分析方法及び分析装置
【課題】脱水試薬を使用することなく金属試料中における炭素成分及び硫黄成分の含有量を同時に、且つ、精度良く分析すること。
【解決手段】金属試料6を酸素中で燃焼させ、金属試料6中の炭素成分と硫黄成分とをガス化させることにより、金属試料6中の炭素成分及び硫黄成分の含有率を分析する分析装置1において、ガス化した炭素成分と硫黄成分とを含む分析ガスに赤外線を照射し、赤外線の吸収量を測定することによって、金属試料6中における炭素成分の含有量を測定する非分散型赤外線ガス分析計5と、分析ガスに紫外線を照射し、紫外線の照射に伴い発生する蛍光の強度を測定することによって、金属試料6中における硫黄成分の含有量を測定する紫外蛍光ガス分析計4と、を備える。
【解決手段】金属試料6を酸素中で燃焼させ、金属試料6中の炭素成分と硫黄成分とをガス化させることにより、金属試料6中の炭素成分及び硫黄成分の含有率を分析する分析装置1において、ガス化した炭素成分と硫黄成分とを含む分析ガスに赤外線を照射し、赤外線の吸収量を測定することによって、金属試料6中における炭素成分の含有量を測定する非分散型赤外線ガス分析計5と、分析ガスに紫外線を照射し、紫外線の照射に伴い発生する蛍光の強度を測定することによって、金属試料6中における硫黄成分の含有量を測定する紫外蛍光ガス分析計4と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属試料中における炭素成分及び硫黄成分の含有量を同時に分析する分析方法及び分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属試料中における炭素成分及び硫黄成分の含有量を同時に分析する方法として、燃焼赤外線吸収法が知られている(非特許文献1参照)。燃焼赤外線吸収法は、金属試料を酸素気流中で燃焼させ、金属試料の燃焼によって発生した一酸化炭素ガス(COガス),二酸化炭素ガス(CO2ガス),及び二酸化硫黄ガス(SO2ガス)を赤外線検出器に導入し、各ガスによる赤外線の吸収量を測定することにより、金属試料中における炭素成分及び硫黄成分の含有量を分析する方法である。この燃焼赤外線吸収法では、COガスで波長4.7μm、CO2ガスで波長4.3μm、SO2ガスで波長7.4μmが赤外線吸収波長として用いられることが多いが、金属試料の燃焼過程で生成される水分による光吸収が赤外領域の広範囲に及ぶため、いずれのガスの赤外線吸収波長においても水分の影響がある。金属試料の燃焼過程で水分が発生する原因としては、金属試料が投入される磁製ルツボ中の結晶水の熱分解や金属試料中の水素の酸化等が考えられるが、いずれも不可避的、且つ、非定量的である。このため、燃焼赤外線吸収法では、赤外線検出器の前方に脱水器を配置することによって、分析値の正確さを担保するようにしている。脱水器としては、過塩素酸マグシウムの細粒を充填したカラムが広く用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】JIS G 1215 鉄及び鋼−硫黄分析方法
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、脱水器に用いられる過塩素酸マグネシウム等の脱水試薬は経時的に劣化する。このため、分析値の正確さを維持するためには、劣化した脱水試薬の交換時期を遅らせないことが重要である。しかしながら、脱水試薬の劣化の程度を定量的に把握することは不可能であり、過塩素酸マグネシウムでは劣化による色調に変化が認められないことから劣化を目視確認することすら難しい。このような背景から、燃焼赤外線吸収法では、経験に基づいて設定された所定の分析回数毎に、脱水試薬を交換したり、標準試料による確認分析を行ったりする必要があった。所定の分析回数毎に脱水試薬を交換した場合、脱水試薬は、実際の寿命に到達する以前に交換されることになり、脱水試薬の使用量や廃棄量が増加する。また、過塩素酸マグネシウムは消防法上の危険物に該当するため、取扱量が増加することは問題であった。
【0005】
また、標準試料による確認分析にも様々な問題がある。例えば、不注意により作業者が脱水試薬の交換を怠った場合や交換時期以前に予想を超える脱水試薬の劣化が生じた場合には、分析値の異常に気づかないまま、測定が断続的に実行されてしまう。そして、分析値の異常に気づいた時には、正常な脱水試薬の状態で再分析を行うことになるが、分析値が異常を呈した時期を推し量ることができないため、最後に確認した標準試料まで遡って再分析する手間が生じる。また、精錬中の分析値のように測定結果に基づいて製造工程が進行してしまった場合、再分析は無意味なものであり、試料が余剰にない場合は再分析も不可能となる。
【0006】
以上のことから、脱水試薬を使用することなく金属試料中における炭素成分及び硫黄成分の含有量を同時に、且つ、精度良く分析可能な分析方法及び分析装置の提供が求められていた。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、脱水試薬を使用することなく金属試料中における炭素成分及び硫黄成分の含有量を同時に、且つ、精度良く分析可能な分析方法及び分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る分析方法は、金属試料を酸素中で燃焼させ、該金属試料中の炭素成分と硫黄成分とをガス化させることにより、該金属試料中の炭素成分及び硫黄成分の含有量を分析する分析方法において、ガス化した炭素成分と硫黄成分とを含む分析ガスに赤外線を照射し、該赤外線の吸収量を測定することによって、前記金属試料中における炭素成分の含有量を測定する炭素分析工程と、前記分析ガスに紫外線を照射し、紫外線の照射に伴い発生する蛍光の強度を測定することによって、前記金属試料中における硫黄成分の含有量を測定する硫黄分析工程と、を含む。
【0009】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る分析装置は、金属試料を酸素中で燃焼させ、該金属試料中の炭素成分と硫黄成分とをガス化させることにより、該金属試料中の炭素成分及び硫黄成分の含有率を分析する分析装置において、ガス化した炭素成分と硫黄成分とを含む分析ガスに赤外線を照射し、該赤外線の吸収量を測定することによって、前記金属試料中における炭素成分の含有量を測定する非分散型赤外線ガス分析計と、前記分析ガスに紫外線を照射し、紫外線の照射に伴い発生する蛍光の強度を測定することによって、前記金属試料中における硫黄成分の含有量を測定する紫外蛍光ガス分析計と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る分析方法及び分析装置によれば、脱水試薬を使用することなく金属試料中における炭素成分及び硫黄成分の含有量を同時に、且つ、精度良く分析できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の一実施形態である分析装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、図1に示す分析装置の変形例の構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、図1に示す分析装置の変形例の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、図1に示す分析装置の変形例の構成を示すブロック図である。
【図5】図5は、図1に示す分析装置の変形例の構成を示すブロック図である。
【図6】図6は、図5に示す分析装置の変形例の構成を示すブロック図である。
【図7】図7は、図1に示す分析装置の変形例の構成を示すブロック図である。
【図8】図8は、図7に示す分析装置の変形例の構成を示すブロック図である。
【図9】図9は、従来の分析装置の構成を示すブロック図である。
【図10】図10は、図1に示す分析装置で鉄鋼標準試料を繰り返し分析した際の、紫外蛍光分析法の励起光源の点灯周波数と硫黄分析精度との関係を示す図である。
【図11】図11は、図1及び図2に示す分析装置で鉄鋼標準試料を分析した際の、鋼中硫黄含有率と硫黄の蛍光強度との関係を示す図である。
【図12】図12は、図1及び図2に示す分析装置で鉄鋼標準試料を分析した際の、鋼中炭素含有率と炭素の赤外線吸収強度との関係を示す図である。
【図13】図13は、図12の極低炭素濃度域を拡大した図である。
【図14】図14は、比較例の分析装置で脱水器を使用した場合と使用しない場合における、鉄鋼標準試料を分析した際の鋼中硫黄含有率と硫黄の赤外線吸収強度との関係を示す図である。
【図15】図15は、硫黄含有率と補正前後の硫黄分析値との関係を示す図である。
【図16】図16は、分析回数と炭素補正値との関係を示す図である。
【図17】図17は、分析回数と炭素補正値との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一般に、金属試料中の炭素の含有率は、極低炭素鋼等の一部の鋼種を除き、硫黄の含有率の数倍から数百倍もある。本発明者らは、炭素の分析波長が硫黄の分析波長に比べて水分の影響量が少ないことに着眼して、水分の影響量が少ない酸素中の硫黄分析方法について検討した。以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である分析方法及び分析装置について詳しく説明する。なお、本発明の一実施形態である分析方法及び分析装置によって分析可能な金属試料としては、銅合金や鉄鋼等からなる金属試料を例示できる。
【0013】
〔分析装置の構成〕
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態である分析装置の構成について説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態である分析装置の構成を示すブロック図である。図1に示すように、本発明の一実施形態である分析装置1は、加熱炉2,ダストフィルタ3,紫外蛍光式SO2分析計4,及び赤外吸収式CO・CO2分析計5を主な構成要素として備えている。
【0015】
加熱炉2は、高周波誘導加熱式加熱炉や抵抗加熱式加熱炉によって構成されている。加熱炉2の内部には純酸素ガスが通気され、磁製ルツボ21中に入れられた金属試料6と助燃剤とが加熱によって溶解すると、金属試料6に含まれていた炭素成分や硫黄成分が純酸素ガスと反応して(即ち、金属試料6が燃焼して)COガス,CO2ガス,及びSO2ガスが生成される。なお、金属試料6を燃焼させる際には、スズやタングステン等の助燃剤を用いることが好ましい。
【0016】
ダストフィルタ3は、加熱炉2における金属試料6の燃焼によって生成されたCOガス,CO2ガス,及びSO2ガスを含有する酸素(以下、分析ガス)から塵埃(ダスト)を除去するものである。このダストフィルタ3によって、後段の紫外蛍光式SO2分析計4や赤外吸収式CO・CO2分析計5を金属試料6や助燃剤に起因するダストから保護することができる。
【0017】
紫外蛍光式SO2分析計4は、分析ガスに例えば波長220nmの紫外線を照射し、紫外線の照射によって励起状態となったSO2が基底状態に戻る際に放出される蛍光(例えば、波長330nm)の強度を測定することによって、予め作成した検量線を用いて蛍光の強度の積算値から金属試料6中における硫黄成分の含有量を算出するためのものである。紫外蛍光式SO2分析計4としては、紫外線発生源と、SO2に紫外線を照射するための蛍光セルと、励起光を測定する光電子増倍管とを備える紫外蛍光分析計を用いることができる。
【0018】
紫外線発生源としては、瞬間的に高輝度な光を放出可能なパルス点灯方式のものを用いることが好ましい。パルス点灯方式の紫外線発生源を用いることにより、紫外線を吸収する純酸素ガスの条件においても十分な蛍光強度を得ることができる上に、連続点灯方式の紫外線発生源に比べて光源の寿命を長くすることができるので、鉄鋼業のような連続操業に対応する分析装置として好適となる。さらに、紫外線発生源の点灯周波数は、図10に示すように2Hz以上、より好ましくは5Hz以上とすれば、瞬時に燃焼した金属試料6から生成されたSO2ガスを隈無く計測できるので分析精度が向上する。但し、紫外線発生源の長寿命化を図るため、点灯周波数は100Hz以下とすることが望ましい。
【0019】
赤外吸収式CO・CO2分析計5は、分析ガスに赤外線を透過させ、CO2分子の振動及び回転の励起に必要な特定波長(例えば4.3μm)の光吸収量を測定することにより、予め作成した検量線を用いて測定された赤外線強度の吸収量から金属試料6中における炭素成分の含有量を算出するためのものである。なお、図2に示すように、図1に示す分析装置1におけるダストフィルタ3と紫外蛍光式SO2分析計4との間に脱水器7を設置してもよい。また、図3及び図4に示すように、図1及び図2に示す分析装置1における紫外蛍光式SO2分析計4及び赤外吸収式CO・CO2分析計5を並列に配置してもよい。
【0020】
〔変形例1〕
図5は、図1に示す分析装置1の変形例の構成を示すブロック図である。図5に示すように、本変形例では、図1に示す分析装置1におけるダストフィルタ3と紫外蛍光式SO2分析計4との間に脱水器7が設置され、紫外蛍光式SO2分析計4の後段に赤外吸収式SO2分析計8が配置され、紫外蛍光式SO2分析計4,赤外吸収式CO・CO2分析計5,及び赤外吸収式SO2分析計8にコンピュータ9が電気的に接続されている。この構成では、脱水器7は、バルブによって分岐された配管に設置されおり、検量線試料を測定する際に用いられ、未知の金属試料を分析する場合には用いられない。赤外吸収式SO2分析計8は、通常用いられる非分散型の赤外吸収式のSO2分析計によって構成されている。
【0021】
コンピュータ9は、以下に示す数式(1)を利用して、紫外蛍光式SO2分析計4と赤外吸収式SO2分析計8との硫黄分析値の差に基づいて赤外吸収式CO・CO2分析計5で得られる炭素の定量値を分析ガス中の水分の影響を取り除くように補正する。なお、数式(1)中の係数Kは、脱水器7を使った場合及び使わない場合それぞれの場合で標準試料を測定し、同時に測定された炭素及び硫黄(赤外吸収式SO2分析計8によって測定されたもの)の検量線を作成して、以下に示す数式(2)により求められる。
【0022】
CCOR%=CIR%−K(SIR%−SUV%) …(1)
CCOR%は補正後の炭素分析値であり、CIR%は赤外吸収式CO・CO2分析計5によって得られた信号強度を脱水器7を用いて作成された検量線によって読み取った炭素分析値であり、SIR%は赤外吸収式SO2分析計8によって得られた信号強度を脱水器7を用いて作成された検量線によって読み取った硫黄分析値であり、SUV%は紫外蛍光式SO2分析計4によって得られた硫黄分析値であり、Kは以下に示す数式(2)から求められる値である。
【0023】
K=(CW%−C0%)/(SW%−S0%) …(2)
CW%は脱水器7を用いずに検量線試料を測定した際の赤外吸収式CO・CO2分析計5によって得られた信号強度と炭素濃度との検量線の濃度切片であり、C0%は脱水器7を用いて検量線試料を測定した際の赤外吸収式CO・CO2分析計5によって得られた信号強度と炭素濃度との検量線の濃度切片であり、SW%は脱水器7を用いずに検量線試料を測定した際の赤外吸収式SO2分析計8によって得られた信号強度と硫黄濃度との検量線の濃度切片であり、SW%は脱水器7を用いて検量線試料を測定した際の赤外吸収式SO2分析計8によって得られた信号強度と硫黄濃度との検量線の濃度切片である。
【0024】
図5に示す分析装置1では、脱水器7は初期の検量線作成時だけに使われ、日常的な測定では使われない。このため、図5に示す分析装置1の構成によれば、脱水試薬をほとんど使用することなく炭素及び硫黄の含有量を同時に定量することができ、極低炭素鋼にも有効な分析装置となる。なお、図6に示すように、図5に示す分析装置1における紫外蛍光式SO2分析計4及び赤外吸収式CO・CO2分析計5を並列に配置してもよい。
【0025】
〔変形例2〕
図7は、図1に示す分析装置1の変形例の構成を示すブロック図である。図7に示すように、本変形例では、ダストフィルタ3と紫外蛍光式SO2分析計4との間に脱水器7が配置され、紫外蛍光式SO2分析計4と赤外吸収式CO・CO2分析計5との間に赤外吸収式SO2分析計8が配置され、紫外蛍光式SO2分析計4と赤外吸収式SO2分析計8とにコンピュータ9が電気的に接続されている。このような分析装置1では、紫外蛍光式SO2分析計4による硫黄分析値と赤外吸収式SO2分析計8による硫黄分析値との差が分析ガス中の水分量に応じて変動する。すなわち、紫外蛍光式SO2分析計4による硫黄分析値と赤外吸収式SO2分析計8による硫黄分析値との差は脱水器7の劣化状態に応じて変動する。従って、この分析装置1では、紫外蛍光式SO2分析計4による硫黄分析値と赤外吸収式SO2分析計8による硫黄分析値との差を指標とすることによって、脱水器7の劣化状態を常時把握することが可能となり、脱水試薬の交換時期の適正化を実現することができる。なお、図8に示すように、図7に示す分析装置1における紫外蛍光式SO2分析計4及び赤外吸収式CO・CO2分析計5を並列に配置してもよい。
【0026】
〔実施例1,2〕
実施例1として、図1に示す分析装置1を用いて、以下に示す表1の鉄鋼標準試料中における炭素成分及び硫黄成分の含有量を以下に示す表2記載の条件でそれぞれ測定した。実施例2として、図2に示す分析装置1を用いて同様の測定を行った。炭素及び硫黄の検量線を作成した結果を図11及び図12に示す。また、図12の極低炭素濃度域を拡大した図を図13に示す。本実施例1,2では、加熱炉1と赤外吸収式CO・CO2分析計5として炭素・硫黄分析装置EMIA−520(堀場製作所製)を使用し、紫外蛍光式SO2分析計4として大気中硫黄酸化物濃度測定装置APSA−370(堀場製作所製)を使用した。比較例1として、図9に示す従来の分析装置を用いて同様に鉄鋼標準試料を測定した。比較例2として、図9に示す従来の分析装置において、脱水器7を用いずに同様に鉄鋼標準試料を測定した。比較例1と比較例2の測定結果を図14に示す。
【0027】
【表1】
【表2】
【0028】
図14に示すように、従来の分析装置による硫黄検量線では、脱水器7の有無での差異が非常に大きく、脱水器7を用いないと相関も悪化する傾向にある。これは、従来の分析装置では脱水試薬の劣化によって硫黄分析値が大きく変動することを意味している。一方、図11に示すように、実施例1,2においては、検量線がほぼ同一であることから、脱水器7が必要でないことがわかる。さらに、実施例1と実施例2の硫黄検量線は、従来の分析装置の硫黄検量線に比べ、バックグランドが低い点でも優れている。一方、炭素検量線は、図13の極低炭素域では差異を示すものの、一般的な鋼中炭素濃度レベルの図12ではほとんど差異がない。以上のことから、実施例1,2によれば、極低炭素鋼を除き金属試料中の炭素成分及び硫黄成分を正確に同時分析できることが知見された。
【0029】
〔実施例3〕
実施例3として、図5に示す分析装置1を用いて、極低炭素鋼試料を表2に示す条件で測定した。赤外吸収式CO・CO2分析計5によって得られた補正前の分析値と数式(1)で補正した分析値とを図15に示す。図15に示すように、実施例3においては、脱水器7を用いない場合には水分の影響で炭素分析値が高くなってしまうが、分析値を補正することにより極低炭素鋼においても炭素成分と硫黄成分とを同時に定量できることが知見された。
【0030】
〔実施例4〕
実施例4として、図7に示す分析装置1を用いて2000個の鉄鋼試料の測定を1000試料ずつ2回に分けて実施した。30測定毎にダストフィルタ3の洗浄と数回の捨て測定とを行った。赤外吸収式SO2分析計8の分析値と紫外蛍光式SO2分析計4の分析値との差に数式(2)から求められる係数Kを乗算した炭素補正値の推移を図16及び図17に示す。どちらの図においても炭素補正値は測定を重ねるごとに増加している。これは、脱水器7に使われる脱水試薬の劣化が進行していていることを意味している。例えば、図17では200回付近で試薬の劣化が著しく進行していることが定量的に観測できる。これにより、実施例4によれば、測定の都度、試薬の劣化程度を把握し、試薬交換の時期の適正化を実現できることが確認できた。
【0031】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0032】
1 分析装置
2 加熱炉
3 ダストフィルタ
4 紫外蛍光式SO2分析計
5 赤外吸収式CO・CO2分析計
6 金属試料
7 脱水器
8 赤外吸収式SO2分析計
9 コンピュータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属試料中における炭素成分及び硫黄成分の含有量を同時に分析する分析方法及び分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属試料中における炭素成分及び硫黄成分の含有量を同時に分析する方法として、燃焼赤外線吸収法が知られている(非特許文献1参照)。燃焼赤外線吸収法は、金属試料を酸素気流中で燃焼させ、金属試料の燃焼によって発生した一酸化炭素ガス(COガス),二酸化炭素ガス(CO2ガス),及び二酸化硫黄ガス(SO2ガス)を赤外線検出器に導入し、各ガスによる赤外線の吸収量を測定することにより、金属試料中における炭素成分及び硫黄成分の含有量を分析する方法である。この燃焼赤外線吸収法では、COガスで波長4.7μm、CO2ガスで波長4.3μm、SO2ガスで波長7.4μmが赤外線吸収波長として用いられることが多いが、金属試料の燃焼過程で生成される水分による光吸収が赤外領域の広範囲に及ぶため、いずれのガスの赤外線吸収波長においても水分の影響がある。金属試料の燃焼過程で水分が発生する原因としては、金属試料が投入される磁製ルツボ中の結晶水の熱分解や金属試料中の水素の酸化等が考えられるが、いずれも不可避的、且つ、非定量的である。このため、燃焼赤外線吸収法では、赤外線検出器の前方に脱水器を配置することによって、分析値の正確さを担保するようにしている。脱水器としては、過塩素酸マグシウムの細粒を充填したカラムが広く用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】JIS G 1215 鉄及び鋼−硫黄分析方法
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、脱水器に用いられる過塩素酸マグネシウム等の脱水試薬は経時的に劣化する。このため、分析値の正確さを維持するためには、劣化した脱水試薬の交換時期を遅らせないことが重要である。しかしながら、脱水試薬の劣化の程度を定量的に把握することは不可能であり、過塩素酸マグネシウムでは劣化による色調に変化が認められないことから劣化を目視確認することすら難しい。このような背景から、燃焼赤外線吸収法では、経験に基づいて設定された所定の分析回数毎に、脱水試薬を交換したり、標準試料による確認分析を行ったりする必要があった。所定の分析回数毎に脱水試薬を交換した場合、脱水試薬は、実際の寿命に到達する以前に交換されることになり、脱水試薬の使用量や廃棄量が増加する。また、過塩素酸マグネシウムは消防法上の危険物に該当するため、取扱量が増加することは問題であった。
【0005】
また、標準試料による確認分析にも様々な問題がある。例えば、不注意により作業者が脱水試薬の交換を怠った場合や交換時期以前に予想を超える脱水試薬の劣化が生じた場合には、分析値の異常に気づかないまま、測定が断続的に実行されてしまう。そして、分析値の異常に気づいた時には、正常な脱水試薬の状態で再分析を行うことになるが、分析値が異常を呈した時期を推し量ることができないため、最後に確認した標準試料まで遡って再分析する手間が生じる。また、精錬中の分析値のように測定結果に基づいて製造工程が進行してしまった場合、再分析は無意味なものであり、試料が余剰にない場合は再分析も不可能となる。
【0006】
以上のことから、脱水試薬を使用することなく金属試料中における炭素成分及び硫黄成分の含有量を同時に、且つ、精度良く分析可能な分析方法及び分析装置の提供が求められていた。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、脱水試薬を使用することなく金属試料中における炭素成分及び硫黄成分の含有量を同時に、且つ、精度良く分析可能な分析方法及び分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る分析方法は、金属試料を酸素中で燃焼させ、該金属試料中の炭素成分と硫黄成分とをガス化させることにより、該金属試料中の炭素成分及び硫黄成分の含有量を分析する分析方法において、ガス化した炭素成分と硫黄成分とを含む分析ガスに赤外線を照射し、該赤外線の吸収量を測定することによって、前記金属試料中における炭素成分の含有量を測定する炭素分析工程と、前記分析ガスに紫外線を照射し、紫外線の照射に伴い発生する蛍光の強度を測定することによって、前記金属試料中における硫黄成分の含有量を測定する硫黄分析工程と、を含む。
【0009】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る分析装置は、金属試料を酸素中で燃焼させ、該金属試料中の炭素成分と硫黄成分とをガス化させることにより、該金属試料中の炭素成分及び硫黄成分の含有率を分析する分析装置において、ガス化した炭素成分と硫黄成分とを含む分析ガスに赤外線を照射し、該赤外線の吸収量を測定することによって、前記金属試料中における炭素成分の含有量を測定する非分散型赤外線ガス分析計と、前記分析ガスに紫外線を照射し、紫外線の照射に伴い発生する蛍光の強度を測定することによって、前記金属試料中における硫黄成分の含有量を測定する紫外蛍光ガス分析計と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る分析方法及び分析装置によれば、脱水試薬を使用することなく金属試料中における炭素成分及び硫黄成分の含有量を同時に、且つ、精度良く分析できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の一実施形態である分析装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、図1に示す分析装置の変形例の構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、図1に示す分析装置の変形例の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、図1に示す分析装置の変形例の構成を示すブロック図である。
【図5】図5は、図1に示す分析装置の変形例の構成を示すブロック図である。
【図6】図6は、図5に示す分析装置の変形例の構成を示すブロック図である。
【図7】図7は、図1に示す分析装置の変形例の構成を示すブロック図である。
【図8】図8は、図7に示す分析装置の変形例の構成を示すブロック図である。
【図9】図9は、従来の分析装置の構成を示すブロック図である。
【図10】図10は、図1に示す分析装置で鉄鋼標準試料を繰り返し分析した際の、紫外蛍光分析法の励起光源の点灯周波数と硫黄分析精度との関係を示す図である。
【図11】図11は、図1及び図2に示す分析装置で鉄鋼標準試料を分析した際の、鋼中硫黄含有率と硫黄の蛍光強度との関係を示す図である。
【図12】図12は、図1及び図2に示す分析装置で鉄鋼標準試料を分析した際の、鋼中炭素含有率と炭素の赤外線吸収強度との関係を示す図である。
【図13】図13は、図12の極低炭素濃度域を拡大した図である。
【図14】図14は、比較例の分析装置で脱水器を使用した場合と使用しない場合における、鉄鋼標準試料を分析した際の鋼中硫黄含有率と硫黄の赤外線吸収強度との関係を示す図である。
【図15】図15は、硫黄含有率と補正前後の硫黄分析値との関係を示す図である。
【図16】図16は、分析回数と炭素補正値との関係を示す図である。
【図17】図17は、分析回数と炭素補正値との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一般に、金属試料中の炭素の含有率は、極低炭素鋼等の一部の鋼種を除き、硫黄の含有率の数倍から数百倍もある。本発明者らは、炭素の分析波長が硫黄の分析波長に比べて水分の影響量が少ないことに着眼して、水分の影響量が少ない酸素中の硫黄分析方法について検討した。以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である分析方法及び分析装置について詳しく説明する。なお、本発明の一実施形態である分析方法及び分析装置によって分析可能な金属試料としては、銅合金や鉄鋼等からなる金属試料を例示できる。
【0013】
〔分析装置の構成〕
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態である分析装置の構成について説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態である分析装置の構成を示すブロック図である。図1に示すように、本発明の一実施形態である分析装置1は、加熱炉2,ダストフィルタ3,紫外蛍光式SO2分析計4,及び赤外吸収式CO・CO2分析計5を主な構成要素として備えている。
【0015】
加熱炉2は、高周波誘導加熱式加熱炉や抵抗加熱式加熱炉によって構成されている。加熱炉2の内部には純酸素ガスが通気され、磁製ルツボ21中に入れられた金属試料6と助燃剤とが加熱によって溶解すると、金属試料6に含まれていた炭素成分や硫黄成分が純酸素ガスと反応して(即ち、金属試料6が燃焼して)COガス,CO2ガス,及びSO2ガスが生成される。なお、金属試料6を燃焼させる際には、スズやタングステン等の助燃剤を用いることが好ましい。
【0016】
ダストフィルタ3は、加熱炉2における金属試料6の燃焼によって生成されたCOガス,CO2ガス,及びSO2ガスを含有する酸素(以下、分析ガス)から塵埃(ダスト)を除去するものである。このダストフィルタ3によって、後段の紫外蛍光式SO2分析計4や赤外吸収式CO・CO2分析計5を金属試料6や助燃剤に起因するダストから保護することができる。
【0017】
紫外蛍光式SO2分析計4は、分析ガスに例えば波長220nmの紫外線を照射し、紫外線の照射によって励起状態となったSO2が基底状態に戻る際に放出される蛍光(例えば、波長330nm)の強度を測定することによって、予め作成した検量線を用いて蛍光の強度の積算値から金属試料6中における硫黄成分の含有量を算出するためのものである。紫外蛍光式SO2分析計4としては、紫外線発生源と、SO2に紫外線を照射するための蛍光セルと、励起光を測定する光電子増倍管とを備える紫外蛍光分析計を用いることができる。
【0018】
紫外線発生源としては、瞬間的に高輝度な光を放出可能なパルス点灯方式のものを用いることが好ましい。パルス点灯方式の紫外線発生源を用いることにより、紫外線を吸収する純酸素ガスの条件においても十分な蛍光強度を得ることができる上に、連続点灯方式の紫外線発生源に比べて光源の寿命を長くすることができるので、鉄鋼業のような連続操業に対応する分析装置として好適となる。さらに、紫外線発生源の点灯周波数は、図10に示すように2Hz以上、より好ましくは5Hz以上とすれば、瞬時に燃焼した金属試料6から生成されたSO2ガスを隈無く計測できるので分析精度が向上する。但し、紫外線発生源の長寿命化を図るため、点灯周波数は100Hz以下とすることが望ましい。
【0019】
赤外吸収式CO・CO2分析計5は、分析ガスに赤外線を透過させ、CO2分子の振動及び回転の励起に必要な特定波長(例えば4.3μm)の光吸収量を測定することにより、予め作成した検量線を用いて測定された赤外線強度の吸収量から金属試料6中における炭素成分の含有量を算出するためのものである。なお、図2に示すように、図1に示す分析装置1におけるダストフィルタ3と紫外蛍光式SO2分析計4との間に脱水器7を設置してもよい。また、図3及び図4に示すように、図1及び図2に示す分析装置1における紫外蛍光式SO2分析計4及び赤外吸収式CO・CO2分析計5を並列に配置してもよい。
【0020】
〔変形例1〕
図5は、図1に示す分析装置1の変形例の構成を示すブロック図である。図5に示すように、本変形例では、図1に示す分析装置1におけるダストフィルタ3と紫外蛍光式SO2分析計4との間に脱水器7が設置され、紫外蛍光式SO2分析計4の後段に赤外吸収式SO2分析計8が配置され、紫外蛍光式SO2分析計4,赤外吸収式CO・CO2分析計5,及び赤外吸収式SO2分析計8にコンピュータ9が電気的に接続されている。この構成では、脱水器7は、バルブによって分岐された配管に設置されおり、検量線試料を測定する際に用いられ、未知の金属試料を分析する場合には用いられない。赤外吸収式SO2分析計8は、通常用いられる非分散型の赤外吸収式のSO2分析計によって構成されている。
【0021】
コンピュータ9は、以下に示す数式(1)を利用して、紫外蛍光式SO2分析計4と赤外吸収式SO2分析計8との硫黄分析値の差に基づいて赤外吸収式CO・CO2分析計5で得られる炭素の定量値を分析ガス中の水分の影響を取り除くように補正する。なお、数式(1)中の係数Kは、脱水器7を使った場合及び使わない場合それぞれの場合で標準試料を測定し、同時に測定された炭素及び硫黄(赤外吸収式SO2分析計8によって測定されたもの)の検量線を作成して、以下に示す数式(2)により求められる。
【0022】
CCOR%=CIR%−K(SIR%−SUV%) …(1)
CCOR%は補正後の炭素分析値であり、CIR%は赤外吸収式CO・CO2分析計5によって得られた信号強度を脱水器7を用いて作成された検量線によって読み取った炭素分析値であり、SIR%は赤外吸収式SO2分析計8によって得られた信号強度を脱水器7を用いて作成された検量線によって読み取った硫黄分析値であり、SUV%は紫外蛍光式SO2分析計4によって得られた硫黄分析値であり、Kは以下に示す数式(2)から求められる値である。
【0023】
K=(CW%−C0%)/(SW%−S0%) …(2)
CW%は脱水器7を用いずに検量線試料を測定した際の赤外吸収式CO・CO2分析計5によって得られた信号強度と炭素濃度との検量線の濃度切片であり、C0%は脱水器7を用いて検量線試料を測定した際の赤外吸収式CO・CO2分析計5によって得られた信号強度と炭素濃度との検量線の濃度切片であり、SW%は脱水器7を用いずに検量線試料を測定した際の赤外吸収式SO2分析計8によって得られた信号強度と硫黄濃度との検量線の濃度切片であり、SW%は脱水器7を用いて検量線試料を測定した際の赤外吸収式SO2分析計8によって得られた信号強度と硫黄濃度との検量線の濃度切片である。
【0024】
図5に示す分析装置1では、脱水器7は初期の検量線作成時だけに使われ、日常的な測定では使われない。このため、図5に示す分析装置1の構成によれば、脱水試薬をほとんど使用することなく炭素及び硫黄の含有量を同時に定量することができ、極低炭素鋼にも有効な分析装置となる。なお、図6に示すように、図5に示す分析装置1における紫外蛍光式SO2分析計4及び赤外吸収式CO・CO2分析計5を並列に配置してもよい。
【0025】
〔変形例2〕
図7は、図1に示す分析装置1の変形例の構成を示すブロック図である。図7に示すように、本変形例では、ダストフィルタ3と紫外蛍光式SO2分析計4との間に脱水器7が配置され、紫外蛍光式SO2分析計4と赤外吸収式CO・CO2分析計5との間に赤外吸収式SO2分析計8が配置され、紫外蛍光式SO2分析計4と赤外吸収式SO2分析計8とにコンピュータ9が電気的に接続されている。このような分析装置1では、紫外蛍光式SO2分析計4による硫黄分析値と赤外吸収式SO2分析計8による硫黄分析値との差が分析ガス中の水分量に応じて変動する。すなわち、紫外蛍光式SO2分析計4による硫黄分析値と赤外吸収式SO2分析計8による硫黄分析値との差は脱水器7の劣化状態に応じて変動する。従って、この分析装置1では、紫外蛍光式SO2分析計4による硫黄分析値と赤外吸収式SO2分析計8による硫黄分析値との差を指標とすることによって、脱水器7の劣化状態を常時把握することが可能となり、脱水試薬の交換時期の適正化を実現することができる。なお、図8に示すように、図7に示す分析装置1における紫外蛍光式SO2分析計4及び赤外吸収式CO・CO2分析計5を並列に配置してもよい。
【0026】
〔実施例1,2〕
実施例1として、図1に示す分析装置1を用いて、以下に示す表1の鉄鋼標準試料中における炭素成分及び硫黄成分の含有量を以下に示す表2記載の条件でそれぞれ測定した。実施例2として、図2に示す分析装置1を用いて同様の測定を行った。炭素及び硫黄の検量線を作成した結果を図11及び図12に示す。また、図12の極低炭素濃度域を拡大した図を図13に示す。本実施例1,2では、加熱炉1と赤外吸収式CO・CO2分析計5として炭素・硫黄分析装置EMIA−520(堀場製作所製)を使用し、紫外蛍光式SO2分析計4として大気中硫黄酸化物濃度測定装置APSA−370(堀場製作所製)を使用した。比較例1として、図9に示す従来の分析装置を用いて同様に鉄鋼標準試料を測定した。比較例2として、図9に示す従来の分析装置において、脱水器7を用いずに同様に鉄鋼標準試料を測定した。比較例1と比較例2の測定結果を図14に示す。
【0027】
【表1】
【表2】
【0028】
図14に示すように、従来の分析装置による硫黄検量線では、脱水器7の有無での差異が非常に大きく、脱水器7を用いないと相関も悪化する傾向にある。これは、従来の分析装置では脱水試薬の劣化によって硫黄分析値が大きく変動することを意味している。一方、図11に示すように、実施例1,2においては、検量線がほぼ同一であることから、脱水器7が必要でないことがわかる。さらに、実施例1と実施例2の硫黄検量線は、従来の分析装置の硫黄検量線に比べ、バックグランドが低い点でも優れている。一方、炭素検量線は、図13の極低炭素域では差異を示すものの、一般的な鋼中炭素濃度レベルの図12ではほとんど差異がない。以上のことから、実施例1,2によれば、極低炭素鋼を除き金属試料中の炭素成分及び硫黄成分を正確に同時分析できることが知見された。
【0029】
〔実施例3〕
実施例3として、図5に示す分析装置1を用いて、極低炭素鋼試料を表2に示す条件で測定した。赤外吸収式CO・CO2分析計5によって得られた補正前の分析値と数式(1)で補正した分析値とを図15に示す。図15に示すように、実施例3においては、脱水器7を用いない場合には水分の影響で炭素分析値が高くなってしまうが、分析値を補正することにより極低炭素鋼においても炭素成分と硫黄成分とを同時に定量できることが知見された。
【0030】
〔実施例4〕
実施例4として、図7に示す分析装置1を用いて2000個の鉄鋼試料の測定を1000試料ずつ2回に分けて実施した。30測定毎にダストフィルタ3の洗浄と数回の捨て測定とを行った。赤外吸収式SO2分析計8の分析値と紫外蛍光式SO2分析計4の分析値との差に数式(2)から求められる係数Kを乗算した炭素補正値の推移を図16及び図17に示す。どちらの図においても炭素補正値は測定を重ねるごとに増加している。これは、脱水器7に使われる脱水試薬の劣化が進行していていることを意味している。例えば、図17では200回付近で試薬の劣化が著しく進行していることが定量的に観測できる。これにより、実施例4によれば、測定の都度、試薬の劣化程度を把握し、試薬交換の時期の適正化を実現できることが確認できた。
【0031】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0032】
1 分析装置
2 加熱炉
3 ダストフィルタ
4 紫外蛍光式SO2分析計
5 赤外吸収式CO・CO2分析計
6 金属試料
7 脱水器
8 赤外吸収式SO2分析計
9 コンピュータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属試料を酸素中で燃焼させ、該金属試料中の炭素成分と硫黄成分とをガス化させることにより、該金属試料中の炭素成分及び硫黄成分の含有量を分析する分析方法において、
ガス化した炭素成分と硫黄成分とを含む分析ガスに赤外線を照射し、該赤外線の吸収量を測定することによって、前記金属試料中における炭素成分の含有量を測定する炭素分析工程と、
前記分析ガスに紫外線を照射し、紫外線の照射に伴い発生する蛍光の強度を測定することによって、前記金属試料中における硫黄成分の含有量を測定する硫黄分析工程と、
を含むことを特徴とする分析方法。
【請求項2】
前記硫黄分析工程は、点灯周波数が2Hz以上、100Hz以下の範囲内にあるパルス光源を紫外線源として用い、蛍光の強度のピーク値のみを測定する工程をステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記分析ガスに赤外線を照射し、該赤外線の吸収量を測定することによって、前記金属試料中における硫黄成分の含有量を測定する第2硫黄分析工程と、
前記硫黄分析工程によって測定された硫黄成分の含有量と前記第2硫黄分析工程によって測定された硫黄成分の含有量との差分値から前記分析ガス中の水分量を推定し、推定結果に基づいて前記炭素分析工程によって測定された炭素成分の含有量を補正する補正工程と、
を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記分析ガス中に含まれる水分を除去する脱水工程を含むことを特徴とする請求項3に記載の分析方法。
【請求項5】
前記硫黄分析工程によって測定された硫黄成分の含有量と前記第2硫黄分析工程によって測定された硫黄成分の含有量との差分値に基づいて、前記脱水工程の脱水能力を監視する工程を含むことを特徴とする請求項4に記載の分析方法。
【請求項6】
金属試料を酸素中で燃焼させ、該金属試料中の炭素成分と硫黄成分とをガス化させることにより、該金属試料中の炭素成分及び硫黄成分の含有率を分析する分析装置において、
ガス化した炭素成分と硫黄成分とを含む分析ガスに赤外線を照射し、該赤外線の吸収量を測定することによって、前記金属試料中における炭素成分の含有量を測定する非分散型赤外線ガス分析計と、
前記分析ガスに紫外線を照射し、紫外線の照射に伴い発生する蛍光の強度を測定することによって、前記金属試料中における硫黄成分の含有量を測定する紫外蛍光ガス分析計と、
を備えることを特徴とする分析装置。
【請求項1】
金属試料を酸素中で燃焼させ、該金属試料中の炭素成分と硫黄成分とをガス化させることにより、該金属試料中の炭素成分及び硫黄成分の含有量を分析する分析方法において、
ガス化した炭素成分と硫黄成分とを含む分析ガスに赤外線を照射し、該赤外線の吸収量を測定することによって、前記金属試料中における炭素成分の含有量を測定する炭素分析工程と、
前記分析ガスに紫外線を照射し、紫外線の照射に伴い発生する蛍光の強度を測定することによって、前記金属試料中における硫黄成分の含有量を測定する硫黄分析工程と、
を含むことを特徴とする分析方法。
【請求項2】
前記硫黄分析工程は、点灯周波数が2Hz以上、100Hz以下の範囲内にあるパルス光源を紫外線源として用い、蛍光の強度のピーク値のみを測定する工程をステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記分析ガスに赤外線を照射し、該赤外線の吸収量を測定することによって、前記金属試料中における硫黄成分の含有量を測定する第2硫黄分析工程と、
前記硫黄分析工程によって測定された硫黄成分の含有量と前記第2硫黄分析工程によって測定された硫黄成分の含有量との差分値から前記分析ガス中の水分量を推定し、推定結果に基づいて前記炭素分析工程によって測定された炭素成分の含有量を補正する補正工程と、
を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記分析ガス中に含まれる水分を除去する脱水工程を含むことを特徴とする請求項3に記載の分析方法。
【請求項5】
前記硫黄分析工程によって測定された硫黄成分の含有量と前記第2硫黄分析工程によって測定された硫黄成分の含有量との差分値に基づいて、前記脱水工程の脱水能力を監視する工程を含むことを特徴とする請求項4に記載の分析方法。
【請求項6】
金属試料を酸素中で燃焼させ、該金属試料中の炭素成分と硫黄成分とをガス化させることにより、該金属試料中の炭素成分及び硫黄成分の含有率を分析する分析装置において、
ガス化した炭素成分と硫黄成分とを含む分析ガスに赤外線を照射し、該赤外線の吸収量を測定することによって、前記金属試料中における炭素成分の含有量を測定する非分散型赤外線ガス分析計と、
前記分析ガスに紫外線を照射し、紫外線の照射に伴い発生する蛍光の強度を測定することによって、前記金属試料中における硫黄成分の含有量を測定する紫外蛍光ガス分析計と、
を備えることを特徴とする分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−40826(P2013−40826A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177184(P2011−177184)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】
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