させることができる。
【0093】
さらに、分析装置201では、同一の検体に対して複数回分析処理を指示された場合には、反応前測光処理はレファレンスとして一度行えば足りる。このため、分析装置201では、各分析処理ごとに反応前測光処理および反応後測光処理の双方の処理を行う必要はない。言い換えると、分析装置201では、同一の検体に対して複数回分析処理を指示された場合には、反応前測光処理を1回行なって反応後測光値を取得すれば、この検体に対する以降の処理については反応後測光値を取るだけで足りる。したがって、分析装置201では、一つの分析結果を得るために必ずしも2度の測光処理を行なう必要がないことから、この検体に対しての全処理時間自体を短縮できる。
【0094】
なお、実施の形態2では、実施の形態1と同様に、分析部243は、反応前測光値と反応後測光値との差分値を演算することによって、複合体の標識物質のラマン散乱光の強度を取得したが、反応前測光値と反応後測光値との比を演算することによって、複合体の標識物質のラマン散乱光の相対強度を取得して、検体中の分析対象物濃度を検出してもよい。
【0095】
この場合、図19のフローチャートに示すように、分析部243は、図18に示すステップS260およびステップS262と同様に、反応前測光値を取得し(ステップS260)、反応後測光値を取得する(ステップS362)。そして、分析部243は、反応前測光値と反応後測光値との比を演算し(ステップS364)、この演算した比に対する分析値を演算して(ステップS366)、制御部41に演算結果を出力する。次いで、分析部243は、指示された全回数の演算処理を終了したか否かを判断する(ステップS368)。分析部243は、指示された全回数の演算処理を終了していないと判断した場合には(ステップS368:No)、ステップS360に戻り、再度、処理対象の検体に対応する反応前測光値の取得を行う。これに対し、分析部243は、指示された全階数の演算処理を終了したと判断した場合には(ステップS368:Yes)、演算処理を終了する。
【0096】
また、分析装置1,201においては、予め、標識試薬の反応容器11内における濃度を変えた反応前測定処理をそれぞれ行ない、各標識試薬の濃度に対する各反応前測光値を取得し、標識試薬の濃度と反応前測光値との関係を示す検量線を作成することによって、反応前測定処理を省略することも可能である。この場合、分析部243は、反応前測光値として、検量線から標識試薬の反応容器11内における濃度に対応する測光値を取得して演算処理を行なえばよい。
【0097】
また、分析装置1,201においては、磁性試薬の次に標識試薬を分注した場合を例に説明したが、試薬分注順によって複合体生成反応に差はないため、標識試薬の次に磁性試薬を分注してもよい。また、分析装置1,201の装置レイアウトは一例であり、このレイアウトによって分注順序が拘束されるものではない。
【0098】
また、分析装置1,201においては、ラマンピークがそれぞれ異なる複数種の標識物質を含む標識試薬を使用して一連の分析処理を行なうことによって、複数項目の分析結果を取得することも可能である。
【符号の説明】
【0099】
1,201 分析装置
2,202 測定機構
4,204 制御機構
10 反応テーブル
11,11a,11b 反応容器
19 検体移送部
19a 検体容器
19b 検体ラック
20 検体分注部
21 磁性試薬庫
22 磁性試薬分注部
23,26 プローブ洗浄部
24 標識試薬庫
25 標識試薬分注部
27 攪拌部
30 測光部
41,241 制御部
42 入力部
43,243 分析部
44 記憶部
45 出力部
50 抗原
51 磁性粒子
52 金粒子
53 複合体
55 夾雑物
228 集磁棒移送部
228a 集磁棒
229 集磁棒洗浄部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中の分析対象物と特異的に結合する磁性粒子を含む磁性試薬と、レーザ光が照射されることにより表面増強されたラマン散乱光を発するとともに前記分析対象物と特異的に結合する標識物質を含む標識試薬とを使用し、前記検体を分析する分析方法において、
前記検体、前記磁性試薬および前記標識試薬を反応容器内に分注する分注ステップと、
前記分注ステップで分注された前記磁性粒子および前記標識試薬が前記検体中の分析対象物と結合する前に、前記磁性粒子を前記レーザ光の照射領域から除去した状態で前記反応容器にレーザ光を照射し、前記反応容器内の前記標識物質によるラマン散乱光を測定する反応前測光ステップと、
前記反応容器内で、前記磁性粒子、前記分析対象物および標識物質が特異的に結合した複合体を生成する反応を促進させる反応促進ステップと、
前記反応促進ステップ後に、前記分析対象物と結合しなかった磁性粒子と前記複合体とを前記レーザ光の照射領域から除去した状態で前記反応容器内に前記レーザ光を照射し、前記反応容器内の前記標識物質によるラマン散乱光を測定する反応後測光ステップと、
前記反応前測光ステップにおける測光値と前記反応後測光ステップにおける測光値との差または比を演算することによって前記複合体によるラマン散乱光の強度を取得し、該取得した前記複合体によるラマン散乱光の強度をもとに前記分析対象物の前記検体における濃度を求める演算ステップと、
を含むことを特徴とする分析方法。
【請求項2】
前記反応前測光ステップは、前記検体、前記磁性試薬および前記標識試薬が分注された反応容器内に磁界を発生させることによって前記磁性粒子を前記レーザ光の照射領域から除去し、
前記反応後測光ステップは、前記複合体が生成された反応容器内に磁界を発生させることによって前記分析対象物と結合しなかった磁性粒子と前記複合体とを前記レーザ光の照射領域から除去することを特徴とする請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記反応前測光ステップは、前記検体、前記磁性試薬および前記標識試薬が分注された反応容器の外部から前記レーザ光の照射領域以外の領域に磁石を近接させることによって、前記磁性粒子を前記レーザ光の照射領域外に集磁し、
前記反応後測光ステップは、前記複合体が生成された反応容器の外部から前記レーザ光の照射領域以外の領域に磁石を近接させることによって、前記分析対象物と結合しなかった磁性粒子と前記複合体とを前記レーザ光の照射領域外に集磁することを特徴とする請求項1または2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記磁石は、前記反応容器の底面もしくは側面の少なくとも一部に近接できる大きさを有することを特徴とする請求項3に記載の分析方法。
【請求項5】
前記磁石は、複数あることを特徴とする請求項3または4に記載の分析方法。
【請求項6】
前記反応前測光ステップにおいて前記ラマン散乱光が測定される反応前測定用の反応容器とは異なる反応後測定用の反応容器内に、前記検体、前記磁性試薬および前記標識試薬を分注する反応後測定用分注ステップをさらに含み、
前記反応前測光ステップは、磁界を発生する集磁棒を前記検体、前記磁性試薬および前記標識試薬が分注された前記反応前測定用の反応容器内に挿入し、前記磁性粒子を前記集磁棒に集磁させた状態で該集磁棒を前記反応前測定用の反応容器外に移送することによって、前記磁性粒子を前記レーザ光の照射領域から除去し、
前記反応促進ステップは、前記反応後測定用分注ステップにおいて前記検体、前記磁性試薬および前記標識試薬が分注された反応後測定用の反応容器内で前記複合体を生成する反応を促進させ、
前記反応後測光ステップは、前記集磁棒を前記複合体が生成された前記反応後測定用の反応容器内に挿入し、前記分析対象物と結合しなかった磁性粒子と前記複合体とを前記集磁棒表面に集磁させた状態で該集磁棒を前記反応後測定用の反応容器外に移送することによって、前記分析対象物と結合しなかった磁性粒子と前記複合体とを前記レーザ光の照射領域から除去することを特徴とする請求項1または2に記載の分析方法。
【請求項7】
前記分注ステップおよび前記反応前測光ステップは、各検体ごとに行われることを特徴とする請求項6に記載の分析方法。
【請求項8】
検体中の分析対象物と特異的に結合する磁性粒子を含む磁性試薬と、レーザ光が照射されることにより表面増強されたラマン散乱光を発するとともに前記分析対象物と特異的に結合する標識物質を含む標識試薬とを使用し、前記検体を分析する分析装置において、
前記反応容器内にレーザ光を照射して前記標識物質によるラマン散乱光を測定する測光手段と、
前記反応容器におけるレーザ光の照射領域から磁性体を除去する除去手段と、
前記測光手段による測光値をもとに前記分析対象物の前記検体における濃度を求める演算手段と、
を備え、
前記除去手段は、前記磁性粒子および前記標識試薬が前記検体中の分析対象物と結合する前に前記磁性粒子を前記レーザ光の照射領域から除去する反応前除去処理と、前記反応手段によって前記複合体が生成された後に前記分析対象物と結合しなかった磁性粒子と前記複合体とを前記レーザ光の照射領域から除去する反応後除去処理とを行い、
前記測光処理は、前記除去手段による前記反応前除去処理によって前記磁性粒子が前記レーザ光の照射領域から除去された状態で前記反応容器内に前記レーザ光を照射して前記反応容器内の前記標識物質によるラマン散乱光を測定する反応前測光処理と、前記除去手段による前記反応後除去処理によって前記分析対象物と結合しなかった磁性粒子と前記複合体とが前記レーザ光の照射領域から除去された状態で前記反応容器内に前記レーザ光を照射して前記反応容器内の前記標識物質によるラマン散乱光を測定する反応後測光処理とを行い、
前記演算手段は、前記測光手段による前記反応前測光処理における測光値と前記反応後測光処理における測光値との差または比を演算することによって前記複合体によるラマン散乱光の強度を取得し、該取得した前記複合体によるラマン散乱光の強度をもとに前記分析対象物の前記検体における濃度を求めることを特徴とする分析装置。
【請求項9】
前記除去手段は、前記反応前除去処理において前記検体、前記磁性試薬および前記標識試薬が分注された反応容器内に磁界を発生させることによって前記磁性粒子を前記レーザ光の照射領域から除去し、前記反応後除去処理において前記複合体が生成された反応容器内に磁界を発生させることによって前記分析対象物と結合しなかった磁性粒子と前記複合体とを前記レーザ光の照射領域から除去することを特徴とする請求項8に記載の分析装置。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか一つに記載の分析方法を分析装置に実行させることを特徴とする分析プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate


【公開番号】特開2011−158334(P2011−158334A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19456(P2010−19456)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(510005889)ベックマン コールター, インコーポレイテッド (174)
【Fターム(参考)】