分析方法及び分析装置
【課題】膜厚が数nmから数μmの範囲に及ぶ分析対象の特性を容易に分析する。
【解決手段】金属薄膜8には、一方の面に分析対象である誘電体20が載置される。プリズム6及びガラス板7は、金属薄膜8の他方の面に実質的に接する界面Fを有する。光源1、ミラー2、3、1/2波長板4、偏光板5は、P偏光の光束を、プリズム6に入射させた後、さらに界面Fに入射させる。検出器10は、界面Fで反射する光束の反射光の強度を検出する。コンピュータ11は、ステージコントローラ14を介して、界面Fへの光束の入射角θを、臨界角θcを超える第1の角度θ1と、臨界角θc未満の第2の角度θ2との間の範囲で調整する。
【解決手段】金属薄膜8には、一方の面に分析対象である誘電体20が載置される。プリズム6及びガラス板7は、金属薄膜8の他方の面に実質的に接する界面Fを有する。光源1、ミラー2、3、1/2波長板4、偏光板5は、P偏光の光束を、プリズム6に入射させた後、さらに界面Fに入射させる。検出器10は、界面Fで反射する光束の反射光の強度を検出する。コンピュータ11は、ステージコントローラ14を介して、界面Fへの光束の入射角θを、臨界角θcを超える第1の角度θ1と、臨界角θc未満の第2の角度θ2との間の範囲で調整する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析対象である誘電体の特性を分析する分析方法及び分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機高分子薄膜等の誘電体の構造評価やその薄膜上への異種成分の吸着現象の分析などは、表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用したSPR装置を用いた測定により行われることが多い。一般に、表面プラズモン共鳴による反射光の強度減衰の測定は、分析対象の膜厚が最大でも100nm以下の場合に限られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、分析対象となる誘電体の膜厚が光の波長の半分(例えば約300nm)以上である場合、SPR装置を用いて光導波モード(GWM;Guided Wave Mode)の励起に伴う反射光の強度減衰を測定することで、誘電体の構造評価やその薄膜上への異種成分の吸着現象の分析などが可能である(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−61286号公報
【特許文献2】特開2007−271596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SPR装置を用いた上述の2つの分析法は、分析対象の膜厚範囲が異なっており、2つの測定法を組み合わせることにより、測定可能な誘電体の膜厚範囲を広げることができる。
【0006】
しかしながら、例えば、分析対象の膜厚が、約100nmを超え約300nmを下回る場合には、表面プラズモン共鳴も発生せず、光導波モードも励起されないため、上記2つの測定法を適用するのは困難である。このような経緯から、膜厚が数nmから数μmの範囲に及ぶ誘電体の構造やその界面現象の分析には、放射光や中性子等の大型施設が使用されるのが一般的であった。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、膜厚が数nmから数μmの範囲に及ぶ分析対象の特性を容易に分析することができる分析方法及び分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る分析方法は、
一方の面に分析対象である誘電体が載置される金属薄膜と、
前記金属薄膜の他方の面に実質的に接する界面を有する屈折光学素子と、
P偏光の光束を、前記屈折光学素子に入射させた後、さらに前記界面に入射させる入射手段と、
前記界面で反射する前記光束の反射光の強度を検出する検出手段と、
を備える分析装置を用いた分析方法であって、
前記界面への前記光束の入射角を、臨界角を超える第1の角度と、臨界角未満の第2の角度との間の範囲で調整しながら、前記検出手段によって検出された前記反射光の強度を検出する。
【0009】
この場合、臨界角以上の入射角で前記光束が前記金属薄膜に入射しても、表面プラズモン共鳴又は光導波モードの励起による前記反射光の強度の減衰が前記検出手段で検出されない場合には、
臨界角未満の入射角で前記光束を前記金属薄膜に入射させることにより、前記誘電体内で反射する前記光束の反射光と前記界面で反射する反射光との干渉光の強度を、前記検出手段で検出する、
こととしてもよい。
【0010】
前記検出手段によって検出された前記反射光の強度に基づいて、前記入射角に対する前記反射光の強度特性を算出する、
こととしてもよい。
【0011】
本発明の第2の観点に係る分析装置は、
一方の面に分析対象である誘電体が載置される金属薄膜と、
前記金属薄膜の他方の面に実質的に接する界面を有する屈折光学素子と、
P偏光の光束を、前記屈折光学素子に入射させた後、さらに前記界面に入射させる入射手段と、
前記界面で反射する前記光束の反射光の強度を検出する検出手段と、
前記界面への前記光束の入射角を、臨界角を超える第1の角度と、臨界角未満の第2の角度との間の範囲で調整する調整手段と、
を備える。
【0012】
この場合、前記調整手段が、前記入射角を臨界角以上に調整しても、
前記検出手段が、表面プラズモン共鳴又は光導波モードの励起による前記反射光の強度の減衰を検出しない場合には、
前記調整手段は、
前記入射角を、臨界角未満に調整し、
前記検出手段が、
前記誘電体内で反射する前記光束の反射光と前記界面で反射する反射光との干渉光の強度を検出する、
こととしてもよい。
【0013】
前記検出手段によって検出された前記反射光の強度に基づいて、前記入射角に対する前記反射光の強度特性を算出する算出手段をさらに備える、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、金属薄膜への光束の入射角を、臨界角以上、すなわち全反射条件を満たす角度だけでなく、臨界角を下回る角度にも調整可能である。これにより、表面プラズモン共鳴や光導波モードの励起による反射光の強度変化だけでなく、界面で反射する光束の反射光と誘電体に入射してから反射する反射光との干渉光の強度変化も測定することができる。このため、表面プラズモン共鳴が発生せず、かつ、光導波モードも励起されない場合であっても、干渉光の強度変化を測定することにより、分析対象となる誘電体の誘電率(屈折率)の変化を観測することができる。この結果、膜厚が数nmから数μmの範囲に及ぶ誘電体の特性を容易に分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1(A)は、この発明の実施の形態に係る分析装置の概略的な全体構成を示すブロック図である。図1(B)は、図1(A)の分析装置の一部の拡大図である。
【図2】表面プラズモン共鳴を説明するための図である。
【図3】表面プラズモン共鳴による反射光の強度の入射角依存性を示すグラフである。
【図4】干渉現象を説明するための図である。
【図5】干渉による反射光の強度の入射角依存性を示すグラフである。
【図6】光導波モードを説明するための図である。
【図7】光導波モードの励起による反射光の強度の入射角依存性を示すグラフである。
【図8】図1の分析装置を用いた分析方法のフローチャートである。
【図9】図9(A)は、メタノール中におけるPMMA薄膜のSPR反射率曲線を示すグラフである。図9(B)は、膜構造の計算を行うために仮定したモデルの模式図である。図9(C)は、高分子薄膜の厚さとその体積分率の関係を示すグラフである。
【図10】図10(A)は、メタノール中におけるPMMA膜のGWM反射率曲線を示すグラフである。図10(B)は、メタノール中におけるPMMA膜の光学反射率曲線を示すグラフである。
【図11】図11(A)は、メタノールと接触したPMMA膜のSPR反射率曲線を示すグラフである。図11(B)は、メタノールと接触したPMMA膜のGWM反射率曲線を示すグラフである。図11(C)は、メタノールと接触したPMMA膜の光学反射率曲線の時間変化を示すグラフである。
【図12】メタノール接触後におけるPMMA膜厚の時間変化を示すグラフである。
【図13】図13(A)は、拡散フロントを細分化した模式図である。図13(B)は、その膜構造をプロットしたグラフである。
【図14】図14(A)は、xの値を変えて計算を行った反射率曲線のグラフである。図14(B)は、その膜構造をプロットしたグラフである。
【図15】図15(A)は、2層、3層および複数の層を仮定したSPR反射率曲線のグラフである。図15(B)は、その膜構造をプロットしたグラフである。
【図16】メタノール中におけるPMMA薄膜および厚膜の膨潤挙動を示すグラフである。
【図17】メタノールの拡散係数と膜厚の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1(A)には、本実施形態に係る分析装置100の構成が示されている。図1(A)に示すように、分析装置100は、光源1と、ミラー2、3と、1/2波長板4と、偏光板5と、プリズム6と、ガラス板7と、金属薄膜8と、セル9と、検出器10と、コンピュータ11と、を備える。
【0018】
光源1は、測定用のレーザ光を出射するレーザ光源である。レーザ光源としては、例えば、He−Neレーザが用いられる。この場合、光源1から出射されるレーザ光は、直線偏波されたレーザ光であり、その波長は633nmである。光源1として、他に、Arレーザ、色素レーザ等の種々のレーザ光源を用いることも可能である。また、光源1として、赤色、白色LED(Light Emitting Diode)等を用いてもよい。光源1から出力されたレーザ光は、ミラー2に入射する。
【0019】
ミラー2は、入射したレーザ光をミラー3に向けて反射する。ミラー2は、入射した光をミラー3に向けて反射する。ミラー3で反射したレーザ光は、1/2波長板4に入射する。
【0020】
1/2波長板4は、レーザ光の直線偏波の方向を調整する。1/2波長板4から出射されたレーザ光は、偏光板5に入射する。
【0021】
偏光板5は、入射したレーザ光を、直線偏光の光束に変換して出射する。この直線偏光は、プリズム6及びガラス板7と、後述する金属薄膜8との間の界面Fに対してP偏光となる。偏光板5から出射された光束は、プリズム6に入射する。
【0022】
プリズム6としては、例えばBK7が用いられる。この場合、プリズム6の屈折率は、約1.51となる。プリズム6は、偏光板5によりP偏光となった光束を入射する。プリズム6に入射したP偏光の光束は屈折し、プリズム6中を進んでガラス板7に入射する。
【0023】
ガラス板7についてもプリズム6と同じ材質のガラスが採用される。すなわち、ガラス板7とプリズム6とは、屈折率が同じである。両者は、屈折率1.51のマッチングオイルによって接着される。これにより、プリズム6に入射した光束(P偏光)は、ガラス板7に入射し、そのまま直進する。このプリズム6とガラス板7とが、屈折光学素子に対応する。
【0024】
ガラス板7上には金属薄膜8が成膜されている。金属薄膜8は、例えば金膜である。この他、銀、白金、銅、亜鉛、アルミニウム、カリウムなどの薄膜も、金属薄膜8として用いることができる。金属薄膜8の厚みは、例えば50nmである。金属薄膜8は、ガラス板7上に例えば蒸着により成膜される。ガラス板7に入射した光束は、ガラス板7と金属薄膜8との間の界面Fに、入射角θで入射する。
【0025】
セル9には、図1(B)に示す誘電体20がセットされる。この誘電体20が、分析対象である。図1(B)に示すように、誘電体20は、金属薄膜8の一方の面に載置されており、金属薄膜8の他方の面にプリズム6及びガラス板7が当接し、これにより、金属薄膜8の他方の面に実質的に接する界面Fが形成されている。セル9には、この他にも、液体を誘電体20に暴露するための流路としてのフローセル(不図示)などが設けられている場合もある。
【0026】
界面Fに入射した光束の少なくとも一部は、反射する。界面Fで反射した反射光は、ガラス板7及びプリズム6から出射して、検出器10に受光面に到達する。検出器10は、例えば、フォトダイオードである。検出器10は、受光した反射光の強度を検出する。検出器10は、検出された反射光の強度に関する情報を含む信号を、コンピュータ11に出力する。
【0027】
コンピュータ11は、CPU及びメモリ(いずれも不図示)を有している。CPUがメモリに格納されたプログラムを実行することにより、コンピュータ11の各種機能が実現される。例えば、コンピュータ11は、入力された反射光の強度に関する情報を含む信号に基づいて、分析対象となる誘電体20の特性を算出する。
【0028】
分析装置100は、レーザドライバ12と、ステージ13と、ステージコントローラ14とをさらに備える。
【0029】
レーザドライバ12は、光源1を駆動する。コンピュータ11は、レーザドライバ12を介して、光源1におけるレーザ発振を制御する。
【0030】
ステージ13は、所定の回転軸を中心に回転可能なステージである。プリズム6、ガラス板7、金属薄膜8、セル9は、このステージ13上に載置されている。
【0031】
ステージコントローラ14は、ステージ13の回転位置を制御する。コンピュータ11は、ステージコントローラ14を介して、ステージ13を回転させる。
【0032】
ステージ13の回転により、光束の界面Fへの入射角θを調整することができる。より具体的には、図1(A)に示すように、ステージ13の回転位置の調整により、光束の入射角θをθ1からθ2まで変更することが可能である。第1の角度としてのθ1は、臨界角θcを超える角度である。入射角θを臨界角θc以上でθ1以下とすれば、界面Fへ入射する光束は、全反射する。また、第2の角度としてのθ2は、臨界角θcを下回る角度である。入射角θをθ2以上で臨界角θc未満とすれば、界面Fへ入射する光束は、一部は反射するが、一部は界面Fで屈折して誘電体20内を進む。
【0033】
このように、コンピュータ11は、ステージ13を回転させることにより、界面Fへの光束の入射角θを、臨界角を超えるθ1と臨界角未満の角度θ2との間の範囲で調整することができる。
【0034】
なお、プリズム6から出射した反射光を常に検出することができるように、検出器10は、不図示のステージにより、その位置を調整可能となっている。なお、検出器10を同じ位置に設置し、入射角θが変化してもプリズム6から出射される反射光を常に検出器10の受光面に入射することができるように、プリズム6と検出器10との間に凸レンズを配置するようにしてもよい。
【0035】
また、本実施形態に係る分析装置100では、分析対象である誘電体20の厚みに応じて反射光の減衰の発生原理が異なる。
【0036】
まず、図2に示すように、厚みが70nmの誘電体(例えば有機高分子薄膜)20を載置した場合について説明する。なお、図2では、プリズム6とガラス板7とを一体として示している。
【0037】
図3には、この場合に、コンピュータ11で算出された、反射光の強度の入射角依存性が示されている。このグラフでは、横軸が界面Fへの光束の入射角θであり、縦軸が、その入射角θにおける光束の反射率(すなわち反射光の強度)である。図3には、3本の特性曲線(a)乃至(c)が示されている。
【0038】
図3に示すように、反射光の強度は、臨界角θcよりも大きいθr付近で大きく減衰している。この減衰は、表面プラズモン共鳴によるものである。表面プラズモン共鳴とは、全反射条件で光束が金属薄膜8に入射するときに発生するエバネッセント光と、金属薄膜8と分析対象との境界面を伝搬している自由電子の粗密波である表面プラズモンとが共鳴する現象である。
【0039】
特性曲線(a)は、測定を開始した時点での反射光の強度の入射角依存性を示す曲線である。この特性曲線(a)では、表面プラズモン共鳴の発生により、θrにおいて反射光の強度が最も減衰している。この入射角θrを、共鳴角(Angle of Resonance)という。
【0040】
この反射光の強度の入射角依存性は、誘電体20の誘電率の変化によって変化する。最初に、その誘電体20の特性曲線が(a)であった場合であっても、誘電体20の誘電率の変化によって、特性曲線が(b)にシフトしたり、(c)にシフトしたりする。したがって、この特性曲線の変化を検出すれば、誘電体20の特性の変化を求めることができる。
【0041】
続いて、図4に示すように、厚みが200nmである誘電体20を載置した場合について説明する。図5には、この場合に、コンピュータ11で算出された、反射光の強度の入射角依存性が示されている。図5に示すように、反射光の強度を示す特性曲線(a)は、臨界角θcよりも小さい角度θ3前後で大きく減衰している。この減衰は、界面Fで反射光と誘電体20で反射した反射光との干渉によるものである。この干渉光の特性曲線も、図3に示す特性曲線と同様に、誘電体の誘電率の変化に伴って例えば(a)から(b)に変化する。したがって、この特性曲線の変化を検出すれば、誘電体20の特性の変化を求めることができる。
【0042】
続いて、図6に示すように、厚みが400nmである誘電体20を載置した場合について説明する。図7には、この場合に、コンピュータ11で算出された、反射光の強度の入射角依存性が示されている。図7に示す特性曲線(a)では、反射光の強度は、臨界角θcよりも大きい角度θ4、θ5で大きく減衰している。この減衰は、光導波モードの励起によるものである。
【0043】
光導波モードは、誘電体20内の多重反射に基づくモードである。プリズム6側から臨界角θc以上の角度をもって界面Fに入射された光は、誘電体20側にエバネッセント波を生じる。このエバネッセント波が誘電体20内における光導波モードと結合すると、入射された光束は、その一部又は全部が、誘電体20内を伝搬する光となり、その結果、反射光の強度が低下する。
【0044】
この反射光の特性曲線も、図3に示す特性曲線と同様に、誘電体の誘電率の変化に伴って例えば(a)から(b)に変化する。したがって、この特性曲線の変化を検出すれば、誘電体20の特性の変化を求めることができる。
【0045】
次に、本実施形態に係る分析装置100を用いた分析方法について説明する。図8には、分析方法のフローチャートが示されている。
【0046】
図8に示すように、まず、誘電体20がセル9内にセットされ、金属薄膜8上に載置される(ステップS1)。ここでは、必要に応じて、誘電体20の特性を変化させる液体などが誘電体20に暴露される。
【0047】
続いて、コンピュータ11は、ステージコントローラ14を介して、ステージ13の回転位置を調整することにより、入射角θの調整を行う(ステップS2)。ここでは、ステージコントローラ14を介して、ステージ13を所定の回転位置に位置決めして、入射角θを所定の角度に固定するようにしてもよいし、ステージ13を一定速度で往復回転させることにより、入射角θを、θ1からθ2まで一定の角速度で、変化させるようにしてもよい。
【0048】
続いて、コンピュータ11は、測定を行う(ステップS3)。より具体的には、コンピュータ11は、レーザドライバ12を介して、光源1にレーザを発振させるとともに、検出器10で検出される反射光の強度に関する情報を含む信号を入力して、入射角θと反射光の強度とを対応づけて記憶する。
【0049】
続いて、コンピュータ11は、例えばユーザの操作入力に応じて、測定を終了するか否かを判定する(ステップS4)。この判定が否定されれば(ステップS4;No)、コンピュータ11は、ステップS2に戻る。コンピュータ11は、上述した入射角θの調整(ステップS2)、測定(ステップS3)、終了判定(ステップS4)を、この順に行う。
【0050】
測定の終了判定が肯定されれば(ステップS4;Yes)、コンピュータ11は、これまでに記憶された反射光の強度に基づいて、反射光の強度の入射角依存性の特性曲線を算出する(ステップS5)。その後、コンピュータ11は、処理を終了する。
【0051】
なお、この分析方法において、まず、θ1からθ2の範囲で、入射角θを変えながら、その範囲での反射光の強度の特性を検出し、臨界角θc以上の範囲で反射光の強度の低下が検出された場合には、コンピュータ11は、入射角θの範囲を、臨界角θc以上の範囲に絞って、反射光の強度の変化を検出するようにしてもよい。逆に、最初に、臨界角θc未満の範囲でしか反射光の強度の低下が見られなかった場合には、コンピュータ11は、入射角θの範囲を、臨界角θc未満の角度範囲に絞って、反射光の強度の変化を検出するようにしてもよい。
【0052】
言い換えると、コンピュータ11が、入射角θを臨界角θc以上に調整しても、検出器10が表面プラズモン共鳴又は光導波モードによる反射光の強度の減衰を検出しない場合には、コンピュータ11は、入射角θを臨界角θc未満に調整し、検出器10が、誘電体20内で反射する光束の反射光と界面Fで反射する反射光との干渉光の強度を検出するようにしてもよい。このように、入射角θを変更する範囲は、反射光の強度変化に応じて、適宜、調整することが可能である。
【0053】
また、誘電体20の膜厚が既知である場合には、誘電体20の膜厚に応じて、入射角θの範囲を絞りこむようにしてもよい。例えば、誘電体20の膜厚が、100nm以上300nm以下である場合には、最初から入射角θの範囲を臨界角θc未満の角度範囲に絞って、反射光の強度の変化を検出するようにしてもよい。
【0054】
分析装置100を用いた分析方法は、図8のフローに示すものには限られない。例えば、ステップS4において判定が否定された場合に、ステップS1に戻り、分析対象を再びセットする(例えば、新たな液体を分析対象の誘電体に暴露する)ようにしてもよい。
【0055】
以上詳細に説明したように、本実施形態によれば、金属薄膜8への光束の入射角θを、臨界角θc以上、すなわち全反射条件を満たす角度だけでなく、臨界角θcを下回る角度にも調整可能である。これにより、表面プラズモン共鳴や光導波モードの励起による反射光の強度変化だけでなく、界面Fで反射する光束の反射光と誘電体に入射してから反射する反射光との干渉光の強度変化も測定することができる。このため、表面プラズモン共鳴が発生せず、光導波モードも励起されない厚みを有する誘電体に対しても、干渉光の強度変化を測定することにより、分析対象となる誘電体の誘電率(屈折率)の変化を観測することができる。この結果、膜厚が数nmから数μmの範囲に及ぶ誘電体の特性を容易に分析することができる。
【0056】
また、本実施形態では、入射角θに対する反射光の強度の特性を算出することができるので、誘電体20の変化をきめ細かく分析することができる。
【0057】
本実施形態に係る分析装置100は、表面プラズモン共鳴、干渉、光導波モードの励起などを利用して分析対象の分析を行うので、放射光や中性子等の大型施設に比べて、非常に安価に製造することができ、測定時間も非常に短時間となる。
【0058】
本実施形態に係る分析装置100では、様々な誘電体を分析対象とすることができる。例えば、高分子の特性を分析することができる。例えば、高分子電解質薄膜の分析にも用いることができるし、抗原抗体反応の分析にも用いることができる。さらに、太陽電池に用いられる物質の分析にも用いることができる。この場合、分析対象の誘電体の厚みは、数nmから数μmであってもよい。例えば、極めて大きな抗体を用いた抗体抗原反応の分析も可能である。
【0059】
さらに、プラスチップのような高分子化合物を、水やアルコールに浸したときのその膨潤度の分析などにも適用可能である。また、燃料電池に用いられる高分子は、今度ますます薄膜化されていくことが予想されることから、本実施形態に係る分析装置100は、このような高分子の解析にも好適である。これにより、例えば、海水を淡水にろ過するフィルタ膜に用いられる高分子の解析にも有効である。
【0060】
なお、上記実施形態では、入射光束の反射面が、金属薄膜8とガラス板7と金属薄膜8との界面Fとなるクレッチマン配置の光学系を採用したが、本発明はこれには限られず、オット配置の光学系を採用するようにしてもよい。この場合には、界面Fは、金属薄膜8に対して近接場光(エバネッセント光)が生ずるような、ナノメータオーダの実質的に接する距離に配置される必要がある。
【0061】
また、上記実施形態に係る分析装置100では、プリズム6が載置されたステージ13を回転させることにより、入射角θを調整したが、分析装置100の構成はこれには限られない。例えば、レーザ光の光路上に、回転ミラー、ガルバノミラー又は音響光学素子を配置し、それらを出射した光束を集光レンズ(界面上の1点に光束を入射させるように配置する)を介して界面Fに入射させることにより、入射角θを調整するようにしてもよい。
【0062】
また、レーザ光を、コリメータレンズを介して、平行光束とし、それを集光レンズ(界面上の1点に光束を入射させるように配置する)を介して、界面Fに入射させるようにしてもよい。このようにすれば、異なる入射角θの光束を一度に界面Fに入射させることができる。なお、この場合、界面Fから異なる反射角の光束が一度に出射するようになるため、検出器10を、ラインセンサ等、受光する光の強度分布を検出できるようなものとする必要がある。
【0063】
また、上記実施形態では、コンピュータ11で、誘電体20の特性を直接算出するようにしてもよいし、反射光の強度の角度依存性の特性曲線を表示するだけでもよい。
【実施例】
【0064】
以下、上記実施形態に係る分析方法及び分析装置100を利用した実施例について詳細に説明するが、実施例は本発明を限定するものではない。
【0065】
本実施例では、上記実施形態に係る分析装置100を用いて、非溶媒中における高分子材料の物性の変化を分析する。非溶媒中で高分子の物性が変化する原因の1つに、非溶媒分子の高分子中への浸透現象がある。非溶媒分子の浸入は高分子鎖の運動性を増加させ、高分子材料の物性に大きな影響を与えると考えられる。そのため、高分子中における非溶媒分子の浸入の動力学を理解することは重要である。
【0066】
ナノスケールにおける高分子中への非溶媒の物質移動について考える。高分子と非溶媒では一分子のサイズが異なるため、高分子のサイズに依存した物質移動が観測されると考えられる。さらに、このような微小サイズの高分子材料を用いる場合、材料の体積に対し、非溶媒である液体と接した界面および異種固体界面の面積が大きい。そのため、これらの界面における分子運動特性と、物質移動の関係性も明らかにすることができると考えられる。
【0067】
そこで、本実施例では、上記分析方法及び分析装置100を用いて、メタノール中におけるPMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)膜の厚化挙動を追跡することにより、高分子膜の膨潤メカニズムを明らかにする。
【0068】
本実施例では、試料として、数平均分子量(Mn)=300kで、分子量分布(Mw/Mn)が1.05であるPMMAを用いた。ガラス板7にはBK7を用い、ピラニア処理を行うことでガラス板7の表面を洗浄した。洗浄したガラス板7の上には、真空蒸着法により、金属薄膜8としてのAg、AuおよびAgが蒸着され、さらにその上にSiOXが蒸着された。PMMA膜として、トルエン溶液からスピンコート法により調製し、室温で24時間真空乾燥を行ったものを用いた。
【0069】
なお、空気中におけるPMMA膜の膜厚(hair)および屈折率は、原子間力顕微鏡(AFM)、エリプソメータを用いて導出し、SPRおよびGWM反射率測定においては、これらの値を基準としてフィッティングを行った。
【0070】
SPR反射率測定においては厚さ70nm以下の高分子薄膜を、GWM測定においては400nmから数μmの厚さを有する高分子膜の内部構造を評価することができる。SPRおよびGWMを含む種々の光学測定において、複数の層を有する物質の透過率および反射率を計算する手法には、transfer-matrix法を用いた。transfer-matrix法を用いて多層膜の反射率を計算する場合、厚さおよび膜の屈折率が一様となっている層を仮定しなければならない。しかしながら、液体と接した高分子膜の膨潤率が、深さ方向に対して一様とは限らない。そこで、本実施例では、高分子膜を、既に膨潤し終わった層((a)層:layer a)と、膨潤している途中の層((b)層:layer b)と、まだ膨潤していない層((c)層:layer c)との3層に分けて反射率を計算し、実験値と比較することで3層それぞれの厚さおよび屈折率の概算値を導出した。
【0071】
図9(A)は、メタノール中におけるPMMA薄膜のSPR反射率曲線を示し、図9(B)は、膜構造の計算を行うために仮定したモデルの模式図を示し、図9(C)は、高分子薄膜の厚さとその体積分率ΦPMMAの関係を示す。
【0072】
さらに、SPR反射率測定で測定出来ない膜厚領域については、GWM反射率測定および光学反射測定に基づいて評価を行った。GWM反射率測定では厚さ400nmから数μmの高分子膜について、光学反射測定では厚さ100nmから400nmの高分子膜の内部構造について評価することができる。本実施例に係る分析方法では、SPR、GWM及び光学反射率測定を組み合わせることにより、非溶媒中における厚さ数nmから数μmの高分子膜の内部構造変化について追跡する。図10(A)はメタノール中におけるPMMA膜のGWM反射率曲線を示し、図10(B)は、メタノール中におけるPMMA膜の光学反射率曲線を示す。
【0073】
図11(A)は、メタノールと接触したPMMA膜のSPR反射率曲線を示し、図11(B)は、メタノールと接触したPMMA膜のGWM反射率曲線を示し、図11(C)は、メタノールと接触したPMMA膜の光学反射率曲線の時間変化を示す。図11(A)及び図11(B)に示すように、SPR反射率曲線及びGWM反射率曲線は、メタノールとの接触時間の増加とともに共鳴角が高角度側にシフトし、また共鳴角における反射率が減少した。一方、図11(C)に示すように、光学反射率曲線は、メタノールとの接触時間の増加とともにディップの角度が低角度側にシフトし、ディップの反射率が増加した。SPR及びGWM反射率測定では、共鳴角の増加は金属薄膜8上に調製した膜の厚さおよび密度の増加と対応している。また、共鳴角における反射率の減少は膜厚および膜密度の減少と対応している。光学反射率測定では、ディップの角度およびディップにおける反射率の変化は、ガラス板7上に調製した金属および高分子膜の光学定数および厚さに依存する。図9(C)の条件では、ディップの角度およびディップにおける反射率の減少は膜厚および膜密度の減少と対応し、ディップの角度およびディップにおける反射率の増加は膜厚および膜密度の増加と対応する。今回得られた結果を、これまでに中性子反射率(NR)反射率測定で得られた結果と比較すると、各反射率曲線の時間変化はメタノール中におけるPMMA膜の膨潤挙動を追跡していると考えてよい。
【0074】
図12は、メタノール接触後におけるPMMA膜厚の時間変化を示す。縦軸は、ある測定時刻における膜厚を、空気中における膜厚(hair)で規格化した膨潤率であり、横軸はメタノールの接触時間である。また、図を見やすくするため、hair=59.3及び498nmのデータは縦軸方向に、それぞれ、0.5及び1.0ずらしている。いずれの膜も時間の経過とともに膨潤、厚化した。膨潤率が一定に到達するまでの時間(teq)は、hairとともに長くなり、hair=30.5nm、59.3nm及び498nmにおいて、それぞれ、約1×103[s]、4×103[s]および5×103[s]であった。hair=30.5及び59.3nmのteqを比較すると、その値は3倍程度増加している。一方、hair=498nmの膜はhair =59.3nmの膜より8倍程度厚いにもかかわらず、teqは1.25倍しか増加していない。これらの結果から、PMMA膜中におけるメタノールの拡散は膜厚に依存すると推測できる。
【0075】
これまでに、バルクのPMMA/メタノールの系において、Case II拡散というFickの拡散とは異なる挙動を示す拡散現象が観測されている。Case II拡散とは、非溶媒が高分子中に浸入する際、急峻な濃度勾配を以て膨潤した高分子層と膨潤していない層を分割し、一定の速度で高分子中に非溶媒が拡散を起こす現象である。Case II拡散では、膨潤層と非膨潤層の境界を拡散フロントと呼び、拡散フロント近傍では指数関数的に溶媒の体積分率が減少することが知られている。
【0076】
今回行った測定においても、Case II拡散が成立すると仮定した。より正確に膜構造を評価するため、(a)層の厚さおよび(c)層における膨潤率を、3層のモデルで仮定した値のまま固定した状態で、(b)層を20層に細分化した。(b)層を細分化したのは、Case II拡散における拡散フロントの指数関数的な濃度勾配を擬似的に表現するためである。以下、(a)層、(b)層、(c)層を、Case II拡散の定義に則り、”膨潤層”、”拡散フロント”、”ガラス層”と呼ぶ。細分化した層は、それぞれ膨潤率が一様であると定義し、それぞれの層において異なる膨潤率を代入することにより、反射率の計算を行った。図13(A)は、拡散フロントを細分化した模式図であり、図13(B)は、その膜構造をプロットしたグラフである。
【0077】
細分化した膜の屈折率を導出する際、拡散フロント全体における膨潤率の深さの変化を仮定する必要がある。そのため、以下の式に基づいて拡散フロントにおける膨潤率の計算を行った。
【数1】
ここで、φ(z)、φc、V、z、Dは、それぞれある深さにおける膨潤率、swollen layerと拡散フロントの界面における膨潤率、拡散フロントが膜内部へ進行する速度、拡散フロントとglassy layerの界面からの距離、メタノール分子の拡散係数を示す。φcは、swollen layerにおける膨潤率に等しい。swollen layerの厚さに関しては、拡散フロントにおける膨潤率および空気中におけるPMMA薄膜の体積を考慮し、メタノールと接触したPMMA薄膜および空気中におけるPMMA薄膜の質量が一致するよう(膨潤によってPMMAが消失、もしくは増加しないよう)微調整を行った。
【0078】
この解析を行う時点において、未知の変数がVおよびDと2つ存在する。そのため、式(1)におけるV/Dの項をxと定義し、変数を1つに減らして計算を行った。細分化した拡散フロントにおいて、各層を、glassy layerと接している側から順番に1層、2層、…20層と定義する。今、j層における中心の膨潤率を、その層での膨潤率φj、1層あたりの厚さをlとすると、式(1)は、
【数2】
と記述することができる。式(2)におけるφj(z)を用いて、精確な膜構造を評価した。図14(A)は、xの値を変えて計算を行った反射率曲線のグラフであり、図14(B)は、その膜構造をプロットしたグラフである。
【0079】
図14(A)に示す反射率曲線は、x=2.1の点において最もよい一致を示した。このパラメータおよび、反射率曲線の時間変化から導出した膜構造の時間変化に基づいて、PMMA薄膜中におけるメタノールの拡散係数を導出することができる。
【0080】
図15(A)は、それぞれ2層、3層および複数の層を仮定したSPR反射率曲線のグラフであり、図15(B)は、その膜構造をプロットしたグラフである。図15(A)に示すように、それぞれのSPR反射率曲線における差異はそれほど大きくないものの、Case II拡散を仮定した(すなわち拡散フロントを細かく分割した)層の反射率曲線がより一致することが明らかになった。このことからPMMA薄膜中におけるメタノール分子の拡散挙動は、Case II拡散に基づく拡散であると示唆された。
【0081】
PMMA薄膜中におけるメタノール分子の拡散係数を導出するためには、次の式を用いて、矛盾のない値を導出する必要がある。これまでに、2つの未知数を含んだxの値が明らかになっているので、2つの式を比較することでVおよびDの値をそれぞれ別個に導出することができる。以下の式(3)は、Case II拡散における非溶媒分子のDとVの関係である。
【数3】
ここで、t、dΦ/dtは、それぞれメタノールとの接触時間、膜全体における膨潤率の時間変化である。SPR反射率曲線およびモデルに基づいて評価した、ある接触時間tにおける膜の内部構造から、式(1)及び式(3)におけるΦc、dΦ/dt、Vを導出することができる。これらの値から計算で求められるDと、式(2)におけるxから求められるDの値が一致していれば、反射率曲線から仮定したモデルが正しいと断定することができる。
【0082】
(PMMA膜中におけるメタノール分子の拡散係数評価)
図16は、メタノール中におけるPMMA薄膜および厚膜の膨潤挙動を示すグラフである。厚膜(hair=498nm)の場合、膜厚の時間変化は1成分で記述できる。一方、薄膜(hair=45.0、59.3nm)の場合、2成分の膜厚時間変化が観測された。すなわち、薄膜では、2成分のメタノールの拡散係数が導出された。
【0083】
図17はメタノールの拡散係数と膜厚の関係を示すグラフである。厚膜領域において得られたDは文献値(Dbulk=2.0×10-12(cm2・s-1))と同程度であったが、初期膜厚が240nm以下の領域では、Dbulkより小さかった。一方、初期膜厚が70nm以下の薄膜領域では、2種類のVが観測された。遅い成分(Dslow)は膜内部における拡散に対応し、初期膜厚とともに減少した。Dfastは非溶媒界面近傍における拡散に対応するため、初期膜厚に依存せずほぼ一定であった。薄膜領域におけるDfastもDbulkより著しく小さかった。膜が薄くなると試料全体積に対する界面積が著しく増大することを考えると、PMMA薄膜へのメタノールの拡散は、基板界面の効果により抑制されたと推測できる。
【0084】
(薄膜中における分子鎖熱運動性とメタノールの拡散挙動)
高分子薄膜が膨潤するためには、高分子鎖はある程度大きなスケールで移動をしなければならない。これまでに、本発明者は、動的粘弾性測定に基づいて、PMMA超薄膜の分子鎖熱運動性と基板の関係について検討を行った。その結果、基板界面におけるガラス転移温度がバルクと比較して上昇していることが明らかになった。そのため、薄膜領域においてメタノール分子の浸入を阻害する要因を検討すべく、異なる基板を用いてメタノール中におけるPMMA膜の膨潤挙動を追跡した。SiOXを銀基板上に調製することにより、PMMAの分子鎖熱運動性と基板との相互作用について検討を行った。
【0085】
以下のテーブルに、基板とPMMA薄膜中におけるメタノール分子との関係を示す。
【表1】
【0086】
金およびSiOX基板においても銀基板と同様、2成分の拡散係数が得られた。Dfastに関しては、金およびSiOX基板間に大きな差異は生じなかった。一方、Dslowの値はSiOX基板上において金基板のそれより著しく小さくなった。このことから、DfastおよびDslowはそれぞれ(PMMA/メタノール)界面および(PMMA/ガラス板7)界面における拡散係数であるといえる。PMMA薄膜へのメタノールの拡散は、ガラス板7の界面の効果により抑制されたと推測できる。
【0087】
以上述べたように、分析装置100を用いて、非溶媒中におけるPMMA薄膜の膨潤動力学について検討を行った。メタノールと接触後、Case II拡散で記述できる膨潤挙動が観測された。厚膜においては、1成分の拡散係数が得られ、その値はバルク値とほぼ同じであった。しかしながら、その値はhair=250nm以下の領域では減少し始めた。薄膜領域においては2成分の拡散係数が導出され、Dfastに関しては膜厚に依存しなかったが、Dslowは膜厚に依存した。しかしながら、薄膜領域におけるDfastおよびDslowはバルクと比較して著しく小さかった。そこで、ガラス板7との相互作用について検討を行ったところ、Dslowは基板に依存して変化した。このことから、薄膜領域におけるPMMA膜の膨潤挙動は、基板界面における分子鎖熱運動性が支配的であることが示唆された。
【0088】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、誘電体薄膜の分析に好適である。
【符号の説明】
【0090】
1 光源
2、3 ミラー
4 1/2波長板
5 偏光板
6 プリズム
7 ガラス板
8 金属薄膜
9 セル
10 検出器
11 コンピュータ
12 レーザドライバ
13 ステージ
14 ステージコントローラ
100 分析装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析対象である誘電体の特性を分析する分析方法及び分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機高分子薄膜等の誘電体の構造評価やその薄膜上への異種成分の吸着現象の分析などは、表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用したSPR装置を用いた測定により行われることが多い。一般に、表面プラズモン共鳴による反射光の強度減衰の測定は、分析対象の膜厚が最大でも100nm以下の場合に限られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、分析対象となる誘電体の膜厚が光の波長の半分(例えば約300nm)以上である場合、SPR装置を用いて光導波モード(GWM;Guided Wave Mode)の励起に伴う反射光の強度減衰を測定することで、誘電体の構造評価やその薄膜上への異種成分の吸着現象の分析などが可能である(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−61286号公報
【特許文献2】特開2007−271596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SPR装置を用いた上述の2つの分析法は、分析対象の膜厚範囲が異なっており、2つの測定法を組み合わせることにより、測定可能な誘電体の膜厚範囲を広げることができる。
【0006】
しかしながら、例えば、分析対象の膜厚が、約100nmを超え約300nmを下回る場合には、表面プラズモン共鳴も発生せず、光導波モードも励起されないため、上記2つの測定法を適用するのは困難である。このような経緯から、膜厚が数nmから数μmの範囲に及ぶ誘電体の構造やその界面現象の分析には、放射光や中性子等の大型施設が使用されるのが一般的であった。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、膜厚が数nmから数μmの範囲に及ぶ分析対象の特性を容易に分析することができる分析方法及び分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る分析方法は、
一方の面に分析対象である誘電体が載置される金属薄膜と、
前記金属薄膜の他方の面に実質的に接する界面を有する屈折光学素子と、
P偏光の光束を、前記屈折光学素子に入射させた後、さらに前記界面に入射させる入射手段と、
前記界面で反射する前記光束の反射光の強度を検出する検出手段と、
を備える分析装置を用いた分析方法であって、
前記界面への前記光束の入射角を、臨界角を超える第1の角度と、臨界角未満の第2の角度との間の範囲で調整しながら、前記検出手段によって検出された前記反射光の強度を検出する。
【0009】
この場合、臨界角以上の入射角で前記光束が前記金属薄膜に入射しても、表面プラズモン共鳴又は光導波モードの励起による前記反射光の強度の減衰が前記検出手段で検出されない場合には、
臨界角未満の入射角で前記光束を前記金属薄膜に入射させることにより、前記誘電体内で反射する前記光束の反射光と前記界面で反射する反射光との干渉光の強度を、前記検出手段で検出する、
こととしてもよい。
【0010】
前記検出手段によって検出された前記反射光の強度に基づいて、前記入射角に対する前記反射光の強度特性を算出する、
こととしてもよい。
【0011】
本発明の第2の観点に係る分析装置は、
一方の面に分析対象である誘電体が載置される金属薄膜と、
前記金属薄膜の他方の面に実質的に接する界面を有する屈折光学素子と、
P偏光の光束を、前記屈折光学素子に入射させた後、さらに前記界面に入射させる入射手段と、
前記界面で反射する前記光束の反射光の強度を検出する検出手段と、
前記界面への前記光束の入射角を、臨界角を超える第1の角度と、臨界角未満の第2の角度との間の範囲で調整する調整手段と、
を備える。
【0012】
この場合、前記調整手段が、前記入射角を臨界角以上に調整しても、
前記検出手段が、表面プラズモン共鳴又は光導波モードの励起による前記反射光の強度の減衰を検出しない場合には、
前記調整手段は、
前記入射角を、臨界角未満に調整し、
前記検出手段が、
前記誘電体内で反射する前記光束の反射光と前記界面で反射する反射光との干渉光の強度を検出する、
こととしてもよい。
【0013】
前記検出手段によって検出された前記反射光の強度に基づいて、前記入射角に対する前記反射光の強度特性を算出する算出手段をさらに備える、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、金属薄膜への光束の入射角を、臨界角以上、すなわち全反射条件を満たす角度だけでなく、臨界角を下回る角度にも調整可能である。これにより、表面プラズモン共鳴や光導波モードの励起による反射光の強度変化だけでなく、界面で反射する光束の反射光と誘電体に入射してから反射する反射光との干渉光の強度変化も測定することができる。このため、表面プラズモン共鳴が発生せず、かつ、光導波モードも励起されない場合であっても、干渉光の強度変化を測定することにより、分析対象となる誘電体の誘電率(屈折率)の変化を観測することができる。この結果、膜厚が数nmから数μmの範囲に及ぶ誘電体の特性を容易に分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1(A)は、この発明の実施の形態に係る分析装置の概略的な全体構成を示すブロック図である。図1(B)は、図1(A)の分析装置の一部の拡大図である。
【図2】表面プラズモン共鳴を説明するための図である。
【図3】表面プラズモン共鳴による反射光の強度の入射角依存性を示すグラフである。
【図4】干渉現象を説明するための図である。
【図5】干渉による反射光の強度の入射角依存性を示すグラフである。
【図6】光導波モードを説明するための図である。
【図7】光導波モードの励起による反射光の強度の入射角依存性を示すグラフである。
【図8】図1の分析装置を用いた分析方法のフローチャートである。
【図9】図9(A)は、メタノール中におけるPMMA薄膜のSPR反射率曲線を示すグラフである。図9(B)は、膜構造の計算を行うために仮定したモデルの模式図である。図9(C)は、高分子薄膜の厚さとその体積分率の関係を示すグラフである。
【図10】図10(A)は、メタノール中におけるPMMA膜のGWM反射率曲線を示すグラフである。図10(B)は、メタノール中におけるPMMA膜の光学反射率曲線を示すグラフである。
【図11】図11(A)は、メタノールと接触したPMMA膜のSPR反射率曲線を示すグラフである。図11(B)は、メタノールと接触したPMMA膜のGWM反射率曲線を示すグラフである。図11(C)は、メタノールと接触したPMMA膜の光学反射率曲線の時間変化を示すグラフである。
【図12】メタノール接触後におけるPMMA膜厚の時間変化を示すグラフである。
【図13】図13(A)は、拡散フロントを細分化した模式図である。図13(B)は、その膜構造をプロットしたグラフである。
【図14】図14(A)は、xの値を変えて計算を行った反射率曲線のグラフである。図14(B)は、その膜構造をプロットしたグラフである。
【図15】図15(A)は、2層、3層および複数の層を仮定したSPR反射率曲線のグラフである。図15(B)は、その膜構造をプロットしたグラフである。
【図16】メタノール中におけるPMMA薄膜および厚膜の膨潤挙動を示すグラフである。
【図17】メタノールの拡散係数と膜厚の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1(A)には、本実施形態に係る分析装置100の構成が示されている。図1(A)に示すように、分析装置100は、光源1と、ミラー2、3と、1/2波長板4と、偏光板5と、プリズム6と、ガラス板7と、金属薄膜8と、セル9と、検出器10と、コンピュータ11と、を備える。
【0018】
光源1は、測定用のレーザ光を出射するレーザ光源である。レーザ光源としては、例えば、He−Neレーザが用いられる。この場合、光源1から出射されるレーザ光は、直線偏波されたレーザ光であり、その波長は633nmである。光源1として、他に、Arレーザ、色素レーザ等の種々のレーザ光源を用いることも可能である。また、光源1として、赤色、白色LED(Light Emitting Diode)等を用いてもよい。光源1から出力されたレーザ光は、ミラー2に入射する。
【0019】
ミラー2は、入射したレーザ光をミラー3に向けて反射する。ミラー2は、入射した光をミラー3に向けて反射する。ミラー3で反射したレーザ光は、1/2波長板4に入射する。
【0020】
1/2波長板4は、レーザ光の直線偏波の方向を調整する。1/2波長板4から出射されたレーザ光は、偏光板5に入射する。
【0021】
偏光板5は、入射したレーザ光を、直線偏光の光束に変換して出射する。この直線偏光は、プリズム6及びガラス板7と、後述する金属薄膜8との間の界面Fに対してP偏光となる。偏光板5から出射された光束は、プリズム6に入射する。
【0022】
プリズム6としては、例えばBK7が用いられる。この場合、プリズム6の屈折率は、約1.51となる。プリズム6は、偏光板5によりP偏光となった光束を入射する。プリズム6に入射したP偏光の光束は屈折し、プリズム6中を進んでガラス板7に入射する。
【0023】
ガラス板7についてもプリズム6と同じ材質のガラスが採用される。すなわち、ガラス板7とプリズム6とは、屈折率が同じである。両者は、屈折率1.51のマッチングオイルによって接着される。これにより、プリズム6に入射した光束(P偏光)は、ガラス板7に入射し、そのまま直進する。このプリズム6とガラス板7とが、屈折光学素子に対応する。
【0024】
ガラス板7上には金属薄膜8が成膜されている。金属薄膜8は、例えば金膜である。この他、銀、白金、銅、亜鉛、アルミニウム、カリウムなどの薄膜も、金属薄膜8として用いることができる。金属薄膜8の厚みは、例えば50nmである。金属薄膜8は、ガラス板7上に例えば蒸着により成膜される。ガラス板7に入射した光束は、ガラス板7と金属薄膜8との間の界面Fに、入射角θで入射する。
【0025】
セル9には、図1(B)に示す誘電体20がセットされる。この誘電体20が、分析対象である。図1(B)に示すように、誘電体20は、金属薄膜8の一方の面に載置されており、金属薄膜8の他方の面にプリズム6及びガラス板7が当接し、これにより、金属薄膜8の他方の面に実質的に接する界面Fが形成されている。セル9には、この他にも、液体を誘電体20に暴露するための流路としてのフローセル(不図示)などが設けられている場合もある。
【0026】
界面Fに入射した光束の少なくとも一部は、反射する。界面Fで反射した反射光は、ガラス板7及びプリズム6から出射して、検出器10に受光面に到達する。検出器10は、例えば、フォトダイオードである。検出器10は、受光した反射光の強度を検出する。検出器10は、検出された反射光の強度に関する情報を含む信号を、コンピュータ11に出力する。
【0027】
コンピュータ11は、CPU及びメモリ(いずれも不図示)を有している。CPUがメモリに格納されたプログラムを実行することにより、コンピュータ11の各種機能が実現される。例えば、コンピュータ11は、入力された反射光の強度に関する情報を含む信号に基づいて、分析対象となる誘電体20の特性を算出する。
【0028】
分析装置100は、レーザドライバ12と、ステージ13と、ステージコントローラ14とをさらに備える。
【0029】
レーザドライバ12は、光源1を駆動する。コンピュータ11は、レーザドライバ12を介して、光源1におけるレーザ発振を制御する。
【0030】
ステージ13は、所定の回転軸を中心に回転可能なステージである。プリズム6、ガラス板7、金属薄膜8、セル9は、このステージ13上に載置されている。
【0031】
ステージコントローラ14は、ステージ13の回転位置を制御する。コンピュータ11は、ステージコントローラ14を介して、ステージ13を回転させる。
【0032】
ステージ13の回転により、光束の界面Fへの入射角θを調整することができる。より具体的には、図1(A)に示すように、ステージ13の回転位置の調整により、光束の入射角θをθ1からθ2まで変更することが可能である。第1の角度としてのθ1は、臨界角θcを超える角度である。入射角θを臨界角θc以上でθ1以下とすれば、界面Fへ入射する光束は、全反射する。また、第2の角度としてのθ2は、臨界角θcを下回る角度である。入射角θをθ2以上で臨界角θc未満とすれば、界面Fへ入射する光束は、一部は反射するが、一部は界面Fで屈折して誘電体20内を進む。
【0033】
このように、コンピュータ11は、ステージ13を回転させることにより、界面Fへの光束の入射角θを、臨界角を超えるθ1と臨界角未満の角度θ2との間の範囲で調整することができる。
【0034】
なお、プリズム6から出射した反射光を常に検出することができるように、検出器10は、不図示のステージにより、その位置を調整可能となっている。なお、検出器10を同じ位置に設置し、入射角θが変化してもプリズム6から出射される反射光を常に検出器10の受光面に入射することができるように、プリズム6と検出器10との間に凸レンズを配置するようにしてもよい。
【0035】
また、本実施形態に係る分析装置100では、分析対象である誘電体20の厚みに応じて反射光の減衰の発生原理が異なる。
【0036】
まず、図2に示すように、厚みが70nmの誘電体(例えば有機高分子薄膜)20を載置した場合について説明する。なお、図2では、プリズム6とガラス板7とを一体として示している。
【0037】
図3には、この場合に、コンピュータ11で算出された、反射光の強度の入射角依存性が示されている。このグラフでは、横軸が界面Fへの光束の入射角θであり、縦軸が、その入射角θにおける光束の反射率(すなわち反射光の強度)である。図3には、3本の特性曲線(a)乃至(c)が示されている。
【0038】
図3に示すように、反射光の強度は、臨界角θcよりも大きいθr付近で大きく減衰している。この減衰は、表面プラズモン共鳴によるものである。表面プラズモン共鳴とは、全反射条件で光束が金属薄膜8に入射するときに発生するエバネッセント光と、金属薄膜8と分析対象との境界面を伝搬している自由電子の粗密波である表面プラズモンとが共鳴する現象である。
【0039】
特性曲線(a)は、測定を開始した時点での反射光の強度の入射角依存性を示す曲線である。この特性曲線(a)では、表面プラズモン共鳴の発生により、θrにおいて反射光の強度が最も減衰している。この入射角θrを、共鳴角(Angle of Resonance)という。
【0040】
この反射光の強度の入射角依存性は、誘電体20の誘電率の変化によって変化する。最初に、その誘電体20の特性曲線が(a)であった場合であっても、誘電体20の誘電率の変化によって、特性曲線が(b)にシフトしたり、(c)にシフトしたりする。したがって、この特性曲線の変化を検出すれば、誘電体20の特性の変化を求めることができる。
【0041】
続いて、図4に示すように、厚みが200nmである誘電体20を載置した場合について説明する。図5には、この場合に、コンピュータ11で算出された、反射光の強度の入射角依存性が示されている。図5に示すように、反射光の強度を示す特性曲線(a)は、臨界角θcよりも小さい角度θ3前後で大きく減衰している。この減衰は、界面Fで反射光と誘電体20で反射した反射光との干渉によるものである。この干渉光の特性曲線も、図3に示す特性曲線と同様に、誘電体の誘電率の変化に伴って例えば(a)から(b)に変化する。したがって、この特性曲線の変化を検出すれば、誘電体20の特性の変化を求めることができる。
【0042】
続いて、図6に示すように、厚みが400nmである誘電体20を載置した場合について説明する。図7には、この場合に、コンピュータ11で算出された、反射光の強度の入射角依存性が示されている。図7に示す特性曲線(a)では、反射光の強度は、臨界角θcよりも大きい角度θ4、θ5で大きく減衰している。この減衰は、光導波モードの励起によるものである。
【0043】
光導波モードは、誘電体20内の多重反射に基づくモードである。プリズム6側から臨界角θc以上の角度をもって界面Fに入射された光は、誘電体20側にエバネッセント波を生じる。このエバネッセント波が誘電体20内における光導波モードと結合すると、入射された光束は、その一部又は全部が、誘電体20内を伝搬する光となり、その結果、反射光の強度が低下する。
【0044】
この反射光の特性曲線も、図3に示す特性曲線と同様に、誘電体の誘電率の変化に伴って例えば(a)から(b)に変化する。したがって、この特性曲線の変化を検出すれば、誘電体20の特性の変化を求めることができる。
【0045】
次に、本実施形態に係る分析装置100を用いた分析方法について説明する。図8には、分析方法のフローチャートが示されている。
【0046】
図8に示すように、まず、誘電体20がセル9内にセットされ、金属薄膜8上に載置される(ステップS1)。ここでは、必要に応じて、誘電体20の特性を変化させる液体などが誘電体20に暴露される。
【0047】
続いて、コンピュータ11は、ステージコントローラ14を介して、ステージ13の回転位置を調整することにより、入射角θの調整を行う(ステップS2)。ここでは、ステージコントローラ14を介して、ステージ13を所定の回転位置に位置決めして、入射角θを所定の角度に固定するようにしてもよいし、ステージ13を一定速度で往復回転させることにより、入射角θを、θ1からθ2まで一定の角速度で、変化させるようにしてもよい。
【0048】
続いて、コンピュータ11は、測定を行う(ステップS3)。より具体的には、コンピュータ11は、レーザドライバ12を介して、光源1にレーザを発振させるとともに、検出器10で検出される反射光の強度に関する情報を含む信号を入力して、入射角θと反射光の強度とを対応づけて記憶する。
【0049】
続いて、コンピュータ11は、例えばユーザの操作入力に応じて、測定を終了するか否かを判定する(ステップS4)。この判定が否定されれば(ステップS4;No)、コンピュータ11は、ステップS2に戻る。コンピュータ11は、上述した入射角θの調整(ステップS2)、測定(ステップS3)、終了判定(ステップS4)を、この順に行う。
【0050】
測定の終了判定が肯定されれば(ステップS4;Yes)、コンピュータ11は、これまでに記憶された反射光の強度に基づいて、反射光の強度の入射角依存性の特性曲線を算出する(ステップS5)。その後、コンピュータ11は、処理を終了する。
【0051】
なお、この分析方法において、まず、θ1からθ2の範囲で、入射角θを変えながら、その範囲での反射光の強度の特性を検出し、臨界角θc以上の範囲で反射光の強度の低下が検出された場合には、コンピュータ11は、入射角θの範囲を、臨界角θc以上の範囲に絞って、反射光の強度の変化を検出するようにしてもよい。逆に、最初に、臨界角θc未満の範囲でしか反射光の強度の低下が見られなかった場合には、コンピュータ11は、入射角θの範囲を、臨界角θc未満の角度範囲に絞って、反射光の強度の変化を検出するようにしてもよい。
【0052】
言い換えると、コンピュータ11が、入射角θを臨界角θc以上に調整しても、検出器10が表面プラズモン共鳴又は光導波モードによる反射光の強度の減衰を検出しない場合には、コンピュータ11は、入射角θを臨界角θc未満に調整し、検出器10が、誘電体20内で反射する光束の反射光と界面Fで反射する反射光との干渉光の強度を検出するようにしてもよい。このように、入射角θを変更する範囲は、反射光の強度変化に応じて、適宜、調整することが可能である。
【0053】
また、誘電体20の膜厚が既知である場合には、誘電体20の膜厚に応じて、入射角θの範囲を絞りこむようにしてもよい。例えば、誘電体20の膜厚が、100nm以上300nm以下である場合には、最初から入射角θの範囲を臨界角θc未満の角度範囲に絞って、反射光の強度の変化を検出するようにしてもよい。
【0054】
分析装置100を用いた分析方法は、図8のフローに示すものには限られない。例えば、ステップS4において判定が否定された場合に、ステップS1に戻り、分析対象を再びセットする(例えば、新たな液体を分析対象の誘電体に暴露する)ようにしてもよい。
【0055】
以上詳細に説明したように、本実施形態によれば、金属薄膜8への光束の入射角θを、臨界角θc以上、すなわち全反射条件を満たす角度だけでなく、臨界角θcを下回る角度にも調整可能である。これにより、表面プラズモン共鳴や光導波モードの励起による反射光の強度変化だけでなく、界面Fで反射する光束の反射光と誘電体に入射してから反射する反射光との干渉光の強度変化も測定することができる。このため、表面プラズモン共鳴が発生せず、光導波モードも励起されない厚みを有する誘電体に対しても、干渉光の強度変化を測定することにより、分析対象となる誘電体の誘電率(屈折率)の変化を観測することができる。この結果、膜厚が数nmから数μmの範囲に及ぶ誘電体の特性を容易に分析することができる。
【0056】
また、本実施形態では、入射角θに対する反射光の強度の特性を算出することができるので、誘電体20の変化をきめ細かく分析することができる。
【0057】
本実施形態に係る分析装置100は、表面プラズモン共鳴、干渉、光導波モードの励起などを利用して分析対象の分析を行うので、放射光や中性子等の大型施設に比べて、非常に安価に製造することができ、測定時間も非常に短時間となる。
【0058】
本実施形態に係る分析装置100では、様々な誘電体を分析対象とすることができる。例えば、高分子の特性を分析することができる。例えば、高分子電解質薄膜の分析にも用いることができるし、抗原抗体反応の分析にも用いることができる。さらに、太陽電池に用いられる物質の分析にも用いることができる。この場合、分析対象の誘電体の厚みは、数nmから数μmであってもよい。例えば、極めて大きな抗体を用いた抗体抗原反応の分析も可能である。
【0059】
さらに、プラスチップのような高分子化合物を、水やアルコールに浸したときのその膨潤度の分析などにも適用可能である。また、燃料電池に用いられる高分子は、今度ますます薄膜化されていくことが予想されることから、本実施形態に係る分析装置100は、このような高分子の解析にも好適である。これにより、例えば、海水を淡水にろ過するフィルタ膜に用いられる高分子の解析にも有効である。
【0060】
なお、上記実施形態では、入射光束の反射面が、金属薄膜8とガラス板7と金属薄膜8との界面Fとなるクレッチマン配置の光学系を採用したが、本発明はこれには限られず、オット配置の光学系を採用するようにしてもよい。この場合には、界面Fは、金属薄膜8に対して近接場光(エバネッセント光)が生ずるような、ナノメータオーダの実質的に接する距離に配置される必要がある。
【0061】
また、上記実施形態に係る分析装置100では、プリズム6が載置されたステージ13を回転させることにより、入射角θを調整したが、分析装置100の構成はこれには限られない。例えば、レーザ光の光路上に、回転ミラー、ガルバノミラー又は音響光学素子を配置し、それらを出射した光束を集光レンズ(界面上の1点に光束を入射させるように配置する)を介して界面Fに入射させることにより、入射角θを調整するようにしてもよい。
【0062】
また、レーザ光を、コリメータレンズを介して、平行光束とし、それを集光レンズ(界面上の1点に光束を入射させるように配置する)を介して、界面Fに入射させるようにしてもよい。このようにすれば、異なる入射角θの光束を一度に界面Fに入射させることができる。なお、この場合、界面Fから異なる反射角の光束が一度に出射するようになるため、検出器10を、ラインセンサ等、受光する光の強度分布を検出できるようなものとする必要がある。
【0063】
また、上記実施形態では、コンピュータ11で、誘電体20の特性を直接算出するようにしてもよいし、反射光の強度の角度依存性の特性曲線を表示するだけでもよい。
【実施例】
【0064】
以下、上記実施形態に係る分析方法及び分析装置100を利用した実施例について詳細に説明するが、実施例は本発明を限定するものではない。
【0065】
本実施例では、上記実施形態に係る分析装置100を用いて、非溶媒中における高分子材料の物性の変化を分析する。非溶媒中で高分子の物性が変化する原因の1つに、非溶媒分子の高分子中への浸透現象がある。非溶媒分子の浸入は高分子鎖の運動性を増加させ、高分子材料の物性に大きな影響を与えると考えられる。そのため、高分子中における非溶媒分子の浸入の動力学を理解することは重要である。
【0066】
ナノスケールにおける高分子中への非溶媒の物質移動について考える。高分子と非溶媒では一分子のサイズが異なるため、高分子のサイズに依存した物質移動が観測されると考えられる。さらに、このような微小サイズの高分子材料を用いる場合、材料の体積に対し、非溶媒である液体と接した界面および異種固体界面の面積が大きい。そのため、これらの界面における分子運動特性と、物質移動の関係性も明らかにすることができると考えられる。
【0067】
そこで、本実施例では、上記分析方法及び分析装置100を用いて、メタノール中におけるPMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)膜の厚化挙動を追跡することにより、高分子膜の膨潤メカニズムを明らかにする。
【0068】
本実施例では、試料として、数平均分子量(Mn)=300kで、分子量分布(Mw/Mn)が1.05であるPMMAを用いた。ガラス板7にはBK7を用い、ピラニア処理を行うことでガラス板7の表面を洗浄した。洗浄したガラス板7の上には、真空蒸着法により、金属薄膜8としてのAg、AuおよびAgが蒸着され、さらにその上にSiOXが蒸着された。PMMA膜として、トルエン溶液からスピンコート法により調製し、室温で24時間真空乾燥を行ったものを用いた。
【0069】
なお、空気中におけるPMMA膜の膜厚(hair)および屈折率は、原子間力顕微鏡(AFM)、エリプソメータを用いて導出し、SPRおよびGWM反射率測定においては、これらの値を基準としてフィッティングを行った。
【0070】
SPR反射率測定においては厚さ70nm以下の高分子薄膜を、GWM測定においては400nmから数μmの厚さを有する高分子膜の内部構造を評価することができる。SPRおよびGWMを含む種々の光学測定において、複数の層を有する物質の透過率および反射率を計算する手法には、transfer-matrix法を用いた。transfer-matrix法を用いて多層膜の反射率を計算する場合、厚さおよび膜の屈折率が一様となっている層を仮定しなければならない。しかしながら、液体と接した高分子膜の膨潤率が、深さ方向に対して一様とは限らない。そこで、本実施例では、高分子膜を、既に膨潤し終わった層((a)層:layer a)と、膨潤している途中の層((b)層:layer b)と、まだ膨潤していない層((c)層:layer c)との3層に分けて反射率を計算し、実験値と比較することで3層それぞれの厚さおよび屈折率の概算値を導出した。
【0071】
図9(A)は、メタノール中におけるPMMA薄膜のSPR反射率曲線を示し、図9(B)は、膜構造の計算を行うために仮定したモデルの模式図を示し、図9(C)は、高分子薄膜の厚さとその体積分率ΦPMMAの関係を示す。
【0072】
さらに、SPR反射率測定で測定出来ない膜厚領域については、GWM反射率測定および光学反射測定に基づいて評価を行った。GWM反射率測定では厚さ400nmから数μmの高分子膜について、光学反射測定では厚さ100nmから400nmの高分子膜の内部構造について評価することができる。本実施例に係る分析方法では、SPR、GWM及び光学反射率測定を組み合わせることにより、非溶媒中における厚さ数nmから数μmの高分子膜の内部構造変化について追跡する。図10(A)はメタノール中におけるPMMA膜のGWM反射率曲線を示し、図10(B)は、メタノール中におけるPMMA膜の光学反射率曲線を示す。
【0073】
図11(A)は、メタノールと接触したPMMA膜のSPR反射率曲線を示し、図11(B)は、メタノールと接触したPMMA膜のGWM反射率曲線を示し、図11(C)は、メタノールと接触したPMMA膜の光学反射率曲線の時間変化を示す。図11(A)及び図11(B)に示すように、SPR反射率曲線及びGWM反射率曲線は、メタノールとの接触時間の増加とともに共鳴角が高角度側にシフトし、また共鳴角における反射率が減少した。一方、図11(C)に示すように、光学反射率曲線は、メタノールとの接触時間の増加とともにディップの角度が低角度側にシフトし、ディップの反射率が増加した。SPR及びGWM反射率測定では、共鳴角の増加は金属薄膜8上に調製した膜の厚さおよび密度の増加と対応している。また、共鳴角における反射率の減少は膜厚および膜密度の減少と対応している。光学反射率測定では、ディップの角度およびディップにおける反射率の変化は、ガラス板7上に調製した金属および高分子膜の光学定数および厚さに依存する。図9(C)の条件では、ディップの角度およびディップにおける反射率の減少は膜厚および膜密度の減少と対応し、ディップの角度およびディップにおける反射率の増加は膜厚および膜密度の増加と対応する。今回得られた結果を、これまでに中性子反射率(NR)反射率測定で得られた結果と比較すると、各反射率曲線の時間変化はメタノール中におけるPMMA膜の膨潤挙動を追跡していると考えてよい。
【0074】
図12は、メタノール接触後におけるPMMA膜厚の時間変化を示す。縦軸は、ある測定時刻における膜厚を、空気中における膜厚(hair)で規格化した膨潤率であり、横軸はメタノールの接触時間である。また、図を見やすくするため、hair=59.3及び498nmのデータは縦軸方向に、それぞれ、0.5及び1.0ずらしている。いずれの膜も時間の経過とともに膨潤、厚化した。膨潤率が一定に到達するまでの時間(teq)は、hairとともに長くなり、hair=30.5nm、59.3nm及び498nmにおいて、それぞれ、約1×103[s]、4×103[s]および5×103[s]であった。hair=30.5及び59.3nmのteqを比較すると、その値は3倍程度増加している。一方、hair=498nmの膜はhair =59.3nmの膜より8倍程度厚いにもかかわらず、teqは1.25倍しか増加していない。これらの結果から、PMMA膜中におけるメタノールの拡散は膜厚に依存すると推測できる。
【0075】
これまでに、バルクのPMMA/メタノールの系において、Case II拡散というFickの拡散とは異なる挙動を示す拡散現象が観測されている。Case II拡散とは、非溶媒が高分子中に浸入する際、急峻な濃度勾配を以て膨潤した高分子層と膨潤していない層を分割し、一定の速度で高分子中に非溶媒が拡散を起こす現象である。Case II拡散では、膨潤層と非膨潤層の境界を拡散フロントと呼び、拡散フロント近傍では指数関数的に溶媒の体積分率が減少することが知られている。
【0076】
今回行った測定においても、Case II拡散が成立すると仮定した。より正確に膜構造を評価するため、(a)層の厚さおよび(c)層における膨潤率を、3層のモデルで仮定した値のまま固定した状態で、(b)層を20層に細分化した。(b)層を細分化したのは、Case II拡散における拡散フロントの指数関数的な濃度勾配を擬似的に表現するためである。以下、(a)層、(b)層、(c)層を、Case II拡散の定義に則り、”膨潤層”、”拡散フロント”、”ガラス層”と呼ぶ。細分化した層は、それぞれ膨潤率が一様であると定義し、それぞれの層において異なる膨潤率を代入することにより、反射率の計算を行った。図13(A)は、拡散フロントを細分化した模式図であり、図13(B)は、その膜構造をプロットしたグラフである。
【0077】
細分化した膜の屈折率を導出する際、拡散フロント全体における膨潤率の深さの変化を仮定する必要がある。そのため、以下の式に基づいて拡散フロントにおける膨潤率の計算を行った。
【数1】
ここで、φ(z)、φc、V、z、Dは、それぞれある深さにおける膨潤率、swollen layerと拡散フロントの界面における膨潤率、拡散フロントが膜内部へ進行する速度、拡散フロントとglassy layerの界面からの距離、メタノール分子の拡散係数を示す。φcは、swollen layerにおける膨潤率に等しい。swollen layerの厚さに関しては、拡散フロントにおける膨潤率および空気中におけるPMMA薄膜の体積を考慮し、メタノールと接触したPMMA薄膜および空気中におけるPMMA薄膜の質量が一致するよう(膨潤によってPMMAが消失、もしくは増加しないよう)微調整を行った。
【0078】
この解析を行う時点において、未知の変数がVおよびDと2つ存在する。そのため、式(1)におけるV/Dの項をxと定義し、変数を1つに減らして計算を行った。細分化した拡散フロントにおいて、各層を、glassy layerと接している側から順番に1層、2層、…20層と定義する。今、j層における中心の膨潤率を、その層での膨潤率φj、1層あたりの厚さをlとすると、式(1)は、
【数2】
と記述することができる。式(2)におけるφj(z)を用いて、精確な膜構造を評価した。図14(A)は、xの値を変えて計算を行った反射率曲線のグラフであり、図14(B)は、その膜構造をプロットしたグラフである。
【0079】
図14(A)に示す反射率曲線は、x=2.1の点において最もよい一致を示した。このパラメータおよび、反射率曲線の時間変化から導出した膜構造の時間変化に基づいて、PMMA薄膜中におけるメタノールの拡散係数を導出することができる。
【0080】
図15(A)は、それぞれ2層、3層および複数の層を仮定したSPR反射率曲線のグラフであり、図15(B)は、その膜構造をプロットしたグラフである。図15(A)に示すように、それぞれのSPR反射率曲線における差異はそれほど大きくないものの、Case II拡散を仮定した(すなわち拡散フロントを細かく分割した)層の反射率曲線がより一致することが明らかになった。このことからPMMA薄膜中におけるメタノール分子の拡散挙動は、Case II拡散に基づく拡散であると示唆された。
【0081】
PMMA薄膜中におけるメタノール分子の拡散係数を導出するためには、次の式を用いて、矛盾のない値を導出する必要がある。これまでに、2つの未知数を含んだxの値が明らかになっているので、2つの式を比較することでVおよびDの値をそれぞれ別個に導出することができる。以下の式(3)は、Case II拡散における非溶媒分子のDとVの関係である。
【数3】
ここで、t、dΦ/dtは、それぞれメタノールとの接触時間、膜全体における膨潤率の時間変化である。SPR反射率曲線およびモデルに基づいて評価した、ある接触時間tにおける膜の内部構造から、式(1)及び式(3)におけるΦc、dΦ/dt、Vを導出することができる。これらの値から計算で求められるDと、式(2)におけるxから求められるDの値が一致していれば、反射率曲線から仮定したモデルが正しいと断定することができる。
【0082】
(PMMA膜中におけるメタノール分子の拡散係数評価)
図16は、メタノール中におけるPMMA薄膜および厚膜の膨潤挙動を示すグラフである。厚膜(hair=498nm)の場合、膜厚の時間変化は1成分で記述できる。一方、薄膜(hair=45.0、59.3nm)の場合、2成分の膜厚時間変化が観測された。すなわち、薄膜では、2成分のメタノールの拡散係数が導出された。
【0083】
図17はメタノールの拡散係数と膜厚の関係を示すグラフである。厚膜領域において得られたDは文献値(Dbulk=2.0×10-12(cm2・s-1))と同程度であったが、初期膜厚が240nm以下の領域では、Dbulkより小さかった。一方、初期膜厚が70nm以下の薄膜領域では、2種類のVが観測された。遅い成分(Dslow)は膜内部における拡散に対応し、初期膜厚とともに減少した。Dfastは非溶媒界面近傍における拡散に対応するため、初期膜厚に依存せずほぼ一定であった。薄膜領域におけるDfastもDbulkより著しく小さかった。膜が薄くなると試料全体積に対する界面積が著しく増大することを考えると、PMMA薄膜へのメタノールの拡散は、基板界面の効果により抑制されたと推測できる。
【0084】
(薄膜中における分子鎖熱運動性とメタノールの拡散挙動)
高分子薄膜が膨潤するためには、高分子鎖はある程度大きなスケールで移動をしなければならない。これまでに、本発明者は、動的粘弾性測定に基づいて、PMMA超薄膜の分子鎖熱運動性と基板の関係について検討を行った。その結果、基板界面におけるガラス転移温度がバルクと比較して上昇していることが明らかになった。そのため、薄膜領域においてメタノール分子の浸入を阻害する要因を検討すべく、異なる基板を用いてメタノール中におけるPMMA膜の膨潤挙動を追跡した。SiOXを銀基板上に調製することにより、PMMAの分子鎖熱運動性と基板との相互作用について検討を行った。
【0085】
以下のテーブルに、基板とPMMA薄膜中におけるメタノール分子との関係を示す。
【表1】
【0086】
金およびSiOX基板においても銀基板と同様、2成分の拡散係数が得られた。Dfastに関しては、金およびSiOX基板間に大きな差異は生じなかった。一方、Dslowの値はSiOX基板上において金基板のそれより著しく小さくなった。このことから、DfastおよびDslowはそれぞれ(PMMA/メタノール)界面および(PMMA/ガラス板7)界面における拡散係数であるといえる。PMMA薄膜へのメタノールの拡散は、ガラス板7の界面の効果により抑制されたと推測できる。
【0087】
以上述べたように、分析装置100を用いて、非溶媒中におけるPMMA薄膜の膨潤動力学について検討を行った。メタノールと接触後、Case II拡散で記述できる膨潤挙動が観測された。厚膜においては、1成分の拡散係数が得られ、その値はバルク値とほぼ同じであった。しかしながら、その値はhair=250nm以下の領域では減少し始めた。薄膜領域においては2成分の拡散係数が導出され、Dfastに関しては膜厚に依存しなかったが、Dslowは膜厚に依存した。しかしながら、薄膜領域におけるDfastおよびDslowはバルクと比較して著しく小さかった。そこで、ガラス板7との相互作用について検討を行ったところ、Dslowは基板に依存して変化した。このことから、薄膜領域におけるPMMA膜の膨潤挙動は、基板界面における分子鎖熱運動性が支配的であることが示唆された。
【0088】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、誘電体薄膜の分析に好適である。
【符号の説明】
【0090】
1 光源
2、3 ミラー
4 1/2波長板
5 偏光板
6 プリズム
7 ガラス板
8 金属薄膜
9 セル
10 検出器
11 コンピュータ
12 レーザドライバ
13 ステージ
14 ステージコントローラ
100 分析装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面に分析対象である誘電体が載置される金属薄膜と、
前記金属薄膜の他方の面に実質的に接する界面を有する屈折光学素子と、
P偏光の光束を、前記屈折光学素子に入射させた後、さらに前記界面に入射させる入射手段と、
前記界面で反射する前記光束の反射光の強度を検出する検出手段と、
を備える分析装置を用いた分析方法であって、
前記界面への前記光束の入射角を、臨界角を超える第1の角度と、臨界角未満の第2の角度との間の範囲で調整しながら、前記検出手段によって検出された前記反射光の強度を検出する分析方法。
【請求項2】
臨界角以上の入射角で前記光束が前記金属薄膜に入射しても、表面プラズモン共鳴又は光導波モードの励起による前記反射光の強度の減衰が前記検出手段で検出されない場合には、
臨界角未満の入射角で前記光束を前記金属薄膜に入射させることにより、前記誘電体内で反射する前記光束の反射光と前記界面で反射する反射光との干渉光の強度を、前記検出手段で検出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記検出手段によって検出された前記反射光の強度に基づいて、前記入射角に対する前記反射光の強度特性を算出する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の分析方法。
【請求項4】
一方の面に分析対象である誘電体が載置される金属薄膜と、
前記金属薄膜の他方の面に実質的に接する界面を有する屈折光学素子と、
P偏光の光束を、前記屈折光学素子に入射させた後、さらに前記界面に入射させる入射手段と、
前記界面で反射する前記光束の反射光の強度を検出する検出手段と、
前記界面への前記光束の入射角を、臨界角を超える第1の角度と、臨界角未満の第2の角度との間の範囲で調整する調整手段と、
を備える分析装置。
【請求項5】
前記調整手段が、前記入射角を臨界角以上に調整しても、
前記検出手段が、表面プラズモン共鳴又は光導波モードの励起による前記反射光の強度の減衰を検出しない場合には、
前記調整手段は、
前記入射角を、臨界角未満に調整し、
前記検出手段が、
前記誘電体内で反射する前記光束の反射光と前記界面で反射する反射光との干渉光の強度を検出する、
ことを特徴とする請求項4に記載の分析装置。
【請求項6】
前記検出手段によって検出された前記反射光の強度に基づいて、前記入射角に対する前記反射光の強度特性を算出する算出手段をさらに備える、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の分析装置。
【請求項1】
一方の面に分析対象である誘電体が載置される金属薄膜と、
前記金属薄膜の他方の面に実質的に接する界面を有する屈折光学素子と、
P偏光の光束を、前記屈折光学素子に入射させた後、さらに前記界面に入射させる入射手段と、
前記界面で反射する前記光束の反射光の強度を検出する検出手段と、
を備える分析装置を用いた分析方法であって、
前記界面への前記光束の入射角を、臨界角を超える第1の角度と、臨界角未満の第2の角度との間の範囲で調整しながら、前記検出手段によって検出された前記反射光の強度を検出する分析方法。
【請求項2】
臨界角以上の入射角で前記光束が前記金属薄膜に入射しても、表面プラズモン共鳴又は光導波モードの励起による前記反射光の強度の減衰が前記検出手段で検出されない場合には、
臨界角未満の入射角で前記光束を前記金属薄膜に入射させることにより、前記誘電体内で反射する前記光束の反射光と前記界面で反射する反射光との干渉光の強度を、前記検出手段で検出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記検出手段によって検出された前記反射光の強度に基づいて、前記入射角に対する前記反射光の強度特性を算出する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の分析方法。
【請求項4】
一方の面に分析対象である誘電体が載置される金属薄膜と、
前記金属薄膜の他方の面に実質的に接する界面を有する屈折光学素子と、
P偏光の光束を、前記屈折光学素子に入射させた後、さらに前記界面に入射させる入射手段と、
前記界面で反射する前記光束の反射光の強度を検出する検出手段と、
前記界面への前記光束の入射角を、臨界角を超える第1の角度と、臨界角未満の第2の角度との間の範囲で調整する調整手段と、
を備える分析装置。
【請求項5】
前記調整手段が、前記入射角を臨界角以上に調整しても、
前記検出手段が、表面プラズモン共鳴又は光導波モードの励起による前記反射光の強度の減衰を検出しない場合には、
前記調整手段は、
前記入射角を、臨界角未満に調整し、
前記検出手段が、
前記誘電体内で反射する前記光束の反射光と前記界面で反射する反射光との干渉光の強度を検出する、
ことを特徴とする請求項4に記載の分析装置。
【請求項6】
前記検出手段によって検出された前記反射光の強度に基づいて、前記入射角に対する前記反射光の強度特性を算出する算出手段をさらに備える、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図9】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図9】
【図13】
【公開番号】特開2012−229930(P2012−229930A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96854(P2011−96854)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
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