説明

分析方法

【課題】多様な試料を扱う分析においても、装置周囲に付着した不純物の影響を排除し、精度のよい分析を行うことができる分析方法を提供する。
【解決手段】試料ホルダーを備えた真空チャンバー内の固体試料配置部15に測定すべき固体試料16を配置し、該固体試料をスパッタリングして固体試料16の構成成分を元素分析する分析方法において、測定すべき固体試料16に含まれる元素以外の成分からなるターゲット材を前記真空チャンバー内に配置し、前記真空チャンバーの内壁であって前記固体試料載置部15の近傍の領域に前記ターゲット材のスパッタリングによる被膜を形成した後、前記固体試料載置部15に前記固体試料16を配置して前記元素分析を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体試料に一次イオン等を照射することにより固体試料をスパッタリングして、固体試料から放出された元素を分析する分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体試料をスパッタリングして、固体試料から放出された元素を分析する分析方法の一つとして、例えば二次イオン質量分析方法がある。
【0003】
二次イオン質量分析方法は、試料に一次イオンと言われるイオンビームを照射し、試料から放出される二次イオンを質量分析して試料の構成成分の元素を分析する方法である。一次イオンで試料を掘り進ませることにより、深さ方向の元素の分布状態も把握できる。二次イオン質量分析方法に用いられる分析装置は、その方式によって分類され、その代表的なものとして磁場型質量分析装置、四重極質量分析装置、飛行時間型質量分析装置等がある。
【0004】
図3は、標準的な磁場型二次イオン質量分析装置の概略構成図である。本装置では、一次イオン源1,2から発生した一次イオン3が、図示しないレンズ系によって細いビームへと絞られ、試料室4の、試料載置部5に載置された試料6に照射される。そして、一次イオンが照射されたことによって試料6から発生した二次イオン7を質量分離装置8を通して分離したのち検出器9に送って検出することによって試料6の元素分析が行われる。なお、試料室4の内部は、ビームを通すために、使用時は排気装置によって真空に保持されている。
【0005】
ところで、試料6に一次イオンを照射して元素分析を行う際、試料6には加速電圧がかけられており、発生した二次イオンの大部分は検出器9に向かうが、一部の二次イオンや中性粒子は周辺の装置壁面やレンズカバー等に衝突し、その場に付着する。試料6の周囲に付着した二次イオンや中性粒子は、試料に照射された一次イオンの広がりや、二次イオンのエネルギーにより脱離して検出器9に入り込み、分析の際に妨害イオンとなることもある。また、多様な試料を扱う場合においては、先の試料のマトリックス元素が次の試料の分析対象元素である場合もあり、その際は先の測定で付着したマトリックス元素のイオンが次の測定の検出下限を悪化させる恐れがある。
【0006】
このような問題を解決するにあたり、下記特許文献1には、測定試料の所定箇所の周辺を、被測定元素と異なる元素で構成され被測定元素イオンと同一もしくは近接した質量電荷比の多重イオンを発生する恐れが試料の所定箇所より少ない導電性膜で被覆した後に、一次イオンビームを所定箇所に照射して、二次イオン質量分析を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−45463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、引用文献1に開示された方法であっても、試料に一次イオンを照射して元素分析を行う際、試料から発生した二次イオンの一部が、装置壁面等に衝突してその場に付着することがあった。このため、前回の分析時に試料から放出されて壁面に付着していたイオンを、次の元素分析時に検出してしまうことがあり、検出精度を充分に向上できなかった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、多様な試料を扱う分析においても、装置周囲に付着した不純物の影響を排除し、精度のよい分析を効率よく行うことができる分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するにあたり、本発明の分析方法は、試料ホルダーを備えた真空チャンバー内の固体試料配置部に測定すべき固体試料を配置し、該固体試料をスパッタリングして固体試料の構成成分を元素分析する分析方法において、測定すべき固体試料に含まれる元素以外の成分からなるターゲット材を前記真空チャンバー内に配置し、前記真空チャンバーの内壁であって前記固体試料載置部の近傍の領域に前記ターゲット材のスパッタリングによる被膜を形成した後、前記固体試料載置部に前記固体試料を配置して前記元素分析を行うことを特徴とする。
【0011】
本発明の分析方法は、固体試料に一次イオンを照射して、該固体試料から放出される二次イオンを質量分離し、固体試料の構成成分を元素分析する二次イオン質量分析方法であって、前記スパッタリングによる被膜の形成箇所は、一次イオン及び二次イオンの進行方向周辺とすることが好ましい。
【0012】
本発明の分析方法は、前記真空チャンバー内に、測定すべき固体試料に含まれる元素以外の成分からなるイオン化した不活性ガスを導入して前記ターゲット材のスパッタリングを行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、固体試料に一次イオン等を照射し、固体試料をスパッタリングして元素分析を行う前に、真空チャンバーの内壁であって固体試料載置部の近傍の領域に、固体試料に含まれる元素以外の成分からなるターゲット材のスパッタリングによる被膜を形成するので、固体試料の元素分析時に、装置壁面等に付着していたイオンによって、検出すべきイオンの検出が妨害されることがない。このため、検出下限をより向上でき、より精度のよい分析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の二次イオン質量分析に用いる分析装置の概略構成図である。
【図2】Al板を二次イオン質量分析を行った際の深さ方向分布図である。
【図3】従来の二次イオン質量分析に用いる分析装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の分析方法は、固体試料をスパッタリングして、固体試料から放出された元素を分析する分析方法であればいずれの分析方法であっても適用できる。例えば、二次イオン質量分析方法、オージェ電子分光分析方法、X線光電子分光分析方法などにも利用できる。以下、本発明の分析方法について、二次イオン質量分析方法を一例に挙げて説明する。
【0016】
まず、二次イオン質量分析方法に用いる磁場型二次イオン質量分析装置について説明する。
【0017】
図1に示すように、この分析装置10は、一次イオン源11,12から発生した一次イオン13が、図示しないレンズ系によって細いビームへと絞られ、試料室14の、試料配置部15に配置された試料16に照射される。そして、一次イオンが照射されたことによって試料16から発生した二次イオン17が、質量分離装置18を通して分離したのち検出器19に送って検出することによって試料16の元素分析が行われる。また、この分析装置の試料室14には、スパッタリング用のイオン発生源であるイオン銃20が配置されている。
【0018】
次に、この分析装置を用いた、本発明の分析方法について説明する。
【0019】
まず、試料配置部15に、測定すべき固体試料に含まれる元素以外の成分からなるターゲット材を配置する。ターゲット材としては、例えばシリコンウエハ等が挙げられる。
【0020】
そして、試料室14内を、5×10−5Pa以下まで真空引きした後、測定すべき固体試料に含まれる元素以外の成分からなる不活性ガスを導入する。そして、イオン銃20から元素以外の成分からなるイオン化した不活性ガスをターゲット材に照射してスパッタリングを行い、試料室14の内壁であって試料配置部15の近傍の領域に、ターゲット材のスパッタリングによる被膜を形成する。
【0021】
上記イオン化した不活性ガスとしては、特に限定はない。例えば、アルゴン、ヘリウム、クリプトン等が一例として挙げられる。
【0022】
上記スパッタリングは、一次イオン、二次イオンの進行方向周辺が被膜形成されるように行うことが好ましい。
【0023】
また、被膜の膜厚は、100nm以上となるようにスパッタリングを行うことが好ましい。膜厚が100nm未満であると、十分な効果が得られないことがある。
【0024】
次に、試料配置部15の近傍の領域を、ターゲット材のスパッタリングによる被膜を形成したのち、試料配置部15に測定すべき固体試料16を配置し、固体試料16の表面に一次イオン13を照射して、二次イオンを発生させて元素分析を行う。
【0025】
本発明によれば、固体試料16に一次イオンを照射して元素分析を行う前に、試料室14の内壁であって試料配置部15の近傍の領域に、ターゲット材のスパッタリングによる被膜を形成するので、元素分析時に、装置壁面等に付着していたイオンによって、検出すべきイオンの検出が妨害されることがない。このため、検出下限の感度をより向上でき、より精度のよい分析を行うことができる。
【0026】
なお、この実施形態では、ターゲット材をスパッタリングする際、イオン銃20から、イオン化した不活性ガスを照射して行ったが、一次イオン源11,12から発生した一次イオン13を照射してスパッタリングを行ってもよい。ただし、イオン化した不活性ガスを照射してスパッタリングを行う方が、試料室14の内壁を被覆するのに要する時間を短縮できる。
【0027】
また、ターゲット材のスパッタリングの頻度は、異なる種類の固体試料を測定する際に行ってもよく、測定試料毎に行ってもよい。検出精度を向上させるためには、測定試料毎に行うことが好ましい。
【0028】
また、装置内壁に形成されたターゲット材からなる被膜は、装置のメンテナンス時に剥離すればよく、スパッタリングを行う前にその都度剥離する必要は特にない。
【実施例】
【0029】
(実施例)
図1に示す二次イオン質量分析装置を用いて、Si基板中にAlをイオン注入した固体試料中のAl濃度分布を測定した。
まず、試料配置部15にAl板を設置し、一次イオン3として酸素(O)を用い、一次加速エネルギー15keV、一次電流300nAの条件でAl板に一次イオン3を3時間照射し、二次イオンを発生させた。
次に、試料配置部15からAl板を取り出すと共に、試料配置部15にターゲット材としてシリコンウエハを設置し、イオン銃20からアルゴンガスイオンを照射して1時間スパッタリングを行った。
その後、試料室14からアルゴンガスを排気し、試料配置部15にターゲット材を取り除いた。そして、試料室14内の真空度が10−8Pa程度になるまで真空引きを行った後に、上記固体試料を試料配置部15に設置し、一次イオンビーム3として酸素(O)を用い、一次加速エネルギー15keV、一次電流300nAの条件で固体試料に一次イオン3を照射し、二次イオンを発生させ、発生した二次イオンを検出器で検出して固体試料のAl濃度分布を測定した。
【0030】
(比較例)
実施例において、Al板に一次イオン3を3時間照射して、二次イオンを発生させた後、試料配置部15からAl板を取り出すと共に、試料配置部15に固体試料を設置して、固体試料に一次イオン3を照射した以外は、実施例と同様にして固体試料のAl濃度分布を測定した。
【0031】
上記結果を図2に記す。図2から明らかなように、固体試料に一次イオンを照射して元素分析を行う前に、試料室14の内壁であって試料載置部15の近傍の領域を、ターゲット材のスパッタリングによる被膜を形成することで、より精度のよい分析を行うことができた。
【符号の説明】
【0032】
1,2,11,12:一次イオン源
3,13:一次イオン
4,14:試料室
5,15:試料載置部
6,16:試料
7,17:二次イオン
8,18:質量分離装置
9,19:検出器
20:イオン銃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ホルダーを備えた真空チャンバー内の固体試料配置部に測定すべき固体試料を配置し、該固体試料をスパッタリングして固体試料の構成成分を元素分析する分析方法において、
測定すべき固体試料に含まれる元素以外の成分からなるターゲット材を前記真空チャンバー内に配置し、前記真空チャンバーの内壁であって前記固体試料載置部の近傍の領域に前記ターゲット材のスパッタリングによる被膜を形成した後、前記固体試料載置部に前記固体試料を配置して前記元素分析を行うことを特徴とする分析方法。
【請求項2】
前記分析方法が、固体試料に一次イオンを照射して、該固体試料から放出される二次イオンを質量分離し、固体試料の構成成分を元素分析する二次イオン質量分析方法であって、前記スパッタリングによる被膜の形成箇所は、一次イオン及び二次イオンの進行方向周辺とする、請求項1に記載の分析方法
【請求項3】
前記真空チャンバー内に、測定すべき固体試料に含まれる元素以外の成分からなるイオン化した不活性ガスを導入して前記ターゲット材のスパッタリングを行う、請求項1又は2に記載の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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