説明

分析方法および分析装置

【課題】検体からの光を光学フィルタ等の光学系を通してイメージセンサで受けて、検体の濃度情報を得る分析方法・装置において、呈色位置のずれによる測定誤差を低減する。
【解決手段】試験片上の検体からの光の輝度値(関数F(r))を事前に算出する第1のステップと、分析対象の試験片上の測定部位について、基準となる試験片上の測定部位からのずれ量Rを検出するとともに、当該試験片上の検体の輝度値(関数F(r-R))を算出する第2のステップと、事前の輝度値とずれ量とを用いて、ずれ量に応じた輝度の補正係数(関数G(r))を設定する第3のステップと、設定した補正係数を用いて、第2のステップで算出した輝度値または輝度値に相当する値を補正する第4のステップと、補正後の補正値に基づいて検体の濃度情報を得る第5のステップと、を有するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イメージセンサを用いて検体の濃度情報を得る分析方法および分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
試験片に担持された検体の濃度情報を得る従来の分析装置の構成を図6に示す。この分析装置では、光源1からの光を、検体2が担持された試験片3に照射し、その試験片3からの散乱光(または透過光や反射光の場合もある)を、レンズ4、絞り5、光学フィルタ6等により構成される光学系を通して、CCDなどからなるイメージセンサ7に照射させて結像させ、イメージセンサ7の各画素にて得られる光の光量を画素の輝度に変換して分析することで、試験片3に担持された検体2の濃度を定量化するよう構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
なおこの種の分析方法においては、得られた輝度をそのまま用いるのでなく、検体2の吸光作用による輝度の低下度合いを定量的に測定する指標として吸光度を用いるのが一般的である。吸光度は測定部輝度(得られた輝度)及び変化前の基準輝度であるバックグラウンド輝度を用いて以下の式で表される。
【0004】
【数1】

また吸光度を濃度に変換する際、吸光度は濃度に比例すること(Lambert-Beerの法則)を利用して、分析装置で事前に作成した検量線(吸光度に対する濃度の1次関数)を用いて検体2の濃度の定量化することが一般的である。
【0005】
さらに、この種の分析装置では、光学フィルタ6の角度依存性が影響するため(特許文献2参照)、例えば同一濃度の検体2が各呈色部(呈色部A、B、C)に担持されている場合でも、図7(a)(b)に示すように、各呈色位置(光軸からの距離で示す)にて得られる輝度(及び吸光度)が異なる。しかし図8に示すように、あらかじめ各呈色位置にて求めておいた検量線を参照して濃度換算することで、角度依存性が影響しない濃度の定量化が可能である。
【特許文献1】特開平7−5110号公報
【特許文献2】特願2008−014328
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来構成の分析装置において、各呈色部での検量線にて緩和できる光学フィルタの角度依存性は、分析装置の光学系およびイメージセンサ7(以下、光学系等という)と呈色位置との相対的な位置関係が変わらないことが前提である。図9に示すように、呈色位置が相対的に変化した場合には(例えば分析装置内への試験片3の挿入時のずれや試験片3サイズのばらつき、試験片3内での各呈色部位置のばらつき等による)、その呈色位置に応じて光学フィルタへ6への入射角度が変化して、角度依存性の影響が生じる。その結果、図10に示すように、各呈色部から得られる輝度及び吸光度が変化し、図11に示すように、各呈色部での検量線より得られる濃度は実際の濃度(点線で示す)に一致せず、測定誤差となる。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑み、呈色位置のずれによる測定誤差を低減できる分析方法及び分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の分析方法は、試験片に担持された検体からの光を、光学フィルタを有する光学系を通して、複数の画素を備えたイメージセンサにより受けて前記検体の濃度情報を得る分析方法において、前記試験片上の検体からの光の波長特性及びフィルタ入射角度依存性に基づき、前記イメージセンサ内の任意の位置にて得られる輝度値を事前に算出する第1のステップと、分析対象の試験片上の測定部位について、基準となる試験片上の測定部位からのずれ量を検出するとともに、当該試験片上の検体の輝度値を算出する第2のステップと、前記第1のステップで算出した輝度値と前記第2のステップで検出したずれ量とを用いて、ずれ量に応じた輝度の補正係数を設定する第3のステップと、前記第3のステップで設定した補正係数を用いて、前記第2のステップで算出した輝度値または輝度値に相当する値を補正する第4のステップと、前記第4のステップで補正した後の補正値に基づいて検体の濃度情報を得る第5のステップと、を有することを特徴とする。
【0009】
また本発明の分析装置は、試験片に担持された検体からの光を、光学フィルタを有する光学系を通して、複数の画素を備えたイメージセンサにより受けて前記検体の濃度情報を得る分析装置において、前記試験片上の検体からの光の波長特性及びフィルタ入射角度依存性に基づき、前記イメージセンサ内の任意の位置にて得られる輝度値を事前に算出する第1の輝度算出手段と、分析対象の試験片上の測定部位について、基準となる試験片上の測定部位からのずれ量を検出するずれ量検出手段と、前記分析対象の試験片上の検体の輝度値を算出する第2の輝度算出手段と、前記事前に算出した輝度値とずれ量とを用いて、ずれ量に応じた輝度の補正係数を設定する補正係数設定手段と、前記補正係数を用いて前記第2の輝度算出手段で算出した輝度値または輝度値に相当する値を補正する補正手段と、前記補正した後の補正値に基づいて検体の濃度情報を得る濃度取得手段と、を有することを特徴とする。
【0010】
上記の分析方法および分析装置によれば、試験片上の検体をイメージセンサにより撮像して、呈色位置が基準となる位置からずれている場合でも、ずれ量に応じた補正係数を得て、検体の濃度情報を補正することができ、測定誤差を低減できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の分析方法及び分析装置によれば、呈色位置のずれによる測定誤差を低減することができ、検体を分析する際の測定精度及び信頼性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施の形態を以下に図面に基づいて説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る分析装置の概略構成を示す図である。大まかな構成は、先に図6を用いて説明した従来の分析装置の構成と同じであり、同じ構成要素には同符号を付して説明を省略する。
【0013】
この分析装置が従来の分析装置と異なる点は、イメージセンサ7の各画素からの画素出力値に補正をかけるための独自の補正アルゴリズムを実行する制御部(図示せず)が設けられていることである。
【0014】
この制御部は、試験片3上の検体2からの光の波長特性及び光学フィルタ6へのフィルタ入射角度依存性に基づき、イメージセンサ7内の任意の位置にて得られる輝度値を事前に算出する第1の輝度算出手段と、測定時の(分析対象の)試験片3について、基準となる設置位置からのずれ量を検出するずれ量検出手段と、当該測定時の試験片3上の検体2の輝度値を算出する第2の輝度算出手段と、前記事前に算出した輝度値とずれ量とを用いて、ずれ量に応じた輝度の補正係数を設定する補正係数設定手段と、前記補正係数を用いて測定時の輝度値または輝度値に相当する値を補正する補正手段と、前記補正手段で補正した後の補正値に基づいて検体2の濃度情報を得る濃度取得手段とを備えている。
【0015】
以下、前記補正アルゴリズムについて詳述する。
図2に試験片3の設置状態を示す。点線は分析装置において位置ずれのない(基準位置にある)試験片3を示し、実線は位置ずれの生じた試験片3を示す。試験片3は、従来と同様に同一濃度の3つの呈色部(呈色部A、呈色部B、呈色部C)を有している。ただしこれは説明の便宜のためであり、呈色部が1つでも原理は同様である。また呈色部Bが光軸上にあるとして説明するが、光軸からずれた位置にあっても構わない。光軸からの距離は、イメージセンサ上の画素数で置き換えて考えることができる。
【0016】
事前に、基準位置の試験片3について検量線(後述する図5参照)を作成する。
測定時には、まず、試験片3上の所望の呈色部について位置ずれ量を求める。たとえば呈色部Aについて言うと、試験片3が基準位置にあるときには中心座標は(X,Y)であるのに、試験片3が位置ずれしているときには中心座標は(X’,Y’)にずれているので、その位置ずれ量Rを、中心座標のずれ(X,Y)→(X’,Y’)を用いて以下のように求める。呈色部B、Cの位置ずれ量R、Rも同様である。
【0017】
【数2】

これら位置ずれ量R、R、Rは試験片3のずれ方によって変わるため、測定する試験片3毎に求める必要がある。ただし試験片3が傾かずに平行に位置ずれした場合は、各呈色部A、B、Cでの位置ずれ量R、R、Rは同一の値になるため、同一の値(以後Rとする)を用いればよい。以下、平行にのみ位置ずれしたとして説明する。
【0018】
次に、図3および図4に示すようにして、ずれ量に応じて、検体の濃度情報を補正する。図3(a)において、点線は位置ずれのない試験片での輝度分布を示している。この輝度分布は、角度依存性の影響を受けているもので、光軸からの距離rの関数F(r)として示される。関数F(r)は、検体の波長特性及び光源の波長特性、並びに光学フィルタの透過帯域シフト特性より理論的に求めることができる(特許文献2参照)。
【0019】
簡略に説明すると、i)画素に結像する光の、光学フィルタに入射するフィルタ入射角度を検出するフィルタ入射角度検出ステップと、ii)フィルタ入射角度に対応する光学フィルタのフィルタ帯域のシフト量を得るシフト量取得ステップと、iii)前記シフト量に応じた補正係数を設定する補正係数設定ステップと、iv)前記補正係数を用いて輝度値または輝度値に相当する値を補正する補正ステップと、v)前記補正ステップで補正した補正値に基づいて検体の濃度情報を得る濃度取得ステップとを行って、関数F(r)を得る。
【0020】
実線は、位置ずれの生じた試験片での目標の輝度分布を示しており、F(r)をRだけ平行にシフトした関数F(r−R)となる。つまり、試験片の位置ずれが起こっても試験片内での角度依存性の分布は変わらない関数である。これらの関数を用いて、試験片の位置ずれが起こったときにその任意の呈色位置にての輝度を補正する関数G(r)を算出する。この関数G(r)は、図3(b)および次式で表されるものとなる。
【0021】
【数3】

次に、上記のようにして得た補正関数G(r)を用いて、位置ずれの生じた試験片での輝度を補正する。具体的には、図3(c)に示す各呈色位置(呈色部A、B、C)について得られた輝度値に、試験片の位置ずれ量Rに応じた(つまり呈色位置に対応した)補正係数を掛けることにより、前記輝度値を、図3(d)に示すように補正する。このことにより、呈色位置がずれたことで生じた角度依存性の影響を低減できる(図中の○(点線)は補正前の輝度値を示している)。なおこのときに各呈色部の輝度値に掛ける補正係数は、上述のように各呈色部の位置ずれ量Rは等しいとした場合には、位置ずれ量Rで計算された同一のものを用いることができる。
【0022】
図4は、図3(d)の輝度に対応する吸光度を示している。図5は、位置ずれのない基準位置の試験片で呈色部A、B、Cについて取得した検量線(吸光度−濃度)に、図4に示された補正後の吸光度値を外挿して示している。この図5によれば、補正後の輝度に対応する吸光度より得られる濃度(●)は、上述のように同一濃度とした実際の検体濃度にほぼ一致している。このことは、補正後の輝度に対応する吸光度を用いて濃度変換することにより、測定誤差を低減できることを示すものである。
【0023】
各呈色部の位置ずれ量が異なっている場合には、例えば先の図2に示した位置ずれ量R、R、Rが異なっている場合には、それぞれの位置ずれ量R、R、Rを用いて導出される別々の補正係数を各呈色部の輝度値に掛けることで、呈色位置のずれに起因する角度依存性の影響を補正すればよい。
【0024】
以上のように、本発明の分析方法および分析装置によれば、試験片上の検体をイメージセンサにより撮像して、呈色位置が基準となる位置からずれている場合でも、ずれ量に応じた補正係数を得て、検体の濃度情報を補正することができ、測定誤差を低減できる。よって、検体2を分析する際の測定精度および信頼性を向上させることができる。具体例を挙げると、光軸からの距離が−2.5mmの位置に存在している呈色部Aにて0.5mmのずれ量が発生した場合、角度依存性の影響により測定誤差が1.5%生じていたが、本発明の分析方法及び分析装置を用いることで測定誤差を0%にすることができた。
【0025】
なお、上記実施の形態では、補正係数を用いて輝度値を補正し、補正後の輝度値に対応する吸光度を求め、この吸光度に基づいて検体2の濃度情報を得たが、これに限るものではなく、輝度値に相当するデジタルデータ等を補正し、この補正データに基づいて検体2の濃度情報を得てもよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明に係る分析方法および分析装置は、光学フィルタの入射角度依存性、呈色位置ずれによる測定誤差の低減機能を有し、高精度での濃度検出が必要な生化学分析方法および装置等に特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態に係る分析装置の構成を概略的に示す斜視図
【図2】同分析装置に設置する試験片の位置ずれを示す図
【図3】同分析装置で試験片の位置ずれが生じた場合の輝度の補正を説明する図
【図4】同輝度の補正に対応する吸光度の補正を示す図
【図5】同輝度の補正に対応する吸光度の補正結果を用いた濃度変換を示す図
【図6】従来の分析装置の構成を概略的に示す斜視図
【図7】同分析装置における輝度及び吸光度の角度依存性の影響を示す図
【図8】同分析装置における検量線による濃度変換を示す図
【図9】同分析装置で試験片の位置ずれが生じた状態を示す斜視図
【図10】同分析装置で試験片の位置ずれが生じた場合の輝度及び吸光度の変化を示す図
【図11】同分析装置で試験片の位置ずれが生じた場合の検量線による濃度変換を示す図
【符号の説明】
【0028】
1 光源
2 検体
3 試験片
4 レンズ
5 絞り
6 光学フィルタ
7 イメージセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片に担持された検体からの光を、光学フィルタを有する光学系を通して、複数の画素を備えたイメージセンサにより受けて前記検体の濃度情報を得る分析方法であって、
前記試験片上の検体からの光の波長特性及びフィルタ入射角度依存性に基づき、前記イメージセンサ内の任意の位置にて得られる輝度値を事前に算出する第1のステップと、
分析対象の試験片上の測定部位について、基準となる試験片上の測定部位からのずれ量を検出するとともに、当該試験片上の検体の輝度値を算出する第2のステップと、
前記第1のステップで算出した輝度値と前記第2のステップで検出したずれ量とを用いて、ずれ量に応じた輝度の補正係数を設定する第3のステップと、
前記第3のステップで設定した補正係数を用いて、前記第2のステップで算出した輝度値または輝度値に相当する値を補正する第4のステップと、
前記第4のステップで補正した後の補正値に基づいて検体の濃度情報を得る第5のステップと、を有する分析方法。
【請求項2】
試験片に担持された検体からの光を、光学フィルタを有する光学系を通して、複数の画素を備えたイメージセンサにより受けて前記検体の濃度情報を得る分析装置であって、
前記試験片上の検体からの光の波長特性及びフィルタ入射角度依存性に基づき、前記イメージセンサ内の任意の位置にて得られる輝度値を事前に算出する第1の輝度算出手段と、
分析対象の試験片上の測定部位について、基準となる試験片上の測定部位からのずれ量を検出するずれ量検出手段と、
前記分析対象の試験片上の検体の輝度値を算出する第2の輝度算出手段と、
前記事前に算出した輝度値とずれ量とを用いて、ずれ量に応じた輝度の補正係数を設定する補正係数設定手段と、
前記補正係数を用いて前記第2の輝度算出手段で算出した輝度値または輝度値に相当する値を補正する補正手段と、
前記補正した後の補正値に基づいて検体の濃度情報を得る濃度取得手段と、を有する分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−101715(P2010−101715A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272567(P2008−272567)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】